『日露会談、領土問題の先にある巨大な“果実” ロシアへのインフラ輸出は日本経済を潤す』(10/18日経ビジネスオンライン 管野沙織)について

10/17日経朝刊<北方領土に共同統治案 政府、日ロともに主権行使 12月首脳会談で協議探る

日本政府がロシアとの北方領土(総合・経済面きょうのことば)問題の打開策として日ロ両国による共同統治案を検討していることが16日、分かった。最終的な帰属の扱いで対立する国後・択捉両島などでともに主権を行使する手法で、双方が従来の主張を維持したまま歩み寄れる可能性があるとみている。北方四島のどの島を対象にするかや施政権をどちらの国にどの程度認めるかなど複数の案を用意し、ロシア側との本格協議に入りたい考えだ。(解説総合・政治面に)

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複数の日ロ政府関係者が明らかにした。5月のソチでの首脳会談で安倍晋三首相がプーチン大統領に示した「新しいアプローチ」による交渉の一環で、首相の地元・山口県で12月15日に予定する首脳会談での協議入りを探る。ロシア政府はこれまでの接触で日本側の意向を一定程度把握しているもようで、課題の洗い出しの作業に入ったとの情報もある。

日ロが北方領土問題を巡り共同統治による打開策で基本合意できれば、両国で結べないままでいる平和条約の交渉も加速するのは確実だ。

日本政府は北方四島の帰属を解決したうえで平和条約を締結する立場だが、1956年の日ソ共同宣言に明記した歯舞群島と色丹島を引き渡す「2島返還」での決着を目指すロシア側との接点を探るには一定の譲歩は避けられないとみている。

共同統治案を「引き分けによる解決を求めたプーチン氏の意向を踏まえた打開策」(首相周辺)と位置づける。4島を実効支配するロシア側にも譲歩を求める内容でもあり、プーチン政権は日本に要求している経済協力の進展も見据え、受け入れの可否を決めるとみられる。

共同統治は複数の国家が合意により同一地域や住民に共同して主権を行使する。過去には英国とフランスが南太平洋のバヌアツで80年の独立前に実施した例などがある。

日本政府は北方領土に共同統治を導入する場合、歯舞・色丹は日本に返還し、国後・択捉は共同統治とする案を軸に調整に入りたい方針。日本が強い施政権を確保することを条件に4島全域や歯舞・色丹、国後の3島を共同統治の対象とする案も用意する。

どの島を対象とするかや、施政権の範囲は今後のロシア側との調整に委ねられるが、ロシアが4島全体の強い施政権を求める可能性もある。

現在、北方四島にはロシア人約1万7千人が住み、日本人居住者はいない。共同統治を導入した際の施政権の行使については、まず元島民を中心に日本人の往来や居住を自由にし、北方領土に常駐する日本の行政官がこれを管理する方式の採用などが考えられる。

ただ島内の日本人の経済活動や、警察権、裁判管轄権をどう扱うかなど詰めるべき点は多い。それぞれ自国の法律を自国民に適用するか、共同立法地域にするかも決める必要がある。共同統治地域を米国が日本防衛の義務を負う日米安全保障条約の対象とするのかも課題だ。首脳間で基本方針の合意に至っても、実現に向けた事務レベル交渉や立法化の作業は数年かかるとの見方が多い。>(以上)

これに対し10/17産経ニュースは<菅義偉官房長官「事実ない」 日本政府が北方領土の日露共同統治案検討との「日経」報道を否定

菅義偉官房長官は17日午前の記者会見で、日本政府が日露両国による北方領土の共同統治を検討中との同日付の日本経済新聞朝刊の報道について「そうした事実はない。全く考えていない」と否定した。

菅氏は北方領土問題に対する日本政府の対応について「北方4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する。その従来方針に全く変わりはない」と説明した。

日経新聞によると、共同統治は安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領に示した「新しいアプローチ」による交渉の一環で、日本政府が北方領土問題の打開策として検討。今年12月15日に安倍首相の地元・山口県で開かれる日露首脳会談で協議入りを探るとしている。>(以上)

