3/16JBプレス 堀田佳男『トランプ圧勝は確実、しかし本選はヒラリーの理由 党内の結束力に大きな差、経済の安定も強い追い風に』、3/16ZAKZAK『日本は「トランプ大統領」に備えた方がいい 快進撃の構図と底流』、3/17日経ビジネスオンライン 篠原匡『主流派が党大会に仕込む“トランプ抹殺”の策略』、3/17日経ビジネスオンライン 高濱賛『「トランプ」よりも「共和党」を守る可能性も 党保守本流が推した若手ルビオはついに撤退』について

①トランプは共和党の大統領候補になれるのか②本選でトランプVSヒラリーになった場合、トランプは勝てるのか、が本4記事の解説です。

①について・・・日経ビジネスオンラインの両記事は、共和党保守派はトランプ追い落としをいろんな手を使って図ろうとしているという事です。高濱氏は、指名推薦人が党大会でトランプ以外の候補に投票、党大会の場で指名に関する党規約を修正、対抗馬をクルーズに一本化する方法等、篠原氏は「トランプ氏が党大会までに過半数に到達しなければ、決選投票を繰り返す中で主流派が推す候補、例えばケーシック氏が過半数を得る場面が訪れるかもしれない。あるいは、2回目以降は予備選を戦わなかった人間も参加できるようになるため、待望論の強いライアン下院議長が名乗りを上げるというシナリオも囁かれる」という方法を考えているようです。でも民意から外れることをすれば、共和党から離脱する市民が増え、共和党自体の基盤が弱まると思いますので、そこまでしないのでは。

②について・・・堀田氏はヒラリーの勝利、ZAKZAKはトランプにも勝機があるとの立場です。ヒラリーとトランプではトランプの方がまだマシな気がします。ルトワックがWSJで言ったように選挙が終われば、普通の保守政治家に変わる可能性があるからです。ヒラリーは中国との裏の付き合いが見えて対峙できないでしょう。トランプであれば習近平に反対する中国人の人気も高く、かつプーチンともうまくやっていけそうで、中国包囲網を敷くには彼の方が向いています。しかし3/17日経で

<トランプ氏躍進、日本政府に危機感 パイプ乏しく

 米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が指名獲得へ前進したことを受け、日本政府は危機感を強めている。政府内には大統領選では民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が有利との見方が多いが、トランプ氏が大統領になれば日米関係に大きな影響を与えるのは必至。トランプ氏とのパイプも乏しい中、情報収集と分析を急ぐ。

 菅義偉官房長官は16日の記者会見で「米大統領選は日本をはじめ世界に大きな影響を与える選挙だ。結果は当然注視している」と述べた。政府が懸念するのは、トランプ氏が安倍政権の重視する政策に否定的な言動を繰り返していることだ。

 首相官邸は外務省に、トランプ氏に政策を助言するブレーンが誰かを探るよう指示しているが、現時点ではっきりした人物は見えない。実業家時代や最近の発言などを集めてトランプ氏の対日政策を分析しているのが実情だ。

 政府内のトランプ氏への評価は「実際に大統領になれば、実業家らしく現実路線にカジを切るだろう」「30年前から主張を変えない筋金入りの対日強硬派だ」などと定まっていない。>

とありました。外務省は不断から人脈作りしていないという事です。

JBプレス記事

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いまだに米大統領候補ドナルド・トランプの化けの皮は剥がれない。それどころか皮の厚さが増して、本物の皮膚に変化しつつあるほどだ。

 国内外でトランプが大統領になった場合の憂慮が真剣に語られ始めている。本当にトランプは大統領になるチャンスがあるのだろうか。

 筆者は昨年末から、活字・放送メディアを通して共和党ではトランプが代表候補になると述べてきた。大統領ではなく、あくまで共和党代表という立場である。

 3月15日に行われるミニ・スーパーチューズデー(5州)では、トランプが共和党候補マルコ・ルビオの地元フロリダ州で勝利すると思われる。と言うのも14日現在、トランプは各種世論調査でルビオに約20ポイントのリードを保っているからだ。「敵地」で圧勝する流れなのだ。

