堀田佳男氏はトランプ当選を外した米国政治の評論家ですから、また予想を外す可能性はあります。ただ、外したことにより頭を丸めたのは彼の誠実さの表れと言えます。外務省出身の宮家などと比べれば真面と言えます。ただ、主張は欧米系のメデイアの主張をなぞっているだけという気がしますが。やはり、トランプの閣僚級の人材と直接インタビューできるようにならなければ、今度のトランプ当選のような予想をするのは難しいと思います。
矢野氏の記事からトランプの政策で見えてきますのは、ビル・クリントン、オバマの民主党政権がやってきたことへの全否定でしょう。強いアメリカを再現するために、米国民の雇用の維持拡大を図る積りです。①米国内への投資の拡大②規制緩和(労働規制、環境保護規制、社会保障政策)③税制の見直し④移民制限⑤国内治安維持⑥対中強硬派政策(通商関係人事:ナヴァロ国家通商会議議長、ウイルビー・ロス商務長官、カール・アイカーン貿易投資国際ビジネス・大統領顧問、ライトハイザー通商代表、軍人:マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官、ジェームズ・マティス国防長官、マイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官)です。
世界の平和を攪乱する中国に時間の利益を与えてはいけないと思います。日米豪印露による中国包囲網の形成と、経済的締め付けによって中国経済を崩壊させるのが最上策と考えます。無能のオバマの8年間は最悪でした。中国の為すがままで、ロシアにだけ経済制裁を課すアンバランスな政策を採ってきました。ロシアは核・軍事大国ではあるものの、GDP比で米国の1/10しかありません。翻って中国にはどうか。世界から投資資金を集めて、経済発展を軌道に乗せました。本記事にありますように反日政治家ビル・クリントンが中国のWTO加盟を詰めずに認めたからです。裏で中国の金が動いたのだろうと思いますが。1/20以降世界平和に向けて、バランスオブパワーの正常な世界が動き出すことを願っています。日本もその実現に向けて責任を果たさないと。
堀田記事
中国北部・山西省太原市のショッピングモールに登場した、ドナルド・トランプ次期米大統領に似せた巨大なオンドリ像(2016年12月24日撮影)〔AFPBB News〕
2017年を迎えるにあたり、ドナルド・トランプ次期大統領(以下トランプ)が政権初期に採ると思われる政策とその因果関係について予測したいと思う。
まずトランプが真っ先に行うと口にしていることから述べていきたい。1月20日の就任式直後、トランプは「オバマケア(米版国民皆保険)」を廃止すると繰り返し発言している。
だが施行されている保険制度を大統領の一存で中止することはできない。「オバマケアを廃止する」との意思を示せても、トランプ政権と共和党は代替案を準備できていないため、すぐに廃止すると健康保険を失う国民が多数出てしまう。
オバマケアが導入される前、米国には約4700万もの人が保険に入っていなかった。施行後、約2000万人が健康保険を手にすることができたが、オバマケアでも全国民はカバーしきれていない。
選挙中の勇ましい言動はどこに
残りの約2700万人は未保険のままである。しかもオバマケアの施行後、多くの加入者の月々の掛け金が上がり、オバマケアに反対する人が増えた。
仮にトランプが共和党主導の健康保険法を成立させたとしても、オバマケアのように多くの未加入者を救済できるとは限らない。
そのため、すぐに廃止するという過激な発言は現実的ではない。しかもトランプは当選後、オバマケアの条項の一部を維持するしており、選挙中の勇ましい言動は失せている。
トランプが就任初日に行動すると明言していることはまだある。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱である。
選挙中から米国の雇用を奪うとの理由でTPPに反対してきた。11月中旬、ニューヨークで安倍晋三首相と会談した時、トランプは同首相からTPPの思い入れを聞かされたはずである。
ところが商務長官に指名されているウィルバー・ロス氏や、新設された国家通商会議の代表に指名されたピーター・ナバロ氏といった保護主義政策を主張するアドバイザーの声の方がトランプにとっては説得力があったようだ。
北米自由貿易協定(NAFTA)も見直すとはっきり言っているので、多国間での自由貿易協定はトランプ政権下では軽視されることになる。その代わり、日本を含めた特定国で2国間協定を結ぶことになるだろう。
これは実にトランプらしい交渉の進め方だ。
初動で見透かされた安倍首相
子供の頃から、不動産業で成功した父親の事業のイロハを学んで会得したのが、特定相手との交渉術だった。いかに相手にプレッシャーをかけて優位な条件をのませるかにかかっている。多国間による交渉ルールを作るより、2国間交渉を好む理由がここにある。
トランプの日本に関する過去の発言を読むかぎり、日本は手玉に取りやすいという印象のようだ。日本は押しに弱いばかりか、米国が防衛しているという強みをトランプは最大限に生かして交渉に望んでくるはずだ。
