5/12日経ビジネスオンライン 『日本人には「リアリズム」の視点が欠けている 今、世界史と地政学を学ぶ理由(1)』、5/13日経ビジネスオンライン 『移民を先兵に領土を奪ってきたリアルな歴史 今、世界史と地政学を学ぶ理由(2)』について

日本の歴史学会は実証主義とアイデアリズムをベースにしていると茂木氏は言いっていますが、実証主義については「慰安婦」や「南京虐殺」など中韓のデッチアゲを認め、畸形左翼のイデオロギーで歪曲したものが大手を振ってまかり通る世界です。また、アイデアリズムというのもダーウィンを発展させた社会進化論をベースにした進歩主義(≒リベラリズムではないか)で保守主義とは相容れない価値観でしょう。戦後民主主義が齎した弊害と思います。歴史学会の偉い先生が教科書を執筆する訳ですから堪ったものではありません。偏向教科書になるのは必定。教科書以外であれば、「表現の自由」の範囲内ですが。育鵬社や自由社の教科書が採択されないのは問題です。出版社が教育委員や先生に賄賂を与えて、教育を捻じ曲げていることに国民はもっと怒るべきです。

日本人は権威に弱いというか、安易に権威を有難がり過ぎでは。和田秀樹の『学者は平気でウソをつく』にも権威に対しもっと眉に唾して見た方が良いとありました。学説は時代と共に変わり、ニュートン力学からアインシュタインの相対性理論に、フロイトも世界では20年くらい前から相手にされなくなったとのこと。フロイトが日本でまだ生き延びているのは、マルクス経済学を教えている大学がまだあるのと同じです。東大=官僚と朝日新聞を有難がる心理は戴けません。日本に害を為す連中は糾弾していかねば。

これに対し、地政学はリアリズムの世界、突き詰めればハードパワー(軍事力)とソフトパワー(経済・文化)の世界です。

第二次大戦で果たした日本の世界史的役割は、副次的効果(主たる目的は資源確保・アウタルキーできる生存権確保)でありましたが植民地の解放を成し遂げたことです。トインビーもそれを認めています。日本の戦後利得者達が認めないだけです。護憲を言っている連中は言うことで利権(メシの種)を持っているからです。

<1956年10月28日付け「オブザーバー」紙

ひとたび失われた(欧米の)政治権力はもはや回復できない。インドシナ半島を取り戻したフランスはわずか8年でベトナムの抵抗に屈し、インドネシアを取り戻したオランダは戦前の地位を回復できないで独立を承認した。・・・・・マレー半島とシンガポールで起きた激変はイギリス軍の軍事的瓦解である。ひとたび惨敗した以上、失われた権威は戻らない。・・・・・第二次大戦において日本人は、日本のためよりもこの戦争によって利益を得た国々のために偉大な歴史を残したと言わねばならぬ。それは日本が掲げた思想『大東亜共栄圏』に含まれた国々である。今日のアジアの最重要課題は、この覆された日本の衣鉢を誰が継ぐかである。日本人が歴史の上に残した業績の意義は、西洋人以外の人類の面前で、アジアとアフリカを支配してきた西洋人が、過去二百年の間に考えられてきたような不敗の半神ではないことを明示したことにある。イギリス人も、フランス人も、オランダ人も、ともかくわれわれは皆ばたばたと将棋倒しにやられてしまったのだ。やっと最後にアメリカ人だけが軍事上の栄誉を保てたのである。>

米国は親中派の国の首脳を、パナマ文書を利用して追い落としを図っているように見えます。英国のキャメロンや豪・ターンブル等。キャメロンはオズボーン(パンダハガー、ハニーにかかったのではと小生は見ています)財務相の言いなりになって臍を噛んでいるのでは。エリザベス女王の園遊会での中国人に対するrude発言は内閣に「中国に近づくな」という事を示唆したのでは。中国経済が崩壊寸前で「元」を活用して儲けようというのは甘すぎ。独も中国に近づきすぎてEUもガタガタになるでしょう。6/23Brexitは起きないと見ていますが。

記事

「世界史」と「地政学」がにわかに注目を集めている。メディアの報道を見ると「地政学的リスク」という文字があちこちで躍る。書店では「○○の世界史」というタイトルが棚を占める。地政学とは何なのか。世界史とはいかなる関係にあるのか。地政学と世界史を学ぶと、世界で起きているニュースはどのように理解できるのか。『世界史で学べ! 地政学』などの著書がある茂木誠氏に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

