『南シナ海仲裁判決、中国の「次の一手」に備えよ 「判決無視」を許せば、世界は暴走を止める術を失う』(7/20日経ビジネスオンライン 福島香織)について

オバマの腰の引け方が中国の増長を齎していることに気が付かないでいるので、オバマはやがて米史上最低の大統領の烙印を押されるでしょう。リチャードソン作戦部長が中国に言い返せなかったのはオバマがストップさせたためと思っています。英・チエンバレンは宥和政策を採ってヒットラーの台頭を許し、第二次大戦を引き起こしました。南シナ海は中国原潜の太平洋の出入り口で、8000KmのSLBM搭載の潜水艦がそこを突破できれば米本土が核に狙われることになります。米軍が沖縄に基地を持つ意味もなくなり、トルデシャリス条約の世界分割のように太平洋を2分割が真実味を帯びます。日本は中国の属領にされるでしょう。

福島氏の言うように強制力がなければ、中国は言うことを聞かないでしょう。元々暴力団国家なので。経済制裁、機雷による海上封鎖から実行すべき。今やらないと、世界は取り返しがつかないことになります。

ロシアのソチ五輪の不正が槍玉に挙がっていますが、中国の北京五輪も不正が目についたはずです。女子体操選手の年齢詐称とか。多分中国はIOCに沢山賄賂を配ったからでしょう。国際仲裁裁判所の裁判官にも中国国内では当たり前の賄賂を贈ろうとして逆に心証を悪くしたのではと想像しています。ロシアの場合、亡命者が不正をゲロったのが命取りになりました。米国はパナマ文書の活用をもっと考えた方が良い。

7/20日経 習主席、焦りの心理戦 波立つ海の攻防(1)

 南シナ海のほぼ全域に主権を持つという中国の主張を否定する国際的な仲裁裁判の判決が出た12日夕。中国の国家主席、習近平(63)は北京市中心部にある釣魚台国賓館にいた。海外首脳を迎える迎賓施設で、いつもと変わらぬ濃紺の上着に赤いネクタイを締め、欧州連合(EU)大統領、ドナルド・トゥスク(59)との会談に臨んだ。

Xi Jingping

 「南シナ海の島々は古来より中国の領土だ」。普段通り淡々とした表情だが、語気は時々強くなった。向かいに座るトゥスクが不愉快そうに人さし指をこめかみにあてても、お構いなく続けた。「判決の影響は受けないし、判決に基づくあらゆる行動と主張も受け入れない」。屈辱的な国際司法判断に反撃の口火を切る場となった。

 国営中央テレビは習の発言を夜7時のトップニュースで流したが「EUは裁判所の手続きを信頼する」とのトゥスク発言はカット。会談で隣に座った外相の王毅(62)は習の意を受け、同テレビのカメラの前に立ち、両手を広げて「判決は認めない」と力説した。

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 「画期的な判決」「国際法の尊重を」。勝訴したフィリピンや隣国から判決を歓迎する声が相次いだ。判決後初の大型国際会議となったアジア欧州会議(ASEM)首脳会合では東シナ海で中国と対峙する日本の首相、安倍晋三(61)も判決に基づく解決を主張したが、中国は反論を続ける。

 中国軍には「3戦」という概念がある。自国に有利な情報を発信し国際世論を誘導する「世論戦」と、軍事威嚇などで相手をけん制する「心理戦」、法律で国際社会の支持を得る「法律戦」だ。中国にとって今回の裁判結果は法律戦での致命的な敗北だ。不利な結果になると悟った春先以降、中国は残る世論戦と心理戦に望みをかけている。ただ状況は芳しくない。

 6月13日、中国・雲南省。夕食会に集まった東南アジア諸国連合(ASEAN)各国の外相に、王毅が唐突にA4の1枚紙を配って迫った。「署名してください」

 10項目の中には「南シナ海の紛争は中国とASEANの問題ではない」とあった。仲裁判決前にASEANの連帯を阻止しようという意図を感じた各国外相は「聞いてない」と猛反発。中国への批判声明作りに動き、王毅は火消しに追われた。

