『米国と世界の未来はどうなる?米大統領選直前、政策徹底分析!』(11/7日経ビジネス)、『トランプなら1930年代のブロック経済再来も 早稲田大学の浦田秀次郎教授に「もしトラ」を聞く』(11/7日経ビジネスオンライン 白壁達久)について

2012年11月7日のCNNによれば前回の米大統領選で「東部時間午後7時(日本時間午前9時)から順次投票が締め切られ、開票が始まった。」とのこと。大勢が判明するのは接戦と言われていますので、時間の予測は難しいでしょう。2000年のブッシュVSゴアの時のように、フロリダの投票の数え直しについて12/12の連邦最高裁判決が出るまで大統領選出は留保されました。トランプは「選挙の不正があれば争う」と言っていますので、スンナリ決まるかです。

http://yoiko00.blog9.fc2.com/blog-entry-191.html

11/6k.Wada「リアリストの目」というメルマガでは「エスタブリシュメント、軍産複合体は投票不正工作をして、ヒラリーを勝たせることを決めた。ヒラリーなら$の基軸通貨体制は安泰という判断から」とのこと。11/6宮崎正弘氏のメルマガでは「トランプ。九回裏二死満塁。「逆転満塁さよならホームラン」の可能性 民衆の反エスタブリシュメント、反グローバリズムへの怒りは強烈」とあり、相反する予想です。どちらが勝つかは予断を許しません。

小生はトランプが勝った方が、ジョナサン・リーバー氏のコメントにある通り、日本の自立を促し、作られて来た「平和ボケ」から脱却するのに良いと考えています。外務省はトランプが勝ったらどうするのでしょう。大統領選の途中でヒラリーにだけ会せるのは、民主党に肩入れしている印象を与えました。トランプが会わないと言ったのでしたら別ですが、そんなことはありませんでした。報復が待っているかもしれません。政治リスクが高過ぎます。

浦田氏の記事で、「経済ブロック化は第三次大戦を引き起こす可能性」というのはオーバーでしょう。経済が理由でなく、ロシア、中国の動きを見ていますと、領土・勢力圏拡張で起きるのでは。ただ、核保有国同士で争えば地球はなくなってしまうことは理解しているでしょうから、局地戦になるのでは。

日経ビジネス記事

今後4年間のグローバル政治・経済の趨勢を決めるといっても過言ではない米大統領選。クリントン、トランプ両候補が掲げている政策とその影響について、米国分析の第一人者が解説した。それぞれの政策が生み出す勝者と敗者は誰か。そして企業にどんな影響を与えるのだろうか。

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ジョナサン・リーバー氏

ユーラシア・グループ米国政治担当ディレクター。ミッチ・マコーネル上院議員の主席経済政策アドバイザーを務めるなど、連邦議会での豊富な経験を有する。   第45代米国大統領を決める戦いはクライマックスを迎えている。支持率の差は10月31日時点で3.1ポイント(米政治情報サイト、リアル・クリア・ポリティクスの集計値)と、趨勢は米民主党のヒラリー・クリントン候補に傾いている。共和党のドナルド・トランプ候補が平均支持率でクリントン氏を上回る局面もあったが、10月上旬に流出したわいせつ発言ビデオが尾を引いている。

 とはいえ、BREXIT(英国の欧州連合離脱)を決めた国民投票が体現したように、選挙はふたを開けてみなければ分からない。事実、直前になって米連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題の捜査を再開、火種として再浮上している。

 それでは、同時に実施される議会選挙や新大統領による政策の見通しはどうなるのだろうか。政治リスク分析に定評のある米ユーラシア・グループのジョナサン・リーバー米国政治担当ディレクターが今後の展開を分析した。

下院はまだ共和党優勢 ●議会選挙の議席獲得予想

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注:米上院は2年ごとに総議席数の3分の1が改選される。民主党の現職には無所属のアンガス・キング議員を含む 出所:Cook Political Report

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世論調査でのクリントン氏のリードが増えるにつれて、政治評論家の関心は上下両院の動向にシフトしている。

