『非核化の義務を負うのは「米朝」でなく「北朝鮮」 「核」より「お家の事情」が優先』(6/14日経ビジネスオンライン 重村智計)、『米朝首脳会談、「具体性なし」でも評価すべき理由』(6/14ダイヤモンドオンライン 北野幸伯)、『米朝合意 6.12後の世界(上) 非核化の裏、米中暗闘へ』(6/14日経朝刊)、『米朝合意 6.12後の世界(中) 金正恩氏が迫られる決断』(6/15日経朝刊)について

これから数日、米朝首脳会談の評価を書いた記事を紹介します。プラスに捉えるのもあれば、マイナスに捉える意見もあります。本日はプラスの意見を掲載します。小生も世に言うほど(特に米民主党系のメデイア)本会談が失敗だったとは思いません。表に出て来ない部分が必ずあるはずで、それを出すと金正恩が困るからだと思います。クーデターも起こりかねないからでしょう。

本ブログでジュリアーニの「会談実施を土下座して頼んで来た」発言(6/11ブログ)や鍛冶俊樹氏の「米国が金正恩の秘密口座凍結、金は金欠病」(6/13ブログ)という意見は合っているのでは。でないとプライドの高い金が頭を下げることはないでしょう。

重村氏の見方はこのところ的を射ていると思っています。中国人の書いた記事を何度か紹介しましたが、「中国は朝鮮半島に影響力を失うのではという恐怖感を指導部が持っている」ことは間違いありません。主体思想は中国からの独立を目指したものですから、理念どおりに北が動き出したのではないでしょうか。

北野氏の見立ては全面的に北を信頼はできないけど、会談は両者の信頼醸成の第一歩と捉えています。ポンペオが「大統領の任期までに非核化を実現」と発言していますので、交渉は進んでいく予感がします。北が世界に向け約束したのも同然で、これで反故にすれば、必ずや米国は躊躇わず北を攻撃するでしょう。

秋田氏も北は米中の牽制のカードとして捉えています。しかしオバマと言うのは本当に無能でした。取り巻きが悪いのもあったのでしょうけど。国務省はリベラルの巣窟だったので、結局武力行使を材料に使わなかったのでは。日本も自衛隊を軍に引き上げ、憲法改正しないと真面な外交は出来ません。拉致被害者の救出もできないのですから。旧社会党のように「拉致はない」といって憚らないような政党もありましたし。今その精神を受け継いでいるような左翼政党があります。選挙で落としませんと。米朝・日朝関係がうまく行けば、民潭・総連との関係を見直し、特別永住者の制度は廃止すべきです。

峯岸氏の記事ではトランプのデイールのやり方が功を奏したのではと言う思いです。飴(経済発展)と鞭(軍事攻撃の脅し)を上手く使ったという印象です。米国と良く連絡を取り合いながら、日朝会談に臨み、拉致被害者家族が生きている間に拉致被害者と会い、日本で生活できるようにしてあげたいです。日本政府の正念場です。

重村記事

両首脳の笑顔は何を意味するのか(写真:AFP/アフロ)

米朝首脳会談が行われた。共同声明には完全な非核化の進め方や期限についての言及がなく、失望を買っている。だが、重村智計・早稲田大学名誉教授は「非核化の主体を北朝鮮に限定したことの意義は大きい」と指摘する。その意味するところは……

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は12日、シンガポールでの会談後、共同声明に署名した。共同声明には、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)への合意はなく、多くの失望と批判が聞かれる。

トランプ氏は、金正恩委員長が直面する北朝鮮軍部からの圧力に理解を示し、同委員長を追い詰めなかった。同委員長に「北朝鮮の完全な非核化」を約束させたのは、成果だ。二人はともに、国内での懸案を解消するため、「歴史的」会談を「ライブ中継」する演出を必要としたのだった。

首脳会談の真実は、冒頭40分間の二人だけの会談に隠されている。二人だけで何を話したのか。他の閣僚や高官に聞かせたくない本音を、語り合った。金正恩委員長が会談の冒頭でした発言は異例だった。緊張した表情で口を開くと、次の言葉が飛び出した。

「ここまで来るのはそれほど容易な道ではありませんでした。我々には足を引っ張る過去があり、誤った偏見と慣行が時に目と耳をふさいできたが、あらゆることを乗り越えてここの場にたどりついた」

