5/9日経ビジネスオンライン 篠原 匡『ヒラリー大統領を阻む難敵』、高濱賛『クルーズ撤退でも四面楚歌のトランプ 「原爆投下」を巡ってヒラリー攻撃に出るか』について

本日より、会社OB13人で北海道旅行へ出かけます。明日から札幌、小樽、余市の写真中心の記事となります。

ヒラリーの弱点は

①FBIの私用メール調査。ベンガジ事件の闇が暴露されるかどうか。高濱氏は「幕引き」のセレモニーと見ているようですが。

②エスタブリッシュに近い。サンダースにここまで追い込まれたのはトランプ旋風に通じるものがある。格差を放置してきた不満がサンダースに流れた。特別代議員(エスタブリッシュそのもの)がいなければもっともっと苦戦したと思われる。ヒラリーが大統領になっても、生活は良くならないだろうと大衆は思っている。

③「ガラスの天井」は2008年予備選のようにはないと思われるが、この8年で年をとって68歳。トランプが69歳でほぼ同じですが、長く政治に携わってきた垢が溜っている。それと健康問題。

トランプの弱点は高濱氏の言うように沢山あります。

①人種差別

②女性差別

③宗教差別

④共和党主流派

共和党員がトランプに投票しない人が多く出て来ると言われるように、民主党員もヒラリーに投票しない人が多く出て来ると言われています。結果はどうなるか?トランプがどのように軌道修正できるかがポイントでは。でも、時すでに遅しか?

でも、日本はトランプの提言を真面目に検討すべきと思います。戦後70年も経って占領統治時代と同じ発想で生きていくことが本当に良いことかどうか。「日本は本当に独立国家なのか」どうか考える良いチャンスです。子々孫々に自尊と名誉の観念を持たせないと。自虐史観に染まったままでは日本人ではなくなります。それが、軍事的・経済的に負担になろうとも。国民の意識覚醒こそが一番大事ですが。

①憲法改正問題。GHQの押付け憲法を今のままにしているのが良いかどうか。良いものは残せば良いと思うが、軍のない独立国家はない。(台湾はその意味で既に独立している。香港・澳門とは違います。人口規模の小さいパラオは米軍に依存しています。通貨も$です)。9条は自衛戦が法的にできるようにしておかないと中国の侵略時に超法規的措置で戦わざるを得なくなります。法治国家としてそれは避けたい。元々米国が日本を「カルタゴ」にしようとして入れた条文と思われますので。

②核保有の是非。キッシンジャーと周恩来の密約と言われる「瓶の蓋」を打ち破る良いチャンス。米国も中国の野心にやっと気づいてきたようで、誰が真の敵か分かってきた。ここで中国に対して楔を打ち込み、アジアの平和には日本の力が必要と米国に思わせないと。

③有事の際の国民の行動。国家にどう協力できるか。後方支援や道路通行等私権の一時的制限。

④日米安保の双務性の向上。

⑤スパイ防止法の制定。外患誘致している日本人(マスメデイアに多い)や在日(朝鮮総連等)の活動を牽制。また外国人のインバウンドを2020年に4000万人に増やすというのだからセキュリテイをもっと考えないと。反テロ法も必要。

篠原 記事

4月26日の予備選で、民主党のクリントン氏が獲得代議員数を積み上げた。この日の勝利でサンダース氏を引き離し、党候補に指名されるのはほぼ確実に。だが米経済の動向次第では、“輸出減”が壁としてクリントン氏に立ちふさがる。

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4月26日、フィラデルフィアで演説するクリントン氏。民主党の結束を訴えた(写真=The New York Times/アフロ)

 思いのほか長引いたが、民主党の候補指名争いはいよいよ最終局面を迎えたようだ。

 4月26日にペンシルベニアやコネティカットなど東部5州で開催された民主党の予備選挙では、初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントン氏が4州で勝利、獲得した代議員総数は指名に必要な過半数の9割に達した。

 ライバルのバーニー・サンダース氏はロードアイランド州で一矢を報いたが、過半数の代議員を獲得するのはほぼ不可能な情勢。「最多の票、最多の代議員を獲得して、(7月に開かれる)フィラデルフィアの党大会に戻る」。この日の予備選後にフィラデルフィアで行ったスピーチで、クリントン氏はそう力強く宣言した。

