5/13日経ビジネスオンライン 北村豊『21歳の辞世ブログが暴いた中国医療の暗部 がん発症の大学生、ニセ病院とウソ広告に翻弄された悲劇』について

麗澤大学の図書館で、台湾の5/10「中国時報」を読みました。WHA(世界衛生大会)のオブザーバー参加についてWHO(世界保健機構)は台湾が「一つの中国の原則」を認めないとダメと言ってきているとのこと。台湾民進党は「オブ参加と一つの中国は無関係、健康は人類の普遍的価値だから条件を付けるのはおかしい」と言ってるようです。何せ国連事務総長が韓国の潘基文、WHOの事務局長はSARSの時の対応がまずかった香港人のマーガレット・チャンですから、中国人の圧力に弱いので、5/20蔡英文総統就任まで圧力をかけ続けるでしょう。本記事によれば招待状は届いたが、参加できるパスワードが書いていないという姑息なことをやってるようです。如何に国際組織が腐っているかです。5/20総統就任式での発言によってパスワードを出すか出さないか決めるのかもしれません。

China Daily20160510

蔡英文次期総統は、日本の潜水艦を米国経由で購入し、安保面でも米日と連携していく考えとメルマガかFacebookで読みました。ただ、軍は国民党支持が多いのと、将来経済がうまく行かなくなれば台湾民進党から国民党に政権が変わる可能性もありますので、良く検討した方が良いでしょう。今、豪のターンブル首相がパナマ文書で名前が挙がっているのは、彼は中国に近いので牽制の意味もあったのでは。日本の潜水艦購入を米国は画策していたのに、米日豪一体で中国へ対抗しようとする目論見が崩れたためでしょう。でなければもっと早く名前が出ていたはずです。

本記事は如何に中国社会が腐敗しているかという事です。賄賂や不正を許容する社会、力を信奉する社会ですから、弱者に対する目配りはありません。民主主義国家であれば、選挙でダメな政党は政権交代させられますが、共産主義国では望むべくもありません。本来このケースのような場合には、国民が怒って、革命を起こすべきでしょう。民衆自体不正に狎れ、また自らも不正をしているケースが多々あるので怒りのエネルギーが出て来ないのでしょう。何せ「騙す方が賢く、騙される方が馬鹿」という基本的価値観の国柄ですから。

中国在勤時代には、怪しげな診療所のチラシが電柱や壁に貼っていました。町中で堂々と営業していました。とても怖くて診て貰いたいとは思えないような所でしたが。それでも病院へ行くと保険があっても、当時2000年頃は20元くらいの給付しかないので、金持ちしかかかれませんでした。病気になったら、自分で治すしかない社会でした。

記事

中国の医療は“看病難、看病貴(診療を受けるのは難しく、受けられても医療費が高い)”と言われて久しく、ただでさえも悪評ふんぷんだが、その医療体制を根底から揺り動かす驚くべき事実が明らかになった。それはがんで死亡した21歳の大学生が死の直前にスマホのメッセージアプリ“微信(WeChat)”に書き込んだ、病魔と闘う経緯を記した文章が引き金となったものだった。

がんとの戦い、武警第二医院に託す

 “魏則西”は陝西省“西安市”にある“西安電子科技大学”の“計算機学院(コンピューター学部)”の学生であった。彼は大学2年生の時に行われた“体格検査(健康診断)”で異常が発見され、精密検査を受けた結果、がんの一種である滑膜肉腫の晩期であることが判明した。滑膜肉腫は悪性軟部腫瘍であり、新たな技術開発や臨床実験中の技術を除いて有効な治療方法が発見されていない難病である。将来の希望に燃えていた魏則西にとって、これは正に青天の霹靂であったが、彼の両親にとっても寝耳に水の出来事だった。大事な1人息子を凶悪な病魔に侵されて、両親は悲しみに打ちひしがれた。

 晩期であっても治療方法は必ずあるはずだ。そう考えた両親は魏則西を連れて北京、上海、広州など各地の医院を訪ね歩いたが、どの医院も治癒の可能性に否定的だった。最早この病気から逃れる術はないのか。思いあぐねた魏則西はその治療方法についてインターネットの活用を思い付き、2014年3月30日に中国最大の検索エンジン「百度(バイドゥ)」で滑膜肉腫の治療方法を検索してみた。その検索結果の第1位にランクされたのは「武装警察北京総隊第二医院」(以下「武警第二院」)の生物免疫療法だった。この旨を両親に告げると、両親は即座に武警第二院へ電話を入れて面談の約束を取り付けると、大急ぎで北京へ向かった。

 北京に到着した両親は、武警第二院で「“生物診療中心(センター)”」主任医師の“李志亮”と面談した。両親は息子が滑膜肉腫の晩期であることを告げて、何としても生物免疫療法で治癒して欲しいと述べると、李志亮は両親に次のように語った。すなわち、生物免疫療法は米国のスタンフォード大学が研究開発したもので、滑膜肉腫に対する有効確率は80~90%に達しているので、息子さんの命を20年間保証することは何も問題がない。

 これを聞いて安堵した両親が李志亮について調べてみると、李志亮は“中央電視台(中央テレビ)”の番組で何度も紹介されているし、武警第二院は“三甲医院(最上ランクの医院)”であった。さらに、武警第二院の生物免疫療法は百度の検索結果で第1位にランクされていたこともあり、信頼に足ると判断できたことから、両親は魏則西の治療を武警第二医院に委ねることを決断したのだった。

