邱 海涛著『ついに中国で始まった大崩壊の真実』について

この本の著者邱海涛氏は上海近郊在住とのこと。ここまで書くと朱建栄のように拘束されないか心配になります。香港のコーズウエイベイの書店の5人が失踪したことを見ても、党・政府批判者はどこにいようとも(外国であっても)安全ではありません。

如何に中国の経済が弱ってきているか中国人の口から出てきました。生産年齢人口でいえば、中国は「未富先老」です。社会保障も未整備で、日本人と結婚して一族を優雅に過ごさせようと思っている中国人は沢山います。日本人男性は引っかからないように。

ア●兄弟で政治同盟を結ぶとは日本人には想像もできない発想です。流石中国人です。小生が中国に在勤していた時には聞いたことがなかったです。共産党の闇が深いという事でしょう。

日本にいる中国人は真理、歴史の真実にもっと目を向けるべき。そうでなければ日本の左翼・リベラルと同じく「知的誠実さに欠ける」と言われます。嘘つき共産党の刷り込みをまだ信じますかと問いたい。

でも、中国人は韓国人同様「息を吐くように嘘をつく」民族ですし、本文にあるよう非寛容です。謝罪しても許す訳がありません。独仏がEUを作れたのは仏の寛容があったからです。中国にそれを期待しても無理と言うもの。「話せば分かる」と言って射殺された日本の首相もいました。Seal’sや日本共産党、社民党、民主党は中国の軍事拡張、北朝鮮の核実験を止めさすように話ししに行くべき。日本は今、戦争を抑止する戦力を持とうとしているだけです。これをしなければ却って戦争が起きやすくなります。まあ、彼らの祖国は中国大陸か朝鮮半島なのでしょうけど。日本人のパスポートを返還して、祖国の人になったらよい。でなければスパイでしょう。日本人も彼らの言説にいつまでも惑っていたのではどうしようもない。既存のメデイアを読む・見るだけではデジタル・デバイドになります。特に左翼新聞は取らないことをお勧めします。

それと、本文にあります何建明の『南京大虐殺全記録』を調べて、中国の記憶遺産登録の反証としてはどうか。

内容

P.12~13

経済崩壊で好戦的気運が高まる中国

現在の中国経済の衰退ぶりは、想像を超えるほど深刻である。これまでなら考えられないような事態が頻発するようになっている。

上海株が2014年末ごろから2 015年6月までのわずか6カ月で9割近くも急上昇したかと思うと、6月10日からの3週間で3割近くも暴落、時価総額で約400兆円分が市場から消えるという、パニック状態に陥った。

だが、その予兆は実体経済に現れていた。

たとえば、国有企業の中国鉄道総公司では2015年の初めに社員の賃上げが実施されたが、4月に入ってから東北3省の鉄道を管轄する瀋陽鉄道局に本社からの緊急命令が突然下った。その内容は、全社員の賃上げは直ちに中止。以降も賃上げは無期限に見送り。そして、すでに支払われた3カ月の賃上げ分は即刻、本社に返却せよというものであった(「中国経常報」20 15年5月1:日付)。

瀋陽鉄道局は28万人もの社貝が働いており、賃上げストップによる家族生活への悪影響が必至 だと思われる。ちなみに、瀋陽鉄道局の社員の平均給与は320 0元(約6万円)である。

賃上げストップの最大の原因は鉄道経営の不振である。中国鉄道総公司の統計によると、20 15年1〜3月期の貨物輸送量は8億673 9万トンで、前年同期比8971万トン減、下げ幅は9.37%にも及んだ。

そのうち、石炭輸送量は5億3621万トンで6割以上を占めるが、前年同期比5290万トン減、下げ幅は8 .98%であった。専門家は、中国経済の衰退や自然環境の保全の進行につれて、 石炭の消費量や輪送量がさらに減少する、と語る。これから1年のうちに瀋陽鉄道局の約半分の社員が解雇されると予測している。

2015年に入り、 とくに黒竜江省、吉林省、遼寧省の東北3省は、急ブレーキがかかっている中国経済の中でも、真っ先に総崩れになっていることがよく報じられている。

これまで東北3省は毛沢東時代の重工業の発祥地かつ拠点であり、新中国を支えてきたもっと も重要な生産基地であった。そこが経済崩壊を起こしている主な原因は、経済改革がほとんど進 まず、現在も計画経済が主流だということである。

2015年1〜3月期の東北3省の各GDP成長率を見ると、遼寧省は1.9%で全国の省で最下位、黒竜江省は4 . 8%で下から4位、吉林省は5 . 8%で下から7位というありさまである。

P.16~17

2007年の成長率14.20%に対して、200 8年は9 .64%に急落。それ以降、2009年は 9 .21%、2010年は10.41%、2011年は 9.30%、2012 年は 7 .76%、201316 年は7 .75%、2014年は7 .36%という減速ぶりであった。

2010年は上海国際博覧会が開かれたため、景気が刺激されて経済がいくらか好転したように見えたが、まもなく坂道を転がるように下落を続けた。

GDPとは、平たく言えば、全国における企業と個人が1年間で稼いだ収入ということである。 GDPの成長率が低下するということは、収入が減ることを意味する。

2013年6月には、銀行の「資金不足」が起きて大きなパニック状態となった。この金融不安は日本でも大きく報じられた。

6月20日、上海の銀行間取引金利である「SHIBOR」(Shanghai Interbank Offered Rate) が13.44%、瞬間風速的に30%台にまで急騰するという、最悪の事態が起こった。銀行では日々の業務に必要な資金をまかなうために、銀行同士が互いに短期的に資金を融通し合う什組みがあるが、上海ではこのときに適用される金利を「SHIBOR」と呼ぶ。これが急騰したのだ。 このことは各銀行の資金が不足し、破綻リスクが高まったことを意味する。 この前代未聞の金融騒ぎは以降、半年も続いた。

いったい、お金はどこに消えたのだろうか。不良債権が膨らみ、融資した巨額の資金が回収できなくなったからである。

9月には、金融危機の重大さを知った中央政府が各地に調査団を派遺し、実態調査に乗りだした。金融危機への対応策を講じようとしていたが、いまだに不良債権の実態はわからないままである。

2014年に入っても、暗い経済ニユースばかりが伝えられていた。 中国では、外資企業を除き、中国経済の富の90%は民間企業が創出している。その民間企業が集中し、中国経済の鍵となっているのが、浙江省の温州市である。「温州が動けば中国が発展し、温州が冷え込むと中国が衰退する」とまで言われるほどだ。

しかし、この温州市が2013年に入ってから急変し始めた。不動産価格が暴落したのだ。わずか数カ月で価格が半値を割り込むという急落ぶりだ。その理由は、製造業が不況に見舞われ、資金繰りに苦しみ、多くの企業が投資で買い溜めしていた不動産を安値で叩き売ったからである。しかも、買値を大きく下回ったため、銀行ローンの返済を放棄して夜逃げした持ち主が続出した。その数は1万5000件にも上ると伝えられている。巨額の負債を抱え、蒸発した者もいれれば、夫婦で自殺を図った者もいた。もちろん、担保の不動産を差し押さえた銀行も、買い手がつかず、価格の下落が止まらないため、不良債権が膨らんだ。

2014年6月に、生活秀集団、騰旭服飾など、温州経済を代表する大手民間企業13社が倒産し、中国経済の行方はさらに不安なものになった。

また、中国東北部で最大規模の石炭会社、龍煤集団が経営難に陥り、やむをえず給料を45日 ずつ支給する制度への移行を強いられた。

P.20~21

40年前の生活水準に戻る中国

2014年に、中国社会科学院が2011~30年における中国の経済成長率の予測デー夕を発表したことがある。それによると—、

  • 2011〜15年 8.0〜8.7%
  • 2016〜19年 5.7〜6.6%
  • 2020〜30年 5.4〜6.3%

中国経済は高成長時代に別れを告げ、中低速成長に入った。これは「新常態」(ニユーノーマル)と呼ばれている。いま、中国で流行っている経済新語である。 前記の数字よりさらに厳しい予測デー夕もある。

2014年10月20日に、コンフアレンスボード(全米産業審議会)は2020年以降、中国の経済成長率はわずか4%しかないというショッキングな予測を公表した。コンフアレンスボードはアメリカの民間経済調査機関の1つであり、アメリカおよび世界の経済動向分析、予測などを行い、数々の実績がある。 この成長率4%が現実の話となれば、中国は大変な状態に陥ることになるだろう。 貯蓄、投資、物価、就職、財政収支、国際収支、人民元為替、貨幣供給、預金利率など想像する以上の恐ろしい変化が中国の人々に襲いかかると思われる。

成長率4%といえば、先進国では高い伸び率である。先進国の多くは成長率が4%以下なのだから中国はそんなに焦る必要はないという声も聞かれる。

だが、先進国にはすでに社会インフラがよく整備されており、巨額の富の蓄積があり、福祉と社会保障が充実しているため、成長率が緩やかであってもさほど問題はない。しかし、中国はそうはいかないのだ。GDPが相当に上がらないと、社会福祉も国民生活への保障なども消えてなくなってしまうからだ。

かつては、そのために必要なGDP成長率は8%といわれ、「保八(8%を維持する)」が絶対条件だとされていたが、もはやそれを唱える政府関係者や学者はいない。無理だからだ。

平たく言えば、工場からの製品出荷が鈍り、デパートには買い物客の姿が見られなくなるということである。 生産も消費も激減する。成長率4%とは、40年前の生活水準に逆戻りするということを意味する。

中国政府は、自分たちは開発途上国で、国民1人当たりのGDPはかなり低水準にあると、主張 してきたが、それは本当だろう。中国の1人当たり名目GDPは2014年時点で7589ドル、日本の5分の1程度だ。「先進国クラブ」といわれる経済協力開発機構(OECD)の最低水準が1万ドルだから、まだまだ先進国には遠い。にもかかわらず、時間はあと5年しかなく、大不況はあっという間にやってくる。

P.24~25

②労働人口減による激震リスク

2つ目の重大事件は、2015年から中国の生産年齢人口が急減し始めることである。毎年約400万近くの労働力が失われ、経済発展に大きな打撃を与える。人件費の高騰が予想され、成長率の失速が避けられそうもない。

一人っ子政策のつけが回ってきたのが原因であろう。2014年から一人っ子政策が見直されたが、もう遅すぎるのは明らかである。これから20年間は逆転の望みがまったくない。

ここでユニークな数字を挙げてみよう。中国は毎年、「全国教育事業発展統計公報」を出しているが、それによると、1995年には小学校が67万校あったが、2012年には23万校にまで減った。44万校が廃校になったのだ。毎年平均2万6000校が閉鎖されている。一方、小学校の生徒数は1995年に2531万人いたが、2012年には1714万人にまで減った。817万人も減り、毎年平均48万人の生徒が消えている。

中国の労働人口の急減によって、住宅、生産、消費、貯蓄、税収、外資導入などの事情に、深刻な影響が及ぶのは間違いないであろう。

いままで中国は安価な労働力に頼って、経済を発展させ、多くの富豪を輩出してきた。だが、格安の労働力が失われると、ローエンド製造業のグレードアップができなくなり、中国製品の多くは国際競争力を失い、主力の輸出産業が不振に陥り、企業の破産が相次ぎ、中国経済は立ち行かなくなるであろう。

しかし、若者の減少によって暴動件数は急減するかもしれない。

P.60~61

氾濫するニセの外資企業

すこし前まで、中国の経済開発区は繁栄を極め、急速に発展する中国経済の象徴となっていた。 外国人投資家たちは中国へ視察に来るたび、必ずと言っていいほど、現地の政府関係者に経済 開発区の見学に案内された。優遇政策があり、インフラ整備が整い、ペンキ塗りたての新しい工 場建物が建っていて、豊富な労働力が随時供給される。決心さえしてここに来れば、利益倍増の 夢が実る。こんなぴかぴかのビジネス世界が描かれた。

それでは、経済開発区は、いまなぜ没落していったのだろうか。

原因はいろいろあるが、やはりひどいGDP依存症にかかっているため、正常な経済活動に歪みが出ていることが大きい。実績を粉飾するのは当たり前になっており、将来性や持続性のない外資企業の導入が盲目的に行われていた。

高汚染、高工ネルギー消費、かつ本国で禁止された生産品目を扱う外資企業が続々と中国に進 出してきた。結局、そのつけが回ってきて、やむをえず閉鎖や破産に追い込まれたのである。

加えて、ニセの外資企業が氾濫したことが大きい。たとえば、厦門のある民間企業は、もともと中国国内で汚水処理の設備を生産していたが、利益をあげられなかった。そこで、経営者は香港で会社を設立し、一夜にして香港商人に変身した。続いて、厦門にある.元の会社と新しい合弁会社を作り、開発区に入居した。こうして外資企業の身分になったことにより、工業用地、納税、銀行融資など、さまざまな優遇が受けられ、業務上の便宜も図られた。

それによりコスト減につながり、しばらくは儲かっていた。しかし、技術革新が進んでいなかったので、結局、市場競争に敗れて会社は破産した。

一方で、役人腐敗が深刻化しており、企業の正常な生産活動が脅かされているのも事実である。 1部の役人は企業に賄賂を強要し、あの手この手で企業から利益を吸い取った。

大連市にある某経済開発区に進出したある民間企業の話だが、2000万元で15へク夕―ルの土地使用権を取得した。しかし、そのためのコストは高くついた。役所の各部署の役人に400 万元を渡し、銀行から8000万元の融資を受け、さらに闇の金融組織から高い利息で2000 万元を借りた。

毎年の利息は1200万元で、政府関係者たちとの交際費を含めた支出は最低300万元もかかっていた。にもかかわらず、工場稼働から4年目になっても、年間売り上げは400万元にも 達していなかった。

社長は困りはてる毎日だが、将来いつ開発区が転売されて商業用地になるときに、土地がいい値段で売れれば……と僥倖をあてにしている。

地方の長官はこうした現状を知らないはずはないが、まったく対策がとられない。見て見ぬふりをしている者が多いのだ。自分の任期が終われば、厄介なところからさっさと脱出しようという、いいかげんな人間も多い。

P.114~115

中国での教育費は、普通の大学まで行かせる場合で約100万元(約1800万円)かかる。 夫婦の年収を12万元としても、その約8年分だ。日本に当てはめて考えれば、年収400万円の一般家庭で教育費が3200万円もかかることになる。

また、医療費については、中国では、「風邪くらいなら生活費を切りつめれば薬が買える。盲腸を手術するくらいの病気になると、親戚や知人から借金し治療費にあてるが、一生返済し続けなければならない。がん、糖尿病、肝臓病などの長期治療の必要のある重病にかかったら、医療費は絶対に払えないから自殺したほうが家族のためだ」という言葉がある。

2012年4月、河北省の農民が、病気で壊死しかかった右足をのこぎりで自力で切断するという事件があった。貧乏のため病院で手術する金がなかったからだ。このニュースに、国民の多くがショックを受けた。

国民の多くは二重の苦しみをなめさせられているのである。

このような状態にもかかわらず、絶対主義といわれる中国共産党の最高指導部が、なぜ国有企 業のずさんな経営に監督・管理を行わないのかといえば、中国の政治は既得利益集団の政治であり、それぞれの国有企業の裏には、必ず権力を笠に着る太子党や既得利益集団の存在があるからだ。

2014年12月に汚職容疑で逮捕された中国共産党中央委員会政治局元常務委員の周永康は石油業界を牛耳っていた影のボスであった。

彼は北京石油学院を卒業し、国内の油田の石油技師などを務めた後、1996年に巨大国有企業の中国石油天然気集団公司の前身である中国石油天然気総公司の社長となり、石油閥の中心的存在として巨大な利権を握っていた。

後に江沢民元国家主席に抜擢されて、党中央政法委員会書記として中国の公安・司法部門の頂 点にも立つなど、絶大な権力を手にしていた。彼が誰かに「死ね」と言えば、実際に、言われた者の命は翌日までもたないほどであった。

筆者の中国生活の体験からも、周永康は非常に恐ろしい存在で、彼が拘束されたというニユー スが正式に発表されるまで、誰もが彼のことについてはロを噤んでいた。うっかり悪口を言ったら、それが周永康や周囲の人間にどう伝わるかわからないからだ。その意味では、中国では恐怖政治がまだまだはびこっているのである。

周永康の失脚後、彼の腹心や徒党が100人以上も逮捕された。

P.196~199

個人塾すら開けない政治システム

このように、中国には役所も役人も多すぎるという現状だが、もちろん、これほどの役人がいなければ社会機能や経済活動が停止してしまうわけではない。逆に、役人たちが仕事を奪い合う現象が現れているのだ。

これは中国の社会システムを理解するうえで、非常に重要なポイントである。中国が「多頭管理社会」(管理•監督者が多い社会)だと呼ばれているのも、そのためである。

つまり、会社であろうが個人であろうが、団体であろうが、何か1つやろうとする場合必ず複数の管理部門の役人がやってくる。彼らにそれぞれ許可を取り、彼らの指導監督を受けなければならない。

筆者が遭遇したことはその一例だ。自分は文章を書くのが好きなのでこの特長を生かして家の近くで作文教室を開こうと思った。中国の大学入試科目には作文試験があり、それを苦手とする受験生が非常に多い。だから、商売として諸条件が整っているはずだと考えた。

しかし、実際に教室を開くための手続きの流れを調べたら、そう簡単には事業を立ち上げられないことがわかった。次のような3つの部門の許認可が必要だからである。

①民政局の許可。複数の人が集まるから、団体資格の審査が待っている。

②工商管理局の許可。ビジネス活動だから、会社の資本金などが調査される。

③教育局の許可。作文を受験生に教えるという仕事だから、教師の資格か問われる。

結局、作文教室の話はまもなく流れた。中国では基本的に、民間人経営の塾は認められないことになっている。日本では自営業として塾をやる場合、とくに手続きはいらない。毎年、収入の確定申告をすれば済む。

資本主義義の自由経済システムでは、きちんと納税すれば何をやるかはまったく個人の自由である。これに対して、社会主義の「権力者経済」システムでは、役人の顔色がビジネスの可否を決 める。

筆者はつくづく思うが、1民間人の塾までもが厳禁される国に、いったい「経済大国」と呼ばれる資格があるのだろうか。教育の範囲が制限されれば、人材の育成などできるはずがないではないか。おかしくてたまらない。

しかし、逆に考えてみれば、ある種の筋は通っている。それは経済が本当に自由化したら、役人たちはみな失業してしまう、ということだ。だから彼らにとって、「社会主義市場経済」は絶対に維持しなければならないのだ。

「多頭管理社会」は非常に害が多い。効率が悪いし、誰も責任をとらない。中国の発展が阻まれ る体制上の大きな欠陥の1つである。

中国語には、「中央指令不出中南海」という、非常によく知られた政治的言葉がある。中央政府の重大決定は紙上にとどまるだけで、人が中南海(共産党本部のこと)の会議室を出たら決定が直ちに無効となる、という意味の言葉である。要するに、誰も責任をもって決定事項を履行しようとしない、ということだ。

しかし、悪いのは下級の幹部たちではなく、この政府による管理体制そのものである。 先の塾開業の話を例にしてみよう。中央政府が民間に塾の経営を開放しようと決議したとする。 決定が「民政部j「国家工商行政管理総局「教育部」に伝わるが、3つの官庁とも何もしない日々が続く。リーダーがいないからである。3つの官庁とも同級の部門なので、誰が誰を指導するということはないのである。責任不明の状態が続いていれば、結局、ことはうやむやになってしまう。

これは1つの例だが、中国では基本的にこういう結果になることが多い。 また、このような状態で積極的に動けば、自分で自分の首を絞めることになる。いくら自分1 人で奮闘しても、他が動かなければ失敗は目に見えている。そして、その失敗の責任だけを押しつけられるからだ。だから、誰もが中央政府の決定に従おうとしない。現実はこの通りなのである。