現在、共和党は上院で過半数を上回る54議席を確保しているが、大統領選でクリントン氏が勝利すれば、上院を制するのに必要な4議席を少なくとも失いそうだ(上院の総議席数は100。議員による投票が賛否同数の場合は副大統領が決定票を投じるため50議席を取れば上院を支配できる)。

ウィスコンシン州やイリノイ州、ペンシルベニア州、ニューハンプシャー州などの共和党現職議員は、トランプ氏の支持率低下で打撃を受けており、かなりの苦戦を強いられている。民主党の議席は恐らく半数を少し上回るだろう。その場合、ニューヨーク州選出のチャールズ・シューマー上院議員が多数党院内総務に昇格する。

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トランプ氏との戦いで傷だらけのポール・ライアン下院議長(写真=AP/アフロ)

下院に目を転じると、共和党には現時点で過半数まで約30議席のアドバンテージがあり、民主党が過半数を得るのは難しい状況だ。だが、トランプ氏のわいせつ発言ビデオが暴露された後、同様の行為を受けたと同氏を非難する声が複数の女性から上がった。共和党のポール・ライアン下院議長はトランプ氏を大統領候補として公的に支援しないと明言、下院の選挙戦に注力するよう幹部会のメンバーに要請している。

共和党候補者の中には、無党派や共和党穏健派の有権者の離反を避けるため、トランプ氏と距離を置く人間もいる。だが、結果としてトランプ支持者からの支持を失っており、共和党の過半数を危機にさらしている。

10月28日に、クリントン氏の私用メール問題についてFBIが捜査を再開すると発表したが、大統領選の流れが一変するとは見られていない。ただ、議会選挙の民主党候補者には間違いなく逆風だ。そういった情勢を考えれば、現時点で共和党が下院で議席を減らすのは確実に思われるが、過半数は維持するだろう。

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次に、新大統領がどのような政策を実行することになるか見通してみよう。経済政策と金融規制を見ると、クリントン氏とトランプ氏はかなり異なる政策を提示している。

トランプ氏は貿易や移民について、共和党主流派が唱える伝統的な主張をすべて受け入れているわけではない。ただ、同氏の経済政策は政府支出の縮小や減税、企業や銀行に対する規制緩和を標榜しており、この点では伝統的な共和党候補に近い。

トランプ氏は銀行に対する監視強化を目的にした金融危機後の金融改革法、「ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法(略称:ドッド・フランク法)」の廃止を支持している。数百万の米国人に医療保険のカバーを広げるオバマケア、連邦政府医療費負担適正化法についても廃止を唱える。同法はオバマ大統領のレガシーの一つだが、批判の対象になっている保険料の引き下げという目標は達成できていない。

税制では10年にわたって少なくとも4兆ドル(約420兆円)の減税を提案している。2001年と2003年にジョージ・W・ブッシュ前大統領の下で実施された大規模減税の2倍以上の規模だ。

一方で、ソーシャルセキュリティーやメディケアのような給付金制度に伴う支出は削減しないと語る。中高年層からの支持を拡大することが狙いだが、一方で、社会保障プログラムの民営化を主張するライアン議長との対立を招いている。

経済面におけるトランプ氏の提案は共和党支持者を不安に陥れている。

同氏は米連邦準備理事会(FRB)の独立性を批判している上に、オバマ大統領やクリントン氏のためにジャネット・イエレン議長が政策金利を低く維持していると非難する。また、トランプ氏は米国債の返済額を値切ろうと画策している。外貨準備を原資として米国債を購入している世界中の国々に疑心暗鬼を起こさせる提案だ。

同様に、米国の国益に沿った形の修正に応じなければ、北米自由貿易協定(NAFTA)からの脱退も辞さないと脅している。

このように、トランプ氏の掲げる経済政策は従来の共和党の政策と異なる面が多々ある。だが、トランプ政権が誕生すれば、最終的に保守派の経済学者が起用され、共和党の伝統的な経済政策が追求される可能性が高い。

ウォーレン議員の影響力が増大

対照的に、クリントン氏はオバマ政権のレガシーの主要部分を継承し、拡大すると思われる。同氏はドッド・フランク法を守ると明言している。また、米ウォール街とのつながりが指摘されるが、クリントン政権は少なくともオバマ政権と同程度には金融機関に厳しく対応するとみられる。

