矢野氏の記事は兎に角長い。読むのが大変。中共の手前勝手な論理は飽きるほど見てきましたし、聞いても来ました。やはり信ずるにたる民族でなければ敵と思ったほうが良い。日本単独では敵が強大になりすぎ、同盟を結んで対抗することになりますが、矢野氏の言うように、自立した防衛戦力を持つことが必要でしょう。
記事
中国の「J-10」戦闘機。China Military より
日本国内では新型コロナウイルス感染症の拡大で持ち切りになっている。
しかし中国は、各国がコロナウイルスへの対応に忙殺されている間に、わが国との尖閣諸島をめぐる対立のみならず、台湾、米国、インド、豪州、東南アジア諸国などの諸国との紛争を同時に多発させている。
その背景にはどのような戦略や意図があるのであろうか?
今年10月に発刊された劉明福著『新時代の中国の強軍夢(新时代中国强军梦)』(中共中央党校出版社、2020年11月)には、習近平体制下での「強軍夢」の位置づけ、意義、その狙いと戦略思想、実現に至る時間表などについて、細部が論述されている。
著者は1969年に人民解放軍に入隊後、作戦部隊に10年、戦区機関に20年、国防大学に17年間勤務した、現職の国防大学教授であり、「全軍優秀共産党員」に選ばれている。
個人の著書ではあるが、その立場上、習近平体制下の党と人民解放軍の意思や思想が色濃く反映された文書とみてよいであろう。
人民解放軍が対処すべき脅威と守るべきもの
習近平中国共産党総書記は、2018年10月の中国共産党第19回全国代表大会で、本党大会の主題が「新時代の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取り、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現のために怠りなく努力すること」にあると宣言している。
そのための基本戦略として14の方針が掲げられたが、その中に「党の人民軍隊に対する絶対的指導の堅持」がある。
この方針の中で、「指揮系統を一元化し、戦って勝てる、優秀な人民軍隊を建設することが、第18回党大会で提起された「2つの100年」という奮闘目標を実現し、中華民族の偉大な復興と言う戦略実現の重要な基盤を実現することである」と、「強軍」建設の決定的な重要性が強調されている。
これが「強軍夢」として、偉大な中華民族の復興と並ぶ長期戦略目標として採り上げられることになる。
本書では、21世紀に中華民族の偉大な復興と言う夢を実現する上での危険には以下の5つがあるとしている。
①中国への侵略
②政権の転覆
③国家の分裂
④安定的な改革と発展のための環境の破壊
⑤中国の特色ある社会主義の発展進展の断絶
これらの中でも①、②、③の目標は共産党独裁体制の強化と覇権拡大を直接目指す上での障害であるが、④、⑤は逆にそのような覇権主義的な行動や国内での独裁強化の動きにより、国際的な反発や警戒の結果、招くおそれもあり、①、②、③と矛盾している。
南シナ海での動きなどを見れば、そのおそれがあることは十分に予測できるはずである。
しかし、この矛盾点について、その後の論述では明確な分析がなされないまま、主に①、②、③の脅威に対する「強軍夢」、言い換えれば、軍事力強化による対外的な覇権拡大主義だけが突出して論述されている。
防衛すべきものとしては、以下の4項目が挙げられている。
①中国共産党の指導的地位と中国の社会主義制度
②国家の主権、統一、領土の完全回復
③中国の海外利益の不断の発展
④世界の和平と発展
①については、中国共産党の歴史を振り返り、新時代に入った今日、「中国号」は中国夢実現成功に舵を切り、偉大なる目標への遠洋航海に乗り出した、中華民族の歴史上のみならず人類史上における一大物語であると自画自賛している。
さらに、中国共産党こそが「国家の指導力と制度力であり、核心となる競争力、国家の支柱、団結と統一保持のための最大の凝集力」であり、「強国と興国の根本的な力である」と断言している。
