本記事を読んで、マテイス国防長官はどう思っているのか聞いてみたいと思いました。以前は「軍事的手段の前に、やるべきことは沢山ある」と言っていました。しかし、北は米全土に届くICBMかつ核弾頭の小型化が完成(ワシンントンポスト)したのであれば、状況も変わったと思います。まあ、この話も米国が北朝鮮を攻撃しやすくするために意図的に流したものかもしれませんが。なお、8/9にはマテイス長官が声明を出しました。8/10NHKニュース<「北朝鮮は体制の終わりにつながる行動停止を」>と。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017080100606&g=prk
http://www.sankei.com/world/news/170809/wor1708090009-n1.html
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170810/k10011095371000.html
7/14ぼやきくっくりブログから7/10虎ノ門ニュースの青山繁晴氏の発言<米朝戦争「近づいてない」マティス国防長官 米軍の前線トップのマティスさんが、別に北朝鮮がICBM発射実験をやったからと言って、北朝鮮とは戦わないよと言ったように見えますが、これ2つの意味で、そうではない。 マティスさんは何言ってるかというと、警告してる。 本当にやる時にはやらざるを得ないけど、その時には犠牲が出ますと。 米国民も、日本国民も、韓国民もそれを踏まえて下さい、こんなはずじゃなかったって話をしないで下さい、民間人すら犠牲が出かねないってことをちゃんと踏まえたうえで、軍の活用を考えて下さいってことをずっとおっしゃってる。 それがひとつ。 もうひとつは、アメリカがかつて北朝鮮にやった制裁の中で唯一効いたものがあって、それをまだ完全にやりきれてないから、それをやりましょうって意味もある。 それは何かというと、金融制裁。 北朝鮮がマネーロンダリングする時に、バンコ・デルタ・アジアが協力してきたから、そういう銀行にもうドルは扱えないというのをかけたら、北朝鮮は本当に根を上げた。 ブッシュ政権の末期だったが、あの時続けてたら、拉致被害者が帰ってくることも含めて、今の北朝鮮はなかった。 アメリカの一官僚が、北朝鮮は話が分かったと言って、一緒にワイン飲んだり中華料理食ったりして、当時、関西テレビ「アンカー」水曜日で徹底的に批判したが、批判したのは少数派で、日本の評論家やコメンテーターはやっと米朝雪解けだと、素晴らしいと言ってたわけですよ。 このために実は北朝鮮は今の事態に至った。 それをアメリカはさすがに記憶してて、金融制裁を改めてやろうとしたんですが、その前に、北朝鮮が手を打ってて、1カ所に、資金を集めていった。 チャイナです。 だからトランプさんが最近チャイナに、思ったほどやってくれないじゃないかとずっと言ってるのは、石油のパイプラインを止めないことと、ちゃんと中国の銀行、共産党政権なんだから全部コントロールできるだろうと。 なのにやってないのはどういうわけかと。 これを中国の銀行といえどもドルを扱えなくなったら、人民元は本当は通貨と言えないシロモノだから、もう行き詰まっちゃうわけですよ。 これをやったら下手すると世界経済は凍り付いて、大不況。 世界恐慌になると言ってるマーケットの関係者もいます。 それをマティスさんは言ってる。 膨大な犠牲が出る米朝戦争の前に、この金融制裁の完成は必ずやるべきだと。 それでも北朝鮮がなぜか倒れないとなったら、分かりました、犠牲は払うけれどもやりますと。 だから米軍は今までになかった訓練(前項参照)をやってる。>
