『トランプ政権、沖縄含む海外基地800か所総点検 日本には米軍駐留経費とTPP再交渉要求か』(11/18日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『トランプ政権に“史上最強”の海軍長官が誕生か?海軍を中心に「強い米軍」の復活を誓うトランプ新大統領』(11/17JBプレス 北村淳)について

11/18大前研一メルマガ<米トランプ次期大統領・日米関係・TPP・米欧関係 ~米軍の駐留経費を100%負担する方針で交渉を進めるべき

  米トランプ次期大統領 円滑な政権移行で一致
  日米関係 「トランプ・ショック」が日本の外交・安全保障に波紋
  TPP 「年内議会提出は確実にない」
  米欧関係 トランプ氏勝利の影響を協議

米軍の駐留経費を100%負担する方針で交渉を進めるべき

米国のトランプ次期大統領は10日、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談し、円滑に政権移行を進めることで一致。

オバマ氏は外交、内政の重要事項を話し合ったと明らかにしたうえで「これから2カ月間の最優先事項は政権移行を円滑に進めることだ」と述べたとのこと。

トランプ氏の動向を見ていると、今のところ慎重な姿勢を見せています。しかしトランプ氏が1人で動き出したら、元の木阿弥になる可能性も十分あります。

どのような政権にするかが重要です。今のところ政権のメンバーとして有力な人たちというと、ジュリアーニ元ニューヨーク市長、クリス・クリスティ・ニュージャージー州知事など、率直に言って嫌われ者連合といったところです。

旧聞に属する人たちが周りを取り囲んでいて、その人達が重要閣僚になると言われています。

日本への影響として、トランプ氏の米大統領就任で、日米関係に最も影響を与えそうなのが在日米軍の駐留経費問題だと報じられています。

トランプ氏は選挙戦で、米軍駐留経費を日本政府が100%負担しない場合の米軍撤退も示唆していました。

慌てた日本政府は、在米大使館を中心にトランプ陣営と接触し、説明を重ねてきたとのことですが、現在の両国間のガイドラインによると、一方的に米国が「さようなら」というわけにはいかないのも事実です。

また米国にとっても、実は「日本からさようなら」することは決して得ではない、と私は思います。

国別の駐留米軍兵士の数を見ると、世界の中でも米軍兵士は日本に最も多く駐留していることがわかります。

日本に続いているのが、イラク、ヨルダンなどの中央軍管轄地域、そしてドイツ、韓国、イタリアです。

経費負担の割合で見ると日本75%に対してドイツは40%ほどですから、日本に米軍を駐留させるのは「得」なのです。現在のグアム駐留数は約5600人。これを4万人にするのは、米国にとっても非常に難しいと思います。

日本側から見ても、トランプ氏が言うように「全額負担」することは決して損ではないと私は思います。

日本はすでに関連費用を含めて駐留経費を約7000億円支払っています。米軍の駐留経費全額となっても、追加で約4000億円程度です。私なら全額支払うと言うでしょう。

米軍に出ていってもらって、自衛隊で置き換えればいいという意見もありますが、これはすぐに実現することは無理です。

日本の自衛隊は「専守防衛」の方針ですから、攻撃型の兵器を保有していません。ですから、例えば中国と問題を起こした場合、自ら攻撃することができないのです。これでは外交上「なめられる」のは間違いないでしょう。

今から攻撃型の兵器を作れば?と言っても一朝一夕にはできません。攻撃型兵器の代表格である空母は、4年~5年で開発できるものではありません。

中国でさえ、空母の開発にあたってはウクライナから調達したものがあった上で、さらに5年~6年の時間を要しました。

トランプ・ショックと言われますが、逆に言えばお金さえ払えばいいのですからチャンスだと思います。

日本の防衛費はGDPの1%で約5兆円。そのうちの10分の1程度の4000億円を支払えばいいだけのことです。

米国にとっても軍事力削減にならずメリットがあることを伝え、この交渉を成立させることがこれからの数ヶ月の重要課題の1つだと思います。

TPPが見送りになっても、日本にとって致命的ではない

米マコネル上院院内総務は9日「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が年内に議会に提出されることは確実にない」と述べました。

