『中国・一帯一路の挫折と日中関係 日本財界に急速に高まる戦略への期待の意味』(9/5日経ビジネスオンライン 福島香織)、『台風18号が中国・山東省に残した洪水の爪痕 被害よりも業績を優先する役人たち』(8/31日経ビジネスオンライン 北村豊)について

9/5阿波羅新聞網<限中共高官子女签证?美国会听证引关注=中共高官の子女のビザ発行状況に限って明らかにする?米国議会ヒアリングは注目を集める>7/24アメリカン・エンタープライズ研究所・アジア研究主任のDan Blumenthalは議会で、「中国が経済手段で脅し、政治目的を達しようとするなら、対応措置を考えるべき。中共高官の子女の留学ビザ発行状況を明らかにするのも一つの方法」と証言して注目を集めた。

以前、米国は中国の銀行界の10数人の高層の資産を明らかにして没収すると脅したが、中共はすぐ外資の赤字決算を取消した(配当可能なように?)。今度の場合、10数人ではきかない、数百、数千人、或はそれ以上かもしれず、どんな結果を引き起こすか?

2012年、中共内の人間は「1995~2005年の間で、112万の官員の配偶者・子女が外国に定住している。外国に逃げた貪官は少なくても2万人、持ち逃げした額は8千億~1.5兆元の間である」と。

米国民主党の違法献金スキャンダルが明るみになってから、FBIはロサンゼルスの華僑・鐘育瀚をボブ・クリントンの再選を願い、違法献金した容疑で炙りだした。背後にいたのは劉華清の娘の劉超英と情報部門の高級官員の姫勝徳で姫鵬飛の子である。

http://www.aboluowang.com/2018/0905/1168932.html

9/4阿波羅新聞網<习近平突显异常之举 北京硬抗贸易战新出一招=習近平は突然異常な行動に出た 北京の貿易戦への強硬な対応で、新たな手を使う>9/2人民日報は第1面に“習近平”の3文字を45回も使い、記録を打ち立て、全部の紙面で103回も使った。習の地位は安泰であるが貿易戦の影響である。米国の2000億$の関税賦課に対し、中国は600億$の関税しか報復できない。米国の景気が良いのでトランプは2000億$賦課するだろう。

中共は最近、市民の消費に対する潜在能力を引き出し、下降している経済を上向かせる動力にしたいと呼びかけた。阿波羅特約コメンテーターの林禾は「貿易戦に応じるため、中共は紙幣を大幅に増刷するだろう。しかしこれは通貨膨張を招き、物価を激しく上げ、庶民の持つ人民元の価値を貶める。庶民の消費は依然として下がり続け、潜在能力を引き出すとはとても言えない。実行できないだろう」と。米国と日本のM2はそれぞれ14兆$と9兆$、合計23兆$に対し、中国は既に26兆$である。

小生の見立てでは貿易戦敗北を糊塗するために、習の個人崇拝化を進め、「反抗する者は弾圧するぞ」というサインでしょう。習は毛沢東に近づきたいと思っているようですが、毛とは月とスッポンです。習は軍歴もなく、毛のように国民の犠牲を厭わない(大躍進や文革のように)所までできるとは思えません。新たな革命が起き、中国共産党が打倒されることを願っています。

http://www.aboluowang.com/2018/0904/1168792.html

福島氏記事で、日本は本当にダメと思わざるを得ませんでした。米中で戦争をしている時に、同盟国が米国の敵を助けることをしてはいけないのでは。劣化も極まれりです。安倍首相も通貨スワップの見返りに何を要求しているのか?まさか訪中と引き換えと言うことはないでしょうね?何時も国益を考えてと言っている割には脇が甘いのでは。日本の経営者は戦後民主主義の影響を色濃く受けたものばかりで、軍事的発想が皆無、且つ自分で中国と向き合った(詐欺、自己中、嘘つきの連中を相手に)経験もなく、性善説で対応しようとする愚か者ばかりです。中国の市場の大きさに幻惑されているだけで、利益は上っていないと思います。あの悪辣な中国が簡単に儲けさせてくれると思うのが間違い。市場に幻惑と言うのは人口侵略の一部と思った方が良いのに。中国に過大な投資をすれば戻って来ないと思わないと。米中貿易戦争で米国はやがて中国と取引している企業に新COCOMを発動するかもしれません。リスクが大き過ぎます。

