『FT 習主席が軍改革に意欲的な理由』(日経ビジネス8月8・15日号)について

本日から北戴河会議が行われるようです。<8/6日経 中国、人事巡り攻防激化 「北戴河会議」始まる

【北京=永井央紀】中国共産党の習近平指導部が党長老らと国内外の重要問題について話し合う非公式会議が5日までに河北省の避暑地、北戴河で始まったもようだ。最大の焦点は新たな最高指導部を選出する来秋の党大会に向けた人事の協議。習氏が2日に李克強首相らの出身母体である党青年組織、共産主義青年団(共青団)への統制強化策を打ち出すなど攻防は熱を帯びつつある。

 中国国営新華社は5日、党序列5位の劉雲山政治局常務委員(中央書記処書記)が北戴河で、各界の専門家との会合に参加したと伝えた。馬凱副首相や趙楽際党中央組織部長が同席しており、多くの党指導者が北戴河に集まっているとみられる。

 北戴河にある指導者専用の保養施設では5日、党高級幹部や軍高官を乗せたとみられる車列の出入りが確認できた。地元関係者によると7月下旬から交通規制が始まり、今月1日以降に「指導者が相次いで到着している」という。施設周辺は私服警官を含めた厳しい警備が敷かれ、専用ビーチの沖合では海警局の船が警戒に当たっていた。

 中国共産党は5年に1度の党大会で最高指導部を入れ替える。68歳以上が引退する慣例に従えば、来秋は7人の政治局常務委員のうち5人が交代。習政権の2期目を左右する人事をめぐり、長老も巻き込んだ北戴河会議が攻防の舞台となる。

 党中枢に詳しい関係者は「従来よりも党内の不満が高まっており、習氏が思い通りの人事ができるかは不透明だ」と言う。習氏は2012年に党総書記に就いて以降、江沢民・元国家主席につながる党幹部を相次いで汚職容疑で摘発し、権力基盤を固めてきた。李首相や胡錦濤・前国家主席ら共青団出身のグループとは一定の協力を保ってきたが、共青団系への摘発が続くにつれ関係が冷え込んできた。

 水面下では「習氏のやり方は強引すぎる」との批判がうずまく。成長鈍化が鮮明になった経済情勢や、「核心的利益」と位置づけてきた南シナ海の権益主張が国際仲裁裁判によって否定されたことも批判材料で、江派と共青団系の双方が不満を抱えているという。

 習氏は党内の引き締め強化で対抗する構えだ。「共青団改革計画」。党中央弁公庁が2日、唐突に発表した文書は党内に激震を走らせた。改革を「党を厳格に統治する一環」と位置づけ、共青団に対する統制強化が明確になったためだ。「習総書記の一連の重要講話を全面貫徹する」と忠誠を求める文言も入った。

 最も関心を集めたのは共青団幹部の人数を減らすというくだり。関係者は「これまで団幹部に約束されてきたスピード出世の特権が小さくなる」と指摘する。北戴河会議の時期に合わせた発表は、共青団の求心力をそぐ狙いとの見方が多い。

 6月末に開いた政治局会議では「共産党問責条例」が制定された。「民衆が強烈に反発した」「党の政治基盤を損ねた」などの時には党幹部の責任を追及すると明記し、習氏の政権基盤の源とも言える反腐敗運動を一段と強化した。習氏の右腕として摘発を取り仕切る王岐山・党中央規律検査委員会書記は「千回の働きかけよりも一回の責任追及だ」と党内にハッパをかける。「次に摘発される大物は誰だ」――。党内のあちこちで、不安げな会話が聞こえる。

北戴河会議とは・・・中国共産党の指導部が長老らと夏に重要事項を話し合う非公式の会議。北京から車で約3時間の避暑地、北戴河(ほくたいが)で開くことに由来する。避暑と休養を兼ねて同地を訪れていた毛沢東氏のもとに党幹部も集まるようになったのが起源。中国メディアが開催の事実を報じることはなく、会期も分からない>(以上)

8/6宮崎正弘氏メルマガでは中国人民解放軍内の「江沢民残党」を一斉粛清 田修思につづき、李継耐と寥錫龍将軍が失脚。北戴河会議が大揺れ?