また、共産党の指導力によりもたらされる「政治安全」が、「中国人民の根本利益であり核心的利益」であるとしている。ここでは、共産党独裁体制維持による政治的安定こそ、強軍の基礎的条件であるとの、自信に満ちた独断が披歴されている。
②については、まだ国家統一を果たしていない大国は中国のみであり、周辺の多数の国家と領土主権と海洋権益を争っている唯一の国も中国であるとし、主権、統一、領土の完全回復を守るために最も多くの問題点を抱えた国であると自らを規定している。
台湾問題では、争ってでも奪取するかまたは平和裏に統一することに最大限の努力を注がねばならない、そのためには武力の使用を放棄しないだけではなく、「台湾独立派」の分裂活動に対しいつでも断固として威嚇と威圧を加えることも必要であるとしている。
この点については、新疆ウイグル、チベットや香港の独立派についても同様である。
また「何年も領土主権と海洋権益の防護のために解放軍が寸土とわずかの海を争っている現在、重大な成果を得ている戦略的意思を動揺させるべきではない。今後さらに戦略の積極性を加速し、政治的な策略と優位を積み上げ、未来の勝利を得ることを追求すべきである」と、檄を飛ばしている。
この方針は、慎重論を拒絶し、積極的な対外覇権拡大を目指すことを意味しており、この点が、才能を隠し力を蓄えるとの「韜光(とうこう)養(よう)晦(かい)」を旨とした鄧小平路線とは異なる、力ずくで目的達成を果敢に目指す習近平路線の大きな特色となっている。
ただし鄧小平も内部では、1987年8月1日の建軍60周年に、「わが軍隊を建設するとは、強大な現代化され正規化された革命軍隊を創るために奮闘することである」と述べている。
③については、中国の国防には「国境」を局限することはできないのであり、新時代の解放軍は、「海外利益を発展させそのための戦略的支撑(支えとなる拠点)を提供しなければならない」としている。
その理由として、中国がその経済総量の約6割、主要な資源の多くを対外貿易に依存していることを挙げている。このことは、経済発展のためには世界的な軍事力の展開が必要との論理であり、世界的覇権拡大を正当化するための理由付けと言える。
④で本書は、変化の激しい国際情勢の中、対外戦略を巧みに展開し、積極的に中国の特色ある大国外交を推進してきたと、習近平路線を賞賛している。その結果、中国の国際的な影響力が増大した。
しかし、「国際的なシステムの変革とは、実態は国際的な権力と利益の再配分であり、そのため闘争もまた複雑激烈になっている」とし、「中国の国際的な影響力、感化力、秩序形成力を増大するためには、解放軍が世界一流の戦闘力を備えることが必要である」と強調している。
中国共産党が見る「3度目の飛躍」の好機と「強軍」の必要性
毛沢東は中国を「立ち上がらせ(站起来)」、鄧小平は「豊かにした(富起来)」。習近平氏の新時代の今、「強くなる(强起来)」ための3度目の飛躍の時代、戦略的好機が到来したとみている。
新時代とは、「中華民族が強くなる偉大な時代である」、「百年来かつてなかった大変革の時代であり、大きな調整を要する(第3の)新段階であり、同時に危険に満ちた、挑戦の好機でもある」としている。
また、「国防と軍隊の建設は国家安全保障の後ろ盾であり、堅固な国防と強大な軍隊なしには平和的発展も保障されない」。
「国家安全保障の手段も増加しており、それらを柔軟に活用し合従連衡をすることもできるが、軍事手段が終始最低限の目標の保障手段である」との認識を示している。
ここでも現在の戦略的好機を活かすには何よりも軍事力が必要とされるとの認識で一貫している。
しかし「解放軍の現在の水準は、国家安全の要求にはまだ遠く、世界の先進的な軍の水準にも程遠い。日夜精神力を振るい立てて追いつき、国防と軍隊の現代化建設を飛躍的に発展させ、世界一流の軍隊の建設を加速させねばならない」としている。
