『トランプ流は外交の教科書に失敗事例として載る 「この会談はやらないほうがよかった」』(6/15日経ビジネスオンライン 森永輔)、『「米朝会談」の成果はどうであれ、これは歴史だ ロシアゲートの聴取逃れのため米朝首脳会談を利用した?!』(6/14日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『拉致提起に安堵の日本、日朝首脳会談にはなお時間』(6/13ダイヤモンドオンラインロイター)について

本日は米朝首脳会談をマイナスに評価する見方を紹介します。長いので短くコメントします。総じて、ジュリアーニ発言を気に留めている人はいないという事です。共同声明の外形上から見れば、厳しい評価になるのは止むを得ません。ただ、米国のリベラルや民主党支持者の意見が色濃く反映されている気がします。トランプは11月の中間選挙のことを考えて華々しく演出したのはその通りでしょう。でも高濱氏記事にありますようにロシア疑惑聴取から逃れるためにシンガポールへ行ったというのは言い過ぎです。宮家氏の言うように「核弾頭付きの巡航ミサイル」を日本に配備、ニュークリアシエアリングは必須です。

6/14ダイヤモンドオンラインロイター<米朝首脳会談、ニクソン訪中と似て非なる「外交的意義」>

https://diamond.jp/articles/-/172551?utm_source=weekend&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

森記事

元外交官で外交交渉に精通している宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、米朝首脳会談における米国の交渉術を「稚拙」と評価する。例えば「切り札を最初に切る」「決定権のない者と交渉する」という具合だ。今後は、戦争ではないものの平和でもない“新常態”に北東アジアは突入すると展望する。

(聞き手 森 永輔)

一見したところ会談を主導したトランプ米大統領(右)。果たして交渉上手はいずれだったのか(写真:AFP/アフロ)

—今回の米朝首脳会談で最も注目したのはどんな点でしょう。

宮家:一つは、交渉の進め方。「ディール・メーカー」「交渉の達人」を自賛するドナルド・トランプ米大統領の外交交渉が自滅したことです。それも北朝鮮のような小国にすら通用しなかった。セオリーを軽視し、無手勝流を通したつけが回ったのです。将来、外交の教科書に失敗事例として載るのではないでしょうか。

宮家邦彦(みやけ・くにひこ)キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1978年外務省入省後、外相秘書官、中東第一課長、日米安保条約課長、在中国/イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官等を経て、2005年に退職。その後、2006~7年、安倍晋三内閣で総理公邸連絡調整官。現在、外交政策研究所代表、立命館大学客員教授も務める。近著に『語られざる中国の結末』(撮影:陶山 勉 以下、同)

—セオリーに則っていないとは、どんな行動を指しますか。

宮家:例えば、切り札を最初に切ってしまいました。首脳会談は本来、最後に切るカードです。実務者が協議して内容を詰めた末にやる。まして今回のケースでは、北朝鮮側が切望している会談ですから。

さらに、首脳による1対1の協議を冒頭に持ってきました。安倍晋三首相のように何度も会っている相手なら、それでもかまいません。しかし、金正恩(キム・ジョンウン)委員長とは初対面です。まずはみんなで会って、どのような人物かを見極めるべきです。

二つ目は共同声明の内容について。北朝鮮は非核化について、従来からの主張を守り通し、一切譲ることがありませんでした。「これはすごい。まして米国相手に」と思いました。まあ、攻める米国があまりに稚拙だったので、救われた部分もありましたが。

三つ目は、北朝鮮が自らを普通の国に変えようとしているようにも見えることです。例えば、以前より情報を公開するようになりました。これが本当なら金委員長は冷戦を終了に導いたソ連のゴルバチョフのような存在になるかもしれません(関連記事「金正恩がゴルバチョフになる可能性を読む」)。この点は、たまたま道下さんと同意見です。しかし、それゆえ北朝鮮の政治体制がかえって危なくなる可能性があります。

