12/18日経ビジネスオンライン 北村豊『2050年、中国の年金の原資不足は122兆円 定年延長で対処も、経済減速で破綻不可避か』について

中国について明るい話は出なくなりました。PM2.5も打つ手なし。工場の稼働停止や自動車ナンバーの奇数・偶数での1日交代運転、屋外工事の禁止等、皆経済成長を阻害させます。勿論経済成長のことしか考えないから、この体たらくとなった訳ですが。中南海の人々は自国民の健康のことなど考えていないのでしょう。中南海から逃げ出しているのかも知れませんが。

富の分配をうまくしてこなかったため、豊かになる前に老いる「未富先老」の問題が噴出してきたのでしょう。何せ年金を職員が横領するのは日常茶飯事のような国ですから。2005年に何清漣が大紀元に書いた記事があります。中国では年金を養老保険と言います。2005年の時に積み立て不足は1兆元ありました。為替レートの問題はありますが1元=18.7円とすると1兆元は18兆7000億円、それが10年後の2015年には122兆円も不足しているとのこと。

http://www.epochtimes.jp/jp/2005/05/print/prt_d20068.htm

定年延長したとしても給与支払いはしないといけないです。国全体で見れば、給与で払うか年金で払うかの違いです。GDPという付加価値の中から年金積立て分を控除して積立、受給者に支払うか、直接労働者に払うかです。パイが限られているとすれば、定年延長して受給者を減らしても効果は薄い気がします。単純に考えれば、保険料の値上げと給付水準の低下なのでしょうけど、今でもそう高くない給付をこれ以上、下げる訳にも行かず打つ手が見えません。これに手を付ければそれこそ革命が起きるかもしれません。

こういう国に投資しようとしますか?

記事

12月9日、北京市で「中国養老金融50人フォーラム」の設立大会が開催された。同フォーラムは「中国“新供給経済学(新サプライサイドエコノミックス)”50人フォーラム」<注1>が主催したもので、“養老金融(養老年金を活用した金融)”の発展により老年時に発生する各種危険の予防と多種多様な養老金融商品の提供を目的としている。

<注1> サプライサイドエコノミックス(Supply-side economics)は1970年代から米国で提唱されている近代経済学の一派で、生産力の増強など供給の側面を重視する経済学。

先進国化、都市化の前に高齢化に突入

 同フォーラムで登壇した“中国人民銀行金融研究所”所長の“姚余棟”は次のように述べた。

【1】国連の定義では、65歳以上の人口が全人口の7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」と呼ぶ。中国は2000年末に65歳以上の人口が全人口に占める比率が7.1%になって高齢化社会に突入したが、当該比率は2014年末に10.1%となり、年々比率を高めて高齢社会への歩みを続けている。

【2】このまま行けば、中国は高齢社会を経て、20年後の2035年頃に超高齢社会の水準に到達する。超高齢社会は世界的な趨勢であり、すでに14の国と地域が超高齢社会に突入している。その基本的な特徴は80歳以上の老人が総人口に占める比率が5%を超えていることで、日本は2016年にこの水準に到達する<注2>。

<注2>日本は2009年に65歳以上の人口が全人口の22.7%となり、超高齢社会に突入した。

【3】中国の2014年末時点における60歳以上の人口は2.12億人を超え、全人口の15.5%を占め(65歳以上の人口は1.38億人で、上述の通り、全人口に占める比率は10.1%)、“421家庭”モデル<注3>と“空巣老人(子供が身近におらず家を守る老人)”の問題が明確に顕在化している。35年後の2050年には60歳以上の老齢人口は4億人を超し、全人口に占める比率は30%を超えて、世界で最も高齢化が進んだ国となるだろう。

<注3>一人っ子政策の下で生まれた家庭のモデルで、2組の夫婦(4人)、彼らの息子と娘の夫婦(2人)、その子供(1人)によって構成される家庭。

【4】我々は“未富先老(先進国になる前に高齢社会に入る)”という問題を抱えているだけでなく、“未城先老(都市化を果たす前に高齢社会に入る)”という問題も抱えている。すなわち、研究によれば、2035年に超高齢社会に突入する時点でも半数以上の老齢人口は都市に居住することなく、依然として農村に生活している。

【5】そうした老人たちが老後の生活を送るのに頼りとするのは“養老金(養老年金)”だが、その肝心な養老年金の原資不足は15年後の2030年には4.1兆元(約82兆円)に達し、35年後の2050年には6.1兆元(約122兆円)に達する。

