『FT 習主席が軍改革に意欲的な理由』(日経ビジネス8月8・15日号)について

本日から北戴河会議が行われるようです。<8/6日経 中国、人事巡り攻防激化 「北戴河会議」始まる

【北京=永井央紀】中国共産党の習近平指導部が党長老らと国内外の重要問題について話し合う非公式会議が5日までに河北省の避暑地、北戴河で始まったもようだ。最大の焦点は新たな最高指導部を選出する来秋の党大会に向けた人事の協議。習氏が2日に李克強首相らの出身母体である党青年組織、共産主義青年団(共青団)への統制強化策を打ち出すなど攻防は熱を帯びつつある。

 中国国営新華社は5日、党序列5位の劉雲山政治局常務委員(中央書記処書記)が北戴河で、各界の専門家との会合に参加したと伝えた。馬凱副首相や趙楽際党中央組織部長が同席しており、多くの党指導者が北戴河に集まっているとみられる。

 北戴河にある指導者専用の保養施設では5日、党高級幹部や軍高官を乗せたとみられる車列の出入りが確認できた。地元関係者によると7月下旬から交通規制が始まり、今月1日以降に「指導者が相次いで到着している」という。施設周辺は私服警官を含めた厳しい警備が敷かれ、専用ビーチの沖合では海警局の船が警戒に当たっていた。

 中国共産党は5年に1度の党大会で最高指導部を入れ替える。68歳以上が引退する慣例に従えば、来秋は7人の政治局常務委員のうち5人が交代。習政権の2期目を左右する人事をめぐり、長老も巻き込んだ北戴河会議が攻防の舞台となる。

 党中枢に詳しい関係者は「従来よりも党内の不満が高まっており、習氏が思い通りの人事ができるかは不透明だ」と言う。習氏は2012年に党総書記に就いて以降、江沢民・元国家主席につながる党幹部を相次いで汚職容疑で摘発し、権力基盤を固めてきた。李首相や胡錦濤・前国家主席ら共青団出身のグループとは一定の協力を保ってきたが、共青団系への摘発が続くにつれ関係が冷え込んできた。

 水面下では「習氏のやり方は強引すぎる」との批判がうずまく。成長鈍化が鮮明になった経済情勢や、「核心的利益」と位置づけてきた南シナ海の権益主張が国際仲裁裁判によって否定されたことも批判材料で、江派と共青団系の双方が不満を抱えているという。

 習氏は党内の引き締め強化で対抗する構えだ。「共青団改革計画」。党中央弁公庁が2日、唐突に発表した文書は党内に激震を走らせた。改革を「党を厳格に統治する一環」と位置づけ、共青団に対する統制強化が明確になったためだ。「習総書記の一連の重要講話を全面貫徹する」と忠誠を求める文言も入った。

 最も関心を集めたのは共青団幹部の人数を減らすというくだり。関係者は「これまで団幹部に約束されてきたスピード出世の特権が小さくなる」と指摘する。北戴河会議の時期に合わせた発表は、共青団の求心力をそぐ狙いとの見方が多い。

 6月末に開いた政治局会議では「共産党問責条例」が制定された。「民衆が強烈に反発した」「党の政治基盤を損ねた」などの時には党幹部の責任を追及すると明記し、習氏の政権基盤の源とも言える反腐敗運動を一段と強化した。習氏の右腕として摘発を取り仕切る王岐山・党中央規律検査委員会書記は「千回の働きかけよりも一回の責任追及だ」と党内にハッパをかける。「次に摘発される大物は誰だ」――。党内のあちこちで、不安げな会話が聞こえる。

北戴河会議とは・・・中国共産党の指導部が長老らと夏に重要事項を話し合う非公式の会議。北京から車で約3時間の避暑地、北戴河(ほくたいが)で開くことに由来する。避暑と休養を兼ねて同地を訪れていた毛沢東氏のもとに党幹部も集まるようになったのが起源。中国メディアが開催の事実を報じることはなく、会期も分からない>(以上)

8/6宮崎正弘氏メルマガでは中国人民解放軍内の「江沢民残党」を一斉粛清 田修思につづき、李継耐と寥錫龍将軍が失脚。北戴河会議が大揺れ?

 河北省秦皇島にある北戴河地区は警備が強化され、高級車の出入りが激しくなった。恒例の北戴河会議が開幕した模様である。

 その矢先にどかんと北京政界を揺らすニュースだ。

 軍人のトップである中央軍事委員会のメンバーだった李継耐と寥錫龍将軍が失脚したらしいという情報は北戴河会議を揺らしたに違いない。一説に江沢民は欠席するという情報がある(多維新聞網、8月6日)

 軍人高層部の粛清は、もともと谷俊山中将の失脚から開始された。摘発したのは劉少奇の息子で軍改革の旗頭だった劉源である。

劉源は15年師走に突如引退を声明し、習近平の軍師役を降りたが、腐敗幹部からは目の仇にされていた。

 江沢民派だった徐才厚将軍は末期ガンで入院中の病棟で逮捕され(その後、死亡)、ついで蘭州軍区のボスでもあった郭博(伯の誤り?)雄将軍が拘束、さきごろ無期懲役の判決が出た。ふたりの自宅や愛人宅からは「大判小判ざくざく」。ともかく現金と金塊、高価な骨董品多数が発見された。

 郭博雄への判決直後、田修思が拘束され、ついで江沢民派の残党として目を付けられてきた李継耐と寥錫龍将軍が拘束されたと『南華早報』が速報した(8月5日)。

ともに容疑は「重大な規律違反」。だれもが、この遣り方は習近平の軍内部にくすぶる江沢民残党狩りと認識する。

なにしろ胡錦涛時代の軍事委員会は殆どが江沢民人事で高層部が固められ、そのうちの四人(徐才厚、郭博雄、李継耐、寥錫龍)が失脚するわけだから「江沢民残党四人組」とでも今後言われるかもしれない)。

李継耐(74)は前総政治部主任、軍事委員会委員。つまり胡錦涛政権で軍のトップテンに入る大物である。

将軍人事、軍事委員への抜擢は江沢民が行ったことで知られる。

寥錫龍(76)は前総装備部主任。軍事委員会委員。かれもまた胡錦涛政権下で軍人トップテンに入る。江沢民によって出世の道が開かれた。

寥はベトナム戦争に参加した歴戦の勇士という評価もあるが、出身地の貴州省名産「マオタイ酒」を「軍御用達」にしたことで知られる。

軍兵舎は夕方ともなればマオタイ酒の宴会で、酒気が溢れ、戦争どころではなく、基地の隣にはこれまた軍経営の売春宿。軍の腐敗はきわまった。

なお、このニュースは南華早報がつたえたもので、まだ確認はとれていない。>(以上)

 習近平の軍の改革の意思やよし、でも軍の抵抗勢力の目を逸らすため外敵(主敵は憲法上の制約がある日本)を作り、戦争を始めるつもりのリーダーは時代認識ができていないとしか言いようがありません。中華思想に凝り固まった、自己中心の中国人に言っても詮方なき話ですが。宇野重規の『保守主義とは何か』の中に、「(エドマンド)バークのもう一つ興味深い概念に「時効(prescription)がある。これは英国人の自由を「相続財産」と呼んだこととも関連するが、バークにとってあらゆる権利は歴史的に認められてきたものであった。

人がある土地を占有し続けることによってその所有権が認められるように、王国もまた、その出発点が征服であったとしても、その後長く平穏に統治し、人々がそれに服従することによって正統性を得る。「時効こそ、草創においては暴力的だった政府を長年月の慣行を通 して熟成し、合法性の中に取り入れて来るものなのです」(同前)。

逆にいえば、時効によって認められてきた権利を、権力が恣意的に奪うことは暴力に等しい。フランスの新政府による財産の没収や、それを担保にしたアシニャ紙幣の発行は、そのような時効に基づく秩序を破壊することを意味した。

パー.クの考えるところ、国家とは、いま生きているものだけによって構成されるわけではない。「国家は、現に生存している者のパートナーシップたるに止まらず、現存する者、既に逝った者、はたまた将来生を享ける者の問のパートナーシップとなります」(同前)。現役世代が勝手に過去から継承したものを否定したり、逆に将来世代を無視した行為をしたりしてはならないのである。

いま生きている人間は、自分たちが生きている時代のことしかわからない。それゆえ現在という時間によって制限された人々の理性は、過去と未来の世代によって補われる必要がある。バークは現在の人間の視点を、時間軸に沿って拡大することによって補完しようとしたのである。

以上のように、バークの保守主義は、すべてをゼロから合理的に構築しようとする理性のおごりを批判するものであり、一人の人間の有する理性の限界を偏見や宗教、そして経験や歴史的な蓄積によって支えていこうとするものであった。

人間社会はけっして単線的に設計されたものではなく、むしろ歴史のなかでたえず微修正されることで適応•変化してきた。そうである以上、社会が世代から世代へと受け継がれてきたものであり、また将来世代へと引き継がれることを忘れてはならない。パークの保守主義はそのことを説き続けたのである。(P.60~63)」という一節が出てきます。

バークは18世紀に生きた思想家ですので、時代の制約を受けます。第一次大戦後のパリ不戦条約で戦争の放棄が謳われました。但し自衛のための戦争は除外されないとのことで現在も小規模な戦争が行われている訳です。バークの時効の概念は、歴史を逆回転させて昔の土地所有者の権利を認めれば今の所有者との間で戦争になるので、一定期間平和的に暮らす人々が居れば現行の所有者の権利を認めようというものです。中国の採っているチベット、ウイグル、モンゴル政策は平和的な生活を保障したものでありませんので、彼らには独立する権利があります。中国共産党に乗っ取られた漢民族もそうですが。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E6%88%A6%E6%9D%A1%E7%B4%84

中国の南シナ海の侵略行動は、第二次大戦で日本が負け、新南群島の領有権がハッキリしないため起きた問題です。でもバーグのいう時効の概念とは真逆です。鄭和の時代に通ったことがあるにしても領有したことにはならず、所詮国民党の11段線の焼き直しであることがばれていますので、とても平和的に領有を重ねてきたとは言えないでしょう。況してや、国際仲裁裁判の判決を無視し、傲然とした態度では中国への国際社会の視る眼は益々厳しくなるでしょう。いくら札束で誤魔化そうとしても。国際連合のG5の特権も剥奪すべき、或は脱退勧告すべきでしょう。

http://www.sguc.ac.jp/assets/files/d-kiyou/2015/08han.pdf

中国も米国の軍産複合体と同じように軍部が力を持っています。それを軍経験のない習近平が力で捻じ伏せようとすれば、どういう展開になるかですが。習の暗殺、クーデターが起こり、軍閥が割拠した時代に戻るのかどうか。解放軍もサラリーマン化して袁世凱が軍を持たない孫文を追い出し、臨時大総統になるような芸当の人物はいないのかも知れません。

どうなるにせよ、北戴河会議の人事がどうなるかが注目点です。

記事

習国家主席は、2012年11月に中国共産党総書記に就任して以来、人民解放軍の改革に力を入れてきた。鄧小平や胡錦濤前国家主席を見て軍を抑えなければ本当の権力を手にできないと知ったことが背景にある。腐敗撲滅によって軍部の権力を弱体化させる一方で、米国に対抗できる軍の近代化を図るのが狙いだ。

Xi in camouflage

今年4月20日、北京に完成した連合作戦指揮センターを迷彩服を着て訪問した。このことは習氏が人民解放軍をも掌握したことを改めて印象づけた(写真=新華社/アフロ)

 習近平国家主席は、今年4月、中国軍の新しく完成した連合作戦指揮センターを迷彩服姿で訪問した時、政界のエリートにメッセージを送っていた。

 これまで指導者が人民解放軍を訪問する際は、必ず緑色の人民服を着た。それは、中国共産党の軍事的な役割と文民的な役割を服装で区別する慣習に沿ったものだった。

軍を自分の権力の中核にした

 それだけに習氏が迷彩服で登場したのは斬新だっただけでなく、習氏の軍に対する態度の変化を示していた。習氏は軍を国家主席という権力の座の中核に据え、個人的な権威の支柱にも据えてきた。

 「習は意図的にこの伝統を破った」と、米中央情報局(CIA)で以前、東アジア担当副長官補佐を務め、現在は中国の軍事専門家で、米ジョージタウン大学で教壇に立つデニス・ワイルダー氏は話す。「彼が(迷彩服で訪問することで)伝えようとしたのは、自分は党を代表するだけでなく、諸君(軍)の一員でもある、ということだ」(同)。

 習氏の連合作戦指揮センターへの訪問は、テレビで全国放送された。習氏が北京の新施設でリアルタイムの作戦データが映し出されたスクリーンを見ながら、将校らと話す映像が流された。

 米カリフォルニア大学サンディエゴ校の中国軍の専門家、張太銘氏は、あのテレビ放送は「習氏が軍の現場レベルにまで関与しているという事実を浮き彫りにした。それは最近の中国指導者には見られなかった特徴だ」と指摘する。

 アナウンサーは習氏のことを軍の統合作戦の「総司令(最高司令官)」と呼び、習氏に軍で新たな肩書がついたことも明らかにした。総司令という肩書は、毛沢東の下で革命の元帥を務めた朱徳が1949~54年に使ったのが最後だ。

 習氏は既に党中央軍事委員会主席であり、軍に対する最高権力を持っているので、新たな肩書は形式的なものにすぎない。しかし、党の肩書に加え、軍においても肩書を得たことで、習氏の象徴的な権威は一層強化されることになった。

 習氏は強い指導者としてのイメージを強めるために階級や制服を利用した最初の政治家ではないが、昨年9月3日に行った大規模軍事パレードなど他のエピソードと総合すると、今回の派手な式典は、毛沢東や鄧小平が中国を率いた時代以来見られなかった形で習氏を軍と結びつけるよう設計されていたようだ。

毛沢東も最高司令官でなかった

 米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国政治専門家のクリストファー・ジョンソン氏は「毛沢東でさえ最高司令官ではなかった。これは全く新しいことだ」と言う。

 さらに重要なことに、習氏は軍を改革する戦いで自分の勝利を印象づけるために今回の施設訪問を利用したと観測筋は指摘する。軍の改革は往々にしてむごいプロセスを経る。習氏による軍改革も反腐敗運動の一環として、過去2年間で数百人の軍高官を粛清した。今後さらに陸軍の30万人の人員削減を進める計画だ。

PLA Navy

中国は習国家主席の下、陸軍を縮小し、海軍と空軍の増強に力を入れている(写真=新華社/アフロ)

 連合作戦指揮センターの開設式典では高度な技術を披露したが、軍の新たな秩序も示された。中国軍が21世紀の戦いに備える中、陸軍中心の時代が終わり、海軍や空軍、戦略ロケット部隊が台頭していくということを世に知らしめた。

 あるアナリストによると、腐敗撲滅運動は軍をばらばらにし、習氏の直轄下で組織の抜本改革を進めるために、まず軍を「弱体化」させる副作用もあったという。

 シンガポール国立大学東アジア研究所の劉伯健研究員は「人民解放軍内の派閥主義を打破することは、反腐敗運動の大きな狙いの一つだった」と説明する。同氏によると、軍上層部の粛清で既に少なくとも37人の将校が失脚し、全員が裁判にかけられている。

1949年以来の軍の大改革

 1949年の革命以来の広範に及ぶ改革とされる今回は、軍の報告体制を組み替え、その新体制を習氏直轄の指揮下に置き、軍の権限も一部奪った。

 一連の粛清は対立する勢力を排除し、習氏の権威を強化するのが狙いだった。軍の既得権益にメスを入れることで、習氏は過去40年間のどの指導者と比べても最大と言えるような賭けに出ている。

 「銃口から政権が生まれる」と言ったのは毛沢東だ。彼の死後、国家の基盤を成す軍と共産党の緊張した関係にあえて介入する人はほとんどいなかった。

 だが、軍はこの過去40年の間に派閥主義と腐敗がはびこり、政治指導部を見下していると言われるようになった。過去の指導者はこうした軍の態度を容認したが、習氏は明らかにこれを改革の優先事項と見なしている。

 先のワイルダー氏は、「指導者は常に軍との関係を考えなければならなかった」と言う。軍の共産党に対する関係を「条件付きの服従」と表現する同氏はこう指摘する。「軍こそが党の権力基盤なので、軍との関係は指導者にとって非常に慎重に扱うべき問題だ」。

 軍は公式には党に従属しているが「実は本当の意味で従属する相手は、中央軍事委員会主席(習氏)だけだ。今や習氏と軍の関係が政治体制全体のあり方を決定づけている」とワイルダー氏。

 ロシア国立研究大学高等経済学院の中国軍の専門家、ワシリー・カシン氏の言い方はもっと直截で、「習氏は軍を自分の政治的権力基盤にしつつある」と指摘する。

 この軍と党の微妙な関係の見直しは、米国と中国が南シナ海でにらみ合っているという重大な局面下で進んでいる。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が7月12日に、南シナ海における中国の領有権主張を退ける判断を下した後、人民解放軍は判決を受け入れないことを各国に思い起こさせるため、大規模な軍事演習を実施した。

 国内での政治力を挽回しようと軍がもっと強気な姿勢を取るべきだと働きかけている可能性があり、心配だと欧米の一部アナリストは話している。

 改革の狙いは米国に対抗できる軍を持つことだ。中国は2030年までに技術力と作戦能力で米国と肩を並べるか超えるとしているが、その達成は容易ではない。

 中国は過去四半世紀、ほぼ毎年、率にして2桁のペースで軍事費を増大してきたが、米国はまだ推定2000億ドル(約20兆円)とされる中国の年間軍事予算の3倍を軍事費に投じている。

日本との戦争の敗北は破滅的

陸軍中心から海軍、空軍強化へ ●中国人民解放軍の概要

PLA's data

*1=大陸間弾道ミサイル *2=弾道ミサイル発射能力を備えた原子力潜水艦 出所:Financial Times

 一方、人民解放軍の技術レベルの低さは有名だ。最近の戦争に当たる1979年のベトナムとの国境紛争では、兵士がサンダルとソフト帽を身に着け、戦場での通信手段に信号旗を使っていた。

 また、空母や原子力潜水艦、ステルス戦闘機といった新世代のハイテク兵器が次々と生産されているが、専門家は、中国がこれらの兵器を効果的に使えるようになるには何十年はかからないかもしれないが数年は必要だという。

 専門家はさらに、米国はおろかアジアで対立する日本が相手でも、中国軍の今の力では戦争に勝てるか疑わしく、敗北した場合、政治的な代償は破滅的になりかねないと言う。「日本に戦争で負けたら、中国共産党にとっては全てがおしまいになる」(ジョンソン氏)。

 人民解放軍は農民のゲリラ軍として20年代に誕生し、49年の国共内戦で国民革命軍を倒し、共産党が政権の座に就いた後、国家の2本柱の1本になった。60年代の文化大革命の大混乱後、中国で機能している数少ない機関の一つとして台頭。推定700万人規模に拡大した軍はいわば「国家内国家」となった。毛沢東の死後、鄧小平は軍の権力に何らかの手を打とうとし、兵士の数を100万人減らそうとした。

胡前主席から教訓学ぶ

 ワイルダー氏はこう語る。「ベトナムとの戦争後、鄧小平が軍に立場をわきまえさせた様子を目の当たりにした習氏は今、同じ手を使っている」。

 習氏を突き動かしているもう一つの要因は、胡錦濤前国家主席と軍との関係だ。決定的だったのは2011年1月、ゲーツ米国防長官(当時)が北京で胡氏との会談に臨むタイミングで空軍が国産ステルス戦闘機の初飛行試験を行った時のことだ。ゲーツ氏は後に、「胡氏は飛行試験に驚き(編集部注:飛行試験が行われたことを知らされていなかったとされる)、外国の客の面前で屈辱を味わったと思う」と述べている。

