2017/8/18NewsWeek<クロスドメイン(領域横断)攻撃は、戦闘を第二次世界大戦時に立ち戻らせる>クロスドメインとは、「例えば、陸軍の敵は陸軍ではなく、敵の海軍であり、空軍であり、宇宙軍であり、サイバー軍なのである。軍種を超えた戦闘が未来の戦争になる」の意味です。
https://www.newsweekjapan.jp/tsuchiya/2017/08/post-22.php
5/24自民党政務調査会<新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定に向けた提言 >
https://jimin.jp-east-2.os.cloud.nifty.com/pdf/news/policy/137478_1.pdf
8/24日経<新防衛大綱、キーワードは「クロス・ドメイン」
政府は今年末、長期的な防衛力整備や運用の基本方針を示す防衛大綱を改定する。大綱は「基盤的防衛力構想」「統合機動防衛力」など時代に即した概念を打ち出してきた。今回は、自民党が陸海空の自衛隊の枠を超えて宇宙・サイバー分野にも対応する「クロス・ドメイン(多次元横断)」を提言。政府は「領域横断」と表現する。クロス・ドメインは新たなキーワードになりそうだ。
大綱見直しは2017年8月、安倍晋三首相が小野寺五典防衛相に指示した。首相は「従来の延長線上ではなく真に必要な防衛力のあるべき姿を見定める」と語ってきた。今回、論点になるのは、これまで「戦場」として想定されていなかった宇宙やサイバー防衛、電磁波を扱う電子戦、の3分野への対応だ。
宇宙分野では、中国やロシアが人工衛星を破壊する兵器の開発を進めているとされる。米国は新たに「宇宙軍」を創設する。ロシアはサイバー空間で大規模な攻撃をたびたび仕掛ける。航空機や艦船がネットワークでつながる現代戦は、電磁波を使い相手の通信網を妨害する電子戦の能力は役割を増す。
自民党安全保障調査会は環境変化を踏まえ、5月に提言で「クロス・ドメイン防衛構想」を打ち出した。巡航ミサイルや航空機などへの対応を一つのシステムで処理する「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」の整備を明示。陸海空の自衛隊の運用を統括する「統合司令部」の設置も求めた。
防衛大綱を政府が初めて策定したのは三木武夫内閣時の1976年だ。この時に掲げたのが「基盤的防衛力構想」。日本が周辺地域と比べて力の空白にならないよう自衛隊をまんべんなく配備し必要最小限の防衛力を備える考え方だ。当時は冷戦のさなか。ソ連の着上陸侵攻を想定し、抑止力を重視したものだった。
大きく方向転換したのは民主党政権下の2010年の大綱だ。中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル開発などを踏まえ、自衛隊の配備が手薄だった南西諸島の防衛力整備を柱とした。「動的防衛力」として、抑止力ではなく、有事などに対応する対処能力の強化へと冷戦期の発想を一新した。
再び自民、公明両党の政権に戻り安倍首相のもとでまとめた13年大綱では「統合機動防衛力」を提唱。陸海空3自衛隊の一体運用に取り組む姿勢を鮮明にした。機動力を高め、離島に侵攻された場合などに迅速に対応することに力点を置いた表現だ。
自民党提言をとりまとめた中谷元・安保調査会長は「統合機動防衛力はかなり整備することができた」と指摘。「クロス・ドメインは軍事分野では世界共通の言葉だ。自衛隊もいち早く時代に対応すべきだ」と語る。防衛省は、19年度予算案の概算要求の基本方針で、クロス・ドメインを領域横断と訳した。大綱で打ち出す新たな概念にも、こうした考え方を取り入れる構えだ。>(以上)
8/23阿波羅新聞網<谈判前夜 北京让一步 川普顾问报告:“中国大崩溃”=交渉前夜 北京は譲歩する? トランプの顧問は“中国は大崩壊する”と>貿易戦争が絶えず拡大して中国経済は益々おかしくなった。IMFは今年に入ってから「中国から融資を受けた43ケ国の事例の内、経済停滞や金融危機に陥っていない国は5ケ国のみである」と述べた。金融緩和、財政支出の悪化は中国の債務状況を困難な立場に置き、企業や個人のローン市場を圧迫している。海通証券首席経済学者の姜超は「市場は滞り債権が膨れ上がるリスクを心配している。株式、債券、人民元はこの数週間ずっと下落している」と述べた。
