<日経ビジネス8月1日号 『トランプ氏に乗っ取られた共和党』
7月21日に閉幕した党大会で、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に指名された。反移民や反自由貿易を掲げ、同盟に疑問を呈するトランプ氏は共和党の従来の主張と大きく異なる。左傾化する民主党とポピュリズムに走る共和党、その間で“企業”は行き場を失いつつある。
7月21日に閉幕した党大会で、ドナルド・トランプ氏が共和党の大統領候補に指名された。反移民や反自由貿易を掲げ、同盟に疑問を呈するトランプ氏は共和党の従来の主張と大きく異なる。左傾化する民主党とポピュリズムに走る共和党、その間で“企業”は行き場を失いつつある。
トランプ氏の主張は、共和党を支えた「3つの保守」とは異質なものだ(写真=新華社/アフロ)
2012年の共和党候補として米大統領選を戦ったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事は選挙戦で、3本脚のスツールを愛用した。
共和党には、伝統的に経済的な保守、社会的保守、安全保障の保守という3つの立場がある。経済的な保守はレーガン政権以降、いわば党是と化している自由貿易や減税、規制緩和など小さな政府路線を支持する経済界や富裕層、社会的保守は妊娠中絶や同性婚に反対する宗教的保守派、安全保障の保守は同盟国との連携を重視する国際協調主義者や強い米国を重視する外交的タカ派などが主なベースである。
3つの保守が共和党を支えているということを示すため、ロムニー氏はその象徴として3本脚のスツールを持ち歩いていた。だがドナルド・トランプ氏を候補に担いだ今年の大統領選で、そのバランスは大きく崩れている。
それが端的に表れているのは、自由貿易や移民に対する強硬な姿勢だ。
元来、共和党は自由貿易の守護者だが、トランプ氏は選挙戦を通じて自由貿易が米国の製造業や雇用を破壊したと主張している。移民についても「メキシコ国境に壁を作る」と繰り返す。7月21日の指名受諾演説でも、「労働者を傷つけるような貿易協定にはサインしない」と明言、政策綱領にも「国境の壁」の建設が明記された。
2つの「保守」は既に崩壊
安全保障に関しては、日米安全保障条約など既存の同盟にたびたび疑問を呈している。党大会の期間中には、北大西洋条約機構(NATO)における米国の防衛義務に疑義を表明した。その底流にあるのは、同盟国が応分の負担をしていないという認識だ。
同盟には歴史的経緯や平和の配当など金銭負担を超えた恩恵があるはずだが、トランプ氏は外交をP/L(損益計算書)的な視点でしか見ていない。不動産デベロッパーとして銀行や下請け業者とシビアに交渉してきたトランプ氏ならではの発想だろう。
社会的保守について言えば、過去の選挙戦で妊娠中絶に反対を表明するなどキリスト教保守派の主張に沿った発言をしている。もっとも、ゲイを公言している米ペイパルの創業者、ピーター・ティール氏を党大会のスピーカーに招聘、トランプ氏自身も「LGBTQ(性的少数派を意味する言葉)を暴力と弾圧から保護するために全力を尽くす」と述べるなど、その立場は交錯している。
単純に割り切れないのは他の2つの保守も同様だ。演説では、いつものように保護主義的な言動を繰り返していたが減税は支持した。オバマケアの撤廃も支持しているが、共和党が主張している社会保障の給付金見直しには言及していない。
それでも、伝統的な共和党とは懸け離れているのは確かだ。「社会的保守の柱は堅持していくようだが、それ以外の2つの柱は完全に破壊された」と共和党系のシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所のジェームズ・ペソコウキス研究員は天を仰ぐ。
共和党主流派は既に“トランプ後”を見越して動き始めている。
党の実質的なリーダーであるポール・ライアン下院議長はトランプ氏の支持を表明しているが、消極的な支持の枠を出ない。予備選・党員集会を戦ったライバルも一様に距離を置く。
「小さなマルコ」と揶揄されたマルコ・ルビオ上院議員は党大会にビデオでのみ参加した。お膝元のクリーブランドで開催された党大会なのに、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏は会場に姿を現さなかった。妻を侮辱されたテッド・クルーズ上院議員に至っては、演説でトランプ支持を明言せず、最後は大ブーイングに包まれた。今年の党大会のハイライトの一つだろう。
