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『「中道左派にはもう頼れない」欧州移民の悲哀 “移民の味方”である民族政党は国家分断の源?』(6/16日経ビジネスオンラインThe Economist)について
欧州移民の問題は、白人の「成功の復讐」でしょう。キリスト教を先兵として植民地を開拓して富を収奪、第一次大戦後のパリ・ヴェルサイユ講和会議での日本の「人種差別撤廃提案」(米ウイルソン大統領に否決)、第二次大戦後植民地の独立運動(日本の敗戦の結果でも、やればできるかもと被植民の国民に思わせた、東南アジアの独立に残留日本兵の活躍もあった)、その後宗主国として影響力行使のためもあり、移民を受け入れざるを得ない歴史的展開になりました。
日本も韓国は植民地支配でなく、一進会等の要望もあり統合したにも拘らず、日本の敗戦後、韓国は戦勝国を自称するに至り、今でもそう言っていますが、世界で韓国が戦勝国と認める国はありません。それはそうでしょう。韓国ができたのは戦後、米国統治から韓国の独立が認められただけで、戦前・戦中は日本の一部だったわけですから。彼らの頭の中を覗いてみたい。不合理の塊なのでしょう。ノーベル賞を切望しても取れる訳ありません。科学は合理性の追求ですので。文学賞も「火病」を持った民族に良い作品ができる訳ありません。
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160608/frn1606081140001-n1.htm
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160615/frn1606151848008-n1.htm
日本も欧州と同じく、在日の問題が大きく存在します。差別ではなく、弱者を騙り、日本から優遇策を勝ち取り、寄生虫そのものです。認めてきた方が悪いのですが。戦後日本人は経済成長だけに目が行き、名誉を守ることを忘れてきたせいでしょう。すぐ金で解決しようとします。そこが落とし穴です。一度払えばヤクザ同様延々と要求が続きます。偏向メデイアや左翼政党の影響を受け過ぎです。在日が日本に本当に馴染めないのであれば、権利の主張ばかりするのでなく、祖国に帰るべきです。欧州も極右と呼ばれていますが、移民受け入れ反対政党が票を伸ばしてきています。英国のEC離脱の理由として、難民問題もその一つです。6/23英国の国民投票でEU残留するかどうかですが、ジョー・コックス下院議員の銃殺事件がどう影響するかです。
記事
オランダの中でもハーグ市ほどオランダらしい都市はない。政庁所在地であるビネンホフ地区にはグリム童話から抜け出てきたかのような古風なゴシック建築がそびえ立つ。
そこから1マイルほど西に向かうとボザール様式の平和宮が建っている。ここは国際司法裁判所の本部だ。また、北側に位置するガラス張りの財務省は、財政規律を教条的に重んじる人々の総本山である。

オランダの極右政党、自由党のウィルダース氏(写真:AP/アフロ)
一方、東に向かって1マイルほど歩くと(自転車でもいいのだが)、伝統的なオランダの風景とは異なるものが見えてくる。ガーナ人が経営する理髪店。トルコ風ティーハウスの数々。女性たちは頭からスカーフをかぶっている。ジュラバ(モロッコの民族衣装)を着た男性たちは夕べの祈りを捧げるため、道路に面したモスクへと足早に入っていく。
モスクの向かいにあるのは「アミンのモロッコ風肉店」。その日の午後、中近東のサンドイッチ「シュワルマ」がぎっしり並ぶ冷蔵カウンターの後ろでは、オーナーの息子で31歳のジャマールがコンピュータの設定に取り組んでいた。
彼のような人物こそ、この国の伝統的なアイデンティティと新たな移民コミュニティの間に存在する断絶の橋渡し役となり得る存在だ。ジャマールは2歳のときに家族とオランダに渡ってきた。エラスムス大学で経営学の学位を修得し、これまでに複数の中小企業でデータ解析の仕事に携わった経験を持つ。だが昨年になって企業世界に見切りをつけ、父親の精肉店に戻った。
「オランダ社会では人種による選別が至る所で行われている」と彼は言う。最後に勤めた企業では、白人の同僚が欧州出身でない求職者を拒絶する理由をあれこれ並べ立てるのを見て落胆したという。
ムスリムや少数派民族を“代表”する民族政党が台頭
移民という経歴を持つオランダ人の大半がそうであるように、ジャマールも過去の選挙では中道左派の労働党に票を投じてきた。だが今は新しくできた「デンク」への乗り換えを検討している。デンクは「考える」という意味。この政党は、ムスリムや少数派民族に対して自らを売り込んでいる。
ムスリムや移民の多くは10年もの間、反ムスリム主義・反移民主義を掲げる政治家、ヘルト・ウィルダース(極右の自由党に所属。支持率では現在首位にある)からの執拗なまでの侮辱を受け続けてきた。彼らは今、労働党などの主流政党は自分たちを守ってくれないと感じている。
デンクが来年の総選挙で数議席以上を獲得することはないだろう。だが、この政党は極めて重大な疑問を投げかけている。すなわち「外国人排斥の機運が高まったとき、欧州の少数派民族はこれまで投票してきた中道左派政党(幅広い政策を掲げる)を頼ることができるのか」「少数派民族は自らの手で政党を立ち上げるべきか」「そうすることは国の分裂を進めるだけなのか」といった問いである。
中道左派離れが始まった
欧州全体において、ムスリムや非白人は中道左派に投票する傾向がある。オーストリアでは少数派民族の68%が最近の総選挙で社会民主党に票を投じた(白人は32%)。フランスで行われたある調査では、2012年の大統領選挙でムスリムの93%が社会党所属のフランソワ・オランド氏に投票したことがわかった。
だが少数派民族の人たちは往々にして、中道左派政党は自分たちからの支持を当然視し、それに見合う見返りを与えてくれないと感じている。2012年にオランド氏に投票するため投票所に足を運んだムスリムたちは、2014年の市会議員選挙では家から出なかった(彼らの多くは社会党政権が同性婚を合法化したと非難した)。フランスに限ったことではなく、中道左派政党が移民やテロリズムに対して厳しく臨もうとするとき、少数派民族は裏切られたと感じる。
移民を軽視する政府高官
新党のデンクはそんな中に誕生した。2014年、オランダのローデワイク・アッシャー副首相(労働党)はトルコ系オランダ人の市民団体への監視強化を認めた。イスラム過激主義を扇動しないよう見張るためだ。
その直後、オランダのメディアは「トルコ系市民の若者の87%が過激派イスラム国(IS)に共感している」とする世論調査の結果を発表した。だが後の調査でこの結果はひどい代物であることが判明した。インタビューを受けた人たちは質問を理解していなかったのだ。だがアッシャー副首相はこの調査結果を無効とするのではなく、これが「厄介なもの」であると発言した。
これに対し、労働党を支持していたトルコ系オランダ人の多くが激怒した。政党のトップたちは自らの支持母体についてまったく理解していないようだった。アムステルダム議会のムニーレ・マニサ議員は「この調査が意味をなさないことは誰の目にも明らかだ」と指摘する。マニサ議員はこの問題を解決すべく、アッシャー副首相に会い、何よりも先にこの結果が無効であることを示した調査を認めさせようと考えた。
だが2人の野心的なトルコ系国会議員、トゥナハン・クズ氏とセルチュク・オズトゥルク氏がこの機に乗じて労働党を離れ、新党を設立した。
既存の政治に失望する移民は投票に行かない
デンクはオランダにおける他の2大マイノリティグループであるモロッコ系オランダ人、アフロカリビアン系オランダ人から候補者を募っている。この4月には元高級官僚で現在はオランダの主要モロッコ系市民社会グループを率いるファリド・アザルカン氏を引き入れた。
そして5月には南米スリナム生まれのテレビ番組司会者、シルバーナ・シモンス氏が参加した。同氏は、オランダにおける子どもの祝日である聖ニコラス祭で、顔を黒く塗ったキャラクター「ズワルト・ピート」がクッキーを配る風習が人種差別的だとして反対運動を行ってきた人物だ。シモンス氏は教育と言語の「非植民地化」を訴えた。これに対してオランダ国内の伝統主義者たちは交流サイトのフェイスブックで人種差別的な罵詈雑言を浴びせかけ、結果的にデンクが注目を集めるという一幕があった。
デンクは、労働党などの政党が国内の少数派民族を見下していることが、彼らが疎外感を強める原因となっていると非難する。「彼らは自分が認めてもらえているとは感じていない。また、安全性を感じることもできない」とアザルカン氏は言う。
アムステルダムの市会議員選挙を対象に長年行われている調査によると、1990年代半ばから2006年(ウィルダース氏の自由党が誕生した年)までトルコ系市民による投票率は約50%だった。それが2014年の選挙では34%に低下した。モロッコ系市民に関して言えば、2006年には37%だった投票率が2014年にはわずか24%となった。
アムステル大学の准教授でこの調査の共同代表を務めるフロリス・ベルメウレン氏は「彼らは労働党が自分たちの声を反映していないと感じてはいるものの、他に向かう先がない」と指摘している。
政党は何のために存在するのか
だが、「少数派民族以外の代表とはならない」というデンクのアプローチはオランダ社会が抱える分断を広げてしまう危険性をはらむ。「デンクに所属する議員の発言は”自分たちと相手の対立“という議論であふれている」――。労働党所属のモロッコ系議員、アハメッド・マルコウチ氏はこう指摘する。
最近、オスマン帝国政府によるアルメニア人虐殺を認定する決議案についてオランダ国会が審議した際、デンクは異例の行動に出た。誰が賛成票(もしくは反対票)を投じたのか分かる形で投票するよう要求したのだ。これには、この発議に投票する他党のトルコ系議員の映像を政治キャンペーンの材料として使い、支持層にアピールする狙いがあった。
もしも政党が民族を代表するものであるのなら、こうした政治の分断は避けられないものなのかもしれない。前出のジャマールが最終的にはデンクへの投票をためらうであろう理由は、おそらくそこにあるのではないか。ジャマールはこう問いかける――「問題は、デンクが移民の利益のみを代表する政党のつもりでいるのか、という点だ」「政党とは人々をまとめることが仕事のはずだ」と。
© 2015 The Economist Newspaper Limited. Jun 11th 2016 | From the print edition
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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『ドン・キホーテは『進撃の巨人』の夢を見るか 「オバマは韓国人慰霊碑を無視した」(3)』(6/16日経ビジネスオンライン 鈴置高史)について
韓国は分を弁えない民族的特質が仇になってきている感じです。「誇大妄想」、「被害妄想」という世界に浸りきれる「特異体質」を持った民族です。こんな民族に日韓基本条約を結んで助けた訳ですから。戦後の政治家は劣化したと言っても言い過ぎではありません。政治は結果責任の世界です。福沢諭吉は中韓と付き合うと碌なことにならないことを見抜いていました。今や在日中国人や在日韓国人が偏向メデイアと一緒になって、反日活動に勤しんでいます。獅子身中の虫としか言いようがありません。帰化日本人になっても祖国の為に動くのであればスパイです。スパイ防止法の制定が急がれます。こともあろうに自民党がスパイ防止法の代わりにヘイトスピーチ防止法を制定しました。表現の自由を制約するし、対象も特定の人種や民族という偏ったものです。これで自民党は本当に保守党と言えるのかどうか。多数の日本人を蔑ろにするものです。二階による野中広務の復党とか谷亮子の参院比例選抜とかおかしなことばかり。安倍首相はこれで本当に参院選に勝てると思っているのでしょうか?逆に「こころ」とか「おおさか維新」に票が流れるのでは。安倍首相の力が衰えてきているという事でしょうか?
韓国人は6/11のブログで書きましたが、「妬み」「嫉み」「恨み」「駄々こね」「嘘つき」「強請り」「タカリ」の特異体質を持っています。「火病持ち」で合理的精神のない未熟な民族です。でもそれは本記事にありますように、風車たる日本にだけしか通用しません。進撃の巨人の中国は韓国を属国扱いにしかしないでしょう。韓国の海も川も中国のものと中国人は思っています。今更日米に縋りつこうとしても「時すでに遅し」です。愚かな民族はどこまで言っても愚かです。日本も後世の日本人から「平成の日本人は本当に愚かだった」と言われないように。そのためには、マスメデイアの言うことの逆をやれば正しい道を歩めるでしょう。
記事