貿易交渉の前に、米国は中国の弱点に焦点を合わせた。クドローは先週、「中国経済は見た所、極度におかしくなっている」と話した。
7月末、レーガン時代の経済学者でトランプの顧問のアーサー・ラッファーはWHに経済分析を提出、題は{中国大崩壊}と。その中に「米国の対中関税賦課は中国の50年に亘る経済成長を脱線させる巨大なリスクとなろう」とありました。
外部から見ると貿易交渉が合意に達するのは難しく思える
ワシントンの保守派のシンクタンクの研究員は「米国財務省は、貿易問題は管轄外。次官と言うのも重視していない現れ。人民元のレートと中国の対米投資制限の話題くらいでは」と述べた。
ワシントン国際戦略センター副主任はツイッターに「見た所、両国政府は時間を無駄にしている。誰が、財務省が交渉合意の授権を受けて、貿易戦を終わらせられると思っているのか?」と言った。
中国の経済学者の陳龍は「南華早報」の中で、「副総理の劉鶴とムニューチン長官が話し合って合意できなかったのに、次官クラスが話しても突破することはできない。成功できるとすればトランプ・習会談だけである」と。
用田氏の記事では、今の戦争のやり方と対中戦に向けて南西諸島の死守の重要性について、説明が簡潔で理解が進みました。8/20本ブログでも渡部悦和氏の記事(北村淳氏の「陸軍は削減して常設の「災害救援隊」を置く」ことに対する反論)を紹介しましたが、それに続く記事で、陸軍とクロスドメインの重要性を認識させるものです。広く国民に読んで戴きたいと思います。
http://dwellerinkashiwa.net/?p=9696
記事
ロシア軍に実戦配備されている電磁砲車両。
1 繰り返す不思議な海空重視議論
繰り返す不思議な海空重視議論は、5年前の防衛大綱の時も激しかった。
それは「海空自衛隊が健在であれば、日本の防衛は盤石だ」「陸上自衛隊は人数だけは多いが、有事役に立たない無駄な組織だ」というものだ。
そして、「陸自から予算と人を巻き上げ、海空自に投資すべきだ」という議論が噴き出し、防衛省もその議論に引っ張られたことだ。
それは間違っている。間違っている以上に、この国の防衛を弱体化し、同盟国として共同作戦を行う米国の期待を裏切る亡国論である。
そもそも平時と有事における陸海空自および米軍の役割や態勢そして軍種の動きの違いが分からないことから、これが誤解や混乱に拍車をかけている。
論ずべきは有事の役割と態勢、動きである。後述するが日米とも、平時、有事では全く異なるのである。
それなのになぜ、議論を矮小化し陸海空のシェア争いに結びつけるのだろうか。どこの国でも、自国の脅威が増大すると国防予算を大きく増額するものだ。
10年単位でみると、軍事的脅威の「本丸」である中国は、確実に米国をアジアから追い払うことに専念している。
一方の米国はこれを許すまじと、過去9年で最大規模となる80兆円(日本の平成30年度国家予算の82%相当額)の国防予算を決め、すでに本格的な貿易戦争を開始している。
この間、日本よりもはるかに脅威が少ないNATO(北大西洋条約機構)が軍事費をGDP(国内総生産)比2%に増額しようとしている。
しかし、アジアでは日本だけが防衛費を1%程度に抑え、実態のない日中関係改善に浮かれ、中国が世界的覇権を目指す「一帯一路」に協力しようとしている。
これは日米同盟を基軸とすると言う日本の基本政策に逆行していないだろうか。
つい最近の保守系の大手新聞の論説では、防衛費を1%以上にするのは現実的ではないと述べている。この新聞は中国の脅威と言う現実を見ないで論説をしているということだ。
「国破れて山河が在り」で何の意味があるのか。抑えるなら底知れない社会保障費であり、教育の無償化に代表される大衆迎合政策こそ糾弾すべきであろう。
さらに、世界に冠たる技術力と技術者が日本に存在しながら、これを国の宝と思わず海外に放出し続けていることが、日本を停滞させ国防を危機に陥れている現実を理解していない。
また、10年後の朝鮮半島は、最悪(軍事は最悪に備えるもの)を想定すれば、反日、親中、反米国家が生まれている可能性が高い。
その場合は、日本の南西諸島防衛の範囲を対馬、佐渡島、北海道へと広げなければならなくなる。こういう考え方が戦略の基本になるものであるが、日本では誰もそんなことを論じない。
なぜそうなのか?