米国は、米朝首脳会談がもたらすこうした効果を計算に入れているのかもしれません。ただし、入れていないかもしれない。

第1ラウンドは北朝鮮の完勝

—共同声明の内容についてうかがいます。

宮家:第1ラウンドは北朝鮮の「粘り勝ち」でした。米国がこれを挽回することは相当難しいでしょう。

北朝鮮は今回の米朝首脳会談と共同声明を通じて二つのものを得たと思います。一つは国際的な認知。外交交渉の場で米国と伍す力のある国の指導者であると国際社会に認めさせました。二つ目は、米国による体制の保証です。

一方、非核化について譲歩することはありませんでした。北朝鮮にとっては95点の出来だと思います。

—北朝鮮は非核化に取り組む意図がそもそもあるのでしょうか。

宮家:私は恐らくないと見ています。仮にあったとしても、最後の最後に切るものとして温存するでしょう。北朝鮮の方が外交交渉のセオリーに則っています。

非核化は本来、動くはずのないものでした。「段階的な非核化」と「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)」は相反するもので妥協の余地がありません。

金正恩を説得できるのはトランプだけ

—米国の逆転が難しいのはなぜですか。

宮家:理由は二つあります。一つは「朝鮮半島の完全な非核化」を「板門店宣言」と結び付けてしまったこと。同宣言は5月26日に行われた南北首脳会談を受けて出して宣言。共同声明は「板門店宣言にある通り」と表現しています。このことは、「非核化」が何を意味するかの解釈権を韓国にも与え得ることを意味します。本来なら、米国が一方的に定義して、それを北朝鮮に押し付けるべきでした。韓国が関与するようになると、話はまとまりません。

もう一つは今後の展開が、マイク・ポンペオ国務長官をはじめとする実務者協議に委ねたことです。北朝鮮側の実務者が誰であれ、金委員長を説得することはできません。つまり実務者協議の結果が尊重されることはないということです。

—北朝鮮側は金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長を担当者に選びました。

宮家:金英哲氏であっても、金委員長を説得することはできません。北朝鮮で譲歩できるのは金委員長だけです。誰であれ、説得しようと試みれば命に関わることになりかねません。

そんな金委員長を説得できるのはトランプ大統領だけです。ここは、先ほどお話ししたセオリー無視と関連します。本来なら実務者が協議してまとめた結論をもって、トランプ大統領が金委員長を説得する段取りを取るべきでした。

こうした段取りを踏まなかったのは、トランプ大統領が今回の首脳会談の実務的側面についてあまり興味がなかったからでしょう。だから下に丸投げした。

こんなことなら、この会談はやらないほうがよかったとすら言えます。

—非核化の議論はこのまま米朝の2国間交渉(バイ)で進むのでしょうか。日本が関与する余地はないまま進んでしまう。

宮家:基本的にはバイでしょう。「日米」と「朝」という交渉は北朝鮮が絶対に受けません。しかし、いずれ中国やロシアが加わる時が来るかもしれません。その時には日本も加わればよいと考えます。ただ、過去を振り返ると6カ国協議が機能するとは思えないですね。

費用対効果で考えたら、現在の進め方がよいかもしれません。米朝がバイで進める形を取るものの、日本は米国の後ろに立って知恵を出し、交渉を制御する。

首脳会談の決行は「興行」のため


宮家:それもあるでしょう。しかし、それ以上に、トランプ大統領自身が金委員長と会談したかったからだと思います。周囲の興味を引き付けたかった。彼は「交渉の達人」ではなく「興行の達人」です。

トランプ大統領は自己愛が強い。なので、自分より目立つ人が周りにいるのが許せない。何人もの側近を排除してきたのはこのためです*。自分に意見する人はクビにする*。やりたい放題です。

*:スティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問が2017年8月18日に辞任した

*:2018年3月13日、レックス・ティラーソン国務長官を解任した

トランプ氏が経営する企業の中でやるならかまいません。しかし、アメリカ合衆国のホワイトハウスでやられたら、たまったものではありません。

—トランプ大統領はそれほど幼稚な人物なのでしょうか。

宮家:そうかもしれません。しかし、バカではない。もしバカなら、ここまで政権を維持することはできなかったでしょう。

—先ほど北朝鮮にとって今回の首脳会談は95点と採点されました。米国側の得点は何点でしょう。

宮家:日本にとっては45点。非核化でも拉致問題でも進展がありませんでしたから。

これを85点と高く評価する向きもあります。戦争の危機が当面回避されたことを評価する。これは朝鮮半島の人にとっては重要なことでしょう。トランプ大統領の支持者も同様に評価している。遠いアジアの地で戦争する必要性を感じていないですから。

しかし、日本は幸い直接戦場になる危険は朝鮮半島ほど高くありません。我々にとって最重要事項は非核化であり、拉致問題です。

—戦争の危険は本当に回避できたのでしょうか。北朝鮮が非核化を進めない場合、米国が再び武力攻撃を考えることはありませんか。

宮家:その点は流動的だと思います。しかし、少なくとも今は攻撃しない方向にある。17年春のような緊迫した状況になることはしばらくないでしょう。

「終戦」「平和協定」は米朝だけでは進められない

—「完全な非核化」との交換条件になる「終戦宣言」「平和協定」も進捗はありませんでした。これらの取り扱いは今後どうなるのでしょう。

宮家:北朝鮮が非核化について全く譲歩しないのですから、米国が譲歩する理由はなかったということです。

また終戦宣言や平和協定は、米朝だけが議論して進められるものではありません。現行の休戦協定は、北朝鮮の朝鮮人民軍と中国人民志願軍、そして国連軍との間で交わされたものです。

加えて、勝者と敗者を決めなければならない。朝鮮戦争で生じた被害に対する賠償や保障も話し合う必要があります。遺族への補償も考えなければなりません。これらは容易なことではありません。

—ということは、当分、議論の土俵に上がることはない。

宮家:とは限りません。中身がないものにとどまっても、政治的な宣言を発し、それをシンボルとして利用する方法はあります。

ただし、その時、注意しなければならないことがあります。経済制裁の意味が薄れてしまうことです。北朝鮮が「戦争が終わったのに、なぜ制裁を続けるのか」と主張し、国際社会がこれに理解を示すかもしれない。

—複雑ですね。

宮家:そうですね。韓国はそうやりたいのでしょうけど。米国が「終戦」「平和協定」に踏み込まなかったのは賢明だったと思います。

制裁のなし崩し的緩和をとめよ

—米国は制裁を継続する意向を示しています。しかし、中朝の国境では制裁が緩んでいるとの話が伝わってきます。

宮家:中国と韓国、そしてロシアは制裁解除を虎視眈々と狙っているでしょうね。今後、なし崩し的に緩められていく恐れがあります。日米には、この動きが深刻なものにならないようとどめる努力が必要です。

—文在寅(ムン・ジェイン)政権の性格を考えると韓国の意図は理解できます。でも中国が制裁を緩和したい理由は何ですか。それによって北朝鮮に対する影響力を高めることができるのでしょうか。

宮家:それが一つ。加えて、中国企業や個人が二次制裁の対象にされないようにしたいのでしょう。純粋に経済的な事情で。中朝貿易を生業としている中国の市民が少なからずいます。数年前ピョンヤンを訪問した際も、貿易に携わる中国人が非常に多いことに驚きました。

中国は北朝鮮の後ろ盾ではない

—今回の米朝首脳会談の展開に、中国は何かしら影響を及ぼしているでしょうか。もしくは、北朝鮮が交渉を有利に進めるため中国の存在を利用したことは。

宮家:私はあまりなかったと思います。金委員長と習近平(シー・ジンピン)国家主席が大連で2度目の会談をした後、北朝鮮の姿勢が強気になったと見る向きが、トランプ大統領を含め、あります。しかし、会っても会わなくても、結果は変わらなかったのではないでしょうか。中国に言われたくらいで、北朝鮮が核に対する基本方針を変えるようなことはありません。