 河北省秦皇島にある北戴河地区は警備が強化され、高級車の出入りが激しくなった。恒例の北戴河会議が開幕した模様である。

 その矢先にどかんと北京政界を揺らすニュースだ。

 軍人のトップである中央軍事委員会のメンバーだった李継耐と寥錫龍将軍が失脚したらしいという情報は北戴河会議を揺らしたに違いない。一説に江沢民は欠席するという情報がある(多維新聞網、8月6日)

 軍人高層部の粛清は、もともと谷俊山中将の失脚から開始された。摘発したのは劉少奇の息子で軍改革の旗頭だった劉源である。

劉源は15年師走に突如引退を声明し、習近平の軍師役を降りたが、腐敗幹部からは目の仇にされていた。

 江沢民派だった徐才厚将軍は末期ガンで入院中の病棟で逮捕され(その後、死亡)、ついで蘭州軍区のボスでもあった郭博(伯の誤り?)雄将軍が拘束、さきごろ無期懲役の判決が出た。ふたりの自宅や愛人宅からは「大判小判ざくざく」。ともかく現金と金塊、高価な骨董品多数が発見された。

 郭博雄への判決直後、田修思が拘束され、ついで江沢民派の残党として目を付けられてきた李継耐と寥錫龍将軍が拘束されたと『南華早報』が速報した(8月5日)。

ともに容疑は「重大な規律違反」。だれもが、この遣り方は習近平の軍内部にくすぶる江沢民残党狩りと認識する。

なにしろ胡錦涛時代の軍事委員会は殆どが江沢民人事で高層部が固められ、そのうちの四人(徐才厚、郭博雄、李継耐、寥錫龍)が失脚するわけだから「江沢民残党四人組」とでも今後言われるかもしれない)。

李継耐(74)は前総政治部主任、軍事委員会委員。つまり胡錦涛政権で軍のトップテンに入る大物である。

将軍人事、軍事委員への抜擢は江沢民が行ったことで知られる。

寥錫龍(76)は前総装備部主任。軍事委員会委員。かれもまた胡錦涛政権下で軍人トップテンに入る。江沢民によって出世の道が開かれた。

寥はベトナム戦争に参加した歴戦の勇士という評価もあるが、出身地の貴州省名産「マオタイ酒」を「軍御用達」にしたことで知られる。

軍兵舎は夕方ともなればマオタイ酒の宴会で、酒気が溢れ、戦争どころではなく、基地の隣にはこれまた軍経営の売春宿。軍の腐敗はきわまった。

なお、このニュースは南華早報がつたえたもので、まだ確認はとれていない。>(以上)

 習近平の軍の改革の意思やよし、でも軍の抵抗勢力の目を逸らすため外敵(主敵は憲法上の制約がある日本)を作り、戦争を始めるつもりのリーダーは時代認識ができていないとしか言いようがありません。中華思想に凝り固まった、自己中心の中国人に言っても詮方なき話ですが。宇野重規の『保守主義とは何か』の中に、「(エドマンド)バークのもう一つ興味深い概念に「時効(prescription)がある。これは英国人の自由を「相続財産」と呼んだこととも関連するが、バークにとってあらゆる権利は歴史的に認められてきたものであった。

人がある土地を占有し続けることによってその所有権が認められるように、王国もまた、その出発点が征服であったとしても、その後長く平穏に統治し、人々がそれに服従することによって正統性を得る。「時効こそ、草創においては暴力的だった政府を長年月の慣行を通 して熟成し、合法性の中に取り入れて来るものなのです」(同前)。

逆にいえば、時効によって認められてきた権利を、権力が恣意的に奪うことは暴力に等しい。フランスの新政府による財産の没収や、それを担保にしたアシニャ紙幣の発行は、そのような時効に基づく秩序を破壊することを意味した。

パー.クの考えるところ、国家とは、いま生きているものだけによって構成されるわけではない。「国家は、現に生存している者のパートナーシップたるに止まらず、現存する者、既に逝った者、はたまた将来生を享ける者の問のパートナーシップとなります」(同前)。現役世代が勝手に過去から継承したものを否定したり、逆に将来世代を無視した行為をしたりしてはならないのである。

