『トランプ大統領の「クリスマスプレゼント」 約30年ぶりの税制改革は政権浮揚につながるか?』(12/22日経ビジネスオンライン 篠原匡)、『話題づくりに腐心するプーチン再選戦略 実質4期目、ビジョン曖昧で有権者はマンネリ気味』(12/22日経ビジネスオンライン 池田元博)について

12/22大前研一氏メルマガで「▼米税制改正の影響は極めて大。2.5兆ドルが米国に戻る可能性

与党共和党指導部は13日、上下両院の一本化へ向け協議していた連邦法人税率について、21%に引き下げる案で大筋合意しました。両院とも20%に引き下げる案でそれぞれ可決していましたが、実施時期を2018年で統一する一方、税収減を懸念する議員を配慮し、減税幅を1%縮小したもので、週明け早々にも上下両院で採決する見通しです。

おそらく今年中にはトランプ大統領がサインをして成立する予定です。共和党としてはこれでトランプ大統領の役割は終わりと考え、後は決別してもいいという気持ちだと思いますが、これは極めて重要な案件です。

連邦法人税率を21%に引き下げるということですが、実際には各州税が加わるため、20%台後半の税率になります。また個人所得税については、最高税率が39.6%→37%に引き下げられます。こちらは、あまり効果を期待できないでしょう。

一方、大きな影響を期待できるのが、海外子会社からの配当課税の廃止です。これにより、企業は海外留保資金を米国に戻しやすくなります。これは非常に影響力が大きく、うまくすれば、海外に置いている2.5兆ドル規模の資金が米国に戻ってくる可能性があり、米国は「お金でジャブジャブ」状態と言えるレベルになるでしょう。

この政策が実施されると、米国はクリントン政権の後期のように、盆と正月が一緒に来たような状態になるかもしれません。米国経済は株価も上がり、さらに海外からの資金も流入してくる可能性があり、

日本経済への影響も極めて大きいものになると私は見ています。

トランプ大統領に弾劾を乗り切る能力はない

ザ・エコノミストは13日、「ロシアゲート、厄介なシナリオ」と題する記事を掲載しました。大統領選当時のトランプ陣営幹部らが出版した回顧録からは、陣営の混乱状況とことごとくルールを破る厚かましさが見て取れると指摘。現在捜査を進めているモラー特別検察官がコミー氏解任による司法妨害の罪をあげたとしても、おそらくトランプ氏はニクソン氏のようには辞任せず、議会もトランプ氏を追い落とすには分断されすぎているとしています。

私は少し異なる意見を持っています。共和党は完全に分裂しており、トランプ大統領を支持するのはわずか10%程度です。大統領の弾劾の可能性も大いにあると思います。そして、もしトランプ大統領が弾劾される立場になったとき、彼の言語能力ではその状況に耐えられないと見ています。

トランプ大統領の発言を見ていると、文章は短く、バラバラでしかモノが言えない人だと感じます。弾劾される立場になって厳しい問答に1時間も2時間も耐えられるとは思いません。クリントン元大統領、ニクソン元大統領とも違います。その意味でも、トランプ大統領が辞任する可能性は大いにあると思います。ただ、トランプ大統領が辞任したとしてもトランプファミリーにとっては何も痛いところはないでしょう。大統領を何年務め上げたかは関係なく、元大統領という経験と肩書きがあれば十分でしょう。

プーチン大統領とメドベージェフの役割と関係性

ロシアのヤマル半島に設置したプラントで8日、液化天然ガス(LNG)の生産が始まり初出荷に合わせた記念式典が開かれました。これは、ロシア天然ガス大手・ノバテクを中心に、総額約3兆円を投じて進められるプロジェクトでこれによりロシアは従来のパイプラインによる輸出だけでなく、北極海航路を利用したアジアや欧州向けのLNG輸出を拡大したい考えとのことです。

このヤマル半島というのは、現地ネネツ語で「ヤ(世界)マル(終わり)=最果て」の意味を持つ、非常に気候条件が厳しい地域です。1年のうち約8ヶ月は冬で、氷点下60度まで気温が下がります。一方、夏にあると30度まで気温が上がり永久凍土が溶け、蚊や虻が大量発生するという地域です。天然ガスの埋蔵量は世界有数の地域として有名です。

