11/18日経電子版 『中台会談、80秒握手の深謀 習氏の任期延長への布石  編集委員 中沢克二』について

11/18日経夕刊には「日台、租税協定を締結へ 二重課税防ぎ投資促す」とありました。

「【台北=山下和成】日本と台湾が二重課税などを防止し、ヒトの往来や投資を促進するための租税協定を結ぶことが18日分かった。現地子会社からの配当の送金に対する税の減免や、出張者への二重課税の解消などが柱となる。台湾としてはこの協定を契機に、将来は日本との実質的な自由貿易協定(FTA)の締結など包括的な経済連携につなげたい考えだ。

Japanese investment for Taiwan

 日本と台湾は正式な外交関係がないため、租税協定は双方の交流窓口機関が締結する。25~26日に東京で開く「日台貿易経済会議」でトップ同士が覚書を交わし、早期に発効する見通しだ。

 台湾は英国やインドなど29カ国・地域と租税協定を結んでいる。今年8月には中国との協定締結も実現した。

 租税協定を結んでいない場合、本来は減免される税金などが発生し、企業・個人の負担となる。例えば現在、日本企業の台湾子会社が配当を日本の親会社に送金する際、金額の20%を源泉徴収されているが、協定があればこれが減免される。台湾企業の日本子会社にも同じ仕組みが適用され、子会社の事業拡大がしやすくなる。

 また、日本企業の社員が台湾に出張した場合、91日以上滞在すると課税対象になって二重課税が生じる。租税協定があれば182日までなら課税対象とみなされず長期出張などがしやすくなる。

 台湾の経済部(経済省)によると、日本の2014年の対台湾投資額は前年比34%増の5億5千万ドル(約680億円)。ピークの06年は15億9千万ドルだったが製造業の進出減少で最近は低迷気味だ。台湾は主力のIT(情報技術)産業などが韓国や中国との競争にさらされている。租税協定で日本の先端産業などを誘致し、産業構造の高度化につなげる。

 一方、台湾の14年の対日投資は前年比4倍の6億8千万ドル。12年の鴻海(ホンハイ)精密工業によるシャープの旧・堺工場への出資などで近年は伸びが著しい。

 台湾の馬英九総統は08年の就任以降、対中融和政策を進める一方、日本との経済関係も重視してきた。11年には投資協定や航空自由化(オープンスカイ)協定も結んだ。」とありました。

台湾で発表された明年1月の総統選の直近の世論調査によると、各候補者の支持率は、

 蔡英文(民進党)  46・2%

 朱立倫(国民党)  20・4

 宋楚諭(親民党)  10・4

 態度未定      13・3

 棄権する       9・7

(11/18宮崎正弘メルマガより)

でした。蔡英文の優位は揺るがないでしょう。問題は立法議員選挙で民進党が勝てるかどうかです。10/6キャピタルホテル東急で蔡英文は日本と「産業同盟」を結びたいと言っています。馬英久時代に中国と経済的に近づきすぎたのを軌道修正しようとするものです。上述の日経記事もその流れの一つでしょう。10/8安倍・蔡会談では「軍事サポート」についても話し合われた可能性もあります。米国の台湾関係法発動時に日米同盟の中での日本の役割についてです。

中沢氏の記事で言う習近平の任期延長はないと思います。習は国内の権力闘争を勝ち抜くために、無理をし過ぎて、外国に敵を作りすぎました。金で総てが解決できると思ったら大間違いです。「金」の恩恵は受けたとしても「隷従」の道を歩もうと思う国は、韓国以外はないでしょう。ロシアもISのテロを受けて、欧米との協調に転じました。それが中国包囲網になっていくことを望んでいます。

国内でも、経済がダメになっていけば上海派と団派の反撃を受けると思います。また、イージス艦ラッセンの南シナ海航行でネット民は政府・軍が何もできないことに不満を述べています。「米国に核爆弾を落とせ」とか過激な意見も出ています。共産党統治で自由な意見が許されない中で、こういう意見が出て来るのはガス抜きか習に対する軍の面当てなのかは分かりませんが。閉ざされた情報空間に生きる国民の意思をコントロールしていくのは益々難しくなると思います。

 