昨日は、首相官邸と自民党本部に下記の意見を送りました。

「日中通貨スワップ反対の件

10月に安倍総理が訪中するに当たり、3兆円の通貨スワップ協定を結ぶという憶測が流れています。今、米中は世界覇権を巡る争いの第一ラウンドである貿易戦を戦っています。同盟国を応援するのは勿論のこと、自由を建国の理念とする米国を支援し、ウイグル人を始めとして人権弾圧する共産独裁の中国に味方しないのは当然のことでは。中国に経済支援することは自由主義国への裏切りです。

8/16日経ビジネスオンラインに重村智計氏の記事が載り、「習近平は金正恩に10年で10兆円の支援を約束。それがため、金は非核化に前向きでなくなった」というものです。またサンフランシスコにある世界抗日戦争史実維護連合会という中共が支援している団体こそが慰安婦問題を世界にプロパガンダしています。利敵行為は止めて下さい。西原借款のように敵を助けることは、共産党支配を長引かせ、中国人民の為にもなりません。」

https://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken_ssl.html

https://www.jimin.jp/voice/

福島氏の記事でスワップ額が3兆元とあるのは3兆円の誤りと思います。

北村氏の記事を読んで、共産政府の役人の無責任さと特権意識を感じました。また「積分落戸」というのも思い出しました。中国は何でも科学的にと点数評価し、その裏で賄賂が飛び交う社会です。日本を中国みたいな社会にしないようにするには、左翼とピンク人口(平和教のお花畑脳)を減らすことです。

福島記事

8月27日に北京で開かれた一帯一路推進五周年座談会(写真:新華社/アフロ)

中国国内でも悲観的な見方が多かった一帯一路の挫折がいよいよ表面化してきた。

AFPが9月早々、こんな風に報じている。

“「中国「一帯一路」におけるインフラ建設計画が重大な挫折にあい、一部の参加国は中国に対する恨みを抱きはじめ、中国の提供する債務圧力におしつぶされる心配を始めている。”

2013年に習近平が自らの最重要国家戦略として打ち出した一帯一路戦略は、AIIBという中国主導の国際金融機関の設立とセットで、意欲的に進められてきたが、これまでの5年の経緯を振り返れば、参加国、周辺国に不安を与える以外の何物でもなかった。先進国からは中国版植民地政策と非難され、インフラ建設支援を受けているはずの途上国からは、悪徳金融のようだと恨まれ、中国国内の銀行や企業は経済的利益の見込みが立たない中での投資ノルマと債務不履行に不満が高まっている。

仄聞するところでは、党内にもこの「一帯一路」戦略の棚上げ、縮小を求める声があるが、党の長期戦略として党規約の前文にまで「一帯一路戦略」を明記した習近平が、自分のメンツを犠牲にして、こうした声に耳を傾ける様子はない。一帯一路はどこにいくのか。そして、秋の首相訪中を控えて、日本財界に急に高まる、“一帯一路”への期待は何を意味するのか。

一帯一路の挫折がはっきりしてきたのは今年春以降だろう。米トランプ政権の対中貿易戦争が、単なるディール以上の意味(中国の覇権野望を挫くという意味)を持つのではないか、という観測が出始め、それまで一帯一路に比較的好意的な発言をしていた欧米メディアからも、一帯一路について「債務の罠」「中国版植民地主義」といった批判的な意見が報道され始めた。また、アジアや中央アジアの親中国家に変化がみられるようになった。

マレーシアのマハティールが、圧倒的に有利なはずの親中派現職、ナジブを破って首相に返り咲いたことは大きい。これはマレーシア有権者のチャイナ・マネーにおぼれるナジブ政権に対する明確なノーの意思表示と言えた。マハティールが8月に北京を訪問したときは、南シナ海とマラッカ海峡を結ぶ200億ドルの鉄道計画など一帯一路戦略に含まれる三つのプロジェクトの棚上げを表明。建前上は一帯一路はアジアの発展に必要、積極支持するなどと中国にリップサービスをするも、「新しい植民地主義はのぞまない」と、現行の一帯一路路線に釘を刺した。中国の大手デベロッパー・碧桂園が手掛ける70万人の人工島都市建設計画「フォレストシティー」についても、前政権では中国投資家による物件購入をあてにしており、事実上のチャイナタウン建設との位置づけであったが、マハティールは外国人(中国人)への販売・転入禁止措置を打ち出した。

