平間洋一著『日英同盟』について

朝日新聞はアジの名手という所でしょう。日露戦争の講和条約締結に反対して日比谷公園焼き打ち事件を起こす元となりました。今はGHQの検閲時代と同じく「日本が(何でも)悪い」派に宗旨替え。こういう節操のない人間(新聞社)を昔の日本人は毛嫌いしたものですが。

この焼き打ち事件がアメリカの世論を変えたとありますから、朝日新聞等の為したことの責任は大きいです。慰安婦の誤報同様、国際世論に与えた影響は大きいという事です。でも、彼らの体質は都合が悪くなると知らん振りを決め込みます。あれだけ、政官財で不祥事が起きると正義面してバッシングするくせに、自分の落ち度は認めない左翼にありがちな無謬路線で対抗します。ズルイ連中の集まりです。

セオドア・ルーズベルト大統領はマイヤー駐伊大使に「若し平和が今到来するならば、日本は朝鮮を保護国とすべきである。(朝鮮は自立しうる能力が全くないことを示してきた)」と書き送っていたとありますように、日露戦争の時には朝鮮半島は自分たちで治める能力がないと認めていたという事です。中国かロシアか日本かのいずれかの属国か保護領にあるしかなかったのです。日本と併合されて良かったと喜ぶべきなのに彼らから聞こえるのは恨み節ばかり。中国の属国のままか、ロシアの一部になったことを考えてみたことがあるのかと言いたい。歴史を政治のプロパガンダに使うのでなく、もっと真摯に勉強した方が良い。

ドイツは性悪女そのものです。国際謀略を仕掛け、日米分断を図りました。アメリカのハースト系新聞はイエローペーパーなんでしょうけど、人種差別が米国人に受け入れられていたから日本人排斥を読者が素直に受け入れたのではと思います。結局、米国の人種差別がドイツの言っていることを信じさせ、それが太平洋戦争に繋がり、日本の敗戦で幕引きとなりました。後の三国同盟が失敗の基でしたし、ドイツの嘘にキチンと反論しなかったからです。

日中提携を夢見て失敗した歴史が過去にもあるということです。中国人の本質が見えていなかったという事でしょう。日本人は「信義」を大切にしますが、中国人は「詐術」を旨とします。孫文だって、日本が金ヅルの時は日本を頼り、日本から金が出なくなるとロシアを頼りました。西原借款だって返して貰っていないでしょう。今も日本人4人をスパイ容疑で拘留しています。こういう国と付き合うと碌なことにはなりません。恩を仇で返すのが賢いと思う民族性ですので。マクマレーも「ナショナリズムをロにして国際法や条約を蹂躅することは許されない。」と言って中国を非難しています。昔からそういう国です。今も東シナ海や南シナ海でやっていることはそういう伝統に則って行動しているという事です。日米ともにこういう中国を豊かにして、力を付けさせたのですから愚かとしか言いようがありません。

内容

P.68~70

6.親日的世論を一転させた日比谷騒動

日本はアメリカからもイギリスからも称えられ栄光に満ちていた。だが、日本国内は混乱の坩堝と化していた。多くの政治家、学者や『萬朝報』『ニ六新聞』『都新聞』『日本新聞』『大阪日報』『大阪朝日』などの大新聞が、講和条約の条文に領土の割譲も賠償金もないことが判明すると、「この屈辱!」「あえて閣員元老の責任を問う」などと政府を攻撃した。

特に『大阪朝日』は帝国の威信を傷つける「屈辱の和約」である。小村全権は「努力を怠り違算を致して、この屈辱に甘んぜんとす」。このような条件で講和条約を蹄結するのは陛下の「聖意に非ざる」ものであり、「和議の破棄を命じ給はんことを請い奉る」と社説を掲載した。

また、『萬朝報』も社説で、「帝国の光栄を抹殺し、戦勝国の顔に泥を塗りたるは我が全権なり、国民は断じて帰朝を迎ふることなかれ。これを迎えるには弔旗を以てせよ」など書き立てた。そして、講和問題同志連合会長の元衆議院議長の河野広中は、小村全権に「閣下の議定せる講和条約は、君国の大事を誤りたるものと認む。すみやか処決して罪を上下に謝せよ」と打電し、満州軍には進撃せよと打電した•。

八月初旬の満州における日露の戦力比は、日本軍二五ヶ師団に対しロシア軍は四九ヶ師団と二倍の兵力差となっており、さらに第二一軍団、第二二軍団の到着も予想されていた。

だが実情を知らない無知な群衆は、九月五日の対露同志会など数団体の講和問題国民同志連合会の日比谷集会の後、内務大臣嘉や外務省、講和会議の仲介をしたアメリカ大使館などを襲撃し、教会一三カ所を焼打し破壊した。警官と群集の衡突は三〇数回を数え、 死者一七名、負傷者五〇〇余名を出した日比谷事件を起こしてしまった。この不祥事件がアメリ力に伝わると、アメリカの新聞は次のように批判した。

日本は異教徒の国であるが、たとえ宗教が異なっていても、神に祈りを捧げる神聖な場所を焼き払い、破壊するのは人間ではないことを示す何よりの証拠である」。「日本人は戦争中、見事な秩序と団結で輝かしい勝利を得た。彼等は人道と文明のために 戦い、講和会議の蹄結にもそれを感じさせた。しかし、東京騒動は日本人が常にロにしていた人道と文明のためという言葉が、偽りであることを明らかにした。彼等は黄色い野蛮人にすぎない。

このように日比谷騒動はアメリカを失望させ、アメリカの日露戦争中の親日的世論を一転させた。特に教会を破壊したことが、アメリカ人に日露戦争がキリスト教徒と異教徒、白色人種と黄色人種の戦争であるとの人種論的な感情を高め、今までの日本に対する同情的態度を一変させ、人種差別問題、カリフォルニアの排日土地所有禁止法案へと連なる遠因を与えてしまった。

一方、国内では世界の大局を説き妄動を戒め、「今や吾人は戦勝の結果として、平和条約においてその目的を達したり」。「この度の講和条約にて、わが主義は完舍貫徹し、我々は戦勝の効果を遺憾なく発揮したり」と書いた國民新聞社は、民衆の怒りを受け焼打ちされてしまった。

P.80~85

2戦争は避けられたか

日露戦争は日本の奇襲で幕が落とされ、学者の中には日本が大陸進出のために開戦に踏み切ったとの説も散見される。また、未だ交渉の余地があり、ロシアが回答を送ろうとしていたのに、早々に開戦に踏み切ってしまったと主張する論者もいる。確かにウィッテの回想録やその後に公開された文書などを読むと、ロシアにも戦争を回避しようとの議論があり開戦は避けられたかもしれなかった。

だか、それは恫喝すれば日本が要望に屈すると考えたからであり、極東に充分な兵力を展開するまでの一時的な期間ではなかったか。日本から宣戦布告は発せられたが、それはロシアの増援兵力が展開される前にしか勝算がないという追い詰められた軍事力の格差の増大にあった。日本が大陸に進出したのは日.露戦争に勝ったからであり、勝つか負けるか分か!らない戦争に、そんな悠長なことを言っていられなかったのが実情ではなかったか。『原敬日記(一九〇四年二月五日)』には、伊藤博文、井上馨、一 般国民、特に実業家は「戦争を嫌うも表面に之を唱える勇気なし」と書かれており戦争を望んでいなかった。当時の陸軍内部でも中佐、少佐の中堅幹部は悲憤慷慨の余り、開戦を強硬に主張したものもいたが、高級将校、すなわち将官以上の者は「斯く申しては如何かと存じますが」、ロシア対して「到底戦争は出来ない」と云う主義の人が多かった。

また、さらに当時の陸軍の中にはロシア崇拝者がおり、ロシアと戦争するのは、卵を以て岩石にぶっつかる様なものであると反対する者もいた。確かに「七博士が熱心なる開戦論者でありました。……しかし、民間の世論は七分三分であり」、参謀総長の大山巌はロ シアとの戦争について「何ら所見を発表することなく」、参謀次長の田村怡与造中将は 「真に開戦の意図なく、満州問題を利用して軍備の充実を謀らんとするに過ぎず」であったと、当時の参謀本部員の福田雅太郎少佐(のち大将)は後に語っている。

もし日本が戦わなかったら、あるいは敗北していたらば朝鮮半島はロシア領になり、日本も最貧国に転落したのではなかったか。ウラジミール•ラムズドルフ外相は伊藤博文に会う直前に、駐露ドイツ大使フレドリック・E •アルベンスレーベンに次のように語っていた。

「われわれは中立の朝鮮を必要とする。もし中立の提案が日本の気に入らないならばこの表現はやめるが、現実の事態はそうする。われわれが決して日本に朝鮮を与えないことは確実だということを日本は理解すべきである。もし朝鮮が自由でなければわれわれの極東における全戦略が脅かされるからだ。朝鮮における日本の経済活動などは心配してしないが、旅順からウラジオストクに至るルートの障礙はなくしておきたい。もし日本がこれに同意しなければ、海陸における戦闘という犠牲を払わねばならない」。

ニコライ皇帝はプロイセンのハインリヒ親王に、「日本が朝鮮に確固たる地歩を占めようとするならば、それはロシアにとって開戦理由となる。日本が朝鮮で地歩を確立することは、極東に新しい海峡問題(ダーダネルス海峡)を作り出すのと同じ意味になるので決して許容しない」と語った。ウイッテ外相は開戦半年後の一九〇五年六月下句に、チヤールス・ハ—デイング駐露英国大使に「ロシア軍による満州占領以来、あの地方は実際上ロシアの保護領となった。統治は現実にロシアの手中にあり、ロシアは問題となっている一切の事業と特権に関する優先権を獲得した。他の諸国が同等の立場をえようと期待しても不可能である。……満州からの撤兵条約が清国と締結されたとはいえ、これを実施するまじめな意向はこれまで決してなかった。日本がロシアと戦争に入ったのが、満州における平等な待遇の要求であったが、戦勝の際に皇帝がこれらの点で譲歩するつもりはなさそうだと私は考える。〔戦勝の場合の日本への平和条件〕は満州及び朝鮮の併合の問題の他に、日本から戦闘力を奪わなければならないとの見解に一致している。それは日本に対する艦 隊所有禁止であり、さらに黄海における優越を維持するために旅順に加えて、鴨緑江の江ロの竜岩浦に築城し前哨を確保し、さらに朝鮮海峡を制することが必要となるであろう。 また敗北した日本から充分の賠償を得ることは事実上不可能であり、韓国が経済上無価値なことを考慮すれば、この戦争から得るべきロシアの唯一の具体的な賠償は満州の併合であるかに思われる」と語っていた。

このように、ロシアは日本の要求には何も譲る気はなかったのである。しかし、ウイッテは日本の同盟国のイギリスに、なぜこのようなことを言ったのであろうか。それは日本の敗北を前提とし、講和会議で日本に要求すべき項目や、その程度についてイギリスに探りを入れたのである。 .

3大韓帝国の併合と列強の対応

次に当時の韓国に対する列強の対応をみてみよう。アメリカのホーラス・N ・アレン駐韓公使は在韓宣教師出身で、韓国宮廷や要人にアメリカに支援を求めるよう画策し、一九〇三年に帰国した時にはセオドア・ルーズベルト大統領を親韓•反日にしようと試みた人物であった。

だが、「韓廷の腐敗と陰謀による幻滅を経験」したためであろうか、日露戦争の始まる直前の一九〇四年一月四日にはセオド・ロックヒル国務長官に「米国が感情上の理由から韓国の独立について支援するならば、米国は大きな誤りを犯すであろうと私は信ずる。 韓国民は自己を治めえない。私は熱狂的な親日派ではないが、久しい征服の権利と伝統とによって韓国は日本に所属すべきものと考える。わが政府が日本をして徒らにこの仮構の独立を持続させようと試みるならば、誤りを犯すことになるだろう」一九〇四年一月四日付ロックヒル宛アレン発)との電報を発していた。

一方、ロックヒルからは「韓国の独立を支援するために、わが政府がその勢力を行使するいかなる見込も看取しえない」(一九〇四年一月四日付アレン宛ロックヒル発)。日本の「韓国併合は日本帝国の西方への伸展の大規模、かつ最終の措置として絶対に示されていると私には思われる。それが発生する時には、それは韓国民にとっても極東の平和にとってもより良いであろうと私は考える」(一九〇四年二月ニ○日付アレン宛ロックヒル発)などの電報が打たれていた。

また、ルーズベルト大統領も一九〇五年一月 一四日には、高平小五郎駐米公使に「余ノ見ル所ヲ以テスレバ、日本ハ韓国ヲ日本の勢力範囲ニ置クノ権利アリト信ズル」と語ったが、二八日にはジョン・ミルトン・ヘイ国務長官にも「我々は恐らく韓国のために、日本に対抗して干渉しえない。韓国人は自らの防衛のために一撃をも揮えなかった」との書簡を送り、二月六日にはマイヤー駐伊大使に「若し平和が今到来するならば、日本は朝鮮を保護国とすべきである。(朝鮮は自立しうる能力が全くないことを示してきた)」と書き送っていた。

さらに、ルーズベルトは、反日的志向のあったアレン公使を辞めさせ、後任にエドワー ド・V •モルガン公使を起用した。そして、一九〇五年三月ニ〇日にサンズを後任にと有力筋から「強イラレタ」が、サンズは日本に対する「同情ニ於テ稍欠クル処アルヲ以テ」、 これを「捨テ」、モルガンを任命した。モルガンには「日本ノ官憲ト絶エズ密接ナル関係ヲ保チ、日本ノ政策トー致スル行動ヲ探ルべキ旨ヲ以テセリ」と高平公使に伝えた。このようなアメリ力の反応を見た日本は、一九〇四年二月二三日に日韓議定書を強引に調印させ日本の保護下に置き、外交•軍事事項を取り上げた。日本が欧米諸国に説明した理由は、 「韓国当事者は誠心誠意国家のために慮るものなく、あるは黄白(金銭)あるいは自家の権勢維持のためには、いかなる約束もあえてするものにして、殊に宮中はこれら陰謀の淵藪なるが故に、もし外政を為すがままに一任せんには、闇黒裡いかなる危険なる事態の成立を見るやも料かるべからず」ということであった。

さらに、日本は一九〇五年七月に蹄結された桂・タフト協定、八月に更新された第二次日英同盟の改定、一九〇七年六月の日仏協商と同年七月の日露協商などにより、英米仏露などから日本の韓国に対する保護権を確立した。なお、アメリカは一九〇五年一一月には西欧諸国で最初に在韓公使を引き上げた。

大韓帝国の併合に朝鮮各地で抵抗運動が起き、一九〇七年には高宗が欧州に臣下を派遣して日本の不当を訴える「ハーグ密使事件」も起きた。しかし、いずれの国も法律上解決済みであるとして取り上げなかった。総てが韓国の頭越しであり、現在の民族自決、主権平等の世の中では不当なことではあるが、当時は弱小国は国際法の主体として相手にしてもらえなかった時代だったのである。また、当時は中国もルーズべルトが「シナは腐敗と動乱の国だ」。「シナはフィリピン人と同様に自治の能力はない。古代に文明を持ったが、 今では劣等民族だ」。「シナ人を日本人と同じ人種などということは何たる戯言か」とへイ国務長官に語っていたが、これが当時の国際的な中国や韓国観であったのである。

P.95~97

2日本の参戦阻止へのドイツの陰謀

一方、カリブ海やメキシコへの進出でアメリカと対立するドイツは、アメリカの反独世論を反日世論に変えようと、また、アメリカと対立しているメキシコは日本を利用してアメリカを牽制しようと各種の陰謀工作を行っていた。しかし、第一次世界大戦が始まると日本の参戦を阻止するとともに、黄色人種と同盟したイギリスへの反感を高め、アメリカの世論を反英に転じようと、さらに活発な反日キャンペーンを開始した。八月一二日には、 日本の参戦に関して種々伝えられているが、この戦争はヨーロッパの戦争であり、もし日本が参戦し日本の軍艦がアメリカ近海に出現することになれば、アメリ力の安全上から無視できないであろうとのサンフランシスコのドイツ領事の自署の一文が新聞に掲載された。

また、アメリ力の新聞は日米戦争の勝敗はメキシコにおける勢力の消長如何にあり・・・メキシコにおける両国の角逐はその「勝負ノ分岐点ナリトス」と論じた。さらにハースト系新聞はビクトリアノ •ウエルタ大統領がアメリカに反抗するのはメキシコ軍の中に、 日露戦争に参加した多数のベテラン日本兵が従軍し、メキシコ軍を指揮しているからであると報じていた。

いかに日米開戦のうわさが流布していたかは、ニユーヨークの日本協会が、アメリカは日本商品の主要輸出先で全輸出の三分の一が向けられている。日本の国力は貧弱であり、さらに現在多額の負債を抱えている。日米間には四五〇〇マイルの距離があり、しかも中間に補給基地がないなどと、経済的にも技術的にも日本がアメリカに戦争を仕掛けることなどはありえない、との「日米開戦不可能の理由一一項目」を新聞広告に出さなければならなかったことでも理解できるであろう。

このような状況のなかで、一九一七年一月にはドイツ外務大臣アルトゥール・チインメルマンから、メキシコ駐在ドイツ大使に宛てた電報が、アメリカの新聞に大きく掲載され 対日猜疑心をさらに高めた。この電報はアメリカが参戦するならば、ドイツはメキシコと 同盟しドイツが勝利した暁には、米墨戦争でアメリカに奪われたテキサスやアリゾナなどを返還させる。また、メキシコにドイツと日本の仲裁と日本の対米戦争への参戦を説得せよとの内容であった。

この電報がアメリカの対日不信感を髙め日米に深い亀裂を生んだ。一九七年には農務次官プルマンが、アメリカがメキシコに対して強圧的手段を講じられないのは、メキシコ軍に多数の日本の退役軍人がいるからであると発言し、議会でも下院共和党党首マンが陸軍予算の説明に、プルマン次官の発言を引用して対日脅威を煽るなど、海軍のみならず陸軍の兵力増強にも日本の脅威が利用されたのであった。

P.122~126

2日中共同防衛思想の萌芽

蛮狄小邦と蔑視する日本に日清戦争で敗北し、台湾を領有された中国人は反日感情を高めたが、日本がロシアを破り日本のエ業化が進むと、日本に対する視察団や留学生の派遣、 艦艇の発注がはじまった。一九〇三年二月には揚子江警備用の江元級砲艦四隻、一九〇四年には浅底砲艦楚秦級六隻と水雷艇四隻が川崎造船所に発注され、これら艦廷は一九〇六年から八年かけて引き渡されるなど、アメリ力における排日法案などの人種差別問題で日米関係が緊迫すると日中関係は緊密化した。

一九一四年八月に山縣有朋は「対支政策意見書」を提出し、将来の人種戦争を予想し中国との連携強化の必要性を説いたが、陸軍部内では二月下旬に陸軍省兵器局長筑紫熊七大佐により日本が中国に武器を供給する代わりに、中国は原料を日本に優先的に供給することを骨子とした「帝国中華民国兵器同盟策」を脱稿し、失敗に終わったが具体的交渉を開始していた。次いで第一次世界大戦が劫発すると、八月七日には欧州の禍乱が極東に波及する場合に備え、日中が共同して防衛態勢を整備すべきであると、中国軍の改革と日中両軍の兵器統一を実現しようとの「日支協約要領」が、再び陸軍参謀本部第二部長福田雅太郎少将から提出された。

一九一六年一〇月に寺内内閣が成立し袁世凱が死去し、親日派の段祺瑞が首相となると、 ロシアの革命勢力が「漸次極東ニ波及セントスル」危機を背景に、日支提携の強化の流れが強まり、特に一九一七年一二月の連合国会議でフヱルディナン•フォッシユ元帥が、ドイツの支援を受けたロシアの革命勢力のシベリア方面への進出を阻止すべきであると提案すると、段首相は林董公使に「日本ト提携スルコト出来レバ『ウラル』以東、西比利亜地方一帯ハ日支両国ニテ自由ニ処分スルコト然程難事ニアラザルべシ」などと語り、武器援助を申し出てきた。しかし、日本は複雑な中国情勢や輪出した武器で南方派の孫文などを攻撃することを危惧し決めかねていた。

しかし、段政権の脆弱性やロシア革命の影響を受け、一九一八年一月の閣議で段内閣を支援し、資金不足からアメリカに頼る事態を阻止しよぅと、多量の武器と西原借款と呼ばれる多額の借款を与えることになった。このように第一次世界大戦、ロシア革命の勃発、連合国のシベリア出兵が日中を急速に結び付け、一九一八年五月一六日の日華陸軍共同防敵軍事協定、一九日の日華海軍共同防敵軍事協定調印へと進んだ。

さらに、太平洋から日米共通の敵ドイツが消え、アメリカが日本を対象に大規模な海軍軍備の増強を始めると、駐華海軍武官の八角三郎中佐などにより中国海軍を育成強化し、 中国と提携してアメリカに対処しようとの動きが生まれた。一九一八年七月にアメリカのべツレへム製鋼が江南造船所を担保として多額の借款を与えるとの情報(中米海軍借款協約)に、アメリカが「支那沿岸、特ニ上海ノ如キ枢要地点ニ戦時之ヲ利用シ得ヘキ造船所ヲ其勢力下ニ置クカ如キ」は、戦時に「米ノ軍港ヲ我最短距離ノ地ニ現出セシ得ルト同一影響ヲ来スへク、実二直接累ヲ我国防ニ及ホス恐アリ」と、日本海軍の危機感を高めた。 そして、一九二〇年には川崎造船所の東京支社長岡田晋太郎が北京に派遣され、借款総額五〇〇万円、年利九分で中国に造船所を造る交渉が成立するかに見えた。だが、日中提携の夢は川崎造船所の経済的破綻、中国の内戦による混乱や反日運動の高まりなどから実を結ばなかった。

