『「南シナ海」が加速させる「韓国の離脱」 THAADを拒否しよう、対米関係悪化は覚悟の上だ』(7/7日経ビジネスオンライン 鈴置高史)について

<7/8NHKニュース米最新迎撃ミサイル 韓国に配備決定 12時51分

韓国とアメリカは北朝鮮の核やミサイルの脅威に対応するため、アメリカの最新の迎撃ミサイルシステム「THAAD」を韓国国内に配備することを最終的に決定しました。

韓国国防省のリュ・ジェスン(柳斉昇)国防政策室長は8日、記者会見し、北朝鮮が核実験を重ね、新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」とみられるミサイルなどの発射を繰り返していることについて、韓国をはじめアジア太平洋地域の安全に対する重大な脅威になっていると指摘しました。 そのうえで、北朝鮮の脅威に対応するため、アメリカの最新の迎撃ミサイルシステム「THAAD」を韓国国内に配備することを、アメリカとの協議を通じて最終的に決定したことを明らかにしました。 リュ室長は、「THAADの配備はいかなる第3国も対象としておらず、北の核やミサイルの脅威に対してのみ、運用される」とも述べ、配備に反対している中国に理解を求める姿勢を示しました。 また、記者会見に同席した在韓アメリカ軍司令部のトーマス・バンダル参謀長は「THAADの朝鮮半島への配備は、米韓の防衛戦略の極めて重要な要素であるミサイル防衛態勢を向上させるものだ」と述べ、具体的な配備場所について今後、詰めの協議を急ぐ考えを示しました。 韓国政府はことし2月から「THAAD」の配備についてアメリカ政府と公式な協議を行ってきましたが、これに対して中国は「THAAD」の高性能レーダーが北朝鮮にとどまらず中国東北部にまで及び中国軍の監視に利用されると主張し、韓国への配備に強く反対していました。

官房副長官「決定を支持」

萩生田官房副長官は記者会見で、「韓国はわが国と戦略的利益を共有する最も重要な隣国で、具体的な配備計画は米韓で議論が行われていると承知しているが、米韓の協力が進むことは地域の平和と安定に資するもので、わが国としても決定を支持している」と述べました。 一方、萩生田副長官は、記者団が「中国の反発も予想されるが」と質問したのに対し、「米韓によって配備を決めているものであり、第三国についてコメントする立場にない」と述べました。

中国 断固反対の姿勢

アメリカの最新の迎撃ミサイルシステム「THAAD」の韓国への配備が決まったことについて、中国外務省の洪磊報道官は8日の記者会見で「米韓が、中国を含めた関係国の明確な反対の立場を顧みず、THAADを配備すると発表したことに、中国は強い不満とともに、断固反対の立場を表明する」と述べ、北京に駐在するアメリカと韓国の大使を呼んで、中国政府として厳重に抗議したことを明らかにしました。 そのうえで、「THAADの配備は、朝鮮半島の非核化の実現に役立たないだけでなく、中国の戦略的な安全保障上の利益も損ない、地域の戦略バランスを破壊する」と述べて、米韓両国に対し、配備に向けたプロセスを即時停止するよう要求しました。 中国政府はTHAADの高性能レーダーが中国東北部などに展開する中国軍の監視に利用されることを警戒しており、これまでも再三にわたって、THAADの韓国への配備に反対する立場を表明していました。>(以上)

朴政権も米国から「THHADを配備しなければ、在韓米軍も撤退する。当然戦時作戦統制権もなくなる」とでも脅されたのでは。そうでなければ韓国の異常なマスコミに逆らってまで配備することはなかったと思います。最後通牒を突き付けられたのでしょう。

