6/29号『TIME』アジア版(蔡英文特集)日本李登輝友の会台北事務所翻訳記事について

外省人のメデイアである「中国時報」は洪秀柱が出馬候補になった途端、洪をヨイショ、蔡英文をくさす記事を載せていました。馬英九よりも統一派だからで、さすが中国人、分かり易い。アメリカもやっと国民党が中国人の政党と言うのに気付いてきたというところでしょうか。中国がアメリカの覇権に挑戦しようというのに、中国との統一派が実権を握ったら困るでしょう。

だからと言って露骨に独立を言って中国の武力介入もアメリカとしては避けたい。選挙で選ばれた政体が漸進的に実質的に憲法改正をしていけば良いと思います。中国は香港の行政長官の選挙でも約束を反故にしています。心ある香港人は台湾に移住するかも知れません。中共のスパイになる危険性もありますが。

中共は外省人経営のメデイアを使って、蔡英文の誹謗・中傷記事を書かせるかもしれません。また、大陸に居る台湾ビジネスマン100万人に帰省旅費を渡し、国民党に投票させるでしょう。これは間違いありません。でも総統選では洪秀柱と比べ、蔡英文の知名度が高いので勝つでしょう。同日行われる、立法委員選挙で勝たないとレイムダックになります。民進党はこちらにも力を入れないと。

記事

民進党の総統候補、蔡英文主席が、米誌『TIME』アジア版(6月29日号)の表紙を飾っている。

同誌は巻頭記事として同誌は巻頭記事として「中華圏唯一の民主主義を率いるのは彼女か。それが中国にとって頭の痛いところだ」と題する密着記事も掲載、その素顔に触れた。

本会台北事務所では日台関係に関心を寄せる本会会員の参考に供するため、大意の日本語訳を行った。なお、原文は、民進党によって各台湾メディアに提供され、全文が公開されている。

「中華圏唯一の民主主義を率いるのは彼女か。それが中国にとって頭の痛いところだ。台湾次期総統候補、蔡英文かく語りき。有権者の支持は?」

 蔡英文の朝食。彼女はフライパンにベーコンとともに卵を5個落とし、厚めに切ったトーストに載せていく。英国の名シェフ、ジェイミー・オリヴァーのレシピだが、蔡英文は言わずにはいられないとばかりに「食材は全て台湾産」と言う。ベーコンは彼女の自宅に近い「幸福豚」農場で購入したし、トーストも近所のパン屋から。蔡英文は記者にオレンジを手渡しながら英語で言った。「すべてオーガニック、そして台湾の食材よ」。

 とはいえ、これが58歳の彼女の毎日の平均的な朝食というわけではない。ほぼ毎日、一杯のコーヒーを片手に迎えの車に乗るのが常であり、それが彼女のスタイルでもある。台北育ちで英米留学、博士論文は国際貿易法をテーマとした。大陸委員会主任委員、民進党主席、総統候補(2012年の総統選挙では、僅差で馬英九に敗れた)と歩んできた彼女には、コーヒー片手に貿易保護政策を語るような学者出身というイメージが定着している。

 目下、来年の総統選挙の大本命とされる彼女の未来像は自信に溢れ、台湾を利益の核心として強調することにいささかの躊躇いもない。彼女は「両岸関係は現状維持」と明言し、台湾の運命は未来にその決定を委ねると言う。

 ただ、彼女のビジョンでは台湾の経済、国家の発展、文化が最優先だ。馬英九政権が中国との貿易や観光を推進した際(台湾の輸出先は中国が40%を占めている)、蔡英文は、中国への依存を軽減するには、よりグローバルな繋がりを模索し、台湾ブランドを確立させるべきだと批判した。彼女は記者に言う。「経済には新しい台湾モデルが必要なのです」。

 彼女が有権者の支持を得るカギは、台北だけを見ていてはわからない。台湾は国土が小さく、人口は2300万足らず。とはいえ、電子産業、農業、観光業を基幹とする台湾経済のGDPは世界でも20位台にランキングされている。一人あたりのGDPは実に中国の三倍である。

 台湾は1894年から95年にかけての日清戦争によって清朝から割譲され、半世紀にわたって日本の植民統治を受けた。その後、国共内戦に敗れて敗走してきた国民党による統治を受けることになる。台湾は長期にわたり、この地域で将棋の駒のような役回りを引き受けてきたのだ。米国の東アジア政策では、台湾、日本、韓国、フィリピンが要であるが、より重要なのは台湾が中華圏における唯一かつ本物の民主主義を有していることにある。作家であり、前文化部長(文化庁長官に相当)の龍應台は言う。「台湾の経験があるからこそ、世界は中国が変われるのでは、と期待できるのだ」。

