『金融街シティでは失業者10万人超えも EU離脱が示唆する3つの懸念』(6/29日経ビジネスオンライン  倉都康行)、『「英国EU離脱はロシアを利する」は本当か? プーチン政権、対EU政策の舵取りに伴う大きなリスク』(6/30日経ビジネスオンライン 池田元博 )について

7/1日経によればボリス・ジョンソンは次期首相選に出ないとのこと。離脱派のゴーブが名乗りを上げたからと言っても、あれだけ離脱を煽って無責任の感じがしますが。

7/1宮崎正弘氏のメルマガには「英国に進出している日本の自動車メーカーは、EUの自動車関税10%がかかっても、£安になりユーロ:£=1:1(今の£のレートは83ペンス。7/1日経)まで下がれば同じ効果が得られる」と解説していました。

7/1大前研一氏のメルマガには

<国民投票の結果を受けて、今後、どのような展開がありえるのか?

まず、大前提として国民投票には何ら「法的拘束力」はありません。今回、EUからの離脱が過半数を超えましたが、議会で否決されれば残留することになります。もちろん、その場合にはキャメロン首相は嘘つき呼ばわりされ、英国国内はぐちゃぐちゃになると思います。

すでに再投票を求める署名が200万、300万を超えたと報じられていますが、これも非常に難しいところです。もしこれで再投票をするとなったら、今後誰も英国を相手にしてくれない状況になるでしょう。

今後の展開は予測が非常に難しいですが、私は「グレートブリテン」の崩壊という危険性を感じます。

スコットランドが独立投票をしたとき、彼らの思惑は独立後に今のアイルランドのようにEUに加盟することでした。ところが、スコットランドの場合にはEUに属しているイングランドが反対すると加盟できないため、これが抑止力として働きました。

しかし今後、イングランドがEUに属さないとなると、スコットランドに対する同様の抑えは効かなくなります。スコットランドが再び独立に向けて動き出す可能性は高いと思います。

そうなれば、ウェールズ、北アイルランドでも独立運動が始まるかも知れません。ウェールズにしても征服された歴史を考えれば、独立したいと考えているでしょう。北アイルランドも、十数年前に和平交渉が成立して今では平和ですが、過去には長い間の争いと混乱がありました。ウェールズ同様に、独立の気運が高まる可能性は大いにあると思います。

また忘れてはいけないのが、「ロンドン」です。離脱派が多かったイングランドにおいて、ロンドンはEUへの残留を支持しました。EUから離脱するとなると、金融センターのポジションをフランクフルトに奪われることは間違いありません。何とかその立場を死守したいはずです。

EUには、ルクセンブルクといった小さい国もあります。今、加盟に向けて動いているクロアチアやコソボと比べても、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドは遜色ありません。

英国の状況変化だけでなく、EU内でもさらに動きがあるかも知れません。EU離脱をほのめかしているデンマークやハンガリーの動きを助長する可能性です。ハンガリーはともかく、経済的に豊かなデンマークの離脱はEUとしても無視できない影響があるでしょう。EU内におけるドイツの負担がさらに増すことは間違いありません。メルケル首相が怒り心頭になるのも頷けます。

各国の心理を考えると、可能性がありすぎてどこに落ち着くのか、予測不能です。

兎にも角にも現時点で言えば、英国は「やる必要もない国民投票」をやってしまったために、「進むも地獄、戻るも地獄」という非常に難しい立場にあります。

このままEUを離脱するにしても、議会でひっくり返すにしても、再投票するにしても、いばらの道しか残されていないと思います。>(以上)

とあり、今後の予測は難しいです。

しかし、メデイアは世の東西を問わず、反EU、反移民を掲げる政党を極右呼ばわりして印象操作しています。ナショナリズムVSグローバリズム(国際金融資本≒ユダヤ金融資本)の争いなだけです。メデイアも金の力に弱いというところでしょう。東京都知事選に在特会元会長の桜井誠氏が立候補します。自民党が成立させた在日朝鮮人のための「ヘイトスピーチ法」のおかしさや、パチンコ、生活保護受給資格などを訴えています。メデイアは無視を決め込むかもしれませんが、街頭演説で訴えることができます。供託金没収がないくらいの票が集まれば、彼の立候補も効果があったと判定できます。

