8/19・20日経ビジネスオンライン 森永輔『中国は脅威とならないことを保証せよ、米国も保証する スタインバーグ前米国務副長官に聞いた』『日本で反中感情が高まるのは理解できる』について

米ソ冷戦時代のような相互確証ができるかどうかです。中国人の基本的価値観は「騙す人が賢く、騙される人が馬鹿」という事です。契約の概念はありません。約束したことは自分に不利になるとすぐに破ります。米中で軍事的に戦争にならないように管理できるかと言うと悲観的です。中国がアメリカを追い抜くまで、おとなしくしている振りをするだけでしょう。『百年マラソン』にあるように中国は2049年を目標に経済、政治、軍事の各面でアメリカを追い抜く超大国となり、自国の価値観や思想に基づく国際秩序と覇権を確立しようとしています。騙されないことです。国務省はリベラルが多いので容共の姿勢なのでしょうが、ソ連封じ込めをやったのだから同じようにすれば良いと思います。中国はアメリカの要人に金を裏で配っているから、アメリカも強く出られないのだと思います。

鄧小平と田中角栄の話だって、鄧が日本の資金と技術が必要だから「子子孫孫の知恵」に委ねると発言しただけ、本来日本の固有の領土なのだから、こんなことを聞くこともなかったのです。お人好し日本人の典型です。結果的に鄧に騙されました。今の中国のやり方は、尖閣は中国の領土と言ってどんどん攻め入ってくるではないですか。スタインバーグはアメリカは明確に尖閣を守ると言っているので無理はしてこないでしょうけど。ただ、何もしなければ時間の利益は中国に有利に働くという事をしっかり認識しておかないと。

オバマのリバランス政策は口先だけの印象です。中国はオバマが何もできないと読んで南沙、西沙、東シナ海で傍若無人の振る舞いをする訳です。中韓は相手が弱いと見ると居丈高に振る舞い、強いとシッポを振って靡くタイプです。アメリカは騙されてはいけません。

スタインバーグはメール事件で揺れるヒラリーの大統領選の応援をするというくらいですから、見方がやはりおかしい。リビアのベンガジで大使もテロで殺されたのに。不都合な真実が削除したメールにあったと思います。

記事

中国の行動について懸念が高まっている。ASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議は8月6日、共同声明に「一部からは南シナ海の埋め立てに深刻な懸念が示された」との文言を盛り込んだ。名指しこそしていないものの、中国の行為を指している。

 7月には、米連邦政府の人事管理局(OPM)がサイバー攻撃を受け、2000万人を超える職員らの情報が盗まれる事件が発生した。ジェームス・クラッパー米国家情報長官が中国が「最有力容疑者」であると発言したと、米紙が報道した。

 今後、中国はどの方向に歩みを進めるか。オバマ第1次政権において、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の下で国務副長官を務めたジェームズ・スタインバーグ氏(現シラキュース大学マックスウェル行政大学院院長 )に中国観を聞いた。(聞き手は森 永輔)

ジェームズ・スタインバーグ(James Steinberg)。シラキュース大学マックスウェル行政大学院院長。オバマ第1次政権で、クリントン長官の下、国務副長官を務めた。クリントン政権では国家安全保障担当の大統領副補佐官を務めている。1953年生まれ。イェール大学で法務博士を取得。

—中国は今、何を目指していると考えていますか。

スタインバーグ:それは誰もが問う質問ですね。しかし、誰も答えることができない質問です。

 それには2つ理由があります。1つは、中国の中に多様な意見があることです。確かに中国共産党と習近平国家主席は中国内で大きな役割を果たしています。しかし、指導部にさえ、異なる見通しを持っている人がいます。

 もう1つは、もし仮に我々が現行の中国指導部の考えを察することができたとしても、次世代のリーダーたちはそれとは異なる見通しを持つからです。それを知ることは我々にはできません。

 ここで最も重要なことは、「中国が何を目指すかは他の国の反応に依存する」ということです。つまり、彼らの選択肢を我々が作ることができるということです。いずれの国もほかの国との関係の中に存在しており、真空状態の中に存在しているわけではありません。