会談の最後にもう一度、「我々は足かせとなっていた過去を果敢に克服した」と、感慨深げに語った(日本経済新聞6月13日朝刊)。

この言葉が何を意味するのかは、明らかだ。トランプ大統領が5月24日に発した「会談中止」騒動を指しているのではない。「足を引っ張った」のは誰なのか、明かに北朝鮮の国内事情や歴史、国際認識、「抵抗勢力」の存在である。「様々な障害」は、北朝鮮軍部を中心とした「抵抗勢力」の存在を、意味する。だから、首脳会談直前に、軍首脳3人を入れ替えたのだ。北朝鮮軍部の「抵抗」を抑えて、シンガポールまで来た事情を理解するよう、金正恩委員長はトランプ大統領に求めたとみられる。この思いが同大統領に伝わった。

完全な非核化よりお家の事情

米朝両首脳はともに、国内の「抵抗や批判」にさらされる共通の悩みを抱える。そのため、批判を抑えるための「ライブ・ショー」を共演した。米国では、11月の中間選挙に向けた選挙戦がすでに幕を開けた。中間選挙で共和党が勝利しないと、トランプ大統領は議会で弾劾されるかもしれない。支持率を上げる必要がある。

だから会談は、米国の夜のテレビニュースに間に合うように、日本時間午前10時(米東部時間午後9時)に始まった。米テレビは、いずれも緊急生中継で大々的に報じた。会談後の記者会見も、朝のモーニングショーに間に合うよう午後5時過ぎに設定された。米テレビは、特集で報じた。

トランプ大統領にとって今回の首脳会談は、「核問題解決」よりも「中間選挙対策」が大きな目的だった。中間選挙で負ければ、大統領弾劾の危機に直面し、核問題も解決できない。

一方、金正恩委員長も国内の「抵抗勢力」による「暗殺」や「クーデター」の危険が常にある。軍部の中には、口には出さないが「核放棄反対」「米帝の首魁と会談するなどとんでもない」との空気がある。それを抑えるために、米韓合同軍事演習の中止などの成果がほしい。だから、トランプ大統領は「米韓合同軍事演習中止」に言及してあげた。

朝鮮半島の非核化は「北朝鮮の非核化」

共同声明は、当初期待されたCVIDに、まったく触れなかった。これに対して「成果がない」との声が聞かれる。トランプ大統領は、記者会見で「そこまで時間が足りなかった」と正直に述べ、米朝高官による交渉を直ちに開始すると語った。

それでも、共同声明には注目すべき表現があった。声明は「金正恩委員長が『朝鮮半島の完全な非核化』を再確認した」と2度も触れた。板門店宣言においてこれまでの北朝鮮の「朝鮮半島の完全な非核化」は、南北朝鮮が共に行うとの表現で合意されていた。

この表現は、完全な非核化は北朝鮮だけが行うのではなく、韓国も行うとの意味を含んでいた。韓国は核兵器を保有しないが、北朝鮮は「米国の核の傘」の撤去を求めた。これは、米国がグアムに配備する核の撤去をも含む表現であった。つまり、北朝鮮の立場は、「朝鮮半島の非核化」は、米国がアジア太平洋で非核化することも含んでいた。

米朝首脳会談の共同声明は、北朝鮮によるこの解釈を明確に退けた。共同声明は、「北朝鮮が朝鮮半島の非核化」を約束したと表現している。「米国と北朝鮮は、朝鮮半島の非核化を約束した」とは、表現していない。完全な非核化をする主語は、「北朝鮮」だけであった。これは、「朝鮮半島の完全な非核化」は金正恩委員長が取り組み実行する、との意味になる。「米国の核の傘」問題は、なくなったのだ。

この結果、共同声明は「朝鮮半島の完全な非核化」との表現を使ってはいるが、「北朝鮮の非核化」を意味することになる。そのうえで、ポンペオ米国務長官が「できるだけ早い日程で」北朝鮮高官と交渉に入ると明記しており、「核交渉」は継続される。これが、「非核化」についての首脳会談の唯一の成果であろう

北朝鮮が米国の影響下に

米朝の歴史の中で、両首脳が初めて信頼関係を築いた意味は大きい。現代の国際政治は、首脳同士が直接話しあい、問題を解決する。米朝の首脳外交が、幕を開けた意味は小さくない。北朝鮮は、中国に対して「米国カード」を使えるようになった。