 台湾の政治は時に中国を怒らせ、苛立たせる。中国共産党は、台湾は中国の失われた領土の一部と主張する。台湾の存在は、仮に中国共産党がチベットは新疆ウイグル、香港への締め付けを緩めれば、これらの地域も台湾のようになるぞ、と示唆するものである。

 中国が何より憂いているのは、親中の馬英九率いる国民党政権から、中国に懐疑的な蔡英文の民進党へ政権交代が起きる可能性が大きいことだ。2012年の総統選挙では、中国は直接の名指しはせずとも、明らかに蔡英文を指して「トラブルメーカー」「分裂主義者」と大きく非難した。これらのフレーズは、共産党においては、ダライ・ラマ級の人物を非難する最高レベルである。上海交通大学国際公共関係学院で台湾研究が専門の林岡は「民進党=両岸関係が不確実になるということだ」と述べる。

 米国は、台湾関係法に則り、仮に台湾が武力攻撃を受けた場合、台湾を防衛する義務がある。台湾は米国にとって正式な同盟国ではないものの、長期にわたる友邦であるが、その友好関係の強さが中国の発展によって試されている。米国は正直なところ、台湾の、特に若者たちが中国への警戒心を高めていくことに頭を痛めている。台湾と中国が衝突することになれば、自ずと米国も巻き込まれることになるからだ。

 『台湾はなぜ重要か(Why Taiwan Matters)』の著書がある米ノースカロライナ州デビッドソン・カレッジのシェリー・リガー教授曰く「今回の選挙では、民意が変わってきたことを反映して、あらゆる変化が具体化されることになるだろう。両岸関係はもはや楽観視できる方向ではなく、米国が希望しない方向に流れるだろう」。

 まだ正式な指名ではないものの、国民党の総統候補者は恐らく洪秀柱・立法院副院長(67歳)になると目されている。小柄ながら勝ち気な性格のため「小とうがらし」と呼ばれる彼女が、党の指名を受ければ、学者の雰囲気を漂わせる蔡英文とは対極的な存在になるだろう。

 洪秀柱は記者に対し「蔡英文が強力な相手だとは思わない」と言っている。しかし蔡英文はすでに意気軒昂で台湾各地で選挙活動を展開している。蔡英文曰く「私のことを保守的だという人もいます。でも実際は結構冒険好きなんですよ」。彼女には間違いなくユーモアのセンスがある。記者が彼女の料理の腕前を褒めたときも、怒ったふりをして言った。「私は博士号持ってるのよ」

 蔡英文は台北の中山北路で育った。この街は、革命によって清朝を倒し、国民党を創設したことで国父として崇められる孫文の名を冠したものだ。蔡英文の父親は車の修理工で、後に土地開発の分野に転じた。父親は儒家思想を強く持ち、蔡英文の学問を後押ししたが、一方で末っ子の彼女を手元においておきたいという希望もあったようだ。彼女も「子供の頃、私は決して未来を嘱望されていたわけではないと思う」と話している。

 台湾大学を卒業すると、彼女は米コーネル大学で法律を学ぶ。彼女によると、ここは「革命的な生活」を夢見た若い娘たちが行くべき場所だという。その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで3年を経ずして法学博士を取得、父親はひどく喜んだという。父の希望もあり、台湾に戻った彼女は大学で教鞭をとった後、1994年に政治の世界に入り、公正取引委員会、国家安全局、大陸委員会など、政府の政策を主導する重要なポストを歴任する。

 蔡英文を近くで見てきた人々、特に民進党の人間は、彼女のことを政治家らしくないと言う。現在は野党の民進党は、台湾の民主化運動の過程で結成され、民主化運動の闘士たちが多く携わった。こうした民主化運動のほとんどに、蔡英文は関わっていない。

 1979年、高雄での美麗島事件が発生、人権デモに参加した人々を警察が暴力で解散させたことが、民主化運動の激化を招いたとされる。この時、蔡英文は海外留学中で、象牙の塔の庇護を受けていた。徒手空拳で街頭デモに参加する闘士が典型的な民進党員だとするならば、蔡英文は抑制的かつ精密なオリンピックレベルのフェンシング選手といえるだろう。

