9/25日経ビジネスオンライン 石黒千賀子『第3回 中国の国家資本主義の考案者は世界銀行 経済力、軍事力を増す中国の戦略を『China 2049』のピルズベリーが明かす』10/2 石黒千賀子『第4回習近平vsオバマ会談は中国の圧勝だった 中国の大国への野望を明らかにした『China 2049』のピルズベリー氏に聞く』について

見逃していました記事です。ピルズベリーは日米のメデイアと違い、米中首脳会談を冷静に見ています。米国が習を冷遇したのは間違いないですけれども、習は譲歩しなかったと評価しています。それはそうでしょう。譲歩したら剛腕の習と雖も主席の座は保てないでしょう。「政権は銃口から生まれる」国ですので。解放軍の中には習を快く思っていないのはたくさんいます。況してや、毛・鄧のように軍の経験がなければなおさらです。

米軍も中国の質問で自軍の弱点を教えるというのは余りにナイーブ、脇が甘すぎです。油断があったのでしょうけど。第二次大戦時に黄色人種が飛行機を操縦できないという思い込みがあったのと同じ人種差別の見方が根底にあったのでしょう。空母同士で実際戦ったことがあるのは日米だけですが。米国人にすれば中国は第二次大戦の連合国側との思い込みがあったにせよ、ソ連の扱いとは違います。騙すことについては天才的かつ賄賂やハニートラップを得意とする民族ですので、米国の中国に対する甘さが、世界に混乱を招くことになりかねません。中国は遅れて来た帝国主義国です。

世銀が如何に中国を応援してきたかは、世銀の前総裁はパンダハガーのゼーリックでしたし、現総裁は韓国系米国人のキム博士と言うことを考えれば、分かり易いでしょう。まあ、米国には日本を戦後支援して民主化に成功したという思い込みがあったのでは。日本は開国を迫られて、議会制民主主義の道を歩んできたのを米国は忘れているのでは。中国と日本では国の進歩の仕方が違うというのが全然分かっていません。でも世銀の指導で国営企業に力を与えた結果、TPPには参加できませんが。

日高義樹氏の『中国敗れたり』によれば、ピルズリーの主張同様、中国軍の装備は政治的プロパガンダで張り子の虎とのこと。過大評価しないことが大切です。A2/ADも空母迎撃用ミサイルの速度が遅くて簡単に撃ち落せるとのこと。それより中国沿岸に、衛星から指示を受けない魚雷入り自動浮上する機雷を敷設すれば、海上封鎖の効果を齎します。中国は海路が使えなくなりますので、陸路で貿易することになります。コストが上がるようになります。況してやアメリカに逆らって中国と貿易することはアメリカと貿易できなくなる可能性もあります。TPPで中国を経済的に封じ込め、ロシアと米国が和解を進め、軍事的にも日米印豪+露で封じ込めるのが世界平和にとって有益です。韓国は臍をかむことになるでしょうが、自業自得です。日本国民は中国の手先になって世界に慰安婦の嘘を撒き散らした韓国民を許すことはないでしょう。

ピルズリーの言うように、一党独裁は続くと思います。軍区のどこかが独立しないと連邦制にはいかない=民主制に移行することはないと考えています。チャイナハンズが望むようにはいかないでしょう。日本とは違う国柄ですので。

9/25記事

—中国が『自分たちを常に実力より低く見せて、注意深く動く』ことで、「米国に追いつけ、追い越せ」の戦略が最も成功したのが経済分野だと本で指摘されました。中国の経済戦略についてあらためてお聞かせください。

ピルズベリー:中国が米国に接近し始めた1969年時点で、中国の経済規模は米国の10分の1に過ぎませんでした。その中国が、今や経済規模では米国とほぼ肩を並べるまでに成長したというのは、ある意味奇跡とも言えるでしょう。

 では、中国はどうやって、ここまで成長できる経済システムを生み出したのでしょうか――。この点については、実は世界銀行が大いなる力を発揮しました。私は多くの世銀の極秘資料を持っており、中国がいかに世銀をうまく活用したかが、その資料を読むとよく分かります。

—世銀が指南役となった?

