2/18日経ビジネスオンライン 福島香織『中国にブラックスワンが飛来する 権力闘争が市場を揺るがす』について

習(太子党)VS江(上海派)+胡(団派)の戦いになってきました。どちらが勝つか見物ですが、間違っても目を逸らすために日本に戦争を仕掛けないように。自分のことしか考えない人達ですから自分が追いつめられると習にしろ、江・胡にしろ勝手に軍を動かして相手のせいにする可能性があります。中国で軍閥がいたように7軍区だって共産党が押さえているかどうか分かりません。下剋上ですので。江・胡・習誰も軍の経験はありません。毛・鄧のようなカリスマ性はありません。毛には臆病な周恩来という実務家がいましたが習にはいません。軍のトップの徐才厚や谷俊山を逮捕、贅沢禁止令で軍には不満が充満していると思われます。習が無事でいられるかどうかです。

権力闘争が市場に影響を与えると言っても分かっていたこと。共産主義・社会主義国は三権分立でないため腐敗が当たり前です。財務諸表も3つほど作って相手別に渡します。「言論の自由」を認めない国で、経済だけ資本主義化しても歪みが出てきます。資本主義と言っても国営企業の比率が高いですが。

世界は危機を先送りするのではなく、キチンと対処しないとより痛手を受けるのでは。ギリシャもそう、スケールの大きさでは中国もそうですが。

記事

今年は中国のマーケットにブラックスワンが飛来する…。と巷で噂になっている。

 大手商業銀行のひとつ民生銀行の元頭取、毛暁峰が規律違反で党中央規律検査委の取り調べに連行された事件が最初のブラックスワンだと。

李克強VS習近平、仁義なき戦いの火ぶた

 毛暁峰の失脚は、中国報道によれば、すでに失脚している元統一戦線部長の令計画の汚職事件に連座したということになっているが、毛暁峰がかつて共産主義青年団(共青団)中央庁の要職にあり、現首相の李克強とのコネクションも強い共青団の金庫番であることは周知のことなので、令計画事件はもはや、周永康の汚職に連座した事件というより、第19回党大会の人事をめぐる李克強首相を中心とする共青団派と習近平国家主席の仁義なき戦いの火ぶたが切っておとされたのだと、考えるのが普通である。

 中国の権力闘争は5年周期で激しくなるので、こういう展開は不思議でもなんでもないが、習近平政権の場合、これがどうやら、予測不可能な金融リスク、経済リスクとして、市場に大きな影響を与えることになりそうだ、という。

 「ブラックスワン」とは、金融用語で、確率論や従来の知識では、事前にほとんど予想できず、発生したときの衝撃が大きいことをいう。白鳥は白いと思い込んでいたら、オーストラリアで黒い白鳥も発見されたことで、鳥類学者の常識が覆されたという事実を引用して、この理論を展開している認識論学者のナシーム・ニコラス・タレブの著書のタイトルから生まれた言葉だ。中国語では「黒天鵝事件」と言う。

 たしかに中国の権力闘争が、経済や金融に直接影響するケースは今まであまりみなかった。だが習近平政権の場合、従来の権力闘争と違う、と言われている。まず容赦がない。江沢民政権や胡錦濤政権のときは、社会や経済の安定を損なうのでこれ以上やってはいけない、という自制があった。ところが習近平政権は、その自制がなく、とことんまで、相手サイドを追い詰める。この結果、多くの官僚たちが心安らかに業務に専念できない、中央の政治家・官僚とコネのある大企業家も経営に専念できない、という事態が生じてもともと減速中の経済が、ますます悪くなっているのだとか。

 それでなくとも、昨年から、どこかの民営銀行が破産する、とかいう予測も飛び交っている。中国は今年、銀行改革を進めるつもりらしいが、その過程で、これまでの中国の政権が、あえて社会の安定を優先させて潰さなかった不良債権を抱える銀行を、見せしめ的に今年はつぶすつもりだとか。預金保障の明文化を含めた銀行法立法が急がれているのはそのためだとか。昨年11月に、「民生銀行武漢支店が破産した」というデマが流れて、そのデマを流した投資家の若者が逮捕されているが、そういうデマもうっかり信じてしまうようなムードが今の中国にある。