P.234~237

中国ならではの「公共情婦」

中国腐敗役人のセックスパ夕―ンにはもう1つ、世界的に類を見ない特徴がある。それは「公共情婦」の存在である。

公共情婦とは何か。平たく言えば、腐敗役人の一味が1人の美人を共同で囲うということである。

腐敗役人たちは困っていない。むしろ金が多すぎて、どう使うか困っているほどだ。金で女を買いたければ美人がいくらでもいるが、彼らはなぜ公共情嫌が好きなのだろうか。その理由は、政治同盟を結成するためである。

中国腐敗役人にとって同じ女性と寝ることは、男たちが固い信頼関係を築き、心を1つに束ねるのにもっとも有効な手段となる。そのとき、セックスは単なる性的な快楽ではなく、ヤクザ世界の血の契りのようなものになるからである。

彼らは結束力を強め、互いに利用し合い、庇い合い、結託しながら政敵に立ち向かって戦い、 そして権力のネットワークを駆使して、政治上かつ経済上の最大利益を獲得しようとしているのである。だから、腐敗役人は「陰道党」(女性の陰部でつながった悪党グループ)とも呼ばれている。

李薇という美人がいた。公共情婦の第1号といわれているが、出身は不明だ。元ベトナム難民の子女という説もあれば、昆明市に戸籍がある女だという説もあった。だが、頭の回転が速く、気の強い男勝りの性格で、男の色欲を利用して自分が夢見る巨富の財を手に入れられることを誰よりもよくわかっていた。わずか10年で、普通の女から複数の中央政府の汚職高官が寵愛する公共情婦になった。

李薇を抱いた男には、周永康、薄熙来のほか、杜世成(元青島市長)、李嘉廷(元雲南省長)、 陳同海(元中国石油化工集団公司社長)、劉志華(元北京市長)、黄松有(元最高法院副院長)、 王益(元国家開発銀行副行長)、鄭少東 (元公安部部長助理)、金人慶(元財政部長)などの名があった。中国政界の腐敗ぶりが鮮明に露呈している。

李薇は2006年に逮捕されたが、起訴されずに2010年に突然、釈放された。そしてまもなく出国までも許され、以降は完全に姿を消した。周永康の極秘指令が出たためだと囁かれたが、腐敗役人の秘密を知りつくした女を海外へ逃がし、永遠に祖国に戻らせないほうが得策だったのだろう。

有名な公共情婦はほかにもたくさんいる。たとえば、湖南省某国有企業社長、蒋艶萍(湖南省籍、19 99年逮捕)、軍属歌手、湯燦(湖南省籍、2011年逮捕)、山西省某市委副書記、張秀萍(山省籍、2014年逮捕)、および山西省某市長、楊暁波(山西省籍、2014年逮捕)などだ。彼女たちは肉体を男に売ることによって、金と権力を手に入れた。

公共情婦として複数の高官の間を行き来している女は、連絡係のような存在だ。汚職役人の一味は、公の場で連絡し合うのは都合が悪いので、代わりに女が重要な情報を男のベッドまで届け たのである。

どこどこで重要な会議が開かれたとか、役人の誰々が中央政府の監督部門に目をつけられたと か、何々の話は絶対に口外してはならないとか、誰々の動きは警戒しなければならないとか、秘 密情報員の女を通して男たちが共同作戦の歩調を揃えるようにする。

また、彼女たちはいかに男を虜にするのかをよく心得ている。一言だけですぐに男の歓心を買うことができる。それは、「貴方とセックスするのが一番の楽しみだ。ほかの男とはうまくいかない」という一言だ。これだけで十二分に功を奏するといわれている。

汚職役人の多くは贅沢三味な生活のために栄養が過剰で、血圧、血中脂質、コレステロールなどの健康指数が異常だ。これらの血管系疾患が進んでいくと、セックスパワーが目立って弱まり、 勃起不全など性的不能につながることが多い。そこで、そればかりを気にする男が多い。だから 女からご褒美の言菜をもらうと嬉しくなる。嘘とは知らずに、自分の一物は他の男よりかなり優秀だと勘違いしてしまうのだ。

P.246~250

「南京大虐殺追悼日」に殺到する批判

中国政府は、2014年から毎年12月13日を「国家公祭日」とすることを発表した。 国家公祭日とは南京大虐殺にちなんだ国家哀悼の日であり、正式名称は「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」である。1949年の建国以来、初めて定められた国家級の追悼記念日である。この日は、盛大な追悼行事が行われる。

筆者は、2014年の第1回「国家公祭日」が終わった後、2つのことを思った。 1つ目は、なぜ建国後65年も経ったいま、このような公祭日を設立したのかという疑問である。いままでなかった理由は何なのだろうか。どのような政治的な企みがあるのだろうか。 2つ目は、言論の自由の空気が、すこしずつだが広まっていることを感じた。というのは最高級の国家公祭日が南京大虐殺記念館で厳かに行われた翌日、直ちに国家公祭日の設立に対する疑念や不信を込めた投稿や反発の声が、中国のネット上を駆けめぐったからである。 中国では、ネット上でも自由な発言はできない。ネット規制がかなり厳しいため、不都合な言論はどんどん削除される。

ある若者は、ネットでの投稿でこう語った。

「昨日、ある大学教師の家を訪問した。ちょうどテレビが抗日劇を放送しているところだった。僕が、いま中国の経済実力は日本をはるかに超えているから、中日戦争はもう起こらないだろうと言ったら、先生は、それは違う、戦争の勝負は軍事力より人心のまとまる力のほうがよほど重要だ。中国の現状を見てみろ。役人腐敗が氾濫し、人心がばらばらで、敵と戦うどころではない、と言った。先生の話は正しいと思う。『国家公祭日』が設立されたが、人心を結束させて敵に立ち向かわせることはできないと思う。戦争は昔の話だからだ。いまの中国を考えてみよう。腐敗した権力者は国民に何をもたらしたのか。国民の多くは、むしろ自国の腐敗役人を大変憎んでいるのではないだろうか」

引用がすこし長くなったが、この若者の考えは、多くの人の思いを代表しているだろう。

反日の話になると必ずと言っていいほど出て来る南京大虐殺館は1985年に開館したが、筆者の友人の1人は、1993年に初めてここを訪ねた感想を、こう語った。

—定期保守が施されていないのか、道路の状況は非常に悪く、雨の中、バスに揺られながら着いた記念館は、まるで田舎にある展示館レベルだった。印象に残るものは少ない。

ちなみに、南京の住民が友人などの来訪者をこの記念館の見学に案内することは、まずないそ うだ。

実は、もう1つ不可解なことがある。それは、2004年までの約20年間、中国で最大級の「愛国主義教育基地」に指定されているこの記念館の参観が有料だったということである。そのために見学者が少なかった。国民の間には、重要な国家記念館が金儲けをしているのはおかしい、 という声が絶えなかった。2004年から無料開放となって、ようやく見学者が増えたのである。

南京大虐殺について、日本では「実際にあった」と認める説から、「まったくの噓だ」という説、ある.いは「あったが中国の主張する犠牲者数は多すぎる。もっと少ないはずだ」という説まで議論が分かれている。もちろん、中国では「犠牲者30万人」が公式見解だ。

ところで、2014年11月、国家公祭日の実施直前に1冊の本が出版され、私を含め読者に大きな衝撃を与えた。その書名は『南京大虐殺全記録』で、著者は中国作家協会副主席の何建明である。中国では部長級の高官である。

内容は書名通り日本軍が南京で虐殺を行ったことを記録し、日本の侵略行為への批判を展開したものであるが、いままでに知られていない真相や、夕ブー視されてきた真実も多く書かかれていた。非常に珍しい本である。

著者は本の中で多くのページを使って、当時の南京を守備する元中国軍兵士の証言を紹介して いる。当時、中国の主力軍は国民党軍だった。そこで述べられていたのは、驚くことに、真っ先 に中国人に銃口を向けたのは、日本軍ではなく中国軍だった、ということである。多くの中国人にとって信じられない話だが、動かぬ事実なのである。

当時、中国軍は15万人いたが、2万人が戦死したものの、残りの13万人は戦わずに逃げ回った。 指揮官たちが真っ先に逃げてしまったため、指揮命令系統が完全に麻痺状態となり、撤退命令を 受けていない兵士と、受けたという兵士の間で、激戦が繰り広げられたのである。戦場は唯一の 通行ロである城門だった。ここでは5000人以上の兵士と平民が命を落とした。

人々は命からがら別の場所から逃げ出して、ようやく揚子江のあたりまでたどり着いたが、対岸まで運ぶ船は2、3隻しかなかった。そこでまた、熾烈な血まみれの奪い合いが始まったのだ。 他人を船から川に突き落とす者、川に落ちて上がれず船の縁をつかむ者、定員オーバーのため 船が転覆して大声で助けを求める者、机や椅子などにつかまりながら川の中であがく者など、死を恐れる人たちは手段を選ばずに必死に避難している。

もっとも残忍なのは、船に乗れなかった兵士たちが、離れていく船上の人たちを狂った野獣のように機関銃で掃射し、夥しい人を死なせたことである。川一面に死体が浮かび、血の海と化した。死者の数は数万人に上ると推測される。

この血腥い中国人同士の殺し合いをどう解釈すればいいのか、筆者には分からない。困惑と怒りを感じるだけだ。

日本と中国の間では南京大虐殺の事実をめぐっての議論が絶えないが、最大の焦点となるのは 犠牲者の人数だ。前述のように、日本ではさまざまな説があるが、中国側は犠牲者30万人という これまでの主張を変えようとしない。 ある中国人作家は、自身のブログで、この問題についてこう語る。

「当時の南京住民の戸籍管理はめちゃくちゃで、正確な人口の数字がなかった。警察庁の公式書 類には、20万人と記載するものもあれば、50万人と記載するものもある。真相は闇のままである。 1945年以降、国民党政府、共産党政府、また各民間組織は『南京大虐殺』の事実を調べていたが、お粗末なものが多く、信憑性が薄い」

彼はさらに言う。

「30万人という死者の数字は大きいものである。しかし、被害者の名前、住所などは私たちにわかっていない。日本の広島、長崎では被害者の情報が正確に統計されているが、対照的に中国の状況は汗顔の至りである」

P.266~268

寛容の心がない中国人

まさに問題は、中国が「赦しのモデル」であるフランスのように行動できるかどうかにかかっているわけだが、それは可能だろうか。

中国人は基本的に恨みを根に持つ民族である。なかなか相手のことを許さない。寛容の心がない。だから、民族性がばらばらで大きな束にならない。 ここで例として、中国で謝罪するA氏と、謝罪されるB氏のやり取りを見てみよう。

1日目

A氏:「×××の件については非常にご迷惑をかけました。心からお詫びします」

B氏:「いやいや、大したことはありません。私たちはいい友達ですからね」

A氏はB氏の寛大な態度に感動し、謝罪がすんだと思ってうれしい。

3日目

不快な表情を顔に浮かべるB氏が、A氏に言う。

B氏:「あなたはいけませんね。お詫びしたものの、その後、誠意も何も行動に表れていないではないですか」

A氏が困惑した表情で言う。

A氏:「誠意って、私はどうすればいいんでしょうか」

怒るB氏。

B氏:「自分はなぜいけないのか、その原因を反省しなければならないのではないでしようか。 原因がわからなければ、これからも同じ誤りが繰り返されるでしょう」

A氏は驚いて、顔面蒼白になった。

5日目

A氏:「よく考え抜いたのですが、X X X X Xが原因で誤りを犯したことを心から反省します」

A氏の再度の謝罪に、B氏は「んんん」と一応満足そうな様子である。

7日目

B氏:「あなたは原因を探していたが、その一歩前進した姿勢は評価したいです。しかし、原因は別のところにあり、もっと深刻に考えるべきだと思いますよ。しっかりと考えてみなさい」

そう言われたA氏は、愕然として言葉が出なかった……。

これは架空の話だが、読者の周りに中国人の知り合いがいたら、ぜひこのやり取りについて確 認してみてほしい。中国人に謝罪すると、こんなふうになるということに誰もが同意するだろうと思う。

謝罪に対してきりのない悪循環が続くのが、中国人の特徴だろう。だから、中国人はたとえ自分に落ち度があっても、謝罪しないことが多い。

繰り返すが、国と国の関係は国家の名誉や国際的信用にかかわる外交関係なので、すべての問 題は正式な外交文書を交わして解決するのが正しい筋道である。道義上の問題を外交問題に持ち込むことは、国交の正常化に悪影響をもたらす結果としかならない。

1/18日経ビジネスオンライン 福島香織『台湾総統選“圧勝”蔡英文の「真の敵」 大陸の圧力と誘惑と空の国庫と、いかに戦うか』、白壁・安藤『台湾総統選、民進党の「未来像」なき圧勝』、武田安恵『進化する台湾人、蔡英文の実力 新台湾総統の素顔に迫る』について

1/15石平氏Twitter 「フォロワーの皆様にお願いします。中国大使館が在日中国人たち全員に登録を求めた一件、場合によって日本の国防上に重大な意味を持つ動きであるかもしれませんが、マスメデイアはいっさい報じていません。是非皆様のお力でこの情報の拡散をお願いします。」

日本への戦争準備か?テロ防止につき、ゆめ怠りなく。在日中国人に対する監視を強め、心理的圧迫を加えるつもりなのでしょうけど。

1/16渡邉哲也Twitter「民進党過半数 国民党単独3分の1割れで、馬総統弾劾の可能性が出ています。中国寄りの親民党がキーマンに」とありました。今般の立法委選挙は任期満了解散なので本年2/1に交替すると思います。

Wiki「・正副総統罷免案提案権(憲法増修条文2条9項):立法委員総数4分の1以上の発議、同3分の2以上で可決したときは、罷免案の国民投票を実施できる。

・正副総統弾劾案議決権(憲法増修条文4条7項、2条10項):立法委員総数2分の1以上の発議、同3分の2以上で可決したときは、司法院大法官(憲法裁判所の大法廷に相当)に弾劾審理を要請できる。」とあります。(民進党68+時代力量党5)/113議席=64.46%、そこに親民党の3議席を入れると67.25%。弾劾審理が可能となります。総統就任は5/20でその間、中共と国民党は悪さをするやも知れませんので牽制のために弾劾の動きをした方が良いのでは。

今般の総統選+立法委員選で「周子瑜」(韓国のアイドルグループ”twice”のメンバー、福島氏の言うツゥイ)の与えた影響はそれ程大きくはなかったのでは。やはり、馬英九の中国擦り寄りのマイナス効果が大きかったのでは。「我是台湾人、不是中国人」と思うようにさせたのは馬英九効果でしょう。国民としての自覚を与えたという意味では彼もそれなりの役割を果たしたと言うことです。

でもまだ3割の人が「我是台湾人、還是中国人(台湾人でもあり、中国人でもある)」と思っているので。国民党の刷り込みが効いているのでしょう。日本も平和ボケの人数を減らしていかなければなりません。1/18日経に池上彰が「日本では民主主義は戦後に米国から与えられた部分がある。民主主義を勝ち取ったとは言い切れない部分が影響しているのかも」とありました。流石に元NHKです。非常に違和感があります。帝国憲法公布、帝国議会、大正デモクラシーの歴史的事実を全否定するものです。このようなリベラルの言動が日本を悪くします。騙されないように。

Opinion poll about Taiwanese

 

 

 

 

 

(12/17NHK番組『台湾総統選まで1か月~強まる「台湾人意識」、若者の選択は~』より)

本記事にありますように「感情だけで飯は食えない」です。一時の勝利の興奮から醒めたときこそが勝負です。親日国台湾をサポートするのは日本の安全保障上から考えても大事なことです。蔡英文の言う「産業同盟」をしっかりしたものにするため、日本の経済界も中国の顔色を窺うことなく手を差し伸べてほしい。でないと中国から金かハニーで籠絡されていると思われますよ。

福島記事

ちょうど台北にいるので、台湾の総統選について報告しよう。

華人国家において、初の女性総統が登場した。民進党候補の蔡英文が689万4744票を得て、国民党候補・朱立倫381万3365票をダブルスコアで制した。

 300万票という台湾史上最大票差での大勝の背景は、現馬英九国民党政権の失政、ひまわり学運で再燃した「台湾アイデンティティ」の盛り上がり、朱立倫国民党候補のやる気のなさ、そして中国側が本格的な妨害工作をしなかったことなどがある。

 さらに言えば、投票日に問題になった韓国アイドルグループTWICEの台湾出身メンバー、ツゥイこと周子瑜の公開謝罪ビデオ事件が、決定的な追い風となった。ひょっとして韓国の芸能事務所は、ひそかに台湾民進党を応援していたか、と疑うほどの絶妙なタイミングだった。

 立法院(国会)選挙については民進党単独過半数は難しいのではないか、という下馬評だったが蓋をあけてみると、民進党は113議席中、68議席、国民党35議席とあわやこちらもダブルスコアになりそうな勢いで緑(民進党カラー)が圧勝。しかも、ひまわり学運の参加者らが結成した新党「時代力量」が5議席獲得、親中派政党で宋楚瑜総統候補率いる「親民党」の3議席を抑えて、第3党に躍り出た。建党30年足らずの圧倒的多数の与党に、昨年結党したばかりの生まれたて政党の第3党躍進と、台湾国会の様相が大きく変わった。

蔡英文とはどういう人物か

 この民進党を圧勝に導いた蔡英文とはどういう人物なのか。私が彼女の姿を最初に生で見たのは2001年、大陸委員会主任委員(閣僚)時代の記者会見に出席したときだと思う。流暢な英語を話す女性エリート官僚然としたクールな印象を持った。

 1956年8月、台湾屏東県の客家の名家の血筋に生まれる。出生地は台北市中山区だ。祖母はパイワン族の末裔という。彼女の生まれたころは、まだ台湾の大金持ちは一夫多妻(側室)の風習が残り、兄弟姉妹は11人。うち兄の1人は日本国籍を取得し日本で暮らすとか。末っ子の蔡英文は、お嬢様として大事に育てられ、台湾大学法律学部生時代はマイカーで通学していた2人の学生のうち1人だったという。1980年に米国コーネル大学ロースクールで学位を取り、続いて英国ロンドン政治経済学院に留学し、「不平等貿易の実践とセーフガード」をテーマに研究。1984年に博士学位を取り、米国の弁護士資格と中華民国の弁護士資格を取った。

 大学教授時代を経て、李登輝政権時代、請われて行政啓三国際経済組織の主席法律顧問となったのが政界に足を踏み入れるきっかけとなった。GATTとWTOの台湾加入交渉に関わったほか、李登輝とともに台湾と中国が特殊な国と国の関係であるとする「一辺一国論」の起草にも関わる。

 陳水扁政権1期目の2000年から2004年は行政院大陸委員会主任委員となり、この時の世論調査では最も満足度の高い閣僚として評価された。この時「小三通」と呼ばれる、中国台湾間の春節時期の直行便を含む中台直接交流が大きく進んだ。

 陳水扁政権2期目の2004年から民進党に入党し、立法委員(国会議員)に比例6位で当選。2006年から行政院副院長(副首相)となり、この時の仕事ぶりも世論調査で高い評価を得た。

敗北から4年、生真面目に「団結」

 2008年の総統選で代理党主席の謝長廷候補が惨敗すると、世論の評価の高い蔡英文が台湾初の女性党主席となる。だが、党員歴の短い若き女性党主席は台湾特有の儒教的女性蔑視、年少者蔑視もあって、長らく党内分裂状態に悩まされる。

 それでも2012年の総統選では初の女性総統候補として健闘。80万票差で現職・馬英九総統に惜敗する。この時の敗因は、中国の後方援護と米国の投票日直前になっての馬英九政権支持表明が大きかったと言われている。事前の世論調査での支持率はずっと民進党がリードしていただけに、国民党の底力を見せつけた格好だった。蔡英文は敗戦の責任をとって、党主席を辞任した。

