1/30日経<憲法9条2項「維持」47% 自衛隊明記で「削除」は15% 報道各社、聞き方で差 本社世論調査
日本経済新聞社とテレ ピ東京による26〜28日の世論調査で、憲法への自衛隊明記について3つの選択肢で聞くと「(戦力不保持を定めた)9条2項を維持し、明記すべきだ」が47%で最多だった。
「9条2項を削除し、明記すべきだ」は15%、「そもそも憲法に明記する必要はない」は24%だった。報道各社の肖衛隊明記をめぐる世論調査結果に違いが出ている。
9条2項を維持し、自衛隊を明記する憲法改正案は、安倍晋三首相が昨年5月に提案したもの。 自民党内には戦力不保持を定める2項を削除し、自衛隊を戦力として明確に規定すべきだとの意見がある。立憲民主党や希望の党は首相案に反対している。
日経調査では、自民党支持層では「2項維持」が55%と過半に達し「2項削除」は24%、「明記 の必要ない」は11%だった。無党派層は「2項維持」が44%、「2項削除」が8%、「明記の必要な い」が27%。立憲民主党支持層は「明記の必要ない」が5割を超えた。
憲法改正の国会発議はいつが望ましいかも聞いた。「いまの通常国会」が20%、「今年秋召集の臨時国会」が14%で、あわせて34%が年内の発議に賛意を示した。これに対し「2019年中」が 14%、「20年以降」が13%、「そもそも発議する必.要はない」が19%で、あわせて46%が年内の発 議に否定的だった。
自衛隊明記に関する世論について、自民党憲法改正推進本部の保岡興治特別顧問は日経の取材に「『戦力不保持』を削ることに抵抗感が強い人が多いのだろう。2項を維持して自衛隊を明記する案が現実的な落とし所だ」と話した。
ただ、報道各社の調査をみると質問文や選択肢の微妙な違いで異なる結果が出ている。日経で「明記する必要ない」とした選択肢について、NHKは6〜8日の調査で「憲法9条を変える必要はない」とした。すると38% がこの選択肢を選び、2項維持と2項削除を抑えて最多だった。
「2項を削除し自衛隊を明記すべきだ」の選択肢についても差が出た。読売新聞のじ日の調査では「2項は削除し自衛隊の目的や性格を明確にする」としたところ、 これが34%で最多だった。毎日新聞は20〜21日の調査で「2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける」としたところ、12 %にとどまった。
埼玉大の松本正生教授 (政治意識論)は聞き方の違いに加え「憲法改正の質問の直前にどんな内容を聞いたか、という点も結果に影響する」と話す。例えば安倍政権の経済政策に関する質問を聞いた後に憲法について聞くと、経済政策に比べれぱ憲法改正の優先順位が低いと思われ、改憲に慎重な意見が増える可能生があるという。
調査結果の違いに関しては「まだ明確な主張を持っていない国民が多いのだろう」(公明党幹部)との見方もある。松本教授は「各社の結果の違いは、有権者のなかにまだ憲法改正のリアリティがないことを示している」と分析する。
>(以上)
1/31日経<安倍氏、改憲なぜ急ぐ 国会発議、まず年内めざす 不調なら来年の二段構え
憲法改正を巡り自民党内の動きが慌ただしくなってきた。3月の党大会までに党独自の改憲案を取りまとめる方針だ。改憲を急ぐ裏にはどんな戦略があるのか。安倍晋三首相が9月の党総裁選に勝てば任期は2021年まで。自らが打ち出した20年の新憲法施行の目標から逆算して18年にまず国会発議を目指し、不調なら19年にする二段構え戦略とみられる。
衆院予算委で答弁する安倍首相(30日)
