『習近平とドゥテルテ、二枚舌の応酬か フィリピン漁船による漁解禁は真の和解?』(11/11日経ビジネスオンライン The Economist)について

11/5拓大で開かれた「緊迫する南シナ海情勢」セミナーでフィリピンのハリー・ロケ下院議員の講演内容が宮崎正弘氏のメルマガで紹介されていましたので引用します。

中比協力スピーチ

代表・Herminio Harry L Roque Jr.より ここで皆様にお話しできることを光栄に存じます。私はHarry Roque Jr.と申します。今年に入ってから、私はフィリピン共和国の議員に選ばれました。官途に就く前は、特に人権や憲法の分野で弁護士をしていました。フィリピン大学法学部で15年間にわたって教鞭を取り、国際公法、国際人道法、そして憲法を専門としてきました。 私は、代議院の議員としての地位を理由にこちらにご招待頂いているかもしれませんが、議会を代表してお話していると主張することはできません。国際関係の問題に関する議会の立場は、未だに不確定です。その代わりに、仲裁人、個人弁護士、法学教授、二人の子供の父親、一人の女性の夫、そして何よりも、フィリピン人としての知識と経験を照らして、本日はお話しさせて頂きます。

中比の仲裁

過去数年間にわたり、南シナ海における中国の存在は、フィリピン人漁民が同海内にあるものの周辺で魚を捕るのを妨げてきました。中国は、フィリピンが自国の大陸棚や排他的経済水域の一部として領有権を主張している領域に、人工島や装置を建設しました。フィリピンは、このような行為は両国が締約国である国連海洋法条約(UNCLOS)の掲げる規則に矛盾していると主張してきました。  このような理由から、2013年1月22日、フィリピンは中国を相手に、本件を国際海洋法裁判所(ITLOS)の前に提訴しました。同裁判所は、UNCLOS締約国間の紛争に対処する専門国際機関です。しかしながら、実際の手続きは常設仲裁裁判所(PCA)が行いました。 中国は同手続きへの正式参加を拒否しました。同国は、一般に公開した様々な声明、ならびに裁判所の個々の審判員への書簡を通じ、フィリピンの主張に対する論争を行ったのです。 また、すでにご存じかもしれませんが、2016年7月12日、PCAはついにフィリピン共和国と中華人民共和国間の訴訟の判決を下しました。 PCAはどのように判決を下したのでしょうか?あまり詳細にはお話しませんが、裁判所は三つのことを述べました:

1.裁判所は、条約が定める権利を超えて、九段線内側の領海における資源に対する歴史的権利があるとの中国の主張には、法的な根拠がないと述べました。

2.そして、裁判所は、それぞれの海洋権に応じて、南シナ海の様々な地物を分類しました。注目すべきは、太平島を含め、いずれの地物にも島であるとの判断が下されなかったことです。したがって、いずれの地物もEEZ[作成者1] あるいは大陸棚を生成できないということになります。   

3.最後に裁判所は、フィリピン人漁民によるスカボロー礁への接近を妨げることにより、中国が多数の国際法違反を犯しており、フィリピンの船舶および乗員に深刻な衝突の危険をもたらし、海洋環境を破壊しているとの判決を下しました。 

この判決は、南シナ海を巡るフィリピン・中国間の長年にわたる紛争の終結と見られています。多くのフィリピン人は、同判決をゴリアテに対するダビデの勝利[作成者2] と比較しています。この判決が、国家の力はその大きさではなく回復力に見られるということを示したからです。 私は異なる見解を持っています。この判決によってフィリピンが成し遂げたことについて嬉しく思い、また誇りに思ってはいますが、これが何かの終わりだとは考えていません。フィリピンに、ひいては国際社会のその他の地域に実際的な利益をもたらす形で同判決の執行に向かって進まなければ、この判決もピュロスの勝利[作成者3] になってしまうだけです。