ロシアはこのヤマル半島に港をつくる計画を立てています。一般的に天然ガスはパイプライン経由で輸送されますが、今回の計画は、天然ガスを液化してLNG船で輸送するというものです。液化した天然ガスをのせたLNG船で、北極海を通じて日本や中国に運ぶという壮大な計画です。

この日、プーチン大統領は3箇所の異なる場所に顔を出して、挨拶・演説をしていました。ヤマル半島という寒い場所にも赴いて、達者な人だと感じました。

そのプーチン大統領は、2018年3月に予定される次期大統領選挙への出馬を表明しました。自動車企業の従業員らとの会合で、参加者からの立候補の要請に応える形で明らかにしたもので、再選され任期満了の24年まで務めれば約四半世紀にわたってトップに君臨することになります。

プーチン大統領は2000年に大統領に就任し、一度首相を経て、また大統領に就任しました。その間に大統領の任期を6年に延ばし、6年×2期=12年できる体制を確立しています。

プーチン大統領に対するロシア国内の支持率は、約80%です。ロシア国民の政府に対する不満は高いのですが、その不満はメドベージェフ首相に向けられていて、プーチン大統領には影響していません。

政府の代表はメドベージェフ首相であり、政府に対する不満は首相に向けられるようになっているのです。この構図は中国も全く同じです。習近平は総書記であり、中国政府に対する不満は国務院総理である李克強に向けられます。私は以前、「李克強がメドベージェフ化した」と説明したことがありますが、まさにこの構図のことを指しています。

それにしても、メドベージェフ首相をおとしめて、プーチン大統領は安全な立場で信任を得ているという、このイカサマのロジックにロシア国民は気づいていないのでしょうか?おそらくロシア国民は、みんな気づいていると私は思います。

それでも、今のロシアから強力なリーダーシップを発揮するプーチン大統領がいなくなってしまうと、

米国や欧州からも馬鹿にされてしまうので、どうしようもないと感じているのだと思います。

すなわち、プーチン大統領は「必要悪」であり、強いロシアを作るためには必要な人物だと認められているということです。

日本にとってみれば、プーチン大統領の再任はチャンスです。プーチン大統領は親日派です。一方のメドベージェフ首相は日本を好きではありません。プーチン大統領が再任されたとして、任期は6年です。日本としては、その6年間でロシアとの問題を解決しないと、さらに厄介な状況になってしまうでしょう。」(以上)

プーチンと習の大きな違いは、トップとして国民の選挙で選ばれたかどうかです。共産党の息のかかった人間しか立候補できない人民民主は真の民主主義から相当遠く、非民主と言っても言い過ぎではないでしょう。世界経済第二位と言われる国が「独裁国家」では。これを認め、貿易してきた自由主義国のセンスがないとしか言いようがありません。世界制覇を目論む国を支援して来たのですから。

以前本ブログで紹介しました高濱賛氏と大前氏のトランプ大統領の弾劾に対するスタンスの違いがあります。どちらの予想が正しいか期待して見守りたいです。

http://dwellerinkashiwa.net/?p=7855

大前氏・篠原氏共に「海外子会社からの配当課税の廃止」を高く評価しています。カネが世界から米国に還流して景気が上がるのか、過熱してFRBが利上げをするのか、2018年の中間選挙にどう影響を与えるかです。日本は2009年度から「海外子会社配当益金不算入制度」を創設しましたが、景気が良くなっている実感がないのは、企業が投資や賃上げをせずに、内部留保として貯め込んでいるせいです。米国は貯めこむことはしないでしょう。

