近藤大介著『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』について

この本の中で14年末の「3経済主体」の債務合計は3000兆円とありました。12月の米国の利上げで人民元下落=債務増は確定的です。中国発のリーマンショック以上の激震が走りそうです。いつデフォルトするかでしょう。軍事的野心を隠さない中国ですから、経済崩壊させて野望を潰えさせることが重要かと。幸い習近平は経済音痴とのことでこのまま突き進んでほしいです。日本の政界・経済界共に助けることはしないように。

中国の賄賂は上だけ取るのでありません。下も賄賂を普通に取ります。そういう社会です。具体的な例は以前のブログで書きましたので割愛させて戴きます(小生の中国駐在時代の経験を踏まえたものです)。賄賂額が57兆円と言うのですからスケールの大きな悪です。中国が世界の中心になれば「悪徳」が栄えることは間違いないでしょう。

内容

P.3~7

まえがき

中国政府が自ら予測する「最悪の近未来」

「中国経済は、いったいどうなってしまうのか?」 「中国経済は、内部でいま何が起きているのか?」

最近、こんな質問をよく寄せられる。

実はこうした質問に対する「回答」を、2015年の「国慶節」(10月1日の建国記念日)の直前に、中国政府自身が作っている。中国国務院(中央官庁)で財政分野と投資分野をそれぞれ統括する、財政部と国家発展改革委員会の官僚たちが、共同でまとめたとされる、<中国経済の近未来予測>なるものの内容が漏れ伝わってきている。 それは一言で言えば、悲観的な未来予測だった。まず短期的には、生産過剰、(不動産や株式などの)資産価格バブルの崩壊、地方政府債務の増大という「三大要因」によって、中国経済がかなり深刻な状態に陥るだろうと予測している。

この危機的状況から脱却する最も望ましい方策は、中国経済を牽引する「三頭馬車」と言われる輪出、投資、消費のうち、消費を伸ばすことである。実際、2014年のGDPにおける消費が占める割合は、51.9%と過半数を超えた。だが経済の悪化に伴い、国民の消費は、今後頭打ちになると見込まれる。また輸出も、世界同時不況の様相を呈してきているため、急回復は望めない。そうなると中国経済は結局、政府主導の投資に頼らざるを得ない。

しかしながら、経済は下降傾向にあり、資産価格バブルは崩壊し、利率は高く、政府が全国に下達する各種通達は矛盾に満ちている。これらがすべて、投資を抑制する要素として働くため、投資を増大させることもまた、困難だとし ている。実際、2015年上半期の固定資産投資は、前年同期比で11• 4%増加しているものの、その前年の15.7%増に比べて増加の幅は後退している。

つまり、これまで中国経済を牽引してきた馬車は、いまや三頭とも息切れ状態なのである。その結果、中国経済はこの先、かなりのレベルまで下降していくだろうというのが、中国政府の見立てなのだ。

そうなってくると、銀行は自己防衛本能を働かせ、貸し渋りに走る。そして銀行の貸し渋りによって、さらに景気は悪化する。だがもしも中国政府が、強制的に銀行の貸し渋りを方向転換させるならば、今度は銀行が大量の不良債権を抱え、破綻リスクが高まっていく。

さらに、経済の悪化が雇用の悪化を招く。2015年7月には、中国全土で 749万人もの大学生が卒業したため、いまでさえ雇用は大変厳しい状況だ。

そのため、2016年—2020年の「国民経済と社会発展の第13次5ヵ年 計画」では、GDPの目標については言及しないだろうとする見方が、中国政府内部で広がっている。高い目標を掲げても、単なる絵に描いた餅になる可能性が高いからだ。換言すれば、中国のGDPはこの先、大幅に下降していくと いうことに他ならない。

そのような状況下で、2017年秋の第19回中国共産党大会を迎える。「習近平政権10年の折り返し地点」にあたる第19回共産党大会に向けて、激しい権力闘争が予想される。

本来なら経済分野は、国務院総理であるナンバー2の李克強首相の責任だ。だが、習近平国家主席は李克強首相の権限を事実上、剝奪しているに等 しいので、習近平主席の経済運営責任が問われることになる。そしてそうした党大会へ向けた仁義なき権力闘争が、さらに経済停滞を加速させることになる—-。