 「この数年間、軍と文民の指導部の間に食い違いの兆しが何回か見られた」とゲーツ氏は当時、語った。

 カリフォルニア大学の張氏は「習氏は次期指導者になる準備期間中に胡氏と軍の関係の問題を目の当たりにしたことで、軍部に対する考え方を固めていったはずだ」と言う。

 習氏は実権を握って数カ月で最初の一撃を繰り出し、翌2013年11月に長期的な兵力削減と抜本的構造改革を進めると発表した。同氏は、人民解放軍の創設以来、4本の柱となってきた兵站(へいたん)を担う「総後勤部」と「総参謀部」「総政治部」「総装備部」を事実上解体した。これらの部はまだ存在こそするが、その影響力は劇的に弱められた。

 「共産党員は自分たちの系譜を内戦中に創設されたこの組織にたどる。しかも中華人民共和国の設立より20年も古いこれらの組織が事実上解体されているというのは、極めて衝撃的な動きだ」と前出のカシン氏は言う。

 並行して、反腐敗による粛清は徐才厚・元中央軍事委員会副主席や郭伯雄・前中央軍事委員会副主席を含む大勢の軍幹部の逮捕につながった。徐氏、郭氏も昇格人事で便宜を図る見返りに賄賂を受け取った罪に問われた。

Xu Caihou & Guo Boxion

腐敗撲滅は軍部の徐才厚・元中央軍事委員会副主席(左、収監前に死亡)や郭伯雄・前中央軍事委員会副主席(無期懲役)まで葬った(写真=2点:AP/アフロ)

まだ強い改革への抵抗

 徐氏は裁判を経て収監される前にがんで死亡。郭氏は7月25日、無期懲役の判決を言い渡された。

 改革と粛清の真の狙いは、軍内部の権力の本質を変えることだった。全ての部署は現在、陸軍主導の総参謀部ではなく、習氏率いる中央軍事委員会の支配下に置かれている。各部署は11機関(新設されたものも含む)と権力を共有するが、全て軍事委の直轄下にある。

 上海政法学院の海軍専門家、倪楽雄氏によれば、それでも舞台裏では軍内外からの抵抗が続いているという。「改革にはつきものだが、内部にも抵抗勢力がまだいる」。

 腐敗にうんざりしている若手将校など、軍の改革を支持する者もいるが、軍全体としては改革に抵抗している。過去1年間に軍の機関紙に掲載された多くの記事が共産党に対する忠誠を呼びかけていた。

 観測筋によると、当局が軍の支持を得ているとの自信を持っていたら、こんな記事の掲載は必要ないという。

 抵抗が最も強いのが、歴史的に軍を支配してきた陸軍だ。海軍、空軍、戦略ロケット部隊が重視されるのに伴い失うものが最も大きいからだ。

 「(陸軍の制服の色である)緑を着ている人は改革が気に入らない」とCSISのジョンソン氏は言う。

 もう一つの重要な要素は軍再編に伴う経済的影響だと倪氏は付け加える。社会不安を何にも増して恐れている習政権は、折しも経済が勢いを失い、一部の産業が既に何千人も人員を削減している時に、30万人もの兵力の削減をうまく進めなければならない。

 「地方政府は近く退職を予定している者に仕事を用意する圧力にさらされている。そのため、既に飽和状態にある組織内にさらにポストを新設する必要に迫られるかもしれない」(倪氏)

アジアの軍事費拡大を招く

 軍の改革により中国の近隣諸国が安心して眠れるようになることはないだろう。南シナ海と東シナ海では対立が生じる恐れが高まっている。ある近隣国の外交官は、軍を改善しようと改革に必死な中国の姿勢は「間違いなく地域の国々に合図を送っている」と言う。

 主に中国と近隣諸国が一触即発の緊張関係にあることから、各地で軍事費が拡大している。ストックホルム国際平和研究所の調査によると、アジア・オセアニア地域では、昨年の軍事費が世界で最も高い伸びを見せた。戦争で荒廃した中東の防衛予算の伸びをも上回る伸びだ。

 目下の問題は、新たに改造、近代化されたが、まだ試されていない「戦闘マシン」で習氏が何をする気なのかということだ。

 ベルギーに本部を置く非政府組織(NGO)の国際危機グループ(ICG)の謝艶梅氏(北京在勤)は、習氏が強硬派というイメージを打ち出し、軍への関心を深めているために中国がナショナリズムの方向に振れていると指摘する。

 「習氏は国家主義者で、自信に満ちた強硬イメージを打ち出したいと思っていると世間は感じており、そのため配下の政府高官や官僚たちは皆、それに合わせて自分の言動を調整している」

Charles Clover ©Financial Times, Ltd. 2016 Jul. 26

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『なぜ中国は日本人をスパイ容疑で逮捕し続けるか 「日中友好人脈」潰しの動き、その意図を読む』(8/3日経ビジネスオンライン 福島香織)について

中韓は自分の利益の為には、平気で嘘を言い、歴史を改竄・捏造する民族ということを日本人は頭に叩き込んでおかなければなりません。彼らは荒っぽいことも平気でしますし、裏切ることも良くあります。いくら温情をかけても感謝することはありません。2001年1月の大分老夫婦殺人事件などその最たるものでしょう。中国と韓国からの留学生が、彼らの身元保証人を引き受けてくれていた老夫婦を惨殺したものです。また、2003年に福岡県福岡市東区で発生した、中国人留学生3名による一家四人の強殺事件もありました。未開の部族と同じです。法の支配などある訳がありません。

「自分がするから他人もそうする」という発想で、日本人は中国人・韓国人も日本人同様良い人が多いと思いがちです。ですから騙されたり、挙句の果ては殺されたりするわけです。もっと警戒感をもって彼らを見なければ。中国人・韓国人も当然同じような発想をして、自分達だったら必ずこうするだろうという妄想の挙句、出て来たのが、南京虐殺や従軍慰安婦の問題です。日本人と中国人・韓国人は考え方だけでなく行動も違います。戦後日本は歴史戦でずっと負け続けてきました。河野洋平や加藤紘一、鳩山由紀夫のような政治家を選んだ国民が最終的に責任を負います。やっと通州事件をユネスコに世界記憶遺産として申請しましたが、これも民間の手によるものです。外務省は無能の集団です。

スパイ容疑で逮捕されたのは鈴木英司日中青年交流協会理事長です。元々左翼で中国に貢献してきた人間を逮捕するのですから、中国人に恩義の概念はないという事です。団派と習近平の権力争いの余波が及んだと多くの人が見ているようです。しかし、数十年も中国人と付き合ってきて、その本質を理解できなかったとは不思議です。中国人の基本的価値観は「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という事ですので。イデオロギーに染まって目が曇ったのか、贖罪意識に苛まれたのか、或は下々と付き合わず中国人の本質を示す事例にぶつからなかったのかどうか。小生は中国駐在8年間で、4回裁判や労働裁判をしました。やはり、白地で事実に基づき発想することが肝要かと。井戸を掘った人間ですら逮捕拘留されるのですから、そうでない人は猶更です。日本企業の経営者は駐在員を早く中韓から帰すべきです。

8/4宮崎正弘氏メルマガの書評に<石平、陳破空『習近平が中国共産党を殺す時』(ビジネス社)

中国共産党の統治はいずれ斃れるが、自壊するのか、滅ばされるのか、 清朝のように自然消滅か、「問題はどうやって死ぬかだ」という問題意識 からふたりの議論は侃々諤々、はてしなき広がりを見せる。

そうだ、どうやって中国共産党は死に絶えるのか。

長崎へ講演旅行の往路で半分、帰路にのこり半分を機内で読んだ。表題 が表題だけに、あまり他人の目に触れないように気を配りながら(冗談)。

それにしても陳破空氏の展開する奥の院のすさまじいばかりの権力闘争の分析を聞いていると、さもありなんと頷く反面、いったいこれはどこまで本当の話なのかといぶかしい部分が頻出してくる。

陳破空氏は天安門事件のおりの指導者の一人で広東で活躍し獄中数年の 筋金入りだ。いまは米国に亡命し、ニューヨークに住む。

対談相手の石平氏は、こんかいは主に「聞き役」に回り、ときに相づちをうち、ときに異論を差し挟んでいる。

たとえば次のような未確認情報が並んでいる。

  • 2,015年8月、「河北省委員会書記の周本順は北戴河でクーデターを起こし習近平を殺害することを計画していた」(34p)

これは大規模な暗殺計画で習近平のみならず王岐山を含む「全員を亡き者にしようと計画されていた」という。

  • 「習近平は政権を握って3年以上経ったが、いまだに中央宣伝部を把 握できていない」。となると中央宣伝部という党の中枢にある、このプロパガンダ部門をがっしりと握るのは劉雲山で、かれは20年以上を書けて、このプロパガンダ機構を牛耳った。(40p)。
  • 銅鑼湾書店事件の真相も、「桂民海は、よほど欲深い商売人で、彼はいくつもの出版社を経営していたことから、しばらく時間を置き、ほとぼりが冷めたころを見計らって、こんどは書籍のタイトルを『習近平と彼の6人の愛人』に変え、再出版しようとした」(51p)。

実際に評者(宮崎)も香港へ行った折、この銅鑼湾へ行ってみた。場所は高島屋の裏手の商店街ですぐに分かったが、銅鑼湾書店は閉鎖されていた。

これまでの報道では社長、店長以下五人が拉致され、嘘の供述を取られ、つまりは香港から出版の自由がなくなった。一国両制度の約束に反するとして学生市民が立ち上がり数十万の抗議デモも行われたが、じつは銅鑼湾 の社長は先に15万ドルで、習近平と手打ちが出来ており、作者にも5万ドルの『没原稿料』が支払われていたのだというから、そうなるとブラックジャーナリズムではないか。

  • 秘密ファイル事件についても、団派の領袖だった令計画の失脚に関して驚くほどの情報がさりげなく挿入されている。

陳破空氏はこう言うのだ。

実弟の令完成は秘密ファイルを1,700件持ち出してアメリカに亡命したが、その秘密の中味たるや習近平と愛人のセックス録画ではなく、「ひとつは中国の核兵器に関する情報、ふたつ目は、中共指導部とその家族の動向、財産、女性関係、セックステープ。三つめは、未だ明らかになってい ない中南海の配置と政府要人の隠れ場所だ。すべてアメリカに渡っている」(72p)

これ以上書くと、本の営業妨害になるので、止めるが、本書は最初から 最後まで、秘密のベールに包まれてきた中南海の、どろどろとした実態を 余すところなく、語り尽くしている。

しかし検証されない、つまり裏がとれない情報なので信憑性の問題が残る。いや、小説として読めば面白いかも知れない。

最後に石平氏は習近平の最後を、自らが、自分でよってたつところを自らで破壊しているわけで、「必然的に共産党政権も終わる。はたして習近平は自身がどの方向に進んでいるのかを本当に自覚しているだろうか」と 歴史家の目をもっての疑問符をつけて読者の判断に委ねている。>(以上)

これが本当だとしたら、アメリカは情報を小出しにして中国を揺さぶればよいでしょう。戦争は避けられるかも。戦争よりは中国の内乱を望みます。人民解放軍の面子の問題で、南シナ海や東シナ海から何もなしで撤退は出来ないでしょうから。

記事

中国で、また一人、日本人がスパイ容疑で捕まった。中国では日本の諜報戦に対する警戒が高まっている。中国で日本人スパイがそんなに暗躍しているというのだろうか。日本人には想像もつかない中国の報道から見える中国の日本人スパイ観がある。

相次ぐ不当逮捕、また一人…

今回逮捕されたのは、某日中友好団体の理事長(59)。中国で国家安全危害にかかわる容疑で拘束されていることを中国外交部が7月30日に確認した。一部で、実名でも報道されているのだが、私自身、特にこの件について団体側に直接取材していないし、団体側も正式に発表しておらず、彼の安全にかかわることでもあり、あらぬ中傷を受ける可能性もあるので匿名のままでいきたい。

報道を総合するとこの日本人は7月11日、関西経済連合会訪中団のメンバーとして北京を訪問した際に逮捕された。本来なら15日に帰国する予定だった。この友好団体のサイトは現在、メンテナンス中で開けなくなっている。

この団体は2010年に創設されて比較的新しいのだが、彼自身は30年以上、中国とのかかわりをもつ典型的な日中友好人士である。団体の目的は日中両国の青年交流を通じて中国の緑化、植樹活動を支援することである。

彼が中国と本格的に関わり始めたのは1983年。中華全国青年連合会の招待を受けて上海、北京を訪問後、東北の戦争跡地も訪問した。まだハルビンの731部隊跡などが公開される前のことだ。この訪問団は戦後初めて、日中戦争跡地を訪問した日本の代表団だった。

その後、97年から北京外語大学教授、中国社会科学院中日関係研究センター客員研究員などの中国の教育・研究職に、足かけ6年就いていた。思想的には社民党系の左派リベラルだが今年4月から日本衆議院調査局国家基本政策調査室の客員調査員でもあり、中国情勢、朝鮮問題についての分析調査も行っていた。5月には「中国の外交」をテーマに講演を行っていたが、これが今回の逮捕と関係があるのでは、とみられている。

衆院調査局は議員の立法活動に必要な資料や勉強の機会を用意しサポートする部局である。そこから講演やリポートを頼まれることは、専門家ならば普通にある。こんなことでスパイ容疑と言われたら、学者や専門家は普通に中国をフィールドに研究活動することもままならないだろう。私からみれば、昨年から表面化している一連の“日本人スパイ”逮捕と同様、不当逮捕である。

ただ、今回話題にしたいのは、彼が実際に何をしたのか、何かしたのか、ということではなく、近年急激に目立つ中国の日本人スパイイメージに対する喧伝とその裏にある意図について、だ。

彼が植林などの日中友好事業にかかわってきたこともあり、中国では「日中友好の仮面をかぶったスパイが30年も潜んでいた!」といったニュアンスでさかんに報道されている。私自身は「日中友好」という言葉自体はあまり好きではないが、それでも中国との友好に身を捧げていた少なからぬ人たち、中国的に言えば「井戸を掘った人」の功績を踏みにじるような報道がなぜ今、増えているのだろう。まずは、今回の事件についての報道ぶりを見てみよう。

“中国通”スパイは以前から浸透?

例えば新京報紙のウェブサイト版。

「なんとういことか。日本のスパイが中日友好交流団体にひそんでいたのか? 少なからぬネットユーザーは驚き、心ふさいだ。あんなに言っていた友好はどこにいったのだ?

だが実のところ、外交通のあるアカウントは『そんなに驚くことではない。“中国通”を騙る日本のスパイというのは以前から中国に浸透しているのだ』と語る。

最も有名なのは37年間の長きにわたってスパイ活動をしていた日台経済人の会理事長の阿尾博政。彼は経済学者の身分で中国に潜入。

阿尾博政は中国政府官僚のアレンジで少なからぬ軍事施設と武器を視察し、記念撮影を口実に中国最新鋭の軍用車両や最新型戦闘機の写真なども撮った。報道によると1982年から諜報活動を開始し、日本陸上幕僚監部に150編以上の中国に関するリポートを提出。2009年に彼は日本で自身の諜報活動についての書籍を出版している」

ここで引用されている阿尾博政著『自衛隊秘密諜報機関‐青桐の戦士とよばれて‐』(講談社 2009年)は、それなりにその世界を知っている人からすれば、ほとんど創作に近いトンデモ本と評価されている。小説や漫画の資料にするならともかく、メディアとして多くの反証論文もあるこの本を根拠に、日本の諜報活動を語るのは無理があろう。

さらに新京報は、過去に日本のスパイがいかに暗躍してきたかという例を次のように挙げている。

どれだけ日本に凄腕スパイがいるのか?

①2015年5月、50歳代の日本人男性が、中国でスパイ活動に従事したとして浙江省で起訴されている。温州・南麂列島の軍事施設周辺の写真を撮っていたところ身柄拘束され、9月に正式に逮捕された。南麂列島は釣魚島(日本の尖閣諸島)西北300キロに位置する。

②1996年、日本の北京駐在武官が軍事機密を窃取したとして中国から強制退去となった。当時、日本武官と米国武官が海南省に行き、中国海軍の最新潜水艇の情報を探っていたという。中国安全部に逮捕され取り調べを受けたところ、軍事機密を映した写真とビデオが見つかった。

③2002年10月26日には日本の駐在武官、天野寛雅が寧波の軍事管制区で海軍官兵に逮捕された。この後、天野は強制退去となった。

④国家測絵局(測量局)によれば、2011年5月、各地の測量行政主管部門が展開した抜き打ち検査19000回のうち、3000件以上の違法案件が見つかったが、その中で日本国籍者がかかわる件が非常に多いという。

⑤2010年2月、日本人が環境視察の名目でGPSを持ち込み、新疆ウイグル自治区のタルバガダイ地区など85か所にわたる軍事管制区を違法に測量していた。

⑥2014年9月、甘粛省の秦嶺山付近で、日本人国籍の容疑者を拘束。解放軍第二砲兵基地と中国爆撃機工場を秘密に測量する準備をしていたという。

⑦2006年、中国政府は中日経済新聞の創始者、日本国籍の原博文を逮捕。1995年から日本の外務省のために中国情報を収集、指導者の健康状態など大量の中国機密文書のコピーを提供したという。

⑧2013年12月、寧波市象山出身の中国人・陳威が海軍東海艦隊のある倉庫で写真撮影して拘束された後、取り調べで寄田を名乗る日本人男性からの指示を受けての活動であったことを自白。陳威は海外でビジネスを通じて寄田と知り合い、活動費を受け取って寄田の諜報活動に協力していたという。寄田は、写真撮影のほか、浙江省海洋局の職員や海洋研究に従事している人物とのコネクションづくりを要請していたという。

⑨中国社会科学院弁公庁主任助理の陳輝が日本外交官に外交政策に関する国家機密を渡したことで2006年6月、国家機密漏えい罪で有罪となった。彼の逮捕一か月前に、中国社会科学院公共得思索研究センター副主任の陸建華も国家安全にかかわる容疑で逮捕された。

どれだけ日本に凄腕スパイがいるんだ、というような印象の記事だが、このうち、本当の意味で諜報活動と言えるのは②、③くらいではないだろうか。いずれも武官の本来の仕事であり、彼らは退去させられたが、拘束はされていない。ちなみに、近年の駐在武官の方々から話を聞くに、最近はこうした果敢な情報収集活動は行っていないというか、許可されないそうだ。

だがそれ以外は本当にスパイといっていいのか。①の事件に関しては、以前このコラムの「中国のスパイ取り締まり強化に怯むな」でも触れている。この男性以外に、神奈川県在住の元脱北者のNGO関係者、札幌在住の元航空会社社員、東京在住の日本語学校経営者の女性ら4人が相次いで遼寧省や北京で拘束されたことは記憶に新しい。

愛知県男性が起訴されたあと、日本語学校経営者女性も起訴されているが、起訴事実は2人とも明らかにされていない。この4人については、いわゆる情報周辺者(業務上、深い情報を知りえる立場)であり、それを他人に漏らしうる立場かもしれないが、それはスパイとはいえない。

いずれにしろこのレベルをスパイ扱いしていたら、東京でいったい何千人の中国人情報周辺者を拘束せねばならないだろうか。

ポケモンGOもスパイ目的?