我々が現在直面している問題はシンプルです:国際法の下でこの判決を執行することはできるでしょうか?もしできるのであれば、どうやって執行するのでしょうか? 最初に、我々が認めるべきは、同裁判所による判決が、それ自体を執行する傾向にあるということです。国際法に対する主な批判のひとつに、道を外れた国家に法を遵守させる「国際警察」が存在しない、というものがあります。これは部分的にしか正しくありません。 私の元教授であり、国際司法裁判所の元裁判官であるロザリン・ヒギンスが適切に述べたことには: 国家は、自身が立法機関の当事者でなかったこと、あるいは具体的な提案を承認したくなかったことから、疑いようもなく、自身が明確に同意していない規範に拘束されていることを認めるようになりました。しばしば暗黙であったり熱狂的であったりもする合意が国際法の原則であるならば、その合意は、国家が自制を警告するにあたっての相互の利点を感知するから生じるのです。国際法の違反は、それによる短期的な利点がたとえあったとしても、国益にかなうことはめったにありません。意思決定のプロセスとしての法には、これで十分なのです。義務の原則をほかに見つける必要はありません。 我々は、国際法が主権国家の合意に基づくものだと認めていますが、国家の合意が他の国家の立場に大きく影響されることも理解しています。同裁判所の判決は紙切れにすぎないと中国が主張するかもしれませんが、この判決が同国の意思決定に規範的な影響を及ぼしたと我々は確信しています。 まるで中国が許しがたい罪を犯したかのように、この判決を中国に対する警棒として使うよりも、我々は、その代わりに、政治的な見通しを変える手段として使えばよいのです。我々は、この仲裁をゼロ・サム的な判決と見なすよりも、協力へのたたき台にすればよいのです。

次に、最初に申し上げたことに関連しますが、国際法の執行に対する国家の合意の重要性を認めることにより、中国と相互の、持続可能な、意義のある合意を結ぶことを目指すべきです。中国に我々の法的立場を確信させた今、主権者としての我々の権利を尊重するよう中国を説得できる格好の立場にあるのです。 この仲裁判決に命を吹き込むのであれば、その欠点を含め、同判決の完全性をまずは受け入れなければなりません。お気づきかもしれませんが、同裁判所の判決は統治権の問題には裁定を下しませんでした。つまり、南シナ海の岩礁や砂州の法的性質を分かっていても、誰がこれらの地物に統治権を行使するのかについては、国際法で判断が下されていないのです。フィリピンの見解では、これらの地物は我々の所有です。当然のことながら、中国の見解では、これらの地物は中国の所有です。この問題に関しては、ベトナムや台湾についても同様です。 結局のところ、南シナ海への接近を実際的な大問題にしている未解決の課題は多数存在します。

同裁判所は、フィリピン人漁民がスカボロー礁で伝統漁を行うのを妨げる中国の行為を違法だと見なしていますが、中国自身も歴史的にこの海域で職人漁業を行っていたと認めていることにご注目下さい。これもまた同判決の微妙な境界線のひとつに過ぎず、これにより、我々が中国の敵ではなく、中国の権利もまた尊重している主権者仲間であるというメッセージを中国に伝えることができます。 皆さん、我々のジレンマに対する解決策は極めてシンプルです。スカボロー礁の共同漁業条約の可能性に関して中国との話し合いに入ることは、手始めとして適切です。

トンキン湾における中越海上国境画定条約のように、フィリピンもまた、中国・フィリピン間の二国間協調と友好関係の発展を築くことができます。これはまた、同地域における緊張の緩和につながる可能性、ならびに国際法上の権利を効果的に行使するのに必要な影響力をフィリピンにもたらす可能性もあります。

米比関係

これにより、次は友好関係の問題に移ります。 私は、この判決がフィリピン・中国間の緊張を高めたとは思いません。中国はフィリピンの主要貿易相手国のひとつであり、国内では多数の中国国民が大企業に勤務、あるいは大企業を経営していますので、両国には、この関係を守り、保っていきたいと考える真の理由があると考えています。

しかし、中国がフィリピンへの信頼を差し控えようとしていることも十分に理解しています。これは、フィリピンが、軍事的パートナーあるいは守護者として米国に依存していることに端を発しています。 1951年、フィリピンと米国は相互防衛条約を締結しました。この条約の目的は、「平和の構造を強化」し、外国部隊から攻撃を受けた際に互いの国を支援することを確約することでした。その後、フィリピンに軍事拠点を設置しましたが、これは1992年まで続きました。1998年、フィリピンと米国は訪問軍隊地位協定を締結し、これにより、米軍が軍事演習実施のためにフィリピンを訪問するようになりました。その後2014年には、「同地域の平和と安全を促進するため」に、フィリピンと米国は防衛協力強化協定を締結しました。