また台湾への武力侵攻は日本の集団安保法成立、米国の11/18「米中経済安保委員会が警告的な報告書を議会に提出」記事(11/20宮崎正弘メルマガ)等見ると、中国に味方する国は出てきません。台・米・日を相手に軍事的には絶対勝てません。

日本は蔡時代に入れば、馬の敷いた反日路線、抗日記念館の別転用等お願いしていくべきです。

記事

笑顔の中国国家主席、習近平が台湾総統の馬英九に先に右手を差し出す。1949年の中台分断後、初のトップ同士の握手は80秒間続いた。11月7日のこの瞬間、習は胸中で何を思っていたのか。

 「あの国共合作(国民党と共産党の協力)をにおわせる長い握手は、習(共産党)総書記の任期延長への布石になるかもしれない」

 「習大大(習おじさんの意味)が公約した『中華民族の偉大な復興』に台湾統一は不可欠だ。その実現を名目にすれば、党トップ3選さえあり得る」

 中国の内政に通じる関係者らの声に、ハッとした。これは2年後に迫る2017年共産党大会の最高指導部人事の話ではない。7年後の22年党大会でのトップ交代の有無を左右する一大事件だという。

 国を代表する国家主席の任期は1期5年で、続投は1回のみ。憲法は3選を禁じる。つまり最長で2期10年だ。13年に国家主席に就いた習は、憲法を修正しない限り23年には退く。だが共産党を代表する総書記には続投回数の制限規定がない。最近は総書記が国家主席を兼ねるため、双方とも最長10年で退く慣例があるだけだ。

 習が絶対的な権力を握ったなら、名目さえあれば10年を超す続投は可能だ。その際、台湾統一は極めて良い口実になりうる。これを念頭に先の中台首脳会談を思い返すと面白い事実に気付く。

■対等ではなかったトップ会談

 「中国共産党と習にとっては大きな得点だが、台湾側は与党・国民党、野党・民進党、一般民衆とも明確な利益がない。『対等な会談』は名目だけ。実際は習が台湾を威圧した。唯一、馬だけは元国民党主席の連戦に代わる中国とのパイプとして政治生命を保てる。得をした」

 中台双方と一定の距離を置く外国籍の華人学者の分析である。対等ではないのは、まず会談場所となったシンガポール入りまでの動きだ。習は5日からベトナムとシンガポールを国事訪問。シンガポールでは首相のリー・シェンロンとの会談のほか国立大学での演説もこなした。

 習が2つの国事訪問の合間に少しだけ時間をつくり、「台湾当局」トップに会ってやった、という形になった。会談当日の中国国営中央テレビのニュースでも中台会談はトップではなく、習のシンガポール国事訪問の関連ニュースの後、ようやく登場した。

 一方、台湾の馬は、習に会うためだけに7日、シンガポール入りし、すぐに台湾に戻った。“拝謁”に見える。その象徴が、習と馬の握手の構図だ。一般に外交儀典上のホストを意味する向かって右に陣取ったのが習。左が馬。習は馬を客として迎えた形になった。

本番の会談でも先に発言したのは習だった。ここでも事実上のホストの立場が確認できる。中国語で「先生」は、日本語の「さん」の意味だ。2人は互いを「馬先生」「習先生」と呼び合ったが、この場面は、中国側のニュース映像、報道からカットされた。そればかりか馬の発言自体も音声付きでは放映されなかった。習の格上感を演出する共産党宣伝部による報道統制である。

 習は、1920、30年代の2度にわたる国共合作に次ぐ、第3の合作によって台湾統一に道筋を付けたい。これを成し遂げれば、鄧小平はおろか、毛沢東にも迫る大指導者として歴史に名を残せる。

 習が総書記に就いた2012年の第18回党大会では「『二つの百年』の奮闘目標」が打ち出された。中国共産党創立百年の2021年と、新中国成立100年の2049年に向けて「中華民族の偉大な復興」という夢を実現する時間表を意味している。

 表向きは、全国民が一定の生活水準に達するという経済的目標が強調されている。だが、政治的な意味は、軍事、経済両面で米国を抜き去り、世界ナンバー1の中国を実現することだ。