また、違法GPS利用の容疑者に日本人が多いといわれているが、トレッキングや登山のために持ちこんだGPSをスパイ利用と言いがかりをつけられて没収されたり、取り調べられているケースもかなり含まれていると思われる。

北京周辺の山岳地帯は万里の頂上跡など地図にも載っていない遺跡も点在しており、トレッキング趣味のある人はGPSを頼りに、こうした山岳地帯に行きがちだ。だが、それは実は違法であり、そうした山岳地帯の思わぬところに軍事施設もあるので、スパイ容疑をかけられやすい。ちなみに中国の地図アプリは、微妙にずらすなど細工をしてある。正確な地形情報、地図情報は中国では国家機密である。だから、中国ではポケモンGOの世界的流行はスパイ目的ではないか、といった言説がまことしやかに流れるのである。

別の記事、人民日報傘下にある環球時報も見てみよう。

「…(今回拘束された日中友好人士をかつて取材したことがある)日本華僑新聞編集長の蒋豊は28日に環球時報の取材をうけてこう語っている。

『日中友好交流団体からスパイが出てくるのは一向に不思議ではない。おそらく、これが日中友好交流団体から出てくるスパイとしては最後の一例ではないはずだ。いかなる団体も、スパイが利用する仮の姿になる可能性がある。』…

たとえ日本政府がスパイを派遣したことを否定しても、日本はこの数年の間に対外人力情報資源(ヒューミント)建設に力を入れており、外務省国際情報統括官組織、内閣情報調査室、公安調査庁などを利用して対外情報収集に力を入れている。昨年4月日本政府は、日本版MI6設立の提案書を提出している。中国は日本にとって一番防備すべき国の一つであり、自然、日本の情報収集の重点対象となるのである」

蒋豊編集長のこのコメントはブーメランである。日中友好交流団体の情報周辺者をいちいちスパイ扱いしていたら、彼自身も明らかな情報周辺者であり、疑われる立場だ。しかも過去に実際、「週刊文春」でスパイ疑惑を報じられたこともある。この疑惑について昔、本人に直接訪ねたところ、大いなる誤解であり、筆者の富坂聰氏にも抗議して了解してもらっていると主張しているが、それならなおのこと、情報の境界にいる善意の人々を陥れるような言動は控えるべきであろうといいたい。

このほかにも、日中友好人士がスパイ!といった見出しの報道があふれ、日本人への警戒感をあおっている。強引な日本人拘束と起訴、さらにまだまだ日本人スパイが暗躍しているようなニュアンスの報道。そんなに日本政府が諜報活動に熱心に取り組んでいれば心強い限りなのだが、実際のところは逆で、日本の対中国情報の収集能力は以前よりも劣化しているように私は思う。スパイ騒動は、むしろ習近平政権の対日外交姿勢の在り方によるものと私は見ているのだが、どうだろう。

目的の一つは、環球時報が触れたとおり、今、日本で外国人による情報収集や特務活動の予防が議論されており、その重点対象が明らかに中国人であることへのけん制があるとみられる。

当局の都合次第で、日本人も、親日派も

さらに、中国社会科学院日本研究所の呉懐中の環球時報へのコメントが興味深い。

「平時、日本人たちと交流しているとき、彼らは中国のいろいろな方面の情報に非常に興味を持ち、いろんな内幕話を聞く。中日双方の関係が比較的良好ならば、こうした方法で中国情報を仕入れるのはさらにたやすいだろう。現在、双方の関係がうまくいっていないので、日本は中国情報の必要性がさらに高まっており、人を利用したスパイ行為もやらざるを得ないのだろう」

このコメントの裏を読めば、日中関係が良好ならば普通にやり取りされる情報も、関係が悪くなった今は、かつては普通の情報のやり取りであったものが、スパイ行為に認定されかねない、という情報周辺者の不安が垣間見える。要するに、もともとスパイ扱いされなかった人たちが、習近平政権になってからはスパイ扱いされる可能性が強まったということでもある。

もう一歩、うがった見方をすれば、私は習近平政権にとって過去に日中が築いた人間関係が邪魔になっているのではないか、と疑っている。

主に80年代から始まった日中の蜜月が培った人間関係は、主に胡耀邦につながる人脈、つまり共産主義青年団人脈が主流だ。今回、拘束された日中友好交流団体理事長も共青団関係組織がカウンターパートになることが多かったようだ。習近平個人には日本政府や民間人との人脈パイプはほとんどない。夫人の彭麗媛は共青団出身であり、80年代の日中青年交流にも参加しているのでそれなりの人脈があるが、習近平周辺ではそれがほぼ唯一といってよい日本とのつながりだろう。

習近平の権力闘争の主なターゲットはすでに上海閥から共青団派に移っているが、その権力闘争と日中間の人脈つぶしは全く関係がないと言えない気もする。昨年に拘束された4人の日本人のうち2人は権力闘争に巻き込まれた可能性も仄聞している。

共青団系の政治家で失脚して汚職と情報漏えいで無期懲役判決を受けた令計画は弟が機密情報をもったまま米国に亡命した。令計画は日本にもそれなりの資産を持っており、妻が日本へ逃亡する計画もあった。

いずれにしても今、スパイ容疑で拘束されている日本人のほとんどが不当逮捕であると私は見ている。日本人が優秀な諜報能力があったのは戦前の話だ。だが、習近平政権の強硬な対日外交や日本への警戒感や権力闘争などを背景に、あいまいなスパイの定義を使って日本人を拘束することは、対日牽制や国内の親日派に揺さぶりをかける一つの手段となっている。

だが、そんな政権の都合で、長きにわたって築かれた日中の民間の交流の成果が傷つけられていいのだろうか。それでより大きな不利益を被るのは日本や日本人よりも、中国と中国人の方ではないだろうか。

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『「最前線」金門島で実際に見た台湾・中国関係 複雑に絡む利害、微妙な距離感』(8/2日経ビジネスオンライン 上野泰也)について

南シナ海の仲裁裁判は判事が中国も台湾も同じ国という思い込みがあって、言わなくても良いことを言った気がします。それだけ世界に中国の嘘のプロパガンダが効いている証拠でしょうけど。南シナ海全体に触れるとどうしても太平島にも触れざるを得なかったのかもしれませんが。

中国も5/20に蔡英文民進党総裁が就任してから、台湾への旅行客を減らすとか経済的圧力をかけてきましたが、金門島の賑わいの記事を読めば、それ程でもないのでしょう。中国人は「上に政策あれば下に対策あり」ですから。7/19台湾で中国人を乗せたバスが事故を起こし、台湾人運転手・ガイドを含む26人が亡くなったのは記憶に新しいです。バスの車体本体は繁体字、観光客向けの案内版は簡体字で書かれているので調べれば中国人観光客が減っているかどうか分かります。

金門島の土産として人民解放軍が撃ち込んだ大砲の弾で造った包丁とかがあります。

https://www.toyo-sec.co.jp/china/column/yawn/pdf/r_053.pdf

http://www.cinemajournal.net/special/2013/hocho/index.html

日本人も中国のプロパガンダに左右されることなく、事実に即した現代史を学び、日本にとっての台湾の地政学上の重要性に鑑み、もっともっと台湾を支援をしていくようにしていければと思っています。国民党の財産も国家に戻すようにしましたから、益々国民党は衰退していくでしょう。でも国民党と台湾(国家)との関係は、中国共産党と中国(国家)との関係と同じです。漢人の発想は同じで、国家より私的な党を優先するという事です。それで公共の概念が発達しませんので、自らの身を律する道徳も無きに等しくなります。台湾は今後も民進党が政権を握るのが続き、真の民主主義国家として発展していくのでは。嘘が得意な韓国とは違います。

http://mincome.net/koe.html/20160725-00000574-san-cn

記事

台湾海峡には金門島や馬祖島といった、台湾(中華民国)の実効支配下にありながら中国本土(中華人民共和国)から目と鼻の先の島がいくつかある。筆者は会社の夏休みを利用して、金門島を今回訪れた。

■台湾(中華民国)が実効支配する金門島と中国本土との位置関係、

そして今回の旅行の経路

map of Taiwan

台湾は猛暑続きで汗まみれ

 7月中下旬は台風が次々と襲来することが多く、台湾では観光のオフシーズン。ところが今年は異常気象で台風の発生が極端に少ない。このため金門島と台湾本島の都市(嘉義および台北)に筆者が滞在している間、お天気はほとんどの時間、晴れだった。その代わりに猛暑続きで、外を歩き回る筆者のポロシャツは、一日に数回汗まみれ。夕方には乾いた塩分が白い線になって浮かび上がっていた…。

 実は、筆者の今夏の一人旅の行き先としては、バングラデシュが有力候補になっていた。ところが、「地球の歩き方」を読んだ翌日にバングラデシュのダッカで飲食店襲撃テロ事件が発生したため、取りやめとなった。ほかの行き先を再検討する中で、台風が発生しないかどうか、天気図や現地の天気予報を毎日にらんだ上で、休暇入りの数日前になってようやく、台北往復(国内線への乗り継ぎが楽なように台北中心部にある松山空港発着便)のチケットをインターネットで購入した次第である。

金門島と大陸の間で砲声が止んだのは1979年

 1946年からの国共内戦で敗北濃厚になった蒋介石率いる国民党・中華民国政府軍は、1949年に台湾に撤退して拠点とした。そして、大陸にきわめて近いものの彼らが支配下に置き続けた金門島は、1958年夏から秋に中国共産党の人民解放軍によって大量の砲弾が撃ち込まれるなど、最前線の島になった。台湾海峡の緊張状態に米国が介入したため、共産党政権は武力による台湾制圧を断念。しかし、その後も大陸と金門島との間では形式的な砲撃が続けられ、砲声が止んだのは1979年に米中国交正常化が実現してからのことだった。

 台北・松山空港で国内線のチケットを買って、1時間ほどのフライトで金門空港に到着。インフォメーションで宿を予約してもらってから(週末のためほとんどの宿が満室な中、電話をかけまくって一生懸命探してくれた若い女性担当者に感謝!)、タクシーで街に向かうと、景色はのんびりした田舎の風情である。

 けれども、島のあちこちに防空壕や基地として使用された長い地下トンネルがあるほか、北側の海岸には上陸用舟艇の接岸を防ぐためレールを砂浜に斜めに刺した障害物が今でも多数埋め込まれており、最前線の島だったことがよくわかる。

picture of Xiamen

海岸の障害物と対岸のアモイの高層ビル群

中台関係の緊張感の高まりは感じなかった

 台湾の陸軍兵士による榴弾砲の操作実演も見学した。上陸した人民解放軍を国民党の軍隊が撃滅した古寧頭の戦いの記念館もある。そうした軍事関連施設が、平和が保たれている現在、この島の観光の目玉になっている。

 中台関係は、今年1月の台湾総統選挙で民主進歩党(民進党)の蔡英文氏が当選し、5月20日に就任してから、微妙に悪化している。6月25日には中国で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官が、蔡英文政権は「(中国大陸と台湾は一つの国だとする)一つの中国の原則という共同の政治的基礎を認めていないので、両岸(中台)の対話メカニズムは既に止まっている」と述べた。台湾独立を志向する蔡政権との当局間対話を中国は事実上停止していたが、当局者が明言したのは初めてだという(6月26日 日本経済新聞)。

 経済の調子が良くないと外交・軍事面での対立・緊張に国民の目を向けさせるという事例は、古今東西枚挙にいとまがない。中国は現在、不動産バブル崩壊後の不良債権問題への対処で抜本的な対応策を打ち出せないまま、経済成長率の下支えに苦慮している。蔡政権発足後、金門島でも少しは緊張感が高まっているのではないかと筆者は考えたのだが、実際にはそうした兆候は見出されなかった。

金門島とアモイの間では、通航の自由化が実現

 金門島と対岸の中国の大都市アモイ(厦門)の間では、2001年から「小三通」と呼ばれる通航の自由化が実現している。金門島からアモイまでフェリーで約35分。だいたい30分に1本と、便数はかなり多い。

ferry from Golden Gate island

金門島からアモイに向かうフェリー

 滞在2日目の朝、一番早い朝8時発の便に乗ってみたら、台湾人・中国人の観光客でかなりの席が埋まっていた。別の政府の支配地域に行くといった緊張感はまったく感じられなかった。元朝日新聞台北支局長である野嶋剛氏の著書『台湾とは何か』を読むと、「金門の人々は、中国に対する警戒心がそれほど強くない。台湾意識も強くない。基本は中台和解支持である。対中国のハードルが台湾本島より低いのである」と書かれていた。

 なお、筆者がたどったこのルート(台北から金門まで国内線で飛んで、フェリーでアモイに入る)は、台北からアモイに飛行機で直接飛ぶよりも安く行けることから人気があるようで(庶民の知恵のようなものか)、台湾の国内線3社が乗り継ぎに便宜を図っていた。中国への入国審査も、現地の人々は慣れており、実にスピーディーである。

中国へ入国、もしかするとスパイと疑われた?

 筆者の場合はどうだったか。中国・北朝鮮国境の都市である延吉から中国に昨年入国・出国したせいか(当コラム2015年9月8日配信「中国側から眺めて分かった『北朝鮮のいま』」参照)、女性係官によるチェックにやや時間がかかった。横に寄ってきたベテランの男性係官が「ちょっとすみません、日本ではいま平成何年になりましたか?」と、小職に突然質問。ちゃんと正しい返答をしたのだが、もしかすると北朝鮮の工作員か何かと疑われたのだろうか。あるいは、天皇陛下の生前退位問題が中国でも報じられたためだったのかもしれない。

 アモイは中国の中で、住宅価格の上昇率の高さが最近目立つ都市の一つである。6月の新築住宅価格の上昇率は前年比+33.6%で、深センに次ぐ第2位。金門島の住民も投資しているらしい。そのためか、高層マンションの建設現場ではクレーンがちゃんと動いていた。

 この都市における観光で筆者のお目当てはコロンス島という島であり、別のフェリーターミナルまでタクシーで30分かけて出向いた。だが、この日は日曜日。行楽に出かける中国人観光客でターミナルはごった返しており、午前中のフェリーは全部満席だったのであきらめた。猛暑の中、代わりに南普陀寺などを観光し、わずか5時間の滞在で、金門島にフェリーで戻った。

仲裁裁判所判決に抗議する若者

 もう1つ筆者が関心を抱いたのが、7月12日に出された南シナ海問題を巡る国際的な仲裁裁判の判決で、「九段線」の内側は主権・権益の及ぶ範囲だという中国の主張が完敗したことへの、台湾の姿勢である。

 この「九段線」は、1947年に中華民国(当時の国民党政府)が引いた「十一段線」がルーツである。同政府が台湾に移った後、中華人民共和国が2本減らして「九段線」にした。したがって、仲裁裁判所の判決を不服とする点で、台湾は中国と同じ立場である。台湾ではすでに述べたように現在は民進党政権だが、総統府は判決が出た12日に声明を発表し、「南シナ海の諸島と関連海域は中華民国(台湾)が所有する。我が国の利益を損なういかなる情勢にも譲歩しない」などと反発した(7月13日 毎日新聞)。

台湾本島では民国党という政党が、この判決に抗議する署名運動を展開していた。民国党の徐主席が副総統候補として、総統候補の親民党・宋主席とペアで総統選を戦ったが、得票率1割強で落選したことを後で知った。嘉義の在来線駅の前に若い男性が2名。

protester about Taiping island

嘉義駅前で仲裁裁判所判決に抗議する署名運動をしていた若者たち。

筆者も声をかけられたが、中国語ができないので英語で会話。本当に判決に不服だと彼らは言う。だが、道行く人はつれなく、署名はさほど集まっていなかった。その後、台北中心部のホテルの前でも、若い女性が2人組で同じ活動をしているのを目にした。

 台湾が実効支配する太平島が判決で「島」ではなく「岩」とされたことに抗議する漁船が20日に現地に向かうなど、抗議活動が台湾で広がっているという。

 「太平島は長さ約1.4キロ、最大幅400メートル。淡水が湧き、辺境防備のために200人以上が駐在する。にもかかわらず『人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができない岩』とされた」(7月21日 毎日新聞)

 「住民の間では中国への警戒感が根強いが、台湾に不利な判決を日米が支持したことに失望する声も出ている」「国際協調を重視する蔡英文政権は関係国との摩擦を避けたいのが本音で、世論との間で板挟みになっている」(7月21日 日本経済新聞)

複雑な利害関係で結びつく台湾と中国

 1つの問題では共同歩調をとり得るものの、別の問題では根深い対立を解消するのが難しい。中国と台湾の問題は、そうした複雑な絡み合いの中で現代の国際関係が成り立っていることを、あらためて思い起こさせてくれる。

 端的に言えば「白か黒かでは割り切れない」わけで、英国のEU(欧州連合)からの離脱問題の行方などにもあてはまることだろう。

 これは、新たに出てきた材料を、時間の経過とともにマーケットがどのように消化していくのかを考える際にも、有用な視点だと言えそうである。

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『日本単独で「核武装国」中国を壊滅させる秘策は機雷』(8/1ZAKZAK 兵頭二十八)について

兵頭氏の「米国抜きでの日本の中国への機雷設置」は中国の核ミサイル報復を受けるのではという気がします。日本も核保有しなければ採れない戦略と思います。しかし、中国はMAD(相互確証破壊)が成り立つ国かどうか?毛&ポンピドー会談の経緯を見ると成り立たないのでは。中国は昔から国民の命を鴻毛の如く扱ってきました。為政者だけが生き延びれば後はどうなろうと知ったことはないというスタンスです。現代史を見ても、南京陥落時に真っ先に逃げた唐智生、黄河花園口を決壊させた蒋介石の所業を見れば分かります。オバマの「核なき世界」は中国を有利にするだけです。中国の核爆弾はまだ200発くらいと言われていますが、米ロは7~8000発台です。時間の利益を中国に与えます。中国はSTART(戦略兵器削減条約)を批准していませんので。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8%E4%BF%9D%E6%9C%89%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

http://www.cnn.co.jp/special/interactive/35030561.html

機雷敷設は中国船だけを認識して、爆発するように設定しなければなりません。日高義樹氏の『中国、敗れたり』によれば、米軍の海底に設置した機雷は、衛星に頼らず中国船を自動認識して浮上して爆発するタイプとの記憶があります。当然日本もその程度の機雷は持っていると期待します。

http://blog.jog-net.jp/201510/article_1.html

機雷敷設は准戦争行為なので中国に宣戦布告したと看做されるのでは。中国が黙っている訳はないと思います。通常戦力だけであれば日本が短期的には勝つと思いますが、200発も核を持っている中国にどう対峙するのでしょうか?BMDやPAC3では全部は撃ち落せないのでは。その対抗策が明示されていないので不安になります。勿論、武道と同じで敵にこちらの手の内を見せれば敵はそれを打ち破る手を考えるでしょうから説明してないのではと思います。日本は対抗策を持っていると信じたいです。まあ、自由主義諸国で中国を経済制裁し、封じ込めるのが先という気がしますが。

記事

日本の国防を考える時、最大の脅威は中国だ。仮に共和党の大統領候補・ドナルド・トランプ氏が主張するように米国の後ろ盾がなくなったら、日本はどうすべきか。軍学者の兵頭二十八氏は、日本は「自衛」の結果、中国を簡単に滅する“奥の手”があると論じる。  * * *  在日米軍が2017年に急に引き上げ、日米安保が停止したとしよう。ふつうは他の集団的安全保障(たとえば核武装国である英・仏・印・イスラエルとの2国間の軍事同盟条約)を模索するだろうが、話を極度に単純化し、それもナシということにする。  すると日本は核武装国の中共に対して単独で自衛せねばならぬ。  体重百キロのチンピラに密室で襲撃された老人と同じく、弱者の自衛には手加減は不可能だ。日本は主権と独立を防衛するために、中共体制そのものを全力で亡ぼしてしまうしかない。じつはそれは簡単である。  まず尖閣の領海に機雷を敷設し、それを公表する。これは主権国の権利なのだが、チンピラの中共は必ず、わけのわからないことを叫び、軍艦か公船か漁船を出してきて、触雷するだろう。そのうえもっと軍艦を送り込むので、わが国は「自衛戦争」を始められる。  こっちは弱い老人だから体力のあるうちに早く決着をつけなくてはならぬ。すぐ、中共本土の軍港前にもわが潜水艦によって機雷を撒き、それを公表する。同時に黄海や上海沖で潜水艦によって敵軍艦も雷撃させ、わざとらしく「機雷が作動したと思われる」とアナウンスする。  すると中共海軍の防衛ドクトリンがスタートする。彼らは外国軍の潜水艦を北京や上海に寄せつけない手段として、漁船を動員して大量の機雷を撒かせることに決めているのだ。こっちが機雷を撒くと、向こうも機雷を撒く。レバレッジ(梃子作用)が働いて、わが自衛行動が数倍の効果を生むのだ。

連中には撒いた機雷の位置を精密に記録するという訓練も装備もありはしない。しかもシナ製機雷には時限無効化機構もついてない。

 自分たちで撒いた機雷により、シナ沿岸は半永久に誰も航行ができない海域と化す。中共に投資しようという外国投資家も半永久にいなくなる。なにしろ、商品を船で送り出せなくなるのだ。