 サンダース氏を振り切ったクリントン氏は、共和党の候補者選びで首位を走るドナルド・トランプ氏と舌戦を繰り広げるなど、11月の大統領選をにらんだ戦いにシフトしつつある。

 もっとも、クリントン氏の前途に立ちふさがる難敵は、共和党候補だけではない。それは米経済の状況、とりわけ為替と輸出入の動向だ。

輸出減はクリントン氏に逆風

 米ジョージタウン大学マクドナー・スクール・オブ・ビジネスのブラッドフォード・ジェンセン教授と同僚のデニス・クイン教授などは、今年1月に発表した論文で国際貿易が大統領選に与える影響を明らかにした。輸出が拡大すれば与党支持が上昇し、輸入が増加すれば与党支持が低下するという相関関係である。

 これが意味しているのは、大統領選の前に為替がドル高に振れて輸出が減少していれば、低スキル・低賃金の製造業が集まる州で与党の候補者が苦戦する可能性が高いということだ。特に、民主、共和のどちらが勝ってもおかしくない州(スイングステート)の場合は大統領選に大きな影響を与える。

 今回で言えば、アイオワ、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアといった中西部や東部に位置する工業地帯の各州が該当する。こういった州のほかにも、雇用に占める製造業の比率が高く、大統領選でカギを握ると考えられる州として、ノースカロライナやニューハンプシャーが挙げられる(下の地図)。

輸出減が本選に与える影響は大きい ●雇用において製造業の影響が強い地域・弱い地域

Swing States

注:2016年2月のデータを基に作成。太枠はスイングステートと予想される州。スイングステートの判断はThe Cook Political Reportを基にした(どちらかと言えば共和党、どちらかと言えば民主党の州もスイングステートに含めた) 出所:米労働省

 経済動向が大統領選に与える影響については、選挙年とその前年の実質GDP(国内総生産)成長率との関係も広く知られている。大統領選が行われる年の実質GDP成長率が前年を上回れば与党候補が勝利、逆に下回れば野党候補が勝つという法則だ。

 事実、ロナルド・レーガン氏が当選した1980年以降を見ると、9回あった大統領選のうち8回でこの法則が当てはまる。「4年前と比べて豊かになったか」という問いに対して、Yesと国民が感じれば与党を信任する、Noだと思えばおきゅうを据えるということだ。「結局のところ、有権者は自分たちの“収入”に投票している」とクイン教授は語る。

低下する一途の「好感度」

 それでは、今年の大統領選は与党候補(クリントン氏)にとってどのような環境なのだろうか。足元を見れば、クリントン氏にフォローの風が吹いていると見えなくもない。

 2014年半ば以降、ドルは主要通貨に対して上昇を続けていたが、現在はドル安傾向にある。米企業の輸出額も2月は前月比プラスに転じた。もちろん、輸出が本格的に回復したと言えるような状況にはないが、最悪期は脱した感がある。1月から2月にかけて混乱した株式市場も今は落ち着いている。

 ただ、これは足元の話で本選が実施される11月までに経済情勢がどう変わるかは予断を許さない。

 「記録的な暖冬のため経済活動が一時的に活発になっているだけで、米経済はいまだリセッションの瀬戸際にいると考えている」。米ジェローム・レビー・フォーキャスティング・センターのデービッド・レビー会長がこう分析するなど、米経済の現状を危惧する声は相変わらず存在する。世界経済が冷え込めば、米国の輸出に悪影響を与える。

 経済が堅調に推移したとしても、今度は米連邦準備理事会(FRB)による利上げが首をもたげる。6月以降、FRBが利上げに踏み切れば、再びドル高に転じることも十分にあり得る。

 国際通貨基金(IMF)が予想する2016年の実質GDP成長率は2.4%で、2015年から横ばいだ。先日発表された2016年1~3月期の成長率が0.5%と弱かったことを考えれば、2016年全体は2015年を下回るかもしれない。トランプ現象が象徴しているように、豊かさを実感できない米国人が増えていることもクリントン氏には逆風だろう。

