『雷洋事件続報、売春逮捕は警官による偽装が濃厚 傷害致死を隠蔽か? 「法治国家」中国への道は遠い』(6/17日経ビジネスオンライン 北村豊)、『習近平政権にとってパナマ文書流出は船底で水中爆弾が爆発したようなものだ…』(6/19産経ニュース 矢板明夫)、『焦燥感を深める習政権 ロシア、北朝鮮と連携する「毛沢東外交」へ退行』(6/20ZAKZAK 石平)について

習近平のパナマ文書流出が権力闘争を激化させるとすれば、敵対勢力(含む人民)に対して弾圧は益々激しくなるという事です。雷洋事件を受けて「依法治国」を打ち出したとのことですが、中国で歴史上法に則って政治が行われた試しがありません。「法三章」が良いと言われた時代もありました。為政者の思いのままの政治ができるためです。

「依法治国」を言うなら、国際法も遵守せよと言いたい。国際的に責任ある立場を貫くのであれば、フィリピンの国際仲裁裁判所に提訴した南シナ海の領有権問題の判決にも従わねば論理が一貫しないでしょう。でも中国政府は判決には従わないと明言しているのですから。

公安の拷問たるや凄まじいものがあります。逮捕されれば、強烈な灯りで眠らせず、殴る・蹴るは当り前で、我慢できずにやってもいないことを自白させられると中国駐在時代聞きました。雷洋も便衣(私服警官)の捜索をスマホで撮ったからと言って撲殺されるのではたまったものではありません。南京虐殺も便衣兵を処分しただけとの話もあります。中国伝統の誤魔化し文化です。会社の現地スタッフも反日デモが起きたとき時、国家安全部のヒアリングを受けました。恐怖政治そのものです。基本的に人権を守る考えがないからです。エクスキュ-ズは後から何とでもでっち上げられると思っています。立派な法律はあっても運用で全部骨抜きになります。何せ「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という国柄です。

邦人中国駐在員は帰国を勧めます。小生の駐在時代も全体主義国家の底知れぬ不気味さを感じていましたが、当時はまだ貧しく、日本の資金と技術を欲していましたのでまだ安全でした。韜光養晦の時代でしたから。習近平の時代になり、有所作為に変わりました。中国人に独特の中華思想(自己中、傲慢、横柄)に裏打ちされて、力の行使を躊躇わなくなりました。日本も中国包囲網を作ろうとしているので、ぶつかることは必定です。日本の経営者も我が身のことと思って駐在者を帰国させ、撤退に向けて動いた方が良いでしょう。

日経記事

修士号を持つ新進気鋭の環境研究家である“雷洋”が不慮の死を遂げたのは5月7日の夜だった。享年29歳。彼は中国の重点大学の一つで、北京市にある“中国人民大学”で環境学の修士を取得した後、“中国循環経済協会”に就職して活躍、中国環境保護分野の若き俊才と将来を嘱望されていた。5月7日は雷洋とその妻の“呉文萃”にとって3回目の結婚記念日であった。その日は23時30分着の飛行機で故郷の湖南省“常徳市澧(れい)県”から親類が生後2週間の娘を見に来る予定で、雷洋は彼らを出迎えるため21時前に北京市“昌平区”にある自宅を出発して北京首都国際空港へ向かった。これを境に雷洋が妻と生後間もない娘と生きてまみえることはなかった。

若き研究者が死亡した「雷洋事件」とは

 23時30分に北京首都国際空港へ到着した親類は、到着出口で迎えに来ているはずの雷洋を捜したが、いくら待っても雷洋は現れなかった。親類は電話で呉文萃に雷洋が迎えに来ていない旨を伝えてからタクシーで雷洋の家へ向かったが、雷洋が空港で親類を出迎えなかったと聞いた家族は不安になった。雷洋の身に何かあったのではないか。雷洋のスマホ(iPhone)に電話をかけたが応答がない。家族は必死に電話をかけ続けた。ようやく電話がつながったと思ったら、電話口にでたのは警官で、雷洋に事故が起こったので急いで“北京市公安局昌平分局”傘下の“東小口派出所”へ来るよう要求したのだった。家族が東小口派出所へ駆けつけると、そこで告げられたのは雷洋が死亡したという事実だった。

 警官によれば、雷洋は自宅近くの“足療店(足裏マッサージ店)”で買春した容疑で逮捕され、激しく抵抗した上に、連行途中に車から飛び降り、再度捕捉された後に体の変調を来して心臓病で死亡したとのことだった。その後、警官に付き添われて雷洋が収容された“昌平区中西医結合医院”の遺体安置所で家族が対面した雷洋の遺体には頭部と腕に明らかなうっ血がみられた。家族が見ることができたのは仰向けに横たわる遺体の上半身だけで、布に覆われた下半身を見ることは許されなかった。対面が許された時間はわずか5~6分で、写真撮影も禁止され、所定の時間が過ぎると家族は早々に5~6人の“便衣(私服警官)”によって遺体安置所から追い出された。

 この通称「雷洋事件」の詳細は、5月20日付の本リポート「若き研究者は偽りの買春逮捕の末に殺されたのか」を参照願いたい。

さて、2014年10月20~23日に北京で開催された「中国共産党第18期中央委員会第4回全体会議(略称:中共第18期4中全会)」は、中央委員会で初めて「法治」が会議の主題となった。当該会議では、総書記の“習近平”が“中央政治局”の委託を受けて行った業務報告の内容を討議した上で、中央政治局が提出した議案、『“依法治国(法に照らして国を治める)”の全面的推進に関するいくつかの重要問題の決定』が審議を経て採択された。同決定の主旨は、「“依法治国”を全面的に推進し、中国特色社会主義の法治体系を建設し、社会主義法治国家を建設することを最終目標とする」であった。習近平にとって、「社会主義」という制約付きながら“依法治国”の全面的推進による法治国家の建設は至上命題なのである。

習近平の「法治」推進と検死と公表延期

 雷洋事件がメディアによって報じられると、中国国民はそこに違和感を覚え、世論は激しく反発した。それは、3回目の結婚記念日の当日に、修士号を持つ若手のインテリで2週間前に父親となったばかりの人物が、空港へ親類を迎えに行く直前に、自宅付近の足裏マッサージ店で買春を行うなどということが有り得ようかというものだった。雷洋の死因に疑問を持った家族は、“北京市人民検察院”(以下「北京市検察院」)に対して第三者による検死を要求し、北京市検察院がこれを認めたことから、北京市公安局の法医検査鑑定センターで5月13日の14時から14日早朝2時までの12時間にわたり、北京市検察院と法医学専門家の立ち合いの下で第三者による検死が行われた。

 5月13日に検死が開始される直前には、北京市検察院の同意を得て雷洋の家族が遺体に最後の別れを告げた。家族の人数が多いので、家族は2グループに分かれて雷洋の遺体に別れを告げた。家族の委託を受けて検死に立ち合う専門家は、“中国人民公安大学”教授の“張恵芹”だったが、告別を終えた雷洋の両親は張恵芹の足元にひざまずいて涙を流した。張恵芹は「私を信じて」と述べ、心に自己の良心と法医の良心に恥じないことを決意したという。なお、雷洋の遺体に別れを告げた家族がメディアの記者に語ったのは、遺体には全身に無数の傷跡があり、睾丸は大きく腫れ上がり、右手の皮がむけ、太腿には青あざと血痕が見られ、明らかに外部から強力な打撃を受けて死に至ったものと判断したということだった。

 検死結果は20日後の6月3日頃に公表される予定だったが、6月4日が1989年に発生した“6・4事件(天安門事件)”の28回目の記念日であることから、天安門事件そのものを隠蔽している中国共産党と中国政府は社会に波風を立てないように、検死結果の公表を遅らせている。

さて、雷洋の妻である呉文萃は、雷洋の遺体をつぶさに見たことで、雷洋が警官の暴行を受けたことにより死亡したと確信した。このまま泣き寝入りすることはできない。大事な夫を殺しておきながら、雷洋が心臓発作で死亡したなどと嘘を言って口を拭う警官を許してはおかない。買春したと濡れ衣を着せられた夫の無念を晴らし、名誉を挽回しなければならない。呉文萃は冤罪で殺された夫のために戦おうと決意を固めた。

妻が警官を告発、立件調査へ

 5月16日、呉文萃は北京市検察院に対して雷洋を買春容疑で逮捕した北京市公安局昌平分局の警官を故意による傷害致死罪、職権乱用罪および証拠ねつ造幇助罪で告発し、翌17日に呉文萃の委託を受けた弁護士の“陳有西”が正式な訴状を北京市検察院へ提出した。5月19日、北京市検察院は呉文萃の訴状を受け取り、すでに管轄下の“昌平区検察院”へ当該事件を移牒し、捜査して処理するように命じたと公表した。これに呼応する形で、北京市公安局は決して身内を擁護することはしない旨を公表したのだった。

 5月20日、中国共産党中央委員会“全面深化改革領導小組(改革の全面的深化指導グループ)”の第24回会議が開催された。会議では『公安部門による法執行の規範化を推進することに関する意見』などの一連の制度関連文書が承認されたが、会議を主宰した習近平は次のように発言した。すなわち、公安部門の法執行の規範化を推進し、公安部門の法執行権力の運用制度を完全なものとすることに着目し、法執行の質を保障し、法執行の信頼性を常に高めねばならない。法執行を厳格に監督し、法執行の突出した問題を解決することにより、1件毎の法執行活動、1件毎の事件処理の中で人々に公平な正義を感じさせねばならない。

 中国共産党の文書は格式ばって難しい表現を取るので1回読んだだけでは理解できないことが多いが、習近平の発言を要約すれば、「公安部門の法執行を厳格化して、取り締まりや事件処理に際しては、人々に社会の公平な正義を感じさせるようにしなければならない」というもので、習近平が標榜する“依法治国”の推進を後押しする内容であった。習近平がこの発言を行った背景に、5月7日に発生した雷洋事件の存在があったことは想像に難くない。

上述した北京市公安局ならびに習近平の態度表明は雷洋事件の展開に大きく作用した。北京市検察院の指示を受けて雷洋事件の調査を行っていた“北京市昌平区人民検察院”は初歩的調査を5月末までに完了し、雷洋事件が立件調査の条件に合致することと確認した。

 この結果を受けた北京市検察院は同事件を“北京市人民検察院第四分院”(以下「北京市検察第四分院」)に送致し立件調査を行わせることを決定した。6月1日、北京市検察第四分院は法に基づき事件の当事者である警官の“邢某某”など5人に対して立件調査を行うことを決定した。

 ところで、雷洋事件は北京市昌平区で発生しており、本来なら同事件を担当するのは北京市昌平区人民検察院(以下「昌平区検察院」)であるはずだが、これに代わって北京市検察第四分院が担当することになったのはなぜか。北京市検察院には分院が4カ所あり、第一、第二、第三の各分院はそれぞれ管轄区域を持ち、昌平区を管轄するのは第一分院である。一方、第四分院は管轄区域を持たず、区域をまたいだ重大事件およびその関連事件を管轄する。要するに、第四分院に雷洋事件を担当させた背景には立件調査の中立性を考慮したものと判断できる。雷洋事件を規定通りに昌平区を管轄する第一分院に担当させれば、業務上で密接な関係にある北京市公安局昌平分局との間に癒着が疑われかねないからである。

おとり捜査をスマホで撮影、警官と気づかず揉めた末

 それでは、立件調査を行うことが決定した邢某某など5人とは具体的に誰なのか。それは5月7日に事件の現場となった昌平区霍営で雷洋を買春容疑で逮捕した北京市昌平分局東小口派出所副所長の“邢永瑞”を筆頭とする“便衣(私服警官)”5人である。彼らはどのようにして雷洋を死に至らしめたのか。第三者による検死結果と第四分院による調査結果はいずれも未だ公表されていないが、6月2日にネットの掲示板には下記の書き込みがなされた。

(1)昌平区検察院の友人が漏らしたところによれば、雷洋事件は全て解明されたが、天安門事件の記念日である6月4日の前後は敏感な時期であることに鑑み、解明結果を公表するのには相応しくない。東小口派出所の副所長など5人の容疑者はすでに拘束されており、6月4日以降の適当な時期に逮捕されることになろう。これは対外的に公表され、5人には刑罰が下されることになるが、その量刑はそれほど重いものにはならない。

(2)雷洋は足裏マッサージ店を通り過ぎる時に、警察が同店に照準を合わせた“釣魚執法(おとり捜査)”を行っているのを目撃した。興味を抱いた雷洋は軽い気持ちでその状況をスマホで密かに撮影したが、それを私服警官に見つかった。私服警官は雷洋にスマホから当該写真を削除するよう要求したが、相手が私服であったことから警官とは思わなかった雷洋はそれを拒否した。拒否されたことで激高した私服警官は雷洋を逮捕しようとしたが、雷洋が反抗したので激しい暴行を加え、遂には雷洋を死に至らしめた。買春容疑うんぬんは後から私服警官がこじつけた茶番劇である。

北京市公安局昌平分局が5月9日と11日に発表した雷洋事件の経緯によれば、雷洋は自宅付近の足裏マッサージ店で買春を行った後に、警官による職務質問を受けて逃亡、反抗の末に逮捕されたが、取り調べのために連行される途中で体の不調を示し、搬送された医院で緊急の応急手当を受けたが死亡したことになっていた。ところが、現場周辺の監視カメラの映像から判明した雷洋の足跡から考えると、雷洋がいわゆる「本番」に費やした時間はわずか9分でしかなく、全く辻褄が合わなかった。しかし、上述のように雷洋が警察のおとり捜査を行っているのをスマホで密かに撮影し、その写真の削除を巡って男たち(私服警官)と争いになったということなら辻褄が合う。恐らく、これが事件の真相であると考えてよいだろう。

第二、第三の雷洋を出さないために

 たとえ雷洋が本当に買春したとしても、買春は治安事件であって刑事事件ではなく、雷洋は刑事犯罪の容疑者ではない。刑法の規定によれば、公安・検察・司法の職員が犯罪容疑者に対して拷問により自白を強要して死に至らしめた場合は、たとえそれが過失致死であっても、故意殺人罪を適用して重罪に処することになっている。これから公表される検死結果が故意傷害を明確に示せば、本事件の容疑者たちは故意傷害罪で立件されねばならないし、故意傷害によって死に至らしめた故意傷害致死罪の最高刑は死刑である。また、警官という職権を濫用したことが明白となれば、最高刑は7年である。

 雷洋事件の第三者による検死結果および第四分局の調査結果が公表されない限り、拘束された邢永瑞以下5人の私服警官の処遇がどうなるかは分からない。死人に口なしを良いことにして、死亡した雷洋に買春の汚名を着せ、自分たちの殺人行為を隠蔽しようとする悪徳警官を罰しない限り、人々が社会の公平な正義を感じることは有り得ない。中国の人々はこの雷洋事件が“依法治国”を推進する契機となり、中国を法治国家にする一里塚となることを期待している。そうならない限り、第二、第三の雷洋が出現する可能性は高いし、明日は我が身かもしれないのである。

産経記事

習近平政権にとってパナマ文書流出は船底で水中爆弾が爆発したようなものだ…

Li & XI

パナマ文書が明るみに出たことで、習近平国家主席の党内影響力低下がささやかれる。後ろは李克強首相=2016年3月、北京の人民大会堂(ロイター)

 パナマ文書によれば、トウ氏は2004年に英国領バージン諸島に会社を設立、07年にいったんとじたが、09年、同島にまた2つの会社を設立した。習氏が中国の最高指導者に就任した2012年ごろから、この2つの会社は実質休眠状態に入った。トウ氏がこの会社をどう利用したかは不明だが、節税だけではなく、巨額資産の隠蔽のためだった可能性が大きいといわれる。トウ氏夫妻はこれまで、株売買などで3億ドル以上を稼いだことがあったと米メディアに報じられたことがあった。

 習氏のほか、最高指導部で宣伝担当の序列5位の劉雲山・政治局常務委員の義理の娘と、序列7位の張高麗・筆頭副首相の義理の息子の名前もあがった。李鵬元首相、曾慶紅元国家副主席ら6人の引退した指導者の親族もパナマ文書に登場した。

 共産党関係者が注目しているのは、疑惑が浮上した指導者たちはみな、習主席か、江沢民元国家主席に近い幹部たちだ。習氏の現在の最大のライバルである胡錦濤前主席と李克強首相が率いる共産主義青年団(共青団派)のメンバーはだれもいない。習派と対抗する李派にとって極めて有利な状況だ。

 習指導部がこれまで約3年間、「トラもハエも同時に叩く」と宣言して、全国で反腐敗キャンペーンを展開し、汚職官僚との名目で「周永康」「郭伯雄」「徐才厚」ら多くの大物政治家を失脚させたが、政敵排除にすぎないという声も多かった。今回のパナマ文書のなかに、汚職問題で失脚した元指導者らの関係者の名前がなく、取り締まる側の習氏らの親族が不正蓄財疑惑に名前が浮上するという皮肉な状況だ。

 共産党幹部は「党内に習氏の求心力が弱まることは避けられない。反腐敗キャンペーンも継続できなくなる可能性がある」と指摘した。

 パナマ文書が明るみに出たことで、党内の派閥バランスへの影響が早速出たようだ。国営新華社通信は4月15日、李首相が3月28日に開かれた国務院会議で、腐敗撲滅に関する内部談話の全文を発表した。内容はいつもの主張を繰り返すもので、新しい中味はないが、発表されない予定の談話がこのタイミングで公になったことは大きな意義があるといわれている。「反腐敗問題の主導権は習主席から李首相に移りつつある」と証言する党関係者もいた。

 「党内の習氏に対する不満を持つ幹部は多くおり、今夏は大きな山場を迎える」とみる党幹部もいる。習近平政権の2期目メンバーが決まる党大会は2017年秋に予定されているが、16年夏に開かれる現役、元指導者が集まる重要会議である北戴河会議はその前哨戦といわれる。

 4月はじめの最高指導部会議で、「一致団結してパナマ文書がもたらした危機を乗り越えよう」という方針がきまったものの、反習派はこれを権力闘争の材料に使わない理由はない。

李首相と周辺は、党長老と連携して北戴河会議で習氏らに対しパナマ文書への釈明を求め、主導権を一気に奪おうと窺っているようだ。習派の対応によっては、共産党内権力闘争が一気に重大局面を迎える可能性もある。

(産経新聞北京総局特派員 矢板明夫)

ZAKZAK記事

政府は今月9日未明、中国、ロシア軍艦艇が相次いで、尖閣諸島周辺の接続水域に入った、と発表した。  中国軍艦が侵入してきたことは、日本に対する重大な軍事的挑発であるに違いないが、ロシア軍艦が同時に侵入した真相は不明だ。中露両国が事前に示し合わせた計画的行動である可能性もあれば、この海域を通過するロシア艦隊に中国軍が便乗して行動を取ったのかもしれない。いずれにしても、中国が意図的に、ロシア軍の動きと連動して日本への挑発的行為に乗り出したことは事実だ。  日本とともに尖閣防備にあたるべきなのは同盟国の米国である。中国の戦略的意図は明らかに、軍事大国のロシアを巻き込んで「中露共闘」の形を作り上げ、日米両国を威嚇して、その同盟関係に揺さぶりをかけることにあろう。  中国はなぜ、日米同盟に対してこのような敵対行為に出たのか。その背後にあるのは、先月下旬の伊勢志摩サミット前後における日米の一連の外交行動である。  5月23日、オバマ米大統領はサミット参加の前にまずベトナムを訪問し、ベトナムに対する武器禁輸の全面解除を発表した。  中国からすれば、南シナ海で激しく対立している相手のベトナムに、米国が最新鋭武器をもって武装させることは、中国の南シナ海制覇戦略に大きな打撃となろう。  そして、伊勢志摩サミットの首脳宣言は名指しこそ避けているものの、南シナ海での中国の一方的な行動に対する厳しい批判となった。  これに対し、中国政府は猛反発してサミット議長国の日本だけを名指して批判した。つまり中国からすれば、サミットを「反中」へと誘導した「主犯」は、まさにこの日本なのである。

6月に入ると、外交戦の舞台はシンガポールで開催のアジア安全保障会議に移った。そこで、米国のカーター国防長官は先頭に立って中国を名指しして厳しく批判し、大半の国々はそれに同調した。今まで南シナ海問題でより中立な立場であったフランスまでがEU諸国に呼びかけて、南シナ海で米国と同様の「航行の自由作戦」を展開する意向を示した。  中国の孤立感と焦燥感はよりいっそう深まった。  そして、今月7日に閉幕した「米中戦略・経済対話」で、南シナ海をめぐる米中の話し合いは、完全にケンカ別れとなり、米中の対立はより決定的なものとなった。  その直後に、中国は直ちに前述の威嚇行動に打って出た。追い詰められた中国は、ロシアの「虎の威」を借りて日米主導の中国包囲網に対する徹底抗戦の意思を示したのであろう。  その前に、中国はもう一つの布石を打った。今月1日、習近平国家主席は訪中した北朝鮮の李洙●(スヨン)労働党副委員長との会談に応じたが、立場の格差からすれば北朝鮮に対する異例の厚遇であった。つまり習主席は日米牽制(けんせい)のために、北朝鮮の核保有を容認したまま、金正恩政権との関係改善に乗り出した。  このように、日米主導の中国包囲網に対抗して、習近平政権は今、世界秩序の破壊者同士であるロシアや北朝鮮を抱き込んで対決の道を突き進んでいる。  ある意味ではそれは、1950年代初頭の冷戦時代の「毛沢東外交」への先祖返りである。ソ連や北朝鮮などの社会主義国家と連携して「米国帝国主義打倒」を叫びながら西側文明社会と対抗した毛沢東の亡霊が現在に蘇(よみがえ)った感がある。  人や国が窮地に追い込まれたとき、先祖返り的な退行に走ることは往々にしてあるが、もちろんそれは、窮地打開の現実策にはまったくならない。南シナ海への覇権主義的野望を完全に放棄することこそ、中国が外交的苦境から脱出する唯一の道ではないのか。

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『英EU離脱問題、日系金融機関も他人事ではない 「脱ロンドン」拠点大移動が始まる可能性も

明日、英国のEU離脱・残留の投票が為されます。結果判明は

『英EU離脱問題、日系金融機関も他人事ではない 「脱ロンドン」拠点大移動が始まる可能性も

』(6/16日経ビジネスオンライン 菅野泰夫)日本時間で24日昼頃とのこと。離脱派と残留派が拮抗していますのでずれるかもしれません。

ジョー・コックス下院議員の殺害のトーマス・メイア容疑者は単なるテロリストでしょう。或は、残留派が仕掛けたものという見方もネットの意見では出ていました。支持率を伸ばして来た離脱派が不利になるようなことはしないだろうとの読みですが、穿ちすぎと思います。MI5やMI6の伝統のある英国ですが、離脱派に不利になるようなことを黙認することはないと思います。メイア容疑者は狂信者です。宗教が理由でないとしても、無辜の市民を殺戮するイスラム過激派と同じでしょう。言論には言論で対抗すべきです。言論の自由のない国(中国共産党を代表とする一党独裁国家)ではすぐ言論には暴力で対抗します。況してや公安や軍を使ってですが。銅鑼湾書店店長で中国公安に拘束された林栄基氏の記者会見を受けて、香港ではデモも起こりました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160618/k10010561211000.html

中国駐在者は中国軍艦が日本の領海侵入した事実をもっと深刻に考えた方が良いでしょう。

福島香織氏もツイッターでこう呟いています。

「福島香織 @kaori0516kaori

私が中国の駐在員だったら、とりあえず家族を日本に帰国させているレベル。

あと、中国の銀行においてある資産をどう脱出させるか悩む。

最悪の事態にならないと思うけれど、それくらいはする。

福島香織 @kaori0516kaori

何度もいうけど、別に煽ってるわけじゃないよ。最悪の事態にはならないと思っている。

でも、そこにある危機に対する認識がないと、危機を回避できない。

知らんふりしていたら勝手にすぎさっていく都合のよい危機ばかりではない。

https://twitter.com/kaori0516kaori/status/742987299076603904」と。

話を英国に戻します。欧州で極右は移民反対の立場なだけです。極端な国家主義者が国民の広範な支持を受ける訳ではありません。リベラルを標榜するマスメデイアはいずこの国も同じで、自国民のための政策を行おうとすると「極右」のレッテルを貼って邪魔します。舛添の韓国人学校敷地貸与未遂事件や韓国人向け老人ホーム建設事件について報道しない自由を行使します。

http://ameblo.jp/tubasanotou/entry-12142827105.html

蓮舫は台湾人ではなく中国人(国民党)がルーツです。都知事選には出ないと言ってますが、未だ分からないでしょう。東京都民も騙されないように。日本人のための政策をして貰わないと。都知事選は7/14公示、7/31投票ですので、参院選で勝利し、その枠を次点の議員に譲る(反日民進党になるとは限りません)可能性もあります。何せ都知事選では後出しが有利とのことですので。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B9%B0%E3%82%8A%E4%B8%8A%E3%81%92%E5%BD%93%E9%81%B8

国家が二つに分断されるのは時代の流れかもしれません。移民国家の米国でも、大統領選で見られるように、候補者の価値観の違いが大きい=支持者の価値観も大きく分かれています。宗教や人種の差、経済政策についての考えの違いが出てきています。