3総力戦認識と中国資源への着目

短期で終結すると予想された戦争が長期化し、さらにアメリカが参戦し軍需用鉄材を確保するために鉄材などの輸出制限を行うと、日本の工業界、特に造船界は大きな打撃を受けた。雑誌『大日本』には「日本は知識、支那は原料」の「日支軍事エ業同盟論』が掲載された。陸軍参謀本部の兵要地誌班では小磯国昭中佐を中心に『帝国国防資源』がまとめられ、「欧州戦ノ与へタル国防上ノ戦訓」として、「原料ト云フモノハ成ルべク近イ地区ニ於テ充分ニ得ル方策ヲ確立スルノガ、日本ノ経済政策トシテハ最モ急務デアリマス」。この点で「我々ハ実ニ天与ノ好地位ニ在リマス。対岸ノ支那、西比利亜ト云フ畑ニハ甚ダ近イ」と、大陸資源確保の重要性が強く認識されるに至った。第一次世界大戦勃発一力月前の一九一四年六月の貴族院予算委員会で、八代六郎海相は 「財政状態ノ許ササル今日」、「最小限度ノ国防力トハ他国ヲ侵略スルノ意ヲ有サス、仮想敵ヲ設ケス、単ニ護国ノ任ヲ尽シ得ル力ヲ言フ」としていた。

だが、一九一八年一一月九日のウィルソンの一四ヵ条問題を検討した外交調査会で、加藤友三郎海相は「帝国ハ所謂自給自足ノ国ニ在ラス。平時戦時ヲ問ハス物資ヲ海外ニ仰カサルへカラサルノ実情」にあるので、海洋白由の原則に賛同することを利益とする。しかし、アメリカとの戦争の場合には物資を中国大陸に依存せざるをえないので、「南部支那厦門付近ヨリ台湾南端ニ亙リ一線を劃し、この線より台湾•琉球諸島を経て九州南端に至る線内の海面の「海上権ヲ確立スルヲ得ハ、支那大陸ト連絡ヲ維持スルヲ得テ戦略物資ノ持久可能ナルべシ」と、海軍は総力戦認識や中国大陸への日本企業の進出増加、日米対立の顕在化などにより、国防の範囲を単に「護国ノ任」の日本周辺海域から、「妙クモ東亜海面ノ管制」へと拡大した。

その後、一九二九年に軍令部長が加藤寛治大将になると、アメリカが「『モンロー』主義及支那ニ於ケル門戸開放主義」を「国策中最モ重要ナルモノ」とし、また、アメリカが現状ノ如キ法外ナル繁栄ヲ持続セントセパ、世界ニ向テ大々的二市場ト資源トヲ求メサルベカラズ」。アメリカは国策擁護を任務とするマハン流の「攻勢的海軍」を整備しつつあり、「支那市場ヲ開拓センガ為ニハ手段ノ如何ヲ選パザル」傾向にある現状に鑑み、日本の大陸政策は重大な脅威にさらされている。「日米海軍の争覇戦」の真の原因は、「支那ノ資源ト市場」をめぐる「経済戦」である。

日米海軍軍縮問題も、シンガポール軍備増強問題も、ハワイの軍事施設の増強も、アメリカの「赤裸々の心理を解剖しますれば、悉く日本の死活問題に関する極東一帯の支配権、とりわけ対中帝国主義の争覇戦の利を先制せんとするの準備に外ならぬ」。「太平洋を知らずして支那を論ずること能わず。支那を知らずして太平洋上に日米海軍競争の起きる所以を理解すること能わず」と、中国間題は日米問題であると強く主張するに至った。このように日米関係の悪化と海軍の総力戦認識の高まりが、日中共同の相互防衛協力と自給自足へと進み、それまで陸軍の北進、海軍の南進であった日本の針路を南北並進に変えた。

P.185~186

7日本敵視の危険を指摘したマクマレー

一九ニ五年から 一九二九年まで駐華公使を経験し中国関係の条約集を編纂するなど、当時のアメリカの中国通の第一人者といわれていたジヨン・V・A・マクマレーは、クローデルが報告した一四年後の一九三五年に、国務省極東部長スタンリー• K •ホーンベックに「極東における米国の政策に影響を及ぽしつつある諸動向」という文書を提出した。マクマレーはワシントン会議以来の極東情勢とアメリカの政策を振り返り、ワシントン体制が崩壊した理由を分析し次のように進言した。

ワシントン体制を崩壊させたのは日本ではなく、中国及びアメリカを先頭とする欧米列強である。中国は国内の諸勢力がナショナリズムを自らの勢力延長の手段として、不平等な国際条約を無視し、破棄してワシントン体制の存続を危なくした。アメリカは中国に死活的利益を持っていなかったが、いたずらに中国のナショナリズムへの迎合を繰り返し、ワシントン体制を崩壊に導いた。……国際法や条約は各国が順守し、その変更はルールに則とって行われなければ安定した国際社会を築くことは不可能である。関税主権の回復や治外法権の撤廃のためであれ、領土保全のためであれ、ナショナリズムをロにして国際法や条約を蹂躅することは許されない。……中国やアメリカなどの西欧諸国が、国際法や条約を順守する立場に立たない限り、日本は今後ますます追い詰められ、日米戦争に至ることは必然である。

このように、マクマレーはワシントン会議以降に諸条約を無視した中国の政策と、それに迎合したアメリカの政策を批判し、極東に於ける唯一の安定した国家である日本を敵視することなく協調すべきであると、日本を敵視する危険を指摘した。しかし、この報告書は親中国派のホーンべックには影響を与えなかった。

確かに、歴史的にみればワシントン体制の崩壊を決定付けたのは満州事変であり、日本の中国への侵略行為であった。しかし、日本がそのような行為に走ってしまったのは、クローデル大使も指摘するとおり、「相続人不在」の「未開発で無防備」な中国の存在と、中国のワシントン体制を無視する過激なナショナリズムにあったことを否定することはできないのではないか

10/8日経ビジネスオンライン 長尾賢『日米印航空共同演習が日本の重要性を上げる!』について

第二次大戦の日本の敗北は同盟相手国を間違えたことに尽きます。事情はあったにせよ、ドイツと手を結んだことは大間違いでした。ユダヤ人虐殺を平気でする国とですから、後から見れば何たるヘマをしたことかと思わざるを得ません。ユネスコは南京虐殺の記憶遺産申請を認めたとのこと。金で転ばせたのでしょう。事実は分かっていないことが多く、少なくとも中国のいう数字の30万人はデタラメでしょう。当時の南京の人口は20万しかいないのにどうして30万も殺せるのか、遺体処理をどうしたのか、中国人は説明責任があると思います。またまた無能の外務省のやらかしたことですが。昨日、天安門事件の記憶遺産申請に賛成しました。

https://www.change.org/p/%E3%83%A6%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%82%B3-%E5%A4%A9%E5%AE%89%E9%96%80%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E3%83%A6%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%82%B3%E8%A8%98%E6%86%B6%E9%81%BA%E7%94%A3%E7%99%BB%E9%8C%B2%E3%81%B8?tk=iqwRVMXcym2XoX_BBicSvO1FLlTAxHWlMdKQZOI3X_U&utm_medium=email&utm_source=signature_receipt&utm_campaign=new_signature

外国が申請できるのかどうか分かりませんが、国際世論を巻き込むことは良いことでしょう。中国は三戦を使って日本と既に戦争を仕掛けているという事です。実際の戦闘行為ではなく、国際世論に「南京虐殺」(事実ではありませんが)を認めさせ、日本は道徳的に劣った民族と言うのを世界に刷り込もうとしている訳です。世論戦で日本は負けてばかり。外務省と中韓に味方するメデイア、それを購読するという形でサポートする国民と負ける条件が揃いすぎです。

インドと手を組むのは非常にいいことと思います。アフターブ・セット元駐日インド大使と飲んだ時にも「インドと日本は仲良くなれる。過去の歴史を見ても争ったことはないし」とのことでした。ラス・ビハリー・ボースやチャンドラ・ボースと日本との付き合いもありました。日本となじみの深い仏教発祥の国でもあります。何より、近い将来人口で中国を抜いて世界一になりますし、米国でのCEOやシリコンバレーで活躍するインド人は多いです。日本製の武器を使って貰って中国を牽制することができれば言うことなしです。飛行機だけでなく、潜水艦も日本製は優秀ですから、インド洋に出て来る中国海軍を牽制できるようになります。日米印での合同演習を早期に実現させたいです。

記事

9月末、日米印3カ国の外相会談が行われた。初めてのことだ。この10月には日米印海上共同演習も実施される。さらに、来年にはインドで日米豪印中韓ロとASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する10カ国すべてが参加する共同演習を実施する予定だ(注1)。それぞれ日本の海上自衛隊と、陸上自衛隊が関わる演習になる模様である。

 こうなれば、次に注目されるのは航空自衛隊の動きだ。中国のメディアが、日印による航空共同演習の可能性を報じている(注2)。中国は気にしているようだ。これまで日印間では、航空自衛隊とインド空軍との間で輸送機部隊の交流、テストパイロットの交流などを実施することで合意している。もし日印間で航空共同演習が始まるなら、それはとても意義あるものになろう。

 具体的にどのような意義があるのか、それは日本の国益にどうかかわるのだろうか。本稿で検証する。

(注1)“US, China to be part of Indian Army’s largest joint drill in Pune next year”, (The Economic Times, 27 Sep, 2015)

(注2)“Indo-Japan defence ties ‘dangerous’ for Asia: Chinese expert” (The Economic Times, (The Economic Times, 5 Aug 2015)

対中戦略上有効

 日印で空軍連携することは日本にとってどのような利益があるのだろうか。少なくとも3つ考えられる。戦略上の利益と、戦術上の利益、そして武器輸出上の利益だ。

 まず戦略上の利益について。日印が航空共同演習をすることは、特に対中戦略上の利益がある。中国を対象とした空軍のミリタリーバランスに、影響を与えるからだ。

 最近の中国軍の動向をみると、海空戦力の近代化が中心になっている。そのため、中国軍の新型戦闘機の数は、2000年の125機から2015年の1000機弱にまで増加している(注3)。同じ定義に基づけば、日本は170機から300機弱になっただけだ。この数字からわかるのは、年々、日本だけで中国空軍と対峙するのは大変になりつつあること。そして、将来はもっと大変になることだ。

 そうなるとまず、日米同盟の重要性が高まる。しかし、それだけでは不十分かもしれない。米国のランド研究所の分析では、中国は弾道ミサイルを使って沖縄の嘉手納基地を16〜43日の間、使用できない状態にすることができる(注4)。短期決戦なら、中国は米国の動きを封じることができるのだ。中国はこのようなミリタリーバランスを背景に、強気の外交を展開してくるだろう。

(注3) 本稿において「新型戦闘機」とは、主に1980年代以降に配備された戦闘機を指す。日本のF-15とF-2、中国のSu-27、Su-30、J-10、J-11、JH-7を対象としてInternational Institute for Strategic Studies, The Military Balanceを用いて数えた。

(注4)Eric Heginbotham, Michael Nixon, Forrest E. Morgan, Jacob Heim, Jeff Hagen, Sheng Li, Jeffrey Engstrom, Martin C. Libicki, Paul DeLuca, David A. Shlapak, David R. Frelinger, Burgess Laird, Kyle Brady, Lyle J. Morris, “Chinese Attacks on Air Bases in Asia: An Assessment of Relative Capabilities, 1996-2017” (Rand Cooperation, 2015)

そこで日印連携が重要になる。インドも中国空軍の近代化を懸念しており、中国との国境付近にある空軍基地を近代化し、新型戦闘機の配備を進めている。日印で連携して中国に当たれば、中国空軍は二方向に分割して対応せざるをえなくなる。日印双方にとって、ミリタリーバランス上の利益が大きい(参考記事:日印空軍連携で日本の航空戦力が変わる)。

 しかもインドは経済発展しているから、将来は、より多くの新型戦闘機を展開することが可能だ。今後、中国の新型戦闘機の数がもっと増えていったとしても、インドの新型戦闘機も増えていく。日本にとって魅力ある連携先だ(図参照)。

図:インドの新型戦闘機飛行隊の配備位置

India air force

 

 

 

 

 

 

 

※青字に白い文字は配備済。白地に黒文字は計画中。インドは800機近い新型戦闘機を整備中で、結果、新規に戦闘機が配備される基地も増えつつあることがわかる。筆者作成。

(白地図:http://www.sekaichizu.jp/)

ロシア・中国機との戦い方を学ぶ

 二つ目は戦術上の利益だ。航空自衛隊は米国で開発された戦闘機を主力にしている。一方インド側は旧ソ連・ロシアで開発された戦闘機が主力だ。だから日本とインドの戦闘機が共同演習をすれば、日本は、ロシアの戦闘機とどう戦うか、学ぶことができる。

 中国の新型戦闘機もロシアで開発された戦闘機である。だから、ロシアの戦闘機との戦い方を学ぶ作業は、中国の戦闘機との戦い方を学ぶ作業でもある。

 実はこの利点は、他の国も高く評価している。すでに米国も、英国も、フランスも、インドとの間で戦闘機を使った共同演習を継続して行っている。こうすることでロシア戦闘機とどう戦うか、技能を高めることができる利点があるのだ。ロシアはこのことを懸念していて、インドに、他の国との共同演習ではロシア製レーダーを使わないよう要請している。インドはその約束を守っているようだ。

 しかし、レーダーだけ止めても、インドと共同演習した国は、ロシア機に関する情報をたくさん入手できる。実際に共同演習をすれば、近くで見て、パイロットから話を聞き、一緒に飛び、模擬空中戦をする。どのような条件の空で、どのような空中機動をみせることができるのか、整備がどれほど大変か、などなど、ロシア機の性能に関する情報がたくさん入ってくる。だから共同演習を行う戦術上の意義は大きい。

相手のニーズを把握し装備品を紹介できる

 三つ目は武器輸出上の利益だ。今、日本とインドは、インド海軍向けに救難飛行艇を輸出する案件について協議を行っている。日印が連携を深めるには同じ装備を持つことが利益になるからだ。武器は高度なものなのに乱暴に扱わざるをえないから、すぐ壊れてしまう。専属の整備部隊が常に整備・修理して使うものだ。だから、一度装備を購入すると、継続的に修理部品を購入することになり、売り手と買い手の関係は長期的なものになる。そこで日本は救難飛行艇を輸出して日印間の連携を深めたいのだ。インドも、日本との関係を強化する観点から、防衛装備品の購入に熱心だ。

 だが、日本はインドが他に何を必要としているか、十分把握できていない。日本では10月1日にようやく防衛装備庁が発足したばかりだ。日本の武器輸出はまだ始まったばかりという印象である。しかも、実はインドの方も、日本がどのような装備をもっているのか、十分把握できていない状況だ。

 そこで、共同演習のような機会が必要となる。航空自衛隊とインド空軍が戦闘機などを使って共同演習をすれば、戦闘機そのものだけでなく、戦闘機を運用するための気象や航空管制、整備まで含めいろいろな支援組織も演習に関わる。いろいろな支援組織の装備も同時に演習に加えることが可能だ。インドで共同演習を行えば、インド空軍がどのような装備を必要としているか、ニーズがわかる。日本で行えば、提供可能な日本の装備をインド側に見てもらうことができる。武器輸出が成功して、日印連携が深まる近道になるのだ。

日米印で航空共同演習をしよう

 上記のように、日印の航空共同演習は、対中戦略上、航空戦術上、武器輸出による連携強化の観点からも日本の国益になる。だから日本のためにやるべきだ。問題があるとすれば、それは、今回が初めてなので、いろいろわからないことが多い点だろう。航空自衛隊とインド空軍の間で戦闘機を使った連携があるかと問われれば、2004年に米国のアラスカで行われた米印合同軍事演習に参加するインド空軍の戦闘機が、急きょ、航空自衛隊の基地に着陸して給油した例があるくらいだ。あまり関係が深いとは言えない。

 そこで、すでにインドと連携している第三国の力を得て実施することも検討課題に含めるべきだろう。米印空軍は2004年と2008年の2回、共同軍事演習を実施している。英国は4回、フランスも5回、インドと戦闘機同士の共同訓練をしている。これらの国を交えた3カ国で空軍演習できるのではないか。インド国内に空軍の施設を借りているシンガポール空軍との連携も考えられる(参照記事:シンガポールに学ぶインドとの防衛協力強化)。日本には連携できる友好国が多いのだから、利用しない手はない。

 特に米国との連携が最も手軽と推測される。航空自衛隊はすでに米豪空軍と3カ国共同演習を実施しているからだ。次は米印空軍の共同演習に日本が加わる形での企画を考え、日本から積極的に米印に働きかけてもよいのではないか。日米印の連携を同時に深めることで日本は、現時点で世界最強の国(米国)との同盟関係を深めつつ、将来性のある大国(インド)とも連携を作れることになる。それは結局、世界における日本の重要性を上げることにつながるのである。

10/8日経ビジネスオンライン 森英輔『TPP合意を受け、中国は日中韓FTAを加速させる 中国経済の今後を占う9月の輸出統計』について

エリートと言うのは上の人間としか付き合わないから、下々の考え、行動が理解できないのではと思います。いつも言っていますように中国人の基本的価値観は「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」です。そういう社会で上に上り詰めるには何度も裏切りや過酷なことをしないとダメです。胡錦濤が鄧小平に見出されたのもチベット弾圧の技量を見込んでのことです。言って見れば、保身の才を身につけた知能犯のヤクザが上になっていると見た方が良い。下はもっと目に見えるように荒っぽい。小生は中国駐在8年間で下のそういう人たちと付き合ってきました。

李克強インデックスは時代に合わないと言いますが、では「信頼できる数字を出してくれ」と言いたい。信頼できる数字が出ないから、李克強インデックスを使って中国経済を評価しているのです。高橋洋一は李克強インデックスを使って、中国のGDPは▲3%と推定しました。投資判断するときに嘘の数字を基にはしないでしょう。自分のお金を預けるときにはより正確な数字を求めるハズです。瀬口氏の言い方は投資判断を誤らせます。以前の日経新聞と同じで、あれだけ中国進出を煽っていましたが、今は流石におとなしくなっています。それはそうでしょう。実体経済が悪くなっていますので。まあ、平気で嘘をつけるのが民族の特性なので、デタラメな数字を出すのは当り前なのでしょう。大躍進時に嘘の数字を上に出したため餓死者が数千万人単位で出たとのこと。こんなことが平気でできる国です。もっと歴史を勉強した方が良い。それと下々の人とも付き合うことです。

TPPは米国議会で批准されるかどうかですが、ヒラリーは「現時点では不支持」と言っています。選挙対策なのでしょうけど、「三百代言」の厭らしさが目につきます。米国はウイルソン大統領の推進していた国際連盟も批准しなかった前例がありますので、何とも言えませんが、TPPが中国の経済的封じ込めを目指すのであれば、共和党は乗るのではと思っています。日中韓のFTAなんて急いでやる必要はありません。騙されるのがオチです。今までもレアメタル(中国)や農水産物(韓国)で煮え湯を飲まされてきたではないですか。騙すのが国技の2ケ国と付き合っても碌なことにはなりません。「非中三原則」「非韓三原則」で行くべきです。

記事

5年にわたって協議が続けられてきたTPP(環太平洋経済連携協定)が10月5日、ついに大筋の合意に達した。これは中国にどのような意味を持つのか。6月の株価急落、8月の人民元安を経て、中国経済に対する懸念が高まっている。中国経済は今後、いかなる経過をたどるのか。長年、中国をウォッチしている、キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之・研究主幹に聞いた。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)氏

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1982年、東京大学経済学部を卒業し、日本銀行に入行。2004年、米国ランド研究所に派遣(International Visiting Fellow)。2006年に北京事務所長、2008年に国際局企画役。2009年からキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。2010年、アジアブリッジを設立し代表取締役。

—TPP交渉がついに大筋合意に達しました。中国はTPPをどのように見ているのでしょう。

瀬口:中国はこれを中国包囲網と見ています。それも単なる経済的な協定ではなく、安全保障にも関わる取り組みと見て危機感を高めています。中国が展開しようとしているアジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路構想はTPPに対抗するものと言えるでしょう。

—TPPが中国の安全保障にも関わるというのはどういう意味ですか。

瀬口:経済的な関係の強化が安全保障上の関係の深化につながるからです。例えば南シナ海で、中国はベトナムと領有権紛争を抱えて対立しています。しかし、両国間の貿易が増え、経済的な関係が強まれば、安全保障上の対立を緩和させることが期待できます。ところが、TPPによってベトナムと米国との経済関係が強くなると、こうした思惑が実現しづらくなる。

 同様の思惑が米国にもあります。米国は西太平洋において日本やオーストラリアと安全保障上の強い関係を築いています。TPPによって経済関係を深めることで、この安全保障上の関係を補強したいと考えているのです。中国は、米国がTPPによって西太平洋の同盟国及びその予備軍、中国と紛争を抱える国々との経済関係を強め、それを安全保障上の関係強化につなげることに警戒を強めているわけです。