 「(クリントン氏は)金融機関やエスタブリッシュメントの代弁者」というサンダース氏からの執拗な攻撃もあって、クリントン氏の好感度は下落の一途をたどっている。

 4月に実施された米NBCテレビと米ウォールストリート・ジャーナルの世論調査で不支持率(56%)が支持率(32%)を大きく上回った。別の好感度調査でも数値の悪化が著しい。トランプ氏の数値が輪をかけて低いため、対トランプという面では優位を保っているが、好感度の低下がクリントン陣営のアキレス腱になっているのは確かだ。

 好感度が自身の対応によって改善可能なのに対して、経済動向はクリントン氏の意思でどうにかなるものではない。党候補としての指名は確実にしたが、大統領就任への道のりはすんなりとはいきそうにない。

(ニューヨーク支局 篠原 匡)

高濱 記事

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トランプ氏は共和党の結束を呼びかけるが…(写真:ロイター/アフロ )

—共和党では5月3日、インディアナ州での予備選が終了した直後に、テッド・クルーズ上院議員とジョン・ケーシック・オハイオ州知事が相次いで撤退してしまいました。その結果、不動産王のドナルド・トランプ氏の指名が事実上決まりましたね。

高濱:実は、クルーズ氏はインディアナ州予備選で負けても、もう少し頑張ると思っていました。意外と引き際が早かったですね。

 でも対抗馬がいなくなったとはいえ、トランプ氏が正式な共和党の大統領候補に直ちになるわけではありません。予定されている残り9州の予備選・党員集会は粛々と行われます。そして7月18日からクリーブランドで開かれる党大会で承認を得なければなりません。

 トランプ氏はこれまで対抗馬や共和党の既成の保守主流派を激しく批判してきました。ここに来て、そのツケが回ってきています。共和党主流派の大物の中にはトランプ氏が指名されるのを嫌がり、猛反発しているのです。

マケイン、ロムニー、ブッシュ一家は党大会ボイコットへ

 「トランプが共和党の大統領候補に指名されるような党大会には出ない」と言い出している党内の大物が後を絶ちません。

 前回の大統領選で共和党の候補となったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事や、前々回の共和党候補となったジョン・マケイン上院議員はいずれも党大会をボイコットすると言い出しています。またブッシュ一家も全員欠席すると発表しています。ジョージ・W・H・ブッシュ第41代大統領、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の両大統領、及び、今回予備選に出て途中で撤退したジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事ですね。

 党大会の委員長を務めることになっているポール・ライアン下院議長は5月5日、「現段階ではトランプ氏の指名はまだ認められていないし、支持しない」と発言しています。その理由として「トランプ氏が共和党の価値観や理念を共有しているかどうか、見極める必要がある」としています。 (”Romny skipping GOP convention, joins list of presidents, leaders,” Tom LoBianco, CNN, 5/6/2016)

 こうした動きにトランプ氏は「党大会に出たくない奴は出なくて結構」と負け惜しみを言っています。共和党内の亀裂は深まるばかりです。

—となると、いくら政治の世界の常とはいえ、共和党の一本化は一朝一夕にはいきそうにありませんね。

高濱:米大手紙政治記者の一人は私にこう囁きました。「ブッシュ一家の欠席は、氷山の一角にすぎません。共和党主流派の中には同調する者がまだまだいるはずです。彼らは『トランプでは本選挙でヒラリー・クリントン(前国務長官)には勝てない。その責任を俺たちはとらないぞ』と言っているわけです。『トランプが共和党候補に指名されてしまった後の党立て直しを真剣に考え始めなければならない』と発言する党幹部もすでに現われています」。

ヒラリーは早ければ5月17日には指名獲得

—一方、民主党のほうは、バーニー・サンダース上院議員が善戦していますね。

高濱:インディアナ州の予備選ではサンダース氏が総投票数の52.4%を獲得して、クリントン氏(47.6%)を抑えました。しかし民主党は同州で比例割り当て制をとっているため、サンダース氏の獲得代議員数は43人、クリントン氏は37人となりました。