さらにパキスタンのイムラン・カーンが8月に政権をとると、やはり一帯一路の中核プロジェクトである中国・パキスタン経済回廊(CPEC)について、その資金状況の透明性を高める、と約束した。元クリケット選手、実務経験ゼロのカーンが有権者に選ばれたのは、前政権の汚職体質に皆がうんざりしていたことが大きいが、CPEC計画の推進に伴う中国の貿易赤字やローンがかさみ、債務危機に直面していることも大きい。中国への債務返済不能に陥れば、その借金のカタに中国による植民地化が進むのではないか、という危機感も関係している。それでも9月3日に北京で開幕した「中国アフリカ協力フォーラム」では、中国は今後3年間にアフリカ発展支援に600億ドルの拠出を発表している。

CPECの起点の一つとなるグワダル港は、マラッカ海峡の陸路バイパスとして中国のエネルギー輸送の要であり、中国のインド洋進出の軍事拠点としても地政学的要衝の地だが、中国はすでに、この港の43年租借権を確保している。カーン政権は、IMFに支援を求めているが、仮にIMFがパキスタンに支援を行えば、当然、CPECの中身も見直されるだろう。中国が高金利で貸し出す資金で、中国企業によって中国産資材を使って中国人労働者を雇って行われたプロジェクトで、債務返済不能を理由に、出来上がったインフラの権利を奪う悪徳金融のような真似は許されない。

一方で、米国務長官ポンペオは、IMF最大の出資国として、中国の借金返済にIMFを使う道理はない、と強くけん制。米国は、中国に外貨準備を吐き出させて追いつめるつもりかもしれない。IMFが支援しなければ、パキスタンは中国に全面的に救済をもとめる。中国にパキスタンの財政危機を救うための外貨を用立てる余力はあるのだろうか。

一帯一路戦略によって債務危機に陥っている国は、マレーシアやパキスタン以外にも、ラオス、カンボジア、インドネシア、タイ、ベトナムなどの東南アジア、エチオピア、ジンバブエ、カメルーン、ガーナ、ジブチといったアフリカ諸国に広がっている。借金のカタに建設されたばかりのインフラ利権をもぎ取られる側も悲惨だが、建設途中で資金ショートし、現物回収もできない中国側の銀行や企業の状況もかなり深刻である。

中国体制内学者からも不安の声

実は、一帯一路戦略は中国内部の体制内学者からも、かねてから不安視されてきた。たとえば、元人民銀行金融政策委員の余永定は昨年の8月に黒竜江省で開催された金融フォーラムの席で、「パキスタンへの投資で、収益を得られるのか、元金を回収できるのかは、我々は慎重に考えねばならない」と釘をさした。安邦保険傘下の民間シンクタンクは一帯一路戦略について、数年前から一応言葉を選んではいるが、概念・理念先行で、実体的メカニズムの設計を怠けたハイリスクな戦略と言わんばかりの批判をしていた。

「中国には一帯一路戦略を各地で同時進行できるほどの資源はない。…一帯一路は、完全なるハイレベルの政治的要因から決定しており、戦略的地縁政治的意義は大きいかもしれないが、他の中国の多くの政策と同様、戦略から政策への移行のプロセスにおいて、戦略自体が変質してきた。経済利益よりも国家利益を優先させ、“運命共同体”といった理念や協力発展の概念を提唱するだけで、実体的なメカニズムの設計を回避している。…このままでは、中国はASEANや中央アジアの“ATM”になってしまうだろう。…中国の外貨準備高3兆ドルのうち1・6兆を一帯一路に投じるとして、それを補うための“輸出増大”戦略は、ASEAN諸国などから強烈な抵抗が予想される。…一帯一路の資源は、人民元変動とも関係してくる。人民元価値が下がれば、対外投資の元金が増大するだけでなく、キャピタルフライトに歯止めが利かなくなるだろう。…伝統的な対外投資操作モデルや為替操作モデルでは何ともしがたい規模。最終的にはコントロール不可能な債務を抱え込むことになる…」

