本年1/5の日経には『同盟国と対話、意思疎通を ジョシュア・ウォーカー氏
富士山会合で、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官に近い米国のキーマンにもインタビューをしました。これからの日米関係を考える上で見逃せないキーワードの一部をご紹介しましょう。
ジョシュア・ウォーカー氏(有力シンクタンク、GMF主任研究員)
「米国はアジアに政策の軸足を置いています。ただし、米国人が言う『アジア』という言葉は、成長著しい中国とインドを指していることがあります。日本で育った私にとっても大変残念なことです」
「昔の世代のリーダーは日本に重点を置けましたが、今は必ずしもそうではありません。一部には日本を二流国家と考える人々もいます。でもこれは間違いです」
「私の世代の米国人が日本の専門家になったり、日本語を話せたりしなくてもいいと思います。ただ、日本の果たす役割を正しく認識し、理解する必要があります。両国を結ぶパイプが細くなっているという指摘について心配しているのは、交流や意思の疎通が一方通行になってしまうのではないかという点です。米国もアジアの同盟国、重要な国々と対話を大事にすべきです」』とありました。ヒラリーに近いという点でリベラルかと思ってしまいますが、やはりその色は拭えません。
価値観外交と言ってもご都合主義なだけでしょう。白人、特に西側世界が他の国を批判するときに使う手段でしょう。キリスト教国の世界分割(トルデシャリス条約)、帝国主義(植民地収奪)、黒人奴隷、インデイアン虐殺等、歴史上やってきたことを見れば「何を言うか」という気にもなりますが、現在の価値観で過去を批判しても仕方がありません。今、普遍的な価値観に近づいていない国に、近づいて貰う努力をして行かなければ。発展段階や伝統文化は尊重しますが、自国民を虐殺するような国は非難すべきです。チベット人やモンゴル人、ウイグル人を虐殺するような国に対し、国際社会は制裁すべきと思うのですが。英国のキャメロン首相はダライラマの面会でも中国の脅しに屈しました。ユダヤ陰謀論の人に、「ロスチャイルドは①イギリスを捨て、中国を取った②中国を立てているように見せて、太った豚を料理しようとしている」のか、聞いてみたいです。
ジョシュア・ウォーカーは何となくジョセフ・ナイに近い気がします。日本には「軍事力は強化せず、ソフトパワーだけを発揮せよ」という論調です。勿論今の日本人で外国に軍事力を使い、世界へ進出しようという風に考えている人は殆どいないでしょう。共同防衛はあり得ますと言うか、それはしっかりやっていかないと。
ジョシュア・ウォーカーの言う、ロシアと中央アジアは中国封じ込めのためには必須です。これにASEAN諸国も。第二次大戦の失敗は同盟国選びでした。今回は失敗しないように相手を選び、なおかつ友好国を増やしていくことが大切です。
記事
安倍晋三首相は、自由、民主主義をはじめとする「価値」に重きを置く「価値観外交」を標榜している。だが、米国と価値観を共有しているはずの英国が、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に率先して参加するなど、価値観外交には懸念すべき面もある。そこで、価値観外交に詳しいジョシュア・ウォーカー氏に話を聞いた。同氏は米ジャーマン・マーシャル・ファンドで主任研究員を務める。ウォーカー氏は11月、日米の政府関係者や専門家らが対話する「富士山会合」(日本経済研究センターと日本国際問題研究所が共催)第2回年次大会に参加した
—ウォーカーさんは価値観外交に関心を持たれていますね。
ウォーカー:はい。利益はどの国とでも、敵国とでさえ共有することができます。一方、価値を共有できるのは多くの場合、同盟国です。これが、私が「価値が大事」と考える理由です。価値は、同盟国を団結させる。価値と利益は異なるものなのです。
ジョシュア・ウォーカー氏 ジャーマン・マーシャル・ファンド主任研究員。クリントン国務長官のグローバル・パートナーシップ・イニシアチブのために中央アジアおよび北アフリカに関する上級顧問を務めた。国務省チーフエコノミスト室、駐アンカラ米国大使館などにも勤務。(写真:加藤 康、以下すべて)
—なるほど。価値と利益を分けて考える必要があるのですね。
私は価値観を前面に出す価値観外交が真に機能するものなのか疑問に思っています。最近の英国の動向をみてください。政治面でも安全保障面でも英国は米国と価値を共有しています。しかし、中国が主導するアジアインフラ開発銀行(AIIB)への参加を先進国の中でいち早く決めました。韓国も同様です。政治面でも安全保障面でも米国と密接な関係にあります。しかし朴槿恵大統領は親中路線を取っています。この動きは特に経済面で顕著です。