2014年9月から2015年12月末まで、魏則西は武警第二院で都合4回にわたる生物免疫療法の治療を受けた。この間の費用は20数万元(約400万円)に達したが、両親は家中のカネをかき集めても到底足りず、親戚友人に借金して賄った。しかし、魏則西の病状は一向に改善しないばかりか、がんは肺に転移する始末で、医師から余命2か月と宣告されるに至った。

最大の悪は希望を餌に苦しむ人を騙すこと

 生物免疫療法を4回も実施したのに病状は悪化するだけで、何らの改善も見られないのはなぜか。疑問を感じた魏則西が知り合いの米国人留学生経由で調査を行った結果、生物免疫療法は米国では20年前に淘汰された技術であり、米国内の医院では全く使われていないことが判明した。一方、父親が主任医師の李志亮に「息子の命を20年間保証すると言ったのに、余命2か月とはどういうことだ」と詰め寄ると、李志亮は前言を翻し、今までにどの患者にも命の保証などしたことがないと述べ、生物免疫療法をさらに続ければ効果がでると言う始末だった。李志亮が魏則西と両親を騙し続けていたことは明白だった。

 2016年4月12日、武警第二院の病室で魏則西は21歳の若き命を閉じた。魏則西は死の直前、スマホの“微信”へ「あなたは人間性で最大の悪は何だと思う」と題する文章を書き込み、病魔と闘う経緯を記していた。魏則西はその答が何かを明確に述べてはいなかったが、彼の文章を読んだ人々は、それが「人間性で最大の悪は希望を餌に苦しむ人を騙すこと」なのだと理解した。魏則西の死によって辞世となった彼の文章は、人々の共感を呼んで広く知られることとなり、中国社会に大きな波紋を投げかけた。彼の文章に突き動かされた人々やメディアは、中国の医療体制を根底から揺り動かす一大事を暴き出したのである。メディアが報じた内容を取りまとめると、その概要は以下の通り。

【1】武警第二院が“武装警察”系列というのは名ばかりで、経営の実態は“莆田(ほでん)系”と呼ばれる詐欺的医療集団が請負っていた。彼らの目的は金儲けだけで、病気の治癒などは最初からまじめに考えていなかった。莆田系とは、福建省“莆田市東庄鎮”出身の医療従事者を言い、その起源は文化大革命期間中に毛沢東によって生み出された“赤脚医生(はだしの医者)”に遡る。彼らは正式な医学教育を受けていない農村医療人員で、農業に従事しながら初歩的な予防・治療活動を行っていたが、文化大革命終結後は全国各地をわたり歩いて無免許で違法かつ詐欺的な医療行為を行った。

【2】彼らは性病、鼻炎、腋臭(わきが)、リューマチ、皮膚病など、命に関わることのない病気を治療する旨の広告を電柱に張って客を集め、効果が期待できない自家製の軟膏、膏薬、丸薬などを原価の何倍、時には何十倍の価格で売り付けて大儲けした。客の患者たちが全く効果のない薬に疑問を抱く頃には、彼らはとんずらして他地域へ移動しているという筋書きであった。どだい彼らには医学や薬学の基礎知識すらなく、有るのは口八丁で患者を騙すペテンの技術だけだった。何はともあれ、偽医者である彼らは全国をわたり歩いて患者を騙してカネを稼ぐことで巨万の富を築き上げた。

【3】2002年頃から、彼らはその財力を背景に、各地の二流医院や“人民解放軍”や武装警察などの系列医院の「科」や「室」の経営を請け負うことを始め、徐々に系列医院や民営医院そのものの経営を請け負うようになり、その後は民営医院を買収して勢力を広げていった。2013年の政府統計によれば、全国の医院総数は2万4700カ所で、そのうち民営医院は1万1300カ所だが、8000か所(70%)以上の民営医院は莆田系と考えられている。莆田系の民営医院では“陳”、“詹(せん)”、“林”、“黄”の4大家族グループが有名で、彼らが大きな勢力を占めている。陳家グループは全国の“華夏”、“華康”、“華東”を頭に冠した医院、詹家グループは全国の“瑪麗医院”と“瑪麗亜婦産医院”、林家グループは全国の“博愛”、“仁愛”、“曙光”を頭に冠した医院、黄家グループは各地の“五洲男子医院”および“聖保羅(セントポール)女子医院”などをそれぞれ経営している。

ニセ医者集団が病院をグループ化

【4】彼ら4大家族グループの創始者も“游医”と呼ばれる各地を転々とする無資格の医師であったが、偽薬を販売することで大金持ちとなり、今ではこれら4大家族グループに属する人々の中には個人資産が億元(約17億円)を超える人が数百人いると言われている。一方、莆田グループ発祥の地である福建省莆田市東庄鎮では、全人口11万人のうちの7万人が医院だけでなく、薬品や医療器械などの医療産業に従事している。彼らは全国の1万社以上の医薬関連企業に身を置いており、その年間営業額は3200億元(約5兆4400億円)に達しているが、この規模は寧夏回族自治区、青海省、チベット自治区の各域内総生産(GRP)を上回っている。ちなみに、全国31省・自治区・直轄市のGRP(2015年)は、29位の寧夏回族自治区が推計2900億元、30位の青海省が2417億元、31位のチベット自治区が1026億元。

【5】それでは、武警第二院で魏則西に生物免疫療法による治療を行った主任医師の李志亮は本当に莆田系なのか。李志亮は魏則西の死亡後に武警第二院を引退した模様だが、ネット上に残る李志亮に関する紹介文には次のように記載されている。

