1/21日経ビジネスオンライン 中国新聞趣聞 福島香織 『四番目の大虎、令計画ついに失脚 反腐敗という名の権力闘争、照準は地方派閥に』記事について

 

宮崎正弘氏のメルマガによれば、団派の李源潮にも捜査のメスが入りつつあり、かつ身辺警護軍団のボスを全部身内で固めたとの話ですから、いよいよ権力闘争が本格化するのではと思われます。本記事にある「潤心庵」は李源潮の息子の登記になっている(宮崎氏メルマガ)とのこと。習近平は団派と上海派を追い落としにかかろうとしています。身の危険を感じ、近衛兵を身内にしたのでしょう。クーデターが起きるかもしれませんが、昔と違い情報化が進んでいるので、全部奥の院での処理は出来ません。成功、失敗に拘わらず、必ず漏れるでしょう。令一族は路線(長兄)、方針(姉)、政策(次兄)、計画(本人)、完成(弟)と如何にも共産党員用の名前です。(福島女史は名前を混同しているようです。Wikiではこのように書かれています)。毛沢東の一人っ子政策の前だから5人も生めたのでしょう。名前も共産党に媚を売り、弾圧時のエクスキューズに使おうと考えていたのかも知れません。まあ、共産主義ですから賄賂は付き物、誰でもやっているので捕まった方も権力闘争に負けたと思うだけです。死刑になる場合もありますが。恐ろしい社会です。人生が丁半博打のようなもので勝てば数兆円の蓄財、負ければ死刑ですから。

記事

中国共産党中央統一戦線部長の令計画の失脚が2014年12月22日、ついに発表された。前々から令計画は失脚すると噂されていた。薄熙来(元重慶市党委書記)、徐才厚(元中央軍事委副主席)、周永康(元政治局常務委員、元政法委書記)に続く、習近平の反腐敗キャンペーンターゲットの大虎の一人。この四人は「新四人組」とも言われていた。「四人組」とは一般に、毛沢東とともに文化大革命を主導し、毛沢東死去後に逮捕され、「クーデター計画容疑」などで裁かれた毛沢東夫人の江青はじめ張春橋、姚文元、王洪文の四人を指すが、習近平政権において「クーデターを画策した」とささやかれていたのが、薄熙来、徐才厚、周永康、令計画の四人だというのだ。

 だが、令計画は前3人とは明らかに派閥が違う。薄熙来、徐才厚、周永康はどちらかにというと江沢民派(上海閥)に属するが、令計画は江沢民と対立関係の胡錦濤の側近中の側近であり、共青団(共産主義青年団)のホープ。なのに、周永康らの罪に連座するとはどういうわけか?

 令計画とはどんな人物だろうか。その人間関係などを詳しくみてくると、中国政治の奥深さが見えてくる。

息子と全裸女性の死亡事故でも踏みとどまったが…

 ひょっとすると、胡錦濤が彼の失脚に抵抗するのではないか、という説も一時はあった。令計画がまだ中央弁公庁主任であった2012年春ごろ、令計画の息子が運転するフェラーリが北京市内で道路側壁に衝突して、同乗していた二人の女子大生とともに死亡するという謎の交通事故が起きた。これは同乗の女性たちが素っ裸であったというスキャンダラスなもので、当時の公安権力を握っていた失脚前の周永康の力を借りて隠蔽したと言われている。

 また、当時中央弁公庁主任であった権限を乱用し、中南海警備にあたる中央弁公庁警衛局を出動させて現場封鎖をしたともいわれている。この令計画の独断による隠蔽工作は胡錦濤の不興を買ったともいわれるが、それでも胡錦濤は令計画を守ることを選択する。事故直後からの外遊に令計画を同行させるなどして、事故と令計画の関係を疑う噂の打消しに加担した。

統一戦線部長というのは影響力は中央弁公庁主任に劣るがけっして悪い役職ではない。対台湾、香港の統一工作にかかわる重要任務の責任者である。令計画の弟の令完成が元新華社傘下の宣伝工作任務についており、香港メディアを通じた世論誘導工作に従事していたことと合わせると、適材適所の人事異動とも言えた。

 だがその後も水面下では習近平の「四大虎」狩りは続き、2014年6月に令計画の兄の令政策(当時、山西省政治協商会議副主席)が汚職で失脚し、弟の令完成も拘束され、いよいよ令計画も逃げ場を失っていた。だが、それでも2014年秋の党の重要会議、四中全会(党中央委員会第四回全体会議)で、失脚せずその健在ぶりをアピール、しかも12月15日発売の党中央理論誌『求是』誌に署名原稿を発表し、統戦部長として偉大なる民族の大復興について八つの必須事項を論じ、習近平への忠誠をアピールしていたのである。なので22日に失脚が公表される直前まで、令計画は必死の防戦の中にいた、と見るべきである。