 外国船籍の原油タンカーがシナ沿岸には近寄らなくなる(無保険海域となるのでオーナーが立ち寄りを許可しない)結果、中共沿岸部の都市では、石油在庫はたちどころに闇市場向けに隠匿されて、表の市場には出てこなくなるだろう。他の生活必需物資も同様だ。

 およそ精鋭の掃海部隊があったとしても、大量の機雷の除去には数十年を要する。中共軍にはその準備がないので、中共だけが「石油高」「電力高」「輸出ストップ」に長期的に苦しむ。闇石油を押さえた軍閥が強くなり、石油を支配していない中央政府と大都市・大工場は逼塞する。第二の袁世凱または張作霖があらわれるだろう。弱者の日本の正当防衛は成功したのである。

 機雷戦のメリットは、いったんスタートすると、核をチラつかせた脅しや、シナ人得意の政治的工作をもってしても、事態を元には戻せないことだ。そもそも敵艦がわが領海を侵犯しなければ触雷はしないのだから、平和的だ。艦艇が沈む前に敵に脱出のチャンスを与えるという点では、対人地雷よりも人道的である。

 そして、機雷戦がいったん始まれば、シナ大陸沿岸海域は長期にわたって無保険化することが確定するので、戦争の決着がどうなるかとは関係なしに、中共経済の未来は終わる。スタートした時点で、日本の勝利が決まるのである。

 このように、強者の米国がバックについていない場合、余裕を失った弱者の日本は、却って簡単に中共を亡ぼすことになるのである。

 ※SAPIO2016年8月号

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『トランプ人気が急加速、悪役クルーズ登場が契機に 受け狙いの米国・日本のメディアが伝えない真の潮流』(7/29JBプレス 堀田佳男)について

日経ビジネス8月1日号 『トランプ氏に乗っ取られた共和党』

7月21日に閉幕した党大会で、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に指名された。反移民や反自由貿易を掲げ、同盟に疑問を呈するトランプ氏は共和党の従来の主張と大きく異なる。左傾化する民主党とポピュリズムに走る共和党、その間で“企業”は行き場を失いつつある。

7月21日に閉幕した党大会で、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に指名された。反移民や反自由貿易を掲げ、同盟に疑問を呈するトランプ氏は共和党の従来の主張と大きく異なる。左傾化する民主党とポピュリズムに走る共和党、その間で“企業”は行き場を失いつつある。

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トランプ氏の主張は、共和党を支えた「3つの保守」とは異質なものだ(写真=新華社/アフロ)

 2012年の共和党候補として米大統領選を戦ったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事は選挙戦で、3本脚のスツールを愛用した。

 共和党には、伝統的に経済的な保守、社会的保守、安全保障の保守という3つの立場がある。経済的な保守はレーガン政権以降、いわば党是と化している自由貿易や減税、規制緩和など小さな政府路線を支持する経済界や富裕層、社会的保守は妊娠中絶や同性婚に反対する宗教的保守派、安全保障の保守は同盟国との連携を重視する国際協調主義者や強い米国を重視する外交的タカ派などが主なベースである。

 3つの保守が共和党を支えているということを示すため、ロムニー氏はその象徴として3本脚のスツールを持ち歩いていた。だがドナルド・トランプ氏を候補に担いだ今年の大統領選で、そのバランスは大きく崩れている。

 それが端的に表れているのは、自由貿易や移民に対する強硬な姿勢だ。

 元来、共和党は自由貿易の守護者だが、トランプ氏は選挙戦を通じて自由貿易が米国の製造業や雇用を破壊したと主張している。移民についても「メキシコ国境に壁を作る」と繰り返す。7月21日の指名受諾演説でも、「労働者を傷つけるような貿易協定にはサインしない」と明言、政策綱領にも「国境の壁」の建設が明記された。

2つの「保守」は既に崩壊

 安全保障に関しては、日米安全保障条約など既存の同盟にたびたび疑問を呈している。党大会の期間中には、北大西洋条約機構(NATO)における米国の防衛義務に疑義を表明した。その底流にあるのは、同盟国が応分の負担をしていないという認識だ。

 同盟には歴史的経緯や平和の配当など金銭負担を超えた恩恵があるはずだが、トランプ氏は外交をP/L(損益計算書)的な視点でしか見ていない。不動産デベロッパーとして銀行や下請け業者とシビアに交渉してきたトランプ氏ならではの発想だろう。

 社会的保守について言えば、過去の選挙戦で妊娠中絶に反対を表明するなどキリスト教保守派の主張に沿った発言をしている。もっとも、ゲイを公言している米ペイパルの創業者、ピーター・ティール氏を党大会のスピーカーに招聘、トランプ氏自身も「LGBTQ(性的少数派を意味する言葉)を暴力と弾圧から保護するために全力を尽くす」と述べるなど、その立場は交錯している。

 単純に割り切れないのは他の2つの保守も同様だ。演説では、いつものように保護主義的な言動を繰り返していたが減税は支持した。オバマケアの撤廃も支持しているが、共和党が主張している社会保障の給付金見直しには言及していない。

 それでも、伝統的な共和党とは懸け離れているのは確かだ。「社会的保守の柱は堅持していくようだが、それ以外の2つの柱は完全に破壊された」と共和党系のシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のジェームズ・ペソコウキス研究員は天を仰ぐ。

 共和党主流派は既に“トランプ後”を見越して動き始めている。

 党の実質的なリーダーであるポール・ライアン下院議長はトランプ氏の支持を表明しているが、消極的な支持の枠を出ない。予備選・党員集会を戦ったライバルも一様に距離を置く。

 「小さなマルコ」と揶揄されたマルコ・ルビオ上院議員は党大会にビデオでのみ参加した。お膝元のクリーブランドで開催された党大会なのに、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏は会場に姿を現さなかった。妻を侮辱されたテッド・クルーズ上院議員に至っては、演説でトランプ支持を明言せず、最後は大ブーイングに包まれた。今年の党大会のハイライトの一つだろう。

 ブッシュ家が輩出した2人の元大統領も、オバマ大統領に敗れ去った2人の元大統領候補も不参加を決めた。党大会は党の結束を深め、11月の本選に向けて士気を高めることが目的の一つ。だが、党大会の4日間を見る限り、一枚岩になりそうな雰囲気にはない。

政治的に消滅した中道路線

Republican National Convention

(写真=AP/アフロ)

 トランプ氏の登場で共和党の“解体”は加速しつつある。影響を最も受けているのは、伝統的な支持基盤だった大企業や商工会議所などの経済団体だ。

 トランプ氏はTPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)に反対票を投じているだけでなく、大企業が社会経済システムをゆがめ、不当な利益をむさぼっていると強調している。格差と社会的不均衡の拡大は事実だが、その見方は民主党の候補者争いを戦ったバーニー・サンダース上院議員に近い。事実、指名受諾演説ではサンダース支持者に秋波を送った。

 トランプ氏の最近の発言を見ると、白人労働者層や宗教的保守派にフォーカスして選挙を戦う姿勢が鮮明だ。今年の大統領選では白人労働者層が多い北西部のラストベルト(かつて製造業が栄えたエリア)がカギを握るとみられている。それを考えれば、不満を抱えた労働者に注力したポピュリズム戦略は合理的に違いない。

 オバマ治世の8年間、米国ではリベラル化が進行した。「1972年以降の大統領選の中でも最も左にシフトしている」と米ワシントン・ポストが書いたように、民主党の新たな党綱領には最低賃金や気候変動、人工中絶などでこれまで以上にアグレッシブな政策が並ぶ。

 「企業関係者は極めて厳しい選択を迫られている」とペソコウキス氏が指摘する。先鋭化したリベラルと宗教色の強いポピュリズムに米政治が色分けされる中で、右派、左派ともに中道路線が絶滅しかけているのが現状だ。共和党や民主党が割れて第3極が生まれるという見方が出始めているのも、そうした認識が背景にある。

 英国の欧州連合(EU)離脱が示したように、中道の消滅は世界的な現象。主張が右と左に離れるほど、合意形成は難しく国は分裂していく。それを防ぐには、安定した経済成長の実現と公平な分配しかないが、道のりは険しい。“トランプ後”の世界は依然として視界不良だ。

経済政策における違いが目立つ ●伝統的な共和党の主張とトランプ氏の主張の主な相違
自由貿易の推進   「私は労働者を傷つけるような、いかなる貿易協定にもサインしないと誓う」 「我々には米国を第一に置く、より条件のいい貿易協定が必要だ」
国際的な協調主義   「コストを負担するのは米国で、NATOの加盟国は応分の負担を果たしていない」 「グローバリズムではなく米国第一主義が我々のクレド(信条)」
合法的な移民はOK   「検査態勢が確立されるまで、テロに屈しているいかなる国からの移民も一時的に止めなければならない」
オバマケアの撤廃   「破滅的なオバマケアを廃止し置き換える」(*共和党は高齢者向け公的医療保険「メディケイド」などの見直しを主張しているが、トランプ氏はそれについては演説で述べていない)
中絶や同性婚の反対   「イデオロギーによる暴力と弾圧からLGBTQを保護するために全力を尽くす」(*同性婚は支持している模様。中絶には言及していないが、過去の発言では中絶には反対の立場)
減税による経済成長   「今回の大統領選に出馬したあらゆる候補の中で、最も大規模な減税案を提案している」
注:トランプ氏の指名受諾演説を基に作成、一部は党の政策綱領の表現

(ニューヨーク支局 篠原 匡)>(以上)

8/2日経The Economist 開かれた世界を守るには

劇場型政治といえば、米大統領選に向けた二大政党の全国党大会に匹敵するものはない。右派と左派が一堂に会して党の大統領候補を選び、共和党は保守主義的な、民主党はリベラルな党政策綱領を採択する。しかし今年は違った。民主党のヒラリー・クリントン氏が二大政党で初の女性の大統領候補になったからだけではない。両党とも全国大会で新たな断層が浮き彫りになったのだ。それは左派対右派の構図ではなく、志向が外向きか内向きかによる分断だ。

Democrats National Convention

7月25日の米民主党全国大会でサンダース氏に声援を送る支持者ら=AP

 共和党の大統領候補に選ばれたドナルド・トランプ氏は例により一刀両断的表現で「グローバル主義ではなく米国第一主義こそ我々の信条だ」と言明した。自由貿易を批判する彼の演説は、クリントン氏と民主党の大統領候補の指名を最後まで争った「民主社会主義者」を自称するバーニー・サンダース氏の支持者の共感も誘った。

ポピュリスト政党 欧州9カ国で与党に

 これは米国に限ったことではない。今や欧州全土でも「世界というのは不快で恐ろしい場所だから賢明な指導者は世界と遮断するために壁をつくるべきだ」と訴える政治家が勢いを持つ。ハンガリーでは民族主義的な保守強硬派が政権を握り、ポーランドでも排外主義を訴え、司法にも介入する政府が誕生した。欧州では右派、左派を問わずポピュリスト(大衆迎合主義者)の主張を掲げる政党が2000年時点の2倍近い支持を集め、9カ国で政権を握るか連立与党に加わっている。

 これまでのところ、反グローバル主義者たちにとって最大の成果は、英国の欧州連合(EU)離脱の決定だろう。自由貿易が最もうまく機能しているEU単一市場からの退出が決まった6月の国民投票では、有権者の偏狭な考え方が肯定され、主要政党は真っ二つに割れた。

強まる内向き志向 自由主義のリスクに

 反グローバル主義者の主張に説得力を持たせるニュースは毎日のように起きている。7月26日には過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う男2人が、フランス北部ルーアン近郊の教会で85歳の聖職者を殺害した。フランスとドイツではその前から残虐なテロ行為が後を絶たない。危険なのは不安があおられ、内向き志向の勢力が選挙でさらに勝つことだ。自由主義陣営にとり、共産主義に続く最も恐るべきリスクだ。この流れには何としても対抗しなければならない。

 まず何が危機的状況なのかを思い出してみよう。米国主導の組織や規則、同盟などの多国間システムは第2次世界大戦以降、70年間にわたって世界の繁栄の礎となってきた。この体制のおかげで欧州は戦後復興を遂げ、ソ連の共産主義が崩壊し、中国が世界経済に組み込まれて貧困層がかつてないほど減少した。

 壁をつくって外界を遮断すれば国は貧しくなり、危険に満ちる。もし欧州が協調をやめてバラバラに自国の主権を振りかざしたり、米国が世界から目を閉ざしたりすれば、望ましくない国がその間隙を突くだろう。米国と同盟関係にあるバルト諸国がロシアの脅威にさらされても、米国は何もしないかもしれないというトランプ氏の発言は無責任で、理解に苦しむ。米国は北大西洋条約機構(NATO)加盟国への攻撃を、NATO全体に対するものとみなすと断言してきた。もしトランプ氏がそれをほごにしたら、米国は二度と信用されなくなる。トランプ氏のあたかも大統領になったかのような発言は、世界の厄介者と呼ばれる国々を増長させた。ロシアのプーチン大統領が同氏に肩入れするのはもっともだ。

 壁の建設を唱える人たちが支持を広げることで、すでに様々な影響が出ている。EUを離脱することになった英国は景気後退へ向かうだろう。EUも危機にある。フランスで来年、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が大統領となり、英国に続いて離脱を決めればEUは崩壊しかねない。トランプ氏は自身の経営するカジノが客から現金を吸い上げるように、国際機関から信頼性を吸い上げた。世界最大の経済大国の大統領になるかもしれない人物が新たな貿易協定の締結を阻み、既存の貿易協定を破棄し、自分の考えが通らなければ世界貿易機関(WTO)から脱退すると脅している。

 壁の建設に反対し、開かれた世界秩序を維持するには、一段と強い言葉で大胆な政策を示し、それを広める作戦を練らなければならない。まず言葉については率直さが必要だ。米国にとってなぜNATOが重要なのか、欧州にはなぜEUが欠かせないのか、自由貿易や異民族との共存を進めればいかに社会が豊かになるか、そしてテロとの戦いにはなぜ各国協調が必要なのかを有権者に思い出させるのだ。

 グローバル化の信奉者の多くはほとんど口を閉ざしている。勇敢にも立ち上がったのはカナダのトルドー首相やフランスのマクロン経済産業デジタル相など一握りの政治家だけだ。グローバル化の推進のためには戦わねばならない。

社会の安全網強化で 負の要素を減らせ

 しかしながら、グローバル化には手直しが必要なことも忘れてはいけない。貿易で損を被る人も大勢いるし、移民が急増すれば地域社会の混乱を招くこともある。こうした問題の最善の対応策は壁をつくることではない。開かれた社会の良さを維持しつつ、負の要素を減らす大胆な政策を打ち出すことだ。モノや投資資金の自由な流れを守りながら、そのために仕事を失った人たちが支援と新たな機会を得られるよう社会のセーフティーネットを強化するのだ。移民の流入をうまく管理するため公共インフラを整備し、移民が仕事に就けるようにし、移民の急増を抑える規制を認めよう。

 作戦について言えば、左派や右派の政党で開かれた世界を支持する勢力が、いかに選挙で勝つかが重要になる。オランダとスウェーデンでは中道政党が団結し、国粋主義者らを締め出した。フランスでは02年の大統領選の決選投票で、同じような連合体が国民戦線のジャンマリー・ルペン党首を破った。17年の大統領選でも娘のマリーヌ氏を倒すには、こうした政党の連合が必要になるかもしれない。英国でも今後、中道主義の新党が求められるだろう。

 米国では既存政党自身が答えを引き出さなければならない。反グローバル主義に真剣に対抗しようとするなら、共和党員は意に沿わなくてもクリントン氏を支持すべきだ。クリントン氏自身もまた、明確な開放政策を打ち出さなければならない。副大統領候補にスペイン語に堪能なグローバル主義者のティム・ケーン氏を選んだのは良いことだ。とはいえ、世論調査でトランプ氏との差はごくわずかだ。リベラルな世界秩序が維持されるかどうかは、クリントン氏が大統領に選ばれるか否かにかかっている。

(7月30日号)>(以上)

8/1産経ニュース トランプ氏がイスラム教徒の戦没者遺族を「侮辱」 身内からも批判

【ワシントン=加納宏幸】米共和党大統領候補の不動産王、ドナルド・トランプ氏(70)が7月31日、戦死したイスラム教徒の米軍人の遺族を侮辱したとして批判された。共和党幹部もトランプ氏に対する不快感の表明が相次ぎ、陣営は釈明を迫られた。米軍最高司令官になる資質に関わるだけに、11月の本選にも影響を与えそうだ。

 遺族は、2004年にイラクで自爆テロにあって戦死したフマユン・カーン陸軍大尉の父でパキスタン出身のキズル・カーン氏。

 民主党大統領候補にヒラリー・クリントン前国務長官(68)を指名した同党全国大会に7月28日、妻と登壇し、イスラム教徒の入国禁止を主張するトランプ氏に「米国憲法を読んだことがあるのか」「(戦没者が眠る)アーリントン国立墓地を訪れたことがあるか」などと問いかけた。

 トランプ氏は31日、ツイッターで「カーン氏から敵意をもって攻撃されたが、反応してはいけないのか。イラク戦争(開戦決議)に賛成したのはクリントン氏で、私ではない」と反論。米メディアでは「クリントン氏のスピーチライターが原稿を書いたのではないか」とも発言した。

 カーン氏は31日のCNNテレビ番組でトランプ氏を「黒い魂を持っている。指導者には到底ふさわしくない」と批判し、共和党幹部に同氏への支持撤回を要求。クリントン氏もカーン氏に同調し、同党に「党派よりも国家(への忠誠)を取るべきだ」と訴えた。

共和党のライアン下院議長は31日、声明を発表し、カーン大尉を含む多くのイスラム教徒の米軍人による献身をたたえ、宗教を理由に入国を禁止するような主張を「拒否する」とした。同党のマコネル上院院内総務も入国禁止は「米国の価値に反する」と指摘した。

 トランプ氏への批判の高まりを受け、共和党副大統領候補のペンス・インディアナ州知事は31日夜、「カーン大尉は英雄であり、すべての米国人が遺族を大事にすべきだ」とする声明を発表した。ただ、テロに関与した国からイスラム教徒を入国禁止にするとの主張は変えなかった。>(以上)

堀田氏は「メデイアは決めつけて書いてしまう癖がある」と言いたいようです。朝日新聞の角度を付けた報道の例もそうでしょう。ただ朝日新聞には戦後反日に転換したため、日本への悪意が感じられますが。角度を付けると言うことは、事実に基づいた報道ではありません。日本国内の外国に関する報道では日本のメデイアの特派員がその国の新聞やTVを見て解説するのが多く、堀田氏のように現地でいろんな人に取材して記事を書く人は少ないという印象を持っています。

堀田氏は「共和党が全国大会でクルーズに演説させて逆に団結を促すようにシナリオを描いた可能性もある」とのことです。それにしてもトランプは物議を醸す発言が続き、ヒラリーを利しているように見えます。それでも最終的に米国民がどちらを選ぶかですが。

「エコノミスト」の記事はリベラル臭がプンプンします。グローバリズムが「善」との思いが前面に出ています。鎖国するより開国して国際分業した方が経済的に富むことは北朝鮮やキューバの例を見れば明らかです。でも移民の受入を前提にしなくとも良いのでは。今現実に起きている問題はイスラム移民の問題です。ISシンパが紛れ込んでいるかも知れず、テロの危険性が高まる施策をEUは率先してやっているようにしか見えません。国の大きな役目は「国民の生命及び財産」を守ることです。EUに入っていてそれができないのであれば離脱を望む国が出て来るのは当然です。「多文化共生」と良くリベラル左翼が言いますが、「多文化尊重」が正しい道と思います。自分の生まれ故郷の伝統文化を大事にして、その地で暮らせるのが理想でしょう。勿論外国暮らしを否定するものではありませんが、「郷に入れば郷に随う」ように相手国のルールを尊重して初めて存在が認められるのでは。在日のように日本国内で反日活動する人たちは帰国して貰った方が良いでしょう。英国「エコノミスト」はシテイのグローバリズムを後押しする立場ですので、世界の潮流を見誤っているように思えます。世界は「統合」から「分散」「分断」へと動いて行っています。メデイアが「報道しない自由」を行使しても、今や「SNS」を使って瞬時に世界に流れる時代です。中国のように「金盾」ですぐ削除するような国もありますが。中国国民も海外旅行に行くようになったのだから如何に自国は自由がないか感じれば良いのに。「ポケモンGO」すらできない国です。

