鈴置氏の「韓国が米国側に戻るかどうか」についての見立ては懐疑的という所でしょうか。韓国は核武装中立を考えているようですが、米中露とも認めないでしょう。北朝鮮の暴れん坊の扱いでも苦労しているのに、同じく火病を持った民族ではいつ暴発されるか分からない恐怖を持っているでしょう。
韓国は日清戦争前の事大主義を遺憾なく発揮しています。日清露から米中に変わっただけ。蝙蝠人間が信頼されることがないようにこの民族を誰も信用はしないでしょう。韓国の米軍基地にTHAADの配備も日本とのGSOMIA締結も機密情報が中国に筒抜けになる恐れがあるから止めた方が良いと思います。
(1/22朝日新聞には「韓国、日米のミサイル防衛に事実上参加へ 中国は反発か」という記事がありましたが。
http://www.asahi.com/articles/ASJ1Q2RGZJ1QUHBI007.html)
中国の手に乗って、在韓米軍の撤退があるかですが、朝鮮戦争で5万人の米兵が亡くなったことを考えると、「ない」のではと思います。沖縄米軍基地は太平洋戦争(大東亜戦争の一部で地理的概念)の戦利品と米海軍は考えています。また日本も日清・日露戦争での戦死者は約10万人で、米国の中国の門戸開放要求を蹴って太平洋戦争を招来したのは「英霊に申し訳ない」という思いがあったのも理由の一つでしょう。韓国政府の出方ひとつです。ヤクザと同じやり方をする民族でしつこいですが、米国が恫喝すればおとなしくなるでしょう。米国は日本のようには甘くありません。韓国経済を干し上げ、韓国企業の完全米国化を進め、いう事を聞く大統領に首を挿げ替えるかもしれません。鼠男潘基文辺りが最適かも。
記事
朴槿恵(パク・クンヘ)政権の親中路線が韓国メディアの批判に直面した。米国の制止を振り切って接近したのに、中国は北朝鮮の核実験を阻止してくれなかったからだ。直前には、米国の外圧により日本との「慰安婦合意」をのまされてもいる。果たして韓国は米国側に戻るのか――。
ホットラインは無用の長物
—1月6日の北朝鮮の4回目の核実験の後、韓国の保守系紙が朴槿恵政権の「親中外交」を一斉に批判したそうですが。
鈴置:ええ、大手3紙が1月12日に声を合わせて――合唱といった感じで批判しました。最大手の朝鮮日報は「虚構であることが露見した『歴代最高の韓中関係』 誰が責任をとるのか」(韓国語版)という見出しの社説を載せました。要旨は以下です。
- 核実験の直後、中国と共同対応を取るため韓国は国防相による電話会談を要請したが、1月11日になっても何の回答もない。昨年末に開通し、決定的瞬間に効果を発揮するはずのホットラインが、いざ必要な時に無用の長物になっていたのだ。
- 首脳同士の電話会談もまだ行われていない。中国の態度は、外交関係の常識に大きく反すると言わざるを得ない。
- 昨年9月、朴大統領は欧米諸国から冷たい視線を浴びながらも中国で行われた抗日戦勝70周年記念式典に出席、韓中関係は大きく好転し関係も深まるかと思われた。しかし今回、それは完全に無に帰した。
- 尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は昨年7月、韓中関係は「史上最高」と語り「米国と中国の双方からラブコールを受けるのは祝福だ」とも発言した。ところが危機的状況に直面すると、韓中間には越えられない大きな壁があることが判明した。外交の責任者が自慢げに語った言葉が、数カ月後には虚しい戯言になってしまった。
- 朴槿恵政権が取り続けてきた中国重視政策の影響で、同盟国である米国からも韓国の中国傾斜を懸念する声が出始めている。北朝鮮による核実験という決定的瞬間に中国がその本心をさらけ出した今、我々は対日外交に続き対中戦略についても方針の見直しを迫られている。
- このままでは国としての誇りを持ち続けることも、国民に「政府は外交によって国益をもたらしている」という信頼を持たせることもできない。
- 外交政策担当者の失敗によるものであるなら、今すぐ担当者を交代させ、新たな戦略と方針を定めねばならない。大統領の間違った指針が今の状況を招いたのなら、大統領自らすぐにでも国民に説明すべきだ。
核実験前から「米国回帰論」
—「あれだけ中国に忠義を尽くしたのに、肝心な時に助けてもらえなかった」との憤りですね。