ブッシュ家が輩出した2人の元大統領も、オバマ大統領に敗れ去った2人の元大統領候補も不参加を決めた。党大会は党の結束を深め、11月の本選に向けて士気を高めることが目的の一つ。だが、党大会の4日間を見る限り、一枚岩になりそうな雰囲気にはない。
政治的に消滅した中道路線
(写真=AP/アフロ)
トランプ氏の登場で共和党の“解体”は加速しつつある。影響を最も受けているのは、伝統的な支持基盤だった大企業や商工会議所などの経済団体だ。
トランプ氏はTPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)に反対票を投じているだけでなく、大企業が社会経済システムをゆがめ、不当な利益をむさぼっていると強調している。格差と社会的不均衡の拡大は事実だが、その見方は民主党の候補者争いを戦ったバーニー・サンダース上院議員に近い。事実、指名受諾演説ではサンダース支持者に秋波を送った。
トランプ氏の最近の発言を見ると、白人労働者層や宗教的保守派にフォーカスして選挙を戦う姿勢が鮮明だ。今年の大統領選では白人労働者層が多い北西部のラストベルト(かつて製造業が栄えたエリア)がカギを握るとみられている。それを考えれば、不満を抱えた労働者に注力したポピュリズム戦略は合理的に違いない。
オバマ治世の8年間、米国ではリベラル化が進行した。「1972年以降の大統領選の中でも最も左にシフトしている」と米ワシントン・ポストが書いたように、民主党の新たな党綱領には最低賃金や気候変動、人工中絶などでこれまで以上にアグレッシブな政策が並ぶ。
「企業関係者は極めて厳しい選択を迫られている」とペソコウキス氏が指摘する。先鋭化したリベラルと宗教色の強いポピュリズムに米政治が色分けされる中で、右派、左派ともに中道路線が絶滅しかけているのが現状だ。共和党や民主党が割れて第3極が生まれるという見方が出始めているのも、そうした認識が背景にある。
英国の欧州連合(EU)離脱が示したように、中道の消滅は世界的な現象。主張が右と左に離れるほど、合意形成は難しく国は分裂していく。それを防ぐには、安定した経済成長の実現と公平な分配しかないが、道のりは険しい。“トランプ後”の世界は依然として視界不良だ。
経済政策における違いが目立つ ●伝統的な共和党の主張とトランプ氏の主張の主な相違 | ||
自由貿易の推進 | 「私は労働者を傷つけるような、いかなる貿易協定にもサインしないと誓う」 「我々には米国を第一に置く、より条件のいい貿易協定が必要だ」 | |
国際的な協調主義 | 「コストを負担するのは米国で、NATOの加盟国は応分の負担を果たしていない」 「グローバリズムではなく米国第一主義が我々のクレド(信条)」 | |
合法的な移民はOK | 「検査態勢が確立されるまで、テロに屈しているいかなる国からの移民も一時的に止めなければならない」 | |
オバマケアの撤廃 | 「破滅的なオバマケアを廃止し置き換える」(*共和党は高齢者向け公的医療保険「メディケイド」などの見直しを主張しているが、トランプ氏はそれについては演説で述べていない) | |
中絶や同性婚の反対 | 「イデオロギーによる暴力と弾圧からLGBTQを保護するために全力を尽くす」(*同性婚は支持している模様。中絶には言及していないが、過去の発言では中絶には反対の立場) | |
減税による経済成長 | 「今回の大統領選に出馬したあらゆる候補の中で、最も大規模な減税案を提案している」 | |
注:トランプ氏の指名受諾演説を基に作成、一部は党の政策綱領の表現 |
(ニューヨーク支局 篠原 匡)>(以上)
<8/2日経The Economist 開かれた世界を守るには
劇場型政治といえば、米大統領選に向けた二大政党の全国党大会に匹敵するものはない。右派と左派が一堂に会して党の大統領候補を選び、共和党は保守主義的な、民主党はリベラルな党政策綱領を採択する。しかし今年は違った。民主党のヒラリー・クリントン氏が二大政党で初の女性の大統領候補になったからだけではない。両党とも全国大会で新たな断層が浮き彫りになったのだ。それは左派対右派の構図ではなく、志向が外向きか内向きかによる分断だ。