記事

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米オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党全国大会で演説する(2016年7月21日撮影)〔AFPBB News

 米大統領選は大手メディアに煽られている――。

 オハイオ州クリーブランドで開かれていた共和党全国大会を取材し終えて抱いた思いである。いきなり筆者の思いから入って恐縮だが、現地で見聞きしたこととメディアで報道されている内容の違いが目にとまったので報告したい。

 党大会前、ドナルド・トランプ候補(以下トランプ)の支持率は不支持率よりもはるかに低く、党内がまとまらずに分裂する危険性もあるとの見方があった。

 なにしろトランプは共和党の重鎮から嫌われていた。ブッシュ家の3人(大統領経験者2人とジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事)は早々と党大会に出席しない意向を表していた。

 ジョン・マケイン元大統領候補、ミット・ロムニー前大統領候補、さらにトランプと予備選を戦ったジョン・ケーシック・オハイオ州知事らも党大会には姿を見せなかった。

分裂の党大会かと思いきや

 党大会前の各種世論調査を見ると、トランプの不支持率は70%代半ばで、ヒラリーに勝てそうもない「危険水域」に入っていた。有権者だけでなく党内の重鎮が反旗を翻していたため、党内を統一することは多難だった。

 「分裂の党大会」という言葉が脳裏に浮かびさえした。

 多くのメディアも、そこに切り口を見つけた。割れた党内といった流れの方が、読者を惹きつけやすい。「党内はよくまとまっている」では面白みに欠ける。ニュースは悲劇の方が受けるし、読者も悲劇をどこかで期待していたりする。

 もちろん、ジャーナリズムの役割は目の前で起きていることを正確に伝えることだが、結束していない党大会の方が伝える側も受け手の側も注目度が高い。

クリーブランドには世界中から約1万5000人(主催者発表)のメディア関係者が集まっていた。8割近くがリベラル派に属していると言われる。その流れでは、トランプが醜態を晒すとか、共和党が分裂するといった出来事を嬉々として伝える傾向がある。

 日本の大手日刊紙も「トランプ氏指名に反発噴出 米共和党大会 分断あらわに」、「党大会、目立つ亀裂」といったタイトルを打った。本文中でも「挙党態勢からはほど遠い共和党大会だった」といった文面が読める。

 大会初日(19日)、反トランプ派の代議員らはトランプを代表候補にするのを阻止する動きに出た。大会規則を承認する手続きに異議を唱えたのだ。コロラド州から来ていた代議員が退場する場面もあった。

 そうした光景を目の当たりにすれば「亀裂」という言葉は外れていない。けれども過去の党大会を振り返ると、ライバル候補を支援する代議員たちは大勢いた。バトルと呼べる状況になったことさえあった。

 その中で、トランプは全米から集まった代議員(2472人)の過半数を得て代表候補になる。予備選で州ごとに選ばれた代議員たちが党大会で、もう1度投票をしてトランプを代表候補に選んだのだ。

会場の雰囲気を大きく変えたクルーズ演説

 しかし、トランプが実際に獲得したのは2472人中1500人超に過ぎない。残りの900人ほどはテッド・クルーズ候補(以下クルーズ)やマルコ・ルビオ候補の支持者たちで、トランプ以外に票を入れている。

 つまり、党大会に集まった代議員は、最初から全員がトランプを推しているわけではなかった。

 大会3日目、さらに党内分裂と言えることが起きた。演者として招待されたクルーズが、トランプ支持を表明しなかったのだ。演説の最後に、「良心に従って投票してください」と述べた言葉は、「ヒラリーに投票してください」という意味でもある。

 会場からはブーイングが起きた。その言葉の直前まで、演説巧者のクルーズらしい内容だっただけに、落差が激しかった。クルーズはこともなげに党とトランプを裏切ってみせた。

メディアによっては、こうした党内の動きこそが共和党を分断させていると発信した。だが、大会参加者のムードはクルーズの演説直後から変わる。クルーズを党内から排除するような空気が醸成されていったのだ。

 4日目の朝から、様々な共和党関係者を取材した。話をしてくれた全員がクルーズを非難した。

 アダム・キンジンジャー・イリノイ州議会議員は「クルーズの演説で党が割れたとは思わない。政治理念の違いはあっても、あのクルーズの演説はあり得ない」と憤りを隠さない。党大会に招待されたら、代表候補を支持するのは慣例なのだ。

 クルーズの出身地であるテキサス州の代議員からも話を聞いた。カーボーイハットが似合う年配の紳士である。

 「クルーズは自分勝手過ぎます。私は予備選ではクルーズ支持者でした。でもクルーズには嘘をつかれた気分です」

 共和党全国委員会の広報部長、ショーン・スパイサー氏も「反トランプの党員でさえも、クルーズの演説内容は尊厳に欠けていたと思ったはず」とトランプを擁護した。

ブルートになったクルーズ

 CNNのコメンテーターは、クルーズを漫画「ポパイ」の登場人物「ブルート」になぞらえた。誰からも嫌われるキャラクターになったことで、周囲の人間は主人公の「ポパイ」であるトランプへ、今まで以上に強い思いを寄せるようになったというのだ。

 悪役が誕生したことで、トランプに求心力が生まれた瞬間だった。

 党がここまで計算したいたかは分からない。クルーズもまさか自分がブルートになるとは思わなかっただろう。裏の裏がある米政界だけに、共和党がこれくらいのシナリオを考えていた可能性はある。

 オハイオ州の名誉代議員の男性は党大会最終日、会場を出た所に特設された屋外の飲み屋でビールを飲みながら長々と語ってくれた。

「オハイオ州出身ですが、フロリダ州パームビーチに別荘を持っています。そこで何度もトランプと顔を合わせています。ゴルフ場で会ったこともあります」

 「彼はやり手のビジネスマンですが、話をすると本当にまともな人であることが分かります。選挙中、ライバル候補に暴言を吐いたりしましたが、最初は信じられなかった」

 「落ち着いて話をすると、すぐに優秀な人であることが分かります。クルーズの演説の後、仲間の党員たちはトランプでまとまりつつあります」

 こうした党大会の潮流の変化は、現場に足を踏み入れないと分からない。男性は最後に言った。

 「予備選で反トランプ派だった党員でも、ヒラリーだけには票を入れないという点で共和党はまとまっています」

 筆者は、やみくもにトランプを支持するつもりはない。そうではなく、メディアの多くが最初から「分裂された党大会」というイメージを心にすり込んで大会に乗り込み、変化が起きても気づかずにいることに疑問を持つのだ。

 日米のメディアを散見するかぎり、共和党全国大会後も「党内は分断」といった論調のメディアが多いことに驚くのだ。

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『南シナ海 苦境の習氏 仲裁裁判で完敗→「微笑外交」に微修正』『効くか、寸止めの圧力』(7/31日経)について

人民解放軍を主導しているのは習で、習が人民解放軍の操り人形と言うことはありません。徐才厚や郭伯雄を失脚させたのですから。勿論上海派の大物二人を処分したのですから軍内部には不満は溜っているでしょうが、トルコのようなクーデター騒ぎは起こっていません。習が狙っている「中華民族の偉大な復興」を果たすべく軍もそれに乗って予算獲得に励む構図でしょう。特に目立った実績のない海軍は。それで南シナ海に出てきて突っ張っている部分もあるのかも。習も海軍に引っ張られているのかも知れませんが、「呼べば来る、来れば戦う、戦えば必ず勝つ」と言った手前ブレーキはかけられません。米国と戦争状態になった時に中国が何日持つか正しい情報が習に入っていない可能性もありますが。まあ、戦争になる前に経済制裁、海上封鎖、陸上封鎖をするかもしれません。

中国空母「遼寧」のポンコツさを米軍作戦部長が見たって、それは前から分かっていたこと。恭順の意を示したように見えますが単なる時間稼ぎでしょう。腹の中は「中国が経済的にもっと豊かになり、軍事費を増やし、技術的にも米国を追い抜く日が必ず来る。その日まで首を洗って待っておれ」でしょう。何せ騙すのが得意な民族ですから。ピルズリーのように数十年中国と付き合ってきてやっと今頃気付くなんて遅すぎです。鼻薬でも貰っていたのでしょうけど。

米国の歴史を知り、日本の歴史を知れば米国のやり方に疑問が付くことは多いです。しかし選挙と同じで100%完璧な政治家がいないように、国際社会で完璧さを求めても意味がありません。相対比較で付き合うべきかを決めるべきです。米国憲法修正第1条は「言論の自由」だそうで、自由を認めない中共より遙かにマシです。付き合うべきは「自由、民主、基本的人権、法の支配」の共通価値観を持った国とだけです。中韓は口先だけですので仲間にはなれません。

ライス補佐官は13年に「G2」を認める発言をしました。オバマの考えを述べた(中国が主張してきた「G2」をオバマが受け入れた)だけかも知れませんが。今振り返って見て「如何に愚かだったか」恥ずかしくないでしょうか。国や会社のトップたるもの「先見の明」が要求されます。百年とは言わず、10先くらいは見据えた行動を取って貰いたいものです。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2100S_R21C13A1EB1000/

『南シナ海 苦境の習氏 仲裁裁判で完敗→「微笑外交」に微修正』記事

南シナ海での中国の主権を認めない判決を仲裁裁判所が下した。苦境に陥った中国の習近平国家主席は受け入れを拒む一方、新たな動きも見せる。それは米国や日本との関係にも微妙な変化をもたらした。

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習氏は参院選で基盤を固めた安倍政権を無視できなくなった

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 12日の判決から1週間余り、米海軍制服組トップのリチャードソン作戦部長は山東省青海の中国北海艦隊司令部にいた。「米海軍は南シナ海を含む世界中で法に基づく軍事行動を続ける」。伝えた言葉は判決を無視し、岩礁施設の建設続行まで宣言した中国への警告だった。

G20へ「一時休戦」

 それでも中国は青海でリチャードソン氏に唯一の空母「遼寧」を参観させた。注目すべきは、飛行甲板以外に、艦載機格納庫なども公開した事実だ。海軍大将だけに一目で装備水準を判別できる。中国がリスクを冒したのは「米国との衝突だけは避けたい」という本音を伝えるためだった。

 習主席は25日、訪中したライス米大統領補佐官と北京で会談した。ケリー米国務長官は翌日、ラオスでの東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)に出席する。習主席がライス氏に「現行の国際秩序と規則に挑戦するつもりはない」と語ったのは、米国への秋波だった。

 そこには、9月に中国・杭州で開く20カ国・地域(G20)首脳会議の成功に向けて「一時休戦」の雰囲気を醸し出す狙いもあった。

 判決が出た12日、中国は対日外交でも動いた。モンゴルでのアジア欧州会議(ASEM)の際、中国の李克強首相が安倍晋三首相と会談する日程調整に早々と応じた。現地の事前折衝でも「条件をのまなければ会談自体やめる」という常とう句は封印した。

 8カ月ぶりの日中首相会談は15日、あっさり実現した。南シナ海問題ではぶつかったが、双方とも内容公表は控えた。直前、李首相はモンゴルで南シナ海問題のカギを握るカンボジアの首相らとも会談。ラオスでのASEAN会合を前にねじを巻いていた。中国は翌週、杉山晋輔外務次官の北京入りも受け入れた。

 「経済を含む対日交流は大切だが、中国に厳しい安倍は相手にしたくない」。中国がそんな姿勢を微修正したのはなぜか。「完敗」判決を受け、中国の選択肢は狭まった。国際的な孤立は避けたい。体面さえ保てるなら周辺国との対話に応じる「微笑外交」である。

 参院選での自公勝利も影響した。安倍政権の基盤は盤石になり、中国が気にする憲法改正さえありうる。習指導部も安倍政権を無視できない。「中国は口でどう言おうと相手の力に応じて対処する。中国自身が力の信奉者だからだ」。中国外交を知るアジアの外交官の弁だ。25日、ラオスでは日中外相会談が実現した。

 中国の王毅外相は4月末、北京で岸田文雄外相と会談した際、突出した「日本たたき」に出た。今回も南シナ海問題では原則論に終始したが、年内に日本で予定する日中韓首脳会談の調整には初めて前向きな姿勢を示した。日中の「海空連絡メカニズム」の運用開始も実現させたいとした。

主権問題譲歩せず

 日中韓外相会談が実現すれば王氏の外相就任後の初訪日になる。杭州G20で約1年半ぶりの安倍・習会談があるのかも焦点だ。とはいえ、中国は一連の国際会議の声明で判決に触れるのを力ずくで阻止した。南シナ海での演習も強行している。主権問題では一切、譲歩していない。

 「既存の国際秩序を変えるのは本当に難しい」

 外国訪問中だった習主席が周囲にぽろっと本音を漏らしたことがある。自ら提起した「新しい形の大国関係」が米オバマ政権に事実上、拒まれた後だった。今回、ライス氏に語った「現行の国際秩序と規則に挑戦するつもりはない」との融和姿勢は、既に国際法を無視した以上、方便にすぎない。

 習主席が掲げる「中華民族復興の夢」には米主導の現体制への反発がにじむ。今後も海洋での摩擦は続く。日本は各国と連携し、国際法による解決を根気強く促すしかない。

<仲裁裁判所判決の骨子> ・中国が南シナ海に設定した独自の境界線「九段線」には主権、管轄権、歴史的権利を主張する法的根拠はない ・南沙諸島には排他的経済水域(EEZ)を設けられる国連海洋法条約上の「島」はなく、中国はEEZを主張できない ・中国がスカボロー礁でフィリピン漁民を締め出したのは国際法違反である ・ミスチーフ礁とセカンドトーマス礁はフィリピンのEEZ内にある ・中国は南沙諸島で人工島を建設するなどして国連海洋法条約の環境保護義務に違反している

『効くか、寸止めの圧力』記事

南シナ海をめぐり、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は今月12日、中国の主張をことごとく退ける判決を下した。その2日後、米国のバイデン副大統領は、ハワイで開かれた日米韓の外務次官協議に出席した。

Abe & Li-2

 閣僚より格下の次官級会議に副大統領が出ることなど、ふつうなら考えられない。異例だったのは、それだけではなかった。

 その冒頭、約50分の長広舌をふるい、伏せられていた習近平・中国国家主席との会談の一部を、暴露してしまったのだ。

 バイデン氏が2013年12月初め、訪中した際のやり取りである。テーマはこの直前、日中台に囲まれた東シナ海に中国が「防空識別圏」を設定し、外国機の出入りを監視しようとした問題だった。

 この措置を批判したバイデン氏に、習近平氏は「では、私にどうしろと言うのか」と開き直った。そこでバイデン氏は「あなたがどうするか、さほど期待していない」と切り捨て、こう警告したという。

 「米軍は(最近、中国への通知なしに防空識別圏内に)B52爆撃機を飛ばした。我々はこれからも、飛び続ける。中国の『防空識別圏』を認めることはない」

 実際、米軍はその後も、中国が設けた「防空識別圏」を無視し、自由に飛んでいる。バイデン氏はこの発言をあえて公表することで、南シナ海でも、中国の強引な行動は認めない決意を示したのだった。

 米政府は中国に対し、南シナ海でも「防空識別圏」を設定したら、強い対抗措置に出る、と水面下で伝えているという。

 先週、ラオスで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の会合でも、米国は日本と組み、中国に仲裁判決の受け入れを迫った。

 ところが、総じてみると、米国の対応はなぜか、いたって穏便だ。オバマ大統領は仲裁判決への発言を控えている。米国防総省でもいま、軍事圧力を強めることには慎重論が多いらしい。

 仲裁判決を受け、かさにかかって中国を責めるというより、刺激しすぎないよう、“寸止め”の圧力にとどめているようなのだ。どうしてなのか。

 内情を知る複数の外交筋はこう解説する。

 「中国は法的に完敗し、内心、かなり焦っている。さらにたたくより、静かに諭したほうが、前向きな行動を引き出しやすい」

 米国にかぎったことではない。安倍政権の対応も似たところがある。

 今月15日、モンゴルで開かれた安倍晋三首相と李克強中国首相の会談。安倍氏は日本周辺での中国軍の動きなどをけん制したが、南シナ海問題には短くふれる程度にとどめたという。

 会談の前半では、9月初めに中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議を成功させるため、最大限、協力するとも伝えた。

 「言うべきことは言うが、経済やテロ対策では中国との協力を進めていく」。周辺によると、安倍氏はこんな意向を示している。中国が窮地にある今こそ、日中打開の好機とみているフシすらある。

 この路線がうまくいくかどうか、日米両政府内ではなお、議論が割れる。要約すると、こんな具合だ。

 南シナ海の軍事化を主導しているのが習近平氏なら、対話によって彼らの行動を変えられるかもしれない。だが、軍が主導し、習氏が追認しているのだとすれば、融和策はほとんど効かないだろう――。

 このどちらかで、処方箋は全く異なる。答えを知るには、中国の言動にさらに目を凝らし、権力中枢の実態を探るしかない。

(編集委員 秋田浩之)

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『対中ビジネス、懸念広がる 10年後の中国経済は?「2~3%低成長」半数近く 日中関係、国内ビジネスパーソン調査』(7/29日経)について

7/28産経ニュース<石平「九段線」とは中国が地図上に引いた線にすぎない 「世界は中華帝国の所有物」は妄想というしかない

今月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は南シナ海領有権問題に関する裁定を下した。最大のポイントは、中国が南シナ海の広い範囲に独自に設定した「九段線」なるものに「法的根拠はない」とし、この海域に対する中国の「歴史的権利」を完全に否定したことにある。

世界主要国の大半が裁定の正当性を認めていることからも、裁定はまったく適切なものであると思う。問題はむしろ、中国政府が今までどうやって、南シナ海に対する自らの「歴史的権利」を主張できたのか、である。

中国側の主張をつぶさに見れば、証拠という証拠の提示はほとんどなく、ひたすら「権利」を主張するだけのいいかげんなものであることが分かる。「九段線」というのは中国が地図の上で勝手に9つの破線を引いて、フィリピンやベトナム近海までを含む広大な海域を「中国のもの」にしてしまった話だ。

国際法の視点からすれば、このような「領有権主張」はまさに乱暴というしかないが、実は現在の中国政府が主張する「九段線」は、かつて中国大陸を統治した国民党政権が設定した「十一段線」から受け継いだものだ。

つまり、「国際法無視の領有権主張」に関していえば、今の中国共産党政権も昔の国民党政権も「同じ穴のむじな」なのである。

2つの政権は両方とも、自国の国名に「中華」を冠したことからも分かるように、対外意識の根底にあるのは、やはり、中国伝統の「中華思想」である。

昔ながらの中華思想は、外部世界に対する「中華」の絶対的優位性を主張するのと同時に、いわゆる「王土思想」を世界観の基軸としている。

中国古典の《詩経》小雅(しょうが)に、「普天(ふてん)之(の)下(もと)、王土に非(あら)ざるは莫(な)く、率土(そつど)之(の)浜(ひん)、王臣に非ざるは莫し」というのがある。現代語に訳すれば、

「天の下に広がる土地は全て天の命を受けた帝王の領土であり、その土地に住む人民はことごとく帝王の支配を受(う)くべきもの」という意味だ。

漢王朝以降の中国歴代王朝においては、そのまま中華帝国の政治原理となっている。要するに中華帝国の人々からすれば、天命を受けた「天子」としての中国皇帝こそが「天下」と呼ばれるこの世界の唯一の主であるから、世界の土地と人民の全ては中国皇帝、すなわち中華帝国の所有物となっているのだ。

このような世界観において「領土」と「国境」の概念は存在しない。全ての土地は最初から中国皇帝の所有物であるから、それをあえて「領土」と呼ぶ必要もないし、「国境」を設定する必要もない。