そもそも、新疆や中央アジアには民族問題、テロ・治安問題といった政治リスクがあり、さらには人口密度的にも交通インフラの商業運営利益が見込めるようなものでもない。砂漠を横断するような高速鉄道や高速道路の機能維持、メンテナンス費用は考えるだけでも、気が遠くなる話だろう。中国の銀行も企業も政権の意思には逆らえず、不良債権を抱えるとわかっていながら、利益が上げられないとわかっていながら、このプロジェクトにかかわってきたかっこうだ。だが、こうした党内部の専門家たちの意見、提言を無視して、党規約に党の重要戦略として一帯一路の名前を盛り込んだ習近平政権は、その挫折の色が濃くなるにつれて、責任が問われることになる。

ボイス・オブ・アメリカによれば、8月下旬に北京で開催された一帯一路建設推進五周年座談会で習近平は一帯一路が「単なる経済協力の提言であって、地縁政治同盟や軍事同盟を作ろうだとか、閉じられた“中国クラブ”を作ろうとしているのではない。イデオロギーで選別するつもりも、ゼロサムゲームの博打をするつもりでもない」と自己弁護した。

また、「対話を堅持し、ともにウィンウィンの協力関係を作り、お互いを鑑とする原則で、沿線国家の最大公約数的利益を求めて、政治的相互信頼を推進し、経済と人と文化の総合交流を図るつもりである。…今後のプロジェクトは、必要とされるところに迅速に行い、現地の民生が受益するプロジェクトであるようにしてきたい」と、これまでとはトーンを変えて神妙に語ったことから、党内でも厳しい批判にさらされて、習近平自身も多少は、一帯一路戦略の中身を調整するつもりではないか、という憶測も流れている。

ただ、中国国内の一帯一路宣伝は堅持されており、初の一帯一路ドキュメンタリー映画「共同運命」がベネチア映画祭で上映されたりもしているところをみれば、この戦略を縮小したり棚上げする気配は、今のところない。

安倍首相の秋の訪中に集まる注目

では、この債務膨張に悩む一帯一路戦略を中国はどう導くつもりなのか。ここでおそらく期待を寄せられているのが日本であろうと思われる。安倍晋三が日中平和友好条約締結日40周年の10月23日を軸に訪中を調整中であり、その地ならしに8月末に北京で財務相対話が開催され、2013年に失効していた日中通貨スワップ協定の再開に大枠合意している。

今回は3兆元規模と、従来の10倍の規模、中英通貨スワップの規模よりは小さく、人民元の安定化や国際化にどれほどの影響力があるものではないかもしれないが、一帯一路が行き詰まり、米中貿易摩擦に苦しみ、その影響で人民元が急落する中で、日本円とのスワップは、中国をかなり勇気づけるものにはなろう。産経新聞の単独インタビューで安倍晋三が「5月に李克強首相が来日し、日中関係は完全に正常な軌道に戻った」と語ったように、日中関係の回復を象徴する協定といえる。

時期同じくして、外務次官の訪中、日中与党交流協議会の北京での開催と、日中政治交流が続き、9月末には「一帯一路」をめぐる日中官民合同委員会の初会合を北京で開催する。第三国で日中両国企業がともに参加できる一帯一路インフラ案件の整備を進めていると報道されており、具体的には一帯一路の一環であるタイ鉄道計画や、日本が主導する西アフリカに4000キロの道路を建設する「成長の環」計画に中国を参与させることなどが、検討されているようだ。

一帯一路への参加を日本が表明することになれば、地に落ちた一帯一路の評判も、持ち直すかもしれないし、中国はそう期待していると思われる。不透明な一帯一路プロジェクトの資金の流れも、日本が関わることで透明化するのではないか、と言う関係国の期待もある。もちろん中国公式報道では、日本が一帯一路に参与することは日本の衰退を救うことだ、というニュアンスで報じられている。

さて、安倍政権が一帯一路に対して本音ではどのようにアプローチしていくつもりかは、私にはわからない。安倍訪中に同行する経済界訪中団の規模は240人規模に上り、関係者から「一帯一路で、大きなチャンスが日本企業にもたらされる」といった発言を聞くと、本気かと問い直したくなる。いかなる環境でもビジネスチャンスをつかめる企業はあろうが、一帯一路の本質が「偉大なる中華民族の復興」という中華覇権を目的としたものだと考えると、たとえビジネス利益が見いだせても、この戦略の成功に日本として手助けしてよいものかどうか、という気にもなる。