 中国は、その一環として、日本がこれ以上、米国べったりにならないよう、日中関係を融和の方向に持っていこうとするでしょう。日米関係は今、オバマ政権が発足して以来、最高の状態にあります。安倍政権は4月に日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を改定。9月19日には、安全保障法制を成立させました。オバマ政権は安倍政権による一連の安全保障政策を非常に高く評価しています。そして今回、TPPで合意。安全保障と経済の両面での日米関係強化は、中国にとって大きな脅威になります。

 中国は、TPPへの対抗策として、具体的には日中韓3カ国による自由貿易協定(FTA)交渉を加速させるでしょう。日中韓FTAは日韓関係の融和にもつながる。この意味においても、TPPの合意は大きな意味を持っています。

一帯一路構想はTPPへの対抗策

—一帯一路構想がTPPへの対抗策であるというのは、どういうことでしょう。

瀬口:TPPは太平洋を取り巻く米国主導の経済圏作りです。これに対して一帯一路構想は、中国から欧州に至るユーラシア地域に作る中国主導の経済圏だからです。中国は米国に対抗しうる大国になることを望んでいます。中国が主導して新たな世界秩序を打ち立てたい。この仲間作りを、経済関係をドライバーにして行うのが一帯一路構想だと言えます。中国は軍事的には米国と対抗できないことを分かっています。なので、経済関係を重視している面もあるでしょう。

—一帯一路構想がTPP対抗策であるなら、米国は中国をTPPに入れないつもりでしょうか。

瀬口:いえ、そうではありません。これは短期と中長期に分けて考える必要があります。短期的には、米国は中国を入れないつもりでしょう。国有企業の問題など中国が短期間で克服するのが難しい高いハードルを設けたのはこのためです。これは、先ほど触れたように、西太平洋地域を中心にアジア太平洋の国々との関係をより緊密なものにすることが狙いです。米国が主導する世界秩序形成を経済連携の面から固める。

 しかし、中長期的には中国を受け入れるでしょう。中国の市場規模は無視できません。ただし、米国が主導して作ったTPPのルールに従うなら--という前提付きです。バラク・オバマ米大統領はTPPの大筋合意を受けて「中国のような国に世界経済のルールを作らせるわけにはいかない」と語りました。この発言が米国の考えを如実に表していると言えるでしょう。中国を名指しして、このような発言をしたことには驚きました。習近平国家主席との首脳会談からまだ10日しか経っていませんから。これは最近の米国国内における反中感情の厳しさを物語っていると思います。

将来は人民元を中国経済圏の基軸通貨に

—米国のルールメーカーとしての地位を支えるシステムの一つにドル基軸通貨体制があります。AIIBは、一帯一路構想が想定する中国経済圏において人民元を基軸通貨にするためのツールなのでしょうか。新興国のインフラ開発向けに人民元を融資して、人民元決済を増やしていく。

瀬口:すぐにそこまで進むことはないと思います。例えば人民元建てで入札を行っても、入札しづらい国や企業がある。そうなれば逆に、AIIBの地盤沈下につながってしまいます。

 ただし、一帯一路構想が対象とする地域において人民元の利用が自然に増えることは望んでいると思います。最終的には地域内で人民元を基軸通貨的な存在にすることを思い描いているでしょう。

—中国はIMF(国際通貨基金)の準備資産であるSDR(特別引き出し権)を構成する通貨に、人民元を加えたいと考えています。これは将来、人民元を基軸通貨にするためのステップなのでしょうか。

瀬口:それは言えると思います。ただし、基軸通貨となるためには金利の完全な自由化、為替の完全な自由化、資本移動の完全な自由化の3つを進めることが不可欠です。中国はその方向を目指していますが、まだかなりの時間を要することでしょう。

 6月の株価が暴落した時および8月に人民元が急落した際に、中国政府は市場実勢に逆らう形で大規模な市場介入を行いました。これを念頭に、世界の市場参加者は「中国政府は市場実勢を無視する形で再び大規模介入することがあるかも」と懸念しています。中国政府がこのような不信感を持たれているようでは人民元が基軸通貨の役割を果たすことはできません。中国共産党が一党独裁体制を維持している限り、この懸念を払拭することは難しいかもしれないですね。

中国経済の将来を占う9月の輸出統計

—中国が8月にドル売り元買いの大幅介入を実施したのは、それだけ元安を恐れていたからでしょうか。

瀬口:その通りです。為替市場では元安期待が高まったので、今のうちに人民元をドルに替えておこうという思惑が広がりました。放っておけば、さらなる大幅かつ急速な人民元安を引き起こします。

—事の発端は、中国政府が8月11日に人民元の基準値の決め方を変更し、5%弱の元安を容認したことにありました。

瀬口:そうですね。中国は人民元の地位向上に不可欠である為替自由化の歩みを進める意図で基準値の決め方を変更したのだと思います。中国政府が恣意的に決める方法から、前日の終値に反映された市場実勢を尊重する形で当日の基準値を決定する方式に変えました。しかし、ちょうどこの時期、中国の輸出の伸び率が落ち込んでいました。加えて、基準値の決め方を変更した直後に公表された国内経済指標も予想以上に弱い数字だったので、「元安を誘導し輸出をてこ入れしなければならないほど中国経済は悪化している」との見方が広まってしまったのです。それが、さらなる元安を招いた。

 中国が元安誘導で輸出の拡大を図ったという見方は間違っていると思います。この時の元安はわずか5%ほどです。この程度の元安で輸出を増やすことはできません。日本がアベノミクスの下で50%もの円安に誘導しても日本の輸出が今の状態にあることを考えれば、今回の元安の効果のほどは知れているでしょう。

 私は今後の人民元、そして中国経済の展望を占うものとして、中国が発表する9月分の輸出統計に注目しています。万が一、ドル建ての輸出額が前年同期比で再び6~10%落ち込むようなことがあれば、中国の輸出の先行きに対する不安が高まり、元安の圧力が高まるでしょう。

 そうなれば中国政府はドル売り元買い介入をし、人民元の買い支えを図ることになる。これは外貨準備高の低下につながります。仮に、現在3.5兆ドルある外貨準備高が2兆ドルを切るレベルにまで急速に減少するような事態になれば、中国は現行の管理フロート制をあきらめる道を選ぶかもしれません。

—人民元を買い支えきれなく可能性があるということですね。その先にあるのは、どのような事態でしょう。

瀬口:1つの選択肢として考えられるのは、為替を一気に完全自由化する道です。完全フロート制への移行ですね。そうなれば、人民元のさらなる大幅安が避けられないでしょう。例えば現在1ドル=6元の相場が1ドル=8元になれば、中国は厳しい輸入インフレに陥ります。部品を海外から輸入している製造業など、ローカルコンテンツへの依存度が低い産業は大打撃を受けます。中国と貿易をする外国にも影響が及びます。資源国の中国向け輸出が今以上に減少するでしょう。日本が謳歌している爆買いも影を潜めることになります。

—米国が利上げの時期をさぐっています。もし利上げがあれば、人民元相場にどのような影響があるでしょうか。

瀬口:さらなる人民元安を促すことになるでしょう。米国が量的緩和策の出口政策を年内に実施すれば、一段とドル高に向かうことが予想されます。これに対して人民元が対ドルレートを維持しようとすれば、人民元も連れ高になります。これは中国の輸出競争力をさらに低下させ、輸出の伸び悩みを深刻化させることが懸念されます。

 そこで人民元の対ドルレートを切り下げざるを得ないとの見方が広がれば、人民元売り圧力が一段と高まる可能性があります。

—中国の9月の輸出の伸び率が大幅なマイナスだったら、米国は利上げを見送ることになるのでしょうか。米中は、対立要素を抱えつつ、経済関係を密にしています。米国も中国経済がさらに悪化する事態は望まないでしょう。

瀬口:このあたりの事情は非常に複雑です。まず、小売り大手の米ウォルマートなどの輸入産業は米利上げがもたらす元安を歓迎するでしょう。米国は中国から実に様々なものを輸入しています。元安は、輸入品の価格低下を意味し、米国の物価を安定させる要因になります。

 ただし米国にもリスクがあります。元安で、生産拠点としての中国の魅力が高まると、シェール革命を機に米国内に回帰していた製造業が拠点を中国に移す動きを始めるかもしれないからです。中国からの輸入品の増加と相俟って、米国内の雇用に対するマイナスのインパクトが高まるのは避けられないでしょう。

中国経済が緩やかに成長する条件

—ここからは、中国の実態経済の将来について伺います。6月半ばに株価が暴落した後、8月半ばには元安が追い打ちをかけ、不安視する見方が強まっています。

瀬口:そうですね。株価が暴落して不安が拡大していた時期に人民元が切り下げられ、さらなる株価の下落を招きました。8月に発表された7月分の経済指標が芳しくなかったことも、これに拍車をかけました。

—でも、瀬口さんは、中国景気は今後、成長率が緩やかに回復していくと見ているのですよね。

瀬口:はい。これから挙げる3つの条件を満たせば、中国経済は落ち着きを取り戻すし、市場も安心すると考えています。第1の条件は、先ほどお話しした9月の輸出が前年同期比でプラスになることです。マイナスであっても、せいぜい1~2%減程度に収まること。第2の条件は、9月の経済指標で「工業生産」と「小売総額」、すなわち生産と消費の指標が8月の伸びを上回ることです。第3に、不動産投資の伸び率の低下傾向が年内に反転して回復に向かい始めることです。

 投資の状況を表わす「固定資産投資累計」の伸び率が低下し続けても問題ありません。この伸び率の低下は過剰生産設備の処分が進んでいることを示すからです。

 7~9月期のGDP伸び率について、市場では6.8%前後と見る向きが多いようです。ふたを開けて見なければ分かりませんが、十分にあり得る数字だと思います。しかし、「李克強インデックス」を基に、実態のGDP成長率は5%前後とする見方には私は与しません。このインデックスは中国経済の弱い部分にスポットを充てており、下方バイアスがかかっているからです。

李克強インデックスは中国経済の実態を表わさない

—李克強インデックスのどこに問題があるのですか。

瀬口:李克強インデックスは、中国の李克強首相が重視する電力消費量、鉄道輸送量、中長期新規貸出残高を合成して作る指標です。このうち、電力消費量と鉄道輸送量は、中国経済全体の実態を示すものとは言えなくなっているからです。理由は3つあります。

 1つは、中国経済で第3次産業へのシフトが進んでいること。これら2つの指標は重厚長大型の製造業の活動と関係が深い数値で、第3次産業の動向を適切に表すとは言えません。しかも、ニューノーマル政策の下で中国政府は重工業分野を中心に過剰設備の削減を進めています。これが製造業の生産を低下させ、2つの指標を押し下げる方向に働いています。

 第2の理由は中国で省エネが進んでいること。経済が成長するのに以前ほどの電力を必要としなくなっています。第3の理由は国内輸送手段が鉄道からトラックへと移っていることです。高速道路網が整備され、トラックでの輸送が便利になりました。納期も、鉄道よりもトラックの方が守れるようになっています。日本でも昭和30~40年代に同様の動きが起こりました。

—来年に向けて成長率をどう見ていますか。

瀬口:3つの成長ドライバーがあると考えています。地方政府による公共投資、不動産投資、そして第13次5カ年計画に伴う投資です。

—地方政府による公共投資と不動産投資は、今日の経済不振を招いた元凶です。これからも、それらに頼っていくのは適切なことなのでしょうか。

瀬口:ご懸念はもっともです。地方政府によるこれまでの投資は、炭鉱や鉄鋼業を中心に発展する都市に、立派な役所を建てたり、誰も来ない大きなショッピングモールやリゾート施設を作ったりする無駄なものが多く見られました。しかし中国はこれまでの失敗に学び、投資の中身を効率的で収益性の高いものに変えていく方針です。中央政府は金融機関に対し、実需を伴わない無駄な投資には融資しないよう指示を出しました。

 もちろんこれまでもすべての投資が非効率だったわけではなく、実需を伴う投資として実を結ぶものもありました。例えばこの10月に、重慶と成都をつなぐ高速鉄道がサービスを始めます。これまで2時間かかっていた移動が1時間に短縮されます。これは重慶=成都間の経済圏を大幅に活発化させるでしょう。これに伴って、この地域の不動産投資も実需を伴って拡大していくことが見込まれます。

 この高速鉄道は北の西安、南の昆明へとさらに伸びていく予定です。これが各地の産業集積の形成を促進し、西部地域の経済活性化に大きく貢献していくでしょう。さらに、同様のことが、新首都経済圏=北京・天津・河北省(京津冀)=でも進むとみられます。

—第13次5カ年計画では、どんな取り組みを進める予定なのですか。

瀬口:主要国家級プロジェクトとして、いま触れた新首都経済圏の構築、長江流域経済ベルトの確立、一帯一路構想の推進が挙げられます。現時点ではまだ具体的な開発案件は明らかになっていませんが、来年3月の全国人民代表大会(全人代)で批准される予定です。

—中国市場が緩やかに成長していく時、日本企業にはどんなビジネスチャンスがあるでしょう。

瀬口:今、注目されている「爆買い」を考えてみてください。そこにビジネスの芽が表われています。中国人が日本に来てまで買うものが中国国内で入手できるようになったら、買わないわけがありません。

 先日、武漢を訪れました。武漢経済技術開発区では、イオンが武漢2号店を開く準備を進めていました。そしてイオンの進出に伴って、吉野家やニトリも進出しています。イオン1号店にテナントとして入っている吉野家では、2時間待ちの行列ができることも珍しくないと聞いています。

 自動車もまだまだ期待できます。8月の統計で、トヨタの新車販売台数は前年同月比20%増、ホンダは50%増を記録しました。トヨタではカローラが人気を集めています。日本車の価格性能比の良さに中国の消費者が気付いたのでしょう。一方のホンダは武漢で第3工場の建設を続けています。こうした動向から今後のビジネスチャンスが読み取れるのではないでしょうか。

10/7日経ビジネスオンライン 福島香織『中国のスパイ取り締まり強化に怯むな 日本人を守るには、今こそ防牒強化を』について

安倍内閣になってから中国の言うことを聞かないものだから、中国はあらゆる手段を講じて日本に「嫌がらせ」してきています。毅然とした対応が必要です。暴力団国家と思えば良い。自民党でも福田康夫のように「相手の嫌がることはしない」という外交のイロハも分からない人間が首相を務めていました。簡単に人の言うことを聞く人間を中国人は内心馬鹿にするというのを知らないのでしょう。村山、河野、鳩山などはさしずめ3馬鹿トリオと言ったところです。

尖閣漁船拿捕事件の後、中国はWTO違反のレアメタルの輸出禁止やフジタ社員のスパイ容疑逮捕と西側自由主義国にはあるまじき手を打って来ました。これこそが中国です。西洋の価値観を認めないのは中国の歴史の教える所です。中華の意味は世界の中心という意味ですから、西洋なぞ何するものぞです。ここを押えていませんと中国のことを正しく理解できません。五・四運動やそれ以後の不買運動・焼き打ちなぞは中国の人口の多さで西洋諸国の契約概念を蹂躙するものです。

中国では黄巾、五斗米道、白蓮教、太平天国等宗教で政権が弱体化してきました。現在の法輪功やキリスト教の弾圧は共産党が如何に宗教の力を恐れているかを証明するものです。

中国の記者はスパイです。特に新華社はそうでしょう。彼らの発想は自分たちもするから相手も絶対やっていると思うことです。「南京虐殺」だって彼らが引き起こした「通州事件」の延長でデッチ上げただけです。日本人も相手が自分たちと同じ発想をすると思い込みますが、方向は逆です。日本人は簡単に人を信じますが、中国人は「騙す方が賢い」ので。駐在武官も広義のスパイ活動をしています。世界では当たり前のこと。日本では左翼に牛耳られたメデイアが、日本が普通の国になろうとするとすぐ大騒ぎします。日本の不健全なメデイアを購読することによって経営をサポートするのはやめてほしい。中国は民主主義国の制度に付け込み、日本ですぐ裁判を起こします。中国の裁判官は賄賂を取るのが当たり前、共産党の指示に反した判決は出せる訳もない。日本の裁判官も人権と言う発想だけでなく、世界の動静を見極めて判決を出してほしい。世界最大の「人権抑圧国家」は中国ですから。人口の規模と言い、逮捕状なしの拘引など。法輪功の信者は生きたまま臓器摘出され、臓器売買で医師団が儲けて来たという話もあります。

日本のメデイアは「特定秘密保護法」が成立するときにあれだけ安倍内閣をバッシングしましたが、中国の「反スパイ法」と比べて見て下さい。中国のは、国が怪しいと思えばどういう理由でも逮捕できるという法律です。近代法の原則の罪刑法定主義に反します。彼らの頭の中は中世で止まっているのでしょう。

中国人で、日本国内でスパイ活動をしている人間を逮捕しても、人の命の重さは中国と日本では非対称なので捕虜交換みたいにはいかないでしょう。「殺して貰って結構。中国は人口が多いから」と言うでしょうから。やはり日本人は中国に行かないことが一番安全です。

記事

 5月から日本人3人が“スパイ容疑”で中国当局に逮捕されているという。私は日本政府が「スパイ活動をしていない」と言う言葉を信じよう。容疑者たちが中国当局に関与を認めているという「公安調査庁」自体、“インテリジェンス機関”と呼ぶに値する情報収集活動・能力はないと思っているので、この逮捕は誤認逮捕、あるいは冤罪逮捕だと見ている。日本政府は、誤認逮捕であると主張し、自白は強要されたものだとして、彼らの身柄の返還要求の交渉を続けてほしい。

習近平政権、“外国人スパイ”に敏感に

 この事件を受けて、知人から「あなたも気を付けてね」と冗談のような本気のような声をかけられるが、実際、気を付けなければならないと自覚している。逮捕容疑には、「軍事施設周辺の撮影」などがあるが、これは結構やりがちだ。中国の軍事管制区というのは、別に鉄条網で区切られている場所だけではないし、うっかり入ってしまうことはよくあるし、知らずに写真を撮影することもあるだろう。

 私も現役の北京特派員時代、友人が軍事管制区の中に住んでいたので、遊びにいけば、自然と軍事管制区の中に入る。演習の銃声が聞こえるようなところで、山をくりぬいて兵器倉庫や施設が作られてあるので、面白がって見に行ったりもした。また、戦車の演習場も比較的近くにあり、土煙をあげて走りまわる戦車もよく見かけた。こちらは、知人を訪ねるだけであり、やましいことは一切ないつもりだが、たまに、携帯電話がいきなり鳴って、「お前、どこにいる!」と見知らぬ男性から電話口で叱られることもあった。

 考えてみれば、記者時代の携帯電話はGPSで当局から追跡されているはずなので、どこにいるかは丸わかりなのだ。だが、胡錦濤政権時代は、いきなり捕まえるのではなく、そういう警告をしてくれる親切な時代であった。

 なので、今捕まっている日本人たちのことは人ごとではない。記者やライター稼業の好奇心旺盛な人たちが、国境や軍事施設に近づくことはしばしばある。それはあくまで媒体で発表する“報道”のためであってスパイ行為ではないのだが、中国側はそう納得してくれるとは限らない。中国では、日本と違って記者は情報工作員として任務を負うことが多いからだ。

 特に習近平政権時代になって、今まで以上に、外国人が中国国内をあちこち動きまわることに対して敏感になっている。それは、なぜなのか。

日本人拘束報道をもう一度ふりかえる。デイリーNKサイトの情報が一番詳しいので参考にすると、捕まった一人は51歳の愛知県在住の元公務員男性で、浙江省の軍事施設周辺で写真撮影していたとのこと。もう一人は北朝鮮国境の遼寧省丹東市で拘束された神奈川県在住の54歳の元脱北日本人妻の子供らしい。三人目は元航空会社勤務、牧場経営者の北海道在住男性。元公務員と元脱北者は5月に拘束され、牧場経営者は6月に捕まったという。

 彼らが中国当局に「公安調査庁に情報収集を依頼された」と話しているそうだが、公安調査庁側はこれを否定している。捕まっているのは日本人だけでなく、今年3月にビジネスツアーで広東省を訪問した米国女性企業家、昨年夏に遼寧省でカナダ人夫婦がスパイ容疑で逮捕されているとか。

中国人の取り締まりも強化

 捕まっているのは“外国人スパイ”だけでない。“外国人スパイ”に情報提供したとして中国人も機密漏洩罪でかなり捕まっている。その代表格が2011年暮れから表舞台から姿を消している軍属歌手の湯燦だ。彼女については拙著『現代中国悪女列伝』(文春新書)でも取り上げている。

 彼女は長らく、行方不明で元解放軍制服組トップの軍長老の徐才厚失脚に絡む権力闘争に巻き込まれて投獄されただの、秘密裡に処刑されただの言われていたが、その後、2012年5月、解放軍北京軍区軍事法院で「過失による機密漏洩」で懲役7年の判決を受けていたことが判明した。

 その顛末は彼女が獄中から口述筆記でまとめ香港から出版された自伝『我的壮麗青春 湯燦獄自白』にまとめられている。この本を本物の湯燦告白本だとするなら、彼女は天津にある韓国企業のぺ・ヨンジュンに似た韓国人業務経理・李承俊に、“国家のハイレベル指導者に関する情報”を提供したことで、機密漏洩に問われたという。