一方、国民国家重視派とグローバリズム(人・物・金・情報の移動をたやすく)派の争いもあります。

『英EU離脱問題、日系金融機関も他人事ではない 「脱ロンドン」拠点大移動が始まる可能性も

』(6/16日経ビジネスオンライン 菅野泰夫)記事

Cameron-3

写真:ロイター/アフロ

英国ではいよいよ6月23日にEU(欧州連合)残留の可否を問う国民投票が実施される。投票日まで2週間を切ったところでの世論調査によれば離脱支持がじわじわと伸びはじめている。

 特に一部の調査では離脱支持派が残留派を10%ポイント引き離すなど、離脱派が優勢な状況も出始めている。これによりポンドは大きく下落して余談を許さない状況が続いており、ロンドンのマーケット関係者からも“離脱は間違いないのでその準備を”などと物騒な声が日々増えている。

 ただし肝心の世論調査があてにならないことは有名な話で、代替策として挙げられる物差しの一つがブックメーカーの賭け率だ。それでも2015年5月の総選挙で、ブックメーカーの賭け率から選挙5日前に90%以上の確率でハングパーラメント(宙吊り国会)と予測されていたが、結果的に保守党単独政権が誕生し大外れとなった。今回は70%以上の確率で残留と予測されているが、総選挙時よりも確率が低いことが当然気になる。あてにならない指標より可能な限りサンプルを集めようと、保守党が単独政権となり国民投票の実施を決定した時から筆者は色々な場面で英国人に取材を試みている。

 ここで気がついたことは、世論調査で示された属性別の支持層の違い(図表1参照)は概ね筆者の取材ともその傾向が一致していることだ。たとえば、労働者階級、白人、高齢者の組み合わせからは、見事なまでに離脱派の意見が出てくる(同じ白人でも富裕層、スコットランド出身はほぼ残留派だ)。もともと英国では、欧州の中でも移民に寛容な国であり、反移民的な態度を人種差別の表れとして、移民政策の厳格化に反対する社会的な風潮も存在する。ただしこういった英国人ですら移民の大量流入に我慢できないという声を多く耳にする。

図表1 世論調査の属性別の比較

approval rating of the secession from EU

(出所)YouGovより大和総研作成

 日本人同様に本音と建前を使い分ける英国人から本音を引き出すことは難しい。

 ある英国人は、「まあ残留に入れるかな?」と淡々とした口調で答えてくれた。ところがその後、急に感情的な声色になり、「だけどね、EUから来るラトビア人やルーマニア人などは英語が全く話せないにもかかわらず、ロンドンで労働ビザ無しで働ける。一方、(英国女王を元首とする英国連邦加盟国の)オーストリア人やニュージーランド人たちは、英語を母語としながらも一定の年収や学歴のポイントがないと労働ビザが出ないので働けない。これは不公平だと思わないか?」と付け加えた。

 日本人である筆者に対し、面と向かって移民に対してNOを突きつける過激な意見を主張したりはしないが、EUからの移民に対して相当な不満が蓄積していることが垣間見られる。彼が当日“離脱”に投票することは明らかであろう。

 英調査会社YouGovによる調査でも若年層(18歳から29歳)のうち残留支持は約7割を超えていたが、若者たちは往々にして投票率が低く、実際の残留票に結び付くかは疑問視されている。特に、親元を離れている若年層が現住所で選挙登録してしまうと、実家に住民票を置いたままごまかしていた地方税(カウンシルタックス:日本の固定資産税の様に住居にかかる。賃貸では持ち主でなく借主が払う)の未払いが発覚し、遡及して払わなければいけない問題に直面するそうだ。このため特に学生の投票行動が制限されるのではないかとの指摘もある。

BREXITが起こったときの金融面の影響は…

 もし離脱が決定したとき、影響が直ぐに表れるのは、通貨ポンド、英国債(ギルト債)などの金融市場といわれている。英国の貿易収支は赤字が続き、特に過去3年間はその赤字幅が拡大している。

 英国債の国外投資家比率は過去10年一貫して25%を上回っており、英国のEU離脱(BREXIT)が決定した直後から国外投資家の資本逃避が一斉に起こる可能性も否定できない。それに加えて、今の英国では、さらなる経常赤字幅の拡大を止めることは難しく、年初来から大きく下げた通貨ポンドがさらに下落することが予想される。現段階では、いまだ大規模な資本逃避は確認されていないが、今後起こりうる影響を懸念して、新規投資を手控える動きから、足元、通貨ポンドは不安定な展開となっている。

図表2 英国債の国外保有状況と経常収支と対GDP比推移

Britain bonds

(出所)英国債務管理庁(DMO)、ONSより大和総研作成

 世界的な金融ハブ、シティを抱える英国の金融街としての側面における影響も必至だ。特に英国に拠点を置く日系金融機関は、今後、欧州拠点の中心を英国に置くことへの再考が求められる。現在は、英国に拠点を置き英国当局から認可を受けた金融機関は、英国以外のEU加盟国でも別途認可を必要とせずに、金融サービス業務を行うことが可能である(いわゆるEUパスポート制)。

 銀行業務は自己資本規制指令IV(CRD IV)、投資サービスはEU金融商品市場指令(MiFID)など、提供される金融サービスの違いにより各パスポートがありEU域内へのアクセスが可能となっている。

 邦銀等のEU域外国、すなわち第三国の金融機関は、ロンドンの金融街シティに拠点を構えこのEUパスポートを利用して、EU市場へのアクセスを享受していた。ただBREXITが実現した場合、英国は第三国となりEUパスポートが失われるため、EU加盟国内での金融サービス業務継続には何かしらの措置が求められる。唯一の例外として、英国がEEA(欧州経済領域*1)に加盟し直した場合は、そのままEUパスポートが維持され、EU域内での金融サービス業務が可能となる。

 ただし、2018年1月にMiFIDはMiFIDⅡに置き換えられることが予定されており、BREXITは最短でも2018年央となるため(リスボン条約50条により2年以内の脱退協定の締結が求められるため)、英国はたとえEUを離脱する場合でも、わざわざMiFIDⅡを国内法に移管する必要がある。

図表3 BREXIT後、英国に支店がある邦銀がEUの金融サービスへアクセスするには

BREXIT later

(※注1)サービス提供先となるEU加盟国で、リテール顧客に対する業務認可の条件に支店設立を含める条文 (※注2)各国により、子会社を設立すればアクセスが可能となるケースもある (出所)欧州委員会、Ashurstより大和総研作成

 一例を挙げると、BREXIT後、日本をはじめとする第三国や英国の銀行が、EU域内に支店を設立せずに、(EU域内の)機関投資家(プロ顧客)と取引するためには、欧州証券市場監督機構(ESMA)への登録が必要となる。この登録の条件は、当該の第三国の投資サービス規制の枠組みがEU相当として認められること(同等性評価*2 )であり、最終的に欧州委員会の承認が必要である。

 無論、日本や英国等の先進国の金融サービス規制のフレームワークが同等と認められないということは理論的に想定しづらい。それでもEU離脱後の英国に対して政治的な妨害が加わり、承認申請プロセスに相当の時間がかかる可能性は懸念材料となる。特にシティに拠点を置く第三国金融機関の取引の中心はユーロ域内の国債や社債であるため、欧州中央銀行(ECB)がこれを域内の監視下に置きたいという本音も見え隠れしている*3。

 さらに、CRD IV範囲の融資や預金預かり業務など伝統的銀行業務に関しては、(MiFIDⅡが導入されて以降)CRD IVでの同等性評価がどのように変更されるか、その詳細は明らかになっていない(MiFIDのEUパスポートと同様にCRD IVのEUパスポートも、BREXIT後に失効することだけは決定している)。日本を含む英国以外の銀行に至っては、英国からどの様にEU市場にアクセスするかのフロー詳細に関しては白紙状態となっている。

 具体的な取り決めが決まるまで同程度の時間がかかることは間違いなく、すなわち、英国に拠点を構える邦銀は(リスクシナリオとして)EU域内に別支店を設置せざるを得ない状況も想定されている。

離脱派を左右するテレビでの討論演説

 6月9日の公開テレビ討論会では、ボリス・ジョンソン元ロンドン市長率いる離脱派とニコラ・スタージョンSNP(スコットランド民族党)党首率いる残留派とが3対3での論戦を繰り広げたこの討論会を境に、世論が離脱支持にやや傾き出したといっても過言ではない。

1 EUとEFTA(欧州自由貿易協定)との自由貿易協定。EFTA加盟国のうちスイスを除く、アイスラ ンド、リヒテンシュタイン、ノルウェーが加盟。 2 EU域外の金融機関は、その国の規制がMiFIDでの規制内容と同等であることを認められて初めて、EU市場へアクセスする権限を付与される。 3 支店や子会社を域内に設置させ銀行同盟の監視下に置きたい。

 残留派は次期首相になることしか念頭にないとしボリス・ジョンソン氏に非難を集中させたが、むしろこれが個人攻撃として顰蹙を買い残留派の支持を下げる結果となった。一方、離脱派は再三、「実権を取り戻す(Take back control)」との発言を繰り返し、離脱が移民抑制と診療時原則無料の国営医療制度(NHS)を含む公共サービスの財源増加につながると主張したことが功を奏した。トルコがEUに加盟した場合7600万人が大挙して英国に移民としてやって来るなど具体手的な数値をあげ移民流入拡大の懸念を指摘したことも効果的であった。

 結果的にいえるのは、ここまで残留派が続けていた「EUを抜けたらオオカミが来るぞと脅かすキャンペーン(通称:fear campaign)」は限界に達しており、各国首脳や企業トップがEU残留への嘆願をすればむしろ、英国離脱による悲観的なシナリオがプロパガンダとしてとらえられている事実である。BREXIT による不安を強調すればするほど、有権者がむしろ懐疑的となり、逆説的にEU 離脱が現実化する可能性も指摘されている。米国オバマ大統領をはじめ主要国首脳が英国でEU への残留を呼びかけても、内政干渉との批判を招き、逆効果を指摘する声が大きくなりつつあることに残留キャンペーン陣営は早く気がつくべきである。

 今回の国民投票については党議拘束がかけられていないため、与党保守党内、野党労働党内でも残留派と離脱派とに別れ、激論を交わしていることにも不思議な感覚を覚える。前述の公開テレビ討論会でも、公の場で同僚である同じ政党の議員同士が罵り合うという英国ではめったに見かけない光景が繰り広げられた。残留、離脱のどちらに転んだとしても、この国民投票が終わった後、本当に英国は一つの国として同じ方向を目指すことができるのだろうかと心配になる。

 英国は、むしろ6月23日が過ぎた後が注目されるといっても過言ではない。

『[FT]英のEU離脱 その代償は』(6/19日経ビジネスオンライン FT)記事

英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う6月23日の国民投票を前に、離脱派はいわばEUへの抗議を表明している。EUにうんざり、あるいは移民問題が心配というなら離脱に投票をと訴えている。確かに今回の国民投票は英国民に第2次大戦以降、最も重大な選択を迫っている。それだけに離脱した場合と残留した場合、双方のケースをきちんと比較して考える必要がある。モノや人の移動に対し、バリケードを築くことが本当に賢明な選択肢なのか。有権者がいずれを選ぶのかは間もなく判明する。

caricature of FT

Ingram Pinn/Financial Times

 民主主義の素晴らしい点は、市民が考えを変える機会があることだ。政治家が約束を破ったら次の選挙で落とせばいい。だが今回は結果がもたらす影響があまりに大きい。英国が残留を選べば10年、20年後の再考は十分あり得る。だが離脱を決めたら、それは永遠の結果となり、連合王国の解体につながることになる。

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 英国を外から見守る人はなぜ今なのかと不思議に思うだろう。確かにEUは理想的な状態にはないが、近年数々の重圧を乗り切ってきた。国民投票のタイミングはEUの本質とは全く関係ない。すべては党運営の問題であり、キャメロン英首相は国民投票をすれば保守党をまとめておけると思ったのだ。首相としては賢明な判断ではなかった。

■西洋文明への脅威

 各国の中央銀行が金融市場に走るショックに対処する方法を学んだとしても、離脱が決定した場合の影響は英国外にも大きく広がる。EUのトゥスク大統領は、英国の離脱は西洋文明の終わりの始まりになりかねないと言った時、恐らく誇張していた。だが残るEU各国を含む西側諸国にも強烈な打撃となるだろう。

 EUがなし遂げようとしていることは3つの柱に基づく。国家の繁栄、安全、そして自由、民主主義、法の支配といった価値観だ。西側の利益と価値観が世界中の独裁者から挑戦を受けている今、これらは多くの英国民が自分たちのものだと考える価値観である。

 英保守党内の反EU勢力が強いだけに、あまり明らかにされてこなかったが、英国は1973年に欧州の病人としてEUに加盟して以来43年間、実は経済的繁栄を謳歌してきた。この間の英国の1人当たり国内総生産(GDP)の伸び率は年平均1.8%と、ドイツの1.7%、フランスの1.4%、イタリアの1.3%を上回る。

 加盟したことで、英企業は競争に直面し鍛えられ、同時に単一市場へのアクセスを得、さらに海外から大規模な長期投資がなされるなど英国は大きな利益を受けてきた。経済協力開発機構(OECD)が記したように、英国は欧州各国ほど労働規制が厳しくないことによっても競争力を発揮してきた。つまり、EUが英国の発展の足かせになっているという主張は根拠がないということだ。

 大きな声では言えないが、英国は欧州大陸から来る野心的で勤勉な若者からも恩恵を受けた。移民問題を巡る失敗は、大規模な移民流入に適応するために必要な資源を自治体に与えなかった歴代政権の失敗だ。

 戦後の繁栄は安全保障に依存していた。EUの加盟国が互いに協力してまとまった体制として存在することは、米国が平和の保証人として機能することと密接につながってきた。軍事問題では北大西洋条約機構(NATO)の役割が大きいが、米政府にとってはEUがまとまって政治や外交政策を出せることも同じくらい重要だ。ロシアのウクライナ侵攻に対し制裁を科したのはNATOではなくEUだ。成功を収めたイランとの核交渉のきっかけを作ったのもEUだ。

■欧州全体が弱体化

 ロシアのプーチン大統領の領土を取り戻そうとする姿勢、核拡散、過激派組織「イスラム国」(IS)のテロ、中東やアフリカ北部からの際限のない移民流入、国際的な犯罪組織ネットワーク、気候変動などはすべて集団的な対応を必要とする脅威だ。英国のEU離脱は欧州を弱体化させ、こうした脅威への対処を難しくする。同時に英国をも弱体化させ、その対応力を損ねる。

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 離脱派の考え方は啓蒙時代以前のように古く、道徳や倫理観といった発想があまりない。人権は欧州が勝手に考え出した概念だとみなしている。英国が欧州人権裁判所創設の原動力だったことも念頭にない。移住者は犯罪者、たかり屋として悪者扱いされる。皮肉にも彼らは議会主権こそが重要だと主張するが、英議員の3分の2は離脱に反対しており、矛盾している。

 離脱の是非を巡る議論には、難民の人権などの道義的側面に加え、経済的利害も絡んでいる。国の安全と繁栄の基盤となる開かれた国際体制は、法の支配があって成立している。英国もそうだ。だがルールを支える価値観を軽視するなら、無法状態にも近いカオスに舞い戻ることになる。

 離脱派にはこうした問題はどうでもいいようだ。彼らの信念は、昔から変わらぬポピュリスト(大衆迎合主義者)の主張で、「支配階級を攻撃せよ」と駆り立てる。そうしたい気持ちは分かるが、その代償に目を向けなければならない。

By Philip Stephens

(2016年6月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

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『英国の女性議員殺害が問う“憎悪扇動”の大罪 EU離脱の国民投票直前に起きた悲劇の裏側』(6/20日経ビジネスオンライン 伏見香名子)記事

Jo Cox

英国のEU(欧州連合)離脱を問う選挙戦が終盤を迎えようとする中、6月16日、野党労働党の新人女性議員が白昼、地元で銃撃を受けた上に刺され、死亡するという事件が起きた。

 容疑者は50代の白人の男で、目撃証言によれば「ブリテン・ファースト!」と叫びながら議員を襲撃したとされている。

 「ブリテン・ファースト」とは反移民、反イスラムを掲げる英国の極右政党の名前とも同じであり、これが団体名を指したものなのか、言葉の通り“英国至上主義”を示したものなのか、本稿執筆現在(17日午後)、犯行に至った動機も含め、確認されていない。一部報道によれば、容疑者が精神的な疾患を持っていたとも、また、米国の白人至上主義の過激派団体より、銃の作り方を取り寄せたとも言われている。

犠牲になったコックス氏は人道支援を続けてきた

 犠牲となったのは、労働党議員のジョー・コックス氏(41)。国会議員になったのは去年5月で、政治家になる前は英国の大手NGO(非政府組織)、オックスファム(Oxfam)で人道支援キャンペーンを主導するなどし、ダルフールで性的暴力を受けた女性、ウガンダで戦わされた少年兵などを支援する活動を精力的に行った。また、セーブ・ザ・チルドレン、英国児童虐待防止協会(NSPCC)などのNGO団体に在籍した経験もあり、貧困や差別問題にも積極的に取り組んだ。

 議会での初演説においてコックス氏は「こんな多様な選挙区を代表できることは、喜びである(中略)私たちのコミュニティーはカトリック系のアイルランド人であれ、インドのグジャラート、あるいはパキスタンの、主にカシミール出身のイスラム教徒であれ、移民によってその価値がより深められた。こうした多様性を尊ぶとともに、選挙区を回るたび、私はいかに互いの中に、違いよりも共通項が存在し、より団結しているのかに驚かされる」と述べた。シリア難民の支援に関しても積極的に発言し、この問題に取り組む議会グループを設立、下院での議論も主催した。

 一方で、英国の大手新聞・テレグラフによれば、コックス議員は過去に極右政党「ブリテン・ファースト」の差別主義とファシズムを糾弾する発言を行っているとされる。「ブリテン・ファースト」は襲撃の直後、リーダーがビデオメッセージで、事件との関与を否定する声明を発表した。

bouquet for Jo Cox

「英国白人対その他民族」という構図

 弱い人たちを支援したいと政治の道を進んだコックス議員の情熱は、就任わずか13カ月で、突然絶たれた。

 コックス議員は現在、英国を揺るがしている「EU離脱を問う国民選挙」において、残留派の立場であった。6月10日付で固定されたツイートには「移民問題は確かに存在するが、EUを離脱する正しい理由ではない」と書かれている。

 民主主義の根幹を揺るがす殺人事件に驚愕しながらも、このところ筆者はEU離脱関連取材を通じ、選挙戦を取り巻く気持ちの悪い違和感に襲われてもおり、心の片隅で「起こるべくして起こってしまった事件」だとも感じている。白昼堂々、銃のみならず刃物まで使用して大の大人の男が女性を殺害するなど、どんな強烈な憎悪が渦巻いていたのか、知る術はない。しかし、EU離脱を問う今回のキャンペーンが、多分に英国白人対その他民族という構図を煽るような展開で来ている感は、否めない。

 殺害を受け、国民投票関連のキャンペーンは、離脱派、残留派が両陣営とも即日活動を一時停止し、コックス議員の死を悼むとした。筆者の元へは残留派のボランティアより、活動責任者らの言葉として「今は静かに内省するときだ。活動員としても、一個人としても、ソーシャルメディア上などで憶測に基づくコメントは差し控えるように。今は、政治ポイントを稼ぐときじゃない。議員の家族を思うべきだ」とし、活動停止の旨を知らせる一斉メールが届いた。

 BBCはコックス議員が死亡した16日夜、容疑者の動機の解明に至っていない段階で、看板報道番組「ニューズナイト」がいち早くこの事件に関連し、EU離脱を問う国民投票における、移民を悪とし社会に憎悪をあおる離脱派の分断的なキャンペーンの是非について討論を行った。また、大手新聞ガーディアンも同日夜、襲撃に直接加担したとは言えないまでも、最近社会に蔓延する憎悪に満ちたムードは、離脱派のキャンペーンの多くに「過激な言動、非難の応酬」さらに「公然とした差別主義」が含まれ、そうしたスタンスに起因するとのコラムを掲載している。

前ロンドン市長までも憎悪を煽るキャンペーン

 社会がなんとなくピリピリし、憎悪を糧とした事件の起こりかねない前兆は、年初以来、今回の国民投票がらみで行ってきた様々な取材の中、ロンドン各地や地方都市を訪れるごとに、特に最近感じていた。EU離脱派がメディアにおいて展開してきた、人々の憎悪を煽るアグレッシブさには、時に言葉を失うこともあった。この数カ月、離脱派は移民問題を選挙争点の核とし、現在、英国が直面する様々な課題の全てが、あたかもEUからの移民流入が原因だとするような情報を流し続ける戦略を展開してきた。

 キャンペーンの中には誤った情報も多数含まれている。例えば、残留すればいずれEUのトルコ加盟が起こり、膨大な量の移民が英国に流入するなどという情報だ。シンクタンク、オープンヨーロッパのアナリストによれば、現状、トルコのEU加盟には人権問題など様々なハードルがあり、直近では現実的ではない上、英国には加盟を阻止する拒否権があるというが、こうした背景は離脱派のキャンペーンに採用されていない。

コックス議員が殺害された当日、離脱を掲げる英国独立党のナイジェル・ファラージ党首は大量のシリア難民の画像を用い、移動の自由が可能なEUが難民問題を引き起こしたとのニュアンスを含め「EUから自由になり主権を取り戻そう」と掲げるポスターを選挙戦に投入したばかりだった。この画像は、去年スロベニアに押し寄せた難民を写しているもので、英国には到底入国などできない人々だとガーディアンは指摘している。このポスターには、民族的な憎悪扇動に関する法律に抵触するとして警察への通報があったほか、残留派の主だった政治家らはもちろん、他の主流離脱派からも敬遠され、強い反発を招いている。

 しかし、寛容性、多様性をうたい、移民を多く受け入れてきた英国社会を二分しかねない危険な要素は、議員殺害事件までにもあちこちに垣間見えていた。2度の大戦を引き起こした教訓から生まれたEUを、離脱派の旗印・前ロンドン市長のボリス・ジョンソンがこともあろうに「EUはまるでヒットラー」と煽るなど、選挙戦が盛り上がるに連れ政治家の大げさな舌戦も過熱した。それを日々見続ける市民同士の議論もヒートアップする中、社会を分断しかねない危うさが、日を追うごとに増幅していった。正直、このところ離脱がらみの取材にいささかうんざりしてきたのも、各地で憎悪を煽る政治家の声が聞くに堪えなくなってきたからである。

EU離脱の是非を利用する政治家たちの欺瞞

 ある選挙区で取材を進めていた時のことだ。その地区の超党派の離脱派会合に参加した。そこで飛び出したのは、残留派から誤送信されたメールを元に、残留派のビラ配りの場所を突き止め、同日同じ場所に行き「そこを潰してやろう」という話し合いの様子だった。

 当日その駅へ赴くと、離脱派が地元選出の国会議員を筆頭に、残留派のボランティアがビラ配りをしていた隣で自分たちもキャンペーンを展開し始め、通勤帰りの人たちへのビラ配り合戦と、ボランティア同士の激しい議論が始まった。別の日には、同じ選挙区で、離脱派が英国ではめったに見ない街宣車まで動員し、拡声器で残留派の真後ろを通り、その上、ビラ配りをしていた残留派のボランティアらの中に離脱派の一人が乗り込んできて、口論をふっかけ出した。

 ただし、筆者が見た限り、街頭で活動している多くの一般人のボランティアたちは、一人一人がそれぞれ純粋な思いを抱え、離脱、あるいは残留それぞれの支持を訴えている。離脱派すべてが極右でもフーリガンなわけでも、またどこかの党員なわけでもない。その多くが深刻な住宅問題で苦しんでいる人たちや、また、地元の小さな町に移民が押し寄せ、社会に統合してくれず悩む、という身近な問題を抱えている人たちだ。「東欧から移民の人たちがやってきたときは、本当にワクワクした。でも、彼らは英語も話さず、社会に溶け込んでもくれなかった」という若者の言葉が突き刺さる。

 こうした不安や不満がEUからの移民を遮断すれば解決するなどと声高に訴え、苦しむ人たちの真摯な思いを己の政治目的に利用せんとする政治家も、残念ながら少なからず存在する。移民が押し寄せているから住宅問題が急増するのだ、と唱えるある地区選出の保守党国会議員に「では、具体的に、貴方の選挙区のどこの地域・住所に住宅問題が生じているのか」と聞いたところ「秘書に聞け」という答えが返ってきたこともある。

 住宅問題があると言って選挙戦を展開しているのに、問題が地元のどこにあるのかすら知らないでいるのだ。こうした議員らにとってこの選挙は、地元の問題を解決するために行っているものではなく、いかに選挙後の自分たちの党内での立場を確保するか、彼らにとってはそのためだけに政治利用しているキャンペーンであることが透けてみえる。

ロンドン市長選でもあった対立煽るメディア戦略

 こうした不快極まりない政治家らによる選挙戦略を見ていて、ふと最近の類似キャンペーンを思い出した。先月まで行われていたロンドン市長選である(「トランプに屈しないイスラム教徒のロンドン市長」参照)。