法的観点からのこれらの協定についての懸念はさておき、私は一貫して、米国とのパートナー関係はフィリピンにとって非常に不利なものだと主張してきました。この問題は、フィリピンの土地におけるアメリカ兵士による殺人が浮き彫りにしました。これらの協定に具現化された協力原則にもかかわらず、被疑者の身柄を確保する権利は米国に留保されました。このため、米国海軍の伍長勤務上等兵、ジョセフ・スコット・ペンバートンは、トランスジェンダー女性、ジェニファー・ロードを殺害したことにより地方裁判所で有罪判決を受けていたにもかかわらず、一夜も刑務所で過ごしていません。前にも言いましたが、これはもう一度言うに値することです:ジェニファー・ロード殺害は、フィリピン主権の死を象徴しています。

さらに言えば、これらの協力協定は、フィリピン人の真の安全を実現していません。中国海軍の船舶が南シナ海のフィリピン人漁民を脅かしていた時、米国は中国に対してその行為をやめるようにとのメッセージを送っただけでした。これはフィリピンがどうせ自国でも行うことに過ぎません。余談ですが、フィリピンにおける米国の存在は、フィリピン南部のミンダナオ島における反乱を激化させただけだと多くの人が考えています。

皆さん、私はフィリピンに対する米国の貢献を損ねるつもりはありません。私自身、米国で勉強して卒業しましたし、私の親戚の多くは米国に住んでいます。しかし一方で、米国の支援を過度に評価するワナに陥りたくはないのです。 不安の源を排除することにより、直接的に、我々の安全問題の解決を検討するべき時がきました。しかし、軍事訓練や軍拡競争を通じた示威でこれを行うことはできません。国連憲章の原則に沿った方法により、つまり平和的な紛争解決方法を通じて、これを行うことができるのです。

自主的外交

私が自主的外交を全面的に支持するのは、こうした理由からです。私は、これによって、孤立を意味しているのではありません。定義によれば、自主的外交とは、国家は、介入あるいは強制することなく、その最善となるように、他の主権者を引き込むべきだということです。 現在、フィリピンの最善の利益は、平和的に自国の水域を探索および利用できるようになることです。

実際のところ、我々の平和維持部隊として米国に依存し続けるようでは、我々は最善利益の実現に四苦八苦することになります。実のところ、米国の存在こそが、この地域の緊張を高め続けているのです。 中国と協力するのは良いことなのだろうか、と考える人もいるかもしれません。多くの人が、中国と協力しようという試みは、主権の放棄の現れだと考えています。一部のフィリピン人には、それを反逆だと言う人もいるかもしれません。 それが愛国心の現れである限り、私は彼らの気持ちを受け入れますが、このような考えは、現代世界の複雑性や国際法の定める規範とは相容れないものです。

ひとつの国を同盟国か敵国かに分類することは、状況に関係なく、地図を黒色と白色に塗ることになるでしょう。 中国との将来の交渉がどのように終わるかを申し上げることはできません。双方にとって利益のある合意に終わるかもしれないし、そうでないかもしれません。しかし、挑戦してみなければ、決して分かりません。そして、フィリピン国民のために、私はどんなことでも挑戦するつもりです。 ご清聴ありがとうございました。

[作成者1]「排他的経済水域」の略 [作成者2]旧約聖書の一場面 [作成者3]犠牲が大きく、得るものの少ない勝利>(以上)

次は10/31FT記事を11/6日経電子版に翻訳掲載した時に故意にヘッドラインを「習」から「安倍」に代えた悪質な印象操作のケース。日経への電凸に対しての回答は「日本版なので目につきやすいタイトルにした」とのこと。いくら100%子会社とはいえ、日経に元記事を勝手に編集する権利はないと思いますが。完全に契約違反ではないですか?如何に日本のメデイアは腐っているかです。

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こんな記事もありました。日経は真底腐っています。

http://mamoretaiwan.blog100.fc2.com/blog-entry-3004.html

さて、中比の問題になっていますスカボロー礁ですが、最近の記事を取り上げて見ます。

11/8毎日新聞は<スカボロー礁に巡視船 沿岸警備隊派遣 大統領訪中後、漁再開

【マニラ共同】フィリピン沿岸警備隊は7日、領有権を巡り中国との対立が続いていた南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)に巡視船2隻を派遣し、パトロールを始めたことを明らかにした。

スカボロー礁は2012年に中国が実効支配を固め、中国公船の妨害でフィリピン漁民は操業できず、沿岸警備隊も現場海域には近づけていなかった。しかし、10月に訪中したドゥテルテ大統領が南シナ海での領有権問題を棚上げした後は妨害がやみ、漁が再開していた。