私は「中国は北朝鮮の後ろ盾」という見方に与しません。もちろん、この点については別の意見もあり得ると思います。

—だとすると、中国は影響力の回復を目指して巻き返しに転じるかもしれませんね。

宮家:それはあり得る話だと思います。6カ国協議の議長国を務めていた国です。それに比べると、今の状況は忸怩たるものがあるでしょう。

例えば中朝間の貿易を拡大することがそのための手段になりえるかもしれません。そうだとすれば、中国は経済制裁の緩和を求める動きを強めるでしょう。

イランの核問題とはリンクしない

—米国は5月8日、イランとの核合意から離脱決定を下しました。このことは米朝首脳会談に影響を与えたでしょうか。

トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で「核の問題を第1に考えている。だからイランとの核合意から離脱した」と言及しました。

宮家:その影響もあまりないでしょう。もし米国が、イランに対するのと同様に北朝鮮に対するならば、より厳しい姿勢を示したはずです。しかし、そうはなっていません。

北朝鮮とイランでは核兵器の開発状況が全く異なるからです。イランは核兵器を保有していません。仮に有事に至っても、米国は通常兵器だけで対応ができます。一方の北朝鮮は実質的には核保有国です。事の進展によっては核戦争にもつながりかねません。軍事的な手段だけでは、北朝鮮問題は解決できないのです。

冷戦期の欧州に学ぶ日本の核抑止

—北朝鮮の非核化が進まないとすると、日本は抑止能力を高める必要がありませんか。

宮家:おっしゃるとおりです。お金はかかりますが、イージスアショア*などを導入し、ミサイル防衛の精度を高め、守りを固める必要があるでしょう。

*:陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム

—西欧諸国は冷戦時代、ソ連が中距離核ミサイル「SS20」を配備したのに対抗して、米国製の「パーシングII」とGLCM(地上発射巡航ミサイル)を配備。抑止力を高めると同時に、中距離核の廃棄に向けた交渉を開始すると決定しました。同様の選択肢を検討するよう主張する人がいます。

宮家:そうした選択肢をタブー視して排除する時代ではなくなったと感じています。議論はするべき。欧州がおよそ40年前に行ったいわゆる「デカップリング」*の議論から学び、この危機を乗り越えていかなければなりません。

*:ソ連がSS20で西欧を攻撃した場合に、米国が本土に配備した戦略核で報復すると、今度は米本土がソ連から報復を受ける可能性が生じる。「それでも米国は西欧を守るのかと」の疑念が西欧で起こった。これが同盟の「デカップリング(切り離し)」問題と呼ばれる。パーシングIIとGLCMの配備はこの問題に対する一つの回答だった

もちろん、日本自身が核武装することは難しいでしょう。核武装しても負担するコストが大きくなってしまい、結局ペイしないと考えます。しかし、そのことを議論すること自体は抑止力になる。中国は逆上するかもしれませんが。例えば、NATO(北大西洋条約機構)で行われているように、核弾頭付き巡航ミサイルを日本に数発配備する案などはより現実的な検討課題でしょう。

戦争でもなく、平和でもない

—最後に、朝鮮半島の今後についてうかがいます。どのような状態が想定されますか。

宮家:戦争ではないけれども、かといって平和でもない状態が続くと考えます。どうやら、戦争は起こりそうもない方向に動いています。しかし、非核化も進みそうにありません。安定しているのか、不安定なのかも、よくわからない。こうしたスッキリしない状態が常態化する。

そして、長い目で見れば北朝鮮が優勢勝ちする可能性が大です。

日本は安全保障政策を考え直す必要に直面するかもしれません。その時には、自前の装備による核抑止も議論に上る可能性がある。私はこれを勧めているのではありません。しかし、議論を強いられることはあるでしょう。

高濱記事

合意事項は、漠然としたものにとどまった(写真:AP/アフロ)