 初のイスラム教徒の市長誕生に至るには、首相までもが便乗した、執拗な保守党陣営からのイスラム敵視キャンペーンがあった。ところが、全く根拠のない市長とイスラム過激派とのつながりを追及した当のキャメロン首相は、その舌の根も乾かぬうちに、今度は見事当選したそのカーン市長にEU残留キャンペーンでの協力を要請し、白々しく壇上を共にしている。ここへきて残留派がリードを広げられているのも、キャンペーンを率いるキャメロン首相のこうした態度が、人々の信頼を勝ち取れないからだとも言われている。

 ロンドン市長選において、保守党陣営を支えたのはオーストラリア人のキャンペーン・ストラテジスト、リントン・クロズビー氏率いるCTグループ所属の元タブロイド紙ジャーナリストだ。クロズビー氏はかつて、英国総選挙における保守党キャンペーンや、ジョンソン前ロンドン市長選出の際のキャンペーンを手がけている。英国の大手新聞ガーディアンは以前、クロズビー氏の切り札はネガティブ・キャンペーンで「人種や移民問題を強調し社会を分断することで、政治的勝利をおさめる手法を得意とする」と指摘した、対抗陣営ストラテジストのインタビューを引用している。

 クロズビー氏はオーストラリアのジョン・ハワード元首相のトップストラテジストでもあった。ハワード首相は移民に対する厳しい政策で4期もの続投を果たしたと言われており、メディア受けする巧みな難民蔑視ギリギリの言葉使いが保守層からの支持を得たとされている。同じくトニー・アボット前首相のキャンペーンでは「(難民を乗せた)ボートを追いかえせ」というスローガンが受けたと、ガーディアンは指摘している。

 今回の国民投票でクロズビー氏がキャンペーンに関わっているという情報は今のところ見当たらないが、少なくとも離脱派キャンペーンの一部には広告代理店がついていることが、現場取材で判明している。

社会の分断に加担するメディアの大罪

 こうしたメディア戦略家たちは、キャンペーンの成否については綿密な調査を行うのであろうが、社会の分断を煽り、憎悪を広めるようなキャッチフレーズや動画・ポスターなどの拡散が、長期的に社会におよぼす影響まで調査しているのか甚だ疑問である。

 だが自戒を込め、こうした分断的なキャンペーンに乗っかり「視聴率」という得体の知れないもののために、キャンペーンをそっくり垂れ流し続けるメディアの側にも全く責任がないとは言えない。「良いテレビ」企画を作るために、強い映像を撮れそうな現場を探し、解りやすいフレーズを切り取り、放送するのは制作者にとって必須だ。しかし、分断的な戦略を各陣営がとることを知りながら、それをそのまま流し続けることがより社会の分断に加担しているとすれば、メディアの功罪はとてつもなく大きい。

 コックス議員の3歳と5歳の幼い子供達から母親を奪った事件に加担してしまったのなら、憎悪を煽ってきた政治家同様、それを流し続けたメディアは取り返しのつかない大罪を犯したことになる。今後、この英国の国民投票のみならず、憎悪をばら撒き続けるドナルド・トランプが共和党候補となった米大統領選など、こうした戦略家たちによって手がけられているであろう「憎悪キャンペーン」を扱う放送関係者は、これを肝に銘ずるべきである。

 コックス議員の夫は、妻の死に際し以下の声明を発表している。

「彼女はきっと、何よりも2つのことを望むだろう。一つは、大切な2人の子供たちが溢れる愛で満たされること。そして、彼女を殺した憎悪と戦うため、私たちが団結することだ。憎悪には、信条も人種も宗教もない。ただ、有毒なだけだ。」

 この戦いに、メディアは無関係ではない。

a memorial for Jo Cox

追記:尚、地元警察は18日未明、事件に関連してトーマス・メイア容疑者(52)を殺人の罪で起訴したと発表した。19日、ロンドンの治安裁判所に移送され、初出廷で氏名を問われた被告は「私の名は「裏切り者に死を、英国に自由を」であると述べている。

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『「中道左派にはもう頼れない」欧州移民の悲哀 “移民の味方”である民族政党は国家分断の源?』(6/16日経ビジネスオンラインThe Economist)について

欧州移民の問題は、白人の「成功の復讐」でしょう。キリスト教を先兵として植民地を開拓して富を収奪、第一次大戦後のパリ・ヴェルサイユ講和会議での日本の「人種差別撤廃提案」(米ウイルソン大統領に否決)、第二次大戦後植民地の独立運動(日本の敗戦の結果でも、やればできるかもと被植民の国民に思わせた、東南アジアの独立に残留日本兵の活躍もあった)、その後宗主国として影響力行使のためもあり、移民を受け入れざるを得ない歴史的展開になりました。

日本も韓国は植民地支配でなく、一進会等の要望もあり統合したにも拘らず、日本の敗戦後、韓国は戦勝国を自称するに至り、今でもそう言っていますが、世界で韓国が戦勝国と認める国はありません。それはそうでしょう。韓国ができたのは戦後、米国統治から韓国の独立が認められただけで、戦前・戦中は日本の一部だったわけですから。彼らの頭の中を覗いてみたい。不合理の塊なのでしょう。ノーベル賞を切望しても取れる訳ありません。科学は合理性の追求ですので。文学賞も「火病」を持った民族に良い作品ができる訳ありません。

http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160608/frn1606081140001-n1.htm

http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160615/frn1606151848008-n1.htm

日本も欧州と同じく、在日の問題が大きく存在します。差別ではなく、弱者を騙り、日本から優遇策を勝ち取り、寄生虫そのものです。認めてきた方が悪いのですが。戦後日本人は経済成長だけに目が行き、名誉を守ることを忘れてきたせいでしょう。すぐ金で解決しようとします。そこが落とし穴です。一度払えばヤクザ同様延々と要求が続きます。偏向メデイアや左翼政党の影響を受け過ぎです。在日が日本に本当に馴染めないのであれば、権利の主張ばかりするのでなく、祖国に帰るべきです。欧州も極右と呼ばれていますが、移民受け入れ反対政党が票を伸ばしてきています。英国のEC離脱の理由として、難民問題もその一つです。6/23英国の国民投票でEU残留するかどうかですが、ジョー・コックス下院議員の銃殺事件がどう影響するかです。

記事

オランダの中でもハーグ市ほどオランダらしい都市はない。政庁所在地であるビネンホフ地区にはグリム童話から抜け出てきたかのような古風なゴシック建築がそびえ立つ。

 そこから1マイルほど西に向かうとボザール様式の平和宮が建っている。ここは国際司法裁判所の本部だ。また、北側に位置するガラス張りの財務省は、財政規律を教条的に重んじる人々の総本山である。

Wilders

オランダの極右政党、自由党のウィルダース氏(写真:AP/アフロ)

 一方、東に向かって1マイルほど歩くと(自転車でもいいのだが)、伝統的なオランダの風景とは異なるものが見えてくる。ガーナ人が経営する理髪店。トルコ風ティーハウスの数々。女性たちは頭からスカーフをかぶっている。ジュラバ(モロッコの民族衣装)を着た男性たちは夕べの祈りを捧げるため、道路に面したモスクへと足早に入っていく。

 モスクの向かいにあるのは「アミンのモロッコ風肉店」。その日の午後、中近東のサンドイッチ「シュワルマ」がぎっしり並ぶ冷蔵カウンターの後ろでは、オーナーの息子で31歳のジャマールがコンピュータの設定に取り組んでいた。

 彼のような人物こそ、この国の伝統的なアイデンティティと新たな移民コミュニティの間に存在する断絶の橋渡し役となり得る存在だ。ジャマールは2歳のときに家族とオランダに渡ってきた。エラスムス大学で経営学の学位を修得し、これまでに複数の中小企業でデータ解析の仕事に携わった経験を持つ。だが昨年になって企業世界に見切りをつけ、父親の精肉店に戻った。

 「オランダ社会では人種による選別が至る所で行われている」と彼は言う。最後に勤めた企業では、白人の同僚が欧州出身でない求職者を拒絶する理由をあれこれ並べ立てるのを見て落胆したという。

ムスリムや少数派民族を“代表”する民族政党が台頭

 移民という経歴を持つオランダ人の大半がそうであるように、ジャマールも過去の選挙では中道左派の労働党に票を投じてきた。だが今は新しくできた「デンク」への乗り換えを検討している。デンクは「考える」という意味。この政党は、ムスリムや少数派民族に対して自らを売り込んでいる。

 ムスリムや移民の多くは10年もの間、反ムスリム主義・反移民主義を掲げる政治家、ヘルト・ウィルダース(極右の自由党に所属。支持率では現在首位にある)からの執拗なまでの侮辱を受け続けてきた。彼らは今、労働党などの主流政党は自分たちを守ってくれないと感じている。

 デンクが来年の総選挙で数議席以上を獲得することはないだろう。だが、この政党は極めて重大な疑問を投げかけている。すなわち「外国人排斥の機運が高まったとき、欧州の少数派民族はこれまで投票してきた中道左派政党(幅広い政策を掲げる)を頼ることができるのか」「少数派民族は自らの手で政党を立ち上げるべきか」「そうすることは国の分裂を進めるだけなのか」といった問いである。

中道左派離れが始まった

 欧州全体において、ムスリムや非白人は中道左派に投票する傾向がある。オーストリアでは少数派民族の68%が最近の総選挙で社会民主党に票を投じた(白人は32%)。フランスで行われたある調査では、2012年の大統領選挙でムスリムの93%が社会党所属のフランソワ・オランド氏に投票したことがわかった。

 だが少数派民族の人たちは往々にして、中道左派政党は自分たちからの支持を当然視し、それに見合う見返りを与えてくれないと感じている。2012年にオランド氏に投票するため投票所に足を運んだムスリムたちは、2014年の市会議員選挙では家から出なかった(彼らの多くは社会党政権が同性婚を合法化したと非難した)。フランスに限ったことではなく、中道左派政党が移民やテロリズムに対して厳しく臨もうとするとき、少数派民族は裏切られたと感じる。

移民を軽視する政府高官

 新党のデンクはそんな中に誕生した。2014年、オランダのローデワイク・アッシャー副首相(労働党)はトルコ系オランダ人の市民団体への監視強化を認めた。イスラム過激主義を扇動しないよう見張るためだ。

 その直後、オランダのメディアは「トルコ系市民の若者の87%が過激派イスラム国(IS)に共感している」とする世論調査の結果を発表した。だが後の調査でこの結果はひどい代物であることが判明した。インタビューを受けた人たちは質問を理解していなかったのだ。だがアッシャー副首相はこの調査結果を無効とするのではなく、これが「厄介なもの」であると発言した。

 これに対し、労働党を支持していたトルコ系オランダ人の多くが激怒した。政党のトップたちは自らの支持母体についてまったく理解していないようだった。アムステルダム議会のムニーレ・マニサ議員は「この調査が意味をなさないことは誰の目にも明らかだ」と指摘する。マニサ議員はこの問題を解決すべく、アッシャー副首相に会い、何よりも先にこの結果が無効であることを示した調査を認めさせようと考えた。

 だが2人の野心的なトルコ系国会議員、トゥナハン・クズ氏とセルチュク・オズトゥルク氏がこの機に乗じて労働党を離れ、新党を設立した。

既存の政治に失望する移民は投票に行かない

 デンクはオランダにおける他の2大マイノリティグループであるモロッコ系オランダ人、アフロカリビアン系オランダ人から候補者を募っている。この4月には元高級官僚で現在はオランダの主要モロッコ系市民社会グループを率いるファリド・アザルカン氏を引き入れた。

 そして5月には南米スリナム生まれのテレビ番組司会者、シルバーナ・シモンス氏が参加した。同氏は、オランダにおける子どもの祝日である聖ニコラス祭で、顔を黒く塗ったキャラクター「ズワルト・ピート」がクッキーを配る風習が人種差別的だとして反対運動を行ってきた人物だ。シモンス氏は教育と言語の「非植民地化」を訴えた。これに対してオランダ国内の伝統主義者たちは交流サイトのフェイスブックで人種差別的な罵詈雑言を浴びせかけ、結果的にデンクが注目を集めるという一幕があった。

 デンクは、労働党などの政党が国内の少数派民族を見下していることが、彼らが疎外感を強める原因となっていると非難する。「彼らは自分が認めてもらえているとは感じていない。また、安全性を感じることもできない」とアザルカン氏は言う。

 アムステルダムの市会議員選挙を対象に長年行われている調査によると、1990年代半ばから2006年(ウィルダース氏の自由党が誕生した年)までトルコ系市民による投票率は約50%だった。それが2014年の選挙では34%に低下した。モロッコ系市民に関して言えば、2006年には37%だった投票率が2014年にはわずか24%となった。

 アムステル大学の准教授でこの調査の共同代表を務めるフロリス・ベルメウレン氏は「彼らは労働党が自分たちの声を反映していないと感じてはいるものの、他に向かう先がない」と指摘している。

政党は何のために存在するのか

 だが、「少数派民族以外の代表とはならない」というデンクのアプローチはオランダ社会が抱える分断を広げてしまう危険性をはらむ。「デンクに所属する議員の発言は”自分たちと相手の対立“という議論であふれている」――。労働党所属のモロッコ系議員、アハメッド・マルコウチ氏はこう指摘する。

 最近、オスマン帝国政府によるアルメニア人虐殺を認定する決議案についてオランダ国会が審議した際、デンクは異例の行動に出た。誰が賛成票(もしくは反対票)を投じたのか分かる形で投票するよう要求したのだ。これには、この発議に投票する他党のトルコ系議員の映像を政治キャンペーンの材料として使い、支持層にアピールする狙いがあった。

 もしも政党が民族を代表するものであるのなら、こうした政治の分断は避けられないものなのかもしれない。前出のジャマールが最終的にはデンクへの投票をためらうであろう理由は、おそらくそこにあるのではないか。ジャマールはこう問いかける――「問題は、デンクが移民の利益のみを代表する政党のつもりでいるのか、という点だ」「政党とは人々をまとめることが仕事のはずだ」と。

© 2015 The Economist Newspaper Limited. Jun 11th 2016 | From the print edition

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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『ドン・キホーテは『進撃の巨人』の夢を見るか 「オバマは韓国人慰霊碑を無視した」(3)』(6/16日経ビジネスオンライン 鈴置高史)について

韓国は分を弁えない民族的特質が仇になってきている感じです。「誇大妄想」、「被害妄想」という世界に浸りきれる「特異体質」を持った民族です。こんな民族に日韓基本条約を結んで助けた訳ですから。戦後の政治家は劣化したと言っても言い過ぎではありません。政治は結果責任の世界です。福沢諭吉は中韓と付き合うと碌なことにならないことを見抜いていました。今や在日中国人や在日韓国人が偏向メデイアと一緒になって、反日活動に勤しんでいます。獅子身中の虫としか言いようがありません。帰化日本人になっても祖国の為に動くのであればスパイです。スパイ防止法の制定が急がれます。こともあろうに自民党がスパイ防止法の代わりにヘイトスピーチ防止法を制定しました。表現の自由を制約するし、対象も特定の人種や民族という偏ったものです。これで自民党は本当に保守党と言えるのかどうか。多数の日本人を蔑ろにするものです。二階による野中広務の復党とか谷亮子の参院比例選抜とかおかしなことばかり。安倍首相はこれで本当に参院選に勝てると思っているのでしょうか?逆に「こころ」とか「おおさか維新」に票が流れるのでは。安倍首相の力が衰えてきているという事でしょうか?

韓国人は6/11のブログで書きましたが、「妬み」「嫉み」「恨み」「駄々こね」「嘘つき」「強請り」「タカリ」の特異体質を持っています。「火病持ち」で合理的精神のない未熟な民族です。でもそれは本記事にありますように、風車たる日本にだけしか通用しません。進撃の巨人の中国は韓国を属国扱いにしかしないでしょう。韓国の海も川も中国のものと中国人は思っています。今更日米に縋りつこうとしても「時すでに遅し」です。愚かな民族はどこまで言っても愚かです。日本も後世の日本人から「平成の日本人は本当に愚かだった」と言われないように。そのためには、マスメデイアの言うことの逆をやれば正しい道を歩めるでしょう。

記事

Don Quixote

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 韓国人は不都合な真実に目をつむる。日本叩きはそのためにも必要だ。

風車に突撃する韓国人

—オバマ(Barack Obama)大統領の広島訪問に大騒ぎした韓国。風車を巨人と思い込んで突進した「ドン・キホーテ」を思い出しました。

鈴置:もっともです。日本を悪い巨人と思い込み――「日本は戦犯国家のくせに免罪符を得ようと、オバマを広島に呼んだ」と妄想し、国を挙げて難詰したのですから。

 米国に対しても「オバマは広島に行くな」「行っても日本に謝るな」「もし、謝るなら韓国にも触れろ」と韓国紙は騒ぎ立てました。

 表で動きにくい政府の意も体し、メディアが「巨人を倒せ!」と呼び掛けた。常識人――サンチョ・パンサが「あれは風車ですよ」といくら言っても聞く耳を持たず、国を挙げて「巨人」に突撃……。

数少ないサンチョ・パンサ

—サンチョ・パンサとは、前回登場した朝鮮日報の鮮于鉦(ソヌ・ジョン)論説委員のことですね。

鈴置:彼だけではありません。数は少ないのですが、まだいます。元外交官の趙世暎(チョ・セヨン)東西大学特任教授も「オバマ大統領の広島訪問を『勝った、負けた』の次元で見るな」と韓国人を諭しました。

 5月26日、左派系のキョンヒャン新聞に「『核兵器のない世界』 オバマ広島訪問と韓国の選択」(韓国語)を寄稿しました。

 5月27日の広島訪問の翌日、この寄稿はハフィントンポスト日本語版に「オバマ大統領の広島訪問は日本への免罪符となるのか」の見出しで翻訳・転載されました。後者を引用します。見出しで提示した疑問に対し、趙世暎特任教授は簡単に答えます。以下です。

  • オバマ大統領の広島訪問は、果たして日本に免罪符を与えるだろうか? 私はそうは思わない。アメリカの大統領が広島を訪問して犠牲者を称える「道徳的優位」は、日本の戦争責任を上書きするどころか、日本に大きな負担となるだろう。

トランプに反応「核武装を」

 そして話題を転じ、次のような主張で結びました。

  • 問題は韓国だ。私たちは、果たして核兵器のない世界という目標を深く切実に考えているだろうか。核兵器の非人道性という、より根源的な問題意識とは遠い。そのため、トランプ氏が在韓アメリカ軍撤収を言い出すと、すぐに核武装を、といった話があまりに簡単に登場するのだ。
  • 韓国社会にも核武装論への批判がないわけではないが、北朝鮮に非核化を要求する大義名分がなくなり、米韓同盟に支障をきたし、原子力発電をはじめとする実利的な面で損害が大きいという現実的な主張がほとんどだ。
  • オバマ氏の広島訪問を加害と被害という面でばかり見てはならず、戦争や平和、そして核兵器と人道主義というレベルで深く考察する機会となることを願う。

現実主義者からも白い目

—趙世暎特任教授は反核運動の賛同者……でもなさそうですね。

鈴置:現実に足の着いた外交評論家です。この記事は11の段落で構成されていますが、8つの段落を使って「核のジレンマ」、つまり核廃絶が容易ではない現実を説明しています。

 具体的には、マーシャル諸島共和国が「核軍縮に努力していない」と核保有国を国際司法裁判所に訴えたのに「核なき世界」を訴えノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領からも無視されたこと。日本は核廃絶に関心を見せながら米国の核の傘に依存すること――などを挙げています。

 しかし、趙世暎特任教授はそうした現実も踏まえたうえで「オバマ広島訪問」に際し、韓国が「核兵器の非人道性という、より根源的な問題」には目を向けず「加害と被害」を掲げて立ち回ったことを批判したのです。

 核廃絶を主張する人の多くは「広島訪問」の実現が、その一歩となることを期待しています。一方、オバマ大統領の「実績作り」と冷ややかに見た人もいます。前者の人々はもちろん、後者――現実主義者からも韓国の自己中心的な行動は白い目で見られるでしょう。

「日米同盟」も攻撃

—核廃絶論者が白い目で見るのは分かります。現実主義者も韓国をそう見るのですか?

鈴置:米国の現実主義者の多くは保守派です。彼らは、日米同盟強化も狙った「広島訪問」に難色を示した韓国を疑いました。

 2015年の安倍晋三首相の米上下両院演説に対しても、韓国は国を挙げて反対しました。その執拗なロビー活動に米国の外交関係者は疲れ果てました(「『アベの米議会演説阻止』で自爆した韓国」参照)。

 韓国の背後に中国がいると見なした人も多い。彼らの目には、今回の「広島騒動」はその再演に映ったのです。

 ドン・キホーテが攻撃した対象は日本だけではなかった。日本との同盟強化を狙う米国にも韓国人はヤリを向けて突進したのです。本人たちはそれに気づいていませんが。

 外交通商部(現・外交部)で東北アジア局長まで務めた趙世暎特任教授にすれば、とても見ていられなかったのでしょう。

韓国が立つ場はなかった

 現役の外交官からも、韓国人の世界認識と姿勢に疑問が呈されました。徐張恩(ソ・チャンウォン)広島総領事が中央日報に「広島で過去より未来を語ったオバマ大統領」(日本語版、5月28日)を寄せました。骨子は以下です。

  • 原爆を落とした国とその原爆で多くの命を失った国の首脳が「グラウンド・ゼロ」に並んで立った。韓日間の過去の歴史でいくつかの苦痛を忘れることができない我々が、このすべての場面を快く受け入れるのは容易ではない。
  • しかし筆者は91歳の坪井さんら被爆者代表2人がオバマ大統領と握手しながら万感の笑みと涙を見せた場面で、今回の訪問のもう一つの側面を考えるようになった。
  • 果たしてこの人たちは安倍政権の対外政策に同意してあの位置に立ったのだろうか。現場にいた広島の人々の多くは普段、安保法案など安倍政権の政策に非常に批判的だった。
  • しかし今回は左右に関係なく声を一つにして訪問を希望し、これを実現させた。広島市民の主な関心事は「未来」であり、この「未来」に向けた歩みが忙しく、苦痛の過去を胸にしまい込んだようだった。
  • 一方、我々は韓国人の原爆被害という、よりいっそう痛恨の「過去」を話しただけで、これを「未来」に結びつけようとする努力は見せられなかったようだ。慰霊碑訪問、そして現地を訪問した被爆代表団の謝罪・補償要求まで…。このため、未来だけを話すという場に我々が一緒に立つ余地はなかったようだ。

左右が声を1つに

—韓国人、ことに外交官が「過去ばかり見るな」なんて言っていいのですか?

