ネットで読んだ記事です。Embed from Getty Imagesで埋め込まれた部分は映像をカットしています。但し、紹介したい部分だけは映像に残しています。トランプが、夫が戦死した妻を議会演説時に招待し、議場全体スタンデイングオベーションで激励したという感動逸話の部分です。実は戦死したウィリアム・ライアン・オーウェンズがイエメンで戦死したことに、父親がトランプの軍事作戦を批判した経緯があります。3/2日経にはこの部分がごっそり抜けていました。軍人を讃えることが嫌なのでしょう。意図的に外したとしか思えません。日本国民全体が自衛隊に感謝し、国会でスタンデイングオベーションできるようにならないと。民共社生の議員などを選挙で選ぶと、それができなくなります。
<トランプ大統領初の議会演説で全米が涙した理由 2017/3/2 ニュースメディア
アメリカ現地時間2月28日午後(日本時間3月1日午前)に、トランプ大統領が上下両院合同会議で行った初めての施政方針演説ですが、今や宿敵となったCNNをはじめ、多くのアメリカの主流ニュース・メディアは好意的に取り上げたようです。
Contents [hide]
もはやトランプの宿敵となったCNNの意外な反応
演説終了直後のCNNのスタジオには、いつも通り反トランプ色の強いキャスターと解説者の面々がスタンバイしていたのですが、最近は割とフェアな報道姿勢が目立つアンダーソン・クーパーはともかく、トランプ大統領誕生時に「これは白人の逆襲だ」とまで言ってのけたリベラル政治評論家ヴァン・ジョーンズの好意的な反応には驚かされました。
今回のトランプ大統領の演説が(少なくとも演説終了直後は)CNNの解説陣に好意的に受け止められた主な理由ですが、以下のポイントによるものだと思います。
- これまでの選挙キャンペーンモードを引きずったような演説に比べるとトランプが「大統領らしかった」から。
- (スティーブン・バノンなのか、イヴァンカの夫なのか分からないが)スピーチ・ライターの原稿が素晴らしかったから。
- トランプ大統領もプロンプターの扱いに慣れたのか、演説の技術が向上したから。
- 民主党が理想とする高福祉型社会、つまり「大きな政府」を目指してるかのような政策が示されたから。(これは「小さな政府」を目指す共和党の基本政策とは相容れないはずで議会の協力が得られるのか疑問だ。)
トランプのあまりの変貌ぶりに、演説終了直後は軽い興奮状態に陥ったCNN出演者達でしたが、この記事を書いている時点では、すでに数字上の矛盾点などを指摘した上で批判を展開しつつあります。(さすがCNNですね。)
トランプ批判の急先鋒、あのヴァン・ジョーンズも感動した瞬間とは?
今回のトランプ大統領の施政方針演説には、あのヴァン・ジョーンズをして「アメリカの政治史において最も素晴らしい瞬間の一つだ」とまで言わしめた瞬間がありました。
その瞬間をもたらしたのはトランプ大統領の娘イヴァンカ、・・・ではなく、イヴァンカの隣に立っていたキャリアン・オーウェンズという女性でした。彼女はトランプ政権下で初めて行われたイエメンでの対テロ軍事作戦で命を落とした海軍特殊部隊ネーヴィー・シールズの隊員ウィリアム・ライアン・オーウェンズの未亡人です。
それではトランプ大統領がウィリアム・ライアン・オーウェンズに触れた部分をスピーチ原稿から抜粋・翻訳してみましょう。
我々が国家として直面するチャレンジは強大だ。しかしながら、我が国民はさらに強大なのだ。そして制服に身を包んでアメリカのために戦う者達以上に偉大で勇敢な人達はいない。
今晩、我々は海軍特殊部隊の上級下士官ウイリアムズ”ライアン”オーウェンズの未亡人、キャリアン・オーウェンズをお迎えする栄誉に恵まれた。勇者であり英雄として生きたライアンは、我々の国家に安全をもたらすために、テロとの戦いで戦死したのだ。
議事堂の全員がスタンディングオベーションでオーウェンズ夫人に拍手を送ります。この時点で彼女はまだ着席したまま、必至に涙をこらえようとしていました。
ただ、トランプ大統領が続けた演説の次の部分で彼女の様子が変化します。
