『北方領土交渉進展に向けたロシア側の“秘策” ソチでの日ロ首脳会談後、にわかに強まるロシアの攻勢』(6/23日経ビジネスオンライン 池田元康)について

相手がロシアだけでなく領土交渉は難しいです。お互いに国益を賭けて交渉しますので。日本の外交官くらいでしょう。日本の国益・名誉を考えないで交渉しているのは。

ルトワックの言う中国包囲網の完成にはロシアの協力が必要になります。韓国はほぼ中国の属国になったのと同じで、反共の繋がりは期待できないというか、世界に日本の悪口を告げ口する外交や慰安婦の年齢を調べれば分かる自称従軍慰安婦などでっち上げを世界に撒き散らし、慰安婦像を建てて、ない事ないことを主張しているのですから、日本にとって敵国であることは間違いありません。

ロシアを仲間にと言っても、スターリンとFDRの秘密交渉で、火事場泥棒的に領土を奪った経緯を考えますとロシアの主張(戦争の結果、北方4島はロシアのものになった)をスンナリ認める気にはなれません。が、ここは安倍内閣を信じて任せるしかないのでは。プーチンも「引き分け」と言ってきた経緯がありますので、ゼロ回答はないでしょう。本当に50:50にするのかどうかです。外交交渉が表に出ることはないから、心配な部分はありますが。ロシアだけでなく、米国・中国も頭に入れた交渉をするでしょうから、4元連立方程式を解かなければなりません。参院選、東京都知事選と勝ち進み、安倍外交の真骨頂を見せてほしいものです。

記事

日ロが先のソチ首脳会談で「新たな発想に基づくアプローチ」で平和条約締結交渉を加速することで合意したのを受け、ロシア側が交渉進展のためのある“秘策”を盛んに提案するようになっている。北方領土での共同経済活動だ。

Kunashiri

北海道から望む国後島(アフロ)

「我々は(北方領土を)売り渡すことはない」(プーチン大統領)

「我々はクリール諸島(北方領土)を渡さないし、日本に平和条約の締結をお願いすることもない」(ラブロフ外相)

 最近、北方領土問題をめぐるロシア要人の〝強硬〟発言が相次ぎ報じられている。5月にソチで開いた日ロ首脳会談では、安倍晋三首相が「相手の国民感情を傷つける言動は控えるべきだ」と強調したばかりだった。

 そのソチ会談では、北方領土問題を含む平和条約締結交渉を「新たな発想に基づくアプローチ」で加速することで合意した。今月22日には首脳間の合意に基づいてさっそく、平和条約締結問題を話し合う外務省高官レベル協議が東京で開かれた。

 9月初めには東方経済フォーラムに合わせて安倍首相が極東のウラジオストクを訪問し、プーチン大統領と会談する予定だ。何年も先送りされてきたプーチン大統領の訪日も年末には実現する見通しで、長らく停滞していた領土交渉に弾みがつくとの期待は大きい。

 そんな流れに水を差すようなロシア要人の発言には、領土問題に対するロシアの強硬な立場を改めて日本側に認識させる意図があるとの見方もでている。

 ところが冒頭の2人の発言は、いずれも前後の文脈を踏まえてみてみると、やや異なるニュアンスが浮き彫りになってくる。

「我々は何も売り渡さない」

 まずはプーチン大統領だ。5月20日、ソチで開いたロシアと東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会合後の共同記者会見の場だった。「ロシアは領土問題の対話を続けることで、我らの島々を高く売りつけようとしているのではないか――。あなたと日本の安倍首相との最近の会談を受け、こんな噂が流れている。貿易・経済協力と領土問題は切り離し、互いに関連しないと言い切っていいですか」。

 会場からのロシア人の質問に対して、答えた大統領の発言が「我々は何も売り渡さない」だった。

 ただし、大統領はこう続けている。

「しかし、我々は他のすべての我々のパートナーと同様、日本と対話の用意があるし、対話をしたいと願っている。平和条約締結問題も対話に含まれるし、その文脈で領土問題も話し合うつもりだ」