朝鮮半島の国際政治は、これまで中国だけが朝鮮半島の南北両国に大きな影響力を持っていた。米朝首脳会談の実現で、米国の影響力が初めて南北双方に及ぶことになった。北朝鮮の指導者が、米国大統領に直接連絡し、話し合える時代が訪れた意味は大きい。

金正恩委員長のワシントン訪問とトランプ大統領の訪朝が、年内に実現する可能性が高い。朝鮮半島の国際関係は、変化する。

拉致問題の解決へ前進

トランプ大統領は、拉致問題を解決するよう金正恩委員長に伝えた。米国の指導者が、日本の拉致問題解決を北朝鮮指導者に求めたのは、初めてだ。金正恩委員長は、米国が強い関心を持っている事実を告げられたから、対応せざるをえない。年内に日朝首脳会談が開かれる可能性が、出て来た。

北朝鮮高官によると、金正恩委員長はすでに昨年はじめ、拉致被害者を管理する「国家保衛部」に拉致問題への取り組みを準備するよう命じた、という。

米朝首脳会談が日本に対してもたらした最大の成果は、トランプ大統領が拉致問題に言及したことだ。これまで中国やロシアの指導者が、北朝鮮の指導者に拉致問題の解決を求めたことはなかった。日本と北朝鮮の問題であり、大国が介入する義理はなかった。トランプ大統領と安倍首相の信頼関係が、拉致問題の前進に効果を上げた。

首脳会談は、米朝の指導者による公式の話し合いで、これまでのような外務次官や国務次官補の低いレベルの約束とは違う。発言と要求、回答はすべて記録される。米朝首脳の共同声明と公式発言は、拘束力を持つ重要な外交約束になる。

北野記事

トランプと金正恩が12日、シンガポールで米朝首脳会談を行った。両首脳は何を話し合い、何に合意したのか?これから、米国と北朝鮮はどうなっていくのだろうか?(国際関係アナリスト 北野幸伯)

溝が埋まらないまま開催された米朝首脳会談

「完全非核化」の見返りは「体制保証」――これが今回のディールの核心である。共同声明の中身に具体性が乏しいとの批判もあるが、今の段階でそれを憂える必要はあまりない Photo:AFP/AFLO

まず、これまでの経緯を振り返ってみよう。2017年、北朝鮮は核実験、ミサイル実験を狂ったように繰り返していた。トランプは激怒し、誰もが米朝戦争勃発を恐れていた。

この時期、北朝鮮へのスタンスに関して、世界は2つの陣営に分かれていた。すなわち中国とロシアを中心とする「対話派」と、日本、米国を中心とする「圧力派」だ。

中ロは「前提条件なしの対話」による、北朝鮮核問題の解決を主張していた。一方、圧力派も戦争を欲していたわけではない。圧力派は「非核化前提の対話」を求めていたのだ。

2018年になると、北朝鮮が大きく動いた。

1月1日、金正恩は「韓国と対話する準備がある」と宣言。
1月9日、「南北会談」が再開された。
3月5日、金は訪朝した韓国特使団と会談。

一連の流れを受けて3月8日、とうとう米国も動いた。トランプが「金正恩と会う」と宣言したのだ。事前に何の相談もなかった日本は、衝撃を受ける。確かに唐突ではあったが、実をいうと当然の流れだった。というのも、金は、韓国特使団に「非核化前提の対話をする準備がある」と伝えたからだ。

金が圧力派の条件をのんだので、米朝対話が始まるのは、論理的に当然だったのだ。

トランプのいきなりの動きに慌てた日本だったが、ほどなく落ち着きを取り戻した。この時点で「圧力派」は消滅し、世界中が「対話派」になっている。
しかし今度は、「対話派」の中で意見が2つに割れた。北朝鮮、中国、ロシア、韓国は「段階的非核化」「段階的制裁解除」を主張。一方、日本と米国は「非核化後に制裁解除」を主張した。

4月27日、歴史的な南北首脳会談が開催される。この後、世界の注目は、来るべき米朝首脳会談に移った。ところが、会談が始まるまで両国の溝は埋まらなかった。

米国vs北朝鮮で食い違い 論点はどこにあったのか?