私は先ほど戦果を確認したマティス国防相と話したのだが、彼は私にこう言った。「ライアンは、将来に渡りおさめることになるであろう、敵との戦いにおける数多く勝利に我々を導く膨大で価値のある情報をもたらした極めて優れた襲撃部隊の一員だった」
ライアンの遺産は永遠に刻み込まれたのだ。
演説のこの部分で、溢れ出る涙もそのままに立ち上がったオーウェン夫人は、おそらく自分の夫に対して力強く拍手しながら天を仰ぎます。ここで再びスタンディングオベーションが起こり、おそらく2分以上拍手が続きます。その間、オーウェン夫人は歓喜の表情を浮かべながら天国の夫ライアンに語り掛けているように見えました。
拍手がようやく鳴りやむと、トランプ大統領は原稿にないアドリブで夫人に語りかけました。
今、ライアンは我々を見ている。分かりますよね。ライアンは喜んでいるに違いない。今新記録を打ち立てたから。
2分近く鳴りやまなかった拍手のことを指して冗談を言ったトランプ大統領に、夫人は涙があふれた目で笑い返します。
トランプ大統領はウィリアム・ライアン・オーウェンズに触れた部分を以下のように締めくくりました。
聖書は、自分の命を友人に捧げることほど愛の行いとして偉大なことは無いと説いている。ライアンは彼の命を、彼の友達と、彼の国と、自由のために捧げた。我々は決して彼のことを忘れないだろう。
以下が映像です。
演説のこの部分に多くのアメリカ人が感動したことは想像に難くありません。スピーチの内容もさることながら、オーウェン夫人の気丈な振る舞いに胸を打たれます。
軍事作戦には批判の声も
一方、既に報道されているように、今回のイエメンでの軍事作戦には疑問や批判の声が上がっていました。オーウェンの犠牲以外にも、死亡したアルカイダのアメリカ人幹部の娘とされる少女が犠牲になったほか、作戦に使用された航空機に損害があったことなどが理由とされています。
なお、退役軍人で元刑事のオーウェンの父親は、今回の軍事作戦に関する調査を訴えており、トランプ大統領の面会希望も拒否しています。
また、今回のトランプ大統領の演説内容に対しても「軍事作戦の失敗から国民の目をそらそうとする企み」として、あるいは「死者を政治的に利用した」として、早速非難の声が上がっているようです。
まとめ
就任直後としては最低水準の支持率にあえぐトランプ政権が、今回の演説である程度劣勢を挽回したことは間違いありません。
ただ、CNNの解説陣もコメントしていたように、ポピュリズム的な内容であった事は否めないと思いますし、実際に全ての項目に着手し、実現するのは容易ではないと思います。
日本に関わる部分としては、米国企業と並んでソフトバンクが雇用拡大につながる投資を計画する企業として好意的に紹介されたこと、アメリカの外交姿勢示す際に「かつての敵国と緊密な友好関係を結んでいる」と暗に日本にも言及したこと、貿易交渉では何よりも公正さを重要視するとしたこと、ヨーロッパ、中東、太平洋の安全保障に関与するが基地経費の公平な負担を求めるとしたことなど、特に目新しいものではありませんでした。(演説のトーンにも大きな違いを感じませんでした。)
個人的には、トランプ大統領の演説内容そのものよりも、オーウェン夫人の姿勢に心を動かされました。夫を亡くした悲しみ、あくまでも想像ですが、政治的に利用される可能性について義理の父親や周囲から反対や忠告を受けつつも最終的に議事堂に赴いた彼女の心境、そして夫が受けた最高レベルの栄誉に対する喜びが複雑に交じり合う様子が伝わってきました。
彼女に一日も/早く心の安らぎが訪れることを祈るばかりです。>(以上)
北野幸伯氏の8/2メルマガでBBCの記事を紹介していました。一部抜粋します。
「▼中国は、いかにトランプを懐柔したか???
BBC News 2月27日付で、キャリー・グレイシー中国編集長は、「中国は、どうやってトランプの反中を変えたのか?」について、「7つの理由」をあげています。
長い記事ですので、要約してみましょう。興味深いところは、引用します。そして、原文アドレスを最後にはりつけておきます。興味がある方は、全文読んでみてください。
中国が、トランプの反中を軟化できた一つ目の理由は?