 李志亮:“中国腫瘤(=腫瘍)生物治療協会”常務副会長、“南京明基医院腫瘤精準医院中心”主任医師。1977年に“江南(長江下流南岸)”の有名校、“東南大学医学院”を卒業。40年近く一貫して悪性腫瘍の臨床治療と科学研究に従事し、国家や地方政府の課題研究に数多く参加し、科学研究論文を30本以上発表している。現在、武警第二院腫瘤生物診療中心主任医師。

メディアの記者がこの内容を調査した結果は以下の通り。 (1)東南大学医学院の学籍簿には李志亮という名の卒業生は見当たらない。 (2)中国腫瘤生物治療協会という組織は存在しない。 (3)悪性腫瘍の専門家に問い合わせても、誰一人として李志亮という名を知る者はいない。 (4)紹介文には李志亮が発表した論文30本以上の明細が列記されていたが、それら全ては他人が発表した論文で、李志亮本人の論文は見つからなかった。

 これ以外にも李志亮が中央テレビで紹介された事実はなく、カネを出して李志亮が映し出される広告を買ったというのが真相だった。

かつては電柱、今は百度

【6】要するに、李志亮という人物は医学の知識も医師の資格も持たないインチキ医師であることが明白となったのである。そのインチキ医師が魏則西に施したという生物免疫療法による治療とは何だったのか。恐らく生物免疫療法と称して治療の演技を行っていただけで、魏則西の病状を放置したものと思われる。李志亮にとって、魏則西は生物免疫療法という疑似餌(ルアー)に飛びついた魚で、釣り上げた後は好きに料理してカネを儲ければ良かったのだろう。それこそが莆田系のインチキ医師の本分であり、魏則西の場合は見事にそれが成功した例であったのである。

【7】魏則西が生物免疫療法を見つけ出したのは、検索エンジン「百度」で滑膜肉腫の治療方法を検索した結果であり、武警第二院の生物免疫療法は検索結果の第1位にランクされていた。魏則西がそれを信頼できるものと考えて両親に伝えたことが、全ての始まりだった。李志亮によるルアーフィッシングに手を貸し、検索結果の第1位に配置することにより武警第二院の生物免疫療法に権威と信頼性を与えたのが百度だった。

【8】かつては電柱に広告を張って客(患者)を呼び込むことで偽薬を販売した莆田系だが、彼らの営業戦略は依然として宣伝広告である。時代の変遷は彼らの広告手段を電柱からインターネットやテレビへと変え、今や彼らの広告媒体の主体は中国最大の検索エンジン「百度」となり、百度にカネをつぎ込むことで患者の獲得を図っている。それは、百度が広告枠の配置順位をオークションにより決定しており、それが推薦可能な医院の検索結果にも反映されることになっていることに起因している。財力に勝る莆田系医院は常に広告枠の上位を勝ち取り、推薦可能な医院の検索結果でも上位に配置される。

【9】最も重要な事は、百度が広告主の資格審査を従来から全く行わぬまま、オークションで高価格を提示する莆田系医院を優遇し、彼らのインチキ商売に手を貸し、彼らを野放しにしたことだった。百度と莆田系医院の密接な関係は、2003年に百度が広告枠のオークション制度を開始した時から始まり、すでに13年が経過している。百度はカネが儲かるという理由だけで、広告主の資格審査を行わぬまま、莆田系医院に便宜を図ってきたことは明白だった。その結果が百度の検索結果を信じた魏則西を死に追いやったといっても過言ではない。

【10】こうした背景を知った世論は激高し、百度の責任追及を求める声が沸騰した。世論の圧力を受けた百度は医院広告の担当責任者を解雇することで事件の沈静化を図ったが、世論はその姑息な対応に怒りをさらに強めた。世論に押された中国政府および北京市の関係部門は5月2日に調査チームを組織し、“魏則西事件”に絡んで百度の広告枠オークション制度の調査を行った。5月9日、調査チームは調査結果を発表し、百度に対して医療広告の全面的見直しと広告枠オークション制度の廃止を含む業務改善を勧告した。一方、同調査チームは百度と並行して武警第二院の調査も実施し、武警第二院は営業停止を命じられた。

無法の放置、撲滅なるか

 『三国志・蜀志・諸葛亮伝』に「死せる孔明生ける仲達を走らす」という言葉がある。これは偉大な諸葛孔明は死んでも、敵の仲達を恐れさせて敗走させたということで、「死してもなお影響力のあること」を意味する。魏則西は諸葛孔明のような偉人ではないが、死を前にして“微信”に書き込んだ文章が死後に注目されたことで、百度の医院広告の不条理や莆田系医院によるインチキ治療が暴き出される切っ掛けとなった。

 百度は調査チームの勧告に従って業務改善を行うだろうが、問題は民営医院の70%以上を占め、一部の公営医院にも進出している莆田系をどうするかであろう。今回の事件により莆田系医院が百度の検索を広告媒体とすることには歯止めがかかるだろうが、財力がある莆田系の人々がただ手をこまねいているとは思えない。中国政府が徹底的に無資格医を取締り、莆田系を壊滅させない限り、魏則西に続く新たな犠牲者が出る可能性は高い。また、死に至っていなくとも莆田系医院およびその医師によって騙された経験を持つ国民は膨大な数に上るはずである。莆田系の撲滅はひとえに中国政府の決断にかかっている。

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5/12日経ビジネスオンライン 鈴置高史『「トランプからの請求書」は日本に回せ 在韓米軍の経費を誰が支払うのか』、5/16日経ビジネスFT『トランプ氏は世界秩序の脅威だ』について