 従って、問題は中国が何を目指しているかではなく、中国が積極的かつ建設的な役割を果たすよう、我々がいかに影響を与えるかなのです。我々は中国にこう語りかけるべきでしょう。「あなたの望むものは分かった。しかし、そのうちのいくつかは受け入れられない。だから考え直してほしい」。

—中国は、米国に取って代わる超大国を目指しているとの見方があります。

スタインバーグ:「超大国」の定義は、やりたいことは何でも思い通りにできる国のことです。ほかからの反対がなければ、いずれの国もそうなりたいと思うでしょう。しかし、すべての国がそうなれるわけではありません。

 我々が中国に発すべきメッセージは「それは中国の選択肢ではない」ということです。 「中国は重要なアクターになれるでしょうし、力強い国になることもできるでしょう。しかし、ほかの国を支配する国になることはできない」と。「そうなろうと行動を起こせば、ほかの国も行動を起こす。だから考え直すべきだ」と。

中国の関与が疑われる米政府人事情報の盗難

—米連邦政府の人事管理局がサイバー攻撃を受け、情報が大量に流出する事件が7月に発覚しました。中国の関与が疑われています。これは米国に対する中国の挑戦ではありませんか。この件はスタインバーグさんの中国観に影響を与えていますか。

スタインバーグ:この問題に関して我々は注意深くある必要があります。私はこの件を大きな興味を持って追っています。ただし、私は今、政府の人間ではないので、内部情報は一切持っていません。その前提でお話しします。中国を非難している人は確かにたくさんいますが、米政府はこの点に関して中国を非難してはいません。

 しかし、サイバー空間は非常に重要な分野です。他の分野に比べて、誤解が生じやすく、背後にいる勢力が特定し難く、大きな不信と不透明さを生み出すからです。我々はこの問題に真剣に対処しなければなりません。米中が互いに安全を保証できなければ、より深い不信と潜在的な紛争を招きかねないからです。

—この分野における米中の協力について、何か進展があると期待していますか。

スタインバーグ:いいえ、していません。私が言いたいのは、真剣に取り組まなければ、米中関係をより一層傷めるということです。真剣に取り組む必要があることと、進展を期待することは異なります。

 中国はこの問題の重要性を理解すべきだと思います。もちろん、米国も応じなければなりません。米国の対応に中国が懸念を抱いている部分もありますから。私が国務副長官を務めていた時、米中の新たな対話を始めました。その場で、サイバー分野は最優先の議題の1つだと強調しました。私は既に政府から離れているので、この分野の対話に進展があるのかどうかはお話しできません。しかし、サイバー分野以上に対話を進展させなければならない分野はないと思います。

南シナ海の岩礁埋め立て

—サイバー分野と同様に、中国は南シナ海での活動も進めています。岩礁の埋め立ては、米国への挑戦ではありませんか。

スタインバーグ:ご存じのように、南シナ海にはいくつもの領有権争いがあります。同様の争いは、世界中にたくさんあります。

 問題は中国がこれをどう進めるかです。一方的な手段で解決するのか、話し合いの中で解決するのか。中国が一方的な手段でこの問題を解決しようとすればするほど、ほかの国の不信感はつのります。そして、中国の目的について疑念を抱くことになります。

 この種の問題について、我々は鄧小平と田中角栄の知恵に従ってきました。鄧小平は「我々の、この世代の人間は知恵が足りません。この問題は話がまとまりません。次の世代は、きっと我々より賢くなるでしょう。その時は必ずや、お互いに皆が受け入れられる良い方法を見つけることができるでしょう」と語りました 。なぜなら、こうした問題を解決できない時期というものがあるからです。

 中国が一方的な手段で問題を解決しようとすれば、誰も勝者にはなれません。生み出すのは軍拡競争と紛争、そして不安定です。なので、中国が平和な環境を欲するのであれば、「ほかの国の脅威となるような形でパワーを行使することはない」ことをほかの国に対して保証するべきです。私はこれを「戦略的再保証」と呼んでいます。

戦略的再保証は「新型大国関係」を認めることではない

—『米中衝突を避けるために 戦略的再保証と決意』という本を今年1月に出されました。これを読むと「戦略的再保証」は、習近平国家主席が提唱する「新型大国関係」を受け入れることとも読めます。そういう趣旨なのでしょうか。