鈴置:その通りです。1月12日の他の保守系紙の社説――中央日報の「米中からラブコールを受けているという韓国外交の実情」(日本語版)も、東亜日報の「北朝鮮の4度目の核実験を受けて朴大統領に問いたいこと」(同)も、そこを突いています。
そして「中央」も「東亜」も「朝鮮」と同様に尹炳世外相の「ラブコール発言」を批判的に引用し、朴槿恵政権の親中外交が破綻したと厳しく指弾しました。
ただ見落としてはならないのは、北の核実験の前から韓国では「親中外交」への批判が高まっていたことです。
朝鮮日報の元日の大型社説「新たな政治のリーダーシップで国に活気を取り戻そう」(韓国語版)は明確に「米国への回帰」を訴えました。外交部分を訳します。
我々は米日同盟と中国の駆け引きの圧力の下で昨年1年間を送った。周辺大国の間の角逐は、半島北部で急変事態が起きたり力の空白が生じた時、すぐさま我々の生存の問題につながるだろう。
警戒すべきは短期的な現象の変化を長期的な趨勢と誤解して、安全保障の座標軸を性急に調整することだ。昨年9月の朴槿恵大統領の抗日式典への参加は、韓中関係を新たな次元へと発展させたが、韓米同盟には少なからぬ負担をもたらした。
これを機にワシントンに拡散した「韓国の中国傾斜論」は、今年11月の米大統領選の行方によっては、韓米両国の争点や懸案に浮上する。韓米同盟を強化し、中・日対立の影響が半島に及ぶことを遮断すべきだ。
中国が覇権を握ると勘違い
—なるほど、核実験前から「米国への回帰」が訴えられていたのですね。なぜでしょうか。
鈴置:まずは、経済的な力関係が中国から米国に再び傾く――との認識が広まったためです。中国からの資本逃避が、2015年夏以降、激しくなっています。経済がおかしくなり始めた証拠です。半面、米国経済の復活を象徴する利上げが同年末に始まりました。
2008年のリーマンショックを見て韓国人は「米国の時代は終わった。これからは中国だ」と信じました。ことに2013年2月にスタートした朴槿恵政権は、露骨な「離米従中」外交を展開しました。
しかしそれは大きな見込み違い。慌てた韓国紙は「中国の天下になるとの判断は早過ぎた」と外交の軌道修正を要求しているのです。
先に引用した朝鮮日報の元日の社説の「警戒すべきは短期的な現象の変化を長期的な趨勢と誤解して、安全保障の座標軸を性急に調整することだ」とのくだり。中国が覇権を握ると考え「離米従中」した朴槿恵政権の勘違いを率直に指摘した部分です。
中国シフトを唱えていた大記者たち
—でも、朝鮮日報こそが「短期的な現象の変化を長期的な趨勢と誤解していた」のではありませんか?
鈴置:全くその通りです。朴槿恵政権がスタートした時に、金大中(キム・デジュン)顧問のコラム「“二股外交”」(2013年4月1日)を載せ、中国寄り外交を先頭に立って訴えたのは朝鮮日報なのですから(「保守派も『米中二股外交』を唱え始めた韓国」参照)。
中央日報も金永煕(キム・ヨンヒ)国際問題担当大記者が「中国包囲戦略への参加を警戒する」(2012年6月22日、韓国語版)を書き、当時の李明博(イ・ミョンバク)政権を「米国と近過ぎて中国との関係が悪化する」と批判していたのです。
韓国紙は主張の一貫性にこだわらない――はっきり言えば、都合が悪くなると自分で書いた記事をきれいさっぱりと忘れ「掌返し」をして他人を非難するのが普通です。
でも、今回のそれはあまりにひどい。親中外交を批判する記事を朴槿恵大統領が読んだら「親中路線は朝鮮日報や中央日報が要求したものではないか」と怒り出すことでしょう。
朝鮮日報を揶揄した韓国経済新聞
日刊紙では珍しく、朴槿恵政権下でも親米路線を掲げてきた韓国経済新聞が、朝鮮日報などの変節ぶりを揶揄しています。
1月12日夕刻にネット版に載せた社説「中国問題を巡るあまりに軽い世論のバイアス」です。12日付の朝刊各紙の「親中批判」社説を受けて書かれたものと思われます。
- 中国を見る世論のブレがあまりに激しい。米国で「韓国の中国傾斜論」が巻き起こっていた時に、大統領が抗日式典に参加したのも論議を呼んだ。
- 当時は朴大統領が訪中すべきとの意見が多かった。一部のマスメディアもそそのかした。オピニオンリーダーも同調した。
- 人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)通貨になると「人民元崛起(くっき)」とか、人民元が基軸通貨になったことを祝う論調の記事と論評が溢れた。