(前回から読む)
韓国人は不都合な真実に目をつむる。日本叩きはそのためにも必要だ。
風車に突撃する韓国人
—オバマ(Barack Obama)大統領の広島訪問に大騒ぎした韓国。風車を巨人と思い込んで突進した「ドン・キホーテ」を思い出しました。
鈴置:もっともです。日本を悪い巨人と思い込み――「日本は戦犯国家のくせに免罪符を得ようと、オバマを広島に呼んだ」と妄想し、国を挙げて難詰したのですから。
米国に対しても「オバマは広島に行くな」「行っても日本に謝るな」「もし、謝るなら韓国にも触れろ」と韓国紙は騒ぎ立てました。
表で動きにくい政府の意も体し、メディアが「巨人を倒せ!」と呼び掛けた。常識人――サンチョ・パンサが「あれは風車ですよ」といくら言っても聞く耳を持たず、国を挙げて「巨人」に突撃……。
数少ないサンチョ・パンサ
—サンチョ・パンサとは、前回登場した朝鮮日報の鮮于鉦(ソヌ・ジョン)論説委員のことですね。
鈴置:彼だけではありません。数は少ないのですが、まだいます。元外交官の趙世暎(チョ・セヨン)東西大学特任教授も「オバマ大統領の広島訪問を『勝った、負けた』の次元で見るな」と韓国人を諭しました。
5月26日、左派系のキョンヒャン新聞に「『核兵器のない世界』 オバマ広島訪問と韓国の選択」(韓国語)を寄稿しました。
5月27日の広島訪問の翌日、この寄稿はハフィントンポスト日本語版に「オバマ大統領の広島訪問は日本への免罪符となるのか」の見出しで翻訳・転載されました。後者を引用します。見出しで提示した疑問に対し、趙世暎特任教授は簡単に答えます。以下です。
- オバマ大統領の広島訪問は、果たして日本に免罪符を与えるだろうか? 私はそうは思わない。アメリカの大統領が広島を訪問して犠牲者を称える「道徳的優位」は、日本の戦争責任を上書きするどころか、日本に大きな負担となるだろう。
トランプに反応「核武装を」
そして話題を転じ、次のような主張で結びました。
- 問題は韓国だ。私たちは、果たして核兵器のない世界という目標を深く切実に考えているだろうか。核兵器の非人道性という、より根源的な問題意識とは遠い。そのため、トランプ氏が在韓アメリカ軍撤収を言い出すと、すぐに核武装を、といった話があまりに簡単に登場するのだ。
- 韓国社会にも核武装論への批判がないわけではないが、北朝鮮に非核化を要求する大義名分がなくなり、米韓同盟に支障をきたし、原子力発電をはじめとする実利的な面で損害が大きいという現実的な主張がほとんどだ。
- オバマ氏の広島訪問を加害と被害という面でばかり見てはならず、戦争や平和、そして核兵器と人道主義というレベルで深く考察する機会となることを願う。
現実主義者からも白い目
—趙世暎特任教授は反核運動の賛同者……でもなさそうですね。
鈴置:現実に足の着いた外交評論家です。この記事は11の段落で構成されていますが、8つの段落を使って「核のジレンマ」、つまり核廃絶が容易ではない現実を説明しています。
具体的には、マーシャル諸島共和国が「核軍縮に努力していない」と核保有国を国際司法裁判所に訴えたのに「核なき世界」を訴えノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領からも無視されたこと。日本は核廃絶に関心を見せながら米国の核の傘に依存すること――などを挙げています。
しかし、趙世暎特任教授はそうした現実も踏まえたうえで「オバマ広島訪問」に際し、韓国が「核兵器の非人道性という、より根源的な問題」には目を向けず「加害と被害」を掲げて立ち回ったことを批判したのです。
核廃絶を主張する人の多くは「広島訪問」の実現が、その一歩となることを期待しています。一方、オバマ大統領の「実績作り」と冷ややかに見た人もいます。前者の人々はもちろん、後者――現実主義者からも韓国の自己中心的な行動は白い目で見られるでしょう。
「日米同盟」も攻撃
—核廃絶論者が白い目で見るのは分かります。現実主義者も韓国をそう見るのですか?
鈴置:米国の現実主義者の多くは保守派です。彼らは、日米同盟強化も狙った「広島訪問」に難色を示した韓国を疑いました。
2015年の安倍晋三首相の米上下両院演説に対しても、韓国は国を挙げて反対しました。その執拗なロビー活動に米国の外交関係者は疲れ果てました(「『アベの米議会演説阻止』で自爆した韓国」参照)。
韓国の背後に中国がいると見なした人も多い。彼らの目には、今回の「広島騒動」はその再演に映ったのです。
ドン・キホーテが攻撃した対象は日本だけではなかった。日本との同盟強化を狙う米国にも韓国人はヤリを向けて突進したのです。本人たちはそれに気づいていませんが。
外交通商部(現・外交部)で東北アジア局長まで務めた趙世暎特任教授にすれば、とても見ていられなかったのでしょう。
韓国が立つ場はなかった
現役の外交官からも、韓国人の世界認識と姿勢に疑問が呈されました。徐張恩(ソ・チャンウォン)広島総領事が中央日報に「広島で過去より未来を語ったオバマ大統領」(日本語版、5月28日)を寄せました。骨子は以下です。
- 原爆を落とした国とその原爆で多くの命を失った国の首脳が「グラウンド・ゼロ」に並んで立った。韓日間の過去の歴史でいくつかの苦痛を忘れることができない我々が、このすべての場面を快く受け入れるのは容易ではない。
- しかし筆者は91歳の坪井さんら被爆者代表2人がオバマ大統領と握手しながら万感の笑みと涙を見せた場面で、今回の訪問のもう一つの側面を考えるようになった。
- 果たしてこの人たちは安倍政権の対外政策に同意してあの位置に立ったのだろうか。現場にいた広島の人々の多くは普段、安保法案など安倍政権の政策に非常に批判的だった。
- しかし今回は左右に関係なく声を一つにして訪問を希望し、これを実現させた。広島市民の主な関心事は「未来」であり、この「未来」に向けた歩みが忙しく、苦痛の過去を胸にしまい込んだようだった。
- 一方、我々は韓国人の原爆被害という、よりいっそう痛恨の「過去」を話しただけで、これを「未来」に結びつけようとする努力は見せられなかったようだ。慰霊碑訪問、そして現地を訪問した被爆代表団の謝罪・補償要求まで…。このため、未来だけを話すという場に我々が一緒に立つ余地はなかったようだ。
左右が声を1つに
—韓国人、ことに外交官が「過去ばかり見るな」なんて言っていいのですか?
鈴置:私も驚きました。韓国の対日外交の基本戦略は「歴史カード」を駆使して日本の足を引っ張ることですから。でも、徐張恩氏の経歴を見ると、職業外交官ではなく政治的任命を受けた研究者。それでこれだけ書けたのかな、と思います。
この寄稿にはもう1つ興味深い点があります。安倍政権に批判的な日本の被爆者らが、政府と歩調を合わせることでオバマ訪問を実現したことに注目したことです。
「昔は『弱さ』を恥じる韓国人もいた」で紹介した日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳事務局長。5月19日の日本記者クラブでの会見で、以下のように語っています。発言はYouTubeの『田中煕巳被団協事務局長「オバマ広島訪問」①』で視聴できます。
- 謝罪をしてほしいという気持ちはあります。が、それはぐっと抑えて(オバマ大統領に)核兵器廃絶の先頭に立ってほしいとの思いがあるのでしょう(開始後27分10秒から)。
- 広島に来られたらオバマさん個人の原爆に対する体験が質的に変わるだろうと期待しています(同19分48秒から)。
「苦痛の過去を胸にしまい込んだ」のです。その田中事務局長も「戦争をしない国になると決めた憲法9条に反した、ここ数年の安倍政権の方向」には極めて批判的です(同16分05秒から)。
徐張恩総領事はまさにこの点、「左右に関係なく声を1つにした」ことを特筆したのです。これは韓国人にとって驚きでしょう。韓国で被害者が「目的のためにぐっと我慢する」とは考えにくい。ましてや、対立する他の党派と協力するなど想像もできません。
「広島訪問」とは全く関係ない記事にも、この話が登場しました。書いたのは朝鮮日報の宋煕永(ソン・ヒヨン)主筆。1993年から2年間東京特派員を務め、経済科学部長、ワシントン支局長、編集局長などを歴任した有名な記者です。
1等国民と2等国民
—四半世紀前は……。
鈴置:そうです。その頃は、韓国メディアはとびきり腕利きの記者を東京に送り込んでいたのです。
宋煕永主筆が書いた「1等国民、2等国民」(6月4日、韓国語版)は、韓国でひどくなる一方の格差を論じたコラムです。
「持つ者」(1等国民)と「持たざる者」(2等国民)の対立が激しくなる現状を憂い、このままでは両者の間での「全面戦争がいつ勃発するか気が気でない」とまで書きました。
この純然たる内政を論じる記事に突然、謝罪を求めなかった日本の被爆者の話が出てくるのです。以下です。
- オバマ大統領は先週広島で原爆被害者たちに会った。戦争を起こした側は日本だ。その原罪を消すことはできない。しかし、原爆被害者たちは「弱くて罪がなくかわいそうな」人々だった。今日の生存者は当時、何も分からない子どもたちだった。
- にもかかわらず、広島では謝罪要求のためのデモが起こらなかった。補償要求もなかった。原爆被害者団体は1984年以降、米国に謝罪要求をするという方針を取っていたが、一切口を開かなかった。
- オバマ大統領が「謝罪はしない」と宣言していたため、諦めたのではない。「核兵器の根絶に向け先頭に立ってください」と言いたかったというが、それさえ最後まで自制した。
- 71年間にわたって彼らは、鬱憤と償いを求める心を抑えに抑え込んできた。熱い感情を冷たい胸に押し込んで生きてきた広島の人々を、我々はどう受け止めるべきか。
- 韓国人特有の被害者意識は「忍耐」を知らない。感情の高まりに歯止めが掛からない。
全体主義の誘惑
この記事は、韓国の持たざる者に「我慢せよ」と説いているわけではありません。格差の拡大を放置している為政者に矛先を向けています。
それでもなお、「熱い感情を冷たい胸に押し込んで生きてきた広島の人々を、我々はどう受け止めるべきか」と韓国人に問いかけたのです。
社会的葛藤の解決には「激突」以外にも方法があるのだ、と宋煕永主筆は言いたかったに違いありません。ただ、こうした発想は韓国人には受け入れにくいようです。
左派系紙、ハンギョレのキル・ユンヒョン東京特派員は「謝罪要求を口にさせない日本」を批判し、見出しで「日本は全体主義に向かう」と警告しました。「塩野七生、あるいは全体主義の誘惑」(5月27日、日本語版)という記事で、関連部分は以下です。
- 広島には自身の被爆経験を気楽には話せない微妙な雰囲気が出来上がっている。今までオバマ大統領に謝罪を要求する明確なメッセージを出してきた人は、広島の著名な平和運動家の森滝市郎氏(1901~1994)の娘でもある、「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子代表だけだ。
- 自分の被害だけを前面に掲げる被爆者の姿を見るのも多少違和感があるが、被爆者の自然な感情の表現まで封じ込めようとする日本社会の雰囲気には、本当に息苦しさを感じる。
泣き叫ぶ韓国の被害者
—全体主義ですか。
鈴置:「広島訪問」後、日本メディアはオバマ大統領への不満の声も紹介しました。5月28日の日本経済新聞朝刊・社会面の1本の記事の見出しが「核廃絶、力強さ感じず」「不満の声も」でした。
5月27日のNHKの中継放送でも、ある被爆者が「オバマ演説は核兵器の恐ろしさに十分に言及しなかった」と批判していました。
それでも韓国人には全体主義に見えるのでしょう。被害者は要求を通すため建物を占拠したり、泣き叫びながら道を転がって訴える。権力側はそれを警察力で弾圧する――。物理的な力の激突によって「正義」を決めるのが、韓国社会における対立の解決法ですから。
もちろんすべての韓国人がそれを「良し」としているわけではありません。ひょっとすると徐張恩総領事の「日本人は左右に関係なく声を1つにした」という寄稿は、キル・ユンヒョン東京特派員の「日本は全体主義に向かう」という記事に触発されて書かれたのかもしれません。
韓国を食う本当の巨人
—結局、韓国社会で「広島訪問」はどう記憶されていくのでしょうか。
鈴置:小ずるい日本がオバマを騙して免罪符を得たつもりになった。米国はやはり日本だけを可愛がる――という認識が定着していくと思います。メディアがその線で報じ続けたからです。
訪問前からいち早く、朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問が「世界の大局の変化を読み取れ。これは米日が手を組み中国と対決姿勢を造る一コマだ」と警告しました(「韓国は『尊敬される国』になるのか」参照)。
訪問後にも数人のサンチョ・パンサが出ました。でも、こうした大局論は論壇では少数派に留まりました。
—「凶悪な日本にまたやられた」という話の方が、普通の人の耳には入りやすいのでしょうね。
鈴置:その通りです。ただ、見落とすべきではないのは、国際情勢の変化には気がついても、その現実から顔をそむけるために「小ずるい日本」を言い立てる空気が出てきたことです。
普通の韓国人と話していても、交流サイト(SNS)を覗いてみても、韓国の未来が極めて厳しいとの前提で会話が進むことが増えました。
米中対立がどんどん先鋭化する。中国は「お前はいつまで米国の子分をやっているのか。戻ってこい」と凄んでくる。本当に危険なのは、隣の巨大な全体主義国家ではないか――。
こんな認識がようやく韓国人の間で語られ始めたのです。ますます大きくなる巨人が、韓国を取って食べようとしている。というのに、防壁たる米韓同盟は壊れ始めている、という恐怖です。
韓国の“荒川”河口に中国漁船
—同じ巨人でも、今度は『進撃の巨人』ですね。
鈴置:このマンガ・アニメは韓国でも有名です。例えを『ドン・キホーテ』に戻すと、最近の韓国人は恐ろしい現実から目をそらすために、風車に突撃しているように見えます。
巨人と戦っているという自己満足は得られますし、ありがたいことに風車――日本なら反撃してきません。
—今やドン・キホーテが風車攻撃に出るのは、不都合な真実に気がつかないというよりも、それを見たくないから、というわけですね。
鈴置:仁川国際空港とさほど離れていない海で、違法操業を繰り返す中国の漁船2隻を韓国の漁民が拿捕するという事件が起きました。「自力救済」です。
ウンカのように――数百隻も同時に押し寄せる中国漁船に、韓国海軍も海洋警察も対応しきれなくなっています。政府も中国に再三、抗議してきましたが、相手にされません。
中国の漁民はこん棒などで武装しており、すでに韓国の海洋警察官2人が殺されています(「『中国に屈従か、核武装か』と韓国紙社説は問うた」参照)。
中国漁船は何と、ソウルを流れる漢口の河口まで侵入しています(中央日報社説「漁民が中国違法漁船を拿捕する国=韓国」=6月7日、韓国語版)。日本で言えば東京・荒川や大阪・淀川の河口に中国漁船が居座って違法操業しているわけです。
韓国経済新聞は社説「中国漁船問題が見せる異様な韓中関係」(6月8日、日本語版)で以下のように嘆きました。
- 泥棒を警察ではなく家主が直接捕まえなければならない状況が広がっているということだ。まったく一流国家では有り得ないことだ。
「進撃の巨人」は見ない
韓国漁民による拿捕事件が発生したのが6月5日。3日後の6月8日、韓国海軍は「本日から海洋警察とともに独島(竹島)で防衛訓練に入る」と発表しました。海軍は「独島の領有権主張を強める日本への強力なメッセージである」と国民の前で胸を張りました。
聯合ニュースの「韓国軍、東海上で独島防衛訓練を実施=明日まで」(6月8日、日本語版)などが一斉に報じました。日韓両国政府が関係改善を模索する中、わざわざ日本に対し肩を怒らせて見せたのです。
隣国のドン・キホーテたちは「本当の巨人」は存在しないことにしてしまい、風車に突撃し続けるつもりでしょう。
(次回に続く)
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『日本企業はなぜアジアで欧米勢に勝てないのか ボストン・コンサルティング・グループ日本代表 杉田浩章氏に聞く』(6/15日経ビジネスオンライン 鈴木哲也)について
<6/17ロイター 中国が為替政策で後戻りなら新たな火種に=ルー米財務長官
[ワシントン 16日 ロイター] – ルー米財務長官は、中国が人民元の対ドル相場を人為的に低く抑える過去の為替政策に後戻りすれば、米中関係に新たな緊張を生むとの認識を示した。アメリカン・エンタープライズ・インスティテュートでの講演で述べた。
長官は「世界経済が弱含む中で、中国が過去の為替政策や輸出主導型経済に後戻りすれば、米中2カ国間に新たな緊張を生む」と警告した。
為替問題において、米中関係は近年、大きな進展を遂げたとも指摘。人民元安を狙った為替介入を行なうのではなく、中国当局は過去1年、外貨準備を活用し元を支援したとしている。
ただ中国は市場原理に基づく為替相場への秩序だった移行に向けて実現すべき課題をなお抱えているとし、先週の米中戦略・経済対話では、中国側が市場の力に委ね人民元を上昇、下落させるための為替改革に注力していると姿勢が示されたと明らかにした。
その上で「中国は双方向の弾力性へのコミットメントについて、言葉ではなく行動で示す必要がある」と指摘。中国が人民元安を許容するのは市場に下落圧力がある時だけとし、「中国のコミットメントの真価は、市場で上昇圧力が再燃した際に元高を許容できるかどうかだ」と話した。
また中国のビジネス環境は、外資系企業にとりマイナスの方向へと変化しているとして懸念を表明。米中が協議を進めている投資協定に対する中国当局のスタンスが、市場開放や競争促進に対する中国の本気度を占う試金石となると述べた。
中国は米投資の対象外とするセクターをまとめた新たな「ネガティブリスト」を提出したが、真剣な申し出なのか判断するのはまだ時期尚早とした。>
<6/17産経ニュース 中国の市場経済国、米財務長官が「自動的には認められない」
【ワシントン=小雲規生】ルー米財務長官は16日、ワシントン市内でのイベントで、中国が求めている世界貿易機関(WTO)の規定上の市場経済国としての認定について「自動的に認められるものではない」と述べた。中国はダンピング(不当廉売)課税を受けにくくなる利点がある市場経済国認定を目指し、15年前のWTO加盟時の合意を理由に12月には自動的に市場経済国になると主張しているが、ルー氏は公の場で異議を唱えた格好だ。
ルー氏は米国として中国を市場経済国として認定するかどうかは「米国の商務省が決めることだ」と指摘。一方、経済改革を進めれば進めるほど認定されやすくなると中国に伝えていることも明らかにし、将来的な認定に含みを残した。>
<6/17日経米財務長官、アジア投資銀を評価 米中投資協定妥結に意欲
フォームの終わり
【ワシントン=河浪武史】ルー米財務長官は16日、ワシントン市内での講演で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を「統治や環境保護などの運用面で高い基準を満たしそうだ」と評価した。交渉中の米中投資協定も早期妥結に意欲をみせた。米国はAIIBには日本とともに参加していないが、ルー氏は米中の経済協力の拡大を目指している。
米国は「AIIBは融資や資金調達などの運営体制が不透明だ」として、参加を見送ってきた。ルー氏は16日の講演で、世界銀行などとの協調融資体制がAIIBの運営基準を高めていると指摘し、米当局の一方的な反対姿勢を修正した。
外資規制の撤廃などによって米企業が中国に進出しやすくなる投資協定は「今後7カ月の交渉が重要だ」と述べ、オバマ政権下での妥結に意欲をみせた。投資自由化の例外対象とする「ネガティブリスト」について、週内に米中両国で協議するとも明かした。
米中は6月初旬に北京で戦略・経済対話を開き、貿易や通貨政策などの経済協力を議論した。米産業界は投資協定の早期妥結を求めており、ルー長官は中国との関係強化を急いでいる。>
ロイター、産経、日経の3社のルー米財務長官の発言を取り上げて見ました。日経だけの記事では中国に融和的な印象が残りますが、ロイターや産経を読むと言うべきことは言っていると感じます。日経は今でも中国進出、中国サポートに躍起な感じがします。愚かでしょう。日本の領海が蹂躙されているというのに。
本記事も中国へのリスクは論じられずに、中国経済はアッパーミドル層や富裕層が増えているなどと提灯記事のようです。あれだけ中国進出を煽った大前研一ですら、中国経済崩壊、手の打ちようがないと言っているのに。マクロで物事を見ているのかと言いたい。中国政府のプロパガンダを鵜呑みにしているだけ。
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20160209/frn1602091846006-n1.htm
ゆめコンサルタントや日経などに騙されないように。
記事
新興国経済の減速によって世界経済が変調する中で、日本企業の海外展開は一段とハードルが高くなるのか--。ボストン・コンサルティング・グループ日本代表の杉田浩章氏は、中国や東南アジアの消費市場は底堅さを保っており、むしろ課題はマクロ経済よりも日本企業の経営力にあると指摘する。生産技術には優れているものの、人材マネジメントや商品流通などの面で標準化された仕組みをもたないことが弱点になっている。杉田氏にグローバル展開を軌道に乗せるための重点ポイントを聞いた。(聞き手は鈴木哲也)