スタインバーグ:それは違います。決してそのようなことは言っていません。ここは重要なことなので、説明させてください。

 まず第1に中国は、拡大するパワーを、ほかの国に害を与えたり、脅威を感じさせたりする形で行使することはない――とほかの国に対して行動で示す必要があると考えています。これは、台頭する国の責任です。

そして、第2に、「戦略的再保証」は相互に行うものです。中国が再保証するならば、中国の近隣諸国は「我々は中国と協力する。中国が大きな影響力を持つことを認める」と再保証するべきです。私と共同著者のマイケル・オハンロン氏が主張する戦略的再保証は、中国を囲い込むものではありません。まして、中国に害やダメージを与えるものでも、中国の政権転覆を意図するものでもありません。

 改めて言います。中国とこうした関係を構築することは「新型大国関係」とは異なります。お互いの意図に対する懸念を払拭する取り組みなのです。

 我々は「中国よ。あなたは持てるパワーを拡大するに従って、ほかの国を支配しようとしているように見える。そうでないことを、我々に保証してくれ」と要請する。中国はこう応じるのではないでしょうか。「分った。我々がどうすれば再保証できるか教えてくれ。ただし、我々にも懸念がある。米国はアジアへのリバランスを進めている。これは中国を封じ込める取り組みに見える。そうでないこと、そして日米同盟は中国の弱体化を図るものではないことを、米国はどう再保証するのか。日米同盟を廃棄すべきではないか」。

 この点について、今のところ我々は中国に十分な再保証を与えることができていません。ただし、我々の国益を放棄するものではありません。我々はこう答えるべきでしょう。「我々も中国を安心させるために取り組んでいく。しかし、日米同盟をそれに含めるべきではない。この同盟は重要で価値のあるものです。中国に脅威を与えるものではありません。日米同盟を変更することはありません」。

 さらに、戦略的再保証において、中国の現政権を打倒することなど意図していないことを米国は示すべきです。そして中国も、米国を西太平洋から駆逐したり、日本を恫喝したりすることはないと、示すべきなのです。

 戦略的再保証は「新型」というより、むしろ「旧型」大国関係の延長線上にあります。このやり方は、冷戦期の米ソ関係において非常に重要な役割を果たしました。我々は当時、ソ連に対して次のことを示す必要がありました――我々はイデオロギーなどのいくつかの面で敵対関係にあるが、核の先制攻撃をしようとは思わない。我々はこれに成功し、軍備管理に取り組みました。その結果、我々はキューバ核危機の状態から脱し、核の安定の世界に移ることができたのです。こうした過程はいずれも戦略的再保証に基づいていました。

—戦略的再保証といのは互恵的なもので、米国も中国に保証を与えるが、中国も米国やその同盟国に保証を与えなければならない、というわけですね。

スタインバーグ:その通りです。お互いがお互いに保証を与えなければなりません。ただし、主たる責任は中国にあります。既存のシステムに脅威を与えるのは、新たに力を付けた国だからです。中国はそのことをある程度理解しているでしょう。彼らが「平和的台頭」 に言及するのはそのためです。しかし、問題はその理解が十分ではないことです。我々は「平和的台頭を目指しているのは分かった。次は、それを証明してくれ」と求めるべきです。

米国はアジアで「目をつぶる」ことはない

—なるほど、ご主旨は分かりました。ご著書を読んで、米国は中国と対立しなければならない事象については目をつぶる、そして、相互にメリットがある事象への取り組みに集中すると読めたものですから。

スタインバーグ:「目をつぶる」ですか? ヒラリー・クリントン国務長官(当時)はハノイに赴き、中国の楊潔篪氏に対して南シナ海における行動を改めるよう求めました(注:クリントン国務長官が2010年、ハノイで開かれたASEAN地域フォーラムに出席し、『すべての領有権主張国による、強制によらない紛争解決のための、協働的外交過程を支持する』などと発言したことを指す)。これは、目をつぶったことになるのでしょうか。