しかし、朝鮮人の事大主義というのは民族のDNAとして刷り込まれています。壬午事変から日清戦争までアッチに付き、コッチに付きと右往左往した挙句、日本に統合される羽目になった歴史を振り返って見るのができないのでしょう。今でも米中を手玉に取った気になって、実は米中に踏み絵を踏まされる構図になっていることに気付きません。何でも自分の都合よく解釈するファンタジーの中に暮らしている民族ですので。歴史を改竄・捏造するのはお手の物、文化や運動まででっち上げする国ですから。

韓国は今回米国の言うことを聞きましたが、中国が盛り返すべく韓国を脅しにかかることは充分考えられます。経済で締め上げる行動を取るかも知れません。そうなれば、また中国の属国になるような動きになるでしょう。先祖返りとでもいうのでしょうか。共産主義国に隷従することがどんなに恐ろしいことなのか韓国人は分かっていません。スターリン、毛沢東、ポルポトは自国民大量虐殺で有名です。米中の狭間にあって、中国は韓国が自由主義国家に属することは許さなくなるのでは。そうなれば、北と一緒にさせるかも知れず、金王朝によって政府関係者とメデイア、軍人は血祭りにされる可能性もあります。韓国人というのは想像力に乏しい人達です。

一方、もし在韓米軍撤退や戦時作戦統制権返還の動きが出れば、北が南を襲うことも充分考えられます。何せ南の方が経済的に豊かなので掠奪しようとするでしょうし、金正恩は核を使って脅すかも知れません。韓国は米国がいつまでも韓国を甘やかし続けると思っていたら大間違いです。同盟国にあるまじき行動をとればしっぺ返しを受けます。蝙蝠外交の限界です。でも韓国民は意図的に不都合な真実には目を塞ぎます。民族的特質ですので。

http://biz-journal.jp/2016/02/post_13552.html

記事

international court of arbitration

「南シナ海に主権」と主張する中国に対して7月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所の判断が下される(写真=Hollandse-Hoogte/アフロ)

 南シナ海で高まる米中の緊張――。それが韓国の「海洋勢力からの離脱」を加速する。キーワードは「地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD=サード)」だ。

中国側に鞍替え

鈴置:朴槿恵(パク・クンヘ)政権に最も近いと見なされる中央日報が「THAADの在韓米軍配備を拒否しよう。米国との関係が悪化するだろうが、それも覚悟すべきだ」と書きました。

 筆者は有名なコラムニスト、金永煕(キム・ヨンヒ)国際問題大記者。「THAADを放棄しよう」(7月1日、韓国語版)という記事です。

—中央日報の日本語版にも同じ見出し「THAADを放棄しよう」(7月1日)で載ったので、日本でも読んだ人がいると思います。

鈴置:米軍は北朝鮮の核開発に対抗し、THAADの在韓米軍基地への配備を計画しています。これに対し中国は、韓国に応じないよう強く圧力をかけました。

 しかし2016年2月7日、北の長距離弾道ミサイル実験の数時間後に韓国は配備を容認。現在、米韓両軍は配備する場所など具体案を煮詰めています。

 もっとも、中国とロシアは「我が国の核ミサイルを監視する狙い」と主張し依然、配備を拒むよう韓国に要求し続けています。

 この記事が載った2日前の6月29日にも、訪中した韓国の黄教案(ファン・ギョアン)首相に、習近平主席がTHAAD配備に反対すると伝えました。

 左派系紙、ハンギョレは「習近平主席、韓国首相に『THAAD反対』重ねて強調」(6月29日、日本語版)で「これに関し韓国政府は公開しなかったが、中国の新華社が伝えた」と報じました。