世界全体が中国皇帝を中心にして無限に広がっていく一つの同心円なのである。

現代の国際感覚からすれば、このような世界観は笑うべき「妄想」というしかないが、近代までの中国人は本気でそう信じていたし、その残滓(ざんし)たるものが今でも、中国の指導者やエリートたちの意識の根底に根強く染み込んでいるのだ。

だからこそ、以前の国民党政権は何のためらいもなく南シナ海の広範囲で勝手な「十一段線」を引くことができたし、今の中国政府はこの海域に対する「歴史的権利」を堂々と主張することができる。要するに彼らの潜在的意識には、南シナ海であろうと何々海であろうと、最初から中華中心の「同心円」の中にあるものだから、おのずと「中国のもの」なのである。

これは冗談として済ませる話ではない。1人か2人の中国人がこのような妄想を抱くなら一笑に付する程度の話だが、核兵器を含む巨大な軍事力をもつ大国の中国がこうした時代錯誤の妄想に基づいて実際に行動しているから大問題なのである。>(以上)

7/29ZAkZAK<田村秀男 世界各地が中国化する恐れ…習政権の厚顔無恥を咎めない国際社会

古代中国を舞台にした司馬遷の「史記」では、口舌に長(た)けた英雄群像が描かれている。その弁論術は実に巧妙だが、現代中国の共産党幹部はその伝統をねじ曲げている。真っ赤な嘘をつき、黒を白と言いくるめて国際ルールを踏みにじる。  25日に閉幕したラオスでの東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国外相会議では、中国の王毅外相が、南シナ海での中国の主張を退けたハーグの国際仲裁裁判所の裁定を非難し、共同声明で触れさせなかった。中国の圧力に弱いカンボジアなどへの根回しが効いたためで、王毅外相は「(ASEAN外相らとの会談で)中国の提案が支持と賛同を得た」と吹聴する始末である。  中国・成都で23、24の両日開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、議長の楼継偉財政相が、中国の地方政府などの債務の膨張問題について、「解決は容易ではないがシステミックリスクはない」「国内の貯蓄率が高いため投資の伸び維持は可能」と言いのけた。中国の銀行融資と地方政府や企業の債券発行はそれぞれ年間で約200兆円、約220兆円と急増している。国際通貨基金(IMF)の分析によれば、銀行の不良債権比率は国内総生産(GDP)比で20%を超え、1990年代の日本のバブル崩壊期のピークをはるかに超えている。ハーグ裁定と同様、北京は徹頭徹尾、リスクを否定し、政府の手で金融危機を防げると主張する。

10月には、人民元がIMFの特別引き出し権(SDR)構成通貨に組み込まれ、円を押しのけドル、ユーロに次ぐ第3位の国際主要通貨の座を確保する予定だが、その条件である金融自由化を進めるどころか、外国為替市場に介入を続け、株式市場を党による統制下に置いている。国際合意もルールも無視して平然とし、信用バブルを膨張させる。  党幹部は国内の過剰生産の削減には取り組むと言いながら、鉄鋼などのダンピング輸出にいそしんでいる。市場原理にまかせずに、国有企業を温存するためにそうなるのだが、北京は各国に対し、「市場経済国」としての認定を迫るという厚顔無恥ぶりだ。  ところが、である。国際社会ではどの国も中国に対してはあいまいな態度しかとらない。南シナ海で米国は中国との軍事衝突を恐れる。IMFも米国も欧州、日本も中国の金融自由化約束の履行を口にしないし、人民元のSDR認定取り消しを検討する気配がない。中国の債務爆弾が破裂すればグローバル化した金融市場が巻き込まれると恐れるからだ。  このままだと、何が起きるのか。習近平政権は膨らませた人民元を武器に海外で兵器、先端技術、さらにエネルギー・食料など戦略物資を、富裕層は日本を含む快適な居住環境のある先進国で不動産を買い漁る。一方では軍事脅威の拡大、他方では世界各地の中国化が加速するだろう。 >(以上)

石平・田村両氏が共通して言っていますのは、中国人の自己中心的な生き方です。いつも言っていますように中国人の基本的価値観は「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」というものですから。南シナ海、東シナ海だけでなく、ブータンにまで中国人を入植させ、中国領土としようとしています。長野朗が言ったように「アメリカは$の力によって、ロシアは軍事力によって、中国は人の数によって」他国に進出しようとします。田村氏の言う「世界各地の中国化」(≒チャイナタウン造り、その国の伝統文化の破壊)が進んで行っています。日本を含めた西側社会が見て見ぬ振りをすれば、チエンバレンの宥和政策と同じになります。中国のバブル崩壊を恐れて先送りすればするほど大爆発となって世界を揺るがせます。チャイナマネーが軍事拡張と世界の不動産買収に充てられ、焦げ付いたときの後処理をどうするつもりなのでしょうか。中国人・朝鮮人の発想は“too big to fail”なのでしょう。敵が潰れるまで価格競争します。董明珠氏の『市場烈烈』を読むと良く分かります。中国の鉄の過剰生産も世界の鉄鋼産業を壊滅させるための仕掛けと見れば分かり易い。ソフトバンクの孫氏も同じ発想でしょう。ARMの買収もうまくいくかどうか。

http://jp.wsj.com/articles/SB12334390200972253966304582196851451900104

http://jp.wsj.com/articles/SB12334390200972253966304582196851451900104

日経の本記事は日本人の平和ボケを表していると思います。日本国内でアンケートを取ったからだと思います。それでも、10年前と比べれば中国に対する脅威の思いは強まっていると感じますが。中国在住の駐在員にアンケートを取れば、「中国からの撤退」や「事業縮小」の意見が増えると思います。所詮国内にいる日本人は海外にいる日本人のことは考えていないという事でしょう。拉致被害者に関しても「我関せず」、政治に無関心で自分の生活のことだけしか考えない日本人が増えています。やっと自衛隊機がアルジェリアの人質事件後に飛ばせるようになり、南スーダン内乱で自衛隊の陸上救出も可能になりました。左翼は海外邦人の救出には冷淡です。自分勝手な連中で中韓と同じです。自衛隊の海外派遣は平和憲法違反なんて自分の子供がテロリストに捕まっても無視するのでしょうか?ピースボートの世界一周旅行が正しく左翼の正体を現しています。海賊が跋扈するアデン湾の自衛艦航行を依頼するのですから。彼らの論理は現実の前に破綻しているのは少し考えれば分かるはず。

日経読者のアンケートを読むと、戦後GHQの呪縛が続いているのが分かります。軍事に無関心だから、洗脳が続いていますが、中国経済の伸長は軍拡を齎すといった視点が必要と思います。これは日経の設問が悪いからでしょう。平和憲法は平和を守るのには何も役立つわけがありません。こんなのものは小学生ですら分かる論理です。いじめにあった時に、「皆で仲良く」と先生が言っていると言ったって、いじめっ子がイジメを止める訳がありません。強制力が必要になります。少しは現実を見て、真の賢さを身に着けた大人になれと言いたいです。知的に未熟では。

7/28には日中交流団体「日中青年交流協会」理事長の鈴木英司さん(59)がスパイ容疑で拘束されているのが分かったとのこと。中国に尽くして来た如何わしい人物と思いますがそれでも逮捕されるのですから。理屈は後から取ってつけるだけでしょう。習派VS団派の権力闘争に巻き込まれたという見方もあります。2010年のフジタの社員の逮捕もでっち上げです。軍事施設を撮影なんて普通中国人の案内がいればどれだけ危険か分かっているのに、それをわざとさせたか、していないのにそうしたといった捏造でしょう。南シナ海がきな臭くなる中、戦争が起きれば在中邦人は人質になる危険性があります。日本の経営者は財務的に危険(横領・有報虚偽記載等)がありますが、現地は中国人に任せ家族を含めて帰国させるべきです。授業料と思って。

記事

日経・CSISバーチャル・シンクタンクが実施した日中関係に関する調査(第3回)で、日本のビジネスパーソンが中国経済の先行きに厳しい見方を持っていることが分かった。安全保障面でも中国に対する懸念を強めており、投資先も中国以外を有望視している。中国市場の重要性に対する認識に変わりはないものの、リスクを軽減したいとの姿勢が読み取れる。

201607Nikkei Survey-1

201607Nikkei Survey-2

(1面参照)<以下の通り

中国事業「縮小」4割 政治リスク意識 日経・CSISバーチャル・シンクタンク 国内3000人調査

2016/7/29付日本経済新聞 朝刊

日本経済新聞社と米戦略国際問題研究所(CSIS)が共同で設立・運営している「日経・CSISバーチャル・シンクタンク」は、日本企業で働く社員約3千人を対象に日中関係を巡る意識調査を実施した。南シナ海問題などを背景に中国の政治リスクを懸念する声が多く、今後の対中ビジネスも4割の人が「縮小が望ましい」と答えた。

(関連記事を特集面に)

調査は、日本在住の民間企業で働く係長以上の役職者2827人に、インターネットを通じて5月末から7月中旬にかけて行った。日中関係の意識調査は今回で3回目。

尖閣諸島の接続水域を中国の軍艦が航行したことについて、75%が「日本の領土・領海に深刻な脅威」と回答。人工島を建設した南シナ海情勢に関しては、95%が「反対を表明すべきだ」と答えた。中国でビジネスを行う際に懸念する問題として「政治リスク」を選ぶ人が約80%に達した。

中国経済の先行きも慎重意見が多い。10年後の経済成長率は、5割弱が「2~3%程度になる」と予想。対中ビジネスの方向性も「撤退」(15%)「縮小する」(40%)が、「拡大・発展する」(8%)「現状維持」(37%)を上回った。

新興国で有望な投資先としては、インドが50%、東南アジア諸国連合(ASEAN)が38%で続き、中国(4%)を圧倒した。政治情勢や経済の減速を背景に、中国リスクの分散を図ろうとする姿勢が目立つ。>(以上)

ビジネスパーソン約2800人を対象にした今回の調査は、2014年4月の第2回調査から約2年の時間を置いて実施した。この間、中国情勢は大きく変化している。

経済面では減速が鮮明になり、昨夏には人民元切り下げをきっかけに世界経済の混乱を引き起こした。一方、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立するなど、中国が世界経済で主導権をとろうとする動きも表面化した。

政治面では習近平政権が国内で反腐敗運動を徹底する一方、南シナ海で人工島を造成するなど海洋進出を加速し周辺国との対立を深めている。

こうした情勢の変化を受け、日本のビジネスパーソンの対中観にどんな変化があるかが調査の読みどころだ。

◎ ◎ ◎

過去2回とはっきり変わったのが中国経済の先行きに対する見方だ。

10年後の中国経済について聞いたところ、46%が「2~3%程度の低成長に移行」と答え、34%が「バブルが崩壊して経済が混乱し、マイナス成長の可能性もある」を選んだ。「5~6%程度の安定成長で推移」とみる人は全体の18%にすぎず、前回(32%)、前々回(35%)に比べ半分近くに激減した。

日中の政治的緊張が高まるリスクを想定した場合、日本企業の対中事業についても、「拡大・発展を目指す」は前々回が約20%、前回は10%あったが、今回は8%まで減った。一方、「縮小する」と答えた人は40%で最も多く、「撤退する」も15%あった。

今回調査で新たに取り上げたAIIBについては、6割弱が「加盟する必要なし」を選択。35%が「当面は様子見」とし、全体として消極的な姿勢が浮かび上がった。

貿易関係についても、「中国との貿易自由化は現状程度でよい」が32%で最も多く、「環太平洋経済連携協定(TPP)と同程度の広範で高い水準の自由貿易を目指す」の24%を上回っている。

ただ、中国市場の重要性(約8割が「必要不可欠」と回答)や、日中製造業の競争力比較(約6割が「全体として日本が優位」と回答)など、基本的な対中認識に関しては3回の調査を通して大きな変化があるわけではない。

回答者の属性別に調査結果を見ると、中国ビジネスに直接携わっているかどうかで顕著な差が出た設問もあった。

中国事業に携わる人はそうでない人より対中ビジネス戦略で「現状維持」を選んだ割合が10ポイント以上高く、逆に「縮小」は10ポイント以上少ない。中国経済の先行きでも中国事業に携わる人に楽観論の割合が高い。中国と仕事上のかかわりがあるかどうかで一定の認識ギャップが存在するのは確かなようだ。

◎ ◎ ◎

一方、外交・軍事面に関する回答からは中国の海洋進出に対する懸念が浮かぶ。

中国の南シナ海での行動が日本のシーレーン(海上交通路)確保にどんな影響が出るか聞いた設問では、回答者の半数が自社の事業活動に対して「現時点では影響はないが、将来影響が出てくると思う」と答えた。「すでに影響が生じている」も14%ある。

東シナ海についても、今後5年程度の時間軸でみた場合、「日中の緊張関係は今以上に高まる」が66%、「現在と同等の緊張関係が続く」が29%で、「徐々に沈静化していく」は2%にすぎない。

東シナ海の緊張が高まると答えた人に理由を自由に書いてもらったところ、「中国は国内統制のため国民の目を海外に向けようとするから」(50代の非製造業・部長クラス)、「米国が弱体化し、日本への関与が弱まるから」「中国は現状の枠組み、国際ルールを変えようとしている」(50代の製造業・部長クラス)といった意見が多かった。

中国による南シナ海への進出に日本がどう対応すべきか聞いた設問では、「中国の行動には反対を表明すべきだが、軍事的な関与は避ける」が4分の3近くを占めた。ここからは、中国との決定的な対立は回避したいとの意識が働いているようにも読める。

一方で、回答者の5人に1人が「自衛隊の哨戒機や艦艇を常時継続的に南シナ海に派遣するなど、軍事的な関与をすべき」を選んでいる。

中国の海洋進出に対する不安が日本で対中強硬論の高まりを招いているのか、今後も定点観測を続ける必要がありそうだ。

前回調査時点との違いとしては、台湾で今年5月に民進党の蔡英文政権が発足したことも重要な変化といえる。蔡政権との関係をどうすべきか聞いたところ、日台FTA協議を進めるなど「積極的に関係を強化する」と答えた人が6割弱に上り、中国への刺激を控えるため、「距離を置くべきだ」と答えた人(8.5%)を大きく上回った。

両国で認識にギャップ アカデミックアドバイザー(東京大教授) 川島真氏に聞く

2016/7/29付 日本経済新聞 朝刊

この調査も今回で3度目となった。2012年、2014年との比較では、特に経済面を中心に日中関係への見方はほぼ横ばいになっている。中国への見方も、必ずしも強硬になっているわけではない。しかし、いくつか顕著な変化もある。

Makoto Kawashima

中国国内政治では、共産党政権が不安定でも継続すると60%が答え、中国の民主化への道のりは、20~50年かかるとみる回答が増えた。中国国内では習近平政権への批判は増しているが、日本ではむしろ政権の継続を予測している点が面白い。

そのためか、政治リスクを考慮に入れた場合、対中ビジネスは縮小すべきだとの回答が40%に達した。前回よりも7%近い増加だ。

経済面では、中国市場の重要性への認識は変わらないが、今後の経済見通しが厳しくなった。10年後の中国経済を予測する質問で、34%がマイナス成長の可能性もあると予測した。だが、中国経済と関わりのある回答者ほど、中国経済の将来を肯定的に見ている点には留意すべきだ。

安全保障面を見ると、中国海軍の行動が日本の領土・領海への深刻な脅威だとする回答が4分の3を占め、圧倒的多数が東シナ海の緊張は今後も継続するか、あるいは一層高まると見ている。だが、日本の防衛力については、現状維持でよいとする回答がこの3回の調査で増えている。

しかし、日米同盟に関する問いでは、中国に対抗するために日米同盟を強化すべきだとの回答が、3度の調査で60、54、48%へと減少し、自主的な防衛力の強化が前回の21から26%に伸びた。

これはトランプ現象の影響だけではない。集団的自衛権を含む安保法制が施行され、日米同盟の強化が一段落したからかもしれないが、日米同盟の将来への漠然とした不安があることも否定できない。

日中関係全般では、習近平政権の対日政策を56%が「強硬だ」としたものの、安倍政権により日中関係が悪化したと見る人が75%から52%へ減少し、改善したとの見方が19%から37%へ上昇した。中国政府は南シナ海問題を理由に日中関係の悪化を指摘するが、日本国内では異なる。双方で両国の関係への認識に齟齬(そご)が生じている。

台湾については民進党政権が成立したためか、台湾独立が日本にとってよいとする回答が増え、蔡英文政権と積極的な関係を築くべきだとする回答が過半を占めた。台湾政策について、米国の意向を踏まえるべきだとの回答が30%を割ったのが印象的である。

今回の調査では、中国や日中関係についてだけでなく、米国への印象、日米同盟の位置付けが変化していることが興味深い。

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『『炎黄春秋』停刊宣言は中国の良心の断末魔 右派知識人排除の先に待つのは、絶望への下り坂』(7/27日経ビジネスオンライン 福島香織)について

7/28~7/30まで万座温泉に出かけました。湯質が非常に良く、何度もお風呂に入ったり、出たりしました。長期滞在して湯治する人もいて、80過ぎたお婆さんで、熱海で旅館を経営されている方も1ケ月の湯治に来ているとのことでした。建物は古いのですが、食事はバイキングで野菜が美味しく、お腹いっぱい食べられます。また行きたくなるところでした。

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万座温泉日進館

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対面に見える禿山、硫黄分のせいで植物は育たず

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日進館の源泉、硫黄泉で近くは立ち入り禁止でした

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禿山の上から見た日進館

さて、本記事ですが、福島氏は最後に「「炎黄春秋」停刊宣言は、中国の良心の断末魔であり、中国の未来が絶望の坂を転がり始める、ポイント・オブ・ノーリターンのように感じた。」と述べています。共産中国に言論の自由を求めるのは、八百屋で魚を求めるのに同じで、あり得ない話です。共産党支配をなくさない限り中国人には幸せは来ないという事ですが、果たして今の中国人でそれをどれだけ自覚している人間がいるかどうかですが。自己中が多いので。

人類の不幸が中国国内だけに留まるだけならまだしも中共は世界制覇に向けて着々と準備を進めています。ASEANも日本もチベット、ウイグル、モンゴルのように侵略されるのが嫌であれば、大同団結して中国の野心を挫かないとダメでしょう。日本政府・官邸も沖縄に中国が手を伸ばしてきているのにもっと危機感を持たないと。沖縄独立運動は裏で中国が金を出していると思います。「琉球民族独立総合研究学会」なるものも中国が作らせたのでしょう。中国国内でも「琉球・沖縄最先端問題国際学術会議」なるものを作ってPRし出しました。日本の外務省は何もせず。腐った組織です。米大統領がトランプになり、日米同盟破棄となった時に日本は中国の軍門に下るつもりでしょうか?温泉地でケント・ギルバート&ロバート・D・エルドリッジの『危険な沖縄』を読みました。日本の左翼は良く「米国の戦争に巻き込まれる」という言い方をしますが、国際関係論の中では「見捨てられるか、巻き込まれるか」のどちらかとエルドリッジ氏は言っています。ノホホンと暮らし、左翼プロパガンダ紙の言うように生きれば間違いなくなく中国の属国です。日米同盟を確固たるものにするには「自国は自国民が守る」ことを決意し、そのため国民一人ひとりができることから行動すべきです。

liberation of Okinawa in China

http://www.mag2.com/p/news/212497

記事

1991年の創刊以来、中国知識人の良心を代表するとして愛読されてきた中国の改革派雑誌『炎黄春秋』がついに停刊に追い込まれた。おそらくは文革発動50周年に関する5月号の記事が最終的なきっかけとなったのだろう。習近平政権になってから何度も停刊危機がささやかれたが今年7月17日になって、社長だった杜導正の署名で停刊声明が出された。過去25年19回にわたって当局から圧力を受け続け停刊の危機に瀕しながらも耐え続けた雑誌が、このタイミングで停刊に追いやられた背景に何があったのか。炎黄春秋停刊から見えてくる中国の未来を考える。