—「地政学」という文字を頻繁に目にするようになりました。この言葉の使われ方を見ていると、「世界史」と何が違うのだろうという疑問が浮かびます。

Makoto Mogi-1

東京都出身。大学受験予備校の世界史科講師。iPadを駆使したビジュアルな授業に人気がある。近著に『世界史で学べ! 地政学』『ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ』がある。(撮影:菊池くらげ、以下同)

茂木:まず「歴史」についてお話ししましょう。事実の羅列・記録は歴史ではありません。なので年表は歴史とは言えません。年表を歴史にするためには歴史観を加える必要があります。たくさんある出来事の中で、どの事実に注目するのか、ある事実ともう一つの事実はどういう関係にあるのかを解釈するための視点ですね。

—私が高校時代に習ったのは世界史ではなくて年表だった気がします。その年表すら十分に覚えることはできませんでしたが。

茂木:同じ事実を見ても、その解釈の仕方は幾通りもあります。その解釈の視点の一つが「リアリズム」という考え方に基づいて歴史を見る方法です。「歴史には正義も悪もない。生存競争を続けているだけ」とする歴史観です。地政学は「リアリズム」の一つで、地理的条件に注目して国家の行動を説明します。

 学者や教科書の執筆者は自分の歴史観を示すのを嫌がる傾向があります。歴史観は多様なので、異なる歴史観を持つ人から必ず批判されます。それを恐れて、事実の羅列に終始するのです。

—他の国の歴史教育も、事実の羅列にとどまる傾向があるのですか。

茂木:例えば米国には検定制度がありません。だから、教科書会社がそれぞれの歴史観に基づいた教科書を出版しています。日本への原爆投下を「仕方がなかった」と解釈する教科書があれば、「必要なかった」と書いているものもあります。

 日本の学会はこの半世紀にわたって事実に重きを置く実証主義とアイデアリズム(理想主義)に重心を置いてきました。アイデアリズムというのは、世の中は「進歩」「統一」「戦争のない世界」などの理想(アイデア)に向かって動いているという歴史観です。

 例えば国連中心主義というのはアイデアリズムに基づいた考え方の典型例です。日本もこれに則って、第2次世界大戦までの行動を反省し、国連の一員として活動し、軍備を制限すれば平和に貢献できると考えてきました。

 ところが、周囲を見渡すと、どうもそうなっていないことが肌感覚として分かってきました。それが、世界史と地政学が注目を集めるようになった原因なのだと思います。

 悪である共産主義が打倒され、冷戦が終わった。自由と民主主義の世界が実現し、紛争はなくなるだろうと米国の思想家フランシス・フクヤマ氏が『歴史の終わり』で論じました。しかし、そんな世界は到来しませんでした。中東は大混乱に陥って、過激派組織の「IS(イスラム国)」が登場。中国は海洋進出を強化。ロシアもウクライナ問題に介入し、西側に対して再び対決姿勢を取るようになりました。

 こうした現実を説明する手段として、リアリズムが注目されているのだと思います。

学校では教わらないリアリズム

—今、ビジネスパーソンが世界史と地政学を学ぶ意義は何でしょう。

茂木:ビジネスと地政学はかなり遠い関係にあると思います。ビジネスは「理性」の世界ですよね。数字に基づいて合理的判断する。市場があって儲かるところに出ていく。一方、地政学は不合理と感情の世界です。価格が多少高くても自国製品を使いたいとか、生産性が低くても国内での雇用を優先したいというのは感情です。「ナショナリズム」の世界と言い換えてもよいでしょう。しかしこれがリアルな現実なのです。

 ビジネスパーソンにはぜひリアリズムの考え方を身につけていただきたいと思います。日本の学校では、小学校でも中学校でも、アイデアリズムに基づいた教育がなされます。「話し合えば、ジャイアンとも仲良くやっていける」と習うわけです。性善説に立っているわけですね。こうしたしつけの影響は大きい。結果として社会や世界に出た時に、騙されたり、いいように使われてしまったりするわけです。