ロシア経済を上向かせるためには、欧米の経済制裁を解除して貰わなければなりません。まず米国が北朝鮮問題を片づけ、中国と対峙するように仕向けなければ。本来経済制裁すべきは中国であってロシアではない、「クリミアはウクライナ人のフルシチョフが勝手にウクライナに渡しただけ、歴史的に見ればロシアのもの。これに対し中国の主張する東シナ海・南シナ海の領有については根拠がない」と訴えるべきです。平昌オリンピックについて12/23の本ブログで「プーチンがIOC決定を簡単に飲んだのは、戦争で平昌オリンピックが潰れるのを知っているからだという説もあります」と紹介しました。それは次のブログの記事からです。

http://www.mag2.com/p/money/352657

12/25・26増田俊男氏メルマガ<戦後初めて花開く日本の外交><イスラエル・パレスチナ和平方式>に今度の河野外務大臣の中東訪問の狙いが書かれています。書かれていることが本当かどうか分かりませんが、もし真実だとすれば成功して、中東問題が平和的解決に結び付けられれば良いと願っています。

http://www.chokugen.com/opinion/backnumber/back_h29.html

http://www.chokugen.com/opinion/backnumber/h29/jiji171226_1219.html

篠原記事

米下院は12月20日、約30年ぶりの大規模な税制改革法案を可決した。税制改革法案の可決を喜ぶ米下院のポール・ライアン議長(中央右)と握手をするトランプ大統領 (写真:AP/アフロ)

米税制改革法案が成立へ、減税規模は約170兆円

トランプ政権と共和党にとって、さしずめ逆転ホームランといったところだろうか。

12月20日、米下院は税制改革法案を採決、賛成多数で可決した。米上院も同日未明に同法案を可決しており、あとはトランプ大統領の署名を待つばかり。1986年のレーガン政権以来、およそ30年ぶりの大規模な税制改革の実現は確実な情勢だ。

全体の減税規模は10年で1兆5000億ドル(約170兆円)と2001年の「ブッシュ減税」を上回る。35%だった連邦法人税は21%と日米欧の主要先進国で最低水準になる見込みだ。2026年までの時限措置だが、個人所得税も税率の引き下げが実現する。

海外子会社からの配当は非課税に

また、米国は全世界課税方式を採用しており、海外子会社の所得を配当として米国に還流させる際に課税対象になっていたが、全世界所得課税方式を廃止、国外の源泉所得に課税しないテリトリアル課税に移行することも決めた。

「米国へのクリスマスプレゼント」。税制関連法案の年内成立に強い意欲を示していたトランプ大統領。大統領選で公約に掲げた法人税率15%はさすがに無理だったが、大幅な法人税引き下げという公約は果たした。

今回の税制改革の実現はトランプ大統領にとって極めて大きな政治的勝利だ。

最初に着手したオバマケア(米医療保険制度改革法)の撤廃は身内の共和党の分裂によって頓挫した。メキシコ国境に壁を作るという公約も、壁の試作品こそ募集したが、効果に疑問符がつく上に財政悪化につながる支出に共和党は否定的だ。もう一つの公約である1兆ドルのインフラ投資も実現のメドは全く立っていない。

追い詰められていた共和党

トランプ氏は大統領就任以来、オバマ政権時代に導入された規制の撤廃や緩和を進めている。だが、本人の発言とは裏腹に、立法面における成果はないに等しい状況だった。このまま税制改革まで失敗すれば、トランプ政権の実行力を疑問視する声が相次いだだろう。

尻に火がついていたのは共和党も同様だ。

共和党は上下両院で過半数を維持しており、議会をコントロールできる立場にある。大統領も生粋の保守政治家ではないが、共和党の候補として大統領選を勝利したトランプ氏だ。しかも、税制改革は共和党を支える大口献金家や企業が強く求める看板政策。その中で税制改正まで頓挫すれば共和党指導部のメンツは丸つぶれである。

もっとも、「税」は利害関係が幅広く、同じ政党の中でも各論では賛否が入り交じる。共和党はフリーダム議連のような財政タカ派から中道右派の穏健派までウイングが広く、2018年11月に中間選挙を控えているため時間的な余裕はほとんどない。10月末のハロウィンの頃は年内の税制改革は無理筋という見方が主流だった。

最大の難関、上院で起こった様々なドラマ

その状況下、共和党指導部は猛スピードで立法プロセスを進めた。上院と下院の意見をまとめる時間がないため、それぞれが別の法案を可決、あとで一本化するというプロセスを取った。税率も下院案では20%だったが、財政規律を重視する上院に配慮して一本化の過程で21%に引き上げている。法案の詳細をぎりぎりまで明らかにしなかったのも中身への批判を封じ込めるためだ。