<1. 家族や友人を取り込む>
中国は、トランプの家族を取り込むことにしました。家族とは具体的に、娘のイヴァンカさん、彼女の夫クシュナーさん、もう一人の娘ティファニーさんです。
<駐米中国大使の崔天凱氏は、トランプ大統領の娘イバンカさんに巧みに手を差し伸べた。ワシントンの中国大使館で行われた春節の祝宴にイバンカさんが出席した姿は広く報道され、イバンカさんは両政府の分断に橋を渡した。イバンカさんの夫、ジャレッド・クシュナー氏もまた、中国事業のパートナーを通じて中国政府につてを持っている。さらに、トランプ大統領のもう1人の娘ティファニーさんは、ニューヨーク・ファッション・ウィークで中国人デザイナー、タオ・レイ・ウォン氏のショーをあえて最前列で鑑賞した。>
そして、共産党の指令を受けた中国企業群も、いっせいに「アメリカに投資し、トランプさんを助けます!」と宣言しました。
<トランプ氏の私的な人脈を強化するため、中国で最も著名な起業家のジャック・マー氏はトランプ氏と会談し、自身が所有する電子商取引サイト、アリババで米国の商品を販売し米国に100万人規模の雇用を創出すると約束した。中国では民間企業にさえ共産党の末端組織が存在しており、国家の戦略的利益となると政府の命令に従うよう求められる。ジャック・マー氏は任務を背負っており、政府の方針にも沿っていた。ニューヨークのタイムズ・スクエアの屋外広告に、トランプ氏への春節の挨拶を掲載するため資金を提供した他の中国系企業100社も同様だった。>(同上)
<中国では民間企業にさえ共産党の末端組織が存在しており、国家の戦略的利益となると政府の命令に従うよう求められる。>
この部分、非常に大事ですね。
中国では、どんな巨大企業のトップでも、習近平の命令にはさからえない。
2番目の理由は。
<2. 贈り物をする>
これは、なんでしょうか?
<トランプ氏の企業帝国は物議を醸しているが、中国ではトランプ氏の商標に関する裁判が複数、棚上げ状態になっている。中国政府は、裁判所が共産党の影響下にあるという事実をはばから
ずに認めている。
(中略)
トランプ氏の商標登録の場合、必要な手続きは昨秋、派手な告知もなく迅速に行われ、裁判はトランプ氏の勝利で先週、集結した。>
(同上)
習近平は、裁判所を動かして、トランプの司法問題を解決し、喜ばせたと。さすがは「人治国家」中国。
3つ目の理由は、
<3. 必要な時まで声は荒げず>
これは、何でしょうか?
トランプさんは、明らかに中国を挑発していました。しかし、中国は、挑発に乗らなかった。
<大統領選挙活動中ずっと、中国を泥棒だとか貿易の強姦魔だと呼び、台湾について中国が頑なに守り続けてきた立場に挑み、中国を侮辱し、脅し続けたのだ。政府関係者はまた、南シナ海での取り組みを強化すると警告もしていた。しかしその間中ずっと、中国政府は鉄の如き自制心と抑制力を見せていた。>(同上)
<中国政府は鉄の如き自制心と抑制力を見せていた。>
実に立派です。これぞ「老子の戦略」ですね。
4番目の理由。
<4. 台本に納得するまでは語らず>
これは、トランプが「『一つの中国』の原則」を認める状況になるまで習近平は登場しないということ。
<ついにトランプ大統領と習国家主席との電話会談が実現した時、中国は自国が大切にしてきた「一つの中国」政策への米国の支持をあらためて取り付け、2人の出会いを尊厳あるものにもできた。習国家主席が決然とした忍耐強い役者であるという評判は、より一層高まった。トランプ大統領は、台湾について新しい立場を取ると話していたが、そのような発言は控えるに至った。>(同上)
5番目の理由。
<5. 甘い言葉は効果があるところで>
これは、「協力できるところから、協力関係を深めていこう」ということ。アメリカと中国が協力できるのは、もちろん「金」がらみ。ターゲットは、親中「財務省」、フラフラ「国務省」です。
<この電話会談以降、米中政府間では活発なやり取りが行われている。新たに財務長官に就任したスティーブン・ムニューチン氏は、中国の主要人物複数と経済政策について協議しており、ティラーソン氏も中国の外相である王毅外交部長や上級外交官の楊潔篪と会談を行っている。中国政府は、「習主席とトランプ大統領の間で達した合意」、つまり「不衝突、不対抗、相互尊重、相互利益への協力」を特徴とした関係の実現について協議を始めている。>(同上)
6番目の理由。
<6. 可能なものを与えよ>
これは、「口でいうだけでなく、実際にアメリカに与える」と。
<実際面では、相互利益というのはつまり、可能な際は常に譲歩や協力をするということだと中国は理解している。そして米国が懸念するある領域において、中国は協力する意思をすでに示している。北朝鮮からの石炭を輸入停止にすることによってだ。>(同上)
ホントに輸入を停止しているか、大いに疑問ですが・・・。少なくともトランプ政権は、信じているのですね。
7番目の理由。
<7. 相手の弱みを自分の強みに>
これは、なんでしょうか?RPE(北野氏のメルマガ)でも何度か触れましたが、「評判の悪いトランプさんと『逆』のことをする」。
具体的には?