外交ゲームの象徴

—中国も執拗ですね。

鈴置:「THAAD」は、米中どちらが韓国を従わせるかという外交ゲームの象徴ともなっているのです(「THAADを巡る米韓中の動き」参照)。

1月6日 北朝鮮、4回目の核実験
  朝鮮日報、社説で核武装を主張
与党セヌリ党幹部2人、核武装に言及
1月13日 朴大統領、国民向け談話で「THAAD配備は国益に基づき検討」
  北朝鮮、長距離弾道ミサイル実験
韓国国防部「THAAD配備に関し、米国と公式協議に入る」
中国外交部、北朝鮮と韓国の双方の大使に抗議
Global Times社説「配備すれば戦略・戦術の両面で軍事目標に」
2月12日 王毅外相、ロイターに項荘舞剣、意在沛公」(中国は米国から剣を突きつけられた)
  環球時報・社説「配備すれば韓国は中・米の碁盤の石だ」
朴大統領、国会演説で「配備の協議開始も抑止力の一環」
2月21日 解放軍報「中国軍の空爆により韓国と日本のTHAADは1時間で破壊可能」
  米国、配備に関する合同実務団結成のための約定書交換を突然に延期
ケリー国務長官「配備に汲々としない」
邱国洪大使「1つの問題で中韓関係は一瞬にして破壊」
2月24日 前日の邱国洪大使発言により韓国証券市場で中国消費関連株、一斉に下げる
2月25日 ハリス米太平洋軍司令官「必ず配備するわけではない」
2月26日 ラッセル国務次官補「THAADは外交的交渉カードではない」
2月29日 武大偉・朝鮮半島特別代表、尹炳世外相に配備反対を伝える
3月2日 国連安保理、対北朝鮮制裁を採択
3月4日 米韓、配備に関する合同実務団結成のための約定書を交換
THAADを巡る米韓中の動き(2016年)

 さて金永煕大記者の記事から、最も論議を読んだ部分を翻訳します。なお、韓国の新聞社には「大記者」という肩書が残っています。あまりに時代がかった名称だからでしょう、日本語版では「国際問題論説委員」と訳されています。

  • 韓国の選択は2つのうち1つだ。まず、THAADを配備し、その代価として中国を確実な北朝鮮の後見人にすること。もう1つはTHAAD放棄により、中国が北朝鮮の牽制にさらに積極的に出るようにすることだ。
  • 正解はTHAAD配備の放棄だ。韓米関係は若干の後退を容認するだけの余地がある。韓中関係にはそのようなマージンがない。
  • 戦争の防止が至上命題だが、THAADがあっても北朝鮮の挑発意志をくじくことはできない。いっそのことTHAADを放棄し、中国の力を借りて北朝鮮の戦争挑発を事前に防止することが最善の政策だ。

非現実的で危険な発想

—THAAD配備を放棄、つまり米国に「配備するな」と言えばうまくいく、ということですね。

鈴置:そこが批判の対象となりました。記事の書き込み欄で、多くの読者が「THAAD配備を拒否しても、中国が北朝鮮の挑発や侵攻を阻止してくれるとの保証はどこにもない」と疑義を呈しました。

 親米保守の言論サイト、趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムに「証人」というペンネームの識者が「韓国の安保を中国にゆだねようとの危険な発想」(7月1日、韓国語)という記事を載せました。やはり、そこを突いています。ポイントを要約しつつ訳します。

  • この主張は確実な結果を担保できない、あまりに危険な「希望」に過ぎない。北朝鮮が完全に中国に従うとの前提は現実的ではない。

 証人氏は続けて「THAAD配備を拒否しても、韓米関係は維持できる」とのくだりも批判しました。以下です。

  • 中国にとって在韓米軍は「のどに刺さった骨」だ。THAAD配備には関係なく、チャンスを見て米軍追い出しにかかるだろう。それに協調しない限り、韓国は排除の対象となる。
  • 「配備か放棄か」は「米国か中国か」を意味する。米国と根回ししてあっても「THAAD放棄カード」を選べば、韓米同盟のタガが緩むのは確実だ。
  • 両方から手招きされた時に態度を明確にしないと、次には両方から強要されることになる。この主張は「耐えきれない状況」を招くことになろう。