杉田浩章(すぎた・ひろあき)氏 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)日本代表 東京工業大学工学部卒。慶応義塾大学経営学修士(MBA)。日本交通公社(JTB)を経て現在に至る。消費財、自動車、メディア、ハイテク等の業界を中心に、トランスフォーメーション、グローバル化戦略、営業改革、マーケティング戦略、組織・人事改革などコンサルティングを数多く手掛けている。著書に「BCG流 戦略営業」などがある。
—中国経済減速や資源価格下落という要因によって世界経済が不安定になりました。消費のマーケットという面でみたとき、アジアの現状はどうでしょうか。
杉田:東南アジアの消費マーケットは結構、影響を受けましたね。影響の少ない、ベトナム、フィリピン、インドといったあたりが注目されるのがここ数年の流れです。インドネシアは成長が鈍化していましたが、ジョコ大統領の内政掌握の力が高まってきている面もあり、経済改革が進み始める期待感も生まれています。では中国はどうかというと、GDP(国内総生産)が減速しているのは、BtoB系や、インフラ系のビジネスの落ち込みによるものです。一方で消費関連は10%成長を続けています。
—消費の仕方には変化がありますか。
杉田:中国の消費の変化をみると、過去はエマージング・ミドル・クラス(新興中間層)という人たちがずっと消費をリードしてきたのですが、こうした層の人数の伸びが頭打ちになってきました。もう1段上のアッパーミドル・クラス(上位中間層)や富裕層の人数が、急速に今増えているのです。2020年を過ぎると上位中間層の人数が、新興中間層を上回る見通しです。売れるものも変化していて、基本的な生活を整えるための需要から、付加価値の高いものや高級なものへ移って来ています。東南アジアの多くは、まだそこまでいっていなくて、やはり中国の5年前や、国によっては10年前の水準ですが、これから発展していくでしょう。
—マクロ経済の変調にも関わらず、現地の消費市場を狙う日本企業にとっては、攻めるチャンスということでしょうか。
杉田:アジア市場というのは日本企業にとって、利益を生み出せる段階に入ってきたのだと思っています。消費者ニーズが低価格の商品から移り始めて、日本的な品質の良さが受け入れられるようになっています。そうしたものが一定のボリュームで売れるようになれば、利益が出てきます。それと現状では、GDP成長率の変化が直接影響するほどに、現地の事業が大きく育っている日本企業はあまりないでしょう。マクロ経済の変動よりも、これから開拓すべき「白地」、ホワイトスペースがずっと大きいのです。
生産以外に「手法」を持たないのが弱点
—景気などの外的要因ではなく、企業の内部に課題を見つけて改善するべきだということですね。よく指摘されるのが「日本企業は海外の工場など生産現場のマネジメントは上手だが、それ以外の商品開発、マーケティングなどではうまく海外でマネジメントができない」という点ですね。
杉田:生産では手法があるんですよ。生産現場の場合、英語があまりできなくても現地の人とコミュニケーションをして、技術を伝承できた例が多くあります。なぜかというと日本企業の場合、生産では何をどういう手順で、どういうふうに回していったら良くなるか、どこを重要ポイントとしてみて管理していったらよくなるかという一連の手法が確立しているんです。現地の人がそれを身につければ、生産のマネジメントができるようになる。そういう手法があるんです。
しかし生産以外のところには手法がないのです。マーケティング、流通、商品開発では、日本企業は勘に頼っていたり、その分野に強い人が個人の力で動かしていたりするのです。つまり属人性で勝ってきている例が多いのです。日本で戦後からずっとここまで、そういう状況で事業展開してきたので形式化ができていなのです。
—それが海外展開するうえで、日本企業の弱みになっているのですね
杉田:こうした面では圧倒的に欧米系が強いんですよ。代表例はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、コカ・コーラ、ペプシコ、こういうグローバル企業は、原理・原則というか、何をどういうふうに押さえて、どう経営していったらいいのかという、手法や型をもっているのです。そのためローカルの市場に行っても、落とし込むべき型が明確にあります。
例えば、先進的なマーケティングで有名なP&Gは、市場の見方とか、分析した市場の特性に応じてどんな手を打つのかという、フレームワークをもっています。マーケットの状況が見えにくい、新興国に行っても、即座にこうしたことをやる。これが先行しているグローバルプレーヤーの強さなのです。
—サントリーホールディングスは、2012年に米ペプシコのベトナム現地法人の株式の過半を取得することを決め、傘下に入れました。業績は堅調に推移しています。対象の企業が、もともと強い販路をもっていたことが、買収を決めた要因のひとつだそうです。
ペプシが商品流通で取り組んできたことから、サントリーが学ぶことは大きいと思われます。例えば取引先の組織化、卸をどう教育するか、そこにどうインセンティブの制度つくるかといった仕組みです。どうPDCA(計画・実行・評価・改善)を回すのか。何がチェックポイントで、どのタイミングでそれをチェックしていくのか、まさにPDCAですよね。こうしたことがちゃんと仕組みとしてできていて、やっぱりパッケージとして優れているのです。こうしたことは日本企業が欧米系から学べるところだと思います。
—新興国など流通が組織化されていない未成熟のマーケットでは、どうすれば消費者に効率的に商品を届けられるかが一層重要になりますね。
杉田:例えば卸など外部の企業を、自ら教育するとか、資金も入れたりするということも含めて、販路を育てていかないと、なかなかシェアはとれない。いい商品だけあっても、流通をしっかりやらないとうまくいかないのです。
—生産の「カイゼン」などと違って、マーケティングや流通政策は、日本の中でも手法が確立していないなら、どのように海外で展開していけばいいのでしょうか。
杉田:日本でやっていることをマニュアル化するというよりも、海外拠点のどこかで先行してやっていて、うまくいっている経験をマニュアル化して、別の国に持っていく「横展開」が有効ではないでしょうか。
欧米のパワーゲームにどう対抗するか
—欧米大手の消費財メーカーがアジアでの存在感が高いのは、もちろん進出から歴史が長いということもあると思いますが、そのほかに彼らの戦略の特徴はありますか。
杉田:米国系だけでなく、ネスレやユニ・リーバなど欧州系も強いですね。傾向的に欧米系は、やはり規模が大きくて、市場の中で一気にシェアを取りに行くために、いわゆるパワーゲームをします。ものすごい資金を突っ込んで、下手すると10年どころじゃなくて、収益が生まれなくてももっと長期的視点で、エリアポートフォリオの一環として市場開拓を続けるのです。エリア内の他の地域で莫大な利益を上げているので可能なのです。それぐらい先行投資でブランドをつくるとか、生産や流通網をつくるということをやります。飲料の「ボトラー」のマネジメントなどもその一例ですね。
それからもう1つが、欧米大手はグローバルブランド、グローバルプロダクトというものをいくつかの価格帯で持っていて、それらを、各国市場ごとにカスタマイズすることで投入しようとします。どちらかというとグローバルの規模を背景に、コスト優位性みたいなものを最大限生かして戦うという傾向がとても強い。これもある種のパワーゲームですね。
—日本企業が正面から戦いを挑むのは難しそうですが、一方で、タイやインドネシアでの味の素や、ユニ・チャームなど成功している例もありますね。
杉田:ええ。日本では、欧米のトップ企業と同じパワーゲームをやって勝てる企業はないと思います。しかし逆の言い方をすると、ローカル市場ごとに、深くマーケットに入っていって、そこのローカルの構造に合わせて商品を設計すること、一つ一つのマーケット最適な物を作っていくということが日本企業はすごくたけていると感じます。欧米ジャイアントとは違う戦い方をうまく構築できた企業は、そのやり方を別の国でも適用しています。味の素やユニ・チャームなどはその好例だと思います。日本企業一般で言うと、ローカルに対応した物づくりの力はあるのだから、先ほど言った流通やマーケティングを含めた、経営の手法を確立して、さらに広く横展開していけるようになれば、もっと強くなるでしょうね。
—もうひとつ、日本企業の海外展開の課題として指摘されるのが、人材マネジメントですね。
杉田:そういうところもおそらく欧米大手のほうが長けている部分が多いのではないでしょうか。人材の採用、育成の仕方も、日本企業よりは一般的には優れていると思います。そして大切なのは企業の理念やビジョンなのです。あるマーケットの中で自分たちは何を成し遂げたいと思うのか。自分たちはどういう存在を目指すのか、といった理念やビジョンを、ローカルの人材ととどこまで共有できるのかというのが重要なのです。日本企業でも、何度も失敗を繰り返して、苦労して成功したところは、こうした理念を共有することの重要性を理解しています。
何となく一般論で、強い人材を採ってこようと思うと、お金が高くて日本企業はそこまで給料を払えないとかいうじゃないですか。あるいは給与で引き抜かれちゃうので、なかなか難しいんだよとか。そんな単純なものではないのです。そのマーケットにおいて、どう一緒になって大きくなっていくのかという感覚が共有できるかできないかというのが、人材の採用にも維持にも、とても影響します。ローカルの社員に単に指示を出すということではなく、自分たちはどういうふうに働き方を変えるのかとか、次、何を目指すのかということを自ら考えさせること。これが長期的にその市場で勝ち続けるためには、とても重要だと思うのです。
やる気をそぐ「ガラスの天井」
—いくつかの調査で、日本企業の海外法人で働いている現地の社員の満足度が低いという結果が出ています。杉田さんが、今言ったことと関連しているのでしょうね。
杉田:はい。よくガラスの天井と言われる問題です。現地の社員はあるところ以上は昇進できないという。やっぱりローカルの人間の方が本当に実力がある、あるいは実力を付けさせてやるんだったら、同じレベルであっても、ローカルの人間を上に置くべきです。どんどん日本人を置いてポジションを取って行ったら、ローカルの人間はその会社にいようと思わないし、自分の将来が見えないですよね。
—しかし、欧米企業にもガラスの天井があるのではないですか。
杉田:ただ欧米企業の場合、現地社員にもこういうキャリアの可能性があるというのが、みえやすいのです。例えば、グローバル人材のプールに加わることになる、つまり他の国で働けるといった機会が現地の社員にも開かれている。日本企業でも海外で上手くいっているところは、欧米的な洗練されたルールや仕組みになっているわけではなくても、ローカルにいる人間たちに大きなチャンスを提供しようということを、本気で考えています。
—ボストン・コンサルティング・グループと、スイスのビジネススクールであるIMDが最近共同で行った調査で、海外展開したいという希望と、それに対してどれだけ準備ができているかという自己評価を経営者に聞いています。「希望」と「準備」のギャップが一番大きいのは、日本企業だそうですね。
杉田:そうです。ものすごくチャンスがあって、グローバルにもっと出ていきたいという気持ちが強いんだけれども、では会社にそれだけの能力があるか、準備ができているかということにおいては、全くできてないという自己認識があるということですね。このギャップをどのように埋めていけるかということになると、これまでお話してきたようなことがヒントになると思うのです。物づくり系のところは、日本人が入ってきちっとやると品質水準は上がります。しかし弱いのは商品の流通網を育てながら組織化して、どう運営していくのかという部分。そして、現地の人材の意欲を高めて自社につなぎとめるような組織マネジメントの部分でしょうね。
この調査は何年かやっているのですが、このギャップはあまり縮まってこないのです。これを埋めるための重要ポイントが何なのかについて、経営者の理解がまだ足りないのかもしれません。
—杉田さんは、日本企業の海外展開の特徴として現地法人に対して「手を突っ込みすぎか、放任主義かのどちらかになりがちだ」という指摘をしています。M&Aを実施した場合などを想定した話ですか。
杉田:M&Aじゃなくてもあります。特に新興国に入っていった場合、マーケットの環境も消費者も違うのに、日本企業が持っている強みをもっとアピールするべきだと考えがちですね。しかし日本製品のクオリティーといっても、日本人が必要だと思うクオリティーと、別の環境におけるクオリティーでは定義が違うはずです。手を入れ過ぎる理由は、やはり日本におけるそれなりの成功体験があるからでしょう。これが自分が成功してきたポイントなので、これをやってみたらどうなんだという、お節介になるわけですね。一方、放任主義になってしまうケースは、全く分からないマーケットなのでとか、さっきの逆で手を入れ過ぎるとビジネスを失敗させるといった思いからでしょうね。それともう1つが単純に、まだ事業が小さいので、本社サイドが興味がないということもあるでしょう。現地法人のトップの人がよく言うのは、日本の社長や事業部門の責任者を現地に連れてきて市場の可能性を実感してもらうことが重要だという話です。
現地のトップとしっかり握れているか
—日本企業の特徴として、M&Aを実施した後など、現地のCEOをどう評価するか、場合によっては交代させるかといった人事戦略が不得手という指摘もあります。
杉田:そうですね。いくつかの要素があります。1つには、日本側のトップは何を期待していて、何を約束してほしいのかという点について、現地のトップとちゃんと握れていることが重要です。同床異夢にならずに、ゴールを共有し、達成のために何の課題を乗り越えないといけないのかということもお互いに理解する必要があります。
—日本的な「あうんの呼吸」ではなくて、明確にしなくてはいけないのですね。
杉田:はい。こうしたことが、できてないと評価のしようがないので、いいともだめとも言えないですよね。ローカルのトップに対して、いいとも悪いとも言えないと、辞めさせることもできません。
それからもう1つは、代えた後に代替案を持っているかということです。自分よりもこのマーケットを理解して経営できる人は誰もいませんよなどと現地のトップから言われ続けると日本側は不安になりがちで、代えられないのです。だからこそ、代わりになる人材を把握しておく必要があります。トップの下の層に、どんな後継候補がいるということを、日本からも常に見えるようにしておく必要があります。外から人材を持ってくるケースでも、やはりヘッドハンターなどを通じて人材の候補を把握しておくべきです。
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『上海で入館2時間待ちのスーパー銭湯 「極楽湯」中国攻略の極意(その1)』、『「なぜ働かない?」怒りで割ったヘルメット 「極楽湯」中国攻略の極意(その2)』(6/15・17日経ビジネスオンライン 岩村宏水)について
本記事に煽られて中国へ出て行こうとするのは止めた方が良いでしょう。中国の軍艦が日本の領海に出てきている現在、不測の事態、突発的な戦闘が起きる可能性があります。その場合、在留邦人の身の安全は保証できません。自力救済しかなくなります。過去の歴史が物語っています。「極楽湯」の幹部は中国の歴史をどの程度認識しているのでしょうか。本来なら日本人はなしで中国人だけで運営させれば良いのでしょうけど、日本人がいない場合悪さをされ、投資は無駄になります。また、暴動で掠奪・放火されることもありうることは、2005年や2010年、2012年の官製デモを振り返れば明らかです。まあ、自己責任で投資する分には良いでしょうけど。ただ、日本への配当還元をさせず、中国への再投資を持ちかけるでしょう。中国はそんなに甘くないことを覚悟すべきです。
さて、中国の現代史をざっとおさらいしてみます。義和団の乱(1900年)は西太后が義和団を使って攘夷を果たそうとしたもの。すぐに鎮圧されました。辛亥革命(1911年)後、ラストエンペラー・愛新覚羅溥儀は退位。5・4運動(1919年)が欧米の宣教師のバックアップにより引き起こされました。袁世凱の甘言に乗せられて、「日本側の強い要求により止む無く調印の形を」と言われ其の儘の形を取ったものだから、中国人の民族意識に火をつけてしまいました。(日下公人・上島嘉郎著『優位戦に学ぶ大東亜戦争の「失敗の本質」』P.117~121)。お人好し・騙されやすい日本人の典型です。溥儀は紫禁城に居住が許される条件だったのに、1924年の馮玉祥のクーデターにより紫禁城を退去。1925年イギリスやオランダ公使館へ庇護を要請するものの拒否され、天津日本租界内張園に移転。1931年、満洲事変勃発後、大日本帝国陸軍からの満洲国元首への就任要請を受諾し、日本軍の手引きで天津を脱出、満洲へ移る。1934年満洲国皇帝(康徳帝)に即位。レジナルド・ジョンストン著『紫禁城の黄昏』、浅田次郎著『蒼穹の昴』に詳しく載っています。満州は満州人の土地で漢人のものではありません。何故万里の長城が出来たのか考えれば分かるはずです。その後、通州事件、第二次上海事変が引き起こされ、日本人の怒りが爆発し、日本は中国との戦争に引きずり込まされ、南京占領へと続きます。
通州事件(1937年7月)・・・日本軍の通州守備隊・通州特務機関及び日本人居留民への残虐・猟奇殺人事件。保守派有志が世界記憶遺産に申請。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9A%E5%B7%9E%E4%BA%8B%E4%BB%B6
http://www.sankei.com/life/news/160603/lif1606030029-n1.html
第二次上海事変(1937年8月)を引き起こした国民党・張治中将軍はソ連のスパイで、日中が戦争するように導いたという説もあります。矢吹晋・横浜市大名誉教授はスパイ説を否定していますが、彼は共産主義シンパです。張治中の回想録で、本人がスパイだったなどと言う訳がありません。漢奸(売国奴)になるでしょう。瀬島龍三と一緒です。常識で考えれば分かること。イデオロギーに染まって見るから常識が働かなくなる訳です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E6%B2%BB%E4%B8%AD
http://blogs.yahoo.co.jp/aki_setura2003/31405728.html
南京事件(1937年12月)で唐生智将軍は我先に逃げ(朝鮮人と一緒)、その責任を取りたくないものだから、南京虐殺をでっち上げたと考えています。中国人のやりそうなこと。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%94%90%E7%94%9F%E6%99%BA
中国の経済指標は当てになりません。第三次産業が伸びていると言っても不動産業の占める割合が大きいのでは。また借金して使っているのだから、景気が悪く見えないのも当然です。ただ、借金は、いつかは返さなくてはなりません。「資金繰り」がいつ詰まるかの問題です。人民元増刷で乗り切ろうとすれば、人民元暴落と激しいインフレを起こすでしょう。
記事
中国で、日本式の「スーパー銭湯」が人気を集めている。経営しているのは日本企業だ。
国内で40店舗のスーパー銭湯をチェーン展開するジャスダック上場企業の極楽湯は、2013年に初の海外店舗を上海に開業。2年後には同じく上海に2号店をオープンさせた。初夏の今はオフシーズンだが、気温が下がる秋冬の週末には入館まで2~3時間待ちもザラという盛況ぶり。
極楽湯が5月13日に発表した2016年3月期決算によれば、中国事業の売上高は前年度比107.4%アップと倍増し、開業3年で同社の総売上高の2割超を稼ぐ。損益も2年目から黒字。今夏には内陸部の武漢に3号店をオープンする予定で、将来は中国で100店舗を目指すという。
極楽湯の連結売上高の推移(単位:億円)