7月25日の米民主党全国大会でサンダース氏に声援を送る支持者ら=AP
共和党の大統領候補に選ばれたドナルド・トランプ氏は例により一刀両断的表現で「グローバル主義ではなく米国第一主義こそ我々の信条だ」と言明した。自由貿易を批判する彼の演説は、クリントン氏と民主党の大統領候補の指名を最後まで争った「民主社会主義者」を自称するバーニー・サンダース氏の支持者の共感も誘った。
ポピュリスト政党 欧州9カ国で与党に
これは米国に限ったことではない。今や欧州全土でも「世界というのは不快で恐ろしい場所だから賢明な指導者は世界と遮断するために壁をつくるべきだ」と訴える政治家が勢いを持つ。ハンガリーでは民族主義的な保守強硬派が政権を握り、ポーランドでも排外主義を訴え、司法にも介入する政府が誕生した。欧州では右派、左派を問わずポピュリスト(大衆迎合主義者)の主張を掲げる政党が2000年時点の2倍近い支持を集め、9カ国で政権を握るか連立与党に加わっている。
これまでのところ、反グローバル主義者たちにとって最大の成果は、英国の欧州連合(EU)離脱の決定だろう。自由貿易が最もうまく機能しているEU単一市場からの退出が決まった6月の国民投票では、有権者の偏狭な考え方が肯定され、主要政党は真っ二つに割れた。
強まる内向き志向 自由主義のリスクに
反グローバル主義者の主張に説得力を持たせるニュースは毎日のように起きている。7月26日には過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う男2人が、フランス北部ルーアン近郊の教会で85歳の聖職者を殺害した。フランスとドイツではその前から残虐なテロ行為が後を絶たない。危険なのは不安があおられ、内向き志向の勢力が選挙でさらに勝つことだ。自由主義陣営にとり、共産主義に続く最も恐るべきリスクだ。この流れには何としても対抗しなければならない。
まず何が危機的状況なのかを思い出してみよう。米国主導の組織や規則、同盟などの多国間システムは第2次世界大戦以降、70年間にわたって世界の繁栄の礎となってきた。この体制のおかげで欧州は戦後復興を遂げ、ソ連の共産主義が崩壊し、中国が世界経済に組み込まれて貧困層がかつてないほど減少した。
壁をつくって外界を遮断すれば国は貧しくなり、危険に満ちる。もし欧州が協調をやめてバラバラに自国の主権を振りかざしたり、米国が世界から目を閉ざしたりすれば、望ましくない国がその間隙を突くだろう。米国と同盟関係にあるバルト諸国がロシアの脅威にさらされても、米国は何もしないかもしれないというトランプ氏の発言は無責任で、理解に苦しむ。米国は北大西洋条約機構(NATO)加盟国への攻撃を、NATO全体に対するものとみなすと断言してきた。もしトランプ氏がそれをほごにしたら、米国は二度と信用されなくなる。トランプ氏のあたかも大統領になったかのような発言は、世界の厄介者と呼ばれる国々を増長させた。ロシアのプーチン大統領が同氏に肩入れするのはもっともだ。
壁の建設を唱える人たちが支持を広げることで、すでに様々な影響が出ている。EUを離脱することになった英国は景気後退へ向かうだろう。EUも危機にある。フランスで来年、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が大統領となり、英国に続いて離脱を決めればEUは崩壊しかねない。トランプ氏は自身の経営するカジノが客から現金を吸い上げるように、国際機関から信頼性を吸い上げた。世界最大の経済大国の大統領になるかもしれない人物が新たな貿易協定の締結を阻み、既存の貿易協定を破棄し、自分の考えが通らなければ世界貿易機関(WTO)から脱退すると脅している。
壁の建設に反対し、開かれた世界秩序を維持するには、一段と強い言葉で大胆な政策を示し、それを広める作戦を練らなければならない。まず言葉については率直さが必要だ。米国にとってなぜNATOが重要なのか、欧州にはなぜEUが欠かせないのか、自由貿易や異民族との共存を進めればいかに社会が豊かになるか、そしてテロとの戦いにはなぜ各国協調が必要なのかを有権者に思い出させるのだ。
グローバル化の信奉者の多くはほとんど口を閉ざしている。勇敢にも立ち上がったのはカナダのトルドー首相やフランスのマクロン経済産業デジタル相など一握りの政治家だけだ。グローバル化の推進のためには戦わねばならない。