米大統領選でTPP脱退を掲げた共和党のトランプ氏が勝利したことを受けて、オバマ政権が目指す年内の議会承認を見送る考えを表明しています。

日本の通商政策は再びゼロから構築する必要が出てきました。とは言え、TPPがなくても去年・今年と同じ状態ですから、それほど戦々恐々とする必要もないでしょう。

TPPは日本が攻め込まれることも多い部分があるのですが、トランプ氏は完全に勘違いをしています。特にサービス産業や知的産業では米国に対して、相当の譲歩を求められていました。

トランプ氏の頭にあるのは工場のことで、中国をメインで想定しているはずです。今後、TPPの方針については修正が入るでしょうが、取り敢えず延期されたというのは、日本にとっては、ある意味、不幸中の幸いとも言えます。

悲観的なのは欧州です。欧州連合(EU)は11日、通商担当相理事会で、米大統領選でトランプ氏が勝利したことが米欧交渉に及ぼす影響を協議しています。

通商交渉を担うマルムストローム欧州委員は米欧が交渉中の自由貿易協定(FTA)は「かなり長い間、冷凍庫の中に入るだろう」と述べ、交渉再開に数年を要する可能性をにじませたとのことです。

メキシコに工場を持つ自動車メーカーは、日本よりもむしろ米国メーカー

日経新聞は11日、「トランプの壁、マツダに試練」と題する記事を掲載しました。米大統領選で勝利したトランプ氏がちらつかせる北米自由貿易協定(NAFTA)からの脱退。

これが現実になればマツダが乾坤一擲の勝負で建設したメキシコ工場が、北米開拓の要衝としての機能をそがれると紹介。

マツダの試練は多くの日本車大手にとって人ごとではないと報じています。今、日本企業は米国よりもメキシコに工場を作るのが盛んですから、確かにこれは大変な事態を招きます。

メキシコで作ったものが安い関税で入ってくれば、米国の消費者も助かるはずです。

自動車生産台数で、メキシコは世界7位。メーカー別の新車生産台数を見ると、1位の日産、GM、フィアット・クライスラー、フォルクスワーゲン、フォードと続きます。

日産は古くからメキシコに進出していますが、その他の日本メーカーはメキシコ進出が遅れており、むしろ米国メーカーが積極的にメキシコに進出しています。

米国自動車メーカーが団結して、トランプ氏に物申すべきだと私は思います。

確かに新しい工場を作ったばかりのマツダには痛手でしょうが、トヨタ、ホンダ、日産など日本メーカーは米国内でも400万台の生産体制を保有していますから、「この世の終わり」というほどではありません。関税の割合にもよりますが、大変な事態ではあるものの、それほど悲観的になりすぎる必要はないと思います。>(以上)

11/19NHKニュース<トランプ氏 安全保障政策担当の大統領補佐官にフリン氏起用

11月19日 5時00分

アメリカのトランプ次期大統領は、安全保障政策を担う大統領補佐官にフリン元国防情報局長官を、また、司法長官に強硬な不法移民対策を主張するセッションズ上院議員を、それぞれ起用すると発表し、このあと重要ポストの国務長官と国防長官に誰を起用するのか、注目されます。

トランプ次期大統領は18日、ホワイトハウスで安全保障政策を担当する大統領補佐官にマイケル・フリン元国防情報局長官を、司法長官にジェフ・セッションズ上院議員を、さらに、CIA=中央情報局長官にマイク・ポンぺイオ下院議員を起用すると発表しました。 大統領補佐官に起用されたフリン元長官は陸軍の退役中将で、大統領選挙では早くからトランプ氏を支持し、外交や安全保障の分野で助言を行ってきました。 また、司法長官に起用されたセッションズ上院議員と、CIA長官に起用されたポンペイオ下院議員も、共和党の中でいち早くトランプ氏への支持を表明し、とりわけセッションズ議員は、強硬な不法移民対策を主張して、トランプ氏の発言にも影響を与えてきたと見られています。 トランプ氏は、4年前の大統領選挙の共和党の候補者だったロムニー氏との会談を予定するなど、政財界の要人らと意見を交わしながら、新政権の人事に向けた党内の調整を進めていて、アメリカの外交と安全保障の鍵を握る国務長官と国防長官に誰を起用するのか、注目されます。