FTの記事は米大統領選で「ヒラリーが楽勝すると考えるのは危険」という事です。宮崎正弘氏ノメルマガでも同じような指摘がありました。

http://melma.com/backnumber_45206_6366088/

日本もトランプ大統領になったときのことを真剣に考えないと。政治家任せは危険です。国民主権なのだから、国民一人ひとりが日本のあるべき姿を考えねば。韓国の経費を日本が払うのは論外です。こいつらの頭の中を覗いてみたい。どうしたらこういう発想ができるのかと。聞くだに不愉快になります。今まで日本人が甘やかして来たツケが回っています。これからは違うという事を日本人は中韓北に見せないと。舐められてばかりでは子々孫々に不名誉を遺産として残すことになりかねません。

トランプは日本人に今まで深く考えずに済んできたことを強制的にでも考えさせてくれます。戦後米軍に憲法を押し付けられ、思考停止してずっと生きて来た日本人が今また米国人によってその頸城から脱せられるのかもしれないという事態です。主体性がありません。外圧頼みでしか物が考えられないのでは国際社会は生き抜いていけませんが。

日米同盟と核保有については宮崎正弘氏の言う日本の持つ米国債で第七艦隊(核付き)を買うというアイデアが実現できれば良いのでしょうけど、人員付きでなければ動きませんので、米国籍のままですと、完全な傭兵となり、米軍のプライドから言って無理でしょう。

やはり、米国と1個1個相談しながら、日本の自立を進め、米国の覇権に挑戦する中国の包囲網を両国を中心に展開していかねば。

5/12記事

Trump-8

米大統領選で共和党の指名を確実にしたトランプ氏は、日本と韓国の「米軍駐留経費全額負担」を主張(写真:ロイター/アフロ)

 在韓米軍の費用は日本に払わせればよい――。韓国でこんな声が出てきた。

日韓独は100%支払え

—米軍の駐留経費の分担問題が日本の新聞をにぎわせています。

鈴置:共和党の予備選で、不動産王のトランプ(Donald Trump)候補が「日本や韓国、ドイツなどには駐留経費を100%支払わせよう」と語ったのがきっかけです。

 トランプ氏が大統領にならなくても、駐留経費は米国と同盟国の間で問題化しそうです。「なぜ、我々の税金を使って豊かな同盟国を守っているのか」と考える米国人が増えているからです。

 韓国では日本以上に論議を呼んでいます。米国との同盟があるからこそ国を維持できている、との意識が強いためです。ことに今、韓国は北朝鮮の核武装の脅威に直面していますし。

米国に払うなら中国と同盟

—でも、米韓同盟は揺れているのではありませんか?

鈴置:ええ、そこがポイントです。「北朝鮮の核」に対しては米韓同盟を頼りにしたい半面、それにより本当に抑制できるのかと韓国人が疑いを持ち始めたところです。

 米国ではなく中国を頼りにすればいい、という発想も広がっています。意識調査を見ても明らかです(「米中どちらが重要か」参照)。

グラフ●米中どちらが重要か

Important nation for Korea

 今後、米国が「トランプ化」するにつれ、在韓米軍への負担――米韓同盟を巡る議論はかなり複雑になるでしょう。米国が「経費分担を増やせ」と強力に要求するのなら、中国と同盟を結ぼう――という声も出てきかねないからです。

 ただ今現在は、ほとんどの韓国メディアが「米韓同盟は存続する」との前提で「韓国は十分に経費を分担している」と主張しています。保守系紙は政府を代弁して、左派系紙は反米感情から――と背景は異なりますが。

GDP比では韓国は優等生

鈴置:この分野で有名な、朝鮮日報のユ・ヨンウォン軍事専門記者は「トランプの主張を受け入れ米軍の韓国駐留経費を100%負担すると、韓国の支払いは年間9320億ウォン(1ウォン=約0.09円)から2兆ウォン程度に倍増する」と推算しました。

 「トランプの望み通りにするなら……韓国が出す米軍負担金は9320億→2兆ウォン」(5月6日、韓国語版)という記事です。

 そして同じ日に「米軍防衛費負担、GDP比重で考えれば韓国が最高水準」(韓国語版)も書きました。韓国政府の主張を紹介した記事です。骨子は以下です。

  • 政府当局者は「米軍駐留費用の(受け入れ国による)負担比率に関して言えば、韓国は日本よりも低いが、ドイツなどNATOより高い。とはいえ、GDP基準で考えれば、我々が世界最高の負担水準にある」と分析している。

日本は75%負担

 計算方式にもよりますが、日本は米軍駐留経費の50-70%を負担しているとされます。米国防総省が2004年にまとめた「2004 STATISTICAL COMPENDIUM on ALLIED CONTRIBUTIONS TO THE COMMON DEFENCE」にもデータがあります。

 この手の統計はあまり公開されないためか、少し古いのですがあちこちで引用されます。それによれば日本は直接・間接的な支援を合わせ、米軍駐留経費の74.5%を払っています(B-21ページ)。

 韓国は40.0%(B-22)、ドイツは32.6%(B-7ページ)です。何でも日本と比較される韓国とすれば、こんなデータを持ち出されたらかなりまずい。そこで韓国政府は「GDP比」という、自分に都合のいい概念を考え出して対米交渉に臨んできたのでしょう。

 もっとも韓国政府が計算したという対GDP比の韓国の数値は0.068%。ドイツの0.016%と比べればはるかに大きいのですが、日本の0.064%とはほぼ同じ水準です。

日本こそ「ただ乗り」だ

—へ理屈ですね。

鈴置:ヘ理屈でも何でもいいから、予想される「トランプの値上げ攻勢」を乗り切ろうとの韓国政府の必死の姿勢が、この記事から伝わってきます。現行の負担を決めた米韓協定は2018年末に満了となり、改定交渉が近く始まることも影響しているのでしょう。