 チャック・ヘーゲル国防長官(同)もシャングリラ会議の場で強い発言をしました(注:ヘーゲル国防長官が2014年5月、シャングリラ会議=アジア安全保障会議=の場で以下の発言をしたことを指す。「ここ数カ月の間、中国は南シナ海での領有権を主張し、地域を不安定にする一方的な行動を取ってきた」「威嚇や軍事力を通じた領有権の主張には断固として反対する」)。米国が目をつぶっているいかなる事例も見つけることはできないでしょう。

 米国は日米安全保障条約が尖閣諸島をカバーしていることも強調しています。これも、目をつぶっていることになるのでしょうか。中国が2013年、東シナ海に防空識別圏を設定した時、米国はこれを認めないと主張し、B-52爆撃機をその空域で飛ばしました 。これも、目をつぶっていることになるのでしょうか。こうした事実に鑑みて、「米国が目をつぶっている」という見方はフェアではないと思います。

「決意」を示すことの重要性

—スタインバーグさんはご著書の中で、「戦略的再保証」を実現するための取り組みの1つとして「決意」について書かれています 。これに非常に興味を覚えました。

スタインバーグ:「決意」というのはレッドラインのことです。ある事象が起きたならば我々が必ず反応する。それを疑ってならないというものです。

 私が先ほど尖閣諸島について触れたのは、この「決意」の問題があるからです。我々は中国に対して「尖閣諸島に手を出したら何が起こるか? それは日米安全保障条約を発動する要因になる。だから、日本に決して手を出してはならない」と言っています。これがレッドラインです。

米国は尖閣諸島を守る責任がある。

スタインバーグ:もちろんです。これは米国による日本に対する再保証です。そして、中国に対する決意宣言でもある。

—どこにレッドラインがあるか、中国に対して明確に示すことは難しくありませんか。

スタインバーグ:おっしゃる通りです。国際関係において、これは常に大きな課題でした。

 では、具体的に我々はこれをどう行うか。1つは地域における米軍のプレゼンスを高めることです。これは能力と意思からなります。まずは、能力――我々は軍事的に対抗する能力があることを示しておく必要があります。具体的には、現地に軍を配備し、訓練を積み、必要な技術を持っていることを示す。これは比較的容易なことです。

もう1つは意思です。こちらを示すのはより困難です。何か事が生じるまで、伝えることができませんから。意思は、どのような行動を取るか、どのような発言をするか、そして、過去の似た事例においてどのような行動を取ったかによって判断されます。

 米国が1990年代半ばに台湾で取った行動はその良い例です。当時、台湾を巡っていくつもの危機が起こりました。その一つが、李登輝氏が立候補した選挙と、それに伴って、中国が台湾付近に向けてミサイルを発射した出来事です。

 ビル・クリントン大統領(当時)は台湾周辺海域で活動すべく、2隻の空母を派遣しました。これには2つの意義がありました。1つは、我々が「能力」を持っていることを示すこと。もう1つは米国が真剣であることを示すことです。

 尖閣諸島に対して中国が行動を積極化していることに対しても、我々は決意を示しています。例えば日本とともに演習を行っています。尖閣諸島で起こりうる事態を想定した演習を行い、我々がこうした事態に効果的に対応できることを示しています。

 もちろん、その決意を100%示すことは不可能です。ある程度の不確定性は常にあるものです。しかし、続けているうちに、その信頼性は徐々に高まります。

—しかし、南シナ海で進行中の岩礁埋め立てについて、米国が確固たる意思を示しているようには見えません。

スタインバーグ:何もかもが戦争を始める理由になるわけではありません。フィリピンもセカンドトーマス礁における活動を強化しています。関係国のそれぞれが、それぞれの主張を高めるための一方的な行動を取っているのです。それが戦争を起こす理由になるでしょうか。

 しかし、我々は軍の艦船を南シナ海に派遣しています。中国が南シナ海から出て行くように言っても、我々は出ていきはしません。南シナ海における航行の自由は我々の権益です。これを守るため、米国は強い意志を示していると思っています。