国連制裁決議なんて北朝鮮にとって痛くも痒くもないでしょう。どうせ嘘つき中国が裏から手を差し伸べる筈です。時間稼ぎに使われるだけ。安保理全会一致なんて各国国連大使の自己満足だけです。北の横暴を抑える力とはなりません。青山氏や渡邉哲也氏のように一番効くのは金融制裁です。北と取り引きのある銀行は、いかなる国の銀行であろうとも米国との取引ができないようにすれば良いです。これこそが基軸通貨国としての強みです。中国が欲しがっても絶対手に入れられないものです。それはそうでしょう。自由な資本取引を認めない国の通貨が基軸通貨になることはありません。米国は何故逡巡するのかです。
キッシンジャーもやはり中国の手先です。「金正恩政権の崩壊後は在韓米軍をおおむね撤収する」とまで、中国に約束して、中国が強大化することに加担しようとしています。真の敵が誰かを分かっていません。まあ、中国から賄賂漬けの身としては如何ともしがたいでしょうが。
北は中国にダシとして使われているだけです。瀬戸際政策をして、どこで米国の怒りを買うかを愚かな金三胖は身を以て中国に見せる役割を演じさせられています。ミサイルを誘導させる人工衛星は多分中国が利用させているのでしょうし、緩衝国家が必要と言う論説を流布してきていますが、それなら南モンゴル、ウイグル、チベットも独立させて緩衝国家にすれば良いのにそうはしません。中国の都合の良いように論理を組み立てているからです。チベットは中国、ASEANの水源ですから、独立させれば中国も勝手にダムを作って来てASEANに迷惑かけてきたというのが身を以て分かるようになるでしょうけど。在韓米軍が撤退すれば、すぐ、人民解放軍が金三胖を捕えて処刑し、首を挿げ替えるかもしれません。キッシンジャーは甘いです。中国は約束を守った試しがありません。本来、キリスト教のロシアの方がまだ信頼できるのでは。
鈴置氏の言う「日本人の覚悟」というのは朝鮮半島も中国の軍門に下れば、日本が中国とぶつかる最前線になるという事でしょう。アチソン声明通りです。しかし、南シナ海も中国の手に握られそうになっている所が大きな違いです。オバマの8年間のツケが大きかったでしょう。もっと言えば、中国を此処まで強大化させて来た、米日に責任の大半はあります。やはり国際ルールを守らない中国に金融制裁すべきです。
記事
8月5日、国連安保理は新たな北朝鮮制裁決議を採択した。手前右側の挙手する女性は米国のヘイリー国連大使(写真:AP/アフロ)
(前回から読む)
国連の「強力な制裁」で、北朝鮮は核武装を諦めるのか。
口だけの中国に失望
—国連安保理が「強力」とされる対北朝鮮決議を採択しました。
鈴置:8月5日、北朝鮮への制裁強化の決議を全会一致で採択しました。石炭、鉄・鉄鉱石、鉛、海産物の輸出を全面的に禁止しました。
北朝鮮の外貨獲得手段にタガをはめることで、核・ミサイル開発の資金源を断つ狙いです。海外での北朝鮮労働者の新規受け入れや北朝鮮の企業との新たな合弁・共同事業の禁止も盛り込みました。
—中国やロシアは制裁強化に慎重でした。今回はなぜ賛成に回ったのですか?
鈴置:7月4日と28日の北朝鮮の2回のICBM(大陸間弾道弾)試射の後、米国が戦争も辞さないとの強い姿勢を見せるようになったからです。
トランプ(Donald Trump)大統領は7月29日、ICBMの試射についてツイッターを連投しました。初めのと、次のつぶやきのポイントを訳します。
中国にはとても失望した。
彼ら(中国)は北朝鮮に関し我々に何もしてくれない。口だけだ。このままじゃおかないぞ。中国はこの問題を簡単に片づけられるのに!