—米朝首脳会談が終わりました。米国内の反響はどうですか。

高濱:米国のテレビはドナルド・トランプ米大統領と金正恩・朝鮮労働党委員長との歴史的握手の瞬間を中継で報じました。

新聞各紙の電子版は両首脳が握手をした6月12日午前9時(日本時間同10時)直後、「歴史的な出会い」とか「北朝鮮の国家元首と会談する最初の米大統領」といった見出しをつけていました。

しかし米朝首脳会談が終わり、共同声明が出るや、具体策に欠ける点を厳しく指摘しています。「非核化がすぐ始まるとしているが、その詳細には触れていない」(米ニューヨーク・タイムズ)。「米国が求めてきた完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)を実現させるプロセスに言及していない」(米ウォール・ストリート・ジャーナル)。

トランプ大統領の記者会見の模様を、筆者と一緒にテレビで見ていた口の悪いリベラル派の米ジャーナリストはこう言いました。「両首脳はこの瞬間を作るだけで、今回の会談の目的の8~9割は達成できたと思ったのではないか。ところがどっこい、メディアはそう簡単には騙せないよ」

トランプ大統領は「記念撮影だけには終わらせたくない」と言っていました。そんなことを言ったのは、両首脳が握手する場面が世界中に流れることをやはり意識していたからなのでしょうね。なにしろ、ご自身でショー番組の企画制作出演をしていた御仁ですから。

余談ですが、トランプ支持を鮮明にしている保守系のフォックス・ニュースの女性アンカーのエビィ・ハンツマン氏が会談直前にこんなリポートをしてしまいました。

二人の『独裁者』による米朝首脳会談。その結果がどうなろうともこれは歴史です」とやってしまったのです。放映直後、この女性アンカーはツイッター上で平謝りしていました。

ただし、金正恩委員長は、人権抑圧政策を続ける世界に冠たる独裁者。一方のトランプ大統領も大統領特権を使ってまでロシア疑惑捜査を阻止しようとする「独裁者」です。女性アンカーの発言は言いえて妙でした(笑)。トランプ大統領は北朝鮮の人権問題について厳しく批判するようなことはしませんでしたから。

米一般市民は「歴史的会談」にも関心なし

—米朝首脳が握手する光景をテレビで見て、米国民はエキサイトしたでしょうね。

高濱:それが、そうではないのです。人にもよりますけど。日本や韓国のように国を挙げて、という感じではありません。

騒いでいるのはメディアだけ、などと言うと叱られるかもしれませんが(笑)。筆者が住んでいるロサンゼルス近郊の市民に聞いてみたところ、米朝首脳会談にあまり関心はないようです。

都会だからそうなのかもしれないと思い、中西部のアパラチア山脈地域に住むベイカーさん(55歳、零細農業経営者)に電話で聞いてみました。同氏は中低所得の白人層の典型です。

彼はこう答えました。「テレビは見ない。さっきラッシュ・リンボー*のラジオで知った。6600マイルも離れているアジアの国の独裁者が核兵器を持とうが持つまいが、俺らには関係ないよ。わが大統領が『リトル・ロケットマン』(トランプ大統領がかって金正恩委員長を小ばかにしてこう呼んでいた)に会おうと会うまいと俺の生活には無関係だしね」

*:ラッシュ・リンボー氏は保守系全米人気ラジオ番組のホスト人気コメンテーター。毎日正午から午後3時(東部時間)放送されている。リスナーは週平均1325万人。中西部、南部の白人大衆層に圧倒的な影響力を持っている。

メディアは「具体策欠如」を批判

—首脳会談の中身について、米国の専門家や知識層はどう評価していますか。

高濱:トランプ大統領と金委員長は会談後、会談内容を踏まえた共同声明に署名しました。同大統領は「包括的なものだ。できるだけ迅速に(文書の内容を具体化する)プロセスを進める」と言明しました。

共同声明には次の点を明記しました。

  1. トランプ大統領は北朝鮮の体制保証を約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に断固取り組むことを確認
  2. 米朝は永続的で安定的な朝鮮半島の平和体制構築に共に努力する
  3. 米朝は新たな関係を構築する