もはや勝ったも同然のトランプ

 さらにジョン・ケーシックが知事を務めるオハイオ州でも勝つ可能性がある。そうなるとルビオ、ケーシックの2人は早晩、選挙戦から撤退していくことになる。

 今後トランプが獲得する代議員数をシミュレーションすると、5月下旬からカリフォルニア州の予備選がある6月7日には、共和党の代表候補に決まるだろう。

 ここまでの予備選結果を眺めると、トランプは38%の得票率を得ており、今後この数字が大幅に下降するようには見えない。逆に2位につけているテッド・クルーズの得票率は約22%で、様々な観点から分析しても、トランプを逆転するのは極めて難しい状勢である。

 ましてや15日のミニ・スーパーチューズデーは、フロリダ州やイリノイ州、オハイオ州といった代議員の総取りとなる州が多く、「もう間に合わない」のだ。クルーズは15日の予備選では全州で、トランプの支持率に負けている。

 ヒラリー・クリントンも15日の予備選では圧勝してくるだろう。となると、11月8日の本選挙はトランプ対ヒラリーという戦いが見えてくる。

 ここからはトランプとクリントンが共和・民主両党の代表候補になったと仮定し、11月の本選挙でどちらが勝つ可能性がより高いかを記したい。

現時点での予想には多少の無理があるが、一言で述べると「クリントンに勝算あり」である。

 理由はいくつもある。過去数十年間の大統領選で勝敗を大きく左右する要因は経済と党内のまとまり、資金力、選対の組織力などで、ほとんどの要因でクリントンが優勢だからだ。

 今年は経済問題が大きな争点にならない珍しい選挙である。米国の失業率はいま5%を切り、インフレ率も1月に1%台に乗ったが依然として低率だ。

 失業率とインフレ率を合わせた数値を痛苦指数(ミゼリー・インデックス)と言い、数値が10%を超えると現職大統領であれば再選できないと言われている。現在は6%台で、バラク・オバマの再選はもうないが、政権党である民主党の候補が再びホワイトハウスに入る可能性はある。

党内が団結、経済も追い風

 2008年のように、米国経済が恐慌の一歩手前という状況であれば、クリントンにほとんどチャンスはなかっただろう。今年の討論会では財政再建策や経済刺激策が話し合われず、不法移民や安全保障問題に関心が注がれている。

 次の指標として、党内がどれほどまとまっているかも重要である。党が分裂状態にあると、11月の選挙で勝てる可能性は下がる。

 特に共和党はトランプが代表候補になった場合、党の首脳部をはじめとしてトランプの言動を容認しない党員たちが少なからずいる。しかも党内の亀裂はいま深くなっている。首脳部がトランプに代わる候補を推してくることさえ考えられる。

 実は1968年にそうした事態が起きた。民主党はリンドン・ジョンソン大統領が再選を求めず、上院議員のユージーン・マッカーシーとロバート・ケネディが代表争いをしていた。

 だがケネディが暗殺されてマッカーシーが有力視されると、民主党首脳部は予備選を全く戦わなかった副大統領のヒューバート・ハンフリーを党大会で代表にしてしまう。

 党大会は暴徒化した党員などで荒れに荒れる。結局、ハンフリーは本選挙で共和党ニクソンに敗れるのだ。

いまの共和党首脳部がトランプを阻止するためのウルトラCを考えているとしたら、1968年のシナリオが頭にあるかもしれない。そうなるとトランプは黙っていないだろうし、共和党は分裂してしまい、最終的には11月にクリントンに負けるという流れができてしまう。

 さらに選挙に勝つために必要なのが選挙対策本部の組織力だ。いくら候補に人間的な魅力があっても、全米レベルで効率的なキャンペーンが運営できないと勝ち目はない。

 この点で今年のトランプは例外中の例外だ。クリントンの選対には給料が支払われるスタッフだけで350人はいるが、トランプの選対はほぼ10分の1である。しかも専属の世論調査員やプロの献金担当者はおらず、政策立案者も最近まで採用していなかった。