沿岸警備隊幹部はパトロールの具体的な場所や活動状況は明らかにしなかったが「さらに多くの巡視船が配備される」との見通しを示した。中国とフィリピンの首脳会談を受けた措置の可能性があり、中国側の今後の対応が注目される。

幹部によると、2隻のうち1隻は日本政府が10月にフィリピン側に引き渡した「ツバタハ」。今月5日に現場海域に到着したという。

幹部は中国公船が現場海域にいたかどうかには言及しなかった。>(以上)

10/31レコードチャイナ<「スカボロー礁から中国公船撤収」は誤り、だが漁民への妨害はない―比国防相

2016年10月30日、中国とフィリピンの係争地となっている南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)周辺に展開していた中国公船が撤収したとされる問題について、フィリピンのロレンザーナ国防相は、中国海警局の船が依然として同礁周辺を巡航しているとした一方で、フィリピン漁民は妨害をされずに漁を行っていると語った。環球網が伝えた。  AP通信によると、フィリピン海軍が週末に上空から偵察した結果、少なくとも4隻の中国海警局の船がスカボロー礁周辺にいたという。ロレンザーナ国防相は「中国公船がいなくなったとする沿岸警備当局の情報は間違っていた」と補足した。  フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国を訪問した際、フィリピンの漁民が今後数日でスカボロー礁に戻ることができるとの見通しを示していた。  中国外交部の陸慷(ルー・カン)報道官は28日の定例記者会見で、ドゥテルテ大統領の訪中により中比関係は全面的に改善したとした上で、スカボロー礁でのフィリピン漁民への妨害行為をやめたのかとの質問については「双方は現在、まさに意思疎通を続けている」と述べていた。(翻訳・編集/柳川)>(以上)

ドゥテルテと習の関係は、狐と狸の騙し合いみたいなものかもしれません。お互いにいいとこどりをしようとしているのでしょう。11/5講演で、ハリー・ロケ議員は、「国際仲裁裁判所判決はテコの役割でしかなく、二国間交渉をしないと最終解決しない」という立場でした。それに対し、ベトナム外務省顧問のテイン・ホアン・タン氏は「二国間協議でなく多国間で話合うように問題を国際化した方が良い」とのことでした。大国と小国では力の差がありすぎ、マルチラテラルの方が合理的と思われますが、タン顧問は「中国が面子を失わない形で撤退できるよう誘導」との話もあり、狙いは一緒なのかも。比としては中国を仲裁裁判判決から救い、貸しを作って実利を取った形でしょうか。ただ、中国が何時までもおとなしくしているとは思えません。宇宙まで侵略しようとしている連中です。そこの認識が違っていますと、下手な妥協で終わってしまいます。

ASEANも中国から大きな支援を受けていますラオス、カンボジアという内陸国家があり、纏まりを欠いています。戦後の国連の仕組みが左翼リベラルやグローバリストに牛耳られ、見直しが必要になっているのと同じく、ASEANも仕組みを見直した方が良いでしょう。Brexitやトランプ大統領の誕生とか行き過ぎたリベラリズムの修正が世界的に起きています。トルコのEU加盟申請も、本年中のヨーロッパへのヴィザなし渡航が認められなければ、取り下げる可能性もあります。難民流入抑制協定も反故になり、難民問題は新たにヨーロッパを襲うでしょう。トルコはトランプが大統領になることもあり、ヨーロッパでなくロシアに近づくと思います。また、ヨーロッパはNATOの米軍縮小でロシアの脅威に晒されるようになるのでは。独仏だけでロシアに対抗は出来ません。独仏は今までシリア問題等で、米国の言うことに從わないで来すぎましたので、米国の意趣返しが起きると思います。

記事

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中国を訪れたドゥテルテ大統領(左)と習近平国家主席(写真:AP/アフロ)

南シナ海の環礁、スカボロー礁。最近、中国の沿岸巡視船がこの海域でおとなしくしていることが話題を呼んでいる。まるで推理小説に出てくる「夜間に吠えなかった犬」のようだ。

これまでの4年間、中国船はフィリピンの漁師がスカボロー礁で漁をするのを妨害し続けてきた。きっかけは中国の漁船が絶滅危惧種を違法に捕獲していたことを知ったフィリピン海軍の視察官が検挙を試みたことだった。