なお、「世界一流の軍隊」とは何かについては、「武力に第2位はない。武力は第1位でなければならない」とし、「タカ派的観点に立ち」、米軍を凌駕する「世界最強の大軍隊を建設することである」と明確に述べている。
この点は、従来の米軍と並ぶ「世界一流の軍隊」からさらに一歩踏み出した解釈になっている。人民解放軍内の強硬派が、自信をさらに深めていることの反映と言えるかもしれない。
偉大な3つの目標として、中華民族の偉大な復興という「中国夢」、世界一流の軍隊の建設という「強軍夢」、人類運命共同体の建設という「人類夢」が挙げられている。
かつ強軍夢は「中国夢と人類夢の戦略的支撑であり、強大な軍隊の建設が奮闘の偉大な事業をつなぐものである」とされている。夢の実現には何よりも強大な軍事力が必要であるとする、力への信奉が赤裸々に表明されている。
また、「それぞれの時代の人にはその時代の人の使命がある。
習近平国家主席が解放軍を統率し世界一流の軍隊を建設する際には、一つの棒、決戦のための棒、追い込みをかけるための棒が必要である。
現在、世界一流の軍隊建設の責任は革命軍の将兵の双肩にかかっており、我々はあえてその責任を引き受けて担おう」と呼び掛けている。
人民解放軍が勝利すべき敵
人民解放軍が勝利すべき敵として、米国が筆頭に挙げられている。
特に米国については、建国以来239年の歴史のうち222年は戦争をしており、米国は世界で最も好戦的な国家であるとし、その一方で、新中国の基本国策は覇権を求めず領土拡大を求めないことにあり、最も平和的な国家であるとしている。
また、「米国の覇権は許されるが、中国の覇権は許さない」というのが、21世紀における米国の覇権の突出した特色であると指摘している。
主要な敵である米国以外の「群敵」として、米国の組織している以下の4つの連盟が挙げられている。
①ファイブ・アイズなどの英語圏の国家連盟
②NATOなどの西欧連盟
③周辺国の反中連盟
④外敵と台湾、ウイグル、チベット、香港の独立派、分裂派などの内部の敵との連盟
中でも③においては、米国の文献から、「高強度の長期紛争においては、米国の東アジア同盟国の対米支援があれば、中国の成功する可能性は低下する」、「日本が巻き込まれる可能性があり、日本は潜在的な紛争当事国となりうる。もしその(米軍基地が所在する)領土を攻撃されれば、日本はほぼ確実に紛争に加入するであろう」との米側の見方を紹介している。
さらに米国は、「同盟国および核心となる軍事力を持つ中国の隣国との共同作戦能力を高め、緊急時対処計画の制定を進める必要がある」とみている。
また米国の『国家安全保障戦略』におけるインド太平洋地区重視方針について詳述し、米国が「日韓との弾道ミサイル防衛での協力を進め」、「インドとの防衛・安全保障面での協力を進めており、インドを主要な防衛上のパートナーとしている」ことを引用し、警戒感を示している。
中国の脅威認識は、「狼煙が四方で起こり、危機が四方に伏在している」という、まさに四面楚歌であるとの見方に立っている。
新中国は建国以来、最多の国家との戦争に臨んできた国であり、人民解放軍は、東北方面では米国に対する抗米援朝戦争、西南方面では中印国境地域での自衛反撃作戦、北部辺境ではソ連軍侵攻に対する辺境作戦、南部辺境ではベトナムに対する自衛反撃作戦を戦い、四方八方の戦いですべて勝利してきたと誇らしげに述べている。
特に抗米援朝戦争では、世界最強の米軍に対し解放軍は国威と軍威を輝かせたとしている。
四周の危機に対処するための基本戦略として、各方面の脅威度や挑戦は異なるが、必ず全局面を総合し、重点を最優先し、軍事闘争準備は全面的な協調のもとに展開し、戦略を堅持して、全局面の力のバランスと安定を維持するとの方針を示している。
なお、「いつでも局地の争いが衝突に、衝突が戦争に、局地戦争が長期の本格的戦争に発展し得るのであり、その背後には必ず米国が介在している」とし、「実質的にはすべて米国との競争と闘争である」とみている。