世界にはずるいことをする国や、ダブルスタンダードで外国に接する国があることを世界史と地政学から学ぶ必要があるわけですね。英国は第1次世界大戦の時、トルコ人が牛耳るオスマン帝国を内部から崩壊させるべくアラブ人をけしかける一方で、同帝国の支配地域をアラブ人の意向を無視して列強で分割する協定をフランスやロシアと結びました。米国はイスラエルの核開発には目をつぶる一方で、イランや北朝鮮には厳しい態度を崩しません。

 私は世界史と地政学を学ぶべき理由として、日本人は「大きな地図」を見る訓練ができていないことがあるのではと考えています。「小さな地図」はちゃんと見ています。しかし、大きな地図にはなかなか注意がいきません。

 日露戦争が典型例です。朝鮮半島の権益を巡って日本と帝政ロシアが対立しました。日本人の頭の中には、日本とロシア、朝鮮半島、中国の一部からなる地図が思い浮かぶ。これが小さい地図です。

 一方、日露戦争は、南下政策を進めるロシアとこれを阻止しようとする英国とが演じるグレートゲームの一部をなすものでした。英国は、クリミア戦争ではロシアと戦うオスマン帝国を支援、第2次アフガニスタン戦争ではロシアに支援されたアフガニスタンと対決。日露戦争ではロシアと戦う日本を支援しました。この「大きな地図」については、司馬遼太郎さんが書いた「坂の上の雲」も多くの紙幅を割いてはいません。

 —日本人は大きな地図を見られるように訓練する必要があるのではないでしょうか。

茂木:世界観の欠如ですね。日露戦争の時、ロシアとの講和に反対し、ロシアの当時の首都だったサンクトペテルブルグまで攻め込むよう新聞に意見広告を出した東大教授がいました。大きな地図を見ることができなかったのでしょう。

 ただ、大きな地図を見られる人は限られています。世界に影響を及ぼすことのできる大国、例えば米国、英国、ロシアといった国のリーダーだけです。

学ぶべきは近代以降の支配国の歴史

—ビジネスパーソンが改めて世界史を学ぼうと考えたとき、どこから手を付けるのがよいでしょう。期間は長いし、国の数も多いので悩みます。

茂木:近代以降の帝国主義の時代、日本で言えば明治時代からの歴史を学ぶべきです。この時代を動かす原理は「国益」です。これは今にも通じます。古代や中世はとりあえず放っておきましょう。これらの時代を動かしていた原理は「宗教」で今とは異なります。

 注目すべきは支配する側だった国、列強ですね。欧州では英国、フランス、ドイツ、オーストリア、イタリアの5大国。これにロシアと米国。あと日本を加えた8大列強です。

—日本史を見ると、スポットライトが当たる時期というのは決まっています。NHKの大河ドラマは戦国時代と明治維新を繰り返し取り上げています。世界史にも同様の時期があるのでしょうか。

茂木:世界史、なかでも欧州史は統一と混乱の繰り返しです。最初の統一はローマ帝国が果たしました。これが崩壊して中世が始まる。中世はカトリック教会が再統一します。これをルターによる宗教改革が打ち壊した。カソリックとプロテスタントによる宗教戦争が拡大して混乱。これを収集して統一を果たしたのがナポレオンでした。ナポレオン体制が崩れると三国同盟と三国協商が対立する混乱の時代が訪れ第1次世界大戦へとつながります。第1次世界大戦でオーストリア、ロシア、ドイツの3つの帝国が滅びると、生き残った国々は国際連盟を結成して統一を図りました。

次回に続く)

『世界史で学べ! 地政学』などの著書がある茂木誠氏に聞く第二弾。世界の注目を集める現在進行形の事件について、その意義と背景をリアリズムの視点から斬る。取り上げるのは「ブレグジット」「パナマ文書」「中国の一帯一路政策」「カラー革命とアラブの春」だ。

(聞き手 森 永輔)

(前回記事はこちら

ブレグジットは、英国によるドイツ覇権への反発

—ここからは、いま注目を集めている出来事を対象に、世界史と地政学の視点からどう解釈できるかうかがいます。最初のテーマは英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)です。英国はこれまでオフショアバランシングを対欧州大陸政策の柱にしていました。大陸に覇権国家が現れそうな時にはそのライバル国を支援して叩くというものです 。第2次世界大戦ではドイツを叩くべく、ソ連と手を組みました。それまでグレートゲームを戦ってきたにもかかわらずに。ブレグジットはこのオフショアバランシングとはずいぶん趣を異にしているように見えます。