「属国に戻れ」と命じる中国

—「THAAD拒否」によって、韓国の「米韓板挟み」の状況がもっと厳しいものになるとの主張ですね。

鈴置:その通りです。「板挟み」どころか「米国が韓国を見捨てる」契機となる可能性もあると思います。

 いったんは合意したTHAADの配備を今になって韓国が拒否したら、米国でますます「韓国は裏切り者だ」との声が高まるでしょう。

 2015年9月に朴槿恵大統領が天安門の軍事パレードを参観して以来、米国の外交界では韓国の「離米従中」が共通認識となりました(「ルビコン河で溺れ、中国側に流れ着いた韓国」参照)。

 韓国の行状が目に余ったためでしょう、同年10月には訪米した朴槿恵大統領に対しオバマ大統領が、米中どちらの側に立つのかと共同会見の場で難詰しました(「蟻地獄の中でもがく韓国」参照)。

 韓国を守るために米国は軍を置いているのです。その在韓米軍を防御するためのTHAAD配備に反対すると言うのなら、韓国から軍を引こうではないか――との声が米国から上がるのは確実です。

 そもそも、外国への関与を減らしたいとの思いが米国では強まっています。米大統領候補のトランプ(Donald Trump)氏の「韓国ただ乗り論」はその象徴です(「『トランプからの請求書』は日本に回せ」参照)。

 一方、中国は「THAADを拒否した韓国」に優しくなるどころか、さらに厳しい要求を突きつけるでしょう。米国の後ろ盾を失った韓国に、より強い態度で臨むのは目に見えています。

 すでに韓国に対し、中国の役人や学者が非公式にですが「中国と同盟を結べ」と要求し始めています(「ついに『属国に戻れ』と韓国に命じた中国」参照)。

 千年にもわたって朝鮮半島の王朝は中華帝国の一部でした。中国人にすれば「韓国は中国の言うことを聞いて当然」なのです。 

 韓国はますます動揺し「離米従中」を加速することでしょう。THAAD拒否により、米韓同盟が直ちに廃棄されるわけではない。しかし、相当なダメージを受けるのは間違いありません。

4割がもう、中国派

—金永煕大記者はそこまで考えて記事を書いたのでしょうか。

鈴置:それは分かりません。言えるのは、この人が中国との関係を極めて重視する言論人ということです。

 2016年1月の北朝鮮の4回目の核実験の後には「韓米日の枠組みよりも中国との協力で北の核武装を防ごう」と主張しました(「『在韓米軍撤収』を保守も主張し始めた」参照)。

 「北の核」の解決に積極的に動いてこなかったオバマ大統領に対しても「世間の物笑いの種」と厳しく批判しました。米国への失望の表明でもあります。

 今回の記事も「Say not to Thaad」の見出しで7月4日の英語版に収録されています。「拒否」を世界に向け宣言したのです。金永煕大記者は、いざとなったら韓国の命綱を米国ではなく中国に託そうと決意しているのかもしれません。

 確かに「THAADを拒否さえすれば、後は中国がうまくやってくれる」という彼の主張は「天下の暴論」扱いされました。が、「米国ではなく中国に頼る」との意見には、賛成する人も多いのです。

 グラフ「米中どちらが大事か」をご覧下さい。2015年の意識調査ですが、もう4割近い韓国人が「中国派」なのです。

グラフ●米中どちらが重要か

opinion survey in S Korea

孤立深める中国

—なぜ突然、今になって「THAAD拒否」を金永煕大記者は書いたのでしょうか。

鈴置:「南シナ海」が原因と思います。先ほど引用した結論のすぐ前の部分で、世界の情勢を以下のように説いています。

  • 2015年5月、オバマ米国大統領がベトナムを訪問し米国の武器輸出禁止措置を解除した。これを機に、米国に包囲されるとの中国の被害者意識が一層、激しく刺激された。
  • 南・東シナ海での中国の膨張戦略を牽制するため、米国はインド、ベトナム、フィリピン、豪州、日本と2―3カ国単位での安保ネットワークをしっかりと造り始めた。
  • そのたびに北朝鮮の中国に対する戦略的な値段が急騰する。すでに中国経由での北朝鮮とパキスタンの核コネクションの復活が報じられた。米国が南・東シナ海で中国を圧迫するほどに、対北制裁への中国の参加の度合いが落ちるほかはない。