 「方位0度に敵艦発見!」「魚雷準備!」「発射!」。魚雷が爆音を立てて水中に飛び込んだ。判決前の7月8日、南シナ海に100隻以上の軍艦を集めて過去最大規模の実弾演習を実施した。「紅軍」が守る海域に「青軍」が侵入したとの状況設定が、米中の衝突を想起させた。

 判決を盾に中国の権益を侵すなら武力行使も辞さないとけん制する心理戦の意図が見えた。ただ、演習海域の領有権を主張するベトナムは猛反発。中立に近い立場だったインドネシアやシンガポールも対中批判へ傾く。

 習が孤立へ焦りを強める中、米大統領のバラク・オバマ(54)は発言を控える。外交筋によるとアジア諸国に「中国を刺激する発言は控えてほしい。我々の目的は地域の安定だ」と伝えている。

 米国が慎重になるのも無理はない。中国軍には「フィリピンが実効支配するセカンド・トーマス礁を奪うべきだ」などの強硬論も渦巻く。刺激しすぎれば軍などの暴発を引き起こしかねない。

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 中国内政への懸念もある。「南シナ海の米国の侵略を知っているか。ここで食べるならお前らは売国奴だ」。17日、河北省の米系ファストフード店の入り口で男が客を追い返した。米系商品の不買運動を呼びかける動きが出始めた。判決でたきつけられた中国民衆の愛国心が指導部への批判にも向かえば、中国国内が不安定化しかねない。

 中国海軍司令官、呉勝利(70)は18日「計画通りに島と岩礁の建設をやり遂げる」と軍事拠点化を続ける方針を明言。中国空軍は同日、南シナ海の要衝スカボロー礁に爆撃機を飛ばした。中国にいかに自制を促し、暴発を抑えるか。国際社会は判決後も難しいかじ取りを迫られる。

 鍵をにぎる習は18日、寧夏回族自治区にある共産党革命の聖地で約1週間ぶりに公の場に姿を現し、こう述べた。「犠牲を恐れぬ革命の精神をもってすれば克服できない困難はない。中華民族の偉大な復興という中国の夢を必ず実現する」

 南シナ海問題を巡る初の国際司法判断で中国の主権主張が否定された。その衝撃と指導者の動きを追った。(敬称略)>(以上)

7/20日経電子版 逆境の習近平氏に助け舟? 南シナ海判決、中国の硬軟両様 編集委員 中沢克二

南シナ海への中国の海洋進出を巡ってフィリピンが提訴した裁判でオランダ・ハーグの仲裁裁判所は、中国が管轄権の根拠とする「九段線」には国際法上の根拠がないとの判決を下した。南沙(英語名スプラトリー)諸島には排他的経済水域(EEZ)が生じる「島」はないという厳しい判断だ。

 予想を超える中国の完敗だった。国家主席、習近平はさぞかし落ち込んでいるに違いない。誰もがそう想像する。そんな中、数日を経て全く違う声が中国内から聞こえてきた。

 「確かに中国の完全な負けだ。それでもこの完敗は内政上、苦しい立場にあった習近平にとって逆に素晴らしい『助け舟』となった」。中国の内政、外交をつぶさに観察している中国人の見方だ。

 一見、信じがたい。とはいえ今回の動きの一側面を言い当てている。中国国内向けには、メディアを通じて対外強硬路線を宣伝し、国民を一つにまとめるのが容易になった。矛先は、評判を落としていた習近平にではなく、ひとまず外国に向いている。

Xi & Juncker

ユンケル欧州委員長と握手する中国の習近平国家主席(12日、北京)=AP

■結果出る前から習主席が前面に

 習近平は強気に出ることで正面突破を図った。12日の判決発表の直前、北京で開かれた欧州連合(EU)との首脳会談で早くも「中国は仲裁判断のいかなる主張も受け入れない」と言い切った。

