1/20日経ビジネスオンライン 趙章恩『台湾出身の16歳韓流アイドルが求められた「中国」』、1/22北村豊『16歳美少女「国旗事件」が民進党圧勝に貢献

趙章恩女史のプロフィールを見ますと

「ITジャーナリスト/KDDI総研特別研究員/東京大学学際情報学府博士課程

研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ、小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。東京大学社会情報学修士号取得後、東京大学学際情報学府博士課程進学。

日本経済新聞「ネット時評」、日経パソコン「Korea on the web」、日経デジタルヘルスオンライン「韓国スマートヘルスケア最前線」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。

著書に「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)などがある。」とあります。

彼女に「慰安婦」についてどう考えているのか聞いてみたい。東京で育ったようですから韓国の偏向教育・報道の影響は少ないのではと思いますが。特に、朝日新聞の誤報・謝罪と韓国の対応についてどう考えているのか。呉善花拓大教授のように韓国社会からバッシングを受けても真理の追究をするのかどうか。そうでなければ東大(韓国から見た敵国の最高学府)で学ぶ意味はないのでは。真実をネグるのであれば学問する意味はないでしょう。金慶珠東海大准教授のように何を学生に教えているのか分からないような人は百害あって一利なしです。帰国して貰った方が良い。

韓国メデイアは「政治にツウィを利用しようとする台湾の蔡氏」と非難していますが、筋違いと言うもの。蔡次期総統は「金の力で16歳の女の子に圧力をかける中国のやり方が正当かどうか」を言っただけです。慰安婦であれだけ騒ぎ、女性の人権尊重を言うのであれば中国に対し断固として人権侵害と抗議すべきでしょう。結局日本のマスコミ同様腐っているという事です。言い易い所しか叩きません。今の世界で一番横暴なことをしているのは中国ではありませんか?他国の内政干渉はできないというのであれば、日本のことをとやかく言うなと言いたい。

趙章恩女史も「帝国の慰安婦」を書いた朴裕河世宗大教授のようになってほしいと願っています。どんなに政治的・社会的圧力があっても、学者はガリレイのように「それでも地球は回っている」(言っていないという説もありますが)と言えるのが学者としての良心でしょう。

趙記事

 韓国の新聞は1月18日、台湾出身の韓流アイドル「ツウィ(本名:周子瑜)」が起こした旗騒動が台湾の総統選挙に大きな影響を与えたと一斉に報じた。台湾出身で、韓国と中国で活躍する女性アイドルが、テレビ番組の収録中に台湾の旗を持っていた。その行為が中国、韓国、台湾を巻き込む大問題に発展している。

 ツウィは、新人韓流アイドルグループ「TWICE」のメンバーで、現在16歳。TWICE は、韓国の大手芸能プロダクションJYPが、中国市場で売り出すべく2015年秋に企画したユニットだ。

 韓国の地上波放送MBCが2015年11月に放映した番組「マイリトルテレビジョン」の収録前、番組スタッフが演出のため出演者らにそれぞれの出身国・地域の旗を手渡した。ツウィは台湾の旗を手にしていた。

 韓国では、ツウィは台湾出身だから台湾の旗を手に取るのが当たり前だと思われ、何事もなく番組は放映された。マイリトルテレビジョンは、インターネットで先行して放送。これを録画・編集した番組を2週間後にテレビで放送している。編集の過程で、ツウィが台湾の旗を手に持っている場面はカットされ、テレビには映らなかった。この編集は旗を問題にしたからではなく、単に放送時間を短くするためのものだった。

 ところが2016年1月8日、台湾が中国から独立することに反対する台湾の芸能人や中国のネットユーザーがインターネット上での放送に目を留めた。ツウィが台湾の旗を手に持つ場面をキャプチャーした画像に、「台湾の独立を支持するなら中国で活動するな」といった内容の文字が書きこまれたものがSNS経由で拡散した。そして、16歳のアイドルに「台湾の独立を支持する政治活動家」というレッテルが貼られることになってしまった。

 中国のネットユーザーは反発。TWICEはもちろん、JYPに所属する他のアイドルも中国での活動をやめるべきだと主張するようになった。韓国の芸能界にとって中国は莫大な額のギャラを払ってくれる大事な市場である。

誤った発言と行動をお詫び

 JYPは1月15日、自社のホームページや中国語のSNSに、ツウィが謝罪する動画を掲載した。ツウィは一人でカメラの前に立ち、「中国人として海外で活動しながら、誤った発言と行動を取り、会社と両岸(中国と台湾)のネットユーザーを傷つけてしまいました。申し訳ありません」「中国での活動を中断して反省します」「中国は一つ」「私は中国人であることを誇りに思います」などと謝罪の言葉を述べた。