ピルズベリー:そうです。1972年2月のリチャード・ニクソン大統領による訪中後、75年のジェラルド・フォード大統領の訪中、77年のジミー・カーター大統領の訪中などを経て、78年12月、中国はついに米国との国交正常化にこぎ着けます。そして、この国交正常化とほぼ同時期に最高指導者*1に上り詰めた鄧小平は、82年、83年と様々な改革に着手したものの、改革のスピードが十分でないことに危機感を強めていたようです。そこで彼が目をつけたのが世銀でした。

*1 1976年9月毛沢東死去

1983年、当時、世銀の総裁だった米国人のA・W・クラウセンは中国を訪れ、鄧小平に会いました。先ほどの世銀の資料に書いてありますが、この時、鄧小平は「私たちは米国を超えたい。どうしたら実現できるか教えてほしい」「私たちを助けていただけますか」と発言しています。これに対し、クラウセンは「世銀のエコノミストチームが、20年先を見据えて中国の経済について研究し、どうすれば中国が米国に追いつけるか助言しましょう」と密かに約束しました。

 その時、世銀のスタッフは、「低い経済水準から先進国に追いつき、追い越した国が過去に一カ国だけある。その国は、国民一人当たりの所得が毎年5.5%成長した。だから中国も毎年5.5%成長する必要がある。でなければ、1000年経っても先進国に追いつくことはできない」と指摘しました。

 中国側は「その国はどこですか」と聞いた。どこの国か分かりますよね…。

—日本…

ピルズベリー:米国でもドイツでもなく、日本です。以来、中国は日本がどう経済成長を達成していったのかについても大いに研究しました。一方、世銀は中国に対して、複数のレポートでこんなことを指摘しています。

 「世銀は、基本的に自由市場経済重視の原則で動いている。しかし、中国の経済を民間企業や市場に任せていたのでは、最高のスピードで経済成長を達成することはできない。中国が先進国に追いつくには、5.5%よりももっと高い伸び率で毎年、経済成長することが必要だ。実は、それだけ早く成長する方法があるかもしれない」

1990年には世銀の北京事務所は世界最大規模に

—どういう意味でしょうか。

ピルズベリー:世銀は、中国の各産業分野においてトップクラスの企業を国有のまま育成すればいいと助言しました。それらの企業に対して優先的に補助金を与え、低利で融資を行い、海外から投資させればいい、と。

 また、1985年から20年の間に輸出の構成を変え、特にハイテク製品分野の育成に力を入れること、外国から過剰な借金をしないこと、外国による直接投資は先進技術と経営近代化の手法だけに限ること、貿易会社の関与を段階的に減らして、国有企業が独自に外国と貿易するようにすること、といった提言も出しました。

—つまり、民間に任せていたら、産業の育成に時間がかかりすぎるので、国有企業を育成して政府が直接、資金を提供すればいい、と…

ピルズベリー:そうです。1990年には北京にある世銀のオフィスは世界最大規模となっていました。それほど大人数のスタッフを世銀は北京に送り込んだということです。つまり、世銀が中国のために、全く新しい経済モデルを考え出したのです。

 これは後で知ったことですが、ソ連崩壊後の数年間、実は中国のエコノミストたちの間では経済成長戦略を巡って、世銀の進める戦略で行くのか、市場経済に向けて動き出したロシアや東欧の例に倣うのかを巡って、かなり議論をしたと聞きます。ロシアや東欧では国有企業がすぐ民営化され、価格の自由化も図られました。当時、中国の改革志向派の政治家の中には、ロシアや東欧の民営化・市場化の動きに倣おうとする人々もいたのです。つまり、自由市場と私有財産を認める方向に向かって進むべきか、あるいは政府がコントロールできる国有企業を沢山作って、米国などの先進国から技術支援を受け、もらえないものは盗み取ってでも習得し、とにかく米国に追いつくべきではないかという重要な議論でした。

 結局、周小川氏などの強硬派が勝利を収め、中国のマラソン戦略を支援する世銀と組む方針を維持することになった。周小川はご存じの通り、2003年以降、現在も中国人民銀行(中央銀行)総裁を務めている人物です。