 結果が出る前にトップが対外的に発言するのは本来、危険だ。例えば1999年、ユーゴスラビアの中国大使館を米軍機が誤爆し、犠牲者が出た際、当時のトップ、江沢民はテレビ画面になかなか登場せず、国家副主席だった胡錦濤がまず前面に立った。世論の推移を見定めてからトップが登場する慎重な手法だった。

 しかし、今回は習近平自身が旗を振らなければ、重大な結果の糊塗(こと)は難しかった。南シナ海でここまで強硬姿勢をとった原因が、習近平の意向なのだから。中国は厳しい判決も予想し、早くからダメージコントロールに入らざるをえなかった。

 外交トップである国務委員の楊潔篪、外相の王毅らもすぐに「法律の衣をまとった政治的茶番劇だ」「判決は紙くず」と声をそろえた。

 同じ頃、共産党中央宣伝部はインターネットを通じて南シナ海の主権を守れという大キャンペーンを展開し始めた。

 中国の一つ(の領土・領海)も欠けてはいけない――。どの中国ニュースサイトを開いても南シナ海の「紅(あか)い舌」を含む派手な中国地図が登場する。習近平の権威の維持が目的だった。ネット上の宣伝を見た国民はコメント欄に「戦争も辞さない覚悟だ」などと勇ましい書き込みをした。

一方、世論が激高しすぎないよう手も打った。12日、北京の大学の党組織は「学生のコントロールを強化するように」との“お触れ”を出した。北京のフィリピン大使館の警備も厳重だった。2012年9月の尖閣問題のように中国各地で大規模デモが発生し、万一、収拾がつかない事態になれば、矛先は習近平自身に向きかねない。

Li Keqiang

ASEM首脳会議の会場に向かう中国の李克強首相(15日、ウランバートル)=共同

 勇ましさの半面、中国政府が裏で対外的に発したメッセージは違っていた。国際的な立場の悪さを認識し、軟化のサインもにじませたのだ。習近平の対EU発言の最後の1行にも表れている。そこでは「平和解決」もうたっているのだ。中国の報道は、「西側」と違い、見出しや冒頭の語句は大事ではない。最も言いたい内容は最後にくる。

 12日、中国政府はこのほかにも手を打った。中国首相の李克強のサイドが、首相の安倍晋三と会談する日程の調整に応じる意向を早々と示した。15、16両日、モンゴルで開催するアジア欧州会議(ASEM)の際である。18日からの新外務次官、杉山晋輔の訪中も受け入れた。日中の首相会談、外務次官協議が続いたことは、中国側の豹変(ひょうへん)といってよい。

■李克強首相の“愛想”

 15日の日中首相会談の形式で中国側は、安倍より後から会談場所にやってきた李克強が先に部屋に入り、安倍を迎えたという演出をするなど、相変わらず体面にこだわった。しかし、李克強は取材する日本の記者団らに“愛想”も振りまいた。

 「日中関係改善の勢いを維持できるのか、注目が集まっている。あの記者たちの姿にも注目が集まっている」。普段より冗舌だ。外交・安全保障問題を直接、担当していない李克強の番外発言としては異例である。上機嫌といってもよい。

Abe & Li

会談を前に握手する安倍首相と李首相(右)=15日、ウランバートル(代表撮影・共同)

 実際の会談では激しいやり取りもあったはずだが、双方とも表に出すのは避けた。それは、日本での開催を調整する閣僚級の日中ハイレベル経済対話、日中韓首脳会談、そして中国・杭州での20カ国・地域(G20)首脳会議での日中会談をにらんでいる。