駐留米軍の維持費を全額負担しなければ全面撤退もあるという言い分は、選挙中だけの論理ではないだろうい。これがトランプの本音であり、彼の言う「レバレッジ(テコ)」なのである。
つまり、「日本を防衛してあげる」というテコを使って、2倍も3倍も大きな成果を得ようというのだ。
彼の言葉を借りるならば「できるだけ優位に立って取引をすること」を念頭に置いているのだ。さらに「相手がこれなしでは困るというものをもつこと」を意識してさえいる。
日本が独自防衛できないということは、すでにトランプに弱みを握られていることに等しい。著書『トランプ自伝:アメリカを変える男』ではこうも書いている。
「交渉でやっていけないことは、何がなんでも成功させたいという素振りを相手に見せることだ。こちらが必死になれば相手はすぐに察知する。相手にこの姿勢を見せたら交渉はこちらの負けである」
安倍首相はたぶん11月のニューヨーク会談で、TPPを何としてもまとめたいと必死に説明したはずだ。その時点でトランプの術中にはまっている。会談後に撮られた写真で見せたトランプの笑顔は、「安倍はたやすい」という思いの表れだったのかもしれない。
不法移民政策については、しばらく強硬路線を採るだろう。シリア難民には門戸を閉ざし、国内の不法移民を追い返す方策を練るはずだ。同時に中南米からの不法移民と麻薬密売者を入国させないために、本当にメキシコ国境に壁を作る努力をし始めるだろう。
だが3100キロに及ぶ国境で本当に高い壁が必要とされるのは数百キロ。すでに高いフェンスが築かれている場所もある。多額の予算が必要になるが、連邦議会は来年から上下両院とも共和党が多数議席になるので、壁建設計画は可決されると思われる。
トランプノミクスへ集まる期待
繰り返しトランプが述べているメキシコ政府に工事費の全額を負担させる案は多難だが、トランプがどういったレバレッジを使うのかは見ものである。
経済の話題にも触れておきたい。
トランプが当選した直後から、為替相場はほぼ全通貨でドル高の動きを見せている。米国債の利回りは急上昇し、株式市場も記録的な高値をつけている。だが、まだ新政権がスタートしていないので実態経済が伴っていない。
本格的な冬に入る前に狂い咲きした桜のようにも見える。桜はすぐに散る運命にあるので、機関投資家につり上げられた株価はある時期に来て、急落することもある。
それでも、過去1カ月半で筆者が話を聞いた複数のエコノミストの中には、来るべきトランプ政権に楽観的な見通しを立てている人もいた。輸出に頼っている中国や日本にはマイナス要因は少なく、経済成長はむしろ上向くというのだ。
特質すべきなのは、トランプがドナルド・レーガン大統領を踏襲する政策を打ち出している点だ。レーガノミックスではなく「トランプノミクス」である。特徴は以下の4点。
(1)大型減税 (2)インフラ投資 (3)保護主義政策 (4)金融規制の緩和
これらによって米経済は好況が持続する可能性がある。当選前は「トランプショック」が世界経済を襲うと恐れられたが、専門家の見方も変われば変わるものである。
バブル再来の危険性も
トランプノミクスが導入されると米経済は数年、好景気に沸くかもしれない。日本も製造業を中心に景気が上向き、1980年代後半に訪れたバブルに似た成長が到来する可能性がある。
そうなると、米国はいずれ貿易赤字と財政赤字の双子の赤字が拡大してくるだろう。しかも日米で共通するのは、好況を本当に実感できるのは企業だけとの見方が強いことだ。
米国では中流層以下の実質所得が20年前と同じレベルにまで下落し、社会格差は縮まっていない。日本でも消費者の買い控えは貯蓄率の高い高齢者にも広がっており、相変わらず市場でのカネの回りが悪い。
トランプ政権はプラス・マイナスの両要因を抱えながらスタートする。大統領は今後4年間トランプのままなので、日本はトランプ政権といかにうまくつき合き、交渉していくかを一から練っていく必要がある。
矢野記事
米ペンシルベニア州ハーシーで演説するドナルド・トランプ次期大統領(2016年12月15日撮影)〔AFPBB News〕
ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利は、ピープルによるエスタブリッシュメントに対する反乱という「革命」の側面と、グローバリズムに対するナショナリズムの反撃という側面がある。
この両側面は、英国のEU離脱決定、イタリアでの「五つ星」運動の躍進などにも共通してみられる、世界的な潮流と言えよう。
中でも今回の米大統領選挙の結果は、世界と日本の将来にとり、最も深刻な影響を及ぼす。
トランプ氏の勝利の背景には何があったのか、トランプ候補は何を訴え新政権はどのような政策を採ろうとしているのかを、主に国内政策について、選挙期間中のトランプ氏の発言などから分析する。
1 背景となった深刻な米国内経済情勢
大方の予想に反してトランプ氏が勝利した背景には、米国内各州の深刻な経済、とりわけ雇用喪失がある。
2016年6月、メーン州での演説で、トランプ氏は、以下のように米国内の雇用喪失の深刻さを訴え、米国の労働者の利益のために自由貿易協定を見直すことを訴えている。