このような現在の中国経済が抱える諸問題を、できるだけ分かりやすく述べたのが本書である。

第1章では、2015年夏に起こった中国株の大暴落によって、国民の家計があっという間に消失していく様を詳述した。中国メディアは、わずか3週間で7000万人の「股民」(個人投資家)が、平均40万元(約800万円)= 560兆円も損失したと報じている。第2章では、中国経済を巡る社会主義と市場経済の摩擦について論じた。その摩擦の中心は、中国の富の6割を握る国有企業で、民営化どころか、市場の寡占化と共産党の指導強化が進んでいる。

第3章は、8月11日から3日連続で人民元の対ドルレートを計4 .5%も切り下げた問題を取り上げ、人民元国際化に向けた習近平政権の野望と苦悩について述べた。最後の第4章は、同年8月12日夜に天津で起こった大爆発事故と、習近平主席が仕掛ける権力闘争がもたらす経済損失について論じている。

総じて言えば、公になった数値だけを見ても、地方政府の債務は邦貨で480兆円以上に上り、銀行の不良債権も発表されただけで36兆円に達する。そして2015年夏の株価暴落による560兆円の消失—この3つを足し合わせると、実に1100兆円近い。ところがこの「1100兆円の損失」も序章に過ぎず、中国経済のさらなる悪化が待ち受けているのである。

私は、1989年の天安門事件以降、中国報道に関わり始めて、すでに25年余りになる。これまで100回以上訪中し、現在でも2カ月に一度は中国取材を行っている。本書の内容も基本的にはすべて、最新の中国取材に基づいたものだ。拙著『「中国模式」の衝撃』(2012年)、『対中戦略』(2013年)、 『日中「再」逆転』(2014年)に続く習近平時代の中国分析第4弾となる。

本書が、広範な読者の「中国への疑問」の解決に、少しでも寄与できれば幸基である。

P.34~38

一昔前までは、株で儲けてマンションと車を買うというのが、一般的な中国人の人生設計だった。ところが、2014年秋から2015年夏にかけての第 3次株ブームでは、すでに持っているマンションと車を売って株に投資するという人が続出していた。なぜなら不動産バブルがすでに崩壊していたため、株ほど高配当の投資は、他に存在しなかったからだ。それだけに、被害は甚大なものとなった。

悲劇は、大学のキャンパスにも及んだ。国営新華社通信の調査によれば、6 月15日の大暴落の時点まで、中国の大学生の実に31% (約790万人)が、 日々株の売買に興じており、そのうち26%は5万元(約100万円)以上もつぎこんでいたという。そのため大学生の破産者が、にわかに社会問題化した。 それどころか、中国全土で高校生、中学生、果ては小学生まで、株に夢中になっていた事実が明らかになった。中国は2013年まで約35年間にわたって一人っ子政策を貫いてきたが、親が築いた財産を、一人っ子が成人する前に食い漬してしまった構図だ。

2015年7月、私が北京首都国際空港に降り立つと、3カ月前のように 空港で誰もがスマホをいじって株取引をやっているような光景は、もはや見られなかった。その代わり、私がスマホの電源を入れると、大学生の株破産と無関係とは思えない怪しいメッセージが、いくつも飛び込んできた。 〈本物の北京の女子大生を斡旋します。彼女たちはいま夏休みで、心と身体を持て余しています。電話をもらってから1時間以内に、ご指定の場所にとびきりの美女を派遣しますのでいますぐお電話を……>

株価暴落の翌日に「旅行」に出かけた習近平

それでは、これほどの株価暴落を受けて、習近平政権は、一体どんな対抗策を講じたのか。結論を先に言えば、この時も習近平主席は、経済オンチぶりを見せつける行動に出たのである。

株価暴落が始まった翌日の6月16日、習主席は自らの「誕生プレゼント」と して、2泊3日の旅行に出かけた。目的地は、貴州省の遵義である。習主席が誰よりも尊敬する故•毛沢東主席が1935年、「遵義会議」を開いて中国共産党の権力を掌握した「聖地」を訪れたのだ。

中国中央テレビのニユースは、習主席が、「聖地」を一歩一歩踏みしめる様子と、いかに毛沢東主席を髣髴させる偉大な指導者かということを、繰り返し報じた。その一方で、株価暴落や、それに警鐘を鳴らすような報道は、党中央宣伝部によって封じ込められてしまった。

