5/13日経ビジネスオンライン 熊谷徹『英国保守党の圧勝で、EU脱退が視野に ヒトの移動の自由をめぐる価値観に関わる断層』記事について

5/14日経朝刊「経済教室 英国総選挙とEUの行方上 経済優先奏功、「残留」が濃厚」の記事にもありましたように、キャメロンは国民投票をダシにしてEUと交渉してある程度の譲歩を勝ち取り、鉾を納めるのではと思います。やはり、離脱は英国にとって損失の方が大きい。メデイアの予想を覆して保守党が勝ったのは、ブッシュ父を敗ったクリントンと同じく経済です。経済に悪影響を与えれば次の選挙で保守党は選ばれなくなりますから。EU離脱はスコットランド独立の引き金、外資の本社移転(税金徴収問題、シテイの凋落)、国連P5からの脱落等失うものの方が大き過ぎます。まともな感覚の持主なら絶対にしないでしょう。

ただ移民の問題は欧州全体で考えないと。南欧は北アフリカからの移民ですが、英国は欧州からの移民とのこと。国のありようが壊れます。日本も他人事ではありません。日本の伝統文化が壊されないようにしませんと。“入郷随俗”で日本に敬意を払い、勤勉であれば良いですが、数は多くは必要ないでしょう。その国で経済発展させ得る人材の育成に手を貸すのが一番です。

オズボーン財務相がAIIB参加の旗振りをしたとのことですが、中国の今の経済状況を認識しているとは思えません。中国が日本の参加を執拗に求めて来るのは日米分断の他に「格付け」の問題があるからです。低利で資金を得なければ低利で融資はできません。日米と中国では信用差があり、低利資金獲得は難しいためです。英国のAIIB参加はロスチャイルドが裏で動いて、今後の世界は米国でなく、中国にすると認めたからと言うユダヤ陰謀論に近いことを言う人もいます。真偽のほどは分かりません。ただ、米国の軍部は中国の台頭を認めないでしょう。一旦覇権を握った国がそうやすやすと覇権を手放すことはないと思います。英国もアメリカに渡したのは二度の世界大戦で経済が疲弊したからで、今のアメリカはそんな状況にありません。アイクが心配した軍産複合体(=WASPで構成)がユダヤ人の言いなりになるとは考えにくいです。

朝刊記事

「損得計算は様々だが、外資に依存する英国経済だけに、試算に含まれないタイプの損失も懸念される。EUとの間に貿易障壁ができれば、世界中から進出した多国籍企業は大陸へ生産拠点を移すであろう。外国の多国籍銀行が離脱すれば、ロンドン金融市場は空洞化する。海外直接投資の流入も減少する。自由と開放を誇った英国が移民排斥とナショナリズムへ大転換すれば世界へ悪影響を与える。

ただ、筆者は英国残留の可能性の方が高いとみている。第1に、世論調査で離脱支持の方が多いのは60歳代以上だけで、25歳以下では残留支持が30%も多い。投票率が高ければ残留になる。第2に、今回の選挙でUKIPは不振でファラージユ党首は引責辞任した。影響はこれから出る。第3に、これまで慎重だった産業界が残留運動に乗り出すであろう。英銀行大手HSBCが4月末、「本社の外国移転を検討中」と発表したのはその始まりかもしれない。第4に、英国離脱となればスコットランドは独立し、EU加盟へと進むであろう。離脱は英国分裂へとつながる。第5に、キャメロン首相が残留支持なら、EUとの再交渉次第で、残留を支持するという声がかなり多い。新政権は規制改正などでEUと再交渉し、その成果を背景に国民投票に臨む。EU側にもある程度の譲歩の用意はあろう。

戦後の欧州統合の隠れた目的は、独仏両国を中心とする欧州の不戦体制構築だった。この目的は達成され、不戦は世論を団結させる力を失った。そしてユーロ危機以降、多くの国でEU統合懐疑派の政治運動が盛り上がった。批判の矛先は、統合によるナショナルアイデンティティーの喪失、EUの官僚主義と非効率、EU諸国からの移民流入による雇用や社会保障制度の損失などに向かっている。

だが、統合はEU諸国経済を強固に結びつけている。個々の批判はともかく、EU離脱要求に合理性はない。ユ- ロ危機はすでに終息、域内国民のユーロへの信頼は厚い。ギリシャでさえ8割の国民がユーロ残留を望んでいる。