 習近平が、いきなり対外融和の明確なサインを出すのは唐突だ。しかしナンバー2の李克強にならできる。その役割を忠実に果たした。

 とはいえ、李克強は会談に先立つ安倍との握手の際は表情を崩さなかった。北京で開かれた14年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際と同じだ。3年ぶりの日中首脳会談で習近平は安倍との握手で厳しい表情を保った。中国国民がテレビ画面で注視する以上、李克強もカメラの前でにやけるわけにはいかなかった。

 中国は一筋縄でいかない。なおも日本攻撃は続いた。中国国営メディアは、判事に当たる仲裁人を任命した国際海洋法裁判所長(当時)の柳井俊二と安倍の関係に焦点を当てた。国営テレビは、柳井が座長を務めた有識者懇談会が集団的自衛権の行使容認を巡る報告書を提出した経緯を紹介。「仲裁裁判所は日本の『右翼』が独断で組織し、公平性を欠く」とまで断じた。

八つ当たりである。中国自身が裁判を拒み、裁判官の人選に関わるのも避けたため、規則に従って時の所長が手続きを進めただけだ。だが、国際的には通用しない論理をあえて持ち出したのは、中国国内向けでもある。余りにドラスチックな判決だったため「中国政府は何をやっていたんだ」という批判が起きないための予防線だ。

 ASEM議長声明で中国は南シナ海問題の明記の阻止に成功した。それでも「国連海洋法条約に従った紛争解決」との表現は盛り込まれた。1年前の表現をほぼ踏襲したとはいえ、判決が下った後の意味は違う。中国への一定の圧力にはなった。

Hague court

 週明けも動きがあった。中国軍は、米海軍作戦部長のリチャードソンを北京に招き、その後、北海艦隊と潜水艦学院、空母「遼寧」などの参観にも応じた。リチャードソンと18日に会談した中国海軍司令官の呉勝利は3点を強調した。

 (1)中国海軍はいかなる軍事挑発も恐れない

 (2)計画通り島礁の建設をやり遂げる

 (3)前線の軍行動を統制し、戦略的に誤った判断を下すのを避け、南シナ海の平和と安定を守る

 硬軟両様である。軍の責任者が「島」の建設続行を明言したのは大きい。一方で重要なのは、最後の「誤った判断をしない」との発言だ。空母「遼寧」の視察容認と合わせれば、米国との衝突は避けたいとのメッセージになる。当然、中央軍事委員会主席である習近平の明確な指示があったはずだ。

■責任を取るのは誰か

 表は強硬、裏では秋波――。中国のしたたかさがみえる。しかし習近平主導の動きは、ひとまず内を固める効果があったとしても、その後の展望はみえない。南シナ海での完敗は明らかだ。今後の中国に不利な情勢が続いた場合、最後に誰かが責任をとるのは世の常である。それが誰になるのか。

 8月には、長老らと現指導部が意見交換する恒例の「北戴河会議」がある。対外的には「一枚岩」を強調する共産党の伝統がある以上、表向き南シナ海問題が権力闘争の材料になることはない。ただし、南シナ海問題を柱とする外交・安全保障問題への評価は、来年の党大会人事に必ず影響する。(敬称略)>(以上))

7/19日経 中国、南シナ海の施設建設を継続 米中海軍トップが会談

【北京=山田周平】中国海軍の呉勝利司令官は18日、米海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長と北京で会談した。呉氏は仲裁裁判所が中国の主張を退けた南シナ海情勢に関し、「計画通りに島と岩礁での建設をやり 遂げる」と述べ、軍事施設の建設を続ける意向を示した。中国海軍が19日 から3日間、南シナ海で再び軍事演習を行うことも分かった。

国営新華社によると、呉氏は南シナ海は「中国の核心的利益であり、我々が譲歩することは期待しない方がいい」と主張した。「いかなる軍事挑発 も恐れない」と述べる一方、米中海軍の「協力が唯一の正しい選択だ」と柔軟な考えも示した。

