9/23日経<中国、政府主導で能力削減 鉄鋼2社統合
【上海=小高航】中国の国有鉄鋼大手、宝鋼集団(上海市)と武漢鋼鉄集団(湖北省)が経営統合を発表した。習近平指導部は過剰設備の削減など「供給側改革」で低迷する経済のてこ入れを図る姿勢を打ち出している。今回の大型再編はその一環だ。世界の粗鋼生産能力の半分を占める中国で設備削減が進めば中国発の「鉄冷え」が解消に向かうが、実効性のある設備の統廃合となるかは不透明だ。
宝山鋼鉄の製鉄所(上海市)
宝鋼は22日、「品質や効率を高め、国際競争力のある企業をめざす」との声明を出した。習指導部は昨年12月、「供給側構造改革」を進める方針を打ち出し、生産能力の削減や過剰債務の削減などを掲げた。今回の大型再編は、非効率な産業構造を改め低迷する経済のてこ入れを図る姿勢を強調する狙いがある。
中国では鉄鋼やセメント、石炭など幅広い産業で過剰設備が深刻だ。補助金などにより赤字続きでも生き残る「ゾンビ企業」の比率は鉄鋼では5割を超えるとされる。
中国政府は20年までに1億~1億5千万トンの生産能力を削減する計画を持つ。今年の削減目標は4500万トンで1~7月の進捗率は47%だった。年6千万トンの生産規模の統合新会社で効率化を進め削減に弾みを付ける。
再編に踏み切った背景には中国の過剰生産が各国から批判されていることもある。今月上旬、中国・杭州で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議。欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は「欧州の鉄鋼産業は近年1万人が失業した。この状況は受け入れられない」と不満をぶちまけた。
中国経済の減速で鉄の国内需要が減った結果、2015年の中国の鉄鋼輸出量は1億トン強と日本の年産量を上回る規模に膨らんだ。G20では、中国も含め解決策を探る「世界フォーラム」の設立を決めた。
中国の鉄鋼再編を巡ってはこれまで中央政府が笛を吹いても地方政府や企業の抵抗で進まなかった経緯がある。主力2社の統合で世界の鉄鋼業界では中国発の「鉄冷え」の解消に向かうのでは、との見方も出ている。
新日鉄住金の宗岡正二会長は22日、訪問先の北京で記者団に、今回の再編について中国の過剰生産設備削減に向けた「最初の一歩だ」と述べた。「(経営統合が)次々と連鎖すればだいぶ変わってくると思う」と一段の再編に期待を示した。
実際、中国では宝鋼・武鋼に続く「再編第2弾」が取り沙汰される。河鋼集団(河北省)と首鋼集団(北京市)の組み合わせや、鞍山鋼鉄集団(遼寧省)を軸とする統合案が浮上。中国鋼鉄工業協会の幹部は今月、「25年までに全生産量の6割以上が大手10社に集約されるだろう」と述べた。
ただ、実際に設備削減が進むかどうかは不透明だ。中国には中小の民営製鉄所が無数に存在する。宝鋼など大手が生産を抑制して市況が回復すると中小各社が生産量を増やし、市況が再び悪化するというイタチごっこが続く。今年に入り国内で2千万トン強の設備が廃棄されたが、中小が競って増産し、足元の輸出量は逆に増加傾向にある。
統合新会社が重複設備や人員をどこまで削減できるかも焦点だ。日本の鉄鋼商社幹部は「統合後に設備廃棄に踏み込めなければ焼け太りするだけ」と懸念する。>(以上)
9/24日経<台湾、外交に中国の壁、ICAO総会出席できず
【台北=伊原健作、北京=山田周平】台湾の蔡英文政権がめざす国際機関での外交活動に対し、中国が阻止する動きに出始めた。台湾当局は23日、27日にカナダで開く国際民間航空機関(ICAO)の総会に出席できない見通しになったと発表した。中国が、台湾と中国は一つの国とする「一つの中国」の原則を受け入れない台湾の参加を認めないためで、蔡政権は強く反発している。
