『米軍と共同FONOPに乗り出しても時すでに遅し 南沙諸島の中国基地群の存在を前提とした戦略が必要』(10/6JBプレス 北村淳)について

北村淳氏は「穏当なFONOPは手遅れだから、日本も米軍と南シナ海で共同作戦を取ることは意味がない」と考えているようですが、そんなことはないでしょう。尖閣防衛には大きな意味があります。一緒に行動すれば、尖閣防衛の共同作戦も展開でき、大きな抑止力となると思います。自分の都合だけ考えて行動するだけでは信用されません。

況してや「穏当なFONOP」であれば、無害通航権の行使だけで中国にとっては痛くもかゆくもないとのこと。しかしよく考えますと「穏当なFONOP」というのは南シナ海を公海ではなく中国の海に認めたようなものではありませんか。公海であれば準軍事行動を取っても(ヘリの発艦等)おかしくありません。オバマはそれでもなかなか認めないというのはおかしい。足元を見られているし、腹違いの兄弟が中国でビジネスしている影響があるのかもしれませんが。民主党は中国の金塗れで腐っているのでは。

http://ameblo.jp/chanu01/entry-12012480407.html

無害通航を言うので、頻繁に中国軍艦が日本領海内を通過するようになりました。日本政府は国際法上認められていると言って傍観しないで、敵が無害航行を主張するのであれば、今の黄海での米韓合同演習に参加すべきでは(これは公海上ですが)。まあ、韓国が嫌がるでしょうけど。相手は法の抜け穴を利用したり、都合の良い所をつまみ食いしたり、こズルイ行動を取ります。孫子以来の伝統です。国際仲裁裁判所の判決を「紙屑」と言う国です。都合が悪い部分はそう言って無視するでしょう。中国人の本性です。日本はもっと相手の嫌がることをせねば、やられ放しになります。石垣島にTHHADを配備したらどうでしょうか。

http://www.sankei.com/politics/news/160615/plt1606150068-n1.html

記事

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南シナ海スプラトリー諸島のミスチーフ礁(2015年5月11日撮影、資料写真)。(c)AFP/RITCHIE B. TONGO〔AFPBB News

9月中旬に訪米した稲田朋美防衛大臣が、中国による覇権主義的な南シナ海進出に関して、「アメリカが南シナ海で実施している『公海航行自由原則維持のための作戦(FONOP)』を支持する」旨を明言した。そのためアメリカ軍関係者などの間では、日本がアメリカとともにFONOPを実施するものと理解されている。一国の大臣が明言した以上、アメリカ側の反応は当然であろう。

これを受けて中国側は、日本がアメリカに追従して南シナ海での中国の活動に介入することに対して不快感を露わにしている。先週も中国国防当局は、「日本がアメリカと共同パトロールや共同訓練などを中国の管理する海域で実施するということは、まさに火遊びに手を出すようなものだ。中国軍が座視することはあり得ない」と強い口調で日本に“警告”を発した。

オバマ政権が渋々認めた中途半端なFONOP

だが、当のオバマ政権は中国に対して腰が引けた状態が続いており、FONOPの実施すらもなかなか認めようとはしていない。

アメリカ軍関係者の中でも対中強硬派の戦略家たちは、数年前から南シナ海でのFONOPを実施すべき旨を主張していた。2014年春には、南沙諸島のいくつかの環礁(ジョンソンサウス礁、ガベン礁、クアテロン礁)で中国が埋め立て工事を開始したことがフィリピン政府などによって確認されたため、中国側をある程度威嚇する程度のFONOPを実施すべきであるとの声が上がった。しかし、オバマ政権に対しては暖簾に腕押しであった。

そして、2014年6月になると、ファイアリークロス礁で、埋め立てというよりは人工島が建設される計画が進められていることが明らかになった(本コラム、2014年6月26日「着々と進む人工島の建設、いよいよ南シナ海を手に入れる中国」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41041)。当然、アメリカ国防当局や連邦議会などの対中強硬派の人々から、軍事的色彩の強い強硬なFONOPの早期実施の声は強まった。だが、オバマ政権によるゴーサインはなかなか発せらず、ファイアリークロス礁、ジョンソンサウス礁、ガベン礁、そしてクアテロン礁で人工島の建設が進められていった。

2015年の3月には、それらの4つの環礁に加えてヒューズ礁とミスチーフ礁でも人工島建設が進められていることが確認された。そして、埋め立て拡張工事の規模の大きさから、本コラムなどでも人工島には3000メートル級滑走路が建設されるに違いないと予測した(2015年3月12日「人工島建設で南シナ海は中国の庭に」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43161)。

当然のことながら、アメリカ軍当局の対中強硬派の人々による“強硬なFONOP”実施の要求はますます強まった。それでもアメリカ政府は軍事力を使った対中牽制を許可しようとはしなかった。

そして2015年夏には、上記の6つの環礁にスービ礁を加えた7つの環礁での人工島建設が急ピッチで進んでいることが確認された。それだけではなく、ファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁には3000メートル級滑走路の建設が始められていることも明らかになった(本コラム、2015年9月24日「人工島に軍用滑走路出現、南シナ海が中国の手中に」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44833)。滑走路だけでなく、7つの人工島にはそれぞれ港湾施設が整備されつつある状況も航空写真に映し出された。

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南沙諸島の軍事バランス  この段階に至って、7つの人工島が3つの本格的滑走路を備えた海洋基地群となりつつあることが、誰の目にも明らかになった。さすがに対中牽制に極度に慎重であったオバマ政権といえども、しぶしぶ米海軍太平洋艦隊に南シナ海でのFONOPを許可せざるをえなくなった。

だがオバマ政権がアメリカ海軍に許可したFONOPは、かねてより対中強硬派が希求していた“強硬なFONOP”ではなく、ごくごく穏健な形式的FONOPであった。

すなわち「米海軍駆逐艦と米海軍哨戒機が中国が中国領と主張している島嶼や人工島の周辺12海里内領域を速やかに、かつ直線的に通航する」ことによって、「国際法で認められた『公海航行自由原則』を中国は尊重すべきである」ことを暗に要求する作戦である。

この“穏当なFONOP”は、2015年10月(人工島の1つ、スービ礁沿岸12海里内海域)、2016年1月(西沙諸島のトリトン島沿岸12海里内海域)、2016年5月(人工島の1つ、ファイアリークロス礁沿岸12海里内海域)の3回実施された。そして5月以降、4カ月以上たっても第4回目のFONOPは実施されていない。

(関連記事) ・本コラム2015年11月5日「遅すぎた米国『FON作戦』がもたらした副作用」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45163 ・本コラム2016年2月4日「それでも日本はアメリカべったりなのか?」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45947 ・本コラム2016年5月19日「米軍の南シナ海航行で中国がますます優位になる理由」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46862

メッセージにすらなっていない米国のFONOP

アメリカ側の考えでは、人工島やトリトン島などは中国が軍事的に実効支配をしているものの領有権紛争中の島々であり領有権が確定していない以上、その周辺海域は中国の領海ではなく公海である。したがって、公海をアメリカ軍艦が航行すること(その上空をアメリカ軍機が飛行すること)に対して、中国が異を唱えることは許されない。このような論理に基づいて、オバマ政権は、太平洋艦隊に軍艦と軍用機による“穏当なFONOP”を認めたのである。

しかしながら“穏当なFONOP”では、それらの島々に対して強固な実効支配体制を固めている中国にとっては、なんらの影響を与えることにはならなかった。なぜなら、トリトン島や人工島が中国の主張通り中国領だとしても、中国の領海内を軍艦が両国に対して軍事的脅威を与えない状態で通航することは、「無害通航権の行使」として国際法的に認められているからである。

オバマ政権が許可した“穏当なFONOP”は、まさに「無害通航権の行使の範囲内での軍艦による通過」そのもののため、FONOP実施海域が公海であろうが中国領海であろうが、いかなる軍艦にとっても合法な行為なのだ。

もしアメリカ側が「FONOP実施海域は公海である」ということを示したかったならば、“強硬なFONOP”を実施するしかなかった。つまり、12海里内海域で何らかの軍事的行動(たとえば艦載ヘリコプターを発進させる)を実施することによりアメリカの強い姿勢を見せつけなければ、中国に対する牽制には全くならないのである。このような行為は、公海上ならば問題はないが、他国領海内では無害通航権から逸脱した軍事行動そのものだからだ。

しかしながら、国際法的には「無害通航権の行使」にすぎない“穏当なFONOP”に対して、中国側は軍事的脅威を受けたとの姿勢を打ち出して、それを口実に、ますます南沙人工島や西沙諸島の“防衛措置”を強固にしつつある。

抜本的な戦略転換が必要

要するに、アメリカ側が実施したきわめて中途半端な形の“穏当なFONOP”は、単に「アメリカは中国に抗議している」というだけであり、“何もしないよりは少しはマシ”程度の状態なのである。そのような穏当なFONOPに日本が参加しても、南シナ海情勢を(日本にとって)好転させることにはなり得ない。

もっとも、日米共同でFONOPを実施することを契機として、かねてより対中強硬派が唱えている“強硬なFONOP”に切り替えれば、これまでとは違って強い対中姿勢を示すことになることは間違いない。

しかし、すでに7つの人工島がほぼ完成し、3つの3000メートル級滑走路も誕生した現在、いくら“強硬なFONOP”を実施したところで、中国が人工島を更地に戻す可能性は(中国が戦争により軍事的に撃破される以外は)ゼロと考えねばなるまい。

もちろん、アメリカも日本も、フィリピンなど南シナ海沿岸諸国も、中国との戦争などを望む国は存在しない。ということは、「アメリカに追随して共同FONOPを実施する」などという段階はもはや過ぎ去っており、中国の人工島軍事基地群の存在を大前提として南シナ海戦略を構築しなければならない段階に突入してしまっているということを認識しなければならない。

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『風前のTPP、米衰退映す』(10/9日経 FT)、『対中戦略で重要なTPPに反対』(10/8週刊ダイヤモンド 櫻井よしこ)について

日本の保守層はTPPに反対している人が多いですが、中国への経済的封じ込め政策と言うのが分かれば賛成に転じるのでは思います。しかし、オバマの政策をヒラリーが覆すとは、流石何でもありの政治家です。野心の為には節を折ることも厭はない、或は元々節なんて始めからなかったのかも。

Andy Chang氏の記事によると「米司法部が武器商人の訴訟を放棄

Fox NewsのCatherine Herridge とPamela Browne両記者が発表した10月5日の記事によると4日火曜日、米司法部は武器商人Marc Turi氏に対する告訴を放棄したと発表した。

この告訴は2012年に起きたベンガジ事件、スティーブンス大使ほか3名がリビアのベンガジ市においてアル・カイーダの攻撃にあって殺害された事件との関連で、オバマ大統領とヒラリー国務長官が深く関わっていた事件である。あと34日で11月8日の総選挙投票があり、この告訴がヒラリーとトランプの得票に大きな影響を及ぼすため告訴を取り下げたのである。

スティーブンス大使は2012年9月、リビアのトリポリ市からベンガジに赴いたが、この際に護衛を一人しかつけていなかった。ベンガジでテロ攻撃に逢った彼らに対しオバマとヒラリーはホワイトハウスで刻々と変わる状況を聞きながら救援を派遣しなかった。このため4名が死亡した事件である。

オバマとヒラリーはこの事件を反イスラムのビデオのせいで暴動が起きたとウソの発表をしたが、ヒラリーは事件直後に彼女の娘に事件がアルカイーダのテロ攻撃だったとメールしていた。オバマは事件後二週間たっても反イスラムビデオのために起きた暴動とウソを言いまくっていた。

その後の国会喚問でもヒラリーはスティーブンス大使を派遣した理由を述べず、重要人物を派遣してなぜ護衛を付けなかったのかという質問に答えていない。

オバマとヒラリーの嘘に拘らず今ではベンガジ事件はアルカイーダの攻撃だったとわかっている。しかもアルカイーダはアメリカの武器を使っていたのだ。アメリカは中東の独裁政権の反乱分子に極秘で武器を提供したが、この武器の大半が反米テロの手に入っていたのだ。オバマ政権、つまりオバマやヒラリーはこの失敗をMarc Turi氏の武器商人の責任として起訴したのである。

アラブの春と呼ばれる、2010年のチュニジア革命から中東各地に広がった暴動、革命運動などがリビア、エジプトの独裁者を打倒し、動乱がカタールやアラブ酋長国、イラクや現在のシリア革命などに及んだ6年来の中東動乱でアメリカは革命分子に極秘で武器を提供していたという。アメリカは数多い武器商人の名前を使って武器提供をしたが、実は国務院とCIAが影の主体であったという。

Turi氏によると、オバマは2011年に秘密の武器提供計画を許可し、カタールとアラブ酋長国がこれに加わった。つまりアメリカは革命軍に武器を提供するため、多くの武器商人の名を使って武器を「カタールに販売した形で」リビアに搬入したという。

Turi氏によると彼は実際に武器を扱っていない。それらは国務院に直属した政治と軍事局(Bureau of Political and Military Affairs)が 主体で、責任者はクリントン長官の直属部下Andrew Shapiroだったという。

だがTuri氏は、国務院のオペレーションが恐ろしく杜撰でリビアに到達した武器は「半分はあちら側、半分は向こう側に行ってしまった」と言う。

  • ベンガジ事件

Turi氏と彼のアドバイサー、Robert Strykによると、国務省はクリントンの失策を隠蔽するため彼を起訴したのであるという。クリントンの失策が2012年9月11日のベンガジ事件を引き起こし、スティーブンス大使など4名が殺害されたのだ。

事件が起きたのが2012年9月11日であるが、オバマは11月の総選挙でロムニーと争っていたので、ベンガジの大使殺害事件を反アラブのビデオのせいにしたが、すぐに嘘がばれて、攻撃はAl QaedaとAnsar al-Shariaの過激分子だったことが判明した。

Turi氏は2014年に武器輸出制限法違反と国務院の要員に虚偽の報告をした廉で起訴された。検察官はTuri氏が武器をカタールとアラブ酋長国に輸出すると虚の申告をしたという。だがTuri氏の弁護士によると武器輸出は政府が認可したリビアの反乱軍を援助するためだったという。

  • 秘密の武器輸出はオバマの政策だった

National Defense University のCelina Realuyo教授によれば、外部の武器商人を使って反乱分子に武器を提供することはオバマの政策の一部だったという。このためヒラリー国務長官時代には武器商人のライセンス許可が急激に増大した。Fox Newsの記事によると2011年に武器商人ライセンスの取得者が86000人で、武器輸出は前年の100億ドルから443億ドルに上がったという。

Fox Newsの記事によると2011年4月11日のヒラリーのメモにはFYI. The idea of using private security experts to arm the opposition should be considered,(参考までに;プライベートな専門家を使って反乱軍に武器を提供する事を考慮に入れるべきである)”と書いてあったという。

Turi氏は2011年5月に武器をカタールに輸出する許可を得た。ところが同年7月になったら武装した連邦警察がアリゾナの彼の住宅を急襲したという。つまり彼はベンガジ事件の生け贄にされたのだと言う。実際に起訴されたのは三年後の2014年であった。

ベンガジ事件が起きた後、2013年1月の国会喚問でPaul Ryan議員からベンガジの武器の行方について質問されたヒラリーは、「私は質問に関した情報は持っていませんが、どんな情報があるか探してみます」と答えたそうである。反乱軍に武器を提供するには外部の武器商人を使えとメモを書いた張本人のヒラリーが国会喚問で情報を持っていないとウソをついたのである。

オバマが反乱分子に武器を提供する許可を出した。ヒラリーは武器商人の名を借りて武器を輸出した。実際には国務省とCIAが関わっていた。計画が失敗して武器商人の責任にしたのであった。」(以上)

とありました。報道したのはやはり保守派のFOXだけと思われます。日本以上に左翼メデイアが多いと言われている米国ですから。「戦争嫌い」で有名なオバマが裏で戦争の種を撒いていたという事です。嘘つきヒラリーだけでなく、嘘つきオバマということで。日本の反日民進党の党首も嘘つきですが、やはり米国の二人と比べると「頭が悪い」印象は否めません。ヒラリーもオバマも弁護士上りで、三百代言ですから、嘘をつくことを何とも思っていないのかも。FOX記事がトランプ支持に回るようになれば良いのですが。

日本もRCEPなどに加盟するのでは「中国の経済的封じ込め」ができなくなります。日本が中心となり、シンガポールや他の参加国と協定を批准していって米国を急き立てるようにすれば良いでしょう。10/10日経朝刊に「パリ協定批准「見誤った」 官邸主導の盲点」という記事が載りましたが、官邸でなく外務省の無能が災いしたと思います。パリ協定は、参院では与野党とも賛成なので、今月下旬には衆院より先に通過、ただ衆院ではTPP法案に野党は反対するのでパリ協定は審議入りが遅れる可能性があるとのこと。パリ協定は外務省の失態でしょうが、批准は時間の問題です。それ程大きな問題ではありませんが、日経の書き方だと官邸が悪と思わせる内容です。メデイアに刷り込まれないようにしませんと。

http://www3.nhk.or.jp/news/imasaratpp/article15.html

FT記事

今後、米国の国力が衰退していく様子について歴史が書かれるとき、環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る大失敗はどう描かれるだろうか。丸1章を割くには値しないかもしれないが、間違いなく脚注よりは大きな紙幅を占めることになるだろう。

■大衆民主主義、危うさを示す

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ラストベルトではTPP反対の声が強い(写真はペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた7月の民主党全国大会)=米紙ワシントンポスト提供・ゲッティ共同  TPPは太平洋地域12カ国が大筋合意した貿易協定で、参加国の合計人口は約8億人と、欧州連合(EU)単一市場の人口(約5億人)より6割多く、国際貿易に占めるシェアは40%に上る。また、TPPはアジアや世界における米国の指導力を示す最も重要な試金石の一つにもなった。

だが、残念ながら米大統領選挙の主要候補2人はどちらの方がTPPにより強く反対しているか競い合っており、オバマ大統領もTPP発効に必要な承認を議会から得られる見通しが全く立っていないため、TPPが米国によって批准される可能性は急速に薄れている。もし批准されなければ、中国がアジア地域の覇権国として米国に取って代わろうと積極的に動いている時だけに、米国の失態による影響はアジア全域におよぶだろう。

中国は太平洋国家にして世界最大の財の貿易国であるにもかかわらず、TPPからはあからさまに外された。そのため中国政府からすれば、TPPが今にも崩壊しそうなことは不思議に思えるかもしれないが、喜ばしいに違いない。

TPPが頓挫しかねない状況に陥っている事実は、大衆民主主義の危うさを表す最新の事例ともいえる。つまり、国家は国益にからむ問題を、無関心で内容を十分に知ろうとしない大衆の手に決して委ねてはならないことを立証している。最近でいえば、英国が国民投票でEU離脱を決めたこともその一例だ。

鉄鋼や石炭、自動車などの主要産業が衰退してしまった「ラストベルト」と呼ばれる激戦州(編集注、米国の中西部から北東部のミシガン州、オハイオ州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州などを指す)の少数の有権者がこれほど明白な形で国益を害するのを許す米国とは一体どんな超大国なのか――。中国の指導者たちは間違いなくこう首をかしげているだろう。

■オバマ政権が矛盾した説明

問題の一端は、オバマ政権が発する矛盾したメッセージにある。TPPは非公式には「中国以外ならどの国でも歓迎されるクラブ」「経済版の北大西洋条約機構(NATO)」と説明されてきた。しかし、公の場では米国は、TPPが中国を封じ込める策の一環であることを必死に否定している。このためオバマ政権は国内では、TPPを単なる自由貿易協定の一つとして売り込まざるを得なくなった。多くの国民が自由貿易協定への疑念を高めている時に、だ。

オバマ氏がTPPの背景にある本当の狙いを明かしかけたのは、2015年1月だった。それはまさにTPPについて米国民を説得できたかもしれない瞬間だった。「中国は世界で最も成長の速い地域のルールを作りたがっている」とオバマ氏は語った。「そうなれば米国の労働者と企業が不利な立場に立たされることになる。そんなことを我々は許せるだろうか。そうしたルールは我々が作るべきだ」と。

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来年1月の任期切れが近づくなか、オバマ大統領はTPPの議会承認をとりつけるのが厳しくなっている=ロイター

カーター国防長官は昨年4月にさらに踏み込んだ発言をした。「TPPを可決させることは、私にとって空母をもう1隻増やすのと同じくらい重要だ」と述べた。カーター氏は恐らく空母というものの価値を過大評価したと思われるが、2人の言葉はいずれも真実だ。TPPを巡り米議会から承認を得られなければ、米国は事実上、世界最速で成長する地域の貿易と経済のルールを定める権利を事実上、譲り渡すことになる。日本のある外務省高官の言葉を借りれば、「中国の指揮下でアジアの貿易制度を確立する絶好のチャンス」を中国に与えることになる、ということだ。

■多大な影響力、譲り渡す危機

アジアでの影響力拡大を狙う中国の台頭を最大の脅威ととらえる日本でさえ、米国がTPPを批准できない場合は、中国が支持する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に参加することを検討している。この交渉には東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のほかオーストラリア、ニュージーランド、中国、インド、日本、韓国が参加する。RCEPは米国が加わらないだけでなく、知的財産やインターネットの自由、労働者の権利、野生生物と環境などに対する保護施策がTPPより不十分だ。

こうした分野に関しては、しかも米企業にとっては、TPPはクリントン氏がオバマ政権の一員だったときに評したように「ゴールドスタンダード(究極の協定)」だ。

中国がネットの自由や人権、環境保護を軽視するだけでなく、海外で事業展開する際も地元の違法行為を黙認するのを慣行としていることを考えれば、彼らはどんな貿易協定でもTPPほど高い基準を実現しようとは思わないに違いない。

米国やアジアでは、クリントン氏が大統領に選ばれたら、違う名称を付けてTPPを事実上復活させるのではないかという楽観的な観測も広がる。しかし、それには長い時間がかかるし、その頃には協定は恐らく意味をなさなくなっているだろう。その間も、中国は米国を参加させないような協定の締結を強く推進するはずだ。

米国がアジアでの影響力や地位を失わないようにするには、11月の選挙が終わってから来年1月に新大統領が就任するまでの「レームダック議会」で、オバマ氏が議会からTPPの承認を得るのが最も妥当なシナリオだ。

もしこれが実現しなければ米国はいわば墓穴を掘ることになる。つまり、中国に多大な影響力を譲り渡すこととなり、その結果、今後中国を中心に結ばれる貿易協定は企業や労働者、世界にとって、今より確実に悲惨なものになるということだ。

By Jamil Anderlini

(2016年10月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

櫻井記事

対中戦略で重要なTPPに反対 クリントン氏にも期待できない現実 

9月26日(日本時間27日)の米国大統領候補によるテレビ討論はあらためて、大変化に備えよという世界各国への警告になったのではないか。

討論の勝者は誰か。直後の世論調査ではクリントン氏の勝利とみた人が 62%、トランプ氏は27%だった。

一方、米国の保守派の論客、チャールズ・クラウトハマー氏は、「内容に関しては、どちらも相手を徹底的に追い詰められなかったという点で引き分け。その場合、挑戦者であるトランプ氏の勝利だ」と分析した。

現時点でクリントン氏がやや有利だが、最終的にどちらが勝利するかは、依然として分からない。しばらく前まで、私はどちらが次期大統領になるのか、非常に気になっていた。外交も安全保障も理解しているとは思えないトランプ氏よりも、親中派だが、経験を積み、中国の実態を冷静に見詰め、戦略的に思考できるクリントン氏の方が日本にとってふさわしいと考えていた。

しかし、今はそうは思わない。外交や安全保障でクリントン氏にも期待できないと感ずる。理由は環太平洋経済連携協定(TPP)についての彼女の変遷である。彼女は、第1期オバマ政権の国務長官としてTPPの戦略 性を認識し、支持したはずだ。TPPに込められた戦略とは、経済や価値 観を軸にして、中国と対峙する枠組みをつくるということだ。

対中関係で軍事と並んで重要なのが経済である。中国はアジアインフラ投 資銀行(AIIB)などを創設して中国主導の不透明な経済・金融の枠組みをつくった。だが、中国的価値観に主導される世界に、私たちは屈服するわけにはいかない。経済活動を支える透明性や法令順守などの価値観を重視したTPPは、21世紀の中華大帝国とでも呼ぶべき枠組みに対処する重要な役割を担っていくはずだ。

無論、TPPはそのような対中戦略の理念だけで成り立つものではない。 日本企業や農家の舞台を国内1億2700万人の市場から8億人のそれへと拡大 し、必ず、繁栄をもたらすはずだ。