 「トランプの値上げ」に対するもっと強力な、というか珍妙な反論も開陳されました。同じ朝鮮日報の崔普植(チェ・ボシク)先任記者の「全斗煥(チョン・ドファン)が米国を助けた方式」(5月6日、韓国語版)です。以下、要約しながら翻訳します。

  • 朴正煕(パク・チョンヒ)政権とカーター(Jimmy Carter)政権当時の韓米関係は最悪だった。カーター大統領は1977年に就任するや否や「在韓米軍を今後4-5年以内に段階的に撤収する」と、人権問題を指摘しつつ通告してきた。朴正煕大統領は「撤収するというならすればよい」と核兵器開発に動いた。
  • 朴正煕大統領が暗殺された後を継いだ全斗煥大統領は、レーガン(Ronald Reagan)大統領が就任すると直ちに訪米した。1981年2月、ホワイトハウスで全斗煥大統領は「在韓米軍を撤収すると、ソ連はアジアの兵力を欧州に展開できる」との理屈でレーガン大統領を説得し、米軍撤収を撤回させた。
  • さらに「この会談はレーガン大統領をお助けするためのもの」と切り出し「韓国はGNPの6%を国防費に支出しているが、日本は0.09%しか充てていない。日本は無賃乗車している。日本をして韓国に100億ドルの借款を提供させれば、そのカネで米国製の兵器も買える」と説いた。
  • レーガン大統領は「意見の相違はない」と大きな声で答え、笑い出した。2年後、韓国は日本から40億ドルの借款を引き出した。このケースは将来、トランプを相手にする際に(韓国の)指導者がどんな心構えで突破しなければならないのか、どうすれば局面を我が国に有利なものに変えるかの答えである。

またも韓国・天動説

—なるほど。「トランプ大統領」から防衛費の負担増を求められたら日本に請求書を回せばいい、との主張ですね。

鈴置:その通りです。なお、この記事はいくつか誤りがあります。当時から日本の防衛費の対GDP(GNP)比は1%前後で推移しています。0.09%という数字は1ケタ間違っています。

 当時、レーガン大統領に日本のただ乗りを強調するために全斗煥大統領が適当な数字を言ったか、現在の韓国人読者に「日本は悪い奴だ」と強調するため崔普植先任記者がそれらしい数字を挙げたか、あるいは単純に間違えたか、どれかでしょう。なお、韓国の数字も現在は3%弱で、6%には遠く及びません。

 そもそも韓国の大統領の説得で米国や日本を動かした――との認識は、相当に天動説的な発想です。1980年代初めに米国と日本に登場した保守コンビ――レーガン大統領と中曽根康弘首相はソ連に強い姿勢で対しました。

 米国や日本の保守派にすれば、在韓米軍撤収なんてとんでもない話。韓国の大統領に言われなくとも撤回すべき案でした。

 また1979年の朴正煕暗殺後、とにもかくにも韓国を安定させた全斗煥政権は、日米ともに強力に支える必要があったのです。

 「無賃乗車の日本を懲らしめると同時に、米国製兵器の売り上げ増を狙って米国が日本に借款を出させた」わけではありません。

 なお、全斗煥政権のこの借款は――「日本からカネを出させた」と国民に誇るためのスタンドプレーは、後に韓国を苦しめることになります。

 円ベースの借款でしたが、返済時にはかなりの円高となっていたからです。記事の書き込みでも、1人の読者がそれを指摘しています。

「言いつけ方式」は藪蛇に

—韓国人は周辺大国を自分が操っている、という話が好きですね。

鈴置:「我々はいつも周辺大国の都合で突き動かされている」との現実認識があるためでしょう。

 韓国紙を読んでいると、時々こういう気宇広大な記事に出くわします。中国の戦国時代に遊説家――武力は持たず、口舌だけで諸侯を動かした人々が活躍しました。彼らこそが韓国知識人の理想の姿なのかもしれません。

—では「全斗煥方式」と言いますか「言いつけ方式」で「トランプ大統領」を説得できるのでしょうか。

鈴置:難しい、というか藪蛇になると思います。仮に、韓国が説得に成功し、在韓米軍の駐留経費のなにがしかを日本に支払わせることで米韓が合意したとします。

 すると日本が「トランプ大統領」に対し「米韓同盟はいつまで持つのですか。韓国は米国よりも中国の言うことを聞くようになっているようですが」と尋ねるのは間違いありません。

 トランプ氏の外交・安保認識は現実と比べ、10年は遅れています。そこで最新の状況を調べ、朴槿恵(パク・クンヘ)政権下の韓国が「中国側の国」になっていることにようやく気がつくことでしょう。

AIIB債も韓国が引き受け

—普通の米国人は「韓国の寝返り」にまだ気づいていないのですね。

鈴置:外交関係者は別として、普通の人は中韓関係などに関心を払いません。でも、いったん注目を集めると、状況は変わるでしょう。

 ことに「トランプ大統領」の関心が深い経済分野で、韓国の裏切りが目立つからです(「米中星取表」参照)。

案件 米国 中国 状況
日本の集団的自衛権 の行使容認 2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致
米国主導の MDへの参加 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ
在韓米軍への THAAD配備 韓国は米国からの要請を拒否していたが、2016年2月7日に「協議を開始」と受け入れた
日韓軍事情報保護協定 中国の圧力で署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げ
米韓合同軍事演習 の中断 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施
CICAへの 正式参加(注1) 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」
CICAでの 反米宣言支持 2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か
AIIBへの 加盟 (注2) 米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明
FTAAP (注3) 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」
中国の 南シナ海埋め立て 米国の対中批判要請を韓国は無視
抗日戦勝 70周年記念式典 米国の反対にも関わらず韓国は参加
米中星取表~「米中対立案件」で韓国はどちらの要求をのんだか (○は要求をのませた国、―はまだ勝負がつかない案件、△は現時点での優勢を示す。2016年5月11日現在)