社会の安全網強化で 負の要素を減らせ
しかしながら、グローバル化には手直しが必要なことも忘れてはいけない。貿易で損を被る人も大勢いるし、移民が急増すれば地域社会の混乱を招くこともある。こうした問題の最善の対応策は壁をつくることではない。開かれた社会の良さを維持しつつ、負の要素を減らす大胆な政策を打ち出すことだ。モノや投資資金の自由な流れを守りながら、そのために仕事を失った人たちが支援と新たな機会を得られるよう社会のセーフティーネットを強化するのだ。移民の流入をうまく管理するため公共インフラを整備し、移民が仕事に就けるようにし、移民の急増を抑える規制を認めよう。
作戦について言えば、左派や右派の政党で開かれた世界を支持する勢力が、いかに選挙で勝つかが重要になる。オランダとスウェーデンでは中道政党が団結し、国粋主義者らを締め出した。フランスでは02年の大統領選の決選投票で、同じような連合体が国民戦線のジャンマリー・ルペン党首を破った。17年の大統領選でも娘のマリーヌ氏を倒すには、こうした政党の連合が必要になるかもしれない。英国でも今後、中道主義の新党が求められるだろう。
米国では既存政党自身が答えを引き出さなければならない。反グローバル主義に真剣に対抗しようとするなら、共和党員は意に沿わなくてもクリントン氏を支持すべきだ。クリントン氏自身もまた、明確な開放政策を打ち出さなければならない。副大統領候補にスペイン語に堪能なグローバル主義者のティム・ケーン氏を選んだのは良いことだ。とはいえ、世論調査でトランプ氏との差はごくわずかだ。リベラルな世界秩序が維持されるかどうかは、クリントン氏が大統領に選ばれるか否かにかかっている。
(7月30日号)>(以上)
<8/1産経ニュース トランプ氏がイスラム教徒の戦没者遺族を「侮辱」 身内からも批判
【ワシントン=加納宏幸】米共和党大統領候補の不動産王、ドナルド・トランプ氏(70)が7月31日、戦死したイスラム教徒の米軍人の遺族を侮辱したとして批判された。共和党幹部もトランプ氏に対する不快感の表明が相次ぎ、陣営は釈明を迫られた。米軍最高司令官になる資質に関わるだけに、11月の本選にも影響を与えそうだ。
遺族は、2004年にイラクで自爆テロにあって戦死したフマユン・カーン陸軍大尉の父でパキスタン出身のキズル・カーン氏。
民主党大統領候補にヒラリー・クリントン前国務長官(68)を指名した同党全国大会に7月28日、妻と登壇し、イスラム教徒の入国禁止を主張するトランプ氏に「米国憲法を読んだことがあるのか」「(戦没者が眠る)アーリントン国立墓地を訪れたことがあるか」などと問いかけた。
トランプ氏は31日、ツイッターで「カーン氏から敵意をもって攻撃されたが、反応してはいけないのか。イラク戦争(開戦決議)に賛成したのはクリントン氏で、私ではない」と反論。米メディアでは「クリントン氏のスピーチライターが原稿を書いたのではないか」とも発言した。
カーン氏は31日のCNNテレビ番組でトランプ氏を「黒い魂を持っている。指導者には到底ふさわしくない」と批判し、共和党幹部に同氏への支持撤回を要求。クリントン氏もカーン氏に同調し、同党に「党派よりも国家(への忠誠)を取るべきだ」と訴えた。
共和党のライアン下院議長は31日、声明を発表し、カーン大尉を含む多くのイスラム教徒の米軍人による献身をたたえ、宗教を理由に入国を禁止するような主張を「拒否する」とした。同党のマコネル上院院内総務も入国禁止は「米国の価値に反する」と指摘した。
トランプ氏への批判の高まりを受け、共和党副大統領候補のペンス・インディアナ州知事は31日夜、「カーン大尉は英雄であり、すべての米国人が遺族を大事にすべきだ」とする声明を発表した。ただ、テロに関与した国からイスラム教徒を入国禁止にするとの主張は変えなかった。>(以上)
堀田氏は「メデイアは決めつけて書いてしまう癖がある」と言いたいようです。朝日新聞の角度を付けた報道の例もそうでしょう。ただ朝日新聞には戦後反日に転換したため、日本への悪意が感じられますが。角度を付けると言うことは、事実に基づいた報道ではありません。日本国内の外国に関する報道では日本のメデイアの特派員がその国の新聞やTVを見て解説するのが多く、堀田氏のように現地でいろんな人に取材して記事を書く人は少ないという印象を持っています。