 李承俊とその上司の韓国資本の天津企業の美人副総裁ともども、中国当局はスパイと認定。李承俊を逮捕し、そのパソコンから大量に湯燦のプライベート写真が出てきて、問い詰めたところ、湯燦から情報提供を受けた、と自白したらしい。(この韓国人スパイ、と言うのは、あえて誤った表記でぼかしているのであって、本当は米国のCIA=米国中央情報局関係者である、という説もある。)

同書の中には、中国当局が当時、解放軍部上層部をターゲットにした韓国スパイ網が北京や天津に存在し、彼らは紅三代(建国に参与した革命一族の孫世代)が経営している企業関係者に、その肉体を使って接触し、懐に入り込んでいたという。湯燦は李承俊と、失脚した元総装備部副部長の谷俊山が北京のCBD(中央商務区)に構えている通称・将軍府と呼ばれる豪邸で出会い、湯燦から惚れて肉体関係を持っていたという。将軍府には、李承俊が贈った600年前の高麗末期の花瓶も飾ってあったとか。

 「企業を隠れ蓑にした解放軍上層部をターゲットにした韓国人スパイ網」の存在が暴かれていた、というのは初耳でにわかに信じがたい部分もあるのだが、習近平政権になってから、確かに“スパイ”容疑、機密漏洩容疑を乱発して、中国人も外国人も拘束、逮捕するケースが増えているように思う。そういえば、CCTVのイケメン人気キャスター、芮成鋼もCIAに情報提供していたというスパイ容疑がかかっている。

地形も汚染も反スパイ法の対象

 これは、習近平政権が外国のスパイ行為と情報漏えいに対し、それだけ敏感になっているということだと思われる。その証左が、昨年11月にわざわざ反スパイ法を制定したことである。こんな法律がなくとも、中国はこれまで防諜活動を滞りなく行っていたのだが、あえてこういう法整備をしたことが、習近平政権の特色といえる。

 この法律によれば、中国の国家安全を脅かす活動を行うのがスパイ組織であり、そのスパイ組織に直接、間接的に参与したり、リクルートしたりするのもスパイ行為とみなされる。違法な国家の秘密情報を探ったり窃取したり金で買ったりしてもスパイ行為。だが、中国において違法な国家の秘密というのは、実にたわいないものも含まれていて、土壌汚染の数値など環境情報も国家機密、地形なども国家機密(中国の地図は国家機密を守るために、わざと誤差を作っている)。

なので、環境NGOが独自で環境データを測量したりするのも、下手をすると国家安全を脅かすスパイ行為として取り締まられるかもしれない。GPSを使って登山するのも、スパイ行為と認定されるかもしれない。かつて日本の首相は漢字が読めない、と日本メディアが面白がって報じていたが、中国なら、国家指導者の国語能力の低さを露呈することは国家安全を脅かす、といって情報漏えいに問われる可能性もあるわけだ。

西側の価値観を締め出せ

 これとセットになる形で、今年7月1日に国家安全法が制定され、反テロ法、NGO統制法も予定され、国家の安全を守るという建前で、国内の異見論者や外国人への取り締まりを強化する方向性を打ち出している。中国にはFビザ(訪問ビザ)で、長期滞在してフリーランスの仕事をしたりしている外国人がかなりいるが、聞くところによると、こうしたFビザに対する審査もかなり厳しくなっている。

 一言で言えば、習近平政権は基本的に外国(西側諸国)を敵視しているのである。その傾向は、ニューヨーク・タイムズがスクープした習近平政権のイデオロギー統制秘密文書9号文件にも表れている。要するに西側の価値観、秩序が国内に浸透することを非常に恐れている。

 この9号文件を外国メディアに漏らしたという機密漏洩罪で中国人ジャーナリスト高瑜は懲役7年の判決を受けた。9号文件の中身はすでに香港メディア界隈には流れており、これは冤罪である。だが、外国人記者たちの間で人気の高いジャーナリストを見せしめとしてひっとらえることで、外国人記者や人権活動家たちの取材活動がかなり制限される効果は当然あった。実際、中国の知識人は外国人記者らと接触することに従来以上に慎重になっているし、こちらとて政治的に敏感なテーマについて意見を聞くことすら、注意を払うようになった。

 習近平政権がこれほどまでに外国および外国人を敵視し警戒している一つの理由は、それだけ習近平政権が安定していないことの裏返しではないかと思われる。重慶市公安局長の王立軍が国家機密情報をもって成都の米総領事館に駆け込んだ事件をはじめ、権力闘争に米国を利用するやり方が習近平政権になってあからさまになってきた。

 米メディアが習近平ファミリーの蓄財ぶりを報道したそのネタ元が習近平の政敵であったと言われているように、あるいは習近平に失脚させられた官僚・令計画の弟が、国家機密情報をもって米国に逃げ込んだと伝えられているように、あるいは失脚前の元政治局常務委員の周永康が北朝鮮に機密情報を土産に亡命を画策したと言われているように、今や国家機密を外国に渡すことが権力闘争の駆け引きの手段として定着している。もともと、権力闘争はあくまで内政問題で、どんなに激しい権力闘争も共産党体制や国家の安全を犠牲にしてまではやらない、という暗黙の了解があった。だが、そういう暗黙のルールを破りもともとあった共産党秩序を崩してしまったのはほかならぬ習近平である。

日本は怯まず防諜強化を

 もう一つは、台湾のひまわり運動や香港の雨傘革命に米国の影を感じているということも関係あろう。中東のカラー革命に米国が絡んでいるという「陰謀説」は中国でも広く信じられており、習近平政権は非常に西側諸国のメディアおよびNGOの動きに敏感になっている。外国人排斥の方向性は、中国でカラー革命を絶対起させまい、という意志表示とも言える。逆に言えば、中国でも中東で起こったような混乱が起きうる社会・政治情勢がある。

 こういう状況なので、いつ誰が、スパイ容疑で捕まっても不思議ではないのである。

 ワシントン・ポストによれば、在中国の米国公館に配属されているCIA関係者は一斉に引き上げているとか。ハッキングによってその名簿が中国サイドに流れたためらしいが、とにかく今の中国は、心当たりのある者にとっては非常に危険だということだろう。そして、全く心あたりのない者も、当局にとって気に食わないと思われれば、スパイ容疑の冤罪をかぶせられることがあるやもしれない。

 こういう状況で日本政府がやれることは限られているのだが、一つ言えることは、スパイ行為、情報収集行為は、きちんとしたインテリジェンス機関を持つ国ならばどこの国もやっていることである。それをやることは、実はある種の国際常識なのだ。だが、それを防ぐのも国家としての当たり前の責任だ。中国にいる日本人の身を守るには、中国のこうした態度に恐れをなして、情報収集に消極的になるよりも、むしろ日本国内における防諜により力を入れて、こうした日本人の誤認逮捕が起きたときに、彼らの返還を要求できるだけの駆け引き材料を手に入れておくことが何より重要ではないかと思う。

10/5 Sankei Biz 渡辺哲也『中国が資金流出に規制 海外のショッピング制限、爆買いに陰り?』10/6石平メルマガ『崩壊へ向かう中国経済』について

国際収支の面で見れば、経常収支+資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏=0でこの外貨準備増減の累積が外貨準備高になります。確かに資本収支で自国内に金を呼込めばプラスになりますので、借入であっても外貨準備は増加することになります。中国に貸している金は、アメリカが利上げすれば、安全資産である$に切り替えられる可能性大です。人民元の利子は1.75%(1年物定期2015年8月26日~)で米国の利子は0.4%(1年物定期2015年10月2日、じぶん銀行)です。小生だったら、23兆$も国全体で借金を負っている人民元で預金する気はありません。

外貨準備が潤沢であれば、外貨持出で制限をかけることはないでしょう。日本も戦後から1978年まで持出が制限されていました。外貨準備が少なかったためです。中国が公表3.46兆$も外貨準備があるなら制限しなくても良いでしょう。数字を誤魔化しているとしか思えません。

石平氏の記事では消費、特に大衆の飲み物であるビールの消費が今年上半期で▲6%と言うのは凄い落ち込み方です。青島ビール小壜卸価格で2元(40円程度、www.1688.com調べ)ですから、それが飲まれなくなったという事はGDPもかなり下がっていると思います。不動産投資も振るわず、純輸出も振るわない中、消費に期待を寄せる中でです。そもそも中国は数字の誤魔化しは当り前で、▲6%と言うのも怪しいかも知れません。2005年当時で大壜の小売価格は1.5元~2元(30円弱)くらいでした。「世界のビール消費量 2013年 キリンビール調べ」によれば、中国は4631万KLで世界一、日本は549万KL(発泡酒・第三を含む)で第7位です。中国が下半期も▲6%で推移するとすれば年間で278万KL減る事になります。日本のビールメーカーが2社はなくなる計算です。経済面で、中国に期待することは止めた方が良いでしょう。TPPを活用することを考えた方が良いです。

渡辺哲也記事

中国のバブル崩壊が話題になっているが、その陰で中国の外貨準備に対する懸念が生まれ始めている。中国の外貨準備は約3兆4600億ドル(約415兆円、8月末)と減少傾向が続くが、額面上は世界最高水準であり、何の心配もいらない。しかし、この中身と実際に使用できる額に懸念が生じているのである。

 外貨準備とはキャピタルフライト(資金流出)に対する備えであり、通貨価値を維持するための保険のようなものである。国内から資金が流出する場合、自国通貨が売られ、ドルなど他国通貨に両替される。これが大規模に起きた場合、通貨の暴落が発生する。これを抑制するのが外貨準備であり、中央銀行などが他国通貨を売り、自国通貨を買うことで通貨の暴落を防ぐという仕組みである。

 では、中国の外貨準備の何が問題なのかということになるわけだが、中国の場合、外貨準備における米国債の割合が非常に低いのである。中国の保有する米国債の額は約1兆2400億ドル(7月末)であり、外貨準備総額の約3分の1しかない。日本の場合、外貨準備約1兆2400億ドル(8月末)に対して、そのほとんどが米国債であり、中国の状況はこれと大きく異なる。

また、日本の外貨準備は政府と中央銀行の純資産であり、全額介入に使うことができるが、中国の場合、国有銀行保有分なども含まれているとされており、企業などが預けている決済用資金も含まれている可能性が高く、実際にどの程度使えるかが分からないのだ。外貨準備とはあくまでも外貨をいくら保有しているかであり、借り入れであろうがその性質を問うものではない。

 この懸念を証明するかのように、中国当局は外貨流出阻止に躍起になっている。まずは通貨先物取引を規制し、そして、ついに中国人観光客が海外で使う外貨にも規制をかけ始めた。中国の場合、個人の両替は年間5万ドルまでとなっているが、実はこの規制は、中国で大きなシェアを持つ銀聯カードを利用することで回避できた。

 銀聯カードは厳密に言えば、クレジットカードではなくデビットカードと呼ばれるもので、利用時に即時に銀行口座から引き落とされる仕組みになっている。このため、銀行口座の残額が限度額のようなものであり、中国国内の銀行口座にお金があれば、海外で自由に外貨を引き出せたのであった。このため、中国国内の両替規制は有名無実化していた。

ついに10月1日、中国は銀聯カードを使った両替に対して、年間10万元(約190万円)という規制(移行措置として10月から12月までは5万元)をかけた。なおショッピングは無制限だが、今後、ショッピングも規制する可能性が高いとされる。バブル崩壊と両替規制強化により、今後、中国人の海外での爆買いは徐々に減少すると思われ、日本の観光業やサービス業への影響も懸念される。

石平記事

今年8月と9月に公表された、中国経済関連の一連の統計数字は、現在のこの国の実体経済の深刻さを如実に語っている。

たとえば、中国自動車工業協会が8月11日に公表した数字によると、7月における全国の自動車生産台数は151・8万台で、前年同期比では約11%減、前月比では何と約18%減となった。まさしく地滑り的な落ち込みである。

生産台数激減の最大の理由は販売台数の減少にある。7月の全国自動車販売台数は前年同期比で約7%減、前月比では約17%の減少となった。これはまた、中国全体における個人消費の急速な冷え込みぶりを示している。

消費の冷え込みは自動車市場だけの話ではない。8月20日に米調査会社が発表した、今年4~6月期の中国市場スマートフォン販売台数は、前年同期比で約4%減少、四半期ベースで初めて前年を下回った。

国家工業と情報化部(省)が9月7日に公表した数字によると、全国の移動電話の通話量は今年7月までにすでに連続7カ月間のマイナス成長となったという。

同じ9月7日の国家統計局の発表では、今年上半期において全国のビール消費量は前年同期比で約6%減となって、ここ20年来で初のマイナス成長である。

このように、ビールの消費量からスマートフォンや自動車の販売台数まで、中国の消費市場は急速に縮まっているといえよう。そして、自動車販売台数の激減が直ちに生産台数の激減につながったのと同じように、消費の冷え込みは当然、製造業全体の不況をもたらしている。

英調査会社マークイットが8月21日に発表した同月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値は驚きの47・1となった。

PMIというのは好不況の分かれ目の数値で、50以下であれば不況となるが、中国のPMIはこれで6カ月連続で50を割っただけでなく、8月の47・1という数値はリーマン・ショック後の2009年3月以来、約6年半ぶりの低水準、まさに大不況の到来を示す数値であったからだ。

製造業が沈没していれば、それと一蓮托生(いちれんたくしょう)の関係にある金融業も当然、苦境に立たされる。

8月31日に中国国内メディアが伝えたところによると、不良債権の増大・業績不振などが原因で、

中国工商銀行などの「中国四大銀行」で「賃下げラッシュ」が始まったという。50%程度の賃下げを断行した銀行もあるというから、金融業の苦しさがよく分かる。

こうした中で、今までは「中国経済の支柱」のひとつとして高度成長を支えてきた不動産開発業も大変な不況に陥っている。

今年上半期、中国全国の「不動産開発用地」の供給面積が、前年同期比で約38%も激減したことは、現在の「不動産不況」の深刻さを示している。莫大(ばくだい)な在庫を抱える多くの開発業者が不動産をそれ以上抱えることをしなくなったので開発用地の供給が大幅に減ったわけである。

実際、2014年1月から今年の8月まで、中国全土の不動産投資の伸び率は連続20カ月間下落している。

また、今年6月中旬から今月中旬まで、上海株が連続的な大暴落を経験したことは周知の通りである。

以上のように、今の中国では、消費・生産・金融、そして不動産や株市場、経済のありとあらゆる領域において大不況の冷たい風が吹き荒れている。国民経済を支えてきた「支柱」の一つ一つが傾いたり、崩れかけたりするような無残な光景があちこちで見られているのである。

中国経済はただ今、壮大なる崩壊へ向かっている最中である。

9/25日経ビジネスオンライン 石黒千賀子『第3回 中国の国家資本主義の考案者は世界銀行 経済力、軍事力を増す中国の戦略を『China 2049』のピルズベリーが明かす』10/2 石黒千賀子『第4回習近平vsオバマ会談は中国の圧勝だった 中国の大国への野望を明らかにした『China 2049』のピルズベリー氏に聞く』について

見逃していました記事です。ピルズベリーは日米のメデイアと違い、米中首脳会談を冷静に見ています。米国が習を冷遇したのは間違いないですけれども、習は譲歩しなかったと評価しています。それはそうでしょう。譲歩したら剛腕の習と雖も主席の座は保てないでしょう。「政権は銃口から生まれる」国ですので。解放軍の中には習を快く思っていないのはたくさんいます。況してや、毛・鄧のように軍の経験がなければなおさらです。

米軍も中国の質問で自軍の弱点を教えるというのは余りにナイーブ、脇が甘すぎです。油断があったのでしょうけど。第二次大戦時に黄色人種が飛行機を操縦できないという思い込みがあったのと同じ人種差別の見方が根底にあったのでしょう。空母同士で実際戦ったことがあるのは日米だけですが。米国人にすれば中国は第二次大戦の連合国側との思い込みがあったにせよ、ソ連の扱いとは違います。騙すことについては天才的かつ賄賂やハニートラップを得意とする民族ですので、米国の中国に対する甘さが、世界に混乱を招くことになりかねません。中国は遅れて来た帝国主義国です。

世銀が如何に中国を応援してきたかは、世銀の前総裁はパンダハガーのゼーリックでしたし、現総裁は韓国系米国人のキム博士と言うことを考えれば、分かり易いでしょう。まあ、米国には日本を戦後支援して民主化に成功したという思い込みがあったのでは。日本は開国を迫られて、議会制民主主義の道を歩んできたのを米国は忘れているのでは。中国と日本では国の進歩の仕方が違うというのが全然分かっていません。でも世銀の指導で国営企業に力を与えた結果、TPPには参加できませんが。

日高義樹氏の『中国敗れたり』によれば、ピルズリーの主張同様、中国軍の装備は政治的プロパガンダで張り子の虎とのこと。過大評価しないことが大切です。A2/ADも空母迎撃用ミサイルの速度が遅くて簡単に撃ち落せるとのこと。それより中国沿岸に、衛星から指示を受けない魚雷入り自動浮上する機雷を敷設すれば、海上封鎖の効果を齎します。中国は海路が使えなくなりますので、陸路で貿易することになります。コストが上がるようになります。況してやアメリカに逆らって中国と貿易することはアメリカと貿易できなくなる可能性もあります。TPPで中国を経済的に封じ込め、ロシアと米国が和解を進め、軍事的にも日米印豪+露で封じ込めるのが世界平和にとって有益です。韓国は臍をかむことになるでしょうが、自業自得です。日本国民は中国の手先になって世界に慰安婦の嘘を撒き散らした韓国民を許すことはないでしょう。

ピルズリーの言うように、一党独裁は続くと思います。軍区のどこかが独立しないと連邦制にはいかない=民主制に移行することはないと考えています。チャイナハンズが望むようにはいかないでしょう。日本とは違う国柄ですので。

9/25記事

—中国が『自分たちを常に実力より低く見せて、注意深く動く』ことで、「米国に追いつけ、追い越せ」の戦略が最も成功したのが経済分野だと本で指摘されました。中国の経済戦略についてあらためてお聞かせください。

ピルズベリー:中国が米国に接近し始めた1969年時点で、中国の経済規模は米国の10分の1に過ぎませんでした。その中国が、今や経済規模では米国とほぼ肩を並べるまでに成長したというのは、ある意味奇跡とも言えるでしょう。

 では、中国はどうやって、ここまで成長できる経済システムを生み出したのでしょうか――。この点については、実は世界銀行が大いなる力を発揮しました。私は多くの世銀の極秘資料を持っており、中国がいかに世銀をうまく活用したかが、その資料を読むとよく分かります。

—世銀が指南役となった?