印刷工場から胡錦濤の大番頭へ

 令計画とはどんな人物であったか。

 令計画の父、令狐野は党の医師であり、元老の一人、薄一波(薄熙来の父)と延安時代からの親友。令狐という珍しい複姓は、魏の時代から山西に残るものだが、息子たちの代になると令の一字姓に改められた。広い意味では、令計画らもまた「太子党」に属するともいえる。

 1956年、山西省陸平県の生まれで、76年に入党。その前の文革時代は陸平県の印刷工場で働いていた。共産主義青年団(共青団)に入ってからは、中国青年政治学院で学び、共青団中央宣伝部などに配属され、エリートコースを歩む。途中湖南大学で工商管理の修士も取得。胡錦濤政権時代に党中央の中枢である中央弁公庁主任や党中央書記の秘書である中央書記処書記に上り詰め、共青団派ホープとして注目されていた。非常に有能で、胡錦濤も頼りにし、その職位から胡錦濤の大番頭とも呼ばれていた。

 だが6月には、大破した黒のフェラーリの事故現場写真とともに、事故の真相がネットニュースで暴露されてしまう。胡錦濤はそれでも令計画を擁護、令は中央弁公庁の仕事は失わざるを得なかったが、完全失脚ではなく、2012年秋に党中央統一戦線部長という新しい役職に転出を果たした。

兄弟は四人。二人の兄と姉、弟。長兄・令方針は早くに死んでいるが、二番目の兄・令政策は山西省官僚として順調に出世し、山西炭坑利権も握っていたとか。だが今年6月に汚職で失脚していた。

 弟・令完成は吉林大学経済学部を卒業後、国営新華社通信に入社、『瞭望』誌の編集記者などを経て、新華社傘下の広告会社・中国広告連合総公司トップにまで出世した。

 令完成は「王誠」の名で実業界にも進出、得意のゴルフで国内外ビジネス界に人脈を広げ、流行りのPE(プライベートエクイティファンド)企業を立ち上げて、国内外の幅広い企業に投資し、巨額の富を築いた。その中には日本企業が関与するものも若干あり、実際に完誠と一緒にゴルフをした日本人ビジネスマンもいるのではないか。

 新華社のメディアコントロール工作も担い、中国、香港、マカオメディアにも巨額の投資をしてきた。動画ポータルサイトの楽視はじめ、ネットメディアへの投資も大きい。離婚歴があり、二度目の妻はCCTVの美人キャスター李平だ。令政策失脚の噂を聞いて、「中南海機密文書」を持って姪とともに一旦米国へ脱出を図ったものの、いつの間にか帰国しており、身柄を拘束されていた。ゴシップニュースでは、習近平国家主席がオバマ米大統領に強制送還を要請、中国とのトラブルを恐れたオバマ大統領が専用機で令完成とその姪をシンガポールまで送り返したとか。あくまで裏のとれない、ゴシップニュースである。

 姉の令狐路線は、令兄弟の中で唯一、二字姓を受け継いだ。いわゆる普通の地方官僚の奥さんだが、彼女の夫・山西省運雲市副市長の王健康は目下汚職で取り調べ中だ。

 このように、西山省とメディア・ネット界を中心に令一族はもともとかなりの利権を固めていた。

「山西会」汚職ネットワークで蓄財

 令の罪状について、現在報道されている罪状を整理すると、最大の容疑は、山西省籍の政治家、官僚を中心とした「山西会」(山西閥)という産官一体の派閥を2007年ごろから形成し、汚職による蓄財ネットワークを形成していたことだという。

 これは月刊誌「財経」副編集長で著名ジャーナリスト羅正平の著書「打鉄記」にも背景が出ていた。「打鉄記」自体は汚職・愛人問題で失脚した大物官僚、劉鉄男(江沢民派、元国家発展改革委副主任で元国家エネルギー局長)を中心に書かれたノンフィクションだが、この背後に令計画率いる「山西会」の存在があったことが書かれている。劉鉄男や鉄道汚職で失脚した元鉄道相の劉志軍に連座した山西商人の愛人・丁書苗なども山西会のメンバーだった。この山西会では、官僚ポストが売買され、中央は令計画、地方は令政策が仕切っていた。市長ポストは相場1000万元だとか。

令計画の妻、谷麗萍は北京大学(分校)法学部を卒業後、北京検察院に配属された法科エリートだったが、令計画の出世にともない実業家に転身。IT企業の総裁などを歴任する傍ら青少年育成公益事業なども展開した。実業家としてのセンスがよく、山西会を夫とともに仕切り、ビジネスを拡大していった。元鉄道相・劉志軍を通じて、高速鉄道ビジネスにも関わり、約40億元の利益を上げたとも言われているが、このビジネスには周永康も関わっていたと噂されている。