フリン氏の経歴と起用の狙い

安全保障担当の大統領補佐官に起用されたマイケル・フリン元国防情報局長官は57歳。アメリカ陸軍の退役中将で、大統領選挙でアメリカの外交・安全保障を担ってきた元政府高官ら、多くの専門家が反トランプ氏の姿勢を鮮明にする中、早くからトランプ氏への支持を表明して選挙運動でも積極的に演説を行い、外交・安全保障政策の顧問を務めた側近の1人です。 アメリカ陸軍の現役時代には、アメリカ中央軍の情報部門の責任者を務めるなど、情報分野の専門家としてイラク戦争やアフガニスタンでの対テロ作戦にも関わり、国防情報局長官に就任しましたが、上層部との確執などから任期途中で退役を迫られたとされ、以来、オバマ政権のテロ対策に批判的な立場を示してきました。 一方、選挙期間中のことし7月のNHKとのインタビューで、日米関係について、「極めて重要なパートナーで、強固な関係を持ち続ける」と述べ、日米同盟を重視する姿勢を強調しながらも、トランプ氏がアメリカの厳しい財務状況を踏まえ、同盟関係を再検証するべきだとしていることは支持していました。 フリン氏の起用について、トランプ氏は声明で、「イスラム過激派組織を打ち負かすため、側近として迎え入れることを誇りに思う。私の政権で、かけがえのない存在となるだろうと」と述べ、フリン氏への期待を示しました。 トランプ氏としては、最優先課題に掲げる過激派組織IS=イスラミックステートの壊滅に向け、フリン氏を新政権の外交・安全保障政策の要となる大統領補佐官に起用することで、この分野でのみずからの経験不足を補う狙いもあると見られます。>(以上)

大前研一氏はボーダレスエコノミーを唱えていて、考えはグローバリズムに近く、胡散臭いと思っています。結局、欧米で起こっているのは移民・難民政策の失敗ではないですか。西尾幹二氏は早くからヒトの自由な移動(外国人労働者)の危険性を指摘していました。それは少し考えれば皮膚感覚で分かるでしょう。異質なものを体内に取り込めば、免疫反応が起きるのと同じです。況してやその国に同化しようとしない人達です。日本の在日も反日活動に現を抜かし、一切同化しようとしません。在日特権まで主張、パチンコの脱税、北への送金、ヤクザの幹部等日本にとって良いことは一つもありません。反日活動に勤しむもの、反社会的組織に繋がるものは本国へ送還すべきです。またパチンコ税を作ってきちんと売上を捕捉すべきです。

高濱氏や北村氏の記事は少し、古くなっています。国防長官候補として名前の挙がっていましたセッションズ上院議員は司法長官になりました。また国務長官候補としてはミット・ロムニーの名前も挙がっています。トランプはキッシンジャーから外交について教えを乞うているようですが、中国の金塗れになっている時代遅れの人間に聞いても、中国に有利な方式を示すだけでしょう。時間の利益を中国に与えるだけです。保守派の若手にもジョージ・ケナンの弟子のような人たちは沢山います。E・ルトワックのように。中国包囲網を形成しないと、世界の平和は守れません。彼らの意見を参考にして外交を行ってほしいと考えます。

海軍長官には北村氏記事にありますように、ランディ・フォーブス議員がなって、海軍力を増強してほしいです。中国が嫌がるというのですから本物でしょう。金を貰っていないという事です。

高濱記事

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ジョン・ボルトン氏(右)。トランプ政権の国務長官候補として名前が上がる(写真:AP/アフロ)

—改革者か、解体屋か。いよいよ、ドナルド・トランプ氏が第45代大統領に就任することが決まりました。

高濱:まさに「海図なき航海」の始まりです。

トランプ氏は当選から6日目、ホワイトハウスの要となる首席補佐官にラインス・プリーバス氏を起用しました。共和党全国委員長を務める若干44歳の人物です。

当初、首席補佐官の有力候補と目されたスティーブン・バノン氏(62)は首席戦略官・上級顧問に落ち着きました。同氏は保守系「ブライトバート・ニュース」(Breitbart News)の経営責任者。選挙中には親トランプ報道を流し続けました。トランプ氏とは肝胆相照らす仲と言われています。

ハーバード経営大学院卒の切れ者です。いつも長髪にノーネクタイで、一見したところ左翼活動家に見えるのですが、筋金入りの保守主義者。新興右翼「アルタ・ライト」*の有力メンバーの一人でもあります。このため、この人事を一部メディアは「人種差別主義者がホワイトハウス入りするのか」と批判しています。

*:アルタ・ライト(Alt-Right=Alternative Right)。保守本流に反発してできた極右グループ。反移民、反多文化、反PC(ポリティカル・コレクトネス)。大統領選では終始一貫してトランプ候補を支持、応援してきた。2008年に保守派の哲学者、ポール・ゴットフライド氏が命名した。