これからは長くなりますので記事の紹介だけです。

6/30日経<Brexitの衝撃(3)「次は我々の番だ」 

 「英国、欧州連合(EU)から離脱へ」。24日早朝、英メディアが国民投票の大勢判明を速報すると、オランダの極右・自由党の党首ヘルト・ウィルダース(52)はすかさずツイッターに書き込んだ。「次はオランダの番だ」。ブリュッセルとロンドンのエリートだけが得をする欧州統合に英国民は「ノー」を突きつけた。そうウィルダースは解釈してみせる。「そんなEUに未来はない」

Donald Tusk & Jean Juncker

「反EU」機運の拡大がEUを揺さぶる(28日、トゥスクEU大統領(右)とユンケル欧州委員長)=AP

 翌25日、パリのエリゼ宮(大統領府)では、極右・国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン(47)と仏大統領のフランソワ・オランド(61)が向き合っていた。

 「我々も国民にEUに残りたいかどうか問わねばならない」。与野党の緊急党首会談に臨んだルペンは、こう切り出した。背筋を伸ばし、硬い表情のオランドは首を縦にふらなかったが、ルペンの表情は余裕に満ちあふれていた。会談後、大統領府の中庭で上機嫌で記者団の取材に応じ、「議会でオランド氏の公約をしっかり検証してもらいたい」。鬱積する政府への不満で現政権の支持率は超低空飛行が続く。その裏返しでルペンらには追い風が吹いている。

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 2017年は3月にオランダ議会選、5月にはフランス大統領選が控える。世論調査では両国とも極右が支持を伸ばしている。ナショナリズムに訴え、反EUを掲げて支持を広げてきた極右。英国のEU離脱は、自らの主張が極論ではなく現実的な選択肢だと主張する格好の材料となる。

 欧米メディアや市場関係者の間では「ブレグジット(英国のEU離脱)」に続く「ネクジット(オランダ=ネザーランドの離脱)」や「フレクジット(フランスの離脱)」のドミノ連鎖がささやかれる。

 EUが抱える病は一国主義への回帰を唱える極右だけはない。金融危機後の緊縮財政への反動から生まれた急進左派勢力の台頭も、結束と安定を脅かす。

 総選挙から一夜明けた27日、スペイン首相のマリアーノ・ラホイ(61)はラジオ番組に出演し、こわばった声で「今度こそ、何としても過半数を持つ政権をつくらなければならない」と他党に妥協を訴えた。前夜、マドリード市内で支持者を前に華々しく勝利宣言した喜びは消えていた。

 スペインは昨年12月の総選挙で与党・国民党が過半数を割り、その後半年かけても連立交渉が実らず、政治空白が続いた。今回こそ政治危機に終止符を打つはずだったが、民意は安定を選ばず、国民党は再び過半数を取れなかった。

 既存政党への不満の受け皿として14年に結党した新興政党ポデモスは、わずか2年で長年の二大政党制を打ち破った。26日夜、党首のパブロ・イグレシアス(37)は「結果には満足していない」としながらも、「スペインの将来にはポデモスは必要だ」と大衆の支持の強さに自負をみせた。

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 英国のEU離脱決定直後の25日朝、ギリシャ首相のアレクシス・チプラス(41)は仏大統領のオランドと電話で話し込んでいた。「もっと社会福祉を充実した政策が必要だ」。両者はそんな内容で合意したという。

 反緊縮財政を掲げて首相に駆け上ったチプラスは1年前の7月、金融支援と引き換えに追加緊縮策をのまされた。ドイツを中心とする北部欧州に支配されたEUの横暴は、民衆の不満を高めるだけだ――。その思いは消えず、締め付けをはねのける機をうかがう。

 欧州解体論を振りかざして支持を広げようとする極右。過去の放漫財政のツケを直視せず、EUの財政規律や政策協調を脅かす急進左派。2つの対極にある政治思想が、EUをゆさぶる。