 この敗北から4年、蔡英文にとっては、空中分解しかけていた党内団結に腐心する日々であったという。

 こうした来歴から見ると、彼女は非常に頭脳明晰な学者肌に近い官僚肌の実務向き人物である。また、バランス感覚もよい。だが政治家に求められる”オーラ”に欠けるとも言われてきた。また、あまりにクリーンで生真面目なため、台湾政界を渡っていくためにある程度必要な腹黒さや駆け引き、米国への媚の売り方が足りないとも言われていた。2012年の総統選は明らかに、米国に気にいられなかったことが重要敗因の1つだと分析されてきた。だが、この敗戦後の4年間、彼女はやはり生真面目に、対米関係を研究し、党内の年上の政治家たちにも気を使い、演説テクニックも目をみはるほど向上している。

 2014年になって馬英九政権に対する失望、反感が若者を中心にますます広がっていった。3月18日から24日間にわたって立法院を学生たちが占拠したひまわり学運が、台湾政治の潮目を決定的に変えた。このひまわり学運が求める台湾の方向性とは、中台急速接近の阻止、国会の機能回復、そして何より「台湾アイデンティティ」の再度の盛り上がりだろう。

「ツゥイ公開謝罪」と台湾アイデンティティ

 この頃から党内でも、「一辺一国論」起草者の蔡英文しかいない、という待望論が盛り上がってきた。5月の民進党主席選挙で93%以上の圧倒的な得票率で蔡英文は党主席に返り咲き、総統候補となった。

 台湾アイデンティティとは「私は台湾人であって中国人ではない」という意識であり、台湾の核心的価値は民主である、という意識である。

 投票日に明らかになった、ツゥイの公開謝罪問題は、まさしくこの台湾人アイデンティティ問題にからむ。ツゥイは韓国美少女アイドルグループTWICEのメンバーだが、韓国のテレビ番組で、彼女が台湾出身をアピールするため中華民国旗(青天白日旗)を持ったシーンが、大陸のファンからものすごい反発を買った。大陸ネットユーザーを中心にTWICE不買運動、中国テレビ出演反対が呼びかけられ、所属事務所の株が急落、65億ウォン相当が蒸発した、と報道された。そして事務所の判断か、中国当局の圧力かは分からないが、選挙投票日当日、この騒動の責任をとる形でツゥイの公開謝罪ビデオが流された。

 ビデオでツゥイは憔悴した表情で「中国はただ1つだけです。(台湾)海峡の両岸は一体です。わたしは終始、自分が中国人であることに誇りを感じています。1人の中国人として外国で活動しているとき、行いの間違いによって、両岸のネットユーザーの感情を傷つけました。とってもとっても申し訳ないと感じています。そして恥じ、やましさを感じています。私は中国での一切の活動を休止することを決めました。真剣に反省しています。もう一度、もう一度みなさんに謝ります。ごめんなさい」と頭を下げたのだった。

 このビデオは投票日当日、何度も台湾のテレビで流され続け、投票者に「中国の脅威」と「台湾アイデンティティ」を再認識させた。そして「青天白日旗」は国民党徽章の入った中華民国旗であるが、なぜか票は緑の民進党に流れた。それは馬英九国民党政権があまりに親中的だったからだ。

 このことからも分かるのは、民進党が本当のライバルとして戦っていたのは国民党ではなく、中国であったということだろう。蔡英文は当選後の勝利演説でもこの事件に触れて「私が総統になった日には、誰一人として自分のアイデンティティを理由に謝罪をする必要がないようにします」と訴えていた。「台湾を団結した国家にする責任がある!」という宣言に表現されるように、彼女が目指し、台湾有権者が望むのは、政党や派閥による内政のいざこざではなく、国家としての団結であり、それは中国に対する危機感から発するという見立ては間違ってはいない。

 ひまわり学運から発した時代力量が5議席を取り第3党に踊り出たことも注目する必要があるだろう。日本でも人気のあるヘビィメタルミュージシャン、フレディ・リムが創設に関わったことでも知られるが、フレディ自身はかなりはっきりした独立派である。ただ、時代力量は独立という言葉ではなく建国と言う言葉を好んで使う。それは、台湾は一度も中国の属国になった覚えはない、という理論武装らしい。党主席の黄國昌、フレディら5人も国会に送り込まれたということが、今の台湾の若者の気持ちを反映しているといえるだろう。

習近平の強権と空の国庫、どう対処?

 そういう意味で、これから総統となった蔡英文が戦わねばならない敵は非常に強大ということになる。有権者としては、中国の経済的政治的影響から脱出してほしいという希望がある一方で、すでに台湾経済で圧倒的存在感を誇る中国の影響力から台湾が距離をとろうとすることは口で言うほど簡単ではない。しかも、習近平政権は胡錦濤政権ほど甘くない。胡錦濤政権は台湾統一という言葉を発せず、ただひたすら中台経済関係強化に努めた。だが、習近平政権は台湾総統府にそっくりな建物を攻略する軍事訓練を堂々と行う。今後、どのような圧力(あるいは誘惑)を台湾にしかけ、それに蔡英文政権はどう対応するか。

 さらに言えば、馬英九政権時代にすでに台湾財政は破綻寸前で、国庫は空の状態で政権を引き渡されると言われている。中国経済もクラッシュ寸前なので、台湾に流れた大量の中国マネーが一気に引き揚げられると、台湾バブルも崩壊する。世界同時不況と言われる中で蔡英文が台湾経済を軟着陸させることができるかどうか。

 経済が悪化し、有権者の生活が明らかに苦しくなれば、次の選挙では今回の選挙の裏返しのような形で惨敗しかねない。

 日本にとっては、地政学的にも、台湾に国家としてのアイデンティティを持ち続けてもらえれば、アジアにおける中国覇権の野望にブレーキをかけるという意味で、韓国よりもよいパートナーになれるだろう。蔡英文政権の台湾ならば、日本が経済関係と外交関係を強化していく選択に迷う必要はないと思うのだが、どうだろうか。

白壁・安藤記事

President Cai

今後について冷静に語る民進党の蔡英文主席(右)

 1月16日、台湾総統選挙の投票が締め切られた午後4時。最大野党の民主進歩党(民進党)の本部近くに設営された野外の大規模集会場では、用意された席は既に支持者らで埋め尽くされて会場外の道路にまで人があふれていた。

 巨大なモニターには開票状況が映し出され、事前の予想を超える勢いで民進党の候補者である蔡英文主席がリードするもようが伝えられている。

私は台湾人」というメッセージをことあるごとに全員で叫ぶ

 総統選は与党・国民党の朱立倫主席との事実上の一騎打ち。その朱氏に、ダブルスコアの差をつけて蔡氏の獲得票数が伸びていく。100万票、200万票、300万票――。票数が大台に乗るたびに会場は盛り上がる。そして会場中の人々が大型モニターに映し出された言葉を叫ぶ。

I'm a Taiwanese

 「我是台湾人(私は台湾人だ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

The supporter of DPP

 

当選確実の報を見て喜ぶ民進党支持者

 8年ぶりの政権交代。加えて民進党は、初めて立法院(日本の国会に相当)でも過半数(定数108に対して68の議席を獲得)を獲得した。その支持層が最も力を入れて叫ぶ言葉が「我是台湾人」の五文字だったことは、この選挙戦が、「中国」との関係にまつわるアイデンティティの闘争だったことをよく物語っている。

 会場で中国系のメディアを見つけると一斉にブーイング。そして親中派の与党候補であった朱氏が敗北を宣言し、頭を下げる姿がモニターに映し出されると、「どうだ!」と言わんばかりに中国系メディアの記者に対して中指を立てる。

 新政権の描いた未来像に沸くというよりも、前政権が進めた親中路線に「NO」を突きつけ、対中融和の流れを食い止めたことに沸いているような印象を受けた。肯定よりも、否定の歓喜に見えた。

「感情だけでは飯は食えない」

 前政権の政策に対する否定という「過去」はいいとして、民進党圧勝の先に、どんな「未来」が待っているのか。ボランティアとして民進党の選挙戦をサポートした大学生は不安を打ち明けた。

 「はっきり言って、(勝利を)素直には喜べない。台湾人として『ここは中国ではない』ということを示したに過ぎない。この選択が経済環境を良くするきっかけになるんだろうか。このままでは自分の働き口すら見つからないかもしれない。感情だけでは飯は食えないから」

 台湾の民意は、国民党政権が進めた親中路線に歯止めをかけた。だが、問題はこれからの台湾をどう創っていくかだろう。

 中国は台湾にとって最大の輸出国だ。輸出額の4分の1は中国が占め、香港を入れると4割近くに相当する。

The child's  message for Cai

蔡氏へのメッセージを掲げる子供

 現職の馬英九総統は2008年に民進党から国民党へ政権を奪還して以降、経済成長著しい中国の「恩恵」に預かるべく、対中融和路線を進めてきた。低迷する台湾経済の浮揚がその狙いだった。

 だが、拙速な対中接近は反発も招いた。2013年、中国と台湾で金融や通信、医療、旅行などのサービス関連市場を相互に開放する中台サービス貿易協定を締結。立法院での審議を「時間切れ」として一方的に中断し、強引に批准作業を進めるなどの姿勢に台湾の人々は反発し、「ひまわり運動」と呼ばれる学生の議会占拠にまで問題は発展した。

 

The Independence of Taiwan Party

台湾独立を訴える政党も

 それでも馬氏は昨年11月、中国の習近平国家主席と1949年の中台分断後、初のトップ会談を強行するなど、親中路線を突き進んだ。

 中国への輸出額は馬氏の就任時に比べて1.3倍にまで膨らんだ。

民進党に投票した中小企業経営者の声

 新北市で金属加工業を営む50代の男性は、かつて馬氏を支持して国民党に投票した一人だ。

 「中国向けでもっと仕事が増えると思ったけれど、全然増えない。俺たちの仕事が増えるわけではない。むしろ、減っているのが現状だ。馬(氏)は中国に魂を売ったにもかかわらず、何も得られなかったんだよ」

 彼は今回、民進党に票を投じた。

 馬氏は台湾の人々の感情を逆なでしただけでなく、経済環境も改善も実現できなかった。2015年の実質GDP(国内総生産)成長率は、7~9月期に6年ぶりにマイナス成長(マイナス1.01%)を記録するなど輸出の不振が続いている。2015年通期で同成長率が1%にも満たないのではないかとの見方も出ている。さらに、馬政権が公約に掲げた「失業率3%未満」も達成できなかった。

 対中接近したにも関わらず、経済が好転しない。であればなぜ、政治・経済のシステムや国家観が大きく異なる中国と融和しなければならないのか。こうした反発が民進党の躍進を後押しした。

選挙期間中は思いのほか静か

 投票前に台湾へ入り、政権交代の熱気に沸く街を想像していたが、どうも記者の期待は大きすぎたのか、やや盛り上がりには欠けているように見えた。選挙期間中、街を歩くと台湾ならではの光景が目に留まる。太鼓を叩くトラックが先導し、その後に候補者の名前や政党名を掲げたトラックが続く。太鼓の音で街行く人に自らの存在を知らせるのだ。

campaign car

太鼓を叩いて選挙カーの到来を告げる、台湾ならではの選挙の光景

 早朝や深夜でも爆竹を鳴らすなど、過度な演出もあると聞いたが、今回は申し訳ない程度の音の太鼓を叩く車列にいくつか遭遇しただけだ。投票前夜の集会には雨天にもかかわらず多くの支持者が駆けつけるなど盛り上がりを見せたが、街中の人々に話を聞くと、民進党を支持する人からも、未来に向けて新たな希望が誕生するような躍動する感情はあまり伝わってこなかった。

 

 

 

Cai's novelty

蔡氏のグッズを売る露店も登場

 選挙前から野党・民進党の優勢は伝えられており、政権交代が確実視されていたからかもしれない。ただ最大の要因は、今回の選挙そのものが、新たな台湾を築くという前向きなものというよりも、急速に距離が縮まりつつある中台関係に待ったをかけるというのが第一にあったからではないか。対中融和策を改めたとしても、経済的に中国に頼らざるを得ない部分がある「現実問題」も理解している。政権交代を実現しても、今の台湾は、独自で大国を相手にできるほどの経済的、政治的な力を持ち合わせていない。そう考える人が台湾でも多数を占めるだろう。

 

 

 

 

Cai's Dharma doll

蔡氏向けに日本から送られた必勝祈願のダルマも飾られていた

 2000年に総統選挙で勝利した前後は、民進党は台湾「独立」の志向を鮮明に打ち出していた。だが、民進党は2008年に支持を失って下野。蔡英文主席は、急進的な独立論を抑え、対中関係は「独立を求めないが、拙速な融和も進めない」という「現状維持」を打ち出して、急進的な独立派以外の支持を集めた。同じ民進党による政権奪還だが、まだ中台の力が拮抗していた2000年前後に「独立」の未来に熱狂したのと、今回、中国が台頭する中で、かろうじて対中融和の速度を抑える選択をしたのとでは、盛り上がりが異なるのは当然と言えるかもしれない。

 中国は今後も、台湾との距離を縮めてくるだろう。台湾と海を隔てた先にある中国の福建省で長く官僚を務めた経験のある習近平国家主席は、「1つの中国」に向けた道筋を自らの任期中に作りたい野望があるとされる。昨年の中台トップ会談もその布石だろう。

 にじり寄る中国をいかにしてけん制し、経済を立て直すか。選挙期間、蔡氏は「経済的にも強い台湾を再興し、中国と対等に渡り合って妥協点を見いだしたい」と演説したが、その具体策は見えてこない。

経済再生のサポート役は日本か

Taiwanese hope

蔡氏は台湾の人々の期待に応えられるだろうか

 アジアでは昨年末に東南アジア諸国連合(ASEAN)が域内での人・モノ・カネの動きを自由化させるアセアン経済共同体(AEC)を発足させた。米国主導のTPP(環太平洋経済連携協定)といった枠組みも固まりつつあり、中国主導の国際金融機関であるアジアインフラ 投資銀行(AIIB)も誕生した。周囲の国々が様々な枠組みに参加して自国の競争力を培う中で、台湾は取り残される危機にある。蔡氏はTPPへの参加も前向きに検討中だ。

 選挙後の会見で蔡氏は、経済再生の実現に向けて必要なサポート役として「日本」の名前を複数回挙げている。選挙集会では、記者が日本人と分かると、「日本の助けが必要だ」と手を握って話しかけてきた台湾人男性もいた。

 日本政府・与党は台湾総統選での民進党の蔡氏の勝利を歓迎している。中国に接近して歴史認識や沖縄県尖閣諸島などを巡って中台で対日共闘を強めていた馬英九総統とは異なり、蔡氏が日本との関係を重視しているためだ。

 東シナ海や南シナ海への海洋進出を図り、経済的影響力を強める中国をにらみ、台湾との関係を重視する安倍晋三首相は自民党の野党時代に台湾で蔡氏と会談。昨年10月には来日した蔡氏と密かに都内のホテルで接触するなど布石を打ってきた。TPPに関しても台湾の交渉参加を後押しする検討を進めており、台湾経済の中国への傾斜にくさびを打ち込む考えだ。

 果たして、台湾は蔡氏の下で経済再生を果たすことができるだろうか。

 感情では飯を食えない――。

 前出の学生の本音が、台湾の人々の不安の根底にある。蔡氏はその不安に応える未来を描けるか。初の女性総統の手腕が問われる。

武田記事

「捲土重来」。1月16日に実施された台湾総統選挙を一言で表した時、これほどしっくり来る言葉はほかにないのではないだろうか。4年前の2012年1月14日、同じ総統選挙で蔡英文率いる民主進歩党(民進党)は、国民党が支持する馬英九に敗れた。降りしきる雨の中、大勢の支持者は顔を流れる雫が涙なのか雨なのか分からない状態で、蔡英文の演説――敗北宣言を聞いたのだった。

 当時、支持者に対して「可以哭泣,不要放棄」(泣いてもいい、しかし諦めてはいけない)と励ましながら、「有一天我們會再回來」(いつの日か、我々は再び戻ってくる)と呼びかけた蔡英文は、見事に約束を果たした。

 前回の総統選挙は馬英九が689万1139票、蔡英文が609万3578票と約80万票の差だった。今回は16日午後10時時点の集計では蔡英文689万票、国民党候補の朱立倫381万票と300万の差をつけた。

 多くの台湾人が、中国と台湾にある政治的な隔たりを、「経済交流」という形で埋めようと試みた馬英九のこれまでの政策に「NO」を突きつけた。その民衆の不満をすくい上げるかのように成長してきたのが蔡英文だ。この4年間、庶民の暮らしを理解しようと台湾各地を演説して回った。その泥臭さ、地味さに親近感を覚え、今まで民進党支持者でなかった層のファンを増やしたとも言われている。

「私は政治家向きではない」と漏らした過去

 「私は政治家向きではない」蔡英文は周囲にこう漏らしたことがあるという。かつての彼女は台湾語で言うところの「口才」(トークのうまさ)もないし、情に訴えるようなことを言う性格でもなかった。

 彼女の経歴を見てもそれは明らかだ。実業家の父のもと、裕福な家庭の上に生まれた。11人兄弟のうち「誰も法律を学んでいないから」と父に勧められ、台湾大学で法律を学ぶ。その後米国コーネル大学で修士、英国ロンドン大政経学院で法学博士を取得、29歳の時に台湾に戻り、大学教授の職に就く。「私は父の期待通りの人生を歩んでいたわ」。メディアの取材に対し、蔡英文はこう答えている。

 「象牙の塔」にいた彼女がなぜ政治家になったのだろうか。

 転機は李登輝政権下の1990年代だった。大学教授の職をこなしながら、台湾政府経済部の顧問として貿易交渉のテーブルに着いた。当時台湾は、米国から輸入される農作物や肉類などの関税を引き下げることによって受ける台湾域内の産業のダメージを最小限に抑えるべく、米国との間で交渉を続けていた。蔡英文はこの時、最初は通訳などを務めていたが、その才能を見込まれ一気に国際経済組織首席法律顧問へと上り詰めた。彼女の活躍に、当時総統だった李登輝も一目置いていたという。

 貿易交渉での経験は、彼女にとって、台湾が置かれている国際的な状況を深く知る機会になったと言われている。その後、経済部貿易調査委員会委員、対中関係を管轄する行政院大陸委員会委員などを務めた。1999年に李登輝が発表した中台関係の新定義、二国論(特殊な国と国との関係)の起草にも大きく関わったと言われている。

 この経歴が買われ、民進党が政権を取った2000年、当時の陳水扁総統のもとで大陸委員会主任委員(閣僚)に抜擢された。彼女はここで初めて「政治」というものを経験することになる。立法院(日本の国会に相当)の委員会答弁の場に初めて出ることになるわけだが、民進党の一挙一動に揚げ足を取り、批判してくる国民党議員の猛攻撃に最初は顔を固くして、何も答えることができなかった。

 当時、初めて政権を取った民進党はそのブレーンにと多くの学者や専門家を起用していたが、彼らの多くは論理や平静さをとはかけ離れた台湾立法院の壮絶な論戦、批判の応酬に耐え切れず、立法院を去っていた。しかし蔡英文はそこで多くを学び、論戦に耐えられるだけの話術と度胸を身につけたのだった。この経験は、政治家になった後も彼女を支え続けている。

民進党を立て直すために民衆に近づいた

 「故郷に戻り、親の面倒を見たいと思っています」。大陸委員会の任期が満了を迎えた際、蔡英文はメディアの取材に対しこう答えている。蔡英文の父親は、彼女がこれ以上政治の道を歩むことを望んでいなかったし、彼女自身もそれは避けたいと考えていた。