またトランプ大統領は「金委員長を絶対にホワイトハウスに招く」と語り、2回目の首脳会談を行う意向を明らかにしました。中間選挙前にもう一度「政治ショー」をやって共和党を勝利に導こうという選挙戦術の一環なのでしょうね。

米メディアが今回の米朝首脳会談に辛い点数をつける伏線は会談の前からありました。米朝首脳会談の開催を決めてから6月12日までの2カ月ちょっと、政府部内の専門家や官僚を一切遠ざけて、一握りの側近と策を練るトランプ流に厳しい目を向けていたのです。米メディアは、トランプ大統領の政治手法を、「seat-of-the pants」(計画を立てずに勘やフィーリングで事を進める)とか、「wing it」(役者がセリフを覚えずに舞台に立ち、芝居の最中、袖にいる付け人にセリフをささやいてもらうこと)という表現で報じてきました。

トランプ大統領がこうした手法をとったのは米朝首脳会談だけではありません。米朝首脳会談の直前、同大統領は先進国首脳会議(G7)で自由貿易をめぐって西側同盟諸国と大喧嘩をしました。戦後の国際秩序において最も重要な欧米関係は崩れかねない状況になっています。

特別検察官の「聴取」を逃れるためのシンガポール行き?

—準備不足を指摘されながらどうして、トランプ大統領は米朝首脳会談に意欲を燃やしたのですか。

高濱:よく言われているように北朝鮮の金正恩委員長と会って脚光を浴び、あわよくばノーベル平和賞をもらい、返す刀で支持率を盛り返して秋の中間選挙で共和党大勝利をもくろんでいるから、というのはどうやら本心のようです。

でもワシントン政界にはこんな説もまことしやかに流れています。

<ロシアゲートを捜査するロバート・モラー特別検察官チームは大統領に対する聴取を要求してきた。これを逃れる手段として米朝首脳会談を利用した。外交上の理由で聴取を蹴るよう弁護団に指示した>

米朝首脳会談で成果を上げれば、自分に対する疑惑もすっ飛ぶのではないか、と考えたというのです。どこまで真実かは別としてトランプ大統領は大統領特権を行使して捜査を中止させようとしています。これに対しモラー特別検察官は、同大統領が聴取を拒否するなら召喚状を出す構えです。

トランプ大統領が主張する「非核化」は進展したのか

—米朝首脳会談で「非核化」は進展したのでしょうか。

高濱:共同声明だけではその辺がはっきりしません。これから議会やメディアが徹底検証することになるでしょう。

非核化が具体的に進むためには北朝鮮がいつからいつまでに核を破棄するというスケジュール表が必要です。

米国にとっての最善のシナリオは、北朝鮮が保有している核兵器を「CVID」することです。このことが共同声明に明記されていないのが気がかりです。

百歩譲って、共同声明に盛り込まれた事項をこれから進めていくのに不可欠なことを考えた場合、「核兵器を廃棄するための具体的で筋の通った共通の目標、組織、原則を明確に示す必要がある」と指摘しています。

“A Peace Treaty for the Korean peninsula: Will the Past be Prologue?”Charles Kartman, 38 North, 6/11/2018)

拉致問題はトランプ大統領の「リップサービス」?

—最後に安倍首相が最後の最後までトランプ大統領に懇願した拉致問題について、米朝首脳会談で言及したのでしょうか。

高濱:トランプ大統領は記者会見で、「金委員長との会談で拉致問題について言及した」と明らかにしました。同大統領は、会談前に安倍首相と電話でやりとりした際、「必ず取り上げる」と確約していました。

会談と直接関係はないのですが、ワシントン外交筋からこんな話を聞きました。「トランプ大統領が拉致問題を持ち出すと言ったのは、安倍首相の国内的立場をおもんぱかったリップサービスだ。米国が北朝鮮に『日本人を返せ』とは言えない。米国にとって日本人の拉致被害者救出問題は、非核化や対北朝鮮経済制裁解除に比べて優先すべき問題ではない。口利きはするが、実際に北朝鮮と交渉するのは日本政府。交渉は日朝首脳間でやってくれ、ということだ」

