12/11日経ビジネスオンライン 鈴置高史『閉塞感広がる韓国社会  「分水嶺の韓国」を木村幹教授と読む』について

日経記者の鈴置高史氏は日経の記者の中で春原剛氏と共に反日に染まっていない優れた記者です。鈴置氏の書いた『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』を読みましたが日米韓の問題を浮き彫りにした素晴らしい著作です。日経は経済専門紙のように思われますが、政治記者の汚染度はひどく、例の「富田メモ」なるものを全文掲載せずに憶測で報道したりしています。本日(12/17)の日経1面で秋田浩之記者が「安倍政権への注文」の中で「経済を入口に  ならば、まずは経済交流の「血液」を循環させ、日中関係の体温を上げつつ、首脳交流を回復していくのが次善の策だ。その間、衝突を防ぐため、危機管理の体制づくりも急ぎたい。従軍慰安婦問題でぶつかる日韓関係にも、同じことが言える。すぐに打開できないなら、とにかく経済から、両国の氷を溶かすしかない」と述べております。今の世界の国際力学が全く分かっていません。現在武力を用いての戦争は国際世論のバッシングに遭い、なかなかできません。アメリカ、ロシアがやっているのは局地戦です。それで各国は通商外交で「武器なき戦争」を戦っているのです。韓国が以前外交通商部を持っていたのはそれが分かっていたからです。日本を慰安婦問題や南京虐殺で貶め、不道徳な民族の烙印のイメージを世界に広めることで直接戦争しなくても彼らには強い日本製品へのダメージを与えることができます。そこが丸きり秋田氏というか大半の記者が分かっていません。相手国を経済的に富ませればそれが軍事力の拡大に繋がることが脳内お花畑の人達には見えないのです。日本は「中国・韓国と付き合わなくても経済的に困ることはない」ことを三橋貴明氏が論理的に証明しております。両国とも法治国家でなく暴力団国家です。個人で考えれば誰がヤクザに進んでみかじめ料を払いますか?自分の家の名誉を傷つける輩と付き合いたいと思いますか?今度の衆院選で自民党が圧倒的に支持を受けたのは他の政党では中韓にまともに対峙できないという国民の判断があったからです。中韓と経済面で付き合って日本にいいことは少しもありません。技術をパクられ、低価格・不安全な商品が日本に流入してきます。池尾慶大教授は「経済成長は資本の投入、労働力の投入、生産性の向上よりなる」と言っております。田村日経記者の言うように中国での工場を日本に回帰させ、池尾教授の言う3要素を伸ばすようにするのが正解と思います。

記事

韓国社会に急速に広がる閉塞感。木村幹・神戸大学大学院教授と読み解く(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。

名門大学も就職難

木村:2014年9月、高麗大学で1カ月間教えました。「韓国の早稲田」と言われる私立の名門校です。韓国の大学からは時々、講義を頼まれるのですが、以前と比べ、学生に元気がなくなったとの印象を強く持ちました。ひとことで言えば、閉塞感が漂っているのです。直接的な原因は卒業しても職に就けないことです。高麗大学は大規模の大学の中では一番就職率が高いのですが、それでも70%に達しません。非正規職を入れてです。3分の1弱の学生に職がないのです。 ただ、若者の就職難は5年ほど前――李明博(イ・ミョンバク)政権の時も同じでした。しかし、当時の学生はまだ、何かしらの希望を持っていた気がします。例えば、次のような感じです。入るのは難しいけれど、サムスン電子のような大財閥に入れば前途が大きく開ける。財閥企業は世界の強豪の一角として、成長し続けているのだから……。財閥に入らなくともベンチャー企業を起こせばよい。韓国は世界に誇る情報技術(IT)を持っているのだ……。彼らはこう考えていたのです。でも今や、財閥企業のフラッグシップたるサムスン電子でさえ、中国企業に押され、かつての勢いがなくなりました。 ベンチャーの方はもっと深刻かもしれません。一時期もてはやされたITベンチャーブームは、すっかり過去のものとなりました。その象徴が、ベンチャーの旗手的存在だった安哲秀(アン・チョルス)氏の権威失墜でしょう。政界入りして以降の彼は、人が変わったかのように輝きを失ってしまいました。

盛り上がらなかったアジア大会

–韓国の若者は元気がいい、というのが日本での通説でした。米国や中国の大学に、日本人とは比べものにならない大量の若者が学んでいます。

木村:「グローバル化」に関しても挫折感が広がっています。確かに韓国からは、大量の学生が米国や中国に留学します。でも当然ながら、すべての人が外国で成功できるわけではありません。海外で取得した学位を持っている人も増えましたから、希少価値も減りました。苦労して海外で勉強しても、韓国で簡単に就職できる状況ではなくなっています。だからこそ、不景気もあいまって韓国から留学する人の数さえ、この数年間、減少を続けています。韓国の若者は「脱出口をどこにも見いだせない」状況に陥っています。だから強い「閉塞感」を抱いているのです。