 しかし、長年、野党として国民党との闘争に明け暮れることに終始していた熱情的で喧嘩っ早い民進党の議員とは対照的に、常に冷静で論理的、理知的な蔡英文は弱冠40代でありながら「民進党には数少ないバランス感覚を持った人」として、必要不可欠な存在になっていた。

 「運命のいたずらとでもいうのでしょうか。周りが蔡英文を必要としていたのです。時代が蔡英文を『政治家』にしたのです」。蔡英文を良く知る評論家で元台湾総統府国策顧問の金美齢はこう語る。

 2004年に民進党に入党した蔡英文は、行政院副院長(副首相)などを務めわずか4年後の2008年には史上最年少で民進党主席になっていた。当時の民進党は、馬英九はじめとする国民党に政権を奪還された上、陳水扁およびその周辺が起こした汚職事件の騒動の渦中にあり、立て直しを迫られていた。自分より年上の党員が多い中、若い彼女が民進党をまとめられるのかと疑問視する党員も少なくなく、「最も党首に似合わない軟弱な人」と、同じ民進党の議員から揶揄されることもあった。

 汚職事件による混乱で結束力を失った民進党を再び一枚岩にするために蔡英文がしたことは、「自分が最も民進党の人間らしくふるまう」ことだった。

 民進党は今、病人のような状態になっている。病人が外に出て太陽の光を浴びて療養するのと同じように、自分も積極的に外に出て、民進党の姿を人々に知ってもらうことが、立て直しの一番の近道である。そのためには、事務所にこもって考えるのではなく、民衆に近づき、訴えなければならない。彼女はこう考えたのだ。

 この頃から彼女は、立法院の論戦で培った話術に磨きをかけ、民衆に訴えかけるために台湾各地の市場や繁華街を回って自分の顔を露出することに務めた。自分が民進党の「顔」であることを皆に知らしめるための戦略だった。この行為自体が、党内における自分の立場を強めることにもつながることを、彼女は知っていたのである。「台湾は主権国家である」「一辺一国」など、これまでの民進党の急進的な主張を引っ込め、現実的なそれを打ち出すようになったのもこの頃からだ。

 「党の事務所は冷房が効きすぎていてね。外にいるほうが楽よ」。各地を行脚する蔡英文にメディアが「慣れない仕事で大変ですね」と皮肉を投げかけた際、彼女はこう言い返している。ウィットに富んだ切り返しもできるようになっていた。

「現状維持」だけで不満は解消されない

 「学者」「官僚」としてのこれまでの自分を脱ぎ捨て、恐ろしいほどの順応力を持って党内立て直しをはかった蔡英文だったが、2012年の総統選では僅差で敗れた。それは冒頭で述べた通りだ。だが彼女が地道にやってきた「民衆に耳を傾ける」運動が決して間違いではなかったことを今回の選挙は証明した。

 勝利の女神は彼女にチャンスを与えた。馬英九は2008年から不調に陥っている台湾経済を「中台接近」という形で打開しようとしたが、失敗に終わった。足元の台湾の失業率は3.9%。2008年当時より高まっている。人々の本当の不満は「中台接近」ではなく「中台接近によって強まった経済悪化」である。これ以上の中台接近を阻止し、いくら現状維持を貫いたとしても、悪化する経済や雇用情勢を解決できなければ意味がない。

 台湾市民が抱えている根本的な不満に対し、どこまで蔡英文が近づけられるのか、その腕力が問われている。 

 2000年に「象牙の塔」から降り立ち、2004年に政治家に転身してからわずか10年余り。蔡英文のめまぐるしく変わる人生は、台湾で初めて総統直接選挙を実施し「台湾民主化の父」とも言われる李登輝とも似ている。彼もまた、台湾大学で教鞭を取る傍ら、農政問題をきっかけに政治に関わり始めた身であった。誰がこの時、彼が総統になると考えただろうか。

 台湾の将来は、蔡英文の「無限の可能性」にかかっていると言ってよいだろう。

1/14日経ビジネスオンライン 長尾賢『中国を追い、周辺国が潜水艦を相次ぎ増強 日本の技術を安全保障協力の柱に』について

一昨日の台湾・立法院議員選の結果です。(1/17毎日新聞より抜粋)。民進党単独で大幅に過半数を上回りました。太陽花学運の支持者からなる「時代力量」党も5人当選しました。彼らの選挙スローガンは「国民党議員を落選させる&民進党の監視」でしたから、民進党が派閥争いせず、蔡英文総統の下に一致団結して、政策展開していってほしいと思っています。日本も台湾経済を引き上げるため、(と言うより中国に偏り過ぎた経済の修正のため)早期にTPP加盟できるように他の11ケ国に根回ししなければ。保守派でTPP反対派がいますが、中国封じ込めには非常に有効な政策だと思っています。1/17日経には「15歳~24歳の失業率が昨年11月の時点で12.3%と全体平均の3倍超」とありました。一般的には全体平均の2倍と言われていますので、若者に皺寄せが生き、それを政治が掬い取れなかった結果が今般の選挙でしょう。

the election of congress in Taiwan in 2016

中国は孤立化の道を歩んでいるように見えます。中国に擦り寄って行った韓国も北朝鮮の偽水爆実験でやっと中国の本音に気付き軌道修正しているように見えます。まあ、反日の病は治る事はないでしょうから、日本政府は軍事的・経済的に助けることはしないでほしい。今度習近平は1/19~23「サウジ、エジプト、イラン」を訪問します。「一帯一路」「AIIB」について話合うのでしょうが、「AIIB」の無格付債で資金を集めようとしても、ジャンク債以下なので金利が非常に高くなり、購入する人・機関が出て来るかどうか。そうなると資本金の範囲(1000億$)内での事業となりますので、大幅に手を広げることはできません。ADB(総裁は財務省出身の中尾武彦財務官)や日銀(総裁は黒田元財務官)は助けることのないように。

日本の潜水艦は優秀、対潜哨戒機も優秀と言われています。しかし、いくら技術が優秀であっても敵に盗み取られてしまっては何にもなりません。豪へ輸出するときにはキーとなる部分はブラックボックスにして、素人考えですが無理に開けると爆発して使えなくするようにしないと。台湾軍、韓国軍、日本の自衛隊も中露にリークしましたから。気を付けないと。しかし、オバマは本当にダメな大統領ですね。でも、結果として日本の自立に繋がるのであれば、それも良しとしましょう。狙いは中国の軍事膨張主義の封じ込めです。多国間で封じ込め、戦争を抑止しないと。

記事

submarine-1

図1:関係国配置図

昨今、日本の周辺地域で潜水艦の数が増えている。以下の図2から4は、1990年代から2020年代までの、各国の潜水艦保有数の動向(計画も含む)をまとめたものである。東シナ海沿岸国、南シナ海沿岸国、インド洋沿岸国に分けてまとめてみた。米国と中国はすべての地域にかかわるため図5として別にまとめている。

 こうしてみてみると、どの地域も潜水艦の数が増えていることが分かる。東シナ海周辺国の潜水艦は、1990年代から2015年の間に2倍弱(19→34隻)に増えている。各国の導入計画がその通りすすめば、2020年代には4倍近く(72隻以上)になる可能性がある。南シナ海周辺国の潜水艦も、すでに3倍(6→18隻)まで増えており、2020年代には6倍以上(38隻以上)になる可能性がある。インド洋も同様だ(36→41隻)。2020年代には1.5倍弱(51隻以上)になるかもしれない。

submarine-2

 

 

図2: 東シナ海沿岸国・地域の潜水艦保有数動向 参照: The International Institute for Strategic Studies, “The Military Balance”ほか、報道など

 

 

 

 

 

 

 

submarine-3

 

図3:南シナ海沿岸国の潜水艦保有数推移 参照: The International Institute for Strategic Studies, “The Military Balance”ほか、報道など

 

 

 

 

 

 

 

submarine-4図4:インド洋沿岸国の潜水艦保有数推移 参照: The International Institute for Strategic Studies, “The Military Balance”ほか、報道など

米国と中国はどうだろうか。図5はそれを表したものだ。意外なことに両国とも潜水艦を減らしている。米国は127隻から73隻へ、中国は94隻から70隻になっている。ただ、米中のデータには注意が必要だ。新しく増やした潜水艦の数に限って見ると、米国は11隻、中国は41隻で事情が大きく違う(図6)。もともとあった米中の大きな実力差は、年とともに縮まりつつある。実際、米海軍幹部は米下院軍事委員会で、中国海軍の潜水艦保有数は2015年2月の段階で米海軍を上回ったと報告している(注1)。

submarine-5

図5:米中の潜水艦保有数推移 参照: The International Institute for Strategic Studies, “The Military Balance”ほか、報道など。中国の2020年代の潜水艦保有数については不明。

 

submarine-6図6:2000~2014年の各国の新規潜水艦配備数 参照: The International Institute for Strategic Studies, “The Military Balance”ほか、報道など

(注1)「中国の潜水艦保有数、米国を上回る=米海軍幹部」(ロイター、2015年2月26日) ※この報告では米国の潜水艦保有数は71隻になっている。

 

 

 

なぜ潜水艦?

 各国はなぜ潜水艦戦力を増強するのであろうか。潜水艦の特徴は少なくとも3つある。

 1つ目は、潜水艦が純粋に国家を相手にした軍事用の武器であることだ。人道支援や災害派遣では役に立たない。2つ目は、潜水艦は軍事用としてはコストパフォーマンスがよいことである。潜水艦は隠れ、敵を待ち伏せて戦う。敵の海軍は、潜水艦がどこにいるのかわからないので不安になる。不安になると、行動が慎重になる。つまり潜水艦は、隠れているだけで抑止力を発揮する。だから小さな海軍でも、潜水艦を保有していれば、大国の海軍にプレッシャーをかけることができる。

 3つ目は、潜水艦が相手国の軍事情報を収集する手段として有用なことだ。潜水艦は隠れて情報収集ができる。秘密の多い国際情勢の中で、正確な情報を把握するには、潜水艦による情報収集が有用だ。

 つまり、潜水艦を増強している国は、強大な国家を対象として抑止力を発揮すること、そして、情報収集を目的としていることになる。まず米海軍に対抗しようとして中国海軍は潜水艦を増強した。その潜水艦は、東シナ海、南シナ海、インド洋でまでも活発に活動するようになった。その結果、中国海軍に対抗しようとして、中国の周辺国も潜水艦を増強したのである。だから2000年代後半以降、中国の海洋進出が活発化すればするほど、各国の潜水艦保有計画にも拍車がかかり、ますます増加する傾向になっているのだ。

拡大する潜水艦輸出競争

 現在、この潜水艦競争は、新たな段階に入り始めている。それは、輸出競争だ。中国に対抗しようとする中国の周辺国は、潜水艦を輸入して増強した。例えばベトナムはロシアから潜水艦を輸入し、訓練はインドに依頼している。

 これをみた中国は、インドの周辺国に潜水艦を輸出し始めた。具体的には、パキスタンへ8隻、バングラデシュに2隻の輸出を計画している。インドが海軍を動かす際に、周辺国の潜水艦がどこにいるかは、常に心配になる。中国としては、潜水艦を輸出することでインド海軍の動きを抑えることができる。中国は今後、パキスタンが原子力潜水艦を保有する計画も支援する可能性がある。

 このような動きに対して、インドは米国から対潜水艦用の哨戒機を輸入するなどして対抗している。インドはロシアからリースしている原子力潜水艦をもう1隻増やして、2隻体制にする予定だ。さらに国産原潜9隻も建造予定で、1隻目が就役に近づいている。潜水艦の輸出入は、競争激化する地域の防衛力近代化競争の象徴的存在になっている。

日本にとって鍵になる潜水艦外交

 ここからいえることは何か。まず、米国に比べ、他の国が潜水艦戦力を増強していることは、米国の存在感がそれだけ落ちていることを示している。第2に、潜水艦を増強していることは、国家間のパワーゲームが激化していること、特に中国と、その影響力拡大を懸念する国々との間で競争が高まり始めていることを示している。第3に、このような環境の中で、潜水艦輸出が外交カードとしてより影響力を増しつつあることも示している。

 こうしてみると、日本の存在は重要性を増している。日本は優れた潜水艦を保有する国であり、現在、潜水艦戦力を18隻から24隻へ増強している最中だ。そして、その潜水艦を友好国との協力増進のために使い始めている。具体的にはオーストラリアへの輸出を決めた(注:日本はオーストラリアから受注してはいない)。中国の急速な海軍力近代化に対抗して、日米豪で協力してパワーバランスを維持しようとする努力の一環だ。

 中国が潜水艦を増強する速度は速いことから、今後、日本は、友好国とのより緊密な協力が必要になる。そのためには、オーストラリアだけでなくインドや東南アジア各国に対しても、協力を促進する必要がある。具体的には、潜水艦や哨戒機、潜水艦探知用のソナーなどを含めた輸出、運用ノウハウの共有、潜水艦を使った共同訓練、情報共有などが挙げられるだろう。日本にはすぐれた戦力、人的・技術的基盤があるのだから、それを外交カードとしてどれだけ生かすことができるか、日本の政治力が問われている。

1/13日経ビジネスオンライン 福島香織『香港銅鑼湾書店「失踪事件」の暗澹 香港の一国二制度を見殺しにするな』について

昨日は「台湾総統選」、「AIIB開業」の日でした。中国の世界に於ける存在感は2000年と比べて大きくなりました。大きくしたのは西側世界、特に日米です。「飼い犬に手を噛まれる」との思いでしょうが、「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という民族ですから、日米は馬鹿だったのでしょう。軍事拡張を続ける中国をオバマは制止できません。多国間の枠組みを使って何とか抑止しないと戦争になります。やはり、中国の経済を崩壊させるしかありません。日本の株価も下げるでしょうけど、一時的なものです。他に投資先がなければ必ず還ってきます。1/14日経に日本の中韓への通貨スワップの記事がありましたが、折角「AIIB」に参加しなかったのに、その効果を減殺します。尖閣や沖縄、或は日本全体への領土的野心を持つ国を助けるのは信じがたい愚行です。財務省は本当に愚かな人間の集団です。戦前だって西原借款を供与して返して貰っていないでしょう。単に学力レベルだけの人間では良い行政は出来ません。

銅鑼湾書店の5人失踪事件は、世界に中国は異質というのをまざまざと見せつけました。サッチャーは鄧小平に騙されたという事でしょう。中国人が約束を守るはずがありません。法の概念が欠落している民族ですので。台湾国民も選択を間違えれば、「明日は我が身」と思ったでしょう。その結果が、昨日の総統選と立法委選です。

中国に日本を慰安婦や南京で非難する資格はありません。今甚だしい人権侵害を平気で行っているではありませんか?日本の左翼、人権派弁護士はどうして中国非難の声を上げないのでしょう?彼らは慰安婦問題で国連人権理事会(ジュネーブ)までわざわざ出かけて行って、日本を貶める行動をしてくるのに。ダブルスタンダードです。中国か韓国から金を貰ってやっているのか、スパイ活動としてやっているのでしょう。

中国では逮捕状なしで拘引、拘留するのが当たり前です。何せ法治国家ではありませんので。「法輪功」の信者もそれで犠牲になっています。台湾の蒋介石も2・28事件で同じように都合の悪い人間を隠密裏に拘束しては処刑しました。中国人のやることは一緒です。しかも、人類の叡智の結晶である「三権分立」を共産主義は否定します。中国人+共産主義となれば悪も底なし沼でしょう。

1/16日経に「中国は令計画(元中央弁公庁主任)の弟(令完成)の身柄移送を米国と協議」とありました。令完成は2700件の機密文書と中国要人のセックススキャンダルを持ち出したと言われています。米国も令完成をもう用済と引き渡ししたら、死刑になるのは目に見えています。人権を声高に言うのであれば、引き渡さないで、スノーデンのように生かしておいた方が後々役に立つかもしれません。

記事

年明け早々の私にとって一番衝撃的なニュースは銅鑼湾書店の関係者が次々と失踪したことだ。香港の出版界にひしひしと圧力が迫っていることは承知していたが、まさか香港内に住んでいる人間、しかも外国パスポートを持っている人間が突然消えるほど、香港が物騒なことになっているとは。

 銅鑼湾書店関係者の失踪は5人。まず昨年10月17日に店筆頭株主・桂民海の行方が分からなくなり、10月24日に同書店の創始人で店長の林栄基が消え、10月26日に株主の呂波、書店経理の張志平、そして最後に12月30日に店主の李波がいなくなった。いったい何が起きたのか。私にとっても大事な書店であり、関係者の無事と書店の存続を切に願うものとして、今わかる情報を整理しておきたい。

禁書、絶版本が充実した「二楼書店」

 銅鑼湾書店とは、香港の書店文化の一つである「二階書店(二楼書店)」(個人がテナント料の安い雑居ビルの二階の一室で開く趣味に走った書店)の代表的な店の一つで、1994年に開業した。いわゆる中国政府や共産党の権力闘争の内幕を“関係者が匿名で暴露した”というスタイルの怪しげな“禁書”を専門に売るということで有名なようだが、実は絶版で手に入りにくい文学書や台湾関係史、中国近代史本も充実している。

 銅鑼湾地下鉄駅D4口から出てすぐ、駱克道に面する雑居ビルの急な階段を上がったわずか30平米の小さな店だが、天井まで続く本棚にぎっしりと貴重な本が並び、真剣に発掘すれば何時間あってもたりない。台湾書籍の卸売業に従事していた林栄基が20万香港ドルの自前資金で開いた書店で、当初の品揃えは完全に林栄基の趣味に走ったものだった。

 私が香港駐在であった2001年ごろはまだ、本に立ち読み防止のビニールがかかっていなかったので、立ち読みの大陸からの客でいつも狭い店内がいっぱいであった記憶がある。2014年、テナント料の高騰にともない経営難に陥った同書店は、スウェーデン籍を持つ実業家・桂民海が投資して創った巨流伝媒集団に身売りされ、林栄基は雇われ店長となっていた。だが、それでも店に行けば、たいてい林栄基が相手してくれた。

 私がこの書店に最後に立ち寄ったのは2015年5月、林栄基はいつもの店長席におり、私は彼に最近の売れ筋の本や、数あるゴシップ本の中で読む価値がある本の指南をうけながら、十数冊の本を買った。「そんなに買うなら、電話一本くれれば郵送してやるよ。日本には郵送で本を買う顧客がたくさんいる」というのが、林栄基と交わした最後の会話である。その後、彼を含む書店関係者ら次々と姿を消した。彼から勧められた選りすぐりのゴシップ本をもとに書いたのが拙著『権力闘争がわかれば中国がわかる』(さくら舎)である。

彼らはなぜ突如、行方が分からなくなったのか。ほとんどの人が、中国当局が拉致監禁していると信じて疑わない。私もそう思っている。

 まず、銅羅湾書店には中国が不愉快になる本がたくさん売っていた。権力闘争の背景から党中央政治家の下半身スキャンダルの暴露本、文化大革命や天安門事件の詳細な記録、そして雨傘革命の記録。さらに、これは噂でしかないのだが、桂民海には共産党の“双規”に対する批判本を出す計画があって、それが中国共産党にとっては非常に警戒されたため、今回の銅鑼湾書店弾圧が起きたのではないか、と言われている。

「双規批判」「下半身醜聞」に激怒か

 双規は、共産党中央規律委員会による党員の取り調べ制度、司法制度外の党規に基づく制度で、逮捕状も拘留期限も決められておらず、拷問による死者まで出す前近代的制度と知識人の間で非難されている。人権派弁護士・浦志強が微博などのつぶやきをもって「民族の仇恨を扇動した罪」というわけの分からない容疑で逮捕、起訴され執行猶予付き判決が出たことは記憶に新しいが、浦志強が本当に冤罪逮捕された原因は、彼が双規の違憲性を世論に問おうとしたことではないか、と見られている。