 28日、ブリュッセルで開かれたEU首脳会議。EU本部には、徹夜協議を繰り広げた1年前のギリシャ危機時のような切迫感はなかった。英国との離脱交渉入りを9月以降に先送りすることを承認し、協議は日付が変わる前にあっさり終わった。記者会見場に現れたEU大統領のドナルド・トゥスク(59)は「議場は落ち着いた雰囲気だった」と淡々と語った。

 交渉の遅れは先行き不透明感として政治や経済、金融市場の安定をむしばみ、「反EU」機運の拡大にもつながりかねない。だが、離脱交渉開始の権限を英国が握る以上、EUはそれを待つしかない。半世紀にわたる欧州統合の歴史上、最大の危機を迎えたEUは、未曽有の事態を前に立ちすくんでいる。(敬称略)>(以上)

6/30日経<英EU離脱交渉 膠着へ  新首相候補 時期や方針、不透明 与党党首選、受け付け開始へ 

 【ロンドン=黄田和宏】英国の欧州連合(EU)からの離脱をめぐる状況はしばらく膠着する見通しだ。EUは28日の首脳会議で、離脱交渉を9月以降に先送りすることを容認した。英政治は29日から与党・保守党の新しい党首(首相)を選ぶ選挙戦に入る。英国がいつどんな方針で交渉を始めるかは、9月9日までに選出される新党首に委ねられる。(1面参照)

summit of EU

 保守党は29日、キャメロン首相の後継者を選ぶ党首選の立候補を受け付け始め、30日に締め切る。キャメロン氏はEUとの離脱交渉を後任に委ねる考えを示している。

 党首選で本命視されるのは、離脱派リーダー格だったジョンソン前ロンドン市長と、残留派などの支持を集めるメイ内相による対決の構図だ。

 保守党員向けの情報サイト「コンサバティブ・ホーム」が28日公表した調査では、次期首相候補としてメイ氏が29%、ジョンソン氏が28%の支持を集め、接戦が予想されている。立候補者は3人以上になる見通し。党所属の下院議員330人による投票で候補を2人に絞り込んだうえで、保守党員の決選投票に進む。

 党首選で大きな争点になりそうなのが、EU離脱に賛成した民意をどう受け止めるかだ。両氏とも国民投票の結果が出てからは、公の場で発言を控えており、考えを表明していない。

 党内からは「単一市場へのアクセスを維持するのかが最大の焦点だ」(ジャビド民間企業・技術革新・技能相)との声も上がる。両氏ともEU離脱の対処方針を含めた公約を出馬時に表明するとみられている。

 英メディアによれば、ジョンソン氏はEU離脱を公約に掲げた総選挙には消極的とされる。だが、野党・労働党が内紛状態にあるだけに、総選挙でEUとの離脱交渉の是非を問う可能性も取り沙汰される。メイ氏は国民投票で争点となった移民問題では強硬派として知られ、移民の制限で厳しい姿勢を貫く可能性もある。移民の制限などでEUの譲歩を引き出せれば、国民投票を再び実施する選択肢も残る。

 英国とEUとの離脱交渉が始まるのは、早くても新党首が選出される9月上旬以降になる。ボールは新党首が握る。EUの基本条約であるリスボン条約50条によれば、英国が欧州理事会に離脱の意思を通告しなければ交渉は始まらない。

 EUは一部で浮上した事前交渉に応じない。9月に首脳会議を再び招集し、英国の出方を待つ。だが、それまでに英国がEUに通告する準備が整うかは見通せない。>(以上)

 

倉都記事

City in London

EU離脱でロンドンの金融街、シティに開く穴はどれほどになるなのか (写真=ロイター/アフロ)

 先週木曜日の国民投票で、英国はEUからの離脱を選択した。1973年のEC(当時)加盟から40年余り続いた政治経済構造の変化が意味するものは小さくない。為替市場や株式市場の大揺れは、まるで欧州史の大転換に対する弔いの鐘のようだ。

 だが、恐らくそれは欧州にとどまらず、日本を含めた現代世界史の断層を示すものとして、後世に語り継がれることになるだろう。この事件はそれほどの重みをもつものである。英国が意識したかどうかは知らないが、彼らは21世紀のパンドラの箱を開けてしまったのだ。