 共産党がうたう「中国の夢」は当然、台湾統一を含む。「21年と49年は台湾統一への時間表、工程表でもある」。党幹部が語る。

■抗日記念館も台湾シフト

 台湾統一をにらむ7日の中台首脳会談への布石は、既に中国国内で打たれていた。会談のわずか2週間前、首都・北京の郊外で大規模な展示会が始まった。場所は日中戦争の端緒となった盧溝橋にある抗日戦争記念館だ。

anti-Japnese memorial of Taiwan

中台首脳会談の直前に大々的に始まった「台湾の抗日」の展示(北京・盧溝橋の抗日戦争記念館で)

 10月23日に幕を開けた「台湾同胞抗日史実」と銘打った展示は、日本支配下の台湾での抗日活動を大々的に宣伝していた。館内の大きなスペースを割いており、共産党の力の入れようが見て取れる。その脇では、7月に一新された反ファシズム、抗日戦争勝利70年を記念する展示が続く。

 外国人がここを参観すれば違和感を感じさるをえない。70年前、第2次世界大戦で日本に勝利したのは、後に台湾に移った蒋介石の国民党政権であって、共産党政権ではない。共産党軍を抗日戦争の立役者として描く展示には誇張がある。当然、台湾側は共産党の宣伝に抗議してきた。

 中国側はここに来て軟化している。大陸各地の抗日戦争の展示に、従来はタブーだった蒋介石の大きな写真を登場させ、国営書店にも蒋介石の功績も扱った本が並ぶ。台湾の国民党への秋波である。

 さらに今、盧溝橋の記念館で「抗日戦争勝利70年」と「台湾の抗日」を合わせて展示することで、中台会談を契機にした新たな国共合作を狙う。抗日戦争記念館は台湾を標的にした「統一戦線工作」の道具でもある。共産党の提示する「歴史」は常に時の政権の政治目標を踏まえている。

 中台首脳会談の提起に当たり、習は「馬は、任期切れを前に策がない。必ず誘いに乗る」と読んだ。果たして馬は応じた。会談の際の馬のネクタイの色は青。国民党の青天白日旗の青だ。習の方は、共産党の紅旗の紅。交錯した青と紅のネクタイは国共合作を象徴していた。

 実際、習は会談でも「抗日歴史書」の共同執筆を持ちかけた。馬は「民間で」としつつも前向きな意向を示した。「抗日戦争は中華民国が主導した」との台湾の主張に関して馬は触れていない。

 台湾も領有権を主張する尖閣諸島についても話題に出た。習の思惑通りである。世界が注目した中台会談は、南シナ海問題で苦しい習にとって大きな援軍になった。

■馬が習3選の援軍に

 総統を退いた後の馬の役割も興味深い。中国とのパイプ役になるなら、台湾問題を利用して権力を固め、総書記3選まで視野に入れる習を完全に助けることになる。

 とはいえ、台湾が既に民主化している以上、共産党の独裁政権による統一は極めて難しい。だが、習にとっては難しいほうが都合がよい。

 「難題を解決できるのは、台湾問題に精通する習総書記だけだ。是非、続けてほしい」。22年の党大会前に共産党内でこんな声を盛り上げればよいのだ。前年の21年は共産党創立百年。一定の生活水準の達成という第1目標をクリアした余勢を駆って、49年に向けて走り出す年でもある。

 2年後の17年党大会の最高指導部人事では、7人の内、習と首相の李克強以外の5人が年齢問題で入れ替わるはずだ。もし習に3選の野心があるなら若手の抜てきの際、自分の後継者を特定されないような人事にする選択肢もある。

 習は、高級幹部の子弟らを指す「太子党」「紅二代」を代表する。ライバルである共産主義青年団の人脈に属する人物は「いくら習総書記でも3選は無理だ。鄧小平が敷いた路線は覆せない」と顔をしかめる。しかし「反腐敗」で力を付けた習は、既に過去の慣習を次々、破っている。

 来年1月の台湾総統選では、独立志向が強い民進党の蔡英文が有利とされる。習と馬の会談を経た今も情勢はあまり変わらない。今後の台湾問題と、17年、22年の共産党最高指導部人事を注視したい。(敬称略)