 にもかかわらず、トランプは共和党の代表候補になりつつある。これまでの大統領選の常識を破りながら快進撃を続けている点で、例外的な候補だ。

トランプ30億にヒラリー211億円

 選挙資金にしてもそうである。過去30年間の大統領選を眺めるだけでも、ほぼ例外なくより多くの選挙資金を集めた候補が勝利を収めてきた。多額の選挙資金を集めることで、テレビやラジオの政治CMに多額の資金をつぎ込めるからだ。

 正比例ではないが、選挙資金と選挙結果には強い相関関係がある。クリントンは3月7日現在、約211億円(スーパーPAC*1を含む)を集金。バーニー・サンダース(約110億円)の集金額に100億円も差をつけている。

 しかしトランプは約30億円しか集金しておらず、自己資金を約50億円使っていたとしても大変効率よく戦っている。

 9月になると、勝者はかなり微細に見えてくる。考慮すべき指標はいくつもある。経済成長率、国民の実質所得、失業率、インフレ率、候補の支持率、選対の組織力、選挙資金額、党内の結束等を総合的に判断することで、勝者が浮かび上がる。

 米政治学者の中には当選予想モデルを考案している人たちが何人もおり、過去ほとんどハズレがないほど高い確率で当選者を言い当てている人もいる。

 しかし、今年の選挙はドナルド・トランプという「これまでの常識」が通用しない人物がいるため、本選挙でも波乱が起きる可能性がある。それでもトランプとクリントンであれば、現時点ではクリントン有利と記しておく。

*1=PACはpolitical action committee(政治行動委員会)の略。スーパーPACは特別行動委員会と呼ばれ、無制限に資金を集めることが許されている。

ZAKZAK記事

11月の米大統領選で共和党の不動産王、ドナルド・トランプ氏(69)は民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(68)に勝てるのか? トランプ氏が「スーパーチューズデー」に勝利したことで、米国では早くも本選に目が向かっている。結論を先にいうと、選挙戦の構図からみて打ち負かすことは十分に可能だ。 ■実際には自国批判  暴言王、トランプ氏の発言で誤解されている点は、日本、中国、メキシコを名指ししていることが「他国批判」をしていると受け止められていることだ。  日本人として、米軍による日本防衛のためのカネを払わせろというトランプ氏の主張は非常に不愉快だが、そうした言動の一つ一つが「自国批判」であることに気づけなければ、トランプ現象を見誤る。単なるヘイトスピーチで大衆の心をつかむことはできない。  たとえとして安倍晋三首相(61)について語った昨年8月の南部アラバマ州での演説を挙げる。  「日本は復活した。日本にはアベがいる。彼は本当に賢い。一度会ったことがあるが、頭が切れる人物だった」  中国との貿易不均衡に関する話の流れで日本に触れたトランプ氏はまず安倍首相を持ち上げ、矛先をキャロライン・ケネディ駐日米大使(58)に向ける。  「ケネディ氏はアベたちによってワインに夕食、それから朝食、昼食で接待漬けにされ、彼ら(日本人)の望むことは何でもやるようになった」  もちろん日本企業が米国内に製造拠点を置き、多くの雇用を創出していることや、日本政府が米軍の駐留経費を負担していることなど自らの主張に都合の悪い事実には触れない。トランプ氏の「ビジネスの能力も仕事を成し遂げたこともない人物を使っている」との大使攻撃はオバマ政権のせいで国益を損なっているというメッセージを送ることに主眼が置かれている。

■熱いムーブメント

 トランプ氏が圧勝したネバダ州党員集会の前日、1万人近くを集めた大規模演説会がラスベガスで開かれた。トランプ陣営は外国メディアに取材許可を出さないことが多く、テーマパークのアトラクション待ちのような長蛇の列に並んで会場に入った。トランプ氏がいう「ムーブメント」を実感させられる。

 トランプ氏の支持者で、「Hillary Clinton For Prison」(クリントンを刑務所に)とプリントされたTシャツを着たゲイリー・ウィルソンさん(43)に話を聞いた。「For President」(大統領に)のもじりで、ネット通販で手に入れたのだという。