米国は、北朝鮮がウソをつき続けてきたことを知っている。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。

2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言している。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らかだ。

米国は北朝鮮にだまされることを警戒し、「CVID」(=Complete, Verifiable, and Irreversible Denuclearization、完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄)を主張するようになる。

さらにネオコンの大物・ボルトン大統領補佐官は、北朝鮮問題を「リビア方式」で解決すると述べた。03年、リビアのカダフィ大佐は核開発を放棄し、制裁は解除された。しかし11年、彼は米国が支援する「反体制派」に捕まり、惨殺されている。
「CVID」や「リビア方式」に、北は激しく反発。北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は5月24日、6月12日の米朝首脳会談の中止をにおわせ、さらに「核による最終決戦」の可能性を警告した。

これを受けて、トランプは同日、「米朝首脳会談は行われない」と宣言。慌てた北朝鮮がへりくだってきたので、トランプは25日、「やはり会談をする」といい、また世界を仰天させた。

いずれにしても、会談ギリギリまで、米朝の立場は異なっていた。米国は「CVID」を、北は「段階的非核化」を主張していた。

米朝の「ディール」の核心は何か?

トランプと金は会談後、共同声明に署名した。どのような内容だったのだろうか?

1.米朝の新関係(双方の平和と繁栄)
2.朝鮮半島の平和的な体制保証
3.北朝鮮が板門店宣言に基づき、朝鮮半島の完全非核化に取り組む
4.米朝は戦争捕虜遺骨の回収で協力

重要なのは、北朝鮮が「完全非核化」をし、その見返りに米国が北朝鮮の「体制保証」、つまり金正恩体制の継続を保証するという部分だ。これがディールの核心である。

金は会談当初、とても緊張している様子だった。しかし、トランプとの一対一の会談後、笑顔をしばしば見せるようになった。これはあくまで想像だが、トランプは、金にかなり説得力のある形で「体制保証」を確約したのではないだろうか。

共同声明の中に、米国が今まで主張してきた「CVID」という言葉はなかった。この部分を指摘し、批判する人は多いだろう。これは、米国が譲歩したのだろうか?

おそらく、そうだろう。しかし救いはある。

トランプは、共同声明署名後の記者会見で、「制裁を続ける」と断言した。つまり、1994年や2005年のように、「北朝鮮の口約束だけで制裁を解除したり、支援したりしない」ということだ。

では、いつ制裁は解除されるのだろうか?トランプは、「核問題が重要ではなくなった時点で考える」としている。つまり、「非核化」がある程度進み、「北は後戻りできなくなった」と判断した時点で解除されるということだろう。

共同文書に、「CVID」という言葉や、非核化までの「タイムテーブル」がなかった件に関して、トランプは「非核化までには時間がかかる。しかし、プロセスを始めれば、終わったも同然だ」と答えた。実際、「完全非核化」には6~10年かかるといわれている。

では、金正恩はいつ、非核化を開始するのか?トランプは「彼はすぐプロセスに着手するだろう」と答えた。

「中身が具体的ではない」ことに落胆しなくていい理由

トランプ・金会談の結果については、「CVIDの約束をさせることができなかった」「中身が具体的でない」「タイムテーブルがない」など、多くの批判が出ることが予想される。

しかし筆者は、この会談は「大成功だった」と考える。なぜか?

2017年、世界は「核戦争の恐怖」におびえていた。トランプは、金のことを「チビ、デブ、ロケットマン」と呼び、金はトランプのことを「老いぼれ!」とののしっていた。
ところが今回の会談後、トランプは金のことを「才能のある素晴らしい人物」と絶賛した。さらに、金を「ホワイトハウスに招く」と言い、自身が平壌を訪問する可能性もあると語った。

また、トランプは「米韓合同軍事演習」を中止する可能性についても言及している。

米朝最大の問題は、米国は北朝鮮を、北朝鮮は米国を「ウソつきだ」と確信してきたことだ。だから、「ディール」を前進させる前に、信頼醸成が必要なのだ。そういう意味で、今回の会談は大きな意味を持っていた。そして、トランプと金は、これから何度も会うことになるだろう。

共同声明に「具体性」や「タイムテーブル」がなかった点も、現段階で危惧する必要はない。

トップの仕事は、「大きな方向性を示すこと」だ。トップは方針を決め、具体的なことは下の実務者が行う。それが普通ではないだろうか?実際、トランプは「ポンぺオ国務長官が協議を続けていく」と語った。共同声明の具体化については、これから国務省が取り組んでいくのだ。

今後の焦点はIAEAの査察 受け入れれば金は本気だ

これから、米朝は、そして世界はどう変わっていくのだろうか?