人事で早くも「トランプ経営術」適用

—首席補佐官と言えば、日本でいえば官房長官ですよね。もっとも、記者会見は米国では報道官がやりますが…。プリーバス氏はどんな経歴の人物ですか。

高濱:同氏は俳優のトム・ハンクス似。典型的な「老人キラー」です。ブッシュ一族やミット・ロムニー前共和党大統領候補など共和党主流派から可愛がれています。このため、この若さで党全国委員長を務めてきました。ところが今回の選挙では、党内主流派がトランプ阻止に躍起となっている時も洞ヶ峠を決め込んでいました。トランプ氏が勝つ、と読んでいたとすれば、先見の明のある男ですね。

—当選から1週間たって、トランプ氏はこれまで主張してきた移民対策を部分修正したり、日韓の核武装を容認する発言を否定したりするなど「変化」が見られますね。

高濱:トランプ氏は選挙中、メキシコからの不法移民を入境させないために巨大な壁を作ると公言していました。ところが13日のテレビ・インタビューでは「部分的に作る。壁じゃなくてフェンスのようなものを作る」と軟化しています。 (”President-elect Trump speaks to a divided country on 60 minutes–CBS,” 11/13/2016)

—国務長官はボルトン元国連大使?

さて関心を呼んでいる閣僚人事。国務、国防、財務各長官候補として今下馬評に上がっているのはどんな人たちですか。

高濱:実はトランプ氏自身、前述のインタビューで「閣僚名簿はすでにある」と明言しています。「無論、中身はいえないけど」と付け加えています。それを承知で、11月中旬時点で米メディアが挙げている候補たちを列挙しておきます。

■国務長官

ジョン・ボルトン元国連大使(68)。弁護士出身。現在保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。イエール大学法科大学院ではクリントン夫妻と同級生。

ボブ・コーカー上院外交委員会委員長(テネシー州選出=64) 同州チャタヌーガ市長。テネシー大学卒。 リチャード・ハース国務省元政策立案局長(ジョージ・W・ブッシュ政権=65)。大統領国家安全保障担当副補佐官(ジョージ・W・H・ブッシュ政権)。現職は外交問題評議会理事長。オックスフォード大学卒。

ニュート・ギングリッチ元下院議長(ジョージア州選出=73)。2012年の大統領戦予備選に立候補(予備選途中で脱落)。ツーレイン大学法科大学院卒。

■国防長官

ジェフ・セッションズ上院議員(アラバマ州選出=70)。元アラバマ州南部地区連邦検事。退役陸軍大佐。アラバマ大学法科大学院卒。

スティファン・ハドリー元大統領国家安全保障担当補佐官(ジョージ・W・ブッシュ政権、=69)、国防副次官(ジョージ・W・H・ブッシュ政権)。イエール大法科大学院卒。

マイク・ロジャーズ元下院情報特別委員会委員長(ミシガン州選出=53)、元FBIエージェント。同州上院議員。同州のアドリアン大学卒。

■財務長官

スティーブン・ムニューチン元ゴールドマン・サックス共同経営者(54)。トランプ選挙対策本部財政担当、イエール大学卒。

トーマス・バラック元財務副次官(レーガン政権=69)。エクエティ不動産投資会社「コロニー・キャピタル」創業者、レバノン系二世。南カリフォルニア大学.サンディエゴ大学法科大学院卒。 (”Scramble begins to fill Trump national security ranks,” Kristina Wong, The Hill, 11/13/2016)

TPP担当の通商代表部代表には超大物か

—それで対日外交はどうなるんでしょう。

高濱:まず環太平洋経済連携協定(TPP)です。

トランプ氏は選挙中、終始一貫して同協定に反対してきました。トランプ氏の通商戦略ブレーンは2人います。一人はタフト大学フレッチャー経営大学院のダン・ドゥレズナー教授。もう一人は鉄鋼大手ヌーコアの元会長、ダン・デミコ氏です。後者は政権移行チームの通商問題アドバイザーを務めています。

デミコ氏はテレビ・インタビューでこう述べています。

「TPPの問題点は米国からの輸出ばかりを重視して、輸入面を考えていないこと。同協定が実施されると、諸外国、特に中国からの輸入で米製造業は打撃を受ける。私は自由貿易賛成派だ。しかしTPPはバッド・アグリーメント(悪い協定だ)だ」