ピルズベリー:そうです。1972年2月のリチャード・ニクソン大統領による訪中後、75年のジェラルド・フォード大統領の訪中、77年のジミー・カーター大統領の訪中などを経て、78年12月、中国はついに米国との国交正常化にこぎ着けます。そして、この国交正常化とほぼ同時期に最高指導者*1に上り詰めた鄧小平は、82年、83年と様々な改革に着手したものの、改革のスピードが十分でないことに危機感を強めていたようです。そこで彼が目をつけたのが世銀でした。

*1 1976年9月毛沢東死去

1983年、当時、世銀の総裁だった米国人のA・W・クラウセンは中国を訪れ、鄧小平に会いました。先ほどの世銀の資料に書いてありますが、この時、鄧小平は「私たちは米国を超えたい。どうしたら実現できるか教えてほしい」「私たちを助けていただけますか」と発言しています。これに対し、クラウセンは「世銀のエコノミストチームが、20年先を見据えて中国の経済について研究し、どうすれば中国が米国に追いつけるか助言しましょう」と密かに約束しました。

 その時、世銀のスタッフは、「低い経済水準から先進国に追いつき、追い越した国が過去に一カ国だけある。その国は、国民一人当たりの所得が毎年5.5%成長した。だから中国も毎年5.5%成長する必要がある。でなければ、1000年経っても先進国に追いつくことはできない」と指摘しました。

 中国側は「その国はどこですか」と聞いた。どこの国か分かりますよね…。

—日本…

ピルズベリー:米国でもドイツでもなく、日本です。以来、中国は日本がどう経済成長を達成していったのかについても大いに研究しました。一方、世銀は中国に対して、複数のレポートでこんなことを指摘しています。

 「世銀は、基本的に自由市場経済重視の原則で動いている。しかし、中国の経済を民間企業や市場に任せていたのでは、最高のスピードで経済成長を達成することはできない。中国が先進国に追いつくには、5.5%よりももっと高い伸び率で毎年、経済成長することが必要だ。実は、それだけ早く成長する方法があるかもしれない」

1990年には世銀の北京事務所は世界最大規模に

—どういう意味でしょうか。

ピルズベリー:世銀は、中国の各産業分野においてトップクラスの企業を国有のまま育成すればいいと助言しました。それらの企業に対して優先的に補助金を与え、低利で融資を行い、海外から投資させればいい、と。

 また、1985年から20年の間に輸出の構成を変え、特にハイテク製品分野の育成に力を入れること、外国から過剰な借金をしないこと、外国による直接投資は先進技術と経営近代化の手法だけに限ること、貿易会社の関与を段階的に減らして、国有企業が独自に外国と貿易するようにすること、といった提言も出しました。

—つまり、民間に任せていたら、産業の育成に時間がかかりすぎるので、国有企業を育成して政府が直接、資金を提供すればいい、と…

ピルズベリー:そうです。1990年には北京にある世銀のオフィスは世界最大規模となっていました。それほど大人数のスタッフを世銀は北京に送り込んだということです。つまり、世銀が中国のために、全く新しい経済モデルを考え出したのです。

 これは後で知ったことですが、ソ連崩壊後の数年間、実は中国のエコノミストたちの間では経済成長戦略を巡って、世銀の進める戦略で行くのか、市場経済に向けて動き出したロシアや東欧の例に倣うのかを巡って、かなり議論をしたと聞きます。ロシアや東欧では国有企業がすぐ民営化され、価格の自由化も図られました。当時、中国の改革志向派の政治家の中には、ロシアや東欧の民営化・市場化の動きに倣おうとする人々もいたのです。つまり、自由市場と私有財産を認める方向に向かって進むべきか、あるいは政府がコントロールできる国有企業を沢山作って、米国などの先進国から技術支援を受け、もらえないものは盗み取ってでも習得し、とにかく米国に追いつくべきではないかという重要な議論でした。

 結局、周小川氏などの強硬派が勝利を収め、中国のマラソン戦略を支援する世銀と組む方針を維持することになった。周小川はご存じの通り、2003年以降、現在も中国人民銀行(中央銀行)総裁を務めている人物です。

 周氏は、民営化や政治改革を拒み、代わりに協力的な世銀のエコノミストらと共に、中国共産党による支配のもと、国有企業の収益性を向上させる戦略を推進しました。周氏と世銀中国支部長だったピーター・ハロルド氏は、非効率で、組織構造も経営状態もお粗末だった中国の国有企業を変えるべく独自の戦略を描きました。当時、国有企業はどこも赤字で、国営銀行からの借入金で赤字を埋めていました。こうした時代遅れの国有企業を世界に誇れるチャンピオン企業に変えるという大胆な挑戦でした。その支援には、ゴールドマン・サックスといった米国の大手投資銀行なども大いに手を貸したようです。

今や米フォーチュンの世界上位500社の95社が中国企業

 1990年代初め、欧米人が知っている中国企業と言えば「青島ビール」くらいでした。米誌「フォーチュン」は毎年、時価総額で世界上位500社を紹介しています。当然、中国企業は当時、1社も入っていませんでした。「世界上位500社に入る企業を育成したければ、世銀の助言に従えばいい」と聞いた中国は、世銀の助言をすべて実践しました。その結果、ゼロからスタートして、20社、30社と増えていき、今や世界最大の石油化学会社である中国石油化工集団(シノペック、2014年は3位)を筆頭に、中国石油天然気(同4位)、国家電網(同7位)、中国工商銀行(同25位)など2014年には中国企業が実に95社もランクインしています。

—国(共産党)が戦略的国有企業と位置づければ、集中的にその企業に資金を投入でき、効率よく成長させられる…

ピルズベリー:資金だけではありません。上位100社の国有企業の経営者は共産党の中央委員会が決めます。多くは国の諜報機関か軍の出身者で、そのつながりは経営者に就任した以降も生きるわけです。だから一部のCEO(経営最高責任者)を務める者たちは、いろいろな意味で閣僚よりも重要な存在です。

—まさに中国が国家資本主義と言われるゆえんですね

ピルズベリー:そうです。中国は半分だけが市場経済です。規模の小さな企業については、ある意味、市場原理で動いているが、規模の大きい国有企業は政府の方針が優先されるということです。

 ここまで経済分野の説明をしましたが、私がより深刻な問題だと捉えているのは軍事面における中国の動きです。

「米国の弱点を突く」形で軍事力も増強

—年々、軍事力を増強しており、脅威に感じているのは日米だけではありません。

ピルズベリー:中国は「どうしたら米国を怒らせないで、中国を守る軍事力をつけられるか」について様々な検討を重ねてきました。その中で彼らがかねて考えてきたのは「米国の弱点をまず探し出すべきだ。そしてその弱点を突く形で軍事力を増強すればいい」と。その中国が米国の弱点を理解するに至ったのは、1990年代になってからでした。なぜか。それは、米国が自ら大きな過ちを犯し始めたのです。

—どういうことでしょうか。

ピルズベリー:米軍が自分たちのことについて論文を書くようになったのです。まず1991年のイラク戦争後のことです。こんな論文が出てしまった。「米軍がなぜイラクであのような攻撃をできたかというと、米軍は、ターゲットを定めて攻撃するタイプの武器も、通信手段、機密情報のやりとりなども含め、攻撃の90%をわずか数個の衛星を経由して行っている」と。

 中国側はこれらの論文を読んで、「空母を11隻も抱え、何千発ものミサイルを抱えている大国である米国の実力は、数個の衛星にすべてかかっている」という事実を把握してしまいました。以来、米国の軍事力の研究を深めた中国側がある日、私にこう聞いてきました。

 「米ソはどうして互いに相手の衛星を撃ち落とそうとしなかったのか」と。

 米ソ間では、相手の衛星を撃ち落とさないという約束をしていたからだと答えました。そんなことをすれば二国とも大混乱に陥り、自爆行為に等しいと理解していたからです。だから衛星だけは守る必要があるということで合意していたのです。

 ところが2007年1月、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は中国が秘密裏に自分たちの気象衛星を撃ち落として、通信を遮断する実験を行ったと報じました(Flexing Muscle, China Destroys Satellite in Test)。多くの米国の軍事関係者はその10年前には、軍事雑誌などに「中国に衛星を撃ち落とすことなどできない」と書いてあなどっていた。しかし、撃ち落とした実績があるということは、米国の衛星も撃ち落とそうと思えばできるということです。

米軍は自国の空母の弱点を中国に明かしていた

—中国が「秘密裏に行った」というのがなおさら気になります。

ピルズベリー:秘密裏に、というのは各国に事前通告もしなければ、撃ち落とした意図についても一切説明をしていない、ということです。この気象衛星を撃ち落としたことについては話したいことがありますが、その前に米軍の由々しき事態をもう一つお話しましょう。

 中国軍の人たちが、米海軍との交流の一環で米空母を訪問した時のことです。その時、米軍側は「米国の空母はどれも4つの原子炉で動いていて、時速30ノッチと非常に速いスピードで進む。100機の飛行機を搭載できるので、どこへでも行けて、爆撃しようと思えばいかなる国、場所に対しても攻撃することができる」と説明しました。

 すると、空母内を案内されていた中国軍の将校が「素晴らしいですね。私たち中国軍には決してこんなものを造ることはできないでしょう」と言ったうえで、「ただ、もしこの空母にあえて弱点があるとすれば、何でしょうか」と聞いてきた。

 これに対し、米軍将校は「問題はあります。空母の側面は非常に厚みがあるので、いかなる攻撃にも耐えられるが、底が薄い。私たちの空母は、爆弾をすべて底に保管しています。空母には5000人近くの乗員がいるため、そのスタッフから少しでも距離を置くためです」と回答したというのです。

 その後、中国はロシアが「船跡追尾魚雷」という特殊な魚雷を造っていること突き止めたといいます。これは発射されると、空母が通った跡の波である船跡を感知して、その空母の下に入ってから上に向きを変え、攻撃するという魚雷です。

—今の話が何年前のことだったのか分かりませんが、中国は旧ソ連製の空母を購入し、これを改修して2012年に「遼寧」と名付けて配備しただけでなく、同年、上海の造船所で国産空母の建造にも着手し、2020年までに就役させる計画といいます。軍事的脅威は高まるばかりです。

ピルズベリー:確かに米国でも中国軍に対する認識は変わりつつあります。特に今年、中国からの数度にわたる大規模なサイバー攻撃により一般米国民の間でも、警戒感が出てきています。

ハリウッド映画にまで影響を与え始めた中国

—6月と7月の米人事管理局(OPM)へのサイバー攻撃では、計2500万人の連邦政府職員(退職した職員も含む)の社会保障番号などの個人情報が盗まれたと報道されました。

ピルズベリー:私の情報も流出したということです。さて、先ほど中国が気象衛星を撃ち落とした件について話しておきたいことがあります。

 あの実験により、3000片を超える破片が発生し、それが今後何十年も低い軌道上を周回する、と言われています。2013年に公開された映画『ゼロ・グラビティ』をご覧になりましたか。あの映画では、ロシアが用済みになった衛星をミサイルで爆破し、そのために生じた大量の破片がジョージ・クルーニーらが演じる宇宙飛行士の乗ったスペースシャトルにぶつかったという設定になっています。おまけに、最後、サンドラ・ブロックが演じる女性宇宙飛行士は中国の無人宇宙ステーションに保管されていた補助燃料タンクを借りてなんとか地球に帰還するというストーリーになっていて、ロシアが「悪者」、中国が「英雄扱い」されています。

 しかし、ロシアが自国の衛星にミサイルを撃ち込んだことは過去、一度もありません。あの映画の脚本家たちは、宇宙で起きたことと起こり得ることをあえて歪めた、ということです。なぜか。世界一の人口を有する中国では、莫大な数の人が映画を観て、それがハリウッドの映画会社に巨利をもたらす。ビジネスならば当然なのかもしれませんが、こういうケースが蓄積していくことに懸念を覚えます。

—米国のビジネス界では中国の市場の大きさゆえに、中国にマイナスになることを控える自主規制が働いているということでしょうか。しかし、こういう話が増える、あるいは今回のピルズベリーさんの本を多くの人が読めば、たとえそれがピルズベリーさんの意図ではないにせよ、反中の思いを深める人や反中国に転じる人はますます増えることになります。それは決して何かの解決に結びつくとは思えません。どうすればいいのでしょうか。

ピルズベリー:本に米国が取るべき12の方針を書きました。その多くは日本にも参考になります。それについては次回、お話しましょう。(第4回に続く)

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–先週の金曜日、9月25日にワシントンで習近平国家主席とオバマ大統領の首脳会談が行われました。どうご覧になりましたか。

ピルズベリー:中国にとっては成功、米国が得たものはゼロだった。中国は首脳会談前から指摘されていた南シナ海や東シナ海の問題、あるいはサイバー攻撃問題などについて、何かを確約するということをうまく逃れた。

 ビジネス面を見ても、米中2国間投資協定の締結には至らなかった。首脳会談で最終合意できるようこの数カ月、両国間で相当な努力がなされていた。だが、この投資協定は中国政府が中国国有企業を優遇することを禁じている。首脳会談でどんな話があったのかは明かされないので理由は分からないが、中国は投資協定においても譲歩しなかったということだ。

—しかし、サイバー攻撃の問題については、今後、閣僚級の協議を新たに設置することで合意したと報道されています。

ピルズベリー:いつかね。

—いや、年内にも初会合が開かれる、という報道を目にしました。

ピルズベリー:いつ開始するかといった具体的な時期は決まっていない。今回の首脳会談の特徴は、文書での合意は何もないということだ。首脳会談後、ワシントンで随分沢山の記者と話したが、メディアも今週になって、その事実に気づき始めた。

 通常、2つの大国の首脳が会談すれば、複数の事項について何らかの最終合意にこぎ着け、両者が合意文書に署名し、それが会談後に発表されるものだ。だから記者たちは週が明けた今週の月曜日、ホワイトハウスに連絡して、サイバー攻撃の問題を扱う閣僚級協議新設など一連の合意事項に関する合意文書のコピーを欲しいと要請したが、ホワイトハウスは「渡せるような文書になったものは何もない」と回答している。それは、ホワイトハウスのウェブサイトを見てみれば明白だ。そこにはオバマ大統領と習近平国家主席の共同記者会見での発言しか上がっていない。

—合意文書が全くない?

ピルズベリー:そう、全くない。習近平氏はオバマ大統領と並んで共同記者会見を開くことさえ嫌がっていたと聞いている。だが、共同会見は中国側が譲歩して実現した。

 確かに、共同会見で彼らは「米中はサイバーセキュリティーについては協力していく」と語り、メディアの報道ではpromise(約束)とかpledge(誓約)という言葉が使われた。だが、それは飛躍というものだ。合意して署名に至った文書は一枚たりとも存在していない。

安全保障に関わるテーマはすべてはねつけた

 今回の首脳会談で何より顕著だったのは、中国側が次の5つの点について、徹底して自らの主張と立場を押し通した点だ。第1は、「両国はサイバー犯罪がこれ以上起きないように協力して戦うという重要な合意に達した」と習近平氏は会見でこそ述べたが、米国が昨年、米企業へのサイバー攻撃に関与したとして起訴した中国人民解放軍(PLA)の当局者5人の米国への引き渡しを拒否した。

 第2は、中国は過去に自国の人工衛星を撃ち落とすことに成功し、他国には脅威になっているが、宇宙における中国の衛星攻撃を禁じる話や中国が宇宙スペースで進めている軍事増強に関する議論について議論することも拒否した。

 第3に、米国が求めた軍事交流の拡大も、限られたものしか受け入れないとの姿勢を貫いた。

 第4に、台湾向けミサイル配備に関する議論も拒否した。中国は過去10年間で、台湾向けに1000発以上のミサイルを配備してきたが、直近でも毎年200発以上増強している。この話題についても議論を拒否した。

 第5に、冒頭でも話したが、南シナ海における埋め立て工事については、他国から一切の制約、制限は受けないと主張した。共同会見でも習主席は「南シナ海における島々は古来、中国の領土だった」と発言。これに対してオバマ大統領は、何のコメントも反応もしなかった。

実は、首脳会談前に私は、かねてつきあいのある中国の軍部の将校から、中国がこうした反応をするであろうということを聞いていた。情報源は国防大学などで教えている将校クラスの学者たちだ。人民解放軍には、あまり知られていないがGeneral Political Department(総合政策部)と呼ばれるチームがある。タカ派の彼らは通常、どちらかというハト派の外交部の方針と衝突するものの、政策決定に強い影響力があり、今回の習近平氏の訪米を巡る中国側の方針を決める上でも重要な役割を果たしたと考えられる。

 彼らが出した方針とは、安全保障に関わるテーマは徹底してはねつける、というものだったという。

「新興国は時の覇権国を刺激してはいけない」という方針を今回も徹底

—外交面においても人民解放軍のGeneral Political Departmentが力を持っているということですか。

ピルズベリー:今回、習近平氏や中国代表団とオバマ大統領が一緒に撮影した記念写真には、将校は一人も写っていない。しかし、彼らこそが今回の訪米における外交方針を決めるのに重要な役割を果たしている。

 軍部は習近平氏に、私が著書『China 2049』でも書いた「100年マラソン戦略」に基づいた助言をし、習近平氏はその通り行動した。この連載の第2回でも触れたが、100年マラソンで最も重要なのは、「新興国は時の覇権国を刺激してはいけない」ということだ。だから中国は、衝突することが確実な安全保障に関する問題の議論はことごとく避け、とにかく「危険な国の指導者だ」との印象を与えないよう腐心したわけだ。

 習近平氏は最初に訪問したシアトルでのスピーチで、米国式の心温まる言葉を並べ、「私は、若かった頃には、アレキサンダー・ハミルトン*1の『ザ・フェデラリスト』*2やトーマス・ペインの『コモン・センス』を読みました」などと語った。こんな話を聞けば米国人は、少なからず習近平氏に好感を抱くだろう。

*1 政治家であり、憲法思想家であり、アメリカ合衆国の建国の父の1人とされる。

*2 アメリカ合衆国憲法の批准を推進するために書かれた85編からなる論文で、「比類のなき憲法の解説で、米国人によって書かれた政治学の古典」とされ、ハミルトンはこの論文の3分の2を書いたとされる

—中国や習近平氏にとって今回の訪米は、大成功だった…

ピルズベリー:中国では大成功と受け止められているようだ。北京に送られた今回の習近平氏訪米に関する報道をいくつか見たが、どれも彼を強い指導者であると書いていた。中国では今回の訪米で、米国から大きな圧力をかけられ、様々な譲歩を迫られるのではないかとの懸念もあったようだ。それだけに、習近平氏が一歩も譲歩しなかったことが高く評価されている。ホワイトハウスで米国の指導者と一歩も引かず対等にわたりあった強い指導者である、と。

—すると、習近平氏は反腐敗運動を追求しすぎて政敵が増え、権力基盤が盤石ではないのではないかといった見方が一部で浮上していますが、そんなことはない?

ピルズベリー:中国における彼の人気は高い。今回の訪米成功で、その人気と、指導者としての評価はさらに高まっているように思う。私は彼の権力基盤は盤石だと見ている。

中国の成長率を見るときは西側諸国とまず比較すべき

—しかし、中国は6月以降、株の暴落に見舞われています。8月の元の切り下げ以降はさらなる株価暴落に直面し、政府による必死のてこ入れ策も効果が出ない。経済の減速も深刻です。一部に、この経済のつまずきで、中国は弱体化が進むのではないかとの見方も浮上しています。

ピルズベリー:経済成長率が7%に鈍化した、あるいは7%の達成も危ういといって多くの人が騒ぐが、昨年の米国のGDP(国内総生産)は2.4%、日本に至っては1%にも満たない。世界第2位の経済大国である中国の成長率が仮に6%にとどまっても日本の6倍のスピードで成長している。

 中国自身も、かつての2ケタ成長から、1ケタの持続的な成長を目指す「新状態(ニューノーマル)」の時代を迎えたと言っている。彼らは間違いから学習することを知っており、政策運営でも着実に力をつけてきている。先進国は何かというと中国の問題を深刻に捉えようとしたがるが、まず自分たちの国の成長率と比べてどうなのか、という点にもっと目を向けるべきだ。

 私は、西側諸国の関心が中国経済ばかりに集中し、中国が軍事支出を拡大し続けていることへの注意がそれで削がれてしまうことの方が問題だと思う。

中国を過大評価することが最も危険

—今回の習近平の訪米でも、米国企業はIT(情報技術)系を中心に、中国に熱い秋波を送っていました。経済的な存在感のみならず、軍事的にも脅威を増す中国と、日本はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

ピルズベリー:詳しくは本を読んでほしいが、日本を含め私たちがなすべきことをここでは3つ紹介したい。

 まず最もやってはいけないのは、中国を「過大評価する」こと。米国防次官補で、国際政治学者として知られるハーバード大学のジョセフ・ナイ氏も「我々の最大の危険は、中国を過大評価し、中国に自ら過大評価させ、うぬぼれさせることだ」と指摘している。

 私はさらにナポレオン・ボナパルトの有名な言葉を忘れてはいけないと考えている。「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」だ。長い目で見れば、中国が傲慢で攻撃的な態度で近隣諸国を挑発し、同様のスタンスの国々と連携していることは国際社会に多くの敵をつくることになり、私から言わせれば、結果的に米国を手助けしていることになる。尖閣諸島の領海侵犯を何度も犯せば、それだけ日本を怒らせることになる。それは決して中国のためにはならないからだ。

安倍政権はもっと中国語で生の情報を読み込べきだ

 第2は、日本も私のように「中国語の生の資料を読んでいる」という人材を早急にもっと増やすべきだ。特に安倍晋三首相の補佐官たちに強調したいのは、中国で書かれた中国語の生の資料をもっと入手し、それらを読み込むべきだ、ということ。生の資料とは、本連載の第2回で触れた中国でベストセラーになった『中国の夢』や『戦略学(2013年版)』や『Study of US Strategies』といった中国政府の内部資料のことだ。

 『中国の夢』は英訳されているが、全体の一部にすぎず、原書を中国語で読まないと真意はつかめない。『Study of US Strategies』はそのタイトルが示す通り、内容は中国による米国の軍事戦略の分析で、幸いなことに英語で書かれている。中国は同様に日本の軍事戦略も研究し、日本版もつくっているので、日本政府は読むべきだろう。

—まず彼らの考えていることを知ることが大事だということですね。

ピルズベリー:その通りだ。

 第3のポイントは、中国国内の改革派を支援していくことだ。ただし、タカ派かハト派を見分けることは極めて難しいことを覚悟しなければならない。

 天安門事件後、中国共産党の改革派の指導者だった趙紫陽が終生の自宅軟禁に置かれた。その20年後、コロンビア大学の政治学者アンドリュー・ネイサン氏が、秘密裏に趙氏の回想録を入手し、出版した。その回想録には、当時私たちが知らなかった圧倒的な不利な状況の中で、彼がいかに強硬派に立ち向かい、真の改革を実現しようと苦闘したかが書かれている。

 当時、私を含め当時の政権の多くの中国関係者は、趙紫陽の軟禁は改革の一時的な後退にすぎないと楽観的に見過ぎていた。今も強く悔やまれる出来事だ。同じ過ちを繰り返してはならない。

—最後に中国共産党による一党独裁は今後も続くとみていらっしゃるか、その点をお聞かせください。

ピルズベリー:よく聞かれる質問だ。私は以前も話したが、中国共産党には間違いを犯したら「学ぶ」力がある。だから私は、中国共産党には持続性があると思うし、今後も一党独裁が続くとみている。

9/29日経『習近平の闘い(1) 消された江氏の揮毫』9/30日経『トップ視察と大爆発の謎』10/1日経『習近平の闘い-3 2年後へ「龍虎」にらみ合い』10/2日経『消しきれなかった反日 習近平の闘い(ルポ迫真) (4)』10/3日経『米国揺るがす「狐狩り」 習近平の闘い(ルポ迫真) (5)』について