 周氏は、民営化や政治改革を拒み、代わりに協力的な世銀のエコノミストらと共に、中国共産党による支配のもと、国有企業の収益性を向上させる戦略を推進しました。周氏と世銀中国支部長だったピーター・ハロルド氏は、非効率で、組織構造も経営状態もお粗末だった中国の国有企業を変えるべく独自の戦略を描きました。当時、国有企業はどこも赤字で、国営銀行からの借入金で赤字を埋めていました。こうした時代遅れの国有企業を世界に誇れるチャンピオン企業に変えるという大胆な挑戦でした。その支援には、ゴールドマン・サックスといった米国の大手投資銀行なども大いに手を貸したようです。

今や米フォーチュンの世界上位500社の95社が中国企業

 1990年代初め、欧米人が知っている中国企業と言えば「青島ビール」くらいでした。米誌「フォーチュン」は毎年、時価総額で世界上位500社を紹介しています。当然、中国企業は当時、1社も入っていませんでした。「世界上位500社に入る企業を育成したければ、世銀の助言に従えばいい」と聞いた中国は、世銀の助言をすべて実践しました。その結果、ゼロからスタートして、20社、30社と増えていき、今や世界最大の石油化学会社である中国石油化工集団(シノペック、2014年は3位)を筆頭に、中国石油天然気(同4位)、国家電網(同7位)、中国工商銀行(同25位)など2014年には中国企業が実に95社もランクインしています。

—国(共産党)が戦略的国有企業と位置づければ、集中的にその企業に資金を投入でき、効率よく成長させられる…

ピルズベリー:資金だけではありません。上位100社の国有企業の経営者は共産党の中央委員会が決めます。多くは国の諜報機関か軍の出身者で、そのつながりは経営者に就任した以降も生きるわけです。だから一部のCEO(経営最高責任者)を務める者たちは、いろいろな意味で閣僚よりも重要な存在です。

—まさに中国が国家資本主義と言われるゆえんですね

ピルズベリー:そうです。中国は半分だけが市場経済です。規模の小さな企業については、ある意味、市場原理で動いているが、規模の大きい国有企業は政府の方針が優先されるということです。

 ここまで経済分野の説明をしましたが、私がより深刻な問題だと捉えているのは軍事面における中国の動きです。

「米国の弱点を突く」形で軍事力も増強

—年々、軍事力を増強しており、脅威に感じているのは日米だけではありません。

ピルズベリー:中国は「どうしたら米国を怒らせないで、中国を守る軍事力をつけられるか」について様々な検討を重ねてきました。その中で彼らがかねて考えてきたのは「米国の弱点をまず探し出すべきだ。そしてその弱点を突く形で軍事力を増強すればいい」と。その中国が米国の弱点を理解するに至ったのは、1990年代になってからでした。なぜか。それは、米国が自ら大きな過ちを犯し始めたのです。

—どういうことでしょうか。

ピルズベリー:米軍が自分たちのことについて論文を書くようになったのです。まず1991年のイラク戦争後のことです。こんな論文が出てしまった。「米軍がなぜイラクであのような攻撃をできたかというと、米軍は、ターゲットを定めて攻撃するタイプの武器も、通信手段、機密情報のやりとりなども含め、攻撃の90%をわずか数個の衛星を経由して行っている」と。

 中国側はこれらの論文を読んで、「空母を11隻も抱え、何千発ものミサイルを抱えている大国である米国の実力は、数個の衛星にすべてかかっている」という事実を把握してしまいました。以来、米国の軍事力の研究を深めた中国側がある日、私にこう聞いてきました。

 「米ソはどうして互いに相手の衛星を撃ち落とそうとしなかったのか」と。

 米ソ間では、相手の衛星を撃ち落とさないという約束をしていたからだと答えました。そんなことをすれば二国とも大混乱に陥り、自爆行為に等しいと理解していたからです。だから衛星だけは守る必要があるということで合意していたのです。