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クリントン氏が大統領になった場合、政権で影響力を高めるとみられているエリザベス・ウォーレン上院議員(写真=AP/アフロ)

さらに、クリントン政権が誕生した場合に生じ得る顕著な変化として、マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員の影響が強くなることが挙げられる。

ウォーレン議員は米ハーバード大学教授から上院議員に転じた人物で、民主党の左派として極めて人気が高い。上院を率いるリーダーの中で最も積極的に発言している一人で、今年の大統領選に出馬を打診されたが、最終的に辞退した。ドッド・フランク法の下で設立された消費者金融保護局のアイデアを出したのも同氏で、公共の利益に反する行動を取っている民間企業や同僚議員を追及するのに積極的だ。

ウォーレン議員は民主党をどんどん左傾化させている。クリントン氏は自身の立法議案を通すためにウォーレン議員の支持を必要としており、財務長官や米消費者金融保護局局長など金融監督に関わるポストにウォーレン議員が受け入れるような急進的な人物を任命するはずだ。

立法を伴う追加的な金融規制は共和党が下院を支配する限り実行される見込みが薄いが、ウォーレン議員やクリントン氏が任命する高官が金融サービスに対する規制やアンチトラスト法の執行を増やす可能性はある。民主党内には、民間部門に対する規制の強化が重要という幅広いコンセンサスがある。これは、市場にとって重要な長期的トレンドだ。

クリントン氏が大統領就任後に最初に取り組むのはインフラ支出の大規模なパッケージになりそうだ。同氏は道路や橋の修理、旅客鉄道システムの拡張、ブロードバンドインターネットの提供のため、5年にわたって2750億ドル(約29兆円)を支出すると提案している。また、送電網や上下水道の近代化も優先課題として挙げる。

下院の共和党支配が続けば、米国企業が海外に滞留させている利益を米国内に環流させる際にかかる税金をインフラ投資の財源にすると考えられる。一方で、民主党が過半数を奪い取れば、富裕層や企業に対する増税で財源を賄う可能性が高い。

クリントン氏は同様に、時給7.25ドル(約760円)にとどまる連邦最低賃金を引き上げようとするだろう。同氏は時給12ドル(約1260円)にする案を支持している。労働組合は全米で低賃金労働者を組織しており、最低賃金15ドル(約1575円)という彼らの要求は民主党支持者や進歩主義者に人気がある。

共和党は最低賃金の引き上げに反対するだろうが、要求金額を下げたり、現在のインフレ水準を勘案した金額にしたりすれば妥協も可能だろう。仮に関連する法案が議会を通れば、農業や小売り、レストランなど労働集約的な産業が打撃を受ける。利益を維持するために低賃金労働者に依存している業界だ。

さらに、クリントン氏はオバマ大統領が進めるエネルギー政策や気候変動に関する政策を引き継ぎ、既存の法律を通じて温暖化ガス排出量を規制するに違いない。

米環境保護庁は二酸化炭素の排出を規制する新たな気候変動対策、クリーン・パワー・プランを公表している。規制に反対する州などがこれを提訴しており、来年、最高裁で審議が始まる。クリーン・パワー・プランに対する両候補のスタンスは対照的で、クリントン氏は擁護、トランプ氏は拒絶すると明言している。

クリントン氏はシェールガスやシェールオイルを掘削する際に使用する水圧破砕に伴うメタン排出を規制する一方で、昨年12月に締結された気候変動抑制に関する国際合意「パリ協定」で定めた温暖化ガス排出削減目標の実現を後押しするために大統領令を出そうとするだろう。

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貿易は今回の選挙戦で思いがけず議論の的になった。

民主党を支持するリベラル層はクリントン氏にTPP(環太平洋経済連携協定)への反対を表明するよう圧力をかけることに成功した。TPPは国務長官時代のクリントン氏が積極的に支持した政策だ。一方、トランプ氏は過去の貿易協定に反対する姿勢をアピールすることで、白人労働者からの支持を獲得した。NAFTAについても数百万に及ぶ米国人の雇用を犠牲にした恐ろしい貿易協定だと述べている。