この議論の背景には、しょせん防衛は飾りであって誰も日本を軍事的に占領しようなどとは思っていないと言う勝手な思い込みと、防衛は他人事だとする当事者意識のない日本人の考え方がある。
また、国民を抑圧し、軍事的覇権を露わにしている中国を友好国だと勘違いしている人たちも少なくない。
さらに、日本が置かれている逃げようのない地理的な特性、すなわち、米国は主敵とする中国とは太平洋を挟んで時間的にも空間的にも余裕がある一方、日本はミサイル時代で一段と狭くなった東シナ海を挟んで中国と対峙していることを、全く考慮に入れていないのではないか。
そのうえ、米国の傑出した「少数の戦略家」が考えた米国の対中戦略の基本も全く無視している。無視しているとは、知っているということである。
ちなみに米国では、大学でもどこでも軍事について教え、研究していることから一般の学者、研究者のレベルは高く、戦史の研究もはるかに日本よりも進んでいる。
いつまでたっても「軍事忌避」「軍事音痴」の議論しかできない日本の学者、マスコミ、官僚などとは比べ物にならない。
渡部元東部方面総監や陸海空の将官OBとともに、4年前米国の戦略予算評価センター(CSBA)や 国防大学(NDU)、海軍大学(NWC)を訪問し議論した時は、確かに国家の戦略・作戦を考えている人たちとはこのような人たちだと感動したものだ。
そこでは若い大学生のインターンが我々の議論を興味深く聞いていたが、このようにして戦略家を育てているのだと感心させられたものだ。
その中心にあるのがCSBAであり、ランド研究所もCSBAの考え方を基本として米軍の戦略・戦術や勝ち目と考える新装備について研究している。
海軍大学で陸自の地対艦ミサイル(SSM)や防空ミサイル(SAM)を配置する南西諸島防衛を高く評価し、海軍戦略と結びつけたトシ・ヨシハラ氏は、CSBAに転職している。
そこで作られた改良エアシーバトル(ASB)と相殺戦略(オフセットストラテジー、OSS)こそが、米国の軍事戦略・戦術の骨幹である。
しかし、「空母は敵に発見されやすく撃破されやすい」「宇宙ももはや米国にとって聖域ではない」など、なぜかその前提となった厳しい戦略環境の認識については、不都合な事実として日本の防衛省や外務省、財務省などでは語られることがない。海空重視論の邪魔になるからだろう。
今最も進んでいる米国の中心的な戦略・戦術は、CSBAが構想する改良ASBと、これと一体となったOSSである。
改良ASBでは、海兵隊を含む海空戦力は中国との開戦当初、グアム以東に一時的に後退するとともに、核戦争になることを抑制するために中国本土への攻撃は控える。
そして、長距離攻撃と数か月から1年を視野に入れた長期戦(海上封鎖を含む)に勝ち目を求める。また、水中の支配作戦と電子戦などの非物理的手段による盲目化作戦を重視する。
これに加え、海軍にあった「War at Sea Strategy(WASS、核戦争を回避するため中国本土への攻撃を行わず、主戦場を海洋に限定し、潜水艦を含む軍艦を沈めることで勝利する)」と、これを発展させたと考えられる米海軍のDistributed Lethality(広域に分散し、中国よりも長距離から多数の対艦ミサイル攻撃により艦船を沈める)が、ハリス元太平洋軍司令官が提唱した「船を沈めよ」という考え方に集約されている。
すなわち、中国本土を直接攻撃しなくても、中国艦隊を撃滅すれば中国の軍事的覇権の意思を断念させることができるとするものだ。米国の軍事戦略の基底をなすものはこれであると断言できる。
ここで大切なのは、平時と有事では米軍の態勢、動きは全く異なるということを理解することだ。
政治的配慮もあり、米軍も日本有事にはすぐに駆けつけて自衛隊と一緒に戦うと言うだろうが、実態は中国の巨大な軍事力の行使の前に、生き残り勝つための戦略を冷徹に追求するのである。
米側は、現実的な議論を望んでいるが、日本の官僚は不都合な事実を知らされておきながら、日本に与える衝撃が大きいとして言及しないように米側に頼んだと聞いている。