この競争と闘争という概念は、米軍の「マルチドメイン作戦」における、競争(competition)から紛争(conflict)へ、紛争から競争へという将来戦様相の見方と符合している。
すなわち、米中共に、将来戦をインド太平洋を中心とする米中間の競争と紛争の反復と連動とみていると言えよう。
米国の同盟国であり中国に隣接した日本としては、競争と紛争の反復、局地戦から長期持久戦、本格戦争への発展と言う米中の戦争観を前提として、安全保障・防衛政策を考えねばならない。
中国の想定する第一の戦場:東北戦場
中国が想定している戦場には、東北、東海(東シナ海)、台海、南海(南シナ海)、西南、西部、香港、海洋航路帯の8つの戦場がある。これらは、この順に列挙されている。
必ずしも重要性に応ずる順とは言えないが、重視正面を示唆しているとみることもできる。
各正面における戦略の中では、第一に東北戦場が挙げられており、その副題として「第2の朝鮮戦争」の防止」が挙げられている。
このことは、中国が、朝鮮半島で米軍が北朝鮮の核・ミサイル保有能力を排除するために軍事行動をとることを恐れていることを示唆している。
東北地区は内陸の要域であり、情勢が錯綜し大国間の地政学的な競争が激しく、紛争に発展し得る課題や領土問題を抱えていること、朝鮮半島正面の情勢が複雑で厳しくなっていることなど、東北正面の戦略的重要性を指摘している。
対応戦略としては、その重要性に鑑みて、「戦略的思想、弁証法の思想、最終目標の思想を堅持し、よく闘い戦えば勝つことにすべての努力を集中し、高度の警戒態勢を維持し、部隊の即時召集態勢を確保し、時が来ればよく闘い、戦えば必ず勝つこと。朝鮮半島での重大な異変に対する準備を最優先し、最も複雑かつ困難な局面に基づいて、各種のありうる危機事態を分析し、軍事行動計画を予め策定して完璧にし、各種の準備工作を進め、いったん有事があれば迅速に対処し、中国の半島での戦略的利益を損なうことなく、国家の安全保障全般の安定を確保しなければならない」としている。
特に各正面の中で、東北正面の朝鮮半島情勢と東北地区の防衛を第一に挙げている点は注目される。海洋正面や中印国境ではなく、朝鮮半島とそれに隣接する東北地区の防衛を中国軍は最重視していると言えるかもしれない。
これは北朝鮮の核・ミサイル開発に関連し、米軍の朝鮮半島に対する軍事的威圧が高まっていることに対する警戒感を反映していると思われる。
第2の戦場: 東海戦場
第二に挙げられているのは、東海正面の戦場であり、「米国は中日間の東海(東シナ海)での戦いを念入りに計画している」との副題を付している。
米国が、日中間での東シナ海での領土をめぐる衝突においては、「日本との防衛条約を適用する」と宣言しているのは、「日中間でひとたび東シナ海での島嶼をめぐる紛争が起きて開戦すれば、米国は日本と共に中国に対して作戦することを意味している」。
「米中戦争において日本は最も緊要な国であり、米国は、日本の軍事力を絶えず向上させ、中国と常に対立関係に持込み、中国が日本領土の空軍基地の米軍を攻撃する可能性が大いにあるようにすることを強調している」とみている。
米中双方にとり、米中対決の場で日本は最も緊要な国であるとみられていることには、注意を要する。
このことは、日本が米中争奪の最大の目標となりうることを意味し、日本自身が自立的な防衛力を持たなければ、戦場になりかねないことを意味している。
米中間にも対立要因がある。
中国は200海里までの専属経済主権を宣言しているが、米国は、領海12海里外は公海であると主張している。
このため、「米中の立場には矛盾があり、米国は公海の争奪をめぐり中国と開戦する理由がある。日本と中国も領土の争奪をめぐり開戦する理由があり、日米はともに中国と開戦する理由がある」と、中国は日米との同時対決がありうるとみている。