米国はここ20年間で、5000万人人口が増加したにもかかわらず、製造業の雇用は3分の2に減少した。家計所得は2000年から4000ドル減少し、失業率は1970年以来最も高くなっている。
「クリントンはワシントンのエリートのために闘っているが、私は、米国の労働者の利益のために、より公正でバランスのとれた貿易取引を創り出す」
9月にロスアンゼルスでは、以下のように演説し、バラク・オバマ政権の自由貿易政策とリーダーの無能を厳しく批判している。
「米国は、日本、中国、メキシコに対し毎年大規模な貿易赤字を出している。米国に対し、中国は毎年1000億ドルの貿易赤字を出し、日本は毎年数千台の車を輸出し、メキシコからは不法移民が流入している。中国人も数百万人が流入している」
「日本、中国、メキシコの指導者たちは賢明だ。彼らには豊富な交渉力もある。我々にも、交渉のできる有能な賢いリーダーが必要だ。善良だが米国のために何もできないリーダーはもういらない」
「アラバマ州では3万1000人、(テキサス州)ダラスでは2万人が集会に参加した。サイレント・マジョリティは私を信じている。彼ら『ピープル』はもう黙ってはいない。政治家に怒り、国のあり方について論じている」
また9月30日付の『ザ・ヒル』誌は、以下のように、オバマ政権下での一般国民の窮状を訴え既存の民主・共和両党の経済政策を批判し、既存政治にとらわれない実業家トランプ大統領候補の雇用創出政策、財政再建への期待を報じている。
「オバマ大統領が去る頃には、米国の連邦財政赤字は20兆ドルになり、6割以上の米国民の貯蓄は1000ドル以下になるだう。ヒラリー・クリントンと左派の官僚たちは、政府の介入を増やし、自由市場への規制を強化すればするほど、問題解決になると信じていた」
「他方、大半の右派は、単に減税し、補助金をバラまいて、わずかの雇用を生み出せばよいと信じていた。どちらも間違っている。幸い今、実業家出身の大統領候補トランプ氏がいる」
「雇用の創出とは、それぞれの地区議会で工場を閉鎖させないように訴え、税制の環境を維持強化することだ。また、破滅的な貿易協定を再交渉することである」
「トランプ氏の税制計画は、製造業の対外競争力を高め、雇用の海外流出を止め、事業を継続するものだ。また、大幅な減税と米国内での雇用に寄与した企業に対する報奨金により、米国を世界中から雇用を招き寄せる国にするものだ。我々は二度と奪われる立場に立ってはならない」
「赤字急増を生む宣戦布告なき戦争を続けてでも産油国を守るべきだという共和党エスタブリッシュメントの主張に反対する。戦争は最後の手段であり、豊かな国には公平な資金分担を求めるべきであり、米国の納税者を彼らの踏み石にさせるべきではない」
本選挙直前の2016年11月7日にトランプ陣営は次のように、米国内の雇用を喪失させ国内の製造業、畜産業などの主要産業の流出、崩壊をもたらしたとして、NAFTA(北米自由貿易協定)、中国のWTO(世界貿易機関)加盟、米韓自由貿易協定、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など、既存の貿易協定への反対姿勢を、具体的にデータを上げて明確にしている。
「TPPにより米国の自動車産業は一掃されるだろう。NAFTAにより、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニア各州の自動車産業はメキシコに行ってしまった」
「ミシガン州では、クリントンとオバマの政策により、米国の雇用と工場は他国に流出した。ミシガン州では、NAFTAと中国との貿易協定により、全雇用の4分の1以上、21万人分の雇用が失われた。2014年に再雇用された人の5人に3人は給料が減り、3人に1人は給料が2割以上減り、NAFTA締結以来ミシガン州では15万7000人分の雇用が失われた」
「農民も甚大な被害を受けた。ミシガン州の主要畜産品であった牛の、メキシコとカナダへの輸出はNAFTA締結後21年間に46%減少した」
「韓国との自由貿易協定締結以来、ミシガン州が韓国に輸出していた、自動車、機械類など上位10品目の貿易赤字は54%も増加した」
「ヒラリー・クリントンが進めているTPPにより、より多くのミシガン州の雇用が失われ、自動車産業と部品製造工場が中国や東南アジアに行ってしまうだろう」
「オハイオ州では、NAFTA締結と中国のWTO加盟以来、30万7000人分、3分の1の雇用が失われた。オハイオ州でも2014年に再雇用された労働者の5人に3人は給料が減り、3人に1人は20%以上給料が減った」
「NAFTA締結以来オハイオ州では14万5000人分の雇用が失われた。オハイオ州からメキシコ、カナダへの主要輸出品であった牛と豚の輸出は、NAFTA締結以来、それぞれ46%、76%減少した。韓国との自由貿易協定により、ヒラリー・クリントンは7万人分の雇用が創出されると言ったが、締結後の4年間で上位10品目の対韓輸出は58%も減少した」
「ペンシルベニア州では、NAFTAと中国のWTO加盟により、製造業の雇用は30万8000人分、3分の1が失われた。メキシコとカナダへの牛の輸出は46%減少し、対韓貿易では、米韓自由貿易協定締結後、赤字額が54%増加した」