その中でも、CSBAは一様に有事の陸自による南西諸島防衛の考え方を絶賛し、米陸軍も陸自に学ぶべきだが、米陸軍は拒否していると言っていた。それが、ハリス元司令官の号令で実現したのである。
陸自が米海軍のリムパックに参加して、55海里(約100キロ)沖合のLST Racineに対しSSMを命中させた。
Foreign Affairs誌が「第1列島線に陸上部隊を配置すれば中国は作戦を変えなければならなくなる」とする記事を掲載したように、南西諸島に陸上部隊を配置すれば中国の自由な動きを阻止することができるのである。
米陸軍も陸自に追随していることは、米国の有事の基本戦略は脈々として生き、現実化している証拠だと考えている。そして、陸自は世界に先駆けて新しい「陸軍」へと脱皮し続けているのである。
また、詳しくはここで述べないが、米軍の各種対艦ミサイルは、陸自のSSMとSAMを中心に構築される南西諸島の「阻止の壁」に守られて飽和攻撃を繰り返すことになる。
すなわち、南西諸島の作戦の成否と持久力に米国の対中国軍事戦略・作戦の成功のカギがあるということだ。これはCSBAも認めたことでもある。
2 陸海空が領域を跨ぎ、いかに統合して戦うかが本質
筆者は陸自だけに肩入れするつもりはない。しかし、海空自は「動的戦力」であり、陸自は「静的、基盤的戦力」である特質は不変だ。
空自は、強烈な瞬発力・破壊力を持ち、海自は粘り強い作戦に適している。
一方、空自は滑走路が多数なければ戦う前に壊滅する危険がある。ミサイルが有効射程を伸ばし精密度を上げ、センサー類の感度が向上した海はもはや広い舞台ではない。
また、海原には艦船の隠れる場所がなく、海自艦艇は洋上では常に攻撃の的になると同時に、搭載した弾薬がなくなれば、敵のミサイルの射程圏下の港に帰り補給しなければ戦い続けることができない。
陸自は、いったん展開してしまえば機動力と地形地物を生かして生存し戦い続けることができるが、島嶼への展開能力が劣ると同時に、弾薬補給に問題がある。
従って、それぞれの特色を生かしつつ、また、欠点を補いつつクロスドメイン(領域横断)で力を合わせなければならない。
これを前提として米国が同盟国・友好国に期待する軍事的役割を理解していただきたい。
CSBAの構想によれば、同盟国・友好国には
(1)「潜り込む不正規軍による攻撃の破砕」
(2)「同盟国によるA2/ADネットワークの構築」を期待し、
米国は
(3)「遠距離作戦」
(4)「封鎖作戦」を実施し長期戦で勝利を追求するとしている。
(1)は、クリミアにおいてロシアが階級章をつけていない「軍人」や民兵(Little Green Men)によるハイブリッドな戦いを指しており、NATOはこれを新たな脅威として認識している。
中国に当てはめれば、海上民兵(Little Blue Men)や快速反応部隊の特殊作戦としてとらえることができる。これへの対処は陸自の役割として後述する。
(2)は地上発射型のSSMやSAMを中核とし、海空の対艦ミサイルを統合して対空、対艦の「阻止の壁」を作り、太平洋に中国艦隊や爆撃機などを進出させないことを同盟国に期待している。
自衛隊の追求する南西諸島防衛は、見事に米国の戦略と合致したのである。
ただし、護衛艦の対艦ミサイルの射程は短いため、役割とすれば南西諸島の太平洋側で機動的に「阻止の壁」を埋めることしかできない。
また、空自の対艦ミサイルは陸の静的なミサイルと連携して決定打となり得るが、航空優勢の帰趨次第では決定的な時期と場所にミサイルを集中できない欠点がある。
結局、地上発射型のミサイルが確実に生き残り、攻撃の基点になるということである。これは机上の空論ではない。
従って、日本に島嶼部からの長射程の対艦、対空の壁を作られることは、中国にとっては致命的であり、このため、米国とことを構えるときには、日本の意思に関係なく中国が必要と考える南西諸島の島嶼群には、地上部隊による中国軍の侵攻があると考えるのが当然である。
中国は、南シナ海の人工島に対艦・対空ミサイル、電子戦部隊を配置しいている。