ここまで読んで「えっ、ちょっと待って」と思う方も多そうだ。
この1年ほど、中国経済に関する日本の報道で「減速」の二文字を見ない日はほとんどない。今年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は6.7%と7年ぶりの低水準に落ち込み、株価暴落や製造業の不振など景気の悪い話が目白押しだ。日常生活のなかで中国とかかわりがなければ、「中国経済は崩壊寸前」と思い込んでもおかしくない。
肌感覚とマクロ指標のズレ
そんな中、なぜ極楽湯は好調なのか。
もし機会があれば、北京、上海、深センなどの中国の大都市をぜひ訪れてみてほしい。週末のレストランやショッピングモールは、一部の高級店を除けばお客さんでいっぱい。朝夕の幹線道路は大渋滞だし、都市間を結ぶ高速鉄道や飛行機もほぼ満席だ。道ゆく人々の表情もおしなべて明るい。肌感覚で測る限り、そう景気が悪そうには見えないはずだ。
経済指標と街中のギャップの背景には、中国経済の減速と同時進行で起きている大きな構造変化がある、というのが筆者の見立て。製造業からサービス業への、成長エンジンの主役交代が加速しているのだ。
中国のGDPの産業別の内訳を見ると、サービス業が中心の第三次産業の比率が年々増加しており、製造業が中心の第二次産業を2012年に逆転。昨年ついにGDPの半分を超えた。
中国のGDPに占めるサービス業の比率

第三次産業に限れば、1~3月期の成長率は7.6%と全体平均を上回る。サービス業の比率が高い大都市ではさらに鮮明だ。例えば上海では全産業に占める第三次産業の比率が1~3月期に初めて70%を超え、成長率は11.5%に達した。街角に不況感が見えないのも不思議ではない。
「中国の経済指標は信用できない」と疑う向きもあるかもしれないが、こう考えていただきたい。経済が全体としては減速していても、その度合いは産業や企業によってまだら模様なのが実態だ。中国経済の成長エンジンが製造業からサービス業に大きくシフトするなか、消費者の関心は所有欲を満たす「モノ」だけでなく、価値ある体験を重視する「コト」へと広がってきている。こうした変化の潮流をつかみ、消費者に魅力のあるサービスや商品を提供できる企業にとっては、GDP成長率が高かった数年前よりも、むしろ今の方がチャンスが大きい、と言っても過言ではないのだ。
本連載では、経済減速下の中国で業績を伸ばしている日本企業に注目し、現地事情に詳しいキーパーソンへのインタビューをお届けする。トップバッターの極楽湯では、本社の松本俊二専務と現場のコアメンバー3人にじっくりお話をうかがってきた。中国の街角景気の実態と合わせて、全4回で余すところなくお送りする。
(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)