 もともと英国が、ブラッセルの役人に箸の上げ下ろしを命じられることに強い反感を抱いてきたことはよく知られている。ユーロにも参加せず、EU内の政治経済面ではしばしばドイツやフランスなどと対立を繰り返してきた。

 だがその一方で、共同体の一員であることの利点も熟知し、過去半世紀近くの間、その枠組みの中で巧みに特異な地位を維持してきたのが英国であった。だが先週、移民問題への苛立ちが充満する中で、ユートピアニズムと官僚主義に陥った現状のEUに深く失望した英国は、なんとEUからの離脱を決めてしまった。

 今後英国は、スコットランド独立や北アイルランド分離への動き、EUとの刺々しい離脱交渉、外国企業の英国離れ、経済成長率の急低下、資本コストの急上昇といった様々な逆風に見舞われることになるだろう。世界各国の市場不安も簡単には収まらないと思われる。

 こうした点に関しては既に多くの評論がメディアに溢れているので、屋上屋を架すことは避けよう。やや重なるところはあるかもしれないが、今回は金融面を中心にして①シティの将来像、②ユーロの脆弱性、そして③2008年金融危機からの連続性、といった三点に絞って論点を整理しておきたい。

免れ得ないシティの存在感低下

 今後英国がEUとどのような離脱交渉を行うのかは不明だが、長らく国際金融センターとして機能してきたロンドンに変化が生じることは不可避だろう。筆者が約9年間勤務してきた金融街シティを擁するロンドンは、言うまでもなくニューヨークと肩を並べる存在であり、為替や国際的債券、派生商品などの金融取引規模では世界一の市場と言ってもよい。そうした機能がいきなり消滅することは有り得ないが、それでも存在感の低下は免れ得ない。

 英国金融の調査機関である「TheCityUK」の資料に拠れば、現在ロンドンに進出している外国銀行の数は約250行で、彼らのビジネスを支える外国系法律事務所は約200社を数える。2014年時点で金利スワップなどデリバティブズ業務の全世界に占めるシェアは約50%、外国為替取引は約40%、海上保険は約30%、国際的な銀行融資とヘッジファンド運用の残高がともに約18%という、巨大な金融センターである。

 金融関連の雇用者数は、会計士や弁護士などを含めると約220万人の規模であり、金融ビジネスの経済的貢献度はGDP比12%と見積もられている。そこから納められる税金は、歳入の約11%を占める、という。

 こうしたビジネスの一部が大陸諸国に奪われ、失業者が発生することは避けられない。PwCは失職者の数を最大10万人程度と推測しているが、それはやや甘い計算かもしれない。海外の大手金融機関が欧州本拠地を大陸に移す動きが顕著になれば、予想を超える数の職が、パリやフランクフルトに流れる可能性がある。

「単一パスポート」消失と大手金融機関の移転

 交渉次第ではあるが、EEA(欧州経済領域)に参加してEUとの一定の接点を維持するノルウェーのような方式を採らない限り、ロンドンの金融界が活用してきたEUの「単一パスポート」は消失する可能性が高い。EU加盟国どこでも支店などを持たないで営業が可能になるこの便利な通行手形を失えば、英国に金融拠点を持つ意味は薄れてしまう。

 2014年に改訂されたEUの「金融商品市場指令(MiFID Ⅱ)では、第三国の規制・監督体制が欧州委員会によって「EUと同等」と認めれば、加盟国内に支店を設けなくても営業ができるとされたので、英国は引き続き従前同様のビジネスが可能と期待する声もある。だが、同指令では「同等性評価決定の3年後にサービス提供が可能」としており、一度EUを離脱すれば相当期間のブランクが発生することは避けられない。

 また銀行融資の面では、これまで「資本要求指令(CRD)」に基づくパスポートで預金や貸出、リースなど、国境を跨いだ取引が可能であったが、これもEU加盟国に新たに現地法人を設立しなければ業務が遂行できなくなる可能性が高い。