ウォーカー:価値観外交はいろいろある外交手法の1つにすぎません。例えば経済的な利益を重視する商業外交があります。同盟関係に焦点を当てる安全保障外交もあります。価値観外交が単独で機能するわけではありません。
森さんが例に挙げた米国と英国との関係はこの問題を考えるよい例ですね。米国と英国は非常に似た価値観を持っています。しかし、価値観を同じくしていることと、価値観外交を展開することは別ものです。英国は価値に基づく外交をしていません。中国がもたらす利益を重視して行動したのです。
価値観外交について考える時、我々はどの地域について考えるのかに注意を払う必要があります。中東地域を考えるならば、米国と英国は依然として価値観外交を展開していると言えるでしょう。しかし、中国が力を持つ東アジアと、ロシアが力を持つユーラシアについて、私は確信を持つことはできません。
米豪が結ぶ堅い信頼の絆
—米国と価値観を共有している国は日本のほかにどこがありますか。
ウォーカー:オーストラリアです。米国と価値観を共有する国として世界で最もふさわしい例と言えます。
オーストラリアは時の政権が保守派であろうとリベラル派であろうと関係なく、いつも米国と肩を組んで歩んできました。だからこそ米国は、オーストラリアとインテリジェンスを共有してきたのです。私が見るところ、これは米豪が価値観を共有しているからこそのことです。
将来に目を向けると、候補がたくさんあります。例えばフィリピン。奇妙に聞こえるかもしれませんが、ベトナムやマレーシアの名前も挙げることができます。文字通り数十年の時間がかかるかもしれませんが。
価値観外交で日本ができること
—ウォーカーさんは、日米が共有する価値を広めるのに、日本の力が役に立つと主張していますね。日本にどんなことができるのでしょう。
ウォーカー:米国が抱えている課題の1つは、我々の価値観が時にコモディティなってしまうことです。例えばイラクとの戦争の時、我々はイラクに民主主義をもたらすと主張しました。しかし、それは大きな間違いでした。我々が民主主義や自由を声高に叫んだために、これらの言葉はネガティブなものになってしまった。米国が民主主義と自由を口にすると、みなが笑います。
米国は自分のことを世界において依然として輝いている存在だと思いたい。しかし、米国は以前ほどのソフトパワーを持ってはいません。中東において、米国は信頼を持たれていません。石油のためにイラクに押しかけたと思われています。そして帝国主義の国だと。
一方、日本はそのような失敗の歴史を持っていません。非常に強い独自の伝統と文化を持つ国です。日本はキリスト教を戴く西洋の国でもありません。日本の仏教や神道は他のすべての文化の価値を認めるよう説いています。そして、世界の多くの人々が、かつて米国に注いだのと同様のあこがれの視線を日本に向けているのです。
日本は素晴らしい通商国家だと思われています。私は、日本はビジネスの分野でより重要な役割を果たすべきだと思います。トヨタや任天堂といったグローバル・ブランドは日本発です。かつてハリウッド映画やコカコーラ、リーバイスのジーンズが世界を席巻しました。同様の力をソフトバンクやユニクロといった新世代の日本企業が持つことに注目すべきです。
日本と米国はビジネスの分野でより緊密に協力すべきです。競争相手が増えていますから。中国は鉄道システムの売り込みに長けています。日本はインドネシアの商戦で中国に敗退しました。中国が多くの政治的圧力を加えたからです。
しかし、日本の製品は優れています。日本の良いところと米国の良いところを持ち寄り、そのブランドとソフトパワーを効果的に発揮すれば、世界のどの国も対抗することはできません。上海協力機構の加盟国であれ、ロシアが主導するユーラシア同盟の加盟国であれです。
今の日米関係は、米国が日本に対して何をすべきかを伝えるだけの一方通行です。安倍首相が米国に「日本の役割は何か」と聞き、米政府が「次はこの課題です」と応じているように見えます。日本は「日本には実行すべき特別な役割がある。原発を開発しトルコやアラブ首長国連邦、湾岸諸国を支援する。鉄道を敷設することでバングラデシュやインドネシアを支援する」と主張すればよいのです。日本にはできるけれど、米国にはできないことがあるのです。
日本はロシアと対話できる数少ない国