それでも、共和党の議席が52(定数:100)しかない上院では様々なドラマが起きた。

上院版の税制改革法案を採決する際には財政赤字の懸念から共和党の重鎮、ボブ・コーカー上院議員が反対票を投じた。同じ共和党のスーザン・コリンズ上院議員は不動産税の控除、ロン・ジョンソン上院議員も個人事業主やパートナーシップなどのパススルー企業への控除が少ないと批判している。

法案一本化の過程でも、土壇場でマルコ・ルビオ上院議員が子女控除の還付を巡り不満を表明、共和党に緊張が走った。12月19日に中東訪問を予定していたマイク・ペンス副大統領が予定を延期したのは上院の採決で賛否同数だった場合に最後の1票を投じるため。最終的に控除額の引き上げなどで反対議員を懐柔したが、かなりきわどい情勢だったのは間違いない。

中間層の減税幅は小さく、企業や富裕層の恩恵が大きい

「歴代政権で誰もできなかったことを成し遂げた」。ポール・ライアン下院議長など共和党指導部とともに演説に臨んだトランプ大統領は税制改革の勝利を高らかに宣言した。共和党現職にとっても支持者に向けた実績ができて一安心だろう。ただ、今回の税制改革が共和党に中間選挙の勝利を呼び込むかどうかは不透明だ。

「相対的に中間層の減税幅が小さい」。米ユーラシア・グループのジェフリー・ライト氏がこう指摘するように、今回の税制改革は企業や富裕層の恩恵が大きい。

個人所得税の引き下げや子女控除で中間層も恩恵を受けるが、法人税減税を恒久化するために個人所得税の引き下げは2026年までという期限が設けられた。2026年以降は延長すると共和党は述べているが、延長されるかどうかはその時になってみないとわからない。減税規模も所得が増えるにつれて上がっていく。中間層が企業の犠牲になった格好だ。

ウォールストリート・ジャーナルとNBCが実施した世論調査によれば、回答者の41%が税制改革について否定的な見方を示した。それも企業や富裕層のための税制改革と捉えているからだだろう。「税制改革は中間選挙の争点になる」とライト氏は言う。

また、減税によってトランプ政権が主張する3%以上の経済成長が実現するかどうかも定かではない。

減税には小さな政府を実現するという面も

法人税が減れば設備投資や雇用の増加が理論上は見込まれる。だが、米国は完全雇用に近い状況にあり、人手不足が深刻だ。減税による需要喚起も期待されるが、経済状況が過熱することでFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペースが加速、減税の効果を打ち消すかもしれない。

「保守派が望んでいるのは連邦政府の縮小」。米シンクタンク、ヘリテージ財団のジェイムズ・カラファノ副所長が語るように、減税には連邦政府の税収を減らすことで小さな政府を実現するという面もある。共和党の保守派にとっては大勝利だが、それが多くを占める無党派に響いたかどうかは中間選挙が近づくに連れて明らかになるだろう。試合はまだ終わっていない。

池田記事

プーチン大統領が来年3月の大統領選への出馬を表明した。国内の支持率は8割を超え、有力な対抗馬もいない。再選は確実だが、手をこまぬいていれば国民の選挙への関心が低下しかねず、政権も話題づくりに腐心しているようだ。

12月6日、ロシアのプーチン大統領はニジニーノブゴロドのゴーリキー自動車工場の創業85年式典で大統領選出馬を表明した(写真:代表撮影/AP/アフロ)

時は12月6日、場所は西部ニジニーノブゴロドにある大手自動車会社「ゴーリキー自動車工場(GAZ)」。プーチン大統領は同社の創立85周年の祝賀式典に出席し祝辞を述べた。すると間髪を入れず、式典の司会者から質問が出た。

司会者「あなたは本日、ボランティアのフォーラムで大統領選に出馬するかを聞かれました。あなたは国民が支持してくれるなら出馬すると答えました。さて今日、この会場では例外なく、全員があなたを支持しています。ウラジミル・ウラジミロビッチ、我々にプレゼントを下さい。ここで自らの決断を表明してください。なぜなら、我々はあなたの支持者だからです」