鈴置:私も驚きました。韓国の対日外交の基本戦略は「歴史カード」を駆使して日本の足を引っ張ることですから。でも、徐張恩氏の経歴を見ると、職業外交官ではなく政治的任命を受けた研究者。それでこれだけ書けたのかな、と思います。

 この寄稿にはもう1つ興味深い点があります。安倍政権に批判的な日本の被爆者らが、政府と歩調を合わせることでオバマ訪問を実現したことに注目したことです。

 「昔は『弱さ』を恥じる韓国人もいた」で紹介した日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳事務局長。5月19日の日本記者クラブでの会見で、以下のように語っています。発言はYouTubeの『田中煕巳被団協事務局長「オバマ広島訪問」①』で視聴できます。

  • 謝罪をしてほしいという気持ちはあります。が、それはぐっと抑えて(オバマ大統領に)核兵器廃絶の先頭に立ってほしいとの思いがあるのでしょう(開始後27分10秒から)。
  • 広島に来られたらオバマさん個人の原爆に対する体験が質的に変わるだろうと期待しています(同19分48秒から)。

 「苦痛の過去を胸にしまい込んだ」のです。その田中事務局長も「戦争をしない国になると決めた憲法9条に反した、ここ数年の安倍政権の方向」には極めて批判的です(同16分05秒から)。

 徐張恩総領事はまさにこの点、「左右に関係なく声を1つにした」ことを特筆したのです。これは韓国人にとって驚きでしょう。韓国で被害者が「目的のためにぐっと我慢する」とは考えにくい。ましてや、対立する他の党派と協力するなど想像もできません。

 「広島訪問」とは全く関係ない記事にも、この話が登場しました。書いたのは朝鮮日報の宋煕永(ソン・ヒヨン)主筆。1993年から2年間東京特派員を務め、経済科学部長、ワシントン支局長、編集局長などを歴任した有名な記者です。

1等国民と2等国民

—四半世紀前は……。

鈴置:そうです。その頃は、韓国メディアはとびきり腕利きの記者を東京に送り込んでいたのです。

 宋煕永主筆が書いた「1等国民、2等国民」(6月4日、韓国語版)は、韓国でひどくなる一方の格差を論じたコラムです。

 「持つ者」(1等国民)と「持たざる者」(2等国民)の対立が激しくなる現状を憂い、このままでは両者の間での「全面戦争がいつ勃発するか気が気でない」とまで書きました。

 この純然たる内政を論じる記事に突然、謝罪を求めなかった日本の被爆者の話が出てくるのです。以下です。

  • オバマ大統領は先週広島で原爆被害者たちに会った。戦争を起こした側は日本だ。その原罪を消すことはできない。しかし、原爆被害者たちは「弱くて罪がなくかわいそうな」人々だった。今日の生存者は当時、何も分からない子どもたちだった。
  • にもかかわらず、広島では謝罪要求のためのデモが起こらなかった。補償要求もなかった。原爆被害者団体は1984年以降、米国に謝罪要求をするという方針を取っていたが、一切口を開かなかった。
  • オバマ大統領が「謝罪はしない」と宣言していたため、諦めたのではない。「核兵器の根絶に向け先頭に立ってください」と言いたかったというが、それさえ最後まで自制した。
  • 71年間にわたって彼らは、鬱憤と償いを求める心を抑えに抑え込んできた。熱い感情を冷たい胸に押し込んで生きてきた広島の人々を、我々はどう受け止めるべきか。
  • 韓国人特有の被害者意識は「忍耐」を知らない。感情の高まりに歯止めが掛からない。

全体主義の誘惑

 この記事は、韓国の持たざる者に「我慢せよ」と説いているわけではありません。格差の拡大を放置している為政者に矛先を向けています。

 それでもなお、「熱い感情を冷たい胸に押し込んで生きてきた広島の人々を、我々はどう受け止めるべきか」と韓国人に問いかけたのです。

 社会的葛藤の解決には「激突」以外にも方法があるのだ、と宋煕永主筆は言いたかったに違いありません。ただ、こうした発想は韓国人には受け入れにくいようです。

 左派系紙、ハンギョレのキル・ユンヒョン東京特派員は「謝罪要求を口にさせない日本」を批判し、見出しで「日本は全体主義に向かう」と警告しました。「塩野七生、あるいは全体主義の誘惑」(5月27日、日本語版)という記事で、関連部分は以下です。

  • 広島には自身の被爆経験を気楽には話せない微妙な雰囲気が出来上がっている。今までオバマ大統領に謝罪を要求する明確なメッセージを出してきた人は、広島の著名な平和運動家の森滝市郎氏(1901~1994)の娘でもある、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子代表だけだ。
  • 自分の被害だけを前面に掲げる被爆者の姿を見るのも多少違和感があるが、被爆者の自然な感情の表現まで封じ込めようとする日本社会の雰囲気には、本当に息苦しさを感じる。

泣き叫ぶ韓国の被害者

—全体主義ですか。

鈴置:「広島訪問」後、日本メディアはオバマ大統領への不満の声も紹介しました。5月28日の日本経済新聞朝刊・社会面の1本の記事の見出しが「核廃絶、力強さ感じず」「不満の声も」でした。

 5月27日のNHKの中継放送でも、ある被爆者が「オバマ演説は核兵器の恐ろしさに十分に言及しなかった」と批判していました。

 それでも韓国人には全体主義に見えるのでしょう。被害者は要求を通すため建物を占拠したり、泣き叫びながら道を転がって訴える。権力側はそれを警察力で弾圧する――。物理的な力の激突によって「正義」を決めるのが、韓国社会における対立の解決法ですから。

 もちろんすべての韓国人がそれを「良し」としているわけではありません。ひょっとすると徐張恩総領事の「日本人は左右に関係なく声を1つにした」という寄稿は、キル・ユンヒョン東京特派員の「日本は全体主義に向かう」という記事に触発されて書かれたのかもしれません。

韓国を食う本当の巨人

—結局、韓国社会で「広島訪問」はどう記憶されていくのでしょうか。

鈴置:小ずるい日本がオバマを騙して免罪符を得たつもりになった。米国はやはり日本だけを可愛がる――という認識が定着していくと思います。メディアがその線で報じ続けたからです。

 訪問前からいち早く、朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問が「世界の大局の変化を読み取れ。これは米日が手を組み中国と対決姿勢を造る一コマだ」と警告しました(「韓国は『尊敬される国』になるのか」参照)。

 訪問後にも数人のサンチョ・パンサが出ました。でも、こうした大局論は論壇では少数派に留まりました。

—「凶悪な日本にまたやられた」という話の方が、普通の人の耳には入りやすいのでしょうね。

鈴置:その通りです。ただ、見落とすべきではないのは、国際情勢の変化には気がついても、その現実から顔をそむけるために「小ずるい日本」を言い立てる空気が出てきたことです。

 普通の韓国人と話していても、交流サイト(SNS)を覗いてみても、韓国の未来が極めて厳しいとの前提で会話が進むことが増えました。

 米中対立がどんどん先鋭化する。中国は「お前はいつまで米国の子分をやっているのか。戻ってこい」と凄んでくる。本当に危険なのは、隣の巨大な全体主義国家ではないか――。

 こんな認識がようやく韓国人の間で語られ始めたのです。ますます大きくなる巨人が、韓国を取って食べようとしている。というのに、防壁たる米韓同盟は壊れ始めている、という恐怖です。

韓国の“荒川”河口に中国漁船

—同じ巨人でも、今度は『進撃の巨人』ですね。

鈴置:このマンガ・アニメは韓国でも有名です。例えを『ドン・キホーテ』に戻すと、最近の韓国人は恐ろしい現実から目をそらすために、風車に突撃しているように見えます。

 巨人と戦っているという自己満足は得られますし、ありがたいことに風車――日本なら反撃してきません。

—今やドン・キホーテが風車攻撃に出るのは、不都合な真実に気がつかないというよりも、それを見たくないから、というわけですね。

鈴置:仁川国際空港とさほど離れていない海で、違法操業を繰り返す中国の漁船2隻を韓国の漁民が拿捕するという事件が起きました。「自力救済」です。

 ウンカのように――数百隻も同時に押し寄せる中国漁船に、韓国海軍も海洋警察も対応しきれなくなっています。政府も中国に再三、抗議してきましたが、相手にされません。

 中国の漁民はこん棒などで武装しており、すでに韓国の海洋警察官2人が殺されています(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」参照)。

 中国漁船は何と、ソウルを流れる漢口の河口まで侵入しています(中央日報社説「漁民が中国違法漁船を拿捕する国=韓国」=6月7日、韓国語版)。日本で言えば東京・荒川や大阪・淀川の河口に中国漁船が居座って違法操業しているわけです。

 韓国経済新聞は社説「中国漁船問題が見せる異様な韓中関係」(6月8日、日本語版)で以下のように嘆きました。

  • 泥棒を警察ではなく家主が直接捕まえなければならない状況が広がっているということだ。まったく一流国家では有り得ないことだ。

「進撃の巨人」は見ない

 韓国漁民による拿捕事件が発生したのが6月5日。3日後の6月8日、韓国海軍は「本日から海洋警察とともに独島(竹島)で防衛訓練に入る」と発表しました。海軍は「独島の領有権主張を強める日本への強力なメッセージである」と国民の前で胸を張りました。

 聯合ニュースの「韓国軍、東海上で独島防衛訓練を実施=明日まで」(6月8日、日本語版)などが一斉に報じました。日韓両国政府が関係改善を模索する中、わざわざ日本に対し肩を怒らせて見せたのです。

 隣国のドン・キホーテたちは「本当の巨人」は存在しないことにしてしまい、風車に突撃し続けるつもりでしょう。

(次回に続く)

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『日本企業はなぜアジアで欧米勢に勝てないのか ボストン・コンサルティング・グループ日本代表 杉田浩章氏に聞く』(6/15日経ビジネスオンライン 鈴木哲也)について

<6/17ロイター 中国が為替政策で後戻りなら新たな火種に=ルー米財務長官

[ワシントン 16日 ロイター] – ルー米財務長官は、中国人民元の対ドル相場を人為的に低く抑える過去の為替政策に後戻りすれば、米中関係に新たな緊張を生むとの認識を示した。アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートでの講演で述べた。

長官は「世界経済が弱含む中で、中国が過去の為替政策や輸出主導型経済に後戻りすれば、米中2カ国間に新たな緊張を生む」と警告した。

為替問題において、米中関係は近年、大きな進展を遂げたとも指摘。人民元安を狙った為替介入を行なうのではなく、中国当局は過去1年、外貨準備を活用し元を支援したとしている。

ただ中国は市場原理に基づく為替相場への秩序だった移行に向けて実現すべき課題をなお抱えているとし、先週の米中戦略・経済対話では、中国側が市場の力に委ね人民元を上昇、下落させるための為替改革に注力していると姿勢が示されたと明らかにした。

その上で「中国は双方向の弾力性へのコミットメントについて、言葉ではなく行動で示す必要がある」と指摘。中国が人民元安を許容するのは市場に下落圧力がある時だけとし、「中国のコミットメントの真価は、市場で上昇圧力が再燃した際に元高を許容できるかどうかだ」と話した。

また中国のビジネス環境は、外資系企業にとりマイナスの方向へと変化しているとして懸念を表明。米中が協議を進めている投資協定に対する中国当局のスタンスが、市場開放や競争促進に対する中国の本気度を占う試金石となると述べた。

中国は米投資の対象外とするセクターをまとめた新たな「ネガティブリスト」を提出したが、真剣な申し出なのか判断するのはまだ時期尚早とした。>

6/17産経ニュース 中国の市場経済国、米財務長官が「自動的には認められない」

 【ワシントン=小雲規生】ルー米財務長官は16日、ワシントン市内でのイベントで、中国が求めている世界貿易機関(WTO)の規定上の市場経済国としての認定について「自動的に認められるものではない」と述べた。中国はダンピング(不当廉売)課税を受けにくくなる利点がある市場経済国認定を目指し、15年前のWTO加盟時の合意を理由に12月には自動的に市場経済国になると主張しているが、ルー氏は公の場で異議を唱えた格好だ。

 ルー氏は米国として中国を市場経済国として認定するかどうかは「米国の商務省が決めることだ」と指摘。一方、経済改革を進めれば進めるほど認定されやすくなると中国に伝えていることも明らかにし、将来的な認定に含みを残した。>

<6/17日経米財務長官、アジア投資銀を評価 米中投資協定妥結に意欲 

フォームの終わり

 【ワシントン=河浪武史】ルー米財務長官は16日、ワシントン市内での講演で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を「統治や環境保護などの運用面で高い基準を満たしそうだ」と評価した。交渉中の米中投資協定も早期妥結に意欲をみせた。米国はAIIBには日本とともに参加していないが、ルー氏は米中の経済協力の拡大を目指している。

 米国は「AIIBは融資や資金調達などの運営体制が不透明だ」として、参加を見送ってきた。ルー氏は16日の講演で、世界銀行などとの協調融資体制がAIIBの運営基準を高めていると指摘し、米当局の一方的な反対姿勢を修正した。

 外資規制の撤廃などによって米企業が中国に進出しやすくなる投資協定は「今後7カ月の交渉が重要だ」と述べ、オバマ政権下での妥結に意欲をみせた。投資自由化の例外対象とする「ネガティブリスト」について、週内に米中両国で協議するとも明かした。

 米中は6月初旬に北京で戦略・経済対話を開き、貿易や通貨政策などの経済協力を議論した。米産業界は投資協定の早期妥結を求めており、ルー長官は中国との関係強化を急いでいる。>

ロイター、産経、日経の3社のルー米財務長官の発言を取り上げて見ました。日経だけの記事では中国に融和的な印象が残りますが、ロイターや産経を読むと言うべきことは言っていると感じます。日経は今でも中国進出、中国サポートに躍起な感じがします。愚かでしょう。日本の領海が蹂躙されているというのに。

本記事も中国へのリスクは論じられずに、中国経済はアッパーミドル層や富裕層が増えているなどと提灯記事のようです。あれだけ中国進出を煽った大前研一ですら、中国経済崩壊、手の打ちようがないと言っているのに。マクロで物事を見ているのかと言いたい。中国政府のプロパガンダを鵜呑みにしているだけ。

http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160209/frn1602091846006-n1.htm

ゆめコンサルタントや日経などに騙されないように。

記事

新興国経済の減速によって世界経済が変調する中で、日本企業の海外展開は一段とハードルが高くなるのか--。ボストン・コンサルティング・グループ日本代表の杉田浩章氏は、中国や東南アジアの消費市場は底堅さを保っており、むしろ課題はマクロ経済よりも日本企業の経営力にあると指摘する。生産技術には優れているものの、人材マネジメントや商品流通などの面で標準化された仕組みをもたないことが弱点になっている。杉田氏にグローバル展開を軌道に乗せるための重点ポイントを聞いた。(聞き手は鈴木哲也)

Hiroaki Sugita

杉田浩章(すぎた・ひろあき)氏 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)日本代表 東京工業大学工学部卒。慶応義塾大学経営学修士(MBA)。日本交通公社(JTB)を経て現在に至る。消費財、自動車、メディア、ハイテク等の業界を中心に、トランスフォーメーション、グローバル化戦略、営業改革、マーケティング戦略、組織・人事改革などコンサルティングを数多く手掛けている。著書に「BCG流 戦略営業」などがある。

—中国経済減速や資源価格下落という要因によって世界経済が不安定になりました。消費のマーケットという面でみたとき、アジアの現状はどうでしょうか。

杉田:東南アジアの消費マーケットは結構、影響を受けましたね。影響の少ない、ベトナム、フィリピン、インドといったあたりが注目されるのがここ数年の流れです。インドネシアは成長が鈍化していましたが、ジョコ大統領の内政掌握の力が高まってきている面もあり、経済改革が進み始める期待感も生まれています。では中国はどうかというと、GDP(国内総生産)が減速しているのは、BtoB系や、インフラ系のビジネスの落ち込みによるものです。一方で消費関連は10%成長を続けています。

—消費の仕方には変化がありますか。

杉田:中国の消費の変化をみると、過去はエマージング・ミドル・クラス(新興中間層)という人たちがずっと消費をリードしてきたのですが、こうした層の人数の伸びが頭打ちになってきました。もう1段上のアッパーミドル・クラス(上位中間層)や富裕層の人数が、急速に今増えているのです。2020年を過ぎると上位中間層の人数が、新興中間層を上回る見通しです。売れるものも変化していて、基本的な生活を整えるための需要から、付加価値の高いものや高級なものへ移って来ています。東南アジアの多くは、まだそこまでいっていなくて、やはり中国の5年前や、国によっては10年前の水準ですが、これから発展していくでしょう。

—マクロ経済の変調にも関わらず、現地の消費市場を狙う日本企業にとっては、攻めるチャンスということでしょうか。

杉田:アジア市場というのは日本企業にとって、利益を生み出せる段階に入ってきたのだと思っています。消費者ニーズが低価格の商品から移り始めて、日本的な品質の良さが受け入れられるようになっています。そうしたものが一定のボリュームで売れるようになれば、利益が出てきます。それと現状では、GDP成長率の変化が直接影響するほどに、現地の事業が大きく育っている日本企業はあまりないでしょう。マクロ経済の変動よりも、これから開拓すべき「白地」、ホワイトスペースがずっと大きいのです。

生産以外に「手法」を持たないのが弱点

—景気などの外的要因ではなく、企業の内部に課題を見つけて改善するべきだということですね。よく指摘されるのが「日本企業は海外の工場など生産現場のマネジメントは上手だが、それ以外の商品開発、マーケティングなどではうまく海外でマネジメントができない」という点ですね。

杉田:生産では手法があるんですよ。生産現場の場合、英語があまりできなくても現地の人とコミュニケーションをして、技術を伝承できた例が多くあります。なぜかというと日本企業の場合、生産では何をどういう手順で、どういうふうに回していったら良くなるか、どこを重要ポイントとしてみて管理していったらよくなるかという一連の手法が確立しているんです。現地の人がそれを身につければ、生産のマネジメントができるようになる。そういう手法があるんです。

 しかし生産以外のところには手法がないのです。マーケティング、流通、商品開発では、日本企業は勘に頼っていたり、その分野に強い人が個人の力で動かしていたりするのです。つまり属人性で勝ってきている例が多いのです。日本で戦後からずっとここまで、そういう状況で事業展開してきたので形式化ができていなのです。

—それが海外展開するうえで、日本企業の弱みになっているのですね

杉田:こうした面では圧倒的に欧米系が強いんですよ。代表例はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、コカ・コーラ、ペプシコ、こういうグローバル企業は、原理・原則というか、何をどういうふうに押さえて、どう経営していったらいいのかという、手法や型をもっているのです。そのためローカルの市場に行っても、落とし込むべき型が明確にあります。

 例えば、先進的なマーケティングで有名なP&Gは、市場の見方とか、分析した市場の特性に応じてどんな手を打つのかという、フレームワークをもっています。マーケットの状況が見えにくい、新興国に行っても、即座にこうしたことをやる。これが先行しているグローバルプレーヤーの強さなのです。

—サントリーホールディングスは、2012年に米ペプシコのベトナム現地法人の株式の過半を取得することを決め、傘下に入れました。業績は堅調に推移しています。対象の企業が、もともと強い販路をもっていたことが、買収を決めた要因のひとつだそうです。

 ペプシが商品流通で取り組んできたことから、サントリーが学ぶことは大きいと思われます。例えば取引先の組織化、卸をどう教育するか、そこにどうインセンティブの制度つくるかといった仕組みです。どうPDCA(計画・実行・評価・改善)を回すのか。何がチェックポイントで、どのタイミングでそれをチェックしていくのか、まさにPDCAですよね。こうしたことがちゃんと仕組みとしてできていて、やっぱりパッケージとして優れているのです。こうしたことは日本企業が欧米系から学べるところだと思います。

—新興国など流通が組織化されていない未成熟のマーケットでは、どうすれば消費者に効率的に商品を届けられるかが一層重要になりますね。

杉田:例えば卸など外部の企業を、自ら教育するとか、資金も入れたりするということも含めて、販路を育てていかないと、なかなかシェアはとれない。いい商品だけあっても、流通をしっかりやらないとうまくいかないのです。

—生産の「カイゼン」などと違って、マーケティングや流通政策は、日本の中でも手法が確立していないなら、どのように海外で展開していけばいいのでしょうか。

杉田:日本でやっていることをマニュアル化するというよりも、海外拠点のどこかで先行してやっていて、うまくいっている経験をマニュアル化して、別の国に持っていく「横展開」が有効ではないでしょうか。

欧米のパワーゲームにどう対抗するか

—欧米大手の消費財メーカーがアジアでの存在感が高いのは、もちろん進出から歴史が長いということもあると思いますが、そのほかに彼らの戦略の特徴はありますか。

杉田:米国系だけでなく、ネスレやユニ・リーバなど欧州系も強いですね。傾向的に欧米系は、やはり規模が大きくて、市場の中で一気にシェアを取りに行くために、いわゆるパワーゲームをします。ものすごい資金を突っ込んで、下手すると10年どころじゃなくて、収益が生まれなくてももっと長期的視点で、エリアポートフォリオの一環として市場開拓を続けるのです。エリア内の他の地域で莫大な利益を上げているので可能なのです。それぐらい先行投資でブランドをつくるとか、生産や流通網をつくるということをやります。飲料の「ボトラー」のマネジメントなどもその一例ですね。

 それからもう1つが、欧米大手はグローバルブランド、グローバルプロダクトというものをいくつかの価格帯で持っていて、それらを、各国市場ごとにカスタマイズすることで投入しようとします。どちらかというとグローバルの規模を背景に、コスト優位性みたいなものを最大限生かして戦うという傾向がとても強い。これもある種のパワーゲームですね。

—日本企業が正面から戦いを挑むのは難しそうですが、一方で、タイやインドネシアでの味の素や、ユニ・チャームなど成功している例もありますね。

杉田:ええ。日本では、欧米のトップ企業と同じパワーゲームをやって勝てる企業はないと思います。しかし逆の言い方をすると、ローカル市場ごとに、深くマーケットに入っていって、そこのローカルの構造に合わせて商品を設計すること、一つ一つのマーケット最適な物を作っていくということが日本企業はすごくたけていると感じます。欧米ジャイアントとは違う戦い方をうまく構築できた企業は、そのやり方を別の国でも適用しています。味の素やユニ・チャームなどはその好例だと思います。日本企業一般で言うと、ローカルに対応した物づくりの力はあるのだから、先ほど言った流通やマーケティングを含めた、経営の手法を確立して、さらに広く横展開していけるようになれば、もっと強くなるでしょうね。

—もうひとつ、日本企業の海外展開の課題として指摘されるのが、人材マネジメントですね。

杉田:そういうところもおそらく欧米大手のほうが長けている部分が多いのではないでしょうか。人材の採用、育成の仕方も、日本企業よりは一般的には優れていると思います。そして大切なのは企業の理念やビジョンなのです。あるマーケットの中で自分たちは何を成し遂げたいと思うのか。自分たちはどういう存在を目指すのか、といった理念やビジョンを、ローカルの人材ととどこまで共有できるのかというのが重要なのです。日本企業でも、何度も失敗を繰り返して、苦労して成功したところは、こうした理念を共有することの重要性を理解しています。

 何となく一般論で、強い人材を採ってこようと思うと、お金が高くて日本企業はそこまで給料を払えないとかいうじゃないですか。あるいは給与で引き抜かれちゃうので、なかなか難しいんだよとか。そんな単純なものではないのです。そのマーケットにおいて、どう一緒になって大きくなっていくのかという感覚が共有できるかできないかというのが、人材の採用にも維持にも、とても影響します。ローカルの社員に単に指示を出すということではなく、自分たちはどういうふうに働き方を変えるのかとか、次、何を目指すのかということを自ら考えさせること。これが長期的にその市場で勝ち続けるためには、とても重要だと思うのです。

やる気をそぐ「ガラスの天井」

—いくつかの調査で、日本企業の海外法人で働いている現地の社員の満足度が低いという結果が出ています。杉田さんが、今言ったことと関連しているのでしょうね。

杉田:はい。よくガラスの天井と言われる問題です。現地の社員はあるところ以上は昇進できないという。やっぱりローカルの人間の方が本当に実力がある、あるいは実力を付けさせてやるんだったら、同じレベルであっても、ローカルの人間を上に置くべきです。どんどん日本人を置いてポジションを取って行ったら、ローカルの人間はその会社にいようと思わないし、自分の将来が見えないですよね。

—しかし、欧米企業にもガラスの天井があるのではないですか。

杉田:ただ欧米企業の場合、現地社員にもこういうキャリアの可能性があるというのが、みえやすいのです。例えば、グローバル人材のプールに加わることになる、つまり他の国で働けるといった機会が現地の社員にも開かれている。日本企業でも海外で上手くいっているところは、欧米的な洗練されたルールや仕組みになっているわけではなくても、ローカルにいる人間たちに大きなチャンスを提供しようということを、本気で考えています。

—ボストン・コンサルティング・グループと、スイスのビジネススクールであるIMDが最近共同で行った調査で、海外展開したいという希望と、それに対してどれだけ準備ができているかという自己評価を経営者に聞いています。「希望」と「準備」のギャップが一番大きいのは、日本企業だそうですね。

杉田:そうです。ものすごくチャンスがあって、グローバルにもっと出ていきたいという気持ちが強いんだけれども、では会社にそれだけの能力があるか、準備ができているかということにおいては、全くできてないという自己認識があるということですね。このギャップをどのように埋めていけるかということになると、これまでお話してきたようなことがヒントになると思うのです。物づくり系のところは、日本人が入ってきちっとやると品質水準は上がります。しかし弱いのは商品の流通網を育てながら組織化して、どう運営していくのかという部分。そして、現地の人材の意欲を高めて自社につなぎとめるような組織マネジメントの部分でしょうね。

 この調査は何年かやっているのですが、このギャップはあまり縮まってこないのです。これを埋めるための重要ポイントが何なのかについて、経営者の理解がまだ足りないのかもしれません。

—杉田さんは、日本企業の海外展開の特徴として現地法人に対して「手を突っ込みすぎか、放任主義かのどちらかになりがちだ」という指摘をしています。M&Aを実施した場合などを想定した話ですか。

杉田:M&Aじゃなくてもあります。特に新興国に入っていった場合、マーケットの環境も消費者も違うのに、日本企業が持っている強みをもっとアピールするべきだと考えがちですね。しかし日本製品のクオリティーといっても、日本人が必要だと思うクオリティーと、別の環境におけるクオリティーでは定義が違うはずです。手を入れ過ぎる理由は、やはり日本におけるそれなりの成功体験があるからでしょう。これが自分が成功してきたポイントなので、これをやってみたらどうなんだという、お節介になるわけですね。一方、放任主義になってしまうケースは、全く分からないマーケットなのでとか、さっきの逆で手を入れ過ぎるとビジネスを失敗させるといった思いからでしょうね。それともう1つが単純に、まだ事業が小さいので、本社サイドが興味がないということもあるでしょう。現地法人のトップの人がよく言うのは、日本の社長や事業部門の責任者を現地に連れてきて市場の可能性を実感してもらうことが重要だという話です。

現地のトップとしっかり握れているか

—日本企業の特徴として、M&Aを実施した後など、現地のCEOをどう評価するか、場合によっては交代させるかといった人事戦略が不得手という指摘もあります。

杉田:そうですね。いくつかの要素があります。1つには、日本側のトップは何を期待していて、何を約束してほしいのかという点について、現地のトップとちゃんと握れていることが重要です。同床異夢にならずに、ゴールを共有し、達成のために何の課題を乗り越えないといけないのかということもお互いに理解する必要があります。