「保険料支払い期間15年」の延長を検討中

 さて、ここで中国の年金制度の概要を基礎知識として述べると下記の通り。

(1)日本で言う「年金」を中国では“基本養老保険”と呼ぶが、基本養老保険には「企業従業員基本養老保険」(以下「従業員養老保険」)と「都市・農村住民基本養老保険」(以下「住民養老保険」の2種類がある。従業員養老保険は企業に勤務する従業員を対象としたもので、日本の「厚生年金」に相当する。一方、住民養老保険は2014年に「都市住民基本養老保険」と「新型農村住民基本養老保険」を合併して一本化したもので、日本の「国民年金」に相当する。

(2)2014年末時点における累計残高、加入者数および平均支給月額は以下の通り。

2014年末時点における基本養老保険の比較
  企業職員基本養老保険 都市・農村住民基本養老保険
累計残高 3兆1800億元 3845億元
加入者数 3億4124万人 5億107万人
平均支給月額 2061元(約4万1000円) 90元(約1800円)

(出所)中国社会保険発展年度報告(2014年)から筆者作成

 なお、住民養老保険は加入者数では従業員養老保険より1.7億人も多いが、累計残高では従業員養老保険のわずか12%に過ぎず、中国における年金の主体は従業員養老保険と言える。また、従業員養老保険では、現役企業従業員の平均月収に対する上記「平均支給月額」の比率を“養老金替代率”と言うが、2014年の養老金替代率は67.5%となっている。年金生活者が現役企業従業員の平均月収の67.5%に相当する年金月額を支給されているというのは、恵まれていると言ってよいだろう。但し、物価の高い大都市部の年金生活者にとっては支給月額が2061元では苦しい生活を余儀なくされる。

(3)養老年金の受給資格は従業員養老保険も住民養老保険も共に保険料を累計で15年間支払うことによって与えられる。日本の年金受給資格は従来保険料を累計で25年間支払うことによって与えられることになっていたが、改正により今年10月から累計10年間の支払いに変更となった。中国では歴史的経緯から累計15年間に設定されたが、養老年金の原資不足に対処するため、保険料の支払い期間を15年間から延長することが検討されている。

 話を本題に戻す。上記【5】に述べた養老年金の原資不足が事実とすれば、将来的に中国の年金制度にとって由々しき問題と言わざるを得ないが、その実情は果たしてどうなのか。

 11月16日に民生部“社会保険司”が発表した『2014年全国社会保険基金の決算に関する説明』によれば、2014年の企業従業員基本養老保険基金(以下「従業員養老保険基金」)の収入は2兆3273億元(約46.5兆円)で前年比11.9%増であったのに対して、支出は1兆9797億元(約39.6兆円)で前年比18.6%増であった。しかし、収入には国家による財政補てん3309億元(約6.6兆円)が含まれており、これを除いた収入は1兆9964億元(約4兆円)となり、財政補てんを含まない実質的な収支はわずか167億元(約3340億円)の黒字というのが実態であった。

財政補てんなしでは22の一級行政区が赤字

 2015年5月に“財政部”が発表した「2015年全国社会保険基金予算状況」によれば、2015年の従業員養老保険基金の収入は2兆4309億元(約48.6兆円)で、この内訳は保険収入が1兆9557億元(約39.1兆円)、財政補てんが3671億元(約7.3兆円)であった。これに対して支出は2兆2582億元(約45.2兆円)で、財政補てんを除いた実質的な収支は3025億元(約6.1兆円)の赤字になると予測される。

 一方、11月12日付の広州紙「南方都市報」が報じたところによれば、財政補てんを除いた2009~2013年の従業員養老保険基金の収支は、2009年:996億元(約2兆円)、2010年:993億元(約2兆円)、2011年:1963億元(約3.9兆円)、2012年:1924億元(約3.8兆円)、2013年:1291億元(約2.6兆円)と黒字で推移して来たという。それが、2014年には167億元の黒字に急落し、2015年には3025億元の赤字に転落するというのである。

 そればかりか、2014年の従業員養老保険基金の収支を一級行政区(省・自治区・直轄市)毎に見ると、財政補てんを含まなければ22の一級行政区が赤字であり、河北省、黒龍江省、寧夏省の3省に至っては財政補てんを含めても赤字だと言うのである。ちなみに、黒龍江省の2014年における従業員養老保険基金の支出超過は105億元(約2100億円)に達し、31ある一級行政区の中で最高を記録した。

 この点について、社会保障を担当する「人的資源・社会保障部」のスポークスマンは、11月20日に記者会見の席上で次のように述べた。

 2014年以来、多数の要素の影響を受けて、養老年金の支出が徴収した収入を上回る一級行政区が増加した。その主な要因には、(1)養老年金の支給基準が連続して引き上げられ、支給支出が増加したこと、(2)人口の老齢化の影響が徐々に表れてきており、保険加入者中の退職者の増加数が保険加入者の増加数を急激に上回ったこと、(3)一部の地域では年金支給者の比率が比較的高く、その負担が重くのしかかっていること、などが挙げられる。