 次にラブロフ外相の発言だ。5月31日、ロシアの大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダが読者向けに企画した生放送のラジオ・インタビュー番組「ラブロフに聞こう」の一コマで、こちらも読者の質問への回答だった。その質問の内容は「戦勝国がなぜ、戦争に負けた国に平和条約をお願いしなければならないのですか。我々はなぜ、クリール諸島(千島列島のロシアでの呼称)を引き渡して、日本に平和条約を懇願しなければならないのですか」というものだった。

 こうしてみると要人発言もさることながら、先のソチ首脳会談をきっかけに、ロシア市民の間で北方領土が日本に引き渡されるとの観測が浮上し始めていることに注目すべきかもしれない。

前提は、北方4島がロシア領となったことを認めること

 話を元に戻そう。回答の冒頭に「我々はクリール諸島を渡さないし、日本に平和条約をお願いすることもない」と述べたラブロフ外相は、続いて日ロの平和条約締結交渉について延々と解説している。

 要約すれば、1956年に調印した日ソ共同宣言は両国の議会が批准したもので、ソ連の継承国であるロシアにも履行義務がある。この宣言は平和条約を締結した後に、当時のソ連が日本国民に対する善意の証しとして歯舞、色丹の2島を日本に引き渡す可能性に言及している。

 ただし、これは日本側が第2次世界大戦の結果を無条件で認めることが前提となる。日本と協力の道を探る用意はあるが、日本が第2次大戦の結果を認めない限り、領土問題で双方に受け入れ可能な解決策を話し合うことはできない――というものだ。

 日ソ共同宣言はロシアにも履行義務があるが、第2次大戦の結果、北方4島がロシア領となったことを日本が認めることが交渉の前提条件だという従来の主張を繰り返したわけだ。ラブロフ外相はソチで両首脳が合意した「新たなアプローチ」についても、何ら目新しいことはなく、「あらゆる方向でパートナーとしての関係をはぐくむ必要性」を確認したものだと説明した。熟練した外務官僚だけに、こと領土問題については原則的な立場を強調したといえるだろう。

北方領土問題をめぐる日ソ、日ロ間の主な合意

▽日ソ共同宣言(1956年10月) ・平和条約締結後に歯舞・色丹の2島を日本側に引き渡すと明記。 両国議会が批准。

▽東京宣言(1993年10月) ・択捉、国後、色丹、歯舞の4島の帰属問題を歴史的・法的事実に立脚し、法と正義の原則を基礎として解決し、早期の平和条約締結をめざす。

▽川奈提案(1998年4月) ・択捉島とウルップ島の間に国境線を画定。4島の日本の主権を確認する一方で、ロシアの施政権を認める。→その後、ロシア側が拒否。

▽日ロの創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言(1998年11月) ・国境画定委員会と共同経済活動委員会の設置を指示。

▽イルクーツク声明(2001年3月) ・東京宣言を含む諸文書に基づき平和条約締結交渉を継続。56年の日ソ共同宣言は交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書。

▽日ロ行動計画(2003年1月) ・共同経済活動委員会を通じて、両国にとって受け入れ可能な形態を模索する。

▽ソチ非公式首脳会談(2016年5月) ・「新たな発想に基づくアプローチ」で交渉を加速。

落としどころは「共同経済活動」?

 ただし、このラジオ番組のなかで、ラブロフ外相は日本との関係改善への期待も表明している。それだけではない。領土交渉進展に向けたロシア側の“秘策”ともいえる方策を、ロシアの視聴者向けに披露したのだ。

「我々は以前から隣人の日本の人々に、これらの島々(北方4島)で一緒に経済活動をしようと提案している。そのために投資もし、特別経済地域もつくった。すべて可能だ。日本の仲間たちがまさに、この活動を積極的に推進してくれればうれしい。これ(共同経済活動)は多くの問題の解消に役立つ。これらの島々が日本人の訪問、日本のビジネスや人道活動にとって開かれた場所になる――。もしそのことが重要なら、他の問題はさほど本質的ではなくなる」