プーチン大統領「ありがとう、本当にありがとう。(出馬)表明の場として、ここより良い場所も良い手段もないでしょう。支持をありがとう。私は大統領候補者として出馬します。本当にありがとう」――。

司会者が言及した「ボランティアのフォーラム」はプーチン大統領が同日、GAZ訪問前にモスクワで参加した催しだ。若者を中心にしたボランティア活動を表彰するこの式典で、大統領は2018年春の大統領選に出馬するのかという質問を受けた。大統領はいつもなら「何も決まっていない」と受け流すのに、この日はまず、「(出馬表明は)誰にとっても非常に責任の重い決断となる」と強調した。

大統領は続けて、人々の生活を向上させ、より強大で防御され、将来に向けた明確な指針のある国にしたいという欲求が立候補の動機となると指摘。こうした目標を達成できるかどうかはひとえに、人々が自分を信頼し支持してくれるかどうかにかかっていると強調した。その上で「もし、私がそのような(出馬の)決断をしたら、皆さんはその決断を支持してくれるでしょうか」と参加者に問う形で、暗に国民の支持を促していた。

会場からはすかさず「支持します」との声があがったものの、大統領はこの場では「近いうちに私の決断を公表します」と答えただけだった。そして、その日のうちにGAZの創立85周年式典に参加し、出馬表明となったわけだ。

労働者たちの熱烈な支持に背中を押され、長らく逡巡(しゅんじゅん)していた大統領選への出馬をついに決断した――。そんな演出だったのだろう。偶然を装ったようだが、2つの式典を巧みに使って効果を盛り上げる。大統領府が事前に練りに練ったシナリオに基づくパフォーマンスだったことは疑いない。

クリミアを併合した“記念日”に大統領選を実施

プーチン大統領が出馬表明した当日は、それまで別の衝撃的なニュースがロシアを駆け巡っていた。前日夜にスイスのローザンヌで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で、組織的なドーピング関与が疑われるロシア選手団の来年2月の平昌冬季五輪参加を認めない決定が下されたことだ。

潔白が証明された選手は「ロシアから来た五輪選手」として個人参加が認められるものの、ロシア国旗や国歌は禁止されるという厳しい内容に、落胆したロシア市民は少なくなかった。

それだけに、平昌五輪へのロシア選手団の出場禁止というニュースから国民の目をそらすべく、プーチン大統領が慌てて大統領選への出馬を表明したとの説もある。ただ、今回の出馬表明は最大限の演出効果を狙ってかなり入念に準備されたとみられるだけに、IOCの決定に左右されたという見方は必ずしも多数派ではない。

いずれにせよ、本命のプーチン大統領が出馬表明したことで、大統領選がいよいよ本格化する。ロシア上院は15日、大統領選の投票日を来年3月18日とすることを全会一致で承認した。3月18日はロシアが2014年、ウクライナ領のクリミア半島を自国に併合した記念日でもある。

大統領選にはロシア自由民主党のウラジミル・ジリノフスキー党首、ロシア共産党のゲンナジー・ジュガノフ党首といった〝常連組〟のほか、プーチン大統領の恩師の娘で女性テレビ司会者として知られるクセーニア・サプチャク氏らが立候補する見通しだ。野党指導者で反政権派ブロガーのアレクセイ・ナワリヌイ氏も出馬に意欲を示しているが、当局側は同氏が横領罪で有罪判決を受けたことを理由に立候補を認めない方針とされる。

新顔のサプチャク氏は反政権派とされているものの、大統領府が選挙戦への国民の関心を高めるため、プーチン大統領の「スパーリングパートナー」として出馬を要請したとの説も根強い。有力な対抗馬が不在のまま、選挙戦はプーチン大統領の圧勝で終わるとの予測が大勢を占めている。