—昨年来、中国経済の減速が盛んに報じられていますが、極楽湯ではそれを感じますか。

極楽湯の松本俊二専務
松本:当社に限って言えば、少なくとも現時点ではそれほど強い影響は感じていません。もちろん中国経済全体で見れば、統計数字に表れているとおり成長の勢いが鈍化しています。とはいえ、あらゆる産業の景気が悪いかと言えばそんなことはない。製造業の状況はかなり深刻だと聞いていますが、サービス業は相対的に元気だと思います。
それに、同じサービス業のなかでも濃淡があるんです。例えば、富裕層向けのブランド店や接待向けの超高級レストランは中国政府の“倹約令”などの影響が大きい。でも、都市部の中間層向けのショッピング・モールや映画館、そして私たちのビジネスである温浴施設などは、毎週末たくさんのお客様で賑わっています。
—経済全体では減速していても、御社は好調だと。
松本:おかげさまで(笑)。当社は海外進出の1号店を2013年2月に上海でオープンさせ、15年2月には同じく上海に2号店を出しました。1号店はもう4年目に入りましたが、来店客数も売上高もずっと前年超えが続いています。今夏には内陸部の武漢で3号店を開業する予定です。
ちなみに温浴施設は、短期的な景気変動より気温の変化に大きく左右される商売なんですよ。ざっくり言えば秋冬がハイシーズンで、春夏がローシーズン。昨年の上海は夏から初秋にかけての気温が平年よりも高く、10月になってもお店が空いていたので、実はちょっと心配しました。
ところが11月に入ってぐっと冷え込んだら、お客様が一気に押し寄せてきました。12月下旬に最低気温が一時マイナスになった時は、1号店の来店客数が1日に4000人を超えて過去最高を更新したほどです。あんな寒いなか、大勢のお客様に並んでお待ちいただいて、申し訳ないやらありがたいやら。

雨の中、1号店に出来た行列
—入店までどのくらい待つんですか。
松本:ピーク時で3時間前後でしょうか。ロビーの椅子を増やして、なるべく店内でお待ちいただくようにしていますが、入りきれない時はお店の外に防風カーテンを設置して並んでいただきました。入店待ちのお客様には、「あと何時間かかりそう」とか「いつの時間帯なら比較的空いている」などのご案内もしています。それでも、ハイシーズンの週末はいつも昼前から夕方にかけて2~3時間待ちという状況です。
利用料金は日本のざっと3倍?!
—日本式のスーパー銭湯が、なぜそんなに人気なのでしょう。
松本:いくつか理由があると思いますが、大きな背景としては、やはり中国社会の変化があります。経済成長とともに人々の生活が豊かになり、上海のように中国のなかでも所得水準が高い大都市では、ある程度おカネと時間に余裕のある中間層の厚みが増しています。と同時に、彼らがおカネと時間の“使い方”に目を向ける段階に入ってきたのだと思います。
日本でも、戦後の高度成長期を経て人々に経済的余裕が生まれ、さらに週休2日制の普及で時間的余裕ができたのをきっかけに、余暇やレジャーに目が向くようになりましたよね。そこにおカネや時間を費やすことの価値に、みんなが目覚めたわけです。同じことが中国でも起きつつある。
—利用料は日本と比較して安いのですか。
松本:いやいや。入館料は138元で、円換算すると約2300円。日本のスーパー銭湯の入館料は650~700円くらいですから、ざっと3倍強です。それだけのお金を払って来てくださるお客様が、上海では増え続けています。
—素朴な疑問ですが、中国人は入浴時に湯船につかる習慣がありませんよね。住宅の浴室も多くはシャワーだけです。そんな国の人々が、日本よりも高い料金を払って通うのは不思議です。
松本:確かに中国人全体で見れば、生まれてから一度も湯船につかったことのない人が今も大部分じゃないでしょうか。でも、うちのお客様である上海の中間層以上の人々は、必ずしもそうではないんです。
—というと。
松本:日本では最近、中国人観光客の“爆買い”が話題になっていますが、上海の富裕層の間ではずっと前から日本への観光旅行が静かなブームになっていました。中国から日本への団体ツアーには、必ずと言っていいほど温泉が組み込まれています。まず東京から入国し、箱根で温泉につかって、大阪から帰国するのが黄金ルートです。
上海には、実際に日本へ行って温泉に入ったり、親戚や友人から「日本の温泉はすごく気持ちがよかったよ」という土産話を聞かされたりした経験のある人が、日本人が思っている以上にたくさんいます。そんな中から、「上海にもあんな温浴施設があったらいいな」という潜在ニーズが自然に生まれてきた。そこに当社の進出のタイミングがぴったり合ったのだと思います。
—極楽湯よりも先に中国に進出した同業他社や、日本の施設を真似た現地資本のスーパー銭湯はなかったんでしょうか。
松本:温浴施設が専業の日本企業では、当社の進出が初めてです。一方、現地資本の温浴施設はもともとたくさんあります。1号店を出す前に我々が調べた時点で、全国に2000施設くらいと言われていました。
ただ、中国の温浴施設は長年「男の場所」というイメージだったんです。店内が薄暗くて、お客さんは男性ばかり。なかには風俗店まがいのサービスをしているところもある。もちろん健全なお店もありますし、女性客や家族連れもまったくいないわけではありませんが、比率は低い。日本で言うと昭和のサウナのイメージが近いかもしれませんね。
—女性や家族連れには入りづらい雰囲気だった。
女性客が入れるスパ銭がなかった
松本:その通りです。中国の女性には「温浴施設イコール、いかがわしい場所」という偏見の方が、むしろ実態以上に強かったんじゃないでしょうか。
当社が上海進出を決断したのは2011年で、これは好立地の物件を紹介してもらえたのが決め手でしたが、実は中国進出に向けた現地調査はその数年前から始めていました。というのも、現地の不動産デベロッパーさんなどから「進出しないか」という誘いが何度もあったんです。結局、条件などが折り合わなくて実現は後になりましたが、その時の調査を通じて、温浴施設そのものは中国にもたくさんあることがわかった。
—ニーズはあると判断できた。
松本:それなのに、利用客はほぼ男性のみでした。私たちが実際に現地を見に行っても、確かに店内は薄暗いし、あまり衛生的な感じがしない。「これじゃ女性や家族連れが来ないのも無理ないよね」と。
逆に言えば、中国の女性の偏見を覆すような温浴施設を作れば、既存の男性客や家族連れを含めて大きな潜在ニーズを掘り起こせるんじゃないか。私たちが進出することで、新しいマーケットが創れるはずだと。そんな自信を持てたことが、進出を決断するうえでは大きかったですね。
—2011年と言えば、日本では東日本大震災もあり、デフレや人口減少など国内経済の先行きに暗いムードが漂っていました。国内事業の将来的な縮小を見込んで中国に打って出た面もあるんでしょうか。
松本:いえ、そこまで先見性があったわけではありません。
当時の国内事業は安定しており、海外進出は喫緊の課題ではなかった。むしろ中国側から案件がちらほら持ち込まれていたので、「向こうから来るくらいだからビジネスとして有望なんじゃないか」、「じゃあちょっと調べてみよう」というところからスタートしたんです。
その結果「いける」と判断したので、上海に1号店を出し、続いて2号店を作りと進めてきましたが、その間も日本はデフレ傾向が続き、2014年には消費税が引き上げられて…。いま振り返ると、あの時に進出を決断してよかったなと思います。
—日本ではスーパー銭湯の経営環境が厳しくなっているのでしょうか。
松本:スーパー銭湯の出店に適した場所はある程度限られていますから、国内市場全体で見れば既に飽和状態に近いと思います。そんななか、ある企業は新店を出し、ある会社は閉店するという具合に、優勝劣敗がはっきりしつつあるのが近年の状況です。
松本:ちなみに当社の国内事業は直近の決算(2016年3月期)でも増収増益でした。これは2014年にオープンした「RAKU SPA鶴見」のようにリゾート志向やエンターテインメント性を高めた新店舗を出したり、その他の既存店でもお客様の満足度を高める努力を地道にやってきた成果だと思います。
とはいえ、中長期的に見れば国内市場の成長は期待しにくいので、中国という成長力のある市場に足がかりを築けたのは当社の強みですね。
—話が戻りますが、御社の施設は中国の既存の温浴施設とは、具体的にどんなところが違うんですか。
松本:まずは何と言ってもお風呂の水質管理と衛生管理です。例えば、浴場のお湯は日本の設備を入れて徹底的に浄化すると同時に「軟水化」もしています。中国の水道水は濁りが入ることが珍しくないうえ、硬度が高いので、そのまま頭を洗うと髪の毛がゴワゴワになってしまうんですよ。

1号店の浴室。日本のそれと区別がつかない。
上海の水道水を調べた段階で、「これは徹底した浄化と軟水化をしないとダメだ」と判断しました。日本の風呂屋だからそれが当たり前だと思って取り組んだんですが、1号店をオープンした後、あるお客様から「こんなに透き通ったお湯は初めて見た」と褒められました(笑)。お風呂から上がった後も髪の毛がゴワゴワせず、肌もすべすべでしっとりしている。上海女性はそんな違いにとても敏感で、私たちの予想以上の評価をしてくれました。その評判がクチコミやSNS(交流サイト)で広がり、オープン半年後くらいから一気に火がついた感じです。
—水質の違いを文字通り「肌で感じて」もらえたと。
松本:水質だけでなく、施設全体の清潔さも自慢です。館内のあらゆる場所を、スタッフが必ず15分に1度はチェックして掃除をしています。
それから秘訣と言えるかどうかわかりませんが、お客様を「裸足」にしたことも大きい。入館時に靴をロッカーに預けてもらい、館内は裸足で歩いていただくようにしたことで、衛生管理がずっとやりやすくなりました。
サンダル履きにしなかった理由
—どういうことですか。
松本:中国の温浴施設でも入館時に靴は脱ぎますが、館内はサンダル履きというところが多いんです。すると、中国人の感覚ではお店の床は地べたと同じで、ゴミを捨てたり痰を吐いたりする人が出てくる。
注意せねばならないのは、これは良し悪しではなく習慣の問題だ、ということです。同じ中国人でも、自分が裸足で歩く場所にゴミを捨てたり痰を吐いたりすることはほとんどありません。
—なるほど。
松本:もちろん、マナーを守らない人がゼロにはなりませんが、そういうお客さんがいたら、最近は常連客が注意してくれます。
—事前調査で中国の温浴施設がサンダル履きなのを見たら、普通は「うちもサンダル履きにしよう」と考えそうですが、なぜ裸足にこだわったんですか。
松本:最初から裸足ありきではなく、日本のお店では裸足が当たり前だから、どうすれば日本と同じにできるかという発想で考えました。
それで、まず「中国ではなぜサンダル履きが当たり前なんだろう?」と。「確かに床が汚いよね」。「どうして汚いんだろう?」。「ゴミを捨てたり痰を吐く人が多いからね」。「汚させない方法はないのかな?」。「日本のように裸足にすれば汚さないんじゃないか」。「じゃあサンダルそのものを置かなければいい」という具合に、社員たちが知恵を出し合って決めました。
1号店は本当にゼロからのスタートでしたから、この話に限らず中国と日本で習慣が違う場合は、まずどこが違うのか。なぜ違うのか。どうすれば日本と同じにできるか。そういうことをひとつひとつ考えて積み上げながら、独自のスタイルを作り上げていったんです。
—日本式が受け入れられた点はほかにもありますか。
松本:もちろん、いわゆる「おもてなし」にも力を入れています。日本の会社だけに、お客様の期待値も高いですからね。中国のサービス業では受付の従業員がスマートフォンを見ながら接客したり、ウエートレスがおしぼりを投げて渡したりするのが珍しくありませんが、うちの従業員は絶対しません(笑)。

お店の現場の従業員は女性が多いんですが、ただでさえ日中の文化の違いがあるうえ、先ほども触れた温浴施設への偏見もあります。1号店ができる前はこの偏見が災いして、募集をかけてもなかなか人が集まらず、やっと採用しても本人が親に反対されて入社を辞退することもありました。
—採用後の社員教育も大変なのでは。
松本:そもそも風呂屋という商売は、一般の中国人にはまったくなじみがありません。日本へ行ったことも、湯船につかったこともない新入社員に、日本のお風呂とはどういうものかや、「おもてなし」の考え方、必要とされる衛生管理やサービスの水準などを説明し、理解してもらい、実践してもらう必要があります。
コンサルタントに頼るべからず
実は中国進出を決めた時、本社から上海に派遣した日本人スタッフのなかには中国語を話せる者も、中国で仕事をした経験がある者もいませんでした。さらに私は、彼らに向かって「最初からコンサルタントに頼らず、何事も自分たちで解決しなさい」と指示しました。並大抵の苦労ではなかったと思います。
—初めての海外進出なのに、現地事情に詳しいコンサルタントに頼るなと。どうしてですか。
松本:やっぱり自分たちの目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、自分で理解したうえで判断する。そうしなければ本当のノウハウが身につかないからです。別にコンサルタントを否定しているわけではなく、まず自分たちで一生懸命やってみて、どうしても困難だとわかったら専門家に入ってもらえばいい。
当社は「風呂屋のプロ集団」を自任しています。例えば設備を修理する場合、もちろん業者さんにおカネを払って任せることもできます。でも、それでは設備のどこがどうなって故障したのか、どう修理すればより改善できるのかがわかりません。だから社員が立ち会い、ノウハウを学んで、次回は自分でできるようにする。そこまでやらないとプロとは言えませんよね。
中国プロジェクトも同じです。上海に派遣したスタッフは本当によく頑張ってくれたと思います。
—差し支えなければ、より具体的な苦労話をお聞かせいただけませんか。
松本:それなら、上海で実際に店舗を立ち上げた彼らの方が適任でしょう。ご紹介しますから、じっくり聞いてやってください。
(次回に続く)