リチャードソン氏は米中海軍の相互信頼を高める努力をしていくと応じたという。同氏は20日までの中国滞在中、北海艦隊の拠点がある青島を訪れ、空母「遼寧」などの艦艇を視察する。

一方、中国海事局は18日、海軍が軍事演習を行うため、南シナ海の海南島東岸海域で19~21日、船舶の進入を禁じると発表した。演習の内容は不明だ。新華社によると、海軍は仲裁裁判の判決前の8日、西沙(英語名パラ セル)諸島付近で実弾演習を行ったばかり。

さらに、中国空軍は18日、フィリピンと領有権を争うスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近の空域に最近、爆撃機などを派遣し、パトロールを行ったと発表した。今後はこれを日常化するという。中国は仲裁裁判で自国に不利な判決が出たことを受け、南シナ海の軍事化を逆に加速している。>(以上)

7/17レコードチャイナ <南シナ海>中国支持のカンボジアに6億ドルプレゼント、中国国民には知らされず―仏メディア

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16日、RFI中国語版サイトは記事「李克強首相、フンセン首相と会談し6億ドル援助を約束=南シナ海での支持に感謝か、中国メディアは報道せず」を掲載した。フンセン首相は当事国同士の対話で解決するべきと発言し、中国に理解を示した。

2016年7月16日、RFI中国語版サイトは記事「李克強首相、フンセン首相と会談し6億ドル援助を約束=南シナ海での支持に感謝か、中国メディアは報道せず」を掲載した。

アジア欧州会議(ASEM)のため、モンゴル・ウランバートル市を訪問した中国の李克強(リー・カーチアン)首相とカンボジアのフンセン首相は15日に首脳会談を行った。フンセン首相は、南シナ海問題は当事国同士の対話によって解決するべきだと発言。国際仲裁裁判所の判決を暗に批判した。

カンボジア華字紙・華商伝媒によると、カンボジアの支持表明に中国側は6億ドル(約629億円)もの援助で「返礼」したという。ただし中国国営通信社の新華社は首脳会談については報じたが、資金援助については取り上げていない。(翻訳・編集/増田聡太郎)>(以上)

記事

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南シナ海の中国の領有権主張は7月12日に出されたオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所の判決により、完全に否定されることになった。中国が主張する九段線(南シナ海を牛の舌の形に囲む九本の破線、1953年に中国が制定した。清朝時代に南海と呼ばれた海域を中華民国が十一本の破線で囲んで領有を主張した十一段線を書き直したもの)は歴史的根拠がないと完全否定された。中国がフィリピンと領有を争うスカボロー礁などに勝手に建造物を建て、軍事拠点化しようとしていることは、国際法と照らし合わせ完全な違法行為、ということになる。中国は判決が出る前から、従う気はさらさらないと公言していたが、ならば、次にどういう態度に出てくるか、非常に気になるところである。今回のコラムは、中国の次なる動きについて考えてみたい。

予想通りの全面敗訴と完全無視

 ハーグ仲裁判決の内容を整理してみよう。

 これは2012年4月、フィリピンと中国がともに領有を主張するスカボロー礁付近において、フィリピン海軍が違法操業中の中国漁船を拿捕したのをきかっけに、中国監視船とフィリピン漁船が1カ月に及びにらみ合うという対立緊張がおきた、いわゆる「スカボロー礁事件」の解決策として、フィリピン側が国際海洋法裁判所の仲裁を仰ぐ提案をしたのが始まり。フィリピン側は仲裁裁判所に任せることを理由に軍を引いたが、中国側はそのまま居残りスカボロー礁を埋め立て、軍事施設の建設を進めるなど実効支配に出た。

 当時はアキノ政権であり、中国側に強く抗議を行うも止められず、2013年1月に、中国側の行為の違法性を問うため、正式に提訴をした。中国側はこの提訴に反発、提訴を取り下げるよう求める一方で、完全に裁判を無視。公聴会にも出席しなかった。そして3回の会議を経て今年7月12日夕に判決が発表された。