 中国では、現在のところ3.4人に1人の割合で現役の企業従業員が年金生活者を支えているが、この割合は2020年には2.94人に1人となり、2050年には1.3人に1人となる。

残金3.5兆元は2029年までに使い果たす

 言い換えれば、三十数年後には1人の企業従業員が支払う基本養老保険料で1人の年金生活者を支えることになるが、これでは年金システムが成り立つはずがない。そればかりか、従業員養老保険基金が従来累積して来た残金は2029年までに全て使い果たすことが予想されるという。

 なお、広州の週刊紙「南方週末」が11月30日付で報じた「現在の養老年金残額3.5兆元は十数年後には使い果たす」と題する記事には参考データが掲載されていた。当該データの内容を紹介すると以下の通り。

(1)従業員養老保険基金に対する財政補てん状況(1997~2014年)

 1997年:2億元、2000年:349億元、2003年:614億元、2006年:1157億元、2009年:1954億元、2012年:3019億元、2014年:3548億元 《1997~2014年の財政補てん額の累計:2兆1677億元(約53.4兆円)》

(2)従業員養老保険基金の累計残高(1997~2014年)<前年比(赤=マイナス)>

 1997年:87億元<-38%>、2000年:163億元<305%>、2003年:558億元<70%>、2006年:1053億元<34%>、2009年:2251億元<10%>、2012年:4439億元<7%>、2014年:3555億元<-15%>

 要するに、このまま行けば養老年金制度は将来的に基金の累積残高を使い果たして破綻せざるを得ない状況にある。そこで中国政府が打開策として打ち出したのが、定年年齢の改定であった。定年年齢の改定については官民双方で長年論議が続けられて来ているが、未だ正式な形で改定されるには至っていない。最近の状況を取りまとめると以下の通り。

【1】中国の現行の法定定年年齢は1978年5月に公布されたもので、女性55歳、男性60歳である。但し、暫定規定により女性職員は50歳、女性幹部は55歳が定年年齢と定められ、実際の定年年齢は男性も含めて54歳であるという。この法定定年年齢は1950年代に規定されたもので、当時の平均寿命は四十数歳であった。また、1979年に鄧小平の指導の下で打ち出された改革開放政策の初期段階までは、“労働保険法”の下で策定された年金制度は、37人の労働者で1人の年金生活者を支えることを想定したものだった。しかし、現在では平均寿命が73.8歳となり、3.4人の企業従業員が1人の年金生活者を支えている。

【2】11月3日に発表された『中国共産党中央委員会による国民経済と社会発展第13次5か年計画制定に関する提案』は、第13次5か年計画(2016~2020年)の期間中に定年年齢の延長政策を実施すると述べている。また、人的資源・社会保障部の部長は、2017年には定年年齢延長の具体案を正式に提出すると述べていることから、2017年に正式な案が提出されて、討議を経て2018年に定年年齢延長が実施されるものと予想される。

【3】“中国社会科学院”は12月2日に発表した『人口と労働緑書(グリーンペーパー):中国の人口と労働問題報告No.16』の中で定年年齢の延長に関する提案を行った。その内容は次の通り。 《第一段階》2017年に従業員養老保険と住民養老保険にわかれる養老年金制度を一本化する。女性幹部と女性職員の区分けを無くし、従業員養老保険の女性定年年齢を55歳に統一する。 《第二段階》2018年から女性の定年年齢を3年毎に1歳延長し、男性の定年年齢を6年毎に1歳延長する。この延長に伴い従業員養老保険の定年年齢も同様に延長する。これによって、2045年になれば、定年年齢は男女共に65歳になる。

もはや蟻地獄であがくしかない

 低賃金を武器に中国が世界の工場としてもてはやされた時代は過去のものとなり、中国から外資企業の撤退が相次ぎ、国内企業の過剰生産による在庫量の増大、人民元高による輸出の減少などによって中国経済の減速は顕著なものとなっている。この結果、中国企業の求人は減少しており、中国国内の就職戦線は熾烈な様相を呈し、失業者が増大し、就職できない新卒者も増大している。こうした状況下で、定年年齢の延長を行えば、本来ならば定年によって空席となるはずの職場が定年延長者によって占められることになり、失業者は就業機会を奪われ、新卒者は求人数の減少に泣くことになる。

 だからと言って、定年年齢の延長を行わなければ、年々増える定年退職者により養老年金の累積残高は毎年減少し、最終的には年金制度そのものが破綻することは不可避となる。この図式はまさに「進むも地獄、退くも地獄」あるいは「前門の虎、後門の狼」と言えるものであり、その人口の多さの故に有効な打開策は見当たらない。繁栄を維持するためには、ひたすら経済力を高めて前進するしかないが、環境汚染を代償とする繁栄にはすでに国民が「No」を突き付けているのが実情である。今や中国は蟻地獄に落ちてあがいているように思えるのだ。