「同様に、ノースカロライナ州では、製造業の雇用は34万8600万人分、43%減少した。特に繊維産業は壊滅し、ハイテク産業も打撃を受けた。この18年間で、ノースカロライナ州の最大の輸出産業であったコンピューターと電子部品は、390億ドルの赤字に転落した」
「この新産業での赤字と、NAFTAによる自動車産業、製造業の赤字とあいまって、ノースカロライナ州の貿易は赤字になった。牛のメキシコ、カナダへの輸出額は、NAFTAの22年間で59%減少した」
「米韓自由貿易について、クリントン長官は7万人分の雇用を生み、輸出を増加させると言っていたが、協定締結以来4年間で対韓貿易赤字は64%増加した」
「ニューハンプシャー州では、製造業の雇用は23万人分、3分の1が失われた。牛のメキシコ、カナダへの輸出額は、NAFTAの22年間で59%減少した」
「クリントン長官は、『新たな改善された米韓貿易協定』により、より多くの雇用が生み出され輸出は増加すると言っていたが、実際には対韓貿易赤字は154億ドル、99%増加した」
「このことは、10万2500人分の米国人の雇用が失われたことに相当する。米韓自由貿易協定締結以来、対韓貿易赤字は23%増加した。特に主要農畜産品であるリンゴとミルクの輸出は、それぞれ4年間で8%と88%減少した」
「TPPによりニューハンプシャー州は、雇用を喪失し、高価な訴訟沙汰に晒されることになるだろう。TPPは、外国企業に同州や米国に対する訴訟における秘密国際法廷での特別な権利を保障している。そのため、外国企業は米国の納税者から際限なく賠償金を得ることができる」
上に挙げられているミシガン、オハイオ、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ニューハンプシャーの諸州はいずれも、スウィング・ステイトと呼ばれる、民主党か共和党かいずれか票が割れる州であり、大統領選挙本選挙の帰趨を決する諸州でもある。
中でも、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアなどの各州は、かつては米国の中核的産業地帯であった。しかし、20世紀の中頃から、産業の西部への移転、産業構造の変化、国際化など、種々の要因により衰退してきた。
そのため、「ラストベルト(錆びついた地帯)」と呼ばれている。これらラストベルトの3州の衰退に、近年さらに拍車がかかっている。
これらの3州では、スウィング州の中でも、これまでは、自動車労組組合員などを中心とする民主党支持者が比較的優勢を占めていた。
しかし、ビル・クリントン大統領時代以来民主党政権が積極的に進めてきたNAFTAその他の自由貿易協定の結果、これらの州は、自動車産業の衰退、関連企業の海外移転、雇用の喪失、賃金の伸び悩みなど、深刻な経済危機にさらされてきた。他のノースカロライナ、ニューハンプシャー州も同様の状況にある。
上記の5州のもう1つの主要産業である農畜産業も同様であり、大幅な貿易赤字と減産、雇用喪失を強いられている。これら5諸州は、このようにNAFTA、中国のWTO加盟、米韓自由貿易協定などで最も深刻な打撃を受けてきた諸州でもある。
上記のトランプ陣営の本選挙直前の文書では、これらの自由貿易協定を推進したオバマ政権、ヒラリー・クリントン国務長官の責任を厳しく糺している。本選挙では、ニューハンプシャー州を除き、すべてトランプ候補が制し、大統領選勝利を決定づけた。
その背景には、上記の、自由貿易体制のもとで米国内の産業の空洞化と雇用の喪失が一般の労働者や農民に深刻な打撃を与え、既存の政治家、エスタブリッシュメントに対する憤懣として鬱積していたという事情がある。
トランプ候補は、「ピープル」の憤懣の声を聴き取り、そのエネルギーを「アメリカ・ファースト」のスローガンのもと、結集することに成功した。同時に彼は、既存の政治に染まらない、しかも実業家としての実績を持つ有能なリーダーという、自らのイメージ創りにも成功している。それらが彼を勝利に導いたと言える。
言い替えれば、トランプ氏がくみ上げることに成功した、国内経済問題に対する一般の労働者や農民の憤懣、特に雇用問題が、大統領選挙の勝敗を決する決定的要因となったと言えよう。
2 国内雇用回復、国内産業再生への期待
2016年6月30日付の『フォーブス』誌は、トランプ氏の経済政策について、以下のように論じている。
「トランプ氏が主張する、中間層を代表して貿易と移民について交渉する際の出発点は、貿易は自由であるべきだが、公正(fair)でなければならない。移民は歓迎されるべきだが、評価(measured)されねばならないというものであった」
「トランプ氏こそ、所得格差と地域不安が取り返しのつかない点に達する前に、高まるナショナリズムの感情を正しく導ける、現実主義的な起業家精神を持つ希望の星である」
「英国民がEUからの離脱に賛成票を投じ、米国の有権者がエスタブリッシュメントの候補者にノーを突きつけたのは、数十年にわたる賃金の伸び悩み、生活費の高騰、治安の悪化などをもたらした戦後の経済政治秩序に対する拒絶を反映したものである」