Makoto Mogi-2

東京都出身。大学受験予備校の世界史科講師。iPadを駆使したビジュアルな授業に人気がある。近著に『世界史で学べ!地政学』『“ニュースのなぜ?”は世界史に学べ』がある。(撮影:菊池くらげ、以下同)

茂木:英国にとってドイツは長年のライバルです。ブレグジットは、ドイツの風下には立ちたくないという英国のナショナリズムの表れでしょう。英国から見ると、EUはドイツに仕切られている機関にほかなりません。

 英国は産業革命によっていち早く工業立国を実現したものの、19世紀後半には輸出額でドイツに抜かれ、金融立国に転換しました。輸出によって蓄えた資本を外国に投資し、その収益によって成り立っています。いま、この金融国家の地位もドイツに脅かされるようになりました。冷戦が終わって東西ドイツが統合し巨大ドイツが復活したことも英国にとって脅威でした。ユーロ導入を拒否してポンドを守ってきたのもそのためです。

 ドイツが仕切る大陸市場に依存したくない英国が選んだ投資先が中国です。中国の習近平国家主席が昨年10月 に訪英した時に、キャメロン首相らが非常な歓待をしたことが話題になりました。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加するといち早く名乗りを上げたのもこのためです。米国の不興を買うことも厭いませんでした。

—第1次世界大戦の時にロシアと手を組んでドイツを叩いたように、他の国と協力してドイツにビジネス的に対抗することは考えなかったのでしょうか。

茂木:現在の欧州にドイツと対抗する力を持った国は見当たりません。

 ロシアも頼りにはなりません。プーチン大統領とドイツのメルケル首相が良好な関係を維持しています。またロシアは、「90年代に外資導入で痛い目にあった」というネガティブな感情を英国に対して抱いています。プーチン大統領の前任だったエリツィン大統領が外資の導入と資本主義化を推進したのに伴って、ガスや石油といった基幹産業を含む多くの企業が外資企業やそれと結んだ新興財閥によって買収されたからです。

 米国のドル支配に対しても、英国は快く思っていません。ドルもユーロも敵となれば、人民元と手を組むしかない、というのがロンドンの金融街(シティ)の判断です。

パナマ文書はドイツによる英国への意趣返し

 パナマ文書が注目を集めています。これはドイツによる英国への意趣返しの面があるでしょう。この文書を最初に入手したのは南ドイツ新聞とされています 。そしてキャメロン首相と習近平国家主席の名前がいの一番に報じられました。

 この文書を世界に公開した国際報道ジャーナリスト連盟(ICIJ)という団体には、米国の代表的ヘッジファンドのジョージ=ソロスが資金を提供しています。ウォール街は、英国と中国が関係を密にするのを面白く思っていません。同文書を巡って、米国の大物政治家の名前が出てこないのも作為を感じます。

一帯一路政策は「モンゴル帝国」の再来

—なんともきな臭い話ですね。次にお伺いしたいのは中国が進める一帯一路政策です。これは習近平国家主席がモンゴル帝国(元朝)の再現を狙っているのでしょうか。極東から欧州に至る巨大な勢力圏を築こうとしている。

茂木:その通りです。目的の一つは、長い国境線を接し、潜在的には緊張関係にあるロシアとの間でユーラシア同盟を築きたいということ。同時に、カザフスタンなど旧ソ連圏の中央アジア諸国に投資して影響力を拡大すること。

—ロシアはかつて2世紀にわたってモンゴル帝国に支配されました。一帯一路政策が経済的に元を再現するものであれば、ロシアはこれに恐怖を抱いているのではないでしょうか。

茂木:そうですね。ロシアはその2世紀を「タタールのくびき」として暗黒時代と位置づけています 。「タタールがまた来た」という思いかもしれません。

 ロシアは極東でも中国の人口圧力を警戒しています。バイカル湖以東のロシア人口が620万人で千葉県の人口程度しかいないのに対し、国境の南の旧満州には1億人が住んでいます。