- 人民元は今や、不透明な為替の決定方式と人為的な切り下げに対する疑問により、世界の金融市場でパニックを起こしている。
- 中国問題をあまりに軽く考えたということだ。ブレの激しい世論では、正しい外交路線を歩むことはできない。
「人民元の崛起」を礼賛
—厳しいメディア批判ですね。
鈴置:確かに、人民元がSDRの基準通貨の1つに選ばれることが決まった際、韓国紙は一斉に「中国の金融崛起」と褒めそやしました。
例えば朝鮮日報の「人民元の崛起……ドルの覇権に挑戦」(2015年11月16日、韓国語版)です。
それが2カ月も経たないうちに人民元を「世界のトラブルメーカー」扱いするようになったのです。
もっとも韓国経済新聞だって2015年12月29日には「人民元の地位向上でAIIBに翼……中国の『金融崛起」加速」(韓国語版)との見出しで、人民元と中国経済を称賛する記事を載せていたのですが……。
—要は最近、はっきりして来た中国経済の不調が韓国紙の「親中外交批判」を呼んだということですね。
鈴置:そして、もう1つの理由が「離米従中する韓国」に対する米国の怒りです。2015年12月28日、日韓両国政府は「慰安婦」で合意しました。韓国人はここに米国の強い怒りをかぎ取ったのです。以下は、韓国のある識者の解説です。
「慰安婦カード」を取り上げられた
「慰安婦合意」の直後、韓国人は外交的な勝利と考えた。「アベは絶対に謝罪しない。日本にはその必要がないからだ」と諦めていたのに、意外にも、安倍晋三首相が謝ったためだ。
ただ状況を子細に見るに連れ、韓国人は「我々が負けた」と思い始めた。合意に含まれる「財団」を作るには、元慰安婦や支援団体を韓国政府が説得して「合意」を認めてもらう必要がある。しかし支援団体は日本に対し強硬姿勢をとっており、説得は困難だ。
韓国政府は在韓日本大使館前に設置された慰安婦像の移転問題も「努力する」と日本に約束してしまっている。これも多くの国民が反対しているから容易ではない。
もし、いずれをも実現しないと「韓国が日韓合意を反故にした」と米国から見なされてしまう。合意はそもそもオバマ大統領をはじめ米政府高官が執拗に求めていたものだった。合意直後にケリー(John F. Kerry)国務長官がすかさず「歓迎」を表明したのも、米国が事実上の「保証人」であることを示す。
それに、安倍首相が元慰安婦に直接会って謝るのかと思っていたら、岸田外相が謝罪を代読して終わりだった。
これだけ韓国側に不利な条件を朴槿恵大統領がのんだのは、米国の強力な圧迫があったからに違いない。「慰安婦カード」はもう使うな、と米国が怒り出したのだ――と少しモノを考える韓国人は気づいた。
米国の怒りにようやく気づいた韓国
—朴槿恵政権にとって今回の合意は自殺行為になりかねないのですね。
鈴置:2つの意味でそうなのです。まず、元慰安婦や支援団体を敵に回す内政上のリスク。左派や普通の人からも格好の攻撃目標になります――というかもう、なっています。
もう1つは「日本が慰安婦で韓国の言うことを聞かないから日―米―韓の3国軍事協力はできない」との、米国向けの言い訳を失ってしまう外交上の問題です。
この「慰安婦カード」こそは「離米従中」という、相当に無理筋の外交を成立させる武器だったのです。実際、日韓合意の後、米国やその意向を受けた日本は「さあ、日韓の間の懸案は片付いた。日―米―韓の3国軍事協力を進めよう」と言い出しています。
—韓国紙もようやく、米国の怒りの大きさに気づいたのですね。
鈴置:「離米従通」に対し、米国は相当に苛立ちを強めていました。朴槿恵大統領が2015年10月に訪米した際には、オバマ大統領は記者団の前で「米中どちらの味方なのか」と厳しく問い詰めました(「蟻地獄の中でもがく韓国」参照)。
朴槿恵政権は平静を装っていましたが、外交に詳しい韓国の識者は「オバマの難詰」「米国の最後通牒」と縮み上がりました(「日本を『一撃』できる国になりたい」参照)。
そこに中国経済の失速と「慰安婦圧力」が加わって一気に「親中批判」が保守系紙で盛り上がった、ということでしょう。
「中国の尻馬」にしがみつかざるを得ない
—では、朴槿恵政権は「親中」というか「従中」をやめ、米国側に戻るのでしょうか?