日経記事はアドバルーンで日本国民の思いを測るために打ち上げられたのでは。菅官房長官が即座に否定したのも演技かも。でも日経記事にありますように、12/15にここまで詰まることはないでしょう。時間がかかります。そうなれば1月解散もなくなるのかも。そうであるなら、11/30臨時国会閉幕に合わせて総選挙にした方が良いのでは。予算や税制も総選挙の後に議論して決めたらどうか。選挙で国民の反発を恐れて、踏み込めないままというのより、良い気がしますが。

本記事の著者は「菅野 沙織(すげの・さおり)

大和証券キャピタル・マーケッツヨーロッパ・経済調査部副部長/新興国市場エコノミスト

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モスクワ生まれ。中央大学の研究生として来日後、1998年に経済学博士号を取得。2002年日本に帰化。2005年に内閣府経済社会総合研究所の客員研究員に就任。2006年大和総研入社、2014年から大和証券キャピタル・マーケッツヨーロッパのエコノミスト。ロシアのプーチン大統領来日時、日本経団連幹部との会談の通訳を務めた経験もある。

◇主な著書  『ロシア人しか知らない本当のロシア』(日本経済新聞出版社) 2008 『ジョークで読むロシア』(日本経済新聞出版社) 2011」ということです。

ロシアから帰化したからと言って、簡単にロシア側の情報が入手できることはないでしょう。ただロシアが何を望んでいるかと言えば、経済協力①資源の安定買付②シベリア開発③中国人のシベリア入植防止のための日系企業進出辺りかと分かります。

中国への封じ込めは日ロにとっての共通課題です。ロシアは璦琿条約で清から領土割譲を受けた土地を中国人は「回帰」しようと考えていますし、日本の尖閣は名分もないのに奪おうとしています。この侵略大国の膨張主義を共同で、防げるようになれば良いと思います。ただ、米ロの関係がおかしくなってきているのが、交渉にどのように影響するかです。

記事

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今年9月、ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで会談した安倍首相とプーチン大統領(写真=TASS)

ロシアのプーチン大統領の来日まで後2カ月余りとなった。

12月15日には安倍総理の故郷である山口県長門市で首脳会談が行われる予定である。サミットでは、「静かな環境」の中で両首脳が膝突き合わせて行うフェイス・トゥ・フェイス(直接)会談が重視される模様である。今回の首脳会談の結果は大きく注目されており、領土問題の解決に向けた進展や近い将来の平和条約締結への期待が寄せられている。

戦後70年余りを経ても双方の歴代リーダーたちによる領土問題解決に向けた努力が実らず、日露間では平和条約がいまだに締結されていない状況が続く。ただ、この「異常状態」が今度こそ打開できるのではないかと期待する声が高まっている。実際、根拠はいくつか存在する。

一つは日本政府がロシア側に提示した、経済協力関係の拡大を重視する8項目からなる新アプローチの「形」と「中身」の効果である。このアプローチの強みは、目に見える形での経済協力をとっており、過去にはなかった新たな挑戦ということである。

これまで、70余年に渡り続いてきたロシアへのアプローチは、実質的に何の成果も得られず、失敗だったと言わざるを得ない。日本政府側にも、従来のアプローチを変えない限り、交渉が成功する可能性はゼロに近いという焦燥感はあるだろう。

その変化の結果が、新アプローチの中身ということになるが、ここでのポイントは、ロシア側が重視している経済協力関係の拡大に焦点を当てたことだ。ロシア人がよく使う「共同経済活動」を重視したアプローチは、相手の要望に耳を傾け譲り合う姿勢を示している。この点が、従来の日本政府にはない変化であり、関係者に今回の会談が成功につながる期待感を与えている。

もちろん、その最終的なゴールは領土問題の解決だ。仮に新アプローチが領土問題解決につながらないのであれば、こうしてロシアへの経済協力ばかりしていいのか、という疑問の声は実はよく聞かれる。

ただ、ここで重要なのは、視点を領土問題から少しずらし、対ロシアの新アプローチは日本経済にどういう影響を与えるかについて考察することである。なぜなら、外交戦略である「新アプローチ」は事実上、対ロシアに限らず世界を舞台にした日本政府のインフラ輸出戦略そのものだからである。

ロシアへの経済協力は「インフラ輸出戦略」

2013年5月に発表された「インフラシステム輸出戦略」(その後、毎年改定されているが、当初の構想やガイドラインの大枠は変わっていない)では、インフラ輸出による日本の経済成長の実現という同戦略の目的が強調されている。