安倍が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は米国、インド、オーストラリアなどともに一帯一路に対抗する中国包囲網戦略と見ていたが、安倍は一帯一路とインド太平洋戦略を連携させるとも発言している。この真意はどこに。

単に、保守政治家のイデオロギーよりも財界の要望を重視しただけなのか。米中対立が先鋭化する中で、日本が独自の存在感や外交を模索しているということなのか。あるいはもっと深い目論見があるのか。様々な予測を念頭に、秋の訪中の行方を注目していこう。

北村記事

3つのダムを一斉に放水した結果、弥川の下流地域で大規模な洪水が発生した(写真はイメージ)

2018年8月15日の午後、沖縄近海で台風18号が発生した。台風18号は東シナ海を北上し、8月16日午後3時には中国浙江省舟山群島の中心、“舟山市”の東方海上195kmに到り、8月17日午前4時5分に上海市“浦東新区”に上陸した。16日夜から17日午前中にかけて上海市の雨量は1時間に50~60mmに達し、局地的には100~150mmに達した。

台風18号を中国では台風“温比亜(ルンビア)”と呼ぶが、台風18号は気象データが残る1873年以来で直接上海に上陸した5番目の台風であり、過去1カ月間に直接上海に上陸した3番目の台風であった。要するに、過去145年間に上海に直接上陸した台風は5個しかなかったのに、その中の3個が2018年7月中旬から1カ月間に集中したというのだから、今年は史上稀に見る異常気象の年と言わざるを得ない。

この台風18号の影響は山東省にも及び、8月18日には山東省の各地で“暴雨傾盆(たらいをひっくり返したような暴雨)”となり、20日まで降り続いた雨は地域によっては1日に200mm以上に達した。“弥川”流域にある3つの“水庫(ダム)”、“冶源”、“黒虎山”、“嵩山”は貯水量が大幅に上昇してダム本体への圧力が増大したため、21日午後6時30分に3つのダムは一斉に放水した。この結果、弥川の下流に位置する“寿光市”で大規模な洪水が発生した。

寿光市は、山東省中北部に位置する“濰坊市”の管轄下にあり、常住人口が117万人の小都市である。現在、同市の産業構造は、第一次産業:11%、第二次産業:43%、第三次産業:46%となり、農業・水産・畜産などを主体とする第一産業は縮小している。しかし、同市はキュウリ、ニラ、ネギ、にんじん、セロリ、トマトなどの特産野菜や、甜瓜(まくわうり)、黄桃などの特産果実を産出し、シジミ、ハマグリ、カニ、シラス、エビなどの水産物でも名高い地域であり、山東省の農水産物の生産基地として機能している。このため、寿光市で大規模な洪水が発生したというニュースが流れると、遠く北京市内の野菜・果物の価格が大きく上昇した。

今回の洪水で寿光市の中心部では大きな被害は確認されていない。被災したのは弥川の下流域の堤防の近い部分に居住する農民や淡水養殖を行う漁民たちだった。彼らは濰坊市水利局が発表したダムの増水による放水通知を知っていたが、まさか21日の午後6時30分に3つのダムが同時に弥川へ放水するとは思ってもいなかったのだ。彼らは夜の暗闇の中で急激に水嵩を増す弥川の変化に気付かぬうちに、洪水に襲われた。人々は命からがら避難することはできたものの、住宅は水に漬かり、畑や淡水養殖池は水没し、壊滅的な被害を受けた。

洪水は人為的なミスによるものだったのか

収穫目前だった野菜や果実はもはや売り物にはならず、鶏は全羽が死亡し、豚の溺死体は耕作地のあちこちに四肢を上に向けて転がっていた。激しい洪水の水流は多数の住宅を倒壊あるいは厳重に損壊させた。また、水は一向に引かず、人々は避難先でひたすら水の引くのを待ち続けた。寿光市政府は避難している住民に住宅の安全検査が終了するまでは彼らの自宅に帰ることを禁止したから、人々の焦りは頂点に達していた。これからどうして生活して行けばいいのか。カネが無いのに倒壊した自宅をどう再建すればいのか。救援物資は少しずつ届き、避難先での生活に問題はないものの、被災した人々には先が見えないというのが実感だった。