中国・上海の極楽湯1号店
(前回から読む)
上海女性に大人気の日本式スーパー銭湯「極楽湯」。その1号店を立ち上げるため現地に乗り込んだ日本人スタッフのなかには、中国語を話せる者も中国ビジネスの経験者もいなかった。そのうえ、本社からは「コンサルタントに頼らず、何事も自分たちで解決しろ」と命じられ…。
言葉も文化も異なる中国で次々に降りかかる難題に、彼らはどう立ち向かったのか。極楽湯インタビューの「現場編」では3人のキーパーソンのお話をうかがった。今回は店舗建設および営業の責任者を務めた、極楽湯執行役員海外事業部長(開発担当)の椎名晴信さんです。
(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)
* * *
—極楽湯の上海進出にあたり、椎名さんは店舗建設の施工管理と営業体制づくりを任されたそうですね。現地に赴任する前は、日本でも店舗開発の仕事をしていたんですか。

極楽湯執行役員海外事業部長(開発担当)の椎名晴信さん
椎名:いや、実を言うと日本では新店舗の立ち上げに携わったことがないんです。当社には2005年に転職で中途入社し、複数のお店で店長を経験した後、地域の店舗を統括するスーパーバイザーになりました。
僕が上海に赴任したのは2011年6月ですが、その直前は8つの直営店を統括していました。店長時代もスーパーバイザーの時もすべて既存店だったので、特に建設関係については知識も経験もない。いわばずぶの素人ですから、着任当初は「こういう店を作りたい」という理想よりも、「とにかく最後までやり切るしかない」という使命感の方が強かったです。
—不安や抵抗感はありませんでしたか。
椎名:それはなかったですね。と言うのも、僕はもともと海外事業の立ち上げを経験してみたいと思っていたからです。国内事業は安定している半面、どうしてもルーチン的な仕事が多くなります。それは悪いことではありませんが、僕の性格は同じ仕事が3年続くと飽きてしまう(笑)。もっと「血湧き肉躍る」経験がしたくて、もしかしたら海外にあるんじゃないかと。
実際に中国に赴任したら、もちろん最初は右も左もわからず、日本ではまず経験しないであろう嫌な思いや歯がゆい思いをたくさんしました。でも、いま振り返ってもそれは自分にとってマイナスではなかった。むしろ、中国に来られてよかったと思っています。
進まない工事に、ヘルメットを2個割った
—とはいえ、事業をゼロから立ち上げるプレッシャーは相当だったでしょう。どんな経験をされたか、苦労したかを聞かせていただけませんか。
椎名:上海に赴任した時、すでに1号店の場所は決まっていました。もともと工場として使われて建物を借りて、店舗に改築する計画です。実際に工事をするのは中国の建設会社ですが、僕の任務はその進捗を監督し、予定通りにお店をオープンさせることでした。
ところが、もう最初からトラブルの連続です。始めのうち一番困ったのは、とにかく工事が前に進まないこと。
—というと。
椎名:僕が現場に行くと、まず作業員の人数がそろっていない。毎朝のようにそうです。それでも作業に取りかかりますが、どんなに遅れていても昼時になればみんな手を止めて食事をするし、夕方は定時で帰ってしまう。「工期を守る」ことについて、誰ひとり責任感がなかったんです。
—施工主が急かしても聞く耳を持たない?
椎名:全然です(苦笑)。工程表を作って「この通りにやってくれ」と頼んでも、現場監督だって定時に帰りますからね。僕はずっとイライラし通しで、工事が終わるまでの間に怒りのあまりヘルメットを床に叩きつけて2個割りました。机も2回はひっくり返しましたよ。
だいたい朝礼もしないから、今日はどこでどんな作業をするのか、情報がまったく共有されていません。だから、例えば浴場の床にコンクリートを流し、その上にタイルを貼ろうとしていると、まだ固まっていないコンクリートの上をずかずか歩いていく作業員がいる。で、僕がそいつを怒っている横を、別のやつがまたずかずかと歩いていく。
—なぜそんなことになるんでしょうか。
椎名:要するに、作業員たちは各自の持ち場で勝手に工事しているだけなんです。どの作業をどういう手順でやれば全体として効率的かという「段取り」の発想がないから、工事の進捗が遅れるのは当然でした。
—でも放置はできませんよね。どうやって乗り切ったんですか。
椎名:それはもう、言うことを聞いてくれるまで繰り返し言い続けるしかありません。ただ、中国語のできない僕がいちいち現場の作業員を注意して回っても伝わらないし、きりがない。だから現場監督をつかまえて、机を叩いて説得し、彼から作業員に「こういうふうにやれ」と言わせる以外に方法はありませんでした。
そこで、僕は自分の机を現場監督の目の前に移動させて、一日中張り付くことにしました。毎朝、彼よりも早く現場事務所に行き、「今日は何をどこまでやるの」と聞く。彼が現場を回る時は、僕も一緒についていく。終業時には「今日はどこまでできたの」と確認して、彼よりも後に帰る。向こうもムキになって言うことを聞かないから、僕も同じことをやってやろうと。
「違う人間だ」と思い込むと壁は破れない
—根比べですね。
椎名:もちろん意地悪でやったわけじゃありません。現場監督だって、段取りがまずいのは悪気ではない。
—中国人は何か問題が起きたり失敗した時、自分の責任を絶対に認めたがらないと言われますが。
椎名:そう言われますね。しかし、心の中では反省している人も多いんです。そこは同じ人間ですから、「この人たちには良心がないんだ」と、相手を完全に否定したら一緒にやっていけません。
だから、僕はいつも文句ばかり言っているけれど、同時に「心の中では君を信頼しているよ」、「ちゃんとやってくれれば怒らないんだよ」という気持ちを伝えるよう心がけました。そのために彼を食事に誘ったり、差し入れをしたり。何も特別なことではありませんが、これを毎日どれだけしつこく続けられるか。並みの駐在員なら途中で諦めたかもしれないですね。
—椎名さんはなぜ続けられたんですか。
椎名:それは日本で店長をしていた経験が大きいと思います。店長は文字通り店舗の長として日々の運営に全権を持つとともに、全責任を背負っています。本社からいつも見張られているわけではなく、ある程度の裁量権を与えられている半面、不意のトラブルにも即断で対応する必要があるんです。
椎名:スーパー銭湯には年間延べ数十万人のお客様が来ますから、やはりトラブルやクレームは避けられません。浴場で転んで怪我したとか、ロッカーに財布を忘れたとか。飲食部門もあるので、注文を間違えたとか料理の提供が遅いとか。感情的になっているお客様にも冷静に向き合い、その場その場で解決しなければならない。毎日やっていたら、やっぱり強くなりますよ。
—苦労したぶん、ノウハウも得られましたか。
椎名:そうですね。1号店の工事には1年半かかりましたが、2号店ではそれまでの経験を活かして9カ月で終えることができました。建設会社の専門家に聞いたところ、これは中国では特別早いペースだそうです。
1号店の時は自分が焦っていたこともあって、最初のうちは「何も理解しなくていいから、こちらの言う通りにやってくれ」という考えでした。でも試行錯誤を重ねるうちに気付いたんです。相手に聞く耳を持ってもらう秘訣は、彼らに納得してもらうことだと。そこで、2号店の工事では「こういうことをしたいんだ」「こうすれば早くできるはずでしょう」と、現場監督に事前に説明して理解してもらうようにしました。
—例えばどんなことですか。
椎名:中国の内装工事は、いわゆる「現場合わせ」がとても多いんです。例えば店の受付のカウンターなんかは、現場に材料を運び入れて「こっちがちょっと長いぞ」、「そっちは短いな」などと調整しながら作っている。これでは時間がかかって仕方ありません。
そこで、2号店では現場合わせを極力やめました。カウンターなどは最初からきっちり寸法を測って他の場所で組み立て、現場では据え付けるだけにする。「こうした方が早い」と理解すれば、彼らも素直に従ってくれます。
また、中国の施工業者のレベルが感覚的にわかるようになったので、その実力に合わせた段取りを組むようにしました。
3年後の予想を1年で達成
—どういうことですか?
椎名:彼らは悪気でなく、実力を超えた工程表を持ってきたりするんですよ。そんな時は、「この人数で、これだけの時間でやるのは無理でしょ」と率直に指摘します。実際にできることとできないことをはっきりさせ、そのうえで、できないことは別途協議して対策を考える。そういった割り切りも大切なんです。
—もうひとつのミッションである営業体制作りはどうでしたか。やはり苦労が絶えなかった?
椎名:営業面の使命は、上海で極楽湯の知名度を高め、ターゲットの顧客層にいかにご来店いただくかでした。もちろん様々な試行錯誤をしましたが、結果として見ると“追い風”に恵まれたと思います。
本社の松本(俊二専務、第一回はこちら)も話したと思いますが、我々が進出する前から中国にも温浴施設はありました。そんななかで極楽湯が成功したのは、最初から女性をターゲットにした店づくりをしたことが大きいんです。要するに狙った顧客層がどんぴしゃだった。
とはいえ、知名度を高めてお客様がたくさん来てくれるようになるまで、僕は3年はかかるだろうと予想していた。でも、実際に開業したら1年目からいっぱいになりました。
—どうしてですか。
椎名:1号店のコンセプトは「ビューティー・アンド・ヘルス」。つまり女性の美と健康の追究です。我々は競合の温浴施設にはない、女性にとって魅力のある店作りをしたことで、高い評価をいただきました。
加えて幸運だったのが、開業時期が「ウィーチャット」(微信=中国版LINE)などのSNSの大流行に火がつくタイミングに重なったことです。上海の若い女性たちは美容や健康への関心だけでなく、情報への感度も非常に高い。気に入った商品やサービスを見つけると、SNSで情報発信する人がとても多いんです。お客様が短期間にわっと増えたのは、それが理由だと思います。
—SNSを通じたクチコミ効果が大きかったと。
椎名:はい。訪日中国人観光客による粉ミルクや化粧品の“爆買い”が典型例ですが、中国の女性たちの間には、「日本のものは安全で、美容や健康に良い」というイメージが強くあります。そして、実際に日本の商品やサービスの良さを知った人は、もっといろいろ試したいと思っている。そんな彼女たちが、SNSを通じて絶えず情報を発信しているわけです。
ただし、日本のものなら何でもいいわけではありません。爆買いにしても、SNSで話題になった特定の商品に人気が集中する傾向があり、類似品は期待したほど売れないそうです。逆に言うと、彼女たちの指名買いに選ばれればものすごい追い風が吹く。「極楽湯に行ってみたよ」、「また来たいな」などと発信されるたびに、新しいお客さんがどんどんやってきます。
お湯の違いは、設備とメンテナンスの違い
—上海の女性たちには、極楽湯のどこが一番の魅力なんでしょう。
椎名:突き詰めて言えば、安心してゆったり過ごせる快適さと清潔さに尽きます。そもそも中国の温浴施設とはお湯がまったく違いますからね。上海の水道水の硬度は180くらいですが、極楽湯では専用の装置を使って日本の温浴施設と同水準の30~60まで落としています。ここまで硬度を下げると、シャンプーの泡立ちの違いがはっきりわかる。また、お湯に少しぬめりがあって、肌に潤いを感じるんです。
(注:水の硬度は1リットル中に溶けているカルシウム・マグネシウムの量で表わされる。単位はmg/l。一般的には硬度100未満を軟水と呼ぶことが多い)