民主党予備選は、インディアナ州のあとは、5月7日のグアム(代議員数12人)、10日のウェストバージニア州(同34人)と続きます。

 クリントン氏に投票する特別代議員が多いことを考えると、同氏は、早ければ5月17日のケッターキー、オレゴン州予備選あたりで指名を確定しそうです。指名獲得に必要な代議員数は2383人。クリントン氏の獲得代議員数は5月6日に現在、2205人です。

 クリントン氏を悩ませる心配事の一つだった国務長官時代の電子メール公私混同使用にまつわる国家機密漏えい疑惑も、4月上旬にはケリがついたとの報道が流れています。クリントン氏に最も近い側近である女性が米連邦捜査局(FBI)から事情聴取を受けて捜査は終結、つまりクリントン氏は「シロ」との判断がなされたようです。CBSテレビは5月7日、「FBIは今後数週間のうちにクリントン氏とインタビューする」と報じています。これが何を意味するのか分かりませんが、「幕引き」ではないかと観測する向きもあります。

「トランプ旋風」が吹き荒れるのは予備選段階まで?

—日本では、「トランプ大統領が実現する可能性は皆無ではないんじゃないか」といった見方が出始めています。米国のメディアや一般市民はどう見ているのでしょう。

高濱:トランプ氏とクリントン氏の一騎打ちになった場合、どちらを支持するかという各種世論調査では、クリントン氏がトランプ氏に10%から16%の差をつけています。 (” Latest 2016 Presidential General Election Polls.” RealClear Politics, 5/4/2016)”

 私が定点観測していて気付いたのは、二つの現象が同時に起こっていることです。一つは、メディアが「トランプ旋風」について報道すればするほど、「それじゃ、俺もトランプに一票入れるか」と考える一般の共和党員が増えたこと。

 こういう声を何人かの共和党支持者から聞きました。本選挙でクリントン氏に勝てるかどうかは眼中にないんですね。ある中年白人男性は「トランプに票を入れるのはエンタテインメント(余興)だよ」とまで言っていました。

 もう一つの現象は、「共和党の外」で起こっています。「反トランプ」現象が先鋭化し、燎原の火のように広がっているのです。トランプ氏は完全に四面楚歌の状況にあります。

 この現象は、今後強まることはあっても弱まることはないように思います。一般大衆だけでなく、外交専門家や宗教家も加わって楚歌を歌っているのです。日本や欧州の同盟国の学識経験者たちもこうした「反トランプ」に加わっているのではありませんか。ほかの国が米国をどう思っているのかを、米国人はすごく気にする国民です。

 ある主要シンクタンクで、大統領選を30年間研究してきたベテラン研究員が私にこう指摘しました。「この『反トランプ』現象は本選挙に突入すると、トランプ氏に対して原爆並みのインパクトを与えかねないと思います。その結果は、火を見るより明らかです。トランプ氏は惨敗するでしょう」。

反トランプで結集するヒスパニック、黒人、女性票

 「反トランプ」現象の中心的役割を演じているのはメキシコ系の人たちです。

 トランプ氏は、メキシコ系不法移民を「強姦魔」「殺人犯」と呼びました。不法移民の国外退去や不法入国を阻止するためメキシコ国境に壁を構築する計画を打ち出しています。これにメキシコ系をはじめとするヒスパニック系が黙っているはずがありません。

 ヒスパニック系は一世代前にはカリフォルニア州やテキサス州に集中していました。しかし今ではコロラド、ノースカロライナ、フロリダといった州にも拡散しています。カリフォルニア州についていえば、ヒスパニック系の人口が白人の数を2014年に、超えました。

 数だけではありません。ヒスパニック系国民の平均年齢(中央値)は28歳。これに対して白人は43歳です。若くなるほどヒスパニック系の割合が高くなっているのです。近年、これらヒスパニック系に対して有権者登録するよう呼びかけるキャンペーンをスペイン語のテレビ局などが中心になって続けています。

 彼らの大半は共和党員や支持者ではありません。従ってトランプ氏を指名した共和党予備選や党集会には参加していません。 (” The Nation’s Latino Population Is Defined by Its Youth,” Hispanic Trends, Pew Research Center, 4/20/2016)”