対ロシアでも日本の存在は重要です。もしロシアがクリミアやウクライナで行っているような方法で国際秩序に再び挑戦することがあれば、これは重大な脅威となります。ここで日本は、米国にはできない役割を果たすことができます。日本はプーチン大統領と会話ができる数少ないリーダーの1つですから。
価値観を共有しているので、我々は日本のことを十分に信頼しています。ロシアと何を話す時も、日本は日米共通の利益を念頭において進めてくれると。
もし日米の関係が利益だけに基づくものならば、我々はいつも日本の行動をチェックしなければなりません。「日本はロシアと何を話したんだ」とね。しかし我々は価値観を共有しており、結婚しているようなものです。奥さんが他の男性と夕食に行っても、信頼しているでしょう。しかし、付き合っているガールフレンドが他の男性と夕食に出かけたなら、疑いの念を持つのではないでしょうか。「君は何をしているの。浮気をしているの」と。
中央アジアはミッシング・リンク
—次の質問は中央アジアについてです。ウォーカーさんは日本は中国にばかり目を向けている。他の地域、なかでも中央アジアに向けるべきだと強調しています。
ウォーカー:その通りです。
中国のことで頭がいっぱいになる事情は理解できます。しかし、日本が中国と向き合う際の最善の方法は中国を抑えようとすることではありません。中国を囲む周辺の国に目を向けることです。合気道では、誰かに殴られそうになった時、殴り返そうとはしません。相手の力を相手に向け直すでしょう。中国に対する時も同様にすればよいのです。
そこで、目をむけるべきは中央アジアです。私が知る限り中国の最大の懸念は対外的な問題ではなく、内政の問題、すなわちウイグルです。毎日のように死に至る犠牲者が生じています。しかし、中国当局がそれを検閲しブロックしているため、それが世界に知らされることはありません。
中央アジアの国々はウイグルで何が起きているかを知っています。私はこの地域をチュルク語世界と捉えています。この世界はアドリア海から始まり、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンと広がっています。
日本は既に台湾と良い関係を築いています。フィリピンと良い関係を築いています。インドやインドネシアとの関係も拡大させています。この輪において欠けているのが中央アジアです。
もう1つのポイントは、中央アジアにおける日本の役割は、日本のためだけのものではないということです。もし日本が米国やインド、トルコと協力できるならば、これらの4カ国は東アジアにおける中国やロシアの影響に対して共同して対抗することができるようになります。
以上のことから、私は、日本にとって中央アジアが重要であることを強調しているのです。
—遠交近攻というわけですね。
“弱み”こそ日本の強み
ウォーカー:そういうことです。
私が日本の友人に話すと、彼らが一様に驚くことがあります。“弱さ”こそが日本が持つ強みだということです。
日本は強い軍隊もインテリジェンスも持っていません。しかし、そのことが日本に多くの強みをもたらしているのです。中東の国々も中央アジアの国々も、日本が災厄をもたらすとは考えていません。日本から多くのものを得ようとも思っていません。
だからこそ、日本は国際社会に対して、より多くの興味と協力する力を持っていることを示す必要があるのです。その範囲はビジネス上に限られるものではありません。地震など自然災害が起きた時の支援もあるでしょう。教育に関するサポートも可能でしょう。ODA(政府開発援助)も利用できるでしょう。
例えば、教育分野において、中央アジアの国々を支援することができます。日本の大学は幸いなことに、米国や英国の大学と同等のレベルを備えています。中国の大学と比べても、より高いレベルにあります。真にグローバルな大学とは言い難いですが、それでも中央アジアの大学と比べれば、ずっと国際的です。
日本はアフリカの国々に対して非常に効果的な戦略を実行しています。リーダーたちを東京に招き、会議をする。同時に、安倍首相がアフリカを訪れ会談する。こうした手法は中央アジアの国々に対してもとても効果的です。
中央アジアの国々は、カザフスタンやウズベキスタンでさえ個別に見ればそれほど大きな国ではありません。しかし5カ国集れば重要です。チュルク語世界は2億人の人口を擁するのです。
中東と異なり、この地域ではどの国も新参者です。ロシアの影響力が強く他の国は接することがありませんでした。そして今、中国が力をもって入り込もうとしています。これに対して、我々はなんの行動も起こしていません。だからこそ、安倍首相の訪問というささやかな意思表示であれ、日本が行動を起こすことは大きな意味を持つのです。