 さて、問題の民生銀行の元頭取・毛暁峰とはどのような人物で、どんな理由で取り調べを受けているのか。

民生銀行の元頭取・毛暁峰と令計画

 中国の時事経済ニュースサイト・財経ネットによれば、毛暁峰が「双規」(党中央規律検査委の取り調べ)に連行されたのは1月25日。この時は、民生銀行幹部たちは、毛暁峰は調査に協力しているだけで、2、3質問に答えたら、すぐに戻ってくるだろうとタカをくくっていたらしい。だが27日の銀行業監督管理委員会の報告会まで連絡がとれず、ついに紀律違反容疑に問われていることが確認された。表向きは令計画の汚職容疑の関係者として身柄を抑えられたことになっている。31日に毛暁峰の頭取辞任が役員会で承認された。毛暁峰の妻も身柄を拘束されているほか、民生銀行幹部も何人か連行されているという。

 毛暁峰は中国の上場銀行の中では最年少の頭取だった。公式には1972年生まれとなっているが、実のところ1970年生まれらしい。

 令計画と毛暁峰の関係は深く、令計画も卒業した湖南大学工商管理学院で毛暁峰もMBAを取得。令計画にとって毛暁峰は優秀な期待の後輩であった。当時共青団中央宣伝部長だった令計画は、口実を見つけては湖南大学に立ち寄り、毛暁峰との親交を深めていたという。毛暁峰は少年時代から神童と言われるほど頭がよく、1999年から2002年まで共青団中央弁公庁総合処副処長、処長を歴任、団中央実業発展センター主任助理などを歴任しつつ、この間、ハーバード大学ケネディスクールの公共行政管理学修士の学位をとっている。

 2002年、共青団中央から突如、民間の民生銀行総行任弁公室副主任に「天下り」し、2008年には副頭取、役員会秘書となった。当時年収425万元の最も高給取りの「秘書」と噂された。2014年8月、上場銀行における最年少頭取となる。この若き頭取の行内の評判は非常によく、優秀で、仕事熱心で、残業をいとわず、また周囲への物腰も柔らかであったとか。彼がどのような形で汚職に携わっていたかは、まだ明らかになっていないが、銀行側は毛暁峰個人の問題であって、銀行の業務とは無関係と主張している。

 今のところ、令計画汚職の接点としては、令計画の妻、谷麗萍に民生銀行傘下の子会社の役職を用意したことが挙げられている。民生銀行内には、銀行の仕事を実際にしていないのに、ナントカ主任などの肩書きだけ与えられて給料をもらっている政治家・官僚の夫人たちが10人以上おり、彼女らは「夫人クラブ」と呼ばれていた。谷麗萍のほか元政治協商会議副主席の蘇栄(2014年6月失脚済)夫人などがメンバーにいるという。これは、どこの企業も多少はやっていることだが、事実上の賄賂である。

人気キャスターの芮成鋼を夫人たちが“共有”

 ちなみに、この夫人クラブのメンバーたちの間で、谷麗萍の愛人でもあったCCTV人気キャスターの芮成鋼が、共有されていたらしい、というゴシップスキャンダルがネットで流れている。中国の政治家・高官の愛人共有はよくあることで、これは拙著『現代中国悪女列伝』(文春新書)を参照していただきたいのだが、政治家・高官夫人たちも若い男を共有することがままあるらしい。芮成鋼は以前にこのコラム欄で書いた「CCTV劇場型汚職摘発の裏側」でもふれたCCTV汚職に連座した形で連行されたと思われていたが、現在は米国のスパイ容疑で起訴される可能性が取りざたされている。令計画夫人の谷麗萍はじめ、民生銀行夫人クラブのメンバーから寝技でとった内部情報を米国に売り渡していた、という話を昨年秋、北京社会科学院外国問題研究所の研究員でテロ問題専門家でもある王国郷が微博でつぶやき(すでに削除)話題になっていた。

 毛暁峰を汚職がどれほどあくどい汚職にかかわったか否かは別として、一つ言えることは、毛暁峰が民生銀行に入ってから、民生銀行が共青団派の金庫的役割をはたしていたことだろう。