 私は埋め立てに同意しているわけではありません。何が戦争を起こす理由たり得るのか、しっかり考えるべきです。今回の件に関しては、こう反応するのが適切でしょう。「今回の埋め立てを巡って戦うつもりはない。しかし、我々はフィリピンと軍事的な関係を強めるかもかもしれない」。

 米国は南シナ海周辺の国々と、基地に関する協力を強化し始めました。これらの行動が、中国による埋め立てを止められるわけではありません。しかし、中国が支払う代償は大きくなります。これこそが、決意を示すことなのです。

—中国が主導するアジアインフラ開発銀行(AIIB)の取り組みについてお伺いします。米国は、自国の安全保障とルール・メーカーとしての地位に非常に大きな価値を置いていると理解しています。これを脅かすものには真剣に対処する。中国によるAIIBの取り組みは、米国のこの地位を脅かすものではありませんか。

スタインバーグ:話はもっと複雑です。中国が行ってきた開発援助の実績は、米国の視点から見て、援助国が保証すべきモデル――OECD(経済協力開発機構)の開発援助委員会が制定するものなど――の模範と呼べるものではありません。なので、中国がAIIBについて提案した時、この取り組みは世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などの重要性を貶めるものとの懸念を持ちました。中国がこれまでに行ってきたことから判断して、これは正当な懸念であると思います。

中国はAIIBが国際秩序への脅威ではないことを保証すべき

 我々がしなければならないのは、AIIBが世界銀行やADBを弱体化させるものではないことを保証するよう中国に求めることです。ADBだけですべて資金需要を満たせるわけではありませんから。

 中国は、(ブルッキングス研究所で上級フェローの職にある)デービッド・ダラー氏を招きアドバイスを受けています。同氏は、かつて世界銀行で仕事をした経験を持ち、信頼のおける人物です。なので、AIIBが既存の国際秩序を弱めるものでなく、米国に対するチャレンジでないことを示すことができるならば、米国はAIIBへの参加を表明してもよいでしょう。参加する必要もあると思います

 この問題も再保証が効果を発揮する分野です。まず、中国が日本や米国に対して、AIIBの目的がADBや現行の国際標準を弱体化することではないと保証するべきです。そして、次に我々が「中国が提案していることを理由にAIIBに反対しているわけではない。AIIBが採用する基準の高さに懸念があるから反対しているだけだ」ということを示すべきです。

 こうした対話を持つこととは、中国にとって良いことでしょう。その意図が正しいことや、AIIBの基準がより高まることを示すことができますから。そして、それができたなら、我々もAIIBを支持することができるでしょう。

—なるほど。AIIBが世界銀行やADBの弱体化を図るものでなく、現行の基準を満たすものであることを示すならば、我々は協力することができるということですね。

スタインバーグ:その通りです。

日米防衛協力指針の改定を評価する

—次は日米関係についてうかがいます。この春に「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」が改定されました。これをどう評価していますか。

スタインバーグ:これは非常に重要なことです。90年代半ばに行われた前回の改定以降、20年にわたって、我々は日米間の防衛協力をより質の高いもの、より協力的なもの、新たな国際関係に適応するものに進化させてきました。これは誇るべきことと思います。

 冷戦が終結した1993~94年頃に「日米同盟は今後も継続するか」と問うたならば、多くの人が「ノー」と答えたでしょう。しかし、我々は日米同盟が21世紀の新しい環境においても依然として重要で、運用可能であることを証明しました。

 そして、今回の改定です。私は、日米防衛協力を現在の環境に適応させるための日米両国のコミットメントを反映していると思います。重要な前進です。この前進に携わったすべての人に敬意を表します。

—今回の改定について日本では、最も重要な点は、日本の行動について地理的な制約を外したことと捉えられています。この点は米国も同様でしょうか。

スタインバーグ:日本が何をできるかについて、米国の期待は非常に現実的なものです。日本が東アジアと西太平洋に焦点を当てたいと考えているのは理解できます。しかし、アデン湾における海賊対処など、我々が共通の利益を持ち、共同で活動できる機会がありました。これは日本のエネルギー供給と貿易にも重要な役割を果しました。なので、我々の共同活動に地理的制約を課すべきではないと考えます。