いま生きている人間は、自分たちが生きている時代のことしかわからない。それゆえ現在という時間によって制限された人々の理性は、過去と未来の世代によって補われる必要がある。バークは現在の人間の視点を、時間軸に沿って拡大することによって補完しようとしたのである。

以上のように、バークの保守主義は、すべてをゼロから合理的に構築しようとする理性のおごりを批判するものであり、一人の人間の有する理性の限界を偏見や宗教、そして経験や歴史的な蓄積によって支えていこうとするものであった。

人間社会はけっして単線的に設計されたものではなく、むしろ歴史のなかでたえず微修正されることで適応•変化してきた。そうである以上、社会が世代から世代へと受け継がれてきたものであり、また将来世代へと引き継がれることを忘れてはならない。パークの保守主義はそのことを説き続けたのである。(P.60~63)」という一節が出てきます。

バークは18世紀に生きた思想家ですので、時代の制約を受けます。第一次大戦後のパリ不戦条約で戦争の放棄が謳われました。但し自衛のための戦争は除外されないとのことで現在も小規模な戦争が行われている訳です。バークの時効の概念は、歴史を逆回転させて昔の土地所有者の権利を認めれば今の所有者との間で戦争になるので、一定期間平和的に暮らす人々が居れば現行の所有者の権利を認めようというものです。中国の採っているチベット、ウイグル、モンゴル政策は平和的な生活を保障したものでありませんので、彼らには独立する権利があります。中国共産党に乗っ取られた漢民族もそうですが。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%88%A6%E6%9D%A1%E7%B4%84

中国の南シナ海の侵略行動は、第二次大戦で日本が負け、新南群島の領有権がハッキリしないため起きた問題です。でもバーグのいう時効の概念とは真逆です。鄭和の時代に通ったことがあるにしても領有したことにはならず、所詮国民党の11段線の焼き直しであることがばれていますので、とても平和的に領有を重ねてきたとは言えないでしょう。況してや、国際仲裁裁判の判決を無視し、傲然とした態度では中国への国際社会の視る眼は益々厳しくなるでしょう。いくら札束で誤魔化そうとしても。国際連合のG5の特権も剥奪すべき、或は脱退勧告すべきでしょう。

http://www.sguc.ac.jp/assets/files/d-kiyou/2015/08han.pdf

中国も米国の軍産複合体と同じように軍部が力を持っています。それを軍経験のない習近平が力で捻じ伏せようとすれば、どういう展開になるかですが。習の暗殺、クーデターが起こり、軍閥が割拠した時代に戻るのかどうか。解放軍もサラリーマン化して袁世凱が軍を持たない孫文を追い出し、臨時大総統になるような芸当の人物はいないのかも知れません。

どうなるにせよ、北戴河会議の人事がどうなるかが注目点です。

記事

習国家主席は、2012年11月に中国共産党総書記に就任して以来、人民解放軍の改革に力を入れてきた。鄧小平や胡錦濤前国家主席を見て軍を抑えなければ本当の権力を手にできないと知ったことが背景にある。腐敗撲滅によって軍部の権力を弱体化させる一方で、米国に対抗できる軍の近代化を図るのが狙いだ。

Xi in camouflage

今年4月20日、北京に完成した連合作戦指揮センターを迷彩服を着て訪問した。このことは習氏が人民解放軍をも掌握したことを改めて印象づけた(写真=新華社/アフロ)

 習近平国家主席は、今年4月、中国軍の新しく完成した連合作戦指揮センターを迷彩服姿で訪問した時、政界のエリートにメッセージを送っていた。

 これまで指導者が人民解放軍を訪問する際は、必ず緑色の人民服を着た。それは、中国共産党の軍事的な役割と文民的な役割を服装で区別する慣習に沿ったものだった。

軍を自分の権力の中核にした

 それだけに習氏が迷彩服で登場したのは斬新だっただけでなく、習氏の軍に対する態度の変化を示していた。習氏は軍を国家主席という権力の座の中核に据え、個人的な権威の支柱にも据えてきた。