首相は改憲論議を党に任せるとの姿勢を繰り返すものの、改憲日程を首相官邸がコントロールするのは公然の事実。その首相らがこれまで視野に入れていたのは19年夏の参院選に合わせて憲法改正の投票を実施する「ダブル投票」だった。改憲の是非だけが焦点となる国民投票単独での実施よりも、集票の相乗効果が見込める。野党への批判票も改憲賛成票として上積みできるとの計算があった。
ただし19年は天皇陛下の退位や改元、参院選、日本で開く20カ国・地域(G20)首脳会議など大きな行事が相次ぐ。日本で初めての国民投票が、こうした窮屈な日程の合間を縫って実施されるべきではないとの声が永田町で広がる。
「ダブル投票」の制度的な難しさを指摘する声も強まる。参院選の選挙活動を制約する公職選挙法よりも国民投票法での国民投票運動に関する規制の方が緩いためだ。
例えば、参院選公示後の選挙期間中は、公職選挙法では戸別訪問が認められず、ポスターなどの配布制限もある。国民投票法に基づく国民投票運動だと主張すれば、戸別訪問やポスター配布も制約されない。せっかくの国民投票が大混乱しかねない。
もっともこうした政治日程や国民投票の制度的な課題などはある程度は織り込み済みで、それでも利点の方が上回るとみて官邸が照準を合わせていたはず。日程の前倒しに動くのは別の理由がある。改憲への世論の想定以上の慎重論だ。
日本経済新聞社の1月の世論調査では首相が提案する「9条2項を維持し、自衛隊を明記する」との案への賛成は47%と最多。それでも5割に満たない。
NHKの同月の調査では「9条を変える必要はない」が38%に上った。公明党は「参院選までは選挙で勝つことを優先すべきだ」と訴え、政府高官は「このままでは参院選後へ先送りされかねない」と懸念する。
そもそも参院選とのダブル投票に照準をあわせてきたのは参院選後に先送りはできないとの判断があった。国会発議には与党や改憲勢力を合わせて衆参両院で3分の2の賛成が要る。参院選で自民党が議席を減らせば、3分の2を割り込む事態もあり得るからだ。
しかし「ダブル投票」に合わせてスケジュールを進めていくと慎重な世論や公明党の反発でずるずると先延ばしされ、改憲そのものができなくなる恐れがある。「ダブル投票」という節目は視野に入れつつも、もう少し前に照準を合わせる二段構え戦略が浮かび上がる。
具体的にはこうだ。まずプランAとして参院選前の19年初めまでに国民投票を実施するシナリオを描く。世論が盛り上がり、野党も改憲論議を避けられない状況になれば、そのまま国会で改憲を発議し国民投票を実施する。
改憲への理解が思うように深まらなければ、プランBとして参院選に合わせた国会発議や国民投票をうかがう。二段構えで備えるなら「今から議論を本格化させて損はない」というわけだ。
国民投票は国会での改憲発議から60日以後180日以内に実施する。19年初めまでに実施するには、遅くとも秋に臨時国会を開いて改憲を発議する必要がある。首相や改憲に積極的な議員らは、秋の臨時国会が改憲の山場になるとみて、今国会から雰囲気づくりを進める。自民党が3月の党大会までに党独自の改憲案をまとめようと動くのも、そのためだ。
17年10月の衆院選は、当初は18年後半が本命とみられていたのを首相が1年前倒しして圧勝した。国民投票は、衆院解散と違って首相の決断だけで時期を選べないのも確か。今国会で改憲論議をどこまで詰められるかが、首相が表明した20年までの新憲法施行の実現を左右する。(島田学)>(以上)