こうした中で厳しい交渉を経て、TPPは12カ国間で合意された。それをクリントン氏は選挙キャンペーンの最中の8月11日、「今も反対だし、大統領選後も反対する。大統領としても反対だ」と言い切った。さらに、今 回の討論で、「あなたはTPPを貿易における黄金の切り札(gold standard)と言ったではないか」と詰め寄られて、彼女はこう切り返した。

「それは事実とは異なる。私はTPPが良い取引(deal)になることを願っていると言ったにすぎない。しかし、いざ交渉が始まると、ちなみに私はその交渉に何の責任もないが、全く期待に沿わない内容だった」

ここには、TPPを対中戦略の枠組みと捉える視点が全くない。何ということか。対中戦略の重要性など、彼女の念頭には全くないのである。であれば戦略的とは到底思えないののしり言葉で支持を広げるトランプ氏と、信念も戦略もないという点で、クリントン氏はどう違うのか。

日米同盟に関して、トランプ氏は「日本はカネを払っていない。他方で 100万台規模の車を米国に輸出し続けている」と強い不満を表明した。こ のような考え方は日米同盟の実質的変革につながる。クリントン氏は日米同盟重視だと語るが、TPPを認めない氏に期待するのも難しいだろう。

両氏の討論から、日本の唯一の同盟国が、頼れる相手でなくなりつつあることがより明確に見えてくる。安倍晋三首相は臨時国会の所信表明で、 TPPの早期成立と憲法改正に言及した。日本の地力を強化し、それを もってアジア・太平洋地域に貢献するのにTPPも憲法改正も必須の条件だ。国際社会の速い変化の前で、日本も急がなければならない。

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『「人民元、SDR入り」で何が変わるのか 「ドルに取って代わる」中国の野望の行く先は』(10/5日経ビジネスオンライン 福島香織)について

産経新聞が人民元について特集記事を配信しています。

http://www.sankei.com/world/news/161001/wor1610010007-n1.html

http://www.sankei.com/world/news/161002/wor1610020011-n1.html

http://www.sankei.com/premium/news/161003/prm1610030007-n1.html

http://www.sankei.com/premium/news/161004/prm1610040006-n1.html

http://www.sankei.com/column/news/161005/clm1610050002-n1.html

「日本円や米ドルで投資した中国でのプロジェクトで人民元ベースの収益を上げても、その資金を自由には持ち出せないため、「収益の大半は中国内で内部留保するか再投資に回すしかない」(同)のが実情だ。 さらに、SDR本来の目的であるIMFからの緊急融資の際、外貨不足に陥った国がSDRをIMFから受け取っても、中国当局の為替管理の壁で自由な交換ができなければ、人民元の構成比率10・9%分は使えないとの問題が生じる。」とあります。

市場経済認定国のせめぎ合い、欧州はドイツ経済を破綻させない限り、中国に大甘の政策が採られかねません。南シナ海での国際仲裁裁判所の判決を臆面もなく「紙屑」と言ってのける国なのに。

「「中国の不良債権規模は12・5兆元(約190兆円)と公式統計の10倍」。 今夏、大手シンクタンクの日本総合研究所が、中国経済が隠し持つ、金融危機を招きかねない“爆弾”の潜在規模をはじき出した。」とありますが、企業の持つ債務は2600兆円×156÷249=1628兆円で、隠れ不良債権はもっと多いのでは。不良在庫が多く、投げ売りしないといけない状況ですので、損切りすれば金融機関の持つ不良債権はもっと大きいと感じます。

http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160903/frn1609031530002-n1.htm

「だが、企業が撤退しようとしても、当局の規制が足かせとなる。日中経済協会など財界トップらで組織する訪中団は9月、商務省との会合で撤退ルールの整備などを求める要望書を手渡した。外資企業が進出する際は、一元化した窓口で迅速に手続きできる。だが、撤退時は行政府の複数の部署での認可が必要となり、長期にわたって撤退できないケースもあるという。」

後からゆうのは福助頭の典型でしょう。日本企業の横並び体質と経団連や日経があれだけ中国進出を煽り、「バスに乗り遅れる」感を持たせた罪は大きい。中国駐在員に聞けば一発でこんなことは分かるのに。騙されやすいのです。何時も言っています中国人の基本的価値観の「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」から言えば、日本人は典型的な馬鹿、カモです。

次は、10/7石平メルマガを見て見ましょう。

李首相の「外交復権」は「団派」の巻き返しだ   激化が予想される中国共産党の権力闘争」

先月21日、中国の李克強首相は国連総会で演説を行い、その前日にはオバマ米大統領との会談をこなした。中国首相には普通の外交活動のように見えるが、李首相自身にとって、それは記念すべき出来事となったのではないか。

2013年3月に首相に就任して以来、彼が国連の会議に出席したのもアメリカの土を踏んだのも、

それが初めてだからである。中国の首相として最重要の外交相手国、アメリカを公式に訪問したことは一度もない。今回も国連総会出席のためにニューヨークを訪れただけである。

一方の習近平国家主席はすでに2回にわたって訪米した。2015年9月の訪米は国賓としての訪問であり、その時は国連総会でも大演説をぶった。国家主席と首相との格差があるとはいえ、李首相の外交活動はかなり制限されていたことが分かる。

実は習主席は就任以来、首脳外交を自分の「専権事項」にして、国際舞台で「大国の強い指導者」

を演じてみせることで自らの権威上昇を図った。権力闘争の中で共産主義青年団派(団派)の現役リーダーである李首相とは対立し、本来なら首相の活躍分野である経済と外交の両方において

李氏の権限と活動をできるだけ抑え付けようとした。

その結果、今年の上半期、習主席自身は7カ国を訪問して核安全保障サミットや上海協力機構などの重要国際会議に出席したが、同じ時期、李首相は何と、一度も外国を訪問できなかった。状況が大きく変わったのは、今年9月に入ってからである。

同7日から、李首相はラオスを訪れ、中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)(10+1)首脳会議、

東アジアサミットなどの一連の国際会議に出席した。その中で李首相は、合従連衡の外交術を駆使し、中国のアキレス腱(けん)である「南シナ海問題」が焦点として浮上するのを封じ込めるのに成功した。

その直後から、中国国内では、新華社通信と中国政府の公式サイトを中心にして、李首相の「外交成果」に対する絶賛の声が上がってきた。「李首相は東アジアサミットをリード、中国は重大勝利を獲得」「首相外遊全回顧、外交的合従連衡の勝利」など、李首相の帰国を英雄の凱旋(がいせん)として迎えるかのような賛美一色の論調となった。

今まで、外交上の「成果」や「勝利」が賛美されるのは習主席だけの「特権」となっていたが、今夏までの数年間、首相としての外交活動すら自由にならなかった李氏がこのような待遇を受けるとはまさに隔世の感がある。

その間に一体何が起きたのか。

1つの可能性として推測されるのは、今年8月に開かれた恒例の「北戴河会議」において、

習主席の内政・外交政策が各方面からの批判にさらされ、習氏の勢いがかなり削(そ)がれたことではないか。

だからこそ、9月になると、習主席の腹心である天津市の黄興国党委員会書記代理が突如失脚させられ、同じ時期に李首相の外交的活躍がクローズアップされた。

そして9月21日から人民日報は、李首相の後ろ盾である共産党元総書記、胡錦濤氏の「文選」の刊行を記念して、胡氏を褒めたたえる文章を連続3日間、1面で掲載した。つまり、李首相の「外交復権」の背後には、今まで習主席との権力闘争においてやや劣勢に立たされた共産主義青年団派の勢力が、例の「北戴河会議」をへて再び勢いを巻き返してきたことがあったのではないか。

そうなると、来年開催予定の第19回党大会に向け、次期最高指導部の人事をめぐる権力闘争は

ますます激しさを増してくるだろう。この「最後の決戦」の行く末によって、中国の政治と外交の方向性は大きく変わっていくに違いない。>(以上)

習近平の力が「北戴河会議」によって削がれたという見立てでしょう。権力争いが益々激しくなるのでは。軍を巻き込んでの展開になれば暴発、あるいは功名争いで戦闘を仕掛けるかも知れず、要注意です。しかし、日本人の危機感のなさは絶望的です。危機に備えて準備しておかなければ、何も対応できないのは明らかなのに。

国慶節で無料のバイキングで食い散らかした映像がありましたので紹介します。自己中、民度が低いとしか言いようがありません。こういう民族が尖閣侵略を狙っているのを肝に銘ぜねば。何でもしゃぶりつくすという事です。

http://www.wenxuecity.com/news/2016/10/06/5659547.html

福島氏の記事はそのまま読んで戴ければと思います。

記事

中国の人民元がSDR(特別引出権)入りを無事に果たした。人民元のSDR入りは、為替市場の自由化、透明化など改革推進が交換条件だったはずだったが、実際のところその条件はまだ満たしていない。それでも加入させるとは、IMF(国際通貨基金)は中国に対しよほど寛容であるということなのか。それとも、その方が国際金融にとって“お得”なのか。

人民元SDR入りで、いったい何が変わるのかは気になる。中国内外で報じられている分析を少し整理してみたい。

「世界金融支配」への第一歩

IMFの加盟国に対し、出資額に比して配られ、通貨危機に陥った際には外貨に交換できる仮想通貨「SDR」。従来は米ドル、ユーロ、円、英ポンドが構成通貨であったが、ここに5番目の通貨として人民元が加わることになった。構成比率はドル、ユーロに続く10.92%で日本の8.33%を上回る。現実にはSDR入りしたからといって、各国中央銀行がすぐ外貨準備高として人民元保有を増やすようになるとか、人民元に対する信用が一気に上昇するというわけではないだろう。なぜなら、人民元は今なお、制限なく自由に外貨と兌換できる通貨ではないし、その相場は市場原理ではなく政府の介入によってなんとか安定しているからだ。

米国はこれまでも、たびたび、中国を為替操作国と批判してきた。大統領選共和党候補のトランプ氏は、当選の暁には中国を為替操作国認定する、と言明している。SDR通貨は5年に一度見直され、その時、もし資格がないと判断されれば、SDRから外される可能性もある。今後5年の間で、人民元が市場化されるのか。本当に自由化されるのかによっても、影響力は変わってくる。

一方、自由化市場についてあまり肯定的な姿勢ではない習近平政権にとっては、政治的な意味が大きい。人民元の国際通貨の仲間入りを政権として実現させた。ちなみに中国が長年、人民元のSDR入りに拘り続けてきたのは、米ドル基軸体制を切り崩し、人民元こそが国際基軸通貨として世界金融を支配するという遠大な野望の第一歩という位置づけだからだ。

米国が今、世界を牛耳る権力を握っているのは、ドル基軸体制を確立し、ドルを刷り、その強弱を使ってグローバル資本市場の盛衰を主導できるだけでなく、他国の内部の富の分配から政権の交代までに影響力を持てるからだ、と中国は考えている。

かつて金本位制だった時代は金の保有量が国家の対外購買実力、経済力を示す指標だったが、ドル基軸体制ではドルの保有量がそれとなる。一国の購買実力、経済実力はドルを通じて米国に支配されている。だからこそ、米国に世界の技術と人材が集まる。この米ドル貨幣覇権に立ち向かうものこそ、世界最大の(潜在的)市場を誇る中国の人民元であるべきだ、米ドルから貨幣覇権を奪うのは人民元だ、というのが中国の遠大すぎる野望である。

「資格に欠ける」「1兆ドル流入」「開放次第」…

中国の野望はひとまず置いておくとして、人民元SDR入りについて、各国の論評はけっこう差がある。米財務長官ジャック・ルーは「本当の意味での国際準備通貨の地位には程遠い。中国は引き続き人民元をさらに国際水準に近づける改革が必要だ」と話した。日本財務相の麻生太郎は「すぐ通貨の価格管理などをやることになると、SDRを維持する資格に欠ける」と牽制した。

ドイツフランクフルター・アルゲマイネ紙は「人民元がグローバル貿易、金融取引において大量に使われるようになり、今後5年以内に1兆ドルが中国市場に流入するだろう」と論評。スイス連邦銀行集団は「もし人民元が準備通貨としての潜在能力をさらに発揮するとなれば、全世界の外貨準備高の5%を占めるようになるだろう。つまり外国の中央銀行が保有する人民元資産は4250億ドル相当になる」と、各国で人民元資産を外貨準備高として保有するようになっていくという予想を示した。

逆に仏パリ銀行は「将来、国際投資家たちが人民元資産を持つようになるのかどうか、結局中国経済がどうなるかによる。SDRに入ったかどうかではなく、中国資本取引の開放がある程度進み、米MSCI指数などに、中国A株が組み入れられるかどうかの方が重要なのだ」と論評した。

新華社など中国公式メディアの反応はもちろん「人民元がついに国際通貨の天井を破った」「中国が世界経済の舞台の中心に近づいた」「これは中国と世界のウィンウィンだ」と大喜びだ。しかし中国人民銀行側はSDR入り後も引き続き人民元を管理していくべきだという姿勢を強調しているので、人民元が、自由な取引や市場原理で相場が動く透明性を備えた国際通貨にすぐなるわけではない。

人民日報の「人民元SDR入りがどのような影響を与えるか」という論評を見てみると、「人民元は対米ドルに対し下落速度が加速し、米ドルが今後利上げの方向に行けば、中国の相当の資金が米国に流れ込む」(中国欧州陸家嘴国際金融研究院院長・曹遠征)というのが喫緊の影響として、予想されているようだ。

投機筋と政府の攻防で不安定化

SDR入りすれば、やはり多少は人民元介入を減らしていこうと考えているのだろうか。そうなると、それまで実質の中国経済に比して人民元高に誘導されていた分、人民元安は急速に進む。だが、こうした人民元の下落によって、中国経済が強烈な影響を受けるとまでは言えない、という。

「論理上は、人民元がSDR入りしたことで、国際通貨としてのお墨付きを得たのだから、各国中央銀行が人民元を外貨準備として保有することができるようになる。そのことで人民元の信用が上がり、中国は人民元による対外貿易決済、対外投資を行えるようになっていく。そうなれば中国企業にとっては為替損益を減少させ、対外経済の効率改善を図る上でプラスの影響がある」(中欧国際工商学院金融学教授・張逸民)という見方もある。この期待どおりになれば中長期的には人民元は上がっていくことになる。

中国にとって予想されるリスクはなにか。政府の介入が減っていく一方で、外国投資家が投資できるような人民元商品が増える。外国の投機筋も人民元市場に参入していく。そうすると、人民元価格が下落するにしろ、上昇するにしろ、中国経済・金融実力に応じた水準に安定するまで、外国の投機筋とそれに対する政府の対策の攻防の間で不安定化する。外国のヘッジファンドにとっては、久しくなかった大博打場となる。これまで安定した人民元にしか慣れていない中国企業は阿鼻叫喚の目にあうかもしれない。

株式市場や不動産市場にはどういう影響があるだろうか。

資金を引き上げるのが難しい

「日本円がSDR入りした時、日本の株式市場は大高騰し、日経指数で7倍に膨れ上がった。ならば中国A株市場は? 今週の上海総合指数でいえば、0.96%の下落だ。牛市(全面高)とはいえない。当時の日本の市場にはいろいろからくりがあり、指数が低く処理されていた一方で、プラザ合意で円高が引き起こされた。30年前の日本のようにはいかない。世界経済の成長が減速し、米ドルの利上げ予測が人民元の下げ圧を増強しているので、いったんは中国からの資本流失現象が起きて、A株市場は悪化すると予想される」

「不動産市場は、人民元の兌換が開放されていくに従い、国内投資家たちは手持ちの不動産を投げ売りして、海外の不動産を購入するようになる。外国の不動産の中には、永久の所有権を保障されているところもあるからだ(中国は所有権に期限がある)」(南方財富)

いわゆる資金流出の加速によって、株式、不動産とも大幅な下げ圧にさらされる。特に不動産市場はバブルがこれでもかというほど膨れ上がっているので、SDR入りがバブル崩壊のきかっけをつくるかもしれない。長期的にみれば、外国の投資家が中国の不動産購入に参入できるという期待もあるようだが。

債券市場についていえば、「3、4年後には外国投資家が保持する中国国債は新興国政府債券よりも多くなっているはず。2020年までに累計投資は4兆元になる」(チャータード銀行)という予想もある。外国投資家が所持するオフショア人民元建て債券総額は今年3月から6月までに1000億元増加しており、この傾向が加速するというのだ。だが、中国の債券市場は外国投資家が投資するのは簡単だが、金を引き上げるのは難しい。この予測通り順調に増えるとは、私には思えないのだが。

中国の経済政策、とくにシーノミクス(習近平経済学)の柱であった一帯一路戦略(陸のシルクロードと海のシルクロード経済一体化構想)と、それを支える目的もかねて創設されたAIIBは、これを機に息を吹き返すのだろうか。

一帯一路戦略とは、中国と中央アジア、ヨーロッパを結ぶ地域、また東南アジアから海を通ってインド、アフリカにいたる海岸線に、中国の主導する投資と企業力によって交通インフラや産業パークなどを建設、そこでは人民元決済を中心にして、人民元経済圏を確立するという構想である。中国国内の生産過剰な建設資材を消費でき、中国企業の対外進出の足掛かりとなる。将来の夢である米ドルに対抗できる人民元基軸体制の経済圏を打ち立てる中国の壮大な野望に向けての実験みたいなものでもある。

覚悟なしで好転なし

人民元のSDR入りで、人民元の国際認知度と信用が高まり、人民元決済がやりやすくなれば当然、一帯一路戦略に弾みがつくし、中国産業と国際企業の協力や中国企業の対外進出もやりやすくなる。AIIBも人民元建て債券をどんどん発行して、うまく回る…のか? 一帯一路構想が事実上、停滞しているのは、資金ショートに陥っていること、どだい経済的利益度外視のプロジェクトを政治的目的優先で行っているので、現場でサボタージュも起きているという話だ。

人民元がSDR入りすれば、どんどん人民元を刷って、人民元で支払うので資金不足は解消、といいたいところだが、人民元を好きなだけ刷れば大暴落、信用も落ちてハイパーインフレ、国内が大変なことになってしまうだろう。リターンの見込めないプロジェクトそのものに無理があるのだから、人民元がSDRに入ろうがは入るまいが、あまり関係ないかもしれない。

人民元がSDR入りするほど成熟していないのに、SDR入りしたら成熟するんじゃないか、という期待が先行してSDRに入れてもらったが、実力不足の選手がメジャーリーグに入れば、強くなるというものではない。ちょうど国慶節連休に入ってからの発表で、マーケットの反応があまりないので、休みが明けてからの市場を見ないと何ともいえないのだが、意外に、あっさりと期待も懸念も流れてしまうのではないだろうか。SDR入りがどうのというより、習近平政権が、どのような痛みを伴っても人民元改革を進めるのだというような覚悟を、今のところこれっぽっちも見せていない以上、中国経済の何かが好転するという期待は持ちにくい。

良ければ下にあります

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『北方領土「2島先行返還」は日本にとって損か得か?』(10/3ダイヤモンドオンライン 北野幸伯)について

10/4Facebook 吉田康一郎氏投稿は産経新聞の記事を引き合いに出してコメントしています。<露極東管区の人口は630万人。満洲東三省の人口は約1億人。人口が減少する露極東は、中国に呑み込まれる惧れ。中国は、清から露西亜に割譲された外満洲を「奪われた」と見做すが、満洲人の領土であり、漢人の領土ではない。

私はかつて日ロ関係のシンポジウムで、ロシア側有識者と対話し、「極東を全て中国に呑み込まれて失うくらいなら、千島・樺太を全て日本に返還して日本と同盟を結び、極東開発を進めてはどうか」と提案し、意外にもロシア側と大いに盛り上がりました。

《「奪われた領土」極東ロシアに流れ込む中国人…“スーツケースで侵略”は危険な火ダネ》2016.10.04 産経新聞

人口が希薄なロシア極東に中国人が流入し、ロシア人を心理的に圧迫している。ロシアの調査機関は今世紀半ばを待たず、中国人がロシア人を抜いて極東地域で最大の民族になると予測する。中国人には19世紀の不平等条約でウラジオストクなど極東の一部を奪われたとの思いがあり、ロシア人には不気味だ。欧米に対抗して蜜月ぶりを演出する両国首脳の足元で、紛争の火だねが広がっている。 (坂本英彰)

■ 中国人150万人が違法流入

「中国人がロシアを侵略する-戦車ではなくスーツケースで」

米ABCニュースは7月、ロシア専門家による分析記事を電子版に掲載した。露メディアによると、国境管理を担当する政府高官の話として、過去1年半で150万人の中国人が極東に違法流入したという。数字は誇張ぎみだとしつつも、「国境を越える大きな流れがあることは確かだ」と記す。

カーネギー財団モスクワ・センターによると在ロシアの中国人は1977年には25万人にすぎなかったが、いまでは巨大都市に匹敵する200万人に増加した。移民担当の政府機関は、極東では20~30年で中国人がロシア人を抜いて最大の民族グループになるとしている。

インドの2倍近い広さがある極東連邦管区の人口は、兵庫県を少し上回る630万人ほど。これに対し、国境の南側に接する中国東北部の遼寧、吉林、黒竜江省はあわせて約1億人を抱える。

国境を流れるアムール川(黒竜江)をはさんだブラゴベシチェンスクと黒竜江省黒河は、両地域の発展の差を象徴するような光景だ。人口約20万人の地方都市の対岸には、近代的な高層ビルが立ち並ぶ人口約200万人の大都市が向き合う。

ABCの記事は「メキシコが過剰な人口を米国にはき出すように、ロシア極東は中国の人口安全弁のようになってきている」と指摘した。ただし流入を防ぐために「壁」を築くと米大統領選の候補が宣言するような米・メキシコ関係と中露関係は逆だ。中露間では人を送り出す中国の方が、ロシアに対して優位に立つ。

■ 20年後の知事は中国人!?