企業や両党の主流派は自由貿易を依然として支持しているが、経済成長の減速に加えて、グローバル化や技術革新に伴う製造業の雇用喪失、所得格差の拡大や社会的混乱のために、両候補者ともに反貿易に転じている。民主党と共和党の候補が貿易自由化にともに反対する大統領選は、米国の戦後史において初めてだ。

こうした中で、TPPの先行きは極めて不透明になっている。レームダック期間(大統領選が終了した後、新たな議会が始まる2017年1月上旬まで)の議会によって批准される可能性は低い。どちらの大統領候補も反対しているため、議会が批准するには新たなリーダーの意向を無視する必要がある。

反貿易で右派と左派が団結

もちろん、レームダック期間の批准は不可能ではないが、TPPのような主要な貿易協定がレームダック期間に批准されればこれも前代未聞の事態だ。

クリントン氏が大統領になり、民主党が上院の過半数を握れば、TPPが批准される可能性はさらに減る。新たに生まれる少なくとも5人の民主党上院議員はいずれもTPPに反対するだろう。

これが意味しているのは、TPPが議会で批准されるチャンスは2019年まで来ないということだ。2018年の中間選挙の結果によっては、自由貿易推進派が上院に復活する可能性はある(実際に新しい議会が開催されるのは2019年1月)。また、クリントン氏が再交渉に成功すれば(再交渉が可能な条項は極めて限られるだろうが)、TPP賛成に転向する建前ができる。

署名から批准まで3年以上も待つのは他の参加国にとっては受け入れがたい事態だと思われるが、米国政治が反貿易に転じる見通しのため、他の選択肢がなくなってしまった。なお、トランプ氏が大統領になれば、TPPは完全に葬り去られるだろう。

有権者の間に広がる反自由貿易の雰囲気は、現在交渉が進められている他の貿易協定にも悪影響を与えている。

TTIP(環大西洋貿易投資協定)は米国とEU(欧州連合)の間で交渉されている大規模な貿易協定だ。ドイツやフランス、その他のEU加盟国からの反対に直面している。大半の米国人はまだTTIPの存在に気付いていないが、企業に対する利益供与だとしてTPPと同様に攻撃する恐れがある。この点では左派と右派は団結している。

一方、トランプ氏は米国の国益に合うよう再交渉しなければNAFTAから脱退すると脅している。国内の抵抗がかなり激しくなると見込まれ、実際に脱退する可能性は低そうだが、将来の不確実性が高まるためメキシコ経済は極めて大きな影響を受ける。現状維持が基本のクリントン氏はNAFTAにいかなる変更も加えないだろう。

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トランプ氏のスタンスは、過去数十年にわたる米国の外交政策を大きく変える可能性が高い。

米国の外交政策はグローバルコモンズ(人類が共有している地球上の公共財)の秩序を保ち、解決困難な国際問題にリーダーシップを発揮することに焦点を当ててきた。だが、トランプ氏は外交政策をゼロサムのビジネス交渉として捉えている。ある一方が勝てば他の一方が負けるという発想だ。

また、トランプ氏は米国が提供している安全保障網を米国の貿易パートナーが享受しており、それが相互利益につながっている側面を認めていない。同氏の公約である「米国第一主義」が意味しているのは、安全保障網に対する対価の多寡によって、同盟国の安全が左右される環境になるということだ。

同時に、トランプ氏の不安定な気質にも懸念がある。彼はロシアのプーチン大統領やシリアのアサド大統領のような絶対的指導者に親しみを持っている。選挙戦のライバルに対して、辛辣な個人攻撃を仕掛けたことを考えても、国際的な紛争に公平かつ冷静な対応ができるとは思えない。

トランプ氏が大統領になれば、中国との摩擦が増える可能性が高い。同氏は遊説で中国をしばしば攻撃対象にしてきた。一方で、国際的な問題をロシアとともに解決すると繰り返し述べており、ロシアとの関係はより近くなる。

日本について言えば、トランプ大統領の誕生によって、米国からより独立した形の外交政策を立案する必要に迫られるだろう。結果的に、中国と対立するリスクが上昇し、日本の自衛隊により大きな裁量を与える憲法修正の議論が影響力を増す可能性がある。