堀田氏は「共和党が全国大会でクルーズに演説させて逆に団結を促すようにシナリオを描いた可能性もある」とのことです。それにしてもトランプは物議を醸す発言が続き、ヒラリーを利しているように見えます。それでも最終的に米国民がどちらを選ぶかですが。
「エコノミスト」の記事はリベラル臭がプンプンします。グローバリズムが「善」との思いが前面に出ています。鎖国するより開国して国際分業した方が経済的に富むことは北朝鮮やキューバの例を見れば明らかです。でも移民の受入を前提にしなくとも良いのでは。今現実に起きている問題はイスラム移民の問題です。ISシンパが紛れ込んでいるかも知れず、テロの危険性が高まる施策をEUは率先してやっているようにしか見えません。国の大きな役目は「国民の生命及び財産」を守ることです。EUに入っていてそれができないのであれば離脱を望む国が出て来るのは当然です。「多文化共生」と良くリベラル左翼が言いますが、「多文化尊重」が正しい道と思います。自分の生まれ故郷の伝統文化を大事にして、その地で暮らせるのが理想でしょう。勿論外国暮らしを否定するものではありませんが、「郷に入れば郷に随う」ように相手国のルールを尊重して初めて存在が認められるのでは。在日のように日本国内で反日活動する人たちは帰国して貰った方が良いでしょう。英国「エコノミスト」はシテイのグローバリズムを後押しする立場ですので、世界の潮流を見誤っているように思えます。世界は「統合」から「分散」「分断」へと動いて行っています。メデイアが「報道しない自由」を行使しても、今や「SNS」を使って瞬時に世界に流れる時代です。中国のように「金盾」ですぐ削除するような国もありますが。中国国民も海外旅行に行くようになったのだから如何に自国は自由がないか感じれば良いのに。「ポケモンGO」すらできない国です。
記事
米オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党全国大会で演説する(2016年7月21日撮影)〔AFPBB News〕
米大統領選は大手メディアに煽られている――。
オハイオ州クリーブランドで開かれていた共和党全国大会を取材し終えて抱いた思いである。いきなり筆者の思いから入って恐縮だが、現地で見聞きしたこととメディアで報道されている内容の違いが目にとまったので報告したい。
党大会前、ドナルド・トランプ候補(以下トランプ)の支持率は不支持率よりもはるかに低く、党内がまとまらずに分裂する危険性もあるとの見方があった。
なにしろトランプは共和党の重鎮から嫌われていた。ブッシュ家の3人(大統領経験者2人とジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事)は早々と党大会に出席しない意向を表していた。
ジョン・マケイン元大統領候補、ミット・ロムニー前大統領候補、さらにトランプと予備選を戦ったジョン・ケーシック・オハイオ州知事らも党大会には姿を見せなかった。
分裂の党大会かと思いきや
党大会前の各種世論調査を見ると、トランプの不支持率は70%代半ばで、ヒラリーに勝てそうもない「危険水域」に入っていた。有権者だけでなく党内の重鎮が反旗を翻していたため、党内を統一することは多難だった。
「分裂の党大会」という言葉が脳裏に浮かびさえした。
多くのメディアも、そこに切り口を見つけた。割れた党内といった流れの方が、読者を惹きつけやすい。「党内はよくまとまっている」では面白みに欠ける。ニュースは悲劇の方が受けるし、読者も悲劇をどこかで期待していたりする。
もちろん、ジャーナリズムの役割は目の前で起きていることを正確に伝えることだが、結束していない党大会の方が伝える側も受け手の側も注目度が高い。
クリーブランドには世界中から約1万5000人(主催者発表)のメディア関係者が集まっていた。8割近くがリベラル派に属していると言われる。その流れでは、トランプが醜態を晒すとか、共和党が分裂するといった出来事を嬉々として伝える傾向がある。
日本の大手日刊紙も「トランプ氏指名に反発噴出 米共和党大会 分断あらわに」、「党大会、目立つ亀裂」といったタイトルを打った。本文中でも「挙党態勢からはほど遠い共和党大会だった」といった文面が読める。
大会初日(19日)、反トランプ派の代議員らはトランプを代表候補にするのを阻止する動きに出た。大会規則を承認する手続きに異議を唱えたのだ。コロラド州から来ていた代議員が退場する場面もあった。