 ところが2007年1月、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は中国が秘密裏に自分たちの気象衛星を撃ち落として、通信を遮断する実験を行ったと報じました(Flexing Muscle, China Destroys Satellite in Test)。多くの米国の軍事関係者はその10年前には、軍事雑誌などに「中国に衛星を撃ち落とすことなどできない」と書いてあなどっていた。しかし、撃ち落とした実績があるということは、米国の衛星も撃ち落とそうと思えばできるということです。

米軍は自国の空母の弱点を中国に明かしていた

—中国が「秘密裏に行った」というのがなおさら気になります。

ピルズベリー:秘密裏に、というのは各国に事前通告もしなければ、撃ち落とした意図についても一切説明をしていない、ということです。この気象衛星を撃ち落としたことについては話したいことがありますが、その前に米軍の由々しき事態をもう一つお話しましょう。

 中国軍の人たちが、米海軍との交流の一環で米空母を訪問した時のことです。その時、米軍側は「米国の空母はどれも4つの原子炉で動いていて、時速30ノッチと非常に速いスピードで進む。100機の飛行機を搭載できるので、どこへでも行けて、爆撃しようと思えばいかなる国、場所に対しても攻撃することができる」と説明しました。

 すると、空母内を案内されていた中国軍の将校が「素晴らしいですね。私たち中国軍には決してこんなものを造ることはできないでしょう」と言ったうえで、「ただ、もしこの空母にあえて弱点があるとすれば、何でしょうか」と聞いてきた。

 これに対し、米軍将校は「問題はあります。空母の側面は非常に厚みがあるので、いかなる攻撃にも耐えられるが、底が薄い。私たちの空母は、爆弾をすべて底に保管しています。空母には5000人近くの乗員がいるため、そのスタッフから少しでも距離を置くためです」と回答したというのです。

 その後、中国はロシアが「船跡追尾魚雷」という特殊な魚雷を造っていること突き止めたといいます。これは発射されると、空母が通った跡の波である船跡を感知して、その空母の下に入ってから上に向きを変え、攻撃するという魚雷です。

—今の話が何年前のことだったのか分かりませんが、中国は旧ソ連製の空母を購入し、これを改修して2012年に「遼寧」と名付けて配備しただけでなく、同年、上海の造船所で国産空母の建造にも着手し、2020年までに就役させる計画といいます。軍事的脅威は高まるばかりです。

ピルズベリー:確かに米国でも中国軍に対する認識は変わりつつあります。特に今年、中国からの数度にわたる大規模なサイバー攻撃により一般米国民の間でも、警戒感が出てきています。

ハリウッド映画にまで影響を与え始めた中国

—6月と7月の米人事管理局(OPM)へのサイバー攻撃では、計2500万人の連邦政府職員(退職した職員も含む)の社会保障番号などの個人情報が盗まれたと報道されました。

ピルズベリー:私の情報も流出したということです。さて、先ほど中国が気象衛星を撃ち落とした件について話しておきたいことがあります。

 あの実験により、3000片を超える破片が発生し、それが今後何十年も低い軌道上を周回する、と言われています。2013年に公開された映画『ゼロ・グラビティ』をご覧になりましたか。あの映画では、ロシアが用済みになった衛星をミサイルで爆破し、そのために生じた大量の破片がジョージ・クルーニーらが演じる宇宙飛行士の乗ったスペースシャトルにぶつかったという設定になっています。おまけに、最後、サンドラ・ブロックが演じる女性宇宙飛行士は中国の無人宇宙ステーションに保管されていた補助燃料タンクを借りてなんとか地球に帰還するというストーリーになっていて、ロシアが「悪者」、中国が「英雄扱い」されています。

 しかし、ロシアが自国の衛星にミサイルを撃ち込んだことは過去、一度もありません。あの映画の脚本家たちは、宇宙で起きたことと起こり得ることをあえて歪めた、ということです。なぜか。世界一の人口を有する中国では、莫大な数の人が映画を観て、それがハリウッドの映画会社に巨利をもたらす。ビジネスならば当然なのかもしれませんが、こういうケースが蓄積していくことに懸念を覚えます。