 JYPの代表であるパク・ジンヨン氏も同日、「傷ついた中国のファンの皆さんに心から謝罪する」という内容の謝罪文を発表した。 「(台湾の旗を手にすることが)どれほど深刻なことなのか社内で誰も理解していなかった。申し訳ない」 「ツウィは13歳の時、親元を離れて韓国に来た。親代わりである私がよく教えるべきだった」 「韓国と中国の友好関係と両国の文化交流に寄与するため努力する。ツウィは反省している」 「この事件によって影響を与えてしまったパートナー会社との関係を上手く解決していきたい」。 などなど、中国ファンの機嫌を損ねないよう精いっぱい謝罪の言葉を書いた。

蔡英文が勝利会見で取り上げる

 この謝罪動画と謝罪文が、今度は韓国のネットユーザーに火をつけた。なぜ16歳の少女が台湾の旗を手にしたぐらいで謝罪しなければならないのか、彼女は反省する必要があるのか、JYPはなぜここまで中国に低姿勢なのか、などとJYPを非難した。ツウィは韓国のアイドルなのになぜ韓国人はツウィを守ってあげないのか、という意見もあった。

 この過程でJYPのホームページはハッカーからDDoS攻撃を受けてダウン。1月18日になってもホームページにアクセスできない状態が続いている。

 朝鮮日報や韓国日報、聯合ニュースなどによると、台湾・民進党の蔡英文主席は総統への当選が確実となった直後の記者会見で、ツウィについてふれた。 「この2日間、あるニュースが台湾社会を揺るがした。韓国で活動する16歳の台湾出身の女性芸能人が、中華民国の国旗を持ったせいで抑圧された。この事件は党派を超越して台湾人民の公憤を呼び起こした」 「この事件は私に、国家を強くし、外部に対して一致団結させるのが次期中華民国総統の最も重要な責務であるということを悟らせた」 「国家の国民が国旗を手にするのは誰もが尊重すべき正当な権利である」 「(中国の)抑圧は両岸の安定した関係を破壊する」

ツウィが出演する広告を“自粛”

 複数の韓国メディアは18日、次のように報道した。 「『ツウィがあまりにも不憫。台湾人のアイデンティティとプライドを傷つけられた』として中国に反感を持つ若者が増え、台湾の独立を支持する民進党への票が増えた。このため蔡氏は当選した」 「世論調査の結果、ツウィの謝罪動画を観て民進党に投票した台湾の若者は134万人以上、得票率が2%ほど上がった」

 韓国の通信キャリアであるLGU+は、ツウィが出演するオンライン広告の放映を中断した。LGU+は、中国で問題になっているアイドルを、同社が販売する中国メーカー製スマートフォンの広告には起用できないと判断し、一時中断すると発表した。この広告は華為技術(ファーウェイ)製のスマートフォン「Y6」を対象にしていた。ツウィを起用したことがある化粧品会社も、「ツウィは弊社の公式モデルではない」と中国のSNSに発表し、中国ネットユーザーの攻撃を回避しようとした。

ツウィに謝罪させたのは人権侵害

 一部の韓国メディアは一連の騒動を批判した。「ツウィの何気ない行動を政治問題にまで飛躍させた中国のネットユーザーも、自分の知名度を上げようとSNSでツウィを攻撃した台湾の芸能人も、政治にツウィを利用しようとする台湾の蔡氏も、ビジネスばかり考えすぐ中国に謝罪した韓国の芸能プロダクションも問題があるのではないか。ツウィを盾にして後ろに隠れたMBCの番組スタッフを批判する声も大きくなっている。もっと懸命に対処できないものか」。

 韓国の芸能プロダクションは韓流をアジアに広めるため、「現地化」という名目で中国や東南アジア出身の少年少女をスカウトして韓国でトレーニングし、韓流アイドルとしてデビューさせている。しかし韓国の芸能プロダクションは今まで、アジアでアイドルを売り込むことばかり考えていた。歴史や伝統文化を学び、その上でコンテンツを制作し、マーケティングすることを疎かにしていた。これはツウィではなく、韓国の番組制作スタッフや芸能プロダクションが無知を反省すべき騒動であった。

 韓国内の外国人労働者や国際結婚で韓国にやってきた外国人女性を支援する韓国多文化センターは1月18日、「16歳の少女に謝罪を強制したことは、人権侵害に当たる」としてJYP社とパク代表を国家人権委員会に提訴する方針であると発表した。同センターは、ツウィの騒動をきっかけに、韓国で働く未成年外国人アイドルの労働環境について調べるよう検察に要求するという。JYP社は、謝罪はツウィの両親と相談した上で行われたことだったと釈明している。ツウィは韓国内での芸能活動は続けている。

北村記事

1月16日に投開票が行われた台湾の“総統・副総統”並びに“立法委員(国会議員)”のダブル選挙では、野党の“民主進歩党”(略称:民進党)が与党の“中国国民党”(略称:国民党)を圧倒して勝利した。

投票への熱意は薄れた?