ジェイソン・モーガン著『日本国憲法は日本人の恥である』を読みますと、「アメリカはなぜソ連と同盟を結んだのか。その背景には、ともに伝統をぶち壊すことを目的とするという共通項があったからである。
そもそもソ連の誕生はロシアの伝統(特にロシア正教会とその習慣)をぶち壊す運動の結果だった。ロシア国内では、激しい反ロシア運動が起こり、最終的にレ—ニンが登場してボルシエビズムが登場した。
一方、アメリカの連邦政府はアメリカの伝統に対して非常に否定的だった。特に南北戦争の後、連邦政府の使命はアメリカ大陸に残るあらゆる伝統を壊滅させることだった(連邦政府の先住民族に対する扱いはその古典的な例である)。
このように伝統に対する考え方の面では、アメリカの連邦政府とソ連は瓜二つだったのである。そういう意味で、私は第二次世界大戦(ほんとうの名前は、「第二次反伝統世界大戦」だと言ってもいい)で、両国が同盟をつくったのは自然なことだったのだ。
伝統を壊すという意味では、宗教を潰すことも重要だった。それはアメリカのリベラルは、伝統と宗教が堅固に存在しているとなかなか落ち着けないからだ。
なぜ落ち着けないのか。それは、リベラルが描く人間像が虚像にすぎないからである。」(P144~145)
「またその一方で、宗教をぶち壊すことに必死になった。宗教的な存在(天国、神様、教会、天使など)は政府の力などを簡単に超越してしまうからである。
ちょっと脱線するが、今の中国には政府の許可のないチべット仏教の頂点に立つダライ・ラマ(法王)の“生まれ変わり”を禁止するという、笑ってしまう法律があるそうだ。しかし、アメリカの連邦政府も同じような目で宗教を見ている。国民を思うがままに操りたい政府にとって、宗教は最も嫌いな存在なのだ。
実はアメリ力が太平洋戦争で日本を徹底的に攻撃した大きな理由のーつにこの宗教問題があったとも言える。日本はすばらしい伝統と宗教の両方を兼ね備えていた。アメリカの連邦政府にとっては、それが許しがたかった。だから、アメリカは、日本との戦争で日本の伝統と宗教を完膚なきまで粉々に壊さなければ気がすまなかったのである。
しかしその目的は、武力だけで達成できるものではなかった。そこでアメリカは日本の軍隊を滅ほしてのち、すぐさま次の戦争を始めた。日本人洗脳作戦だ。
アメリカは、占領政策を推し進める中で歴史を捏造して太平洋戦争を日本による一方的な侵略だと書き換え、日教組などを通じて、「日本」という許しがたい存在を消し去ろうとした。それは、かつてアメリカの先住民族に対して行い、彼らの伝統、宗教、過去、そしてアイデンテイテ-まで奪った方法とまるで同じだった。
そして、すべてを失った日本(言い換えればすべてをアメリカの連邦政府に奪われた日本)は、「アメリカ連邦政府という偶像を拝めば、日本の安全を保障する」という条件で、 メイド•イン.アメリカの憲法を受け入れ、アメリカの傘下に入ったのである。
つまり、今の日本国憲法はまるで偶像を崇拝しているようなものだと言っても言い過ぎではないのだ。
アメリカの連邦政府は天国や神様を忘れてしまい、神様の代わりに自分の”理性”を拝むようになっている。それはまったくの偶像にすぎないのだが、それこそ「啓蒙思想」の最終的な姿である。
そして、神様を天国から追い出したアメリカ帝国は、他国に対して自らを崇拝の対象にすることを求め、偶像崇拝の「応募者」を必死に探し、応募者が見つからなければ、戦争を起こしてでもむりやりにでもそれを実現しようとする。そういう意味では、日本国憲法は、アメリカンイデオロギーという偶像を崇拝するためのインストラクシヨン•シート(指示書)であり、そこには個人を尊重するという考え方はまったく存在していない。」(P.146~147)米国が日本を戦争に嵌めたのはFDRの個人的な性格に依るものと思っていましたが、それだけではないようです。ローマがカルタゴに押し付けたのと同じように、武力放棄の意味で憲法9条を日本に押し付けたと思っていましたが、宗教や伝統を破壊するためもあったと言うのは新しい発見です。この本は米国の歴史学会の実態も余すところなく暴いていて、読んでいて面白いです。是非ご一読を。