—日本的な「あうんの呼吸」ではなくて、明確にしなくてはいけないのですね。

杉田:はい。こうしたことが、できてないと評価のしようがないので、いいともだめとも言えないですよね。ローカルのトップに対して、いいとも悪いとも言えないと、辞めさせることもできません。

 それからもう1つは、代えた後に代替案を持っているかということです。自分よりもこのマーケットを理解して経営できる人は誰もいませんよなどと現地のトップから言われ続けると日本側は不安になりがちで、代えられないのです。だからこそ、代わりになる人材を把握しておく必要があります。トップの下の層に、どんな後継候補がいるということを、日本からも常に見えるようにしておく必要があります。外から人材を持ってくるケースでも、やはりヘッドハンターなどを通じて人材の候補を把握しておくべきです。

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『上海で入館2時間待ちのスーパー銭湯 「極楽湯」中国攻略の極意(その1)』、『「なぜ働かない?」怒りで割ったヘルメット 「極楽湯」中国攻略の極意(その2)』(6/15・17日経ビジネスオンライン 岩村宏水)について

本記事に煽られて中国へ出て行こうとするのは止めた方が良いでしょう。中国の軍艦が日本の領海に出てきている現在、不測の事態、突発的な戦闘が起きる可能性があります。その場合、在留邦人の身の安全は保証できません。自力救済しかなくなります。過去の歴史が物語っています。「極楽湯」の幹部は中国の歴史をどの程度認識しているのでしょうか。本来なら日本人はなしで中国人だけで運営させれば良いのでしょうけど、日本人がいない場合悪さをされ、投資は無駄になります。また、暴動で掠奪・放火されることもありうることは、2005年や2010年、2012年の官製デモを振り返れば明らかです。まあ、自己責任で投資する分には良いでしょうけど。ただ、日本への配当還元をさせず、中国への再投資を持ちかけるでしょう。中国はそんなに甘くないことを覚悟すべきです。

さて、中国の現代史をざっとおさらいしてみます。義和団の乱(1900年)は西太后が義和団を使って攘夷を果たそうとしたもの。すぐに鎮圧されました。辛亥革命(1911年)後、ラストエンペラー・愛新覚羅溥儀は退位。5・4運動(1919年)が欧米の宣教師のバックアップにより引き起こされました。袁世凱の甘言に乗せられて、「日本側の強い要求により止む無く調印の形を」と言われ其の儘の形を取ったものだから、中国人の民族意識に火をつけてしまいました。(日下公人・上島嘉郎著『優位戦に学ぶ大東亜戦争の「失敗の本質」』P.117~121)。お人好し・騙されやすい日本人の典型です。溥儀は紫禁城に居住が許される条件だったのに、1924年の馮玉祥のクーデターにより紫禁城を退去。1925年イギリスやオランダ公使館へ庇護を要請するものの拒否され、天津日本租界内張園に移転。1931年、満洲事変勃発後、大日本帝国陸軍からの満洲国元首への就任要請を受諾し、日本軍の手引きで天津を脱出、満洲へ移る。1934年満洲国皇帝(康徳帝)に即位。レジナルド・ジョンストン著『紫禁城の黄昏』、浅田次郎著『蒼穹の昴』に詳しく載っています。満州は満州人の土地で漢人のものではありません。何故万里の長城が出来たのか考えれば分かるはずです。その後、通州事件、第二次上海事変が引き起こされ、日本人の怒りが爆発し、日本は中国との戦争に引きずり込まされ、南京占領へと続きます。

通州事件(1937年7月)・・・日本軍の通州守備隊・通州特務機関及び日本人居留民への残虐・猟奇殺人事件。保守派有志が世界記憶遺産に申請。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E5%B7%9E%E4%BA%8B%E4%BB%B6

http://www.sankei.com/life/news/160603/lif1606030029-n1.html

第二次上海事変(1937年8月)を引き起こした国民党・張治中将軍はソ連のスパイで、日中が戦争するように導いたという説もあります。矢吹晋・横浜市大名誉教授はスパイ説を否定していますが、彼は共産主義シンパです。張治中の回想録で、本人がスパイだったなどと言う訳がありません。漢奸(売国奴)になるでしょう。瀬島龍三と一緒です。常識で考えれば分かること。イデオロギーに染まって見るから常識が働かなくなる訳です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E6%B2%BB%E4%B8%AD

http://blogs.yahoo.co.jp/aki_setura2003/31405728.html

南京事件(1937年12月)で唐生智将軍は我先に逃げ(朝鮮人と一緒)、その責任を取りたくないものだから、南京虐殺をでっち上げたと考えています。中国人のやりそうなこと。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%94%90%E7%94%9F%E6%99%BA

中国の経済指標は当てになりません。第三次産業が伸びていると言っても不動産業の占める割合が大きいのでは。また借金して使っているのだから、景気が悪く見えないのも当然です。ただ、借金は、いつかは返さなくてはなりません。「資金繰り」がいつ詰まるかの問題です。人民元増刷で乗り切ろうとすれば、人民元暴落と激しいインフレを起こすでしょう。

記事

中国で、日本式の「スーパー銭湯」が人気を集めている。経営しているのは日本企業だ。

 国内で40店舗のスーパー銭湯をチェーン展開するジャスダック上場企業の極楽湯は、2013年に初の海外店舗を上海に開業。2年後には同じく上海に2号店をオープンさせた。初夏の今はオフシーズンだが、気温が下がる秋冬の週末には入館まで2~3時間待ちもザラという盛況ぶり。

 極楽湯が5月13日に発表した2016年3月期決算によれば、中国事業の売上高は前年度比107.4%アップと倍増し、開業3年で同社の総売上高の2割超を稼ぐ。損益も2年目から黒字。今夏には内陸部の武漢に3号店をオープンする予定で、将来は中国で100店舗を目指すという。

極楽湯の連結売上高の推移(単位:億円)

sales of Gokurakuyu

 ここまで読んで「えっ、ちょっと待って」と思う方も多そうだ。

 この1年ほど、中国経済に関する日本の報道で「減速」の二文字を見ない日はほとんどない。今年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は6.7%と7年ぶりの低水準に落ち込み、株価暴落や製造業の不振など景気の悪い話が目白押しだ。日常生活のなかで中国とかかわりがなければ、「中国経済は崩壊寸前」と思い込んでもおかしくない。

肌感覚とマクロ指標のズレ

 そんな中、なぜ極楽湯は好調なのか。

 もし機会があれば、北京、上海、深センなどの中国の大都市をぜひ訪れてみてほしい。週末のレストランやショッピングモールは、一部の高級店を除けばお客さんでいっぱい。朝夕の幹線道路は大渋滞だし、都市間を結ぶ高速鉄道や飛行機もほぼ満席だ。道ゆく人々の表情もおしなべて明るい。肌感覚で測る限り、そう景気が悪そうには見えないはずだ。

 経済指標と街中のギャップの背景には、中国経済の減速と同時進行で起きている大きな構造変化がある、というのが筆者の見立て。製造業からサービス業への、成長エンジンの主役交代が加速しているのだ。

 中国のGDPの産業別の内訳を見ると、サービス業が中心の第三次産業の比率が年々増加しており、製造業が中心の第二次産業を2012年に逆転。昨年ついにGDPの半分を超えた。

中国のGDPに占めるサービス業の比率

industry composition ratio of China's GDP

 第三次産業に限れば、1~3月期の成長率は7.6%と全体平均を上回る。サービス業の比率が高い大都市ではさらに鮮明だ。例えば上海では全産業に占める第三次産業の比率が1~3月期に初めて70%を超え、成長率は11.5%に達した。街角に不況感が見えないのも不思議ではない。

 「中国の経済指標は信用できない」と疑う向きもあるかもしれないが、こう考えていただきたい。経済が全体としては減速していても、その度合いは産業や企業によってまだら模様なのが実態だ。中国経済の成長エンジンが製造業からサービス業に大きくシフトするなか、消費者の関心は所有欲を満たす「モノ」だけでなく、価値ある体験を重視する「コト」へと広がってきている。こうした変化の潮流をつかみ、消費者に魅力のあるサービスや商品を提供できる企業にとっては、GDP成長率が高かった数年前よりも、むしろ今の方がチャンスが大きい、と言っても過言ではないのだ。

 本連載では、経済減速下の中国で業績を伸ばしている日本企業に注目し、現地事情に詳しいキーパーソンへのインタビューをお届けする。トップバッターの極楽湯では、本社の松本俊二専務と現場のコアメンバー3人にじっくりお話をうかがってきた。中国の街角景気の実態と合わせて、全4回で余すところなくお送りする。

(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)

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—昨年来、中国経済の減速が盛んに報じられていますが、極楽湯ではそれを感じますか。

Shunji Matsumoto

極楽湯の松本俊二専務

松本:当社に限って言えば、少なくとも現時点ではそれほど強い影響は感じていません。もちろん中国経済全体で見れば、統計数字に表れているとおり成長の勢いが鈍化しています。とはいえ、あらゆる産業の景気が悪いかと言えばそんなことはない。製造業の状況はかなり深刻だと聞いていますが、サービス業は相対的に元気だと思います。

 それに、同じサービス業のなかでも濃淡があるんです。例えば、富裕層向けのブランド店や接待向けの超高級レストランは中国政府の“倹約令”などの影響が大きい。でも、都市部の中間層向けのショッピング・モールや映画館、そして私たちのビジネスである温浴施設などは、毎週末たくさんのお客様で賑わっています。

—経済全体では減速していても、御社は好調だと。

松本:おかげさまで(笑)。当社は海外進出の1号店を2013年2月に上海でオープンさせ、15年2月には同じく上海に2号店を出しました。1号店はもう4年目に入りましたが、来店客数も売上高もずっと前年超えが続いています。今夏には内陸部の武漢で3号店を開業する予定です。

 ちなみに温浴施設は、短期的な景気変動より気温の変化に大きく左右される商売なんですよ。ざっくり言えば秋冬がハイシーズンで、春夏がローシーズン。昨年の上海は夏から初秋にかけての気温が平年よりも高く、10月になってもお店が空いていたので、実はちょっと心配しました。

 ところが11月に入ってぐっと冷え込んだら、お客様が一気に押し寄せてきました。12月下旬に最低気温が一時マイナスになった時は、1号店の来店客数が1日に4000人を超えて過去最高を更新したほどです。あんな寒いなか、大勢のお客様に並んでお待ちいただいて、申し訳ないやらありがたいやら。

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雨の中、1号店に出来た行列

—入店までどのくらい待つんですか。

松本:ピーク時で3時間前後でしょうか。ロビーの椅子を増やして、なるべく店内でお待ちいただくようにしていますが、入りきれない時はお店の外に防風カーテンを設置して並んでいただきました。入店待ちのお客様には、「あと何時間かかりそう」とか「いつの時間帯なら比較的空いている」などのご案内もしています。それでも、ハイシーズンの週末はいつも昼前から夕方にかけて2~3時間待ちという状況です。

利用料金は日本のざっと3倍?!

—日本式のスーパー銭湯が、なぜそんなに人気なのでしょう。

松本:いくつか理由があると思いますが、大きな背景としては、やはり中国社会の変化があります。経済成長とともに人々の生活が豊かになり、上海のように中国のなかでも所得水準が高い大都市では、ある程度おカネと時間に余裕のある中間層の厚みが増しています。と同時に、彼らがおカネと時間の“使い方”に目を向ける段階に入ってきたのだと思います。

 日本でも、戦後の高度成長期を経て人々に経済的余裕が生まれ、さらに週休2日制の普及で時間的余裕ができたのをきっかけに、余暇やレジャーに目が向くようになりましたよね。そこにおカネや時間を費やすことの価値に、みんなが目覚めたわけです。同じことが中国でも起きつつある。

—利用料は日本と比較して安いのですか。

松本:いやいや。入館料は138元で、円換算すると約2300円。日本のスーパー銭湯の入館料は650~700円くらいですから、ざっと3倍強です。それだけのお金を払って来てくださるお客様が、上海では増え続けています。

—素朴な疑問ですが、中国人は入浴時に湯船につかる習慣がありませんよね。住宅の浴室も多くはシャワーだけです。そんな国の人々が、日本よりも高い料金を払って通うのは不思議です。

松本:確かに中国人全体で見れば、生まれてから一度も湯船につかったことのない人が今も大部分じゃないでしょうか。でも、うちのお客様である上海の中間層以上の人々は、必ずしもそうではないんです。

—というと。

松本:日本では最近、中国人観光客の“爆買い”が話題になっていますが、上海の富裕層の間ではずっと前から日本への観光旅行が静かなブームになっていました。中国から日本への団体ツアーには、必ずと言っていいほど温泉が組み込まれています。まず東京から入国し、箱根で温泉につかって、大阪から帰国するのが黄金ルートです。

 上海には、実際に日本へ行って温泉に入ったり、親戚や友人から「日本の温泉はすごく気持ちがよかったよ」という土産話を聞かされたりした経験のある人が、日本人が思っている以上にたくさんいます。そんな中から、「上海にもあんな温浴施設があったらいいな」という潜在ニーズが自然に生まれてきた。そこに当社の進出のタイミングがぴったり合ったのだと思います。

—極楽湯よりも先に中国に進出した同業他社や、日本の施設を真似た現地資本のスーパー銭湯はなかったんでしょうか。

松本:温浴施設が専業の日本企業では、当社の進出が初めてです。一方、現地資本の温浴施設はもともとたくさんあります。1号店を出す前に我々が調べた時点で、全国に2000施設くらいと言われていました。

 ただ、中国の温浴施設は長年「男の場所」というイメージだったんです。店内が薄暗くて、お客さんは男性ばかり。なかには風俗店まがいのサービスをしているところもある。もちろん健全なお店もありますし、女性客や家族連れもまったくいないわけではありませんが、比率は低い。日本で言うと昭和のサウナのイメージが近いかもしれませんね。

—女性や家族連れには入りづらい雰囲気だった。

女性客が入れるスパ銭がなかった

松本:その通りです。中国の女性には「温浴施設イコール、いかがわしい場所」という偏見の方が、むしろ実態以上に強かったんじゃないでしょうか。

 当社が上海進出を決断したのは2011年で、これは好立地の物件を紹介してもらえたのが決め手でしたが、実は中国進出に向けた現地調査はその数年前から始めていました。というのも、現地の不動産デベロッパーさんなどから「進出しないか」という誘いが何度もあったんです。結局、条件などが折り合わなくて実現は後になりましたが、その時の調査を通じて、温浴施設そのものは中国にもたくさんあることがわかった。

—ニーズはあると判断できた。

松本:それなのに、利用客はほぼ男性のみでした。私たちが実際に現地を見に行っても、確かに店内は薄暗いし、あまり衛生的な感じがしない。「これじゃ女性や家族連れが来ないのも無理ないよね」と。

 逆に言えば、中国の女性の偏見を覆すような温浴施設を作れば、既存の男性客や家族連れを含めて大きな潜在ニーズを掘り起こせるんじゃないか。私たちが進出することで、新しいマーケットが創れるはずだと。そんな自信を持てたことが、進出を決断するうえでは大きかったですね。

—2011年と言えば、日本では東日本大震災もあり、デフレや人口減少など国内経済の先行きに暗いムードが漂っていました。国内事業の将来的な縮小を見込んで中国に打って出た面もあるんでしょうか。

松本:いえ、そこまで先見性があったわけではありません。

 当時の国内事業は安定しており、海外進出は喫緊の課題ではなかった。むしろ中国側から案件がちらほら持ち込まれていたので、「向こうから来るくらいだからビジネスとして有望なんじゃないか」、「じゃあちょっと調べてみよう」というところからスタートしたんです。

 その結果「いける」と判断したので、上海に1号店を出し、続いて2号店を作りと進めてきましたが、その間も日本はデフレ傾向が続き、2014年には消費税が引き上げられて…。いま振り返ると、あの時に進出を決断してよかったなと思います。

—日本ではスーパー銭湯の経営環境が厳しくなっているのでしょうか。

松本:スーパー銭湯の出店に適した場所はある程度限られていますから、国内市場全体で見れば既に飽和状態に近いと思います。そんななか、ある企業は新店を出し、ある会社は閉店するという具合に、優勝劣敗がはっきりしつつあるのが近年の状況です。

松本:ちなみに当社の国内事業は直近の決算(2016年3月期)でも増収増益でした。これは2014年にオープンした「RAKU SPA鶴見」のようにリゾート志向やエンターテインメント性を高めた新店舗を出したり、その他の既存店でもお客様の満足度を高める努力を地道にやってきた成果だと思います。

 とはいえ、中長期的に見れば国内市場の成長は期待しにくいので、中国という成長力のある市場に足がかりを築けたのは当社の強みですね。

—話が戻りますが、御社の施設は中国の既存の温浴施設とは、具体的にどんなところが違うんですか。

松本:まずは何と言ってもお風呂の水質管理と衛生管理です。例えば、浴場のお湯は日本の設備を入れて徹底的に浄化すると同時に「軟水化」もしています。中国の水道水は濁りが入ることが珍しくないうえ、硬度が高いので、そのまま頭を洗うと髪の毛がゴワゴワになってしまうんですよ。

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1号店の浴室。日本のそれと区別がつかない。

 上海の水道水を調べた段階で、「これは徹底した浄化と軟水化をしないとダメだ」と判断しました。日本の風呂屋だからそれが当たり前だと思って取り組んだんですが、1号店をオープンした後、あるお客様から「こんなに透き通ったお湯は初めて見た」と褒められました(笑)。お風呂から上がった後も髪の毛がゴワゴワせず、肌もすべすべでしっとりしている。上海女性はそんな違いにとても敏感で、私たちの予想以上の評価をしてくれました。その評判がクチコミやSNS(交流サイト)で広がり、オープン半年後くらいから一気に火がついた感じです。

—水質の違いを文字通り「肌で感じて」もらえたと。

松本:水質だけでなく、施設全体の清潔さも自慢です。館内のあらゆる場所を、スタッフが必ず15分に1度はチェックして掃除をしています。

 それから秘訣と言えるかどうかわかりませんが、お客様を「裸足」にしたことも大きい。入館時に靴をロッカーに預けてもらい、館内は裸足で歩いていただくようにしたことで、衛生管理がずっとやりやすくなりました。

サンダル履きにしなかった理由

—どういうことですか。

松本:中国の温浴施設でも入館時に靴は脱ぎますが、館内はサンダル履きというところが多いんです。すると、中国人の感覚ではお店の床は地べたと同じで、ゴミを捨てたり痰を吐いたりする人が出てくる。

 注意せねばならないのは、これは良し悪しではなく習慣の問題だ、ということです。同じ中国人でも、自分が裸足で歩く場所にゴミを捨てたり痰を吐いたりすることはほとんどありません。

—なるほど。

松本:もちろん、マナーを守らない人がゼロにはなりませんが、そういうお客さんがいたら、最近は常連客が注意してくれます。

—事前調査で中国の温浴施設がサンダル履きなのを見たら、普通は「うちもサンダル履きにしよう」と考えそうですが、なぜ裸足にこだわったんですか。

松本:最初から裸足ありきではなく、日本のお店では裸足が当たり前だから、どうすれば日本と同じにできるかという発想で考えました。

 それで、まず「中国ではなぜサンダル履きが当たり前なんだろう?」と。「確かに床が汚いよね」。「どうして汚いんだろう?」。「ゴミを捨てたり痰を吐く人が多いからね」。「汚させない方法はないのかな?」。「日本のように裸足にすれば汚さないんじゃないか」。「じゃあサンダルそのものを置かなければいい」という具合に、社員たちが知恵を出し合って決めました。

 1号店は本当にゼロからのスタートでしたから、この話に限らず中国と日本で習慣が違う場合は、まずどこが違うのか。なぜ違うのか。どうすれば日本と同じにできるか。そういうことをひとつひとつ考えて積み上げながら、独自のスタイルを作り上げていったんです。

—日本式が受け入れられた点はほかにもありますか。

松本:もちろん、いわゆる「おもてなし」にも力を入れています。日本の会社だけに、お客様の期待値も高いですからね。中国のサービス業では受付の従業員がスマートフォンを見ながら接客したり、ウエートレスがおしぼりを投げて渡したりするのが珍しくありませんが、うちの従業員は絶対しません(笑)。

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 お店の現場の従業員は女性が多いんですが、ただでさえ日中の文化の違いがあるうえ、先ほども触れた温浴施設への偏見もあります。1号店ができる前はこの偏見が災いして、募集をかけてもなかなか人が集まらず、やっと採用しても本人が親に反対されて入社を辞退することもありました。

—採用後の社員教育も大変なのでは。

松本:そもそも風呂屋という商売は、一般の中国人にはまったくなじみがありません。日本へ行ったことも、湯船につかったこともない新入社員に、日本のお風呂とはどういうものかや、「おもてなし」の考え方、必要とされる衛生管理やサービスの水準などを説明し、理解してもらい、実践してもらう必要があります。

コンサルタントに頼るべからず

 実は中国進出を決めた時、本社から上海に派遣した日本人スタッフのなかには中国語を話せる者も、中国で仕事をした経験がある者もいませんでした。さらに私は、彼らに向かって「最初からコンサルタントに頼らず、何事も自分たちで解決しなさい」と指示しました。並大抵の苦労ではなかったと思います。

—初めての海外進出なのに、現地事情に詳しいコンサルタントに頼るなと。どうしてですか。

松本:やっぱり自分たちの目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、自分で理解したうえで判断する。そうしなければ本当のノウハウが身につかないからです。別にコンサルタントを否定しているわけではなく、まず自分たちで一生懸命やってみて、どうしても困難だとわかったら専門家に入ってもらえばいい。

 当社は「風呂屋のプロ集団」を自任しています。例えば設備を修理する場合、もちろん業者さんにおカネを払って任せることもできます。でも、それでは設備のどこがどうなって故障したのか、どう修理すればより改善できるのかがわかりません。だから社員が立ち会い、ノウハウを学んで、次回は自分でできるようにする。そこまでやらないとプロとは言えませんよね。

 中国プロジェクトも同じです。上海に派遣したスタッフは本当によく頑張ってくれたと思います。

—差し支えなければ、より具体的な苦労話をお聞かせいただけませんか。

松本:それなら、上海で実際に店舗を立ち上げた彼らの方が適任でしょう。ご紹介しますから、じっくり聞いてやってください。

(次回に続く)

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中国・上海の極楽湯1号店

(前回から読む

 上海女性に大人気の日本式スーパー銭湯「極楽湯」。その1号店を立ち上げるため現地に乗り込んだ日本人スタッフのなかには、中国語を話せる者も中国ビジネスの経験者もいなかった。そのうえ、本社からは「コンサルタントに頼らず、何事も自分たちで解決しろ」と命じられ…。

 言葉も文化も異なる中国で次々に降りかかる難題に、彼らはどう立ち向かったのか。極楽湯インタビューの「現場編」では3人のキーパーソンのお話をうかがった。今回は店舗建設および営業の責任者を務めた、極楽湯執行役員海外事業部長(開発担当)の椎名晴信さんです。

(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)

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—極楽湯の上海進出にあたり、椎名さんは店舗建設の施工管理と営業体制づくりを任されたそうですね。現地に赴任する前は、日本でも店舗開発の仕事をしていたんですか。

Harunobu Shiina

極楽湯執行役員海外事業部長(開発担当)の椎名晴信さん

椎名:いや、実を言うと日本では新店舗の立ち上げに携わったことがないんです。当社には2005年に転職で中途入社し、複数のお店で店長を経験した後、地域の店舗を統括するスーパーバイザーになりました。

 僕が上海に赴任したのは2011年6月ですが、その直前は8つの直営店を統括していました。店長時代もスーパーバイザーの時もすべて既存店だったので、特に建設関係については知識も経験もない。いわばずぶの素人ですから、着任当初は「こういう店を作りたい」という理想よりも、「とにかく最後までやり切るしかない」という使命感の方が強かったです。

—不安や抵抗感はありませんでしたか。

椎名:それはなかったですね。と言うのも、僕はもともと海外事業の立ち上げを経験してみたいと思っていたからです。国内事業は安定している半面、どうしてもルーチン的な仕事が多くなります。それは悪いことではありませんが、僕の性格は同じ仕事が3年続くと飽きてしまう(笑)。もっと「血湧き肉躍る」経験がしたくて、もしかしたら海外にあるんじゃないかと。

 実際に中国に赴任したら、もちろん最初は右も左もわからず、日本ではまず経験しないであろう嫌な思いや歯がゆい思いをたくさんしました。でも、いま振り返ってもそれは自分にとってマイナスではなかった。むしろ、中国に来られてよかったと思っています。

進まない工事に、ヘルメットを2個割った

—とはいえ、事業をゼロから立ち上げるプレッシャーは相当だったでしょう。どんな経験をされたか、苦労したかを聞かせていただけませんか。

椎名:上海に赴任した時、すでに1号店の場所は決まっていました。もともと工場として使われて建物を借りて、店舗に改築する計画です。実際に工事をするのは中国の建設会社ですが、僕の任務はその進捗を監督し、予定通りにお店をオープンさせることでした。

 ところが、もう最初からトラブルの連続です。始めのうち一番困ったのは、とにかく工事が前に進まないこと。

—というと。

椎名:僕が現場に行くと、まず作業員の人数がそろっていない。毎朝のようにそうです。それでも作業に取りかかりますが、どんなに遅れていても昼時になればみんな手を止めて食事をするし、夕方は定時で帰ってしまう。「工期を守る」ことについて、誰ひとり責任感がなかったんです。

—施工主が急かしても聞く耳を持たない?