そうした光景を目の当たりにすれば「亀裂」という言葉は外れていない。けれども過去の党大会を振り返ると、ライバル候補を支援する代議員たちは大勢いた。バトルと呼べる状況になったことさえあった。
その中で、トランプは全米から集まった代議員(2472人)の過半数を得て代表候補になる。予備選で州ごとに選ばれた代議員たちが党大会で、もう1度投票をしてトランプを代表候補に選んだのだ。
会場の雰囲気を大きく変えたクルーズ演説
しかし、トランプが実際に獲得したのは2472人中1500人超に過ぎない。残りの900人ほどはテッド・クルーズ候補(以下クルーズ)やマルコ・ルビオ候補の支持者たちで、トランプ以外に票を入れている。
つまり、党大会に集まった代議員は、最初から全員がトランプを推しているわけではなかった。
大会3日目、さらに党内分裂と言えることが起きた。演者として招待されたクルーズが、トランプ支持を表明しなかったのだ。演説の最後に、「良心に従って投票してください」と述べた言葉は、「ヒラリーに投票してください」という意味でもある。
会場からはブーイングが起きた。その言葉の直前まで、演説巧者のクルーズらしい内容だっただけに、落差が激しかった。クルーズはこともなげに党とトランプを裏切ってみせた。
メディアによっては、こうした党内の動きこそが共和党を分断させていると発信した。だが、大会参加者のムードはクルーズの演説直後から変わる。クルーズを党内から排除するような空気が醸成されていったのだ。
4日目の朝から、様々な共和党関係者を取材した。話をしてくれた全員がクルーズを非難した。
アダム・キンジンジャー・イリノイ州議会議員は「クルーズの演説で党が割れたとは思わない。政治理念の違いはあっても、あのクルーズの演説はあり得ない」と憤りを隠さない。党大会に招待されたら、代表候補を支持するのは慣例なのだ。
クルーズの出身地であるテキサス州の代議員からも話を聞いた。カーボーイハットが似合う年配の紳士である。
「クルーズは自分勝手過ぎます。私は予備選ではクルーズ支持者でした。でもクルーズには嘘をつかれた気分です」
共和党全国委員会の広報部長、ショーン・スパイサー氏も「反トランプの党員でさえも、クルーズの演説内容は尊厳に欠けていたと思ったはず」とトランプを擁護した。
ブルートになったクルーズ
CNNのコメンテーターは、クルーズを漫画「ポパイ」の登場人物「ブルート」になぞらえた。誰からも嫌われるキャラクターになったことで、周囲の人間は主人公の「ポパイ」であるトランプへ、今まで以上に強い思いを寄せるようになったというのだ。
悪役が誕生したことで、トランプに求心力が生まれた瞬間だった。
党がここまで計算したいたかは分からない。クルーズもまさか自分がブルートになるとは思わなかっただろう。裏の裏がある米政界だけに、共和党がこれくらいのシナリオを考えていた可能性はある。
オハイオ州の名誉代議員の男性は党大会最終日、会場を出た所に特設された屋外の飲み屋でビールを飲みながら長々と語ってくれた。
「オハイオ州出身ですが、フロリダ州パームビーチに別荘を持っています。そこで何度もトランプと顔を合わせています。ゴルフ場で会ったこともあります」
「彼はやり手のビジネスマンですが、話をすると本当にまともな人であることが分かります。選挙中、ライバル候補に暴言を吐いたりしましたが、最初は信じられなかった」
「落ち着いて話をすると、すぐに優秀な人であることが分かります。クルーズの演説の後、仲間の党員たちはトランプでまとまりつつあります」
こうした党大会の潮流の変化は、現場に足を踏み入れないと分からない。男性は最後に言った。
「予備選で反トランプ派だった党員でも、ヒラリーだけには票を入れないという点で共和党はまとまっています」
筆者は、やみくもにトランプを支持するつもりはない。そうではなく、メディアの多くが最初から「分裂された党大会」というイメージを心にすり込んで大会に乗り込み、変化が起きても気づかずにいることに疑問を持つのだ。
日米のメディアを散見するかぎり、共和党全国大会後も「党内は分断」といった論調のメディアが多いことに驚くのだ。
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