 主な内容は、①中国が主張する九段線内の資源についての“歴史的権利”の主張は法的根拠がなく国連海洋法に違反している。②中国側が礼楽灘で資源採集しているのはフィリピンに対する主権侵害であり、中国側は南沙諸島のサンゴ礁生態系に回復不可能なほどに損害を与えている。③中国側漁民の南シナ海における大規模なウミガメ漁、サンゴ漁はサンゴ礁生態系を破壊しており、これを停止させないのは中国側の責任である。④中国台湾当局が実効支配している太平島を含め、南沙諸島の島々は岩礁であり島ではない。したがって、EEZ(排他的経済水域)も派生しない。⑤天然の美済礁、仁愛礁、渚碧礁はすべて満潮時には水面下に隠れ領海も、EEZも、大陸棚も派生しない。中国の人工島建設はすでにフィリピンの主権権利を侵犯している。

 つまり中国側の全面敗訴だ。予想されていた結果で中国側も判決が出る前から判決の無効を主張してはいたが、いざ「国際社会の常識」が中国の行為を違法と決めつけるとなると、習近平政権のメンツはいたく傷つけられたことだろう。

中国の王毅外相はこの判決に対して次のように言い放った。

 「この判決は受け入れられないし認めない。最初から終わりまで法律の衣をきた茶番であり、明らかに政治的背景と瑕疵がある。海洋法公約と国際法治を公然と破壊するものであり、この本質は徹底的に暴露されるべきである。…

 フィリピン前政権は一部外国勢力に操られて当事者の同意を経ずに、双方の二国間協議による解決の機会を放棄した。その目的は、中国フィリピン間の争議の妥当な解決などではなく、中国の領土主権と海洋権益の侵害であり、南シナ海の平和と安定の破壊である。…

 すでに多くの国際社会の知識層、法律界の人たちはこの判決に懸念と疑いを表明している。約60か国が中国の立場や主張を支持している。これら正義の声に国際社会は耳を傾けるべきだ。…

 中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は堅実な歴史と法律を根拠としており、仲裁裁判所の判決の影響は受けない。…

 いかなる勢力がいかなる方式で中国の領土主権と海洋権益を否定しようともそれは徒労に終わるだろう。…

 中国は引き続き話し合いで争議を解決し、地域の平和と安定を維持するつもりである。国際秩序の建設者であり平和の庇護者として、中国は国際法にもとづき、当事者同士の話し合いで問題を平和的に解決する。また各国の航行・飛行の自由も法に基づいて維持する。

 仲裁案の悪意ある扇動によって政治を操ることは、南シナ海問題をさらに緊張と対立の危険領域に巻き込むことになるだろう。これは地域の平和安定維持に完全に不利であり、中国フィリピン両国、地域国家と国際社会全体の共同利益に合致しない。この茶番はもう終わった。正しい道に戻るときだ」

中国こそ国際秩序の建設者

 最近、ヒステリー気味の王毅にしてみれば、比較的抑えた言葉遣いだが、この談話ににじむのは、中国こそ国際秩序の建設者である、という主張であり、今回の判決は一部外国勢力(具体的には日米)の陰謀であり、国際社会の総意ではないという立場である。確かに国の数からいえば、仲裁案が出た直後に支持を表明しているのは日米など43か国、不支持、二国間の協議で解決すべし、という意見の表明はロシア、パキスタンなど58か国。ちなみに韓国は立場を表明していない。

 太平島を島ではなく岩礁だと一蹴された台湾も、判決不支持の声明を出しているが、これは台湾にしてみれば、中国台湾当局と不本意な名で呼ばれたうえ公聴会にも呼ばれておらず、とばっちりを食ったとしか言えない。それでも、台湾は二国間協議ではなく多国間協議、国際社会での話し合いで解決をと呼びかけている。