トランプは、「ナショナリスト」なので、習近平は「私はグローバリストです!」と宣言する。
「中国の夢!」(=ナショナリズム)は、どこにいっちゃったのでしょう?
<世界の舞台では、習主席は、自分がドナルド・トランプとは違うということを巧みに示した。ダボスでの世界経済フォーラムで、習主席がグローバル化と自由貿易を擁護したのは有名な話だ。>(同上)
というわけで、習近平政権は、トランプが大統領になってから、「国をあげて」アメリカ新政権「懐柔」に奔走してきました。そして、大成功をおさめた。
BBC、キャリー・グレイシー中国編集長は、「中国の勝利」と断言しています。<こうした戦術でこれまで上げてきた効果について、中国政府は非常に満足だろう。
しかしこれは複数参加型の多面的なゲームで、長期的には多くの危険や罠が存在する。
中国は、危険をうまく中和し、トランプ大統領就任1ヶ月目という機会を巧みに利用した。
第一ラウンドは中国が勝利した。>(同上)
しかし、キャリー・グレイシーさんは、「戦術」的勝利とはっきり書いています。中国は、依然としてアメリカの戦略上「最大の敵」であることに変わりありません。
ですから、米中関係の平穏は長つづきしないでしょう。
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-39099806
」(以上)
トランプがおとなしくなったのはキッツシンジャーの影響と2/18号の週刊新潮に櫻井よしこ氏が書いています。戦略的忍耐で時間を稼ぐためであれば良いでしょう。何せ施政方針演説で軍事予算を10%(540億ドル)増やす目的は中国の脅威に備えるため以外には考えられませんので。火蓋を切るとしても渡邉哲也氏が言う金融制裁からでしょうが。まず北朝鮮問題を片づけるのが先になります。
オバマケアは見直すにしても対案が出て来ない限り、見直せないでしょう。時間の制約などありません。あったとしても、2年後の議会選挙の時まででしょう。良い案が出なければ、其の儘でも良いのでは。篠原氏の書きぶりだと、トランプや共和党よりオバマが勝ったと喜んでいる印象を受けますが、リベラルはそう思いたいのでしょう。
記事
トランプ大統領と共和党は、オバマ前大統領のあらゆる「レガシー(政治的成果)」を書き換えようとしているが…。(写真:UPI/アフロ)
オバマケアの撤廃・置き換えは実は至難の業
トランプ大統領と共和党によって自身の「レガシー(政治的成果)」を書き換えられようとしているオバマ前大統領。だが、オバマケア(医療保険制度改革法)に関していえば、その“毒”が逆に共和党をむしばみつつある。
「私がいつも言っているように、オバマケアは機能していない。(中略)。われわれはオバマケアの撤廃と置き換えを進めていく」
2月24日に開催された保守の祭典、CPAC(保守政治活動会議)でトランプ大統領が改めて宣言したように、トランプ大統領と共和党にとって、オバマケアの廃止と代替プランの導入は引き続き政策実行リストの最上位にいる。
もっとも、大統領の鼻息とは裏腹に、オバマケアの廃止・置き換えには時間がかかっている。
2月16日にライアン下院議長はオバマケアの廃止・置き換え計画について共和党議員に説明したが、税制優遇を伴う医療貯蓄口座の普及や保険料の所得税控除など、従来の共和党の主張を踏襲しただけで、プランと呼べるようなものではないという声が上がった(ワシントン・ポストの記事)。ライアン議長の前任、ベイナー前下院議長も、オバマケアの完全なる置き換えはないという見立てを米ポリティコに述べている。
オバマケア撤廃の政治的打撃に気づいた共和党
共和党はオバマケアが成立して以来、同法の廃絶を声高に主張してきた。悪名高い2013年10月の政府の一部閉鎖も、翌年から実施が始まるオバマケアの予算案に反対したことが要因だ。
健康保険加入の是非を州政府ではなく連邦政府が決めるという点において、オバマケアは共和党の党是とも言える「小さな連邦政府」と、その党是と表裏一体の「個人の自由」というイデオロギーと真っ向から対立する。共和党、とりわけティー・パーティの流れをくむ保守層にとって、オバマケアの撤廃は譲れない一線である。
それだけに、トランプ大統領がホワイトハウスに入った現状はオバマケアの撤廃と置き換えを進めるまたとない好機だ。それなのに、置き換え作業がなかなか進まないのはなぜなのか。その最大の理由は、オバマケアの撤廃と置き換えに伴う政治的打撃の大きさに気づき始めているためだ。