「出席できるよう今朝まで努力してきたが、非常に残念だ」。李大維・外交部長(外相)は23日に記者会見し、台湾のICAO総会参加に向けた協議に中国側が応じなかったことについて唇をかみしめた。対中政策を担当する行政院(内閣)大陸委員会は同日「国際機関への参加に政治圧力を加えるやり方に強烈な不満を表明する」とのコメントを出した。
ICAO総会は3年に1度開かれ、航空の安全確保や管制などに関する国際的な基準の作成について話し合う。台湾は国民党の馬英九政権だった前回の2013年には「中華台北」名義で特別ゲストとして出席。1971年の国連脱退以降、国連機関の公式会議への参加はほとんど実現していなかっただけに、念願の国際機関参加の拡大を象徴するイベントだった。
馬前政権は92年に「一つの中国」の原則を中台双方が口頭で認め合ったとする「92年コンセンサス」を中国側と共有し、融和を推進した。このため台湾が国際機関で活動することを外交圧力で阻んできた中国が軟化。台湾は09年には世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加、13年にはICAO総会へのゲスト参加の実現にこぎ着けた。
しかし台湾独立志向を持つ現在の民主進歩党(民進党)の蔡政権は「92年コンセンサス」を認めておらず、中国は当局間の直接対話メカニズムを停止し、再び圧力を強める姿勢に転じた。国際機関への台湾参加を阻止することで、馬前政権への対応との格差を鮮明にして、蔡政権に揺さぶりを仕掛けた。
中国外務省の陸慷報道局長は23日の記者会見で「台湾は中国の1つの省にすぎず、この行事に参加する権利を当然持っていない」と語った。
また中国で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官も同日「台湾側が(ICAO総会に)参加できない状況は、完全に民進党当局が作り出したものだ」と批判する談話を発表。「(蔡政権は)大陸(中国)をみだりに非難し、民衆を間違った方向に導くべきではない」と主張した。
中国側は一段踏み込んだ台湾内部の切り崩しにも出ている。18日に中国の兪正声・全国政治協商会議主席が台湾の8県市の首長らで作る訪中団と会談し、農産品購入や観光促進などの優遇策を約束した。8県市はいずれも国民党系で、野党側を露骨に優遇することで台湾社会の分断を狙ったとの見方が強い。
これに関して、日本の菅義偉官房長官は23日、「(台湾が)何らかの形で参加するのが、現実問題として望ましい」と語った。さらに「日台間では多数の定期直行便が運航されている。国際民間航空の安全で着実な発展を確保するべきだ」と付け加えた。>(以上)
宝鋼は山崎豊子の『大地の子』のモデルになった会社です。稲山嘉寛氏も黄泉の国で中国や日本をどう見ているのでしょうか。中国に技術援助して世界経済を攪乱する元凶を作りました。戦後のGHQの洗脳に引っかかり、贖罪意識の塊になってしまったためと思われます。日本人は戦前・戦中・戦後と中国人の本質を理解できないでいます。「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」と。こういう民族と誠意をもって付き合えばどういう結果を引き起こすかは明らかです。中国は政治的には一党独裁・人権抑圧国家ですが、経済的には弱肉強食のウルトラ資本主義(但し、営業・生産の許認可権と言う生殺与奪の権限を政府が持ち、腐敗の温床となっています)です。本記事にありますように宝鋼と武鋼が合併したとしても、設備廃棄しなければ規模が大きくなるだけで、世界の実需を無視して、在庫は維持されるか、増加することになります。中小の鉄鋼メーカーでは大手と比べると規模の経済で違いがあり、価格面で大手とは対抗できないと思いますが、地方政府との癒着があれば話は別になります。