余談だが、日本の鳩山由紀夫元首相は16日に北京・清華大学で行われた「平和国際フォーラム」席上で「中国やフィリピンに圧力をかけて仲裁判断を受け入れるよう促すべきではない」と発言し、仲裁裁判所の判決に対し不支持の態度を示している。

 この席で鳩山は「東アジア和平理事会」の創立を提言し、南シナ海については「米国の関与が深い」「米国がいつも仮想敵国を作り出し、国家を動員して軍事と産業の結合を進める策略をしばしば使い、日本もこうした策略を使っている」「中国が釣魚島の主権を主張することはなんら問題ない。メディアが中国脅威論をあおっている」「中国は軍の兵力30万人の削減を宣言したことは平和に向かう善意の現れ」などとかなり中国に向かってリップサービスしたようだ。もちろん、これは中国読者向けの中国メディアの記事なので、その発言は加工されている可能性はあるのだが、ひょっとすると今年の孔子平和賞受賞を狙っているのかもしれない。

 つまり中国側は、南シナ海判決については、世界60か国近くが中国側を支持し、日本の平和主義的元首相も判決がアンフェアだと見ていることなどを根拠に、正義は中国にあり、国際常識・国際秩序のルールメーカーは中国であるとの立場を国内で喧伝しているわけである。これは従来の国連主導、米国主導の国際秩序、国際常識に対するある種の“宣戦布告”ともいえる。

習近平は軍事施設の年内完成を厳命

 これは、いくつかの非常に恐ろしいことが現実味を帯びてきたことを示しているといえる。

 すぐさま戦争が起きる、とは私は考えていない。なぜなら提訴した当事者のフィリピンの新しい大統領は判決を歓迎するも、かねてから「絶対戦争はしない」と言明しているからだ。現在の大統領のロドリゴ・ドゥテルテは大学でフィリピン共産党の指導者シソンに師事した左派だ。新内閣にもフィリピン共産党から4人の閣僚を起用。フィリピン共産党に中国系資金が入っていることは結構知られた話であり、親中色の濃い内閣といえよう。ドゥテルテ自身は判決が出る前から「事態が動かないならの二国間協議で解決」ということを言っており、中国側は経済支援を申し出る代わりに判決を棚上げし、南シナ海の共同開発という形に懐柔していく方針に自信をもっている。ドゥテルテ政権は、とりあえず中国の一方的な条件付き対話は拒否し、より良い条件を引き出そうとしているが、対話で解決する方針は維持している。

 年内にスカボロー礁の軍事施設を完成させることは習近平自身の厳命であると香港消息筋から流れている。「出て行ってください」と口頭で言っても中国が素直に聞く耳をもつわけがない。中国に完全撤退させるには、相応の強制力が必要で、それは経済制裁か軍事制裁ということになるが、中国にそういう圧力をかけることができる国が世界にいったいどのくらいあるのか。

 仮に当事国のフィリピンが、判決を棚上げにし、二国間協議で問題を解決すると言えば、米国が積極的に介入できるだろうか。せいぜい“航行の自由”を行使するぐらいで、南沙諸島の中国の実効支配、軍事拠点化を阻止することはできないだろう。フィリピンの交渉力に期待はできない。「戦争する気まんまん」の中国と「戦争は絶対しない」と公言するフィリピンの話し合いは中国有利に決着すると考えるのが妥当だろう。

「戦争モード」に怖気づけば、新たな危機

 中国は口では「平和の庇護者」を名乗り「平和的話し合いで争議を解決」というものの、これは棍棒を片手にした話し合いだ。判決が出る前日まで南シナ海で南海・東海・南海の三艦隊合同の大規模実弾演習を行い、そのビデオ映像をネットやテレビで繰り返し流すなどして絶賛「戦意高揚」プロパガンダ中である。地方では反米抗議デモが若干起きている。海外華僑も各地で抗議活動を行っており、ハーグの仲裁裁判所前でもオランダの華僑・華人組織が、判決無効の垂れ幕を掲げて抗議集会を行った。中国のネット掲示板では「もし南シナ海で戦争が始まったら兵士に志願するか?」というテーマの投稿がいくつかあり、多くの若者が「戦う」と書き込んでいる。それが本音かは別として、そう書き込んでしまうような空気があるのだろう。