 「習は意図的にこの伝統を破った」と、米中央情報局(CIA)で以前、東アジア担当副長官補佐を務め、現在は中国の軍事専門家で、米ジョージタウン大学で教壇に立つデニス・ワイルダー氏は話す。「彼が(迷彩服で訪問することで)伝えようとしたのは、自分は党を代表するだけでなく、諸君(軍)の一員でもある、ということだ」(同)。

 習氏の連合作戦指揮センターへの訪問は、テレビで全国放送された。習氏が北京の新施設でリアルタイムの作戦データが映し出されたスクリーンを見ながら、将校らと話す映像が流された。

 米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国軍の専門家、張太銘氏は、あのテレビ放送は「習氏が軍の現場レベルにまで関与しているという事実を浮き彫りにした。それは最近の中国指導者には見られなかった特徴だ」と指摘する。

 アナウンサーは習氏のことを軍の統合作戦の「総司令(最高司令官)」と呼び、習氏に軍で新たな肩書がついたことも明らかにした。総司令という肩書は、毛沢東の下で革命の元帥を務めた朱徳が1949~54年に使ったのが最後だ。

 習氏は既に党中央軍事委員会主席であり、軍に対する最高権力を持っているので、新たな肩書は形式的なものにすぎない。しかし、党の肩書に加え、軍においても肩書を得たことで、習氏の象徴的な権威は一層強化されることになった。

 習氏は強い指導者としてのイメージを強めるために階級や制服を利用した最初の政治家ではないが、昨年9月3日に行った大規模軍事パレードなど他のエピソードと総合すると、今回の派手な式典は、毛沢東や鄧小平が中国を率いた時代以来見られなかった形で習氏を軍と結びつけるよう設計されていたようだ。

毛沢東も最高司令官でなかった

 米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国政治専門家のクリストファー・ジョンソン氏は「毛沢東でさえ最高司令官ではなかった。これは全く新しいことだ」と言う。

 さらに重要なことに、習氏は軍を改革する戦いで自分の勝利を印象づけるために今回の施設訪問を利用したと観測筋は指摘する。軍の改革は往々にしてむごいプロセスを経る。習氏による軍改革も反腐敗運動の一環として、過去2年間で数百人の軍高官を粛清した。今後さらに陸軍の30万人の人員削減を進める計画だ。

PLA Navy

中国は習国家主席の下、陸軍を縮小し、海軍と空軍の増強に力を入れている(写真=新華社/アフロ)

 連合作戦指揮センターの開設式典では高度な技術を披露したが、軍の新たな秩序も示された。中国軍が21世紀の戦いに備える中、陸軍中心の時代が終わり、海軍や空軍、戦略ロケット部隊が台頭していくということを世に知らしめた。

 あるアナリストによると、腐敗撲滅運動は軍をばらばらにし、習氏の直轄下で組織の抜本改革を進めるために、まず軍を「弱体化」させる副作用もあったという。

 シンガポール国立大学東アジア研究所の劉伯健研究員は「人民解放軍内の派閥主義を打破することは、反腐敗運動の大きな狙いの一つだった」と説明する。同氏によると、軍上層部の粛清で既に少なくとも37人の将校が失脚し、全員が裁判にかけられている。

1949年以来の軍の大改革

 1949年の革命以来の広範に及ぶ改革とされる今回は、軍の報告体制を組み替え、その新体制を習氏直轄の指揮下に置き、軍の権限も一部奪った。

 一連の粛清は対立する勢力を排除し、習氏の権威を強化するのが狙いだった。軍の既得権益にメスを入れることで、習氏は過去40年間のどの指導者と比べても最大と言えるような賭けに出ている。

 「銃口から政権が生まれる」と言ったのは毛沢東だ。彼の死後、国家の基盤を成す軍と共産党の緊張した関係にあえて介入する人はほとんどいなかった。

 だが、軍はこの過去40年の間に派閥主義と腐敗がはびこり、政治指導部を見下していると言われるようになった。過去の指導者はこうした軍の態度を容認したが、習氏は明らかにこれを改革の優先事項と見なしている。

 先のワイルダー氏は、「指導者は常に軍との関係を考えなければならなかった」と言う。軍の共産党に対する関係を「条件付きの服従」と表現する同氏はこう指摘する。「軍こそが党の権力基盤なので、軍との関係は指導者にとって非常に慎重に扱うべき問題だ」。