鈴置:若者だけでしょうか。

木村:「閉塞感」は韓国社会全体に広がっています。2014年9月から10月に仁川でアジア競技大会が開かれました。韓国でのアジア大会は1986年のソウル、2002年の釜山に続き3回目です。でも、今回は全く観客が集まりませんでした。韓国人からも「これだけ盛り上がらないのは予想外だった」との声があがりました。アジア大会はしょせん“ローカルな大会”だから、というのも原因でしょうが、それだけでは説明できません。今回の大会では南北が対決するサッカーや、韓国選手が大活躍するアーチェリーなど見どころがいくつかありました。注目すべきは、そのような会場にも観客がさほど集まらなかったことです。

「突破口」がない

鈴置:それはニュースですね。韓国選手が金メダルを取りそうな競技を韓国人が見に行かないとは。

木村:簡単に言えば、今の韓国人はスポーツイベントを通じてさえ、夢を見ることが難しくなっているのだと思います。 2002年のワールドカップでは「テーハンミング(大韓民国)!」と叫ぶ人々がソウルの中心街を埋め尽くしました。当時の韓国人は躍進する韓国チームに、自らの将来を重ねて興奮したのです。それに比べ、今の韓国人は明らかに白けています。

鈴置:ワールドカップは1997年の通貨危機の少し後でした。韓国社会には「国も個人も大きな犠牲を払いながら、力を合わせ危機から脱出した。世界よ、見よ」――との高揚感がありました。

木村:あの頃と比べ、今は韓国という国家の信用も高まったし、経済規模も飛躍的に拡大しました。でも、皮肉なことに国の安定感が増すと同時に、閉塞感も高まっているのです。

–なぜでしょうか。

木村:韓国は大きく、強くなりました。しかし「突破口が見いだせない」という、これまで経験しなかった悩みに直面しているのです。

タプタプハダ

鈴置:通貨危機の脱出法は自明でした。金融部門の不良債権を処理し、ゾンビ企業を潰し、残った企業も従業員を整理解雇する――。大きな苦痛を伴いましたが、進むべき道は分かっていました。実行力の有無だけが問題でした。韓国人の自信の源泉である、1960年代以降の急速な経済成長は、もっと簡単でした。すぐ隣に日本というお手本があって、その通りにすればいいのですから。でも、今抱えるのは「解決策が見当たらない問題」ばかりです。朝鮮日報の楊相勲(ヤン・サンフン)論説主幹のコラム「タプタプハダ」(韓国語、10月30日)が、それを鮮明に描いています(注1)。

(注1)この記事は朝鮮日報の有料会員だけが読める。

「タプタプハダ」という韓国語の形容詞は、日本語の1つの言葉には置き代えにくいのですが「心配事があるのだが、解決する方法もないのでますます憂鬱になる」といったニュアンスです。コラムの骨子は以下です。

中国製スマートフォンに負ける

•韓国が世界に誇ったスマートフォンも、中国の無名の企業が恐ろしく安い価格で売るようになった。産業研究院は4年以内に半導体と自動車を除いた全産業が中国に追い越されると予想している。

  • 1990年前後に生まれた子供は、小学校に入る頃、通貨危機に出会った。高校を卒業する頃、リーマンショックを経験した。受験地獄を乗り越えて入った大学を卒業しても、いい職に就くのは難しい。これが世界最低の出生率と、世界最悪の高齢化を生み出している。

•過去10年間で廃業した自営業は800万社に肉薄する。韓国銀行総裁は「家計負債が1000兆ウォン(約108兆円)を超え、消費を委縮させる段階に至った」と診断する。