冬になると1号店には、受付から店の外まで続く大行列ができる。
我々はさらに、このお湯を30分以内に1回の速度で循環させています。つまり湯船のなかが、30分毎に濾過されたきれいなお湯に全部入れ替わっているわけです。一方、中国の温浴施設の循環速度は設計上で2時間に1回くらいが普通です。実際にはお湯があふれて減った分だけ足す、というレベルの施設も少なくない。
お湯を軟水化したうえ、衛生管理をここまで徹底している温浴施設は極楽湯のほかにありません。そこは我々も売り物としてアピールしています。おかげで設備のメンテナンスは大変ですけどね(苦笑)。
—メンテナンスに関して、中国独特の苦労やノウハウはありますか。
椎名:日本のお店と同じ基準でメンテナンスしているので、その意味では特別なことはしていません。でも、日本と違うのは設備のトラブルの頻度です。中国製の設備は、ボイラーもポンプも本当によく壊れます。
例えば、1号店のお湯を循環させるポンプは最初は中国製を採用したんですが、オープンから1週間で1台目が故障しました。1カ月後には全部ダメになり、結局、すべて日本メーカーのポンプに入れ替えました。
お店では、お湯の温度や残留塩素濃度などの水質を1時間に1回必ずチェックしています。これは衛生管理であると同時に、実は故障対策でもあるんです。もし2時間に1回だったら、その間にトラブルが起きてお湯の温度が下がってしまうリスクがあるので…。
—全部日本製にしてはどうでしょう。
椎名:コストや修理のしやすさを考えると、それは現実的ではないんです。電気の制御盤や配管の電磁バルブなど、壊れた時のダメージが大きいものに関しては、日本製や日本メーカーの現地生産品を入れています。でも、それでも壊れたことがあります。電力会社が供給する電気が不安定なことが原因でした。
設備が全部中国製だったら、もっともっと大変なはずです。そのせいか中国の温浴施設では、複数ある浴槽のなかにお湯が抜かれたまま放置されているものをよく見かけます。故障は当たり前だし、修理にはコストがかかる。だからお客様が使えなくても仕方ないという発想なのでしょう。
しかし、我々はお客様から同じ入館料をいただいている以上、いつでも同じサービスを提供することにこだわっています。浴槽にお湯がないなんてあり得ません。一時的にでも不具合があれば、正直にお客様に知らせています。
有事即応に、現場の裁量権は必須です
—こだわりは中国のお客さんに伝わっていますか。
椎名:絶対に伝わっていると思います。例えとしてはちょっと不謹慎かもしれませんが、極楽湯では長湯しすぎでフラフラになってしまうお客様がけっこういて、それも女性が多いんです。中国人は湯船に慣れていない人が少なくないので、加減がわからずにのぼせてしまう。逆に言えばそのくらい快適で、ついつい長湯してしまうのだと思います。
—苦労しただけの成果はあったと。
椎名:ゼロから立ち上げた中国事業がお客様に評価され、1店舗目から黒字化できたのは、やはり自らの手でたくさんの失敗と修正を積み重ねてきたことが大きいと思います。中国はトラブルも多い半面、失敗を糧にできるというか、失敗してもすぐ方向を修正できる雰囲気がある。そこが中国の良いところです。
その意味では、本社が最初から現地スタッフにある程度の裁量を持たせてくれたのがよかったと思います。何でもかんでも本社にお伺いを立てていたら時間がかかるうえ、物事がなかなか前に進みませんからね。
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『中ロ軍艦「尖閣」同時侵入、問われる日本の忍耐 「平和ボーナス」使い果たした後の厳しい現実を見据えよ』(6/15日経ビジネスオンライン 福島香織)について
憲法9条擁護派は中国の日本領海侵入をどう考えているのか聞いてみたい。集団安保法制を「戦争法案」とか呼んだ反日民進党と日本共産党は日本を中国の属国にしようとたくらんでいるのでしょう。福島氏の言うように、中国の日本の領海侵入が国民に取って、今般の参院選で本当に国防を真剣に考えるキッカケとなるかどうか。国民は舛添辞任のことしか考えないのでは。国防について従来「他人事」or「他人任せ」にしてきたことがそんなに簡単に直る訳がないと思います。中国が日本領土を砲撃して初めて気が付くのでは。それまでは尖閣についても無関心というか、そんな小さな島くらい渡しても良いというくらいにしか思っていないのではという気がします。中国人の本性を理解していないからです。彼らは一歩譲ったら、二歩も三歩も踏み込んできます。尖閣の次は沖縄、次は日本全土でしょう。日本人と中国人は考え方・発想が全然違います。何せ「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という民族です。まともに付き合えば日本人が騙されるのは必定。世界に平気で嘘を垂れ流しますし、賄賂やハニーは当り前の世界です。
佐伯啓思は「王権神授説の王制と違い、天賦人権説に則った共和制は傭兵制度ではなく、市民が国を守ることを前提としたシステム」と書いていたような記憶があります。理解が正しかったかどうかという点と本の名前は思い出せない点が弱いですが。国民以外に誰が国を守ってくれるのですか?傭兵で近代戦は戦えません。念仏を唱えても中国の侵略は止まず、況してや憲法9条が侵略を防いでくれるわけもありません。脳内お花畑の人間は現実を見据えようとしません。中国の侵略を許し、日本を奴隷の平和の状態にするつもりですかと言いたい。
http://www.sankei.com/politics/news/140721/plt1407210014-n1.html
小生の6/11ブログにも書きましたが、尖閣接続水域侵入は現場の独断ではなく政府と一体となってやっていることです。これは福島氏も同じ見立てです。経済崩壊を目前に控え、習近平の暴走が始まった気がします。南シナ海、東シナ海の二正面作戦が取れる能力は中国にはありません。東シナ海だけでも日米合同で対処すれば中国海軍はあっという間に海の藻屑となるでしょう。ロシアは中立を保つ筈です。何が習近平をそのように駆り立てているのか、愚かな裸の王様としか言えません。権力闘争に勝つためなのでしょうが、危険すぎます。
<6/15 15時12分NHKニュース中国海軍情報収集艦 日本領海に一時侵入
15日未明、中国海軍の情報収集艦1隻が鹿児島県口永良部島の沖合で日本の領海に侵入し、およそ1時間半にわたって航行したあと領海を出ました。中国海軍の艦艇が領海に入ったのが確認されたのは、平成16年以来2回目で、防衛省は警戒を続けるとともに、航行の目的を分析しています。
防衛省によりますと、15日午前3時半ごろ、中国海軍の情報収集艦1隻が鹿児島県口永良部島の西で日本の領海に侵入したのを、海上自衛隊のP3C哨戒機が上空から確認しました。情報収集艦はその後、南東に向かい、およそ1時間半にわたって領海内を航行したあと、午前5時ごろ、屋久島の南の沖合で領海を出たということです。 中国海軍の艦艇が領海に入ったのが確認されたのは、平成16年に原子力潜水艦が沖縄県の石垣島沖で領海侵犯して以来で2回目となります。 沖縄の東の太平洋では、現在、海上自衛隊とアメリカ海軍、それにインド海軍による共同訓練が行われていて、防衛省によりますと、中国海軍の情報収集艦は、インド海軍の艦艇2隻の後方を航行し領海に入ったということです。 各国の軍艦には一般の船舶と同じように沿岸国の安全を害さなければ領海を通過できる「無害通航権」が国際法で認められていて、防衛省は、警戒と監視を続けるとともに情報収集艦の航行の目的を分析しています。
島の住民「本当に怖い」
口永良部島に住む屋久島町役場出張所の職員、川東久志さん(56)は「前代未聞の出来事で驚いています。このような島に中国海軍の船が近づくなんて本当に怖いです」と話していました。 また、付近の海で漁を行い、口永良部島の消防分団長を務める山口正行さん(47)は「漁に出る人は本当に気がかりだと思う。国や県は島の住民の生命や財産をしっかり守ってもらいたい」と話していました。
官房副長官「中国側に懸念申し入れた」
世耕官房副長官は、午前の記者会見で「中国艦艇がどういう目的で航行したかについては現時点では確たることを申し上げるのは控えたい。政府としては引き続き、わが国周辺海空域における警戒監視活動等に万全を期していく」と述べました。 そのうえで「外務省アジア大洋州局長から在京中国大使館次席に対して、先般の中国海軍艦艇による尖閣諸島接続水域への入域に続いて今回、中国海軍の情報収集艦がわが国領海に侵入したこと等に鑑みて、中国軍の活動全般に対する懸念を申し入れた」と述べました。 また、記者団が、先に中国海軍の艦艇が尖閣諸島周辺の接続水域に入った際には外務省の斎木事務次官が程永華駐日大使に抗議したことを踏まえ、政府の対応の違いについて質問したのに対し「尖閣について中国は自分の領土という独自の主張をしており、当然、対応に差があってしかるべきだ」と述べました。
防衛相「意図を分析中 警戒に万全期す」
中谷防衛大臣は防衛省で記者団に対し、「中国海軍の艦艇の航行は、日米印の演習に参加し、わが国の領海内を航行していたインド海軍の艦艇に引き続いて行われたものだ。海上警備行動は発令しておらず、先方の意図や目的は分析中だ」と述べました。 そのうえで中谷大臣は「中国海軍の艦艇が領海内を通過したのは2度目で非常に例が少ない。今後も中国艦艇の動きに十分注目して、警戒監視に万全を期したい」と述べました。 このあと、中谷大臣は再び記者団に対し、「中国は近隣国であり、こういった活動については丁寧に接してくるべきだ。戦後2回目のわが国領域内の航行であり、非常に懸念がある」と述べました。
外相「最近の中国軍の動きを懸念」
岸田外務大臣は外務省で記者団に対し、「中国海軍の艦艇が先日の尖閣諸島の接続水域に続いて今回、日本の領海に入域したが、状況をエスカレートさせている最近の中国軍の動きを懸念している。政府としては、中国側にこうした懸念をしっかり伝えるとともに、警戒監視に万全を期していきたい」と述べました。>(以上)
<6/15日本経済新聞 電子版 「狙いは日本艦排除」 中国軍艦、尖閣進入の深刻さ 編集委員 中沢克二
中沢克二(なかざわ・かつじ) 1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞
6月9日午前1時ごろ、眠りにつこうとしていた首相、安倍晋三に報告が入った。この日は私邸ではなく、首相官邸脇の公邸に宿泊していた。
「中国艦船が尖閣諸島の接続水域に入りました……」
目覚めた安倍は付近に展開する海上自衛隊の護衛艦の動きを問い、素早く指示を出した。緊迫した中国のジャンカイ1級フリゲート艦の進入事件の謎を解くカギは、その3時間余り前にあった。
■「黙契破ったのは日本」という強弁
「日本の軍艦が先に接続水域に入った。そして中日双方には、艦船を接続水域に入れないとの黙契がある。中国海軍は既に東(シナ)海海域の巡航を常態化した。今回は監視中に日本艦の行動を察知し、緊急対応した」

沖縄県・尖閣諸島。手前から南小島、北小島、魚釣島(2012年9月)=共同
共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報が伝えた中国の主張だ。簡単にいうと、先に進入したロシア艦の動きは無関係で、日本艦が先に「黙契」を破ったため中国艦船も進入した、との趣旨だ。
もちろん中国の言う、日中の密約を意味する「黙契」など存在しない。尖閣の実効支配を確立している日本は、無用な摩擦を避けるため、通常、海上保安庁の巡視船が対処しているにすぎない。中国政府は、領土問題の存在を認めよと迫る際、「日本は過去に『棚上げ』を認めた」と主張する。「黙契」の存在の主張は同じ論法だ。
中国の安全保障関係者から漏れ伝わる声はこうだ。
「友であるロシアの艦隊が『航行の自由』を標榜して釣魚島(尖閣諸島の中国名)の接続水域に入っても見過ごす選択肢はある。だが、日本の軍艦が入った場合、我々、中国も入らなければならない。そして排除する必要がある。そうでなければ日本の実効支配を崩したとはいえない」

中国海軍のフリゲート艦(2012年公開)=防衛省統合幕僚監部提供
この論理を真に受ければ、もし日本の護衛艦が尖閣諸島を守るため領海に入れば、中国艦も侵入する可能性が高くなる。戦闘になってもおかしくない。極めて危険な状態だった。
忘れてならないのは、中国が2012年秋以来、「日本の実効支配を崩した」と公言していることだ。日本の尖閣国有化を逆に利用して中国公船が領海を侵犯。その後も定期的に接続水域、領海に入っている。それでも、これは中国海警局所属の公船だ。日本側で対処するのは海保の巡視船になる。双方が厳しく対峙しても軍ではないため即、戦争にはならない。
今回はロシア艦の進入が誘因とはいえ、日本艦が接続水域内を航行した。中国側は「新たな事態で放置できない」いう論理でプレーアップした。「見過ごせば中国海軍が上層部から叱責されかねなかった」。こんな見方もアジアの外交・安保専門家の間にはある。
中国と日本の艦船の動きを時間を遡って検証してみる。地図を参照してほしい。
![]()
6月8日午後9時50分、ロシア艦3隻が南から接続水域に入り、北に向かっていた。監視していた海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」がこれを追尾する。当然、すぐに接続水域に入った。ロシア艦の動きに目を奪われているが、中国側が注視していたのは実は日本の「はたかぜ」の動きだ。
やや離れた尖閣北方海域にいた中国艦は直ちに反応した。そして一目散に接続水域を目指す。尖閣北方で監視中だった別の海自護衛艦「せとぎり」は危機感を抱き、中国艦の動きを追い始めた。このままでは接続水域に入るのは必至だ。強く警告したが、中国艦は応じない。
この時、「はたかぜ」は接続水域内を北東に向けて航行中だ。これを知る中国艦が動きを止めるはずはない。ついに久場島の北東の接続水域に進入した。これを監視する「せとぎり」も接続水域内を航行し、今度は中国艦が万が一にも領海に侵入することがないよう警告・監視しながら追尾する。
日中ロ3カ国の艦船6隻が至近距離で入り乱れながら並走――。大正島北西の接続水域内では、かつてない危険な事態が出現した。だが最後はロシア艦が接続水域を抜け、日中の艦船も外に出る。ひとまず危機は去った。
■中ロ連携の真相
焦点は中ロ両海軍の連携の有無だ。ロシア艦3隻は海上演習を終え、帰路にあった。駐日ロシア大使館も「当海域では中国と関係なくロシア海軍が定例の演習を行い、日本の領海に入ることは当然ない。他の諸国、日米も主張する『航行の自由』の原則通り。心配無用」とした。

米中戦略・経済対話の開幕式で手を振る中国の習近平国家主席(6月6日、北京)=共同
とはいえ中ロは2012年から日本海や黄海で海上軍事演習を実施している。中ロが広く連携している以上、中国海軍が、今回のロシア艦の大筋の動きを把握していたのは間違いない。翌6月10日からは沖縄近海で日米印の海上演習「マラバール」が始まった。そもそも中ロ艦がここで活動していた目的は情報収集とけん制にもあった。ロシア艦も演習の帰路なのに、なお付近をうろついた。
1992年に始まった米印の演習には今年から日本も定期参加する。南シナ海での「航行の自由」作戦を実行した米空母「ジョン・C・ステニス」も姿を見せた。中国はそれを注視している。ロシアも事情は似る。ウクライナ問題などで確執がある米国に対抗するには、この地域でも一定の存在感が必要だ。東シナ海、太平洋は「日米VS中ロ」の対峙構造が明らかな緊迫した海でもある。
一連の事情からロシア側は、進入に関して「中国と無関係」としつつも、少なくとも中国側が連携を臭わせるのは容認した。中国国防省が発表した質問に答える形式のコメントもそうだった。自ら用意した質問文は「日本メディアが中ロの軍艦が釣魚島付近の海域に進入したと報じた。どうみるか?」。説明抜きのため、全容を知らない中国国民、外国人は中ロが示し合わせたように受け取る。いわば意図を持った「やらせ質問」にみえる。
そこには伏線がある。ロシア大統領、プーチンは6月末、訪中する。重要な中ロ首脳会談を前にロシア側も中国を追い込むことはしない。中国の演出は、ロシアを利用した「張り子の虎」と考えることもできる。かつて毛沢東、鄧小平時代にも米ソ対立を巧みに利用した似た事例がいくつかある。中国の伝統的な外交術だ。
■試された与那国島レーダー
中国軍にはもう一つ重要な目的があった。中国語で言う「試探」。つまり接続水域進入によって自衛隊と日本政府がどの程度、素早い動きを見せるのかを探りたかったのだ。