そのままの態勢を東シナ海にも作り、自由に南西諸島やバシー海峡を抜け艦艇、航空機を太平洋に進出させ、直接、東京を攻撃したり、グアムを攻撃できるようにするのが中国の野望である。
3 有事の現実を見据えた防衛態勢の構築
今まで日米の戦略・作戦から、いかに陸自が重要な位置にあるかを説明してきたが、ここでは少し視点を変え、有事の現実を見据えた防衛態勢の構築について述べることとする。
(1)平時と有事の日本の防衛態勢は全く異なることを理解すべきだ。
すなわち、平時、海空自は東シナ海や日本海を自由に飛び、警戒監視を実施しているが、有事は無人機や潜水艦などを除き、海自の艦艇や空自の戦闘機は東シナ海に入ることすら困難であろう。
入れば即、決戦である。米軍が大きく態勢変換をするならば、海空自のみで緒戦を戦い抜くことは困難である。
それも2か月程度の日本にとっては長期戦である。唯一、展開できた陸自が緒戦は全力で戦い、海空自や米軍の戦う土俵を作り、その行動を支援することになる。
イージスアショアを陸自が装備化することは正解であるが、機動性のあるBMD能力も必要であり、戦いにおいては静と動の組み合わせこそ重要である。
一方空自は、日本の多数の民間飛行場に平時から弾薬・燃料等を備蓄して使えるようにしておかなければ万事休すである。米空軍もグアムなどに転進するだろう。
また、平時の訓練のために必要であっても、有事、虎の子の水陸機動団を海上で遊弋させることなどは自殺行為だ。
米空母も日本近海から遠ざかり、米強襲揚陸艦も当然転進するだろう。そのような時に中国のミサイルや潜水艦の餌食になることは避けなければならない。
有事、平時をしっかり切り分けてもっと議論を深めるべきである。ましてや、米国から導入した水陸両用車AAV7は南西諸島の島嶼の70%以上を囲むサンゴ礁を乗り越えることはできないのである。
(2)中国軍のミサイルの飽和攻撃による致命的な損害を回避するため、米空母打撃群は第2列島線以遠へ退避するが、海自の艦艇も例外ではあり得ない。
そのように、米軍が態勢変換をする中、海自はどのように領域防衛の役割を果たすのかの議論が見えない。
もちろん、米軍が実施する海上封鎖やシーレーンの防衛を果たすのは海自の重要な役割として理解できる。
しかし、南西諸島や日本列島の一部でも中国に占領されれば、国土防衛は破綻するし、米国もすぐには決戦に打って出ることは困難になるだろう。
どのようにして日本版A2/ADの維持・強化に貢献するのか、軽空母の保有は悲願であっても、中国の対艦ミサイル脅威の下で、どのように生き残り、統合作戦に組み込んで戦うのかが明確ではない。
中国も米国に対して「非対称の軍事力」で対抗しようとしている。日本も同じではないか。中国と同じような道を辿っていては、中国に打ち勝つことなど永久にできはしない。
その中でも米国は「水中の支配作戦」に大きな勝ち目を見出している。そして、日本の対潜水艦戦能力に大きな信頼を置いていることは間違いない。
原子力艦「的」な潜水艦の開発・装備化や米軍からの攻撃型潜水艦の購入など、思い切った施策が必要なのではないだろうか。
この際、対潜水艦戦においても島嶼部の陸自の役割が大きいことを理解しておく必要があろう。
南西諸島は、中国の艦船・航空機にとってチョークポイントと称する隘路を形成しており、島嶼部に陸自部隊を配置し情報収集するだけでも軍事的意味は大きい。
そのうえ、対潜水艦戦において日米が絶対的に有利なのは、単に日米の潜水艦とその乗員の能力が高いだけでなく、水上の護衛艦とP3C、P1などの潜水艦キラー機との連携により中国潜水艦を確実に捕捉し撃破できることにある。
まさに、陸自が島嶼部に沿って海自の航空機や空自の戦闘機のために幅広い安全地帯を提供することによって、海空自の能力が最大限に発揮されるのである。ここにクロスドメインの本質がある。
現防衛大綱でも防衛省は航空優勢および海上優勢を確実に維持するために海空領域の能力強化を謳っているが、現実、中国軍の大増強の前に、海空自の微々たる増強だけでそれを為し得ると合点するのは甘い考えだ。
むしろ生き残っていかに戦い続けられるのかが大きな課題である。