クリントン氏の外交政策は、オバマ政権時代の慎重な姿勢とは異なり、米国の外交政策にリバランスをもたらす方向に動く。同時に、ビル・クリントン元大統領やジョージ・H・W・ブッシュ(父)元大統領の時代の国際協調主義に戻っていくと思われる。これは米国が戦後取ってきた外交政策のメーンストリームに一致している。

アジアでは、クリントン氏はオバマ政権が進めた「アジアピボット(アジア回帰)」を続けることになる。米軍と外交リソースの大きな部分をアジアに割く戦略だ。

クリントン氏は南シナ海での中国の挑発に対して、オバマ政権よりも積極的な対応を取るかもしれない。もちろん、他の差し迫った国際問題で中国の協力が必要なことを考えれば、断固とした対応と協調をうまく両立させることが不可欠なのは言うまでもない。

また、クリントン政権は日本や韓国、フィリピンといったアジアの同盟国に対する軍事援助を続けるだろう。ベトナムやマレーシア、インドなど中国と領有権問題を抱えるアジアの国々とも、より緊密な関係づくりを進めるに違いない。日本にとってはトランプ氏よりもクリントン氏の方が好ましい。

最近の米国大統領がそうだったように、アジアにおけるクリントン政権の最初の試練は、ともに合意できる分野で中国と生産的な関係を維持することだ。同盟国の信頼を維持するために中国の挑発に強く応じる一方で、これを実現しなければならない。

米中関係は、オバマ大統領と習近平国家主席による開かれた対話から恩恵を受けてきた。この関係を継続できるかどうかがクリントン氏の試練となる。

中東については、クリントン氏は優れたオプションがない状況に直面する。

シリア内戦が始まった後の2012年に、クリントン氏は国務長官としてアサド体制の転覆を図るために反体制派への武器供与を支持した。だが、同氏が大統領に就任する頃には、アサド政権はロシアやイランの支援を受けて、内戦を有利に展開していると思われる。

一方、過激派組織「イスラム国(IS)」については、この組織がイラクとシリアで多くの支配地を失っていることもあり、確実に壊滅させようとするに違いない。その上で、シーア派が政権を取っているイラクにおいて、スンニ派が多数を占める地域の自治を適切な形で回復させることに注力するはずだ。

シリアへの地上軍投入はない

シリアでは恐らく、この地域における米国の影響力を拡大するため、特殊部隊と空軍力を今以上に活用するだろうが、地上軍の投入はないと見る。

また、クリントン氏は飛行禁止区域を設定するアイデアを推している。シリア領の大半にロシアの先進的な対空ミサイルシステムが導入されており、飛行禁止区域を設定すれば、ロシア軍と対立を引き起こす恐れがある。それは容認できないリスクだろう。

2人の大統領候補はロシアに関して、明らかに異なるスタンスを取っている。

米ロの2国間関係は今年、劇的に悪化した。ロシアのウクライナ侵攻によって生じた対立は、アサド政権に対するモスクワの支持や、ロシア政府と関係の深いハッカーによる米大統領選の妨害でさらにこじれている。

クリントン氏が勝てば、同氏はシリアやサイバー空間におけるロシアの行動に対して新たな制裁を科す。一般的に、クリントン氏はオバマ大統領よりも、そして確実にトランプ氏よりも、ロシアの挑発に力強く反応するはずだ。

米ユーラシア・グループが徹底分析! 新大統領が生み出すWinner & Loser

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注:米ユーラシア・グループ作成

*    *    *

トランプ氏が大統領になる可能性がなくなりつつあることを考えた場合、最も重大であるにもかかわらずまだ不確かなのは、どちらの党が議会の過半数を獲得するかだ。

民主党が議会を制すれば、オバマ大統領が進めてきたアジェンダを推進するという負託を得たことになる。共和党が議会を握れば、重要な政策に関して保守派の主張を限定的にではあるがクリントン氏に取り入れさせるだろう。

オバマ政権では難しくなっているが、クリントン氏には連邦議会との関係をリセットする機会がある。政権との妥協という困難に議会がどう対処するかは、次の2年間の主要な課題になる。

2人の差は再び広がったが… ●両候補の勝利確率の推移

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(写真2点=ロイター/アフロ)