 南シナ海の軍事基地化により、中国の国際的な孤立は深まるばかりです。6月に入り中国の海・空軍が尖閣諸島周辺で日本に対して新たな挑発を始めたのも、国際社会の関心を南シナ海からそらす目的もあると解説する専門家もいます。

 特に7月12日、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、フィリピンによる中国への提訴に判決を出すことに注目すべきです。「南シナ海のほぼ全域に主権が及ぶ」との中国の主張に、不利な判決が出ると見られています。その際、中国の孤立は決定的なものになります。

「THAAD」で許し乞う韓国

—すると、中国は北朝鮮をより可愛がるようになるので核問題の解決はますます遠のく、ということですね。

鈴置:それもあります。が、判決により韓国がもっと困る事態も発生しそうなのです。金永煕大記者は言及していませんが。

 5月末の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言には「東・南シナ海における状況に懸念」「力や威圧を用いず、仲裁を含む法的手段で解決する」との文言が盛り込まれました。

 「中国に厳しい判決」が出たら、西側主要国が対中非難で声をそろえる可能性が大です。これに対し、中国の側に立つのはアジアではカンボジアなど数カ国。後はアフリカの、中国に世話になっている国ぐらいでしょう。

 いくら韓国が中国の顔色を見る国といっても、さすがに中国の応援はできない。昨年のオバマ大統領の難詰の主眼も、「南シナ海で中国を非難しない」点にあったのですから。

 しかし、米国側に立つ韓国を中国は許さないでしょう。中国は韓国をすっかり属国扱いするようになっています。

—韓国はどうするのでしょう?

鈴置:そこで「THAAD拒否」を繰り出す手があるのです。中国には「南シナ海ではやむなく米国側に立つが、THAADでは中国側に立つから許してほしい」と弁解できます。

 米国に対しては、金永煕大記者が記事で主張したように「南シナ海で米国側に立った。おかげで中国の対北圧力が弱まる。その補完措置としてやむなくTHAADを放棄したい」と言い訳するのです。

「Koexit」が始まる

—米国は納得するでしょうか。

鈴置:しないと思います。こんな子供だましの言い訳をしたら却って怒り出すかもしれない。しかし韓国とすれば米中の間で二股外交を続ける以上、めちゃくちゃでも何らかの言い訳が要るのです。

—結局、「南シナ海」が韓国の「離米従中」を加速するわけですね。

鈴置:その通りです。韓国とはあまり関係なさそうな「南シナ海」の問題が「海洋勢力からの離脱」を呼んでしまうのです。「Brexit」ならぬ「Koexit」です。

—金永煕大記者は朴槿恵政権と近い、とのことでした。「THAAD拒否論」は政府の差し金でしょうか。

鈴置:そこは分かりません。趙甲済ドットコムの金泌材(キム・ピルジェ)記者は「中国の恫喝に負けたのだ」と説明――というか、非難しています。

 「中国が反発するから『THAADを放棄しよう』と言う中央日報の金永煕記者」(7月1日、韓国語)という記事です。THAADの必要性を訴えるのが主眼の記事ですが、冒頭の中国関連部分が興味深いのです。ポイントを訳します。

  • ソウルのある大学で情報分析の手法を教えるS教授(前職は情報要員)は最近、韓国メディアの最大の問題として「中国恐怖症」(China-phobia)を挙げた。以下である。
  • 韓米を離間させるため、中国がTHAAD配備を活用し始めた。中国の当局者らは公式、非公式の経路を使って「配備反対」で声をそろえた。すると「中国恐怖症」に陥った言論人たちが「ほら見ろ、私の言った通りだろう」と事実上、中国の代弁をする。新しいタイプの事大主義者たちである。