 軍は公式には党に従属しているが「実は本当の意味で従属する相手は、中央軍事委員会主席(習氏)だけだ。今や習氏と軍の関係が政治体制全体のあり方を決定づけている」とワイルダー氏。

 ロシア国立研究大学高等経済学院の中国軍の専門家、ワシリー・カシン氏の言い方はもっと直截で、「習氏は軍を自分の政治的権力基盤にしつつある」と指摘する。

 この軍と党の微妙な関係の見直しは、米国と中国が南シナ海でにらみ合っているという重大な局面下で進んでいる。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が7月12日に、南シナ海における中国の領有権主張を退ける判断を下した後、人民解放軍は判決を受け入れないことを各国に思い起こさせるため、大規模な軍事演習を実施した。

 国内での政治力を挽回しようと軍がもっと強気な姿勢を取るべきだと働きかけている可能性があり、心配だと欧米の一部アナリストは話している。

 改革の狙いは米国に対抗できる軍を持つことだ。中国は2030年までに技術力と作戦能力で米国と肩を並べるか超えるとしているが、その達成は容易ではない。

 中国は過去四半世紀、ほぼ毎年、率にして2桁のペースで軍事費を増大してきたが、米国はまだ推定2000億ドル(約20兆円)とされる中国の年間軍事予算の3倍を軍事費に投じている。

日本との戦争の敗北は破滅的

陸軍中心から海軍、空軍強化へ ●中国人民解放軍の概要

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*1=大陸間弾道ミサイル *2=弾道ミサイル発射能力を備えた原子力潜水艦 出所:Financial Times

 一方、人民解放軍の技術レベルの低さは有名だ。最近の戦争に当たる1979年のベトナムとの国境紛争では、兵士がサンダルとソフト帽を身に着け、戦場での通信手段に信号旗を使っていた。

 また、空母や原子力潜水艦、ステルス戦闘機といった新世代のハイテク兵器が次々と生産されているが、専門家は、中国がこれらの兵器を効果的に使えるようになるには何十年はかからないかもしれないが数年は必要だという。

 専門家はさらに、米国はおろかアジアで対立する日本が相手でも、中国軍の今の力では戦争に勝てるか疑わしく、敗北した場合、政治的な代償は破滅的になりかねないと言う。「日本に戦争で負けたら、中国共産党にとっては全てがおしまいになる」(ジョンソン氏)。

 人民解放軍は農民のゲリラ軍として20年代に誕生し、49年の国共内戦で国民革命軍を倒し、共産党が政権の座に就いた後、国家の2本柱の1本になった。60年代の文化大革命の大混乱後、中国で機能している数少ない機関の一つとして台頭。推定700万人規模に拡大した軍はいわば「国家内国家」となった。毛沢東の死後、鄧小平は軍の権力に何らかの手を打とうとし、兵士の数を100万人減らそうとした。

胡前主席から教訓学ぶ

 ワイルダー氏はこう語る。「ベトナムとの戦争後、鄧小平が軍に立場をわきまえさせた様子を目の当たりにした習氏は今、同じ手を使っている」。

 習氏を突き動かしているもう一つの要因は、胡錦濤前国家主席と軍との関係だ。決定的だったのは2011年1月、ゲーツ米国防長官(当時)が北京で胡氏との会談に臨むタイミングで空軍が国産ステルス戦闘機の初飛行試験を行った時のことだ。ゲーツ氏は後に、「胡氏は飛行試験に驚き(編集部注:飛行試験が行われたことを知らされていなかったとされる)、外国の客の面前で屈辱を味わったと思う」と述べている。

 「この数年間、軍と文民の指導部の間に食い違いの兆しが何回か見られた」とゲーツ氏は当時、語った。

 カリフォルニア大学の張氏は「習氏は次期指導者になる準備期間中に胡氏と軍の関係の問題を目の当たりにしたことで、軍部に対する考え方を固めていったはずだ」と言う。

 習氏は実権を握って数カ月で最初の一撃を繰り出し、翌2013年11月に長期的な兵力削減と抜本的構造改革を進めると発表した。同氏は、人民解放軍の創設以来、4本の柱となってきた兵站(へいたん)を担う「総後勤部」と「総参謀部」「総政治部」「総装備部」を事実上解体した。これらの部はまだ存在こそするが、その影響力は劇的に弱められた。