トランプ政権にとってTPPと対中通商・為替政策とは表裏一体のようです。TPPは一部を修正する構えです。日本との再交渉を求めるのは必至です。

シカゴ国際問題評議会(CCGA)のフィル・レビイ上級研究員は、TPP再交渉を見据えて、「トランプ大統領はタフで抜群の頭脳の持ち主を通商代表(USTR)に据えるだろう」と述べています。同氏は「通商政策について、世の中のことを熟知した大人(Adult)が表に出てくれば、市場も金融筋も安心するだろう」と意味深長な指摘をしています。 (”Trade Under Trump,” Phil Levy, Foreign Policy, 11/10/2016)

上記の二人のうちどちらかがUSTR代表として前面に出てくるのか、あるいは大物政治家を起用するのか、注目されます。

その前段としてトランプ氏は就任と同時に、既に発効している自由貿易協定すべてを精査するチームをスタートさせます。就任と同時に国務、国防、商務、財務など16の省庁からの代表で構成する米国外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States=CFIUS)と通商代表部に、北米自由貿易協定(NAFTA)など既存の協定の下で米企業の利益が適切に守られているかどうかを調査させる。それを受けて、協定締結国に代表を派遣して、改定を念頭に入れた再交渉を開始すると言われています。おそらくTPPにも、こうした手段を適用するものと見られます。

TPPに対してトランプ政権が具体的な動きを示すのは、NAFTAが片付いてからだろうと思われます。

日米安保で注目は日系のミズサワ退役中将

—日米安保条約の片務性や在日米軍駐留費の扱いはどうなるのでしょう。

高濱:トランプ氏の政策は、これまで日米安保問題で現状維持を唱えてきた知日派軍事専門家の人たちとは一線を画します。米軍事エスタブリッシュメントにも地殻変動が起こり始めています。これまで少数意見派だった専門家が脚光を浴び始めました。

その一人、保守系シンクタンク「ケイトー研究所」のダグ・バンドウ上級研究員はトランプ政権が取り得る対日政策をこう予見しています。

「知日派は『日本はホスト・ネーション・サポート(在日米軍駐留経費負担)として年間17億ドル拠出している』と弁護する。あたかも『米国がより多くの国を守れれば、米国の国防費はそれだけ安上がりで済む』と言っているようなものだ。まるで『ねずみ講』(Ponzi scheme)のような論理だ。(海外基地など縮小して米国内に)新たな部隊を編成したほうが安上がりなのは火を見るよりも明らかなのにだ」

バンドウ氏の論文のタイトルにある「Ripped Off」とは「法外なカネを騙されてとられる」という意味です。バンドウ氏は、同僚の研究者の試算を引用して、「同盟国が正当な分担をすれば年間1500万ドルの国防費が節約できる」と言い切っています。 (”Ripped Off,” Doug Bandow, www.cato.org., 9/12/2016)

もう一人、対日政策では重要なエキスパートがトランプ氏の側近として控えています。ハワイ生まれの日系退役陸軍中将、バート・ミズサワ氏(59)です。ウエストポイント陸軍士官学校を卒業した後、軍役に就きました。その後ハーバード法科大学院で博士号を取得したまさに「文武両道」のエリートです。

早くからトランプ陣営にはせ参じ、安全保障政策でトランプ氏のブレーンの一人になっています。在日米軍基地での勤務を経験し、日米安保体制を第一線で身近に見てきただけに防衛分担については一家言あるはずです。最近米紙に寄稿したオピニオン欄で次のように述べていました。

「商人ではなく外交官がもったいぶった商取引(the most consequential deal)をし、合意に達した文書が安全保障や通商に関する条約や協定だ。それは国と国とが取り交わす契約(コントラクト)である。外交交渉の結果作られた協定や条約は往々にして長期的に永続する。それは納税者、つまり米国民への実質的な利益とは無関係に続けられる。国際的コミットメントは当初の目的に照らして見直し、改める(de novo)するのは常識であり、理に適っている」

「欲しいものを得るには相手を脅せ」

米国は現在、160か国800か所の米軍基地に米兵を駐留させ、年間150億ドルを費やしています。ミズサワ氏は、これら基地の閉鎖・縮小を含む見直しを主張しているわけです。