ソ連崩壊後に過疎化が進行した極東で、労働力不足は深刻だ。耕作放棄地が増え、地元住民だけでは到底、維持しきれない。

米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿したロヨラ大シカゴ校のコダルコフスキー教授によると、過去10年で日本の面積の2倍超の約80万平方キロの農地が中国人に安価にリースされた。そこでは大豆やトウモロコシ、養豚など大規模な農業ビジネスが展開されている。

中国と接する極東のザバイカル地方は今年、東京都の半分にあたる1150平方キロの土地を中国企業に49年間長期リースすることで基本合意した。1ヘクタールあたり年500円余という格安だ。これに対しては「20年後には知事が中国人になりかねない」などと、ロシア国内で猛反発も起きた。

ロシア政府はロシア人の移住や定着を促すため土地を無償貸与する法律を制定したが、ソ連崩壊後の二の舞になる可能性も指摘されている。1990年代、分配された国有企業の株は瞬く間に買収され、政府とつながる一部特権層が私腹を肥やす結果となった。

極東は中国なしでは立ちゆかず、結果として中国人の流入を招く。コダルコフスキー教授は「中国はアムール川沿いのロシア領を事実上の植民地にしてしまった」と指摘した。

■ 「未回復の領土」

中国人が大量流入する状況で「領土回復運動」に火がつくと、ロシアにとっては取り返しのつかない結果となりかねない。

欧米列強のひとつだったロシア帝国は1858年と1860年、弱体著しい清帝国との間で愛琿条約、北京条約をそれぞれ締結し極東地域を獲得した。沿海州などを含む日本の数倍に匹敵する広大な領域で、これにより清帝国は北東部で海への開口部を失った。アヘン戦争後に英国領になった香港同様、清にとって屈辱的な不平等条約だ。

中国と旧ソ連は1960年代の国境紛争で武力衝突まで起こしたが、冷戦終結後に国境画定交渉を加速し、2008年に最終確定した。現在、公式には両国に領土問題は存在しない。

にもかかわらず中国のインターネット上には「ロシアに奪われた未回復の領土」といったコメントが頻出する。

ニューヨーク・タイムズは7月、近年、中国人観光客が急増しているウラジオストクをリポートした。海辺の荒れ地を極東の拠点として開発し、「東方を支配する」と命名した欧風の町だ。吉林省から来た男性は「ここは明らかにわれわれの領土だった。急いで取り戻そうと思っているわけではないが」と話す。同市にある歴史研究機関の幹部は「学者や官僚がウラジオストクの領有権について持ち出すことはないが、不平等条約について教えられてきた多くの一般中国人はいつか取り返すべきだと信じている」と話した。

■ アイスで“蜜月”演出も

台湾やチベット、尖閣諸島や南シナ海などをめぐって歴代政権があおってきた領土ナショナリズムは、政権の思惑を超えロシアにも矛先が向かう。極東も「奪われた領土」だとの認識を多くの中国人が共有する。

9月に中国・杭州で行われた首脳会談でプーチン大統領は、習近平国家主席が好物というロシア製アイスクリームを贈ってまさに蜜月を演出した。中露はそれぞれクリミア半島や南シナ海などをめぐって欧米と対立し、対抗軸として連携を強める。

しかし極東の領土問題というパンドラの箱は何とか封印されている状況だ。ナショナリズムに火がつけば、アイスクリームなどいとも簡単に溶かしてしまうだろう。

http://www.sankei.com/west/news/161004/wst1610040001-n1.html>(以上)

吉田氏のコメントにありますように、旧満州(現東北3省)は満州族の土地であって、漢族の土地ではありません。英語でもManchuria(満州)、 Manchu (満州人)となっています。ソ連のフルシチョフもこのことは良く分かっていました。「古来中国の国境は、万里の長城を越えたことがない。もし神話を持ってきて理不尽な主張をするならば、それは宣戦布告である。」と言ったそうです。

http://blog.goo.ne.jp/minsuto2008/e/f24e6410325160389d6df922b9158207

デンゼルワシントン、メリルストリープの映画に“Manchurian Candidate”(日本名:クライシスオブ・アメリカ)というのがありましたが、「洗脳された人」という意味があるそうです。大清帝国を治めていた満州族は、当時の白人から見ると、簡単に洗脳されたのかも。

中国のマンパワーを利用した侵略は長野朗が力説しています。西尾幹二著『GHQ焚書図書開封7-戦前の日本人が見抜いた中国の本質-』のアマゾン書評欄のスワン氏記事に「アメリカの侵略は資本を押し立てて行われる「資本による侵略」であり、ロシアの侵略は「武力による領土侵略」であり、シナの展開は「民族移住的な侵略」である》(228ページ)」とあります。

https://www.amazon.co.jp/GHQ%E7%84%9A%E6%9B%B8%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%96%8B%E5%B0%817-%E6%88%A6%E5%89%8D%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%8C%E8%A6%8B%E6%8A%9C%E3%81%84%E3%81%9F%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E6%9C%AC%E8%B3%AA-%E8%A5%BF%E5%B0%BE%E5%B9%B9%E4%BA%8C/product-reviews/4198634556

また、英語のChinese Mandarin (中国語の標準語の意)は 満大人”man da ren”から来たという説もあります。

北野氏記事にありますように「ロシア人の発想は、領土は戦争によって変わるもの」というのは正しいでしょう。勿論、他には金で買うしかありませんが。日本人だけでしょう、余りに平和ボケしていて、要求すれば土地を返還してもらえると考えているのは。領土返還は、戦争か金かしかありません。勿論、香港返還の例もありますが、あれは租借契約を履行しただけのことです。

ルトワックのいう「北方領土」を脇に置きというのは出来ないでしょうが、戦略的に中国封じ込めが優先事項であることは言を俟ちません。やはり、二島返還+継続交渉ができれば良いかと。安倍首相は1月解散するとの新聞記事が賑わっていますが、ロシアと一気に平和条約までは行かないでしょう。ただ民進・蓮舫の二重国籍問題がありますから叩き潰すには早く解散した方が良いと思います。

記事

プーチンが12月に訪日することが決まり、日ロ関係が動いている。日本政府もロシア政府も、訪日時に成果を出すべく、活発に交渉していることだろう。日本側最大のテーマは「北方領土」だ。一方、経済危機まっただ中のロシアは、「経済協力」の大きな進展を期待する。今回は、北方領土問題の展望と、日ロ関係の現状と未来について考えてみよう。

「2島先行返還」か、「4島一括返還」か 悩ましい北方領土問題

9月23日付読売新聞に、「北方領土、2島返還が最低限…対露交渉で条件」と題した、とても興味深い記事が載った。引用してみよう(太線筆者、以下同じ)。

<政府は、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた。  平和条約締結の際、択捉、国後両島を含めた「4島の帰属」問題の解決を前提としない方向で検討している。安倍首相は11月にペルー、12月には地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談する。こうした方針でトップ交渉に臨み、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考えだ。  複数の政府関係者が明らかにした。択捉、国後については日本に帰属するとの立場を堅持する。その上で、平和条約締結後の継続協議とし、自由訪問や共同経済活動などを行いながら、最終的な返還につなげる案などが浮上している。>

整理してみると、

1.歯舞群島、色丹島を引き渡してもらう。 2.平和条約を締結する。 3.択捉、国後については平和条約締結後に継続協議し、最終的返還を目指す。

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「2島先行返還論」が浮上するなど、動きが出てきた北方領土問題。北方領土問題が日本にとって非常に重要な課題であることは間違いない。しかし、安倍総理は領土問題以上に、対中戦略に重きを置いた舵取りをすべきだ Photo:Kremlin/Sputnik/Reuters/AFLO

つまり、「まず歯舞、色丹を返してもらい、平和条約を締結」(あるいは、平和条約を締結し、歯舞、色丹を返してもらう)、「択捉、国後については、継続協議」。これは、鈴木宗男氏が主張している、「2島先行返還論」と同じだろう。

ちなみに菅官房長官は、この記事について「そうした事実はまったくない」と明確に否定している。しかし、読売新聞が、「複数の政府関係者が明らかにした」と書いているように、「日本が大きく譲歩する可能性がある」という話は、いろいろな方面から流れてきている。総理も「今までとは違うアプローチで解決を目指す」と言っている。「今まで」とは、「4島一括返還論」のことだろうから、「違うアプローチ」が、「2島先行返還論」だったとしても不思議ではない。

ところで、「4島一括返還」は、なぜ実現が難しいのだろうか?これを知るために、ロシア側が北方領土問題をどう捉えているか考えてみよう。

日本外務省のホームページには、以下のように説明されている。

・ソ連は、日ソ中立条約を破って対日参戦した。 ・ポツダム宣言受諾後の、1945年8月28日から9月5日までに、北方4島を占領した。

それで、日本側は「不法占拠だ!」と捉えているのだが、ロシア側の意識は、日本とまったく異なっている。ロシア人と話していて感じるのは、彼らには、「固有の領土」という言葉の意味がわからないということだ。

ロシア人が「北方領土は自国の土地」と単純に信じているのはなぜか?

なぜだろうか?ロシア人は、「領土というのは、戦争のたびに変わるもの」という意識なのだ。これは、おそらくロシアの歴史と深く関わっている。ロシアの起源は、882年頃に成立したキエフ大公国だ。首都はキエフだったが、現在はウクライナの首都になっている。ロシアの起源である都市が、外国にあることに注目だ。

キエフ大公国は1240年、モンゴルによって滅ぼされた。その後、モスクワ大公国(1263年~1547年)→ロシア・ツァーリ国(1547年~1721年)→ロシア帝国(1721年~1917年)と発展した。このように、ロシアは東西南北を征服して領土をひろげ、ついに極東にまで到達した。

つまり、ロシア領のほとんどは、歴史的に繰り返された領土争いによって獲得した「征服した土地」で、いわゆる「固有の領土」は、比率的にとても小さい。

こういう歴史を持つロシアに、「固有の領土だから返してくれ!」と言っても、「固有の領土とは何ですか?」と逆に質問されてしまう。だから、北方領土について、「ロシア(ソ連)は日本に戦争で勝った。結果、北方4島はロシア(ソ連)の領土になった」という意識なのだ。

インテリになると、もっと論理が緻密になる。

「1875年、樺太・千島交換条約で、樺太はロシア領、千島は日本領と決められた。ところが日ロ戦争の後、勝った日本は南樺太を奪った。ロシアが、南樺太を返してくれと言い続けていたら、日本は返還してくれただろうか?」と質問をされることがある。

筆者は、「返さなかっただろう」と正直に答える。

さらに、「日本は、日清戦争で勝って台湾を奪ったが、清が返せと主張し続けたら、返しただろうか?」と続ける。筆者は、「返さなかっただろう」とまた答える。

すると、ロシアのインテリは「日本は戦争に勝って奪った領土を、話し合いでは返さない。しかし、自分が負けた時は、『固有の領土だから返せ!』という。フェアじゃないよね」と言う。

日ソ中立条約を破った件や、ポツダム宣言受諾後に北方4島を占領した件については、「1945年2月のヤルタ会談で決められたこと。米英も承認している」とかわされる。つまり、ロシアは「米英がソ連の参戦を要求した。その見返りとして、南樺太、千島はソ連領になることを認めた」ということで、まったく「悪いことをした」という意識がないのだ(ちなみに日本は、北方4島は千島ではないという立場を取っている)。

「2島返還」実現のハードルは低いがその後の方向性が難問に

こういう歴史的国民意識がある中で、いくら親日プーチンでも、「4島一括返還」は厳しいといわざるを得ない。

しかもロシアは現在、「経済制裁」「原油価格暴落」「ルーブル暴落」の三重苦で苦しんでいる。プーチンの支持率は、依然として高い。与党「統一ロシア」は、9月18日の下院選挙で大勝した。しかし、経済危機が長期になれば、プーチンも安心していられない。このような状況下で、「4島返還」を発表すれば、プーチン人気が急落し、政権の安定が崩れるかもしれない。

政治的にも4島返還は、簡単ではないのだ。

では、「2島先行返還論」は、実現可能なのだろうか?実をいうと、「2島返還」は、「法的基盤」があるので、両首脳が決断すれば実現は可能だ。

「法的基盤」とはなんだろうか?1956年の「日ソ共同宣言」のことだ。

日ソ共同宣言の内容を簡単に書くと、「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」である。この宣言は、日ソ両国の国会で批准されており、「法的拘束力」をもっている。そして、日ソ共同宣言については、ロシアでも広く知られている。

つまり、プーチンがこれを根拠に2島を返還しても、大きな反対運動は起こらない。しかし、「2島返還」には、問題もある。2島返還後のことだ。

日本は、返還対象外の残り2島について、「継続協議」としている。これが、「先行返還」(=先に2島を返してもらい、後で残りの2島を返してもらう)の意味だ。ところが、ロシアは、「2島返還」で「画定」したい。つまり、歯舞、色丹は日本領、択捉、国後はロシア領で最終決着し、後々話を蒸し返さないつもりだ。

ロシア側は、ここ数十年間「北方領土の話しかしない」日本に正直うんざりしている。4島返すにしても2島返すにしても、現状からすると、ロシアに「大損」だからだ。

日本の主張する「2島先行返還論」を認めると、これからも永遠に、「択捉、国後をいつ返してくれますか?と言われ続ける」と考えている。ところが、日本側は2島で終わりにすることができない。

ロシアとの平和条約締結は、「歴史的」だが、それが善か悪かは、わからない。

「2島先行返還」なら、2島取り戻したことで、安倍総理は「歴史的偉業」を成し遂げたと賞賛される可能性がある。しかし、2島返還で「終わり」であれば、残り2島を切り捨てたことで、逆に、「国賊」と批判されるリスクもある。この辺をどう調整するのだろうか?

ロシアは国民に、「最終決着しました」と説明し、日本政府は国民に、「2島は取り戻しました。残り2島は継続協議です」と言うのだろうか?

このように2島返還は、「日ソ共同宣言」という「法的根拠」があるので、実現は可能だ。しかし、大きな問題を残したままとなる手法なのだ。

日本がロシアと和解する最大の理由は「対中国」であることを忘れるな

これまで何度も書いてきたが、日本がロシアと和解しなければならないのは、「安全保障上の理由」があるからである。「安全保障上の理由」とは、はっきりいえば、「対中国」だ。

筆者は、2008年から「尖閣諸島から対立が起こり、日中が戦争になる可能性がある」と書いてきた。日中関係はその後、「尖閣中国漁船衝突事件」(10年9月)、「尖閣国有化」(12年9月)などで「戦後最悪」になってしまった。

12年11月、中国はモスクワで、「反日統一共同戦線」戦略を、ロシアと韓国に提案した。いつも書いているが、戦略の骨子は、

1.中国、ロシア、韓国で「反日統一共同戦線」をつくる。 2.中ロ韓で、日本の領土要求を断念させる。日本には、尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない。 3.米国を「反日統一共同戦線」に引き入れる。 (詳細はこちらの記事を参照)

中国は以後、全世界で大々的に反日プロパガンダを続けている(それで、安倍総理が13年12月に靖国参拝した際、中韓だけでなく、米欧ロ豪、台湾、までがこれを非難した)。さらに軍事的挑発を徐々にエスカレートさせ、領海、領空侵犯を常態化させている。今年8月、中国公船15隻と漁船400隻が尖閣周辺の海域に集結したことは、日本国民に衝撃を与えた。

筆者が08年に「日中戦争」の可能性を書いたとき、「妄想」だと言われたが、今では普通に「あるかもしれないですね」と言われる。そして、日本の領土をあからさまに狙う中国は、すでにGDPで日本の2.5倍、軍事費で8倍の大国である(世界銀行のデータによると、日本の防衛費は15年470億ドル、中国は3858億ドル)。

つまり、日本一国で中国に勝つのは、非常に難しい。では、同盟国の米国はどうなのか?トランプは、「日本がもっと金を出さなければ、米軍を日本から撤退させる」と宣言している。ヒラリーは、長年中国から金をもらっていたことが明らかになっている(詳細はこちら)。   一方、ロシアは「クリミア併合」時、「唯一味方になってくれた」ということで、中国とは事実上の同盟関係になっている。

北方領土問題の最善策は「棚上げ」である理由

つまり、現状は以下のように整理される。

1.中国は、はっきりと尖閣・沖縄を狙っている。 2.米国は、トランプ、ヒラリーどちらも親日ではない。 3.ロシアは、中国と事実上の同盟関係にある。

このような状況がさらに悪化すれば、日本vs中国・ロシアの戦争に発展しかねない。その場合、米国は中ロを非難する声明を出すが、事実上は不干渉を貫くかもしれない。そうなれば尖閣は中国領になり、沖縄も危険な状態になってくる。

こういう緊迫した現状で、北方領土問題の解決は、(重要ではあるが)「最優先課題」ではありえない。

では何が「最優先課題」なのか?まず第1に、米国との関係をますます強固にすることだ。これは、ヒラリー、トランプ、どちらが大統領になってもやらなければならない。

第2に、ロシアとの関係を強化し、結果的に中ロを分裂させることだ。そのためには、ロシアの望むもの(=経済協力)を与えなければならない。しかし、ロシアに対し「慈善事業をしろ」といっているわけではない。「長期的に良好な関係を築こう」とすれば、「WIN-WIN」になれる案件を発展させる必要がある。

ちなみに世界一の戦略家エドワード・ルトワックは、北方領土問題について、著書「自滅する中国」の中で、こう書いている。

<日本政府が戦略的に必要な事態を本気で受け入れるつもりがあるならば、北方領土問題を脇に置き、無益な抗議を行わず、ロシア極東地域での日本の活動をこれ以上制限するのをやめるべきだ。  このこと自体が、同地域での中国人の活動を防ぐことになるし、ロシアが反中同盟に参加するための強力なインセンティブにもなるからだ。>(192p)

このように、ルトワックは、北方領土問題の「棚上げ」を勧めている。

もちろん、「2島先行返還論」をロシアが受け入れれば、それでもよいだろう。しかしロシア側が妥協するしないにかかわらず、ロシアが望む経済協力は推進していくべきだ。総理は、「日ロ関係深化は、対中国」という「大戦略観」を常に忘れないでいただきたい。

「北方領土返還実現」は確かに「歴史的」だが、「戦わずして、中国の戦略を無効化させる」ことは、真の意味で「歴史的」である。

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『極右政党党首が初の女性仏大統領になる確率は?「反欧州」「反移民」を掲げるマリーヌ・ルペン』(10/3JBプレス 山口昌子)について

「士気の集い」主催の山口氏の講演を昨年1月に聞きました。マリーヌ・ルペンをもはっきり人種差別主義者だと言っていました。父親と違い、党を華麗なる変身させたけれども、中身は変わっていないという思いだったのでしょうか。でもヨーロッパで極右政党と呼ばれているのは「反移民・反EU」なだけなのではと感じています。メデイアの人間が偏っていて、上から目線で国民を領導すると思っているだけなのでは。国民感情から遊離しています。

要はグローバリズムとナショナリズムの戦いでしょう。確かに国民国家ができた歴史は長くはありませんが、近年世界を覆ってきたグローバリズムの限界が見えてきたと思います。カネ・モノ・情報の自由な移動は国際分業の観点から言っても、奨励されるところでしょうけど、ヒトは感情があり、言語や環境によって違った受け止め方をすると気があります。同じ日本人同士でもそうなんですから、外国人であれば猶更です。

トランプの大統領選での躍進、英国のEUの離脱、独国の地方選でのAfDの第二党躍進、ハンガリーの国民投票で投票率50%以上の規定に及びませんでしたが98%も難民受入反対という結果になりました。多文化共生といって宗教や言語、発想法の違う人々を安易に受け入れれば必ずや摩擦は起きます。敵はそれを狙って来る訳です。チャインタウンやコリアタウンなどは治外法権になってしまいます。世界の潮流はグローバリズムでなく、「国民自決主義」と言えるのでは。

日本も在日問題を抱え、かつ中国人が日本にドンドン入り込んできています。中国韓国とも日本の敵国です。世界遺産に南京虐殺やら従軍慰安婦を登録しようとしている国です。丹東の歴史博物館には「北朝鮮に攻め込んだのは南鮮と米国」と嘘のプロパガンダを臆面もなく飾れる国です。日本の役人の馬鹿な所は、農業にも外国人を受け入れしようとしている所です。来るのは敵国の中韓人になるでしょう。スパイや工作員も当然紛れ込むでしょう。今でも大学等で反日活動に勤しんでいる中韓人がいるというのに。農業法人を積極的に認めていけば良いだけのこと。農民を守るのでなく、農業を守ればよいだけでしょう。今や有事を前提に政策を考えて行かなければならないのに、この緊張感のなさは何でしょう。

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国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(2015年12月13日撮影)。(c)AFP/DENIS CHARLET 〔AFPBB News

米国の大統領選は最終コーナーを回って最後の直線コースに入り、米国初の女性大統領が誕生する可能性が高まってきた。では、2017年春のフランスの大統領選で女性大統領が誕生する可能性はあるだろうか。

最新の各種世論調査によると、極右政党「国民戦線」(FN)の女性党首、マリーヌ・ルペン氏が決戦投票に進出する可能性が高い。大統領の椅子は決戦投票に進出した上位2人によって争われる。

右派政党「共和党」(LR)では、11月20日、27日に予備選を実施して、7人の大統領選立候補者の中から公認候補を選出する。各種世論調査によるとアラン・ジュペ元首相が目下のところ優勢だが、LRの党員だけを対象にした調査では党首のニコラ・サルコジ前大統領が優勢である。

複数の世論調査では、ルペン氏、ジュペ氏、サルコジ氏の中で今のところジュペ氏の支持率が最も高い。次いでルペン氏、サルコジ氏と続く。ルペン氏は決戦投票の相手として、サルコジ氏が相手なら「十分に勝ち目がある」(FN幹部)と見ている。

党の本質は相変わらず排外主義的

FNは、マリーヌ・ルペン氏の父親であるジャンマリ・ルペン氏が1972年に立ち上げた政党である。ジャンマリ氏が党首だった時代は、ナチスによるユダヤ人大虐殺を「歴史の些細な事件」と言い放つなど、徹底的な反ユダヤ主義、外人排斥、人種差別を標榜していた。

ところが、三女のマリーヌ氏が2011年に党首に就任してから、FNは路線を変更する。テロや難民の増大を背景に、「シェンゲン協定」(ヨーロッパの国家間を国境検査なしで行き来することを許可する協定)や単一通貨「ユーロ」圏からの脱退を主張するなど、「反欧州」や「反移民」を全面的に打ち出すことで、人種差別的な“危険な政党”“悪魔の政党”のイメージから脱却した。

ただし、排外主義的な党の本質は変わっていない。

FNはバカンス明けの8月半ばに南仏フレジュス市で党のセミナー(一種の親睦大会)を開催した。ルペン氏は約5000人の支持者を前に、大統領選に向けての実質的なキャンペーン第一声を発した。

その演説の中でルペン氏は、「フランス人」とは「フランス国への愛、フランス語やフランス文化への愛着によって一致団結している何百万もの男女」であると定義。フランス国民でありながらフランス語の習得を嫌い、イスラム教徒の風俗習慣に固執するイスラム(アラブ)系フランス人を暗に非難した。

ちなみに、このセミナーでルペン氏は、大統領選の選挙キャンペーン隊長に弱冠28歳のダヴィット・ラクリーヌ氏を任命している。

ラクリーヌ氏の祖父は、ウクライナからのユダヤ系移民である。だがルペン氏はラクリーヌ氏を「若くて働き者で、才覚があり、忠実」と絶賛し、信頼を寄せている。

ラクリーヌ氏は15歳の時にFNに入党し、2014年に26歳の若さでフレジュス市長に選出された。第5共和制下で史上最年少の市長である。次いで、南仏ヴァル地方選出の上院議員にも当選した(フランスは公職を2つまで兼任できる)。

この夏、ラクリーヌ氏はフレジュス市長としてイスラム教徒の女性の水着「ブルキニ」の着用を真っ先に禁止し、フランス中の注目を浴びた。禁止を無効とする裁判所の決定が出たが、他の3人の市長とともに、現在係争中である。

決選投票でルペン氏が勝つ見込みは?