•ある経営者は「我が国はピークを越えたようだ」と言う。国内外ともに低成長の今、官僚も「打てる政策手段はない」と打ち明ける。

•一時は世界で11位の規模だった韓国経済が15位に後退した。ブラジル、ロシア、インドに抜かれたのだ。さらに落ち込むのは時間の問題だ。

–問題は中国からの追い上げと少子高齢化で未来がない、ということですね。

高齢化への備えがない韓国

鈴置:ええ。いずれの問題も「未知との遭遇」です。韓国は日本の産業構造と技術を模倣することで成長を実現しました。常に追う側だったのですが、初めて追われる側に回ったのです。今度はお手本にすべき青写真がありません。ことに追撃者が巨大な中国ですから、恐怖感もひとしおでしょう。後者の少子高齢化も日本が“先輩”なのですが、その日本にも解決策がない。ことに韓国は公的年金や介護保険など、高齢化への備えが不十分です。このままでは国全体が、日本とは比べものにならない悲惨な状況に直面することは目に見えています。 楊相勲論説主幹が自営業の廃業数に触れたのは理由があります。韓国の民間企業の社員は、多くが50歳代半ばで退職を余儀なくされます。しかし、年金だけでは生活できない人がほとんど。そこで慣れない自営業に手を出し、失敗するケースが相次いでいます。大量の廃業は少子高齢化問題の、韓国独特の症状なのです。膨れ上がる家計負債を指摘したのは、低成長で所得が増えないため借金する人が増え、社会問題になっているためです。低成長も少子高齢化が最大の原因です。このところ、韓国紙に「タプタプハダ」を訴えるコラムが増えていました。ただ、韓国人は喜怒哀楽が極端です。新聞も一喜一憂します。昨日「韓国経済は絶好調」と書いていた新聞が、今日は「お先真っ暗」と嘆くのです。韓国紙を額面通り受け取ると間違えます。しかし、楊相勲論説主幹がそう書いたので「閉塞感は一時的な感情論ではなく、根深い問題になったのだな」と確信しました。楊相勲論説主幹は韓国には珍しく、情緒に流されないで記事を書く記者だからです。

財閥の総帥は悪者

木村:今回のソウル滞在中に驚いたことがあります。それはサムスン電子の李健熙(イ・ゴンヒ)会長の入院を、多くの韓国メディアが大事件として報じていたことです。会長の健康回復を、普通の韓国人が心から祈っているように見えました。

鈴置:興味深い観察ですね。韓国で財閥のオーナーは“悪者”。李健熙会長の父親で、サムスングループの創業者の李秉喆(イ・ビョンチョル)氏が1987年に亡くなりました。この時、ほとんどの韓国紙は訃報を1面トップで扱いませんでした。 その少し後に松下幸之助氏が亡くなったのですが、日本の各紙は当然、1面トップ。対照的な報道ぶりでした。当時ソウルに住んでいた私は、日本をよく知る、韓国有力紙の編集局長に「日本における幸之助の存在よりも、韓国における李秉喆の存在の方がはるかに大きい。だのになぜ、1面トップにしないのか」と聞いたものです。答えは「確かにそうだが、韓国では財閥は政権と癒着して儲けた悪い奴、というイメージが強い。大きく扱えば、読者から必ず反発を食う」でした。

木村:鈴置さんの指摘通り、韓国では財閥の総帥は「悪い奴」として扱われてきました。でも、今では多くの韓国人が「李健熙会長後のサムスン」に懸念を抱き、このカリスマ経営者の回復を心から祈っているのです。「この先どうなるか分からないのに、これでサムスンまでこけたら大変だ」という韓国人の不安が現れているように思います。

「人口オーナス期」に突入

–少子高齢化はもっと前から予測できたのではありませんか?

鈴置:その通りです。グラフは『老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき』を書いた日本総研の大泉啓一郎・上席主任研究員が作ったものです。グラフ1を見ると、日本と同様に韓国で急速な高齢化が進んでいることが分かります。

グラフ1:日中韓の高齢化率の比較

comparison of elderly rate

グラフ2からは、人口構成が経済成長にマイナスの影響を与える「人口オーナス」の時期に韓国も突入し始めたことがよく分かります。働かない年代の人口の数を働く年代のそれで割った「従属人口比率」が底を打ったのです。

グラフ2:日中韓の従属人口比率の推移(中位推計)

subordinate population rate

大泉さんは「韓国の専門家が真剣な顔で日本の状況を聞いてくるようになった」と語っています(「日本より重い『日本病』に罹る韓国」参照)。2012年には韓国の一部メディアも、日本の例をあげて警告を発しました(「『日本病にかかった』とついに認めた韓国」参照)。卸売物価上昇率も前年同月比で、2012年9月から2014年5月まで20カ月連続でマイナスを記録するなど、明らかに少子高齢化の症状が出ていました。ただ、その警告は世論に火を付けませんでした。「日本を追い越した」と韓国メディアは大声で謳いあげていたので「あの落ちぶれた日本と同じ道をたどる」ことを意味する予測は嫌われたのです。

「下り坂の韓国」に気づく

木村:韓国人は言わば「坂の上の雲」を目指し、ひたすら走ってきました。それは日本の背中を追うことでもあったのですが、ある日突然、前を走る日本の姿がかき消えた。 おかしいな、と思いながら走り続けていると突然、下り坂を降りていく――人口減少という名の坂を転げ落ちている――日本が視野に入った。「ああ、自分も今、峠を越えたのだ、後は下るしかないのだ」と、ようやく気がついた感じでしょうか。