さらに、「日本政府は改憲と軍備拡張を進め、その戦略の侵攻性と冒険性を増しており、中日両国は釣魚島(尖閣諸島)をめぐり領土紛争を起こす危険性が常にある。米国は19世紀の世界進出以来、常にアジアを分断し日中を対立させ、東アジアをコントロールしようとしてきた。中国は東海での海洋権益防護の原則を変えることは決してない。米国は中日米の東海での一戦を念入りに画策しており、実際に日米同盟は東海方面における中国の台頭を抑圧している。もしも日米が東海方向に対し軍事的な対中圧力を強めリスクを犯すなら、中国は『東海における海洋主権防衛戦』を戦うことを迫られるであろう」と述べている。
このような中国の一方的な尖閣諸島に対する領域主権の主張とそのための軍事行動の威嚇の背景には、日米安保体制下での日米共同対処に対するおそれも伏在していると思われる。
日本としては、尖閣諸島周辺での堅固な日米安保体制を実力で中国に対して明示するとともに、中国の軍事侵略を抑止するに足る独自の抑止力を維持強化することが、最も求められる。
中国統一戦争の戦場: 台海戦場
台湾近海の台海戦場の副題は「「中国統一戦争」の準備を十分に行わねばならない」というものであり、台湾武力統一準備を怠るなと大号令をかけている。
戦争準備を明確にしているのは各正面の中でも台湾統一戦争のみである。改めて、領土の完全統一が人民解放軍の最大の使命であることを示している。
台海戦場については、台湾独立派の独立意思、中国の武力統一意思、米国の中国統一に武力介入しようとする意志がせめぎあっている、また台湾両岸の競争、太平洋を挟んだ米中間の競争、中国の武力統一戦と米国の干渉戦の競争が交錯しているとみている。
習近平国家主席による、2019年1月2日の『台湾同胞に告げる書』の「平和統一の見通しに最大限の努力をする。しかし、我々は武力の使用を放棄することはなく、あらゆる外部勢力の干渉とごく少数の台湾独立勢力とその分裂活動に対し、あらゆる必要な措置を採るとの選択肢を留保する」との言葉を引用している。
さらに習近平氏は「中国人のことは中国人により決定されねばならない。台湾問題は中国の内政問題であり、中国の核心的利益と中国人民の民族感情に関する問題であり、いかなる外部勢力の干渉も容認しない」と強調し、日米など域外の干渉勢力に対し厳重に警告していると述べている。
また台湾問題について本書は、「我々は和平の理想を持っているが、和平の幻想を持ってはならない」とし、台海戦場では「武力統一」と「決戦決勝」の両者の原則に立つと、武力統一路線を堅持することを明示している。
また、国民党は統一も独立も武力行使も否定しており、「その真意は思想的な独立」にあり、民進党は「台独」の立場を掲げて変えようとせず、米国は「台湾をもって中国を制する」との戦略を変えていないとして、台湾で内乱か外部勢力の介入があれば、「中国統一戦争」を迫られるが、国家統一を実現するとしている。
新時代の台海戦場に対する見方として以下の4点を挙げている。
①台湾の経済規模は今では大陸の20分の1、軍事費は15分の1に過ぎない。我々は自信を持つべきだ。
②武力により初めて台湾の独立派を撃破でき、武力は台湾問題を徹底的に最終解決できる手段である。軍事闘争準備が万全であればあるほど、台湾独立派はあえて一線を越えることはせず、両岸関係の平和的発展がはじめて保障される。和平統一を根本的に保証するのは、武力統一の堅固な決心と強大な武力である。
③台湾問題解決には時間表と路線図がなければならない。台湾独立派や米国はこの時間表を、目を見開いてよく見るべきだ。彼らが、中国が徹底的に台湾問題を解決するのは、この新時代であることを知れば、彼らは焦りかつ恐れて、鍋の上の蟻のようになるだろう。
「世界一流の軍隊の建設」は、2016年2月の軍の重要会議の席上、習近平氏により初めて提出されたが、その後、以下の4つの重大な変化があったとしている。
その変化とは、