FNが大統領選の決戦投票に進出するのは、今回が初めてではない。2002年の大統領選では父親のジャンマリ氏が大方の予想を裏切って、1回目の投票で社会党のリオネル・ジョスパン首相(当時)を破り、シラク大統領(当時)とともに2回投票に進出した。

治安悪化、高失業率を背景に「諸悪の根源は移民や移民2世、3世にある」と強調し、当時の政権の寛容な政策を糾弾したのが勝因だった(ただし、決戦投票では、「自由、平等、博愛」を謳うフランス共和国の旗の下、社会党から共産党、緑の党

までがシラク氏に投票。約82%の投票率でシラク氏が圧勝した)。

今回、ルペン氏が決戦投票に進出した場合、勝利の見込みはあるのか。

各種世論調査の結果では、LRのジュペ氏が勝利するだろうとの予測が出ている。また、サルコジ氏が予備選で選出された場合はサルコジ氏が微差で勝利するとの予測が多い。だが、サルコジ氏は大統領時代の係争事件などのマイナス要素を抱えているため、予断を許さない。

来年、アメリカとフランスの大統領が2人とも女性になることはあり得るのか。世界の注目が集まっている。

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『トランプに票を入れる衆愚たちのデモクラシー 米若手学者の衝撃の一冊、「賢人統治主義の勧め」』(10/3JBプレス 高濱賛)、『今まで全勝の米大統領選予測、今回は異変が・・・ 

デモクラシーの胡散臭さは常々感じていました。本記事にありますように、民主主義は衆愚政治に陥りやすいという事です。日本もGHQの洗脳から未だに解放されずにいる人が大半を占めています。でなければ朝日新聞などはとっくに潰れていて当り前です。それでもじわりじわり販売部数を落としてきました。ピーク時には800万部を超えていました販売部数は昨年末で662万部とのこと。押紙があるので8割が実売部数とすれば、500万部が相当でしょう。図書館等で取るのも止めた方が良いでしょう。しんぶん赤旗も販売部数低迷で日曜刊以外は休止するかもしれないとのこと。慶賀の至りです。いい加減呪縛から解き放されてほしいと思っています。近隣諸国は裏金を使い、日本の名誉を貶め、世界で日本を孤立させ、日本を乗っ取ろうとしています。それが見えない人は空めくらでしょう。

http://diamond.jp/articles/-/85459

http://www.dailyshincho.jp/article/2016/10040557/?all=1

米国の若手学者は、エピストクラシーが良いとのことですが、誰が選ぶのでしょうか?君主制、共和制(独裁官を含む)であっても統治の正統性が問題になります。蓮舫の二重国籍問題の他に、自民党の小野田紀美もそうとのこと。統治の正統性から言って両者とも議員辞職に値すると思います。でも日本維新の会の足立康史氏によれば小野田は昨年10月に国籍選択して(参議院議員になる前)、指摘を受けて直ぐに戸籍謄本を開示したとのことで、こちらは免罪すべきでしょう。

話を戻しますが、賢者の定義は難しいでしょう。神ならぬ身なので。謀略が跋扈する世界になるかもしれません。元々近代資本主義は人間の欲望の極大化を認めて発展してきました。資本家・経営者にとって選挙は邪魔なものであっても、資本主義は一党独裁の共産主義よりは民主主義の方が遙かに親和性を持ちます。賢者の政治はモーセの時代ならともかく、独裁に道を繋げるのを危惧します。今でも学者等は顧問と言う形で、どの国でも政権にアドバイスしているでしょう。それでもうまく行かないのは、政権に学者の意見を聞く気がないからか、学者が間違っているかです。イタリアの学者首相のマリオ・モンテイもうまく行きませんでした。

結局は衆愚になるかもしれませんが、民主主義を選ばざるを得ません。国家はその国民に合った政府しか持てないという事でしょう。ドウテルテ暴言大統領を選んだのはフィリピン国民です。米国無しでどうやって中国と対峙するのでしょうか。

堀田氏の記事は11/8以降に再読したいです。やはり、ヒラリー有利とするのが多いという事ですが。

高濱記事

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米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏〔AFPBB News

「歴史の終わり」以後、激動し始めた世界と米国

フランシス・フクヤマ博士の「歴史の終わり」(The End of History and the Last Man)が世に出てから24年、その仮説は完全に突き崩された。同博士はこう予言していた。

「国際社会においてリベラル・デモクラシー(Liberal Democracy)が他のすべての政治形態を打ち破り、最終的勝利を収め、社会制度の発展は終わりを告げる。そして世界は平和と自由と安定を未来永劫、享受できる。リベラル・デモクラシーという政治形態を破壊するような戦争やクーデターはもはや生じない、まさに『歴史の終わり』だ」

ところがあれから24年、世界はどうなったか。イスラム教過激派集団IS(イスラム国)はリビア、イラクの既成体制を脅かし、過激派思想の影響を受けた「ホームグローン・テロリスト」は欧米社会で顕在化している。

内政面でもリベラル・デモクラシーは破綻し始めている。

なまじ国家の一大事をレフォレンダム(国民投票)に託したために欧州連合(EU)から離脱せざるを得なくなった英国。党エリートが手をこまぬいていたために「ナルシスト的アジテーター」(独シュピーゲル誌)に党を乗っ取られてしまった米共和党。

「一般大衆の声を尊重しすぎ、地方自治体が外交安保問題に至るまで中央政府と対等関係にあるかのような錯覚を起こした日本の某県知事」(米主要シンクタンクの日米防衛問題研究者)・・・。まさに大衆迎合主義万々歳である。

「デモクラシーが生んだトランプ現象」

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Against Democracy(反デモクラシー論) By Jason Brennan Princeton University Press, 2016

米国内を吹き荒れた不動産王のドナルド・トランプ氏は、自らの選挙運動についてこう叫んでいる。

「俺の選挙は単なるキャンペーンではない。これはムーブメント(運動)なのだ」

トランプ現象を「デモクラティック・トランパリズム」(Democratic Trumpalism=トランプ的愚民主義)と命名した新進気鋭の米若手政治学者がいる。

今回紹介する本の著者、ジョージタウン大学ビジネススクールのジェイソン・F・ブレナン准教授(政治哲学、政治倫理、公共政策=37)だ。

「Against Democracy」(反デモクラシー論)の著者である。

同氏は、ニューハンプシャー大学を卒業、アリゾナ大学で博士号を取得し、ブラウン大学助教を経て現在ジョージワシントン大学准教授。2011年に著した「投票の倫理」(The Ethics of Voting)で脚光を浴びた。

社会正義と経済的自由・市民的自由を結合させる政治哲学、「Bleeding Heart Libertarian」(熱狂的なリベタリアン)という概念を打ち立てている。

ワシントン・ポストの著名なコラムニスト、イリヤ・ソミン氏はブレナン准教授を「投票動向の分析では世界をリードする学者の1人」と高く評価している。

Democracyの訳語は「民主主義」、それとも「衆愚主義」?

政治学概論的に言えば、デモクラシーとは「人民が権力を所有し、それを行使するという政治原理」「国家の権力者・指導者がその国家を構成するすべての人民の合意を得て行う政体」である。

日本語では「民主主義」という訳語が定着している。

が、評者が本文で「民主主義」とはせず、あえてカタカナで「デモクラシー」と書いてきたのにはわけがある。

英語のDemocracyを「民主主義」と素直に和訳すると、ブレナン氏が本書で論じている論考の基軸と相いれない可能性があるからだ。

平たく言えば、同氏は「Democracy」を日本語の「民主主義」のニュアンスではとらえていない。

日本人にとって、「民主主義」という単語には特別な響き、概念がある。米大学で教鞭をとる日本人政治学者の1人は、匿名でこう指摘している。

「戦後、GHQ(連合軍総司令部)によって行われた『洗脳』によって日本人のマインドに沁み込んだ『デモクラシー=民主主義』という概念は、『絶対的な正当性』があるとの認識だった。『民主主義』には神聖にして侵すことのできない、これ以外にはすべての国民にとって正しい政治形態はないと信じ込まされてしまった面がある」

ところがブレナン氏の「Democracy」に対する概念は、日本人(少なくとも評者)が日本語で見聞きする「民主主義」という概念とは程遠い。むしろ日本語に訳せば「衆愚主義」に近いのだ。

Democracy(デモクラシー)の語源は、古代ギリシャ語の「デーモクラティア―」である。「デーモ」とは「人民・民衆」。「クラッティア―」は「権力・支配」の意味だ。「民主主義」という訳語が定着する以前には「衆愚政治」「民衆支配」といった訳語もあったようだ。

野口忠彦・拓殖大学元教授は、「Democracy」の訳語に言及した「『民主主義』は適訳か」と題する論文(政治・経済・法律研究、拓殖大学論集)を著している。学界にも論議があったことを示す証左だ。

「国家の構成員全員が政治参加する必要はない」

ブレナン氏によれば、米国の衆愚が「トランプ」に熱狂しているのは、次の3点について「そう思い込んだ」からだと分析している。

(A)衆愚がトランプ現象で「デモクラシーとは、国家の構成員すべてが政治的パワーを平等かつ根源的に分かちあえる基本的権利を享受できる政治形態だ」と思い込んだこと。

(B)衆愚がトランプ現象で「デモクラシーとは、国家の構成員すべてが政治参加することこそ善(Good)であり、人民にはその権限が授けられている」と思い込んだこと。

(C)衆愚がトランプ現象で「デモクラシーとは、人民が欲するものをすべて享受でき、それによって人民はより善良な市民になれる素晴らしい政治形態だ」と思い込んだこと。

だが、ブレナン氏はこう反論する。

「デモクラシーとは、少なくとも最初の2つ、AとBを享受できる政治原理ではない。最後の1つ、Cすら受け入れるに足るものとは言えない。

理由はこうだ。

第1に、政治参加はほとんどの構成員にとっては価値あるものではない。構成員のほとんどは政治的決定にはあまり役に立たないどころか、政治への参加は多くの構成員を卑劣で粗野にさせてしまうからだ。

さらに言えば、国家の構成員であるすべてのものに選挙権、被選挙権が基本的権利として与えられているわけではない。

選挙権とは、個々の構成員に与えられる『言論・表現の自由』のような権利とは異なる。選挙権とは立候補している第三者に自らの権限を貸与することを意味する。

デモクラシーとは、それ自体が目的ではない。それは、ちょうどハンマーの価値に似ている。ハンマーは釘を打つから価値がある。それ自体には何ら価値はない。

デモクラシーとは、公正かつ効率的な政策を作り出すための有効なインスツルメンツ(道具、手段)にすぎない。もしデモクラシーより性能のいいハンマーを見つけたらそれを使うべきだ。デモクラシーよりも優れたハンマーはエピストクラシー(Epistocracy=賢者統治主義)*1かもしれない。

自由共和的賢者統治主義(Liberal Republican Epistocracy)の方が自由共和的愚民主義(Liberal Republican Democracy)よりも勝っているかもしれない。それを試してみてどちらがいいかを探り当てる時期に来ている」

*1=新語だけにまだ定訳はない。中国語では「由智者統治」と訳されている。

「デモクラシー=民主主義」の呪縛からの解放

デモクラシーからエピストクラシーへの転換を訴える学者はブレナン氏だけではない。ジョージメイソン大学のギャレット・ジョーンズ准教授もその1人だ。ジョーンズ氏はエピストクラシーのメリットについてこう述べている

「デモクラシーの下で選ばれた政治家は、国家のために良しとする長期戦略を立てても選挙民の目先の要求に応じることを優先せざるを得ない」

「選挙の洗礼を受けずに、つまり一般大衆の声よりも国家の利益を優先して考えることができる政治家による政策立案、立法化には大きなメリットがある。むろんそうした政治家には抜きん出た知性と徹底したモラルが必須であることは言うまでもない」

注意すべきは、ジョーンズ氏が指摘している「エピストクラシー」における政治家の質の問題だ。いくら賢人であろうとも社会正義感覚やモラル感覚に欠けているものは最初からご遠慮願うことは言うまでもない。

卑近な例で言えば、いくら東京都政に精通した地方政治家だろうとも金銭感覚とモラル感覚に欠けている実力者らが暗躍すると、豊洲市場移転をめぐるスキャンダルめいたことが起こる。

もっともこうした輩を選んだのはデモクラシーの名のもとに行われた選挙となると、これは政治形態の問題ではなくなってくるが・・・。

「デモクラティック・トランパリズム」が吹き荒れる中で、トランプ氏が大統領になるにしろ、ならないにしろ、大衆迎合主義に危機感を抱く米国の若手学者は黙ってはいない。

彼らによる「衆愚主義」に代わる選択肢の模索は今後、強まることはあっても弱まることはなさそうだ。

堀田記事

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米大統領選の第1回テレビ討論会を終えて握手する民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(右)と共和党候補ドナルド・トランプ氏(2016年9月26日撮影)〔AFPBB News

米大統領選の投開票日(11月8日)まで1か月あまり。民主党ヒラリー・クリントン候補(以下ヒラリー)と共和党ドナルド・トランプ候補(以下トランプ)のいったいどちらが勝つのか。

第1回テレビ討論会が終わり、両候補はいまレース最後の直線に入ったところだ。毎日のように発表される世論調査結果を眺めると、両候補の数字は拮抗している。ヒラリーが数ポイント差でトランプをリードしている調査結果もあれば、逆の結果もある。

勝者を予測することは危険であるが、米国では当選予測モデルがいくつもあり、大統領選の専門家が予測を公表している。

当欄では単なる「直感的な予想」ではなく、少しマニアックであるが「学究的な予測」を中心に、数字とともに示していきたい。

米大学の政治学者が公表する9つのモデル

米国で最初の当選予測モデルが紹介されたのは1912年のことである。当時は、近年のような学究的なアプローチを駆使したものではなく、予備選の結果を考慮したモデルだった。

政治学者が学会の場で予測モデルを公表したのは1996年のことだ。全米政治学会(APSA)で勝者を分析する予測モデル(Forecasting Models)が発表されている。

1996年というのは、ビル・クリントン元大統領と共和党ボブ・ドール候補が戦った年で、同年の予測だけでなく、過去をさかのぼって大統領選の勝者を割り出すモデルが紹介された。

近年になると、主な予測モデルだけで9つも登場している。すべて米大学に在籍する政治学者が公表しているものだ。いくつか紹介したい。

ニューヨーク州立大学バッファロー校のジェームズ・キャンベル教授のモデルは、過去にさかのぼっても「ハズレ」のない予測を出している。

今年の予測は「ヒラリー勝利」である。同教授が使う指標は、民主・共和両党の全国大会前後の支持率の推移、第2四半期のGDP(国内総生産)実質成長率、政権を担う政党が何年継続しているかを測っている。

8月26日時点でのヒラリーとトランプの勝率は51.2%対48.6%。ヒラリーに軍配が上がっている。同教授の予測モデルだけでなく、他のモデルも数式化されて小数点まで割り出されている。

ジョージア州にあるエモリー大学のアラン・アブラモウィッツ教授のモデルも「勝率」は100%。なにしろ1948年からデータを取り始めて、これまで1度も外していない。

今年の同教授の予測はなんと「トランプ勝利」である。筆者は10年以上前から両教授の予測を見ているが、これまでは予測が一致していた。だが今年初めて予測が割れている。

同教授が使う指標は、現職大統領の6月末時点でのギャラップ調査の支持率、第2四半期GDPの実質成長率、現職大統領が1期目か2期目かの3点である。前出のキャンベル教授との差異は、現職大統領の支持率か候補の支持率かの違いだけだ。

入手可能な情報をすべて使うアームストロング教授

ブラモウィッツ教授の予測数値は51.4%対 48.6%で、キャンベル教授と真逆の結果である。ただ前出の2教授が使う指標が3点だけということが多少、気になる。

予測モデルの発案者の1人として忘れるべきではないのが、ペニンシルバニア大学ウォートンスクールのJ・スコット・アームストロング教授である。

同教授は政治学者ではなくマーケティングの研究者で、ビジネススクールの教授らしく入手可能なあらゆる情報を使い、数値化してエラーが生じない予測を試みている。しかも1日1回のペースで数値を更新している。

支持率や経済指標だけでなく、民間の予測やアイオワ電子市場の勝率予測まで考慮する点に特徴がある。

アームストロング教授の最新の数字(9月29日)は、ヒラリーの52.3%に対しトランプが47.7%。今年の選挙は「ヒラリー勝利」と予測している。この数字は今年2月1日にアイオワ州で党員集会が始まった時からほとんどぶれていない。

当欄では3教授の予測結果を紹介したが、前述した主要9教授(3教授含む)の予測モデルでは7教授が「ヒラリー勝利」を、アブラモウィッツ教授を含む2教授だけが「トランプ勝利」と予測している。

ただ投票日までは1カ月以上ある。多くの方はあと2回残っている討論会での両候補のパフォーマンスや、不測の事態によって予測が外れる可能性があると考えるかもしれない。

けれども過去10年以上、インターネットによる情報量の増加などにより、約9割の有権者は現段階でどちらの候補に一票を投じるか決めている。

最新のウォールストリート・ジャーナルとNBCテレビの共同世論調査によると、討論会を観て心が動かされ、支持候補を替える可能性のある有権者は11%に過ぎなかった。

つまり、討論会は自身の支持する候補がどういった討論をするのかを確認する場になっているのだ。1960年のジョン・F・ケネディ対リチャード・ニクソンのテレビ討論の時代とは討論会の意味合いが違う。

堀田モデルの内容と結果

筆者は一応、大統領選をライフワークと公言しており、1992年の予備選からずっと取材を続けている。そうした経験も踏まえ、おこがましいが「堀田モデル」を作っている。

指標にしているのは以下の6つである。

(1)過去1年の世論調査5社(ロイター、ニューヨーク・タイムズ、ギャラップ、キニアピッグ、エコノミスト)の支持率の中央値 (2)集金額 (3)選挙対策本部の組織力 (4)候補の資質 (5)経済指標(最新の1人あたりの経済成長率、失業率、インフレ率) (6)ガソリン価格

以上の指標を元に一般投票の獲得率を計算している。

自身のブログでは今年6月にヒラリー勝利を予測し、得票率を51%とした。ただ第3政党の候補として、リバタリアン党のギャリー・ジョンソン候補と緑の党のジル・ステイン候補が出馬している。

ジョンソンは全米50州で、ステインは最低45州で投票用紙に名前が刻まれる。米大統領の歴史の中で第3政党の候補が勝ったことはなく、今年も両者が勝つ可能性はほとんどゼロに等しい。

ここまで紹介した政治学者の予測モデルには両候補が加味されておらず、紹介した数値はヒラリー・トランプ両候補がとり分ける値が示されている。しかしジョンソン・ステイン両候補はほぼ間違いなく計1000万票超を獲得するので、ヒラリーとトランプの票数は自ずと減る。

いずれにしても、実際に4人が票をとり分けることになり、「堀田モデル」ではヒラリーが47%、トランプが43%、ジョンソンが7%、ステインが3%で、「ヒラリー勝利」と予測する。

もちろん予測に過ぎないが、かなり近いものになると考えている。

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『G20開催礼賛で読み解くゴジラのいない中国 中国映画の黄金時代は規制とのせめぎ合いで生まれた』(9/29日経ビジネスオンライン 山田泰司)、『差別、格差、汚職生む「中国戸籍」…改革なるか 身元隠しから汚職に走った官僚の半生が映す、課題山積』(9/30日経ビジネスオンライン 北村豊)について

中国は気が狂ったとしか思えません。今度はインドに侵攻しました。米国ですら二方面が難しく、アジアピボット政策に転換したというのに。オバマのことですから口先だけというのはばれていますが。中国には三方面(東シナ海、南シナ海、インド)でバトルはできないし、敵国を多く作り、結束を強めるだけとしか思えませんが。軍部が習近平に嫌がらせしている可能性もあります。日本にとっては味方が増えるし、軍事力を他にも分散して貰えて有難いことです。日本のマスコミに洗脳された人はこういう現実を見てもまだ中国は平和愛好国家と思うのでしょうか?単なるゴロツキ国家でしょう。

http://news.livedoor.com/article/detail/12072087/

山田氏の記事について、天安門事件の見直しは毛沢東の額が天安門に飾られている間は難しいし、紙幣に毛沢東の顔が刷られている間は難しいという事です。毛沢東統治時代は毛だけが良い思いをし、残りは皆、恐怖政治の真っただ中にいました。No.2の周恩来もそう、国家主席だった劉少奇、党副主席だった林彪、朝鮮戦争の英雄だった彭徳懐など皆、毛の犠牲者です。

政府・社会・道徳・宗教を批判できる自由が無ければ良い作品はできませんし、科学技術の発展もあり得ません。今はノーベル賞の発表時期ですが、日本の20年後を危ぶむ人もいますけれど、自由でない国を恐れる必要はありません。ただ、盗まれないように細心の注意を払わないと駄目です。中韓は苦労するより、人がやったことを横取りする方が賢いと思っている民族ですから。中国人は拝金教ですので自由は二の次です。金が儲かればどんなことをしても許されるというのが彼らの発想です。今の中国人に体制批判を期待しても無理。それより、体制とくっついて金儲けした方が良いと思っている人が大半です。

北村氏の記事について、何時も言っていますように中国では賄賂は上から下に至るまで行っており、社会にビルトインされているという事です。「清官三代」の言葉どおりです。北村氏も認めているように、「張緒鵬」が農業戸籍でなかったら汚職に手を染めなかったかというと、全くそんなことはなかったでしょう。周りが汚職に励んでいるのに超然としていたら仲間はずれにされます。

興味がありますのは、どうして腐敗が発覚したかです。多分、敵の不動産会社がもっと上に取り入り、司法部門を動かしたのでしょう。勿論、そのためには金が必要です。いつも言っていますように賄賂が発覚するのは①(政)敵を倒すためか②配分先を間違えたか配分量を間違えたかのいずれかです。習近平がやっているのは正しく①です。中国人だったら皆分かっています。

農村戸籍と非農村戸籍の区別がなくなることは基本的人権の擁護の面で好ましいことです。今までがおかしかったわけです。結果の平等を目指す共産主義が現実面で大いに矛盾していたということですが、権力を監視する術を持たないシステムでは期待する方が野暮でしょう。まあ、一歩前進という所でしょうか。でももっと大きな問題があります。「档案」です。3代前の家族に遡り、共産党に反対したか、不満分子でないか等、素行の内申書で、地方の共産党幹部が書いて本人も見れないようになっていると聞きました。人権蹂躙も甚だしいですが、共産党が続く限り止めることはないでしょう。本当に共産党と言うのはどこの国でも腐っています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%A3%E6%A1%88

山田記事

g20-in-hanzhou

中国・杭州で開催されたG20首脳会議(写真:ロイター/アフロ)

原発事故や戦争を暗喩したと言われる「シン・ゴジラ」を観て、現代の中国で化身としてゴジラに成るとしたら何だろうか、ということについては前回書いた。同時にもう1つ頭に浮かんだことがある。それは、中国の映画人がもしいま、何かを暗喩して映画を撮るとすれば何だろうかということ。

文化大革命(文革)、官僚の腐敗、人権問題、政権批判などいくつも頭に浮かぶ。ただこれをもし、「何かを暗喩して撮る」ではなく、「暗喩でしか描けないものを撮る」と言い換えると、対象はぐっと絞られてくる。習近平国家主席に対する批判もできなさそうではあるが、政権が交代すれば可能性はなくはない。そこで、指導者が替わっても当面難しそうなテーマということで考えれば、私はその筆頭はダントツで1989年6月4日の天安門事件だと思う。

最大のタブーと暗黙の了解

民主化に理解のあった胡耀邦元総書記の死去に端を発した学生の民主化要求運動を当局が最終的に武力で弾圧した、というのが天安門事件についての日本や欧米での一般的な認識だ。ただ、中国政府は確か、「政治的波風に端を発した反革命暴乱」という具合に、いわゆる西側諸国とは異なる見解を示している。

ここで、「確か」「している」と曖昧に書いたのは、天安門事件は中国において検索のNGワードになっているため、中国でこれを書いている私は確かめることができないし、あえて調べようともしていないためだ。ともあれ、事件から27年が経過した今日に至るまで、死者の数などを含めいまだに真相は分からないし、中国ではいまだに最大のタブーだと言っていい。

事件当時、私は中国に留学していて、その秋から入る予定だった北京大学で入学の最終手続きをするため、事件前日の6月3日には北京にいた。手続きを終え、在籍していた山西省の大学に戻るため予定通り3日の夜行列車に乗り、翌4日の朝、山西省の太原に着き大学に戻ってみると、中国人の先生から「よく無事で戻ってきた」と迎えられた。ネットもない時代で情報は限られていたが、事件当日の4日朝の時点で、北京で起きたことのあらましを知らない中国人は誰ひとりいなかった。先に、天安門事件は中国にとって最大のタブーだと言ったが、最大の暗黙の了解でもある。もっとも、事件後に生まれた20代以下の若者の中には、事件の存在自体知らない人も大勢いるというのが現状である。

中国映画の黄金時代

さて、情報の統制が厳しく、映画に対する検閲もあり、表現に対する制約も多いとの印象がある中国だが、中国のタブーという話が出ると天安門事件と並んでよく名前の挙がる文革については、意外なほど批判的に扱ってる映画は多い。陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛~覇王別姫」(1993年)はその代表で、日中戦争や文革など時代に翻弄された当時の京劇役者たちの人生を描いたこの作品は、同年のカンヌ映画祭でグランプリに当たるパルムドールを受賞している。

2008年北京オリンピックの開会式と閉会式の総合演出を手がけた張芸謀(チャン・イーモウ)監督が、その存在を世界に知らしめることになった代表作「紅いコーリャン」(1987年)は、人権問題を陰のテーマにしている。中国の農民が日本軍に虐殺されるシーンが有名なこともあり、抗日映画の印象がどうしても強くなりがちだ。ただ、監督の張芸謀は文革で農村に下放され農民として3年間労働、2012年にノーベル文学賞を受賞する原作者の莫言は農村出身という背景を持つこの2人が、人間扱いされているとは言いがたかった当時の中国の農民の苦しさ、言い換えればこの映画が撮られた当時もなお続いていた中国における人権の扱いに対する批判を込めて創った作品でもある。

ただ、例えば文革を映画のテーマとして取りあげることは許されても、制約が全くないわけではなかった。世の中を文革に至らしめた中国共産党を名指しで批判することは、当時も今もできないのだ。そこで、陳監督は文革、張監督は人権問題を、抗日戦争というテーマと1本の映画のなかに同時に盛り込むことで、当局の許可を得やすいようバランスを取る。もっとも、日本の侵略に対する怒りがあったのはもちろんのことである。

制約・規制に抗うことで生まれた表現

ただそれでも、直接的な当局への批判はできない。そこでわが愛~覇王別姫で陳監督は「音」、紅いコーリャンで張監督は「色」を、自らの思いや感情を表現すると同時に、見る者の想像力をかき立てる手段として効果的に使った。

例えばわが愛~覇王別姫のラスト。主人公の1人が自害するのだが、陳監督は直接、刃物を体に突き立てるようなシーンを描くことはしない。まず、盟友の死を目の当たりにしたもう1人の主人公が、相手の名前を絶叫する声。続けて、共に京劇役者である主人公2人を戯画的に描いた静止画に、京劇の舞台音楽としておなじみの「シャンシャンシャンシャン」という拍子木、シンバルを乱打し笛を吹き鳴らす音をかぶせた。悲しく重苦しい死の場面に続くにはおよそ似つかわしくない甲高く騒々しい音楽だが、観ている私たちに蝉時雨のように降り注いでくるその音は、戦争や文革という理不尽な時代に生きた京劇役者のやるせなさや、そのような時代を招いた政権を名指しで批判することはできない監督自身の憤りを私たちに体感させ、体と心を激しく揺さぶるには十分な効果を生んでいる。