鈴置:保守論壇の大御所、朝鮮日報の金大中(キム・デジュン)顧問も2014年11月11日に「韓国の行き詰まり」を書いたのですが、そのコラムの見出しが、まさに「我々は下り坂を行く」(韓国語)でした(注2)。(注2)この記事は朝鮮日報の有料会員だけが読める。なお、韓国の高齢化のスピードはこれから加速するので、“下り坂”では日本を追い越してしまうかもしれない、との恐怖感が韓国の専門家の間には生まれています。

セウォル号のトラウマ

–ではなぜ、少子高齢化が今になって、ようやく語られ始めたのでしょうか。

木村:現在の韓国の不安感、閉塞感の「公論化」のきっかけは、2014年4月の旅客船「セウォル号」沈没事件だと思います。

鈴置:悲惨な事故でした。テレビが中継する中、300人以上を乗せた船がなすすべもなく沈んでいく。多くは高校生で、船長以下多くの船員がわれ先に逃げ出す中、「船に留まれば安全だ」との指示を無心に信じて死んでいったのです。

木村:「若者が死んでいくというのに何もしてやれない」という無力感が国全体を覆いました。韓国の人たちが自らの国を見つめ直す、大きな契機になったと思います。

鈴置:韓国のメディアは「発展途上国型の事故だった」と声をそろえました。転覆しやすい構造に改造しても、簡単に荷崩れするやり方で貨物を積んでも、国の検査を通っていた。救命ボートも使える状態にはなかったのに、これも検査をパス。 そして船長以下の船員は乗客に向かって「船内にいれば大丈夫」と言い残して先に逃げたのです。救命ボートを使えないことが発覚するのを恐れたためだ、と指摘した韓国紙もあります。これら一連の無責任な行動に対し、韓国人は「我が国は一流の先進国になったはずではなかったのか」と怒り始めたのです。

より攻撃的になる韓国人

木村:事故の処理でも韓国人のトラウマは広がりました。国会で真相究明委員会を立ち上げようとしたのですが、一部の強硬な遺族の要求もあって、与野党は半年間近くも委員会を構成できなかった。その間、国会は完全にマヒし、経済活性化など緊急に処理せねばならない重要法案はたなざらしになりました。韓国人はここでも「我が国は本当に大丈夫なのか」と考え込みました。セウォル号による極めて深刻な「社会的ショック」を契機に、韓国人は少子高齢化や中国の追撃といった、これまであまり目を向けてこなかった問題に関して議論を始めたのです。

鈴置:木村先生と同じ時期に訪韓し、韓国の記者から「閉塞感の蔓延した韓国」を聞いた日本の専門家がいます。韓国記者は「この重苦しさを振り払うために、韓国人は攻撃的になるだろう」と予測したそうです。

閉塞感のはけ口は?

–今以上にですか? さらに反日をやるのですか?

鈴置:反日も続けるでしょうが、それに限らないと思います。政権としては、閉塞感へのはけ口が自分に向かないようにできるのなら何でもいいのです。歴代政権の定番の手口ですが、前の大統領を叩こうと考えるかもしれません。あるいは国内の左翼集団の“陰謀”を暴き、北朝鮮に対する国民の怒りに火を付ける手もあります。

木村:「反日」は今や、国内的に人気のあるテーマではない――正確には「あまりにしばしば用いられたために、飽きられつつあるイシュー」になってしまいました。朴槿恵(パク・クンヘ)政権が使うとしたら「北朝鮮カード」ではないかと思います。このところ韓国政府の対北政策が強硬姿勢に振れており、南北関係は悪化しつつあります。国民の「憂さ晴らし」を実行するにはちょうどいい環境が生まれつつあります。

 

決断できない大統領

–対北強硬策をさらに強める可能性があるということですね。

木村:ええ。ただ、こうした機会主義的ではあるものの、政権にとっては合理的でもある判断を、今の韓国政府が実行に移せるかは疑問が残ります。北朝鮮カードを使うなら「セウォル号事件」で政権批判が高まっていた時にこそ使うべきだったのに、そうはしなかった――あるいはできなかったのです。少子高齢化や中国の追い上げなどの経済問題も同様です。2013年2月に発足して以来、大統領選挙で公約したことを含めて、この政権は大きな成果をほとんどあげていません。 もちろんこれらは難問です。だから解決するには利害対立を調整する強いリーダーシップが必要なのです。ただ、朴槿恵大統領がそれを発揮しているとは見られていません。この「何も決断できない」朴槿恵大統領への不安こそが今、韓国社会で膨れ上がる閉塞感の温床になっているのだと思います。 はたして、分水嶺にある韓国をいい方向に引っ張っていく指導力が朴槿恵大統領にあるのか――。韓国の人々は今、青瓦台(大統領府)を不安の眼差しでじっと見つめているのです。

(次回に続く)