—米国は日本に、南シナ海における哨戒活動を求めますか。

 スタインバーグ:米政府が日本に南シナ海での哨戒活動を求めるかどうかは分かりません。

 しかし、南シナ海は世界貿易の経路となっており、多くの国がこれに依存しています。航行の自由は、地域のすべての国が行使できる世界共通の権益です。

 なので、南シナ海における航行の自由を確保することは「原則の問題」とすべきです。この地域のすべての国が航行の自由に関心を持っていることを中国は理解すべきです。

アジアの多国間安全保障体制はASEAN中心で

—スタインバーグさんはご著書の中で、アジアにおける多国間安全保障体制において触れています。どのような体制を構築すべきでしょう。欧州における北大西洋条約機構(NATO)のようなものを想定されていますか。

スタインバーグ:いえNATOのようなものではありません。アジアのシステムの強みは、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心にコアとなる仕組みが出来上がっていることです。そしてASEAN加盟国が積極的かつ安定した力を持っていることです。これはNATOとは異なる形態です。

 ASEAN諸国は中国と良好な関係を築くことに利益を見出しています。同様に、米国、日本、韓国、オーストラリアと良好な関係を築くことにも利益を感じています。ASEAN諸国は独立と自由を保つことを望んでおり、いかなる国であれ、特定の国が強大な力を振るうことを求めてはいません。彼らの行動を支援することが、米国を選ぶのか、それとも中国を選ぶのかという二者択一の紛争にしないための方法なのです。

 従って、ARF(ASEAN地域フォーラム)や東アジアサミットは、多国間安全保障体制を築くに当たって、ASEAN諸国に主導権を与える仕組みとなるでしょう。

—欧州諸国に比べて、アジアの国々はそれぞれの発展段階が大きく異なると言われています。

スタインバーグ:おっしゃるとおりです。

 NATOは2つの異なるブロックによる紛争があったから生まれました。西側にはNATOがあり、東側にはワルシャワ条約機構がありました。しかし、今、アジアにおいて我々は、こうしたブロックを作ることを避けようとしています。我々は中国を排除するシステムを作ろうとしているのではありません。中国がより良い行動を取るよう促すシステムを作ろうとしているのです。

 中国を排除するようなシステムを作れば、中国はそれを脅威を感じ、好ましくない行動を取るようになるでしょう。中国を取り込んだシステム――ただし中国が支配することができないシステム――を作る。それこそが良い解です。

 このシステムは、米国が支配できるものでないことも大事です。その方が参加国にとってより受け入れやすいものになりますから。この意味においてARFはよくできています。米中のいずれもが支配するものでなく、すべての関係国が参加しています。そして、地域の安定性を創出する魅力的なフレームワークになっています。

 確かにARFは今、コンセンサス作りに課題を抱えています。しかし、域外の大国に支配されるものでなく、ASEAN中心主義に基づいた機構であるという優位点もあります。ゆえに、安全保障分野における協力を進める前途有望な仕組みだと評価しています。

 行動規範をまとめることも、ASEAN諸国が主導する取り組みゆえ意義があるのです。米国は米国流を押しつけるつもりはありません。中国も同様です。ASEAN諸国のみなが同意できる共通の基盤を打ち立てようとしているのです。

—我々はASEAN諸国から学ばなければならないですね。

スタインバーグ:そうです。ASEAN諸国は非常に良いポジションにあります。全方位で良い関係を築くことに誰よりも利益を見出している。彼らは中国とも、日本とも、米国とも、良い関係を築きたいと考えています。このため、彼らはある意味で、我々を協働させる接着剤の役割を果しているのです。

—現行のアジアの安全保障体制は、米国をハブとするハブ&スポーク型のシステムになっています。これを、別の形に変える必要はありますか。例えば、よりメッシュに近い形とか。

スタインバーグ:安全保障に関する条約の有無に焦点を当てればハブ&スポーク型でしょう。しかし、このハブ&スポーク型システムはARFや東アジアサミットなど汎アジア的な仕組みによって補われています。欧州に例えれば、NATOに加えて、OSCE(欧州安全保障協力機構)がある状態です。なので、こうしたトータルな視点で状況を捉えることが大切です。