—米国のビジネス界では中国の市場の大きさゆえに、中国にマイナスになることを控える自主規制が働いているということでしょうか。しかし、こういう話が増える、あるいは今回のピルズベリーさんの本を多くの人が読めば、たとえそれがピルズベリーさんの意図ではないにせよ、反中の思いを深める人や反中国に転じる人はますます増えることになります。それは決して何かの解決に結びつくとは思えません。どうすればいいのでしょうか。

ピルズベリー:本に米国が取るべき12の方針を書きました。その多くは日本にも参考になります。それについては次回、お話しましょう。(第4回に続く)

10/2記事

–先週の金曜日、9月25日にワシントンで習近平国家主席とオバマ大統領の首脳会談が行われました。どうご覧になりましたか。

ピルズベリー:中国にとっては成功、米国が得たものはゼロだった。中国は首脳会談前から指摘されていた南シナ海や東シナ海の問題、あるいはサイバー攻撃問題などについて、何かを確約するということをうまく逃れた。

 ビジネス面を見ても、米中2国間投資協定の締結には至らなかった。首脳会談で最終合意できるようこの数カ月、両国間で相当な努力がなされていた。だが、この投資協定は中国政府が中国国有企業を優遇することを禁じている。首脳会談でどんな話があったのかは明かされないので理由は分からないが、中国は投資協定においても譲歩しなかったということだ。

—しかし、サイバー攻撃の問題については、今後、閣僚級の協議を新たに設置することで合意したと報道されています。

ピルズベリー:いつかね。

—いや、年内にも初会合が開かれる、という報道を目にしました。

ピルズベリー:いつ開始するかといった具体的な時期は決まっていない。今回の首脳会談の特徴は、文書での合意は何もないということだ。首脳会談後、ワシントンで随分沢山の記者と話したが、メディアも今週になって、その事実に気づき始めた。

 通常、2つの大国の首脳が会談すれば、複数の事項について何らかの最終合意にこぎ着け、両者が合意文書に署名し、それが会談後に発表されるものだ。だから記者たちは週が明けた今週の月曜日、ホワイトハウスに連絡して、サイバー攻撃の問題を扱う閣僚級協議新設など一連の合意事項に関する合意文書のコピーを欲しいと要請したが、ホワイトハウスは「渡せるような文書になったものは何もない」と回答している。それは、ホワイトハウスのウェブサイトを見てみれば明白だ。そこにはオバマ大統領と習近平国家主席の共同記者会見での発言しか上がっていない。

—合意文書が全くない?

ピルズベリー:そう、全くない。習近平氏はオバマ大統領と並んで共同記者会見を開くことさえ嫌がっていたと聞いている。だが、共同会見は中国側が譲歩して実現した。

 確かに、共同会見で彼らは「米中はサイバーセキュリティーについては協力していく」と語り、メディアの報道ではpromise(約束)とかpledge(誓約)という言葉が使われた。だが、それは飛躍というものだ。合意して署名に至った文書は一枚たりとも存在していない。

安全保障に関わるテーマはすべてはねつけた

 今回の首脳会談で何より顕著だったのは、中国側が次の5つの点について、徹底して自らの主張と立場を押し通した点だ。第1は、「両国はサイバー犯罪がこれ以上起きないように協力して戦うという重要な合意に達した」と習近平氏は会見でこそ述べたが、米国が昨年、米企業へのサイバー攻撃に関与したとして起訴した中国人民解放軍(PLA)の当局者5人の米国への引き渡しを拒否した。

 第2は、中国は過去に自国の人工衛星を撃ち落とすことに成功し、他国には脅威になっているが、宇宙における中国の衛星攻撃を禁じる話や中国が宇宙スペースで進めている軍事増強に関する議論について議論することも拒否した。

 第3に、米国が求めた軍事交流の拡大も、限られたものしか受け入れないとの姿勢を貫いた。

 第4に、台湾向けミサイル配備に関する議論も拒否した。中国は過去10年間で、台湾向けに1000発以上のミサイルを配備してきたが、直近でも毎年200発以上増強している。この話題についても議論を拒否した。