「このような映画を撮れる国」として集めた敬意

一方、紅いコーリャンのラストシーンで陳監督は、大地一面に広がるコーリャン、その大地を踏みしめ仁王立ちする主人公と幼い息子、主人公の足下に転がる殺された妻、その3人を覆う空と、画面に映る何もかもを、夕日と血で燃えるような深紅に染め上げた。怒りと血を意味する赤で包み込むことで、農民がたどり着いた人生を表現してみせたのである。

この時代、中国映画はベネチア、カンヌ、ベルリンなど海外の映画祭で賞を総なめにした。紅いコーリャンも1988年、ベルリン国際映画祭で最優秀賞の金熊賞を受賞している。「竹のカーテン」で閉ざされた国という印象が強かった中国で、映画という表現が盛り上がり始めたことに世界が注目しだしたという時代的な背景もあったのは間違いない。

ただ、当時の中国で映画の撮影に制約がなく、言葉で名指しで批判するような単純な表現が多かったならば、言語も文化も違う他国でここまでの高い評価は得られなかったのではないか。表現が制限される中、人間の五感に訴える色と音で激情や思いを伝えようとした工夫が、国境を越えての共感につながった大きな理由であろう。そしてこの当時、いろいろ問題はあるようだが、でも、このような映画を撮れるのだからという理由で中国や中国人に敬意を抱いた人も、少なくなかったのである。

話題になるのは「カネ」と「市場」ばかりの現状

翻って現在。中国と映画ということで話題になることと言えば、巨大市場に成長した中国の観衆を意識して、舞台に中国が登場するハリウッドの大作が増えたということや、中国の不動産王、王達林氏率いる万達集団が、米国の映画館チェーンAMCエンターテインメントや、「ジュラシック・ワールド」の製作で知られる米レジェンダリー・エンターテインメントを買収した等々、市場やカネにまつわる話ばかり。これらの話題を凌ぐほど評判になる作品は、中国映画の中から久しく出ていない。

共に60代半ばになり申し分のない実績を誇る張芸謀、陳凱歌の両監督が映画界の大御所になったのは当然だとして、張氏は一人っ子政策に違反して億を超す罰金を科されたこと、一方の陳氏は昨年から上海電影学院のトップに就任したことなど、話題になるのは作品以外のことばかり。特に張監督は、五輪の演出をして悦に入っている姿を見ると、体制の側に行ってしまったという感が否めない。

ただ一方で、中国の映画界がいまもなお、何でも自由に描け、批判できるという状況にないことは、陳、張両監督の全盛期であり、中国映画の黄金時代と呼ばれた1980~90年代前半のころと変わるところがない。規制の中でのギリギリのせめぎ合いで表現を工夫しタブーに迫ったからからこそ、陳、張監督の時代の中国映画が強烈なインパクトを残すことに成功したのだということを肯定するならば、タブーや社会問題を暗喩することで名作が生まれる環境面での条件はいまも揃っていることになる。

「G20で締め出し」を市民は本当に怒ったのか

ではなぜ、印象に残るような中国映画が生まれなくなっているのか。9月上旬、日本でシン・ゴジラを観た私はそんなことに思いを巡らせたのだが、ちょうど同時期に中国浙江省杭州で開催された20カ国・地域(G20)首脳会議と、それに対する友人・知人らの反応に、インパクトのある中国映画が出なくなった一因を垣間見た気がした。

G20の開催に合わせ、開催地の杭州では9月1~7日まで、企業や学校が休みになった。大きな通りに面した商店も多くはシャッターが閉じられ、市民を閉め出した町はまるでゴーストタウンのようだったという。首脳らの安全確保に加え、各国のリーダーやメディアが集結する中、中国政府に不満を持つ市民が杭州で陳情などを強行するのを防ぐ目的があったと言われる。

このことについて、日本のメディアが報じているのをいくつか読んだが、おしなべて、閉め出された市民らが当局の強引な措置に不満を漏らしていた、という一点張りで伝えていたように思う。

もちろん、不満を覚える杭州市民も少なくなかったことだろう。ただ、杭州でG20を開催したことを喜び、誇りに思い、強制的な休業や排除を受け入れている市民が、不満を漏らす市民と同じか、私の印象ではそれ以上いたという事実については、伝えておく必要があると思う。

「安定・豊かさ」優先で「批判・評価」は先送り

私がこのことを知ったのは、中国最大のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「WeChat」でのこと。「朋友圏」すなわち友達・知り合いとして登録している人たちに向かってつぶやきや写真を載せる「モーメンツ」というスペースがあるのだが、ここに、G20用にライトアップされたビルなど町の様子の写真を多数載せ「世界の杭州!」「国際化を象徴するようなライトアップだ!」「世界に届け!HANG ZHOU(杭州)の誉!」「私の誇り、杭州!」と、読んでいるこちらが気恥ずかしくなるような文言と共に掲載している知人・友人が、1人や2人ではなかったのである。

中国ではこのWeChatでも検閲が行われていて、友人・知人らがこのモーメンツの欄に自分で書き込んだり、転載したりしている記事が、後になって「不適切なので削除しました」の通知と共に削除されていることもままある。こうした状況なので、中国人が、WeChatのモーメンツでつぶやいていることが、本音ばかりであるというわけでは当然ない。ただ、検閲しているといっても、庶民が中国当局を礼賛する書き込みをしたからといって、それを当局が目ざとく見つけ、「お、こいつは体制の支持派か。留意しておこう」などとなり、それを機に当局の覚えがめでたくなる、というほどでもない。

杭州のG20を礼賛していた友人・知人らの中には1度しか会ったことがない人もいるが、それでも直接会ったことがある人ばかりだ。だから、多少なりとも彼らの人となりは分かる。それから判断する限り、強制的な休業など不便、不利益を被ったことを差し引いても、杭州でのG20開催を心から誇りに思っている人が相当数に上るというのが実態ではないかと、私は思っている。つまり、世界に誇りたくなるような杭州を作り上げた中国当局を、少なくとも大筋では支持している人が、日本の報道、特にネットで流れている報道から受ける印象とは裏腹に、多数派だということである。

名作映画を連発してはいたものの、豊かさという点では今よりも劣っていた80年代。それから30年かけてG20が開催できるまでに築き上げたいまの世の豊かさを、崩したくないという思いも意識的、無意識的にかかわらず、中国人の中には働いているだろう。こうした状況で、安定を危うくする危険をはらむ、社会問題や歴史的事件を暗喩する映画は生まれにくいに違いない。規制という環境は1980~90年代と同じでありながら、いまの中国に強烈な印象を残す映画が出てこないのは、規制に抗ってまで主張したいことが少ない、あるいはあっても評価は先送りにしておきたいという、いまの中国人の意思の現れでもある。

北村記事

9月19日、北京市は正式に『戸籍制度改革をさらに推進する実施意見』を公表し、北京地区の“農業戸口(農業戸籍)”と“非農業戸口(非農業戸籍)”の区分を取り消し、登録する戸籍を“居民戸口(住民戸籍)”に統一すると宣言した。北京市の統計によれば、2012年末における北京市の常住人口は2069.3万人、そのうち農村人口は285.6万人で、2010年末の275.5万人に比べて10万人増加していた。

「差別の温床」戸籍制度の改革計画を公布

これは2014年7月24日付で中国政府“国務院”が公布した『戸籍制度改革をさらに推進することに関する意見』で提起された「“城(都市)”と“郷(農村)”の戸籍登録制度の統一による農業戸籍と非農業戸籍の区別の取り消し」に基づく措置である。9月20日の時点で、北京市を含む30の一級行政区(省・自治区・直轄市)<注1>が農業戸籍と非農業戸籍を取り消すことにより、これまで差別や偏見をもたらしてきた戸籍制度の改革計画が公布されている。

<注1>中国の一級行政区は31か所あり、30か所に含まれていないのはチベット自治区の1か所のみ。

中国では、1958年1月9日に公布された最初の戸籍法規である『中華人民共和国戸籍登録条例』によって、常住、暫住、出生、死亡、転出、転入、変更の7項目の登録制度を含む厳格な戸籍管理制度が確立され、全ての個人は農業戸籍と非農業戸籍に分類された。農業戸籍と非農業戸籍という分類は、計画経済下で“商品糧(商品化食糧)”を基準として区分けしたもので、農業戸籍とは「自分が生産した食糧に頼って生活する農村の農業従事者の戸籍」を指し、非農業戸籍とは「国家が分配する食糧に頼って生活する都市居住者の戸籍」を指す。

当初は農村部に居住する農業戸籍者には宅地と農地が保証されていたから、都市部に住む非農業戸籍者に比べて優遇されているように思われたが、工業が発展するに従い都市部と農村部の収入格差は拡大の一途をたどり、都市部の非農業戸籍者と農村部の農業戸籍者の間には収入、生活、文化、教育などのあらゆる面で大きな格差が厳然と存在するようになった。また、農民の都市部への移動は厳しく制限されたこともあり、都市部の住民は総体的に自分たちより貧しい農村部の住民を一段低い存在と位置づけた。それが、貧しい、汚い、礼儀知らず、無教養などといった農業戸籍者に対する差別と偏見に発展し、今日に至っている。

今まで農業戸籍者が非農業戸籍に転換して都市部住民になるには、非農業戸籍者との結婚や養子縁組、大学卒業、優秀人材、突出した貢献などの厳しい条件と審査があり、承認される人数には大きな制約があった。しかし、一級行政区の各地方政府が戸籍制度の統一に本腰を入れると宣言したことにより、今後数年以内に中国の戸籍は住民戸籍に一本化されるものと思われる。

さて、9月22日付の日刊紙「検察日報」<注2>は、安徽省“寿県”の元“県党委員会書記”(以下「元書記」)が生をうけてから汚職で摘発されて失脚するまでの経緯を詳細に報じた。元書記が汚職に手を染める引き金となったのは、貧しい農民である実家を援助するためであり、実家が貧しい農民であることで妻に見下されたくなかったからだという。本来の農業戸籍から非農業戸籍へ転換していた元書記は、貧しい農民出身であることを妻に隠し通すために汚職に走ったのだった。その概要は以下の通り。

<注2>「検察日報」は“最高人民検察院”の機関紙。最高検察院は日本の最高検察庁に相当する。

「戸籍」から始まった汚職への道

【1】1963年2月18日、“張緒鵬”は安徽省の省都“合肥市”の西隣に位置する“六安市”の管轄下にある“霍山(かくざん)県”の貧困な山村に居住する張家の三男として生まれた。しかし、貧しい張家には彼の出生を喜ぶ者は誰もおらず、家族は彼をどう養って行くのかと眉をひそめるばかりで、最終的に張緒鵬は他家へ養子に出された。養父母の家には2人の姉がいたが、男の子は張緒鵬だけであったことから、幸いにも張緒鵬は教育を受ける機会に恵まれた。1979年、張緒鵬は安徽省東南部の“宣城市”にある“皖南(かんなん)農学院”に16歳で合格して大学生となり、辺鄙な山里から抜け出るチャンスを得た。貧しい山村の学生が都会の大学で学ぶのは非常に困難な事であり、中国の常として、張緒鵬も一族の人々から経済的支援を受けたことは想像に難くない。

【2】1983年に皖南農学院の農学部を卒業した張緒鵬は、生まれ故郷の霍山県にある「符橋農業技術センター」に配属され、技術員、副センター長、センター長と順調に出世の階段を上って行った。2008年、張緒鵬は六安市の北部に位置する“寿県”へ転任となり、“寿県共産党委員会”副書記兼“寿県人民政府”副県長に任命された。寿県着任後の張緒鵬は地元の発展への貢献に目覚ましいものがあり、その実務能力が高いことは広く人々に認められた。

【3】結婚後の張緒鵬は家計管理の実権を妻に委ね、毎月の給与を全て妻に手渡していた。張緒鵬自身は家の中で唯一貧困な山村から抜け出て来た人間であり、生みの親と育ての親の兄弟姉妹は全員が農業に携わっていて貧しかったから、少しでも経済的な援助を提供したかった。しかし、親族が山村で貧困な生活をしていることで妻に見下されることを恐れた張緒鵬は、経済的援助の提供を妻に言い出せず、自分の学生時代に経済的に支援してくれた親族に対して強い負い目を感じていた。それが張緒鵬を腐敗の道に走らせることになった。

【4】2008年5月に張緒鵬が寿県に着任した後、従弟の“張緒剛”が寿県へやって来た。張緒鵬と張緒剛の2人は対外的に兄弟だと言っていたので、人々は2人が実の兄弟だと思っていた。張緒剛が寿県に来て間もなく、張緒鵬は隣接する“淮南市”で「生コンプラント」を経営する“李孟”を張緒剛に紹介した。張緒剛は寿県における生コンの販売で李孟に協力して仲良くなり、李孟を通じて“中景潤置業集団”(以下「中景潤」)<注3>の経営者である“陳中”と知り合った。

<注3>“置業”は「不動産購入」の意味。

5】2010年、張緒剛は寿県“寿蔡路”の南側で都市改造計画があることを知って、張緒鵬に自分が参入することはできないかと尋ねた。張緒鵬が実力のある会社でないと受注できないと答えると、張緒剛はそれならと中景潤を推薦した。早速、張緒鵬は中景潤の陳中と面談したところ、陳中は自社の規模や経営状況を紹介すると同時に、張緒剛は有能だとお世辞を言った。これに対して張緒鵬は、「あいつはそこそこの教育程度だが、事業をやるには経験が乏しく、経済的にも難しいから、できる限りあんたが面倒を見て欲しい」と述べ、別れ際に陳中と李孟で協力して中景潤の関係資料を準備して改めて打ち合わせようと言った。

賄賂攻勢から癒着の泥沼へ

【6】陳中は李孟経由で張緒剛に、都市改造計画が受注できたら、利益の10%を与えると伝えた。当該計画は大型の建設事業で、利益は数億元(約50億~60億円)に上るから10%は数千万元(約5億~6億円)となる。その後、張緒剛は幾度も張緒鵬に分け前が10%になると提起したところ、これに動かされた張緒鵬は具体的な金額はいくらになるかと聞いた。これに対して張緒剛が、少なくとも3000万元(約4.5億円)になると答えると、張緒鵬はその場で態度を表明し、「俺が必ず上手く行くようにするから、彼らに遠慮せずに県政府と話をさせ、何か問題があったら言って来い」と胸を叩いた。その後、中継潤と県政府の商談は急速に進展し、その後の難関である土地の競売、住民の立ち退きや建物の取り壊しも極めて順調に推移した。これは張緒鵬が自ら全てを取り仕切ったことによるものだった。2012年に張緒鵬が合肥市にある“安徽省立医院”で手術を受けた際には、陳中と李孟の2人から5万元(約75万円)の見舞金を受け取った。

【7】2007年、不動産開発企業である“安徽永順房地産開発集団”の経営者である“銭慶”は宴会の席で、将来寿県の県長になると噂されていた張緒鵬と知り合った。2008年に張緒鵬が寿県の県長に就任した後、同集団は寿県の一大開発事業である“泰州時代広場”建設計画を受注し、銭慶は張緒鵬と何回か面談した。2009年の“春節(旧正月)”期間中に、銭慶は張緒鵬へ連絡を入れて、高級酒“五糧液”を2箱(6瓶/箱)、高級たばこ“熊猫煙(パンダたばこ)”4カートン(10箱/カートン)と商品券1万元(約15万円)を張緒鵬に贈った。

【8】2009年10月、銭慶は張緒鵬が“安徽省党校(党学校)”で研修を受けているのを知った。研修期間の終了後は張緒鵬が寿県のNo1である“県党委員会書記”に就任することは明らかだった。抜け目のない銭慶は、すぐに研修中の張緒鵬に電話を入れてスーツを作ろうと誘い、党学校の宿舎の部屋に張緒鵬を訪ねた。銭慶は張緒鵬に気付かれないように20万元(約300万円)の札束を入れた袋を寝台の上に置いて掛布団で隠してから、張緒鵬を連れて紳士服店へ行き、オーダーメイドでスーツ1着とワイシャツ3枚を注文して、1.8万元(約27万円)を支払った。「自分が20万元を贈った後は、張緒鵬の自分に対する呼称が明らかに変わった」と銭慶は後に語った。銭慶の予想通り、2009年12月に張緒鵬は寿県の党委員会書記に昇進し、銭慶は張緒鵬という後ろ盾を得て、寿県で多数の建設案件を受注した。

【9】上述したのは、張緒鵬が行った汚職の代表的な例に過ぎない。「奢れるものは久しからず」の言葉通り、寿県の行政を意のままに動かし、我が物顔で寿県の財政を食い物にしていた寿県党委員会書記の張緒鵬は、2014年5月に“淮北市検察院”によって収賄の容疑で立件され取り調べを受けた。2014年7月21日、“安徽省検察院”の指示を受けた淮北市検察院は、張緒鵬を立件して取り調べ、張緒鵬とその従弟の張緒剛が“兄弟斉心, 共同撈金(兄弟心を一つにして、共同でカネを手に入れる)”という形で犯罪を行った事実を確認した。8月11日、検察機関は初歩的調査の結果として、張緒鵬が寿県党委員会書記ならびに寿県県長の在職期間中に、職務を利用して他人のために土地開発や建設工事の便宜を図り、見返りとして不法に他人の財物を受け取ったが、その額は巨大であり、収賄の嫌疑がかかっていると発表した。

行きつく先は一家全員の腐敗

【10】それから2年後の2016年7月19日、“淮北市中級法院(地方裁判所)”は同事件に対し以下のような一審判決を下した。

張緒鵬は職務を利用して他人の金品・物品を総額645万元(約9675万円)<内訳:単独収賄145万元、共同収賄500万元>受け取ったことにより、収賄罪で懲役11年および罰金210万元(約3150万円)、職権濫用罪で懲役3年とし、最終的に懲役12年、罰金210万元に処す。張緒剛は他人の金品・物品を500万元(約7500万円)受け取ったことにより、収賄罪で懲役10年および罰金175万元(約2625万円)に処す。

【11】7月29日、張緒剛は一審判決を不服として控訴し、二審を待つ状況にある。この事件について「検察日報」記者からコメントを求められた淮北市検察院“反貪局(汚職取締局)”副局長の“余権”は次のように語った。

事件の審議を取り進める中で、多くの人々が張緒鵬を業務能力が高いだけでなく、論理の水準も高く、非常に優れた人材であると評価していた。但し、この人材は「才」に溺れる形で、最終的には汚職の道に迷い込んでしまった。張緒鵬は自らほしいままに賄賂を受け取っただけでなく、その兄弟、娘、姪、妻などの親族までが彼の影響力を利用して“権銭交易(権力とカネの癒着)”を繰り広げ、“不義之財(道義に反して作ったカネ)”で大儲けした。張緒鵬は、“全家福(一家全員の幸福)”を求めて、最後には“全家腐(一家全員の腐敗)”に陥った。

上述したように、張緒鵬が汚職の道に足を踏み入れたのは、自分が出世する糸口を作ってくれた実家の人々に恩返しの援助をしたいという人の道としてまっとうな気持ちからだった。地方官僚として十分な俸給を受けているなら、その中から援助金を捻出すれば済む話だが、俸給全てを妻に上納していた張緒鵬は、貧しい農民である実家を援助すると言えば、妻に実家が見下されるばかりか、自分までもが出自が卑しいと軽蔑されると考えたのだった。

厳然とした格差、克服への道は…

地方官僚とはいえ、寿県党委員会書記は寿県の最高指導者であり、県民約140万人の頂点立つ役職である。その地位にまで上ってもなお、自身の出自が貧しい山村の農民であり、実家の人々は依然として貧しい農民であることは、張緒鵬にとっては一生背負って行かねばならない重荷だったに違いない。張緒鵬が都市に生まれた非農業戸籍者であったなら、汚職を行わなかったかと問われれば、汚職をしないという保証はなく、中国の役人の常として恐らく汚職をしただろう。しかし、張緒鵬の場合は農業戸籍であった出自を恥じる気持ちが汚職に手を染める契機となったことは否定できない事実である。

中国全土が早期に戸籍の統一作業を完了させ、戸籍による身分差別が払拭される日が近いことを祈りたい。但し、戸籍が住民戸籍に一本化されたとしても、都市と農村の格差が縮小される訳ではなく、所得、社会福祉、教育、医療など多岐にわたる格差は厳然として存在する。それでも、戸籍の統一は格差縮小の一歩と言えよう。

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『「死刑判決」を受けたドイツ銀行。1.4兆円では済まない絶望の訴訟リスト』(9/27MONEY VOICE)、『ドイツ銀に報酬返上圧力 不正行為の穴埋め 信頼回復に不可欠』(10/2日経朝刊 FT)、『ドイツ発金融不安に「日本化」の亡霊』(10/2日経電子版滝田洋一)について

リーマン以上の欧州金融危機について、9/23に開放されたリアルインサイトの藤井厳喜氏の解説VIDEOが一番分かり易いでしょう。そのときのパネルを掲示します。

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堅いと思われていたドイツの産業資本と金融資本の両方が不正に手を染めていたのですから。コンプライアンスが全然できていないという事でしょう。日本も三菱自動車とかありましたが、世界にインパクトを与えることはありませんでした。VWの排ガス数値捏造は米国の一般原告団、および44の州との間で、約150億ドルの賠償に合意しました。VWは世界売上の1/3を中国で稼いでいます(上海のサンタナが有名)。中国は実質マイナス成長と言われていますので、泣き面に蜂の状況です。またVWの大株主は当然ドイツ銀行です。ドイツ銀行は、その他にも、米国でのサブプライム層に対する不動産担保証券の汚い売り方や、LIBORの出鱈目な数字の報告とか、いい加減さが半端でありません。監査役会が機能していなかったという事でしょう。またドイツ政府は民間企業救済する前に、既存株主や債権者に痛みを感じて貰う必要があるとのこと、理論上は確かにその通りなのですが、システミックリスクを全然考慮に入れていません。日本のバブルも宮澤蔵相が銀行等への税金投入による救済を唱えた所、日共・マスコミの反対に遭い、実現できず、バブル崩壊後の経済低迷を齎し、長い期間と多くの金を投入することになりました、日本の例を研究すれば、税金投入しかないというのが分かりますが、今のメルケルは難民問題でミソを付けているので、ここで税金投入の話をすれば確実に次の選挙では勝てないでしょう。結局、経済崩壊するまで手が打てないのでは。

http://jp.techcrunch.com/2016/07/01/20160630how-the-vw-diesel-settlement-breaks-down-in-dollars/

英国のEU離脱は賢明だったのかもしれません。ただメイ首相は明年3月までに離脱通知をするとのことで、それまでにドイツ経済が破綻したら、連鎖して痛手を蒙る所が沢山出るのでは。勿論、日本もです。ドイツと多く取引している会社の株価は軒並み下がり、円高が進むでしょうし、ユーロの価値は暴落、$の信認が上がり、滝田記事にあるように$の調達が難しくなるかもしれません。中国経済も悪いことから、お互いに足の引っ張り合いが循環して、奈落へと突き進むような気がします。中国は人民元を増刷して逃れようとするでしょうが、実体経済が悪すぎます。電力消費量、銀行融資、鉄道貨物輸送量、純輸出、マイナスかマイナス付近です。2015年通年から貿易量以外のデータ公表はなくなりました。発表数字がGDPの数字と大幅に乖離するためです。貿易量は相手国があるため発表しています。本年7月の輸出は前年同月比4.4%減少、輸入は12.5%減少と両方ともにマイナスです。

http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20160301/Searchina_20160301113.html

http://jp.reuters.com/article/china-july-tradedata-idJPKCN10J0FP?sp=true

頼りになるのは米国と日本だけになりかねません。後は日本の支援が期待できるロシアくらいかと。

MONEY VOICE記事

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米司法省がドイツ銀行に対して14B$(1.4兆円)の和解金支払いを要求。これに対しドイツ銀行は絶対に飲めないと拒否していますが、いよいよ、本当に危険水域のようです。現在ドイツ銀行が抱える訴訟や調査は、数え切れないほどの件数に膨れあがっているのです。(『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』)

※本記事は、『いつも感謝している高年の独り言(有料版)』2016年9月27日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

集団訴訟、巨額デリバティブ…ドイツ銀行が抱える爆弾の中身

まずはUSA TODAYの報道から、ポイントを見てみましょう。

報道のポイント

消息筋によると、2008年の金融危機の際、ドイツ銀行がサブプライムローン市場で人為的に金融過熱を煽ったという理由で、米国司法省は14B$(1.4兆円)の罰金支払いを要求していることが分かった。