日経ビジネス2016年11月7日号 10~15ページより

日経ビジネスオンライン記事

いよいよ火曜日に米大統領選が実施される。民主党のヒラリー・クリントン候補の優勢が伝えられるが、共和党のドナルド・トランプ候補も支持率を盛り返している。トランプ候補は環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を明言。「もし、トランプ氏が米大統領になったら」、米国はどうなるのか。また、日本にはどんな影響が想定されるのか。TPPや自由貿易について詳しい早稲田大学大学院の浦田秀次郎教授に「もしトラ」について聞いた。(聞き手は白壁 達久)

日経ビジネスオンラインは「もしトランプが大統領になったら…」を特集しています。 本記事以外の特集記事もぜひお読みください。

トランプ氏はTPP離脱、NAFTA脱退を示唆

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浦田 秀次郎(うらた・しゅうじろう)氏 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 1950年埼玉県生まれ。73年慶應義塾大学経済学部卒業。78年、米スタンフォード大学大学院博士号取得。同年にシンクタンクの米ブルッキングス研究所研究員に。81年に世界銀行エコノミスト、88年に早稲田大学社会科学部助教授を経て、2005年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。専門は国際経済学、開発経済学(写真は北山 宏一)

—米共和党のドナルド・トランプ候補は、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を公約に掲げています。自由貿易について詳しい浦田さんから見て、「もしトラ」が実現したら、世界はどうなるとどう見ますか。

浦田秀次郎氏(以後、浦田):トランプ候補はずっとTPP反対の立場ですね。それだけではなく、北米自由貿易協定(NAFTA)についても反対を主張している。米国はNAFTAによって非常に大きな被害を受けていると強調しています。NAFTAにTPP、自由貿易に対して一貫して反対する立場ですね。

もしトラが実現すると、米国はNAFTAから脱退し、TPPからも離脱するでしょう。日本は時間をかけて国内での議論を繰り返し、国内での道筋をようやく作った(編集注:取材は、TPP法案が衆院を通過する前に行った)。だが、米国が離脱すると、TPP自体が崩壊する可能性がある。

トランプ氏は「強い米国」を復活させると公言している。その核となるのは強い経済だろう。だが、自由貿易を否定しては、その実現は困難なものになると考えます。米国がNAFTAから脱退する、あるいはTPPに参加しないということになれば、同国の経済成長率は現状と比べて低くならざるを得ないでしょう。

米国経済が伸び悩めば、世界経済に負の影響を及ぼす。負のスパイラルが動き出す可能性がある。

—「負のスパイラル」とはどのようなものでしょう。

浦田:自由貿易に否定的な国が増え、自国の産業を守ろうとする保護主義が台頭します。そうなると、為替の引き下げ競争や、関税の引き上げ競争が生じます。

貿易が減れば、世界の生産も減ることになる。結果的に、世界経済の縮小につながります。

第三次世界大戦勃発のリスクも

—近年はグローバル化が急速に進み、世界経済が飛躍的に拡大してきました。過去の歴史に学ぶことはできないでしょうか。

浦田:同じような現象は過去にもありました。現在の構図は、1930年代の世界経済と似ています。各国が保護主義に走り、貿易が縮小。自分の国で作った商品や製品を海外に売るのが困難になる「ブロック経済」が広がった。

国内市場だけでは生産したものがさばけない。そこで大国がどう動いたか。「植民地」拡大という形で新たな市場獲得に動き出したのです。それが「世界大戦」へとつながっていったことはみなさんご承知の通りでしょう。

負の経験、これは絶対に忘れたらいけないと思います。

—「もしトラ」が第三次世界大戦を引き起こすかもしれない。

浦田:それは分かりませんが、そのきっかけを作り得るかもしれなません。グローバル化が進んで、経済の相互依存が深まり緊密の度を高めてきました。一国の状況あるいは政策がほかの国に伝播するスピードも速くなったし、規模も大きくなった。ひょっとしたら1930年代よりももっと急速に負の影響が世界中に波及するかもしれません。

世界は第二次世界大戦後、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)の下で自由貿易の道を開いてきました。自由貿易は世界経済の規模を拡大し、豊かにしてきた。ですが、トランプ氏はその恩恵を否定する。