まず、北朝鮮は目立つ形で非核化のアクションを起こすと予想される。金は、せっかく出来上がった「いいムード」を壊したくないはずだ。

もちろん、彼が本気で「完全非核化」を決意したかどうかを判断するのは時期尚早だろう。しかし、「非核化」が「不可逆」な段階まで進むまで、「制裁を続ける」とトランプは言っている。だから共同声明に「CVID」という言葉があったかどうかは、それほど大きな問題ではない。

金にとって核兵器よりも大切なのは「体制保証」である。これさえトランプが約束してくれれば、非核化は進んでいくはずだ。

今後の焦点は、北が国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れるかどうかである。これは、金の本気度を測る大きな指標となる。北が受け入れを表明すれば、世界は「どうやら本気らしい」と判断するだろう。

いずれにしても北朝鮮は、今後しばらく核実験やミサイル実験で、わが国や世界を脅かすことはないだろう。日本は、トランプが「非核化前に制裁解除」という過去の過ちを繰り返さなかったことを喜んでいい。

実際に、「完全非核化」は成るだろうか?現段階ではなんとも言えない。会談開催か中止かを巡って二転三転したように、トランプと金のことだから、何があるかわからない危うさは否めない。しかし、少なくとも「米朝首脳会談前より非核化の可能性は高まった」といえるだろう。

秋田記事

初めての顔合わせが実現したというほか、非核化ではさしたる成果もなく、米朝首脳会談は終わった。

米朝は史上初のトップ会談をテコに非核化プロセスに取り組む(12日、シンガポール)=AP

「もはや、北朝鮮が核ミサイルを持つのを止められないだろう」。日本の政府関係者はこう落胆する。米朝交渉にかつて関わった元米政府高官からも、会談の結果を酷評する声が出る。

少なくとも理由は2つある。まず査察について何も合意できなかった。2005年の非核化合意では査察を明記したが、それでも破綻した。

第2に、非核化の期限も決められなかった。トランプ大統領は2年もすれば、大統領選に忙殺されてしまう。

「中国に頼らぬ」

前例のない米朝のトップ外交だけに今後、予期しない進展が生まれる余地もある。が、初戦は金正恩(キム・ジョンウン)委員長の勝利といわざるを得ない。

それでもトランプ氏が前のめりなのは11月の米中間選挙をにらみ、外交の手柄を焦るからだ。だが、別の思惑もある。米政権に通じた安全保障専門家はこう明かす。

「米朝のパイプを築き、いまほど中国に頼らず、北朝鮮問題に対応できるようにする。そうすれば、米国の国益を脅かすサイバーや通商、海洋問題で、もっと中国を締め上げられる」

トランプ氏がこんな思惑から米朝融和に走るとすれば、朝鮮半島をめぐり、米国と中ロの攻防はさらに熱を帯びる。

そもそも北朝鮮にとって、米朝の改善は宿願だ。米国から攻撃されるのを防ぐだけでなく、深まりすぎた中国への依存を減らし、衛星国になるのを避けたいからだ。

「私たちが手を組み、一緒に中国に対抗しようではないか」。元米政府高官によると、北朝鮮はオバマ前政権当時から、ひそかに米側にこう打診し続けていたという。

米朝が急接近すれば、中国は将来、米国の「準友好国」を隣に抱え込む羽目になりかねない。米国勢力の浸透を恐れる中国からすれば、決して許せないシナリオだ。

対立が招く悪夢

そうならないよう、習近平(シー・ジンピン)国家主席は北朝鮮に圧力をかける。「大事な戦略については互いに必ず、事前に協議する」。中国外交ブレーンによると、彼は5月上旬、金正恩氏の2度目の訪中を受け入れた際に、こんな言質を取りつけた。