死ぬのは向こう側
米国のヘイリー(Nikki Haley)国連大使も7月30日「対話の時間は終わった」と語りました。CNNが「‘Time for Talk is Over’: US grapples for new approach on North Korea」で報じています。
「対話が終わった」と言うことで「戦争の覚悟」をちらつかせたのです。その変化を中国も見てとりました。王毅外相は8月6日「(朝鮮半島情勢は)危機の臨界点に迫っている」と語りました。
中ロを動かす決定打となったのが、トランプ大統領の「戦争をやっても米国側に死者は出ない」との発言と思われます。
大統領が自身に面と向かって語った言葉として8月2日、共和党のグラハム(Lindsey Graham)上院議員が以下のように述べました。NBCの「Sen. Lindsey Graham: Trump Says War With North Korea an Option」から引用します。
If there’s going to be a war to stop [Kim Jong Un], it will be over there. If thousands die, they’re going to die over there. They’re not going to die here.
正確に訳せば「もし(金正恩=キム・ジョンウンを)止めるための戦争になっても、それは向こうで起こる。数千人が死んだとしても、死ぬのは向こう側だ。こちら側では死なない」。
中国の銀行にも制裁を
—はっきりと言ったものですね。
鈴置:でも、この発言が――「戦争を怖がってはいないぞ」と言い切ったことが、国連制裁への中国やロシアの賛成を引き出したと思われます。
それまで、中国の外交関係者からは「トランプは口だけ。戦争に踏み切る勇気はない」と米国を甘く見る発言が聞こえていました。
「死ぬのはお前だ」発言は一義的には北朝鮮向けですが、同時に中国向けの脅しでもありました。
米国の議会やメディアも一気に強硬論に傾きました。共和党のガードナー(Cory Gardner)上院議員もCNNに寄稿した「Senator: How to really turn the screws on North Korea」(8月2日)で「言葉の時は終わった」(The time for words is over )と言い切っています。
さらに「北朝鮮と取引する中国の金融機関などにも制裁を科すべきだ」とトランプ政権に要求しました。米国で盛り上がる「中国への制裁論」も、中国を対北制裁決議への賛成に向かわせたと思います。
ガードナー議員は上院外交委員会・アジア太平洋小委員会の委員長を務める大物です。朝鮮半島問題にも詳しく、5月に訪韓しました。
その際、韓国の国防長官に対し、THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)を見直すなら米韓同盟を打ち切るぞと脅しました(「『第2次朝鮮戦争』を前に日米を裏切る韓国」参照)。
対話を呼びかけた国務長官
—同じ頃「米国務長官が北朝鮮に対話を呼びかけた」との報道もありましたが。
鈴置:8月1日の記者会見で、ティラーソン(Rex Tillerson)国務長官が「我々は北朝鮮の敵ではないと伝えたい」「北朝鮮と、その安全と繁栄を保障する未来をじっくりと話し合いたい」と述べました。原文は以下です。
we’re trying to convey to the North Koreans we are not your enemy, we are not your threat, but you are presenting an unacceptable threat to us, and we have to respond.
We would like to sit and have a dialogue with them about the future that will give them the security they seek and the future economic prosperity for North Korea, but that will then promote economic prosperity throughout Northeast Asia.
米国の北朝鮮に対する基本方針は「圧力と対話」でした。北朝鮮が核武装に向け時間稼ぎに利用する対話には否定的ですが、対話を頭から拒否はしていなかったのです。
「北朝鮮を潰す意図もない」ことを示すために、ティラーソン国務長官は5月3日、国務省職員への演説で、いわゆる「4つのNO」を約束しました。
北朝鮮が核開発を放棄するなら(1)体制変更は求めない(2)金正恩政権の崩壊を目指さない(3)朝鮮半島の統一を加速しない(4)38度線(軍事境界線)を越えて北進しない――です。
8月1日の会見でも「4つのNO」を繰り返していることから見て、ティラーソン国務長官は米国で盛り上がる強硬論の軌道修正を図ったと思われます
対話を拒否した副大統領
でもワシントンは、そんな融和的な姿勢はとても許されない空気になっています。ペンス(Mike Pence)副大統領は翌8月2日、記者らに北朝鮮との直接対話は拒否すると語りました。
前日のティラーソン発言を否定したものです。WSJが「Pence says U.S. Won’t Hold Talks with North Korea」(8月2日)で報じています。その部分は以下です。
U.S. Vice President Mike Pence rejected the notion of holding direct talks with North Korean leader Kim Jong Un aimed at curbing the nation’s , nuclear weapons program saying the right strategy doesn’t involve “engaging North Korea directly.”