そして、クロスドメインを謳っているのならば、動的で破壊力は大きいものの、確実性に欠ける海空自と、それに戦う土俵を提供し、確実に「船を沈める」作戦に主体的な役割を果たせる陸自を一体化した戦力の増強・近代化を図るのは当然のことであろう。
(3)平時、海空自がミサイルデェフェンス(MD)の主役を担ってきたが、有事のMDについての考察は不十分である。
確かに平時の警戒監視や情報収集は極めて重要であるし、抑止力を発揮するために、海空自が日本海や東シナ海に展開する意味は大きいが、本当の抑止力とは、有事、MDが十分に機能するかどうかにかかっている。
中国有事では、海自艦艇が潜水艦を除いて東シナ海に展開することは困難だろう。なぜなら、すでに中国は東シナ海、南シナ海に海空軍に支援された重層的な対艦ミサイル網を構築し、強化し続けている。
さらに、グレーゾーン事態においても、武力行使の法律もない日本を尻目に、中国海警局を中国の最高軍事機関である中央軍事委員会(主席・習近平国家主席)の統轄下にある武装警察部隊(武警)の指揮下に入れるなど、戦う体制を整えつつあるからだ。
すなわち、MDの一枚看板であるイージス艦の活動は東シナ海では大きく制約され、平時のような前方配置の態勢が困難になるだろう。
陸自がイージスアショアを装備するのは、単に海自の負担軽減だけではなく、地上発射型のMDこそが生き残り、戦い続ける可能性が高いからだ。
MDについては、今までの繰り返しになるが、米国は、ミサイルでミサイルを撃破するMDは、平時、一部のならず者国家が発射する数発の核ミサイルを破砕するためのものと考えている。
中国やロシアのような多数のミサイルを、一度に発射し、これを繰り返してくるミサイル攻撃(飽和攻撃)には無力であるとして、レーザ兵器、マイクロ波兵器(電磁砲)、レールガンなどの開発に10年程前から本腰を入れている。
これに、電波妨害を含んで「盲目化作戦」と称し、細部は日本にも教えないが、対中の決定的な作戦として位置づけている。
確かにイージスアショアもイージス艦も、敵のミサイルを迎撃するために保有する意味はあるが、確実性に欠け、数十発を何回にも分けて攻撃する飽和攻撃には耐えられないし、必要なミサイル数を揃えるためには莫大な予算が必要になる。
それらを最後の手段としてカバーするのが、陸自が保有し巡航ミサイルを落とせる世界で唯一の短・中距離SAMである。
現状では、北朝鮮の数百発のミサイルですら日本国民は守られていないが、その現実から目を背けてはいけない。
日本にも物理的な弾による迎撃だけではなく、日本流の「盲目化作戦」が必要であり、そのための「小型で強力な電源」を含めた技術はすでに「日本の民間」にある。
米国も中国も追い求める「小型で強力な電源」は、日本のエネルギー改革の切り札ともなるものだが、日本政府は、米国に売ることを認めており、米国の軍事産業は最強の最新兵器の装備化にまい進している。
このままでは、日本はまた米国から高額な盲目化作戦兵器を買わされることになるだろし、米軍事産業は、中国にも売るつもりだ。日本由来の技術が米国を潤し、中国がそれを買い日本に立ち向かう。実にお笑いだ。
ロシアはすでに300キロ以上をカバーできる電子戦(電波妨害)車両を保有しており、さらに射程20キロ程度の航空機やミサイルを撃墜できる電磁砲車両を保有している。
ロシアはクリミア紛争でも使用した模様で、この分野では米軍は後れを取っているといわれている。
電子戦(電波妨害)車両と電磁砲車両は、MDシステムよりも数十分の1以下の安価で、広域を防護することができる。この2つのシステムがあれば、地上、空中、海上発射のミサイルや人工衛星などを妨害あるいは電子的に破壊することが可能となる。
日本は既にその分野での基礎技術を持っており、数十台の電磁砲、電波妨害車両を日本中に配置すれば、いわゆる電磁バリアーが完成し、初めて国民全員を守り、有利に国土防衛作戦を遂行することが可能となる。
車両化するのは迅速に重要作戦正面に移動すると同時に、動くことで生き残り戦い続けるためである。