にもかかわらず、多数国で懐疑派運動が持続する主要な理由は、リーマン危機後の先進諸国経済の低成長とユーロ危機後遺症による高失業、欧州経済の南北分断などだ。

原油安・ユーロ安・QE (欧州中央銀行の量的緩和)と3 重の追い風を受けて、今年と来年のEUの成長率は2%を視野に入れる。経済改善のスタートを期待できそうだ。今回の英議挙は、安定成長の経済こそが政治の安定をもたらす、という古典的命題を再確認させた。国民投票の16年繰り上げもありえよう。」

記事

5月7日に行われた英国総選挙で、「どの政党も過半数を取れない」という報道機関や世論調査機関による事前予測を覆し、キャメロン首相が率いる保守党が大勝利を収めた。保守党は議席数を307から331に大幅に増やして、単独過半数を確保した。これに対し、野党は総崩れとなった。労働党は議席数を258から232に、自由民主党は57から8に減らした。

 筆者は、多くの有権者が保守政党に票を投じた理由の1つは、昨年以来、英国経済に回復の兆しが見えていることだと思う。実際、キャメロンは選挙戦の中で、「保守党は英国経済の体力を着実に強化しつつある」という点を強調していた。

 2014年の英国の実質GDP成長率は2.8%で、EU(欧州連合)平均(1.3%)やドイツの成長率(1.6%)を大幅に上回っている。

実質GDP成長率の推移

UK GDP

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資料=欧州連合統計局

 就業者数も、前回の選挙が行われた2010年以来、毎年増加しており、2014年には前年比で2.3%増えた。これは、就業者の数が4年間で170万人増えたことを意味する。2014年の英国の就業者の増加率はEU全体の平均(0.8%)を大幅に上回っている。

 英国の失業率は、2010年以来10%を超えていたが、2014年には4年ぶりに10%台を割って8.4%になった。これは、EU全体の失業率(17.4%)の半分以下である。

失業率の推移

UK Unemployment rate

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資料=欧州連合統計局

 GDPに対する累積公的債務残高の比率は2010年から2014年の間に増加しているものの、キャメロン政権は財政赤字比率(GDPに対する新規債務の比率)を2010年からの4年間で9.7%から5.7%へ4ポイント減らすことに成功した。

 ドイツでメルケル首相が圧倒的な人気を誇っている最大の理由は、ドイツ経済が好調で失業率が1990年以来最低の水準になっていることだ。キャメロンが圧勝した背景にも、有権者の似たような心理を感じる。英国市民は、労働党などのリベラル政党ではなく、保守党に経済の舵取りを任せておいた方が安全だと考えたのだろう。

EUによる政治統合の深化を拒否

 だが今回の保守党の圧勝は、EUの未来に大きな影を投げかける。欧州の報道機関は、「今回の選挙結果により、EUが今の形のまま存続できるかどうかが、わからなくなった」という論調を強めている。その理由は、英国がEUに残留するべきかどうかについて、2017年までに国民投票を行うことをキャメロンが約束しているからだ。

 彼は2013年1月23日に行った演説の中で、EU内で民主主義が実行されていないことを批判。EUの政府に相当する欧州委員会が、独断的な決定を英国に押しつけることを拒否する姿勢を、明確に示した。彼は、この演説の中で、EUが条約を改正して、英国の意向を尊重する改革を行わない限り、国民投票を断行する方針を明らかにした。

 キャメロンは2年前の演説で何を要求したのだろうか。彼は、次の5つの点に要約している。

1.国際競争力の回復

2.柔軟性

3.欧州委員会に集中した権限の、加盟国への部分的な返還

4.民主的な説明責任の強化

5.ユーロ圏に加盟していない国に対する公正さ(フェアネス)

 この5つの要求は、密接にリンクしている。

 彼によると英国がEUに加盟している理由は、ひとえに「単一市場」の利益を享受できるからだ。EU域内では関税が廃止されているだけでなく、金融サービス自由化指令によって、ある国で銀行業や保険業を営む権利を取得すれば、他の加盟国でも営業できる。