椎名:全然です(苦笑)。工程表を作って「この通りにやってくれ」と頼んでも、現場監督だって定時に帰りますからね。僕はずっとイライラし通しで、工事が終わるまでの間に怒りのあまりヘルメットを床に叩きつけて2個割りました。机も2回はひっくり返しましたよ。

 だいたい朝礼もしないから、今日はどこでどんな作業をするのか、情報がまったく共有されていません。だから、例えば浴場の床にコンクリートを流し、その上にタイルを貼ろうとしていると、まだ固まっていないコンクリートの上をずかずか歩いていく作業員がいる。で、僕がそいつを怒っている横を、別のやつがまたずかずかと歩いていく。

—なぜそんなことになるんでしょうか。

椎名:要するに、作業員たちは各自の持ち場で勝手に工事しているだけなんです。どの作業をどういう手順でやれば全体として効率的かという「段取り」の発想がないから、工事の進捗が遅れるのは当然でした。

—でも放置はできませんよね。どうやって乗り切ったんですか。

椎名:それはもう、言うことを聞いてくれるまで繰り返し言い続けるしかありません。ただ、中国語のできない僕がいちいち現場の作業員を注意して回っても伝わらないし、きりがない。だから現場監督をつかまえて、机を叩いて説得し、彼から作業員に「こういうふうにやれ」と言わせる以外に方法はありませんでした。

 そこで、僕は自分の机を現場監督の目の前に移動させて、一日中張り付くことにしました。毎朝、彼よりも早く現場事務所に行き、「今日は何をどこまでやるの」と聞く。彼が現場を回る時は、僕も一緒についていく。終業時には「今日はどこまでできたの」と確認して、彼よりも後に帰る。向こうもムキになって言うことを聞かないから、僕も同じことをやってやろうと。

「違う人間だ」と思い込むと壁は破れない

—根比べですね。

椎名:もちろん意地悪でやったわけじゃありません。現場監督だって、段取りがまずいのは悪気ではない。

中国人は何か問題が起きたり失敗した時、自分の責任を絶対に認めたがらないと言われますが。

椎名:そう言われますね。しかし、心の中では反省している人も多いんです。そこは同じ人間ですから、「この人たちには良心がないんだ」と、相手を完全に否定したら一緒にやっていけません。

 だから、僕はいつも文句ばかり言っているけれど、同時に「心の中では君を信頼しているよ」、「ちゃんとやってくれれば怒らないんだよ」という気持ちを伝えるよう心がけました。そのために彼を食事に誘ったり、差し入れをしたり。何も特別なことではありませんが、これを毎日どれだけしつこく続けられるか。並みの駐在員なら途中で諦めたかもしれないですね。

—椎名さんはなぜ続けられたんですか。

椎名:それは日本で店長をしていた経験が大きいと思います。店長は文字通り店舗の長として日々の運営に全権を持つとともに、全責任を背負っています。本社からいつも見張られているわけではなく、ある程度の裁量権を与えられている半面、不意のトラブルにも即断で対応する必要があるんです。

椎名:スーパー銭湯には年間延べ数十万人のお客様が来ますから、やはりトラブルやクレームは避けられません。浴場で転んで怪我したとか、ロッカーに財布を忘れたとか。飲食部門もあるので、注文を間違えたとか料理の提供が遅いとか。感情的になっているお客様にも冷静に向き合い、その場その場で解決しなければならない。毎日やっていたら、やっぱり強くなりますよ。

—苦労したぶん、ノウハウも得られましたか。

椎名:そうですね。1号店の工事には1年半かかりましたが、2号店ではそれまでの経験を活かして9カ月で終えることができました。建設会社の専門家に聞いたところ、これは中国では特別早いペースだそうです。

 1号店の時は自分が焦っていたこともあって、最初のうちは「何も理解しなくていいから、こちらの言う通りにやってくれ」という考えでした。でも試行錯誤を重ねるうちに気付いたんです。相手に聞く耳を持ってもらう秘訣は、彼らに納得してもらうことだと。そこで、2号店の工事では「こういうことをしたいんだ」「こうすれば早くできるはずでしょう」と、現場監督に事前に説明して理解してもらうようにしました。

—例えばどんなことですか。

椎名:中国の内装工事は、いわゆる「現場合わせ」がとても多いんです。例えば店の受付のカウンターなんかは、現場に材料を運び入れて「こっちがちょっと長いぞ」、「そっちは短いな」などと調整しながら作っている。これでは時間がかかって仕方ありません。

 そこで、2号店では現場合わせを極力やめました。カウンターなどは最初からきっちり寸法を測って他の場所で組み立て、現場では据え付けるだけにする。「こうした方が早い」と理解すれば、彼らも素直に従ってくれます。

 また、中国の施工業者のレベルが感覚的にわかるようになったので、その実力に合わせた段取りを組むようにしました。

3年後の予想を1年で達成

—どういうことですか?

椎名:彼らは悪気でなく、実力を超えた工程表を持ってきたりするんですよ。そんな時は、「この人数で、これだけの時間でやるのは無理でしょ」と率直に指摘します。実際にできることとできないことをはっきりさせ、そのうえで、できないことは別途協議して対策を考える。そういった割り切りも大切なんです。

—もうひとつのミッションである営業体制作りはどうでしたか。やはり苦労が絶えなかった?

椎名:営業面の使命は、上海で極楽湯の知名度を高め、ターゲットの顧客層にいかにご来店いただくかでした。もちろん様々な試行錯誤をしましたが、結果として見ると“追い風”に恵まれたと思います。

 本社の松本(俊二専務、第一回はこちら)も話したと思いますが、我々が進出する前から中国にも温浴施設はありました。そんななかで極楽湯が成功したのは、最初から女性をターゲットにした店づくりをしたことが大きいんです。要するに狙った顧客層がどんぴしゃだった。

 とはいえ、知名度を高めてお客様がたくさん来てくれるようになるまで、僕は3年はかかるだろうと予想していた。でも、実際に開業したら1年目からいっぱいになりました。

—どうしてですか。

椎名:1号店のコンセプトは「ビューティー・アンド・ヘルス」。つまり女性の美と健康の追究です。我々は競合の温浴施設にはない、女性にとって魅力のある店作りをしたことで、高い評価をいただきました。

 加えて幸運だったのが、開業時期が「ウィーチャット」(微信=中国版LINE)などのSNSの大流行に火がつくタイミングに重なったことです。上海の若い女性たちは美容や健康への関心だけでなく、情報への感度も非常に高い。気に入った商品やサービスを見つけると、SNSで情報発信する人がとても多いんです。お客様が短期間にわっと増えたのは、それが理由だと思います。

—SNSを通じたクチコミ効果が大きかったと。

椎名:はい。訪日中国人観光客による粉ミルクや化粧品の“爆買い”が典型例ですが、中国の女性たちの間には、「日本のものは安全で、美容や健康に良い」というイメージが強くあります。そして、実際に日本の商品やサービスの良さを知った人は、もっといろいろ試したいと思っている。そんな彼女たちが、SNSを通じて絶えず情報を発信しているわけです。

 ただし、日本のものなら何でもいいわけではありません。爆買いにしても、SNSで話題になった特定の商品に人気が集中する傾向があり、類似品は期待したほど売れないそうです。逆に言うと、彼女たちの指名買いに選ばれればものすごい追い風が吹く。「極楽湯に行ってみたよ」、「また来たいな」などと発信されるたびに、新しいお客さんがどんどんやってきます。

お湯の違いは、設備とメンテナンスの違い

—上海の女性たちには、極楽湯のどこが一番の魅力なんでしょう。

椎名:突き詰めて言えば、安心してゆったり過ごせる快適さと清潔さに尽きます。そもそも中国の温浴施設とはお湯がまったく違いますからね。上海の水道水の硬度は180くらいですが、極楽湯では専用の装置を使って日本の温浴施設と同水準の30~60まで落としています。ここまで硬度を下げると、シャンプーの泡立ちの違いがはっきりわかる。また、お湯に少しぬめりがあって、肌に潤いを感じるんです。

(注:水の硬度は1リットル中に溶けているカルシウム・マグネシウムの量で表わされる。単位はmg/l。一般的には硬度100未満を軟水と呼ぶことが多い)

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冬になると1号店には、受付から店の外まで続く大行列ができる。

 我々はさらに、このお湯を30分以内に1回の速度で循環させています。つまり湯船のなかが、30分毎に濾過されたきれいなお湯に全部入れ替わっているわけです。一方、中国の温浴施設の循環速度は設計上で2時間に1回くらいが普通です。実際にはお湯があふれて減った分だけ足す、というレベルの施設も少なくない。

 お湯を軟水化したうえ、衛生管理をここまで徹底している温浴施設は極楽湯のほかにありません。そこは我々も売り物としてアピールしています。おかげで設備のメンテナンスは大変ですけどね(苦笑)。

—メンテナンスに関して、中国独特の苦労やノウハウはありますか。

椎名:日本のお店と同じ基準でメンテナンスしているので、その意味では特別なことはしていません。でも、日本と違うのは設備のトラブルの頻度です。中国製の設備は、ボイラーもポンプも本当によく壊れます。

 例えば、1号店のお湯を循環させるポンプは最初は中国製を採用したんですが、オープンから1週間で1台目が故障しました。1カ月後には全部ダメになり、結局、すべて日本メーカーのポンプに入れ替えました。

 お店では、お湯の温度や残留塩素濃度などの水質を1時間に1回必ずチェックしています。これは衛生管理であると同時に、実は故障対策でもあるんです。もし2時間に1回だったら、その間にトラブルが起きてお湯の温度が下がってしまうリスクがあるので…。

—全部日本製にしてはどうでしょう。

椎名:コストや修理のしやすさを考えると、それは現実的ではないんです。電気の制御盤や配管の電磁バルブなど、壊れた時のダメージが大きいものに関しては、日本製や日本メーカーの現地生産品を入れています。でも、それでも壊れたことがあります。電力会社が供給する電気が不安定なことが原因でした。

 設備が全部中国製だったら、もっともっと大変なはずです。そのせいか中国の温浴施設では、複数ある浴槽のなかにお湯が抜かれたまま放置されているものをよく見かけます。故障は当たり前だし、修理にはコストがかかる。だからお客様が使えなくても仕方ないという発想なのでしょう。

 しかし、我々はお客様から同じ入館料をいただいている以上、いつでも同じサービスを提供することにこだわっています。浴槽にお湯がないなんてあり得ません。一時的にでも不具合があれば、正直にお客様に知らせています。

有事即応に、現場の裁量権は必須です

—こだわりは中国のお客さんに伝わっていますか。

椎名:絶対に伝わっていると思います。例えとしてはちょっと不謹慎かもしれませんが、極楽湯では長湯しすぎでフラフラになってしまうお客様がけっこういて、それも女性が多いんです。中国人は湯船に慣れていない人が少なくないので、加減がわからずにのぼせてしまう。逆に言えばそのくらい快適で、ついつい長湯してしまうのだと思います。

—苦労しただけの成果はあったと。

椎名:ゼロから立ち上げた中国事業がお客様に評価され、1店舗目から黒字化できたのは、やはり自らの手でたくさんの失敗と修正を積み重ねてきたことが大きいと思います。中国はトラブルも多い半面、失敗を糧にできるというか、失敗してもすぐ方向を修正できる雰囲気がある。そこが中国の良いところです。

 その意味では、本社が最初から現地スタッフにある程度の裁量を持たせてくれたのがよかったと思います。何でもかんでも本社にお伺いを立てていたら時間がかかるうえ、物事がなかなか前に進みませんからね。

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『中ロ軍艦「尖閣」同時侵入、問われる日本の忍耐 「平和ボーナス」使い果たした後の厳しい現実を見据えよ』(6/15日経ビジネスオンライン 福島香織)について

憲法9条擁護派は中国の日本領海侵入をどう考えているのか聞いてみたい。集団安保法制を「戦争法案」とか呼んだ反日民進党と日本共産党は日本を中国の属国にしようとたくらんでいるのでしょう。福島氏の言うように、中国の日本の領海侵入が国民に取って、今般の参院選で本当に国防を真剣に考えるキッカケとなるかどうか。国民は舛添辞任のことしか考えないのでは。国防について従来「他人事」or「他人任せ」にしてきたことがそんなに簡単に直る訳がないと思います。中国が日本領土を砲撃して初めて気が付くのでは。それまでは尖閣についても無関心というか、そんな小さな島くらい渡しても良いというくらいにしか思っていないのではという気がします。中国人の本性を理解していないからです。彼らは一歩譲ったら、二歩も三歩も踏み込んできます。尖閣の次は沖縄、次は日本全土でしょう。日本人と中国人は考え方・発想が全然違います。何せ「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という民族です。まともに付き合えば日本人が騙されるのは必定。世界に平気で嘘を垂れ流しますし、賄賂やハニーは当り前の世界です。

佐伯啓思は「王権神授説の王制と違い、天賦人権説に則った共和制は傭兵制度ではなく、市民が国を守ることを前提としたシステム」と書いていたような記憶があります。理解が正しかったかどうかという点と本の名前は思い出せない点が弱いですが。国民以外に誰が国を守ってくれるのですか?傭兵で近代戦は戦えません。念仏を唱えても中国の侵略は止まず、況してや憲法9条が侵略を防いでくれるわけもありません。脳内お花畑の人間は現実を見据えようとしません。中国の侵略を許し、日本を奴隷の平和の状態にするつもりですかと言いたい。

http://www.sankei.com/politics/news/140721/plt1407210014-n1.html

小生の6/11ブログにも書きましたが、尖閣接続水域侵入は現場の独断ではなく政府と一体となってやっていることです。これは福島氏も同じ見立てです。経済崩壊を目前に控え、習近平の暴走が始まった気がします。南シナ海、東シナ海の二正面作戦が取れる能力は中国にはありません。東シナ海だけでも日米合同で対処すれば中国海軍はあっという間に海の藻屑となるでしょう。ロシアは中立を保つ筈です。何が習近平をそのように駆り立てているのか、愚かな裸の王様としか言えません。権力闘争に勝つためなのでしょうが、危険すぎます。

<6/15 15時12分NHKニュース中国海軍情報収集艦 日本領海に一時侵入

15日未明、中国海軍の情報収集艦1隻が鹿児島県口永良部島の沖合で日本の領海に侵入し、およそ1時間半にわたって航行したあと領海を出ました。中国海軍の艦艇が領海に入ったのが確認されたのは、平成16年以来2回目で、防衛省は警戒を続けるとともに、航行の目的を分析しています。

防衛省によりますと、15日午前3時半ごろ、中国海軍の情報収集艦1隻が鹿児島県口永良部島の西で日本の領海に侵入したのを、海上自衛隊のP3C哨戒機が上空から確認しました。情報収集艦はその後、南東に向かい、およそ1時間半にわたって領海内を航行したあと、午前5時ごろ、屋久島の南の沖合で領海を出たということです。 中国海軍の艦艇が領海に入ったのが確認されたのは、平成16年に原子力潜水艦が沖縄県の石垣島沖で領海侵犯して以来で2回目となります。 沖縄の東の太平洋では、現在、海上自衛隊とアメリカ海軍、それにインド海軍による共同訓練が行われていて、防衛省によりますと、中国海軍の情報収集艦は、インド海軍の艦艇2隻の後方を航行し領海に入ったということです。 各国の軍艦には一般の船舶と同じように沿岸国の安全を害さなければ領海を通過できる「無害通航権」が国際法で認められていて、防衛省は、警戒と監視を続けるとともに情報収集艦の航行の目的を分析しています。

島の住民「本当に怖い」

口永良部島に住む屋久島町役場出張所の職員、川東久志さん(56)は「前代未聞の出来事で驚いています。このような島に中国海軍の船が近づくなんて本当に怖いです」と話していました。 また、付近の海で漁を行い、口永良部島の消防分団長を務める山口正行さん(47)は「漁に出る人は本当に気がかりだと思う。国や県は島の住民の生命や財産をしっかり守ってもらいたい」と話していました。

官房副長官「中国側に懸念申し入れた」

世耕官房副長官は、午前の記者会見で「中国艦艇がどういう目的で航行したかについては現時点では確たることを申し上げるのは控えたい。政府としては引き続き、わが国周辺海空域における警戒監視活動等に万全を期していく」と述べました。 そのうえで「外務省アジア大洋州局長から在京中国大使館次席に対して、先般の中国海軍艦艇による尖閣諸島接続水域への入域に続いて今回、中国海軍の情報収集艦がわが国領海に侵入したこと等に鑑みて、中国軍の活動全般に対する懸念を申し入れた」と述べました。 また、記者団が、先に中国海軍の艦艇が尖閣諸島周辺の接続水域に入った際には外務省の斎木事務次官が程永華駐日大使に抗議したことを踏まえ、政府の対応の違いについて質問したのに対し「尖閣について中国は自分の領土という独自の主張をしており、当然、対応に差があってしかるべきだ」と述べました。

防衛相「意図を分析中 警戒に万全期す」

中谷防衛大臣は防衛省で記者団に対し、「中国海軍の艦艇の航行は、日米印の演習に参加し、わが国の領海内を航行していたインド海軍の艦艇に引き続いて行われたものだ。海上警備行動は発令しておらず、先方の意図や目的は分析中だ」と述べました。 そのうえで中谷大臣は「中国海軍の艦艇が領海内を通過したのは2度目で非常に例が少ない。今後も中国艦艇の動きに十分注目して、警戒監視に万全を期したい」と述べました。 このあと、中谷大臣は再び記者団に対し、「中国は近隣国であり、こういった活動については丁寧に接してくるべきだ。戦後2回目のわが国領域内の航行であり、非常に懸念がある」と述べました。

外相「最近の中国軍の動きを懸念」

岸田外務大臣は外務省で記者団に対し、「中国海軍の艦艇が先日の尖閣諸島の接続水域に続いて今回、日本の領海に入域したが、状況をエスカレートさせている最近の中国軍の動きを懸念している。政府としては、中国側にこうした懸念をしっかり伝えるとともに、警戒監視に万全を期していきたい」と述べました。>(以上)

6/15日本経済新聞 電子版 「狙いは日本艦排除」 中国軍艦、尖閣進入の深刻さ 編集委員 中沢克二

中沢克二(なかざわ・かつじ) 1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞

 6月9日午前1時ごろ、眠りにつこうとしていた首相、安倍晋三に報告が入った。この日は私邸ではなく、首相官邸脇の公邸に宿泊していた。

 「中国艦船が尖閣諸島の接続水域に入りました……」

 目覚めた安倍は付近に展開する海上自衛隊の護衛艦の動きを問い、素早く指示を出した。緊迫した中国のジャンカイ1級フリゲート艦の進入事件の謎を解くカギは、その3時間余り前にあった。

■「黙契破ったのは日本」という強弁

 「日本の軍艦が先に接続水域に入った。そして中日双方には、艦船を接続水域に入れないとの黙契がある。中国海軍は既に東(シナ)海海域の巡航を常態化した。今回は監視中に日本艦の行動を察知し、緊急対応した」

Senkaku

沖縄県・尖閣諸島。手前から南小島、北小島、魚釣島(2012年9月)=共同

 共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報が伝えた中国の主張だ。簡単にいうと、先に進入したロシア艦の動きは無関係で、日本艦が先に「黙契」を破ったため中国艦船も進入した、との趣旨だ。

 もちろん中国の言う、日中の密約を意味する「黙契」など存在しない。尖閣の実効支配を確立している日本は、無用な摩擦を避けるため、通常、海上保安庁の巡視船が対処しているにすぎない。中国政府は、領土問題の存在を認めよと迫る際、「日本は過去に『棚上げ』を認めた」と主張する。「黙契」の存在の主張は同じ論法だ。

 中国の安全保障関係者から漏れ伝わる声はこうだ。

 「友であるロシアの艦隊が『航行の自由』を標榜して釣魚島(尖閣諸島の中国名)の接続水域に入っても見過ごす選択肢はある。だが、日本の軍艦が入った場合、我々、中国も入らなければならない。そして排除する必要がある。そうでなければ日本の実効支配を崩したとはいえない」

Frigate of PLAN

中国海軍のフリゲート艦(2012年公開)=防衛省統合幕僚監部提供

 この論理を真に受ければ、もし日本の護衛艦が尖閣諸島を守るため領海に入れば、中国艦も侵入する可能性が高くなる。戦闘になってもおかしくない。極めて危険な状態だった。

 忘れてならないのは、中国が2012年秋以来、「日本の実効支配を崩した」と公言していることだ。日本の尖閣国有化を逆に利用して中国公船が領海を侵犯。その後も定期的に接続水域、領海に入っている。それでも、これは中国海警局所属の公船だ。日本側で対処するのは海保の巡視船になる。双方が厳しく対峙しても軍ではないため即、戦争にはならない。

 今回はロシア艦の進入が誘因とはいえ、日本艦が接続水域内を航行した。中国側は「新たな事態で放置できない」いう論理でプレーアップした。「見過ごせば中国海軍が上層部から叱責されかねなかった」。こんな見方もアジアの外交・安保専門家の間にはある。

中国と日本の艦船の動きを時間を遡って検証してみる。地図を参照してほしい。

tracking a China battleship

 6月8日午後9時50分、ロシア艦3隻が南から接続水域に入り、北に向かっていた。監視していた海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」がこれを追尾する。当然、すぐに接続水域に入った。ロシア艦の動きに目を奪われているが、中国側が注視していたのは実は日本の「はたかぜ」の動きだ。

 やや離れた尖閣北方海域にいた中国艦は直ちに反応した。そして一目散に接続水域を目指す。尖閣北方で監視中だった別の海自護衛艦「せとぎり」は危機感を抱き、中国艦の動きを追い始めた。このままでは接続水域に入るのは必至だ。強く警告したが、中国艦は応じない。

 この時、「はたかぜ」は接続水域内を北東に向けて航行中だ。これを知る中国艦が動きを止めるはずはない。ついに久場島の北東の接続水域に進入した。これを監視する「せとぎり」も接続水域内を航行し、今度は中国艦が万が一にも領海に侵入することがないよう警告・監視しながら追尾する。

 日中ロ3カ国の艦船6隻が至近距離で入り乱れながら並走――。大正島北西の接続水域内では、かつてない危険な事態が出現した。だが最後はロシア艦が接続水域を抜け、日中の艦船も外に出る。ひとまず危機は去った。

■中ロ連携の真相

 焦点は中ロ両海軍の連携の有無だ。ロシア艦3隻は海上演習を終え、帰路にあった。駐日ロシア大使館も「当海域では中国と関係なくロシア海軍が定例の演習を行い、日本の領海に入ることは当然ない。他の諸国、日米も主張する『航行の自由』の原則通り。心配無用」とした。

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米中戦略・経済対話の開幕式で手を振る中国の習近平国家主席(6月6日、北京)=共同

 とはいえ中ロは2012年から日本海や黄海で海上軍事演習を実施している。中ロが広く連携している以上、中国海軍が、今回のロシア艦の大筋の動きを把握していたのは間違いない。翌6月10日からは沖縄近海で日米印の海上演習「マラバール」が始まった。そもそも中ロ艦がここで活動していた目的は情報収集とけん制にもあった。ロシア艦も演習の帰路なのに、なお付近をうろついた。

 1992年に始まった米印の演習には今年から日本も定期参加する。南シナ海での「航行の自由」作戦を実行した米空母「ジョン・C・ステニス」も姿を見せた。中国はそれを注視している。ロシアも事情は似る。ウクライナ問題などで確執がある米国に対抗するには、この地域でも一定の存在感が必要だ。東シナ海、太平洋は「日米VS中ロ」の対峙構造が明らかな緊迫した海でもある。

 一連の事情からロシア側は、進入に関して「中国と無関係」としつつも、少なくとも中国側が連携を臭わせるのは容認した。中国国防省が発表した質問に答える形式のコメントもそうだった。自ら用意した質問文は「日本メディアが中ロの軍艦が釣魚島付近の海域に進入したと報じた。どうみるか?」。説明抜きのため、全容を知らない中国国民、外国人は中ロが示し合わせたように受け取る。いわば意図を持った「やらせ質問」にみえる。

 そこには伏線がある。ロシア大統領、プーチンは6月末、訪中する。重要な中ロ首脳会談を前にロシア側も中国を追い込むことはしない。中国の演出は、ロシアを利用した「張り子の虎」と考えることもできる。かつて毛沢東、鄧小平時代にも米ソ対立を巧みに利用した似た事例がいくつかある。中国の伝統的な外交術だ。

■試された与那国島レーダー

 中国軍にはもう一つ重要な目的があった。中国語で言う「試探」。つまり接続水域進入によって自衛隊と日本政府がどの程度、素早い動きを見せるのかを探りたかったのだ。

radar of Yonaguni

150キロ先の尖閣諸島をにらむ与那国島の陸上自衛隊レーダー基地

 なぜ今なのか。それは3月28日、日本最西端の与那国島(沖縄県)に160人規模で駐屯を開始した陸上自衛隊とレーダー基地に関係する。与那国島の150キロ北には尖閣諸島がある。人口2000人に満たない静かな島に出現した巨大な5本の鉄塔には様々なアンテナが据え付けられた。尖閣周辺の海と空ににらみを利かせている。