「ビル・クリントン大統領は、統一した労働基準や為替操作を統制する規則を強制することもなく、中国のWTO加盟を承認した。移民受け入れは、慎重に実行する必要があったにもかかわらず、欧米の経済を成長させ繁栄をもたらすとして、軽率に拡大された」
「官僚主義的なEUは、英国民にほとんど離脱交渉の余地を与えなかったが、英国民は投票を通じて変化を要求した。同様に、トランプ氏は、米国民の貿易と移民問題で、これ以上誤った政策を続けたくないという、草の根の声に耳を傾けた」
「トランプ氏は孤立主義者ではない。彼は、グローバルな国際的エリートの利益ではなく、米国民の最善の利益を代表する賢明なグローバリストである」
「EU離脱という投票結果は、英国と大陸との関係のあり方についての交渉の始まりを示しているが、同様にトランプ氏の主張は、米国の政治的エスタブリッシュメントに対し、労働者階層の窮状に対応するよう強いるものだ」
「米国民は、英国のEU離脱による経済落ち込みに陥ることなく、現状からの経済再生を達成できる。トランプ氏の起業家精神に基づく解決策は、そのための最大の希望の星である」
このように、トランプ大統領候補が一般国民の期待に応えて、米国に雇用を取り戻し、経済再生を可能にする最善の人物であることを強調している。
選挙直前に行われたミシガン州での演説で、トランプ氏は、ラストベルトの経済再生策について、以下のように約束している。
「ミシガン州こそ私の最後の演説の場所として最もふさわしい。私が大統領になれば、ミシガン州が外部委託によって失った雇用を取り戻し、ミシガン州を経済の原動力とすることを約束する」
「かつては、地元のフリントで車が作られ、皆さんはメキシコで水を飲むことはなかった。今ではフリントでは車が作られず、皆さんはフリントの水を飲めなくなっている。我々が勝利すれば、自動車工場を造り拡張する。私は皆さんのためにしなければならないことをよく分かっている。それは、これまでよりも大きく、より良く、より強い自動車策業をミシガン州に取り戻すことだ」
さらに「ミシガン州は歴史的な岐路に立っている。もしも我々がミシガンで勝利すれば、我々はこの歴史的選挙で勝利し、我々が望んできたものをすべて実行することができる」と、参加者に本選挙の歴史的な意義を強調している。
また、2016年11月6日のミネソタ州での選挙直前の演説では、有権者に対して、以下のように訴えている。
「我々の失敗を重ねてきたエスタブリュッシュメントは家庭での貧困と海外からの災厄以外に何物ももたらさなかった。我々はこの国を貧血状態にしてきた経済と政治には飽き飽きした。今こそ真の変化、人々を責任ある地位に就ける変化の時だ」
「この選挙で、腐敗した政治支配層か、あなた方『アメリカ人民』か、いずれがこの国を運営するかが決まる。彼女(クリントン)は彼らとともにある。私はあなた方とともにある。これが最後のチャンスだ」
「オバマケアを直ちに撤廃し取り換えるための真の変化が始まっている。オバマケアをそのままにしておけば、ミネソタ州の住民は、保険料の60%の引き上げを経験することになるだろう」
「真の変化とは、我々の政府に正直さを取り戻すことを意味する」
「私が米国の有権者にする第1の約束は、政府の腐敗を終わらせ、この国を特殊利益から解放することだ」
「トランプ政権は、米国から雇用が流出するのを止めるとともに、ミネソタ州から雇用が逃げ出すのを止める。もしある企業が、ミネソタを離れ、労働者を解雇し、別の国に移り、その製品を米国に輸入しようとするなら、35%の税を課する」
「我々は、シェール、原油、天然ガス、クリーンな石炭などの国産エネルギーを、規制から解き放つ。我々は、ミネソタの農民、労働者、小規模事業家にとり有害な、オバマ政権による規制をすべて撤廃する」
以上のように、トランプ候補は選挙戦の最終段階でも、企業の海外流出阻止と規制緩和により雇用を創出することを強調し、経済再生を誓っている。他方でトランプ候補は、大統領選挙直前のミネソタ州での演説でも、レーガン政権以来の大減税を行うと表明している。
このような大減税と、後述するインフラ投資、国防費の削減停止を、20兆ドルに上る連邦財政赤字の中、同時に達成するのは容易ではないと思われる。規制緩和、国内のインフラと軍事への投資、保護主義的な貿易政策により、経済が活性化され、必要な財源が確保できるかが注目される。
3 各種の規制緩和政策
トランプ氏は、経済再生の切り札として各種の規制緩和を進めることを、具体例を挙げて選挙期間中一貫して訴えている。規制緩和全般については、不要な規制をあぶり出し、その1割を止め、ビジネスを活性化するとしている。
(1)銀行業務の規制緩和
トランプ氏は、選挙期間中は銀行やウォール街を攻撃し、ポピュリスト的な発言をしてきた。しかし大統領選挙の最終段階では、ポピュリスト的色彩を薄め、ウォール街寄りの政策を打ち出している。
金融面では、政権移行チームは、金融危機後に銀行規制のために制定され、オバマ大統領が署名した2010年の「ドッド・フランク法」を見直すとしている。また不況期に商業銀行と投資銀行の分離を規定し、メガバンクを破壊した「グラス・スティーガル法」の再導入という選挙期間中の主張も、触れられなくなった。