中国恐怖症にかかる韓国人

—「中国恐怖症」ですか。

鈴置:ええ、「恐中病」です。この病はメディアの世界に限らず、韓国全体に広がっています。

 韓国紙はしばしば日本や米国を罵倒の対象とします。が、中国には借りてきた猫のようにおとなしい。韓国紙の記者に聞くと「中国は特別な国なのだ」と答えます。

 中国は書いた記事に対し、どんな報復をしてくるか分からない、というのです。彼らの心の奥底には「中国には逆らえない」「逆らってはいけない」という諦念のようなものがあります。

 長い間、朝貢国として中国の王朝につかえてきた後遺症です。だから金泌材記者の記事にも「新しいタイプの事大主義者」とあるのです。

 「THAAD拒否」に対する韓国メディアの反応も異様です。私が7月5日までに見た限り、中国の意向を尊重しようと主張する金永煕大記者――つまりは中国を署名記事で批判したのは何と、趙甲済ドットコムの金泌材記者ただ1人なのです。

 記者が中国に盾突きたくないと言うのなら、新聞社としてはTHAAD導入派の外部の識者に原稿を書いてもらう手もある。しかし、そんな記事も見当たりません。

発表を突然、前倒し

—中国が圧力をかけたということですか?

鈴置:圧力をかけなくとも、中国恐怖症に罹った韓国記者の自己規制を待てば十分、ということでしょう。

 ただ「THAAD配備派」の巻き返しの動きも一部メディアで観察されます。いずれの記事も軍がネタ元です。

 朝鮮日報が7月4日に微妙な記事を載せました。軍事が専門のユ・ヨンウォン記者が独自ダネとして書いた「THAAD、1-2カ月内に配置発表を検討」(韓国語版)です。

 米韓両軍が検討中のTHAAD配備計画を突然に前倒しする、というのです。骨子は以下です。

韓国政府筋が7月3日「THAAD配備地域に関する正式発表が遅くなり過ぎないようにすることを決めた」と述べた。

韓民求(ハン・ミング)国防長官は6月28日、国会で「配備は年内に結論が出るだろう」と述べていた。しかし政府と軍当局は結論を長引かせると中ロの反発や国内の反対世論が強まると判断した。米国が早急な発表を望んでいることも影響したという。

ただし、中ロの反発も無視できない状況だけに、青瓦台(大統領府)の最後の政治的な判断が残っているとの見方もある。

韓国でも激突する米中

—「政府筋が語った」という7月3日は日曜日ですね。

鈴置:リークはその前日の7月2日か、あるいは7月1日だったのかもしれません。朝鮮日報を含むほとんどの韓国紙は日曜休刊です。2日に聞いても4日付になります。

 金永煕大記者の7月1日の記事を見て「このままだとTHAAD拒否の流れができかねない」と焦った国防部が、信頼する記者に急きょ書いてもらった感じです。この記事にもありますが、何せ6月28日まで、国防長官が「配備決定は年内」と言っていたのです。

「米国が早急な発表を望む」ともあります。

鈴置:米国に近い軍の「THAAD配備派」と、中国の意向を受けた「拒否派」が朴槿恵大統領の決断を求め、戦っているのです。

 東亜日報も7月5日の社説「漆谷配備が有力なTHAAD、中国の顔色を伺うな」(日本語版)で、改めて配備を主張しました。配備場所が絞り込まれたとの、軍がリークしたとおぼしき特ダネに関連して書かれた論説です。

 南シナ海を巡る米中のつばぜり合いがこれから本格化します。それに伴い「Koexit」――韓国の海洋勢力からの離脱の動きも激しくなるでしょう。じっくりと観察する必要があります。

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