 日本政府の動きは素早かった。安倍への報告の後、外務省は直ちに東京の中国大使館の安全保障担当公使に抗議した。中国艦の接続水域入りから僅か25分後だった。その45分後には駐日中国大使、程永華を呼び抗議した。

 見落とされている事実がもう一つある。中国艦に対処した青森県の大湊港を母港とする「せとぎり」(3550トン)は、南シナ海との縁が深い。4月12日にはベトナム南部の要衝、カムラン湾の軍港を訪れていた。直前には同じく中国と南シナ海で対峙するフィリピンの北部、スービック港に寄港。南シナ海を横切ってベトナムのカムラン湾に入った。

 カムラン湾といえば、冷戦時代に旧ソ連が軍港として使用し、対米けん制の最前線だった場所だ。今や南シナ海問題で立場は逆転した。ベトナムは中国に対抗するため米国から武器を購入し、日本の海自艦船の訪問も受け入れている。

 軍事面の実力が向上した中国海軍は、国家主席、習近平がトップに就いて以来、海洋進出を加速している。中国には強く自制を求める。力による現状の変更は極めて危険だ。そして日中間で偶発的な衝突などあってはならない。防衛当局間の早期の「海空連絡メカニズム」発効に向けた詰めた話し合いをすぐにでも始めるべきだ。(敬称略)>(以上)

記事

尖閣諸島周辺の接続水域に中国の軍艦が初めて侵入した。6月9日未明のことである。もちろんこの海域には軍艦を改造した中国海警局巡視船などがしょっちゅう侵入しては海上保安庁の巡視船に追い出されることを繰り返しているのだが、軍艦となると緊張感がまったく違う。官邸はすぐさま危機管理センターを設置し、米国とも連絡を取り合った。外務省は夜中に駐日中国大使を呼び出して厳重抗議した。中国側のこの行為には、どういう意図があるのだろう。まさかうっかり接続水域に入ってしまったというのだろうか。

「してやったり」ほくそ笑む中国

 まずロシアの軍艦も同じタイミングで接続水域に入ったため、中ロが結託して、日本を挑発したという疑いはある。ただ、ロシア軍艦が定期演習帰りにこの時期に接続水域付近を通行することは想定内。むしろ中国側が自国の領土と言い張る尖閣諸島周辺海域にロシア軍艦が入ったことを口実に、ロシア艦を監視するという建前で自らも接続水域に入った、という見方が今のところ主流である。

 ちなみに駐日ロシア大使館はツイッターで「当海域では中国と関係なくロシア海軍が定例の演習を行い日本の領海に入ることは当然ない。…ご心配不要」と、中国とは無関係であり、また尖閣諸島海域が日本領海と認めているようなニュアンスのコメントをしていた。なお、このコメントは日本語であり「尖閣諸島」という言葉を使っている。さすがにまずいと思ったのか、すぐに削除された。これが“うっかりコメント”なのか、中国に対するある種のメッセージなのかは不明。軍艦侵入そのものが、中国との共謀であれば、もう少し中国への配慮というものがあっただろうとは思う。

 ロシアの狙いは後回しにして、まず中国側の意図を考えてみよう。例えば、ロシア艦の接続水域侵入を見た中国海軍が現場の判断なのか。それとも、習近平政権の意志による計画的軍事行動なのか。

 結論を先に言うと、これは習近平政権の指示による計画的行動だと、私は考えている。

 まず、中国国防部が翌日、「釣魚島およびその付属島嶼(尖閣諸島)は中国固有の領土であり、中国軍艦が本国管轄海域を航行するのは合法であり、他国がとやかく言うことではない。きょうの端午の節句(旧暦)をすこやかに過ごしてください」と、ユーモアと余裕も感じさせるコメントを発表していることだ。この余裕に「してやったり」という中国側のほくそ笑みが見える気がする。

中国メディアで報じられている内容を整理すると次のようになる。

 8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍艦艇3隻が先に尖閣諸島海域(中国語で釣魚島)の久場島(黄尾嶼)と大正島(赤尾嶼)の間の接続水域を北上し、海上自衛隊護衛艦“はたかぜ”に発見された。9日未明午前0時50分ごろ、一隻の中国フリゲート艦・江凱が南下し久場島東北の接続水域に侵入するも海上自衛隊“せとぎり”に発見され、U字型の軌跡を描いて大正島東北の接続水域から脱出。中国軍艦が接続水域を出たのは午前零時3時10分、ロシア軍艦が同域を出たのは3時5分。

「中ロ連携」を匂わせ、建前で逃げる算段

 日本メディアの報道の在り方はおおむね二通りだ。中ロが事前に打ち合わせた計画的行動である、というものと、中ロの連携はなかったというもの。読売新聞の10日の報道は前者で、ロシアが2012年から毎年夏に日本海や黄海で合同海上軍事演習をしているのは日米けん制が目的であり、この中ロの行動は日米印三国の10日の九州付近での合同海上軍事演習に対抗するものだという分析をしている。

 一方、産経新聞は、ロシアが先に接続水域に入ったことを中国軍艦がロシアを監視するかのように見せかけてあとから侵入したと報じ、中ロ連携ではなくロシアを中国が利用して侵入したという見方だ。防衛省・外務省は、中国が日ロ相手にこの領海に近づくな、と威嚇した、とみている。日本政府としては、中国は周到な計画をもってこの事件を起こしたと認定しているようだ。毎日新聞は、元自衛官のコメントを引用して、中国の周到な計画的行動は今後も続き、国際社会の注意を南シナ海からそらそうという意図がある、としている。

 環球時報などが、日本の新聞の引用をしながら、だいたいこのようなことを伝えている。

 軍の行動の意図などは、たとえ官報といえども勝手な解釈報道はできないのだが、こうして海外メディアの引用を反論を加えずそのまま報じるときは、だいたい図星ということである。ロシアとの連携が本当にあったかなかったかは、ひとまずおいておくが、中国としては「連携があった」と日本に思わせたいのだ。中国報道のほとんどが“中ロ軍艦”を主語にしている。そして「ロシアに文句を言わないで中国に文句をいうのはおかしい」「中国軍艦はロシア軍艦の侵入を見張るために南下したにすぎない」という建前で日本の抗議を封じ込めることができるとみている。

 13日付の環球時報は、「いよいよロシアも参入!魚釣島をめぐる大博打」と題した、少々ちゃかした感じの論評を掲載した。これがなかなか興味深い。以下引用する。

「安倍は突然たたき起こされた」

 「ドラマチックに描けばこんな感じだ:眠っている安倍は突然たたき起こされた。中国とロシアの軍艦が来たぞ! 日本の軍艦はどこだ? 日本の艦艇にその行動を妨害させようにも、衝突は怖いし、安倍はただ追随して監視するしかなく、すぐさま米国に報告する。

 焦った日本の官僚たちは、50歳を過ぎた駐日大使の程永華を午前2時に外務省に呼びつけ、てんやわんや。寝覚めの悪い大使の顔色は悪く、さすがにキレて言い返した。“釣魚島は中国固有の領土、中国側は日本の抗議を絶対に受け入れられない”。

 注目に値するのは日本側の中国とロシアに対する対応差だ。ロシア軍艦の方が接続水域侵入の時間が早く、海域航行時間も長く、艦の数も2隻多い。

 なのに難癖をつけ、抗議するのは中国だけで、ロシアに対しては文句を言わない。理由はロシアは魚釣島の領土主権を主張していなからだ、と。…

 日本はロシア大使館のツイート声明(で尖閣諸島という言葉を使ったこと)によろこんだようだが、これは外交辞令だ。そもそも外交部は軍の意図などわからぬものだ。だからすぐに削除された。…

 いくつか基本的に判断できることは以下の通り。

 ①中ロ軍艦は同時に接続海域に侵入し、ロシアが先に侵入した。②プーチンの6月訪中を前に、南シナ海問題がまさに煮詰まっているとき、中ロが連携してこの航行を行ったから、日本を十分に震え上がらせることができた。③米国のアジアリバランス政策下で、米日が協力を強化している状況で、中ロの協力強化は確かに必要で、これはイデオロギー以上に国家利益的に大きな意味がある。こうした状況からプーチンの訪中は実りあるものになるだろう。④ロシアの艦艇3隻は老朽船であり真の軍艦は一隻だけで残りの二隻は補給艦と曳航艇である。だが敏感な水域をあえて航行するプーチンの軍事外交は大胆かつ強硬である。

 最後に付け加えていえば、ロシアの過剰に大胆な部分を中国は学ぶ必要もないしできないが、少なくとも外交局面においては、もっと活発になることが中国の成功の秘訣だろう。たとえばロシアのウクライナ危機や迅速なシリア撤退のようなこの種の謀略は参考にする価値がある。特に南シナ海問題が煮詰まりつつある今、釣魚島で再び風雲を起こすことは、実際なんの不都合もないのである。釣魚島をめぐる中日の争いは表面的なものであり、実際は米国を避けて考えることのできない問題だ。釣魚島の問題は、全東アジアの大博打の一部でしかない。そこに、いよいよロシアが加わって釣魚島をめぐる大博打が今始まったわけだ。」

 中国としては、ロシアが中国海軍と同時期に接続海域に入ったことに大きな意味を見出している。つまり、南シナ海と合わせて、東シナ海問題にロシアを引き込めれば中国にとって有利だということだ。

 尖閣は日本の実効支配下にあり、日米安保の枠組み内にあるので、中国の実行支配下にある南シナ海の島嶼問題よりもある意味攻略しにくい。そこに米国と対立するロシアを引き込めればこれは中国に利する。万が一、日本とロシアの関係がこじれれば、中国にとっては願ってもないことだ。ロシア軍艦が南シナ海での国際テロ軍事演習にこの海域を通ることは、かねてからわかっていたのだから、中国がタイミングを合わせて尖閣諸島接続水域に軍艦を出すくらいのことは十分考えられる。

習近平はプーチンLOVE

 ロシアは本当のところどう考えているのだろうか。

 ロシアの本音を探る手段は今の私にはない。ただ、プーチンは稀に見る外交巧者である。年内の日本訪問の条件の駆け引きを見据えながら、6月の訪中の内容を詰めているところであろう。ロシアと中国が真の蜜月だとは思わないのだが、習近平のプーチンLOVEはかなり本気だ。

 ウクライナ危機にしてもシリア撤退の奇策にしても、習近平政権が「外交はかくありたい」とほれぼれするようなことをプーチンはやってのける。そういった中国側の気分を見越して、ロシアは4月のモスクワでの中ロ外相会談で、南シナ海問題を当事国間の直接の話し合いでの解決を求める中国側の立場を支持している。

 ロシアはベトナム・カムラン湾を軍事利用しつつASEANにおける武器輸出拡大を図っているところで、南シナ海には巨大な利権をもつ。米国の対ベトナム武器禁輸解除は、中国以上に苦々しく思っているはずだ。中国が米国の対ベトナム武器禁輸解除に対して、あまり怒った風でなかったのは、南シナ海問題にロシアを引き込み、米国と対立させる好機とみた、ということも考えられる。

 一方、シンガポールにおけるシャングリラ会議では、日米印の南シナ海における対中包囲が鮮明化する一方で、ロシアと中国は米韓の対北朝鮮目的のTHAADミサイル配備への反対で立場を一緒にするなど米(韓)VS中ロの対立構造も鮮明化した。中国としては、南シナ海問題で米ロをあおりつつ、東シナ海にもロシアを引き込みたい。ここで、ロシアは外交辞令上、「そんな領海侵犯の意図などありませんよ。中国とも関係ありません」という声明を出しながら、中国に貸しを作るぐらいのことはやっても不思議ではないだろう。

平和ボーナスなき後、試される忍耐

 南シナ海問題は、国際的包囲網が形成され、またフィリピンに親中派大統領が登場し、ベトナムにおける米ロの兵器利権対立が起きそうで、6月末にもスカボロー礁の中国埋め立てをめぐるハーグ仲裁裁判所の判決が出る、という変数が多くあるなかで、中国側も今しばらくは次の一手を攻めあぐねていよう。

 軍制改革を成功させるために南シナ海で、局地戦も辞さない覚悟で軍事緊張を高めることが中国のシナリオであることはこのコラムでも以前に解説したが、環球時報の論評にあるようにここにきて「釣魚島付近で再び風雲を起こすことは何の不都合もない」というのも本音だろう。もともと習近平シナリオには、2013年1月のロックオン事件の際に、日中間で局地戦を覚悟した軍事的緊張を演出するというものもあった。主戦場がいつ南シナ海から東シナ海に移っても不思議はないのだ。

 こういう状況は日本にとって非常に具合が悪い一方で、少しだけ好いことがある。悪いことは、日本の安全保障が脅かされ日本の領海領空を守る海上自衛隊や航空自衛隊に対するプレッシャーが並々ならぬものになるということ。好いことは、7月の参院選を前にして、有権者が安全保障の問題をより身近に迫ったものとして真剣に考えるようになることだ。

 日本政府としては、北方領土問題の交渉相手であるだけでなく、東シナ海や南シナ海を含む、アジア太平洋「大博打」大会の主要プレーヤーであるロシアの思惑を見越しつつ、その外交をうまくこなすことがまず肝要かもしれない。第二次大戦以後の平和のボーナスはそろそろ使い果たされ、いよいよ神経を消耗する厳しい時代になった。一人ひとりの忍耐が試されているのだと思う。

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『AIIBは成功するのか?中国でも疑いの声 ADBと初の協調融資へ、それでも立ちはだかるアジアのリスク』(6/14日経ビジネスオンライン 姫田小夏)について

中国企業の海外でのM&Aは人民元暴落前に買えるだけ買っておこうとの腹積りではないかと思います。下記の日経の記事でピムコの創業者のコメントがいみじくも語っていますように「資金繰りに限界」がいずれやって来ます。ジャンプ、ジャンプ或は別の銀行・ノンバンク(融資平台)からの借換で当座はしのげるかもしれませんが、日本のバブル崩壊のように、誰かがいずれババを引き、連鎖倒産が起きて行くでしょう。3経済主体で30兆$もの債務は完全には返済できません。数字が大きすぎます。倒産→失業者増大→社会不安→暴動頻発→共産党打倒の流れとなるかどうかですが。しかし、日経もやっと中国の真実の姿を報道するようになりました。

<6/15日本経済新聞 電子版 シリコンバレーに映る中国マネーの明と暗  編集委員 梶原誠 

 米西海岸のサンフランシスコはシリコンバレーに近く、ハイテク企業を担当する投資銀行家が大勢集まっている。その一人で、30年以上の経験を持つエリック・エドモンドソン氏が興味深い話をしていた。「起業家たちは今、”BAT”に自社を買ってもらうのを目標にしつつある」と。

Keisuke Honda

本田圭祐選手も所属するセリエAのACミランの買い手にはアリババや百度がちらついた。写真はロイター

 「BAT」とは中国の百度、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)の3社の頭文字でつくった言葉だ。急成長を遂げ、中国ハイテク企業の代名詞になった3社は豊富な資金力を使って世界で買収を繰り返す。最近もサッカーのイタリア1部リーグ(セリエA)のACミランの買収交渉を巡り、アリババや百度が買い手として取り沙汰されたばかりだ。

■「BAT」に買収される会社めざす起業家

 起業家たちは今、そんなBATに認められて買収の対象になるような会社をつくろうと励んでいる。

 自社株の売却は、株式公開と並んで「出口」と呼ばれる起業家の一里塚だ。株の買い手はこれまでマイクロソフト、オラクル、インテルなどの米大手企業が主に担ってきた。それに中国企業が加わろうとしている兆しは、世界企業の勢力図の変化を物語る。

Makoto Kajiwara

梶原誠(かじわら・まこと) 88年日本経済新聞社入社。東京、ソウル、ニューヨークで記者を歴任し、現在は香港が拠点。編集委員・論説委員としてアジアの窓から世界を見ている。興味分野は「市場に映るものすべて」

 BATら中国企業の動きは、買収によって自らのブランド力を高めたり、新たな技術や顧客基盤を得たりする攻めの戦略の一環だ。もっぱらアジアや欧州向けではあるが、海外企業の買収は「一帯一路(新シルクロード)構想」を担う中国の政策でもある。

 ただ、シリコンバレーを歩いてみると、それだけではない中国マネーの存在も聞こえてくる。

 「『ダム・マネー』(愚かなマネー)っていわれているんですよ」。30歳代の米国人の起業家の一人は、地元でこう陰口をたたかれる中国マネーの存在を明かす。

 もうかるかどうかがまだはっきりせず、米国のベンチャーキャピタルも避けて通るのに、気前よくお金を出してくれるお金の出し手だ。「ドット・コム」と社名につくだけで資金が集まった2000年までのハイテク株ブームを思い起こさせる投資判断である。

 「中国から逃げてきたマネー」。これが起業家の読みだった。

 世界の主な金融機関で構成する国際金融協会(IIF)によると、中国からは昨年、差し引き7000億ドル近い空前の規模の資本が流出した。ペースは落ちたとはいえ、今年も流出は続いている。

■中国からの逃避資金、投資判断は甘く

 これらのなかには中国経済の先行きを不安視し、その結果である人民元の先安観を嫌う中国の富裕層の逃避資金も含まれる。そんな中国マネーがシリコンバレーの出来たての企業にも流れ込んでいるのではないか。中国から離れるのが第一の目的なので、投資判断は自然と甘くなる。

Bill Gross

債券王ビル・グロス氏は「中国の危うさは中国の人々が知っている」と指摘する

 中国からのマネー逃避を中国経済への警告ととらえる投資家が、カリフォルニア州南部の海沿いの街、ニューポートビーチにいた。「債券王」の異名を持つビル・グロス氏だ。ピムコを創業し、世界的な機関投資家に育てた同氏は今、米運用会社ジャナスのポートフォリオ・マネジャーだ。

 同氏の警戒は,国内総生産(GDP)の150%を超えたとの試算もある民間企業の過大な債務に向いている。

 「企業はもうけを借金返済や利払いに回すのに精いっぱいで、生産的な投資どころではなくなる」。そしてこう締めくくるのだ。「中国は利下げなどで問題が露呈するまでの時間を稼げる。だがこのままだといつか資金繰りに限界が来ることは、中国の人々自身が知っている」。高級住宅やリゾートが密集するニューポートビーチにも、中国マネーが押し寄せているのだ。

 世界にあふれ出した中国の巨大マネー。そこには攻めと守りという、2種類のマネーが混在している。>(以上)

本記事はAIIBも問題含みと言うものです。パキスタンのグワダル港は明らかに軍事目的です。マラッカ海峡が封鎖されても中東からの原油の輸入を可能にするためと思われます。「中国はここを「中パ経済回廊」の起点に位置づけ、内陸部の新疆のカシュガルからグワダルまでの約3000キロの陸路開通にも乗り出している」とありますが、地図で見ますと、カシュガルからグワダルまで一直線で、高速道路でも作るのかもしれません。パキスタンもそこまで中国に認めるかどうかです。普通に考えればいくら中国のお金とはいえ、中国兵を高速で派兵できるような道路を作らせることは考えにくいです。戦争になればミサイルかジェット機で道路は簡単に崩壊・陥没させられるでしょうけど。新疆もウイグル族の土地ですので、有事の際は安全とはなりません。

AIIBは審査能力が低いので、ADBの力を借りねばならず、そうすれば当然中国の思いのままの融資にはなりません。単独で融資すれば焦げ付きが増えるだけでしょう。AIIBの参加国が100国になったとして、銀行の実力とは無関係です。株主の多い民間銀行がそれだけで評価されることがないことと同じです。どれだけ利益・付加価値を上げられるかが勝負です。アフリカと同じで中東にも部族問題があり、一筋縄では行かないでしょう。中国の在庫処分・失業者派遣を図ろうとしても民族感情の問題があり、うまく行かないでしょう。

記事

Renminbi

中国主導の国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」への参加国が100近くに達する見込みだという(写真はイメージ)(c)AFP〔AFPBB News

 中国の主導で設立された国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の参加国数が、2016年末までに100近くに拡大する見通しだという。実現すればその規模は、日本と米国が主導する「アジア開発銀行(ADB)」(67カ国と地域が参加)をしのぐ。

 また6月10日には、AIIBとADBの初めての協調融資が発表された。パキスタンの高速道路建設に対して、AIIBとADBがそれぞれ1億ドルを融資するという。これは中国の勝利を意味するのだろうか。

 AIIBは、中国が提唱する「一帯一路」構想を金融面で支え推進する役割を担う。一帯一路とは、アジアと欧州をつなぐ陸と海の巨大な“シルクロード経済圏”構想だ。

Joe Hockey

「AIIB」の設立協定に署名するオーストラリアのジョー・ホッキー財務相(2015年6月29日撮影)。(c)AFP/WANG ZHAO〔AFPBB News

「『一帯一路』構想はかつての欧米列強のやり方に着想を得たものだ」──こう語るのは、中国経済と60年近く向き合うベテラン研究者の1人だ。

 19世紀半ば、英国は清国をアヘン貿易の恰好の市場ととらえ、大量のアヘンを清国に売りつけた。アヘンの密輸をやめさせようとする清国と英国は衝突し、アヘン戦争(1840~1842年)が勃発する。戦争で清国が敗れると、英国は南京条約により上海、広州などを開港させた。

 開港した5つの港では自由な貿易ができるようになり、英国人は家屋を賃借したり、賃借した土地に家屋を建てることができるようになった。物資が集積する港には住宅のほか倉庫や店舗が建ち並び、街として繁栄する。清国は外交上の主権を失ったが、経済的には潤うことができた。

 そして21世紀の今、中国が19世紀の欧米列強と同じことをしようとしていると、この研究者は指摘する。つまり、中国がAIIBによってアジアの新興国を“開港”させ、中国の過剰在庫という“アヘン”を売りつけようとしているというわけだ。

中国が世界で港の建設に続々と出資

 新興国にとってインフラ建設は最重要課題だが、膨大な建設費がかかる。港湾行政に詳しい専門家は「新興国は自国だけでは予算を確保できないため、日本も多くの円借款などを提供しています」と語る。

 新興国では、インフラ建設に必要な技術も人材も不足している。「日本はアジア、アフリカに技術者を派遣したり、国内に毎年多くの研修生の受け入れるなどサポートしています」(同)。

 日本はODAを通じて、これまで多くの国にインフラ建設の支援をしてきた。しかし近年は、各国の港湾建設において中国のプレゼンスが高まっている。

 中国は現在、アジアを中心に港の建設に乗り出している。パキスタンのグワダル港、アフリカのジブチ港、イエメンのアデン港、バングラデシュのチッタゴン港、スリランカのコロンボ港、モルジブ港、ミャンマーのチャウピュー港、ギリシャのピレウス港など、中国の出資によって建設される港は枚挙にいとまがない。

中でも注目を集めるのがパキスタン南西部のグワダル港である。2013年、中国は同港の港湾管理権を取得し、2015年には同港の経済特区について43年の運営権を取得した。

 グワダル港は西はアラビア海、東はインド洋を結ぶ海上の要衝である。中国はここを「中パ経済回廊」の起点に位置づけ、内陸部の新疆のカシュガルからグワダルまでの約3000キロの陸路開通にも乗り出している。グワダル港の開発を急ぐ背景には、米国の中東における主導的地位を覆し、エネルギーや軍事面での安全保障を強化しようという狙いがある。

Gwadar

印のついた場所がパキスタン・グワダル港。中国は自国からグワダルまでの陸路開通も目指している。(Googleマップ)

国内でも「AIIBの枠組みは前途多難」の声

 中国政府は「一帯一路」によって「互聯互通(fulian futong)」が実現するという。互聯互通とは、アジア諸国が互いに「連結」することである。

 だが、中国では「本当に連結できるのか?」という懐疑的な声もある。

「上海経済評論」(東方早報、2015年9月発行)は、AIIBという枠組みの構築は前途多難であり楽観できないとする論評を掲載した。その理由の1つに次のような指摘がある。

「アジアの政治制度や経済体制、発展水準や文化教育、宗教はみな違う。国によっては政治的に不安定で、部族間の分裂や内乱が発生しているところもある。アジアの多くの国家では賄賂が横行し、法律は十分に機能しない。領土問題を抱える国もある」

その論評は、インフラ建設の資金を必要としている国ほど問題を抱えていることを指摘している。

 パキスタンのグワダル港にしても、建設地のバローチスタン州は政情が不安定な地域である。ここで生活するのは遊牧民のイラン系バローチ族で、国の6割の人口を占めるパンジャブ族とは反目する関係にある。パキスタン政府とも対立し、テロリストも潜伏すると言われている。米シンクタンクによれば、バローチ族は、中国やシンガポールなど外部の勢力が入ってくることを警戒し、国際的な港湾や輸送センターが建設されることに抵抗しているという。

 港の開発とともに闇の土地取引は盛んになり、土地を追われるバローチ族も後を絶たない。グワダル港が晴れて輸送上のハブとなったとしても、恨みを買った部族に襲われる可能性は否定できない。

 いかにAIIBが「互恵互利」を掲げたとしても、中国だけが参加国の利権を貪るという構図では、地元の反発は避けられない。また、経済効果を“エサ”にして参加国を増やしても、参加国同士の利害は対立し、連携は深められないだろう。

