5/8日経ビジネスオンライン 長尾賢『シンガポールに学ぶインドとの防衛協力強化』記事について

中国に対する警戒感の高まりで日経と雖も中国包囲網についての記事を載せるようになりました。インドはパル判事やチャンドラ・ボース、ラス・ビバリ・ボースを出すまでもなく親日国家です。アフターブ・セット元駐日インド大使と飲んだ時に「インドと日本は歴史的に見て争った時はない。(仏教を初め)友好的な交流が続いてきた」と聞きました。

昨日(5/11)の日経に世界の政治腐敗度のランキング(100点満点、低い方が良い)が出てました。日本24、インド62、中国64でした。感覚的に中国の腐敗度はもっと高い気がします。インドは貧しい国で社会主義が長かったためやはり役人の裁量が大きいと思われます。日本はインドともっと経済交流を進め、恩を知らない中国を見限り、軍事的にも手を結ぶことは可能と思います。

インドとシンガポールが軍事的に交流しているのは背景に中国の存在があると思います。シンガポールはマラッカ海峡に面しており、東アジア向けの船はここを通ります。石油タンカーはここを通りますので中国がここを押えることを懼れているのだと思います。日本もマラッカ海峡を航行できることで利益を受けていますので、インドだけでなくシンガポールとも軍事的連携を図っても良いと思いますが、華僑の多いシンガポールの日本に対する受け止め方がどうかがポイントです。過去に重きを置くか、将来の脅威に対抗した方が良いと判断するかどうかです。

記事

昨今、安倍晋三首相の外交成果が報道されることが多くなっている。アジア・アフリカ会議では日中首脳会談が行われた。日米間では新ガイドラインで合意し、日本の首相として米議会上下両院合同会議で初めて演説するなど、日米同盟は強固になりつつある。

 このような成果をみると、日本の安全保障も若干ながら改善しているのだが、注意すべき点がある。それは長期的にみて、日本の安全保障環境がよりよくなる傾向にあるのかどうか、だ。

 南シナ海で中国が滑走路建設工事を進めている。いずれは中国軍機が離発着して、周辺国の航空機や船を追い出すようになることが懸念される。中国の軍事的な活動は徐々に外側に拡大しつつある。日米同盟は、このような中国の行動をどこまで抑えることができるだろうか。将来まで安心な状況とはいえない。

 なぜなら米中のミリタリーバランスは徐々に変化しつつあるからだ。2000年から2014年までの間に、中国は41隻の新しい潜水艦を配備した。米国は11隻にすぎない。米国の潜水艦の方が性能が優れているが、過去と比べ米国のプレゼンス(存在感)が下がりつつあることは明らかだ。

図1:2000~2014年までの潜水艦の新規配備数

number of new submarine

 

 

 

 

 

 

 

 しかも米軍は中国だけでなく、世界中の問題に同時に対応しなければならない。欧州におけるロシアの問題もあれば、中東やアフリカにおけるイスラム過激派などの問題もある。だから、将来、日本が中国の動きに十分に対応できるかどうかは、単に米国との協力だけではなく、米国の同盟国や友好国同士の連携、オーストラリアや東南アジア諸国、そしてインドなどとの連携がより重要性を増していくことになる。

 その中で、東南アジア諸国とインドの潜在性は大きい。経済が発展し、時間とともに軍備が整っていくからだ。日本、東南アジア諸国、インドとの連携は、日本にとって重要性を増していくだろう。

 日本はどのようにしてこれらの国々との連携を強めていくことができるだろうか。何かアイデアはないか。本コラム「日印『同盟』時代」で日印連携の具体的アイデアを探っていたところ、興味深いことに気付いた。東南アジア諸国はインドに対してどう対応しているのかをよく調べれば、日本、東南アジア、インドと協力する際に役立つアイデアがあるかもしれないことだ。

 実際、調べれば調べるほど、興味深いことが行われていることが分かった。本稿はシンガポールに着目する。

図2:シンガポールの位置関係

location of SP

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンガポールとインドが南シナ海で海軍演習

 シンガポールは長年にわたって米国と協力してきた国だ。シンガポール軍は装備において、多くの米国製の武器を採用している。だからシンガポールは、中国の海洋進出に対抗する手段として米国との連携強化に取り組んでいる。そして、インドとの連携にも積極的だ。シンガポールは日本と共通の国益を有する。