WSJの8月2日の社説「Tillerson’s Korea Confusion」はティラーソン国務長官の「敵ではない」との発言を取り上げ「米国の都市を長距離ミサイルで狙う北朝鮮が敵ではないと言うのは明らかな偽善であり、米国を弱く見せる」と厳しく批判しました。
Saying that North Korea is not an enemy even as it threatens American cities with its new long-range missiles is obviously false and makes the U.S. look weak.
サブ見出しは「The Secretary of State offers happy talk about Chinese cooperation」。スラングを使って意訳すれば「中国との協力にいまだ期待する国務長官の脳内お花畑」です。WSJは「まだ、そんな甘い願望を持っているのか」とため息をついたのです。
55%が軍事的解決を支持
—米国人は日本が考える以上に怒っていますね。
鈴置:北朝鮮は「米国を先制核攻撃する」と公言しています(「朴槿恵は『北爆』を決意できるのか」参照)。その北朝鮮が米国まで届くICBMを保有したのです。当然、普通の米国人は、自分の身に及ぶ脅威は自らの手で取り除こうと考えます。
EEZ(排他的経済水域)にミサイルを撃ち込まれても「抗議する」と繰り返すだけの自国政府に、不満も漏らさない日本人とは大いに異なります。
FOXニュースが7月16-18日の間に実施した世論調査で、米国人に「外交的な手段だけで北朝鮮に核・ミサイルを放棄させられない場合、米国は軍事力を使っても阻止すべきと思うか」と聞いています。
55%が「軍事力を行使」と答えました。「あくまで外交手段で」と回答したのは29%です。4月23―25日の調査では、それぞれ51%と36%でしたから、世論も戦争に傾いていることが分かります。
難民で中国だけが損
—しかし、国連安保理が「強力な制裁決議」を採択しました。戦争は避けられるのでは?
鈴置:「強力」と言っているのは採択に関わった外交関係者だけです。自画自賛です。この制裁の効果がどれだけ上がるかは疑問です。まず、中国やロシアが本気で制裁を実施するかは不透明です。
仮に完全に実行したとしても、実効がどれだけあるか怪しい。北朝鮮の輸出を止めると言っても全体の3分の1程度。外貨収入を3分の2に減らされたからといって、北が核・ミサイル開発を諦める可能性はまずない。少なくとも、即効性は期待できません。
米国が求めた石油の対北朝鮮輸出の禁止を盛り込めば、かなり威力を発揮したことでしょう。これをやられると北朝鮮経済はマヒしますし、ミサイルの燃料も確保しにくくなったのですが……。中国などの反対で盛り込めませんでした。
—なぜ、中国は石油の禁輸に反対したのでしょうか。
鈴置:中国の国益を大きく損なうからです。禁輸で北朝鮮経済が混乱すれば、難民が中国になだれ込むのは確実です。
トランプ大統領は「中国ならできる」とツイートしました。そりゃできますが、やったら「中国だけが損を見る」のです。
習近平主席がもしツイッターを愛用していたなら「米国は自己中心的だ。人の身になって考えろ!」とつぶやいたと思います。
第2のミャンマーに
—中国の立場からすれば当然ですね。
鈴置:だから「北朝鮮の石炭などの輸出を止める」との国連での約束も、本当に効果が出そうになったら、中国は手を緩めると思います。
中国にはあと2つ、本気で経済制裁に踏み切りたくない理由があります。まず、北朝鮮を「米国側の国」にしかねないことです。
北朝鮮が核・ミサイル開発を諦めたら、米国が救いの手を差し伸べます。米国は旧敵と良好な関係を築くのが得意です。ドイツや日本、中国ともそうでした。
北朝鮮も米国といい関係を築くことが、隣の超大国の干渉を避ける最大の手段と考えています。
もし米朝が一気に関係を改善したら、中国外交の屈辱と言われるミャンマーの「離中接米」の二の舞です(「次は北朝鮮に触手?米国、中国包囲網つくりへ全力」参照)。
経済制裁を通じて北朝鮮に核を放棄させたら、中国は米国の強力な友好国を自分の下腹に抱えることになりかねない。「骨折り損のくたびれ儲け」どころか、外交上の大失態です。
米韓同盟を破壊するチャンス
—中国が北に核を放棄させたくないもう1つの理由は?