 というのも、習近平政権の反腐敗キャンペーンは、もっぱら司法ではなく「双規」に基づいて行われている。習近平の汚職退治は司法手続きにのっとった正当なものではない。そのことを真っ向から批判されては、習近平政権が語る「憲政主義」がいかに胡乱なものか大衆の目にも明白になってしまう。

 もう一つの噂は、習近平下半身スキャンダル本の出版が計画されており、これに習近平が本気で怒ったという話だ。確かに習近平の香港出版界弾圧事件として一番最初に知られるようになったのは、亡命華人作家・余傑が書いた「中国教父習近平(中国のゴッドファーザー習近平)」の出版人となった姚文田が2013年10月に深圳に出張にいった際に、密輸容疑などで逮捕され、翌年5月に懲役10年という異例の重い判決を受けた例である。以降、習近平のスキャンダル本は何にもまして敏感なテーマの一つとなった。

 なぜ今、というタイミングだが、2016年が文化大革命開始から50年、終了から40年という節目と関係がある気がしてならない。もともと香港の「二楼書店」文化は、文化大革命で多くの書籍が禁書焚書となったとき、そういった書籍を秘密裡に香港に持ち出した本の虫たちが開いたところから始まっている。政治動乱を生き延びた貴重な書籍・文字資料たちが、ひっそりと売られている店でもあった。

 文革終了40周年目にして、文革をルーツとする香港二楼書店文化をこの際、徹底的に叩き潰すというのが中国側の意図かもしれない。今の習近平政権のイデオロギー統制は文革の再来ともささやかれる激しさで、文革再評価本にもかなり、神経をとがらせていると聞いている。文革批判が習近平批判につながる可能性を言う人もいた。かつて首相だった温家宝が、薄熙来の「打黒唱紅」キャンペーンを暗に「文革の残滓」と批判したことがあるが、薄熙来以上の毛沢東式イデオロギー統制ぶりに、習近平こそが「文革の残滓」とする声も出てくる中、文革再評価論も敏感なテーマとなっていた。

 こうしたタイミングで、香港“内幕暴露本”出版関係者に弾圧をかけることは、香港出版界を牽制するだけでなく、香港出版界にネタを提供してきた党中央内部の改革派知識人や官僚たちを震え上がらせる効果も狙っていることはいうまでもないだろう。

「無事の連絡」は身柄拘束の証左

 事件の経過を振り返える。

 最初に行方がわからなくなった桂民海はスウェーデン籍でドイツ在住。1964年寧波生まれの満族で、1985年に北京大学歴史系を卒業した秀才。本人も詩作などを楽しむ文人という。タイ・パタヤにリゾートマンションをもっており、そこに滞在中、何者かに拉致されたもようだ。マンションの監視カメラに不審な男性が映っているという。BBCの取材によれば、行方不明になった後、友人を名乗る4人の中国人がマンションの管理部門を訪れ、桂民海の自宅に入れるよう許可を求め、自宅のパソコンを持ち去ったという。このとき4人は「桂民海はカンボジアで友人とギャンブルをしている」と説明したという。これとほぼ平行して、本人から管理部門に電話連絡があり、「心配する必要はない」「友人と一緒にパソコンをいじっている」と話していたとか。これは明らかに、桂民海が何者かに身柄を拘束されているということの証左といえる。

 2番目に失踪した林栄基はすでに還暦を迎えた香港人。10月23日に最後にパソコンにアクセスしたのち、行方不明になった。香港にいるのか、深圳にいるのか分からないまま、林栄基の妻は11月5日に警察に夫の行方不明を届けたところ、その数時間後に本人から妻に電話があり「失踪ではないから、警察への失踪人捜査を取り下げるように」と言ったという。出入境当局は最後まで、彼の出入記録の照会に応じなかった。

 11月6日に一部海外メディアで銅鑼湾書店関係者4人の失踪が報じられてのち、やはり林栄基本人からそのメディアに対して「私は無事だ。しばらくしたら帰るから、心配しないでほしい」という電話がかかってきたという。同じ頃、ドイツの桂民海の妻に桂民海から同じ内容の電話がかかって来た。

 一方、銅鑼湾書店の書店員の張志平は妻が東莞に暮らす中国人で、ちょうど東莞の妻の家にいるとき、十数人の男が突然現れて連行したという。その後、本人から家族に電話があり「大丈夫だ」と連絡があった。呂波は銅鑼湾書店の株主の一人だが、やはり妻が深圳住まいの中国人で、妻の家にいるところを連行されたという。この連行状況から考えても、林栄基も桂民海も中国当局に身柄を押さえられ、いま中国国内にいることはほぼ間違いないと思われている。

英国籍の李波を香港内から“内地”へ

 最後に失踪した李波は11月の段階で、林栄基ら関係者4人の失踪にずいぶん怯えていた。だが、彼も12月30日を境にふっつりと消息を絶った。31日に銅鑼湾書店の株主でもある妻が、香港警察に失踪届を出したが、年明けに李波直筆のファクスが会社に届き、「急いで処理せねばならない問題があり、世間に知られないように内地に戻って、調査に協力している。しばらく時間がかかる。…失踪捜査届を取り下げるように妻に伝えてほしい」という伝言があった。

 李波は英国籍保持者だ。大陸に行くためのビザ替わりでもある「回郷証」は自宅に置いたままの失踪だった。となると、彼はどうやって大陸に入境できたのか。本人の同意あるなしにかかわらず、香港という一国二制度の建前がある地域で、堂々と外国人を中国の都合で大陸に移送したとしたら、これは中国がいまや北朝鮮並みの無法国家になりさがったということではないか。

 2013年から香港の出版界弾圧は始まっていたが、それでも、出版関係者が深圳に入ったタイミングで逮捕するという最低限のルールは守られていた。タイのような外国で、外国籍華人を拉致するのもひどい話だが、香港という一国二制度による自治を中国自身が約束している地域で、香港の司法を完全無視して外国籍を持つ人間が拉致、連行されてしまうなど、許されていいわけがない。

2014年秋、香港の若者が雨傘革命で公道を占拠しながら真の普通選挙要求運動を行っていたとき、日本の少年漫画「進撃の巨人」に香港の状況をなぞって語っていたことを思い出した。

香港の「最後の壁」が壊されかけている

 香港人は3つの壁からなる一国二制度に守られて“香港の繁栄”を享受していた。一番外側にあるのが自由主義経済の壁。真ん中にあるのが民主・言論の自由の壁。最後の砦が司法の独立の壁。一番外側の壁はすでに破られていた。雨傘革命は真ん中の壁が破られそうになって、あるいは破られ始めて、それを必死に食い止めようと戦っているのだ、と言っていた。あれから1年あまり、今、司法の壁が巨人に壊されかけている。

 さすが英国政府も英国籍保持者の李波の安全確認を香港政府と中国政府に求め、訪中していた英ハモンド外相が王毅外相との会談で持ち出したようだが、王毅外相は李波について「この男は中国公民であり、根拠のない推測をすべきではない」と反論している。この5人の失踪が中国当局による拉致であるというのが、本当に根拠のない推測であったならどれほどよいか。

 香港では10日、この事件に対し、5人の即時釈放を訴えて数千人規模の抗議デモが起きている。だが、李波の妻は、夫の安全を懸念して、個人的理由で内地にいったので、抗議デモに参加しないでくれと懇願していた。もはや香港人だけでは香港を守りきれなくなってきている。ここで、国際社会が何もアクションを起こさなければ、香港の一国二制度は完全に失われてしまうだろう。

 このまま、香港が食われてしまうのを、私たちは黙ってみていていいのだろうか。

1/13日経ビジネスオンライン 鈴置高史『やはり、韓国は核武装を言い出した 北の核実験で始まる「ドミノ倒し」』について

中国は北朝鮮への厳しい制裁は、ここにありますようにしないでしょう。西側世界との貴重なバッファゾーンです。厳しくすれば生活できなくなった北朝鮮人が確実に国境を超えて東北三省(遼寧省・吉林省・黒龍江省)に入ってくるでしょう。朴槿恵は「統一大当たり」論を昨年主張しましたが、現実国際政治がまるで見えていません。流石妄想逞しい国民だけの国です。中国が簡単に統一を認める訳ありません。北朝鮮は政治体制では少なくとも一党独裁の中国共産党と同じく軍事政権(政権は銃口から生まれる)です。まあ、韓国も軍事独裁政権が長く続き似たようなものですが。でも米国も朝鮮戦争で5万人の米国人の血を流しましたから、そんなに簡単に逆に北朝鮮主導で統一はさせないでしょう。米中の思惑は現状維持がお互いに居心地が良い状態です。中国は金王朝が崩壊しても別の人間に据え変えようとするでしょう。韓国は「統一の邪魔をしているのは日本」とかすぐ日本のせいにするというか、何でも悪いことは日本のせいにする未熟な国です。日本は韓国を「敬して遠ざける」のが正しいスタンスです。

米国としては6ケ国協議で北朝鮮をコントロールするのは中国の責任にして丸投げしてきました。日本はイザと言うときのキャッシュデイスペンサーにするつもりでしょう。国民が厳しく監視しなければ、米中の思惑で日本が金を出す羽目になりかねません。日韓基本条約の対象範囲は朝鮮半島全体に及びますので、それこそ「蒸し返し」の議論になります。

核について米国の傘について当てにならないと感じているのは韓国人だけではありません。日本人も同じく感じています。二度と核を落とされないためには核抑止力が必要です。モーゲンソーの言う「核を持たない国は核を持つ国に降伏するしかない」はそのとおりです。P5は特権を持っている訳で、持たない国を隷従させ得ます。プーチンはウクライナ問題で核使用について言明したではありませんか。それに対し米国は何もしませんでした。やはり、他国を全面的に当てにして国防を考えるのは間違っていると思います。同盟は大切ですが、単独でもそれなりの装備を持たないと。日本も少なくとも核議論を深めるようにならねば。

記事

1月6日、北朝鮮が4回目の核実験を実施した。韓国はどう出るのか。

解決の意思がないオバマ

—前回の「韓国も核武装か、中国に走るか」の予想通り、北朝鮮が4回目の核実験をするやいなや、韓国で核武装論が語られ始めましたね。

  • 北朝鮮の核実験
回数 実施日 規模
1回目 2006年10月9日 M4.2
2回目 2009年5月25日 M4.7
3回目 2013年2月12日 M5.1
4回目 2016年1月6日 M5.1

(注)数字は実験によって起きた地震の規模。米地質研究所の発表による

鈴置:ええ、実験翌日の1月7日、朝鮮日報が社説「米中にも解決が難しい北の核、国と国民を守る非常措置をとらねばならない」(韓国語版)で「核武装を議論しよう」と主張しました。要約します。

  • 北朝鮮の核は大韓民国の存亡をかける最上級の懸案だ。だが、オバマ政権は解決の意思を失った状態だ。中国も北朝鮮の存在が自らにとって戦略的価値があるとのこれまでの立場を変えていない。
  • 政府は「国際社会と協力し、国連で追加の制裁措置を講じる」と言うが、それは20年間も繰り返してきた空しい話だ。
  • 高高度防衛ミサイル(THAAD)などの導入も進めるべきだが、いずれも核の前では限界がある。
  • 1991年の朝鮮半島非核化宣言の前後に撤収した、米国の戦術核兵器の再配置を積極的に議論することも可能だ。
  • 最近、米国の一部専門家の間では「中国とロシア、北朝鮮が核を保有している状況で、韓国など同盟国が核兵器を持つのがいいのか、米国が核の傘を提供するのがいいのか、検討せねばならない」との意見まで出ている。
  • 韓国の核武装は現実的には容易ではない。が、だからといって北の水爆実験まで見ながら「米国と協議さえできない」では、話にならない。

国民を守るには不可欠な核

—「米中も国連も頼りにならない」との韓国人の悲愴感が伝わってきますね。

鈴置:北朝鮮の核ミサイルは日本にも向けられるのですから、日本人ももっと悲愴な覚悟を固めるべきなのですが……。

 この社説が載った1月7日には、与党セヌリ党の幹部も相次いで核武装に言及しました。

 元裕哲(ウォン・ユチョル)院内代表が「自衛権の次元で平和的な核兵器を保有すべき時だ」と述べ、米国の戦術核の再配置を提案しました。金乙東(キム・ウルドン)最高委員は「核兵器の独自開発」に言及しました。

 これを受け、朝鮮日報は翌1月8日にも「独自の核開発を米国と議論すべきだ」との社説を載せました。「北の核への対応カード、全てを準備し、原点から検討する時」(韓国語版)です。2人の与党の大物議員の発言を引用したうえ、以下のように主張しました。

  • 与党セヌリ党から提議された「核保有論」について公論に付さねばならない。
  • 国際社会が容認しない状況で、韓国が独自に核開発するのは現実的には難しい。しかし、国の安寧と国民の生命を守るには不可欠であることに関し、米国とも論議を始める必要がある。

政府の言いにくいことは与党が

 なお、この社説の日本語版の見出しは「核保有、韓国政府は米国と真摯に意見交換を」です。「核保有」という言葉も入れ、より鮮明です。

 韓国政府は、本音を語りにくい時は与党首脳部に語らせます。今回もそのケースではないかと思います。

 韓国政府は自分の置かれた際どい状況と、必死さを訴えることで国際社会の強力な対北制裁を引き出したい。しかし、あまり露骨に核武装を語れば、世界からの共感を得にくくなります。

 一方、朝鮮日報はもともと、シニア記者のコラムで核武装を主張してきました(「一歩踏み出した韓国の核武装論」参照)。

 それがついに、与党執行部の発言を引用することにより、核武装を議論しようと、社説ではっきり呼び掛けるに至ったのです。

核のない日本は降伏した

—ほかの新聞の社説は?

鈴置:中堅紙の文化日報も、1月7日の社説で明確に核武装を検討すべきだと書きました。「対北政策のパラダイムを『全方位核封鎖』に変えよ」(韓国語)です。

 同紙は事実上、対北援助の窓口になっている開城工業団地の見直しや、THAADの導入、対北拡声器放送などの心理戦の強化とともに「自衛的核武装」を唱えました。ポイントを引用します。

現実主義的国際政治学の父、ハンス・モーゲンソー(Hans J. Morgenthau)は「非保有国が核保有国に刃向かっても滅ぼされるか、降伏するか、どちらかを選ぶしかなくなる」と予測した。

核の抑止は核に頼るしかないというのが核政治学の基本だ。核を持たなければ、相手の慈悲心に生命と運命をさらすしかない。

国際政治の力学上、独自の核武装が難しい場合は米国の戦術核を再導入する問題を議論すべきだ。(北の核放棄に向けて)中国を圧迫する手段にもなる。

大韓民国は今「まさか」との安易な考えと「米国など国際社会が解決してくれるだろう」といった依存心を捨てなければならない。

 なお、モーゲンソーは「核を持たない国は核を持つ国に降伏するしかない」具体的な例として、広島と長崎に原爆を落とされた後の日本を挙げています。日本語では岩波文庫の『国際政治(上)――権力と平和』(292ページ)で読めます。

中国への説得材料にも

 東亜日報は1月7日の社説「北の4回目の核実験、朴大統領は米中から『最終的な制裁』を引き出せ」で「核なしで大丈夫なのか」との間接的な表現ながら核保有を検討すべきと主張しました。

  • 朴大統領は増強された北の核の脅威に対し、核なしで対処できるのか、検討する必要がある。米国の核の傘の公約が確固としたものだとしても、有事の際に即座に効果があるとは壮語できない。

 中央日報はやや遅れて1月10日の社説「核実験の対北朝鮮制裁、中国は答えよ」(中央SUNDAY第461号、日本語版)で「核武装」に触れました。

 ただ、同紙の意見というよりも「北朝鮮に対する影響力が最も大きい中国がその核を抑え込むべきだ」と主張する中で「北の核を放っておくと韓国が核武装し、周辺国(日本)も追従するよ」と、中国への説得材料として言及するに留めています。以下です。

  • 習慣のように繰り返される北朝鮮の「核挑発」にブレーキをかけるためには中国が断固とした姿勢を見せなくてはならない。今回も口頭での警告程度にとどめてやり過ごしてしまうなら、中国が期待する韓半島非核化は遠ざかるだろう。
  • そうでなくても今回の北朝鮮の核実験により韓国では保守層を中心に「韓国も自衛次元の核開発に乗り出さざるを得ないのではないか」との主張が出ている状況だ。周辺国の「核ドミノ」が現実化するならば、北東アジアの平和を脅かす災いになる可能性が大きい。

 濃淡はありますが、保守系紙はほぼ「核武装論」を社説で訴えるか、言及したのです。半面、左派系紙は一切それに触れていません。

国民投票で決めよう

—保守系紙は本気なのでしょうか。

鈴置:米国や中国に対し「我が国は必死なのだ。核放棄に向け北への圧力を全力でかけてくれないと、核武装しちゃうよ」と脅す部分も相当にあると思います。例えば、中央日報の社説はブラフとして核武装を使う臭いが濃い。

 ただ、国際社会が実効性ある対北朝鮮制裁に乗り出さないと、韓国の国論は次第に「本気の核武装論」に傾いていくと思います。

 韓国各紙が指摘する通り、米国の核の傘がどれだけ有効か韓国人は確信が持てないからです。北朝鮮が米国まで届くミサイルを持ったと思われる今、米国人が核ミサイルを撃たれるリスクを冒してまで韓国を守ってくれるのか、韓国人の疑いが増しているのです。

—核武装論をいち早く唱えていた親米保守の趙甲済(チョ・カプチェ)氏は4回目の実験後、どう主張していますか?

鈴置:ご本人の記事はもちろん、保守派の核武装論など対北強硬論で「趙甲済ドットコム」(韓国語)は溢れ返っています。

 さらに趙甲済氏らが率いる保守団体、国民運動本部は1月10日に「自衛的核武装をすべきか、国民投票で決めよう」との声明を発表しました。

 この声明は「2016年4月の総選挙の際に、自衛的な核武装に乗り出すかを問う国民投票を実施しよう」と呼びかけるなど、具体的な行動指針を打ち出しました。

3分の2が核武装に賛成した

 2013年2月の北朝鮮の3回目の核実験の後の世論調査では、約3分の2の韓国人が核武装に賛成しています(「ついに『核武装』を訴えた韓国の最大手紙」参照)。

 今回聞けば、それ以上の割合の韓国人が賛成すると思われます。3回目の核実験の直後、韓国メディアはほとんど核武装に触れませんでした。一方、先ほど見たように、今回は保守メディアがはっきりと主張しています。

 これから見ても、趙甲済氏らは本気でしょう。核武装するだけではなく、この際、一気に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制を潰してしまおう、とも主張しています。

—今はブラフの部分があるにしろ、本気になりかねない韓国の核武装論。米国や中国はこれにどう対応するのでしょうか。

鈴置:米国は韓国や日本に対し、改めて「核の傘」を保障しました。「(1月6日に)カーター米国防長官は韓国に対する米国の堅固な防衛公約を再確認した。米国の公約には米国の拡大抑止力のあらゆる手段が含まれる」と、韓民求(ハン・ミング)国防相が1月7日に表明しました。

 聯合ニュースの「米国が韓国防衛の公約を再確認 共同報道文発表」(1月7日、日本語版)が報じています。

 同日にはオバマ大統領も朴槿恵(パク・クンヘ)大統領に電話し「韓国への防衛公約は揺るぎない」と述べたうえ、北朝鮮への「包括的制裁」も約束しました。

 ただ、米国がいくら「包括的制裁」を約束しても、それに中国が参加しない限り効果は薄いのです。米国も軍事的な制裁までするつもりはなく結局、経済制裁が軸になります。

 が、過去の度重なる経済制裁により、北朝鮮経済は日本を初めとする西側諸国への依存度を急激に下げ――つまり、中国に全面的に依存するようになってしまったからです。

本気で制裁しない中国

—中国は北に核を放棄させることができるほどに強力な経済制裁を実施しますか?