同行が、不透明で分かり難い金融商品であるMBS(不動産担保証券)を、投資家に売りまくったからである。

米司法省の要求する罰金が14B$にのぼると発表された時点で、NY市場のドイツ銀行の株価は8.4%急落し13.50ドルまで下落した。

【関連】ヒラリー余命1年説~匿名を条件に「専門家」が投稿した動画の中身とは

ドイツ銀行側は、この巨額の和解金支払い要求に対して絶対拒否の姿勢を見せており、「我々にとって、この規模の和解金は巨額すぎる。この数字のレベルでは応じる意志は全くない。現在、調停は始まったばかりだ。もっと少ない金額で妥結した類似の銀行と同様の扱いを期待している」と回答した。

今回の米司法省の和解金支払い要求は、ドイツ銀行が2005~2007年にかけて販売したサブプライム層に対する不動産担保証券のあざといやり口に対するものである。

ドイツのMagazin誌は、米司法省が、ドイツ銀行の違法行為、それを行った従業員氏名、罰金支払い要求額等を記載した100ページにわたる文書を、同行宛に9月中旬に送付したと報道していた。

現在進行中の集団訴訟

2016年第2四半期決算書のデータから、ポイントだけ抜き書きします。114~124ページにかけて、現在進行している集団訴訟や金融監視当局との調停の詳細が記述されています。項目だけでも非常に多いことに驚きます。

数え切れない訴訟を抱えるドイツ銀行

合計でいったい何件の集団訴訟や調査が入っているのか分からないほど、非常に多い状況です。これは長期負債を抱えているのと同じです。

  • Esch Funds Litigation
  • FX Investigations(外貨不正取引訴訟。米国だけでなくカナダ等多数の集団訴訟)
  • High Frequency Trading/Dark Pool Trading(超高速・高頻度取引での不正行為訴訟)
  • Interbank Offered Rates Matter(インターバンクレート不正訴訟。米国、欧州各国だけでなくアジア等の金融監視当局による調査、この分野だけで47件の民間訴訟)
  • 米ドルLIBOR 不正操作に関する複数の訴訟
  • 日本円LIBOR ユーロ円TIBOR不正操作
  • SIBOR及びSOR
  • 韓国株価KOSPI(指数操作疑惑で複数の訴訟)
  • サブプライム住宅ローン、不動産担保証券の不正発行
  • Trustee Civil Litigation(8件の集団訴訟)
  • 貴金属不正操作疑惑(金価格不正操作で早々に妥協、他行の手口を教えることで和解金額を下げた例の訴訟)
  • Referral Hiring 不正疑惑
  • ロシア・英国株式不正取引疑惑
  • 国債、機関債不正疑惑
  • 米国禁輸関連疑惑(スーダン、北朝鮮、キューバ、シリアの銀行との取引疑惑)
  • 米国債不正疑惑

長期負債なら金額が分かりますが、この訴訟や不正行為調査では、和解金額がどれほどになるのか分かりません。非常に恐ろしい事態です。

資金はまったく足りず

これらの集団訴訟や金融監視当局との争いに備えて、ドイツ銀行は予備の資金を準備していますが――

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(ア)黒枠が集団訴訟の和解準備金です。2016年6月30日時点で1.488Bユーロを準備しています。赤枠が金融監視当局の罰金準備金4.050Bユーロ。合計しても準備できたのは5.5Bユーロ(6.158B$)だけです。

今回、これに対して14B$の罰金を要求されているのです。思い出して下さい。先に示した訴訟や調査の長いリストを。

(イ)和解準備金の四半期の変化です。

これは「ドイツ銀行 対 米国金融当局」の問題から、「ドイツ政府 対 米国政府」の外交問題になるでしょう。もちろん、水面下での交渉となるでしょうが。

巨額デリバティブというアキレス腱

イタリアのマッテオ・レンツィ首相が、ドイツ連邦銀行(中央銀行)総裁に対し、ドイツの銀行問題を解決するべきだと発言。こちらは2016年9月19日のロイター電です。

報道のポイント

ドイツ連邦銀行のイェンス・ヴァイトマン総裁が、イタリアの巨額公的債務問題を取り上げ、債務を減らすべきだと述べたことに対し、イタリアのマッテオ・レンツィ首相は、「ドイツは自らの足元、ドイツの複数の銀行の問題を片付けるのに集中すべきだろう」と応酬した。

イタリアの首相はニューヨークでの記者会見で、ドイツの銀行は「100Bユーロの数万倍ものデリバティブを抱えているではないか。他国のことをとやかく言う前に、まず自分の身の回りを片付けるべきだ」と述べた。

イタリアはこの秋に国民投票を行うが、それに彼の政治生命は掛かっており、ここ数日間はEU首脳陣が経済問題や移民問題に不適切な対応をしていると批判している。

危険水域

イタリアのトップが、ドイツ銀行こそがドイツにとって一番痛いアキレス腱だと、すなわち破産の崖っぷちだと認識していることを吐露したのです。ドイツ銀行は、本当に危険水域のようです。誰も言いませんが。

昨年から言い続けていますが、EU圏は分裂せざるを得ません。経済統一ができても、それは利益を得ている間だけです。落ちこぼれ国家をどうするか?について、政治統一ができていなければ、総論賛成の各論反対で結局は分裂します。

EUの理想を語る政治家は、もういません。もしいても、その政治家は一般大衆多数派の支持を得られないでしょう。

FT記事

不正が発覚した場合、過去に払った報酬を返上させる――。金融業界における「クローバック」というこの概念は、これまで規制当局者の頭の中か、政治家が怒って発する言葉にしか存在しないかに思えた。だが、もはやそうではない。

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不正営業問題に関し9月29日、米議会で証言するウェルズ・ファーゴのスタンフCEO=AP

■米銀のCEO、41億円を返上

米大手銀行ウェルズ・ファーゴは9月、顧客に無断で200万件もの口座を不正に開設したと認め、金融界に衝撃が走った。これは驚くべきことだが、同じくらい注目すべきは、取締役会がジョン・スタンフ最高経営責任者(CEO)に支給された4100万ドル(約41億4000万円)の株式報酬の返上を決めたことだ。リテール銀行部門のトップだったキャリー・トルステッド氏にも、年金と合わせ、権利未確定の株式報酬1900万ドルを返上させる。

見方によってはこの対応は不十分だし、タイミングも遅すぎるように思える。取締役会がこの措置を決めたのは、米民主党の上院議員5人が同行に不正を問題視する書簡を送った後のことであり、スタンフ氏は米議会ではあきれた内容の証言をした。取締役会が圧力の高まる前に自ら動いていたなら、もっと称賛されていただろう。

■株主からの要求増える可能性

だが、対応が遅すぎたとしても、この措置は後に歴史の大きな転換点になるかもしれない。スタンフ氏は極めて裕福なので、報酬を返上しても、それほどひどい痛手にはならないだろう。ただ、いかに米国の金持ちの基準が度肝を抜くものであるとはいえ、4100万ドルは決して少額などではない。しかも、企業の取締役会がこれほど多額の報酬返上を、しかもCEOに対して求めるのは初めてだ。

今回の措置は重要な意味を持つ。不正を働いた銀行員やその幹部が報酬を返上するというのは新しい考え方ではない。だが、2008年の金融危機以前は、取締役会がこの措置を実行するための法的な規定はほとんど存在しなかった。彼らの懐を突く唯一の方法は、一時金を削減する(あるいは解雇する)だけだった。

08年以降、大半の大手銀行は、報酬を3年分遡って返上することを要求できるクローバック条項を導入した。まだ広く適用されていないが、規制当局は圧力を強めている。米証券取引委員会(SEC)は15年、「誤って支給された成果連動型報酬の返還を経営幹部に義務付ける規定を導入する」ことを上場企業に求めた。この改革は2~3年内に実行に移されることになっており、7年分の報酬が対象になる。これとは別に、英国の規制当局は、10年分の報酬の返上が可能になるよう銀行に求めている。

このため、今やほかの銀行も不祥事に見舞われた場合には、ウェルズ・ファーゴの対策をまねる可能性が高い。実際、株主が次第にこの種の措置を要求するようになるだろう。

だが実に興味深く、今、最も注目すべきは欧州、特にドイツで何が起きるかだ。ドイツ銀行は金融危機発生前に、米国内で住宅ローン担保証券(MBS)を不正に販売していた件で、米司法省から140億ドルの罰金支払いを求められていることが9月15日に明らかになった。これを受け、同行の株価は9月下旬、30年ぶりの安値に落ち込んだ。ドイツ銀の経営幹部は、最終的な支払額を30億ドル近くに圧縮してもらおうと当局と交渉中だ。だが、たとえ交渉に成功したとしても、同行のバランスシートには穴が開くことになる。ドイツ銀の株式時価総額は160億ドルしかないからだ。

ドイツ銀は株式を使ったり資産を売却したりして、この穴を埋めることができるが、もう一つ、この穴を小さくできる選択肢がある。それは過去に与えた報酬の没収だ。

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金融商品を不正販売したことに対して米司法省から巨額の罰金を要求されているドイツ銀行=ロイター

■1700億円以上没収可能か

例えば、調査会社オートノマス・リサーチのアナリスト、スチュアート・グレアム氏は、社員や幹部にすでに与えると約束した報酬のうち現時点でまだ権利が行使されていない株式に連動した報酬分を取り消し、さらに16年のボーナスも払わないことにすれば、15億ユーロ(約1700億円)ほど調達できると試算する。

元従業員の間には、ドイツ銀が徹底して強気に出れば、はるかに大きな金額を回収できるとみる向きもある。同行は06年と07年に総額40億ユーロ、08年に同20億ユーロに上るボーナスを従業員に払ったと彼らは言う。

驚くまでもなく、こうした話はドイツ銀の幹部らを内心、震え上がらせている。もちろん欧州の他の銀行の幹部も同じ気持ちだろう。欧州では銀行業界はすでに「投資に値しない」とのレッテルが貼られているだけに、彼らは過去の報酬をこれほど大規模に返上させるクローバックは、ますます人材の引き留めを難しくし、銀行業というビジネスモデルと、その価値をさらに損ねることになると主張する。極めて厳しい報酬没収については法廷闘争に持ち込まれることになるだろう。というのも、ドイツ銀には確かにクローバック条項が存在するものの、それは主に権利未確定の株式に連動した報酬を対象にしたものだからだ。

しかし、ウェルズ・ファーゴの取締役会の今回の動きと、ドイツで高まる金融機関への政治的な怒りから、ドイツ銀が行動を迫られる可能性は高まっている。当然だ。銀行員が高額報酬を含め、自分たちの稼ぐ手腕をあくまでも正当化するのであれば、彼らは株主や納税者とリスクをどう分けるかを真剣に考える必要がある。

金融機関やそこで働く人々が本当に再び信頼を勝ち取るには、そうした対策が不可欠だ。これらの改革が効力を発揮するのに、これほど時間がかかったのは極めて残念なことだ。報酬返上という取り決めが10年前に整備されていたら、ドイツ銀やウェルズ・ファーゴなどの不祥事はそもそも発生していなかったかもしれない。クローバックには、文字通り、クロー(かぎ爪)が必要だ。

By Gillian Tett

(2016年9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

滝田記事

ドイツ発の金融不安が世界を駆け巡っている。ドイツ銀行やコメルツ銀行など大手行の経営問題が、金融・株式市場で警戒感を増幅させている。バブル崩壊後の日本を想起させる出来事。悩ましいのは当時よりもグローバルな連鎖の度合いが格段に大きいことだ。

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ドイツ銀行の株価が急落するなど欧州銀行部門の財務健全性への懸念が高まっている=ロイター

「経営再建は順調に進んでおり、経営不安説には根拠がない」。9月7日、都内でインタビューした際、ドイツ銀のジョン・クライアン最高経営責任者(CEO)は、そう語っていた。

英国の金融界出身のクライアン氏は、ドイツ銀の再建を託されて2015年7月にCEOに就任した。過去のしがらみを断ち切って「複雑すぎる業務内容の簡素化」を掲げるクライアン氏が、隠し立てをしているとは思えなかった。

だが、悪いときには悪いことが重なる。今度は米国で05~07年に販売した住宅ローン担保証券(RMBS)の不正販売を巡って、米司法省から巨額の和解金を吹っかけられる。

その金額は最大140億ドルで、円換算すると1.4兆円である。和解金の要求規模が明らかになる前のドイツ銀の時価総額が180億ドルだったから、いくら何でも払いきれない。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「金融システムをリスクにさらす米当局」という社説を掲げたのもうなずける。

和解金問題については、54億ドルに減額されるという関係者の話を、AFPが伝えた。この金額だとドイツ銀は何とか対処できようが、増資をしてもなお自己資本が不足するようなら公的資金(税金)を投入するほかあるまい。ところが欧州連合(EU)の決まりでは、その前に銀行の債券保有者などが身銭を切ることを求められる。

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そもそもリーマン・ショック後の欧州で、公的資金投入を強く批判してきたのはメルケル首相の率いるドイツだった。地方選挙で敗北を重ねるメルケル政権は、この問題をとても切り出せない。ドイツ銀の経営陣も自力再建を繰り返す。

潜在的な自己資本不足というソルベンシー(支払い能力)の問題は、経営破綻した際の保険であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保険料にはね返る。加えてヘッジファンドの一部が、保有する上場デリバティブの一部を引き揚げ始めた。

カウンターパーティーリスク(取引相手としての危険性)が強く意識されだしたのだ。こうした動きが資金取引にも広がるようだと、銀行経営の命綱であるリクイディティー(流動性)が枯渇しかねない。

問題はドイツ銀だけにとどまらない。コメルツ銀も従業員の5分の1に当たる大規模なリストラと配当停止を打ち出さざるを得なくなった。日本でも大手行が軒並み崖っ縁に追い詰められた、1990年代末から2000年代初をほうふつとさせる事態だ。

当時の日本と違いドイツ経済は欧州主要国では最も好調で、ドイツ企業の国際競争力も高い。財政も健全である。経常黒字が国内総生産(GDP)の8%にのぼることもあって、いざ金融危機が起きても国内の資金だけで対処できる。

ただし日本と同様に、ドイツは銀行融資を主体とした間接金融が優位の経済である。大手行の屋台骨が揺らぐと借り手である企業の打撃は大きい。欧州経済の覇者であるドイツに依存する、ユーロ圏諸国の景気にも下押し圧力がかかる。

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さらに悩ましいのは、かつての邦銀と異なり、ドイツ銀が国際的な金融システムの中心に位置することだ。国際通貨基金(IMF)が6月に発表した、ドイツに対する金融安定審査報告でも、このシステミックリスクを重視した。

グローバルな金融システムに及ぼす影響の度合いは、世界の主要金融機関のなかで、ドイツ銀が最も大きい。その銀行に万が一のことがあれば、火の粉は思わぬ所に飛んでくる。

日本にとってさしずめ懸念されるのは円の急騰だ。海外での投融資を積み増してきた邦銀もドル資金調達に火が付きかねない。米当局には法外な和解金を自制し、ドイツ当局には金融危機を未然に防止するという、当たり前の対応を望むばかりである。

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『冷戦の再来、欧州で高まるロシアとNATOの緊張 プーチン訪日の真の狙いは?』(9/29日経ビジネスオンライン 熊谷徹)、『平和友好条約の勧め 日ロの領土交渉促すには』(10/2日経朝刊 池田元博)について

熊谷徹氏は元NHK出身だけあって、池上彰と同じ匂いがします。欧米の主張するのが正しい、日本もそれに沿った行動をせよと。左翼・リベラルにシンパシーを感じているのも同じでしょう。ロシア側から見た主張は余りされませんし、侵略を強める中国に強いことは言いません。

日本も遠く離れたヨーロッパ内のNATO VS ロシアの構図に関心がないのは、ヨーロッパ諸国が南シナ海や東シナ海に関心が薄いのと同じです。熊谷氏の関心は日本の安全より、ヨーロッパ諸国の安全に危惧を覚えている感じがします。メデイア人に多いデラシネでしょう。ドイツに帰化した方が良いのではと感じます。

日本は中国の尖閣侵略はおろか、沖縄、日本まで狙われています。中国は日本の左翼に金を出して、沖縄・高江のヘリパッド建設の邪魔をしています。そもそもで言えば、暴力革命を否定しない日本共産党が議席を獲得できるのがおかしい訳で、反自民というだけで共産党に投票するのは愚かとしか言いようがありません。中共の例を見るまでもなく、一党独裁・司法権の独立無し・人権抑圧国家を目指そうという政党です。反日民進党も選挙協力を続けるようですから、蓮舫の二重国籍問題もあって、次期衆院選では壊滅状態になるのでは。連合もこんな泥舟を未だ支援しようとしているのですから、危機感が足りないとしか言えません。化学総連が連合を脱退したように民間産別は今後も脱退が続き、官公労中心となるのでは。

http://www.sankei.com/region/news/160615/rgn1606150058-n1.html

ロシアとの領土・平和条約交渉は厳しいものとなります。当たり前で、失われた領土は「戦争」か「金」で解決するしかありません。平和愛好の人々が多い日本で「戦争」という方法は取れるはずがありません。尖閣を取りに来ている中国に国民レベルで怒りの表現すら発露できない民族に成り下がっていますので。ロシアとは「金」で解決することになります。それが政府の「8項目協力プラン」です。ロシア側からすれば、日ソ中立条約違反で奪った島とは言え、実効支配を続けてきました。それを無償で返還することはできないでしょう。池田氏の言うようにロシア国内で領土返還に否定的な見方が多い中での信頼醸成が大事と言うことになります。日本は中国包囲網の形成という大きな枠組みの中で考える必要があります。

熊谷氏はロシア人の入植を言いますが、中国だって同じことをやっています。日本に関心がないとしか思えません。そもそもで言えば、東西ドイツの統合時に欧米はNATOの東方進出はしないとロシアと密約しました。米国の裏切りでドンドン約束が破られて言ったわけですが、各国にはそのままロシア系住民が残っていて、多くなるのもむべなるかなです。況してやスラブ民族の兄弟国と思っていたウクライナ、ベラルーシの内、ウクライナが裏切ったと思ったことは間違いありません。ヨーロッパはロシアに経済制裁していますが、国際法を守らない中国に経済制裁を課す動きがありません。ヘタレ・オバマのアメリカが弱腰だからです。中国が日本に攻めて来た時にヨーロッパは助けてくれるのかです。そんなことも考えず、ヨーロッパの為に日本がロシアと交渉するのは考えた方が良いという論調は本末転倒でしょう。

熊谷記事

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NATOの演習に参加するヘリコプター「アパッチ」(写真:ロイター/アフロ)

日本のメディアは今、ちょっとした「ロシア・ブーム」に沸いている。ロシア大統領のプーチンが日本の首相、安倍の招きで、今年12月に日本を訪れることが決まったからだ。日本側の目的は、経済協力をテコに北方領土の返還を引き出すことにある。安倍首相が北方領土の返還を切望する気持ちは、よくわかる。

ヨーロッパで高まる緊張

だが日本では、ロシアと欧米諸国との間で軍事的な緊張が高まりつつあることがほとんど知られていない。プーチン訪日を報じる日本のメディアも、ヨーロッパの緊張についてはほとんど触れない。ドイツに住んでいる筆者には、日本のメディアの沈黙が奇異に感じられる。

ヨーロッパでは、「東西冷戦」が再燃している。市民の間でも、「新たな戦争の時代が近づいているのか」という漠たる不安感が強まっている。

クリミア併合が引き金

そのきっかけは、2014年3月にロシアがクリミア半島に戦闘部隊を送って制圧し、ロシアに併合したことだ。同年2月にウクライナで起きた政変で、親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領が失脚し、親EU政権が誕生。新しいウクライナ政府は、EUやNATO(北大西洋条約機構)との協力関係の強化を希望した。

EUとNATOはベルリンの壁崩壊とソ連解体以降、かつてソ連の影響下にあった中欧・東欧諸国を次々と加盟させて「東方拡大」を続けてきた。かつての東側の盟主、ロシアの勢力圏は小さくなる一方だった。この際にEUとNATOは、シベリア出兵や第二次世界大戦中のナチスによる侵略など過去の経験から「外国勢力の介入」に強いアレルギーを抱くロシアの感情に、十分配慮しなかった。西欧諸国はかつてソ連の一部だった国・ウクライナと協力関係を深めたことで、虎の尾を踏んだ。

プーチンは、「ウクライナの新政権が、同国に住むロシア系住民にロシア語の使用を禁止するなど、その権益を脅かしている。我々はロシア系住民を守らなくてはならない」として、2014年2月末に、戦闘部隊をクリミア半島に派遣して軍事施設や交通の要衝を制圧。3月に同半島を併合した。

その後ロシア系住民の比率が多いウクライナ東部では、分離派とウクライナ政府軍との間で内戦が勃発。ロシア政府は分離派に兵器を供与するなどして、内戦に介入している。ウクライナ東部ではロシア軍の兵士が捕虜になっており、同国がウクライナ内戦に関与していることは確実だ。

EUとNATOは、ロシアの「奇襲作戦」によって、完全に虚を突かれた。21世紀に入って以来、ロシアに対するNATOの警戒感は緩んでいた。

たとえばロシアが2008年の南オセチア紛争で隣国グルジアに侵攻した時、NATOは強く反応しなかった。EUも本格的な経済制裁に踏み切らなかった。さらに、2014年2月にロシア軍はウクライナ国境付近で大規模な軍事演習を行ったが、NATOは反応しなかった。欧米諸国は、ロシアがウクライナの領土に戦闘部隊を送り、併合に踏み切るとは予想していなかったのだ。

欧米はクリミア併合に対し軍事的な手段で対抗せず、「冷戦終結後、最も重大な国際法違反」として非難し経済制裁措置を取るにとどめた。プーチンの「電撃作戦」は功を奏したのだ。ロシアがクリミアを併合した直後、プーチンに対するロシア国民の支持率は、一時約80%にまで上昇した。

焦点はスバルキ・ギャップ

プーチンの強硬な態度に驚いた欧米諸国は、2014年9月にウェールズで開いたNATO首脳会議で、緊急介入部隊の創設を決めた。NATOは、これにより欧州のどの地域にも数日以内に3000~5000人規模の戦闘部隊を投入できる体制を整えた。この措置は、「東欧のNATO加盟国にロシアが侵攻することは許さない」という欧米の意思表示だった。

NATO関係者は「東西対立がエスカレートした場合に、ロシアが次に併合しようとするのはバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)だ」という見方を強めている。その中で焦点となっているのが、ポーランド北東部にある、スバルキという町だ。日本ではほとんど知られていないが、欧米の安全保障、軍事関係者の間では「スバルキ・ギャップ」という言葉が頻繁に使われている。

ロシアは、バルト海に面したカリーニングラード(旧ケーニヒスベルク)周辺に飛び地を持っている。この町には、ロシア海軍にとって重要な軍港があるからだ。カリーニングラードの飛び地の北にはリトアニア、南にはポーランドがある。さらにこの飛び地の南東には、ロシアの友好国ベラルーシがある。

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ロシア領土の飛び地とベラルーシの間の距離は、わずか100キロメートル。この地峡部がスバルキ・ギャップだ。NATOは、東西間の対立が高まった場合、ロシア軍の戦車部隊がカリーニングラードの飛び地からスバルキ・ギャップに突入し、友好国ベラルーシへ向かうと推測している。そうすることでロシアは、バルト3国をそれ以外のNATO加盟国から切り離すことができる。NATOは、バルト3国に向けて地上から応援部隊を送ることができなくなる。ちょうどソ連が1948~1949年にかけてベルリンを封鎖したように、ロシアはバルト3国を袋小路に追い込むことができるのだ。

米国のランド研究所が最近作成した研究報告書も、バルト危機が勃発する場合、ロシアのスバルキ・ギャップ突破で始まる可能性が強いという見方を打ち出している。この報告書の作成には、NATOの最高司令官を務めたウエズリー・クラークも加わっている。

東西冷戦の時代、NATOはワルシャワ条約機構軍の戦車部隊が、西ドイツのフルダ付近で東西ドイツ国境を突破し、2日間でフランクフルトを占領するシナリオを想定していた。この付近には険しい山脈や森林地帯が多いが、フルダの前面だけは幅の狭い平原になっており、戦車部隊の移動に適していた。このため西側の軍事関係者は、ワルシャワ条約機構軍がこの「回廊」を通って西側に侵攻する可能性が最も高いと見て、「フルダ・ギャップ」という言葉をしばしば使った。その現代版が、スバルキ・ギャップなのである。

ロシア系住民の比率が高いバルト3国

リトアニア、ラトビア、エストニアは第二次世界大戦の初期にソ連、次いでナチス・ドイツ軍に占領された。戦後はソ連の一部に編入されたが、1990~1991年にソ連から独立。21世紀に入ってEUとNATOに加盟している。だが最大の問題は、ロシア系住民の比率だ。ラトビアのロシア系住民の比率は25.8%。エストニアでは25.1%、リトアニアでは4.8%がロシア系だ。これはソ連が第二次世界大戦後に多くのロシア系住民を移住させたためである。