 第5に、冒頭でも話したが、南シナ海における埋め立て工事については、他国から一切の制約、制限は受けないと主張した。共同会見でも習主席は「南シナ海における島々は古来、中国の領土だった」と発言。これに対してオバマ大統領は、何のコメントも反応もしなかった。

実は、首脳会談前に私は、かねてつきあいのある中国の軍部の将校から、中国がこうした反応をするであろうということを聞いていた。情報源は国防大学などで教えている将校クラスの学者たちだ。人民解放軍には、あまり知られていないがGeneral Political Department(総合政策部)と呼ばれるチームがある。タカ派の彼らは通常、どちらかというハト派の外交部の方針と衝突するものの、政策決定に強い影響力があり、今回の習近平氏の訪米を巡る中国側の方針を決める上でも重要な役割を果たしたと考えられる。

 彼らが出した方針とは、安全保障に関わるテーマは徹底してはねつける、というものだったという。

「新興国は時の覇権国を刺激してはいけない」という方針を今回も徹底

—外交面においても人民解放軍のGeneral Political Departmentが力を持っているということですか。

ピルズベリー:今回、習近平氏や中国代表団とオバマ大統領が一緒に撮影した記念写真には、将校は一人も写っていない。しかし、彼らこそが今回の訪米における外交方針を決めるのに重要な役割を果たしている。

 軍部は習近平氏に、私が著書『China 2049』でも書いた「100年マラソン戦略」に基づいた助言をし、習近平氏はその通り行動した。この連載の第2回でも触れたが、100年マラソンで最も重要なのは、「新興国は時の覇権国を刺激してはいけない」ということだ。だから中国は、衝突することが確実な安全保障に関する問題の議論はことごとく避け、とにかく「危険な国の指導者だ」との印象を与えないよう腐心したわけだ。

 習近平氏は最初に訪問したシアトルでのスピーチで、米国式の心温まる言葉を並べ、「私は、若かった頃には、アレキサンダー・ハミルトン*1の『ザ・フェデラリスト』*2やトーマス・ペインの『コモン・センス』を読みました」などと語った。こんな話を聞けば米国人は、少なからず習近平氏に好感を抱くだろう。

*1 政治家であり、憲法思想家であり、アメリカ合衆国の建国の父の1人とされる。

*2 アメリカ合衆国憲法の批准を推進するために書かれた85編からなる論文で、「比類のなき憲法の解説で、米国人によって書かれた政治学の古典」とされ、ハミルトンはこの論文の3分の2を書いたとされる

—中国や習近平氏にとって今回の訪米は、大成功だった…

ピルズベリー:中国では大成功と受け止められているようだ。北京に送られた今回の習近平氏訪米に関する報道をいくつか見たが、どれも彼を強い指導者であると書いていた。中国では今回の訪米で、米国から大きな圧力をかけられ、様々な譲歩を迫られるのではないかとの懸念もあったようだ。それだけに、習近平氏が一歩も譲歩しなかったことが高く評価されている。ホワイトハウスで米国の指導者と一歩も引かず対等にわたりあった強い指導者である、と。

—すると、習近平氏は反腐敗運動を追求しすぎて政敵が増え、権力基盤が盤石ではないのではないかといった見方が一部で浮上していますが、そんなことはない?

ピルズベリー:中国における彼の人気は高い。今回の訪米成功で、その人気と、指導者としての評価はさらに高まっているように思う。私は彼の権力基盤は盤石だと見ている。

中国の成長率を見るときは西側諸国とまず比較すべき

—しかし、中国は6月以降、株の暴落に見舞われています。8月の元の切り下げ以降はさらなる株価暴落に直面し、政府による必死のてこ入れ策も効果が出ない。経済の減速も深刻です。一部に、この経済のつまずきで、中国は弱体化が進むのではないかとの見方も浮上しています。

ピルズベリー:経済成長率が7%に鈍化した、あるいは7%の達成も危ういといって多くの人が騒ぐが、昨年の米国のGDP(国内総生産)は2.4%、日本に至っては1%にも満たない。世界第2位の経済大国である中国の成長率が仮に6%にとどまっても日本の6倍のスピードで成長している。