鈴置:それが微妙なのです。容易には戻れない理由が2つあります。まず「米国頼りで北の核問題を解決できるか」との疑問です。確かに米国の力なしでは北に圧力をかけられないし、北の軍事的な脅威も防げない。
ただ、米国がどこまで本気で核問題を解決する意思があるかは分からないのです。北朝鮮が核兵器を輸出さえしなければ、その核保有を認めてしまうかもしれない。
もう1つは中国要因です。米国側に戻ることで中国との関係を悪化させたら、中国の対北圧力を期待できなくなります。
中国だけが北朝鮮に実効ある経済制裁をかけられることを考えると、韓国は安易に「米国回帰」には動きにくい(「やはり、韓国は核武装を言い出した」参照)。
この辺の苦しい事情は中国だって見抜いています。韓国が米国側に戻る素振りを見せれば「勝手にしろ。米国に頼んで解決してもらえばいいだろう」と韓国を脅すでしょう。
—なるほど。「離米従中」路線の修正は簡単ではないのですね。
鈴置:ええ、韓国は「中国の尻馬」にしがみつかざるを得ないのです。次回、その辺をじっくりと読み解きます。
(次回に続く)
(前回から読む)
日本との「従軍慰安婦」合意と北朝鮮の核実験。2015年末から2016年初めにかけて起きた2つの動きは、韓国を米国側に引き戻すのか、逆に中国側に押しやるのか――。
オバマは「世間の笑いモノ」
—前回は、韓国の保守系紙が「親中外交をやめて米国側に戻ろう」と言い出した、との話でした。そして「だが、米国回帰は容易ではない」とのことでしたが……。
鈴置:韓国が米国側に素直に戻れない最大の理由は、米国に対する不信です。北朝鮮の4回目の核実験の翌日の韓国各紙の社説や論評には「オバマ大統領の失敗」という単語が溢れました。
中央日報の金永煕(キム・ヨンヒ)国際問題担当大記者のコラム「金正恩『水爆奇襲』…米国に核対話圧力」(1月7日、日本語版)は「世間の笑いモノ」とまで書きました。以下です。
- 「戦略的忍耐」と呼ばれたオバマ政権の対北朝鮮政策は失敗を越えて世間の笑い話になった。
「戦略的忍耐」と称し、何もしなかった。これが北の核開発につながった――とのオバマ政権への非難です。そして、金永煕大記者は以下のように主張したのです。
- 韓日米三角同盟の誘惑だけに陥ってはいけない。北朝鮮が核兵器を放棄しないのは韓国と米国が暗黙的に認めている。韓日米は3カ国同盟より国際協調で核モラトリアム(凍結)を誘導し、北朝鮮の非核化を成功させなければいけない。
北朝鮮が核実験をすれば当然、韓国人は米国の軍事的バックアップが欲しくなる。ことに2015年12月28日に日本と「慰安婦合意」をした直後です。「日米韓」安保協力の声が、米国や日本からだけではなく韓国の保守からもあがりました。
でも、金永煕大記者は「国際協調で」――つまり、中国を頼りに解決しようと訴えたのです。軍事力を行使するつもりがない限り、北と深い経済的なつながりを持つ中国を頼りにするほかはない。
ことに、中国は「日米韓」安保協力を中国包囲網と見なしている。3カ国同盟などを振りかざせば、中国にそっぽを向かれてしまう――との判断でしょう。
漂う手詰まり感
—それにしてもオバマ大統領に厳しいですね。
鈴置:韓国紙が書いているだけではありません。米国の保守もオバマ大統領の“弱腰”に批判的です。穏健とされる日経新聞だって、1月8日朝刊の北朝鮮核実験を解説した記事の主見出しは「オバマ外交が危機招く」でした。
その記事の他の見出しは「『不安定の芽』を放置」「漂う手詰まり感」。本文も「『米国は世界の警察官ではない』と開き直っている」と指摘し、オバマ大統領のやる気の無さが「北の核」を許したと評しています。