(a)西側の国力が低下し新興国の国力が増し、国際的な戦略情勢が大きく変化したこと
(b)数カ国の先進国が世界の重大事を決定する時代は去り、勢力範囲が変わり、国際ルールを決めて国際的な協調と利益配分による統治に変化したこと
(c)世界の地政学的な中心が、米州からアジアに移行したこと
(d)経済、科学技術、軍事等の総合国力の競争において、中国が米国を追い上げ差を縮めていることであるとしている。
要するに、中国の総合国力が増強され米国との格差が縮まり、「強軍夢」を実現する好機が熟しつつあるとの認識を示している。
その結果、「世界一流の軍隊」についても、前述したように、その水準は、「世界で最も強大な軍隊」に格上げされた。
さらに最大のタカ派である習近平氏の「新時代」を迎えたとし、「強軍夢」を実現する時呈として、以下の3段階を明示している。
第1段階: 2020年までの機械化と情報化を基本的に実現する。
第2段階: 2021年から2035年の間に、全面的な軍事理論、軍隊組織形態、軍事人事、武器装備の現代化を達成するとともに、軍の9個体系である、軍事理論、連合指揮、新型軍事管理、現代軍事力、新型軍事訓練、新型軍事人材、国防科学技術の創新、現代軍事政策制度、軍民融合の各体系を構築する。
第3段階: 2035年から2049年の間は、中華民族の偉大な復興と言う中国夢の実現を成功させるときであり、強軍夢を実現させ、世界一流の軍隊を全面的に建設する。
このような時呈が予定通り実現する保障はないが、長期一貫した戦略目標とその実現時呈を具体的に明示している点は過小評価すべきではないであろう。
共産党独裁下では、長期一貫して民生を犠牲にしてでも軍事投資を継続することができるためである。
他方でこのような具体的な覇権拡大の野心の表明は、国際社会の反発と警戒を招くことも間違いない。
④台湾問題は広い視野で深く考えねばならない。台湾に対する軍事闘争では、台海、東海、南海の3つの海を連動させ、統一夢、中国夢、世界夢の3つの夢を一体化し、組織の配置を適切にし、総体として推進することが必要である。
国家統一が実現してはじめて民族復興が実現できる。もしも世界覇権を抑制できず、人類運命共同体構築という世界夢を推進できなければ、覇権国を猖獗させ米国の横暴を許し、台湾問題も解決困難になる。
ゆえに、台湾問題を解決するには必ず米国の覇権的な干渉を抑制し、米国の海上封鎖を突破するため、強大な中国の海上権力と結合させねばならない。
以上が、本書で主張している台湾近海戦場での中国の戦略方針である。
ここには、武力を増強し武力統一の威嚇効果を最大限に発揮して、戦わずして平和裏に台湾併合を、習近平在任間に何としても実現しようとする、意思が顕著に表れている。
その際に最大の障害となるのが、台湾独立派の抵抗と米国と日本の干渉であるとみている。もしも台湾独立派が独立に動くか、米日の介入があれば、中国は武力統一に踏み切るとの意思を明確に述べている。
その狙いは、台湾独立派と日米を抑止することにあり、本当に日米の介入があった場合に武力戦、祖国統一戦争に踏み切るかは、時の軍事力バランスとその他の諸要因を総合的に勘案して、判断されることになるとみられる。
ただし、武力行使に踏み切る可能性は、両岸の戦力格差、日米の介入能力などの要因が中国に有利に展開した場合は、ますます増大することになる。
台湾・先島諸島に対する侵攻様相と日本として採るべき対応策
このような中国の意図と行動を抑止するために、今後は日米が協力して台湾の経済、科学技術力、外交的地位を含めた総合的な国力を向上させるとともに、日米ともに、武器援助、共同訓練、軍事交流、情報・兵站面での相互支援協定など、可能なあらゆる側面での台湾に対する支援強化が必要になる。
日本としては、
①当面は、防空識別圏、漁業海域についての相互調整、戦略対話、軍事情報包括保護協定、物品役務相互提供協定、事故防止協定などの締結