2016年初めのアイオワの選挙運動でも、トランプ氏は、「ウォール街を、罰を受けずに逃れさせてはならない。ウォール街にも課税すべきだ。ヘッジファンドの減税措置はなくすべきだ。他の候補は銀行に操られている」と主張してきた。
しかしトランプ氏の選挙期間中の財務責任者であったスティーブン・ミニューチン氏は、ヘッジファンドのマネージャーであり、元ゴールドマン・サックスの銀行家でもあった。ミニューチン氏は、財務長官に指名されている。
移行チームの財務政策担当のポール・アトキンス氏はトランプ氏について、「彼は長年にわたり金融規制と企業に対する制裁に反対してきたので、金融関係の経営者とマーケットは、彼の当選を喜んでいるだろう」と述べている。
トランプ政権では、規制緩和が重大な政策項目となるとの移行チーム財務担当者の発言が伝えられると、ニューヨークのダウ平均株価は約4%上昇した。
トランプ氏は減税よりも税体系の見直しを重視している。特に、税体系の見直しにおいては、会社や投資家にとり、株式買い取りよりも投資を魅力的なものにしなくてはならないとみている。
(2)労働政策の規制緩和
労働政策については、トランプ氏は、労働省の新規制には反対するとしている。
顧客にとり最善の利益となり、顧客とアドバイザーの間の利益対立を解消するために、すべての仲介業者と財務アドバイザーに対して消費者側にとり有利になる基準を定めるための、労働省の新しい規制にも反対するとみられている。
(3)国内エネルギー産業の規制緩和
国内エネルギー産業へのインフラ投資については、積極的である。
ジョージ・W・ブッシュ政権の政府高官でトランプ氏に近い人物の発言によれば、これまで環境保護と安全性の観点からオバマ政権下では開発が中止されてきて論争となっている、キーストーンXLやダコタ・アクセスのパイプライン計画について、トランプ新大統領は就任早々にも前進させるだろうと語っている。
キーストーンXLはカナダのアルバータ州のタールサンドとメキシコ湾岸にある米国の精油所を結ぶパイプラインで、専門家は誰もが最高のものだと称賛する設備である。パイプラインの安全性を判定する権限を持つ連邦機関も安全性に問題はないとみている。
それにもかかわらず、オバマ大統領は、パリの気候変動会議を1か月後に控えているとの理由で、2015年、パイプラインの開発認可を拒否した。パイプラインを敷設しているトランスカナダ会社は、敷設を拒否している米連邦政府を現在訴えている。
現在使用中のパイプラインは鉄道よりも安全であることは立証されている。それにもかかわらずオバマ政権は、連邦のパイプラインの安全性を確認する担当機関には意見を求めず、実情を知らない司法省にパイプライン開発の許認可権を与え、パイプラインの専門家の発言は封じられている。
オバマ政権のもとで一部の活動家たちは、陸軍工兵団がパイプライン建設に許可を与える前に、環境評価が不十分として反対するという戦略を採っている。しかし、166ページに及ぶ陸軍工兵団の環境評価報告の内容は、事実に基づき詳細に記されたものであり、活動家たちが主張するような問題はない。
しかしオバマ政権は、水質汚濁を理由にパイプライン計画に反対するネイティブ・アメリカンと活動家たちが2度も法廷で敗訴したにもかかわらず、彼らを擁護して、パイプライン計画の中止を命じている。
トランプ氏の移行チームは、元のブッシュ政権やレーガン政権のメンバーから多くの制度上の知見を得ている。しかし、前政権の関係者の多くは、トランプ新政権での地位を得るために協力しているわけではない。それほど、オバマ政権の行き過ぎた政策に対する、保守良識派の不満は鬱積していると言える。パイプライン問題はその点を象徴している。
(4)社会保障関連法の規制緩和
トランプ政権は。オバマ政権のもとで制定された「可能介護(affordable care)法」に盛られた、大量の実施規則、指針を、来年早々に修正または削除する。健康介護法と保険金支払いを巡る訴訟を含め、司法省が係争中の法案について、トランプ政権は、共和党員に有利なように法案を修正するであろう。
トランプ政権は以下のような方法により、オバマケアの規制を緩和しあるいは修正することになる。
・下院の共和党員が、オバマ政権は、議会の承認を得ることなく、非合法の、コスト分担に対する補償金支払いを命じているとして、法務省を訴えている。トランプ政権は、この訴訟について、法務省側に法廷闘争を止めさせ、市場を弱めるような保険者への補償金の支払いを止めるだろう。
・最も重篤な患者にかかる費用をカバーするためのリスク・コリダー(回廊)保険金の支払いについて、オバマ政権は保険者に支払わせるように訴訟を決着させようとした。これに対し、議会の共和党は、リスク・コリダー保険は、予算に対し中立的でなければならないとの法律に違反する違法な補償金だとして強硬に反対している。トランプ政権は、司法省に対し、この訴訟についても共和党の意向に沿うように決着させるだろう。
・トランプ政権は、誰もがいずれ必要とする個人の医療介護保険の適用範囲拡大を保証するために、個人が義務的に支払うべき保険金に、より多くの例外規定を設けるであろう。