鈴置:北朝鮮に、米国まで届くICBMの配備を諦めさせると中国は「得べかりし利益」を放棄することになります。
北朝鮮が米本土を核攻撃できるようになると、韓国人は米韓同盟を疑うようになります。「もし北朝鮮が核で脅してきた場合、米国はワシントンやニューヨークを核攻撃されるリスクを冒してまで韓国を守ってくれるだろうか」と考えるからです。
要は、米国の「核の傘」の威力が衰えるのです。専門用語を使えば「核の拡大抑止が効かなくなる」わけです。
韓国では自ら核武装するという案と、中国の核の傘を頼ろうという案が急浮上するでしょう。すでに前者は堂々と語られるようになっています。これは『孤立する韓国、「核武装」に走る』(2016年10月刊)でじっくり論じています。
後者は大っぴらには語られにくいでしょうが、中国への外交的な接近・密着という形で、実質的に進むでしょう。
「中国の核の傘」なら信頼
—中国の核の傘は米国の核の傘よりも確実なのですか?
鈴置:確実です。北朝鮮が米国を核攻撃する可能性は低い。なぜなら、米国に核で反撃されたら国が消滅するからです。
しかし、核を使うぞと北朝鮮が米国を脅しただけで、米国が本気で韓国を守るのか「疑い」が生まれます。韓国は動揺し、米国との同盟を信頼できなくなります。
一方、北朝鮮は中国を核攻撃するぞと脅すことさえできません。経済的に生殺与奪の権を中国に握られているのです。そんなそぶりを見せただけで政権を倒されてしまうでしょう。韓国から見れば「中国の核の傘」は「米国の核の傘」よりもはるかに信用できるのです。
話をまとめます。中国が北朝鮮の核武装に歯止めをかけると、せっかく中国側に転がり込みそうになっている韓国の動きをも止めてしまうのです。
2017年5月に反米親北の文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生し、米国からの遠心力が働き始めました。この大統領は「反米書籍」を国民に推薦したばかりです(「『米帝と戦え』と文在寅を焚きつけた習近平」参照)。中国がこの機会を見逃すはずがありません。
韓国が米国を離れ中国に傾けば、日本も動揺します。「日米同盟をやめて中国と同盟しよう」とまではいかないにしろ「米中等距離外交」を主張する声が出てくるのは確実です。すでに、民主党政権時代に「米中等距離」を目指した実績が日本にはあるのです。
首のすげ替え論が登場
—そんな中国の事情を米国は理解しているのでしょうか。
鈴置:もちろんです。北朝鮮のICBMの試射以来、米国で「金正恩のすげ替え論」が公然と語られるようになりました。それも中国のお家の事情と、大いに関係していると思います。
(次回に続く)=8月10日掲載予定
ポンペオCIA長官は7月20日、「核と金正恩は切り離さなければならない」と語った(写真:AP/アフロ 2017年4月撮影)
(前回から読む)
米国で浮上する北朝鮮の体制変更論。それは米韓同盟消滅の伏線でもある。
CIA長官が言い出した
前回は「米国で金正恩すげ替え論が公然と語られ始めた」というところで終わりました。
鈴置:初めに「すげ替え」を語ったのはポンペオ(Mike Pompeo)CIA長官でした。7月20日、コロラド州でのシンポジウムの席でした。
CNNの「CIA chief signals desire for regime change in North Korea」が伝えています。発言を引用します。
It would be a great thing to denuclearize the peninsula, to get those weapons off of that, but the thing that is most dangerous about it is the character who holds the control over them today,
So from the administration’s perspective, the most important thing we can do is separate those two. Right? Separate capacity and someone who might well have intent and break those two apart.