(注1)中国はCICA(アジア信頼醸成措置会議)を、米国をアジアから締め出す組織として活用。 (注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。 (注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。

 金融による米国の世界支配を崩そうと、中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立しました。韓国は米国の反対を押し切って参加しました。

 さらにAIIBの無格付けの債券も、韓国は引き受けることにしました。時事通信が「AIIB債、無格付け発行=設立当初、韓国引き受けか」(2015年12月3日)で報じています。

 2015年12月8日、韓国政府は中国市場で30億元(1元=約16.5円)の人民元建て国債を発行しました。もちろん初めてのことで、人民元の国際化への援護射撃です。

 「強いアメリカ」の復活を旗印に掲げるトランプ氏が、米国の足を引っ張る中国のお先棒を担ぐ韓国に対し、激怒するのは間違いありません。

 「米国はもう、世界の警察官ではない」と繰り返すオバマ(Barack Obama)大統領でさえ「中国を批判しろ」と朴槿恵大統領を満座の中で難詰したのです(「蟻地獄の中でもがく韓国」参照)。

契約違反の店子

—韓国のやっていることは「ただ乗り」どころか「利敵行為」ですからね。

鈴置:「トランプ大統領」は韓国の「追い出し」を直ちに指示するでしょう。それまで韓国は日本やドイツと同様、自分の所有する不動産に相場よりも安く入居するテナントと見なしていた。

 ところがよく調べると、韓国は隣のビルとの間の壁に穴を開けて行き来している。もちろん、貸しビルは無茶苦茶に……。

 こんな状況が判明した以上、貸借契約を守らず、ビルを破壊する店子を大家が追い出すのは当然です。少なくともビジネスマンたるトランプ氏はそうするでしょう。

 彼にとって、日本やドイツとの同盟に関する懸案は「テナント料金の値上げ」問題です。しかし韓国とは「不良の店子」をどう処理するかの問題なのです。

「損切り」の対象に

—これまでは、そんな韓国でも許されてきた……。

鈴置:神戸大学大学院の木村幹教授は「失礼な奴でも自分の陣営に置いておくことで大国は度量を見せる」と説明しています(「『南シナ海』が揺らす米韓同盟」参照)。

 でも、そんな度量の重要さに考えが及ぶのは政治家だけです。株主の短期的な利益を極大化することが仕事の経営者は、会社に損害をもたらす要因は直ちに切り捨てます。

 崔普植先任記者の主張する「全斗煥方式」――日本の無賃乗車を声高に言い立てて費用分担を転嫁する方式が実施されなくとも、トランプ的な発想が広がるほどに米韓同盟は危機に瀕するのです。

—なぜ、韓国人はそれに気がつかないのでしょうか。

鈴置:「米韓同盟は血盟だ」と信じているからです。米国は朝鮮戦争で4万人もの戦死者・行方不明者を出した。だから米国にとって韓国は何があっても手放せない存在だ――という神話と言いますか、信仰が韓国にはあるのです(「『中国に立ち向かう役は日本にやらせよう』」参照)。

 だから舌先三寸で適当なことを言っておけば、米国との同盟は続く――といった言説が、韓国では堂々とまかり通るのです。

 それも、米国の有力な大統領候補者が「これ以上、損害を増やさないために同盟の見直しを検討しよう」と“損切り”を言い出した時に、です。

「全額、支払おうではないか」

 もっとも少数ながら、韓国が直面する危うさに気がついている韓国人もいます。「ヴァンダービルド」の匿名を使い、外交・安保を縦横に論じる識者です。

 興味深い主張をしています。趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムの「トランプの暗示は『韓日は米軍撤退に備え、核武装を検討せよ!』」(3月27日、韓国語)から、要約して引用します。

  • トランプの要求通り、労務費、施設建設費など在韓米軍を維持するための費用は100%支払えば良い。すでに韓国はその40%を毎年、負担している。残りの60%の1兆3800億ウォンを追加して支払うだけで、在韓米軍の130兆ウォンの装備を我が国に維持できると考えれば安いものだ。
  • 2000年に韓国政府が正式に研究調査した在韓米軍の装備の価値が1112億5000万ドル(約130兆ウォン)だった。装備は高度化され続けており、2000年時点と比べその価値が飛躍的に高いのは間違いない。

日米同盟は片務条約

—思い切った主張ですね。

鈴置:ヴァンダービルド氏は前々から「二股外交をこのまま続ければ、いつかは米国に捨てられるぞ」と朴槿恵政権に警告を発してきました。

 さらに、トランプ候補の浮上とともに「同盟国は米国ばかり頼るな」との「トランプ的発想」が米国で盛り上がると読んだのです。

 日本も他人事ではありません。確かに、米軍駐留経費の負担比率は米国の同盟国の中で飛び抜けて高い。

 しかし、防衛費の対GDP比は1%前後に過ぎません。米国の3%強、英仏の2%前後と比べかなり低いのは事実です。これは以前から米国の安全保障関係者の不満の種でした。

 そして日米同盟が片務条約であることです。トランプ候補も指摘するように「米国は日本を守る義務があるが、日本に米国を守る義務はない」のです。こうした同盟に米国人の支持がいつまで続くかは怪しいのです。

 ことにこれから、中国による太平洋の軍事基地化を日米が力を合わせて防ごうという時なのですから。

(次回に続く)