まずは、全国民・国土を守るために生存性が高く、移動型でも固定型でも作れる「地上発射型」でなければならない。
そこから小型化して空中や海上型に発展させることが可能となるだろう。加えて電磁砲の「弾」は無尽蔵であり、補給を必要としない画期的な装備になるであろう。
恐らく米軍は、空中・宇宙からの盲目化作戦を実行するだろうから、極めて効果的な組み合わせになるだろう。
日本のMDでは、この基盤的で新らしい非物理的な電磁の壁を、SSM、SAM、イージスアショアなどの物理的な弾の壁と組み合わせることにより、世界に類を見ない日本流のMDが完成するだろう。
そして、その防壁の中で海空自は伸び伸びと作戦を遂行することができるのである。
防衛省よ、国民を守り切る意思があれば、直ちに、これらの装備化に向けて予算をつけるべきだろう。
安価でかつ世界一の防衛システムに投資することが生きた防衛予算の使い方であり、使命である。旧来の陸自に決別する意味でも、陸自の改革を支援していただきたいものだ。
(4)海上民兵については既に述べたが、武装漁民だけが侵攻してくると考えるのは誤りである。
確かにそれも使う。しかし、南西諸島を占拠するためには、漁船を使って精強な部隊、空挺や海軍歩兵などの快速反応部隊をまず真っ先に上陸させるだろう。
中国は公式に200~300隻の漁船で1個師団を輸送すると言っている。恐らく6000~7000人の精強部隊が、島嶼のあらゆる港から一挙に上陸するだろう。
チェチェン紛争時、当時のロシア歩兵部隊は訓練ができておらず、何時まで経っても制圧できないでいた。
そこで、最終的にウラジオストックの海軍歩兵を連れて行ってチェチェンを制圧することができたのである。
中国も緒戦に勝つことには必死であり、必ず精強部隊を使うだろう。空挺がパラシュートで降りなければならないと言う戦時のルールはない。
その南西諸島には、陸自のおおよそ半分の戦力を展開させなければならない。
本土に残るのは現有戦力の半分以下だ。そんな時に国内では、中国の留学生も旅行者なども命令があれば軍務に服さなければならないという中国の国防動員法に基づき、有事になるとあちこちでテロ、妨害・破壊活動が頻発するだろう。
当然その中には中国の特殊部隊も紛れ込んでいるだろう。
日本は観光立国を目指すが、このような脅威に何の対抗手段も法律もない中で、大混乱に陥るだろう。
韓国では、十数人の北朝鮮特殊部隊が侵入してきた時に、5万人以上の韓国軍を投入したが、結局全滅させることはできなかった。
南西諸島でも陸自は手薄、本土でも手薄な状態が有事の現実だ。
こんな状況で陸自を減らせと言えるのが不思議だ。国民を守ることに本気でないこの国の現状が、陸自を削減して海空に回せと言う無責任な議論を放置しているのではないだろうか。
4 大国に挟まれた軍事小国の生き残る方策とは
戦後73年を過ぎようとしているのに、まだ日本は自立した防衛力を持つ自信に欠けている。
少なくともドナルド・トランプ米大統領は、世界に向かって自らの国は自ら守れ、そうすればいざとなった時には助けてあげようと発信しているのに、日本だけが反応が鈍い。
早くトランプ大統領に退場願いたい人たちもいるだろうが、残念ながらトランプ大統領が退場しても、次は中国が日本を飲み込むのか、米国とともに立ち向かうのかの選択を迫られるだろう。
日本は陸海空自の役割と特色を生かしてさらに時代に適した防衛力へと脱皮し、発展させていかなければならない。
その中で、一番脱皮しようとしているのが陸自である。戦車と歩兵が中心であったものが、大胆に形を変え、即応機能を強化し、さらに電磁の世界の戦いで主導権を取るべく大胆に変身しているチャレンジの姿をぜひ見ていただきたい。
かつて、戦車兵であった筆者も陸自が新しい流れを加速することを強力に支持している。
時代が変わらんとするときに、中国もほくそ笑む旧態依然たるシェア争いしか生まない海空重視と陸自軽視の議論はあまりにも虚しく悲しい。
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