当局による雑誌社乗っ取り

 停刊声明は、このような文面だった。

 「7月12日、中国芸術研究院が一方的に炎黄春秋雑誌社との契約書「中国芸術研究院と炎黄春秋雑誌社協議書」を破毀し、わが社指導機構の総入れ替えを宣言したことは、憲法第35条が与えた“公民の出版の自由”の権利を厳重に侵犯するものである。また明確にわが社の人事、出稿、財務における主権を約定している協議書にも違反している。7月15日、中国芸術研究院が派遣した人員がわが社に強硬に侵入すると、『炎黄春秋』のオフィシャルサイトのパスワードを盗み取り変更し、我らが雑誌の基本的編集出版条件を喪失させた。

 これに鑑み、炎黄春秋雑誌社委員会の討論を経て決定したことは、きょう7月17日即日停刊し、今後いかなるものも『炎黄春秋』名義で発行する出版物は、“本社”と関係ないこととする」

 これはどういうことか。炎黄春秋の主管は一昨年から国務院文化部直属機関である中国芸術研究院となり、その主管機関の研究院がいきなり25年間、社長を務めていた杜導正を解任し、人員を派遣して、編集局を占拠し、雑誌社の資産800万元を差し押さえ、資料や荷物を勝手に運び出し、オフィシャルサイトのパスワードを奪い勝手に変えて、雑誌社から編集権、出版権を奪ったわけだ。そして幹部、編集者を総入れ替えして、雑誌の性質を完全に変えてしまおうと試みたということだ。ちょうど杜導正が妻を看取り、体調を崩して入院したスキをついての、当局による雑誌社乗っ取り事件である。

杜導正はこの声明発表の直前、香港有線電視のインタビューに答えて「これは“公開強盗”と変わらない」「いや文革大革命と全く一緒だ」と激しく非難した。そして、弁護士を立てて、当局のこの無法に抵抗すべく、訴訟の準備をしているという。

 炎黄春秋という雑誌は創刊以来、何度も政治的に敏感なテーマを取り上げてきたアグレッシブな改革派誌だ。もともと天安門事件で失脚した趙紫陽に近い党中央老幹部たちが創刊。当初の主管は解放軍長老・蕭克上将が主導した中華炎黄文化研究会で、研究会の機関誌という体裁だった。このため共産党中央宣伝部がこの雑誌の人事や編集に直接介入できず、編集権の独立がかなり守られていた。社長の杜導正は今年93歳の老体だが、国務院新聞出版総署長などの閣僚経験者で現在の政治局常務委員・劉雲山(思想宣伝担当)の上司に当たる。

「八つのタブー」を守りつつ

 創刊当初は中道左派に位置するポジションだったが2001年2月25日、習近平の父親である開明派(中国的には右派)習仲勲が「炎黄春秋、弁得不錯(炎黄春秋はすばらしい)」との賛を贈ったことから、これを「丹書鉄契」(特権を付与されたというお墨付き)として、次第に右派色を強め、政治体制改革や文化大革命などの敏感なテーマに関する切り込んだ論評や史実の掘り起こしを特色とするようになっていった。

 主に中国共産党史、軍史、国史の重要な歴史事件の当事者の回顧録を通じて、近代史を見直し、中国共産党の歴史的錯誤、例えば飢饉や文革などに対する検証を行い、未来のよりよい党政にフィードバックさせることが目的だ。重大な理論問題や中国の発展方針を示唆するオピニオンも多く載せ、特に政治改革に対しては積極推進派の姿勢を示していた。

 もちろん体制内雑誌としての守るべき一線は心得ていた。雑誌社と当局の間では「八つのタブー」が決められていたという。その八つのテーマとは①軍の国軍化問題②三権分立③天安門事件④党・国家指導者及び家族の批判・スキャンダル⑤多党制⑥法輪功⑦民族・宗教問題⑧劉暁波――。習近平政権以降は⑧は劉暁波から憲政に変わった。それ以外は、雑誌で取り上げてよいということになっており、炎黄春秋はこの八つのタブーを守りながらもぎりぎりのところを狙った原稿を果敢に掲載してきた。

 たとえば天安門事件は八つのタブーに入っているが、天安門事件で失脚した故・趙紫陽の手記や回想録を最初に中国国内の公式メディアで取り上げたのはこの雑誌だ。天安門事件そのものに触れないが、趙紫陽をポジティブに取り上げることで天安門事件にかするようなエッジボール記事を掲載したのだ。

 最近では習近平の個人崇拝傾向にもどこよりも早く警鐘を鳴らしてきた。もちろん習近平を直接批判するような記事ではないが、ロシア語から翻訳された「個人崇拝」の元の言葉について劉少奇が「個人迷信」と翻訳すべきだと主張するものの毛沢東に却下された歴史エピソードなどを載せれば、個人崇拝の危うさを伝えるには十分だろう。炎黄春秋はそういう高度な洞察ができる知的レベルの高い読者を想定した雑誌だった。

しかしこうした果敢な記事を何度も載せてきたせいで、党中央宣伝部からは何度も強い圧力を受けてオフィシャルサイトが閉鎖されたり、雑誌の印刷や配送が妨害されたりした。停刊の危機にさらされたのは、わかっているだけで19回に及ぶ。だが顧問に元毛沢東秘書の李鋭や、農村改革の父として習近平も地方幹部時代に教えを請うた杜潤生を抱え、党の老幹部らの支持も広くあり、中国国内および党内高級幹部の良識的知識人にも愛読者が多いことが幸いして、これまで何とか耐え抜いてきた。

「南方週末」は全面降伏

 共青団派の政治家もおおむね支持者だ。2008年にこの雑誌の最大の庇護者であった蕭克が死去、その年の12月に趙紫陽についてポジティブに取り上げた記事が原因で、社長の杜導正が江沢民派(党中央宣伝部)から猛攻を受けて失脚しそうになったとき、最後に彼を守ったのは胡錦濤だ。ウィキリークスが後に漏らした米大使館公電の中にその詳細があった。

 こうして時の権力者や党の老幹部たちの強い庇護もあって、圧力を受けるたびにそれをはねのけ、部数を伸ばし、最近の発行部数は20万部に上っていた。南に南方週末あれば、北に炎黄春秋あり、そういわれた中国の数少ない良心的メディアだった。

 習近平政権になってこうした良心的メディアに対する弾圧が激しくなり、南方週末は2013年春節特別号の「社説差し替え事件」をはじめ度重なる報道弾圧を受け続けた。また習近平政権は炎黄春秋の編集権にも介入しようとし、老齢の杜導正に引退を迫った。杜導正は2014年10月、同誌をしっかり守れる後継の社長に、開明派政治家・胡耀邦の息子であり、習近平とも話をつけられる胡徳平をつけようとしたが、習近平からの圧力を受けた胡徳平がYesと言わなかった。

 2014年暮れに同誌の主管は文化部傘下の芸術研究院に変更され、いよいよ、雑誌の命である編集権が奪われようとしていた。こういったごたごたの中で、2015年7月に長年編集長を務めていた楊継縄が圧力に屈する形で辞任。彼が2015年の間に雑誌に掲載した記事のうち37本が事前の許可を受けなければならない内容であったと、当局から警告を受けたことを最後の読者への手紙で明らかにしていた。続いて、顧問の杜潤生が2015年10月9日、102歳で死亡、今の党中央指導部にも、影響力を持つような良心的知識人が次々鬼籍に入り、炎黄春秋を守れる立場の人がいなくなってしまった。

 南方週末は、2015年12月3日に「習近平改革三年」と題したごますり長編記事を掲載、これをもって国内外知識人は南方週末が習近平政権に全面降伏した、とささやいた。そして、「炎黄春秋」が習近平に屈するのも時間の問題となっていた。

炎黄春秋の代理人を引き受けている弁護士・莫少平がロイターやRFI(フランス国営放送)などのメディアに語っているところを総合すると、炎黄春秋は目下、中国で唯一真実を語る雑誌であるが、今の共産党はその存続に耐えられないでいるという。弁護士として提訴する努力は続けているが、裁判所は根本的に提訴を受理する気はない。しかも弁護士にまで、警察や国内安全保衛局などから強い圧力がきているという。

 今回の当局のやり方は違法性が高く、悪質であり、社会秩序擾乱に抵触する。公正な法的プロセスを経て、雑誌の復刊と救済が望ましいが、それができるかは今のところなんともいえない、としている。

 また炎黄春秋雑誌社委員会内部筋の話では、「まず停刊して、条件を満たせば復刊の可能性もあるが、条件を認めてもらえねばそのまま廃刊になる」という。杜導正はかつて「玉砕瓦全」(堕落するくらいなら玉砕を選ぶ)と語り、炎黄春秋のプライドを失うくらいなら、中国当代雑誌史上に一部の栄光を残したまま、停刊する選択をする、という姿勢を示していた。今の状況ではそれが現実になりそうだ。

父が賞賛した雑誌に、息子がトドメ

 顧問の李鋭が一部メディアに語ったところよれば、以前に炎黄春秋の主管部門の紛争について、党の老幹部たちが意見書を習近平に送ったところ「封鎖しないで、引導せよ」という指示を出したという。つまり、管理組織の改編によって雑誌の編集方針を当局の都合に合うように変えよ、ということだ。今行われていることは、まさしく習近平政権の方針だと言える。習近平の父親が「すばらしい」と褒めたたえた雑誌に息子の習近平がトドメを指すわけだ。

 炎黄春秋の停刊は、一つの雑誌の終焉というだけではなく、おそらくは中国共産党内右派の敗北、そして排除につながる、中国の行方の左右を決する歴史的な事件といえるだろう。

 この半年、何度か私的に匿名を条件に中国のメディア関係者や知識人との意見交換を行っているが、共通して訴えているのは、文革以来の厳しい知識人弾圧、メディア弾圧が起きているということである。江沢民政権時代、胡錦濤政権時代に許されていた「エッジボール」といわれる、共産党メディアとしてのタブー報道ラインにぎりぎりかするような記事は今ではすべてアウト判定になる。それどころか、明白にコートに入っているボールですら審判は、打ち手が気に入らなければアウトの判定を下して失脚させる状況であり、それはまるで文革時代の右派狩りに似ている。

 なぜそうなっているのか。

それは習近平政権の目指す方向に少なくとも、従来の中国、胡錦濤政権時代に可能性が検討されていた政治改革の目がないからだと思われる。習近平政権樹立後、炎黄春秋内部の改革派知識人たちの仲には、習近平は「隠れ改革派である」という根強い希望的観測があった。実際、習近平は胡徳平とも昵懇であった。

メディア統制の先は、破たん

 だが、その後3年の知識人に対する迫害の事実をみると、その可能性はゼロだということが誰の目にも明らかになった。最近、習近平の内部講話集というものを読み返しているのだが、その中で習近平はこんなことをいっている。

 「私はゴルバチョフのようにはならない。…皆、旧ソ連共産党の失政を歴史上の教訓として学ばねばならない」「政治体制改革はいったん始めればもう、後戻りはできず、またコントロールも不可能になる。その時、私が総書記でおられるか、党の指導的地位を維持できるかわからない。簡単に改革に手を付けて、誰が責任をとるのだ」(2013年2月27日 中南海)。

 中国を旧ソ連のようにしない、政治改革を行わない、という方針は実は習近平は幾度となく主張しており、そのために、軍権を掌握すること、ありていにいえば軍事と政治を一元化することが必要だと何度となく訴えている。胡錦濤政権時代まで党内の隠れたテーマであった解放軍の国軍化問題は完全に封印され、むしろ党と軍の一体化を習近平は目指している。

 今、習近平にとって目障りなのは、改革を期待する勢力、つまり右派知識人であり、右派知識人が集まるメディアである。彼らを弾圧して排除し、世論をコントロールするためのメディア統制を強化しつつ、軍制改革や南シナ海などでの対外強硬姿勢を利用して党と軍の一体化を進め、共産党の執政と指導的地位を維持していく、それが習近平のシナリオではないか。

 だが、そういうやり方では、中国経済が回復に必要な条件である法治の徹底や市場の自由化は遅れ、あるいは逆進し、経済失速に歯止めがかかることは習近平政権が続く限りないだろう。共産党体制は力技で維持できても、息詰まるような言論弾圧の中で、経済も悪化すれば、人々の不満が募る。その不満を対外戦争の興奮に誘導にするにしても、強力な治安維持力によって抑え込むにしても、そういうやり方では、必ずどこかで国家は破たんする。

 「炎黄春秋」停刊宣言は、中国の良心の断末魔であり、中国の未来が絶望の坂を転がり始める、ポイント・オブ・ノーリターンのように感じた。

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『裁定が出ても中国が一歩も引くわけにはいかない理由 「無謬性」の虜となった習近平』(7/25JBプレス 阿部純一)について

習と毛の近似性を筆者の阿部氏は捉えています。共産党政権の初代が毛沢東なら、ラストエンペラーが習近平となるかも知れません。「無謬性」が唱えられるのは絶対神だけで、小賢しき人間が言えるハズもありません。そういう自覚が習には欠けているのでしょう。驕りは身を滅ぼします。

中国の政権が考えているのは「中国共産党の存続が第一で、後のことは重要性から言って大したことがない」と織田邦男氏が言っていました。当然、中国国民のことはどうでもよく、共産党の延命のためには自国民だって簡単に虐殺できるという事です。ですから毛沢東が大躍進・文化大革命を、鄧小平が天安門事件を起こすことが平気でできた訳です。習近平は何事件を起こすのでしょうか?中国大陸は共産党と言う寄生虫に寄生、乗っ取られています。中国国民も気づいていないのでしょう。人民解放軍は共産党の軍隊ですので簡単に国民を殺すことができる訳です。

ASEANの全会一致の原則は逆に結束を弱めることになるのでは。共同声明で中国を名指しして非難できないようでは中国の思いのままになるだけです。南シナ海は中国のものになるでしょう。自分の国の領土・領海は自分で守る努力をしなければなりませんが、ASEANの各国が一国で中国に立ち向かっても個別撃破されるだけです。属国にされて初めて気が付くのかもしれませんが。中国の鼻薬が効いているのでしょう。フィリピンもドウテルテ大統領になってから態度が怪しくなってきています。

7/27日経に小原凡司氏は「軍事拠点化今後も続ける・・・中国は9月に杭州で開く20カ国・地域(G20)首脳会議までは過度な挑発行動は避けるかもしれないが、今後も南シナ海で軍事拠点化する動きは続けるだろう。南シナ海で防空識別圏(ADIZ)を設定する可能性はある。米軍が中国の人工島の12カイリを航行する「航行の自由作戦」に対しては中国海軍に行動基準があるはずで、挑発的な行動には出ないだろう。東シナ海で積極的な動きを見せることは考えられる」と述べています。米軍と戦えばすぐにも中国海軍は壊滅しますし、日本は憲法9条の制約があることを知り抜いているので、ロックオンなどの挑発行動を活発化させるという事でしょう。ヘタレオバマは何もできないし、トランプはアメリカ・ファーストで中国にそれほど関心がないし、ヒラリーに至っては中国の賄賂付けになっているので足元を見てドンドン傍若無人に振る舞っていくのでは。気づいたときには手遅れになっているのかも。

記事

Philippin Embassy in Beijing

北京でフィリピン大使館につながる道路を封鎖する中国の警官(2016年7月12日撮影、資料写真)。(c)AFP/NICOLAS ASFOURI〔AFPBB News

7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、フィリピンによって提起された南シナ海の国際法上の解釈をめぐる裁定を下した。裁定は中国の主張をことごとく否定する内容であり、中国側の「全面敗訴」と言っていい内容であった。

中国はフィリピンの常設仲裁裁判所への提訴そのものを不当なものとし、裁判への参与も行ってこなかった。事前の予想で、中国に不利な裁定となることは予想されていたが、それは中国も織り込み済みのことであっただろう。

ただし、中国側が主張してきた「古来中国のものであった」ことを根拠に、南シナ海の管轄権の範囲を示す「九段線」についてまで裁定が及ぶとは想定外だったかもしれない。

裁定が出ても一歩も引かない中国

中国は不利な裁定が出ても対応できるように、中国側の南シナ海をめぐる主張に賛同する国家を多数集める工作に励んできた。同時に、自らの主張の正当性を改めて強調するための「白書」まで多言語版で用意していた。

中国によれば、南シナ海における中国の立場を支持する国は70カ国に上るとされている。だが、その多くが南シナ海の領有権をめぐる問題に関心のないアフリカ、中東、中央アジアの国々である。その中にはインドも含まれていたが、インド政府は「すべての関係国に対し、仲裁裁判所への最大限の敬意を示すよう求める」との声明を発表しており、中国の立場を支持などしていないことが分かる。70カ国の支持というのは、かなりの誇張が盛り込まれていると見てよい。

常設仲裁裁判所の裁定では、中国の主張する九段線の「歴史的経緯」は根拠なしとして否定され、南沙諸島には「島」はなく「岩(礁)」と満潮時には水没する「低潮高地」があるだけであり、「岩(礁)」は領海12海里を宣言できるが排他的経済水域(EEZ)は設定できず、「低潮高地」はどちらもその権限を持たないとされた。要するに、中国の主張する南シナ海の管轄権が否定されたのである。

問題は、中国はいかなる裁定が出されようとも、南シナ海問題で一歩も引かない姿勢を貫く意思を明確にしていたことである。

そこまで中国が決意した背景は何なのか。

それは「党・指導者の無謬性」へのこだわりであり、ひいては習近平主席を「常に正しい判断をする指導者」であることを確保するためであったと言っていいだろう。

「無謬性」にこだわり過ぎて政策が硬直化

今年3月、新疆ウイグル自治区のネットニュースサイト「無界新聞」に「忠誠なる共産党員」の名で習近平の政策的誤謬を羅列し辞任を求める「公開書簡」が出され、大騒ぎとなったことは記憶に新しい。

民主主義国家では言論の自由があり、政権批判など当たり前の現象だが、一党独裁の中国ではそれが許されない。党とそのトップリーダーは「常に正しい」ことにされているから、党や習近平を名指しで批判することなど許されてはいないのである。

「無界新聞」の件については、当局が血眼になって犯人探しを行ったことは言うまでもないが、いまだに首謀者は見つかっていない。

中国では、現在に至るも「無謬性」の神話が生きている。毛沢東は死後、文化大革命の責任を問われたものの、1981年の歴史決議で「功績第一、誤り第二」の結論となった。鄧小平に関しては、1997年に死去して今年で19年になるが、依然として1989年の天安門事件の責任さえ正式に問われてはいない。

では習近平の場合はどうか。「中華民族の偉大な復興」を「中国の夢」であるとする習近平主席は、東南アジアの「小国」に蚕食された南シナ海、とりわけ南沙諸島を「取り戻す」ことが自らに課せられた歴史的使命であるとともに、東アジア地域秩序を形成する盟主としての中国の地位確立にとってもきわめて重要な事業であると位置づけた。

そのために、これまで台湾やチベットなど「分離独立」の気配のある地域に限って使っていた「核心的利益」という修辞を南シナ海にも援用し、「領土主権に関わる問題について一切譲歩しない」姿勢を明確にしてきた。

つまり習近平政権は、南シナ海の領有をめぐる紛議に関して「退路を断つ」政策を強行してきたのである。南シナ海での中国の政策が「正しいもの」だとする「無謬性」へのこだわりが政策を硬直化させ、状況の変化に対し柔軟な軌道修正をする余裕を失わせてしまったと言える。

米中の緊張関係はさらに高まることに

今回の常設仲裁裁判所の裁定は、「南シナ海の島嶼が誰のものか」について明確にしていない。もともと裁定の目的はそこにはなかったわけであり、今回の裁定で、中国の南シナ海の島嶼の領有権の主張までは排除されていないのである。これは中国にとって幸いであり、中国にはこれまで通りの主張を展開する余地が残されたことになる。

とはいえ、国際法廷で下された「最終判断」は、それなりに重く習近平政権にのしかかる。いわば「国際的圧力」であり、今後中国が参加する国際会議で繰り返し「裁定順守」のプレッシャーがかけられることになる。

それにもかかわらず、「無謬性」を確保しなければならない中国としては、独自の論理で2つの行動を追求するしかないであろう。

第1に、国内対策である。今回の裁定は、広く国内でも報道されており、政権の主張を「鵜呑み」にすることに慣らされてきた人民に対し、国際社会の圧力に屈する姿勢は見せられない。下手に妥協すれば「裏切られた」人民による政権批判を招くからである。