 さらにビジネス流出確率の高いのが、ユーロ建て証券やユーロ建てデリバティブズ取引の清算(クリアリング)および決済(セトルメント)業務である。英国のLCHクリアネットはデリバティブズ清算業務で圧倒的なシェアを誇っており、ロンドンで取引され、ロンドンで決済される、という一連の業務の流れを囲い込んでいる。

 ECBは、ユーロ建て取引はユーロ圏内で行われるべきと主張して欧州裁判所に提訴したが、この訴えは昨年棄却され、英国でのビジネスが維持された。だが今後はストーリーが変わるかもしれない。

 「単一パスポート」の消失で大手金融機関におけるユーロ建て債券、クレジット商品、スワップなどデリバティブズのトレーディングおよびセールス、そしてその決済を担う部門がこぞって英国を去ることになり、清算や決済も英国を離れるとなれば、シティの業務に大きな穴が開くことになる。そして大規模なオフィスを構える法律事務所も、金融機関の異動とともに英国を去ることになるだろう。

 既にJPモルガンやHSBCなど大手金融機関は、投資銀行の主要スタッフを英国から大陸に異動させる考えを示しており、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、そして大和証券などもロンドンの一部の機能を欧州大陸へ移転する検討を始めている、と報じられている。

 英国は必死に利権を守ろうとするだろうが、ロンドンが独占してきた金融ビジネスを何とか奪い取りたいドイツやフランスが、交渉過程において勝手にEUを出ていく英国に対して甘い顔を見せることはないだろう。

ポンド急落より影響大きいユーロ崩壊

 通貨の面で言えば、懸念されるのは「ブレグジット・ショック」で大揺れして30年ぶりの安値に沈んだポンドよりも、制度疲労が表面化しつつあるユーロである。市場では英国のEU離脱は「EUの終わりの始まり」か、と危惧されているが、それよりも「ユーロ崩壊の終わりの始まり」の方が現在の市場経済には脅威であろう。

 ユーロは、ギリシアを発端とする危機的状況を2012年のドラギ総裁の「何でもやる」発言で乗り切ったが、通貨誕生時点で胚胎していた病巣は残ったままである。つまり、手術はしてみたものの再発の可能性を残した中途半端なオペに終わった、というのが実情だ。

 PEW Research CenterがEU加盟国10カ国を対象に行った調査に拠れば、英国のEU離脱に関しては、英国以外の9加盟国の70%が「良くないことだ」と回答しているが、それは彼らがEUを高く評価していることを意味していない。

 EUを好意的に見ている国はポーランドやハンガリーなど少数であり、10加盟国全体では51%に過ぎない。昨年以降、好意的な回答が顕著に減少しているのが英独仏そしてスペインなどの大国やギリシアである。難民問題の深刻化が影響していることは想像に難くない。

 また英国と同様に、自国に一定の権限を取り戻したいと願う回答は6カ国で過半数を超えている。経済的な思惑から市場の一体化は望むものの、政治的な一体化即ち「欧州合衆国」の理念は受け容れられない、というのが多くの人々の思いであろう。それがEUの抱える本質的な脆弱性でもあり、その行政組織が硬直化している主因でもある。

 英国のEU離脱を契機に、既にオランダやスウェーデン、デンマークなどで同様の国民投票を求める運動が始まっている。中軸国でも反EU運動が結束を固めるようになれば、ユーロの安定性を大きく揺るがすことになりかねない。それがイタリアから勃発するのか、スペインが火種になるのか、フランスが中核になるのか、或いは渋々ユーロを受け容れたドイツが主軸となるのか、解らない。

 確実なのは、ユーロの脆弱性が世界に与える影響はポンドの急落どころの話ではない、ということである。それは、2012年以降たびたび世界の市場を襲ったユーロ危機を思い出せば十分だろう。

 欧州では来年5月にはフランス大統領選挙が、来秋にはドイツの総選挙が予定されている。前者ではFN(国民戦線)のルペン党首が決選投票に残る確率が高く、後者では反EUの新興保守勢力であるAfD(ドイツのための選択肢)が議席数を増やすことが確実視されている。どちらもEUの存続性を脅かしかねない要因である。