 総統選挙は、有権者数1878万2991人に対して投票者数1244万8302人で、投票率は66.27%で史上最低であった。総統選挙の投票率は、第1回(1996年):76.04%、第2回(2000年):82.69%、第3回(2004年):80.28%、第4回(2008年):76.33%、第5回(2012年):74.83%と推移して来た。第6回となる今回の投票率は前回の第5回よりも8.5%も下がったが、投票率は2000年以来回を重ねる毎に低下しているのが実情である。今回投票率が大きく下がった背景には、国民党の現職、“馬英九”総統による失政や中国への接近姿勢が国民党に対する国民の強い反発を呼び、民進党の圧倒的な優勢が早くから予想されていたことから、投票への熱意が薄れていたことも影響したかもしれない。

 今回の総統・副総統選挙では、民進党候補の“蔡英文”・“陳建仁”(得票数:689万4744票、得票率:56.12%)が、国民党候補の“朱立倫”・“王如玄”(得票数:381万3365票、得票率:31.04%)、“親民党”候補の“宋楚瑜”・“徐欣塋”(得票数:157万6861票、得票率:12.83%)に大差で勝利した。国民党候補と親民党候補の得票を合算しても539万票余りで、民進党候補の689万票余りとは150万票もの差があり、蔡英文・陳建仁の圧勝であった。

 また、立法委員選挙でも、民進党の躍進は目覚ましく、前回(2012年)の議席40を28議席増やして68議席とした。これに対して国民党は前回64議席を29議席減らして35議席に転落した。中国とのサービス貿易協定反対に端を発した“太陽花学運(学生ひまわり運動)”から派生した新党の“時代力量(時代の力)”は5議席を獲得、親民党は前回同様に3議席に留まった。党派別の得票率は、民進党:45%、国民党:39%、時代力量:3%、親民党:1%であり、民進党と国民党の差はわずか6%であったが、国民党は地方区で大敗したために、議席を大幅に減らしたのだった。<注1>

<注1>立法委員選挙は地方区と比例区に別れているが、比例区の議席は党派別の得票率で配分される。今回の議席配分は、民進党:18議席、国民党:11議席、時代力量:2議席、親民党:3議席であった。

さて、選挙前日の1月15日の夜、韓国の芸能事務所「JYPエンターテインメント」(以下「JYP」)が、同事務所所属の女性アイドルグループ「Twice」のメンバーである台湾出身の“周子瑜(チョウ・ツウィ)”の動画をYouTubeに配信した。Twiceは2015年5月に開始されたオーディション番組を通じて、同年7月に選出された9人で編成された女性アイドルグループで、韓国人5人、日本人3人(モモ、サナ、ミナ)と台湾出身の周子瑜(芸名:ツウィ<Tzuyu>)で構成されている。

 周子瑜は1999年6月14日生まれの16歳、出身は台湾の“台南市”。彼女は13歳で故郷の台南市を離れて韓国へ渡り、タレント養成所で学んだ後に、16歳でTwiceの最年少メンバーとして選抜されたのだった。また、周子瑜は米国の映画情報サイト「TC Candler」が発表した「2015世界で最も美しい顔100人」の第13位にランクされている。ちなみに、これにランクされている日本人は4人(石原さとみ、桐谷美玲、島崎遥香、佐々木希)で、その最高は第19位の石原さとみである。

「台湾独立支持者は閉め出せ」

 ところで、Twiceは結成された2015年7月から芸能活動を開始した。そうした活動の中で、あるテレビ局のバラエティ番組に出演した際に、周子瑜は自分が台湾出身であることを示す“中華民国”の国旗である“青天白日満地紅旗”と韓国の“大韓民国旗”の2本の小旗を手にして、小さく振りながら歌ったことがあった。当然ながら、その時、他のメンバーも大韓民国旗と日本国旗の小旗をそれぞれ手にしていたはずだが、この青天白日満地紅旗がいけなかった。