 「エスタブリッシュメント(主流派)を打ち破れるのはトランプ氏しかいない。不満は中央政府が大きくなり、個人の自由が脅かされていることで、クリントン氏にこの路線を続けさせてはならない。トランプ氏が日本を批判しているって? 米国は世界の警察官ではないのだから、日本も軍を強くして自らを守ったらどうだ」

■アウトサイダーの強み

 オバマ政権の7年間で、共和党支持層3分の2に当たる66%は暮らし向きが良くなっていないと感じている。民主党支持層の71%が良くなったと答えたのとは対照的だ。米ギャラップ社が1月に実施した調査による。

 医療保険制度改革(オバマケア)による中小企業の負担増、不法移民問題、同性婚や人工妊娠中絶などの社会問題…。保守系草の根運動「ティーパーティー」(茶会)に後押しされた共和党の非主流派はオバマ政権を攻撃すると同時に主流派の「弱腰」をたたいてきた。共和、民主両党の二極化は「暮らし向き」をめぐる認識の差として表れている。

 同時に共和党内も主流派、非主流派に二分されたが、2014年中間選挙で上下両院ともに過半数を握りながら、公約したオバマケア廃止などをいまだに実現できていないことに対する支持者の怒りは非主流派のテッド・クルーズ氏(45)にも向けられている。

 ワシントン経験のない完全なアウトサイダーであるトランプ氏の「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大にする)というコピーに支持者が飛びつくのは自然な流れだった。

 米国政治は今、小泉構造改革をめぐって自民党が党内抗争を繰り広げた結果、09年衆院選で有権者に民主党の「政権交代」という主張ともいえない言葉が受け入れられた状況と似てきている。この流れは典型的なインサイダーのクリントン氏にはマイナスだ。

 日本として「トランプ大統領」に備えた方がいい。

 (ワシントン支局 加納宏幸)

篠原匡記事

今回の米大統領選において、「3・15」はスーパーチューズデーとして知られる「3・1」以上に重要な一日だった。

 米大統領選における共和党の指名候補として着々と代議員数を積み上げている億万長者の不動産王、ドナルド・トランプ氏。3月14日時点で獲得した代議員は全体の20%に満たないが、15日以降、得票率トップの候補がすべての代議員を得る「勝者総取り方式」の州やそれに準ずる州が相次ぐため、これまでのペースで勝利を重ねれば7月の党大会までに過半数を超えることは確実だ。

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共和党の指名レースでトップを走るドナルド・トランプ氏。オハイオ州は落としたが、フロリダ州はしっかりとキープした(写真:AP/アフロ)

 一方、トランプ氏の指名を是が非でも避けたい共和党主流派にしてみれば、勝者総取り方式の州で対抗馬が勝利しない限り、トランプ氏の過半数獲得を防ぐ手立てはない。それだけに、フロリダ州(代議員数99人)やオハイオ州(同66人)など代議員の数が多い州で勝者総取り方式の予備選が開かれる「3・15」は、共和党主流派にとって剣が峰の一戦に位置づけられた。

 結果はどうだったかと言えば、オハイオ州知事ジョン・ケーシック氏がオハイオ州でトランプ氏に勝利し66人の代議員を獲得した半面、マルコ・ルビオ上院議員は地元フロリダで敗北、トランプ氏に99人の総取りを許した。

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オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏は地元での人気を生かして勝利を収めた(写真:AP/アフロ)

 ケーシック氏はこれまでの獲得代議員数では最下位だが、2014年に州知事に再選された際に88郡中86郡で勝利を収めたように地元では抜群の人気を誇る。加えて、保守穏健的な立ち位置や、州知事や下院議員、州議会議員を40年近く務めた経験は共和党主流派にとって理想的なキャリアだ。予備選では低空飛行を続けていたが、オハイオ州の勝利でトランプ氏に対する対抗馬として生き残った。