朝鮮日報は1月7日の社説「米中にも解決が難しい北の核、国と国民を守る非常措置をとらねばならない」(韓国語版)で「核武装を議論しよう」と主張しました。理由として、やはりオバマ政権の「やる気の無さ」を挙げています。
- 北朝鮮の核は大韓民国の存亡をかける最上級の懸案だ。だが、オバマ政権は解決の意思を失った状態だ。
「B52ショー」には騙されない
—なるほど。だから核を持とう、と朝鮮日報は社説で主張するに至ったのですね。
鈴置:その朝鮮日報に、驚くべき記事が載りました。核武装を訴えてきた楊相勲(ヤン・サンフン)論説主幹が1月14日に載せた「米国も『北に核が存在するという現状の維持』に向かっている」(韓国語版)です。以下は記事の冒頭に掲げられた要約です。
- 米国の「戦略的忍耐」は、北の核が(自身への)直接の脅威ではないとの認識が基盤にある。
- 北がもう1度核実験しても、米国は「B52ショー」を見せて韓国をなだめるだけだろう。
米国は1月10日、グアムからB52を発進、韓国の領空を低空飛行させました。もちろん北朝鮮へのけん制が狙いで、聯合ニュースは「このB52は核を搭載していた」と報じました。
しかし楊相勲主幹はB52の飛行を、韓国人をなだめるためのショーに過ぎないと決めつけたのです。背景には、米国にとって北の核はたいした脅威ではない。だから米国は本気で北の核を抑え込もうとしてこなかった――との醒めた認識があります。
北の核を黙認する米中
—そこで楊相勲主幹は「核を持とう」と訴えた……。
鈴置:ただ、今回の記事では「韓国の核武装論」は北の核解決に向けた米中への圧力にならず、両大国は北の核を黙認する、と悲観的な見方を披歴しています。関連部分を翻訳します。
- 1971年、ニクソン大統領は毛沢東主席と会い「南北双方のコリアンが再び問題を起こし、我々が困るようなことになってはならない」と語った。以来、米中は仮に競争・葛藤を繰り広げてもこの原則を違えることはなかった。
- 韓国の一角にある「核武装論」は、こんな米国に対する誤解を基にしている。「我々も核武装しよう」と言えば、米中が(北朝鮮の核問題の解決に向け)動く――というのは希望的観測に過ぎない。米中は我々の本心を見抜いている。
- 我々の望みとは異なって現実は「北に核が存在するという現状の維持」に向かっている。「北の核実験に驚かなかった」という国民が、「驚いた」人の2倍に達したという不感症さも、「北に核が存在するという現状の維持」の一部分だ。
「衝動的な朝鮮人」
なお、ニクソン大統領が毛沢東主席と初めて会ったのは1972年です。引用された発言も周恩来首相に対してのものです。
原文は「Nixon’s Trip to China」の「Document 2」の17ページに出てきます。日本語では『ニクソン訪中機密会談録』の100ページで読めます。以下です。
- 朝鮮人は、北も南も感情的に衝動的な(emotionally impulsive)人たちです。私たちは、この衝動と闘争的態度が私たち(米中)両国を困らせるような事件を引き起こさないよう影響力を行使することが大切です。
楊相勲主幹は韓国人読者が怒り出さないように、やんわりと書いていますが、はっきりと書けば、以下になるでしょう。
- 米中は韓国・朝鮮人を感情的で度し難い民族と見ている。だから「南北双方に核を持たせれば、核戦争が起きかねない」と考え、現状維持――つまり北の核だけを認めるだろう。
半島は米中で共同管理
—北の核だけ認めれば不均衡が生じませんか?