「もう一つ、米政府内部には、北朝鮮が終始言っている『拉致問題は解決済み』という立場に留意する者もいる。つまり、日本政府は拉致被害者の存否に関する諸情報を徹底調査する必要があるというのだ」

「世紀の首脳会談」の第1幕は一応幕を閉じた。すでに米メディアから批判が上がっている。再び幕が開くのはいつか。ワシントン政界筋の間では「中間選挙直前」といった臆測が早くも飛び交っている。

ロイター記事

6月12日、米朝首脳会談でトランプ米大統領が拉致問題を提起したことに、日本の政府内では安堵(あんど)の声が聞かれた。写真は7日、ワシントンでトランプ大統領との記者会見に臨む安倍晋三首相(2018年 ロイター/Carlos Barria)

[東京 12日 ロイター] – 12日の米朝首脳会談でトランプ米大統領が拉致問題を提起したことに、日本の政府内では安堵(あんど)の声が聞かれた。しかし、会談で北朝鮮の非核化に向けた具体的な進展はなく、すべてはこれから。

日本は北朝鮮との首脳会談を早期に実現したい考えだったが、まだ米朝協議の行方を見極める必要がありそうだ。

日朝会談は「危険」

「日本にとって重要な拉致問題について、しっかりと言及していただいたことを高く評価する。トランプ大統領に感謝したい」──。米朝首脳会談後、安倍晋三首相は記者団にこう語った。

トランプ氏は米朝首脳会談後の会見で、金正恩朝鮮労働党委員長に日本人拉致問題を提起したと明言。共同文書に拉致の文言は盛り込まれなかったものの、「米国の大統領が北朝鮮との会談で取り上げたことに意味がある」と、日本の政府関係者は胸をなでおろした。

拉致問題を最重要課題と位置づける安倍政権は、米朝会談で拉致問題を提起してもらったうえで、早期の日朝首脳会談につなげることを狙っていた。核・ミサイル問題と歩調を合わせて拉致問題を解決し、国交正常化を目指すことを考えていた。

狙い通り拉致問題は米朝会談の議題に載ったものの、拓殖大学海外事情研究所長の川上高司教授は「このまま日朝首脳会談を開くのは危険だ」と指摘する。米朝の間で非核化に向けた成果がないまま、日本が拉致問題を前進させようとすると「日米の離反を招く。北朝鮮の狙い通りになる」と話す。

米朝は12日の首脳会談で「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に取り組む」ことで合意したが、具体的な道筋は合意文書に盛り込まれなかった。トランプ大統領は会談後の会見で「極めて迅速に」非核化のプロセスが始まるとの見方を示したものの、詳細には踏み込まなかった。

「(合意文書には)何も新しいこと、具体的なことがなく、非常にがっかりした」と、元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は言う。「トランプ大統領や側近は、過去の過ちは繰り返さないとは言っていたが、これではうまく行かないのではないか」と指摘する。

米韓演習は取りやめ

金政権の体制保証を約束したトランプ大統領は会見で、北朝鮮と協議をしている間は韓国との合同軍事演習は行わないと話した。「米側が具体的な行動を示したわけだから、金委員長にはプレッシャーになる。非核化に向けた具体的な行動を取らざるをえないだろう」と、海上自衛隊の元一佐で、笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏は予測する。

しかし、金委員長がトランプ大統領に約束したとされるミサイルエンジン試験施設の破壊も、文書には明記されていない。北朝鮮が本当に核とミサイルの廃棄を進めるのか、不明なままだ。

自民党外交部会長の阿達雅志参議院議員は「交渉しようとこれまで間接的に言ってきた2人が、直接顔を合わせ、交渉に入りましょうと確認するための会談だった。すべてはこれからなのだろう」と言う。「日本が北朝鮮と会談をするには、もう少し米朝協議の行方を見る必要がある」と語る。

(久保信博、ティム・ケリー、竹本能文 編集:田巻一彦)

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