 2016年1月8日、台湾出身ながら現在は中国大陸で活躍する男性歌手“黄安”がインターネットの“微博(マイクロブログ)”に「テレビ番組の中で台湾の青天白日満地紅旗を打ち振る周子瑜は台湾独立支持者だ」と告発した。この告発を見た中国のネットユーザーたちは、台湾独立支持者はけしからんとして、そんな周子瑜がメンバーとなっているTwiceには中国で芸能活動をさせるなとか、Twiceを中国から閉め出せと騒ぎだしたのだった。

 こうした中国のネットユーザーの動きに慌てたのがJYPだった。大事な顧客である中国からTwiceが締め出されるようなことになれば、稼ぎが大幅に減る。それにはどうすればよいのか。Twiceのメンバーに出身国の国旗を持たせることは、恐らくJYPが考えたものだろうが、そんなことは構っていられなかった。そこで、わずか16歳の周子瑜に「言うことを聞かないならTwiceを辞めてもらうしかない」と因果を含ませて、周子瑜の動画を撮影したのだろう。

 事前の説明が長くなったが、その動画とはどのような内容なのか。画面には無造作にまとめた髪を左側に垂らし、黒色の丸首セーターを着た周子瑜の上半身が灰色の壁を背景に映し出される。周子瑜の表情は硬く、心労からかやつれ、美しいその顔は曇って見える。周子瑜はやおら口を開く。「皆さん、今日は。私は皆さんにお話しがあります」。こう言うと、周子瑜は正面のカメラに向かって深く頭を下げて一礼した。頭を上げた周子瑜は1枚の原稿を取り出すと、中国語で次のように読み上げたのだった。

タレントと社長が謝罪

 「皆さん、今日は。私は周子瑜です。すみませんでした。もっと早く謝らねばならなかったのですが、現在の状況にどう対処すればよいか分からず、今まで皆さんに直接対面する勇気がありませんでしたので、今になってしまいました。中国はただ1つであり、“海峡両岸(台湾海峡の両側)”は一体です。私は終始自分が1人の中国人であることに誇りを感じています。私は1人の中国人として国外で活動しているのに、私の言行上の過失により、会社ならびに“両岸(中国と台湾)”のネットユーザーの感情を傷つけてしまったことを、非常に申し訳なく思うと同時にとても恥じ入っています。私は当面中国における全ての活動を停止することを決定しました。真摯に反省します。改めて皆さんにお詫びします。ごめんなさい。」

 こう述べると周子瑜は再び頭を垂れてお辞儀をした。頭を上げた彼女はぐっと口元を引き締めていたが、そこには無念さがにじみ出ていたように思えたのは、筆者の思い込みか。

 これに続いて、JYP社長の“J.Y.Park(朴軫永)”が同社のミニブログに次のような中国語の文章を発表した。

 「皆さん、今日は。私はJ.Y.Parkです。

 先ず初めに、中国の友人たちを傷つけてしまったことに対して衷心よりお詫び致します。同時に、我が社の社員、ツウィ(周子瑜)および私自身が何も考えずに今回の事件を起こしてしまったことに対して重く、深く後悔しています。このことに対して私は再度深くお詫びいたします。

 今回の事件を通じて、私は1つの国家と協力するにはその国家の主権、文化、歴史および国民感情を尊重しなければならないことを深く体得しました。これら全ては我が社および我が社所属の芸人に非常に大きな教訓を与えました。今後、私たちはこの種の事件を決して発生させないことを固く誓います。

 私は改めて私、我が社および所属の芸人を一貫して支援いただいている中国のファンの皆さまに衷心からのお詫びを申し上げます。私たちは皆さまを失望させ、皆さまの心を傷つけました。皆さまを傷つけたことを挽回し、皆さまの支持に報いるため、我々が努力を続け、中韓の友好と両国間の文化交流に貢献する所存です。

 過去数日間、ツウィ自身も感じるところ多く、同時に反省しています。彼女は13歳で故郷を離れて韓国へ来ました。私および我々の会社がツウィの両親に代わって彼女を育成することができなかったことは、私と会社の大きな誤りでした。我々はツウィの中国での活動を当面停止し、今回の事件で影響を受けた全ての関係者と今後の事を適切に処理いたします。」

 上記から分かることは、JYPが事件の責任を全て周子瑜に押し付け、彼女を犠牲にすることで事件を引き起こした責任を免れようとしていることである。台湾と中国の複雑な関係に思いを至らせることなく、何も考えずに、周子瑜に青天白日満地紅旗を持たせたのは、他ならぬJYPのスタッフだったはずだが、厚顔にも周子瑜の教育を怠ったことに原因があったと述べるに至っては、開いた口が塞がらない。