 AIIBの設立当初、中国は豊富な資金力で押し切れると思ったのかもしれない。しかし、“アジア連結”のリスクを低く見積もり過ぎていたのではないだろうか。

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『アジア安保会議で日米印が急接近 日本は米印の「かすがい」に』(6/13日経ビジネスオンライン 長尾 賢)について

「世界は皆腹黒い」。その中で日本の立ち位置をどう定めて行くのかが今後の日本の命運を分けると思います。現実を見ると、理想社会からは遠いですが、「よりましな国」と付き合っていくしかないと考えます。政治家の選択と同じです。基本は自由、民主、基本的人権、法治が守られ、人種差別や特権が少ない国と付き合うことです。

米国は大統領選でフロリダのテロや銃の問題が取り上げられています。日本と米国では「自衛」の概念の違いがあります。日本は刀狩以降武器を一般人が持つことは殆どなく、米国は土地をインデイアンから奪う為、銃は手放せなくなりました。憲法修正第二条も銃の携帯の権利を認めていると主張する人もいます。

http://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2657/

中国は西側諸国の敵国です。ソ連が崩壊した今、共産主義の大国は中国しかありません。共産主義の何がいけないかと言うと、「自由、民主、基本的人権、法治」総てがないからです。立派な法律を作ってもそのとおり運用された試しがありません。一党独裁の共産党の存在が許されると言うことはイコール人類の不幸と思います。今度の意参院選では反日民進党は日本共産党と手を結ぶことにしました。反日という所がハッキリ分かって良いのでは。鉄槌を下されるでしょう。

中国はキャベツ戦術を止めて、軍艦を尖閣の接続水域に侵入させました。いよいよ野心を露骨に見せてきました。宥和政策は禍根を残します。中国包囲網を敷き、経済制裁や禁輸することにより共産党支配を止めさすことが必要です。軍事的に見て、日米VS中国では1週間で日米の勝利となるという記事もありました。ただ、中国の民主化ができたとしても民族の特質は変わらず、「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という本性は変わりません。民主化になっても、付き合い方は付かず離れず辺りでしょう。

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20160611/plt1606111530001-n1.htm

朝鮮半島は「火病」持ち、「息を吐くように嘘を言い」という民族ですから、関わらないことです。「非韓3原則」を徹底し、国際的なでっち上げについては事実を持って反論していくことが必要です。

インドは民主主義国かつ人口大国、インデイラ・ガンジーの人口抑制策が失敗して以降、インドの歴代の政権では、人口抑制策を強化することがタブー視されるようになりました。また民主主義国であっても、貧しい国にありがちな腐敗問題も大きな問題です。それと歴史上染み込んできたカーストについて憲法上の差別は禁止されていますが、実際はまだまだで、今後工業化して発展していくときの足枷になるでしょう。それでも日本との関係は仏教発祥(実際は釈迦はネパール生まれですが)の国、ラース・ビバリー・ボースやチャンドラ・ボース等のインド国民軍を支援し、英国からの独立を助けました。中国と違い、歴史上も領土上もトラブルがありません。同盟国として将来有望でしょう。

日米豪印の内、豪はターンブル首相になってから親中に傾いています。英国のキャメロン・オズボーンと一緒でチャイナマネーに幻惑されています。豪は中国移民を増やしてきていますので、民主選挙をすれば中国有利の政策が採られるのは自明。安易な移民・難民受け入れは国柄を変えます。自分の生まれ育った国を良くして行くのは国民の務めです。安易に国籍を移すのはどうか。スパイの可能性もあります。

http://www.focus-asia.com/socioeconomy/economy/407988/

http://www.recordchina.co.jp/a94851.html

伊藤忠の瀬島龍三も佐々淳行の本、『私を通りすぎたスパイたち』によれば、ソ連の”infiltrator”(=スリーパー、スパイ)とのこと。ソ連と言い、中国と言い、伊藤忠は売国企業です。丹羽宇一郎の中国大使時代の公用車の国旗強奪事件を思い出します。CITICに6000億も注ぎこむところですから、商社1位の座も長くはないでしょう。

記事

安全保障について少し詳しい人ならシャングリラ会議という名前を聞いたことがあるかもしれない。正式にはアジア安全保障会議(Asia Security Summit)という。世界各国の国防大臣などが毎年、シンガポールに集まり、アジアの安全保障について意見交換をする場である。2014年には安倍晋三首相も参加した。筆者も初めて招待されたので、心から喜んで参加し、インドの国防大臣に質問する機会も得た(写真1、注1)。

そこで本稿では、会議において何が焦点になったのか、特に日米印の急速な接近に焦点をおき、日本にとっての意味について報告する。

Ken Nagao

写真1:シャングリラ会議にて(筆者がバングラデシュの研究者に頼んで撮影したもの)

(注1)会議のビデオおよび議事録は以下のこちら

日米印3か国の協力関係が際立った

今年の会議は6月3~5日に開かれた。焦点は3つ。1つ目は、米国が中国に対し国際ルールに従うよう要求し、中国が激しく反論した点である。

アシュトン・カーター米国防長官は、以下の点を強調した。

  • 米国はまだ軍事的に強く、地域で重要な存在であること
  • ルールを定め、そのルールの違反者は取り締まるシステムを米国が主導して構築しようとしていること
  • 中国が南シナ海で進めている人工島の建設はルール違反であること

そのうえで、中国に対し、南シナ海の問題を国際法廷で解決しようとするフィリピンの努力に応じるよう求めた。これに対し中国側は、問題が軍事化しているのは米国のせいだと強調するとともに、フィリピンを激しく非難した。

2つ目はロシアが米国を非難したことである。北朝鮮の核ミサイルを迎撃するために、米国は韓国においてミサイル防衛システムの配備を進めている。この米国の動きに中国は強く反対。ロシアも、中国のこの立場を支持してミサイル防衛反対を唱えた。ロシアの態度は、昨今進むロシアと中国の安全保障上の接近を示している点で興味深い。

そして、3つ目が本題だ。今回の会合の焦点は日米印3か国の協力関係が特に際立った。これは注目すべき動きだ。このシャングリラ会議は15年目を迎えるのだが、これまでインドにはあまり焦点が当たってこなかった。ところが今年は、インドの国防大臣が出席。日米や東南アジア諸国の国防大臣たちもインドの役割について再三言及し、インドが注目を集める会合となった。

米印が協力する3つのテーマ

なぜインドが注目を集めたのだろうか。実は、過去半年、米国とインドの関係強化が劇的に加速しており、シャングリラ会議も、その動きを反映したものとみられる。昨年12月以来、首脳同士が会合する機会が増えた。米国防長官と印国防大臣、米太平洋軍司令官、インド陸軍参謀長などの高官たちが次々と相手国を訪問している。

4月には、インド空軍の戦闘機が日本を経由してアラスカに飛び、米印空軍共同演習レッド・フラッグに参加した。6月7日にはインドのナレンドラ・モディ首相が訪米。6月10日からはインド海軍の艦艇も沖縄の南で日米印海軍共同演習マラバールを実施する。このマラバールはヘリ空母や対潜水艦用の哨戒機も参加して、対潜水艦戦などを行う演習になる。そして今月はさらに日米印の外務省高官級の協議も計画されている。

何を協議しているかというと、具体的な協力案件は大きく3つある。1つは、南シナ海問題を念頭に海洋安全保障協力を進める動きだ。海南島からインド洋にかけての海域を航行する中国潜水艦に関する情報の共有や、米印が南シナ海において共同パトロールを実施する計画(まだパトロールの実現可能性は低い)などである。

2つ目は、軍事交流を拡大するための協定だ。双方の基地を利用する際に必要な補給品や燃料を融通しあう協定や、通信を容易にする協定を話し合っている。これらの協定がまとまると、これまでの10年に60回という活発な米印間の軍事交流が、さらに活発になる可能性がある。

3つ目は、防衛装備品の取引だ。インドが進める国産原子力空母の建造に米国が協力することを話し合っている。米国が、空母用のカタパルト(飛行機を急加速して離陸させる装置)について技術上の協力をしたり、レーダーを搭載した空母用の早期警戒機(E-2D)を供給したりする可能性がある。これらの装備を中国の空母は保有していないから、インドの空母は中国の空母を上回る性能をもつことになる。

多国間の新しい安全保障ネットワーク

なぜ米印はこのように協力を深めるのだろうか。シャングリラ会議においてカーター米国防長官が強調したのは、多国間「ネットワーク」の構築だ。これまで、アジアでは、米国を中心とする複数の2国間システムが安全保障を担ってきた。具体的には、日米、米豪、米韓、米フィリピンといった同盟関係である。しかし、米中の軍事力の差は縮まってきている。2000年から2015年までの間に、米国は13隻の潜水艦を新規に配備したが、中国は42隻も配備した。だから、米国一国に依存するシステムは、このままでは、徐々に機能しなくなっていく。

そこで、多国間ネットワークなのである。2国間だけでなく、日米豪、日米韓、日米印といった3か国間や多国間の協力関係を組んでネットワークを形成する。これには、米国を含まない日豪印や印越の関係まで含む。こうした多国間の協力関係のネットワークを基盤に、皆でルールを定め、ルールを守る体制をつくる。これが、米国が目指す理想である。

古い同盟と新しい「同盟」(ネットワーク)の概念図

the form of new alliance

出所:長尾賢「日印「同盟」時代第11回:日豪印「同盟」で日本の安全保障が変わる!」『日経ビジネスOnline』(日経BP社)2015年8月19日

その中で、米印関係はカギになっている。インドの力が伸びているからだ。米国の力が不十分でも、新たに力をつけた国がそれを補う体制ができていれば、システムは盤石となる。

マノハール・パニカール印国防相の演説をみると、インドは米国に協力することを考えているのがわかる。その演説は、紛争や力による脅しを平和的に解決する安全保障システムが必要であることを述べた上で、インドがいかに周辺国と友好的に交流しているか、バングラデシュとの海上国境紛争を国際法廷で解決したことなどを強調したものであった。インドは責任ある大国であることを示し、各国と協力する意思を示したのである。

日本が果たすべき役割

これらの動きは日本にとってどのような意味があるのだろうか。実は日本には、以前には見られないほどの大きなチャンスがあるのかもしれない。

まず考えられるのは、米国とインドを仲介する役割だ。米国はパキスタンとの協力関係を必要とし、インドはロシアとの協力関係を必要としている。パキスタンやロシアが絡む問題が起きると、米印関係が悪化しかねない。

しかし、もし日米印の3か国の枠組みであれば、米印関係が悪化して米印の協議が中止になっても、日米印の協議は継続できる可能性がある。米国もインドも、日本に会うという理由で出席するからだ。そして出席すれば、意見交換し、理解しあうチャンスが生まれる。だから日米印のほうが、米印より強固である。日本は参加するだけで「かすがい」になれるチャンスがある。

もう一つは、責任ある安全保障提供者としての役割だ。米国が構想する安全保障ネットワークの中では、あまり大きな軍事力を持たない東南アジアの国々も含め、すべての国々が一定の役割を果たす必要がある。しかし、これらの国々にはその能力がない。例えば、一昨年マレーシア航空の旅客機が失踪したときに、その事実が露呈した。離陸した旅客機がどこへ飛んで行ったのか、当初はどの国もわからなかったのだ。レーダー網などがしっかりしていないからである。

ここに日本の出番がある。日本がもつレーダー網などの能力を、これらの国が必要としている。日本は安全保障の提供者として、これらの国々を支援する役割を担うことができる。それは責任ある大国としてふさわしい役割である。

しかも、これは同じような構想を進める米国やインドなどとも積極的に協力し合える分野だ。実は、筆者が3月にインドへ行ったとき、インドの研究者から提案があった。日印で南シナ海の島々(特にベトナムの島々)の通信網を一緒に造ろうというのだ(注2)。

すでに日印間で安全保障にかかわる具体的なインフラ整備が進んでいる。インドの戦略的重要地の発電所建設(アンダマン・ニコバル諸島)や、インド洋の戦略的重要地での港湾建設(イランのチャーバハール港)、道路建設(インド北東部)などだ。これらのプロジェクトは、関係各国との友好関係を増進しながら日本の存在感を高めることができるだろう。

(注2)この提案した研究者はインド世界問題評議会(Indian Council of World Affairs)のディレクター、パンカジ・ジャ博士(Dr. Pankaj Jha)である。東南アジアの安全保障情勢に詳しい。

ただ、日本が、こういった協力関係のチャンスを十分生かすには、日本が相手の国益を理解すると同時に、日本の国益について相手に十分理解してもらう必要がある。情報の受信と発信だ。今回のシャングリラ会議の場で特に感じたのは、情報の受信・発信の場としてとても優れていることだ。民間の担当者と軍の現役の担当者がオープンに意見交換する場が設定されていて、各国は自国の国益について率直な情報発信しやすい。

例えば、フランスは、自国がアジアでどのような国益を有しているか、オールカラーのわかりやすい冊子をつくり、配っていた(写真2)。内容は、フランスとアジアの貿易量といったあまり軍事的ではない情報から、この地域にフランス軍が軍事力を展開しており、どの基地にどの程度程度の部隊が駐留し、どのような軍事作戦を行った経験があるのかに至るまで、軍事的な情報もわかりやすい図で提示している。そういったことが自由に話し合える雰囲気があり、フランスは積極的に利用しているのだ。

日本人としては、こうした情報発信の差が、オーストラリアにおける潜水艦コンペで日本がフランスに敗れた一因であると、感じる。日本も、自由かつオープンに意見交換できる場の設定をつくり、情報の発信に努めるべきである。

だとすれば、日本国内でも同じような場のセッティングが必要となる。安全保障に関する国際会議は有用だし、防衛装備品取引に関わる国際展示会なども、場として有用だろう。それらの場においては、民と軍が率直に意見交換できるようにすることが特に必要だ。民は幅広い多くの情報を持っているが、国防分野となると軍が持つ情報も多いからだ。

例えば、民間の研究機関や防衛関連企業だけでなく、軍直属の研究機関(シンクタンク)を含めた交流はどうだろうか。日本では防衛研究所、防衛大学校以外に、陸海空の幹部学校が研究機関としての機能を果たし始めている。米国ならば陸、海、空軍がそれぞれもつ大学がある。インドにもそれぞれ陸、海、空軍に研究機関がある(注3)。

これらの組織は、現役の軍人だけでなく、民間からも研究者を雇い、メディアでも発信する開かれた機関として活動し始めている。軍という情報管理の厳しい組織においても、比較的オープンで意見交換をしやすい。ぜひ民・軍の交流を考える際には、利用すべきである。

多国間の安全保障ネットワークが構築されつつある世界の中で、こうした努力は日本の国益につながるはずだ。

(注3)インドの陸海空軍シンクタンクは以下。民間向けにも広く積極的に活動している。 陸軍Center for Land Warfare Studies 海軍National Maritime Foundation 空軍Center for Air Power Studies

france & security in AP

フランスがシャングリラ会議の会場で配布していた冊子(筆者撮影)

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『広島演説当日、プーチン大統領が激怒した理由 米ロの相互不信の根源「NATO拡大せず」の密約はあったのか』(6/10日経ビジネスオンライン 池田元博)について

「NATOの東方拡大はせず」の密約は、米国とも口約束としてあったようです。ロシアは米国が約束を破ったと主張していますが、文書化されていない弱みがあります。しかし、「欧州が東方に攻め寄せることはないと」という約束をドイツがソ連にしなければ、ドイツは統一できなかったでしょう。西ドイツの東ドイツの統合は1990年、EUが出来たのは1993年です。ソ連が崩壊したのは1991年12月、エリツインのロシア大統領時代は1991年7月から1999年12月までです。エリツイン時代にロシア経済はガタガタになりましたから衛星国まで気を配る余裕はなかったので、NATOの東方拡大も黙認されたのでしょう。プーチンになって新興財閥征伐をし、資源企業を国営化して混乱を収束させたので、ワルシャワ条約機構はなくなったものの、地政学を復活させることができました。

https://www.foreignaffairsj.co.jp/articles/201412_shifrinson/

http://d.hatena.ne.jp/maukiti/20141129/p1

MDのルーマニア・ポーランド配備、韓国のTHHADの配備にロシアは反対するのは当然でしょう。ロシアの核戦力を無力化する可能性がありますので。オバマの言う核廃絶は現実を見ると、実現は不可能と思われます。ロシアが核兵器を削減するメリットがありませんので。中国は米ロの間隙をぬって核兵器を増やしているのではと推測しています。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2016052801001218.html

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12118549262

日本も真剣に防衛について国民一人ひとりが考えないと。トランプが大統領になれば否応なしに考えざるを得なくなります。外圧でしか国民が考えないというのも情けないことですが。国民主権が泣きます。偏向メデイアと日教組、学者の戦後利得者のせいであります。核保有(ニュークリアシエアリングも含む)も含めた活発な議論を国民レベルでしていかないと。

記事

オバマ米大統領が被爆地の広島を訪問し、改めて「核なき世界」の実現を訴えた。しかし、米ロの核軍縮交渉は停滞したままだ。その背景には北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大をめぐるロシアの根深い対米不信がある。

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5月27日、被爆地の広島を訪れ、改めて核廃絶を訴えたオバマ米大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 「核保有国は恐怖の論理から脱し、核兵器のない世界をめざす勇気を持たなければならない」――。5月27日、オバマ米大統領が被爆地の広島を訪れた。米国の現職大統領として初めての歴史的な訪問だった。自ら推敲(すいこう)を重ねたという17分間に及ぶ「広島演説」の肝はやはり、オバマ大統領が唱え続けてきた核廃絶への訴えだった。

広島演説の当日、怒りをぶちまけたプーチン大統領

 まさに、その当日のことだ。米国と並ぶ核大国であるロシアのプーチン大統領は、ほかならぬ米国への強い怒りをぶちまけていた。「我々の話を誰も聞こうとしないし、誰も交渉をしたがらない」。ギリシャを訪問し、チプラス首相との首脳会談後の共同記者会見の場だった。

 プーチン大統領が問題視したのは、米国が主導する欧州でのミサイル防衛(MD)計画だ。米国はそのために、米ソが1972年に締結した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から一方的に脱退し、「国際的な安全保障の基盤を弱体化させた」(大統領)。さらに、今年5月にはMD計画の一環としてついに、ルーマニア南部で地上配備型の迎撃ミサイル発射基地の運用を始めた。ポーランドでも同様の発射基地の建設を進めており、大統領は「ロシアの核戦力を脅かす」とかみついたのだ。

 米国がABM制限条約からの脱退を通告したのは、ブッシュ前政権下の2001年末のことだ。その翌年に失効した同条約まで改めて持ち出して米国を批判したのは、MD計画がいよいよ、ロシアの安全保障を揺るがす現実の脅威となったという危機感からだろう。

「核なき世界」への痛烈な皮肉

 ロシアもこの間、手をこまぬいていたわけではない。欧州のMD計画は「イラン対策」という米側の説明を受け、ロシアも構想の代案を提案したことなどもあった。ところが、米国はロシアの提案を受け入れなかった。これが「我々の話を誰も聞こうとしない」と憤るプーチン発言の背景だ。

 「(米国は)イランの核計画の脅威に備えると言ってきたが、その計画は今、どこにあるのか。イランの核合意を主導したのはまさに米国ではないか」とプーチン大統領。MDをめぐるロシアの対米不信は募る一方だ。

 もちろん、オバマ大統領の唱える「核なき世界」と、欧州のMD計画は直接には関係しない。だが、米ロは2010年に調印し、翌年に発効した新戦略兵器削減条約(新START)以降、核軍縮で全く歩み寄れていない。その最大の要因がまさに、MDをめぐる対立だ。ロシアはこの計画が「自国の核抑止力を無力化する」と反発し、米国との新たな核軍縮交渉に応じていないのだ。

 その意味で偶然とはいえ、オバマ大統領の「広島演説」の当日にぶち上げたプーチン大統領の対米批判は、「核なき世界」への痛烈な皮肉だったともいえる。

東方拡大でロシアへの国境に迫るNATO

 こうしたロシアの根深い対米不信の底流には、北大西洋条約機構(NATO)を基軸とする欧州の安全保障体制への不満がある。とりわけ、米国がNATOの枠組みで進めるMD計画と、NATOの東方への拡大を毛嫌いしている。

 NATOは東西冷戦下の1949年にソ連に対抗する軍事機構として発足した。かつて東側ブロックの軍事機構だったワルシャワ条約機構は東西冷戦の終結で消滅したのに、NATOは加盟国を増やして東方拡大に動き、ロシアの国境へとどんどん近づいている。MD計画などを通じて防衛体制も着々と強めている。NATOは冷戦時代さながらの「対ロ包囲網」を構築するための軍事機構ではないかと、ロシアは疑心を強めているわけだ。

 実は、米欧とロシアの対立を決定的にしたウクライナ危機も、ロシアのNATO不信が一因だったともいえる。

 ウクライナ危機は政権運営をロシア寄りに軌道修正したヤヌコビッチ政権(当時)が14年春に親米欧派の市民らによって倒され、その動乱のさなかにロシアがウクライナ領のクリミア半島を併合したのが発端だ。プーチン大統領は当時から同国の政変を「米国の陰謀」と糾弾し、ウクライナのNATO加盟を阻止するためにクリミアを併合したことを示唆している。実際、大統領はクリミア併合を宣言した時の演説で、「(西側は)何度も我々を裏切った」と表明。NATOの東方拡大と国境付近での軍事施設の配備を批判している。

 「米国の陰謀」説に関しても、ロシアが好んで引用する〝証拠〟がある。15年1月末、米CNNによるオバマ大統領のインタビューだ。米大統領はウクライナ危機を招いたプーチン政権を批判するなかで、「我々がウクライナの政権移行を仲介した」と発言したのだ。ロシアのラブロフ外相は即座に反応し、「オバマ氏は政権移行という中立的な表現で、米国がウクライナ反政府勢力による政権転覆に関与したことを認めた」と指摘。ヤヌコビッチ政権の追い落としに米国が加担した〝事実〟が裏付けられたとした。

「約束違反」であり「西側の裏切り」

 ウクライナ問題でも明らかなように、ロシアにとって「NATOの旧ソ連圏への拡大阻止」は安保政策上の最重要課題になっている。旧ソ連のバルト3国はすでにNATOに加盟しているので、西側寄りとされるウクライナ、ジョージア(グルジア)、モルドバの加盟阻止が喫緊の命題となる。

 ただ、仮にNATOの影響力がこの3カ国に及ばなくても、ロシアのNATO不信が消えることはない。そもそもロシアは、NATOの東方拡大そのものを「約束違反」であり「西側の裏切り」とみなしているからだ。

 では、「NATOは拡大せず」という〝密約〟はあったのだろうか。

 プーチン大統領は今年1月、独ビルト紙のインタビューで、1990年当時のソ連側と西独の政治家エゴン・バール氏らとの「一度も公表されていない」会談記録を明かした。バール氏は旧西独のブラント政権下で東方外交を主導した人物として知られる。そのバール氏は「少なくとも軍事機構としてのNATOは中欧に拡大してはならない」と言明したという。同氏はさらに東西ドイツの統一に当たってNATO拡大ではなく、欧州の中心に新たな連合を作る必要性も強調したというのだ。

 NATOの拡大問題については、独シュピーゲル誌もドイツ側の記録として、ゲンシャー西独外相が90年2月10日、シェワルナゼ・ソ連外相(いずれも当時)に「我々は統一ドイツのNATO加盟が複雑な問題を提起していることを熟知している。しかし明らかなことは、NATOは決して東方に拡大しないということだ」と述べたと報じている。

 ソ連は結局、「NATOは東方に拡大しない」との約束を前提に、東西統一後のドイツのNATO残留を容認したとされている。ただし、「NATO拡大せず」との明文化された条文があったのかどうかは、明らかではない。当時はソ連の崩壊はもちろん、NATOの拡大も想定外だったのだろう。

核戦力をめぐる米ロの攻防は激化の一途

 そのNATOの東方拡大は99年、チェコ、ハンガリー、ポーランドの3カ国の加盟で始まった。米ロ間で事実上の手打ちがあったのは、97年のヘルシンキ首脳会談だった。米側はクリントン大統領、ロシア側はエリツィン大統領だった。米国がこの首脳会談で3カ国加盟の見返りに約束したのが、ロシアのG8(主要8カ国)入りだった。

 NATOの東方拡大はその後も続き、2004年には旧ソ連の構成共和国だったバルト3国も加盟した。一方でロシアは、14年春のクリミア併合を機にG8の枠組みから排除された。ウクライナ危機をきっかけにバルト・東欧諸国はロシアの脅威をことさら訴えるようになり、米国はNATOの対ロ防衛能力の強化に動き始めた。ロシアはそんな米国への対抗意識をむき出しにし、核兵器の近代化や再配備に努めているのが現実である。

 米ロは世界の核弾頭の9割以上を保有する。核廃絶に向けては米ロが率先して核軍縮に取り組む必要があるが、現状ではその機運は全くみられない。英エコノミスト誌は今年1月、米国の現政権が30年間で1兆ドルを投じ、核兵器の更新を計画していると報じた。オバマ大統領の唱える「核なき世界」の理想と、核戦力をめぐる米ロの激しい攻防が続く現実。その落差はあまりに大きい。

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