3つのダムを同時に放水したことが洪水を引き起こしたことは間違いない事実だったが、それは台風18号による自然災害によるものだったのか、あるいは人為的なミスによるものだったのか。それを論じたとしても、濰坊市政府は人為的ミスを認めるはずがない。

さて、8月23日午後5時、濰坊市人民政府は“防汛救災新聞発布会(洪水防御・災害救助記者会見)”を開催し、メディアに対して洪水災害に関連する情報を発表した。発表会には中国共産党濰坊市委員会副書記で、代理市長の“田慶盁(でんけいえい)”が出席して総合的な報告を行った後に、濰坊市の“防汛抗旱指揮部(洪水防御・旱魃防止指揮部)”、“減災委員会”、気象局、水利局、民政局、さらには寿光市の関係責任者が現状の作業報告を行った。

濰坊市気象局は、台風18号による雨量は同局始まって以来最大、寿光市では最大で1時間に51.2mmを記録、その他地域では1時間の最大降雨量が65.2mmに達したと報告した。また、今年は台風“安比(アンピル)”<台風10号>、“摩羯(ヤギ)”<台風14号>、“温比亜(ルンビア)”<台風18号>が1カ月間に相次いで襲来し、1週間に台風14号と台風18号が連続で影響を与えたことは史上初のことであったと強調した。

濰坊市洪水防御・旱魃防止指揮部事務室主任で、水利局局長の“周寿宗”は、万全の体制で洪水防止に努めて来たことを強調した上で、冶源ダム、黒虎山ダム、嵩山ダムの3つについては、3ダム合計の流入量が4058m3/sec、排出量が1780m3/secという形でダムの貯水量を調節していたが、雨量が多すぎて21日午後6時30分に大量の水を放水してダムの圧力を軽減したと述べた。

「倒壊家屋は9999室」という数字の違和感

続いて報告を行った濰坊市減災委員会副主任で、民政局局長の“張増順”は、洪水による濰坊市の被害状況について次のように述べた。

「台風18号により濰坊市の11カ所の“県”および“市区”が損害を受けた。そのうち、寿光、“青州”、“昌楽”などの7地域では損害が深刻であった。合計で147万人が被災し、すくなくとも13人が死亡し、3人が行方不明だが、このうち9人は車の運転中に溺死したものである。群衆が避難先へ移動する際には死亡者は無かった。今回の災害による“倒汛房屋9999間(倒壊家屋は9999室)”に上り、“大棚(ビニールハウス)”20万個が損害を受けた。台風18号による直接経済損失は92億元(約1520億円)に上るものと思われる」

この記者会見の模様が報じられると、人々は張増順が述べた「倒壊家屋は9999室」という言葉に違和感を覚え、1万より1つ少ない9999が作為的な数字操作であると判断したのだった。

一方、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」は8月24日付の記事で台風18号による山東省の被害状況を次のように報じた。

【1】台風18号「ルンビア」の影響を受けて、山東省は広範囲に大雨に見舞われ、濰坊、“東営”、“泰安”など13市は重大な台風災害に見舞われ、山東省の省レベル災害救助緊急措置を2級に引き上げた。8月23日までの統計で、山東省全体で519万人が被災し、24人が死亡、3人が行方不明、災害による傷病者は6人である。緊急避難者は19万人、緊急生活救助が必要な者は5万人である。農作物の被災面積は62万ヘクタール。災害により死亡した大型家畜は360頭、死亡した羊は1万599匹。倒壊家屋は1万3317室、厳重損壊家屋は1万1043室、軽微損壊家屋は5万8984室。直接経済損失は215億元(約3550億円)であった。
【2】濰坊市の災害状況。18日夜から広範囲に暴雨が降り、20日午後2時までの平均累計雨量は178.7mmに達した。8月23日までの統計では、全市で153万人が被災し、死者13人、行方不明3人、緊急避難者は17.3万人、緊急生活救助が必要な者は3.4万人、農作物被災面積は7.9万ヘクタール。死亡した大型家畜は162頭、死亡した羊は1万125匹。倒壊家屋は1万335室、厳重損壊家屋は8240室、軽微損壊家屋は5万3465室。直接経済損失は175億元(約2888億円)で、そのうち農業損失は56%を占める98億元(約1617億円)であった。