As for the regime, I am hopeful we will find a way to separate that regime from this system,
ポンペオ長官はまず、北朝鮮の核の脅威を核兵器そのものと、それを行使しかねない金正恩(キム・ジョンウン)委員長に2分しました。
そのうえで、最大の危険要因である後者を前者から切り離そう――金正恩体制を転換しようと言ったのです。要は「金正恩の首をすげ替えよう」と主張したわけで、政府高官としては相当に思い切った発言です。
ティラーソン(Rex Tillerson)国務長官の主張とは真っ向から対立します。国務長官は「金正恩体制の維持を保証するから核を捨てよ」と北朝鮮に呼び掛けてきました(「中国にも凄んで見せたトランプ」参照)。
斬首作戦は困難
—なぜ、CIAの長官は国務長官と180度異なる意見を言い出したのでしょうか。
鈴置:中国などの反対で、北朝鮮に対する経済的な圧迫がうまくいかない。そんな中、7月4日と28日、ついに北朝鮮は米本土まで届くICBM(大陸間弾道弾)の試射に立て続けに成功した。
ポンペオ長官はしびれを切らし軍事的な圧迫に加え、首をすげ替えるぞと金正恩委員長を威嚇するに至ったと思われます。
—「首のすげ替え」なんて、簡単にできるのですか? テレビのワイドショーではしばしば「斬首作戦」が語られますが。
鈴置:簡単ではありません。「斬首作戦」とは秘密部隊が金正恩を急襲して暗殺する方法です。しかし、これは本人の居所が分からないと不可能です。もちろん、北朝鮮側も「大将」がどこにいるか悟られないよう徹底的に情報を統制しています。
一方、米国の専門家が「金正恩のすげ替え」を語る際、北朝鮮の不満分子がクーデターを起こして金正恩体制を転覆する方法を念頭に置くことが多い。しかし、これも容易とは思えません。簡単にできるのなら、もう実行しているかもしれません。
もちろん「クーデターを起こさせるぞ」と脅せば「誰が自分を裏切るのだろうか」と金正恩委員長が疑心暗鬼に陥り、体制が動揺するでしょう。
でも「動揺」に期待するわけにはいきません。時間が経つほどに北の核武装の可能性が高まります。そんな状況下で、不確実なシナリオだけに賭けることは危険です。
リベラルなNYTも
—確かにそうですね。
鈴置:ただその後、保守派のWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)に加え、リベラルなNYT(ニューヨーク・タイムズ)も体制変更論を掲載しました。思い付きの、泡沫的なアイデアではないということでしょう。
WSJの7月30日の社説「The Regime Change Solution in Korea」はポンペオ長官の意見を紹介したうえで「もう、北朝鮮の核武装を阻止するにはこの方法に賭けるしかない」と全面的に支持しました。
WSJは具体策として「北朝鮮と取引する中国の銀行や貿易会社に対し制裁を科すことで北朝鮮経済を締め上げる」「金正恩ファミリーの犯罪を北朝鮮の国民と指導層に知らしめる」「北朝鮮が発射した直後のミサイルを撃ち落とし、データの収集を邪魔して開発を妨害する」などを列挙しています。
—そんなことでクーデターが起きますか?