 英国にとっては単一市場があれば十分で、他の点については干渉しないでほしいというのが本音だ。

 ユーロ危機をきっかけとして、通貨同盟に属する19カ国の間で、将来ギリシャやイタリアが野放図な借金経営をしないように、政治統合を深化させようという動きが強まっている。キャメロンは「ユーロ危機後のEUは、もはや以前のEUと似ても似つかないほど、違ったものになる」と指摘する。英国は正にこの政治統合を最も恐れている。

英国のことは英国が決める

 キャメロンは「EUが現在めざしている政治的統合は、英国が我慢できる範囲を超える」と断言している。つまりキャメロンは、欧州委員会やドイツ、フランスがめざす政治統合の強化に、「ノー」と言ったのだ。この発言は、英国と大陸諸国との亀裂を決定的にするものだ。ドイツやフランスは、「債務危機の再発を防ぎ、ユーロを防衛するには、これまで以上に政治的統合を強め、財政政策・経済政策を調和させなくてはならない」と考えている。これに対し、英国は政治統合を深めることに真っ向から反対している。

 キャメロンは「EUはこれまで、リスボン条約を変更し、その力をどんどん強大にしてきた。一方、英国民は意見を言う権利を与えられてこなかった。英国民は、EUが不必要な規則や規制を設けることによって自分たちの生活に干渉しつつあるという怒りを抱いている」と訴える。

 キャメロンは「欧州の全てを調和させることは、不可能だ」と断言する。そして彼は「たとえば英国の医師の労働時間が、英国議会や医師たちの意向とは無関係に、ブリュッセルで決められるのはおかしい」と告発する。

 そしてブリュッセルで中心的に決める必要がない事柄については、権限を各国の議会に返すことによって、再び議会の力を強めるべきだと訴える。彼は、そのことがEUの民主的な性格を強化すると考えている。

移民による社会保障ただ乗りに「ノー」

 保守党は、EUによる銀行規制や資本取引税にも反対している。加えて今回の選挙戦の中で、移民の規制を争点の1つにした。EUは、域内での資本や営業の自由と並んで、市民の移動の自由を極めて重視している。つまりEU加盟国の市民は、職業に就くために他の加盟国に移り住み、労働許可なしに働くことができる。しかもEU法は加盟国政府に対し、他のEU加盟国から移住した外国人に対して、原則として自国民と同程度の社会保障サービスを提供するよう求めている。このことは、自国よりも社会保障サービスの水準が高い国をめざして移住する外国人が増える可能性を秘めている。

 このため、ポーランドやハンガリーなど21世紀にEUに加盟した東欧諸国から、英国への移住者が増加した。他の欧州諸国から英国に移住した外国人の数は、2003年から2013年の間に約12万人増えている。英国統計局によると、移民が人口に占める比率は、1991年には7.3%だったが、2011年には13.4%に増えている。

 英国市民の中に移民が占める比率の推移(単位:%)

Uk immigrant

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出所:Office of National Statistics

 キャメロンは、不法移民に対する規制を強化する方針を選挙期間中に打ち出した。彼はマニフェストの中で「真面目に働いている市民が不公平感を抱かないような移民政策を導入する」と訴えていた。具体的には、英国に滞在する資格のない移民を、これまでよりも容易に摘発したり、国外追放にしたりできるようにする。さらに、不法移民が社会保障制度を不正に利用することを制限する。

 保守党は、「我々は、社会保障制度の恩恵を得るために英国に移住する外国人を規制する。労働党が政権についていた頃には、英国の移民制度が不法移民に悪用された。労働党は、今後さらに移民を増やす方針を打ち出している」と主張し、移民の規制が必要だと感じている市民の票をひきつけた。

英国はEUを脱退するか?

 キャメロンは2014年11月に行った演説の中でも、EUに改革を求めた。最も重要な項目の1つとして「EU域内での移動の自由の制限」を規定した。だがこれは欧州委員会にとって、妥協することが難しい根本的な政策目標である。欧州委員会のユンケル委員長や、ドイツの首相、メルケルはすでに「移動の自由について交渉する余地は全くない」と断言している。

 EU加盟国にとって現在の優先課題は、ギリシャで再燃したユーロ危機に対する対応や、ウクライナ危機をめぐる対ロシア政策であり、英国のためにリスボン条約を改正することではない。しかも「移動の自由」のような重要な項目については、原則として全ての加盟国が賛成しなくてはならない。果たして全ての加盟国が、英国の主張に賛成するかどうかは未知数である。