米側の資料によると、この150億ドルのうち在日米軍基地には55億ドルが向けられています。日本は現在19億ドル(約1900億円)を負担しています。ピーク時には2756億円(約28億ドル)だったこともあります。米財務省は、日本が安全保障関連法を施行したのに伴って自衛隊の活動が拡大することも踏まえ、駐留費の米国分担分を減額する必要があると提言しています。

さて、トランプ次期大統領が在日米軍駐留経費問題でどのような提案をしてくるのか。

ハーバード大学国際研究センター所長のグラハム・アリソン博士はこう見ています。「トランプ氏は、交渉事は相手を脅さない限り、自分の欲しいものを手に入れることはできないと固く信じているネゴシエーターだ」。

TPPと駐留費問題は日本にとってまさに「前門の虎、後門の狼」。安倍晋三首相はトランプ次期大統領に最初に会った外国首脳などと喜んでいる場合ではありません。「トランプ襲来」が刻一刻と迫っています。 (”Q&A: How Much Do U.S. Military Bases in Japan and Korea Cost?” Yuka Koshino, The Wall Street Journal, 4/28/2016) 参考:財政制度分科会(平成27年10月26日開催)記者会見、財政制度等審議会財政制度分科会、財務省、10/26/2015)

北村記事

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米軍関係者はトランプ氏の軍事力強化策に大きな期待を寄せている。バージニア州のノーフォーク海軍基地で整列する潜水艦乗組員(出所:米海軍、photo by Chief Petty Officer Darryl I. Wood/Released)

アメリカの「反トランプ」メディアが垂れ流す報道を受け売りし、トランプ候補の“暴言”を興味本位に取り上げていた日本のメディアにとって、トランプ大統領の誕生は「青天の霹靂」といったところであったようだ。

しかしながら、トランプ陣営による「350隻海軍の建設」や「フィラデルフィア海軍工廠の復活」をはじめとする海軍増強策や、その他の軍事力強化策に期待を抱いていたアメリカ軍関係者やシンクタンクの研究者たちにとって、クリントン氏の敗北は青天の霹靂でもなんでもなく、まさに期待していた通りの結果であった。

トランプ陣営が打ち出す軍事力強化策や国防政策は、88名に及ぶ現役の提督や将軍たちに公的に支持され、幅広い国防関係者たちの間でもトランプ支持が広まっていた。そうした状況を、日本の多くのメディアは把握していなかったようだ。

◎本コラムの筆者の記事一覧はこちら

トランプ次期政権の軍事力強化策

トランプ陣営が打ち出す軍事力強化策は「350隻海軍」だけではなく、より広範囲にわたっている。

選挙期間中にトランプ候補が直接公言した施策や、トランプ陣営の軍事アドバイザーたちが語った増強策などのうち、主だったものは以下の通りである。

(1)オバマ政権によって45万まで削減されることになっているアメリカ陸軍兵力を、54万のレベルにまで増強する。

(現在の兵員数はおよそ49万だが、オバマ政権の削減案が達成されると、2018年度には45万になる。)

(2)現在のところアメリカ空軍は、戦闘機を1113機しか保有していないが、それを1200機以上のレベルに増強する。

(3)アメリカ海軍と行動を共にする“アメリカの尖兵”であるアメリカ海兵隊はオバマ政権下で兵力18万まで削減されたが、それを20万まで戻す。

(4)最先端のサイバー技術への投資を加速し、サイバー防衛能力ならびにサイバー攻撃能力を飛躍的に強化する。

(5)最新の弾道ミサイル防衛能力を強化する。

(6)現在およそ250隻の主要戦闘艦艇を350隻レベルに増強する。

(7)フィラデルフィア海軍工廠を復活させ、「アメリカの鉄で、アメリカの技術者・労働者の力で、アメリカの軍艦を建造する」能力を飛躍的に増大させる。

(8)海軍関係の艦艇船舶建造費として、毎年200億ドル(およそ2兆円)の予算を計上する。

(9)タイコンデロガ級巡洋艦の近代化改修を急ぎ、すべての巡洋艦に弾道ミサイル防衛能力を付与する。

(未改修22隻の巡洋艦にこのような改装を施すには、およそ50億ドルと数年間の時間が必要となる。)