自身のホームグラウンドであえなく敗退

 一方、主流派の期待を集めたルビオ氏は地元フロリダ州での敗北で「終戦」を迎えた。

 上院議員に当選した2010年以降、大統領選を見据えて若きリーダーというブランドを築き上げたルビオ氏。特に、予備選が始まってからはトランプ氏の独走を止める唯一の存在として共和党主流派の期待を一身に集めた。だが、ディベートで経験不足を露呈した上に、自ら中傷合戦を仕掛けてトランプ氏に叩きのめされるなど最後は自滅した感が強い。全国での遊説を重視して地元フロリダ州を軽視したツケだが、自身のホームグラウンドで政治的に引導を渡された恥辱は想像するに余りある。

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一時は主流派の期待を集めたマルコ・ルビオ上院議員だが、地元での敗北で引導を渡された格好(写真:AP/アフロ)

 最終的に、トランプ氏はオハイオ州でこそ敗北したが、同日予備選が開催されたイリノイ州、ノースカロライナ州、米自治領北マリアナ諸島で勝利、代議員数を積み増した(3月16日午前4時時点)。それでもオハイオ州での勝利を阻止し、トランプ氏の過半数阻止に希望をつないだという意味では、主流派も首の皮一枚でつながっている。

 なぜ共和党主流派がそこまで過半数阻止に血道を上げるのか。それは過半数を阻止しなければ、予備選におけるトランプ氏の勝利を“無効”にする奥の手が使えないからだ。

トランプ氏が7月18日から開催される共和党の全国党大会までに過半数を獲得すれば、トランプ氏は自動的に共和党の大統領候補に指名される。「(誰がなっても支持するという)私の立場は変わっていない」とポール・ライアン下院議長(共和党主流派)が明言しているように、指名獲得や党大会のルールを変えない限り、過半数に達したトランプ氏の指名を阻止することはできない。

 ただ、過半数に満たなければ様々な“策略”が可能になる。

「トランプ氏の成功を骨抜きにする準備している」

 7月の党大会で、大半の代議員は予備選や党員集会の結果に応じて割り当てられた候補者に投票しなければならない。例えば、トランプ氏が1000人の代議員を獲得していたとすれば、その1000人は党大会でトランプ氏に投票する。ただ、この縛りがあるのは1回目の投票だけという州が多く、そういう州の代議員は2回目以降、自由に候補者を選ぶことができるようになる。

 また、誰が州の代議員を決めるのかというところもポイントだ。オハイオ州のように予備選の勝者が代議員のリストを作成する州がある一方で、トランプ氏が50人の代議員を総取りしたサウスカロライナ州は既に代議員が決まっており、名簿づくりにトランプ氏が関与する余地がない。

フロリダ州に反トランプのテレビCMを大量投下したが、トランプ氏を止めることはできなかった。上はいかにトランプ氏が大統領としての品位に欠けるかを表現したCM。放送禁止用語の連続でピー音しか聞こえない

 同様に、党の州組織は主流派が強く、代議員選出プロセスで影響力を行使することが可能だ。「事実、各州の共和党のリーダーは、代議員の選定を通して予備選におけるトランプ氏の成功を骨抜きにする準備を始めている」。最先端のIT(情報技術)やデータ解析、行動心理学などが活用されている選挙の裏側を描いた『The Victory Lab』の著者でコラムニストのサーシャ・イッセンバーグ氏はこう指摘する。

仮にトランプ氏が党大会までに過半数に到達しなければ、決選投票を繰り返す中で主流派が推す候補、例えばケーシック氏が過半数を得る場面が訪れるかもしれない。あるいは、2回目以降は予備選を戦わなかった人間も参加できるようになるため、待望論の強いライアン下院議長が名乗りを上げるというシナリオも囁かれる。

 そうなった時に、指名候補者争いの先頭を走り続けたトランプ氏とその支持者がおとなしく引き下がるかどうかは現時点では分からない。ただ過半数に達していないとはいえ、それに近い数字を得ているであろう候補者をある種の謀議で抹消すれば、共和党も無傷では済まないだろう。ワシントンに対する国民の怒りが深いだけになおさらだ。