米国は移民を先兵にテキサスとハワイを手に入れた

—移民を受け入れることは「人道的に正しいこと」というイメージがあります。しかし、現実には移民は“武器”と言えませんか。茂木先生は著書の中で「テキサス共和国」について触れています。米国は、当時はメキシコ領だったテキサスへの移民を拡大。これは合法的なものでした。人口でメキシコ人を上回ると独立を宣言し、米国への加盟を申請し、28番目の州になりました 。

 ハワイでも同様のことをしています。大量の移民を送り込んだ後に「ハワイ革命」を起こし、米国の50番目の州となった 。

茂木:おっしゃる通りです。ロシア系住民が多いクリミアをウクライナから分離してロシアに併合したプーチン大統領も、当然、これらの歴史的事実を意識していたでしょう。

 加えて、一帯一路政策は純粋な経済政策ではないことも、ロシアの恐怖心を高めていると思います。例えば中国企業が、「一帯」の西端に位置するギリシャ最大の港、ピレウス港を買収しました 。ロシアから見ると、ロシア艦隊が黒海から地中海に出る際のチョークポイントを、中国に塞がれる可能性が出てきました。

 同様に中国は、海路である「一路」の通り道であるオーストラリアでも港を抑えています。米海兵隊がローテーションで駐留するダーウィンの港を、中国企業が99年にわたって借りる契約を結びました 。米豪の同盟関係にくさびを打ち込むことが狙いでしょう。オーストラリア経済は、資源を海外に販売することで成り立っています。その最大の貿易相手は中国です。

—オーストラリアが、米海兵隊の拠点近くの港を中国に貸し与える判断までしているのでは、日本の潜水艦が選ばれないのも道理ですね(関連記事「豪潜水艦の商談を機に日本の防衛産業を考える」)。

茂木:オーストラリアには中国からの移民が年々増えています。中国傾斜を強めるターンブル政権は彼らの意向にも配慮する必要があったのでしょう。

—ここでも移民が重要な役割を果たしているのですね。

 中央アジア諸国は一帯一路政策をどう思っているのでしょう。彼らもモンゴル帝国に支配された記憶を思い出すのでしょうか。

茂木:ロシアほどではないと思います。民族的にも同じ系統ですし。

 例えばカザフスタンの場合、反イスラム過激派ということで中国と利益を共有しています。ナザルバエフ大統領 は旧ソ連時代から政権を維持しており世俗主義をとっています。従ってイスラム過激派とは相容れません。一方、中国はISが新疆のウイグル人独立派に勢力を拡大しようとしているのを警戒しています。「反テロ」で両者の利害は一致します。

—ロシア以外に大きな反対勢力がないとすると、一帯一路政策は順調に進むのでしょうか。

茂木:この政策の進み具合を左右するのは、周囲の国の動向よりも、上海株の暴落以来、失速している中国経済のほうだと思います。

カラー革命とアラブの春の背景にあったもの

—米国の状況についてうかがいます。内向き志向がどんどん強まっているように見えます。オバマ大統領は2013年9月に「米国は世界の警察官ではない」と明言しました 。次期大統領を目指して予備選を戦う候補者たちも、格差を中心とする内政にその興味が向いています。TPP(環太平洋経済連携協定)やTTIP(環大西洋貿易投資協定)などのメガ自由貿易協定にもネガティブな姿勢を示しています。

茂木:おっしゃる通りですね。米国が内向きになった理由はイラク戦争とリーマンショックの二つです。イラク戦争が長引いたため、厭戦気分が広まりました。「なぜ中東で、米国の若者が命を落とさなければならないのか」という声が高まっています。

 リーマンショックは貧富の格差を拡大させました。奨学金を返済できずに苦しんでいる人がたくさんいます。ここに、共和党のトランプ氏や民主党のサンダース氏が大統領候補として躍進してきた理由があります。

 米国が力を落としたのにつけ込んで、ロシアはウクライナに、中国は南シナ海に触手を伸ばしました。

—アラブの春も米国の衰退が原因でしょうか。

茂木:アラブの春は様相が異なります。これはソ連の崩壊を受けて米国が中東の親ロシア政権を倒す運動の一環でした。

 アラブの春で倒れたのは、エジプトのムバラク、チュニジアのベン・アリ、リビアのカダフィの各政権です。いずれも親ソ派でした。これらの国は冷戦終結を受けて米国にすり寄る姿勢を見せましたが、米国は面従腹背と見て信用しませんでした。