鈴置:北の核に対しては米国の核と中国の対北圧力でバランスをとればいい、との発想でしょう。韓国人は不満でしょうが。
『ニクソン訪中機密会談録』の表現を借りれば、感情的で衝動的な人たちだから、南北に核均衡を作らせるのは難しいし、危険だ。それなら米中が協力して朝鮮半島を管理した方がよい――との判断です。
—楊相勲主幹は韓国の核武装論を先導してきました(「一歩踏み出した韓国の核武装論」参照)。なぜ急に弱気になったのでしょうか。
一歩踏み出した韓国の核武装論
鈴置:いざ、北の4回目の核実験に直面しても、米中は責任をなすり合うだけで本気になって北の核の除去に動かない。この現実をまざまざと見たからと思います。
本人はともかくも、韓国の核武装論者の多くが「口だけ」であることを米中に見抜かれてしまった――と見てもいるのでしょう。いずれにせよ、これに続くくだりに驚かされるのです。
米中が「北に核が存在するという現状の維持」に向かうのなら、我々も現状を揺るがす方策をとらねばならない。北の核賭博ほどに現状を打破するものでなければ、それは意味がない。
韓国の核武装論が口先だけではないとの事実を見せるか、あるいは北が要求している在韓米軍撤収と北の核廃棄を取引するような、国家戦略の大転換を始めるか、何かをせねばならない。
核廃棄と引き換えに米軍撤収
—在韓米軍撤収ですか!
鈴置:そこなのです。いくら「北の核廃棄」と引き換えとはいえ、韓国の保守本流中の本流の言論人が「在韓米軍撤収」に言及したのです。
核武装論は米中から無視されそうだ。だったらそれよりも実現性の高い「在韓米軍撤収論」をもぶち上げ、米中の「現状維持」に向けた談合を破壊しよう――との狙いです。
ただこれは、北朝鮮の核を振りかざしての要求を受け入れることを意味します。米韓同盟の破棄につながっていく可能性もあります。相当な「劇薬」です。
ポイントは、主張したのが保守層に大きな影響力を持つ言論人であることです。同じことを左派が言えば「北の回し者」と見なされるでしょうが、楊相勲主幹が言えば「在韓米軍撤収と核廃棄の取引も1つの手だな」と考える人が出てくると思います。
実際、この記事の書き込み欄を見ると「結局、自分の国は自分で守るしかないのだから」との理由を挙げて、米軍撤収論に賛成した人がいました。
もちろん、これを読んでぎょっとした韓国人も多いと思います。「米軍撤収を取引材料にするのは絶対に認められない。北に騙されるだけだ」と書き込んだ読者もいました。
韓国人に決意はあるのか
—楊相勲主幹の主張を朴槿恵(パク・クンヘ)政権が採用する可能性はあるのですか。
鈴置:核武装と同様に、その可能性はさほど高くないと思います。この政権は言うことは勇ましいけれど、それほどには度胸がないと見られるからです。
「米中星取表」を見れば分かる通り、強く出る中国の言うことなら何でも聞いてしまい、同盟国たる米国を怒らせてしまう。
米中星取表~「米中対立案件」で韓国はどちらの要求をのんだか (○は要求をのませた国、―はまだ勝負がつかない案件、△は現時点での優勢を示す。2016年1月21日現在) |
案件 |
米国 |
中国 |
状況 |
日本の集団的自衛権 の行使容認 |
● |
○ |
2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 |
米国主導の MDへの参加 |
● |
○ |
中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ |
在韓米軍への THAAD配備 |
▼ |
△ |
青瓦台は2015年3月11日「要請もなく協議もしておらず、決定もしていない(3NO)」と事実上、米国との対話を拒否 |
日韓軍事情報保護協定 |
▼ |
△ |
中国の圧力で署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げ |
米韓合同軍事演習 の中断 |
○ |
● |
中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 |
CICAへの 正式参加(注1) |
● |
○ |
正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 |
CICAでの 反米宣言支持 |
○ |
● |
2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か |
AIIBへの 加盟 (注2) |
● |
○ |
米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明 |
FTAAP (注3) |
● |
○ |
2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」 |
中国の 南シナ海埋め立て |
● |
○ |
米国の対中批判要請を韓国は無視 |
抗日戦勝 70周年記念式典 |
● |
○ |
米国の反対にも関わらず韓国は参加 |
(注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を、米国をアジアから締め出す組織として活用。 (注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。 (注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。
「慰安婦合意」では国内の根回しも終わっていないのに、米国の圧力に屈し自ら窮地に陥ってしまう(「掌返しで『朴槿恵の親中』を批判する韓国紙」参照)。
楊相勲主幹も記事の最後に「我々にそれほどの決意があり、実現する能力があるかは別の問題だが」と書いています。ただ、こうした議論が出てきたこと自体が現実を動かすと思います。
慰安婦合意の裏に米国
—北朝鮮がそれに応えて動き出す、ということですか?