1994年には704社あったビール会社は、2005年(華潤ビールが雪地ビールを買収した年から推定。下記URL参照。中国の記事には年月日が入っていない。)に400社に減ったと次の記事にあります。中国のビールは国内消費かつ実需が伸びています(ここ2年はマイナス成長ですが。15年4299万kl(▲4.3%)、14年4493万kl(▲3.1%)、13年4635万kl(4.5%)。因みに日本は発泡酒・第三のビールを含めて15年546万kl)のでまだ良いですが、過剰生産かつ世界的にソーシャルダンピングするのでは、世界の同業者が迷惑するだけです。根本問題は賄賂に行きつく訳です。物を造ったり、動かすときには必ず賄賂が絡みますので、生産にブレーキがかけられない構造的なシステム欠陥があります。
“随着外资收购速度的加快,中国啤酒市场的竞争正在发生变化:最初啤酒行业有1000多家企业,经过收购兼并,目前还剩下400多家,今后啤酒企业的数量还将减少。”
http://www.jiuwang.org/pijiu/sc/613.html
台湾のICAO参加について菅官房長官は「参加が望ましい」と言うだけでなく、裏で働きかけをしなくては。日本でいくら発言しても台湾人は喜びません。カナダに圧力をかけるべきです。中国人のカナダ進出で、経済も握られ難しいかもしれませんが。
香港への中国からの新移民は中共の殖民政策です。香港の自治を自ら崩すものです。言って見れば外国人参政権のようなものです。勿論、帰化させるので香港人となりますから、帰化条件の問題となりますが。福島氏の言うように民族自決派と雖も中共、特に習近平を甘く見ている気がします。香港に軍の投入があったときに、国際社会の真価が問われます。中国と経済的結びつきが如何に深くとも経済制裁すべきです。NHKの国谷裕子は「天安門事件で大きな虐殺はなかった」と中共のセリフを鸚鵡返しにしましたが、香港ではそんなことは許されません。
記事
最多投票を獲得した土地正義連盟党首の朱凱廸。「予算案を否決できる勢力となって、北京との交渉を目指す」(写真:ロイター/アフロ)
少し前の話になるが、香港の立法会選挙が9月4日に行われた。雨傘革命後、初めての立法会(香港議会)選挙として国内外でも注目された選挙だ。結果は既報の通り、親中派(建制派)が過半数を維持したものの3議席減らし、反中国派(非建制派)が30議席を獲得、法案の否決に必要な議席の3分の1(24議席)以上を維持できた。
今回の選挙で特筆すべきは、やはり本土派(独立派、自決派)と呼ばれる雨傘革命後に生まれた、新政治勢力の若者が6議席獲得したことだろう。この6議席が多いか少ないか、その評価は分かれるが、これまで全く存在しなかった本土派という勢力が議会に誕生したこと、しかも最年少当選者、最多得票数当選者ともに本土派であったことの意味は決して小さくない。
「香港自決」掲げる新勢力が台頭
従来の議会における反中国派の主流は、民主派と呼ばれる民主党を中心とする勢力だが、彼らはあくまで2047年まで維持されるとした一国二制度の枠組み内で香港の民主・自治を守る考えであり、香港返還時に与えたられたミニ憲法・香港基本法に忠実だ。
だが、この新しい政治勢力は一国二制度の枠組みを越えて、香港の未来を香港人が決める香港自決を掲げ、中国と英国が作って香港に与えた基本法も、香港人が新しく作り変えるべきだと主張している。中国にとっては決して座視できない主張を掲げているのである。このことが、今後の香港にどのような変化をもたらすのだろう。
香港の立法会選挙の仕組みを少しだけ説明しておく。