150キロ先の尖閣諸島をにらむ与那国島の陸上自衛隊レーダー基地
なぜ今なのか。それは3月28日、日本最西端の与那国島(沖縄県)に160人規模で駐屯を開始した陸上自衛隊とレーダー基地に関係する。与那国島の150キロ北には尖閣諸島がある。人口2000人に満たない静かな島に出現した巨大な5本の鉄塔には様々なアンテナが据え付けられた。尖閣周辺の海と空ににらみを利かせている。
日本政府の動きは素早かった。安倍への報告の後、外務省は直ちに東京の中国大使館の安全保障担当公使に抗議した。中国艦の接続水域入りから僅か25分後だった。その45分後には駐日中国大使、程永華を呼び抗議した。
見落とされている事実がもう一つある。中国艦に対処した青森県の大湊港を母港とする「せとぎり」(3550トン)は、南シナ海との縁が深い。4月12日にはベトナム南部の要衝、カムラン湾の軍港を訪れていた。直前には同じく中国と南シナ海で対峙するフィリピンの北部、スービック港に寄港。南シナ海を横切ってベトナムのカムラン湾に入った。
カムラン湾といえば、冷戦時代に旧ソ連が軍港として使用し、対米けん制の最前線だった場所だ。今や南シナ海問題で立場は逆転した。ベトナムは中国に対抗するため米国から武器を購入し、日本の海自艦船の訪問も受け入れている。
軍事面の実力が向上した中国海軍は、国家主席、習近平がトップに就いて以来、海洋進出を加速している。中国には強く自制を求める。力による現状の変更は極めて危険だ。そして日中間で偶発的な衝突などあってはならない。防衛当局間の早期の「海空連絡メカニズム」発効に向けた詰めた話し合いをすぐにでも始めるべきだ。(敬称略)>(以上)
記事
尖閣諸島周辺の接続水域に中国の軍艦が初めて侵入した。6月9日未明のことである。もちろんこの海域には軍艦を改造した中国海警局巡視船などがしょっちゅう侵入しては海上保安庁の巡視船に追い出されることを繰り返しているのだが、軍艦となると緊張感がまったく違う。官邸はすぐさま危機管理センターを設置し、米国とも連絡を取り合った。外務省は夜中に駐日中国大使を呼び出して厳重抗議した。中国側のこの行為には、どういう意図があるのだろう。まさかうっかり接続水域に入ってしまったというのだろうか。
「してやったり」ほくそ笑む中国
まずロシアの軍艦も同じタイミングで接続水域に入ったため、中ロが結託して、日本を挑発したという疑いはある。ただ、ロシア軍艦が定期演習帰りにこの時期に接続水域付近を通行することは想定内。むしろ中国側が自国の領土と言い張る尖閣諸島周辺海域にロシア軍艦が入ったことを口実に、ロシア艦を監視するという建前で自らも接続水域に入った、という見方が今のところ主流である。
ちなみに駐日ロシア大使館はツイッターで「当海域では中国と関係なくロシア海軍が定例の演習を行い日本の領海に入ることは当然ない。…ご心配不要」と、中国とは無関係であり、また尖閣諸島海域が日本領海と認めているようなニュアンスのコメントをしていた。なお、このコメントは日本語であり「尖閣諸島」という言葉を使っている。さすがにまずいと思ったのか、すぐに削除された。これが“うっかりコメント”なのか、中国に対するある種のメッセージなのかは不明。軍艦侵入そのものが、中国との共謀であれば、もう少し中国への配慮というものがあっただろうとは思う。
ロシアの狙いは後回しにして、まず中国側の意図を考えてみよう。例えば、ロシア艦の接続水域侵入を見た中国海軍が現場の判断なのか。それとも、習近平政権の意志による計画的軍事行動なのか。
結論を先に言うと、これは習近平政権の指示による計画的行動だと、私は考えている。
まず、中国国防部が翌日、「釣魚島およびその付属島嶼(尖閣諸島)は中国固有の領土であり、中国軍艦が本国管轄海域を航行するのは合法であり、他国がとやかく言うことではない。きょうの端午の節句(旧暦)をすこやかに過ごしてください」と、ユーモアと余裕も感じさせるコメントを発表していることだ。この余裕に「してやったり」という中国側のほくそ笑みが見える気がする。
中国メディアで報じられている内容を整理すると次のようになる。
8日午後9時50分ごろ、ロシア海軍艦艇3隻が先に尖閣諸島海域(中国語で釣魚島)の久場島(黄尾嶼)と大正島(赤尾嶼)の間の接続水域を北上し、海上自衛隊護衛艦“はたかぜ”に発見された。9日未明午前0時50分ごろ、一隻の中国フリゲート艦・江凱が南下し久場島東北の接続水域に侵入するも海上自衛隊“せとぎり”に発見され、U字型の軌跡を描いて大正島東北の接続水域から脱出。中国軍艦が接続水域を出たのは午前零時3時10分、ロシア軍艦が同域を出たのは3時5分。
「中ロ連携」を匂わせ、建前で逃げる算段
日本メディアの報道の在り方はおおむね二通りだ。中ロが事前に打ち合わせた計画的行動である、というものと、中ロの連携はなかったというもの。読売新聞の10日の報道は前者で、ロシアが2012年から毎年夏に日本海や黄海で合同海上軍事演習をしているのは日米けん制が目的であり、この中ロの行動は日米印三国の10日の九州付近での合同海上軍事演習に対抗するものだという分析をしている。
一方、産経新聞は、ロシアが先に接続水域に入ったことを中国軍艦がロシアを監視するかのように見せかけてあとから侵入したと報じ、中ロ連携ではなくロシアを中国が利用して侵入したという見方だ。防衛省・外務省は、中国が日ロ相手にこの領海に近づくな、と威嚇した、とみている。日本政府としては、中国は周到な計画をもってこの事件を起こしたと認定しているようだ。毎日新聞は、元自衛官のコメントを引用して、中国の周到な計画的行動は今後も続き、国際社会の注意を南シナ海からそらそうという意図がある、としている。
環球時報などが、日本の新聞の引用をしながら、だいたいこのようなことを伝えている。
軍の行動の意図などは、たとえ官報といえども勝手な解釈報道はできないのだが、こうして海外メディアの引用を反論を加えずそのまま報じるときは、だいたい図星ということである。ロシアとの連携が本当にあったかなかったかは、ひとまずおいておくが、中国としては「連携があった」と日本に思わせたいのだ。中国報道のほとんどが“中ロ軍艦”を主語にしている。そして「ロシアに文句を言わないで中国に文句をいうのはおかしい」「中国軍艦はロシア軍艦の侵入を見張るために南下したにすぎない」という建前で日本の抗議を封じ込めることができるとみている。
13日付の環球時報は、「いよいよロシアも参入!魚釣島をめぐる大博打」と題した、少々ちゃかした感じの論評を掲載した。これがなかなか興味深い。以下引用する。
「安倍は突然たたき起こされた」
「ドラマチックに描けばこんな感じだ:眠っている安倍は突然たたき起こされた。中国とロシアの軍艦が来たぞ! 日本の軍艦はどこだ? 日本の艦艇にその行動を妨害させようにも、衝突は怖いし、安倍はただ追随して監視するしかなく、すぐさま米国に報告する。
焦った日本の官僚たちは、50歳を過ぎた駐日大使の程永華を午前2時に外務省に呼びつけ、てんやわんや。寝覚めの悪い大使の顔色は悪く、さすがにキレて言い返した。“釣魚島は中国固有の領土、中国側は日本の抗議を絶対に受け入れられない”。
注目に値するのは日本側の中国とロシアに対する対応差だ。ロシア軍艦の方が接続水域侵入の時間が早く、海域航行時間も長く、艦の数も2隻多い。
なのに難癖をつけ、抗議するのは中国だけで、ロシアに対しては文句を言わない。理由はロシアは魚釣島の領土主権を主張していなからだ、と。…
日本はロシア大使館のツイート声明(で尖閣諸島という言葉を使ったこと)によろこんだようだが、これは外交辞令だ。そもそも外交部は軍の意図などわからぬものだ。だからすぐに削除された。…
いくつか基本的に判断できることは以下の通り。
①中ロ軍艦は同時に接続海域に侵入し、ロシアが先に侵入した。②プーチンの6月訪中を前に、南シナ海問題がまさに煮詰まっているとき、中ロが連携してこの航行を行ったから、日本を十分に震え上がらせることができた。③米国のアジアリバランス政策下で、米日が協力を強化している状況で、中ロの協力強化は確かに必要で、これはイデオロギー以上に国家利益的に大きな意味がある。こうした状況からプーチンの訪中は実りあるものになるだろう。④ロシアの艦艇3隻は老朽船であり真の軍艦は一隻だけで残りの二隻は補給艦と曳航艇である。だが敏感な水域をあえて航行するプーチンの軍事外交は大胆かつ強硬である。
最後に付け加えていえば、ロシアの過剰に大胆な部分を中国は学ぶ必要もないしできないが、少なくとも外交局面においては、もっと活発になることが中国の成功の秘訣だろう。たとえばロシアのウクライナ危機や迅速なシリア撤退のようなこの種の謀略は参考にする価値がある。特に南シナ海問題が煮詰まりつつある今、釣魚島で再び風雲を起こすことは、実際なんの不都合もないのである。釣魚島をめぐる中日の争いは表面的なものであり、実際は米国を避けて考えることのできない問題だ。釣魚島の問題は、全東アジアの大博打の一部でしかない。そこに、いよいよロシアが加わって釣魚島をめぐる大博打が今始まったわけだ。」
中国としては、ロシアが中国海軍と同時期に接続海域に入ったことに大きな意味を見出している。つまり、南シナ海と合わせて、東シナ海問題にロシアを引き込めれば中国にとって有利だということだ。
尖閣は日本の実効支配下にあり、日米安保の枠組み内にあるので、中国の実行支配下にある南シナ海の島嶼問題よりもある意味攻略しにくい。そこに米国と対立するロシアを引き込めればこれは中国に利する。万が一、日本とロシアの関係がこじれれば、中国にとっては願ってもないことだ。ロシア軍艦が南シナ海での国際テロ軍事演習にこの海域を通ることは、かねてからわかっていたのだから、中国がタイミングを合わせて尖閣諸島接続水域に軍艦を出すくらいのことは十分考えられる。
習近平はプーチンLOVE
ロシアは本当のところどう考えているのだろうか。
ロシアの本音を探る手段は今の私にはない。ただ、プーチンは稀に見る外交巧者である。年内の日本訪問の条件の駆け引きを見据えながら、6月の訪中の内容を詰めているところであろう。ロシアと中国が真の蜜月だとは思わないのだが、習近平のプーチンLOVEはかなり本気だ。
ウクライナ危機にしてもシリア撤退の奇策にしても、習近平政権が「外交はかくありたい」とほれぼれするようなことをプーチンはやってのける。そういった中国側の気分を見越して、ロシアは4月のモスクワでの中ロ外相会談で、南シナ海問題を当事国間の直接の話し合いでの解決を求める中国側の立場を支持している。
ロシアはベトナム・カムラン湾を軍事利用しつつASEANにおける武器輸出拡大を図っているところで、南シナ海には巨大な利権をもつ。米国の対ベトナム武器禁輸解除は、中国以上に苦々しく思っているはずだ。中国が米国の対ベトナム武器禁輸解除に対して、あまり怒った風でなかったのは、南シナ海問題にロシアを引き込み、米国と対立させる好機とみた、ということも考えられる。
一方、シンガポールにおけるシャングリラ会議では、日米印の南シナ海における対中包囲が鮮明化する一方で、ロシアと中国は米韓の対北朝鮮目的のTHAADミサイル配備への反対で立場を一緒にするなど米(韓)VS中ロの対立構造も鮮明化した。中国としては、南シナ海問題で米ロをあおりつつ、東シナ海にもロシアを引き込みたい。ここで、ロシアは外交辞令上、「そんな領海侵犯の意図などありませんよ。中国とも関係ありません」という声明を出しながら、中国に貸しを作るぐらいのことはやっても不思議ではないだろう。
平和ボーナスなき後、試される忍耐
南シナ海問題は、国際的包囲網が形成され、またフィリピンに親中派大統領が登場し、ベトナムにおける米ロの兵器利権対立が起きそうで、6月末にもスカボロー礁の中国埋め立てをめぐるハーグ仲裁裁判所の判決が出る、という変数が多くあるなかで、中国側も今しばらくは次の一手を攻めあぐねていよう。
軍制改革を成功させるために南シナ海で、局地戦も辞さない覚悟で軍事緊張を高めることが中国のシナリオであることはこのコラムでも以前に解説したが、環球時報の論評にあるようにここにきて「釣魚島付近で再び風雲を起こすことは何の不都合もない」というのも本音だろう。もともと習近平シナリオには、2013年1月のロックオン事件の際に、日中間で局地戦を覚悟した軍事的緊張を演出するというものもあった。主戦場がいつ南シナ海から東シナ海に移っても不思議はないのだ。
こういう状況は日本にとって非常に具合が悪い一方で、少しだけ好いことがある。悪いことは、日本の安全保障が脅かされ日本の領海領空を守る海上自衛隊や航空自衛隊に対するプレッシャーが並々ならぬものになるということ。好いことは、7月の参院選を前にして、有権者が安全保障の問題をより身近に迫ったものとして真剣に考えるようになることだ。
日本政府としては、北方領土問題の交渉相手であるだけでなく、東シナ海や南シナ海を含む、アジア太平洋「大博打」大会の主要プレーヤーであるロシアの思惑を見越しつつ、その外交をうまくこなすことがまず肝要かもしれない。第二次大戦以後の平和のボーナスはそろそろ使い果たされ、いよいよ神経を消耗する厳しい時代になった。一人ひとりの忍耐が試されているのだと思う。
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