だが11月に入り、フィリピンのテレビは自国の漁船が再びこの礁に赴き、漁をして戻って来る様子を映し出した。船いっぱいの魚を持ち帰る漁師たちはみな顔をほころばせていた。

中国が妨害行為を始めたのを受けて、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領(当時)はオランダ・ハーグの国際裁判所(仲裁裁判所) にこの件に関する訴状を提出した。同裁判所は今年7月、フィリピンの訴えを認める司法判断を下した。なにしろスカボロー礁はフィリピン本島から220kmほどしか離れておらず、同国の排他的経済水域内に位置している。一方、中国からの距離は約900㎞だ。

また、アキノ大統領は米国と防衛協力強化協定(EDCA) も結んだ。これにより米軍はフィリピンの5つの基地を拠点に活動することができるようになった。同大統領は、中国がスカボロー礁に人工島を建設し始めた場合、軍事的に対応するよう米国に求めた。中国は領有権が争われている南シナ海の岩礁や小島の一部で既に建設行為に及んでいる。

中国の支配を受け入れれば多額の資金

ところが、アキノ氏に代わって6月に大統領に就任したロドリゴ・ドゥテルテ氏は唐突に方針を変えた。米国との合同軍事演習の中止を発表し、EDCAを廃止すると威嚇したのである。

この路線変更を強調するため、ドゥテルテ大統領は10月下旬に中国を公式訪問した際、米国との「決別」を宣言した。そして、中国側にこう伝えた。「私はあなた方の思想に合わせて自らを立て直してきた。これからはずっと中国を頼りにしていく」。

ドゥテルテ大統領がこうした忠誠を示した後、中国は数十億ドルの融資と投資を約束するとともに、スカボロー礁での妨害行動をやめた。南シナ海で中国と領有権を争っている他の東南アジア諸国に対してこれ以上明確なメッセージはないだろう。中国の支配を受け入れれば多額の資金が手に入るぞ、というわけだ。

現在多くの問題に悩むマレーシアのナジブ・ラザク首相は11月初旬 、北京をうやうやしい態度で訪問した。

習近平をジレンマから救う

米国は現在、南シナ海の領有権を巡る中国の野望に対抗し、他の沿岸諸国との統一戦線を維持すべく努めている。だが、ドゥテルテ大統領の言動は米国のこの努力を台無しにした。それだけではない。中国の習近平国家主席をジレンマから救い出しもした。

ハーグの仲裁裁判所が中国に不利な司法判断を下したのを受けて、中国の強硬論者、とりわけ軍関係者はスカボロー礁に滑走路を建設するなどして反撃するよう習国家主席に求めていた。一方で、習国家主席の強硬路線はすでに高いリスクを伴うため、もっとソフトなアプローチをとるべきだと主張する向きもあった。

今回、ドゥテルテ大統領のおかげで、中国は指一本動かすことなく欲しかったものの大半を手に入れた。中でもフィリピンとの2カ国間協議は大きな収穫だった。中国が長年呼びかけていたが、フィリピンはこれをずっと拒んでいた。

中国にも二心ありか

それでも中国側は用心する必要があるだろう。中国からの投資を歓迎するドゥテルテ大統領の態度が従順を意味すると捉えるのはまだ早い。

フィリピン最高裁の判事の一人は、スカボロー礁を譲渡することは憲法違反であり、弾劾に値する行為だとドゥテルテ大統領に警告している。フィリピン国民の間では今でも米国が広く人気を集めており、中国は嫌われている。

そしてドゥテルテ大統領は中国の耳に心地よい言葉を贈りながらも、日本やベトナムを訪問した際には矛盾するような発言をしている。日本やベトナムもまた、中国と領有権を巡り争っている国家である。

ベトナムでは、ドゥテルテ大統領は「とりわけ南シナ海における航海と上空通過の自由、およびスムーズな商業活動」の必要性を強調した。日本との共同声明では国連海洋法条約を尊重することが重要だと主張した。これは国際裁判所がスカボロー礁に関する司法判断を出すにあたり拠り所とした条約だ。

一方、中国にも二心があるのかもしれない。スカボロー礁付近での漁をフィリピン人に解禁しているように見せながら、その実、内側の大きな礁湖に以前のように立ち入ることは許していないのだから。

© 2016 The Economist Newspaper Limited. Nov 5-11 2016 | BEIJING AND SINGAPORE | From the print edition

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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