官邸のウェブサイトに掲載されている「インフラシステム輸出戦略」の原文(2013年5月)によれば

「・・・新興国を中心とした世界のインフラ需要は膨大であり、急速な都市化と経済成長により、今後の更なる市場の拡大が見込まれる。このため、民間投資を喚起し持続的な成長を生み出すための我が国の成長戦略・国際展開戦略の一環として、日本の「強みのある技術・ノウハウ」を最大限に活かして・・・(中略)・・・我が国の力強い経済成長につなげていくことが肝要である。」(第1章総論、p.4)。

「インフラシステム輸出戦略」の上記のガイドラインには、目的はもちろんのこと、具体策も明確に書かれているほか、具体的な分野や地域別の取り組み方針も明記されている。対象地域は、驚くには及ばないが、ロシアも当初から含まれている。

2013年に発表された戦略には「ロシア」に対するインフラ輸出戦略とは「ロシアでは、我が国の経験を活かし都市環境、運用インフラ分野で協力」と書かれている(上記、p.26)が、16年の改訂版には、同じくロシアを対象とした戦略としては「・・・都市環境分野で、モスクワ等における都市開発、木造建築、廃棄物処理、管路更生等で両国の協力を推進。運輸インフラ分野で、シベリア鉄道等の鉄道事業、空港等について検討を深度化。医療・保健分野で、ロシア極東地域の拠点として画像診断センターを開設し、検診・診断の事業を展開。郵便分野で、日本製郵便区分機の納入や郵便事業間での協力促進を支援。」と掲載されている(p.46)

つまり、インフラ輸出を目的とする経済活動分野が拡大していることが分かる。

そして、本年5月の日露首脳会談の際にロシア側に提案された8項目の新アプローチは、以下の分野に及ぶ(日本外務省のホームページより)。

(1)健康寿命の伸長  (2)快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り  (3)中小企業交流・協力の抜本的拡大  (4)エネルギー  (5)ロシアの産業多様化・生産性向上  (6)極東の産業振興・輸出基地化  (7)先端技術協力  (8)人的交流の抜本的拡大

この内容を政府のインフラ輸出戦略と照らし合わせてみよう。新アプローチの(1)が医療、(2)が都市環境、(4)が資源確保の関連事業、(5)と(6)が文字通り極東の産業振興・輸出基地化、そして(7)はこの戦略を支えるために不可欠である人的交流の拡大に重なる。提案が、政府の日本経済成長と関連性のあるインフラ輸出戦略の一部であることは明らかである。

ここまで理解できたとして、次は、新アプローチの中身だ。これがインフラ輸出戦略に沿ったものであるとしても、日本政府がこのアプローチをあくまでも領土問題解決に向けて利用したとする。人口2万人弱の北方四島の開発関連のみが対象なのであれば、果たして日本全体に経済的な利益をもたらし、景気対策になりうるのだろうかという疑問が残る。

日本の景気浮揚につながる

この疑問に対する答えの一端を、今年9月のウラジオストクでの会談で垣間見ることができた。

9月、ウラジオストクで開催された今年で2回目となる東方経済フォーラムにおいて再度日露首脳会談が実現した。同フォーラム(9月2~3日)では、9月2日に行われた安倍総理とプーチン大統領の首脳会談、続いて3日に行われた安倍総理の基調講演が大きな注目を集めた。

9月2日の首脳会談では平和条約に関して率直な議論があったと見られるほか、プーチン大統領の訪日が確認されるとともに、12月15日に山口県長門市で首脳会談を行うことでも合意された。加えて、平和条約締結に向けての動きが加速していることを反映する形で、12月の首脳会談を前に、11月にペルーで開かれるAPEC会議でも首脳会談を実現することで合意したことも発表された。

実際、1回目の東方フォーラムは「中国重視」の色が濃かったが、今回は日本側の参加者の顔ぶれ(政府関係機関だけでなく日本を代表する事業会社や金融機関のトップなども参加)と参加人数から見て、「日本重視」であったのは明らかである。

同フォーラムでは具体的な大型案件についての正式な発表こそなかった。だが、日本政府は同フォーラムの前日である9月1日にロシア経済協力相を新設(世耕経済相が兼任)するほどロシアとの経済協力拡大への「本気度」を示した。