 一方で、解放軍では退役軍人・民兵に戦争に備えて元の部隊に戻って海軍演習に参加するよう通達が出されており、中国側は着々と臨戦態勢を整え始めている。中国体制派メディア・フェニックスは判決への抵抗手法として、外交世論闘争を盛り上げ、南シナ海大規模演習を行い、スカボロー礁建設加速とフィリピン漁民の締め出し、防空識別圏を制定しつつ、フィリピンを経済的に懐柔すべしと解説。勇ましい人民日報系環球時報は判決が出る前から「米国が機会に乗じて挑発することがあれば、必ず反撃する」「挑発にはがまんしない」としている。

 こういう中国の「戦争やる気モード」を前に怖気づいて、国際社会の総意として出した仲裁案を棚上げして中国と話し合いによって、中国の思惑通りの結果になったとする。これは、当面の南シナ海での軍事的衝突、軍事的緊張をうまく回避できたという点で、ひょっとするとほっと胸をなでおろす人もいるかもしれない。だが、この結末はより大きな危機の始まりともいえるのだ。

 こうなった場合、早晩、南シナ海の島々に解放軍のレーダーやミサイルが配備され、南シナ海の中国軍事拠点化が完成する。南シナ海は中国海南島にある戦略核ミサイル原潜の基地の接続水域であり、南シナ海の島々の中国の軍事拠点が完成されることで、この海域は中国原潜のサンクチュアリとなり、米国の影響力を第二列島線の向こうまで後退させるという戦略目標への実現の一歩となる。

次は東シナ海、国際秩序の正念場だ

 南シナ海は東シナ海とつながって第一列島線の内側を形成するので、南シナ海の軍事拠点化が完成すれば次は東シナ海が狙われる。尖閣諸島をめぐって日中の軍事的対立、緊張が今以上に高まることになるわけだ。習近平政権は今現在まだ解放軍の軍権を完全に掌握していないと言われているが、もしフィリピンとの外交成果として南シナ海軍事拠点化が完成すれば、解放軍の習近平に対する忠誠や信頼は強まるかもしれない。中国は将来的に米国の2倍にあたる潜水艦保有を計画しており、海軍力が高まった中国との対峙は、今とは比べ物にならないほどの脅威となるだろう。

 もう一つは、「国際社会」の権威の失墜が明らかになる。国連という枠組みの国際社会の秩序の中で法律に基づいて決めたことが、強大な軍事力と経済力を持てば無視できることを中国がその行動で示すことになる。かつてそれをやったのは、ルールメーカー自身であった米国だけだった。国際イメージを損なう、国際社会で孤立する、と常識のある国にはできない選択を13億の人口と世界第二位の経済規模をもつ中国はやってしまい、国際社会は中国を制裁できないどころか、アンチ米国のロシアやアフリカや東南アジアの小国60か国が中国支持に回る。こうなっては国際秩序や国際ルールって何なのだ、という話になる。現在の国際ルールは、すでに無力化し、強大な軍事力と経済力を持つ国が粗暴な恫喝と懐柔で、新たなルールメーカーになろうとしている。南シナ海における今の中国の動きは、そういう意味もあるのだと想像する。

 そう考えれば、仲裁裁判所の判決が中国の主張を退けてよかった、と安心するのは早い。中国が判決に従わざるを得ないように、経済力、軍事力を備えた外交力を駆使してプレッシャーを与えていかねばならないこれからが、正念場といえよう。

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