—ハブ&スポーク型システムを強化するため、これを構成するそれぞれの3カ国関係を強化すべきという意見があります。例えば日米豪関係を強化するとか、日米韓関係を強化するとか。こうした見方をどう評価しますか。

スタインバーグ:すべてのパートナーが共に活動する方法を探すことは重要です。中でも、米日韓の3カ国関係のために我々は多くの時間を割いてきました。

 しかし、これらが中国を封じ込めるための同盟に見えることのないよう注意して進める必要があります。そうでなければ、この取り組みは危険をはらみます。そして、そうしないための方法がARFや東アジアサミットなのです。

先ほどの戦略的再保証の議論に戻りましょう。中国の視点から見れば、各3カ国関係を強化する取り組みは反中国の同盟に映ります。だから、我々は注意しなければならないのです。我々が中国を排除して、インドやオーストラリア、韓国と提携するように見えるようなものしてはなりません。

 また、この地域のすべての国は、そのような関係強化を望みはしないでしょう。1つに、新たな冷戦や紛争状態を生じさせることはどの国の利益にもならないからです。我々は他の国々が中国との関係を悪化させる事態を望んではいません。日本にも中国と良好な関係を築くことを望んでいます。韓国に対しても、オーストラリアに対しても、ベトナムに対しても同様です。

日本で反中感情が高まるのは理解できる

—日本で反中国の感情が高まっているという指摘があります。スタインバーグさんはどう見ていますか。

スタインバーグ:それを調べた数多くの調査を目にしています。しかし、調査というものは、それがいつ実施されたかによって結果がぶれるものです。1年半ほど前まで、日本人の反中国感情は非常に悪化していました。中国の態度が非常に厳しいものだったからです。政府が出す声明しかり。安倍首相との首脳会談もずっと実現しませんでした。日本人が「中国の態度は非友好的だ。我々は平和国家である。いかなる国に対しても脅威を与えるものではない。それなのに、中国は我々を犯罪者のように扱う」と訴えるのも理解できます。日本人の間にこうした懸念や不安が生じたことに、中国は大きな責任を負っています。なので、戦略的再保証が必要なのです。中国は再保証する責務を負っています。

 中国と中国人は戦前と戦中に起こったことについて、中国としての認識を持っているでしょう。それは理解できます。しかし中国は同時に、日本が中国に対して戦後行った非常に大きな貢献を理解する必要もあります。このことを「抗日・反ファシズム戦勝70周年」の式典で出すであろう声明において明らかにすることは中国にとって重要でしょう。日本は中国が改革開放路線を始めた当初、それを支援する重要な役割を果たしました。

 もし中国が日本に対して再保証すること、そして日本人が持つ懸念を弱めることを望むならば、中国ができることの1つは、「戦争犯罪国が来た」と言い続けることではなく、日本が積極的な平和国家であることを認めることです。私が見る限り、日本が再び軍国主義を歩む兆候はありません。

 閣僚による靖国神社参拝問題があります。これが1930~40年代の軍国主義の再来であるという見方は、私は当たらないと思います。むしろ、中国独自の感情が作り上げたものでしょう。

 一方、安倍首相が今秋に中国を訪問すれば、同首相と習近平国家主席による3度目の首脳会談が実現します。これは日中関係にとってポジティブな兆候です。日本の人々もこれを好感することでしょう。

 他の国が中国をどのように認識するか、その幾分かは中国自身の行動にかかっています。そして、ここ2年ほど、この認識は悪化する傾向にあります。それゆえ中国は次のことに注意を払うべきです――他国が脅威を感じるような行動を取れば、中国にとって高くつく。

—日本人の一人として、中国が再保証してくれることを望みます。

スタインバーグ:森さんがそう思うのももっともなことです。

 台頭する国が最初に負う責任は、その力を他国に脅威を与える形で行使することはないとを示すことです。米国に対して再保証するだけでは十分ではありません。日本、韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシアなどすべての国々に対して、中国が目指すのは明朝の再興ではないことを再保証するべきです。当時、周辺の国はみな中国に朝貢していました。そうしなければ、中国という大風に吹き飛ばされてしまいましたから。