 2008年に民進党が政権を手放し、陳水扁総統が汚職によって起訴されると、蔡英文は火中の栗を拾うがごとく、民進党主席の座についた。政治というものへの理解が小さくなかった彼女であったが、それでもなお彼女は指導者らしくなかった。長いこと彼女の同僚であり友人であった立法委員の蕭美琴は「以前、選挙運動で戸別訪問した時も、彼女は私の後ろに立っていた。一部の人たちは彼女を森に迷い込んで狼に囲まれたウサギだ、狼は党内にも党外にもいる、と評している」と話す。

 2010年、蔡英文は市長選に出馬して敗れ、2012年の総統選挙でも勝つことは出来なかった。民進党のスピーチライター劉建忻によると、選挙運動では蔡英文の「売り込み」が足りなかったのだという。理想は非常に強いのに、実際にそれを実行する時になると、彼女と有権者の間には距離ができてしまう。皮肉なことに、敗戦のスピーチの段になってやっと、彼女と有権者の間の感情の一体感が生まれたという。蔡英文は涙ぐむ支持者たちに言った。「泣いてください。でも、がっかりはしないでください」。

 2012年以降、台湾は大きく変化した。朝食の卵を焼いてから11時間後、政策会議に出席した蔡英文は台湾新幹線で南部へ。民進党の牙城高雄に着くと、高雄港を視察した後、数百人の大学生を前に講演。リラックスしたスタイルで民進党の経済政策を語り、地域間の連携を強化することで小型経済を創出する政策への支持を求めた。彼女が学生たちに「台北でヒマワリ運動に参加した人、手を挙げて」と聞くと、3分の1の学生の手が挙がった。

 台湾の学生は一時期、非常にドライだと思われていた。しかし昨年春、台北は中国とのサービス貿易協定締結に抗議する数千の学生で埋まった。学生や市民団体は、この協定が台湾経済に打撃を与え、中国の圧力で台湾経済がよりいっそう脆弱になることを危惧したのだ。また、学生たちはサービス貿易協定が社会の正当な審判を全く受けていないと考えている。ヒマワリ運動は不満が累積した民間から発生した運動で、3月18日に立法院に突入したことを発端とした。運動の名称は、ある花屋から贈られた大量のヒマワリに由来する。

 この運動の主眼は社会正義である。2008年、国民党が政権を取り戻すと、21もの両岸貿易協定を締結、馬英九は両岸のビジネス往来こそが台湾を豊かにするカギだと主張した。しかし、若者たちはこの主張に懐疑的だ。この協定は両岸の大企業を潤すのみで、中国の宥和政策は決して台湾の若者たちを潤すものではなく、むしろ不動産価格は高騰し、賃金は上昇せず、就業機会もすべて中国に流れていくとにらんでいる。昨年3月30日、総統府を取り巻いた抗議活動では、ある標語が社会全体の思いを体現していた。「台湾は一つだけ。売り払ったらもうおしまい!」

 マクロ的な経済指標だけにとらわれず、生活の質を重視する台湾社会は蔡英文にとって有利だ。彼女の希望としては、経済的に独立した台湾を打ち立てたいと考えている。こうした理念は、2012年の時点では有権者の心を捉えられなかったが、現在では強い吸引力を持っている。国民党はヒマワリ運動によって重傷を負い、昨年秋の統一地方選挙では有権者によって再びお灸をすえられており、目下、国民党は大衆に迎合した党の再編に躍起になっている。

 国民党のシンクタンクである「国家政策基金会」で副董事長を務める、元外交部長の楊進添は「国民党は両岸関係の立場を堅持する」と言う。ただ、敬虔な党員である楊進添でさえも、公平という問題の解決を示唆する。つまり「両岸関係の利益は、全国民によって享受されるべきだ」と言うのだ。

 蔡英文が、伝統的な民進党支持者からの支持を取り付けるのは簡単だ。南部の有権者、若者票、台湾人アイデンティティを持つ有権者たちだ。しかし、民進党は大企業との繋がりが薄い。というのも、台湾企業は中国に大規模投資を行っており、その多くが国民党支持かつ中国との緊密な関係を築いているからだ。蔡英文も彼らを取り込む必要があることは認めているものの、これといってハッキリとした青写真があるわけではない。「我々の挑戦は、双方が納得できる合理的な立場を創り出すことです。とはいえ、野党時代に支持してくれた方々を裏切るような立場であってもいけないのです」。

 これはまた難しい挑戦だ。これまで国民党は、経済を回復させられるのは民進党ではなく自分たちだと主張してきた。特に陳水扁政権は汚職や不況の問題が山積であった。蔡英文を支持する人々もこうした状況には同意し、民進党は野党ではやっていけても与党は任せられないと考える人もいる。