鈴置:しないと思います。そんなに強力な制裁をかければ、北朝鮮の体制が崩壊しかねないからです。中国にとって北朝鮮は米国との緩衝地帯なのです。そんな貴重な地帯を容易に手放すわけがありません。

 中国が「北朝鮮消滅」のリスクを冒すのは、米韓同盟が破棄されるか最低限、在韓米軍が完全に撤収されることが保障された時と思います。

 逆に言えば、中国は「北朝鮮の核武装」を「米韓同盟破棄」へのテコに利用する可能性があります。

 北の核廃棄を要求する米国や韓国、あるいは日本に対し中国は「韓国が米国の核の傘によって守られているから北朝鮮も核を持とうとするのだ」と反論するのです。

 これまで「北朝鮮の非核化」を求める韓国に対し、中国の答えは常に「朝鮮半島の非核化」でした。韓国にさしかけられた米国の核の傘に対し、拒否権を発動するための布石を敷いてきたのです。

韓国の国論は分裂へ

—ではもし、中国が「米韓同盟をやめるのなら北朝鮮の核を廃棄させる」と言い出したら、韓国はどうするのでしょうか。

鈴置:国論が分裂するでしょう。まず、趙甲済氏ら一部の親米保守は――反中保守と呼んでもいいと思いますが、彼らは核武装しつつも米韓同盟を維持する方策を模索すると思います(「『核武装中立』を覚悟する韓国」参照)。

 それが不可能なら「核武装中立」もやむを得ない、とは考えているでしょうが。ともかくも、中国の属国に戻るのはごめんだと思う人がいます。米国との同盟を打ち切って中立化すれば、中国化してしまうとの懸念があるのです。

 一方、保守の中にも中国側に接近することで、北の核を解決してもらおうと考える人がいます。彼らは米韓同盟破棄を認める可能性があります。当然、反米色の濃い左派の中からも、それに賛同する人が出るでしょう。

朝鮮半島全体が中立化

—まさに、北の核実験を引き金に南北朝鮮がともに中立化すると予測した近未来小説『朝鮮半島201Z年』ですね。

鈴置:各国の利害を考えて“国際政治のチェス”をやると、そうなってしまうのです。この小説では中国が「朝鮮半島の非核化と中立化」を言い出し、米国がそれをのみます。北朝鮮の核の脅威が深刻になってくると現実世界の米国も、それをのみかねません。

 北朝鮮の4回目の核実験は、もちろんそれだけで東北アジアを揺るがす大ニュースです。新たな核武装国が登場するのですから。

 でも、その影響が韓国から米国や日本へと、広がっていくことを見落としてはなりません。

(次回に続く)

1/11産経ニュース 正論 渡辺利夫『自縄自縛の歴史解釈から脱し、中韓の理不尽な主張に究明された事実発信で対抗せよ』について

一昨日、官邸に韓国の通貨スワップ反対のメールを送りました。

「日韓通貨スワップに反対の件

1/11韓国の次期経済副首相兼企画財政部長官に指名された柳一鎬氏が「日本との通貨交換(スワップ)再開など、通貨スワップの拡大を考慮することがきる」と国会で述べたとのこと。借りる方が偉そうに言うこと自体この民族の特殊性を表しています。事実無根の従軍慰安婦問題を世界に喧伝してきた国です。また竹島を不法占拠し、共産中国に擦り寄った裏切り者です。こういう国は痛い目に合わせないと分からないのです。日本は軍事的・経済的支援をする理由がありません。韓国も日本を敵国と位置づけしているのですから日本も同じ考えで臨まないと。さんざん悪態をついてきたのに、困ったときだけ助けてくれとは虫が良すぎです。これをやれば参院選(場合によっては衆参同時)で自民党はボロ負けするでしょう。昨年末の慰安婦合意の上に通貨スワップまですれば。自覚して政策を決めていってほしい。」と。

1/14の日経では

「日韓・日中、通貨協定に再開機運 関係改善など背景に

日本と韓国、日本と中国の間で金融危機の際に米ドルなどを相互に融通しあう「通貨交換協定」の復活に向けた機運が高まってきた。最近の外交関係の改善と金融市場の動揺が背景だ。両国とは昨年に財務相などが参加する財務対話を再開。通貨協定が復活すれば、経済外交の正常化のシンボルにもなりうる。

currency swap

 「日本との通貨交換協定の再開など、協定の拡大を考える価値がある」。韓国の柳一鎬(ユ・イルホ)次期副首相兼企画財政相は11日、同国国会の人事聴聞会でこう述べた。日韓は領土や歴史認識の問題をめぐって外交関係が悪化し、通貨協定を15年2月に打ち切った。だが昨年末に最大の懸案だった慰安婦問題が進展。次期財政相の発言は「日韓関係の改善を象徴している」(国際金融筋)との見方がある。

 米国の利上げに伴う金融市場の動揺に備える意味も大きい。韓国銀行(中央銀行)によると、通貨が暴落した際にドル売り介入に使える同国の外貨準備高は15年12月末時点で3679億ドルと5年間で約26%増えた。ただ柳氏は「(米利上げの)影響は限定的だが、対策を立てなければならない」と指摘。その選択肢の一つが日本との通貨協定の再締結というわけだ。

 日本政府はこれまでの協定交渉と同様に「韓国側からの要請が必要」という立場を崩していない。次期財政相の発言はあくまでも韓国内での発言にすぎず、日本への要請とはいえない。ドル・ウォン相場は足元で1ドル=1200ウォン台前半と約5年半ぶりのウォン安水準に下落している。一時はウォン高で国内産業が疲弊していただけに、ウォン高につながりやすい通貨協定に前向きな財政相の発言については「真意を見極める必要がある」(日本の財務省幹部)と様子見ムードが漂う。

 1年以上前から交渉を続けている中国との通貨協定にも再締結に向けて前進する可能性が高まっている。日本は16年の主要7カ国(G7)、中国は20カ国・地域(G20)の議長国同士で幅広い経済連携を検討していく方針だ。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と日本が大株主のアジア開発銀行(ADB)がインフラ投資でも連携を探る。市場では「日本との協定締結は人民元の国際的な地位をさらに高めることになる」(SMBC日興証券の肖敏捷氏)との意見もある。

 日中韓は自由貿易協定(FTA)交渉を加速するなど外交関係の改善をテコに経済関係では緊密化を目指す動きが目立つ。ただ中国とは南沙諸島の問題など新たな外交上の懸念もある。歴史や領土問題をにらみながらの経済外交が続きそうだ。

 ▼通貨交換協定 2つ以上の政府がそれぞれの外貨準備を使い、資金(主に米ドル)を融通し合う取り決め。通貨の急落などの金融危機に備える仕組みで、通貨スワップ協定とも呼ぶ。金融危機が起こった国では貿易決済や為替介入に必要な外貨が不足する場合がある。同協定を結んだ相手国がこのような国に外貨を貸し出し、為替市場の安定につなげる。」とありました。

日経は中韓を側面から支援しているようなものです。彼らの言うことを鵜呑みにすれば、必ず失敗します。日経は中国進出をあれだけ煽り、中国経済が崩壊直前でも、自分の責任については頬かむりです。マスメデイアの特質で「他人に厳しく、自分に甘い」です。

1/14ZAKZAKによれば「日韓、通貨交換協定を再開へ 政府、韓国の正式要請が前提 中国景気の後退リスクに対応

日本政府は、緊急時に通貨を融通し合う「通貨スワップ(交換)」の日韓協定について、韓国政府から正式要請があれば再締結に応じる方針を固めた。日本政府高官が13日、明らかにした。北朝鮮の核開発問題や中国景気の悪化など安全保障と経済の両面で不安要素を抱える東アジア地域の安定に向け、正式要請には応じるべきだと判断した。再締結が実現すれば、協定は昨年2月以来となる。
 日本政府は、中国の景気後退が韓国経済に大きな影響を与えるリスクがあるため、国境を超えた景気悪化の連鎖を防ぐには通貨スワップ協定が有効だと判断した。韓国で経済危機が発生し米ドルや日本円が不足したときに、日本が通貨を融通し経済の安定化を図る。
 日本政府は、韓国政府から協定再開の申し入れを受けてから、融通枠の上限額などを検討する。協議がまとまれば国際会議に合わせた財務相会談や首脳会談などでの調印式も検討する。
 通貨スワップ協定は、経済力のある国が周辺国を支援する側面が強く、日韓間の場合は日本が韓国を支援する形となる。
 日韓両政府は平成13年に通貨スワップ協定を締結。23年には欧州債務危機を受けて融通枠を最大の700億ドルまで拡大した。
 しかし、24年に当時の李明博大統領が竹島(島根県隠岐の島町)に上陸するなど日韓関係が冷え込んだ影響を受けて規模が縮小。協定期限を迎えた昨年2月、韓国側から延長要請がなかったため終了した。

ただ、昨年10月には日本経済団体連合会に対し、韓国の全国経済人連合会が再開を呼び掛けていた。

 日韓両政府が慰安婦問題で合意したことから、北朝鮮の核実験への対応などで「スムーズな日韓連携が可能になった」(首相官邸筋)とされる。日本政府にとって、歴史認識問題で中国の習近平国家主席と共闘してきた韓国の朴槿恵大統領との距離を通貨スワップ協定による支援でさらに縮める狙いもある。

 ただ、官邸サイドは韓国の非公式による再開打診に応じる気はなく、公式な要請を待つ考えだ。」

とありました。財務省がわざと流している可能性もあります。衆参同時選で安倍内閣が消費税増税見送りさせないようにいろいろ動いている可能性もあります。或はアメリカの要請かもしれませんが。

政府もキチンとした外交をしてほしい。中韓とも敵国です。敵が弱っているのに助ければ、相手を余計に増長させるだけです。「敵に塩を送る」のが通用するのは日本人同士の時だけです。常に相手を騙そうと思っている民族には通用しません。

南京虐殺は政府の責任でキチンと反論すべきです。中国の記憶遺産登録を奇貨として、「災い転じて福となす」とすれば良いでしょう。

記事

 去年は戦後70年だった。9月には「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年記念式典」なるものが北京で開催、大規模な軍事パレードが挙行された。天安門の楼上でパレードを見守る習近平国家主席をプーチン露大統領、朴槿恵韓国大統領、潘基文国連事務総長らが取り巻く異様な光景であった。

 ≪中韓で再生産される過去の記憶≫

 個人の人生においても国家の歴史においても凄惨(せいさん)なできごとが時に起こりうる。戦争はその最たるものであろう。しかし、戦争の悲劇も時間の経過とともに人間の記憶からは次第に薄らぎ、やがて消滅していくというのが人生の真実であり歴史の経験則である。ところが、中国や韓国では時の流れとともに過去の痛ましい記憶がいよいよ鮮やかなものとして再生産されている。

 戦争がいかに悲惨であっても、当事国がいつまでも啀(いが)み合っているわけにはいかない。勝者と敗者の間で戦争処理のための条件交渉がなされ、国際条約を結んで新しい国家関係を出発させるというのも歴史の経験則である。

 事実、日韓では1965年の基本条約や請求権協定が合意され、日中では72年の共同声明を経て78年に平和友好条約が締結された。前者では韓国の日本に対する請求権の一切が「完全かつ最終的な解決」をみたことが文書化され、後者では「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」が明記された。

≪わだかまり残った70年談話≫

 これで戦前戦中期の日韓間、日中間の懸案は、もちろん双方に少なくない不満を残しながらも、条約という形式に則(のっと)って決着したのである。慰安婦問題、靖国問題、歴史教科書問題などの提起は条約からの完全なる逸脱である。

 昨年8月14日には安倍晋三首相による戦後70年談話が発表された。評価はさまざまであったが、概(おおむ)ね国内では好意的に受け止められ、中韓からの反発も厳しくはなかった。私も談話が発表される以上はこれで致し方ないのかと考えもしたが、その一方で、そもそもなぜ一国の一首相、一内閣が自国の歴史解釈を表明してみせねばならないのか、これが歴史に対する誠実な向かい方なのかという思いをなお消すことができない。

 戦後50年の村山談話があまりにも自虐的な史観に立って自国を貶めたことへの慚愧の思いを安倍首相は抱いてきたのだろう。安倍談話が村山談話というテキストの書き換え、つまりは「上書き」を意図したのであれば、それはそれで意味があったことかもしれない。しかし、上書きは成功したのか。

 安倍談話の文書作成に先だち、首相は16人の有識者から成る「21世紀構想懇談会」を組成し、その報告書が談話より前の8月6日に公表された。報告書は断定的な文言をもってこう記す。

 「日本は満州事変以後、大陸への侵略を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済的発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」。文中の「侵略」については複数の委員から次のような異議が唱えられたと注記されている。「(1)国際法上『侵略』の定義が定まっていないこと(2)歴史的に考察しても、満州事変以後を『侵略』と断定する事に異論があること(3)他国が同様の行為を実施していた中、日本の行為だけを『侵略』と断定することに抵抗がある」

 まっとうな異論である。注記で済ましていい話ではない。事実認識と歴史認識の根幹にかかわる異論である。ならば報告書があのように断定的な表現であっていいはずがない。談話作成に際して安倍首相は「自縄自縛」に陥ってしまったのではないか。

 ≪究明された事実を発信せよ≫

 談話では「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない」と述べた。自縄自縛から辛くも逃げたかの感があるが、よく読めば「もう二度と」とある。歴史をこんな言い逃れで弄ぶようなことはもうよしにしようではないか。

 戦争とは参戦国の錯綜する利害から成る多元連立方程式である。一国の行為のみを取り上げて糾弾できるほど単純な構図では描けない。万が一、往時の日本の戦争が侵略であったとしても「自存は単に国家の権利であるだけではなく、同時にその最高の義務であり、他のあらゆる義務はこの自存の権利および義務に隷属する」とパール判決書にはある。

 戦後70年が終わり、年も改まった。中国や韓国の理不尽な主張には、過去の条約を誠実に守るべきこと、真実は事実の中にのみ宿るという精神に立ち、究明された事実を粛々と発信することに徹しようではないか。南京虐殺の一大プロパガンダが始まっている。これに抗するには検証された事実をもってする以外にはないのだから。

1/12日経ビジネスオンライン 重村智計『「水爆実験」は、金正恩の訪中実現のため』、1/13日経電子版 中沢克二『“水爆” 毛沢東まねる金正恩氏、狙いは対米正常化』について

1/13日経には「オバマ米大統領は12日(日本時間13日)、議会の上下両院合同本会議で内政・外交の施政方針を包括的に示す一般教書演説をした。「米国民と同盟国を守るために必要であれば単独でも行動する」と明言した。4度目の核実験を強行した北朝鮮などを念頭に日韓両国など同盟国への脅威が差し迫った場合の米側の決意を示したものだ。」とありました。NPT体制が崩壊するのを恐れているのでしょう。国連の安全保障理事会も戦争を止めることはできません。ただ、北朝鮮には言えても、中国・ロシアに向かって本当にその通り行動するかは分かりません。ニュークリアシエアリングを米国と結べば良いのですが。ただ、そうすると平気で裏切る韓国も日本と同じということで強請るでしょう。朝鮮民族は本当に扱いにくいです。

今回の爆発は重村氏の言うように水爆ではないでしょう。確かに、米中が北朝鮮を甘やかし、何もしてこなかった咎めが出ています。時間の利益は核開発している北朝鮮にあります。中国が今回何もしなければ、味方に引き寄せて来た韓国が離れていく可能性もあります。THAADも配備されるかも知れません。習近平は内憂(権力闘争)外患(北朝鮮、米国による封じ込め)で苦境にあります。中国も金正恩のやる事は読めないのでは。これで自由主義陣営(日米+韓)の結束が固まり、中国には痛手になりました。

中沢氏の見方は驚きでした。世上、金正恩は金日成の真似をしていると伝えられているのに、毛沢東を真似ているとは。確かに両者とも徹底的に無慈悲です。独裁者の典型です。人の命を何とも思わないタイプです。習近平も毛沢東の真似をしていると言われていますが、流石に政敵の薄熙来や周永康を死刑にはしていません。その点で、張成沢を死刑にした金正恩の方が毛沢東の衣鉢を継ぐのに相応しいと言えるかも。人類にとっては不幸なことですが。習近平がどのように出るのか、本当に見物です。

重村記事

Korean student's demo against experiment of hydorogen bomb

北朝鮮の「水爆実験」に抗議して、韓国の学生がデモを行った(写真:AP/アフロ)

 北朝鮮が1月6日、「水爆実験」を行った。なぜ今、行ったのか。何のために行ったのか。本当に水爆なのか。盛んに議論されている。

 最初の2つの疑問には、来る5月に開催が予定されている、36年ぶりの朝鮮労働党大会が大きく関係している。党大会は、北朝鮮では歴史的な行事で、この成否が体制の行方を決める。金正恩第一書記の頭には現在、党大会の準備と成功しかない。そして、党大会を成功させるためには、金正恩第一書記の訪中と習近平国家主席との首脳会談が必須となる。これらを実現するための交渉ツールが今回の「水爆実験」だった。

年7000万円の国家予算では水爆は作れない

 まずは水爆だったのかどうかについてみよう。

 韓国の情報機関と専門家、米政府関係者は「(北朝鮮は)水爆が作れるほどの技術を持っていない」「爆発が小さすぎる、ブースト型核分裂爆弾ではないか」との疑問を示している。ブースト型核分裂弾は、水素爆弾ほどではないが、核爆発を拡大できる「水爆まがい」の技術だ。

 開発資金の面から見ても、北朝鮮が水爆を製造するのは難しい。水爆を製造するには1兆円を超える資金が必要と指摘される。北朝鮮の国家予算は、公式の為替レートを適用すると約7000万円程度しかない。

 水爆ではないという事実は、実は、北朝鮮の公式声明の中で明らかにされていた。政府声明は、次のように述べている。「我々は新しく開発された試験用水爆の技術的諸元(諸要素)が正確であることを完全に実証し、小型化された水爆の威力を科学的に証明した」。

 声明は「試験用水爆」との表現を使っており、今回の実験が「完成した水爆」ではなく「試験」段階でしかない事実を認めている。今回の核爆弾を、朝鮮語では「水爆」と表現することにする、というトリックを使ったわけだ。北朝鮮の技術者は正直なのか、あるいは「水爆でない」とバレるのを見越して、言い訳できる余地を残したのか。

 なぜ、こうしたトリックを使ってまで「水爆」と発表したのか。単なる「核爆発」では、国連安保理決議違反になり、国際社会の厳しい批判と新たな制裁を招くだけだ。米国や中国、日本と韓国が大きな衝撃を受けることはない。

 「水爆」と発表することでこれらの国々に衝撃を与え、中朝首脳会談を実現するとともに米国を対話に引き込む。恒例の「瀬戸際外交」を展開したわけだ。もしこの駆け引きに失敗しても、「水爆実験」ならば、指導者の「偉大な業績」として国内で宣伝することができる。

 さらに、関係者によると、新たな核実験を求める軍の意向に金正恩第一書記は逆らえない事情があるという。裏読みすると、金正恩第一書記は軍を完全には掌握できていないことになる。

党大会の成功には中朝首脳会談が必要

 北朝鮮は、1980年以来、労働党大会を一度も開催できていない。社会主義国としては、異常な事態だ。労働党大会は、最高意思決定機関である。当初の党規約は、5年に一度開催することを規定していた。

なぜ開催できなかったのか。その理由は明らかではないが、金正恩第一書記の父である金正日総書記の施政方針と関連していると見ることができる。金正日総書記は党の関与を弱体化させ軍主導の政治を行った。金正日時代は、軍が党を無視する事態が継続した。