飛行機でバイクで高速鉄道で急遽、投票へ

 さて、周子瑜の動画を知って怒ったのは台湾の人々であった。韓国のテレビ番組で台湾出身の周子瑜が祖国である中華民国の青天白日満地紅旗を手にすることが、どうしていけないことなのか。番組で周子瑜に青天白日満地紅旗を持たせたのはJYPのスタッフであるはずなのに、わずか16歳の周子瑜に全ての責任を負わせ、「中国はただ1つ」と言わしめた謝罪動画をYouTubeで配信するとは、周子瑜がかわいそうなだけでなく、台湾および台湾人を侮蔑した行為であると考えたのである。これは台湾の人々のナショナリズムを強く刺激した。

 本来ならば16日のダブル選挙には行かない積りだった人々が、周子瑜の動画を知って勇んで投票所へ駆けつけたのだった。彼らは誰もが中国と一線を画する民進党に投票した。

 日本に留学中のある学生は、動画を知ると早朝5時50分発の飛行機に飛び乗り“台北市”へ戻って投票を行ったという。また、台北市内に住む若者は、動画を見ると即座にオートバイで南部の実家へ向かい、本来予定していなかった投票を行った。台北市内の某氏は動画を知ると、投票するために実家のある“金門県”<注2>へ帰ろうとしたが、台北市からの飛行機チケットが取れなかったので、高速鉄道で南部の“高雄市”へ移動し、高雄市から飛行機で金門県へ帰り投票を行った。

<注2>中国福建省“厦門(アモイ)市”の対岸に所在し、台湾が管轄する金門島。台湾の行政区分では福建省金門県。

 これらは代表的な例に過ぎない。周子瑜の動画に関するニュースを知って、当初は投票を予定していなかったにもかかわらず、急きょ投票に出向いた人たちが、台湾全土にどれほどいたのかは分からない。しかし、それが民進党の勝利に大きく貢献したことは否めない事実のようである。

中国官営メディア「人民日報」海外版に属する“微信(ウィーチャット)”の「“侠客島”」は、1月17日付の「ネットユーザーが周子瑜を討伐するのは、ポピュリズムの狂喜」と題する文章を発信した。同文章は中国で初めて中国メディアが台湾芸人の周子瑜事件に絡み彼女の活動を禁止する措置を取ったことを認めたのである。すなわち、歌手の黄安が周子瑜を台湾独立支持者だと告発したのを受けて、中国メディアは一斉に反応した。周子瑜が出演した北京衛星テレビと安徽衛星テレビの番組は周子瑜の名前を削除したし、“華為(ファーウェイ)”ブランドの携帯電話を販売する韓国の代理店は、周子瑜とのCM契約を解除したのだった。また、同文章は同時に、周子瑜事件が発酵して大きなものとなった結果、多くの“神転折(奇跡的な転換)”が生じ、誇張なしで、民進党に50万票の増大をもたらしたと述べたのである。

「50万票」の意味

 1月17日付で“米国之音(Voice of America中国語)”が報じたところによれば、ニューヨーク台湾商業会議所の会長“李金標”は、台湾のダブル選挙で民進党が圧勝したことについてインタビューを受けて、周子瑜事件は民進党に50~100万票をもたらしたと述べた。李金標は、「中華民国の国旗を持てば、誰でも台湾独立支持者になるのか。周子瑜に対する謝罪の強要が、ネットを通じた投票の呼びかけを生み、台湾の若者たちの大量動員につながった。その根底にあるのは、反感である」と述べた。

 一方、1月17日付の中国メディアは、周子瑜事件はいずれかの政治勢力の挑発によるものであると論じ、周子瑜は「罪のない少女」であると報じた。また、国営テレビ“中央電視台(中央テレビ)”は周子瑜を含むTwiceの出演番組を放映した。Twiceの中国での活動が早々に解禁となったのは、JYPの戦略が功を奏したと言えるのだろうが、JYPが周子瑜の心に残した傷は深い。

 上述した周子瑜事件がダブル選挙において民進党の圧倒的勝利に大きく貢献したことは間違いのない事実であろう。但し、周子瑜事件が民進党にもたらしたという50~100万票を差し引いたとしても、民進党の得票数は国民党の得票数を大きく上回っていた。それほどに、台湾の有権者は過去4年間の馬英久総統および国民党による執政に大きな不満を感じていたのだ。周子瑜事件からも分かるように、次期総統となった蔡英文女史にとって対中関係の舵取りは極めて困難なものとなることが予想されるが、民主選挙で民意により圧倒的勝利を収めたことが、蔡英文総統にとって大きな心の支えとなることは間違いない。