鈴置:これを書いたWSJの論説委員も「材料不足だな」と思ったのかもしれません。中国が北の体制変更に乗り出すかもしれない、と付け加えています。中国は北朝鮮の軍や党との人脈を誇ります。中国なら可能と見る人が多いのです。
But a debate is already underway among Chinese elites about the wisdom of supporting the Kim dynasty. China might decide to manage the process of regime change rather than allow a chaotic collapse or war on the Korean peninsula, perhaps by backing a faction within the army to take power.
中国でも「すげ替え論」
中国の指導層の間でも北の体制変更が検討されています。2016年10月にワシントンで開かれたシンポジウムでは、中国の学者――コロンビア大学のZhe Sun上級客員研究員が以下のように語りました(「米中が朝鮮半島で談合する時」参照)。
聯合ニュースの「China scholars, policy makers begin talking about supporting surgical strike on N.K.: Chinese professor 」(2016年10月7日、英語版)を翻訳して引用します。
米韓による「外科的手術と首のすげ替え」を支持すべきだと語り始めた学者や当局者がいる。もっと過激な意見もある。中国が指導者(金正恩)を換えねばならない。軍が国境を超えて北朝鮮に駐屯し、核開発の放棄と改革開放政策の採用を迫る――との意見だ。
金正恩委員長の目には、米中が談合して自らを除去しようとしていると映ったに違いありません。
2017年2月13日にマレーシアで起きた金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件はこの記事が引き金となったかもしれません。「すげ替え」を阻止するには「後釜」を殺すことが一番手っとり早いからです。
「すげ替え」という手法を採ろうとは言わないまでも、中国では「金正恩を見捨てた方が国益にかなう」との議論が活発になっています(「米中が朝鮮半島で談合する時」参照)。
難民が来るよりはいい
—米中合作で金正恩の首をすげ替え――。国際陰謀小説のノリですね。
鈴置:NYTへの寄稿「We need a Radical New Approach on North Korea」は「中国によるすげ替え」をもっと明快に主張しています。
筆者はレフコウィッツ(Jay P. Lefkowitz)氏。米国の北朝鮮人権大使を2005年から2009年まで務めた法律家です。
The challenge for Mr. Trump is to find a way to persuade the Chinese that a regime change in North Korea — or, at the very least, serious containment of its nuclear ambitions — is actually in China’s best interest.
「トランプ政権は、中国をして北朝鮮の体制変更を実現させるべきだ。それは中国にとっても最高の利益になる」との主張です。
「対話解決」もうれしくない中国
「『北朝鮮の核』6つのシナリオ」をご覧下さい。朝鮮半島の近未来を6つに分類してあります。
■「北朝鮮の核」6つのシナリオ
- 軍事的に解決● ①米軍が核施設などを空爆 ②空爆が地上戦に拡大
- 交渉で解決● ③「核武装放棄」受け入れ、見返りに在韓米軍撤収・米韓同盟廃棄 ④「米国まで届くミサイル」だけ認めずに手打ち
- その他● ⑤クーデターで金正恩政権が崩壊 ⑥現状維持
レフコウィッツ氏の想定した軍事的な解決は①、あるいはその発展形である②に当たります。
米国は交渉で解決する③あるいは④も模索しています。対話による解決を主張する中国ですが実は内心、それらにも不安を感じている。
いずれも米朝和解につながるシナリオであり、中国は自らの柔らかい腹に米国の友好国を抱えることになるからです。中国側から一気に西側に寝返ったミャンマーが、北東アジアにも生まれることを意味します。