 実は北方領土での日ロの共同経済活動は、ソチでの首脳会談以降、ロシアの要人が頻繁に提案するようになっている。先に来日したトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表、コジェミャコ・サハリン州知事もしかりだ。それに呼応したようなラブロフ外相の発言は、単なる偶然とは思えない。「新アプローチ」で交渉を進めるうえで、ロシア側が「共同経済活動」を柱に据えようとしているのではないかとの印象を受ける。

 共同経済活動は北方領土を日ロが共同開発する構想で、両国の企業が合弁で工場を建設したり、共同事業を展開したりすることを想定している。ロシア側はとくに水産加工や地熱・風力発電、観光分野への投資を期待しているという。ロシア極東発展省は新型の経済特区「先進社会経済発展区」を北方領土でも適用する意向で、国後、択捉の両島が対象になるとの見方がでている。進出企業には税制面や通関等の優遇策を付与するほか、渡航する日本のビジネスマンにロシアのビザ(査証)取得を免除する案などが検討されているようだ。

日本側が難色を示し、立ち消えになっていた構想

 もちろん、ラブロフ外相が指摘したように、北方領土での共同経済活動は決して新しい構想ではない。公式的にはエリツィン政権時代の1996年11月、当時のプリマコフ外相が訪日時に提案したのが始まりだ。

 過去には日ロ間で「共同経済活動委員会」が設置され、実務レベルで検討されたこともある。プーチン、メドベージェフ政権下でもたびたび浮上し、ラブロフ外相も何度も提案してきた経緯がある。その意味では古くて新しいテーマであるわけだ。

 こうしたロシア側の長年のラブコールにもかかわらず、日ロの共同経済活動は一度も実現していない。例えば現地に工場を建設するにしても、どちらの国の法律に基づくかという「主権」の問題が絡むからだ。「ロシアの主権を認めるわけにはいかない」「帰属の問題があやふやになる」といった理由から日本側が難色を示し、結局は立ち消えになっていた。

 とはいえ、プーチン政権になって以降、北方領土では「クリール諸島の社会経済発展計画」に基づくインフラ開発が着々と進んでいる。韓国企業が択捉島の港湾整備事業に参加するなど、外国企業の進出もしばしばとりざたされている。さらにロシア国防省は北方領土を含むクリール諸島の軍備強化に動いており、北方領土の〝ロシア化〟は加速する一方だ。

限られる、双方が受け入れ可能な妙案

 もちろん、北方4島の日本の主権確認という日本政府の主張が通ればそれにこしたことはない。

 しかし、択捉島とウルップ島の間に国境線を画定するという1998年の川奈秘密提案はロシア側によって拒否された。以前に記したように、プーチン政権が想定する最大限の譲歩は日ソ共同宣言の履行とみられるだけに、4島の面積等分、あるいは3島の引き渡しといった案も非現実的だ。「双方に受け入れ可能な解決策」の妙案はおのずと限られてくる。

 共同経済活動については例えば、日ロの元外交官がこんな提案をしている。

 日ソ共同宣言の中で、平和条約締結後の歯舞、色丹島の日本への引き渡しを定めた条項を交渉の出発点とするとともに、同時並行で国後、択捉島に双方が受け入れ可能な法的地位をもった「特別共同経済地区」をつくる交渉を進めるというものだ。パノフ元駐日ロシア大使と東郷和彦・元外務省欧亜局長が2013年7月、ロシアのネザビシマヤ・ガゼタ(独立新聞)に共同で寄稿した。

 日本はあくまで原則論を貫くのか。あるいは共同経済活動を前向きに検討し、日ソ共同宣言の履行(歯舞、色丹島の日本への引き渡し)と国後、択捉両島の共同経済活動という合わせ技で解決策を模索するのか。はたまた第3の案を練るのか。

 当面は年末に見込まれるプーチン大統領の訪日を視野に、「新アプローチ」による水面下での交渉が本格化していくことだろう。

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