11月にトランプ、ヒラリーが消える恐れも

 鉄板と思われていたヒラリー・クリントン前国務長官は、格差解消と政治革命を掲げるバーニー・サンダース上院議員の粘り腰の前に苦戦している。しかも、国務長官時代に機密情報を私的メールサーバーで管理していた問題がいまだ尾を引いており、FBI(米連邦捜査局)に起訴される可能性も残る。現在、トップを走る2人が秋には姿を消しているという事態もジョークではない。

 混沌としている各党の候補者選び。まだまだ波乱が起きそうだ。

高濱賛記事

—大票田フロリダをはじめとする5州で同時に予備選が行われた「ミニ・スーパー・チューズデー」(3月15日)でもトランプ旋風は収まりませんでしたね。

高濱:共和党の候補は5州で367人の代議員数を争いました。これは指名に必要な1237人の約30%に当たります。

 ドナルド・トランプ氏は5戦で3勝1敗(ミズーリ州は16日東部時間午前3時現在で互角)。「勝者総取り方式」をとっているフロリダでは99人を一気に獲得しました。これでトランプ氏が予備選で獲得した代議員数は16日東部時間午前3時現在、621人となり、指名に必要な1237人にあと616人となりました。 (”live March 15 Election Results,” Lily Mihalik, Los Angeles Times, 3/16/2016)

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フロリダ州で勝利を手にし、記者会見に臨んだトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 共和党保守本流が推してきたマルコ・ルビオ上院議員は必勝を期した地元フロリダでも27%しか得票できず。ミズーリ、ノースカロライナ、オハイオ、イリノイでは、ジョン・ケーシック・オハイオ州知事にも敗れてしまいました。ケーシック氏はもう一人の穏健派で共和党保守本流が推している人物です。ルビオ氏は開票と同時に、予備選から撤退することを表明しました。

 ケーシック氏は地元オハイオで初勝利しました。同州も「勝者総取り方式」を適用しているので代議員66人がすべて同氏の手に入りました。「これで選挙資金が入ってくる。次は(手ごたえを感じている)ペンシルベニア(4月28日)での勝利を目指す」とインタビューに答えています。

 超保守派のテッド・クルーズ上院議員は事前の調査ではミズーリ(代議員数52人)、ノースカロライナ(同72人)、イリノイ(69人)でトランプ氏に迫る勢いでしたが、16日東部時間午前3時現在、互角のミズーリを除いてはトランプ氏の軍門に下りました。しかしクルーズ氏が「ストップ・ザ・トランプ」を実現できる事実上唯一の対抗馬であることに変わりはありません。

トランプに不利に働く「指名推薦人」制度

 共和党保守本流は今後どのように対応するのか。それを占ううえで、重要なのが「Endorsement Primary」(指名推薦人)の動向です。

 これまで紹介した獲得代議員は、一般党員による投票で選ばれた代議員です。ところが、前回お話しした通り、共和党にも「特別代議員」がいます。共和党では「指名推薦人」と呼ばれます。彼らは予備選での投票結果とは関係なく、自分が推薦する候補者に党大会で一票を投ずることができるのです。指名推薦人になるのは党所属の上下両院議員、州知事たちです。

 ニューヨーク・タイムズの選挙予測・分析サイト、「FiveThirtyEight」は候補ごとの「指名推薦人」獲得状況をポイント制で評価して紹介しています。他の代議員に対する影響力か強い上院議員は1人5ポイント、下院議員は1人1ポイント、知事は1人10ポイントで計算します。

 ミニ・スーパー・チューズデー直前までの結果は以下のようでした。  ルビオ上院議員     168ポイント  クルーズ上院議員    50ポイント  ケーシック知事     32ポイント  トランプ氏       29ポイント

 予備選では快進撃を続けるトランプ氏も、獲得した指名推薦人は上院議員が1人、下院議員が4人、知事が2人に留まっています。

 この調査ではルビオ氏がダントツでした。2位はクルーズ氏、3位はケーシック氏。トランプ氏は最下位なのです。

 ところがルビオ氏が撤退して以後、以下のように変わりました。  クルーズ上院議員    52ポイント  ケーシック知事     32ポイント  トランプ氏       29ポイント