習は反日を止む無くやっているような書き方ですが実態は習がやらせていると思います。ユネスコへの記憶遺産として「南京虐殺」と「慰安婦」申請を命じているのは習そのものでしょう。10/7本日結果が出るそうで、「慰安婦」は却下、「南京」は認可との説があるとFacebookで読みました。日本の外務省は幣原以降本当に劣化した人たちの集団です。日本人の名誉を守るために何もしない無能の集まりです。ユネスコへの拠出金が実質最大の国が何もせずやられ放しはないでしょう。これが逆に中国だったら金にものを言わせるに決まっているのに。

習は毛沢東に似ています。権力者としての権力を、相手に恐怖を与えて行使します。反右派闘争、大躍進、文革で中国人を何千万と殺しました。毛は平気で人を殺せる非情さを持っていました。それでNo.2の周は毛の言いなり、逆らうことができませんでした。教養を持った人間は弱い。習も清華大出身と言いますが、下放されていた時代が長いので裏口でないと入れなかったでしょう。二人に共通するのは殺人も厭わぬ強さです。戦国時代のそれですが。

中国の権力闘争はまだまだ続いていると思います。今までうまい汁を吸ってきた連中が手を拱いているとは思えません。国慶節前の爆弾騒ぎもウイグル族かどうか分かりません。反習近平グループがウイグル族に名を借りて習に恥をかかせようとやったのかもしれません。

TPPについて反対する保守派もいますが、中国を経済的に封じ込める手段として使うのであれば良いと考えます。ベトナム、マレーシアは国営企業やプミプトラ政策(マレー人優遇)の問題を解決していかなければなりません。中国は利権構造にドップリ浸かっているので国営企業の民営化は難しいでしょう。難民問題で尻に火が付いている欧州諸国も、AIIB参加どころでなくなり、また中国の経済が危ういことに気が付いて脱退するようになるかも知れません。EUの盟主であるドイツはさらにVWの問題も抱えています。デイーゼル車だけでなく、ガソリン車にもデータ改竄があるかもしれません。中国の欧州輸出もダメになり、軍事膨張に歯止めがかかることを願っています。

9/29記事

Xi&Jian@tiananmen

communist party's tower

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日の軍事パレードで習氏(左)は       上海の軍教育施設では

江氏と談笑してみせた        江氏の揮毫を自分のものに差し替えた

「中国の反腐敗闘争は権力闘争ではない。米テレビドラマ『ハウス・オブ・カード』(の世界)も存在しない」

 訪米した国家主席、習近平(62)は22日、シアトルでの演説で、米大統領・議会周辺の陰謀渦巻く権力闘争を描く人気政界劇に触れ、笑いを誘った。中国の権力闘争に注目する世界の視線を意識した演出だった。

□   □

 中国の密室での闘いは激しい。習はトップ就任後、2年半余りで石油閥を仕切る最高指導部経験者、周永康(72)、軍制服組トップの徐才厚(3月死去)と郭伯雄(73)を断罪した。皆、元国家主席、江沢民(89)派の重鎮だった。

 前国家主席、胡錦濤(72)の側近、令計画(58)も失脚に追い込む。汚職が理由だ。権力固めへ政敵を次々捕らえる手法は毛沢東に倣う第二の文化大革命ともいわれる。

 3日、軍事パレード前の北京。青空の下、天安門楼上に江沢民が顔を見せた。1年ぶりの公式の場への登場だけに観衆から驚きの声が上がった。

 習はにこやかに隣の江に話しかけた。江も笑顔で応じる。暗闘の主役2人の会話には見えない。それは共産党の一枚岩を内外に示す芝居にすぎない。習の苛烈な「院政つぶし」は続いていた。

 江が率いる「上海閥」の本拠地、上海。ここに南京軍区の由緒ある教育施設、南京政治学院上海分院がある。最近、訪れた関係者は仰天した。門から丸見えの校舎の壁一面に掲げられていた江の揮毫(きごう)がはぎ取られていた。替わりに登場したのが習の文字だ。

 「まさか自分の文字に差し替えるとは。露骨な老江(江沢民)いじめだ。習大大(習おじさんの意)はやり手だ」。報道統制下でも上海では暗闘が公になりつつある。胡錦濤も江の院政に悩んだが、蛮勇は振るえなかった。習は違った。真新しい習の揮毫が面白い。

 「(共産)党の指揮に従い、勝てる、清廉な人民の軍隊に。習近平」

 これまでは党の指揮に背き、弱い、腐敗した軍だった、と言わんばかりだ。江の揮毫の消去は、問題の所在が江にあった、との暗示でもある。

□   □

 習は昨年末、江の影響力が残る南京軍区の司令部を視察した。江の人脈をつぶし、首都防衛を担う北京軍区や治安維持の要、武装警察の司令官に南京軍区から「お友達」を抜てきした。福建省、浙江省で長く過ごした習は南京軍区に人脈を持つ。「お友達」は軒並み最高位の上将に昇進した。軍は江の色から、習の色に塗り替えられた。

 習は軍事パレードで軍掌握を誇示した。司会役は首相の李克強(60)だった。過去は北京市トップが司会を務めた。格上げと言えば聞こえは良い。だが首相が司会に成り下がったのは習への権力集中を象徴する。

 習は軍の30万人削減も発表した。「削減を名目に反抗的な軍人の首を切ることができる」。軍政に通じる関係者の説明だ。徐才厚や郭伯雄、その子分を切れば軍はなびく。習はそう読んだ。

 習は党組織でも江の影響力の排除を形で見せた。北京郊外の世界遺産、頤和園近くに幹部養成機関、中央党校がある。前の道路脇には江が揮毫した「中共中央党校」の文字を金色に彫り込んだ巨石が横たわっていた。

 巨石は観光客の記念撮影の場だった。8月下旬、それが突然消えた。跡地はブルドーザーでならされた。巨石はぐっと後退し、目立たない門の内側に“幽閉”された。

 「江沢民の力の後退だ。指導部人事で影響力をそぐサインだろう」。党員らは風向きの変化を感じた。直前には党機関紙、人民日報に院政の弊害を糾弾する文章が掲載された。党員は皆、江の院政批判と受け止めた。

 上海と北京、軍と党組織とも習への権力集中が進む。習は「反腐敗」を武器に毛沢東や鄧小平に並ぶ地位を確立し、歴史に名を残そうとしゃにむに走る。それは茨(いばら)の道でもある。内部の抵抗はなお強い。長老らも黙ってはいない。

 3日、天安門には存命の長老15人が顔をそろえた。牢(ろう)の中の周永康だけがいない。最高齢は98歳の宋平だった。めったに顔を見せない宋平は過去の数代のトップ選びで大きな発言権を持っていた。習にとっては、なお怖い長老らである。

 習近平がトップに就き千日余り。2年後の最高指導部人事を見据えて激化する権力を巡る暗闘の現場を追う。(敬称略)

9/30記事

「今日、8月12日で習近平(62)が共産党トップに就いて1000日。6月11日には天津の裁判所が周永康(72)に無期懲役を下し、聖域なき反腐敗への決意を示した」。中国メディアが最高指導部経験者の断罪をたたえる評論を出したのは8月12日の昼前。その夜、周が裁かれた天津で空前の大爆発が起きた。165人が犠牲となる大惨事だ。

 劇物保管の事実を知らない消防隊の放水が爆発の原因とされるが、密封したコンテナになぜ火が付いたのかは謎だ。「製造工程にない薬品は簡単に火が付かない。自然発火は困難。意図を持った着火なら別だが」。化学品の扱いに詳しい専門家の声だ。全ての爆発物質の特定もできていない。政権中枢でも「故意説」は根強く残る。

 爆心地に直径100メートルの穴が出現した天津の浜海新区には、新たな「中国(天津)自由貿易試験区」のビル群が立ち並ぶ。習は北京、天津、河北省の「一体開発」構想を主導している。長老らを交えて河北省の保養地で意見を交わす8月前半の「北戴河会議」でも「一体開発」を含む次期5カ年計画が議論された。

 天津では北戴河会議を終えた習による自由貿易区視察への期待があった。8月11~13日の中国の人民元切り下げは、中国経済への不安を誘発した。習が自由貿易推進、経済安定へのメッセージを内外に発する地に天津を選べば「一体開発」にも役立つ。しかも天津トップは習の秘蔵っ子、黄興国(60)だ。

 「主席の天津視察は当初、8月13日の予定だった。爆発で飛んだ」。関係筋が語る。本当に視察計画があった場合、12日深夜から続いた大爆発は習への露骨な威嚇との解釈さえできる。

 習は警察、武装警察を仕切った周永康や、軍制服組トップ2人を軒並み捕らえ、部下らも排除した。当然、恨みを買った。皮肉にも習の視察予定は、警備担当の警察、そして軍が把握している。警察、軍の主要幹部は習の「お友達」に差し替えたが、全ての残党排除は難しい。

 「真相はやぶの中。それでも内部犯行という最悪のケースも念頭に軍事パレードでは厳戒態勢を敷いた」。関係者によると、9月3日の北京での軍事パレードは疑心暗鬼の中で進んだ。

 危険物が詰まるガソリンスタンドは封鎖。戦闘機の編隊飛行では後部座席に銃を構えた兵士を配した。万一、パイロットが天安門上空で奇妙な動きをすれば制止する特殊な役割を担ったとの見方がある。(敬称略)

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 9月21日、天津市トップの黄興国(60)は、大爆発があった浜海新区内にある天津自由貿易試験区を視察した。

前日、開業した北京から天津駅を経て浜海新区に至る高速鉄道に乗り、新駅に降り立った。

「事故後の混乱で厳しい視線にさらされた黄の復活を狙う演出だ」。

中国政治研究者が指摘する。

 そもそも石油閥、司法・警察系統を仕切った最高指導部経験者、周永康(72)の裁判はなぜ天津で開かれたのか。

周派残党の不穏な動きを封じるには、北京以外の地方都市が望ましい。

しかも天津には、習近平(62)の肝煎りでトップに引き上げたばかりの黄が控えていた。

 習は浙江省時代に同省出身の黄と関係を深めた。

浙江省や福建省での縁で抜擢された子飼い人材は習の「新軍」と呼ばれる。

「誰も信用できない」という習は「お友達」で周囲を固めたい。黄は重要な駒だ。

 大爆発から1カ月後の9月12日。現場付近はなお封鎖され顔をすべて覆うガスマスク姿の武装警察が要所に立っていた。

何とも言えぬ焦げ臭さが立ち込めている。

一度、国営メディアが公式報道した「神経ガス」の発生は一転して否定されたが、現場は物々しい。

黄が事故処理の不手際を政敵に批判されれば、習の痛手になる。

だが、習は逆に攻勢に出ようとしている。

 習は「お友達」抜擢へ様々な布石を打った。

「共産党ではすでにトップ独裁に道を開く幹部任用制度の改正が進む。 皆、気付かないだけ」。

党制度を熟知する人物の指摘だ。

簡単にいえば前国家主席、胡錦濤(72)時代に客観基準を設けた任用制度の否定である。

柔軟な盗用と言えば聞こえが良いが、トップの意のままの抜擢が可能になる。

 もっとも重要な変化は「年齢を重視しない」ことだ。

今の内規では共産党大会時、67歳以下なら最高指導部に入れるが、68歳以上は引退する。

現最高指導部7人中、2年後も続投できるのは習と李克強(60)だけだ。

年齢制限が有名無実化すれば、習の盟友で反腐敗の司令塔、王岐山(67)が残る奇策もあり得る。

 「ポスト習」の有力候補は、共産党の人材育成組織、共産主義青年団が押す広東省トップ、胡春華(52)だ。

”老人”続投なら次世代の席は減る。焦る胡や孫は、習にこびを売らざるを得ない。

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この夏、元国家主席の江沢民(89)ら中国共産党の長老に数枚つづりの文書が何回か渡された。国家主席、習近平(62)による根回しだった。締めくくりの文言は「正義必勝 平和必勝 人民必勝」。北京の天安門に立った習が、抗日戦勝70年記念の軍事パレードを前に読み上げた演説文だった。

 2回出てくる「日本」の文字の後ろには必ず「軍国主義」が付く。戦前の日本の軍国主義を責める一方、一般の日本人や現日本政府とは区別するという姿勢だ。「一時は強い日本批判が含まれていたが、複雑な調整の結果、削った」。作成の過程を知る党関係者が明かす。それは習自身の判断だった。

 8月14日の安倍晋三(61)の首相談話への反応も同じだった。中国メディアが「直接の謝罪を避けた」と責め立てるなか、中国外務省は直接的な評価を避けた。日中関係の改善・維持を目指す習の意向を反映したおとなしい反応に、「すわ安倍訪中か」との期待さえ広がった。

 実態は違う。不満を表に出さないだけで党中枢に近いほど談話への不満は強い。根強い対日強硬論の抑え込みにはリスクがあった。習は軍事パレードによる権力固めを優先し、安倍訪中の準備を指示しなかった。8月中旬、中国政府は首脳が参加する可能性がある国の大使館員を集め、式典の警備体制を説明した。日本は呼ばれなかった。

 9月3日夜、駐中国大使の木寺昌人(62)はテレビにくぎ付けになった。戦勝記念行事を締めくくる「文芸の夕べ」の舞台だ。各国首脳を前に血まみれの多数の女性が恨みを込めた表情で立ち上がる。「南京大虐殺」を再現した演出で、背後には「300000」と中国が主張する犠牲者数が浮かび上がった。

 舞台内容は各国代表団に伏せられていた。訪中実現なら安倍も見る可能性があったが、予想外の構成だ。「首相が来ないで正解だった」。日本大使館ではため息交じりの声が漏れた。

 権力基盤を固めつつある習も反日を消しきれない。一定の配慮までが限界だ。中国は歴史認識や領土を巡るカードを手放さない。関係改善に向かっても尖閣諸島の領海への侵入は続く。中国でのスパイ容疑による日本人拘束事件も対日圧力に映る。

 米ニューヨークの国連総会に出席した安倍と習は結局、首脳会談はおろか、立ち話もせず米国を離れた。緊張の中で協力を探る関係は、中国内の闘いと絡みながら続く。(敬称略)

10/3記事

9月中旬、米国に14年も潜伏した汚職絡みの中国人容疑者がチャーター機で中国に降り立った。米側が引き渡しに応じたのだ。1週間後、米中首脳会談を終えた国家主席、習近平(62)は「厳格な共産党の統治を進める」と自らの反腐敗運動を宣伝した。公安当局も高飛びした犯人を連れ戻す「狐(キツネ)狩り」作戦に没頭する。中国の内政が米国に持ち込まれた形だ。

 米中間には犯罪人引き渡し条約はない。協力度合いは米のさじ加減で決まる。焦点は米国に逃げた令完成の扱いだ。兄は汚職理由で失脚した令計画(59)。前トップ、胡錦濤(72)の側近だった。新華社の記者経験がある令完成が持ち出したとされる指導者絡みの機密情報が暴露されれば習の痛手になる。

 令完成引き渡しを狙う習指導部は、中国外務省の若手エース、劉建超(51)を引き抜き、国家腐敗予防局と中央規律検査委員会の国際協力の責任者に据えた。「中国の反腐敗はますます国際社会の支持を得ている」。重圧を受ける劉は、米国から容疑者が着いた空港で米中協調を演出してみせた。

 日本も他人ごとではない。中国メディアは京都に「令氏の豪邸」があると報じた。中国系企業が令計画の家族への贈り物として巨額で購入したとの示唆だ。中国人観光客の間では有名で、記念撮影の場にもなった。

 今回、ニューヨークで習が泊まったのは名門ホテル、ウォルドルフ・アストリア。歴代米大統領が国連総会の定宿とし、各国首脳と会う重要な外交の場だったが、急成長した中国の保険会社、安邦保険集団に買収されたばかりだ。当然、米大統領のオバマ(54)や首相の安倍晋三(61)は宿泊を断念した。中国のサイバースパイを問題視する中、リスクは冒せなかった。

 安邦保険を巡っては、果敢な報道で知られる広東省の有力紙、南方週末が1月、高級幹部の子弟「太子党」人脈との関わりを詳報し、物議を醸した。元帥だった陳毅、鄧小平の一族の利権を暗示していた。南方週末は反腐敗に聖域はないとする習のスローガンを逆手にとった。だが結局、謝罪に追い込まれた。

 習の基盤である太子党は一枚岩ではなく、習との距離も様々だ。それでも太子党には勢いがある。安邦保険など米に浸透する中国マネーは国連外交の様相さえ変えた。(敬称略)

 中沢克二、大越匡洋、中村裕、阿部哲也、永井央紀、原島大介、柏原敬樹が担当しました。

10/2ダイヤモンドオンライン 北野幸伯『国連総会でプーチンが見事復活!シリア・IS問題で形勢大逆転』について

アメリカは「アラブの春」で中東に混乱を齎した張本人なのに、オバマにはその自覚がないようです。フセインやカダフィだって独裁政治と言われながら、女性の教育についてはしっかりやっていたとのことです。パキスタンではイスラム原理主義者が蔓延ったため、マララはタリバンから銃撃を受ける羽目になりました。

シリアやイラクからの難民問題も言って見れば、アメリカが「独裁政治打倒」を旗印に反体制側に武器と資金援助をしたために起きた問題です。援助を受けた側はやがて反米になり、アルカイダやISとなりました。アメリカが起こしたトラブルで欧州が迷惑を蒙る構図です。確かに欧州にとってはウクライナ問題よりは難民問題が大きくなってきているでしょう。独・ニーハイム市では市営住宅に入っていた市民が難民のため住宅を追い出されるケースも出てきました。これは逆差別では。納税者の市民が難民の生活保護の犠牲になるのではたまりません。どこまで忍耐できるかです。

米ロが関係を修復することは日本にとっても都合の良いことです。世界制覇の野心を隠さずに着々と手を打ってきている中国の封じ込めにプラスになりますし、ロシアとの領土問題解決、平和条約締結への足がかりになります。安倍・プーチン対談もやりやすくなります。プーチンも心の底で中国を信用している訳ではありません。中国との国境問題が解決しても、広く国境を接し、シベリアに大量の中国人が入ってきていることを考慮するとプーチンはシベリアに日本人が投資することを願っていると思います。大清帝国の初期には、満州族は満州に漢民族を入れないようにしていたのに、時代を経る毎にそれが緩み、満州事変後は日本統治の治安の良さで漢民族が入植してきて居ついてしまった歴史があります。東北三省はチベット、新疆ウイグル同様、漢民族のものではありません。プーチンはそれを踏まえていると思います。

記事

「クリミア併合」で「世界の孤児」になったはずのプーチンが復活している。一方、AIIB事件以来、米国と対立を深めてきた習近平の訪米は大失敗。今回は、米中を軸に大きく動き始めた国際政治を解説する。

ローマ法王とインド首相に“完敗” 米国に冷たくあしらわれた習近平

 9月28日からニューヨークで開催された国連総会。オバマ大統領はもちろん、安倍総理や習近平、プーチン大統領など、世界の有力トップが集結し、首脳会談も行われた。世界の首脳たちの言動から、現在の国際政治の流れを読み解くことができる。

 まずは中国。習近平の訪米は、「失敗だった」といえる。米国メディアは、同時期に訪米したフランシスコ・ローマ法王をトップで報道し、習近平は「主役」になれなかった。ホワイトハウス前では、「習訪米反対」の大規模デモが行われ、チベット人などが、中国の「人権問題」を訴えた。(太線筆者、以下同じ)

<一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。

 米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。

 中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。

「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」>(夕刊フジ 9月28日)

 オバマ・習首脳会談の成果は、「サイバー攻撃をやめること」「米中軍の間で不測の事態が起こるのを回避するために対話窓口をつくること」だという。

<今回の合意では、海軍艦船の艦長らに対し、迅速な意思疎通を図りその意図を明確にすることを求めたほか、国家安全保障上の対立に発展しかねない衝突を回避するため、安全な距離を保ち「無礼な言葉づかい」や「非友好的なそぶり」を避けることも定めている。>(CNN.co.jp 9月26日)

 この合意は、両国関係がいかに悪化しているかを示している。つまり、「合意がなければ、軍の『無礼な言葉づかい』『非友好的なそぶり』が原因で、『武力衝突』が起こる可能性がある」のだ。

 同じく米国と仲が悪いはずのロシアはどうだろう?プーチンは9月28日、国連総会で演説。「対イスラム国」で、「国際法に基づいた、本物の幅広い反テロ連合を形成する必要がある!」と熱弁した。

 同日、プーチンは「対ロシア制裁」を主導するオバマ大統領と首脳会談を行った。(安倍総理とも会談した)。約90分続いた会談のテーマは、「シリア、イスラム国問題」と「ウクライナ問題」。「シリア、イスラム国問題」で、米ロの溝は埋まらなかった。プーチンは、シリアのアサド政権を強化することでイスラム国と戦いたい。しかし、オバマは、アサドを政権から追放したいのだ。

 とはいえ、2人の大統領が「会って90分話した」という事実だけでも、米ロ関係は改善していることがわかる。一体、何が米ロ関係を変えたのだろうか?