定数は70議席、4年ごとに選挙が行われる。直接選挙で35議席、職能別に35議席がそれぞれ選ばれる。直接選挙は香港島、九龍西、九龍東、新界西、新界東の5選挙区に分けて行われる。職能別議席は、産業界議席(30議席)と区議会(5議席)に分かれ、産業界議席は、金融、建設業、教育、法律、医療などの産業界ごとに候補を立て、その産業界ごとの職能団体者の投票による間接選挙で選ばれる。
産業界は中国経済との関係から圧倒的に親中派議員が多くなるし、立候補者が少なく選挙自体が行われない無投票当選で決まる場合もある。区議会議席は、香港の地方区議の中から立候補を募り、有権者が区に関係なく直接投票する。つまり香港有権者は基本的に2枚の投票権(直接選挙枠と区議会議席枠)を持つ。職能団体に属する有権者はこれに加えてさらに1枚、3枚の投票権を持つことになる。
主に民意が反映されるのは、直接選挙枠35議席と区議会枠の5議席だ。直接選挙枠の選挙法は比例代表制・最大剰余方式(有効投票数を定数で割った基数で、得票数を割った数字の大きさで当選順位を決めていくやり方)。
今回の有権者登録は378万人で、直接選挙枠の投票率は58%で前回よりも5ポイント高い過去最高を記録した。直接選挙枠35議席のうち、民主派が獲得した議席は13議席、本土派が6議席、親中派が16議席。職能代表枠35議席のうち民主派は10議席、親中派は24議席、無党派が1議席。反中国勢力は合計して30議席という内訳だ。
特に注目すべきは、直接選挙枠で6議席を獲得した本土派と呼ばれる勢力だ。雨傘運動後、雨後の筍のように本土派の小政党が乱立し、それらが民主派票と食い合うのではないかと心配されたが、香港の比例代表・最大剰余方式という選挙法が小政党乱立選挙に有利に働いたこと、そして雷動計画と呼ばれるインターネットのSNSを使った票の分配指南が比較的うまくいったことで(いかなかったという評価もある)、民主派票の死票をかなり抑えることができたと見られる。
圧力や妨害が、有権者に危機感
本土派6議席の内訳は、雨傘革命で中心的役割を果たした学生運動体「学民思潮(スカラリズム)」を母体とした政党・香港衆志(デモシスト)の最年少当選者、羅冠聰(ネイサン・ロー、23歳、香港島区)、土地正義連盟党首の朱凱廸(エディー・チュー、38歳、新界西区)、劉老師のあだ名でしられる小麗民主教室の劉小麗(40歳、九龍西区)、青年新政の游蕙禎(25歳、九龍西区)、青年新政の梁頌恆(バッジョ・レオン、30歳、新界東区)、熱血公民の鄭松泰(32歳、新界西区)。
選挙前に、本土派はかなり圧力を受け、一番過激な暴力革命の可能性も排除しないと主張していた香港民族党の陳浩天(アンディー・チャン)や、2016年春節の旺角騒乱に関わった本土民主戦線の梁天琦(エドワード・レオン)ら約6人が、基本法に反するとして、その出馬を取り消された。
だが、こうした妨害は逆に、有権者の危機感をあおり過去最高の投票率となり、また、中間派を本土派票に取り込む作用もあったという見方もある。圧力を受けたことで、本土派の候補たちの発言も、革命や独立といった過激な発言を抑えるようになり、むしろ環境保全や土地問題といった有権者の共感を得やすいテーマを主張に盛り込む工夫もして、より一般の有権者の共感を得やすくなった効果もあった。
この結果、「本土派」として6議席を獲得したのだが、彼らはこの選挙結果にはどのような意義を見出したか。
全候補者中、最多得票を誇る朱凱廸にインタビューする機会があった。彼は、新界西区の土地利権・腐敗問題を告発し、同区の環境保全を公約の一つに据えている。
この新界西区の不動産開発問題は中国資本も絡み、それを快く思わない地元有権者の共感を集める一方、いわゆる“反中ヘイト”とは違う環境保全という普遍的な問題意識の提示によって、狭い意味の本土派以上の有権者の支持を獲得できた。だが、当選後も不動産利権に絡むマフィアから執拗な脅迫を受けており、彼自身のみならず家族の身の安全も心配されている。
予算案をカードに北京と交渉を