 アラブの親ロ政権が倒される中で、唯一、政権を維持しているのがシリアのアサド政権です。ロシアが軍事介入に踏み切ったのはそれゆえです。ロシア海軍がシリアのタルトス港を拠点として利用しているのも理由の一つです 。

 アラブの春に先立って、ジョージア(グルジア)でバラ革命が、ウクライナでオレンジ革命が起こりました。これは旧ソ連諸国における親ロ政権を倒したものです。スポンサーは例のジョージ・ソロスの財団でした。アラブの春はこれを中東に応用したものです。

—独裁政権が倒れるのは、アイデアリズムの視点から見れば好ましいことですが、その結果起きたのは混乱でした。

茂木:中東には「どんな独裁であっても混乱よりはましだ」ということわざがあります。

—なんとも皮肉なことわざですね。

再びシーパワーを目指す中国

茂木:中国の話をしましょう。習近平政権は明時代の中国のようにランドパワーからシーパワーへ転換することを目指しているのだと思います。永楽帝は、鄭和に南海遠征を命じました 。艦隊を東南アジアからインド洋、東アフリカへと回らせ、周辺国に朝貢するよううながしたのです 。

—しかし、その試みは長続きしませんでした。

茂木:北方騎馬民族のモンゴル人が中国の北辺を再び襲ったからです 。

—茂木先生は著書の中で、中国は長いこと南と北に敵を背負ってきたことを説明されています。「北虜南倭」ですね。北には騎馬民族、南には倭寇。米国の力が衰え、ようやく海洋進出の機会を得た中国は、北を襲う可能性があるロシアと敵対したくはないでしょうね。

茂木:中国の海洋進出が可能になったのは、ソ連崩壊で北の脅威から解放されたからです。

 冷戦期に、ソ連に対抗するため毛沢東とニクソンが米中関係を正常化して以来、両国は良好な関係にありました。だからこそ、中国は経済を急速に発展させることができた。しかし、海洋進出やAIIBの設立で流れが変わりました。AIIBの設立は米国にとって、飼い犬に手を噛まれたようなものでしょう。米国は今後、警戒感を強めるでしょう。

 これまでは米国防総省と防衛産業が中国を敵視しても、米国務省と金融界は中国に好意的でした。しかし今は国務省も警戒感を強めています。習近平国家主席は「やり過ぎた」と言えるでしょう。

—米国の戦略家、エドワード・ルトワック氏の近著『中国4.0』によると、習近平政権はやり過ぎに気付き、政策を改めつつあるようです。

茂木:習近平政権が政策を改めるかどうかは国内政治の動向によるでしょう。カギを握るのは人民解放軍です。独裁政権は民衆の声を気にしませんが、軍の忠誠は政権の維持に不可欠です。そして軍の中には「米国なんか目じゃない」と主張する強硬派がいるのです。

—世界史と地政学の視点から分析すると、米中関係の将来像が読めるものでしょうか。

茂木:地政学では北米大陸を巨大な島と考えます。カナダやメキシコが、米国を軍事的に脅かすことは考えられません。一方、中国は常に、北方にロシアの脅威を抱えています。

—オバマ政権の動きを見ていると、ウクライナ問題でもシリア問題でもロシアに対して寛容であるように見えます。これは、中国の北辺にプレッシャーをかけ得る存在であるロシアとの関係を保ちたい意図があるからでしょうか。

茂木:オバマ大統領がそこまで考えているかどうかは分かりません。しかし、側近の中にはそのように考えている人もいるでしょう。

—だとするとオバマ政権は、安倍政権がプーチン政権との関係を深めるのも歓迎でしょうか。

茂木:日ロ首脳会談を開くことにオバマ大統領は不快感を示していますね。しかし、リアリズムの視点に立てば、日ロの関係強化を認めることもありうるでしょう。

 ロシアがISへの空爆を始めて以降、ロシアに対するオバマ政権の姿勢はソフトになっています。対ISでロシアの力を利用しようと考えているのでしょう。同じように、中国を牽制するためにもロシアを利用しようと考えるかもしれませんね。

 だとすると、現在の環境は、日本にとって北方領土交渉を進めるチャンスです。米国からの妨害を受けずに対ロ交渉を進められますから。米国の衰退は、日本が自立した外交を展開する千載一遇のチャンスなのです。

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