 民生銀行は1996年に設立した中国初の民間資本による全国区の商業銀行。株主は中国を代表するそうそうたる民営企業集団・企業家が名を連ねており、その中には中国でおなじみの健康保険食品「脳白金」を売り出した史玉柱なども含まれている。これら企業家たちは、おおむね共青団親派の実業家たちで、共青団出身の毛暁峰はこうした株主たちから望まれてやって来て、時間をかけて育てられて満を持して頭取になったと言われている。2003年に共青団、中華全国青年連合会、国家工商行政管理総局、旧国家労働社会保障部、国家統計局、中華全国工商業連合会、英国大使館などが提唱した「中国青年創業国際計画」(YBC)を全面的にバックアップしたのも民生銀行。この計画執行総幹事が谷麗萍で、YBCの事務所と民生銀行の役員室は同じ建物にあったという。YBCの設立式には毛暁峰も参加している。

共青団派の金庫に“妙な動き”

 そういう民生銀行で、実は昨年から妙な動きがあった。昨年から民生銀行の株主構造が急激に変わったのだ。

 現在、民生銀行の最大大株主は安邦保険で、昨年11月28日から2か月あまりで約22%の株を獲得した。この銀行の株を、10%をこえて持つ株主は安邦だけである。郭広昌がCEOを務める復星国際集団の持ち株をすべて譲りうけたようだ。上海浙江商会名誉会長で全人代代表でもある郭広昌は昔から政治の風向きの嗅覚の鋭い人物と言われている。

 安邦保険は中国の大手保険企業の一つだが、開国元帥・陳毅の息子の陳小魯が安邦保険集団の株式の55%を押さえる大株主で、鄧小平の外孫娘婿の呉小暉がCEOを務める、いわゆる「紅色企業」である。香港蘋果日報情報によると、この陳小魯の妻・粟恵寧の姪の息子・粟子軍が習近平と非常に親密であるらしい。粟子軍は元解放軍総参謀長・粟裕の孫でもある。共青団色の強い民生銀行が、昨年末、急にいわゆる「紅色二代」(革命世代二代目、太子党)企業に株をものすごい勢いで買収されるとほぼ同時に、共青団からきた頭取の毛暁峰が排除されたわけである。

 これは偶然ではないだろう。同じ様なケースを他にも聞いたことがある。たとえば令計画一族の失脚が迫っている時期に、令一族が投資しているメディア企業の株の譲渡を破格の安価で有無を言わさずに習近平派の紅色企業が迫って来ると、関係者から聞いたことがある。これによい返事をしないと、翌日に自社株がありえない形で、急落する。つまり当局側による株価操作が行われるわけだ。

習近平の権力闘争がマーケットを揺るがす

 要するに政治の権力闘争が、そのまま経済のマーケットに影響するようになったということである。もともと中国は「権貴政治」であり、政治権力と経済が結びついている。だがここまであからさまに急激に株主を入れ替えたり、株価を操作したり、企業トップの挿げ替えるような真似は江沢民、胡錦濤政権時代は控えらえていた。そんなことをすれば中国経済の秩序は持たず、国際的信用も落とすではないか。だが習近平政権は、そういう既存の秩序に挑戦するかのようなことをやってみせるようだ。

 結果的には、毛暁峰事件の影響による株価急落が予想されたよりはひどくならなかったのは、鉄板の紅色企業・安邦保険が最大株主になったという面があるのだが、逆にいえば安邦の胸先三寸で民生銀行の運命はどうにでもなる。習近平(太子党)VS共青団の権力闘争が、企業の盛衰、株価の乱高下につながるとなれば、みながこれを「ブラックスワン」と恐れるのももっともな話である。

 同じようなリスクが、これから拡大するだろう、と言われている。官僚の息子や妻に役職を与えて給料と言う名の賄賂を支払い、権力との風通しを良くしている銀行など掃いて捨てるほどある。春節が終われば、習近平政権は、エネルギー関連などの26中央企業の巡回規律検査を行うことも宣言している。どの企業も、紅二代か官二代か、太子党か共青団派か、権力とのコネクションをもつ株主や役員がいる。

 習近平の権力闘争は利権闘争であり、それはすなわち経済闘争となる。企業の業績とは別のところで、中央企業に対する汚職摘発がきっかけで陰の支配者がかわり、株主がかわり、役員、幹部が入れ替えられる。習近平が権力闘争に優勢であると見られれば、中国石油のように株価が上がることもあるが、実のところ、習近平がこのまま権力闘争に勝ちつづけるかどうかは、疑う声もあるのだ。彼は敵を増やしすぎているのではないか、と。

 2017年に習近平が第19回党大会で決まる次世代政権の人事を掌握できるか否か、それまでの2年、中国の市場関係者はおちおちと枕を高くして寝てはいられない、ということらしい。