 「共産党員は自分たちの系譜を内戦中に創設されたこの組織にたどる。しかも中華人民共和国の設立より20年も古いこれらの組織が事実上解体されているというのは、極めて衝撃的な動きだ」と前出のカシン氏は言う。

 並行して、反腐敗による粛清は徐才厚・元中央軍事委員会副主席や郭伯雄・前中央軍事委員会副主席を含む大勢の軍幹部の逮捕につながった。徐氏、郭氏も昇格人事で便宜を図る見返りに賄賂を受け取った罪に問われた。

Xu Caihou & Guo Boxion

腐敗撲滅は軍部の徐才厚・元中央軍事委員会副主席(左、収監前に死亡)や郭伯雄・前中央軍事委員会副主席(無期懲役)まで葬った(写真=2点:AP/アフロ)

まだ強い改革への抵抗

 徐氏は裁判を経て収監される前にがんで死亡。郭氏は7月25日、無期懲役の判決を言い渡された。

 改革と粛清の真の狙いは、軍内部の権力の本質を変えることだった。全ての部署は現在、陸軍主導の総参謀部ではなく、習氏率いる中央軍事委員会の支配下に置かれている。各部署は11機関(新設されたものも含む)と権力を共有するが、全て軍事委の直轄下にある。

 上海政法学院の海軍専門家、倪楽雄氏によれば、それでも舞台裏では軍内外からの抵抗が続いているという。「改革にはつきものだが、内部にも抵抗勢力がまだいる」。

 腐敗にうんざりしている若手将校など、軍の改革を支持する者もいるが、軍全体としては改革に抵抗している。過去1年間に軍の機関紙に掲載された多くの記事が共産党に対する忠誠を呼びかけていた。

 観測筋によると、当局が軍の支持を得ているとの自信を持っていたら、こんな記事の掲載は必要ないという。

 抵抗が最も強いのが、歴史的に軍を支配してきた陸軍だ。海軍、空軍、戦略ロケット部隊が重視されるのに伴い失うものが最も大きいからだ。

 「(陸軍の制服の色である)緑を着ている人は改革が気に入らない」とCSISのジョンソン氏は言う。

 もう一つの重要な要素は軍再編に伴う経済的影響だと倪氏は付け加える。社会不安を何にも増して恐れている習政権は、折しも経済が勢いを失い、一部の産業が既に何千人も人員を削減している時に、30万人もの兵力の削減をうまく進めなければならない。

 「地方政府は近く退職を予定している者に仕事を用意する圧力にさらされている。そのため、既に飽和状態にある組織内にさらにポストを新設する必要に迫られるかもしれない」(倪氏)

アジアの軍事費拡大を招く

 軍の改革により中国の近隣諸国が安心して眠れるようになることはないだろう。南シナ海と東シナ海では対立が生じる恐れが高まっている。ある近隣国の外交官は、軍を改善しようと改革に必死な中国の姿勢は「間違いなく地域の国々に合図を送っている」と言う。

 主に中国と近隣諸国が一触即発の緊張関係にあることから、各地で軍事費が拡大している。ストックホルム国際平和研究所の調査によると、アジア・オセアニア地域では、昨年の軍事費が世界で最も高い伸びを見せた。戦争で荒廃した中東の防衛予算の伸びをも上回る伸びだ。

 目下の問題は、新たに改造、近代化されたが、まだ試されていない「戦闘マシン」で習氏が何をする気なのかということだ。

 ベルギーに本部を置く非政府組織(NGO)の国際危機グループ(ICG)の謝艶梅氏(北京在勤)は、習氏が強硬派というイメージを打ち出し、軍への関心を深めているために中国がナショナリズムの方向に振れていると指摘する。

 「習氏は国家主義者で、自信に満ちた強硬イメージを打ち出したいと思っていると世間は感じており、そのため配下の政府高官や官僚たちは皆、それに合わせて自分の言動を調整している」

Charles Clover ©Financial Times, Ltd. 2016 Jul. 26

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