1/31日経ビジネスオンライン<「自衛隊」ではなく「自衛権」を憲法に定める 改憲に関するアンケートを開始 森 永輔>
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/071000146/012500019/
小生もアンケートに参加しました。実現可能性は考慮に入れず、「9条2項削除」「自衛権の行使を追加」に〇しました。
憲法改正に反対している人に聞きたいのは、北の脅威にどう対応したら良いのか教えてほしいです。金正恩は「話せば分かる」タイプではありません。日本に核投下されて全滅の道を選ぶのか、はたまた北の奴隷となって生きる道を選ぶのかのどちらかになるだけです。まあ、反対している人の大部分は深く考えず、左翼メデイアのプロパガンダに洗脳されているだけと思いますが、いい加減覚醒したらと思います。
鈴置氏の記事で2/9ペンス副大統領と安倍首相が文大統領と会って話すのなら、「これ以上北との宥和政策を採るなら、韓国がどうなろうと知ったことはない」と日米で韓国に最後通牒を突き付けてほしい。平昌パラが終わり次第、米軍は北を単独で攻撃してほしいと願っています。自衛隊は拉致被害者の救出に向かいますが、敵の陸軍の動向も見なければなりませんから慎重にやらないと。在韓邦人救出は他の諸外国と協力してとなるでしょう。
記事
平昌五輪で韓国と北朝鮮は女子アイスホッケーの合同チームを編成。「平和ムード」を演出するが…(写真提供:大韓体育会/Lee Jae-Won/アフロ)
(前回から読む)
平昌(ピョンチャン)冬季五輪を期に、韓国と北朝鮮が共闘体制に入った。敵は米国だ。
演習は永遠にやめよ
—平昌五輪を前に平和ムードが盛り上がっています。
鈴置:表面的には「平和ムード」ですが、実態は韓国と北朝鮮による「米国追い出し作戦」です。米韓合同軍事演習の再延期、あるいは完全な廃止に向け、南北は手を携えて動いています。
まず北朝鮮が「演習を永遠にやめよ」と言い出しました。朝鮮中央通信の「朝鮮政府・政党・団体連合会議」(1月24日付、日本語版)という見出しの記事から引用します。
最高指導者金正恩委員長が今年の新年の辞で提示した祖国統一課題の貫徹のための朝鮮政府・政党・団体連合会議が24日、平壌で行われた。
(報告者と各討論者は)南朝鮮当局が米国との戦争演習を永遠に中断し、南朝鮮に米国の核戦略資産と侵略武力を引き込む一切の行為を中止すべきだと強調した。
「戦争演習を永遠に中断せよ」――延期した米韓合同軍事演習を実施に移さず完全にとりやめよ、と北朝鮮は要求したのです。
合同演習は例年、3月上旬から約2カ月間実施されます。しかし、今年は1月1日の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の平昌五輪への参加表明を受け、米韓が急きょ延期しました(「『五輪休戦』で金正恩の窮地を救う文在寅」参照)。
偽装平和攻勢に反撃した米国
—北朝鮮の要求に対し、米国はどう反応しましたか。
鈴置:直ちに反撃に出ました。朝鮮日報の「米『北に変化はない……軍事パレードは国際社会への挑戦』」(1月27日、韓国語版)が、米国の反撃ぶりをまとめています。