5/16記事

5月3日の米大統領予備選で、ドナルド・トランプ氏が共和党候補の指名を事実上、獲得した格好となった。米国は衰退したとはいえ、今も唯一の超大国であり、その米国民の選択は世界中に大きな影響を及ぼす。同氏の主張は詰まるところ現行の世界秩序をひっくり返すことだが、それは米国を含め世界のためにならない。

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トランプ氏の狙いは米国が築いた国際秩序をひっくり返すことにある (写真=ロイター/アフロ)

 世界各国の首都で、米国について2つの点が指摘されてきた。一つは、米国はもはやかつてのような超大国ではない、ということ。もう一つは、米国は大統領選挙が終わるまで重要な案件は保留してきたという点だ。

 だが今、3つ目の見解が加わった。ドナルド・トランプ氏が大統領になったら、悪夢どころではない事態となるということだ。

米国だけの問題ではない

 米国衰退論は、かねて誇張されてきた。それでも米国は今も唯一の超大国である。というのも、米国だけが世界のあらゆる地域に介入できる力を持つからだ。米国は、圧倒的な力を持つ同盟体制の頂点に立っている。

 過去10年ほどで変わったのは、その立場を阻む力が働くようになってきたことだ。世界のパワーバランスが変化し、国内では政治的な空気が足かせになっている。

 とはいえ、米国の力に匹敵する国はほかにないことも事実だ。中国が仮に軍事的な影響力と技術力で米国に肩を並べる日が来るとしても、それは何十年も先のことだろう。米国政府は今なお、世界秩序の維持に欠かせない守護者である。

 ゆえに、ホワイトハウスの主人を決めるのは確かに米国民だが、その選択は世界にとっても大きな意味を持つ。

 特にトランプ氏が、共和党の大統領候補としての指名を事実上、獲得した今、このことの重大性はかつてなく高まっている。

 予備選でトランプ氏がなぜ勝利するに至ったのかについては、多くを指摘することができる。アブラハム・リンカーン以来の歴史を誇る共和党*が、いかに自己破壊的な道を歩むに至ったのか。不動産開発業者からテレビのリアリティー番組のスターへと転身したトランプ氏が、いかに国民の間に高まる不安と怒りを利用したか。米国民は、なかなか改善しない生活水準と、グローバル化が進んだことに伴う社会的、文化的な変化に対し、不安と怒りを募らせてきたのだ。

 そして、残念なことだがマスコミがトランプ氏を、その出馬表明以来、視聴率を稼げるタレントのように扱ってきたことで、いわば同氏の指名獲得に半ば加担する形になったという問題点も指摘できる。

*=1854年に黒人奴隷制反対を掲げて結成され、1860年にリンカーンが初の共和党出身の大統領となる

保守などではないトランプ氏

 世界の多くの民主主義国において、今、左派と右派双方の大衆迎合的な政治家がトランプ氏と似たような発言をしている。

 フランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首も、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も、トランプ氏と同じくイスラム排斥を訴えている。英国では欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を推す陣営が、やはり政治的エリートに対する一般国民の敵意に乗じて、欧州大陸から英国を引き離そうとしている。

 政治は、その時々の状況に順応しようとするものだ。従って、「そんなにひどい事態にはならないかもしれない」と言いたくなるのも分かる。「候補者たちは、予備選挙中は自分を最も支持してくれる層にアピールする発言をするが、党の指名を獲得すれば方針を中道に戻すのが常だから、トランプ氏も例外ではないだろう」と。

 しかし問題は、トランプ氏の場合、そうはならないということだ。トランプ氏は保守でもなければ、共和党員ですらない。同氏の立場は、左翼的な大衆迎合的経済政策と、非常に醜悪な右翼的ナショナリズムの混ぜ合わせだ。

 トランプ氏には大した外交政策はないが、その特徴と言えば好戦的な孤立主義ということだ。「メキシコとの国境に壁を築く」「イスラム教徒は入国させない」といった政策は、一度表明した以上、簡単に撤回できるものではない。

「どうせ本選挙で負ける」は危険

 古参の共和党員たちは、「11月の本選挙でトランプ氏は勝てないから心配ない」と言う。同氏は、女性の70%、ヒスパニック系やアフリカ系の米国人有権者に至ってはもっと高い比率を敵に回してきた。トランプ氏に対する不支持率は、とてつもなく高い。従って、単純に計算すれば彼は負ける。

 だが、共和党の主流派が本当に心配しているのは、トランプ氏と共に共和党も負けるのではないかという懸念だ。上院では既に民主党が過半数を奪還する可能性が高まっている。トランプ氏のせいで共和党は、下院でも過半数を失いかねない状況にある。

 確かに共和党の候補指名を獲得したからといって、米国民がトランプ氏を大統領に選ぶと決まったわけではない。それでも今回の予備選挙で得た教訓がもう1つあるとすれば、対立候補たちはみんな、ずっとトランプ氏を過小評価してきたということだ。

 トランプ氏の勢いに最も当惑させられてきた共和党員たちの方が、驚いたことに、どうも民主党の人たちよりもトランプ氏が投票日までに自滅すると信じ込んでいるようなのだ。

 ヒラリー・クリントン氏は大統領になる資質を十分備えた人物と言えるだろう。だが、民主党員はだからといって、彼女が有力な大統領候補になるとは限らないことを知っている。

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民主党候補のヒラリー・クリントン氏は大統領としての資質は備えていても当選するとは限らない (写真=ロイター/アフロ)

 ここでトランプ氏の外交政策を見ておきたい。同氏の選挙スローガンは「米国を再び偉大な国にする」だ。彼は自分が大統領になったら、もはや弱腰な外交政策は取らないという。