 こうした状況で、EUが英国の離脱を契機として共同体を維持することが一段と難しくなると見透かされ、投機筋に欧州狙い撃ちの機会を再び提供することになれば、市場不安が再燃してしまう。確かに現時点ではユーロへの危機感は下火になっているが、ユーロ圏が本当に通貨体制を維持出来るのかどうか、EUに対する不安感の延長線上に、再び疑念が沸いてくる可能性はある。

 ユーロ圏の課題の一つが、通貨同盟に不可欠な統一預金保険制度への取り組みの頓挫である。ユーロ圏財務相会議では本件に関する議論の進展が見られず、先送り状態が続いている。最近、南欧国債の利回りがじりじりと上昇し、低下傾向を強めるドイツなどの国債利回りとの格差が拡大しているのは不気味な兆候だ。

 スペインやポルトガルの政権は不安定なままであり、ギリシアの財政再建も楽観できない。英国なきあとのEUの耐性をテストするような、投機筋による南欧国債売りはいつ起きてもおかしくない。

 英国の離脱によってEUにおけるユーロ圏の経済シェアが70%から85%に拡大することから、ユーロ危機はEU危機に直結しやすくなる、との見方もある。唯一の軸となるドイツに、果たして多大な自己犠牲を払ってまで共同体を死守する強い意志や覚悟はあるのだろうか。

源流は2008年の金融危機

 そして日本にとって最も重要な視点は、2008年の金融危機との連続性である。今回の英国の判断は、唐突に起きたものではない。争点となった移民問題の源泉を辿れば、EUの夢想的な拡大主義に行き当たるが、その先には欧州各国における経済的疲弊という底流に行き着く。その主流をなすのはギリシアの債務危機であり、源流は2008年の金融危機なのである。

 EU加盟国の移民がこぞって英国に流入したのは、同国の経済が比較的安定しており給与水準が高いことや、移民に対する社会保障が寛容であること、英語で仕事や生活ができることなど、幾つかの点が挙げられる。

 これを逆に辿って見れば、金融危機以降の欧州大陸諸国における経済の低迷が、英国のEU離脱の引き金を引いたのだ、とも言えよう。EUによる財政支援やECBによる超金融緩和策にもかかわらず、南欧諸国における高い失業率や成長率の低迷が克服されたとは言い難い。

 2008年のグローバルな金融危機は世界の資本市場を震撼させたが、今回の「ブレグジット・ショック」の市場破壊力も凄まじいものであった。前者は米国経済構造の歪みを起点とするものであり、後者は欧州における政治経済的構造の行き詰まりを反映したもので、必ずしも同質の危機とは言えないが、全く無縁のものでもない。

 金融危機以降、なかなか完治できない経済的疲弊が今回の投票結果を生む契機になったと考えられるならば、今回の市場の大混乱は、2008年の「第一次ショック」に次ぐ「第二次ショック」と位置付けてもいいかもしれない。

 また、国民投票を前に「EUから離脱すれば経済が急縮小して生活水準が低下する」と警告した政財界の声や、オバマ大統領、メルケル首相ら海外首脳からの残留支持の発言が、さほど効果をもたらさなかったことは、英国の大多数の人々のエスタブリッシュメントに対する不信感を象徴している。

それは米国に吹き荒れるトランプ旋風や日本におけるアベノミクスへの失望感にも通じるものがある。従って今回の「第二次ショック」は、欧州という枠を超えて、先進国の既存政治の限界が露呈したものであった、と読むこともできよう。日本社会も、この大きな流れの中の一コマなのである。

密接に結びつく金融政策の限界とEU離脱

 2008年以降、先進国は主に金融政策を活用し、非伝統的な手段を繰り出して経済を活性化しようとしてきたが、所期の目的を達せぬまま限界論が広がっている。一足先に、見切り発車的に「金利正常化」を演出してみせた米国も、事実上の利上げ先送り状態に追い込まれている。金融政策の限界と英国のEU離脱は全く別問題のように見えるが、実は視界の奥で密接に結びついているのだ。