ロシア側もこうした動きに呼応する形で領土問題解決に前向きな姿勢を示し始めている。プーチン大統領はブルームバーグとのインタビューにおいて、平和条約の締結を重要課題と位置づけ、今後日本側との妥協案を模索しながら解決に向けて努力していくという、これまでに見られなかったスタンスだ。

フォーラムでは首脳会談と同じ時間帯に日露経済会議が開かれ、両国の経済関係の拡大について議論が交わされ、具体策についても話し合われた模様であり、12月のプーチン大統領の来日の際には大型案件が発表されると示唆されている。

日露間の会話が政府レベルで活発化していることから、大型投資案件については水面下で交渉が行われていることが窺われる一方、詳細についての公式な発表はまだない。一方、先日は日本のメディアが、シベリア鉄道を北海道まで延伸させ北海道とサハリンを鉄道で繋ぐという、ロシア側が提案したと言われることに対する日本側が検討中とされる案件についての「リーク」情報を報じた。

加えて、開通から100年余り経過しているシベリア鉄道の一部である、極東のウラジオストクとロシア連邦に属するタタールスタン共和国の首都カザンを結ぶ線(800km)を高速化する提案も存在すると報じられた。仮にこのような交渉が一定の成果を挙げるならば、日本の建設業界や高速車両メーカー、信号システムなど運営関連のIT(情報技術)事業を担う日本のメーカーには大きなビジネスチャンスが訪れるといっても過言ではない。

興味深いのは、日本の報道を受けたタス通信をはじめとするロシアのメディアが、シベリア鉄道の延伸・現代化のプロジェクトについて一斉に報道し、日露関係の行方についての高い関心を裏付けたことである。

経済協力の案件はシベリア鉄道の現代化プロジェクトだけでは終わらないようだ。他にも、ロシア極東で発電される電気を海底ケーブルで北海道あるいは本州までに送電する「エネルギーブリッジ構想」も検討されていると報じられている。

対ロシアの投資に限らず競争が激しい大型インフラ輸出の受注を勝ち取るには、やはりトップセールス、つまり総理の力と相手国のリーダーとの信頼関係が極めて重要である。その意味で、対ロシアの新アプローチはまさに、日本のトップによるインフラ輸出の売り込みとも言える。

ロシアにとっても経済支援は干天の慈雨

ロシア政府は領土問題解決に向けて軟化した前向きな姿勢を示し始めたが、その背景として、新アプローチの効果以外にもロシア側に事情があることは想像に難くない。実際、2014年3月のクリミア併合とウクライナ東部の紛争を巡り欧米との関係が著しく悪化した結果、対露制裁が課された。

同年の夏には一時100ドルを超えた原油価格が下落し、2年経過した現在も1バレルあたり50ドル前後で推移している。制裁により国際金融市場から事実上シャットアウトされた上、輸出の7割をエネルギー関連が占めるため原油価格下落によるマイナスの影響を大きく受けたこともあり、意外感はなかったであろうがロシア経済は2014年下期には景気後退状態に追い込まれた。

しかし、2015年の夏頃にはロシア経済も底打ちし、徐々ではあるが回復に向かい始めた。国内経済は制裁と低原油価格という「ニューノーマル(新常態)」に適応し始めた模様であり、規模は縮小したものの貿易黒字と経常黒字が維持されているほか、ルーブル相場も安定している。

1年前には2桁台だったインフレ率が半減し、経済成長は来年からプラス転換する見通しである。ロシア政府には極東地域開発に注力する余裕も生まれつつあるが、日本の協力を取り付けることができれば、その開発が極東地域のみならずロシア国内の景気を大幅に押し上げるとの期待が寄せられている。

日露両国、両政府には「事情」があるが、今回、両国には政治・外交面、及び互いの経済活性化に向けて効果が得られる環境が整っていると言えるだろう。領土問題解決と平和条約締結に向けての本格的な合意の準備が年内に完了する可能性があるとすれば、プーチン大統領の12月の訪日後、次の世代の歴史教科書には日露関係に新しいページを開いた「長門協定」が記載される可能性もある。

12月の訪日が、歴史に残る動きとなることが期待されている。

※本稿は著者の個人的な意見であり、所属する組織の見解を表しているものではありません。

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