政権側にとって再選戦略の課題はむしろ、プーチン大統領が出馬表明時に演出したシナリオ通りに、「大多数の国民の支持」で再選を果たしたと内外に誇示できるかどうかにあるようだ。大統領は大統領府の選挙担当に投票率、得票率いずれも70%台の実現を求めているとされる。国民の支持率がいくら80%を超えているとはいえ、その達成は簡単ではない。

実質的に4期目となるプーチン大統領の再選には、どうしてもマンネリのイメージがつきまとう。圧勝が事前に伝えられるだけに、このままでは投票所に足を運ばない有権者が多数出てくることも予想される。

現にロシア民間世論調査会社のレバダ・センターが12月初めに実施した調査によると、来年3月の大統領選で「確実に投票する」「たぶん投票する」との回答は合わせて58%だった。これに対し、「投票しない」「たぶん投票しない」と「わからない」の合計も39%に上っている。

「有能な国家指導者」のイメージづくりに腐心

政権側としては少なくとも来年3月の投票日までは、プーチン大統領のイメージを刷新し、有能な国家指導者として国民に再評価してもらい、投票所に足を運んでもらえるように、あの手この手で新鮮な話題を提供していく必要があるわけだ。実際、話題づくりに腐心している様子もうかがえる。

その一例がプーチン大統領のシリア電撃訪問だろう。出馬表明から5日後の12月11日。大統領は突然、ロシア軍がシリア空爆作戦の拠点としている同国北西部のフメイミム空軍基地を訪れた。駐留するロシア兵らを前に演説した大統領は「ここシリアでの武装暴力集団との戦いという任務は成功裏に果たされた」と宣言。駐留するロシア軍部隊の大部分を撤退させると表明した。

ロシアは過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討を理由に、2015年9月末からシリアでの空爆作戦を展開していた。「シリア全土がISから解放された」(ロシア軍のゲラシモフ参謀総長)直後にシリアを電撃訪問して軍事作戦の成功を高らかに唱えるとともに、ロシア兵の犠牲者の増大を危惧する国内世論にも配慮して軍部隊を早々に撤収させる意向を示したわけだ。

プーチン大統領はこの日、シリアでアサド大統領と会談した後、さらにエジプト、トルコを相次ぎ歴訪してシシ大統領、エルドアン大統領との首脳会談をこなすという離れ業もみせた。米国と中東の関係がぎくしゃくする中、中東和平の仲介役としての存在感を誇示するとともに、65歳になっても一向に体力の衰えをみせず、精力的に世界を飛び回る姿もアピールした。

もうひとつ特徴的なのは、米欧との対立を控え、国際社会で孤立しているとの印象を極力抑えようとしている点だろう。

IOCがドーピング問題でロシア選手団の平昌五輪参加を認めない決定を下した際、プーチン大統領は五輪ボイコットを表明するのではないかとの臆測が出ていた。かねてロシア大統領選を狙った米国の陰謀説を唱え、ロシア国旗や国歌を認めない形での参加は「ロシアへの侮辱」としていたからだ。しかし、大統領は意外にも「我々にも罪がある」としてIOCの決定に従う意向を示し、政権として五輪への個人参加も容認する考えを示した。

対米関係もしかり。ロシア大統領府は今月17日、プーチン大統領が同日にトランプ大統領と電話協議したと発表したが、その内容は極めて意外感があった。米中央情報局(CIA)の情報提供により、ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで爆弾テロを計画していたテロリストを拘束したとして、プーチン大統領が謝意を伝えたというのだ。米大統領選への介入疑惑などで大きく冷え込んだようにみえる米ロ関係だが、水面下では協力も進んでいると国民向けに訴えたかったのかもしれない。

話題を次々と提供するプーチン政権だが、次の任期で何をめざすのかというビジョンはあいまいなままだ。今月14日の記者会見では、大統領は「選挙公約は話したくない」とし、インフラの発展、健康維持、教育、ハイテク技術の推進、労働生産性の向上といった漠とした目標を掲げただけだ。

原油価格急騰で年平均7%もの高い経済成長を達成した1期目、2期目と経済環境は一変し、国民の生活向上を確約するような公約はもとより難しい。いくらプーチン大統領でも、国民の期待をつなぎとめる明るい将来ビジョンを描くのは容易ではなさそうだ。

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