彼は今回の選挙については、極めてポジティブに評価しており、次のように語っていた。
「今回の選挙は、香港の歴史に残るものだ。初めて、民主派と建制派(親中派)という二つの選択肢以外の選択肢を有権者に与えられた選挙だった。有権者が探している新しい政治の方向性を示すことができた。英中が香港返還協定を結んで以降、香港人は自分で自分の未来を決める権利を奪われていた。香港人は民主化運動は基本法に従って一国二制度の枠組みの中で進めるという方程式しかないと思い込んできた。でもそれは騙されていたんだ。雨傘運動で、その方程式とは違う方法で民主化を進める方法があるのではないかということに気づき、今回の選挙を通じて、香港人は香港の未来をどう発展させるかを自分で決めることができる、自分で決めたいという考えを示すことができたのだと思う」
「今回の選挙では、政府からの圧力がかかって候補者は心底自由に、香港人は自分で香港の未来を決めることができるということを十分に訴えられなかった。でも、そう語れなくても、有権者にはメッセージは伝わった」
さらに朱凱廸は今回の選挙結果をこう分析する。
「今回の選挙結果を見ると、20%の有権者は香港の未来は自分たちが決めるべきだと考えている。35%の有権者は民主主義が重要だが、どうすればいいかわからない。なので旧来の民主派に投票した。だが旧来の民主派には、香港の民主を守るためにどうしたらよいか方法論がない。民主派はただ、今の行政長官を辞任させればいいと考えている。我々の任務は、民主派の中で自決派に共感できる人間に働きかけ、増やしていき、最終的には予算案を否決できる勢力にまで伸ばすこと。そうすれば、予算案をカードに北京と交渉できるようになると思う」
希望に満ちた意見だが、実は本土派の内情はそう単純ではない。
本土派(自決派)は主に二派に分かれている。民主自決派と民族自決派。朱凱廸、羅冠聡、劉小麗ら3人は民主自決派、鄭松泰と青年新政の2人は民族自決派だ。
民族自決派は、香港の最大の問題点は中国人が香港に多すぎることだと考え、新たに中国から来る新移民に対して排他的な姿勢を隠さない。一方、民主自決派は、新移民を含め、香港で生活する人たちが香港人であり、一緒に香港の民主化を実現していきたいと考えている。反中国であり、香港の前途を香港人が決めていくという点は共通だが、今後増えていくだろう新移民の対応で、決定的な対立点がある。
民族自決派の熱血公民党首、鄭松泰にも話を聞いた。彼は香港理工大学の社会学専任講師で北京大学にも留学経験のあるインテリである。熱血公民は「熱血時報」などのセルフメディアを持ち、若者の支持が大きい政党で期待を込めて5人の候補を立てたが、結局、鄭松泰一人しか当選しなかった。
この理由について雷動計画が関係あるかもしれない。雨傘革命に参加した香港中文大学の戴耀廷教授に提唱されたネット選挙戦略で、民主派・本土派小政党が乱立する今回の選挙において、死票を減らし、党落選上の候補に票を集めて当選させるために、民意調査などを基に得票予想数などのデータをSNSで計画参加者に発信、投票指南を行う。投票締め切り間際に有権者が殺到して、投票時間を延期する騒ぎが起きたが、これは雷動計画で得票推計を見たうえで投票行動を決めようとした結果、締め切りぎりぎりに投票する有権者が増えたせいだと言われている。約4万人の有権者が参加した。だが、これは熱血公民など、もともと人気の高い政党の票を思いがけなく減らす結果になったともいえる。
流血、暴動を避け、憲法を変える
鄭松泰は今回の選挙結果については、「我々の党は失敗した」という。だが「(本土派の意見を選挙運動によって広めたことで)民主派に現実問題を直視させ、基本法改正などのプレッシャーを与えることができた」と選挙自体の意義は高く評価した。雨傘革命の要求である真の普通選挙が実現できなかった背景には基本法の問題がある。香港にとっての憲法・基本法では直接選挙を行う場合の候補者は指名委員会が指名すると決められており、誰でも立候補できる真の普通選挙は「違憲」となる。