 つまり現状では、欧州委員会や欧州大陸の加盟国が、英国に妥協してリスボン条約を改正する可能性は、極めて低い。もしもEUが英国の要求に屈して、移動の自由を制限する方向に踏み切った場合、他の国も将来、英国と同じような手段で、条約の改正を勝ち取ろうとするかもしれない。その意味でも、EUは英国の圧力の前に負けたという印象を与える措置を避けようとするだろう。

 一方、下院選挙で圧勝した事実を背景に、キャメロンがEUに対し条約改正への圧力を高めることは確実だ。

 また、今年は北アフリカや中東から、地中海を経て欧州にやってくる難民の数も急増している。ドイツ政府は、同国に亡命を申請する外国人の数が今年45万人に達すると予測している。これは過去25年間で最高の数だ。特に「アラブの春」以降混乱が続くシリアやリビアなどからの難民が増えている。現在、イタリアなど南欧諸国に大きな負担がかかっているため、将来はEU加盟国内で難民の受け入れ数を割り振る可能性もある。その際にもキャメロン政権が強く抵抗する事態が起こりうる。

 さて英国でEU残留に関する国民投票が行われた場合、どのような結果になるのかは、予断を許さない。市民の反応は、大きく揺れている。英国の世論調査機関YOUGOVが今年2月に行った世論調査では、「英国はEUに残るべきだ」と回答した市民の比率は45%で、「脱退するべきだ」と答えた回答者の比率(35%)を大幅に上回った。だがこの機関が2011年9月に行った世論調査では、脱退賛成派が52%で、残留希望派(30%)に比べて圧倒的に多かった。

 英国は、ドイツに次ぐEU第2の経済大国。そのGDPは、2014年の時点でEUの約16%に相当する。Brexitと呼ばれる英国脱退が現実化した場合、EUは経済的に大きな打撃を受ける。

Brexitは日本企業にも大きな影響

 英国に展開している日本企業にとっても、BrexitはEU加盟国との貿易のコストを高めることにつながるだろう。EUとの間に特別な協定を結ばない限り、英国とEUとの間に関税が再び導入される。

 英国は、日本企業にとって欧州で最も重要な国の1つである。外務省によると、英国には約1000社の日本企業が進出している。この数はドイツに次いで欧州で2番目に多い。言語が英語であることも、日本人にとっては大きなメリットだ。

 日本企業による対英投資額は1兆3084億円(2013年)で、過去最高。国別に見ると、英国は米国に次いで第2位の投資先である。日本から英国への新規直接投資(プロジェクト件数)も116件と、米国に次いで第2位である(2013年)。また日本から英国への対外直接投資残高は7兆1379億円(2013年末)で、EUではオランダに次いで2番目に多い。

 英国がEUから脱退した場合、欧州経済の中で大陸諸国、特にドイツの影響力と発言力がさらに高まるだろう。欧州経済における英国の地位が低下することは避けられない。

 英国の有権者たちは、経済的な不利益が増加しても、EUと袂を分かつ道を選ぶのだろうか。

英国のEU脱退が、スコットランド独立の火を再燃させる可能性

 今回の選挙でもう1つ注目される出来事は、スコットランド国民党(SNP)が大躍進し、議席数を6から56に伸ばしたことだ。同党は、スコットランドが英国から独立することを求めている。SNPの地滑り的勝利も、欧州で強まる「地域第一主義」という遠心力を象徴している。

 スコットランドで2014年9月に行われた住民投票では、有権者の55.3%が独立に反対したため、スコットランドは英国に残留した。しかし今回の選挙結果は、スコットランド市民の間で独立を求める機運が衰えていないことを示している。2017年の国民投票で英国がEU脱退を選んだ場合、スコットランドでは英国からの独立を求める声が再び燃え上がるかもしれない。

 英国の金融関係者から「スコットランドが独立したら、スコットランドに本社を持つ大手企業は、本社をイングランドに移すだろう」と聞いたことがある。

 キャメロンが国民投票の期限と定めた2017年まで、残された時間は、あと1年半しかない。英国の要求に対してEUはどのように対応するのだろうか。欧州政局に、目を離せない難題がもう1つ増えた。