ネラー(Robert Neller)海兵隊総司令官は1月25日にワシントンのCSIS(戦略国際問題研究所)の講演会で「(朝鮮半島での演習は)相手に『我々は準備を終えた。我々と争わない方がいいぞ』と理解させるためのものだ」と述べた。合同演習を中断する考えはないということだ。
マティス(James Mattis)国防長官も1月25日、「1953年以降、軍事オプションは残っており、今も存在している」と述べた。北朝鮮との対峙の状況に変化はない、という意味だ。
米国防総省と韓国の合同参謀本部が1月25日、同時に五輪後に直ちに合同演習を再開すると発表したのも、五輪を利用した北朝鮮の偽装平和攻勢を事前に食い止める目的と見られる。
1月26日、ナッパー(Marc Knapper)駐韓米大使代理は「(北朝鮮による合同演習の永久中断の要求は)話にならない。とても受け入れることはできない」「演習は五輪終了後に必ず再開する」と述べた。
助太刀に出た韓国
—一斉射撃ですね。
鈴置:すると、韓国が北朝鮮の援護射撃に出たのです。1月26日、趙明均(チョ・ミョンギョン)統一部長官がソウル市内で講演し、合同演習が平和の邪魔物であるかのように語りました。
朝鮮日報の「統一部長官『韓米訓練再開で昨年に逆戻り』『北、2月8日に脅威与える軍事パレードを準備中』」(1月26日、韓国語版)から、その発言を拾います。
韓米合同軍事演習を再開すれば、北朝鮮は当然、猛烈な強度で反発するだろう。北朝鮮が挑発に出る可能性が高い。
すると再び北朝鮮に対する追加制裁を科すという悪循環に陥り、昨年と一昨年のような(緊張)状況に急速に戻る可能性が高いというのが現実的な見通しだ。
—合同演習を厄介者扱いしましたね。
鈴置:朝鮮日報の記事も触れていますが、米韓の軍当局はパラリンピック(3月9日―18日)終了後、直ちに合同演習を実施すると宣言しました。何と言われようと、やめるつもりはありません。
ブルームバーグの「U.S. Military Drills With South Korean Planned After Olympics」(1月25日)が以下のように報じています。
韓国国防部の崔賢洙(チェ・ヒョンス)報道官は1月25日、米韓合同軍事演習は平昌五輪・パラリンピックの後、3月末に“普通”(“normal” )に実施されると会見で明かした。
米国防総省もそれに声を合わせた。マッケンジー(Kenneth McKenzie)中将は記者らに「五輪期間中に一時中断したものであり、演習は五輪が終われば直ちに実施する」と語った。
「普通」(normal)に――とは、演習の規模や期間は縮小せずに、との意味でしょう。開始時期は3月25日ごろと見られています。
軍事パレードで危機感あおる
—「演習は少し後ろにずらしただけ」という姿勢ですね。
鈴置:そこで北朝鮮と韓国の「親北」政権は、揺さぶりに出ました。趙明均長官は1月26日の講演で、五輪開会式の前日に実施されると見られる北朝鮮の軍事パレードを材料に、危機感を煽ったのです。
北朝鮮が2月8日、大規模な軍事パレードを準備している。かなり大きな規模の兵力と、北朝鮮が持つほとんどの兵器をこのように(動員)することで、相当に脅威のある軍事パレードになる可能性が高い。
北朝鮮は今年、政権樹立70周年の建軍節(軍創建記念日)を迎える。金正恩委員長は後継者の立場を完全に固めるため、党や国家が主催する行事を大々的に展開している。
—緊張を激化する合同演習はやめろ、と言うのですか?