 そのシンガポールはどうやってインドと連携しようとしているのか。大きく分けて3つある。訪問、共同演習そして基地借用である。

 まず訪問について。シンガポール軍幹部が、1990年代初頭から頻繁にインドを訪問している。特に象徴的だったのは、1998年にインドが核実験をした後、世界の中で最初にインドを訪問した軍高官はシンガポールの海軍参謀長であったことだ。今年3月にはシンガポールの国防大臣が、東南アジアの安全保障でインドがより大きな役割を果たすことを支持する発言をした。シンガポールは事あるごとにインドを特別扱いし、インドが東南アジアの問題に関心を持つように仕向けてきたのである。

 共同演習にも同じような傾向がみられる。シンガポールは1993年、インドと海軍の共同演習を始めた。その演習は、1999年に「シムベックス」と名前を変え、現在まで続いている。

 この演習は、シンガポールの意図を示す非常に興味深い特徴を持っている。例えば1998年以降、対潜水艦戦を想定した内容になっている。中国の潜水艦は昨今、南シナ海だけでなくインド洋でも活動している。シンガポールは当時からそのような事態を想定していたものと考えられる。

 演習を行う地域にも興味深い変化がある。演習はシンガポールとインドがそれぞれ交互に主催する。2005年以降、シンガポールが主催する年は、いつも南シナ海で演習を行っているのだ。シンガポールがインド海軍を南シナ海に呼び込む形を取っている。

シンガポール軍の装備がインド国内に常駐

 シンガポールとインドは2004年から空軍間の共同演習も始めた。2005年からは、陸軍の戦車部隊、砲兵部隊の共同演習も開始している。この陸軍と空軍の演習が、実はシンガポールとインドとの連携強化に有効な役割を果たしている。海軍と違って、陸軍や空軍は陸上の拠点を必要とする。広大な演習場に重装備を運んでいって、ちゃんと整備してからでないと共同演習はできない。

 しかし、そのことがかえって外交的に有用だった。シンガポールは、インドの基地を長期(5年更新で)借用契約し、そこに装備を常駐させ、そこで毎年訓練を行っている。こうすると、シンガポール軍はいつもインドに足場を持っている状態になる。

 これはシンガポールとインドの軍人が意見を交換し、インドにとってあまりなじみがない南シナ海の問題の重要性を訴える、絶好の機会を提供する。また、シンガポール軍の装備をインドにみせることで、武器輸出につながる可能性もある。両国が共通の装備をもって共同訓練することにつながれば、関係はより深まる。連携を考える上で賢い選択だ。

インドと米国が主催する演習にシンガポールが参加

 こうしたシンガポールの努力が近年、成果を上げ始めているかもしれない。例えば2007年にインドと米国が海軍の共同演習を主催した際、シンガポールも参加した。インドと米国以外の参加国はシンガポールのほか、日本とオーストラリアだった。インドがシンガポールとの関係を日豪と並べて、重視し始めている証左といえる。

 また、インド海軍艦艇の寄港地をみてもそのことが分かる。インドは2011年、2012年、2013年と連続して4隻の艦艇を東に派遣している。南シナ海の周辺国であるシンガポール、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン(そして日本)を訪問するようになったのだ。2012年12月にはインド海軍のD.K.ジョシ参謀長が、南シナ海でインドの国益が脅かされた場合には、インド海軍艦艇を派遣する用意があると発言した(注)。

(注)インド海軍の昨今の動向については、長尾賢『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス―』(ミネルヴァ書房、2015年)参照。

日本・インド・シンガポールの連携もあり得る

 このようなシンガポールの戦略を見ると、長期的な視点に立ってインドを徐々に南シナ海にひきつけていることが分かる。こうした戦略的な動きには、日本も学ぶべきものがある。

 日本もすでにインドとの防衛交流を開始している。海上自衛隊とインド海軍、海上保安庁とインド沿岸警備隊の共同演習も定期的に行っている。救難飛行艇など海自の装備品輸出も協議している(関連記事「インドに潜水艦を輸出することの損得勘定」)。

 しかし陸上自衛隊とインド陸軍、航空自衛隊とインド空軍は、共同演習を行っていない。だから、共同演習を始めるべきである。その際には、小規模でもいいから、インドの演習場で日本が実弾演習を行うのはどうだろうか。インドの演習場の一部を長期契約し、そこに装備も置いておいて、定期的な実弾演習を行うことは連携を深める手段として有用だ。

 この時、日本とインド、シンガポールの3カ国が協力する枠組みがあると、よりよい連携になると思われる。例えば、シンガポールがすでに借りている倉庫を使わせてもらうのはどうか。

 日本だけがインドと連携を組みたいのではない。米国も、オーストラリアも、東南アジア諸国も、みなインドとの連携に注目して取り組んでいる。ならば同じ目的を持つこれらの国々でアイデアを共有し、より効率的な方法をみつけることができるはずだ。日本は今、協力できる友好国がとても多い。その利点をいかに生かすことができるか、工夫が求められている。