ウクライナもロシア系住民の比率が17%と比較的高い。ロシアが併合したクリミア半島では、住民の約60%がロシア系だった。現在内戦が続いているウクライナ東部でも、ロシア系住民の比率が高い。

つまり「ロシア系住民の権益を守る」というプーチンの大義名分は、バルト3国についても使われる可能性があるのだ。

ロシアは2013年に、カリーニングラード周辺に7万人の兵士を動員し、「SAPAD2013」という大規模な軍事演習を行っている。またロシアは、カリーニングラード周辺にSA400型対空ミサイルを配置した。ロシアはこのミサイルを使うことで、NATOがリトアニア上空の制空権を確保するのを阻むことができる。さらにロシアは、戦術核弾頭を搭載できる短距離ミサイルをカリーニングラードに配備することも検討している。

2016年夏に大規模な軍事演習

このため、NATOは対ロシア戦略の重点をポーランドとバルト3国の防衛に置いている。

そのための具体策として、NATO加盟国は、今年7月8日にポーランドの首都ワルシャワで開いた首脳会議で、ポーランドとバルト3国にそれぞれ1000人規模の戦闘部隊を駐屯させることを決めた。1997年にロシアとNATOが調印した基本合意書によると、NATOは東欧地域に同じ戦闘部隊を常駐させてはならないことになっている。このためポーランドとバルト3国にいる合計4000人のNATO部隊は定期的に交替する。しかし、今年からNATOがこの地域の軍事的プレゼンスを強化したことに変わりはない。

NATOは今年6月にポーランドで、3万1000人の兵士を動員した軍事演習「アナコンダ」を実施した。この演習は、敵国がバルト海からポーランドに侵攻し、東の隣国からも戦闘部隊が侵入するというシナリオの下に行われた。

「アナコンダ」を終えた数日後には、演習「セーバー・ストライク」を実施した。これはエストニア領内の、ロシア国境から約150キロの地域で行なわれたもの。NATO加盟国から約1万人の部隊が参加した。これらの演習は、ロシアがスバルキ・ギャップを突破する誘惑にかられないように、牽制するためのものだ。

筆者は米軍のエイブラムス戦車や装甲兵員輸送車が大量に投入され、迷彩服に身を固めた兵士たちが榴弾砲を発射する訓練風景を見て、東西冷戦がたけなわだった頃のヨーロッパを思い出した。それは筆者にとって一種のデジャヴュ(Déjà-vu=既視感)だった。

筆者は、1980年に初めて西ドイツを訪れた。当時は、列車に乗るたびに車窓からNATOの戦車部隊の訓練を目撃したものだ。サンダーボルト・A10型地上攻撃機が激しい轟音とともに低空飛行し、ワルシャワ条約機構軍の戦車が西ドイツに侵攻する事態を想定した訓練を繰り返していた。もちろん東西ドイツを隔てる壁の向こう側でも、ワルシャワ条約機構軍がしばしば演習を行っていた。

1989年にベルリンの壁が崩壊して以降、ヨーロッパには雪解けムードが広がり、長い間このような演習は行われなくなっていた。だがロシアがクリミアを併合して以降、NATOは軍事演習を再開し、ヨーロッパの緊張感は確実に高まっている。欧米諸国は、「クリミアの二の舞は許さない」というメッセージをプーチンに送っているのだ。

NATOの盟主である米国は、ロシアとの緊張の高まりを背景に、防衛予算を少なくとも国内総生産(GDP)の2%まで引き上げるよう加盟国に求めている。2015年の時点で防衛予算がこの値を超えていた国は、米国を除くとギリシャ、英国、エストニア、ポーランドの4ヶ国だけだ。

ドイツの防衛予算もGDPの1.19%であり、目標にほど遠い。だが今年5月にドイツ連邦国防大臣のフォン・デア・ライエンは、「防衛予算を、2020年までに現在よりも約14%増やして、392億ユーロ(約4兆5080億円にする」と発表。またドイツ連邦軍の兵士の数も2023年までに1万4300人増やす。ロシア軍が得意とするサイバー攻撃に対応するための専門部隊も、大幅に増強する。

ドイツが将兵の数を増やすのは、東西ドイツ統一後初めてのこと。徴兵制を廃止したドイツ連邦軍の将兵の数は、1990年の58万5000人から17万7000人へと激減していた。こうした動きにも、東西冷戦の再燃が浮き彫りになっている。

他地域で盟友を求めるプーチン

筆者は今年8月、講演を行うために3週間日本に滞在した。ヨーロッパで緊張が高まっている現状がほとんど報じられておらず、「プーチン訪日」のニュースだけが盛んに伝えられていることに奇異な印象を抱いた。

ヨーロッパで欧米諸国との対決姿勢を強めているプーチンは、他の地域では新しい「盟友」を見つけようとするだろう。したがってロシアは、日本への接近を試みるに違いない。ロシアが、EUによる経済制裁の効果を減じるために、中国との間で天然ガスの長期販売契約に調印したのはその表れだ。

またプーチンは、トルコとの関係改善もめざしており、今年8月初めに同国の大統領、エルドアンと会談した。トルコが去年11月に、ロシア軍の戦闘機をシリア国境付近で撃墜して以来、両国の関係は悪化していた。

エルドアンは、クーデター未遂事件後に多くの軍人や市民を逮捕したために、EUから強く批判されている。EUに加盟するというトルコの悲願も、遠のきつつある。エルドアンと欧州諸国の間の関係は、極めて険悪化している。もしトルコをNATOから脱退させることができれば、プーチンはヨーロッパ南部での混乱、特に難民危機をさらに深刻化させることに成功するだろう。

さらにロシアは、フランスの右派ポピュリスト政党「国民戦線(フロン・ナショナール=FN)」に資金を援助している。FNは、英国と同様に、EU離脱に関する国民投票を実施するよう要求している。プーチンにとって、EUの足並みを乱す政党は味方なのである。またユーロ圏からの脱退を求めているドイツの右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、ロシアに友好的な態度を持っていることで知られている。

ちなみに日本では、ドイツ首相のメルケルとプーチンは仲が良いと多くの人が信じている。これは誤解である。むしろ、この2人は仲が悪い。メルケルは東ドイツで育った。多くの東ドイツ人は「占領国」であるソ連に反感を抱いていた。

メルケルはモスクワを訪問した際に、ロシア政府に批判的な人権団体のメンバーを訪ねたことがある。これはプーチンに対する面当てである。一方、プーチンはメルケルを別荘に招待した時に、メルケルが犬嫌いであることを知っていながら、会談をした部屋に犬を連れ込んだ。このためメルケルは顔面蒼白になった。明らかな嫌がらせである。

メルケルがロシア語、プーチンがドイツ語を流暢に話すことは事実だが、それは両者が親しいということを意味しない。プーチンの刎頸の友は、メルケルの前任者だったシュレーダーである。

プーチンがヨーロッパで、国外にいるロシア系住民の権益を守るという目標を前面に打ち出している中、彼は極東で、ロシア人が住む島を日本に返還するだろうか。我が国は、プーチンと北方領土の返還について交渉する際に、彼がヨーロッパでNATOと対峙し、軍事的な緊張が高まっている事実を念頭に置く必要があると思う。地政学的な変化が急速に起きつつある時代には、極東だけではなく、世界の他の地域にも目配りをする、複眼的思考が重要になる。(敬称略)

池田記事

ロシアのテレビ局「TVツェントル」で人気のトークショー「プラバ・ゴロサ(発言権)」が9月中旬、日ロ関係をテーマに取り上げた。

「日本式のリセット」と題し、各界の専門家らが議論を戦わせた。総じて日本への期待よりも、日本の経済停滞や日ロの貿易額が少ない現実などが指摘され、北方領土問題でも後ろ向きの発言がめだった。とはいえ、日ロの関係改善の動きがロシアでも、国民の関心事になってきた証しとはいえるだろう。

番組の題名でも明らかなように、最近の日ロ外交を主導しているのは日本側だ。安倍晋三首相は5月のソチ訪問に続き、9月には極東のウラジオストクで開いた東方経済フォーラムに出席し、プーチン大統領と長時間の会談を重ねた。ロシアとの経済協力を深めるための「8項目の協力プラン」も打ち出している。

「私たちの世代が勇気を持って、責任を果たしていこうではありませんか」。首相がフォーラムの演説で熱弁したように、その主な狙いが北方領土問題の解決と平和条約の締結にあることは、ロシア側も承知している。それでもプーチン大統領が8項目プランを「政治問題を解決する条件づくりにも重要だ」と評するなど、日本のイニシアチブを歓迎しているのは確かだ。

しかも、評価している点は経済だけではない。外交評論家のフョードル・ルキヤノフ氏は「安倍首相は明らかに米国が支持しない対ロ路線を打ち出した。かなりリスクの伴う行動だが、現代世界では多様性と柔軟性がカギを握る。ロシアの有識者や政権関係者は、日本が米国追随型の国家という先入観を修正しようとしている」と語る。ウクライナ危機で冷え込む米ロ関係を意識した発言といえる。

日ロ関係を進展させる動機はロシア側にもある。カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長は極東開発を含めた経済的な利益に加え、「アジアで中国一辺倒の関係を変えようとする地政学的な意図がある。外交のバランスという意味で、日本は特別で大きな位置を占める」と指摘する。

米国や中国との関係といった地政学的な思惑も絡みながら進む日ロの接近だが、12月にプーチン氏が大統領として11年ぶりに来日し、首相の地元・山口県で首脳会談を開くことは決まった。領土問題を含めた条約交渉を進展させる道筋は描けるのだろうか。

プーチン大統領はかねて、1956年の日ソ共同宣言の有効性は認めている。「両国議会が批准したことが非常に重要だ」と最近の記者会見でも強調したばかりだ。同宣言は平和条約締結後に歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すと明記している。ただし大統領は「どのような条件で返すかは書いていない」とし、問題解決には「非常に高いレベルの信頼が必要だ」と予防線を張っているのが現実だ。

ルキヤノフ氏は「プーチン大統領が国民の支持を得ているのは、大衆の気持ちを敏感に察して対応するリーダーだからだ。一般の人々が正しいと納得できるなら、彼は行動する」という。ちなみにロシアの世論調査会社レバダ・センターが5月末に実施した調査では、歯舞、色丹の2島だけを日本に引き渡す妥協案でも71%が反対し、賛成は13%だった。世論は厳しい。

では、打開策はあるのか。モスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は「平和条約という交渉の名称を変えるべきだ」と提唱する。同教授によれば、平和条約は日本では北方領土問題の別名だが、ロシアの世論では第2次世界大戦の結果としての戦勝国と敗戦国の関係の固定化を意味するという。

「平和条約はロシアでは戦争の結果でしかない。一般市民はなぜ戦勝国が敗戦国に領土で妥協しなければならないのかと思ってしまう」。そこで条約を平等で未来に向けた位置づけにするため、例えば「平和友好条約」と命名して政治や国際連携、経済協力などのロードマップも盛り込んだ多面的な条約にすることが望ましいと強調する。

トレーニン所長も「いずれにせよ領土割譲につながる日本との条約締結は、プーチン大統領にとって歴史的功績にはならない。それだけに日本が信頼できるパートナーとなる確信が得られるかが交渉のカギを握る」と予測する。

今後の交渉で基軸になるであろう日ソ共同宣言は、今月で調印から60年を迎える。この間に両国関係も世界情勢も大きく変化した。日ロが真に条約締結をめざすのなら、文字通り「新たなアプローチ」が不可欠になっている。

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『討論されなかったヒラリー健康問題の深刻度 浮上する“ケーン大統領”の可能性』(9/29日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『ヒラリーもトランプも消える、アメリカ大統領選「第3のシナリオ」とは』(9/27MONEY VOICE)、『ヒラリー対トランプ、勝者なき論戦 嫌われ者同士の戦いは第2戦に!』(9/30日経ビジネスオンライン 篠原匡)について

米国のマスメデイアも偏向していて、殆どが民主党支持です。でも、トランプを支持する層が半分近くいて、かつ民主党候補戦で敗れたサンダースのことを考えますと、米国民は大衆レベルで変化を望んでいる気がします。民主党は特別代議員の数が多いため、サンダースにとっては不利で、エスタブリッシュにとってはこの制度があることが有難いといえます。

健康不安を囁かれるヒラリーですが、余命1年説も流布されている状況で、メデイアの報道がなされないのもおかしいです。日本の蓮舫の二重国籍問題でアゴラが公開質問状を出し蓮舫に説明を求めているにも拘わらず、大手メデイアは無視しているのに似た構図です。

副大統領候補が重要になるという事でしょう。MONEY記事にありますように、核のボタンを押させることができないのはトランプではなく、ヒラリーです。また、中国の金塗れになっているヒラリーでは中国に強いことは言えないと思います。まあ、米国の要人は皆中国から金を貰っていると思います。中国社会は賄賂社会ですから。スマートに賄賂を贈ります。

10/1「士気の集い」で里見脩先生によりプロパガンダについて講演戴きましたが、その中で「中国は9000億円も対外広報に使っている。安倍首相は500億円まで増やしたと自慢げであるが、外務省主導であるため、3都市にジャパンハウスを作って、日本のスシやアニメの紹介をするだけ。戦略が無い。金の問題より、それをどのように使うかである。中国は170か国にTV放送機材を実質タダで送り、現地技術者も北京で研修、コンテンツも中国の放送を使えば中国から金が貰える仕組みを作り上げ、かつ多言語放送している(確かに小生が中国駐在時代(97~05年、中国中央TV局は多言語で放送していました。英仏独露の他、アラビア語までありました。日本のODAが中国の外交に使われていて日本人は何て愚かかとその時は思いました)。尖閣諸島も中国側表記の釣魚島で報道されるのが多くなってきた。プロパガンダが悪い訳ではない。どの国でもやっている。騙される方が悪いのである 」とのことでした。如何に日本の外務省は役に立たない存在か。幣原・吉田以降腐ってしまったのでしょう。陸奥宗光・小村寿太郎時代の栄光はありません。

デレクテイブ51何てのがあるのは知りませんでした。でもそれが簡単に発動できるとは思えません。いくらエスタブリッシュ・国際金融資本(≒ユダヤ資本)が動かそうとしても。大衆の反乱に遭うのでは。ただ、その混乱に乗じて共産主義者が米国を乗っ取るという話は恐ろしすぎです。米国はFDR政権時代そうなりました。FDRはスターリンにいいように操られ、日本を戦争に巻き込むよう誘導しました。でも騙された日本も悪いのです。明治の英傑の臥薪嘗胆の気持ちを当時のエリート達は持ち合わせていなかったからです。共産主義の蔓延を恐れてマッカーシ-旋風が起きて、米国は赤化するのを防ぎました。当時はソ連、今回は中共と相手が変わりますが。共産主義は人類を不幸にする仕組みです。ユダヤ人は頭の良い民族でいろんな発見・発明がなされましたが、それが人類の幸福の為に使われるかどうかは別問題です。

高濱記事

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第1回目の討論会に臨むトランプ氏(左)とクリントン氏(写真:ロイター/アフロ)

—ヒラリー・クリントン民主党大統領候補(68)とドナルド・トランプ共和党大統領候補(70)が初のテレビ討論会に臨みました。

高濱 討論会に対する関心はいやがうえにも高まりました。直前に、大きな事件がいくつも起きたからです。クリントン氏の健康問題が浮上。9月18日には、ニューヨークのど真ん中で爆発事件が起きました。さらに、ノースカロライナ州シャーロットでは20日に暴動事件が発生しています。

討論会を視聴した人の数は全世界で約1億人に達したようです。米国では投票登録を済ませている有権者の75%、約950万人が討論会の実況中継を見たと推定されています。 “Trump-Clinton debate expected to shatter records,”Joe Concha, The Hill, 9/20/2016

ところが、クリントン氏の健康問題は一切議論されませんでした。この理由については後で触れたいと思います。

もう一つ、この討論会が注目されたのは、支持率競争での異変です。クリントン氏に大きく水をあけられていたトランプ氏が討論会直前にクリントン氏を2%上回ったのです。 “RealClear Politics, Latest Polls,”realclearpolitics.com., 9/26/2016

支持率の変化と相まって、異色の候補者トランプ氏と女性初の大統領候補クリントン氏とが初めての直接対決でどんなやりとりをするのか、まさに「史上最高のショー」(テレビのあるコメンテーター)となりました。

「勝ったのはヒラリー氏」、いや「勝者はトランプ氏」

—採点すると、どちらに軍配が上がったのでしょうか。

高濱 米国の主要メディアは、クリントン氏の勝ちと見ています。討論会をテレビでみた米国民はどうか。CNNが討論会直後に行った世論調査では、クリントン氏が勝ったと答えた人が62%、トランプ氏が勝ったと答えた人が27%でした。

私の印象はこうです。トランプ氏は「大統領らしさ」を意識してか、普段の暴言を抑制しました。これに対してクリントン氏は、トランプ氏の失言を引き出そうとかなり攻撃的な発言に終始しました。トランプ氏は、経済問題でも人種問題でも、さらに日本や北大西洋条約機構(NATO)など同盟国との関係でも、理路整然と話す「才女」に歯が立たなかった。これは想定内のことでした。 “Clinton puts Trump on defese at first debate,”Stephen Collinson, CNN, 9/27/2016

ところが驚いたことに、CNNとは逆の世論調査も出ています。ニュージャージー州のデジタル・メディア「nj.com」が討論会直後にインターネット上で行った世論調査(対象者11万777人)です。トランプ氏が勝ったと答えた人は54.2%(6万15人)、クリントン氏が勝ったと答えた人は41.2%(4万5594人)でした。 “Poll: Who won the presidential debate (9/26/16)? How did Clinton, Trump do in the first debate?” Susan K. Livio, NJ Advance Media for N.J.com, 9/26/2016

この結果について、ニュージャージー州に住むフリーランス・ジャーナリストは筆者にこう語っています。「トランプ氏はCNNをはじめとする主要メディアを目の敵にしている。支持者の中にも主要メディアが大嫌いな者がいる。この人たちはCNNなど見ていない」。

「nj.comはニュージャージー州最大のデジタル・メディアでローカル紙12紙を傘下に収めている。あまりにも完璧だったヒラリーのパフォーマンスに反発する庶民の声をピックアップしたのだろう。『ヒラリー嫌い』がどれほどいるかが分かるというものだ」

ヒラリーの「健康問題」はなぜ論じられなかったのか

—ところでクリントン氏の「健康問題」はなぜ討論されなかったのでしょう。

高濱 私にも不思議でなりません。一つ言えることは、司会者のレスリー・ホルト氏が事前に、この討論会のテーマを「繁栄の達成」「米国の先行き」「米国の安全」の三つに絞ったからでしょう。

第2回目の討論会は10月9日にミズーリ州で、第3回は同19日にネバダ州で行われます。その時にはクリントン氏の健康問題が議題に上るでしょう。70歳になったトランプ氏の健康問題も当然俎上に上るに違いありません。気づいたのですが、トランプ氏は討論会の最中、ひっきりなしにコップの水を飲んでいました。

ところで、討論会が開かれる前日の25日、筆者は大統領選をフォローしてきた主要紙の政治記者からこんな話を聞きました。「選挙の専門家たちが、第1回のテレビ討論会で一番関心を持っているのは、クリントン氏の健康状態だ。ヒラリー氏の皮膚の色つや、目、耳、口、喋り方、相手の発言に対する反応などだ。つまり、クリントン氏が大統領としての職務を全うできる健康状態に本当にあるのかを見極めようというわけだ」。

ところが健康問題は一切出ず。討論会の後、CNNをはじめとするテレビ局が数人の政治評論家を集めて、二人のパフォーマンスについてあれこれ論ずる番組でも、クリントン氏の健康問題を誰一人として取り上げなかったのです。

脱水症状は初めてではない

—クリントン氏の健康問題が急浮上したのは9月11日。ニューヨークで開かれた、9.11同時多発テロの追悼式に参列した際に体調を崩し、途中で退席したのが発端でした。

高濱 主治医は当初、「脱水症状を起こしたため」とコメントしました。ところがテレビの映像に、クリントン氏が式典会場を離れ、クルマに乗り込む際にふらつき、スタッフに支えられる姿が映りました。これをメディアが大きく報じたのです。

その後、主治医は「クリントン氏が肺炎にかかっていると9日に診断していた」ことを明らかにしたのです。

クリントン氏は国務長官在任中の2012年12月、自宅で静養中に脱水症状に見舞われて失神し、脳震盪を起こしたことがあります。この時、主治医が頭部に血栓を見つけ、急きょ入院することになりました。これは当時、トップシークレットでした。その後メディアが憶測として報道。つまりクリントン氏が脳震盪を起こしたのは今回が初めてではないのです。

病名は「右脳横静脈洞血栓症」

エドワード・クラインというジャーナリストがクリントン氏の健康問題について詳しく書いています。元ニューヨーク・タイムズ・マガジン(日曜日版付録)編集主幹で、辞めたあと何冊ものベストセラーを著している人です。クリントン氏の周辺や医師たちから情報を聞き出しています。

それによると、クリントン氏が2012年に倒れた際の病名は「右脳横静脈洞血栓症」(a right transverse venous thrombosis)でした。症状が悪化するのを防ぐためにクリントン氏は抗凝結剤(anticoagulant)を服用しているそうです。

クリントン氏は当時から手の震えを感じており、神経科医による検診を定期的に受けています、不眠症にも悩まされおり、アンビエン(Ambien)やルネスタ(Lunesta)といった睡眠薬を飲んでいるそうです。

こうしたことから医師たちは、大統領選キャンペーン中は専門医を常時同行させるよう進言しているそうです。

クリントン氏の健康問題を一番心配しているのはビル・クリントン氏。20年来の知人であるダン・オーニッシュ博士(予防医療研究所所長)に常に助言を求めているそうです。ヒラリー・クリントン氏が大統領に就任すれば、オーニッシュ博士が大統領主治医になるのは確実と言われています。

いずれにしてもクリントン氏の健康問題はそこまで深刻なようです。 “Unlikeable: The Problem with Hillary,”Edward Klein, Regnery Publishing, 2015

病状の深刻さをあえて報道しない米メディア

—だとすれば、クリントン氏が11月8日の大統領選投票日前に候補を降りる可能性もあるわけですか。

高濱 当然ありますよ。でもおかしなことにそれを指摘する米メディアはありません。大統領選の真っただ中にそういうことを言うのは「一種のタブー」になっているのか。その点について米国人のジャーナリストに質したのですが、満足な返答は得られませんでした。

ところが英国のメディアにはそういう自己検閲はありません。英語は共通語、情報は100%米メディアと共有しています。米国の政治情勢について、時として米メディアより深い読みをしています。英語が母国語でない私には英メディアによる米国政治の分析は客観的で非常に参考になります。

その英国の保守系雑誌「スペクテーター」*が9月11日、オンラインで、「ティム・ケーン副大統領が次期米大統領になる可能性はあるか」と大胆な見出しをつけて報じています。

*「スペクテーター」は英保守党の機関誌的存在で、英国屈指の保守系雑誌。1828年に創刊。発行部数は5万4000部。同誌の歴代編集幹部は保守党の要職に就いている。

筆者は同誌副編集長のフレディ・グレイ氏です。要旨は次の通り。

「ヒラリー・クリントンが大統領候補を降りたらどうなるだろう? ニューヨーク・タイムズをはじめとする米主要メディアはそう質問するのを躊躇し続けてきた。しかし9・11事件追悼式典で倒れたことで、同氏の健康問題が最大の関心事なってしまった。同氏が大統領になったとして3軍の最高司令官として4年間もつのか。いや、それどころか、大統領選挙の投票日前に倒れでもしたら、有権者の多くが渋々であれ、あのドナルド・トランプ氏に投票してしまうのか」

「トランプ氏の場合、主治医は『史上最も健康な大統領候補』と太鼓判を押しているが、それが事実でないことは皆知っている。同氏の肉体的能力に関していくつかの合理的な疑問がある。だがクリントン氏の場合はトランプ氏の健康状態とはレベルが違う。クリントン氏の咳は今や彼女の選挙運動のトレードマークにすらなっているからだ」

「だが、米国にとって、そして世界にとっての救いなのは、クリントン氏に万一のことがあっても、ティム・ケーン副大統領がピンチヒッターとしてベンチに控えていることだ」

大統領選の投票日までにクリントン氏が撤退することになれば、民主党は党規約第3条第1項により、代議員による後任選びをしなければなりません。この場合、副大統領候補のケーン氏が最有力ですが、予備選でクリントン氏を苦しめたバーニー・サンダース上院議員や「安全パイ」のジョー・バイデン副大統領も候補に挙がるかもしれません。さらにはリベラル派の実力者、エリザベス・ウォーレン上院議員も出てくるかもしれません。 “After Hillary Clinton’s collapse, is it time to consider the possibility of President Tim Kaine,”Feddy Gray, The Spectator, 9/11/2016