「イスラム国」の台頭で  ウクライナの停戦が実現した

 米ロ関係が改善した背景には、実は幾つもの“ラッキー”があった。「クリミア併合」は、わずか1年半前に起こった。しかしその後、山ほど事件が起こったので、復習しておこう。

 2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊した。同年3月、ロシアは、ウクライナ領「クリミア共和国」と「セヴァストボリ市」を併合し、世界を驚愕させた。米国は、日本や欧州を巻き込んで、ロシアへの「経済制裁」を発動。4月、ロシア系住民の多いウクライナ東部ルガンスク州、ドネツク州が「独立宣言」。親欧米ウクライナ新政府は、これを許さず軍隊を派遣、内戦が勃発した。

 5月、ウクライナで大統領選挙が実施され、ポロシェンコが当選。7月、「親ロシア派」が支配するドネツク州上空で、マレーシア航空NH17便が墜落し、298人が死亡。米国は即座に、「親ロシア派が撃墜した」と断定。親ロシア派を支援するプーチンも、厳しい批判にさらされた。

 ところが、プーチンは、「意外な存在」に救われる。「イスラム国」だ。米国は14年8月8日、「イスラム国」への空爆を開始した。イスラム国は8月20日、米国人ジャーナリスト、ジェームス・フォーリー氏の殺害映像をYoutubeに投稿。これで、米国世論は沸騰し、「敵ナンバー1」はプーチンからイスラム国に移った。

 14年9月、ウクライナ政府と親ロシア派は、1回目の「停戦合意書」に署名した。理由は、米国の目がイスラム国に移った隙に、プーチンが親ロシア派支援を強化したこと。親ロシア派は快進撃をつづけ、ウクライナ軍は敗北寸前になっていた。ポロシェンコは、「停戦」するしか選択肢がなかったのだ。

 これで一息つけたプーチンだったが、「経済面」はかなり厳しかった。制裁の影響も、もちろん大きい。それ以上に、「原油価格とルーブルの暴落」は、ロシア経済に大打撃を与えた。原油価格は、14年夏時点で1バレル115ドル(北海ブレント)だったのが、同年末には50ドルを割った。

 ルーブルは、夏時点で1ドル35ルーブルだったのが、年末には60ルーブルまで下げた。14年の国内総生産(GDP)成長率は0.62%で、かろうじてプラスだった。しかし、今年は、09年以来はじめてのマイナス成長になることが確実視されている。

 さて、15年2月、2度目の「停戦合意」がなされた(つまり、14年9月の合意は破られていた)。今回は、ロシアのプーチン、ウクライナ・ポロシェンコ、ドイツ・メルケル首相、フランス・オランド大統領が直接協議して、合意に至った。この停戦は、一応現在もつづいている。

 ロシアとウクライナが停戦したい気持ちはわかる。しかし、なぜドイツとフランスは、停戦に動いたのか?答えは、以下の記事である。

<〈ウクライナ〉政府軍に武器供与検討 米大統領、独首相に

【ワシントン和田浩明】オバマ米大統領は9日、ホワイトハウスでドイツのメルケル首相と会談した後に共同記者会見し、ウクライナ東部で支配地域を広げる親ロシア派武装勢力に対する政府軍の防衛力強化を支援するため、殺傷能力のある武器の供与を検討中だと明言した。>(毎日新聞 2月10日(火)11時37分配信)

「AIIB」事件で米国の敵No.1は  ロシアから中国へシフト

「米国は、ウクライナ軍に武器を大々的に供与することで、戦争を激化させようとしている」――メルケルとオランドは、そう疑ったのだ。戦争が拡大、激化すれば、戦場になるのは(米国ではなく)欧州である。独仏は、あわてて停戦に動いた。

 米国は当初、この合意をぶち壊したかったようだが、ある「大事件」が起こり、方針を転換する。「ある大事件」とは、「AIIB事件」のことである。英国は3月12日、米国の制止を無視し、中国主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)のへの参加を表明する。他に、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、米国と緊密な関係にあるはずの国々も、相次いで参加を決めた。

「親米国家群が、米国の不参加要請を振り切り、AIIBに参加する」

 このことは、米国の支配層に大きな衝撃を与えた。「誰もいうことを聞かない国」(この場合米国)のことを、「覇権国家」と呼ぶことができるのだろうか?米国の「リベラル派」は長年、「中国は米国が作った世界秩序内で影響力を拡大したいだけだ。それ以上の野心はない」と主張してきた。しかし、「AIIB事件」で、その「神話」は崩壊した。

 なぜなら、中国は、「米国の体制の『外』」に「新たな国際金融機関(AIIB)をつくる」のだから。これで、中国は、米国の「仮想敵ナンバー1」に浮上した。

 同盟国、親米国家群が軒並み米国を裏切る中、「AIIB不参加」を表明したのが、わが国日本だった。安倍総理は4月29日、米議会で「希望の同盟演説」を行い、大成功を収める。GDP世界3位の日本の力強い支持を得て、米国は「中国バッシング」を開始した。それが、いわゆる「南シナ海埋め立て問題」である。

 中国は埋め立てを13年からはじめていたが、米国は突如これを問題視しはじめたのだ(日本にとってはよいことだが)。米中関係は、急速に悪化し、「米中軍事衝突」を懸念する声まで出始めた。

<米中激突なら1週間で米軍が制圧 中国艦隊は魚雷の餌食 緊迫の南シナ海

 南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。

 軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。>(夕刊フジ 5月28日(木)16時56分配信)

 その後、両国の対立はおさまったように見えるが、「米中対立そのもの」は、「長期化する」と見ていい。

 米国が、「南シナ海問題」をネタに「中国バッシング」を開始しはじめたころ、ケリー国務長官は、モスクワを訪問している。要するに、「中国叩き」をはじめたので、「ロシアとの和解」に動き始めたのだ(中ロと同時に戦うのは愚策なので、ロシアと和解して、中国と戦う)。

<露訪問の米国務長官、ウクライナ停戦履行なら「制裁解除あり得る」

【AFP=時事】米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は12日、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相とそれぞれ4時間、合わせて8時間に及ぶ会談を行った。

 その後ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。>(AFP=時事 5月13日(水)7時13分配信)

ロシアとの和解に動く米国  中ロの結束が崩れるのも時間の問題か

「制裁を解除することもあり得る」という言葉がケリーから出たことは、多くのロシア人を驚かせた。

 両国は、まず「利害が一致する問題」から協力を開始する。それが、「イラン核問題」だった。米ロは協力して、長年の課題だった「イラン核問題」を解決した。

<〈イラン核交渉〉最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除

【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。

 イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。>(毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信)

 次に米ロ共通の課題になったのが、「イスラム国」である。米国もロシアも、「イスラム国は大問題」であることで合意している。しかし、オバマは、シリアのアサド政権を支持できない。 

 なんといっても彼は13年8月、「化学兵器を使用したこと」を理由に、「シリア(アサド政権)を攻撃する」と宣言した過去がある(後に戦争をドタキャンして、世界を驚かせた)。

 一方、プーチンは、「アサド政権を支援し強化することで、イスラム国と戦わせる」戦略をとる。プーチンは、「イスラム国と戦うために、シリア(アサド政権)、イランを含む『幅広い反テロ連合』をつくろう」と提案している。米国は反対しているが、プーチンは、たとえ単独でも「アサドを助けてイスラム国と戦う」決意を示した。

 そして、ロシアは9月30日、シリア空爆を開始した。

 彼の目的は、ウクライナの親ロシア・ヤヌコビッチ政権を守りたかったのと同じである。つまり、親ロシアのアサドを守りたいのだ。このまま放置しておけば、アサドは必ずイスラム国にやられてしまう。問題は欧米がどう出るかだ。筆者は、大きな反対は出ないと思う。

   まず米国。米国には、3つの大きな敵がいる。中国、ロシア、イスラム国だ。「AIIB事件」後、米国にとって、中国が最大の敵になった。それでロシアと和解に動いているのだが、それでも「敵は敵」である。そして、イスラム国も敵だ。

 米国の敵であるロシアとイスラム国が戦う。表向きはどうあれ、米国にとってこんなおいしい状況はない(しかし、表面的にはイザコザも予想される。米国は、ロシアが「『イスラム国』ではなく『反アサド派』を空爆している」と批判している。ロシアから見ると、「イスラム国」も「反アサド派」も、両方「反アサド」という意味で「同じ穴のムジナ」である。そして、米国が、支援している「反アサド派」への空爆でロシアを批判するのも、また当然だ)。

 では、欧州はどうだろうか?欧州からも強い反対は出ないだろう。なぜなら、欧州は今、シリアからの大量難民問題で苦しんでいる。難民問題を根本的に解決するためには、イスラム国を退治し、シリアを安定化させるしかない。

 しかし、それを自分でやると大金がかかる。プーチンは、「俺がやる」と手を挙げてくれた。だから、表向きは批判しても、「プーチンにやってもらおう」と思っていることだろう。

   いずれにしても、世界は今、「米中対立」を軸に回りはじめている。米ロが和解に向かえば、中ロの結束も自然と崩れていくだろう。こういう構図は、「尖閣・沖縄」を「自国領」と主張する中国と対峙する日本にとっては、極めて都合がいい。

10/1日経ビジネスオンライン 鈴置高史『「中国の尻馬」にしがみつく韓国 「もう、中国がアジアの盟主だ」』について

韓国の世界を視るセンスのなさは歴史的な物です。中国の属国が長かったからでしょう。そういう自覚すらない可哀想な民族です。日本が第二次大戦中、「ドイツが世界を牛耳る」と思ったに似て判断が間違っているでしょうと思わざるを得ません。中国がスパイ容疑で邦人2人を逮捕したというのですから、普通に考えますと反日教育している国は危ないと思わないと。北と南が戦争になった時に日本は韓国の同意がない限り、在韓邦人の救出はできないようです。まあ、犠牲が出ても仕方がないということでしょう。日本人はこういう韓国人の態度が許されますか?韓国人が都合のいいときだけ「助けてくれ」というのは止めてほしい。企業は在留韓国の日本人は早く日本に帰すべき。在中日本人も。

中国でのスパイ容疑で捕まった2人は公安調査庁から依頼されたとのこと。こんなトウシロを使ってスパイ活動ができる訳もなし。中国の対応は過剰でしょうけど。でも日本のインテリジェンス部門のレベルの低さにはあきれ返ります。小生が以前に北京在勤時代、関西の警察から「中国の実態が聞きたい」と電話があり、余りの脇の甘さに唖然としてお断りしたことがありました。当然でしょう。中国は盗聴が当たり前なのに、その自覚もなく、電話で協力を要請するなんて情報機関としてはあるまじき話です。日本が弱体化していると思いました。

日韓通貨スワップがなくなったのは勿怪の幸い。絶対日本に言い寄って来ないのを祈ります。でも慰安婦に代表されるように恥を知らない民族ですから言ってくる可能性はあります。言って来たら「世界に従軍慰安婦は間違いでした。日本の朝日新聞を信じたのが間違いでした」と韓国が言わない限り、国民の税金を使わせるのは許すまじです。

中国は「胸が厚い」だけではありません。少なくとも韓国人と比べればずる賢さでは上を行くでしょう。小生中国在勤時代、煙台出張時、ホテルでデポジットを要求されました。今までなかったことなので、「何故?」と聞いてみると「韓国人が不況で家賃も払わず夜逃げしたので、日本人と雖も保証がないと」との返事でした。何を偉そうに「ウリジナル」なんて言っているのかと言う気がします。中国人だって韓国人は全然信じていないと思います。「手先」で使うに充分と思っているだけでしょう。本当に愚かな民族と付き合うことはしない方が良いと思います。

記事

(前回から読む)

 「中国がアジア金融の盟主になる」と主張する記事が韓国主要紙に載った。中国発の金融危機までが懸念されているというのに。

次の救世主は中国

—前回は、韓国はなぜ、あれほど中国に突っ込んでしまうのか、との質問で終わりました。中国経済は大きく揺れています。

鈴置:それに関連、興味深い記事が中央日報に載りました。これを読んだ日本の金融専門家は一斉に「韓国はいったい何を考えているのだろう」と驚きました。

 「米国が利上げすれば、中国がアジアを掌握?」(9月15日、日本語版)です。この記事は無署名ですが、原文の韓国語版(9月13日、中央SUNDAY 第444号)を見ると、書いたのは中国経済金融研究所長の肩書を持つ、チョン・ビョンソという韓国人エコノミストです。

  「今、世界が直面する金融危機により、米国のドルによる支配は終焉する」と主張した記事で、結論部分を要約すると以下です。

  • (前回、金融危機の発生した)1998年と2015年のアジアの状況は異なる。今後、米国の利上げによってアジアからドルが流出し金融危機が発生すれば、救世主は米国と国際通貨基金(IMF)ではなく、中国だ。
  • 中国が、その3兆5000億ドルの外貨準備を使って貸し出し枠を作ればアジアを支配できる。これまでアジア諸国は代案がないため、しぶしぶ米国のドルを受け入れてきた。が今回、アジアは米国を捨てて中国に走る可能性がある。アジアの金融の盟主が代わるのだ。

張子の虎の中国経済

—ユニークな見方ですね。

鈴置:世界の基軸通貨としてのドルに対し、不信感が高まっているのは事実です。2008年の世界同時不況の際も「ドルに代わる世界通貨が必要だ」との意見が出ました。

 でも、年内にも予想される米利上げを機に、直ちに中国が米国に代わってアジアの金融を支配する――というのは相当に大胆な意見です。

 「盟主になる」中国経済こそが大きく揺れています。7月以降、株価は暴落しましたし、人民元も売られています。そもそも、「アジアに貸し出す3兆5000億ドルの外貨準備」なるものに疑問符が付いているのです。

 日本経済新聞の滝田洋一編集委員は「中国3.6兆ドルの外準マネーは張子の虎か」(9月2日、日経電子版)で、中国の外貨準備に関し、以下のように指摘しています。

  • 「外準のうち、運用先の見当がつかない分が、少なく見積もっても1兆ドル程度はある」と、ベテランの市場エコノミストはいう。
  • 市場関係者が気をもむのは、ソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド)などに、外準マネーが流れていることだ。直近ではシルクロード基金(SRF)やアジアインフラ投資銀行(AIIB)の元手ともなっている。
  • 中国はアフリカや中南米で資源開発投資のアクセルを踏んできた。外貨準備がこうした開発投資に振り向けられているとしたら、どうだろう。開発・採掘コストの高いこれらの案件は、最近の国際商品相場の崩落で火を噴いているはずだ。投入した資金も、相当額が焦げ付いていると思われる。
  • 中国の外貨準備や人民銀行の外貨資産も、水増しされた張り子の虎ということになる。中国の外貨準備の中身をめぐる疑惑が、新たな金融危機の火種になりはすまいか。

7%成長は本当か

—1兆ドルも怪しげな投資に使ったとすると「真水」――いざという時に使えるまともな外準は2.5兆ドルということですね。

鈴置:しかも8月末時点の外準は3兆5573億ドルと、8月の1カ月間で939億ドル――1000億ドル近くも減ったのです。韓国の外準の4分の1に相当する額です。ピークの2014年6月末の3兆9932億ドルと比べると、14カ月で4359億ドルも減っています。中国人が母国を見限り、人民元を売っているのです。

—日本経済研究センターが「中国の本当の成長率は政府発表よりも相当に低い」と言っています。9月29日の日経新聞で読みました。

鈴置:中国政府は2015年第2四半期に年率で7.0%成長したと発表したけれど、鉄道貨物輸送量や銀行貸し出しの伸びから見て、実際は4.8%から6.5%の間に留まった――と日経センターは推計しました。

 また、2013年夏頃から中国の公式発表が日経センターの推計値を大きく上回るようになった、とも分析しています。世界のエコノミストの間でも「中国の粉飾」が常識化しています。今や、公式発表数値を信じる人はほとんどいないでしょう。

韓国は属国に戻るつもりですか

—世界同時株安の震源地にもなったというのに、なぜそれほど中国経済を賛美する記事が韓国の新聞には載るのでしょうか。

鈴置:自分が買った商品の問題点から目をそらす消費者と似ています。判断の誤りを認めたくはないのでしょう。

 韓国人は「落ち目の米国、浮上する中国」と信じ、国の存続を中国に賭けました。「中国がまずいことになっている」などという情報は耳に入れたくないのです。

 例えば、8月に外準が1000億ドル近くも減ったニュース。発表翌日の9月8日に日経は2面で、フィナンシャル・タイムズ(FT)は3面で報じました。が、韓国のメディア――経済紙も含め、ほとんど報じませんでした。

 そして、その1週間後に日本の金融専門家らは中央日報の日本語版で「中国がアジアを支配する」との記事を読んで、腰を抜かすほど驚くことになったのです。

 その中には「日本の一部メディアは中国経済を悲観的に報じ過ぎる」と語る人もいます。そんな人でさえも韓国紙の中国絶賛には首を傾げたのです。ある金融専門家からは「韓国は中国の属国に戻るつもりか」と聞かれました。

目下の日本からドルは借りない

—属国回帰ですか?

鈴置:この記事は最後のくだりで、アジアの国がドル不足に陥ったら今度は米国ではなく中国から借りる――と書いています。筆者がどう考えているかは分かりませんが、実際には「アジアの国」とは韓国だけを指すことになるでしょう。

 なぜなら、東南アジア諸国連合(ASEAN)や南アジアの国々は日本と通貨スワップを結んでいますから「中国を頼る」必要性は薄い。

 「『目下の日本』からはドルを借りない」で書いたように、韓国だけが「日本からは借りない」と大見えを切って、中国との人民元スワップに頼ることにしたのです(表「韓国の通貨スワップ」参照)。

韓国の通貨スワップ(2015年9月30日現在)

Korea's swap

 

 

<注>CMI(チェンマイ・イニシアティブ)はIMF融資とリンクしない場合は30%まで。

資料:ソウル新聞「韓国の経済体力は十分」(2015年2月17日)

新しい兄貴がいる

—この記事は韓国という特殊ケースを「アジアの国」と拡大している点がまず、怪しいのですね。

鈴置:そのうえで、米国が金利を下げ、韓国が通貨危機に陥りそうになっても「日本はもちろん米国にも頭を下げないぞ。俺にはもう、もっと頼りになる新しい兄貴、中国があるからな」と筆者は肩をそびやかしたのです。

 だから日本のある専門家が「韓国は中国がこんな状況にあっても金融で中国一点張りを決めた――属国に戻ることを決めたのか?」と聞いてきたのです。

—本当にそう考えているのでしょうか。

鈴置:書いているのは1人のエコノミストに過ぎず、韓国政府の意思とは言い切れません。しかし韓国には「中国に賭ける」空気が未だに濃いのです。

 米国の強い反対を押し切って、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は北京での抗日式典に参加しました。「中国ブロック」に鞍替えしたと世界から認定されるのも覚悟の上でしょう(「韓国は『帰らざる橋』を渡る」参照)。

人民元スワップは頼りになるか

—「新しい兄貴」は頼りになるのでしょうか。

鈴置:いざという時に中国が貸してくれるのは人民元。韓国の外国に対する負債の相当部分はドル建てですから、返済するには人民元をドルに替える必要があります。切羽詰まった状況で、ドルへの転換が間に合うか、疑問視する人が多いのです。

 一部の専門家は「人民元が売られる中、中国が韓国へのスワップ発動を嫌がるのではないか」と見ています。なぜなら、韓国が中国から借りた人民元をドルに転じれば、巨額の人民元売りが発生するわけです。

 ただでさえ人民元売りに苦しみ、外準のドルを使って防戦している時です。韓国からのスワップ発動要請は中国にとって、はなはだ迷惑なのです。

 もちろん「約束通り中国は韓国に人民元を貸してやるだろう。減ったと言っても外準の『真水』は2.5兆ドルあるのだし、何よりも大国の面子がかかっているのだから」と言う人もいます。

 ただ、スワップを発動するにしろ、中国は何か条件を付けるかもしれません。例えば最近、韓国に要求し始めた「米韓合同軍事演習の中止」とか。これを実行させれば、米韓同盟に相当大きなヒビを入れられますからね。

人口オーナスは今年から

—やはり、韓国の現実認識は甘いのですね。

鈴置:ええ、現実から相当にずれていると思います。もちろん、冒頭で紹介した金融面での「離米従中」を宣言した記事は極端な例です。中国株が下がった後は、韓国紙も「中国経済変調」と報じ始めました。

 ただ、記事のほとんどが短期的な失速と捉えています。構造的な問題であり、対策が困難な「少子高齢化」の症状が中国経済にも出始めた、といった視点の記事はほとんど見当たりません。

 日本総研の大泉啓一郎・上席主任研究員が作成した「日中韓の高齢化率の比率」(グラフ1)をご覧下さい。中国も急ピッチで高齢化が進んでいます。

グラフ1:日中韓の高齢化率の比較

Chaina working peaple-1

注:65歳以上の高齢者が7%以上を「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」といい、高齢化の進み具合を示す目安になっている

出所:国連「World Population Prospects:The 2010 Revision」から大泉啓一郎氏作成

 

 

 

 

グラフ2「日中韓の従属人口比率の推移」は中国が2015年から「人口オーナス」の時期に突入することを示しています。つまり少なくとも計算上は今年から、少子高齢化によるマイナス面が顕在化するのです。

グラフ2:日中韓の従属人口比率の推移(中位推計)

china working peaple-2

注:従属人口比率は0~14歳と65歳以上の人口の比率

出所:国連「World Population Prospects:The 2010 Revision」から大泉啓一郎氏作成

 中国経済はこれから基礎体力が衰えていく可能性が高い。というのに国威発揚を狙って人民元のレートを高めに設定してしまい、景気が悪くなった。

 内需も伸びないので、巨額の建設投資によりアクセルを一気に踏んだ。しかし、すぐに限界に直面した。そこで株高を演出し、景気に点火しようとして失敗した。

 この危うい構造に気がついた国民は、手持ちの人民元をどんどんドルに替えている――というのが中国の現状でしょう。

 これが世界の普通の見方です。でも韓国紙は、こうした分析をほとんど書きません。「中国の懐に入ることで経済成長を実現する」という国家戦略が足元から崩れてしまうからです。

胸の筋肉だけ厚い中国

—中国経済の長期停滞論は一切、言及されないのですか?