思えば「初代皇帝」の毛沢東主席もまた、極度の経済オンチとして知られた。1958年に大躍進と称して「15年でイギリス経済を追い越す」と意気込み国中の鍬・鍬から鍋まで鉄鋼に変えようとした結果、約3500万人の国民を餓死させている。晚年の1966年には紅衛兵を動員して文化大革命を起こし、丸10年にわたって国の経済を麻痺させた。 歴史に「もし」はないが、1949年の建国当初から「2代皇帝」鄧小平が指導していれば、中国は20世紀のうちに、アメリカを凌ぐ世界最大の経済大国に変貌を遂げていたに違いない。

ところがいまの「5代皇帝」習近平主席も、毛沢東主席以来の経済オンチなのである。早期に北京で対応にあたっていれば「致命傷」は防げたかもしれないのに、3日間も西部の山奥にある「毛沢東の聖地」に籠ってしまったのだ。

中国株の底が抜け、目を覆うばかりになっていた7月7日。この日は8年間にわたる抗日戦争のきっかけとなった盧溝橋事件が1937年に勃発して 78周年の記念日だった。そこで習近平主席は、株価暴落で自殺者が相次いでいるにもかかわらず、中国共産党の「トップ7」を全員引き連れて、北京郊外の盧溝橋にある中国人民抗日戦争記念館を訪問したのだった。

これにはさすがに中國人たちも呆れたようで、私の「微信」には、普段は見られない習近平批判がいくつも入って:きた。

〈いまは「抗日戦争勝利」より「金融戦争勝利」を優先すべき時だろうがー〉 〈「中国の夢」を唱える暇があれば、一刻も早く「股災」の火を消してくれ〉

ちなみに、「股災」(株の災い)と並ぶもう一つの流行語も、瞬く間に中国当局によって、イン夕―ネットやSNSから消されてしまった。 また、ある中国共産党関係者は、私に次のような見立てを開陳した。 「習近平主席は、今回の株暴落に乗じて、欧米のへッジファンドとつるんでいる江錦恒を捕えようとしている。経済よりも、最大の政敵である江沢民元主席との権力闘争の方が大事なのだ」

たしかに江沢民元主席の長男である江錦恒は、10年間にわたって中国科学院上海分院長として、上海の通信利権を一手に握ってきたが、2015年1月に事実上、解任された。そして同年8月下旬には、中国のイン夕―ネット上で 「当局に拘束された」とのニセ情報が飛び交ったのだった。

P.56~57

最大の問題は「地方政府の莫大な借金」480兆円

『上海証券報』(2015年8月21日付)の報道によれば、2014年末時点での中国の各種債務の合計は、150兆300億元(約3000兆円)に上り、これは中国の同年のGDPの235%に上っている。2008年の時点で は170%だったため、債務は着実に増えていることになる。中でも最も深刻な問題は、そのうち24兆元(約480兆円)を占める地方政府の債務だろう。

2015 年8月27日、楼継偉財政部長(財務相)が、国会にあたる全国人民代表大会の常務委員会で鉦言した。楼部長は、「返済が迫っている高金利の地方債の返還のため、これまでの2兆元(約40兆円)の融資に加え、新たに1兆 2000億元(約24兆円)を追加し、計3兆2000億元を地方債の形で融資する」と宣言した。

この発言を受けて、全人代常務委員会は8月29日、地方政府が返済責任を負う債務を、16兆元(約320兆円)に抑える特別措置を決めたのだった。

だが、こうした措置は債務の引き延ばし策に過ぎず、利子がかさんで、さらに多くの債務を背負っていくことになった。「国家が漬れることはない」とは言うものの、社会主義の中国の場合、資本主義国と較べて、はるかに「巨大な政府」なので、習近平政権は急速に身動きが取れなくなってきているのである。

P.74~76

中国の「ワイ□収入」は総額57兆円

第三の反論は、習近平政権の厳しい「贅沢禁止令」によって、中国特有の 「ワイロ経済」が激減した。その結果、消費が落ちたかに見えるだけであって、実際には、中国人はしっかり貯蓄したり、他の方法で消費している—         というものだ。

この反論について考察するには、中国の「ワイロ経済」なるものが、胡錦濤政権時代まで、一体どのくらいの規模で蔓延していたのかを見る必要がある。 これは非常に見極めが難しいが、一つだけヒントとなる統計が存在する。

私が北京に住んでいた2010年8月、中国初の民間経済シンクタンクである中国経済改革研究基金会国民経済研究所が、「灰色収入調査結果」なるものを発表した。「灰色収入」とは、「ワイロ収入」のことだ。