鈴置:そこまで露骨には言っていませんが「米朝は取引できる」と謎をかけたのです。趙明均長官の本心は「北朝鮮が軍事パレードを中止する代わりに、米国は合同演習をやめるか再延期すべきだ」ということと思われます。講演で以下のように語っています。
時間内に(合同演習が始まると見られる3月25日ごろまでに)北朝鮮と米国の間で対話が始まるよう、誘導するのが重要だ。
米朝対話が始まるなら、合同演習は再延期される可能性が高い。というか、再延期しないと北朝鮮は米国との対話は受けない。
一方、北朝鮮が平昌五輪の開始前日の2月8日に軍事パレードを実施した場合、面子を潰された米国は対話に応じないでしょう。
文在寅(ムン・ジェイン)政権は米朝対話の開始を名分に、軍事パレードの中止と合同演習の再延期を取引させたいのです。
ウソ臭い2月の建軍節
—そんなに上手くいくのですか。
鈴置:難しいと思います。韓国の主張は、要は北朝鮮への圧力を弱めろ、ということです。合同演習を含め軍事的な圧力は経済制裁と並び、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるための貴重な手段です。
北朝鮮は米国まで届くICBM(大陸間弾道弾)を実用化する直前の段階まで来ています。今、圧力を弱めれば、状況は米国や日本にとって一気に悪い方向に傾きます。
その方向に韓国が持って行こうと画策しているのですから、米国の目には当然「南北が組んで米国をだまし、時間稼ぎしている」と映ります。そもそも「2月8日の軍事パレード」というのがウソ臭い。
北朝鮮の建軍節は1978年以降、4月25日と定められており、この日に軍事パレードを実施したこともありました。それが、今年から建軍節は2月8日――五輪開始前日――だと1月22日に突然、言い出したのです(日経・電子版「北朝鮮、軍創設の記念日 2月8日を指定」参照)。
2月の平壌(ピョンヤン)は極寒で、屋外活動には不向きです。「合同演習と取引するためのカード」を急きょ作ったな、と思うのが普通です。
「闘争しろ」と北から指令
—米国が韓国を疑うのも無理はない。
鈴置:趙明均長官も1月26日の講演で、それをポロリと漏らしました。先ほど引用した朝鮮日報の記事によると、以下のように語ったのです。
現在、進行中の状況(南北対話)に関し米国は支持しているが、憂慮しているのも事実だ。米国が我が国の政府に対し様々の疑いを持っているとの指摘もある。そんな点にも神経を使っている。
—趙明均長官も、韓国が米国や日本から疑いの目で見られていることは分かっている……。
鈴置:でも、だからと言って北朝鮮との共闘をやめるわけにはいきません。文在寅政権の中枢部――青瓦台(大統領府)では北朝鮮と極めて近い、親北派の活動家が要職を占めています。
冒頭に引用した朝鮮中央通信の「朝鮮政府・政党・団体連合会議」という記事に以下のくだりがあります。
(報告者と各討論者は)北と南、海外の全同胞は北南関係の改善を妨げ、情勢を緊張させようとする内外の好戦勢力の北侵戦争策動に反対する闘争を繰り広げなければならないと述べた。
北朝鮮から「北侵戦争策動に反対する闘争を繰り広げろ」と指令が下りたのです。米韓合同軍事演習は何が何でも阻止せねばなりません、親北政権としては。
奥の手は南北首脳会談
—でも、米国は「もう演習は延期しない」と言っています。
鈴置:南北には首脳会談を開くという奥の手があります(日経・電子版「北朝鮮、次の『時間稼ぎ』は南北首脳会談」参照)。
平昌五輪で平和ムードを盛り上げたうえ、パラリンピック閉幕(3月18日)の後に韓国と北朝鮮が首脳会談を開く、と発表するのです。1月26日の講演で、趙明均長官はそれを示唆する発言もしています。
(五輪・パラリンピックが終わった後の)4月にも(南北関係が)続く動力を確保し、6月以降も引き続く状況をいかに醸成するかが我々に与えられた課題だ。