米国が離脱すればTPPは事実上崩壊するでしょう。TPPは自由貿易協定の中でも、非常にレベルの高い枠組みとなっています。

TPPがなくなって動き出すのは中国です。国有企業改革が進まない中国が、自国に都合のいいようルールを作ってアジアに広めたら、日本企業や日本経済全体が大きなダメージを受けます。対岸の火事では済まされません。

—米国に限らず、内向きな政策を取るリーダーを選ぶ国が増えているように感じます。

浦田:たしかに、内向きなリーダーが増えていますね。ただ、その背景はそれぞれ異なると感じています。

米国のように、所得格差の問題が貿易政策に影響を与えている国もあれば、中国のように、権威主義的な国が一般国民が抱く政府への不満の意識をそらすために、保護主義的な貿易政策を採る国もあるでしょう。いずれにせよ、世界の多くの国が以前に比べて保護主義の政策を採る傾向が強いのは事実だと思います。

ただ、トランプ氏のように保護主義を掲げて経済を強化するのはやはり限界がある。分かりやすいのが、米国の自動車産業です。

ビッグスリーに代表される米国の自動車産業は、ずっと保護されてきました。以前よりは経営革新も進み、一時の最悪の状況よりはマシになったかもしれませんが、日本や欧州の自動車会社と競争できるレベルになっているとは言い難いです。その理由の一つは保護政策が続けられてきたからだと私は思います。

—日本の農業も同じですね。

浦田:そうです。保護政策は海外からの競争圧力を軽減させる。プレッシャーが制限されるため、新製品の開発や新技術を創出しよう、あるいはより良いサービスを生み出そう、生産効率を上げようという発想がどうしても乏しくなる。それほど頑張らなくてもいいわけですから。その間、海外のライバルたちはどんどん自分を磨いていく。

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競争力のある産業を創り上げるには、今、自由化されていない産業ならば「これから自由化していくんだ」というメッセージをその産業に伝えなければなりません。ですが、トランプ氏が唱える政策はその流れに逆行します。

トランプ氏の方針では、「強い米国経済」はいつまでたっても実現できません。保護というのは、一度できてしまうと既得権を持つ人たちが生まれる。それを取り上げるのは非常に困難です。

問題は「所得の再分配」にある

—トランプ氏を熱烈に支持する人が少なからずいる背景には、米国内において自由貿易への不満があるからではないでしょうか。

浦田:自由貿易によるデメリットがないとは言いません。確かに、一部の地域や産業において、マイナスの影響が出るのは確かです。ただ、それを上回る恩恵を受けられるのが自由貿易です。

反自由貿易が支持される背景には、格差の拡大があるのでしょう。ただ、問題の根幹は、自由貿易が生み出した利益を一部の階層が多く受け取っているところにある。つまり、自由貿易=悪ではなくて、再分配の仕方に問題があるのです。ここを改めるべきでしょう。

—具体的にどのような再分配をすればよいのでしょう。

浦田:例えば、教育として還元する。

自由貿易によって仕事を失う人が出てくる。ならば、自由貿易で得られた利益の一部を、彼ら彼女らへの教育に再投資する。ほかの仕事ができるようスキルを身に着けさせるのです。

—民主党のヒラリー・クリントン候補もTPPに慎重です。米国の中で、自由貿易に対する議論がもっと膨らんでもいいのかなと思います。

浦田:自由貿易で得られるメリットが一般の人々にきちんと伝わり切っていないのも問題です。モノが安く買えるようになる、あるいは購入できる品物の選択肢が増えるといったメリットは、日ごろ当たり前に享受しています。ただ、当たり前すぎて、そこに目が届きにくい。

一方で、自由貿易によって被害を受ける人たちの声はハッキリと目に見える。失業や生産縮小、倒産――。非常に深刻な被害が目に見えます。当事者にしてみれば絶対に回避したいと思うでしょう。分かりやすいデメリットと分かりにくいメリット。この非対称性が背景にあるのではないでしょうか。

まずは格差の解消。もしトラになった場合、自由貿易を否定するのではなく、自由貿易がもたらすメリットを理解し、デメリットを解消する方向に動いてほしいものです。

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