大統領就任後にもありうる「健康問題による辞任」

—クリントン氏の健康が投票日までなんとかもったとしても、大統領に就任した後、健康が悪化して大統領を辞める可能性があるのではないですか。

高濱 その通りです。むしろその可能性のほうが大きいかもしれません。

「ケーン大統領」説について何人かの政治専門家に意見を聞いてみました。大方は「クリントン氏の健康は来年1月20日の就任式まではもつ」というものの、「4年の任期を全うできるかどうか」と聞くと、全員が憂慮しているんですよ。

その場合は、副大統領が継承順位第1位ですからケーン氏が直ちに大統領に昇格します。その場合、副大統領を新たに選ばねばなりません。 “The Charter & the Bylaws of the Democratice Party of the United States,”The Democratic National Committee, 8/28/2015 “Who Would Replace Hillary Clinton If she had to drop out,” Stephanie Dube Dwilson, heavy.com., 9/11/2016

ヒラリーよりも大統領に適した「好感度抜群」のケーン

—ケーン氏とはどんな人物ですか。日本ではあまり馴染みがありません。

高濱 民主党内ではリベラル中道派。弁護士出身、バージニア州リッチモンド市長を経て、州副知事、知事を歴任し、その後、民主党全国委員長を経て上院議員を1期務めています。上院では外交委員会や軍事委員会のメンバーで外交、安保に精通しています。

ハーバード法科大学院在学中、イエズズ会の教徒として奉仕活動のためホンジュラスに滞在したことがあります。スペイン語が堪能で2013年には上院本会議で移民法改正法案を支持する演説を13分間すべてスペイン語で行いました。今年7月にはカリフォルニア州で開かれたクリントン応援集会で、支持を訴える演説をスペイン語でしています。 ” 5 Things To Know About Tim Kaine,” Meg Anderson, NPR, 7/22/2016

人工中絶には条件付き反対、TPP(環太平洋経済提携協定)には賛成の立場をとってきました。温厚な性格で好感度は抜群というのが玄人筋の評価です。奥さんはハーバード法科大学院の同窓。奥さんの父は共和党員でバージニア州知事でした。

ビル・クリントン元大統領やバラク・オバマ大統領らもケーン氏の政治手腕を高く評価しています。副大統領候補としてケーン氏をヒラリー氏に強く推したのはビル氏と言われています。「好感度」で問題のあるクリントン氏の弱点を埋めるに最適のランニング・メイトとみたのでしょう。

そのケーン氏と共和党副大統領候補のマイク・ペンス氏(インディアナ州知事)とのテレビ討論会は10月4日に行われます。「ケーン大統領」説があるだけにこの討論会も注目すべきでしょう。

MONEY VOICE記事

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なぜヒラリーやオバマの背後に控える世界支配層は、こうした事態に至ることを重々知りながら、あえてヒラリーを推したのでしょうか。特にヒラリーを援助するソロスなどは…。(『カレイドスコープのメルマガ』)

※本記事は、『カレイドスコープのメルマガ』 2016年8月20日第169号パート1の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。割愛した全文もすぐ読めます。

ヒラリーもトランプも大統領にならない「プランC」がある

致命的なリーク

ここにきて、ヒラリー陣営にとって致命的な情報がリークされました。

フランスのセメント会社「ラファージュ」が、ISISに資金援助を行っていたという決定的な情報は、ウィキリークスのジュリアン・アサンジによってタイムリーにもたらされました。

ラファージュは、クリントン財団のスポンサーであり、ヒラリーはラファージュの取締役会に入っていることが分かったのです。

つまり、ヒラリーは、ISISに破壊の限りを尽くさせ、復興景気を演出することによって、このセメント会社への利益誘導を図ろうとしたのです。

それだけでなく、クリントン財団は、9.11の首謀者の一つと目されているサウジアラビアとも密接な関係を築いています。

米国製の最新鋭の武器の最大の輸出先は、あいかわらずサウジアラビアです。このサウジアラビアから、米国製の武器が、いわゆるアルカイダ系イスラム過激派に流れてきたのです。

【関連】「死刑判決」を受けたドイツ銀行。1.4兆円では済まない絶望の訴訟リスト

9.11の真相?

ドナルド・トランプが、「9.11の真相を暴露するぞ」「クリントンとサウジの並々ならぬ関係をぶちまけるぞ」と、ブッシュやクリントン夫婦、オバマを恫喝していますが、その意味は、ベンガジ事件から連綿と続いているネオコンの戦争屋ネットワークと、その背後で暗躍している、カザール・ユダヤ(似非ユダヤ)と言われる国際金融マフィアが、いかにして、ヒラリーのような政治家の衣を来た凶悪犯罪者を操りながら米国を破壊してきたかを有権者に暴露する、と言っているのです。

トランプは、やがて、ヒラリーの発作が止まらなくなることを知っていたのです。

ヒラリーが、脳血管にできた血栓のために長期入院した2012年からのことです。それ以前に、ヒラリーは演説中に咳き込んで、聴衆の面前でトローチをコップの水で流し込む場面が何度となく報道のテレビカメラに映し出されているのです。

なぜ、ヒラリーやオバマの背後に控えている世界支配層は、こうした事態に至ることを重々知りながら、あえてヒラリーを推したのでしょうか。特に、ヒラリーの選挙活動資金を援助していることを隠さないジョージ・ソロスなどは……

ここに「プランC」の存在を考えなければならない必要性が出てくるのです。

核のボタンは持たせられない

副大統領のバイデンが、8月15日、ペンシルべニア州でヒラリーの応援演説に立ったとき、「トランプは、日本などに核兵器の開発を促すなど、大統領になる資格はない」と公然と発言したことも異例中の異例ですが、それにとどまらず、バラク・オバマも、「トランプは大統領として務めるのは無理である」そして、「彼は嘆かわしいほどに大統領職の仕事に向かうための準備ができていない」と公的に述べました。

米国の有権者にとって、現職の大統領が一候補者に対して、あたかも人間失格者のように批難するのを見るのは初めてでしょう。歴代の大統領の一人として、ここまでの個人攻撃を行ったことはありませんでした。

それだけでなく、「トランプは興奮しやすい気性で、世界でもっとも強力な力を持ちうる米国の大統領の地位に就くだけの判断力、理解力を持っていない」とプレスに向けて、こきおろしたのです。お上品なオバマが、いったいどうしたことでしょう。

以下は、ホワイトハウスの公式サイトに8月2日付でアップロードされた、ドナルド・トランプを批難するオバマの発言記録からの抜粋です。

いったい、ホワイトハウス内部で何が起っているのか、じっくり考えてみましょう。

「……しかし、私が賛同しかねる共和党の大統領は(過去に)いたことはいたものの、彼らに大統領としての職務を果たす能力が欠けていたというようなことは断じてなかった。

……ミット・ロムニーとジョン・マケインは、政策に関しては間違っていた。 しかし、彼らに対しても同様に、大統領の職務を果たす能力がないなとど私は決して思っていない。

もし、過去の大統領選で彼らが勝っていれば、私は失望したことだろう。

しかし、私はすべてのアメリカ人に言いたい。「彼らは、それでもわれわれの大統領であり、必要な行動規範、ルール、常識によって忍耐強くことに当たる能力を有しており、経済政策、外交政策、憲法の伝統、その他の政府が従事する法の支配に関して十分な知識を有している人たちである」と。

……しかし、トランプが台頭している今の状況はそうではない。これは私だけの意見ではない。つまり多くの著名な共和党員の意見なのである。

米国の有権者のみなさんは、今こそ声を上げざるを得ない節目に差しかかっているのである。」

副大統領のバイデンなどは、「狂人トランプに核弾頭ミサイルの発射ボタンの暗号コードを教えたら、いったい世界はどうなることやら」とまで言っています。

しかし、ヒラリーの発作的で瞬間的な不随意運動の繰り返しを見てください。もはや、彼女は、自分で自分の所作が制御できなくなっています。

この反応を見た専門家たちは「ミオクローヌス(Myoclonus)」を強く疑っています。あるいは、モハメド・アリが生涯苦しめられたパーキンソン病であるという専門筋もいます。

この動画は、クリントン夫妻の上方で何かしらのサプライズが起こったのでしょう。ヒラリーに続いてビル・クリントンも、ゆっくりと視線を上に向けています。

ヒラリーの奇矯さが目立つのは、まさにこのようなケースです。

こうした誰も驚かない程度のささやかな刺激にも過敏に反応し、それが制御できない不随意的な身体的反応となって表れてしまう場面が多すぎるということなのです。

私には、そうした専門家の見立てなどはるかに及ばない重篤な事態が想像できるのです。 彼女は、確実に「狂人」となった……投薬によって……。

主治医によって投与されている劇薬の副作用もあるでしょう。しかし、彼女がつながっているイエズス会のバチカンを今でも信じているクリスチャンにさえ、「彼女にはエクソシストが必要だ」と言わしめるほどの奇怪な行動の数々。

核の暗号コードを絶対に教えてならないのは、トランプではなく、むしろヒラリーのほうであることは誰の目にも明らかです。

オバマの「プランC」

さて、バイデンとオバマは、本当にヒラリーを大統領にしたいと考えているのでしょうか?

まったく違います。オバマがヒラリーを擁護してきたのは、前述したようにベンガジ事件の真相を闇に葬るため、知りすぎたヒラリーが口を開かないように陰でサポートする必要があったからなのです。

しかし、オバマがFBI長官にジェイムズ・コーミーを任命したことによって、それは完全に封印されたといってもいいでしょう。

これから自制が効かなくなったヒラリーが何を言おうが、米国のメディアが「精神異常者のたわごと」と片づけてしまえば、誰もヒラリーの舌禍を取り上げようとしないでしょう。 「彼ら」は、これで完全にヒラリーをコントロールすることができるのです。

これが「プランB」であることは、前号パート1で説明しました。

有力なウェブサイト「WND」の主力コラムニスト、ジョセフ・ファラー(Joseph Farah)は、米国の良識派の心情を代弁しています。

「……他の誰もこの問題について尋ねないならば、私が質問したい。

「大統領閣下、トランプが選挙に勝って次期合衆国大統領になった場合、あなたは快く、そして平和裏にホワイトハウスを去り、ホワイトハウスの前任者すべてがそうしてきたように、同じような方法で権限の委譲を行うことを約束できますか?」」

この質問に答えるのは非常に簡単だ。これは、先週以来のオバマの言動に対する扇動的レトリックである。

そう、オバマ陣営と彼のシャドウ・キャビネットにとっての最大の問題はトランプなのです。

それでも、ドナルド・トランプが11月8日に勝利したとき、オバマは紳士的にすんなり辞任して、すべての権限をトランプに移譲するのでしょうか?

「トランプは狂人そのものである」と言い続けてきたオバマやバイデンが、世界中の人々が見ている前で、トランプにホワイトハウスのキーを手渡すのでしょうか?

それこそ、オバマは国家的反逆者ということになってしまうはずです。オバマとバイデンは、その矛盾に対する弁明を今のうちに考えておいた方がいいのかも知れません。

国家的非常事態

しかし、そうしなくても済むケースがひとつだけあります。それは、11月8日の大統領選挙が行われなくなるような国家的非常事態が起こった場合です

米国では、6月1日からハリケーン・シーズンに入ることから、毎年その直前にテレビ各局が国民に注意を呼びかけることは恒例となっています。

オバマも5月31日、「気候変動によって年々、ハリケーンが強力になっている」と国民に向けてスピーチを行い、その内容がホワイトハウスの公式サイトに掲載されました。

ハリケーンが大型化していることは確かなことですが、そもそもオバマが、それを公式に警告することは、この数年なかったことです。

ホワイトハウスの公式ページに目を通した人であれば誰でも大いなる違和感を感じることでしょう。

その内容は、ハリケーンに対する注意喚起というよりは、むしろ最寄りのFEMA避難所(造りは収容所に見えるが)への行き方を道案内する「FEMAアプリ」を、携帯電話にインストールするよう促す内容になっているからです。

「FEMAアプリ」は、米国民にハリケーンのような気象災害だけでなく地震などの天変地異、太陽フレアなどの宇宙的異変、大規模火災などの自然災害、また、経済災害による暴動、テロなど20種以上の危険に対して安全を確保するための情報を提供することができる、というものです。 (※メルマガ第160号「経済崩壊と世界規模の気候大変動と日本版FEMAの創設」にて詳述)

ある種の甚大な国家危機が、今から来年の1月の間に起これば、バラク・オバマは、過去数十年の間、大統領執務室において密かに受け継がれてきた並外れた強大な権力のいくつかを行使することができるでしょう。

仮にトランプが11月8日に行われる一般投票で大統領に選出されたとしても、正式に大統領に任命されるのは翌年1月です。それまでは、米国にどんな悲劇が起こってもトランプには対処する権限が与えられないのです。

されに、その間、米国内でカタストロフィーが起こればトランプは大統領に任命されません。

なぜなら、トランプを熱烈に支援している「99%」の米国の有権者でさえも、カオス状態になった米国の非常事態をトランプが収拾できるとは考えないからです。

オバマが、ホワイトハウスの公式ページにトランプに対する批判を堂々と載せて、その最後を「米国の有権者のみなさんは、今こそ声を上げざるを得ない節目に差しか掛かっているのである」と結んだのは、次のような含意があるのです。

「もうすぐ米国はカオス状態に入る。そのとき、一刻も早く事態を収拾しなければならない。大統領としての能力の一つもないトランプの言うことに惑わされてはならない。われわれこそが、みなさんを守ることができるのだから」と。

「オバマには反対だが、米国が本当の意味で破滅的事態に至る前に平静を取り戻すとのできるのはやはりオバマだ」と、米国の人々は思うようになるでしょう。

「99%」の人々は、あっさりとトランプ大統領の夢を反故にしてオバマ政権の延長をしぶしぶ認めるようになるのです。

オバマに無制限の権限を与える大統領令第51号

米国が非常事態に至った場合に行使できる大統領が保持している権限のすべてを含む、ただひとつの法規、ただひとつの政令、ただひとつの行政命令、あるいは大統領令はありません。

これらの権限は、プレジデンシー(presidency)の上に階層化されており、一本化されているというわけではありません。

国家非常事態を収束するためには、異なる法律、ルール、行政命令といくつかの大統領令の組み合わせによって初めて、その可能性が出て来るのです。

しかし、大統領に無制限の権限を与える最上位の大統領令がすでに用意されていることを、ほとんどの米国民は知りません。

それは、ブッシュ政権の間、密かに制定された「国家安全保障大統領令第51号(National Security and Homeland Security Presidential Directive)」、通称「Directive51」です。 これこそが、安倍政権でも頭をもたげてきた「国家連続性政策(National Continuity Policy)」の要です。

それは、米国の人口、インフラ、環境、経済、政府機能に影響を及ぼすような崩壊・分裂・混乱を生じるような異常レベルの重大事件や、付随的事件をも含めた「破滅的な非常事態」が起こったときに発動されることになっています。

グローバル・エリートの「シナリオ」では、複合的イベントによって米国のカオスを引き起こし、大統領に無制限の力を与える「Drective51」を発動させて事態の収拾を図るも、それが終わった後では、米国はまったく別の国になってしまうのです。<中略>

ヒラリー、トランプのどちらかが一般投票によって大統領に選出された後、「Drective51」を発動できるような非常事態を演出することです。彼らのどちらが大統領になっても、「プランC」は成功します。

また、彼らのどちらも大統領にならなくでも「プランC」は成功するのです。

それによって米国民は、資本主義の象徴であるワールド・トレード・センタービルが爆破されたとき以上に絶望の淵に追い込まれることでしょう。その後に現れるのが共産主義の独裁者です。

7月1日、なぜオバマが、米国を征服することを目的とした国連の平和維持軍を本土に持ってくる権限を与える大統領令に署名したのか、再度、考えてみましょう。

篠原記事

守勢に回る時間が多かったことを考えれば、負け惜しみの一つでも言いたくなる気持ちは分からないでもない。

9月26日、米ニューヨークで開催された米大統領選のテレビ討論会。大統領の座を争う2人による初の直接対決は、過去に例がないほどの高い注目を集めた。米ニールセンによれば、テレビで討論会を視聴した米国人は少なくとも8400万人と過去最高。ネットでの視聴も含めれば、それ以上の人が2人のバトルに釘付けになった。

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討論会の冒頭で握手するトランプ氏(左)とクリントン氏(右)(写真:ロイター/アフロ)

大統領候補らしさが裏目

1960年のケネディ氏とニクソン氏、1980年のレーガン氏とカーター氏の時のように、討論会のパフォーマンスが勝敗の帰趨を決めたケースは過去にはあるが、最近は討論会そのものが選挙結果に決定的な影響を与えることは減っている。それでも、今回の討論会が注目を集めたのは両候補ともに好感度が低く、判断をしかねている有権者の有力な材料になるとみなされたためだ。

政治家としての経験や判断力は評価できるが、嘘つきで不誠実だいう印象のクリントン氏と、アウトサイダーとして閉塞感の漂う現状を打破するという期待がある半面、知識や言動、振る舞いなどあらゆる面で大統領の気質に欠けると思われているトランプ氏。いわば究極の消去法を迫られている米国民にとって、90分の真剣勝負はどちらがマシなのかを見極める重要な機会である。

それでは初戦はどちらが勝ったのか。既に様々なところで指摘されているように、メディアの評価や調査会社の数字を見ると、クリントン氏が優勢だったという見方が強い。

米ハーバード大学ケネディスクール政治研究所によれば、リアルタイムで開催していたバーチャルタウンホールミーティングに参加していたミレニアル世代(1981~98年生まれの世代)の63%がクリントン氏を勝者とみなした。また、様々な予想を提供しているPredictWiseのオッズを見ても、討論会の前に69%だった民主党候補の勝利確率は討論会後に73%まで上昇した。

市場を見ても、ダウ工業株30種平均は27日に上昇、トランプ氏の保護主義的な言動に最も影響を受けると思われるメキシコペソも反発した。“トランプ大統領”の誕生に伴う不確実性を嫌忌している市場も、クリントン氏に軍配を上げた格好だ。

挨拶代わりのジャブに激情

実際、討論会ではトランプ対策を入念に練ったクリントン氏と準備不足だったトランプ氏の差が明白だった。

ツイッターなどでよく使う「いかさまヒラリー」ではなく「クリントン長官」と敬称で呼ぶなど冒頭こそ大統領候補らしい雰囲気を醸し出していた。だが、冒頭にクリントン氏が「彼は父親から1400万ドルを借りてビジネスを始めた」と軽くジャブを放つと、早速、頭に血が上ったトランプ氏は「借りたのは小さな金額だ」と反論、その説明に貴重な時間を空費した。その後もオバマ大統領の出生地を巡る過去の発言、いまだ公開していない納税申告書、イラク戦争を過去に支持したかどうか――など過去に取った自身の行動の釈明に追われた。

その間、クリントン氏は「深い威厳を持った人間だ」とオバマ大統領を持ち上げつつ、自身を支持していないオバマ支持層にアピール。私用メールサーバー問題など自身のスキャンダルについては「間違いを犯した。それについては責任を負う」というひと言で難なく切り抜けた。討論会の前に浮上した健康不安についても、昨年11月に米下院で実施された公聴会を引き合いに出し、「11時間に及ぶ公聴会の証言を経験してから言ってほしい」と鋭いカウンターを放っている(クリントン氏が国務長官だった2012年9月に起きたリビア・ベンガジ米領事館襲撃事件に関する公聴会。この事件では駐リビア大使など4人が死亡した)。

クリントン氏は「トランプ氏を苛立たせて大統領に向かないという印象を与える」という作戦を遂行しつつ、的確にジャブを放ってポイントを獲得した印象だ。「トランプ氏を苛立たせるというクリントン氏の戦略の前に、トランプ氏は大半で守勢だった。第2戦ではもっとアグレッシブに出ようとするかもしれない。どれだけ効果があるかは分からないが…」。ワシントンのシンクタンク、センター・フォー・ア・ニュー・アメリカン・セキュリティのリチャード・フォンテーヌ会長は振り返る。

討論会の後、トランプ氏はFOXニュースで「誰も傷つけたくなかったので手加減した」と釈明。CNNのインタビューでも、ビル・クリントン元大統領の不適切な関係について問いただそうと思ったが、(クリントン夫妻の)娘のチェルシーが聴衆にいたのでやめたという趣旨のことを話している。実際、トランプ氏に対する司会者の質問がクリントン氏の追い風になっていたのは間違いないが、リビア・ベンガジ事件やクリントン財団の寄付金問題など、クリントン氏のアキレス腱を攻められなかった点を考えれば完敗といわれても仕方がない。

黒人支持率の不気味な下落

もっとも、大統領選の流れが決まったと考えられるほどの結果か、と問われればそこまでの差はないだろう。挑発に乗りやすく、政策に具体性がないトランプ氏の弱点が改めて浮き彫りになった一方で、クリントン氏自身が抱えている問題が解消されたわけではないからだ。

今回の結果を受けて、トランプ氏は次の討論会で私用メールサーバー問題やリビア・ベンガジ事件、クリントン財団などクリントン氏を巡るスキャンダルを容赦なく叩くに違いない(2回目をボイコットしなければ)。クリントン氏とトランプ氏は同様に嫌われているが、「不誠実」「嘘つき」「エスタブリッシュメントの代弁者」といった不信感は、クリントン氏の長年にわたる政治活動の中で培われているだけに、残り6週間で消えるようなものではない。

また、クリントン氏は民主党サポーターの支持を得ているが、オバマ大統領が2008年と2012年に得た支持率にはおよばない。既存の支持基盤のクリントン離れも進んでおり、女性やヒスパニック、黒人の支持率が夏場以降、低下している。若者層における不人気も深刻で、コロラド州やニューハンプシャー州では、サンダース氏を支持した若い有権者がクリントン氏ではなく、リバタリアン党のゲーリー・ジョンソン氏のような第3極に投票する可能性も指摘されている。少なくとも、オバマ大統領を支えた黒人や若者の熱狂は存在しない。

「クリントン氏は『私に対して話していない』という意識が有権者にはある。そこが彼女の試練だろう」。政治分析に定評のあるクック・ポリティカルレポートのナショナル・エディターを務めるエイミー・ウォルター氏はこう語る。

クリントン氏は職業政治家として高い能力を持っているが、理性的、理知的でありすぎるがゆえに、コンサルタントのような印象を国民に与えている。米国人が直面しているイシューに心の底から対峙しているのか、彼女自身がどういう人間で、何に心を振るわせるのか。そういう生身の姿が見えないために、有権者の共感を得られていない、という指摘である。

トランプ大統領のナローパス

もちろん、選挙人の過半数、すなわち270人を獲得すれば勝利という大統領選のルールを考えれば、クリントン氏の有利は変わらない。

クック・ポリティカルレポートによれば、トランプ氏が勝つ唯一の道は2012年の大統領選で共和党の候補だったミット・ロムニー氏が勝利した州のすべてを獲得した上で(激戦のノースカロライナを含め)、激戦州の多くを押さえる必要がある。

現時点でトランプ氏に勝機がある激戦州はフロリダ、オハイオ、アイオワ、ネバダといった州だが、これらをすべて取ったとしても過半数にわずかに届かない。残りをペンシルベニアかニューハンプシャーで補う必要があるが、今のところクリントン氏がリードしている。フロリダかペンシルベニアを押さえれば勝利に近づくクリントン氏に比べれば、かなりのナローパスだ(関連情報)。

嫌われ者同士の戦いと冒頭で書いたが、比較論で言えばトランプ氏の方が有権者に嫌われている。健康不安が取りざたされたが、それでも多くの専門家はクリントン氏が勝つとみている。ただ、ブレグジット(英国によるEU離脱)の例を引くまでもなく、直接選挙は直前まで何が起きるか分からない。そして、実のところクリントン氏がどれだけのマージンを持っているのか、確証を持って語れる専門家も恐らくいない。

今回の大統領選は究極の消去法だが、一方で現状維持か変化かという二択でもある。クリントン氏が大統領になれば米国は大きくは変わらない。トランプ氏がなれば、何が出てくるかは分からないが、何かが変わる可能性があるかもしれない。同盟国を含め各国は基本的に米国が変わらないことを望んでいるが、変化を望む国民が多ければ、そういった期待が裏切られる可能性は十分にある。個人的にはトランプ氏が大統領になる可能性は低いと思っているが、「プランB」は準備しておいた方がいい。

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