(10)オバマ政権が建造数を40隻程度に削減してしまった、21世紀型海軍戦略での活躍が期待される沿海域戦闘艦(LCS)を50隻レベルに引き戻す。

(11)財政的理由により新規建造が足踏み状態に陥ってしまっていた攻撃原子力潜水艦を毎年2隻のペースで建造し、配備数を速やかに増強する。

これらの軍事力増強策のなかで最も予算を必要とするのは、言うまでもなく、多数の新鋭軍艦を建造することになる海軍力増強策である。海兵隊も海軍とともに海軍省の一員であるため、トランプ次期政権の軍事力増強案の根幹は「海軍力増強」であると言っても過言ではない。

アメリカが地政学的には広大な疑似島国である以上、海軍力の強化を中心に据えて「強いアメリカの再興」を計る方針はごく自然なものであると言えよう。

海軍長官の筆頭候補、フォーブス議員

アメリカ海軍をはじめ、海軍関係専門家たち、それにアメリカ軍指導者たちや軍需企業関係者たちは、トランプ陣営が打ち出す海軍増強策が現実のものとなるであろうと考えている。その理由は、トランプ次期大統領の軍事政策顧問の1人にランディ・フォーブス連邦下院議員が名を連ねているからである。

バージニア州選出のフォーブス下院議員は、下院軍事委員会・海軍遠征軍小委員会委員長の重責を担ってきており、海軍政策のエキスパートとして海軍関係者や海軍戦略家・研究者などからも高い評価を受けている人物である。

かねてよりフォーブス議員は「350隻海軍」「200億ドル建艦費」を唱道してきており、トランプ陣営はフォーブス議員の提案を全面的に受け入れていることが明白だ。そして、このような海軍増強策を前面に押し出してきたランディ・フォーブス氏が、トランプ政権における海軍長官の筆頭候補と目されているのだ。

だからこそ、海軍首脳や海軍関係者たちはトランプ政権の誕生を期待し、選挙で勝利した現在、“大海軍建設”計画が始動する可能性がほぼ確実になったことに胸をなで下ろしているのである。

中国海軍にとっては“最悪の海軍長官”

アメリカ海軍関係者たちとは逆に、中国人民解放軍とりわけ中国海軍は、フォーブス議員が海軍長官に就任することに関しては大いに当惑しているはずである。

というのは、海軍戦略に造詣の深いフォーブス議員は、当然のことながら中国海軍の動向にも精通しており、アメリカならびに日本などの同盟諸国の安全保障を全うするためには中国が推し進めている覇権主義的海洋拡張戦略を食い止めなければならないと主張しているからである。

海軍戦略分野における対中強硬派の代表格であるフォーブス議員による、中国に対して封じ込め的なスタンスをとるべきであるとする主張は、以下のように本コラムにもしばしば登場しているので再確認していただきたい。

・「ホノルル沖に出現した招かれざる客、中国海軍のスパイ艦「北極星」」(2014年7月24日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41297

・「国産地対艦ミサイルの輸出を解禁して中国海軍を封じ込めよ」(2014年11月13日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42188

・「窮地に立たされ日本を利用しようとする米国」(2015年7月9日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44247 ・「オバマ政権も海軍も 中国と波風を立てたくない米国」(2015年9月3日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44673

・「中国潜水艦がフランスを見習って米空母を“撃沈”」(2015年12月24日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45617

・「大迷惑な中国海軍、またもリムパックに堂々参加」(2016年6月9日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47034

・「リムパックで海上自衛隊を露骨に侮辱した中国海軍」(2016年8月4日) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47516

国防長官候補のさらに強力な助っ人

トランプ陣営には、フォーブス議員以上に強力な軍事政策顧問が控えている。アラバマ州選出のジェフ・セッションズ上院議員である。

上院軍事委員会委員であるセッションズ上院議員は、トランプ陣営が安全保障政策の根幹に据えている「PEACE THROUGH STRENGTH」すなわち「強力な軍事力こそが平和な国際関係を実現するための原動力となる」という平和哲学の権化であり、トランプ政権における国防長官の筆頭候補と目されている。

同議員はリアリストの立場から、アメリカの国防政策、そして軍事力の再編を推し進めようとしており、フォーブス議員が提案している海軍拡張計画を財政的に実現化させるべく、国防戦略のレベルにおける諸提言を展開している。

セッションズ“国防長官”とフォーブス“海軍長官”が誕生すれば、トランプ次期大統領の「偉大なアメリカの再現」の原動力となる「強い米軍の復活」が極めて現実的なものとなることは間違いない。

ただし日本にとっては、アメリカから大幅な防衛費の増大と自主防衛能力の強化が強力に求められることになるのは確実である。その事情については次回に述べさせていただきたい。

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