米中首脳会談の焦点は…

—今秋に米中首脳会談が予定されています。先ほど話題に上った南シナ海の問題で進展はあるでしょうか。

スタインバーグ:この首脳会談に私も注目しています。しかし、何について話し合われるかなどの情報を私は持っていません。

 南シナ海の問題について、米中の2カ国協議の場で話し合うことが適切とは思いません。次回の東アジアサミットが適当ではないでしょうか。この問題はASEAN諸国が大きな利害を持つ問題ですから。東アジアサミットの場でなら、ASEAN諸国も米国も関与することができます。

サイバーセキュリティについて進展はあるでしょうか。

スタインバーグ:米中による協力を進めるべく、小さな一歩でもよいので踏み出すべきです。この問題は重要かつ懸念が大きい分野ですから。ここ最近は、目立った進展がありませんし。ただし、実際に進展がありかどうかは分りません。私は政権の外から見ている立場ですから。待つしかできませんね。

イラン核合意は周辺国への再保証が肝心

—最後にイランの核開発を巡る、同国と欧米など6カ国との合意についてうかがいます。スタインバーグさんはこれをどう評価していますか。

スタインバーグ:この問題は2つの異なるレンズを通して見るべきだと思います。1つ目のレンズはイランの核開発とその危険性です。この視点から見た時、今回の合意はポジティブなステップと言えるでしょう。イランの核開発に対して大きな制限をかけ、強力な査察と検証の仕組みを取り入れました。

 イランが約束を反故にした場合は、制裁を復活することもできます。これまでの制裁は有効でした。それゆえイランは今回の話し合いに合意したのだと思います。

 もう1つのレンズは、イランがこの地域において持つ影響力です。この面から見た場合、今回の合意を評価することは難しいことです。イランによる核開発を制限する一方で、経済制裁を解除します。そして5年後には武器の禁輸も解除される。この措置は、この地域におけるイランの役割を高めることにつながるかもしれません。

 それゆえ、今、米国や他の国々にとって必要なのは、次のことを明らかにし、戦略を構築することです――「核問題は進展した。だが、解決しなければならない問題はほかにもある。ヒズボラやハマス、不安定な国々に対するイランの支援だ」。

 ここでも戦略的再保証の考えが有効です。イランは制裁解除によって得る経済的メリットを、周囲の国々――イスラエルやサウジアラビアなど――に脅威を与える形で用いないことを再保証すべきです。こうした国々が不安を持つのは無理もないことですから。

—サウジアラビアの米国離れが始まったと見る向きがあります(関連記事「イラン核合意は、サウジなどが「米国離れ」を始める号砲」)。核を巡る合意は副作用が大きそうです。

スタインバーグ:それがまさに私の懸念するところです。それゆえ、湾岸諸国の首脳とオバマ大統領が会談したキャンプ・デービッド・サミットが重要だったのです。アラブの友人たちとイスラエルにいかにして再保証を提供するかが大切です――今回の合意は彼らの立場を弱めるものではないと。

—米国のアジアピボットは進んでいないように見えます。イランとの合意がなったので、進展があるでしょうか。

スタインバーグ:私は、中東とアジアの関係はゼロサムゲームだとは思っていません。我々は2つのことを同時に実行することができます。これまでイランに焦点を当てていたから中国対策ができていなかったとは思いません。

 私はオバマ大統領、そしてオバマ政権が東アジアにフォーカスを当てていることを誇りに思っています。これはタイムリーな施策であり、偉大な実績です。オバマ政権は当初から高い優先順位を置いてきました。ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の最初の訪問先はアジアで、最初の滞在は日本でした。オバマ大統領が就任した後、ホワイトハウスに最初に招いた賓客は麻生太郎首相(当時)でした。

 他の地域でいろいろな事態が生じています。しかし、そんな中でも東アジアへのフォーカスを失わずにきたことは非常に重要なことだと認識しています。

—ヒラリー氏の話が出たのでうかがいます。同氏の選挙運動に参加する予定ですか。

スタインバーグ:私は彼女を強く支持しています。彼女から求めがあれば何でもするつもりです。私が彼女の助けになれるのならば、光栄なことです。

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