約5000万人とも言われた無保険者をなくすために導入されたオバマケア。根拠法の“Affordable Care Act”という名前が示しているように、手頃な価格で国民が医療保険にアクセスできるようにすることが最大の狙いだった。持病を抱えている人でも保険に加入できるような制度設計にしたのも、国民のアクセスを保証するためだ。
財政負担なくして手頃な医療保険は成立しない
半面、民間保険会社のヘルスケアプランが中心の米国の場合、市場原理に委ねるだけでは保険料が下がらないと考えられたため、収入に応じて保険料の一部に補助金を投入するという仕組みになった。結果として増税につながった上に、保険会社がリスクに応じてプランを見直したことで、既に保険に加入していた人々(主に中間層)の保険料上昇やプランの劣化を招いた。その怒りが、トランプ大統領の勝利の一因だったことは記憶に新しい。
選挙期間中、トランプ大統領は市場原理を導入することで、オバマケアよりも優れた保険制度を導入すると主張していた。ところが、オバマケア設立の経緯を見ても分かるように、そもそも市場原理では解決できないと考えられたために現行の仕組みになっている。「補助金か税控除かはともかく、政府の財政負担なくして手頃な医療保険は成立しない」(ある大手金融機関の調査担当)という声が圧倒的で、代替案を考えること自体が難しい。
「私には死にかけている夫がいる」
さらに、導入から2年以上が経過して、オバマケアが有権者の既得権になっていることも共和党を縛っている要因だ。
プレジデントデーの祝日だった2月20日の週、共和党議員の多くは地元の選挙区に帰り、有権者との対話集会に臨んだ。だが、多くの場所でトランプ大統領に対する厳しい批判に晒された。怒号が飛び交うなど炎上した集会も少なくなく、その様子はメディアで報道された(CNNの報道)。批判した人々はカネで雇われたサクラだとトランプ大統領サイドは主張している。
集会で炎上したテーマは様々だが、多くの場所でオバマケアの扱いが焦点になった。オバマケアが廃止されることで、自分の保険はどうなるのかという不安だ。アーカンソー州のタウンホールで、同州選出のトム・コットン上院議員に声を詰まらせ訴えた女性の言葉は象徴的だ。
「私には死にかけている夫がおり、金銭的な余裕はありません。もし今よりもいい保険を提供してくれるのなら是非そうしてください。夫の保険料は月29ドルです。29ドルで必要としている給付を受けている。それよりもいい制度を作れるって言うんですか?」
最初からオバマケアがなければ、国民もそういうものだとあきらめていただろうが、本来、保険に加入できなかった層が保険を得れば、あるいは既往症があっても加入できるとなれば、それはもう既得権である。それを以前の状況に戻すのは政治的に極めて困難だ。タウンホールの発言からは、共和党がどのような代替案を考えたとしても、保険内容の劣化につながると考える有権者が多いことを示唆している。
「Repeal(撤廃)」ではなく「Repair(修理)」を
ライアン議長など共和党指導部は是が非でも廃絶したいと考えているが、代替案を用意しないまま葬り去れば政治的な打撃があまりに大きい。ポピュリズムの流れに乗って大統領選を勝ち抜いたトランプ大統領にとっても、オバマケアの廃絶で再び低所得者を無保険の状況に放置するという選択肢はない。
一方で代替案を考えるにしても、保険内容を劣化させずにオバマケアの補助金を削減していくことは至難の業。長年、オバマケアの撤廃を訴えているだけに現状維持というわけにもいかない。既に、オバマケアに仕込まれた毒は共和党の全身に回っている。
ライアン議長は議会の休会期間が開けた3月初旬、もしくは中旬までに見直し計画を出すと語っており、残された時間は短い。2月24日に米ポリティコがすっぱ抜いたオバマケア撤廃法案のドラフトを見ると(ポリティコの記事)、保険に加入しない人々に対する罰則やオバマケアに伴って導入された各種増税を撤廃するなど、現在のドラフトはオバマケアの根幹を骨抜きにするものだが、カバレッジの劣化は免れないという指摘は相変わらず多く、「撤廃(repeal)」ではなく「修理(repair)」を唱える共和党議員も増えている。
最終的に、オバマケアの撤廃と置き換えがどういう形になるのかはまだ読めないが、少なくとも単純な撤廃は政治的にあり得ず、国民に広くあまねく医療保険を提供するというオバマケアのコンセプトが存続することは確実だ。大統領令によるレガシーは大統領令によって覆されているが、オバマケアを巡る戦いでは、既にオバマ大統領は勝利しているといっても過言ではない。ライアン議長をはじめ共和党はどう対処するのだろうか。
良ければ下にあります
を応援クリックよろしくお願いします。