今の米国は中国が最も困る方法でもって北朝鮮の核問題を解決しようとしているとレフコウィッツ氏は指摘しているのです。当然、それに中国は応じないし、中朝を団結させてしまう。米国は実現性に乏しいシナリオをゴリ押ししてきたわけです。
クーデターなら八方、丸く収まる
—そこで、残る⑤の「クーデターで金正恩政権を崩壊」を中国に持ちかけよう、というわけですね。
鈴置:その通りです。これなら中国の利益を損ねない。そのうえ、大いなる利点もあります。中国が介入して政権交代を実現すれば、北朝鮮の新政権は中国の言うことを聞かざるを得ない。中国は朝鮮半島での影響力をぐんと増せるのです。
なお、レフコウィッツ氏は中国の疑念を完全に払しょくするために、米国は「1つの韓国政策」の放棄、つまり「南北統一」を追求しないと約束すべきだとも言っています。
北の政権が転覆すれば在韓米軍が北上し、中国との国境沿いにまで展開すると中国は恐れている。「北進はしない。半島の北半分は中国が自由にすればよい、と米国は確約せよ」との意見です。
—「米国の約束」を中国が信用するでしょうか。
鈴置:中国は信用し切れないでしょう。これに関連、キッシンジャー(Henry A. Kissinger)元国務長官がさらなる譲歩を提案しています。「金正恩政権の崩壊後は在韓米軍をおおむね撤収する」とまで、中国に約束すべきだと言うのです。
これを報じたNYTの「After North Korea Test, South Korea Pushes to Build Up Its Own Missiles」(7月29日)によると、キッシンジャー氏はティラーソン国務長官らにこの意見を進言済みだそうです。
この記事は、キッシンジャー氏の言う「崩壊後」が⑤のクーデターによる崩壊後とは明示していません。ただ「中国を説得できる新たな、従来とは異なったアプローチが必要だ」との発言を紹介していることから「首のすげ替え」も念頭にあると思われます。
信用しないなら脅せ
—でも、それも口約束に終わるかもしれません。
鈴置:米国には「そんなに信用できないのだったら勝手にするがいい。軍事的手段で解決する。そうなったら、困るのは中国だろ?」と言い放つ手があります。
先に引用したWSJの社説。「中国が北の体制変更に乗り出すかもしれない」と書いたくだりで「(中国にとって望ましくない)崩壊による混乱や半島の戦争に直面するよりは」と付け加えています。
レフコウィッツ氏の意見はもっと強烈です。北の体制転換に賛同しないというのなら、周辺国にミサイル防衛網を構築し中国を脅せばいいのだ、と主張しています。
結局、米国は軍事的な圧迫を強化しながら「金正恩すげ替え論」を模索していくと思われます。
朝鮮半島201Z年
—そして、つまるところは在韓米軍の撤収ですか……。
鈴置:それが直ちに米韓同盟の廃棄につながるわけではありません。しかし、同盟が弱体化する契機になるでしょう。
文在寅(ムン・ジェイン)政権は「首のすげ替え」に賛成はしないかもしれませんが、在韓米軍の撤収は受ける可能性が大です。
もともと「反米」政権なのです。6月末の米韓首脳会談でも、米軍撤収を呼ぶ「戦時の作戦統制権の返還」を改めて米国に求めました。
米国側もそれを了承しました。トランプ(Donald Trump)大統領もかねてから在韓米軍は予算の無駄使いと主張していました。北朝鮮の核問題が解決すれば、さっさと兵を引くと思います。
—米韓同盟も打ち切るのでしょうか、米国は。
鈴置:状況次第と思います。トランプ大統領は4月12日「韓国は歴史的に中国の一部だった」と語りました。4月の米中首脳会談で習近平主席からそう講義を受けたのです(「『韓国は中国の一部だった』と言うトランプ」参照)。
「韓国は中国の勢力圏に属する」と認めたのも同然です。米韓同盟を維持する意思は見られません。北朝鮮の核問題を解決するためなら、米韓同盟を「切り売り」することに躊躇しないと思います。
4月の米中首脳会談で「金正恩すげ替え」も話し合われ、ひょっとすると、ある程度の合意が固まっているのかもしれません。
—その時は、日本が大陸に向きあう最前線になります。小説『朝鮮半島201Z年』みたいになってきました。
鈴置:日本人も覚悟を固める時が来ました。
(次回に続く)
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