人民日報が報じた濰坊市における死者と行方不明者の数は、濰坊市政府が記者会見で発表した数と変わりがないのに、倒壊家屋は前者が1万335室であったのに対して、後者は9999室であった。どうして濰坊市政府は倒壊家屋の数字を1万室より1少ない9999室にする必要があったのか。9999室という数字は誰が考えても取って付けたような意図的な数字である。それには何か意味があるのか。調べてみると、以下のことが判明した。

(1)2016年3月10日付で国務院弁公室が公布した『国家自然災害救助応急対策』は、自然災害の程度をⅠ級(特別重大)、Ⅱ級(重大)、Ⅲ級(比較的大)、Ⅳ級(一般)と4つに分類している。一般と分類されるⅣ級は、同対策の5.4条に「Ⅳ級措置」の項目があり、その第1項の発動条件には以下の記述がある。

某省(区、市)の行政区域内で重大な自然災害が発生し、一次災害の過程で下記の状況の一つが出現した場合は、Ⅳ級措置を発動する。
A)死者が20人以上、50人以下
B)緊急避難あるいは緊急生活救助を必要する人が10万人以上、50万人以下
C)倒壊と厳重損壊家屋が1万室あるいは3000戸以上、10万室あるいは3万戸以下
D)旱魃災害が食糧や水の不足などの生活困難をもたらし、政府の救助を必要とする人数が当該省(区、市)の農牧業人口の15%以上、20%以下、あるいは100万人以上、200万人以下

(2)5.4条の第2項は発動手順であり、そこには「災害発生後、国家減災委員会弁公室が分析・評価を経て、災害状況が発動基準に達していると認定し、国家減災委員会弁公室の常務副主任がⅣ級措置の発動を決定する」と記載されている。また、5.4条の第3項には対応措置が6つの項目に分けて書かれ、国家減災委員会弁公室が被災地の省(区、市)が行う自然災害救助活動を指導・支援すると明記されている。

中央政府の干渉を排除か

要するに濰坊市政府は、今回の18号台風による災害を国家減災委員会弁公室が救助活動を指導・支援することになるⅣ級措置の発動案件にしたくないから、倒壊家屋の数を9999室として発動条件を満たしていないということにしたものと思われる。端的に言えば、濰坊市政府はありがた迷惑な中央政府の干渉を排除しようと考えたものなのだろう。逆に言えば、Ⅳ級措置が発動されほどの災害が発生するということは、たとえそれが自然災害であったとしても、当該地方政府の災害対策が不十分であったことを意味するわけで、その地方政府の業績に傷を付け、マイナス評価につながると考えたということになる。

当然ながら、Ⅳ級措置が発動されれば、中央政府の国家減災委員会弁公室が自然災害の救助活動を指導・支援するのだから、地方政府が単独で行う救助活動よりも人員、資金、物資の各方面で多大な援助を受けられることになるはずである。それを敢えて拒否する形でⅣ級措置の発動を避けたのは、先々の業績評価を考えたものと言えよう。それ以外には理由が考えられないが、被災した人々のためを考え、彼らの救助を優先するならば、進んでⅣ級措置の発動を要請すべきである。

こうした地方政府の発想はどちらかと言えば普遍的なもので、国務院が2006年1月8日に公布した『国家突発公共事件総体応急対策』は、主要な突発性公共事件を、自然災害、事故災難、公共衛生事件、社会安全事件の4つに分類し、事件の規模によりⅠ級(特別重大)、Ⅱ級(重大)、Ⅲ級(比較的大)、Ⅳ級(一般)と4区分しているが、地方政府は出来る限り災害や事件の規模を小さく報告して、業績への影響を最小限にすることを常に心掛けている。従い、本件の濰坊市と同様に、たとえばⅠ級(特別重大)が死者100人以上なら、実際の数字とは関係なく、数字操作を行って死者99人として等級をⅡ級(重大)として中央政府へ報告するのである。

役人が常に業績を優先し、彼らが“服務(サービス)”する人々を二の次としているようでは、まともな市民サービスは成立しない。そういう役人たちがやることは、常識のある人が考えれば、人災によって引き起こされた寿光市の洪水を、あくまで自然災害によるものと白を切り通すのだ。これも“中国特色社会主義(中国の特色ある社会主義)”が持つ特色の一つなのかも知れない。それにしても哀れなのは、常に犠牲となる庶民である。

役人たちはお粗末な災害対策に「フタ」をして業績を守ったとみられる

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