 いま、欧米の悲観的な機関投資家やエコノミストは、英国EU離脱の延長線上に世界経済の暗黒時代到来シナリオを描き始めている。その想定下では、2008年の「第一次ショック」と2016年の「第二次ショック」だけでは終わらないだろう。「第三次ショック」が発生する候補地は、不良債権が積み上がった中国の金融システムかもしれないし、日銀が大量に抱え込んだ日本国債かもしれない。そんな危機意識を、参院選の討論の中に見出すことはできるだろうか。

池田記事

「英国のEU離脱はロシアを利する」。多くのメディアで目にする解釈だ。しかし、ロシアが置かれた厳しい状況を踏まえれば、そう単純な話ではない。プーチン政権にとっても、対EU政策の舵取りには大きなリスクが伴う。

Putin in Oʻzbekiston

ウズベキスタンで開かれた上海協力機構の首脳会議に参加したロシアのプーチン大統領。この場で初めて、英国のEU離脱に関してコメントした。(写真:Russian Presidental Press and Information Office/Abaca/アフロ)

 「英国が欧州連合(EU)から離脱したら誰が喜ぶだろうか。プーチンは喜ぶだろうし、バグダディもそうだろう」

 英国のキャメロン首相はEU離脱を問う国民投票に先立ち、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者であるバグダディ容疑者とともにロシアのプーチン大統領の名を挙げて、EUへの残留を国民に訴えた。キャメロン首相だけではない。「ロシアを利するだけだ」という文言は、残留派が離脱の危険性を唱える中でしばしば利用されていた。

ロシアをネタにした英キャメロン首相への皮肉

 英国民投票の格好のネタにされたわけだが、プーチン大統領自身はどう反応したのか。投票前は「私なりの意見はあるが、それを明らかにするのは得策ではない」と思わせぶりに語り、離脱に賛成するか反対するかを一切、明らかにしなかった。「これはEUと英国の問題だ」と距離を置いてきたわけだ。

 そのプーチン大統領は24日、英国民投票でEU離脱の選択が明らかになった当日にようやく自らの見解を明らかにした。上海協力機構の首脳会議が開かれたウズベキスタンの首都タシケントで、記者団の質問に答えたものだ。

 「我々は(投票に)一切介入しなかったし、決して自らの立場を明らかにしなかった。これは正しい選択だった」。こう前置きした大統領が真っ先に口にしたのは、ほかならぬキャメロン首相への苦言だった。

 「キャメロン英首相は国民投票に先立つ声明でロシアの立場について話していたが、これは根も葉もなく、全く根拠がないものだ」

 そもそも国内世論に影響を与えようと、ロシアをネタにしたこと自体が間違った試みであり、しかも結果的に失敗した――。英首相への皮肉をたっぷりと交えた大統領は、「ましてや投票後に、ロシアの立場を代弁する権利は誰にもないし、それは政治文化の低俗さを示すものだ」と語気を強めた。

ロシアが立つ、期待と懸念の狭間

 では、肝心のロシアに与える影響はどうなのか。

 プーチン大統領は「我が国にも当然、影響を与える」とし、「動向を注意深く分析し、我が国の経済に与える負の影響を最小化するよう努めていく」と述べた。ウクライナ危機をめぐるEUの対ロシア経済制裁の緩和に結びつくのではないかとの観測については「そうは思えない」と断じた。ただし、国内経済の低迷が深刻なこともあり、EU側がいつの日か制裁問題で建設的な対話をしてくることを「切に望む」と期待もにじませている。

 政治経験が豊富な大統領だけに、無難な受け答えに終始したといえるだろう。 とはいえ、ロシア国内では制裁を続けるEUへの不信感も根強く、“EUの分裂”につながりかねない英国の離脱選択を歓迎する向きは多い。現にロシア議会で民族派の代表格ともいえるロシア自由民主党のジリノフスキー党首は「英国は正しい選択をした」と豪語したという。

 議会上院のコサチョフ外交委員長は、ロシアの対外貿易の5割近くがEUだけに「EU内部の衝撃は貿易・経済関係に否定的な影響を及ぼしかねない」と指摘。その一方で長期的には、「適切な改革の結果、EUがより非政治化され、ロシアを含む外部のパートナーとより柔軟で開かれた協力関係を築く可能性がある」と、前向きに受けとめるコメントをロシア紙に出している。