一方、知識人を中心に、裁定を「中国外交の大失敗」と醒めた目で見る「民意」にも対抗しなければならない。いずれにおいても政権批判を封じ込めるには、習近平政権の「無謬性」を証明するために南シナ海における中国の拡張主義をさらに進めるしかない。

第2に、対外政策である。中国では内政がそのまま外交に反映されるから、外交も強硬路線で突っ走るしかない。領有権問題をめぐって中国は「裁定を棚上げした上での二国間協議」を主張するが、当事国であるフィリピンは言うに及ばず、もはやそんな中国に都合のいい条件で協議に応じる国はないだろう。

南シナ海における「航行の自由」作戦を展開する米国は、裁定を追い風にさらに南シナ海における米軍のプレゼンス強化を目指すかもしれない。また、裁定を歓迎する日本が南シナ海の航行の自由へ参画することを歓迎するであろう。それを嫌う中国は、日本を牽制するために東シナ海で緊張を造成するかもしれないし、南シナ海上空の「防空識別圏」設定を急ぐかもしれない。現状では、中国の空中哨戒能力は十分とは思えないが、域外国の干渉排除のため無理をする可能性は排除できない。

結局、南シナ海をめぐる常設仲裁裁判所の裁定は出たものの、それが南シナ海の緊張を解決するものとはならず、一層緊張を高める結果になりそうである。

裁定は確かに中国を窮地に追い込んだが、だからといって「引くわけにはいかない」中国と、海洋覇権国家・米国との雌雄を決する危険性は裁定前よりも高まっていると言えるだろう。

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『日本も直撃「失われる10年」 “ミスター円”が語る「分裂の時代」 重視すべきは、成長ではなく「成熟」』(7/25日経ビジネスオンライン 杉原淳一)について

7/26日経<上期輸出額大幅減、数量には回復の芽 問われる持続力、半導体・対米の動向カギ

日本の輸出に「デフレ圧力」が強まっている。財務省が25日発表した貿易統計によると、1~6月期の輸出額は前年同期比8.7%減と、6年半ぶりの大きな落ち込みとなった。新興国経済の減速に加えて円高が円換算の輸出額を押し下げている。数量ベースでは輸出が底打ちする兆しもあり、今後の持続力が試される。

amount of export for the first half in 2016 in Japan

1~6月期の貿易収支は、原油安で燃料輸入のコストが下がり1兆8142億円の黒字だった。輸出よりも輸入の減少が大きく、東日本大震災直前の2010年7~12月期以来、5年半ぶりに黒字を確保した。

単月でも輸出額は低迷している。6月の輸出額は7.4%減と9カ月連続で減少。通関ベースの為替レートが6月は1ドル=108円48銭と前年同月比で11.8%も円高に振れたことが輸出額を大きく押し下げた。

輸出の「実力」を示す数量の伸びからは、円高によるデフレ圧力が鮮明になる。為替変動の要因を除いて輸出の数量取引を示す日銀の実質輸出(季節調整値)は、6月に前月比で4.3%上昇。伸び率は中国の春節商戦が輸出を押し上げた15年1月(4.6%上昇)以来の大きさだ。4~6月期でみても2四半期ぶりにプラスに転じた。

シティグループ証券の相羽勝彦エコノミストは「熊本地震の挽回生産で、4~5月に落ち込んでいた自動車関連の輸出が回復してきた」と指摘する。同社の分析では、6月は米国向けが5カ月ぶりに増加するなど、東南アジア諸国連合(ASEAN)を除く各地域で増えた。ただ先行きは英国が欧州連合(EU)からの離脱を決めた影響や中国の過剰設備問題など不透明な要素が多く、「日本の輸出が基調的に増加しているとは言いがたい」(相羽氏)。

輸出が持ち直すかどうか、商品別で鍵を握るのが半導体など電子部品の動向だ。IC(集積回路)の輸出数量は15年7月以降、減少か横ばいが続いてきたが、6月に9.1%増と大幅に増加。SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「先行指標となる米国や台湾のIT(情報技術)製品の指標は改善しており、輸出が持ち直す」と分析する。

地域別では米国向けの輸出が回復するかどうかに注目が集まる。財務省によると、6月の米国向け輸出数量は1年2カ月ぶりに前年同月比で増加。輸出が上向く可能性がある。

原油価格が足元で反転していることも輸出の押し上げ材料となりそうだ。通関ベースの原粗油の価格は1バレル45.3ドル。前年同月比で29.3%低下したが、前月比で見ると11.6%上昇した。低迷する中東経済や米国での資源関連投資に好影響を及ぼすとの見方もある。>(以上)

7/27日経<EUは生き残れるか(上)相次ぐ矛盾、存続の危機 国境管理の再導入は必至 竹森俊平 慶応義塾大学教授

6月23日の国民投票での英国の「欧州連合(EU)からの離脱」という選択は欧州には衝撃だった。ショイブレ独財務相は結果を受け「ともかく、問題を解決する能力がEUにはあることを示さなければならない。もし欧州委員会にできないなら、少数の国の話し合いで進めるべきだ」とインタビューに答えている。

stock price of Italian bank

Shunpei Takemori

シリア難民やテロリズムの問題は「国境審査の撤廃」をうたったシェンゲン協定により複雑化している。6年前に発生したギリシャ債務問題は未解決だ。今や銀行危機すら再燃しかねない。何も問題を解決できず、先送りするだけの無策ぶりが、英国をはじめ欧州国民の失望を生み、政治の不安定をもたらしている。

従来の統合戦略を見直し、必要なら後退すべきだ。一つの分野を選び、そこを超国家組織の管理下に統合すると、隣接する分野をなおも国家に管理させていては矛盾が生じるので、矛盾の解消のため、隣接する分野にも統合が及ぶというのがこの戦略だった。

例えば通貨だけを統合し財政を統合しないユーロは、矛盾を引き起こすと予想されていたが、矛盾はやがて財政統合により解消されると期待されていた。「統合の後退はできない」という前提がこの戦略の鍵だった。通貨を共通化して矛盾が生じるなら、自国通貨に戻す選択もあるはずだが、それには莫大なコストがかかるので、いや応なしに財政統合に進むというのだ。

だがユーロができてから金利低下を享受した一部の国が過剰な借り入れをしたため経済危機が起き、問題国が財政援助を必要としても、財政統合は進まなかった。ドイツなど財政に余裕のある国が援助を拒んだからだ。他方、ユーロ離脱の莫大なコストを勘案し、昨年ギリシャもユーロ離脱の直前で妥協した。欧州は前進も後退もできない状態に陥り、矛盾の山に埋もれた。

欧州統合からの離脱という後退については、過去グリーンランドという特殊なケースはあるが、域内総生産第2位の英国の離脱とは重要性が違う。「英国離脱」は欧州統合に、後退という選択を与えた。

英国経済の立場からすれば明らかに「残留」が賢明だった。英国が「ユーロ」「シェンゲン協定」を選択しなかったのは好判断だった。その一方で欧州の単一市場は、英国内で認可された金融商品をそのまま大陸欧州でも販売できる「パスポート制度」の恩恵を与えた。その恩恵を捨ててEUを離脱するのは無謀だ。

だが今回、EU残留を支持した地域は、特殊な事情のある北アイルランド、スコットランドを除くとロンドン市だけだ。つまり英国社会は、グローバル化で金融業が潤うロンドンと、恩恵が少ないそれ以外の2つに分裂していた。そこで国民投票を実施するのは、ガスの充満した部屋でマッチを擦るのと同じだった。

事実、大爆発が起き、国民投票後、英国社会の分裂が鮮明になる一方、二大政党とも指導体制が混乱する。今後EU離脱交渉を進めるには、リスボン協定第50条による離脱申請が必要だが、混乱により申請まで時間がかかろう。

英国には、金融業に利益となる単一市場は維持したいが、移民の管理もしたいという思惑がある。EUは、単一市場には労働も含まれ、移民の管理だけを認めるわけにいかないと考える。

加えて、英国のメイ新首相はスコットランド独立のための再度の住民投票は認めないが、EU離脱についてはその同意を重視すると公言する。スコットランド行政府のスタージョン首相は、英国がEU離脱をするなら、住民投票を再度実施すると公言する。どちらの場合も、両方の立場に折り合いのつかない矛盾があり、解決策がみつけにくい。

もっとも、EUに残留すればほとんどの矛盾は解消するから、「メイ首相の本音は残留」という解釈も可能だ。

いずれにしろ時間を置けば、方針がいつまでも決まらないことで余計に困る側が折れ初めて決着に向かう。EUと英国の駆け引きでは、金融業での外国企業の撤退を恐れる英国が先に折れるという観測が強いようだが、EUにも銀行業、とりわけイタリアの銀行業という弱みがある。

現在イタリアの銀行が抱える不良債権は約40兆円にのぼり、自己資本の減少を招いている。特に第3位のモンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(MPS)は資本不足の懸念から、今年に入り株価が下落している。さらに国民投票の結果を受けて金融市場が不安定になって以来急落した(図参照)。

EUでは今年できた銀行ルールで、国が銀行に公的資金を注入する際には、国民負担の軽減のため、銀行債などの減免が義務付けられている。国内銀行の銀行債依存が大きいイタリアの政府はこれを嫌い、主力行の出資で民間ファンドをつくり、資本注入を代行させる計画を進めてきた。しかし主力行にも余裕がなくファンドの資本金が不十分なため、問題の解決は遠い。

最近、イタリア政府は銀行危機回避のため、ルールを無視してでも公的資本の注入を断行する姿勢をみせている。

イタリアで銀行危機が起きた場合、欧州だけでなく世界経済に及ぼす影響は甚大だ。英国では、イタリアの銀行危機を見越して、今後のEUとの駆け引きの切り札にすべきだという議論が盛んだった。EUは英国との交渉を考えても銀行問題を放置できない。

結局、欧州中央銀行(ECB)が、欧州銀行のストレステストの結果を発表する7月29日の前後に、イタリアの問題行への、銀行債の減免なしでの公的資金の注入が特例として認められるというのが市場の予想のようだ。それを反映してイタリアの銀行株は反転している。銀行問題への対応は、まさにショイブレ財務相が指摘するEUの問題解決能力を示す試金石になる。

英国に続き、EUを離脱する可能性が一番高いのもイタリアといわれる。だがユーロ圏の国の離脱は通貨ユーロからの離脱も意味し、国内通貨の入れ替えが必要だからハードルは高い。政府が離脱をにおわせば、国民は信用のあるユーロ紙幣の確保に走り、預金の取り付けが起きる。対応策がなければ離脱は無理だ。

他方、シェンゲン協定を停止し、各国が独自に国境管理を再導入するのは不可避になりつつある。7月15日のトルコでのクーデター未遂事件をきっかけに、バルカン半島ルートをたどったシリア難民の流入が再開しそうだからだ。

昨年ドイツには100万人を超える難民の流入があり、歓迎の姿勢を示したメルケル独首相の支持率を急落させた。その後EUとトルコの間で、トルコ国民のビザ(査証)なしでのEU訪問などの便宜を与えるのと引き換えに、難民をいったんトルコが管理する協定について合意ができた。それで難民数は激減した。

だがクーデター未遂事件後トルコのエルドアン大統領は民主主義の抑圧と反対勢力の弾劾を強めている。ビザなしでの訪問を認めた場合、今度は人口約8千万人のトルコから難民が押し寄せかねない。トルコとの難民協定が白紙になるのは確実だ。それでEUへのシリア難民が急増したら国境を設け、国ごとの方針で受け入れるしかないだろう。

現在のEUは、一つの厄介な問題を解決できても(実際には全くできていないが)、すぐ次の厄介な問題が発生するという状況だ。問題解決能力を飛躍的に高めない限り、存続は難しいだろう。

ポイント ○問題解決先送りする無策ぶりが失望生む ○EUもイタリアの銀行業という弱み持つ ○トルコとの難民協定は白紙になる公算大

たけもり・しゅんぺい 56年生まれ。慶大卒、ロチェスター大博士。専門は国際経済学>(以上)

榊原氏は旧民主党支持者で、円高賛成論者のイメージがあります。1$60円の円高を予想しました。浜矩子氏のように1$50円の円高説を唱える現実を見ない学者同様です。6/26日経記事を見ますと、やはり、日本では純輸出でもGDPの数字を稼いでいるのが分かります。円高になれば日本の企業の利益が円換算で減り、社員や株主への還元も減り、消費にも影響を与えます。所得収支でも円高になれば日本に還元する時点で目減りします。急激な円高や円安は望ましくありません。

http://thutmose.blog.jp/archives/60349371.html

竹森・榊原両氏の記事はEUの終わりの始まりという気がします。やはり人工的に作った擬制国家には無理が付きまとうという事でしょう。通貨統合しても財政統合は難しいと両氏とも主張しています。これではドイツの独り勝ちになるだけです。他の国から不満が出て、離脱する国は増えて行くのでは。ユーロから自国通貨に戻すハードルは高いと竹森氏は言っていますが。竹森氏はシェンゲン協定も崩れていくとの見通しです。人・物・金・情報の自由な移動を主張してきたグローバリズムが敗れ、ナショナリズムの世界に戻っていくという事でしょう。ショービニズムなしで真の多文化尊重の姿勢があればナショナリズムの方が自然です。

英国の国民投票の結果は日本の憲法改正の国民投票の危険性も示唆しています。政府が国民にキチンと説明して受け入れられる時期まで待たないと否決される可能性が高くなります。特に偏向マスメデイアの影響を高齢者は受けやすいので。政府は中国の脅威について正確に国民に伝えていかないといけないでしょう。北野幸伯氏メルマガに例が挙がっていましたので紹介します。

http://jp.sputniknews.com/japanese.ruvr.ru/2012_11_15/94728921/

記事

日経ビジネス7月25日号は「英離脱後の世界 日本も直撃『失われる10年』」と題した特集で、欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国の現状と、今後の世界経済に与える影響を分析した。  欧州に亀裂を生んだ通貨統合の問題や、世界経済が抱える低成長という共通課題について、元財務官で「ミスター円」の異名を持つ榊原英資・青山学院大学特別招聘教授に話を聞いた。

(聞き手は杉原 淳一)


 

Eisuke Sakakibara

榊原英資氏(さかきばら・えいすけ)。 1941年生まれ。東京大学経済学部卒、65年に大蔵省(現・財務省)へ。理財局総務課長や国際金融局長(現・国際局長)などを経て97~99年に財務官。積極的な為替介入で円高を是正し、「ミスター円」と呼ばれる。榊原氏の次に財務官に就任したのが、黒田東彦氏(現・日銀総裁)だった。 (撮影:北山 宏一)

榊原:識者の目から見れば、あの選択は明らかに間違いなんです。キャメロン前首相の言っていたことの方が正しいわけですよ。でも、国民投票にしてしまうと、どうしても身近な問題に左右されて、単純化してこういう結果になってしまう。やっぱり、代議制というのはそれなりの意味があるんです。国民投票なんて、しょっちゅうやってはいけないんですよ。(笑)

英ポンドとユーロが相当値下がりしており、英国及び欧州には中長期的にネガティブな影響が間違いなく及ぶでしょう。英・欧州と貿易量の多い中国は、以前から成長率が下がってきていますから、これをさらに下押しする可能性があります。そうなってくると、ドミノ式に日本への影響も出てきます。

ドル円相場はいずれ1ドル=100円を突破すると思います。今は介入警戒感もあって何とかもっていますが、流れとしては緩やかな円高でしょう。さらに90円に向かうというのがいま想定されるシナリオです。為替介入もしにくいですしね。

「黒田日銀は年末までにもう一回、緩和する」

—財務官時代には積極的な為替介入に踏み切りました。介入の可能性についてはどうお考えですか。

榊原:単独介入は効き目がありません。だから米国の合意が必要になるのですが、今の為替水準では無理でしょう。市場に見透かされると、もう介入そのものが効かなくなる。介入の規模は、為替市場から見ればそんなに大きな額ではないです。だからこそ、「これが効くんだ」ということを何らかの形で市場に示さないといけないわけですよね。市場が「もう参った」と言うまでやらなければ介入なんて意味はないんです。

—日銀の黒田東彦総裁は「円安誘導ではない」と否定していますが、そうなると追加金融緩和に期待が集まりますね。

榊原:もう緩和効果が賞味期限切れなんですよ。2013年に黒田さんが就任して、当初の金融緩和は成功しました。円安・株高になったんですが、それが足元では逆に円高・株安になってきています。「金融政策を打ってもそれほど効かないだろう」という、雰囲気になってきてしまいました。

離脱問題を受けて円高が進むと、日本経済の予想成長率が下がるので、景気回復を後押しするための金融緩和だということになる。おそらく、年末にかけて黒田さんはもう一回、緩和するでしょう。でも、これは既に織り込まれていますよね。だから、市場の予想を上回るようなことをやらないといけないから、なかなか難しいでしょう。

やらないと、市場では逆にショックと受け止められます。円高・株安がさらに進行するような事態になりかねない。市場に押されて動くのを黒田さんは好まないでしょうけど、やらざるを得ないでしょうね。

大きな政府で再配分を

—アベノミクスでいう「第3の矢」、つまり成長戦略や構造改革の具体性がないという批判の声もあります。

榊原:成長戦略といっても非常に不透明ですよね。構造改革も、日本経済にはもうそれほど強い規制は残っていないんですよ。細かい規制はあるでしょうけど、それを除いたから効果がある、ということを実証している人はいません。

だからこそ「成熟戦略」が必要だと言っています。1%前後の成長を前提に、どういう政策を取るのか考えるべきです。1990年代に入ってからはずっと1%成長でしょう。それを3~4%にしようなんて無理です。先進国はみんな低成長、低インフレの時代に入ってきています。

今の低金利というのは世界的な現象で、16世紀ごろにもありました。でも、その時は技術革新や新たなフロンティアを開拓することで復活できましたが、今度はそれがないんです。

資本主義が新しいフロンティアを見つけてどんどん伸びていくという時代はもう終わったということですよね。そうなってくると、ゼロ成長の時代にどう適合するかが重要になってきます。

経済政策も配分の重要性が増します。欧州は既にそうですが、例えば消費税を20%取って、それを原資に再配分を進めるなどの施策が考えられます。日本もそういう局面に次第に入ってきているんだと思いますね。

EU分解の歯車が回り始めた

—統合通貨ユーロの存在が欧州に亀裂を生んだという見方もあります。

榊原:ユーロが誕生したことで欧州内の格差が非常に広がりました。例えば、ギリシャが旧通貨のドラクマで、ドイツがマルクであれば、一方が切り下がって、もう一方は切り上がることで調整できたわけです。

同じ通貨だとドイツの1人勝ちになってしまう。ただ、ユーロを解体するわけにはいきません。欧州統合の象徴ですから。理論的には、解決の道は財政統合しかない。しかし、違う国だからそれは非常に難しいと思います。ギリシャなど南ヨーロッパの国々には抵抗があるし、ドイツだって、逆にギリシャの面倒を見るのは嫌でしょう。

解はないが、元に戻るわけにいかない。そういう意味で、非常に欧州は難しい状況にあります。中途半端な統合でにっちもさっちもいかなくなったが、それでも問題を抱えたまま中長期的に走っていかざるを得ないわけです。

—今回の離脱問題を機に、EUはどうなっていくのでしょうか。また、米大統領選でドナルド・トランプ氏が共和党の候補に選出されるなど、自国第一主義を掲げる動きが広がっているように感じます。

榊原:世界的なトランプ現象でしょうね。つまり、トランプ氏は米国第一主義で、世界にどう貢献するかという発想が全くない。分離というか、分裂の時代になってきているということでしょう。欧州が第2次世界大戦後、70年近くずっと続けてきた統合の流れが逆転し始め、それが世界的な傾向になる可能性があるわけですね。

直ちにではないにしても、緩やかにEUが分解に向かう可能性があります。スピードは分かりませんが、少なくとも歯車はそっちの方向に回り始めたということです。

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