②さらに将来的には、日本版台湾関係法の制定、防空・地対艦ミサイルの射撃域についての相互調整、サイバー・電磁波・宇宙領域での相互協力協定締結、台湾との尖閣諸島領有権問題の最終的な解決
③最終的には台湾との国交正常化、台湾の国家承認を目指すべきであろう。
軍事戦略上の必要性を検討するには、中国の台湾侵攻様相を分析しなければならない。
台湾有事には、人民解放軍は、米軍の台湾支援を阻止妨害するため、台湾への着上陸侵攻に先立ちまず、台湾の南北両翼からの海空軍による包囲と台湾東海岸の封鎖を追求するとみられる。
その際に、南翼からの包囲は、バシー海峡の確保が必要となるが、米軍のグアム、豪州のダーウィン、シンガポール正面の3方向からの攻勢に側面をさらすことになり、リスクが大きい。
また支援する海空基地は海南島以外には乏しく、南シナ海は3正面をベトナム、フィリピン、インドネシアに包囲されている。このように主力をもって南翼から包囲するのは不利点が多い。
それに比べ、台湾北翼、尖閣諸島から宮古、石垣、与那国の先島諸島を経て包囲する経路は、大陸の濃密に地上配備された弾道ミサイル、防空ミサイルの射程、戦闘機の行動半径内にあり、掩護が容易である。
また、東部戦区と上海以北の海空軍基地群の支援が容易で、大陸から距離的にも近く、海空の戦力集中も容易である。
各種ミサイルによる台湾側の基地、重要施設、政経中枢に対する精密攻撃、台湾に対する核兵器使用の恫喝、対米核恫喝のためのICBM(大陸間弾道ミサイル)およびSSBN(潜水艦発射弾道ミサイル)などの活動活発化、米空母および艦艇に対する対艦ミサイル攻撃といった手段で、接近阻止/領域拒否戦略が発動されることになろう。
ただしその発動時期は、台湾攻撃では早く使用されるが、対米攻撃は対米核戦争回避のため、最後の局面まで抑止される可能性が高い。
海空優勢がとれれば、水陸両用作戦により、ホバークラフト、ヘリ、大型強襲揚陸艦などを集中運用し、比較的短期間の準備で台湾西岸に海軍陸戦隊と陸軍水陸両用戦部隊の各波数個師団、3波程度からなる軍団規模の兵力を、1週間以内に分散奇襲上陸をさせることも可能であろう。
また、従来の上陸適地以外の湿地などにもホパークラフトで達着でき、ヘリの輸送力、海軍歩兵と空軍空挺部隊の戦力も向上していることから、従来の着上陸適地以外への奇襲着上陸と、着上陸後の迅速な兵力増強には注意が必要である。
着上陸侵攻に当たっては、一部を東岸にも着上陸させ、努めて全方位から台湾全島を制圧することを目指すとみられる。また着上陸後は台湾の道路網を使い装輪装甲車両等で、ヘリ部隊も併用しながら迅速に台北、高雄などの主要都市を攻撃制圧するとみられる。
それと連携した主要海空基地、都市部等への各種ミサイルの打ち込み、SNSなどを介した流言蜚語、放送局の占拠による偽りの臨時政府樹立宣言、停戦命令などの手段による国民の抵抗意思喪失とパニック化への対処、潜伏工作員による破壊工作、要人暗殺などへの警備と治安維持も重要である。
また、侵攻に先立ち、政治戦、輿論戦、情報戦を活発に行い、台湾側の抗戦意思を弱め、台湾国内に親中派の呼応勢力を育成し、機が熟した段階で軍事侵攻に踏み切るとみられる。
親中派の臨時革命政権成立を偽装し、それを口実に武力侵攻することも考えられる。その際には、台湾国内の親中派の武装蜂起にも同時に対処しなければならない。
また、侵攻に先立ち、あるいはほぼ同時に、大陸側は、全面的なサイバー攻撃、特殊部隊の破壊・攪乱工作、電磁波攻撃、生物・化学兵器戦、宇宙での日米の宇宙資産も含めた衛星等に対する攻撃、機動型極超音速滑空ミサイルなどによる各種ミサイルの集中攻撃など、全面的な多方面、多正面にわたるハード、ソフト両面からの先制奇襲攻撃を行うとみられる。
以上の台湾に対する侵攻様相は、それに先立つか連携して行われる日本の尖閣を含む先島諸島、および沖縄本島に対する侵攻様相にも共通する。