 私の住むカリフォルニア州で「反トランプ」の急先鋒となっているのはヒスパニック系の人たちです。5月1日のメーデーにはロサンゼルスなどで数千人が「反トランプ」を訴えるデモに参加しました。デモはサンフランシスコや、オークランドなどでも行われました。トランプ支持者と衝突して逮捕者まで出ています。 (”May Day rallies in Los Angeles,“, Los Angeles Times, 5/2/2016)”

「女性カード」を逆手にとったクリントン陣営

 本選挙になってトランプ氏に襲いかかるのは、ヒスパニック系だけではなりません。ヒスパニック系を「前門の虎」とすれば、「後門の狼」はトランプ氏を生理的に嫌っている女性と黒人です。

 トランプ氏は女性蔑視発言を繰り返しています。4月26日には「ヒラリー・クリントンが男だったら獲得した票の5%も取れないだろう。ヒラリーには『女性カード』(Woman Card)を使うしか手がないのだ」と発言しました。

 これに対してクリントン氏は「女性のために戦うことが『女性カード』だというのなら受けて立つ」と反撃しました。ピンク地の紙にトイレなどに使われる女性のマークをあしらった実物の「女性カード」を作成し「1ドル献金してくれれば誰にでも差し上げます」と募ったところ、女性有権者から注文が殺到しているそうです。 (” Woman Card,” The Official Hillary for America)”

「支離滅裂」「落第論文」と散々だったトランプ外交演説

—トランプ氏が4月27日に行った外交演説に対する米国内の反応はどうでしたか。その後もトランプ氏は「日本は駐留米軍の費用を全額負担せよ」などと発言していますね。

高濱:トランプ演説に対する外交問題専門家たちの評価は散々でした。トランプ氏を評価する専門家を探し回りましたが、一人もいませんでした。厳密に言うと一人だけいましたが、実名でコメントするのは拒否されました(笑)。

 専門家たちから見て、トランプ演説のどこが不評なのか。

 第一に米国の伝統的外交理念からあまりにもかけ離れた内容だったことです。米国は建国以来、「自主独立」(Sovereign Independence)、「国利・国益」(National Interests)、「全世界における自由のため」(Cause of Liberty in the World)を重視してきました。 (” America’s Founders and the Principles of Foreign Policy,” Matthew Spalding, www.heritage.org., 10/15/2010)”

 ところが「トランプ演説にはこういった言葉が1回も出てこない」(米国務省OB)のです。

 不評であるもう一つの理由は、いやしくも大統領候補を目指すにもかかわらず、演説の構成がめちゃくちゃなことです。

 カリフォルニア大学バークレイ校に籍を置く政治学教授の一人が私にこう言いました。「演説の内容は支離滅裂で、矛盾だらけ。国際情勢に疎い、一米市民の思いつきを並べ立てた即席スピーチとしかいいようがない。うちの学生がこんな論文を書いたら間違いなく落第点をつけるね」。

 著名な政治コラムニストのピーター・ベイナート元「ザ・ニューリパブリック」編集長は、トランプ氏が外交演説に盛り込んだ外交の基本理念についてこう指摘しています。「共和党大統領候補の指名を受けようとする者がこんなことを言うのは理解に苦しむ。撤退したマルコ・ルビオ(上院議員)、ジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事)、リンゼー・グラハム(上院議員)、ロムニー(前共和党大統領候補)だったらこんな外交演説はしないだろう」。

 「まともな共和党大統領候補ならこう言うはずだ。『国際社会にはイラン、北朝鮮、中国、シリア、キューバ、過激派イスラム集団など悪の政府や社会組織がある。こうした勢力がのさばり始めたのは、正義のために戦う国家であることを放棄してきたオバマ大統領とクリントン前国務長官のせいだ。私が大統領になったなら米国は正義のために戦う国家であることを再確認する。そして我が国の軍事力を再強化し、自由と束縛からの解放のためにその軍事力を行使する。ちょうどロナルド・レーガン(第40代大統領)がやったように』。」