「熱血公民の主張は、香港人の公民投票権獲得と全民制憲、つまり自分たちの憲法を創ること。今の基本法(ミニ憲法)の解釈権は中国全人代にしかない。香港の憲法なのだから、香港人が作り、香港人に解釈権があるべきだろう。公民投票によって、憲法改正を実現させることが私たちの運動の目標だ。今の香港の状況を客観的にいえば、香港は中国の一地方化が進んでいる。同時に香港独立を主張する若者が台頭している。だが、香港独立を強く主張すれば、必ず流血沙汰になるだろう。流血、暴動を避けるために、立法会で公民投票法を作り、憲法を変えていくことが必要だ」と訴える。そして、本土派各党、民主派との間に様々な対立点はあるとしても、基本法改正の一点については共闘できる部分があるのではないか、と期待する。
ただ鄭松泰は北京留学の経験から、中国が民主化する可能性はゼロと見切り、中国人に対しても不信感がある。「毎年5万人増える中国からの新移民も投票権が与えられる。彼らのうちにどのくらいが建制派、親中派に投票するのかはわからない。だが半分以上は親中派の票田になるのではないか。これが今の香港政治の現実だ。香港の血が入れ替えられようとしている」。青年新政の主張にも「抗赤化(抗中国化)」がある。この新移民への警戒感が本土派を二分する対立点だが、こうした対立点も含めて、議会制度によって香港のありようを決めていこうという姿勢を打ち出している。
雨傘革命から今回の立法会選挙の道のりを振り返ると、香港人、特に若者たちの政治参与の努力に少なからぬ感動を覚える。2014年秋から冬にかけて79日にわたる公道占拠――真の普通選挙を求めて行われた法律違反ともいえる若者の抗議行動は、中国当局の香港統治のあり方を改善させるどころか悪化させる形で終わり、一時は香港に言いようのない挫折感が漂った。
だが、その挫折感の中から、曲りなりにも政党と呼べるものがいくつか生まれ、立法会選挙で議席を獲得した。独立派・本土派は暴力革命も辞さない危険勢力というレッテルも張られかけたが、選挙運動で有権者と向き合い、当局からの圧力を論理的にかわすことで、自分たちの主張をより現実とすり合わせて前に進んでいる。当選後は意見・立場を異にする政党との共闘点も見出そうと、それぞれが真剣に考えている。なぜ日本の若者の政治運動に、こうした変容や成熟が生じなかったのかと思う。
3月の行政長官選挙で“奇跡”は起きるか
もちろん、中国に対する予見はたいそう甘い。北京と交渉したり、基本法を改正したりというのは、今の段階では夢想に近い。中国が香港に対して絶対に軍事行動をとらないと彼らが考える根拠は、香港が党中央の官僚たちのマネーロンダリングの場であり、その財産を守る大事な金融都市・香港の安定を損なうような真似はしないはずだ、という一点にすぎない。
だが、果たしてそうか。私の観察するところは、胡錦濤政権ならばいざ知らず、習近平政権は、香港の安定をそれほど重視していない。むしろ恐怖政治で北京への抵抗を封じようとする傾向が、例の銅鑼湾事件などからも見て取れる。
だが、それでも、選挙や議会政治という今、与えられているシステムを使って、なんとか香港を変えていこうとする若い運動家、政治家たちの情熱と努力を見ていると、なにか奇跡を期待する気持ちも抑えられないのだ。
次の香港政治の山場は来年3月の行政長官選挙。その結果いかんによっては、中国が香港政策を変更してくるかもしれない。香港の若い政治家たちの動向と香港世論の動きから、これからも目が離せない。
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