・トランプ政権は、オバマケア基金に対する、奉仕または登録による支援を中止するであろう。
・トランプ政権は、オバマ政権がすべての企業に対し、その保険計画に避妊法を含めるよう雇用者に要求していた、保健福祉省による義務規定を見直すであろう。最高裁は、より多くの事業者に例外を認める判決を出している。
4 トランプ新大統領の移民政策、対テロ政策
トランプ候補は2015年5月、メキシコとの国境に壁を造ると明言している。その際、不法移民には善良な人もいるが、「一部には強姦者、殺人者、麻薬密輸人も含まれ、彼らは南部の国境から入ってくる」と、メキシコからの不法移民の危険性を訴えている。
トランプ候補は、壁を造る理由として、メキシコ国境が乗り越えられるため、米国に安全保障上の危機がもたらされているとの危機感を指摘している。また、壁の建設に対しては1億人の米国民の暗黙の支持があり、バチカンにも壁があるが誰も法王を非難はしないと、正当性を主張している。
さらに、壁建設の資金は「メキシコに払わせるべきだ」、なぜなら、メキシコが、「米国をかじり取り、国境と経済の両面で利益を得ているからだ」と主張している。
トランプ候補は、具体的にどのようにしてメキシコに壁建設の資金を出させるかについては言及していないが、米国がこれ以上不法移民を受け入れられない、我慢の限界にきているとし、壁建設などの強硬策の必要性を説いている。
また建設業者としての実績のあるトランプ氏は、「誰にも自分のような壁は作れない」とも表明し、壁建設実現への自信を見せている。
2015年2月にトランプ候補は、オバマ大統領の不法移民に対する恩赦を違法として、一刻も早く撤廃するよう主張した。メキシコからの不法移民には、テロ組織とつながりを持つ数千人に上る者も含まれており、事態はさらに悪化していると訴えている。
2016年11月にはミネソタ州で移民対策について、以下のように具体的に述べている。
「トランプ新政権は、受け入れ先の地域住民の了解なく海外からの難民を受け入れない。テロに好意的な地域からの難民については、全面的な審査が終り、受け入れのための態勢が保証されない限り入国許可を出さない。我々は国境の安全を守り防衛する。もちろん、巨大な壁も建設する」
「我々は、不法移民の流入を止め、外国人犯罪者を追放し、市民への脅威となっている犯罪者と犯罪組織を最後の一人まで排除する」
ムスリム移民についても、米国の指導者が何が起こっているか分かるまで、ムスリム移民の米国への流入を全面的に禁止すべきだと主張している。世論調査結果によれば、米国人の25%が米国内での暴力行為の一部はジハードとして正当化されていると感じ、51%が、米国のムスリムには、(米国を捨てて)イスラム法で統治されるとの選択肢が与えられるべきだという考えに同意している。
このように米国民の間でムスリム移民に対する反感が高まっている。
トランプ氏は、このような世論を踏まえ、米国民の間で憎悪が理解を上回っていることは明らかであり、この問題とそのもたらす脅威について我々が理解し対応策を決める前に、ジハードを妄信する連中のテロの犠牲者になるわけにはいかないとし、ジハードから米国民を守るべきだと訴えている。そのための決定的な方法がムスリム移民の全面入国禁止であると主張している。
2015年3月、イランとの交渉について、トランプ氏は、ジョン・ケリー国務長官はイランに対し、我々の要求はこれだと突きつけ、もしイラン側が受け入れないなら交渉を打ち切るべきだ、オバマ政権はイランと長々と交渉しているが、こんなものは交渉とは言えない、私なら、イランとの交渉は一日で片付けられると、対イラン強硬論を主張している。
また、オバマ政権はあまりにも絶望感にとらわれ過ぎて、イランと悪い交渉をしてしまった、イスラエル寄りとは思われないと非難している。
イスラエルについてトランプ候補は、エルサレムはイスラエルの首都であり、市民の安全上首都は分割されるのは望ましくないとし、「私はイスラエルの真の友である」と発言し、クリントン氏が引き継ごうとしているオバマ政権のイスラエルたたきの政策を止めさせると約束している。
銃規制については、国民に武器保持の権利を認めた憲法修正第二条を尊重するとして、銃規制反対の姿勢を明示している。また、最高裁判所判事については、堕胎に反対し生命を尊重する保守派の判事を任命することを約束している。
これらの国内での銃規制反対、堕胎反対などはいずれも共和党の伝統的な支持層である全米ライフル協会、キリスト教福音派などの主張に沿った政策である。
黒人層のトランプ支持率は8%、クリントン支持率が88%とも報じられており、黒人は最も反トランプの多いマイノリティだが、その中でも、黒人の若者の大半が独立派を支持しているとの、次のような声もネットを通じて寄せられている。
「クリントン氏は自分が最善と思うことをするだけ、民意に迎合するだけで、黒人の若者の気持ちが分かっていない。トランプ氏は、若者の悩みに応える政策を提示してきた」