「南北関係が続く」最大の原動力は首脳会談です。南北の間で何らかの合意を成すには、これ以上の対話はありません。
世界の多くの国も南北首脳会談の開催を歓迎するでしょう。北朝鮮の核武装とさほど関係ない国は、偽装の平和であっても目前の軍事衝突が避けられればいいのです。
それに専門家でない限り、普通の人は文在寅政権が親北派に動かされていることを知りません。普通の人は、対立していた南北が話し合うのだからいいことに決まっている、と思います。
そんな中「米韓合同軍事演習を予定通りに実施する」と米国が言い続けられるでしょうか。米国の中からも北朝鮮の核問題に関し「南北首脳会談の進展を見守ろう」といった声が出るのは間違いありません。
子供だましの時間稼ぎ
—普通の米国人はともかく、事情を知る指導層までも「核問題の解決は南北に任せよう」と考えるでしょうか。
鈴置:韓国は米朝対話をエサに南北首脳会談を飲ませる作戦です。米国に「南北首脳会談は米朝対話を実現するためのものだ。文在寅大統領が金正恩委員長に会ったら、米国と話し合う機会を持つよう説得する。米国は北と直接話し合っては核を放棄させればよい」と持ちかけている模様です。
1月27日にハワイで開かれた米韓国防相会談の冒頭、宋永武(ソン・ヨンム)国防長官が「南北対話は究極的に北朝鮮を米国との(非核化)対話に導くためのものという文在寅大統領の発言に関し(マティス国防長官と)意見を交換する」と語っています。
中央日報の「マティス国防長官『南北間の五輪対話は核問題解決できない』」(1月29日、日本語版)などが報じました。
なお、この記事の見出しから分かるように席上、マティス国防長官は「五輪対話では核問題は解決できない」と改めて韓国にクギを刺しています。
—米朝対話が実現したとして、北朝鮮は核を放棄するのでしょうか。
鈴置:その可能性は極めて低い。どんなに早急に米朝会談を開くとしても数カ月先。そのころ、北は米国まで届くICBMを完成しています。
米国から少々脅されても「ワシントンが消滅してもいいのか」と脅し返せるようになるからです。そんな子供だましの時間稼ぎ作戦に米国が乗るとは思えません。
原潜寄港を拒否した韓国
—韓国は、北が核武装してもいいのですか?
鈴置:いいのです。北朝鮮の核は「民族の核」です。日本や米国に落とす核であって韓国には落ちて来ない――と多くの韓国人が考えています。北の核に必死で反対するのは保守の一部だけです(「『南北共同の核』に心踊らす韓国人」参照)。
「同盟よりも民族」を象徴するエピソードがあります。韓国メディアは「米攻撃型原潜が1月18日に釜山に寄港する予定だったが、南北関係への影響を懸念する韓国政府が断った」と報じました。
聯合ニュースの「米原潜、釜山港に入港しようとしたものの計画変更」(1月17日、韓国語版)などで読めます。
韓国は、北朝鮮に軍事的に脅されるたびに米国に対し「同盟国の義務」として爆撃機や原潜など「戦略資産」を派遣するよう求めてきました。
その韓国が、北朝鮮の顔色を見て原潜の寄港を断ったというのです。「寄港拒否」を社説で批判したのは朝鮮日報ぐらい。ほかの保守系紙はさほど反応しませんでした。
「原潜の寄港を認めて北を怒らせたらどうするのか」「民族の和解の舞台となる五輪に水を差すな」といった読者の反応が怖かったのでしょう。韓国人にとって、核を持つ同族との良好な関係が、米国との同盟よりも重要になってきたのです。
「『米韓同盟破棄』を青瓦台高官が語り始めた」で、第2次朝鮮戦争は「米日VS北朝鮮」の戦いだ、と述べました。いざという時に、韓国が中立を宣言する可能性が高まったからです。
しかし、平昌五輪を契機に韓国が北朝鮮側に付いたので、それは「米日VS南北」に変化しました。朝鮮半島の対立の構図が根本から変わったのです。「米日韓VS北朝鮮」という図式など昔話です。
安倍に「SOS」の米国
—構造の急変に韓国人は気がついているのですか?