「ロシアを利する」論の根拠

 こうした中、内外で話題を呼んでいる論文がある。

「Brexit(英国のEU離脱)はなぜ、プーチンの勝利なのか」

 米国のマクフォール前駐ロシア大使が投票結果の判明直後、ワシントン・ポスト紙に掲載したものだ。前大使は「プーチン大統領はもちろん、英国の投票に影響を及ぼしていないが、彼と彼の外交路線にとって得るものは非常に大きい」と言明。とくに、ロシアの欧州での侵攻行為に最も批判的で、米国の代弁者だった英国がEUから離脱する影響の大きさを挙げた。

 また、ルペン党首率いるフランス極右政党の国民戦線には「クレムリンに近いロシアの銀行」が資金支援しており、こうした勢力による親プーチン、反EU運動が欧州内で強まる懸念も強調した。さらに、ウクライナで親欧米派がEU加盟を求める根拠が希薄になる恐れや、ロシアが旧ソ連圏で主導する「ユーラシア経済同盟」という経済圏づくりが短期的に勢いを増す可能性などにも触れ、英国のEU離脱が「ロシアを利する」理由を列挙している。

 確かに、ロシアと欧米の関係悪化を決定づけたウクライナ危機は、EU接近か、ロシア接近かというウクライナ世論を二分した国内対立が発端だった。当時のヤヌコビッチ政権が結局、EUとの連合協定調印を延期して親ロ寄りに路線修正したことで親欧米派の市民らが決起し、同政権が倒された経緯がある。

 ロシアはこの過程で、ヤヌコビッチ政権に相当な圧力をかけたとされるが、その狙いのひとつが「ユーラシア経済同盟」にウクライナを加盟させるためだったとされる。

 結局、ウクライナでは親欧米派が政権を握り、ロシアの思惑通りにはいかなかった。それでも英国のEU離脱の衝撃により、ウクライナのEU接近に多少なりとも歯止めがかかるとみているのは確かだろう。

ロシアにとっての「対EU」政策の難しさ

 EUの対ロシア制裁との関連については、先でも触れたように、プーチン大統領は大きな期待はしていないようだ。ロシアの銀行の資金調達、石油企業への技術支援などを制限したEUによる最も厳しい制裁措置は7月末に期限を迎えるが、そのまま来年1月末まで延長される見通しだ。

 とはいえ、プーチン大統領は5月にはギリシャを訪問した。6月にはサンクトペテルブルクで開いた国際経済フォーラムに欧州委員会のユンケル委員長、イタリアのレンツィ首相、フランスのサルコジ前大統領らを招き、関係改善の必要性を訴えたばかりだ。

 ロシアとEUの間では制裁問題に限らず、例えばロシア産の天然ガスを欧州南部にパイプラインで供給する「サウスストリーム」計画が中止に追い込まれるなど、関係が大きく冷え込んでいる。ただ、EU諸国でもイタリア、ギリシャなどのように、主に経済的な利害からロシアとの早期の関係改善を求める国々は少なくない。

 英国の離脱騒動をきっかけにEU内の足並みが乱れるようなら、プーチン政権は対ロシア政策での結束を揺さぶる好機と捕らえ、早期の制裁緩和や経済協力の強化を実現すべく切り崩しに動くとみるべきだろう。今後の情勢次第では「ロシアを利する」可能性は十分にあるわけだ。

 もっともロシアの専門家の間では、英国のEU離脱がもたらす負の影響を懸念する声も根強い。国際問題の専門家フョードル・ルキヤノフ氏は「欧州の手綱を締めるため、北大西洋条約機構(NATO)の役割が高まる恐れがある」と警戒する。英国のEU離脱が逆に刺激となってNATOが一層強化され、ひいては米国の影響力が強まるというシナリオだ。米国が加わっているNATOの軍事力強化はプーチン政権が最も嫌う構図である。

 吉と出るのか、凶と出るのか――。プーチン政権にとって英国の選択を受けた対EU政策のかじ取りは、もろ刃の剣なのかもしれない。

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