鈴置:ごくまれに語られます。朝鮮日報の宋煕永・主筆が「G2の中国、本当にNo.2なのか」(9月5日、朝鮮語版)を書きました。結論部分を訳します。

  • 先月の人民元暴落を通じて、政府が為替を強引に調整しているとの事実が満天下に公開された。「やはり中国の(先進国への道のりは)遠い」との評価と同時に「胸の筋肉は厚いが頭は足りない」「自動車免許でジャンボジェットを操縦する国」との印象を植え付けた。一部の研究所からは「中国の溶解」(China Meltdown)との厳しい分析も出た。
  • さらに深刻なのは内部の不満だ。階層間の二極化、都市・農村間の貧富の格差の中で、株価と不動産価格が暴落した。政府の対策が信認を受けたとは言い難く、国民の不満は膨れるしかない。成長率は低下している。企業も地方政府も債務の山に埋もれている。一人っ子政策の影響で、世界で最も急速に高齢化が進んでいる。
  • この中、朴槿恵大統領が天安門から史上最大の人民軍パレードを見学した。米国との同盟を思い浮かべ眉をひそめる人もいる。しかしそれよりも、我々は中国経済の先行きをまず考えなければならない。株式会社大韓民国の貸借対照表では、多くの項目が中国の未来に従い変化するからである。
  • 苦労が今後2-3年間で終わるか、10―20年間の長期の低迷に陥るかは、今後の中国次第だ。ただし、党主導の統制経済がもはや限界点に到達したことだけは明らかになった。中国が米国になるのにはまだ時間がかかる。

高齢化と金融危機

 しかし、宋煕永・主筆のように「20年もの長期停滞に陥る可能性」を指摘する人は韓国ではまれです。普通、こうした新しい視点には提灯が付いて、誰かが似たような記事で追い掛けるものです。

 でも、1カ月近く経っても宋煕永論文は孤立したままです。こうした見方はなかなか主流になりません。

 実は宋煕永・主筆は、少子高齢化による韓国の長期停滞を真っ先に指摘した人でもあります。4年半前の「不動産政策にあぐらをかく政治」(2011年3月26日、韓国語)で、激しく警鐘を鳴らしました。非常に興味深い記事なので要約します。

  • ハーバード(Harvard)大のマンキュー(N.Gregory Mankiw)教授は、生産年齢人口(15~64歳)の減少が住宅価格の下落に大きな影響を与えると予測した。ただその後に米国の住宅価格が上がったため、彼は嘲笑された。
  • しかし2008年、ベビーブーム世代の引退とともに米国は金融危機を経験した。これにより長い目で見れば、人口構造の変化が住宅価格に及ぼす影響が少なくないことが知られるようになった。
  • 韓国がその時期にさしかかっていることを認識すべきである。ベビーブーム世代の710万人の引退が本格化している。生産人口は今後4~5年後に頂点を付けた後、下り坂に転じる。
  • 青瓦台(大統領府)や与党のハンナラ党、建設業界は「不動産はいつかは上がる」との信仰に陥っている。日本のように20年間以上にわたって低迷し得るとの現実を信じない。
  • 日本でも生産人口の減少が始まる1995年の4~5年前から不動産価格が暴落した。政治家たちは、不動産活性化策で選挙に勝とうとの妄想を捨てるべきだ。

老化は直視したくない

—4年半前に「韓国の今」を言い当てた記事ですね。

鈴置:でも、この不都合な警告に誰も耳を貸さなかった。最近になって、専門家の間でようやく少子高齢化問題が議論されるようになりました。しかし韓国政府が現実を直視しているとは言い難い。

 相変わらず景気対策というと住宅市場の活性化策頼みです。少子高齢化に対応した社会の仕組みを、本腰を入れて作ろうとするわけでもない。

—なぜでしょうか。

鈴置:日本もそうでしたが、成長するのが当然だと長い間考えてきた人々が、衰退を想像するのは極めて難しい。50歳になって体力が衰えても、それを老化とは認めたくない心情と似ています。

日本に勝った!

—でも韓国には日本とは異なって、隣に悪しき先行例があります。それを見れば……。

鈴置:私もそれが不思議で韓国人に聞いてみたのです。面白い答えが返って来ました。「韓国では『日本に追いついた、勝った』と皆が万歳をしている。そんな時に『日本みたいになるぞ』という話は聞きたくないのだ」そうです。

 中国の長期停滞への認識もそれに似ています。韓国人はいち早く「落ち目の米国、浮上する中国」と見切って「離米従中」した。「情勢判断が遅く、中国と関係を悪化させた」日本人に対しては「俺の後ろには中国がいるぞ。どうだ、怖いか」などとそっくり返っていた。

 それを今さら「中国の成長は限界に達したかも知れない」とは言い出しにくいのです。ここでも「日本に勝った!」と快哉を叫んでいたのですから。

ウェイト・アンド・シー

—韓国人が日本に強烈なライバル心を持つのは分かります。でも、世界観までも「勝った、負けた」の対象にするというのは信じられません。

鈴置:19世紀に「西洋の衝撃」に直面した時、日本人はいち早く適応し、開国し西欧文明を導入してアジアで先頭に立った。しかるに我々は世界の変化を読み誤り、旧弊にしがみついて植民地に転落した――と韓国人は信じています。だから「今度は勝った」のです。

 前回、保守運動の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が「ヒトラーと心中した日本」になぞらえて現在の韓国を憂えていることを紹介しました。

 1940年4月、ドイツはデンマークとノルウェーを急襲し占領しました。5月にはフランスも席巻しました。この快進撃を見て日本では「勝ち馬のドイツに乗ろう」との意見が大勢を占めるに至ったのです。

 同年9月には日独伊3国同盟を締結。しかしまだ、この時点では対米戦争を避け得る余地がありました。

 趙甲済氏も記事で引用した、大本営・陸軍参謀の瀬島龍三氏の『幾山河』によれば、無傷の連合艦隊を維持しながら、欧州での戦争の帰結を見守る「ウェイト・アンド・シー」を説く高級参謀もいました(文庫版では114ページ)。

大日本帝国の失敗

 しかし大日本帝国の陸海軍ともに「軍事情報の収集に重点を置き、政治、経済を含む総合的な国力の判断をおろそかにした」結果、対米戦争に踏み切ってしまった、と瀬島氏が回顧していることは前回に紹介した通りです。

 趙甲済氏は親米保守であり、勝った方に付こうと考える「米中二股派」ではありません。しかし「仮に二股をかけるにしろ、もう少し腰を据えて状況を見極めろ」と言いたいのでしょう。

 大日本帝国の「無傷の連合艦隊」は現在の韓国にとって「米韓同盟」に相当します。朴槿恵政権はそれを危険にさらしているのですから。

—要は韓国も、冷静な判断をおろそかにして「中国が米国をしのぐ」と決めつけて動いた、ということですね。

鈴置:ええ。それに、ものごとには「勢い」というものがあって、「ウェイト・アンド・シー」でいかねば、と理屈では分かっていても、そんな地味な道を選ぶのは難しいのでしょう。

平和を願う中国共産党

—韓国は今からでも米国側に引き返せませんか?

鈴置:難しいと思います。隣の超大国、中国はとても強い引力を持ちます。米中間で等距離を保つのも、国民1人1人がよほどの覚悟を持って中国に立ち向かう決意を固めて、初めて可能です。

 口先で「等距離」とか「二股」なんて言っている限り、中国にどんどん引き寄せられて行きます。

 9月3日の抗日式典に参加した潘基文(バン・キムン)国連事務総長が習近平主席と会いました。韓国の外相も務めた外交官僚出身で、2017年12月の次期大統領選挙への出馬が噂される人です。世論調査で「次期大統領にふさわしい人」を聞くと、1位に選ばれることもしばしばです。

 人民網の「習近平主席が潘基文国連事務総長と会談」(9月4日、日本語版)によると、潘基文氏は習近平主席に対し、以下のように語っています。

  • 本日午前に行われた中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利70周年記念大会は大変素晴らしかった。中国の人々は反ファシズム戦争の勝利に大きな犠牲を払い、重大な貢献をした。
  • この行事によって、平和を守るという中国の人々の願いが存分に示された。中国は長年にわたって国際平和・開発事業に積極的に尽力してきた。

—「平和を守るという中国の願い」ですか。なるほど、韓国が引き返せるとは、とても思えませんね。

鈴置:韓国は「中国の尻馬」にしがみつくしかなくなったのです。

9/30日経ビジネスオンライン 福島香織『習近平訪米、成果喧伝の裏側で…冷淡さ際立つ米国は中国との「取引」に乗るのか』について

中国は日本のファシズムを打倒したと獅子吼しますが、中国の今の共産党統治はファシズムよりもっとひどいのでは。一党独裁(多数政党を認めず、あったとしても傀儡)、議会制民主主義の欠如(選挙制度無し、あったとしても形だけ)、軍事優先(GDPに占める軍事費の膨張、表の数字にでないものあり、軍事拡張主義)、格差増大(富の平等を目指す共産主義が甚だしい格差を生じる矛盾。経済的自由は認めても政治的自由を認めない為、賄賂が横行、市民の監視が行き届かず)、監視社会(档案による党の監視、密告社会)等。それで中国では次に生まれ変わるなら中国以外の国にというのが64%(2006年「網易」調べ)も出る訳です。日本人は自虐教育のせいで自信を失ってきましたがこんなことはありません。昨年10月の産経新聞記事によれば83%が日本人のままを希望です。http://www.sankei.com/life/news/141031/lif1410310002-n1.html

世界も中国が歴史の改竄・捏造をして日本を貶めているのは知っていますが、日本に対するジェラシーと日本が強くなっては自国が相対的に弱くなるので見て見ぬ振りをしてきました。ここに来て「韜光養晦」から「有所作為」にギアチエンジした中国の傍若無人ぶりが目立つようになり、世界は矛先を中国にむけるようになりました。中国の報道はいつも日本が歴史を改竄・捏造しているという論調ですがこれで彼らはいつも嘘を言っているというのが分かるでしょう。日本人も中国人は平気で嘘がつける民族と言うのを理解しておいた方が良いです。日本人の左翼・リベラルな学者は中国からの金に転んでいるか、マスコミの下請けで金を得ているので、彼らに媚びるため不誠実な論理を展開する人たちが多いという事も踏まえておいた方が良いと思います。

令完成と郭文貴をアメリカが手放すことはないと思います。あのオバマでさえ。彼らだって命は惜しいからアメリカに全部の情報を与えず小出しにしているのでは。殺されたら全部アメリカ政府に情報が行くような仕組みにしているのでは。アメリカも中国のキツネ狩りには相応の防御態勢を敷いていると思います。アメリカは「スノーデンの仇は令完成と郭文貴」と考えているのでは。2700件もの情報を令完成は持っているとのこと。習の取り巻きのセックス映像が流れたらどうなるでしょう。習本人であれば世界に衝撃が走るでしょう。アメリカはこれで習体制の中国を脅すことができます。使う意思があればの話ですが。

記事

 習近平の訪米が終わった。どのような成果があったかをまとめてみたい。

 当たり前ではあるが、これは中国で報道されているのと、中国の外で報道されているのとではかなり温度差がある。米国の報道をみれば、実に低調で、CNN報道など、わざとかと思うくらい、習近平訪米ニュースを無視していた気がする。建前上、国賓待遇のもてなしであったが、政治的外交的成果は?というと、サイバー攻撃問題に関する合意にしても、軍事衝突の回避に関する合意にしても、気候変動協力に関する共同声明にしても、えーっと、だから?というぐらい、さらっとしか報じられていない。劇的に米中関係が改善されたとか、米国の中国に対する疑念が薄まったとか、信頼が深まったとか、ポジティブな評価がほとんどない。

ローマ法王大歓迎、習近平は「恥知らず」

 27日、中国の共同主催で国連で開かれたジェンダーの平等と女性の地位向上をテーマにしたサミットでは、UNウィメンに1000万ドルを寄付したり、女性の権利尊重を中国指導部として打ち出したりと、いいこと言っているのに、ヒラリー・クリントンから「フェミニスト活動家を迫害しておきながら、国連で女性の権利に関する会議を主催だと? 恥知らずな」とツイッターで突っ込まれるなど、冷ややかな反応しか見えてこなかった。実際、習政権は公共交通機関におけるセクハラ撲滅を訴えるフェミニスト活動家を「挑発罪」で不当逮捕して長らく拘束するなど、とても女性の権利重視の政権とはいえない。いいことを口でいっても行動がともなっていないのだから、この反応は仕方あるまい。

 習近平訪米に対する米国のメディアや世論の冷淡さは、ほぼ同じ時期に初訪米したローマ法王フランシスコ猊下関連報道の盛り上がりと対比すると、さらに際立つ。法王は習近平のかなわなかった米議会での演説を果たし、会場は満員御礼。テレビチャンネルのどこを開けても法王ニュース。一方、習近平の国連演説は閑古鳥が鳴いていた様子で、中国共産党に対して意地の悪い香港の蘋果日報がわざわざフランシスコ演説の写真と並べて報じていた。習近平サイドは、法王に話題を持っていかれるのが嫌で訪米日程をずらしてくれ、と内々に頼んだらしいが、オバマサイドは、時間の都合がつかない、ということでその要求を一蹴したとか。ひょっとしてオバマ政権の習近平政権に対する嫌がらせか、と思うほどの格差待遇であった。むしろ、日本メディアの方が、よほど好意的に報じていた気がする。

習近平訪米が米国内であまり話題にならなかったのは、そもそもこの訪米自体が習近平の内政向けメンツのためのもので、米国にとっては、いわゆる大きな外交成果、利益が期待されるようなものではなかったことがある。中国側にとってもオバマ政権はすでにロスタイムに入っていると、あからさまに舐めていたところがあろう。なので、中国にとっての今回の訪米成果は、中国国内でどう報じられたか、その政治宣伝によって、習近平の権力掌握や権力闘争にどういう影響があるかに、本当の意味がある。

「歴史を書き換える成果」続々

 では中国国内ではどう報じられているか。今回の訪米は「歴史を書き換える成果」があったと大宣伝されている。

 まず「米中は新型大国関係を発展させることを再確認し、習近平オバマ会談以降、それは新しい高みに登っていく」(新華社)という。いつの間に、米中の間でそんな確認が行われたんだ、と慌てて会見録をみるも、公式の記者発表では、オバマから一言も新型大国関係という言葉は出ていない。こんな報道をすれば、日本ならば、捏造報道か?あるいは非公開の裏会談があったのか?とメディアに追及されるところだが、中国においては、報道は政治宣伝であるから問題ない。

 中国としては、今回の訪米の最大の目的は、中国の大国ぶりをオバマに見せつけ、中国が米国と対等に付き合える大国である、ということを米国に認めさせ、米国との対等なパートナーシップを国内の政敵に見せつけて権力闘争を有利に運び、「大国米国と対等に渡り合える力強い指導者・習近平」のイメージを大衆に刷り込むためのパフォーマンスである。

 そもそも、「『カイロ宣言』の陰の立役者は毛沢東、ルーズベルトは毛沢東を絶賛」という映画を作り、「中国が米国とともに、反ファシスト戦争を戦い戦後秩序を構築した」といった戦勝国自称など、これまでも好き放題、歴史を書き換えてきたのだから、今さら「歴史を書き換える成果」の一つや二つは珍しいことではない。

新華社の報道によれば、今回の訪米の成果は「政治、経済貿易、人文、気候変動、科学技術、執法、国防、航空、基礎インフラなどの領域49項目においての重要な共通認識を確認。その第一項目が新型大国関係を発展させることの再確認だ」という。

 そして「2013年6月の初会談から双方が新型大国関係の構築に対し重要な共通認識をもち、努力を続けてきた。…2014年11月のオバマ訪中期間に、新型軍事関係に進展があった。…中米新型大国関係は“中国脅威論”に対する有力な反撃力である。…中米新型大国関係は両国民の根本利益にかなう。…」と論評している。

裏テーマは令完成の引き渡し

 次に、大きな成果として喧伝されているのが「人民元の国際化がさらに進んだ」「人民元のSDR加入に対する米国の態度は軟化」である。確かに訪米の目的の一つは、人民元のSDR構成通貨入りへの“お願い”であるが、これは好感触があったということなのだろうか。しかしこれまでの中国の唐突で中途半端な切り下げや、市場ルールより行政指導でコントロールされる金融業界体質をみるに、この調子の人民元が国際通貨になった暁には、国際金融市場はものすごく不安定化してしまうのではないか。それでも米国は中国に花を持たせるのだろうか。

 またオバマが「台湾独立、チベット独立、新疆独立を支持せず、香港事務に介入しない」と確認したことも成果として報じられている。これは米国側の発表には触れられていない。

 ところで公式報道にはないが、この訪米の裏テーマとして注目されていた件がある。米国に逃亡中の実業家・令完成および郭文貴の引き渡し問題である。

 令完成とは、胡錦濤の側近で、権力闘争の犠牲として失脚した元統一戦線部長の令計画の弟である。彼は、令計画から預かった習近平政権の命取りになる国家機密をもったまま米国に逃亡し、8月にはニューヨークタイムズが政治亡命を申請中と、その米国在留の事実を報じている。郭文貴は曾慶紅と親密な実業家で、王岐山のスキャンダルを握ったまま米国に逃亡中とされている。

習近平訪米前に、この二人を含む、“汚職の逃亡犯”の引き渡し要求交渉が水面下で行われていたという。そして、9月21日の訪米直前に東方日報など一部香港メディアで、令完成の中国への引き渡しに米国が応じるとの密約が交わされていると報じられた。日本メディアもこのニュースを転電した。真偽不明とわざわざただし書きするほど、にわかに信じがたい情報だが、確認がとれなくても思わず転電してしまうほど、ショッキングなニュースでもある。

 香港で流れている情報を整理すると、習近平訪米を控えて、重大腐敗事件に関する処理について米中双方で話し合いが行われており、訪米後には、米国への中国人逃亡犯と不法移民の強制送還が実現される見通しという。今年3月の段階で、中国側は米国に返還要求リストを提出。中国側がリストアップしている逃亡汚職犯100人余りのうち約40人が米国に居住し、9月18日、および24日にすでに二人が強制送還されているそうだ。このリストの中に二人の名前ははいっていないが、彼らについては別の窓口で慎重に交渉が続けられていたようだ。

「中国版スノーデン事件」の行方は

 令完成に関しては、中国側は引き渡してくれるなら二つの条件を飲む、と提案したという。一つは令完成が米国に所有する6億ドル相当の資産の返還を求めないということ。二つ目には米国にいる2万5000人の不法移民の引き取りに応じるということ。中央政法委書記の孟建柱が習近平の特使として派遣され、この交渉をまとめた、というのだ。

 このネタ元は、「令完成事件」調査に参与する北京サイドの人物、つまり習近平サイドのリークなので、多分に令計画や胡錦濤サイドら政敵の動揺を誘うフェイク報道の可能性もある。実際、かつて“令完成逮捕”というフェイク情報を香港メディアを通じて流し、抵抗していた令計画一族を追い詰めたこともある。

 令完成が持ち逃げした「国家機密」は、兄の令計画が中央弁公庁主任時代から集めていた政治、軍事、経済、外交、文化など2700件の機密文書、という膨大なもので、「中国版スノーデン事件」とまで呼ばれている。

その中で米国サイドが特に注目しているのは、サイバー攻撃の幹部名簿、米国に潜入している中国側諜報員リスト、対米外交戦略の内幕などだと言われている。習近平サイドが心配しているのは、習近平や王岐山ファミリーの不正蓄財情報、セックススキャンダルのほか、権力闘争の内幕だとか。

 東方日報は、令完成はそれらの機密の一部をすでに米国政府に提供しており、最近出されたランド研究所の「米中軍事スコアカード」リポートには、令完成がもたらした情報も反映されているのではないか、という憶測も報じている。

問われる米国の良心と威厳

 元CIA局員のエドワード・スノーデンは香港に逃亡後、2013年6月の習近平初訪米の際に、インターネット監視システムを使った米国NSAによる個人情報収集手口(プリズム計画)を暴露し、米国の信用と評価を落とし、結果的に中国の対米強硬外交に加担することになった。そのスノーデンを中国当局はロシアに逃がしたのに、米国が令完成を中国に引き渡したとしたら、米国の“良心”が問われることにもなる。中国では、国家機密漏洩は最高死刑判決もありうる重大犯罪であり人道的な問題もあるが、それ以上に、2017年の党大会を控えて激化している習近平と胡錦濤派、共産主義青年団派との権力闘争の行方に重大な影響を及ぼし、おそらくは習近平政権の独裁路線強化に加担する結果となる。

 まさか、そんなことがあるわけがない、というのが大勢の見方なのだが、一部では、(根が親中派の)オバマ政権ならやりかねない、という不信感や動揺が広がっていることも確かだ。

 そんな不信感や疑念が流れてしまうほど米国の国力と威厳がかすんでいることを露呈したのが、中国にとって最大の訪米成果かもしれない。