 中国自身も、かつての2ケタ成長から、1ケタの持続的な成長を目指す「新状態(ニューノーマル)」の時代を迎えたと言っている。彼らは間違いから学習することを知っており、政策運営でも着実に力をつけてきている。先進国は何かというと中国の問題を深刻に捉えようとしたがるが、まず自分たちの国の成長率と比べてどうなのか、という点にもっと目を向けるべきだ。

 私は、西側諸国の関心が中国経済ばかりに集中し、中国が軍事支出を拡大し続けていることへの注意がそれで削がれてしまうことの方が問題だと思う。

中国を過大評価することが最も危険

—今回の習近平の訪米でも、米国企業はIT(情報技術)系を中心に、中国に熱い秋波を送っていました。経済的な存在感のみならず、軍事的にも脅威を増す中国と、日本はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

ピルズベリー:詳しくは本を読んでほしいが、日本を含め私たちがなすべきことをここでは3つ紹介したい。

 まず最もやってはいけないのは、中国を「過大評価する」こと。米国防次官補で、国際政治学者として知られるハーバード大学のジョセフ・ナイ氏も「我々の最大の危険は、中国を過大評価し、中国に自ら過大評価させ、うぬぼれさせることだ」と指摘している。

 私はさらにナポレオン・ボナパルトの有名な言葉を忘れてはいけないと考えている。「敵が間違いを犯している時は、邪魔するな」だ。長い目で見れば、中国が傲慢で攻撃的な態度で近隣諸国を挑発し、同様のスタンスの国々と連携していることは国際社会に多くの敵をつくることになり、私から言わせれば、結果的に米国を手助けしていることになる。尖閣諸島の領海侵犯を何度も犯せば、それだけ日本を怒らせることになる。それは決して中国のためにはならないからだ。

安倍政権はもっと中国語で生の情報を読み込べきだ

 第2は、日本も私のように「中国語の生の資料を読んでいる」という人材を早急にもっと増やすべきだ。特に安倍晋三首相の補佐官たちに強調したいのは、中国で書かれた中国語の生の資料をもっと入手し、それらを読み込むべきだ、ということ。生の資料とは、本連載の第2回で触れた中国でベストセラーになった『中国の夢』や『戦略学(2013年版)』や『Study of US Strategies』といった中国政府の内部資料のことだ。

 『中国の夢』は英訳されているが、全体の一部にすぎず、原書を中国語で読まないと真意はつかめない。『Study of US Strategies』はそのタイトルが示す通り、内容は中国による米国の軍事戦略の分析で、幸いなことに英語で書かれている。中国は同様に日本の軍事戦略も研究し、日本版もつくっているので、日本政府は読むべきだろう。

—まず彼らの考えていることを知ることが大事だということですね。

ピルズベリー:その通りだ。

 第3のポイントは、中国国内の改革派を支援していくことだ。ただし、タカ派かハト派を見分けることは極めて難しいことを覚悟しなければならない。

 天安門事件後、中国共産党の改革派の指導者だった趙紫陽が終生の自宅軟禁に置かれた。その20年後、コロンビア大学の政治学者アンドリュー・ネイサン氏が、秘密裏に趙氏の回想録を入手し、出版した。その回想録には、当時私たちが知らなかった圧倒的な不利な状況の中で、彼がいかに強硬派に立ち向かい、真の改革を実現しようと苦闘したかが書かれている。

 当時、私を含め当時の政権の多くの中国関係者は、趙紫陽の軟禁は改革の一時的な後退にすぎないと楽観的に見過ぎていた。今も強く悔やまれる出来事だ。同じ過ちを繰り返してはならない。

—最後に中国共産党による一党独裁は今後も続くとみていらっしゃるか、その点をお聞かせください。

ピルズベリー:よく聞かれる質問だ。私は以前も話したが、中国共産党には間違いを犯したら「学ぶ」力がある。だから私は、中国共産党には持続性があると思うし、今後も一党独裁が続くとみている。