 金正恩第一書記は、この軍事優先の政治を、労働党が優先する本来の権限行使状態に変えようとしている。だが、これを実現するのは容易なことではない。軍事優先のシステムは、20年も続いてきた。軍は多くの利権を獲得し、党の人事に関与した。これを党優先の政治システムに切り替えるには、党大会による決定がどうしても必要だ。

 一方、党大会を成功させるためには、食糧難の解消や国民生活の好転が必要となる。それには、金正恩第一書記が訪中し、習近平国家主席との中朝首脳会談を実現する必要がある。習近平国家主席が労働党大会に出席すれば、党大会は大成功となり、指導者の偉大な業績として評価される。

モランボン楽団のドタキャンも水爆が原因

 北朝鮮は「水爆実験」の当日、異例の報道を行った。国営朝鮮中央テレビが、「水爆実験」の命令書に金正恩第一書記が署名する様子を放映したのだ。昨年12月15日と今年1月3日の2回にわたり、同書記が命令書に署名したと明らかにした。

 北朝鮮が過去の核実験において、こうした経緯を明らかにしたことはない。この報道には、明らかに目的と意図があったと考えられる。北朝鮮の報道は、厳しく規制されている。宣伝工作の一環と位置づけられており、報道には隠れた真実がある。

 昨年12月の命令書は、今年5月の労働党大会に言及するとともに、わざわざ「2016年の壮大な除幕を爆音とともに行うことで、全世界が(北朝鮮)を仰ぎ見るようにせよ」に書いてあると伝えた。「水爆実験」と党大会が関連することの証の一つである。1月3日の命令書には、「党中央は水素爆弾実験を承認する。2016年1月6日に断行する」と金正恩第一書記が自筆で署名した。

 この報道で重要なのは、「12月15日」「1月3日」という日付である。北朝鮮が「水爆実験」を実施する原因は中国にあると述べていることになるからだ。

 実験に至る経緯は、次のようなものだった。まず、朝鮮中央放送が12月10日、「金正恩第一書記が、(北朝鮮は)核爆弾、水素爆弾の巨大な爆発音を響かせられる強大な核保有国となったと述べられた」と報じた。中国はこれに激怒した。核実験とミサイル発射を中止すれば、金正恩第一書記に訪中の招待状を送り、経済支援も再開すると北朝鮮に伝えていたからだ。

 実はこの日、金正恩お気に入りの女性音楽グループ「モランボン楽団」が北京入りしている。12日に公演する予定だった。各国メディアは、「中朝の関係改善の象徴」と報道した。ところが同楽団は、12日の朝に金正恩第一書記の命令で突然帰国。中朝関係が悪化していることが明らかになった。

 公演は、なぜドタキャンされたのか。北京に在住する北朝鮮関係者によると、公演には習近平国家主席ら最高幹部が出席すると期待された。ところが、水爆発言に怒った中国側が「指導部は出席できない」と伝えてきた。これを受けて金正恩第一書記は、同楽団に帰国を命じた。

 中国指導部はその後も、同書記の訪中に関する交渉に応じなかった。「党大会前に訪中し、偉大な成果を宣伝する」という金正恩第一書記の計画が、崩壊したわけだ。

 北朝鮮の労働党機関紙「労働新聞」は、金正恩第一書記が12月15日に水爆実験の命令書に署名をした後、12月17日と23日の2回にわたり、同第一書記による「水爆発言」を報道した。「このままでは、水爆実験をしますよ」と中国を脅し、譲歩を求めた様子がうかがえる。「水爆実験」の署名に関する報道は、この経過を示唆し、「責任は中国にある」と非難しているわけだ。中国は、なんとも子供じみた対応だと受け止めたことだろう。

 金正日時代にも、指導者お気に入りの楽団を訪中直前に派遣したことがあった。この時、中国の指導者は、公演に出席し、写真撮影をして歓待した。北朝鮮の外交関係者によると、金正恩第一書記はこの前例にならって中朝関係の改善を実現し、訪中を実現するつもりでいた。

米中の甘い対応が「成功体験」に

 金正恩第一書記は、指導者に就任して以来一度も中国を訪問していない。中朝首脳会談も実現していない。5月の党大会を盛り上げるためには、訪中と首脳会談がどうしても必要だ。首脳会談が実現すれば、中国から石油や食料などの大規模援助を期待することができる。党大会を成功させるには、この援助が必要だ。

 北朝鮮はこれまでの経験から、中国は核実験やミサイル発射に当初は反発するものの、やがては関係改善に応じると見ている。米国の大統領も、任期最後の年になると、北朝鮮問題で成果を上げようとして、対話に応じてきた。

 この「成功体験」が、北朝鮮を「水爆事件」に踏み切らせたわけだ。

 だが、金正日時代と現在では、中国と北朝鮮の国力に天と地ほどの差がある。北朝鮮の国内総生産(GDP)は最大でも3兆円しかないと韓国銀行は推測している。一方、中国のGDPは1300兆円を超える。この数字は、中国が決断すれば、北朝鮮の指導体制が弱体化し、やがて崩壊に向かう可能性を物語っている。

 金正恩第一書記はこの現実を理解できず、父親時代の感覚のまま「水爆もどき実験」を命令し、習近平国家主席の怒りを買った。金正恩第一書記は、中国と国際社会で尊敬されていない。歴史はいずれ、「水爆実験」が北朝鮮崩壊につながった、と記録するかもしれない。

中沢記事

ちょうど1年前、中国国家主席、習近平は北京の人民大会堂で、中国の「水爆の父」として有名な老科学者に国家最高科学技術賞を授与していた。水爆実験を実施した毛沢東時代には機密保持のため名前が伏せらていた于敏(89)である。そして、この1月11日、朝鮮中央通信は、北朝鮮の第1書記、金正恩が「水爆実験に寄与した」とする核科学者らを朝鮮労働党中央委員会庁舎に招き、記念撮影をしたと伝えた。

Mao ze dong's picture

毛沢東は文革中でも核開発などは着々と進めさせた

 「金正恩は中国の過去の道を同じようにたどるつもりだろう」

 「金正恩は毛沢東を意識している。毛は文化大革命(1966~76年)の動乱期でさえ核開発にこだわり続けた」

 中国と北朝鮮の動きを大陸でウオッチする関係者らの指摘だ。金正恩が毛沢東を戦略・戦術をまねている、と耳にすると、あの斬新な髪形まで毛を倣っているような気がしてくるから不思議だ。

 

■東京五輪中に中国が初の核実験

 約半世紀の隔たりがある中朝の核開発を振り返ってみよう。

中国
1964年 初の核実験 「核実験は世界平和の維持への巨大な貢献だ」
 67年 初の水爆実験 「中国核兵器の新たな飛躍。毛沢東思想の偉大な勝利だ」
 70年 初の衛星打ち上げ成功 「衛星は東方紅(毛沢東をたたえる歌)を放送している」
北朝鮮
2006年 初の核実験 「核実験は朝鮮半島と周辺地域の平和と安定の維持に貢献する」
09年 “衛星”と称するミサイル発射 「衛星から金日成将軍の歌、金正日将軍の歌が電送されている」
16年 1月6日 “水爆実験成功”と発表 「5千年の民族の歴史に特筆すべき大きな出来事が起き、天地を揺るがしている。水爆まで保有した核保有国の前列に堂々と立った」

 北朝鮮が水爆実験に本当に成功したかは別として、半世紀を経た両国の発表内容は驚くほど似る。中国は1964年10月、東京オリンピックの最中にあえて初の核実験に踏み切った。日本国内でも放射性物質が確認された。東京には各国要人、選手が集まっていたが、中華人民共和国は蚊帳の外だった。

 67年には水爆実験。1990年代まで中国が40回以上も実験を繰り返した場所は、スウェーデン生まれの地理学者、スヴェン・ヘディンが「さまよえる湖」の謎解明に取り組んだ新疆ウイグル自治区のロプノール周辺である。「楼蘭の美女」のミイラ発見でも知られるシルクロードの一角だ。

大阪で万国博覧会が開催中だった70年、中国は人工衛星を打ち上げた。中国内では衛星が発する「東方紅」の曲がラジオから流れ、北京はお祭り騒ぎに。中国の示威行為だった。中国は国際的に孤立していた。今、北朝鮮が置かれている環境に極めて似ていた。

■水爆実験5年後にニクソン訪中

 中国に核開発の力がなかった時代、毛沢東は、米国などの核兵器を「張り子の虎」と呼び、虚勢を張った。だが、朝鮮戦争(50~53年)などで現実的に米国による核攻撃の瀬戸際に立たされると、自らの核開発にまい進する。

 60年代には、文化大革命の混乱に関係なく、核開発計画だけは着々と動いていた。当時、中国では、将来を見据えた潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「巨浪1号」の開発も本格化した。

 毛沢東が喉から手が出るほど欲した「両弾一星」は、原爆、水爆と人工衛星(核運搬手段としてのミサイル技術)を指す。中国は70年までにいわば「三種の神器」を獲得し、対米交渉力を格段に強めた。密使となったキッシンジャーとの秘密交渉を経て、歴史的な米大統領、ニクソンの訪中が72年に実現する。中国の水爆実験の僅か5年後だった。

 中国は、対立していたソ連に対抗する手段として、当時は禁じ手と思えた米国と組む道を選んだ。続いて日本も中国と国交を正常化し、国際情勢は激変した。

 金正恩の狙いも対米交渉にある。その先には日本との国交正常化も見据えているだろう。とにかく危機をあおって米国の注意を引きつけ、最後は米朝交渉→国交正常化で現体制の保障を勝ち取りたい。金正恩にとって米軍のB52戦略爆撃機が核兵器を積んで韓国上空を飛んだり、日米韓の外交・安全保障上の結束が強まったりするのは、狙い通りかもしれない。

 そしてもう一つ。叔父まで粛清し、死刑としてしまった金正恩の恐るべき手法も毛沢東を想起させる。「大躍進」の失敗などで地位が揺らいだ毛沢東は、奪権のため国家主席だった劉少奇まで死に追いやった。

 毛沢東の文革的な方法で反腐敗運動を推し進める習近平でも、前最高指導部メンバーの周永康を無期懲役としたものの、死刑にはしていない。あくまで「ミニ文革」にとどまっている。現在の北朝鮮では、文革に似た事象が進行しているとの推測も成り立つ。

習近平にとっては、極めてやっかいだ。6日の核実験の衝撃で北朝鮮国境に近い中国東北部はかなり揺れ、地割れまで生じた。「(北)朝鮮で戦争が始まったのか……」。住民はおびえた。北朝鮮の核実験だと判明すると、今度は放射能被害への恐怖も広がる。

 中国には物資供給を止め、北朝鮮と手を切る選択肢もある。だが、それでは地域での影響力が低下するだけだ。それに北朝鮮は今でも形の上では“同盟国”だ。中朝友好協力相互援助条約(1961年)は破棄されていない。米中関係が南シナ海問題などで悪い今、北朝鮮カードを簡単には手放せない。その中国の弱みを金正恩は突いている。

■臆測広がる美女楽団公演ドタキャンとの関係

 北朝鮮発表によると、金正恩が“水爆実験”の実施を命じたのは、先に北朝鮮の美女らによる牡丹峰(モランボン)楽団が、北京公演をドタキャンして帰国した直後の12月15日だった。

Kim & Liu

金正恩氏の昨年の記録映画からカットされた中国序列5位の劉雲山氏(右、15年10月の平壌での軍事パレード、中国中央テレビの映像から)

 さらに1月10日、北朝鮮で放送された去年1年間の金正恩の活動をまとめた記録映画からは「中国との蜜月の証し」が消されていた。昨年10月、金正恩と手をつないで軍事パレードを参観した中国序列5位の劉雲山の姿がカットされたのだ。

 核実験だけはしないよう圧力をかけ続けた中国は当然、金正恩の挑発と受け止める。中国外務省スポークスマンも金正恩の誕生日である8日に中国が祝電を送ったかについて「知らない」と素っ気ない態度を示し、事実上、否定した。

 いざとなれば金正恩は「中国の1960年代の行動を見習っているだけ。自衛のためだ」と開き直ることもできる。自身の誕生日には、水中からのSLBMの発射映像も公開した。これも60年代からの中国のSLBM開発を意識しているかのようだ。中国は何もせず見ているのか。次の一手が見ものである。(敬称略)

1/8JBプレス 柯 隆『中国がなかなか退治できない毛沢東の亡霊 今なお聞こえる文革を賛美する声』について

中国・河南省・開封市・通許県の毛沢東の金像が撤去されました。造る方も造る方ですが、撤去する方も撤去する方です。中国には表現の自由がないことが、この1件で、1発で分かるでしょう。世界中の人がこのニュースを聞いてどう思うかです。中国には立派な法律は沢山できていますが、そのとおり運用された試しはありません。賄賂が物を言う世界ですので。PM2.5があれだけひどい状況になっても打つ手がないのは、法律を作っても誰も守らないからです。

確かに、毛沢東は大躍進時代、少なくとも2000万人の中国人を餓死させました。その後の文革でも知識人を迫害・粛清し、中国の発展に大きくマイナスとなることをしてきました。TVで「金像はネットで中国人からの大躍進・文革のことを批判されたから撤去」とか言っていましたが、嘘でしょう。そんな意見はすぐ削除されるハズです。でなければ天安門に掲げる毛沢東の肖像画も外すべきです。所詮、権力闘争の一部です。

でも柯隆氏のように日本にいる中国人は、自由な日本の中で、いろいろ調べた方が良いと思います。如何に中共が歴史を自分の都合よく、嘘で糊塗しているかが分かるはずです。ユネスコの南京虐殺の記憶遺産登録もロクに調べず1委員が認めたとのこと。多分買収したのでしょうけど。

http://www.sankei.com/politics/news/160110/plt1601100006-n1.html

因みに柯隆氏は南京生まれで大学も金陵科技学院です。金陵は南京の意味です。彼が南京虐殺に対してどういう立場を取っているかというと中国側の立場ですが。日本人だってひどいことをしたと思っている人の方が多いので仕方ありません。しかし、中国の出している資料は悉く東中野修道氏によって否定されています。挙証責任は中国にあり、証明されなければ日本は無罪で、中国はここでも歴史を改竄・捏造していることになります。中韓北と本当に碌でもありません。

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/column/opinion/201401/2014-1-4.html

ただ自由のない中国では、大陸に残した家族が人質になります。だから、なかなか本音は言えません。我が身だけでなく、家族の身も危うくしますので。毛の「百花斉放、百家争鳴」は見せかけで、後に反右派闘争の手段として使われます。それで身に染みて能力ある人間は文系の大学に行かず、理系で政治から遠去かっていました。90年代後半、小生が北京大の物理の教授と話した時も、大分話題に気を使いながら話していたのを覚えています。柯隆氏もこのような論文を発表すると、朱建栄のように中国大陸に拘留されるのではと心配になります。でも真実は真実、日本人が言うより、多くの中国人が言った方が、中国人は真剣に聞いてくれるでしょう。石平さん然り。古くは汪兆銘だっていた訳ですから。蒋介石が大陸を自分のものにしたかったから、汪兆銘と袂を分かち、英米に媚びた訳です。でも最終はスターリン、米国に裏切られ哀れな末路を辿りました。台湾国民にとっていい迷惑でしたが。

記事

Mao's portrait

中国・北京の毛沢東の肖像画(資料写真)

中国の旧暦では、まだ2016年になっていない。春節(旧正月)を迎えてはじめて新年になるのだ。

 中国人にとって2016年はどのような年になるのだろうか。この設問に答える前に、まず自分にとっての2015年を振り返っておきたい。

 これまでの1年間、筆者が集中的に読んだ本は、経済学の本に加えて中国の近現代史の本である。なぜなら、筆者が中国で受けた教育では、本当の歴史がまるで空白のようになっているからだ。

 大学受験の勉強では歴史的事件の背景や意義ばかり暗記させられ、歴史上の事実の多くは教わっていない。歴史とは国、民族と文化の歩みであり、学者による意義づけよりも事実そのもののほうが重要だと考えている。

 2016年は中国にとって、毛沢東(1893~1976年)が文化大革命(1966~76年)を発動してから50年目の節目の年にあたる。同時に、文革が終わってから40年になる重要な年である。今年はすべての中国人にとって、文革を検証し反省する年となる。そして、その後の鄧小平による「改革・開放」政策(1978年~)の始まりを記念すべき大事な年だといえよう。

2000万人以上を餓死させ中国文化を破壊した毛沢東

 中国では「国父」といえば毛沢東ではなく孫文(1866~1925年)である。しかし、毛沢東はそれ以上の存在感を放っている。今でも中国では、毛沢東は公式に批判できない存在だ。

 鄧小平が復権してから、共産党はいちど公式文献のなかで文革を否定する総括をしたが、その後、公の場で文革を発動した毛沢東の責任を追及することはタブーとなった。

 皮肉なことに鄧小平自身も文革の被害者である。北京大学に在学していた鄧小平の長男は、文革の最中に迫害を受けて学生寮の上層階から飛び降り、命こそ助かったが下半身不随となった。

 歴史的な事実を検証すると、毛沢東が犯したのは単なる過ちではなく、間違いなく犯罪であった。

 まず、反右派闘争(反体制狩り)において数百万人もの知識人と共産党幹部が迫害された。革命時に共に戦った同士の多くも迫害され、殺害された。自殺に追い込まれたものも少なくない。

 そして1950年代半ば、「英米に追いつき追い越す」ために毛沢東の鶴の一声で「大躍進」運動が繰り広げられた。農民が鉄鋼生産に動員された結果、農産物が収穫されず、59年から61年までの3年間、中国は大飢饉に見舞われた。公式の統計でもこの3年間において少なくとも2000万人が餓死したとされている。大飢饉で餓死した人数はもっと多いという人口学者や歴史学者もいる。

 中国共産党の公式文章では、この3年間の大飢饉は自然災害によるものとなっている。しかし気象記録によれば、この3年間に中国で大飢饉をもたらすほどの自然災害は起きていない。自然災害ではなく人災が大飢饉をもたらしたのである。

 大飢饉を招いた張本人は紛れもなく毛沢東本人である。しかし、毛は責任を負おうとはしなかった。党内で沸き起こった毛沢東への批判を封じ込めるため、文化大革命を発動した。

 その直接な狙いは一番の政敵だった劉少奇である。政治には権力闘争がつきものである。通常、権力闘争は権力者同士の争いである。しかし毛沢東は全国民を巻き込んだ権力闘争を繰り広げた。その結果、劉少奇と直接関係のない学校の先生や共産党幹部も多数迫害された。

 振り返ってみれば、文革のときに知識人や共産党幹部を迫害し、中国の歴史的な文化財を破壊し尽くした紅衛兵自身も実は被害者であった。彼らは貴重な青春時代を失い、若くして農村に下放された。元紅衛兵たちは、今、中国各界のリーダーとなっている。

歴史の逆戻りは許されない

 1つの民族や国にとって歴史は木の年輪のようなものである。年輪の形を変えることはできない。しかし中国の近現代史は政治的な必要性から大きく書き変えられている。

 歴代の中国指導者は「いかなる者も歴史を直視しなければならない」と訴えてきたが、なぜか学校教育のなかで教わる歴史は大きく歪んだものになっている。

 文革の始まりと終わりの節目となる重要な年に際して今の中国を観察すると、危機はまだ去っていないことが分かる。というのも、毛沢東が残した負の遺産が中国を不安定化させているからである。

 中国各界のリーダーの多くが元紅衛兵という現実から事態の深刻さが分かるはずだ。文革のときに青春期を過ごした者はまともな学校教育を受けておらず、まっとうな人格形成もなされていない。彼らは政治的必要性が認められれば、平気で人権など無視してしまう。

 文革の世代は法律を無視する世代でもあった。習近平国家主席は就任してから、法治の強化を繰り返して強調している。しかし中国では司法の強化が遅れている。法律が強化されても、法律が順守されていないのである。