これは2008年を基準に大規模な調査を行ったものだが、何とG D Pの3割に当たる4兆元(当時のレートで約5兆元)もの「灰色収入」が、中国社会に存在していたという。しかも個人の収入全体に占める「灰色収入」の割合は、高所得者層が62%、中所得者層が5%、低所得者層はゼロだったという。この意味するところは、高所得者層は正当な収入よりも賄賂収入の方が多 く、それ以外の人々は、賄賂社会とは無縁だということだ。

この衝撃的な発表に中国人は騒然となった。当時の温家宝首相も「わが国は全国民が腐敗にまみれている」と嘆いたことから、「全民腐敗」という言葉が流行語になったほどだ。だが、その温家宝首相も「一族で27億ドルも不正蓄財している」と2012年10月に『ニユーョーク・タイムズ』にスッパ抜かれて大恥をかいた。

ともあれ、現実がこの調査の通りだとしても、やはり3割程度なのである。 習近平時代になってワイロが激減したことで、むしろ高止まっていた高級品がリーズナブルな価格に戻ったという事実もあるわけで、やはり無理がある。

結論として、中国経済は、かなり沈滞していると見るべきなのである。停滞どころか、俗な言い方をすれば「ヤバい状態」だ。中国当局が厳しい報道規制を敷いているため表には出ないが、将来を悲観した市民による無差別殺人や自殺の類いも後を絶たない。

こうした「ヤバい状態」は、首都•北京だけに限ったことではなかった。私は2015年7月に、新疆ウィグル自治区を4日間訪れたが、自治区の中心都市ウルムチもまた、空前の不景気に苦しんでいた。

町の中心部には巨大スーパーのカルフールがあったが、夕刻の書き入れ時というのに、客は私を入れて一ケタだった。夏のピーク時というのに観光客は激減し、地場産業も育っていなかった。

習近平政権は、中国とヨーロッバを結ぶユーラシア大陸の総合的なインフラ 開発計画「シルクロード経済べルト」をプチ上げており、ウルムチをその拠点にしようとしている。だが習近平主席が抱く「中国の夢」と、厳しい「現実の悪夢」との差は、いかんともしがたいものがある。

P.129~131

国民に夢を見せながら、再び管理を強めていく政府

それにしても、この時の中国人民銀行幹部と記者との侃々誇々の質疑は、中国が抱える様々な問題を露呈させた。

第一に、中国の自己評価と、他国が中国を見る評価との大幅な乖離である。 国際社会が啞然としてしまうような措置も、中国国内ではベストを尽くした適切な措置だったとみなされてしまうのだ。これは何も為替レートの問題に限ったことではなくて、中国共産党政権が推進する諸政策についても言える。それ どころか、個々の中国人についても当てはまるような気がしてならない。

第二に、社会主義市場経済の限界だ。これについては前章で詳述したが、改めて池と魚の比喩を使って説明したい。

池の中に魚がたくさん泳いでいる。魚は池の中を自由に泳いで構わないが、 池の管理人が厳重に包囲し、管理している。池は秩序だっていたが、魚が成長 していくにつれ、魚は池を跳び越えて、大海に出たがるようになった。だが池の管理はますます厳重になって、魚は苦しがっている       。

池が中国で、管理人が共産党政権。そして魚が中国人だ。いまの中国は、ちょうどそのような状態だといえる。さらに言えば、池から大海へ渡る「抜け道」を築いた者がいて、コネやカネがある魚は大海へ渡れる。もっともニセの 「抜け道」に引っかかる魚も後を絶たないが。

そのようなわけで、いまや中国という池はすっかり混乱し、かつ沈滞してしまっている。この根本的な解決方法は、二通りしかない。第一の解決策は、池を大海と繫いで魚を解放し、管理をやめることだ。魚にとってはありがたいが、池の管理人の権威は失墜する。 第二の解決策は、池を昔の「旧き良き姿」に戻すことだ。池の管理人にとっては安心して管理できるが、すでに丸々太った魚は、昔のように再び痩せ細るしかない。

いまの習近平体制が行おうとしているのは、まさに「第二の選択」なのである。より正確に言えば、魚たちに「第一の選択」を取るかのような「夢」を抱かせながら、実際には「第二の選択」に邁進している。だから1• 7億人の「股民」(個人投資家)が大損こいて愚民と化しても平然としているし、為替レートを強引に変えても、開き直っているのである。