 「レーガンは自らの理念を維持する一方で、実践ではより賢明に立ち振る舞った。対中接近を図る一方でソ連に圧力をかけている」 (” Donald Trump and the GOP Traditional Foreign-Policy Incoherence,” Peter Beinart, the atlantic.com, 4/28/2016)”

日本はトランプの対日政策に真正面から反論せよ

—トランプ氏の対日スタンスについて、米国内の専門家たちはどう見ていますか。

高濱:トランプ氏の対日批判の柱は大きく二つあります。一つは防衛面、もう一つは通商面です。

 トランプ氏は共和党候補への指名が事実上確定した後も「私が大統領に就任したら、日米安保条約に基づき日本防衛のために米軍が支出している国防費の全額を負担するよう日本に求める」とCNNテレビとのインタビューで答えています。 (” Election 2016: Donald Trump Wants Japan to Pay More For American Military Facilities,” Lydia Tomkiw, IBT, 5/5/2016)”

 トランプ氏はこれまで「日本が攻撃されたら米国は助けに行くのに、米国が攻撃を受けても日本は助けに来ない。日米安保条約は片務的だ。日本が米国に守ってもらいたいのであればもっと分担すべきだ」と言ってきました。その主張が今も変わらないことを明確にしたわけです。

 日米安保体制の経緯や内容について全く知らない米国の一般庶民は「そうだ、そうだ」と共鳴しています。トランプ氏はこの主張を本選挙でも繰り返すかもしれません。

 日米安保体制に精通している軍事・外交専門家たちは「呆れて開いた口が塞がらない」(元国務省高官の一人)といった感じです。トランプ氏が露わにした米大衆が抱く日米同盟への認識と専門家との間には大きなギャップがあるわけです。(関連記事:「 (大衆が抱く日米同盟への認識、トランプが露わに」)

 こうした認識のギャップを埋めるために、両国政府当局をはじめとする専門家が大衆を啓蒙することが必要であることを痛感します。

 藤崎一郎元駐米大使が5月1日付の「ザ・ワールド・ポスト」(米ハフィントン・ポスト系列のオンラインメディア)に「米国の友人たちへの手紙」と題する一文を寄稿しました。一般大衆が読むとは思えませんが、トランプ氏の主張に日本サイドからもきちんと反論することは重要だと思います。

 藤崎氏の主張は次のようなものでした。 1)日本は防衛面でタダ乗りしているというが、日本は在日米軍駐留費として1年間に20億ドル近くのカネを出している。 2)米国は日本を防衛する義務を受け入れる代わりに日本国内の施設使用を許されている。それにより極東地域の平和と安全を維持するという米国の国益を堅持している。さらに日本が昨年、集団的自衛権の行使に関する解釈を変更することで日米軍事協力が一層強化された。  3)日本の市場は閉鎖的で、その結果、米国の対日貿易赤字が増大しているという主張は80年代のものだ。日本の企業は今や米国内に工場を建設し、製品を現地生産している。これにより70万人の雇用を生み出している。米国製のクルマが日本で売れないのは貿易障壁のせいではなく、需要と供給の問題だ。 (” A Letter to American Friends,” Ichiro Fujisaki, The World Post, 5/1/2016)”

本選挙でクローズアップされる為替とTPP

—トランプ氏は、「日本は為替を操作している」とも批判していますね。クリントン氏も同様のことを、米紙への寄稿文で2月に主張しています。「日本や中国は何年にもわたって通貨の価値を下げて輸出品の価格を人為的に安くしてきた」と。

高濱:安倍政権がアベノミクスで大幅な金融緩和を行った結果、円安が進行しました。この円安傾向を見て、「日本は為替操作をしている」との声が米国内には以前からありました。

 米上院議員団は2月10日、輸出促進を目的とした為替操作への対応を強化するため貿易円滑化・貿易執行法を成立させました。議員団の一人、チャック・シューマー上院議員は記者会見で「日本や中国は為替操作し、米国から何百万もの雇用を盗み、米国をばかにしてきた」と述べています。