 法の秩序が乱れる一番の原因は特権階級の存在にある。特権階級は法の訴追を免れることが多い。これは毛沢東時代から始まったものだ。逆に正規の裁判を経ずに政敵や“政治犯”などを投獄してしまうことも多い。

 2016年は習近平政権にとって、1期目の政権を安定させて2期目の政権構築の準備を行う過渡期にあたる。しかし、「毛沢東と文革」の負の遺産をきちんと清算しなければ、法による統治は強化されず、社会は安定しない。習近平国家主席がどれだけ汚職幹部の撲滅に取り組んでも徒労に終わるだけだ。

 近年、中国社会では、毛沢東の時代を評価し賛美する保守左派の動きが台頭している。これは中国社会の病根だといえよう。毛沢東を完全に否定しなければ政治改革は行われない。中国社会の不安定性は当面続くものと思われる。

柯 隆:富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。

1/10日経 伊奈久喜『オバマ氏を褒め殺しする』について

米国の「瓶の蓋」論(日本封じ込めの米中密約)が如何に愚かだったかです。対華21カ条条約(1915年)は密約部分(5号条項)をわざと中国が洩らしました。国際世論に日本の横暴さをイメージつけるためです。中国人は平気で約束を破ります。別に密約を破ったとして咎められるわけはありません。後は米国の態度の問題でしょう。尖閣は米軍自体が射爆場として使用していたことがあり、中国に領有権があればそんな行動は取れなかったはずです。台湾も領有権を主張していたので(今も国民党は主張していますが)、米軍が射爆場として使わなくなったときに、素直に日本領有とは言えなかっただけ。オバマもレガシー作りで尖閣の日本領有を明言して、大統領職を去ればよいと思います。

一昨日はグアム発でB-52機がソウル近郊の烏山(オサン)上空まで威圧飛行しました。北朝鮮だけでなく、中国に対して目に見える形での恫喝でしょう。本来、米軍原潜は日本海を遊弋している可能性が高く(軍事作戦上のことなので、当然公表するはずがありません)、わざわざグアムからB-52を飛ばす必要はないでしょう。また以前ブログでも書きましたが、キャプター型の機雷を朝鮮半島に沿って海底に敷設するだけで、海上封鎖と同じ効果が得られます。http://dwellerinkashiwa.net/?p=1983

ここでも米国の意思がどうであるかだけです。米国経済に中国経済は必要なのかどうか?中国の門戸開放を巡って日米は戦争しましたが(スターリンの謀略に乗せられたFDRが開戦したかっただけと小生は思っています)、安価な労働力でなくなった中国、AIIBを作り米国に金融面で挑戦する中国、自由・民主主義、法治、基本的人権のない中国に肩入れする必要があるのか聞きたい。米国要人に賄賂まがいの金を送っているので、そういう人(キッシンジャーやブレジンスキー)の意見は中国擁護でしょう。金を受け取っているかどうかを見分けるリトマス試験紙になります。

B-52

記事

Senkaku,Xi & Obama

2016年の世界が最も注目するニュースが11月8日の米大統領選挙であることは論をまたない。民主、共和両党の候補者がどんな組み合わせの対決になるにせよ、外交政策の焦点は、中東、ロシア、中国などだろう。

 このうち日本が最も深い関心を持つ対中政策には米政治に一種の公理めいたものがある。どの政権も選挙中は中国に厳しく、政権に就けば現実的対応に変わる点である。

 典型的だったのが01年に発足したブッシュ政権だった。選挙中は中国を「戦略的競争相手」と警戒し、政権末期の08年8月8日には、中国の人権状況に絡めた米国内の批判を承知で北京五輪開会式に参加した。

 例外はオバマ政権だった。08年の選挙中のオバマ氏は「中国も含めた包括的なアジア安保体制」を志向した。日米同盟の相対化であり、共和党のマケイン候補は日米同盟を「アジア外交の中核」に据えていた。

 中国に対しては「世界の課題解決により責任ある立場をとるべきだ」と、責任ある行動に期待する言い方をしていた。これらの政策の「対中融和度」を考えれば、70程度だったろうか。この点ですでにオバマ政権は異質であり、公理を覆していた。

 政権に就いてからも、中国が主張する新型大国関係論に反論せず、融和度は90以上になった。しかし15年10月27日、逆方向に再び公理を覆す。イージス艦「ラッセン」が南シナ海で中国が建設した人工島から12カイリの領海と主張する海域を航行した。融和度は40程度に落ちた。

 だが、日本の月刊誌が形成する外交論壇では懐疑的な意見が目立つ。「中央公論」の1月号(以下同じ)で外交評論家の佐藤優氏は、米艦は国際法で認められる無害通航をしただけであり、「なんらかの明示的、もしくは合意があったうえでの行動」と述べた。

 評論家の桜井よしこ氏も「正論」で「一番望ましい形の進入は、中国が、自分の領海だと主張している十二海里の海域に進んで、そこで軍事行動、軍事訓練をすること」とする。それがなかったから「既に負けている現状」と、厳しい。

 一方、「Voice」は、矢板明夫産経新聞北京総局長の「外洋拡張路線の挫折」を掲載した。副題には「米軍と爆撃機の派遣により傷ついた習主席の権威」とある。中国の敗北、米国の勝利との見立てだ。

 矢板氏の意図を離れ、これはオバマ大統領に対する褒め殺しになる。狙いは小欄でも何回かとりあげてきた尖閣諸島の領有権である。立場をとらないとする米国の態度を変更させ、日本領と認めさせるには、いまが好機であり、それにはオバマ氏に対する褒め殺しが効果的だからだ。

 1970年代初め、米国が尖閣領有権で立場をとらないとしたのは、北京政府ではなく、当時国交のあった台湾への配慮だった。15年の中台首脳会談をみれば、国民党はもはや北京に近い。国民党への配慮は無用である。

 では対中配慮か。融和度がすでに40まで下がっているとすれば、仮に尖閣問題で30に下がっても大差はない。冷戦時代の米ソ関係もそうだったが、2つの大国に世界を共同管理する意識がある時、直接衝突は寸止めで避けられてきた。

 尖閣でオバマ政権が日本の領有権を認めれば、日米間の不信のとげは抜け、対中抑止力も増す。中国は米国との軍事衝突を選べないから、米国は失うものはない。それはオバマ政権が歴史に残すレガシー(遺産)として輝く。

1/5日経ビジネスオンライン 上野泰也『トランプ躍進に見る米国人の「復活」願望』について

今週の注目は米大統領選ではなくて台湾総統選+立法委選でしょう。蔡英文の勝利は揺るがないでしょうし、立法委選でも民進党+時代力量で過半数は超えそうです。宮崎正弘氏のメルマガにもそうありました。中共に擦り寄る国民党では日米の信頼は得られませんし、台湾国民の支持も得られないでしょう。

http://melma.com/backnumber_45206_6311539/

本文中の「ミザリー・インデックス」を見れば米景気は悪くなく、それで年末にFRBも利上げしたと思います。では何故共和党でトランプ現象が起きているのか?本文の「エリート政治家に舵取りを任せてきた結果、米国では中間所得層が崩壊し、所得格差(貧富の差)が拡大している。」というのは違うのでは。富の分配がうまく行っていないのかもしれませんが。でも金持ちトランプがそれで支持率を上げているとは考えにくい。やはりオバマの無能にホトホト嫌気がさしているのだろうと思います。レーガンの「強いアメリカ」に戻ってほしいという気持ちの為せるわざでしょう。ただレーガンはスタッフの意見を良く聞く耳を持っていましたが、トランプはワンマンタイプで、大統領になれば躓きを起こすのではと思われます。やはりマルコ・ルビオが良いかと。ただ1/10日経にバーナンキ(共和党支持)がルビオの「大統領になったらイエレン氏の再選は認めない」の発言を受けてか、「共和党をずっと支持してきたが、最近は愛想が尽きた」と自伝で歎いたとありました。

前にブログでも書きましたが、ヒラリーは大統領になる前に、人間的にどうしようもありません。でも米国民が選ぶのでどうしようもありませんが。トランプが「女性大統領はいつの日か出て来るだろう。ただ、ヒラリーではない」との発言をTVで見ました。今回は『ガラスの天井』があればよいのにと思います。

1/5日経には「米のアジア系移民 学歴高く世帯収入多め

 テロの潜在的脅威の中で移民規制を唱える声も出るものの、欧州からの移民中心に建国された米国は依然としてその受け入れ大国であることに変わりはない。

rate of Asian people in US

 中でも存在感が高まるのがアジア系だ。米国勢調査局の推計では2014年の米国の総人口(約3億1800万人)に占めるアジア系移民の比率は5.4%。50年前の1965年には1%に満たなかったが、その年の改正移民法施行で出身国別の移民数の制限が撤廃されたのを機に急増した。

 総人口に占める人種別比率では白人(62.1%)、ヒスパニック(17.4%)、アフリカ系(13.2%)に次ぐ4番目の規模。ただしこれは累計で、新たに入ってくる数ではアジア系が最も勢いがある。米シンクタンクのピュー研究所によると年間移民数に占めるアジア系比率は2000年時点の19%から10年に36%へと高まり、ヒスパニック(31%)を5ポイント上回る。

 同研究所はアジア系の特徴を「学歴と世帯収入の高さ」と指摘する。25歳以上で大学の学位以上を持つ割合は10年時点で49%と全体の28%を上回る。平均世帯収入も6万6千ドル(約800万円)と全体の4万9800ドルより3割強多い。

 アジア系は働く人の半分が企業役員や弁護士、医師といった専門職やその関連職で、この比率も全体の40%より高い。タクーン・パニクガル氏のようなデザイナーは全体ではまだ珍しいが、分母となる人口が膨らんでいけば、今後は多方面で才能を開花させる人たちが増えるだろう。」とありました。

アジア系の移民が2000年以降増えてきているのが分かります。勤勉・優秀な人材が多いので、そういう結果になったのでしょう。将来の大統領選に影響を与えます。中韓は米国で反日活動を活発化してきています。国際社会にアピールするには米国の世論を味方につけるのが手っ取り早いからです。中国は人口が多く、マンパワーを持って世界進出の強みとしています。中国系米国人を大統領にして世界を牛耳ろうと考えていますので、注意していかないと。日本の外務省は土下座外交するしか能がありません。キチンと戦略を立てろと言っても無駄なのが悲しい。

記事

Carson & Trump

2015年12月15日、米国の大統領選で、共和党候補の指名争いを繰り広げる元神経外科医のベン・カーソン氏(左)と不動産王ドナルド・トランプ氏(右) (写真=AP/アフロ)

 米国の共和党大統領候補指名争いで、不動産王ドナルド・トランプ氏の独走状態が長く続いてきた。イスラム教徒の米国への入国を禁止すべきだという発言が物議をかもした後、トランプ氏の支持率はむしろ上昇。モンマス大学が昨年12月14日に発表した調査結果では共和党内での支持率が41%に達し、同党の候補者で初めて4割を超えた。経済問題ではなくテロに対する不安が米国民にとって現在は最大の関心事になっているのが原因だと説明されている。

 2位に付けたのは、草の根の保守派運動「ティーパーティー(茶会)」に加え、キリスト教右派にも支持を広げているテッド・クルーズ上院議員(14%)。3位はマルコ・ルビオ上院議員(10%)。ともに40歳代のクルーズ氏かルビオ氏のどちらかが最終的に共和党の指名争いで勝つだろうという見方が専門家の間では根強い。経歴詐称などが問題視された元神経外科医のベン・カーソン氏はこの調査では9%にとどまり、4位に沈んだ。

 米ワシントンポストとABCテレビが共同実施して昨年12月15日に結果を発表した世論調査では、トランプ氏の支持率が38%に上昇。クルーズ氏は15%で4位から2位に浮上した。

クルーズ氏とトランプ氏がデッドヒート

 もっとも、大統領候補指名争いの皮切りとなる党員集会が2月1日に開かれるアイオワ州では、クルーズ氏がトランプ氏とのデッドヒートを繰り広げている。アイオワ州の地元有力紙が昨年12月7~10日に実施した州内の世論調査では、クルーズ氏が31%の支持を集め、トランプ氏の21%を上回った。

 過去の事例から、アイオワ州やニューハンプシャー州といった序盤の戦いで勝利するかそれなりの健闘を示さないと、支持率が急速に下がって、選挙戦からの撤退を余儀なくされる可能性がある。

 筆者を含む多くの日本人にとり、まさに予想外の「トランプ現象」。市場関係者の間では「トランプ・リスク」がささやかれ始めている。過激な発言で知られるトランプ氏が核のボタンを握ることになるようだと何が起こるのか予想がつかないというわけだ。

 では、型破りの発言を連発するトランプ氏を少なからぬ米国人が支持しているのはなぜだろうか。

多数説は、エスタブリッシュメントと呼ばれる伝統的エリート層による米国の政治支配への失望や強い不満がトランプ氏支持の原動力になっているという見方である。エリート政治家に舵取りを任せてきた結果、米国では中間所得層が崩壊し、所得格差(貧富の差)が拡大している。

 テロや銃撃事件への恐怖も以前より強まっている。そこで、これまでとは違う考え方・出自の人に政治を任せてみてはどうかというムードが広がっているのだという。トランプ氏の歯に衣着せぬ大胆な発言は人々のうっ積した不満のはけ口にもなっているようである。

 だが、本当にそれだけだろうか。筆者は、オバマ政権下で何度も明らかになった国際社会における米国の力や威信の低下に強い不満を抱いた米国人が、「強いアメリカ」復活願望を抱いてトランプ氏に期待している面が、少なからずあるのではないかとみている。

 1980年代に映画俳優出身のロナルド・レーガン氏が共和党から出馬して当選し、大統領を2期務めた。その1期目の前半にヨーロッパを長期フリー旅行していた際、たまたま出会った米国人の女子学生と語り合ったことがある。

 詳しい内容は忘れてしまったが、景気悪化に加えてイラン米大使館人質事件への対応(救出作戦)に失敗した民主党の前大統領カーター氏を徹底的にけなした上で、レーガン大統領の話になると彼女が目を輝かせながら「強いアメリカ」に絶対必要な人物だと熱弁していたことを、今でも記憶している。

本当に国を任せたらかなり危なっかしいが…

 トランプ氏はテレビの人気番組「アプレンティス」で、課題をこなせなかった脱落者に対する「おまえはクビだ!(You’re fired!)」という決めゼリフで人気を集めた人でもある。銃を手にして西部劇映画で活躍した俳優出身のレーガン氏に対する米国民の30数年前の心情と同じようなものが、今回はトランプ氏に寄せられているのではないか。

 昨年12月14日、シリアからの難民受け入れに対してトランプ氏は反対を改めて表明し、自分が大統領になれば「彼らは(シリアに)帰ることになる」と発言。パリ同時テロ事件で犠牲者が拡大したのはフランスの厳しい銃規制のためだという持論も展開した。

 もっとも、内政・外交の両面で経験がまったくないトランプ氏に米国という大国の先行きを本当に委ねることができるかどうかとなると、よく言えば未知数、悪く言えばかなり危なっかしいと言わざるを得ない。

 トランプ氏は、東部ウクライナの親ロシア派による分離運動を支援して国際社会から非難されたロシアのプーチン大統領とは、どうやら緊密な関係を築けそうである。プーチン大統領は昨年12月17日の記者会見で「トランプ氏には花があり、才能があることに疑問の余地はない」「ロシアとの関係を深めたいと(同氏は)発言しており、われわれはもちろん歓迎する」と述べた。

 これに対しトランプ氏は、「内外で尊敬されている人物からこうした賞賛を受けるのは常に大変な名誉だ」「米ロがもっと協力すればテロを根絶でき、世界平和を再構築することができると常に感じている。貿易のみならず、あらゆる恩恵が相互の信頼関係からもたらされる」と返答した。

 ソ連を「悪の帝国」と呼んで強硬姿勢をとったレーガン大統領は1980年代後半になると、重い軍事費負担や計画経済の行き詰まりから経済的に疲弊したソ連のゴルバチョフ書記長との間で、東西冷戦の終結に向けた動きを積極的に推し進めた。仮にトランプ氏が米国の大統領になれば、米ロ関係の改善が進む可能性は確かに高いだろう。米国が方針を転換してアサド政権の存続を認める形で、シリア問題の「交通整理」も進むと予想される。

レーガン時代と比べると

 だが、いまの世界情勢は、レーガン政権の頃とはだいぶ異なっている。中国の影響力が格段に大きくなったことに加え、欧州では統合の動きが進んだ。中東ではイスラム国家やイスラム組織の動向が重要になっており、米ロ2国だけで世界秩序をいかようにもできるわけではない。そうした中でトランプ氏が米国の外交をうまく操ることができるかどうか。筆者は懐疑的である。

 経済問題でも、トランプ氏の主張には危うさがつきまとう。日米などがTPP(環太平洋経済連携協定)で大筋合意に達した昨年10月5日、トランプ氏は「現政権の能力のなさは理解を超えている。TPPはひどい協定だ」と批判。11月10日のテレビ討論会では「恐ろしい合意だ」「承認されれば雇用がますます失われる」「私は自由貿易主義者だが、交渉には頭のいい人があたらなければならない。今の米政府には頭のいい人がいない」と述べた。だが、仮にTPPが再交渉となれば各国の利害が再び噴出することになり、まとめ上げるのは至難の業だろう。

 為替相場についてトランプ氏は、「ドルの競争力が弱い」ことを問題視する立場をとっている。「中国や日本など他の多くの国の通貨切り下げによって、米国の企業がわたりあっていくことが不可能になっている」と述べ、中国や日本の通貨下落を非難した。

 その一方で、FRB(連邦準備理事会)が利上げに動かないことについて、昨年12月の利上げ開始よりも前の11月上旬の時点で、「オバマ大統領が利上げをしないよう要請しているからだ」「オバマ大統領は在職中にバブル崩壊を目の当たりにしたくないためイエレンFRB議長に利上げしないよう要請した」という、明らかに根拠のない発言をした。

 12月19日のアイオワ州での集会では、「バブルが崩壊するなら、次の政権が発足してから2カ月後ではなく、今起きればいいと思う」「今はとんでもないバブルの状態かもしれない。もしそのバブルが崩壊すればやっかいだ」と、他人事のように述べていた。もしトランプ氏が本当に大統領になるようなら、崩壊の前か後かにかかわらず、バブルへの最善の対応策をとっていかなければならないのだが…。

 だが実際には、オバマ大統領が再選を果たした前回2012年の大統領選と同様に、内輪の争いの中で共和党は消耗してしまい、幅広い米国民の支持を得られる候補者を出せないという「負けパターン」に陥りつつあるように見える。今回の大統領選では民主党のヒラリー・クリントン氏が勝利するだろうというのが、筆者の予想である。

 ちなみに、大統領選(特に現職が再選を狙うケース)でその行方を占う際に注目される「悲惨指数(ミザリー・インデックス)」、すなわち失業率と消費者物価上昇率(前年同月比)を足した数字は、2015年11月時点で5.0+0.5=5.5という歴史的な低さである<図>。12月の数字は未発表だが、各年の12月の数字を遡ると1955年(4.6)以来の低水準になる。翌56年の大統領選挙ではアイゼンハワー大統領(共和)が再選を果たした。

■図:米国の「悲惨指数(ミザリー・インデックス)」

misery index

注:各年12月のデータのみ表示。ただし15年は11月のデータ(出所:米労働省資料より筆者作成)

 むろん、既に述べたように雇用の数は増えても賃金の伸びが鈍く、中間所得層が崩壊しつつあるという米国経済の厳しい実情も常に指摘されるのだが、このインデックスで見る限り、オバマ大統領と同じ民主党のクリントン氏には経済状況という面からも追い風が吹いていると言える。