 ルビオ氏を推薦していた指名推薦人はなくなり、そのうちの2人がクルーズ氏に回ったようです。ケーシック、トランプ両氏を支持する推薦人の数はまだ変わっていません。 (”The Endorsment Primary,” Aaron Bycoffe, FiveThirtyEight, 3/15/2016)

依然として指名に影響力を持つ党エリートたち

—なぜ、「指名推薦人」のポイントを獲得することが重要なのでしょうか。

高濱:民主、共和の両党とも、大統領候補を指名するプロセスで上下両院議員や知事が強い影響力を持ってきました。一般党員による予備選や党員集会での投票が党外やメディアでも注目されるようになり、一定の力を持ち始めたのは60年代に入ってからのことです。80年以降、党エリートたちの影響力は弱まりましたが、それでも党エリートたちの指名権限は強く、今回も予備選が始まる前から非公開の会合などで特定の候補を推薦する動きがありました。

 党大会までに指名争いの決着がつかなかった場合、党大会が開かれている最中に、党エリートたちが舞台裏で密談して一人の候補に絞り込むわけです。ここでは一般党員はいかんともすることができません。メディアはこれを「Smoke-filled room machinations」(タバコの煙が立ち込める密室での謀議)などと呼んでいます。 (”The Party Decides.” Marty Cohen, David Karol, University of Chicago Press, 2008)

トランプよりも「共和党ブランド」を守る?

—党エリートたちは徹底的にトランプ氏を嫌っていますが、このままいくと、トランプ氏を指名することが一般党員の投票で決まってしまうのではないですか。共和党保守本流はどうしようとしているのですか。

高濱:二つのシナリオが考えられます。

 一つは、トランプ氏の動向にかかわらず、ケーシックとクルーズの両氏らに撤退させず、党大会が開かれる7月18日まで頑張ってもらうという手です。そして党大会の場で指名に関する党規約を修正してしまう。

—そんなことをしたら、「非民主的だ」との理由で一般の米国民の顰蹙を買って、本選挙で民主党候補に負けてしまうのではないでしょうか。

高濱:その公算は大です。しかし、今回は大統領選に負けても、共和党のブランドを守ることの方が長期的には大事と思っている党エリートがいるようです。

 もう一つのシナリオは、目下、第2位のクルーズ氏に一本化することです。ケーシック氏には途中で降りてもらう。そして、クルーズ氏には3月22日のアリゾナ(代議員数58人)、ユタ(同40人)の予備選で圧勝してもらう。

 党保守主流系の「スーパーPAC」は今回のフロリダ州予備選だけで1億5700万ドルを使って、テレビやラジオ、インターネットで「反トランプ」広告を流しました。しかし望む結果は得られませんでした。こうした反トランプ・キャンペーンは今後も続くようです。 (”Why this day changes everything for GOP,” Buck Sexron, CNN, 3/15/2016)

護衛にかかるコストは史上最高

—トランプ氏の発言に猛反対する非共和党員が演説会場に押し寄せて抗議する動きが出ていますね。こうした動きは今後の予備選に影響は与えるのでしょうか。

高濱:オバマ大統領は15日、トランプ氏が行く先々で抗議デモに遭い、抗議する市民と支持者とのいざこざが常態化していることを憂慮し、「トランプ氏のレトリックは下品であり、国を分裂させる以外のなにものでもない」と厳しく批判しています。こうした混乱を招いているのはトランプ氏にあるという見方です。

 米国土安全保障省は、トランプ氏をはじめとするすべての候補者の身辺を警護するため護衛官を派遣しています。今年の警護費用は米大統領選挙史上最高額と言われており、同省は米議会に追加予算を要求しています。予備選が進む中でこれから候補者に何が起こるかわかりません。ある新聞記者は「これもトランプという候補者が出現し、怒りと対立を増幅させているからだ」とコメントしています。