中国は同じ思惑から、表で非核化を支持しながらも、裏ではその実現を遅らせようとするかもしれない。一括ではなく、段階的な非核化を主張するのはこの一環だ。

朝鮮半島で米国の影響力が強まるのを阻止したい点では、ロシアも同じだ。習氏はプーチン大統領と組み、米朝主導の非核化交渉へのけん制を強めるだろう。

中ロの意図に気づいたトランプ氏は5月上旬の電話で、米朝のディール(取引)を邪魔しないでもらいたい、と習氏に警告したという。

世界秩序をめぐって対立する米国と中ロが、北朝鮮問題で結束するのは、そもそも容易ではない。だが、大国がいがみあえば、対北包囲網はさらに緩んでしまう。北朝鮮は時間を稼ぎ、核武装を進めるだろう。

そのような展開は米中ロだけでなく、北朝鮮のミサイル射程内にある日本と韓国にとって、さらに深刻な悪夢だ。

大国攻防の果てに、残った勝者は北朝鮮だけだった……。こんな結末は、何としても避けなければならない。(本社コメンテーター 秋田浩之)

峯岸記事

「朝米首脳会談は最も敵対的だった両国の関係を画期的に転換させていくうえで巨大な出来事となる」。シンガポールでの金正恩(キム・ジョンウン)委員長とトランプ米大統領の会談から一夜明けた13日。北朝鮮メディアは誇らしげに伝えた。

11日、シンガポールの観光名所を訪れた金正恩委員長=朝鮮中央通信撮影・共同

伝統の戦術踏襲

最大の焦点だった非核化は、朝鮮半島の平和と安定、非核化を実現する過程で「段階別、同時行動原則」を順守するのが重要との認識で一致したと紹介した。非核化措置を切り売りしながら制裁緩和の見返りを手に入れて時間を稼ぐ。北朝鮮ペースにはまったとの見立てが浮かぶのは自然だ。だが、史上初めて米朝の最高権力者が直接会って合意を交わした意味は軽くない。

共同声明に盛り込まれた見慣れない表現には、米国の変化が投影されている。「新たな米朝関係の確立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進できる……」

つまり、米朝が相互に敵視するのをやめてこそ非核化を導きだせるという論理で、北朝鮮の主張に沿う。米国が堅持してきた「まず核放棄」とは逆の新しいアプローチだ。前政権の政策や手法をことごとく否定してきた異端の大統領だからこそ踏み切れた大胆な方針転換だ。

トランプ氏は米韓合同軍事演習の中止も表明した。戦争の危機さえ漂っていた半島の緊張は緩和する。北朝鮮は当面、対話路線を続け、非核化にも前向きな姿勢をとるだろうが、問題はその先だ。

トランプ氏は12日の会談で、タブレット端末を使い金正恩氏に約4分間の映像を見せた。ミサイルや戦闘機が映し出された場面と北朝鮮各地に明かりがともりビル建設が進む様子。「結果は2つだけ。過去に戻るのか、前に進むのか」。好対照の映像は金正恩氏へのメッセージだ。

北朝鮮が切望していた安全の保証というプレゼントを与えても、非核化の約束を破れば元に戻るとの無言の圧力を米国はかけている。軍事演習の中止も「対話が続いている間」との条件付きだ。

「経済集中」にカジ

金正恩氏は今年に入って核開発と経済建設の並進路線に区切りをつけ、「経済集中」にカジを切った。外国企業や投資を呼び込もうにも、非核化を進めなければ援助や資金は入ってこないジレンマを抱える。米朝の融和モードを保たなければ経済重視路線の足取りはおぼつかない。「完全に非核化するのか、しないのか」。金正恩氏は時間稼ぎをしても、いずれ決断をしなければならない局面に追いつめられる。

韓国は非核化プロセスの進展を待ち構えている。米朝をとりもった韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、開城工業団地の再稼働など南北経済協力への意欲を隠さない。韓国紙・毎日経済新聞が7日の経済フォーラムに参加した企業を対象にアンケートしたところ、約7割が制裁が解除されれば北朝鮮投資を検討すると答えた。ロッテグループや通信大手のKTなどの大手企業も制裁解除をにらみ、食品や物流、通信インフラといった分野で北朝鮮事業の可能性を探り始めた。

金正恩氏は4月の南北首脳会談で「いつでも日本と対話する用意がある」と話し、米朝首脳会談でもトランプ氏に日朝対話にオープンな姿勢を示していた。本格的な経済建設には日本からの資金協力も欠かせない。日朝に舞台が移る日も近付いている。(シンガポールで、編集委員 峯岸博)

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