 夫婦仲については、令計画にはCCTV美人キャスターの愛人がいたことが暴露されているが、谷麗萍も20歳年下のCCTV人気キャスターで、いわゆるCCTV汚職に連座して取り調べを受けている芮成鋼と肉体関係があったとされている。これも裏の取りようのない話なのだが、芮成鋼は紀律検査委の取り調べ中に、谷麗萍から「レイプされた」と泣いて訴えたとか。ちなみに芮成鋼は最初汚職に連座していたとして引っ張られたのだが、今は温家宝一族の不正蓄財ネタを米国メディアに漏らしたとして「米国のスパイ」容疑もかかっているらしい。

妻の想定逃亡先は日本だった

 谷麗萍と親密な関係にあり、西山会の主要スポンサーとなっていたのが、北大方正集団CEOの李友だ。現在、李友ら方正集団幹部は紀律検査委から取り調べを受けている。この李友のネットワークは北京大学同窓生を中心に形成され、谷麗萍とも北大ネットワークでつながっている。一部ゴシップ報道では、令計画失脚が確実になったとき、谷麗萍は李友を頼って国外脱出をはかったという。先月12月16日、その脱出計画相談のために北京大学構内にあるホテルで二人が落合っていたところを、規律検査委当局が踏み込んだらしいのだが、この時は李友が黒社会の手下を使って彼女を逃したという。

 李友は谷麗萍の逃亡先として日本を想定していたそうで、日本での生活に必要な書類や住宅はすでに用意されていたとか。令一族は日本の東京三菱UFJなどに100億元相当の口座をもっているそうで、シンガポールの口座と合わせると、その金融資産は少なくとも370億元相当にのぼるらしい。結局、谷麗萍が高跳びする前に、令計画は失脚したので未遂に終わったが、もし谷麗萍が日本に逃げて来たら、安倍晋三首相も専用機を飛ばして谷を中国に強制送還したのだろうか。

 ちなみに李友が谷に贈った日本の豪邸とは、京都河原町の石塀小路にある高級旅館・潤心庵と一部で報道されているが、財経誌記者の調べでは、登記上の名義は元モルガン・スタンレー香港支社長の張頌義という。張頌義自身が、李友と会ったことはあるが深いかかわりはないとして、巷の報道がガセであると証言している。

こうやって令計画の人間関係を見てみると、単に共青団派、上海閥といった単純な対立で整理できない込み入った人間関係が見てとれる。山西の地盤を基礎にした血縁・親族関係、父親同士の関係を基礎にした太子党(革命二世グループ)関係、大学同窓グループ、実業界との利権関係、そして世論工作に必要なメディアへの支配。令計画は、一見地味な感じではあるが、その利権と蓄財規模、メディアを通じた影響力など、党内屈指の勢力を形成していたとも言え、薄熙来、周永康らの「クーデター」に加担していかどうかはともかく、習近平が恐れるだけの強い独自派閥と野心を持っていたのは確かなようだ。

習近平の攻撃ターゲットは地方の独自派閥

 これまでの習近平の汚職キャンペーンを見ていると、ターゲットは単純に江沢民派、胡錦濤派、というより、地方に根強い独自派閥を持つ能力のある官僚政治家を警戒しているようである。重慶で旧西南軍区の力をかりて習近平からの権力奪取を画策していたとされた薄熙来、中央軍事委長老として軍内影響力を維持していた徐才厚、四川閥と石油閥を束ね公安権力のトップにいた周永康、山西閥と香港、マカオを含む国内メディアに影響力を持つ令計画。では、これで習近平の虎退治は終わりなのだろうか。一応、令計画退治は胡錦濤派に向けた攻撃ではない、という言説が目下、わざとらしくネットにたくさん流されているが本当にそうなのだろうか。

 だが、少なくとも、習近平の地位を脅かすような能力、実力のある官僚政治家というと、まだ存在する。例えば,李源潮は江蘇閥を形成しており、政治家としても実力派だ。令計画とプライベートでも仲が良いとされる李源潮が習近平の次のターゲットという噂はすでに流れており、彼の周辺がざわざわし始めている。李友から賄賂を受け取っていたのは令計画だけでなく李源潮もだ、と報じられている。おそらくは、2017年の第19回党大会が始まる前に、さらに大規模な大虎狩りが始まるのではないだろうか。

 表向き、反腐敗キャンペーンだが、要は権力闘争。中国経済は低迷し続け、周辺国家とはきな臭い空気が流れ、民族問題や宗教問題で国内治安が揺れている中国に、有能な政治家を潰しあう余裕は本当はないだろうに、と、よその国ながら心配になってくる。

政治家を潰しあう余裕は本当はないだろうに、と、よその国ながら心配になってくる。

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