鈴置:北よりも、中国が動くのではないかと思います。中国は日韓の慰安婦合意と北の核実験により、日米韓の対中包囲網が実現するのではないかと恐れています。それに風穴を開けられるこのアイデアは、ことのほか嬉しいでしょう。
2015年12月28日の「慰安婦を巡る日韓合意」を見た中国は相当に焦りました。韓国に「慰安婦カード」を使わせることで、米国が狙う日米韓の3国軍事協力の強化にクサビを打ち込んできた。中国にすれば、その貴重なカードが突然に無くなってしまったのです。
国営通信社、新華社が運営する新華網の記事「慰安婦問題の合意の裏側、賠償金で口封じ」(12月30日、日本語版)が中国の失望と警戒感を如実に示しています。
見出しの「賠償金で口封じ」は台湾メディアの報道を引用したとしています。そしてこの記事は日本と米国メディアの記事を引く形をとって、以下のように解説しました。
- 合意の裏側には米国がいて、狙いは中国けん制である。米国は日韓のどちらが正しいかに興味はない。両国が手をつなげばいいのだ。
- 米国のアジアにおける主要な同盟国が歴史問題から、北朝鮮や中国の脅威に目を向け直すことになる。今後は「慰安婦」という障害物が取り除かれ、米日韓の軍事協力がさらに拡大する。
北の核兵器を中国が管理
中国をさらに困惑させたのが1月6日の北朝鮮の核実験でした。これが日米韓を結束させ、3国の軍事協力がますます進化してしまうと考えたのです。
北の核実験を受けて朴槿恵大統領に電話したオバマ大統領は「北の核実験という挑戦に対する韓米日の対応能力は、日韓の慰安婦合意によって強化されている」と述べています。
聯合ニュースの「朴大統領、米日首脳と相次ぎ電話……『対北強力制裁』を推進」(1月7日、韓国語版)が伝えています。なお、この記事は朴槿恵大統領が「日米韓の協力」に関し、どう答えたかは報じていません。
包囲網に困惑した中国の目の前に飛び出した「米軍撤収論」。これを上手に利用すれば、北京を直近から狙う在韓米軍を除去できるかもしれない。上手くいけば米韓同盟も破棄させられるのです。
これほど大きな「果実」を得られるのなら、中国も北朝鮮に本気で核をやめさせるかもしれません。それが不可能でも「核兵器の中国との共同管理」くらいは北にのませて韓国を安心させる、などの手があります。
すると、それを見た米国も「北の核」への対応に本気になるかもしれません。こうなっていくことが、楊相勲主幹の望む「北の核武装という現状を揺るがす」状況なのでしょうけれど。
伏線を敷いてきた中朝
—そんなに上手くいくでしょうか。
鈴置:中国と北朝鮮は伏線を敷いてきました。2015年1月10日、米韓合同軍事演習を中断すれば、核実験を中断する用意があると北朝鮮は表明しています。4回目の核実験後の2016年1月15日にも同じ趣旨の談話を発表しました。
米韓はこれを宣伝攻勢と見なし無視してきました。一方、中国は積極的に支持。2015年4月11日には韓国に対し「緊張激化を高める」との理由を掲げ、演習の中断を求めています(「オバマが帰ると即、習近平に秋波を送った朴槿恵」参照)。
中国には、まずは「合同軍事演習の中止と核実験の中断」を取引しよう――と韓国を誘い出す手があります。そして「米軍撤収と核廃棄」の取引へとつなげていけばいいのです。
韓国人の心の動きを実に深く観察しているのが中国です。米国のやる気の無さに失望した韓国の保守までが、米軍撤収を語り始めたのを見落とさないと思います。
というか、それを――仕掛けたワナに韓国がはまるのを待っていたでしょう。
中立化が射程に
—結局、北の核はどうなるのでしょうか。
鈴置:これからの駆け引き次第です。ざっと分けてシナリオは2通りあります。まず、米中が北の核保有を事実上認めたうえで、朝鮮半島の共同管理体制を強化するケース。もう1つは、米中のカルテルが崩れ、状況が流動化するケースです。
後者の場合、朝鮮半島全体の非核化と中立化が射程に入ってきます。その過程で北朝鮮の体制が揺れれば、統一問題も絡むでしょう。
—米国と協調するように見えながら、韓国は中国の思い通りになっていくということですね。
鈴置:もし、北の核を本気で取り除こうと韓国人が決意すれば、中国の手に乗る可能性が高い。その際は「慰安婦合意」などは吹き飛ぶでしょうね。