鈴置:一部のメディアが報じ始めました。中央日報の1月26日の解説記事の見出しが「平昌五輪、『韓VS米日』の対決の場に変質か」(日本語版)でした。
韓国語版の元記事(1月25日)の見出しは「『安倍、平昌に一緒に行ってくれ』とペンス米副大統領がSOS」ですが、サブ見出しが「平昌が平和の祭典? 『韓VS米日』の対決の場に変質か」でした。
筆者はソ・スンウク東京特派員。安倍晋三首相が五輪開会式に出席することにしたのは、訪韓するペンス(Mike Pence)副大統領とスクラムを組んで南北朝鮮の対話ムードを牽制するためだ、と分析した記事です。
なお、ソ・スンウク特派員はその1日前にも「平昌行きを『大決断』という安倍首相、彼が来る本当の理由は…」(1月24日、日本語版)を載せています。
この記事では「ペンス副大統領が率いる米国の訪問団が平昌を訪問する中、日本だけが疎外されることを懸念した可能性もある」と書いていました。「韓米がスクラムを組み、日本がのけ者になる」と見ていたのです。
五輪をハイジャックした金正恩
—なぜ、1日で見方が変わったのでしょうか。
鈴置:ペンス副大統領の訪韓の目的は五輪の開会式出席という儀礼的なものではなく、北朝鮮が五輪をハイジャックして宣伝戦の場にするのを阻止するためだ、と報じられたからでしょう。
ロイターの「Pence aims to counter North Korea ‘propaganda’ at Olympics: White House」(1月24日)によると、匿名の米政府高官が以下のように語りました。
金(正恩)が平昌五輪をハイジャックし、その発するメッセージを思い通りにするとペンス副大統領は非常に懸念している。
北朝鮮は前々から、そうした操作が天才的に上手い。非常に危険な国だ。ペンス副大統領は訪韓中にメディアの取材を受ける。
ペンス副大統領は――たぶん安倍首相も、韓国で「北朝鮮の偽装平和攻勢に騙されるな」と呼びかけるのでしょう。
民族の和解を恐れる日本
—北朝鮮と文在寅政権は、それにどう対抗するのでしょうか。
鈴置:すでに「民族の和解を米国と日本が壊そうとしている」と韓国人に、あるいは世界に向け宣伝し始めています。
朝鮮中央通信は1月24日付で「日本は朝鮮民族の和解雰囲気がそんなにも快くないのか」 (日本語版)という見出しの論評を配信しました。以下が書き出しです。見出し同様に、日本語が少しおかしいのですが、そのまま引用します。
全世界が朝鮮半島情勢の緩和に支持と歓迎の声を高めている時、米国に劣らず意地悪く振る舞って邪魔する国がある。狭量のことで政治小国と指弾を受ける日本がそうである。
五輪により南北の友好ムードが高まるにつれ、こうした視点で報じる韓国紙が出てくるでしょう。すでに韓国語のネット空間には「米国と日本が民族分断を画策する」との声が登場しています。
北朝鮮を胡散臭い国と見る韓国人は多い。でも、彼らも「大国によって同民族が仲たがいさせられる」ことには憤りを覚えます。
試合を通じ反米・反日感情が高まるのではないかと警戒する韓国の親米保守派もいます。例えば、女子アイスホッケーで南北合同チームと日本が対戦し、米国人が審判を務めるケースです。
もし、合同チームにとって不当な判定が出たと思えば「民族の和解を嫉妬する米国と日本の陰謀だ」と騒ぐ韓国人が出ると思います。
騒ぎを起こせば南北の勝ち
—ソウル五輪(1988年)でも騒ぎがありました。
鈴置:ボクシングの試合で、判定に不服でリングに座り込んだ韓国選手がいました。会場の係員も照明を落とすなど騒ぎを大きくし、一部の新聞も民族感情を煽りました。
平昌で「大国の横暴」を思わせる事件が起これば、北朝鮮や文在寅政権にはしめたものです。「米国に頼らず我々、血を分けた兄弟だけでやっていこう」「まずは米韓合同軍事演習を拒否しよう」といった声がSNS(交流ソフト)などで噴出すると思われます。
もちろん、こうした事件は偶発的なものですから、起こるとは限りません。ただ、平昌五輪が「米日VS南北」という対立構造への分岐点となるのは間違いない。五輪を期に韓国が、国の基本姿勢を「同盟」から「民族」へと大きくカジを切ったからです。
そんな韓国に、ペンス副大統領や安倍首相が出かけて行って「偽りの平和」を批判する――。それは「民族分断を画策する悪役」を演じることを意味します。
(次回に続く)
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