「オバマ政権の8年間がたっても、4割の黒人の少年少女が貧困のうちに暮らしており、黒人は持ち家比率が白人よりも低く、失業者の比率も高い。黒人の若者の多くは、失うものはないと感じている。オバマ政権の8年間の政策は何ももたらさず、黒人層の傷を深めただけだ。クリントン氏がオバマの政策を継承するのは我慢ならない」
このような黒人の若者の声は少数意見とみられるが、オバマ政権の政策が黒人層にすら十分な恩恵を与えず、失望を招いている一面を伝えている。なお、トランプ氏は、黒人の若者に対しては、特に教育の機会の拡大を訴えている。
ネイティブ・アメリカンも民主党支持が多数派のマイノリティであるが、保護区内の石油などの数十億ドルに上るエネルギーに対する備蓄規制を緩和し、ネイティブが主体的に事業に取り組めるようにしてもらいたいとの要望もある。
この点では、トランプ氏の主張が一部のネイティブ・アメリカンにも受け入れられるものであることを示している。
ヒスパニック系のトランプ候補に対する支持率は28%と報じられている。しかし、ヒスパニック系の米国人の中にも、米国は法治国であり、メキシコ出身者でも不法移民は不法なことに変わりはなく、彼らのおかげで、米国の市民として立派に責務を果たしているヒスパニック系の市民の職が脅かされ、あるいは地域の治安が悪化するなど迷惑を受けているとして、壁の建設を支持する声もある。
このように、トランプ候補の移民政策やテロ対策に関する主張は、過激に聞こえても、各種エスニックグループの本音の要求に応えた面も多い。そのため、マイノリティも含めて幅広い支持を集めることができたと言えよう。その意味で、トランプ氏の主張が米国の分断を深めたという指摘は、必ずしも正確とは言えない。
5 高い軍、法執行機関への評価と期待
トランプ氏は2016年年9月15日、ロスアンゼルスの海軍艦艇「アイオワ」艦上の演説で、以下のように、軍の再建と退役軍人、国境警備隊、警察官に配慮した政策をとることを明言し、国防や治安の第一線に立つ人々に相応の処遇を与え、強い米国を再建することを約束している。同時に、対外的にも交渉力のある有能なリーダーの必要性を訴えている。
「退役軍人が多くの場合、不法移民よりも冷遇されているのは不公正だ。退役軍人用病院の不適切な管理、長い待ち時間を是正し、システムを改革する。民間病院の利用を進め、サービスを向上し、治療水準を改善する。米国を再び強くし、軍を強化し、退役軍人のための社会保障を充実する」
「私を77人の中将、200人以上の軍人、22人の名誉勲章受章者が支持している。シークレットサービス、ニューヨーク市警にも感謝している。私は、『米国第一』を信条とし、再び米国に誇りをもたらす」
「イランやプーチンから尊敬されるような大統領では駄目だ。イランとの取引にオバマは1500億ドル以上をつぎ込み、核兵器を保有する権利を約束した。クリントンとケリーは世界中で破綻を招いている」
「国内にも多くの問題がある。不法移民により米国民の所得が失われ、麻薬が密輸入され、富が国外に流出した」
軍については、オバマ政権の国防費の強制削減措置を止め、強い軍を再建すると表明している。また法執行機関についても、「国境警備隊も自らが無力なことにどうすればよいか議論している。
不法移民の子供たちを85年間も面倒を見る必要があるのだろうか?」と演説し、理解と支援の姿勢を明確にしている。尋問方法として問題になっていた水責めについても、拷問に当たらないとして、法執行機関の活動への拘束を緩めている。
まとめ
以上から、トランプ候補の主張が、いかに、一般国民の各層、各州、各種エスニックグループ、軍・法執行機関など、幅広い国民の支持を得るような内容であり、またそれに応じるきめ細かな訴えを、選挙期間を通じて、演説会やメディアを使い様々の機会に展開してきたかが分かる。
また、単なるポピュリストではなく、ウォール街、銀行、エネルギー産業、軍需産業など、経済界の要望も踏まえた現実的政策を当選直後から正面に打ち出すようになっており、今後の政権基盤が財界主流を巻き込んだ堅固なものになる兆候を見せている。
トランプ氏は政治歴も軍歴もない実業家出身の初の米大統領であり、選挙期間中に主張していた政策も内政が主である。内政面の政策運営については、選挙期間中の公約から一部乖離することはあっても、その支持基盤を為す一般の労働者、農民、小規模企業家などの声を反映した政策をとらねばならないとみられる。
もともと共和党内でも主流派から外れ、党組織の支持はあまり期待できないトランプ新大統領としては、2期目を目指すためにも、雇用の確保、企業の海外移転阻止、各種の規制緩和、減税、自由貿易政策の見直し、壁の建設を含めた移民対策と国境管理の強化、治安維持とテロ対策、国内インフラ投資の拡大など、支持層の利害に直結した政策については、概ね選挙間の公約に沿って実行されるとみられる。
他方、一般の民衆には直接影響の少ない、外交、国防など安全保障面の問題は、トランプ政権に入る専門家グループの意見がかなり反映されるとみられ、今後の政策は不透明な部分が多い。
しかし、いずれにしても、「米国の国益第一」を追求し、「米国を再び偉大にする」との大目的に沿う政策になるであろう。
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