特に、沖縄本島の米軍基地の動向には注意する必要がある。場合により、台湾海空軍が在日米軍基地に緊急避難してくる可能性もあり、また、駐留米軍主力が被害極限のためグアムなどに退避する可能性もある。
現在の米海兵隊の遠征前方基地作戦構想では、第1列島線の離島や近海などに小規模の海兵隊を分散配置し、目標偵察、ミサイル誘導、電子戦、電磁波・サイバー戦、対潜作戦支援、通信中継などに当たらせる計画になっている。
その場合も、沖縄の海兵隊は基地に留まることはないとみられる。在沖縄米空軍部隊も、柔軟かつ機動的な運用のために嘉手納基地を離れグアムなどに分散配備されるとみられる。
日本としては、まず八重山諸島の防衛態勢を堅固にするために、自ら陸海空自衛隊の配備強化、特に射程400キロ以上の長射程地対艦・地対空ミサイル、スタンド・オフ・ミサイルの配備とそのためのISR(情報・警戒監視・偵察)部隊と装備の配備、現地統合司令部の常設、沖縄の日米基地群の防護と警備の強化、特に地下化が必要である。
また、米軍と在沖縄米軍等の緊急時の作戦・再配備計画の調整を行うとともに、台湾側とも、情報の常続的交換、緊急時の台湾軍受入れ支援態勢の調整、ミサイル・戦闘機・潜水艦・水上艦艇・海保などの射界と行動範囲・通信規約・相互連絡調整機構などについて、平時から緊密に調整しておくことが必要である。
できれば、緊急時の作戦計画の相互調整と共同演習の実施が最も望ましい。
また、大陸側のサイバー諜報、サイバー攻撃、電磁波兵器の動向、宇宙での活動などについて、平時から緊密な情報交換を行うべきである。
これらについては平時からの、共同専門家会議と共同訓練の実施、部門別の共同調整メカニズムの常設が望ましい。これらの会議には米国、さらに必要な場合は豪州、インド、ベトナムなどの参加も求めるべきであろう。
まとめ: 重大な日本の責任と急がれる自立防衛態勢
中国側の紹介著書の内容は、軍内強硬派の見解をあえて表明したものであり、脅威とみなしている国内外の勢力に対する威嚇ともとれる内容である。
そのまま受け取ることはできない。また過度におそれ無力感に捕らわれることは、「戦わずして敵の兵に屈する」ことになり、彼らが最も狙っている本書の効果でもあり、最も戒めるべきことである。
しかし半面、単なるブラフとして侮りあるいは無視することも危険である。
中国共産党の独裁体制が維持される限り、「2049年には世界最強の軍隊を建設する」との習近平氏が掲げた「強軍夢」に向けて、中国共産党は長期一貫した国家資源の投資を継続するとみるべきである。
今後も中国の軍事的な脅威は持続し、我々がそれに対抗して軍事的抑止能力と対処力を向上させなければ、力の均衡が破れ、紛争が生起する恐れが高まる。
また戦ったとしても敗北し、あるいは戦わずして政治的に屈し、中国の最終目標達成前に日本も台湾も各個に撃破されていく恐れもある。
これからの10年から30年は、世界制覇の野望を露わにして邁進する中国共産党の軍事的脅威を抑止し制圧するための苦しい戦いが続くであろう。
しかし、勝ち目がないわけではない。中国共産党の脅威に直面している世界の多くの国々、とりわけ米国はじめ、台湾、インド、豪州、東南アジアなどの諸国と連携しつつ、日本自身が自立防衛態勢を高めるならば、十分に勝算はある。
日本は、中国との対峙態勢における前線国家の立場にある。
日本はまた、今世紀半ばになり人口が1億人に減少しても、依然として世界的な経済・科学技術大国の地位を維持し、インド太平洋での米国の最も重要な同盟国であり続けるとみられている。
日本が、インド太平洋地域の安定と繁栄に果たす役割は極めて重要であり、日本の去就が、インド太平洋戦略の成否を決すると言っても過言ではない。
日本の責任は今後とも極めて重大であり、その期待と責任に応え得る自立防衛態勢を確立することは、現在の日本にとり最大の課題と言えよう。
防衛力の増勢には少なくとも十年を要する。残された時間は多くない。
良ければ下にあります
を応援クリックよろしくお願いします。