 ノッティンガム大学中国政策研究センターの研究員で小英基金会の主任も務めるマイケル・コール(J. Michael Cole)は「国民党はいつでも国民党こそが経済を回復させるにふさわしいと主張している。一方で、民進党政権になったら商売に不利という扱いにくさがあると考えている」と述べる。

 こうした論調は共産党の支持を受け、選挙運動が進むに連れて随時報道されることになるだろう。共産党は中国国内で支配下にあるメディアを直接利用し、あるいは間接的に中国と台湾のビジネス界の繋がりを利用するかもしれない。米ワシントンにあるシンクタンク、スティムソン・センターのアラン・ロンバーグ曰く「中国は大企業など、あらゆるチャンネルを利用してその立場を伝えてくるだろう。仮に台湾の人々が、この8年間の両岸発展の基礎となった政府の功績を否定するような選択をすれば、その後の両岸関係の発展は現在のように順調ではなくなるだろう」。

 民進党政権が中国に受け入れられる余地はほとんどない。中国国家主席の習近平は2012年に就任以来、周囲から思われるよりもずっと独断的で強烈な民族主義者であり、一切妥協しない人間だということを自ら証明してきた。昨年9月、習近平は台湾からの代表団に対し、中国と台湾は将来、香港のような「一国二制度」モデルによる統一が出来るのではないかと語ったが、この方式は民進党どころか国民党からも拒絶され、世論調査でも受け入れると答えた台湾人は皆無に近かった。今年5月、習近平は再び「分裂主義勢力」が台頭して来ていると警告したが、これは民進党に対する先制攻撃だったといえよう。

 両岸関係は、現在のところ中国と台湾(当時は国民党政権)による「92年コンセンサス」を基礎としているとされている。この政策は、前出の楊進添によれば「曖昧さの一大傑作」だという。

「92年コンセンサス」は、双方が「一つの中国」を承認しつつも、その内容については各々が表明すればよいというもので、楊進添によれば「このコンセンサスのおかげで、国民党は両岸の貿易や交通、観光分野での発展を推し進めることができた。その一方で、台湾や中国が考えている『一つの中国』の中身とは何ぞや、と回答を迫られることもなかったのだ」という。

 民進党は長期にわたり、台湾の法的独立を推進してきた。民進党の党綱領第一条には「主権独立自主の台湾共和国の建立」が謳われているが、台湾の正式な国号は中華民国である。民進党支持者の基盤は主にここにあると考えてよいが、中国の経済力が目覚ましく発展し、国際社会における発言力が増すなか、この理念の実現はますます難しくなっている。陳水扁政権時代の民進党と、それまでの民進党の政策に大きな違いはなかったものの、中国との関係はかなり冷え込み、馬英九政権になって再び距離が近づいた。

 前出の上海交通大学の林岡によれば「蔡英文の立場は馬英九と陳水扁の中間にあたり、彼女が総統選挙に勝利すれば、台湾独立を追い求めることはなく、馬英九のような両岸関係の発展を推し進めることもないだろう」と分析する。

 蔡英文自身は、台湾と中国の政治関係を変える気はないと強調する。とはいえ、民進党の台湾独立綱領を撤廃するかについては依然として回答を濁している。では、統一についてはどうか?「統一であっても、民主主義の手続きによって解決されなければなりません。この場所に住む人々の決定によって進められなければならないのです」。

 暫定で蔡英文の相手となる洪秀柱は「民進党のリーダーは両岸関係に対する立場をはっきりと説明するべきだ。誰もが蔡英文に『現状を維持するというのはどういう意味か』と尋ねるが具体的な回答がない」と批判する。国民党の楊進添はこんな比喩を持ちだした。「収穫のためには土地を耕し、種を播き、肥やしをくれなければならない。これまで全部、国民党がやって来た。民進党は収穫だけしようという魂胆か」。

 蔡英文は、勝利のあかつきにはその収穫の権利があると信じている。記者が北京に戻る数日前のこと、高雄の日本料理レストランで蔡英文は記者に、静かながらも確かな自信を込めて、中国がどう出ようが、有権者の信任を得て選挙に勝つと言い切った。

 彼女は、最後に残ったマグロの刺身を記者の皿に取り分けてくれた。このマグロは彼女の生まれ故郷である南部の屏東から来たのだ。「北京に帰ったら皆さんに言ってくださいね。台湾の次の総統にサービスしてもらっちゃった、って」。