 こうした米議会の動きを反映してトランプ、クリントン両氏も日本や中国、韓国、ドイツ、台湾の為替操作を取り上げているわけです。

オバマ政権も為替問題が米大統領選で議論の的になっていることを真剣に受け止めています。その証拠に財務省は4月29日、日本など5か国・地域を為替政策の「監視リスト」に載せ、通貨安誘導を目的とした為替介入への警戒感を打ち出しています。

 5月3日の外国為替市場で円相場が急伸し、1年半ぶりに1ドル=105円台を付けました。日本政府は過度な円高をけん制しています。が、米財務省の「監視リスト」に載ったため市場介入に動きづらくなっています。

 為替問題とともに、安倍政権が重視する環太平洋経済連携協定(TPP)問題も本選挙でクローズアップされる雲行きになってきました。ご存知の通りクリントン、トランプ両氏ともにTPPには反対の姿勢を取っています。

トランプは「原爆投下正当論」を打ち上げるか

 日米関係にかかわることで危惧される問題がもう一つ、ワシントンの日米関係筋の間で浮上しています。5月26~27日に開かれる伊勢志摩サミットに出席するオバマ大統領による広島訪問です。広島への原爆投下について米国民の半数以上が「正しかった」と答えています。したがってオバマ大統領による広島訪問を「原爆投下への謝罪」と受け止める米国人がいるかもしれません。

 この広島訪問について、米メディアがトランプ氏にコメントを求めるのは必至です。そこでトランプ氏がオバマ攻撃をする可能性が十分考えられます。それを受けてクリントン氏との間で「原爆投下の是非」に関する論争が起こるかもしれません。

 国務省の元高官の一人が、私にこうコメントしています。「そうなるかどうか、神のみぞ知るだね。トランプは本質的にはnon-serious person(不真面目な男)。ナンセンスなことでも思いつくと口に出す。メディアはそれを喜んで取り上げる。衆愚の代弁者なのに」。

「宗教保守」は本選挙では棄権か

—クリントン対トランプの一騎打ちの話に戻ります。予備選の前半戦に大きな影響を与えた「キリスト教保守」や草の根保守「ティーパーティ」(茶会)の人たちの声はどこへ行ってしまったのでしょう。少なくともトランプ氏の言動には伝統的なキリスト教の理念とか思いやりは全く感じられないのですが。

高濱:予備選を振り返えると、緒戦のアイオワ州やニューハンプシャー州での共和党予備選・党集会でキーワードになっていたのは「キリスト教保守」でした。共和党各候補は「宗教保守票」を競い合いました。

 アイオワ州では宗教保守の支持を得たクルーズ氏がトランプ氏を破ってトップに立ちました。信仰心が篤いとされる元精神科医、ベン・カーソン氏も宗教保守票を集めました。しかし、予備選がここまで進んでトップを走っているのはキリスト教とは無縁の「暴言王」のトランプ氏です。

 トランプ氏の指名が確実視される中で、キリスト教プロテスタントの著名な神学者や牧師ら52人が4月29日、次の共同声明を発表しました。

 「トランプ氏は自らの政治的野心のために、米国民の間に潜在的に存在する憎悪を弄んでいる。米国内のキリスト教会は今、倫理的脅威に見舞われている。(トランプ氏によって)我が国とその歴史における最も悪質な価値観が俗悪な言動と手法によって露呈しているからだ。米国政治の底辺に潜在的に存在してきた人種、宗教、性別に対する頑迷さが(トランプ氏によって)今、白日の下に晒されている。この億万長者は倫理的、宗教的脅威を作り出している」

 署名者の中には権威ある宗教雑誌「ソジョナーズ」(寄留者)の編集主幹、ジム・ウォリス氏やブライアン・マクリーン牧師、ステーブン・シェネック米カトリック大学教授などリベラル派の神学者が名を連ねています。

 「キリスト教保守」の有権者たちはこうした神学者たちの意見に耳を傾けるでしょうか。

 プロテスタント宗派の一つ、メソジスト教団の牧師で、共和党を支持しているアジア系女性の一人が、私にこう述べています。「神学者や牧師による共同宣言がトランプ氏にとってマイナス要因になるのは間違いありません。だからと言って、彼らが本戦でクリントン氏に投票するとは限らない。棄権することも十分に考えられます。少なくとも私はその一人です」

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