 米国の敵、特にイスラム国(IS)に対しては奇襲攻撃をかけるだろう。同氏によれば、相手に予測させないことが強みになるという。だが重要なのは、彼の外交政策とは米国が以前に取った孤立主義に、傍若無人なナショナリズムを付け加えるということだ。

 トランプ氏は、欧州やアジアの同盟諸国は米軍の駐留費用を負担すべきで、そうでなければ米軍は撤退することになる、としている。日本や韓国などが東アジア情勢の不安定化に対応するために核武装しようとしても、トランプ氏は気にしない。

 トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を崇拝している。トランプ氏は、貿易協定は米国のほぼ全ての企業と雇用に打撃を与えるものと考えているため、そのほとんどを破棄し、中国からの輸入品には新たな関税を課すだろう。

狙いは現在の国際秩序の破壊

 要するにトランプ氏は、第2次大戦の終戦時に米国が構築した世界秩序を事実上ひっくり返すことを提案している。その前提として彼は、パクス・アメリカーナ(米国による平和)とは米国以外の国ばかりが恩恵を受ける秩序だと考えている。つまり、現在の国際秩序は、寛大な米国が、米国に感謝することを知らない世界に対して与えている贈り物であり、米国のためにならない、というわけだ。

 だが、トランプ氏は理解していないが、理解すべきは今の国際秩序におけるルールや制度は米国の国益を織り込んでいるという点だ(つまり、トランプ氏が言うほど米国は容易に孤立主義の立場は取れないはずだ)。米国の繁栄と安全保障は、世界の力関係の中で米国が優越性を保持していることと切り離して考えることはできない。中国をはじめとする新興諸国が、国際的システム管理の在り方について強く主張し始めているのも、それゆえだ。

 海外の駐留米軍を撤退させて、今の国際体制全体をひっくり返したなら、米国の力は大きく減退するだろう。

 決めるのは米国民だ。だが、トランプ氏を選ぶ判断は世界中にとって悪い選択となるだろう。

Philip Stephens ©Financial Times, Ltd. 2016 May .5

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駅前のエスタ・ラーメン共和国で昼食

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5/9日経ビジネスオンライン 篠原 匡『ヒラリー大統領を阻む難敵』、高濱賛『クルーズ撤退でも四面楚歌のトランプ 「原爆投下」を巡ってヒラリー攻撃に出るか』について

本日より、会社OB13人で北海道旅行へ出かけます。明日から札幌、小樽、余市の写真中心の記事となります。

ヒラリーの弱点は

①FBIの私用メール調査。ベンガジ事件の闇が暴露されるかどうか。高濱氏は「幕引き」のセレモニーと見ているようですが。

②エスタブリッシュに近い。サンダースにここまで追い込まれたのはトランプ旋風に通じるものがある。格差を放置してきた不満がサンダースに流れた。特別代議員(エスタブリッシュそのもの)がいなければもっともっと苦戦したと思われる。ヒラリーが大統領になっても、生活は良くならないだろうと大衆は思っている。

③「ガラスの天井」は2008年予備選のようにはないと思われるが、この8年で年をとって68歳。トランプが69歳でほぼ同じですが、長く政治に携わってきた垢が溜っている。それと健康問題。

トランプの弱点は高濱氏の言うように沢山あります。

①人種差別

②女性差別

③宗教差別

④共和党主流派

共和党員がトランプに投票しない人が多く出て来ると言われるように、民主党員もヒラリーに投票しない人が多く出て来ると言われています。結果はどうなるか?トランプがどのように軌道修正できるかがポイントでは。でも、時すでに遅しか?

でも、日本はトランプの提言を真面目に検討すべきと思います。戦後70年も経って占領統治時代と同じ発想で生きていくことが本当に良いことかどうか。「日本は本当に独立国家なのか」どうか考える良いチャンスです。子々孫々に自尊と名誉の観念を持たせないと。自虐史観に染まったままでは日本人ではなくなります。それが、軍事的・経済的に負担になろうとも。国民の意識覚醒こそが一番大事ですが。

①憲法改正問題。GHQの押付け憲法を今のままにしているのが良いかどうか。良いものは残せば良いと思うが、軍のない独立国家はない。(台湾はその意味で既に独立している。香港・澳門とは違います。人口規模の小さいパラオは米軍に依存しています。通貨も$です)。9条は自衛戦が法的にできるようにしておかないと中国の侵略時に超法規的措置で戦わざるを得なくなります。法治国家としてそれは避けたい。元々米国が日本を「カルタゴ」にしようとして入れた条文と思われますので。

②核保有の是非。キッシンジャーと周恩来の密約と言われる「瓶の蓋」を打ち破る良いチャンス。米国も中国の野心にやっと気づいてきたようで、誰が真の敵か分かってきた。ここで中国に対して楔を打ち込み、アジアの平和には日本の力が必要と米国に思わせないと。

③有事の際の国民の行動。国家にどう協力できるか。後方支援や道路通行等私権の一時的制限。

④日米安保の双務性の向上。

⑤スパイ防止法の制定。外患誘致している日本人(マスメデイアに多い)や在日(朝鮮総連等)の活動を牽制。また外国人のインバウンドを2020年に4000万人に増やすというのだからセキュリテイをもっと考えないと。反テロ法も必要。

篠原 記事

4月26日の予備選で、民主党のクリントン氏が獲得代議員数を積み上げた。この日の勝利でサンダース氏を引き離し、党候補に指名されるのはほぼ確実に。だが米経済の動向次第では、“輸出減”が壁としてクリントン氏に立ちふさがる。

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4月26日、フィラデルフィアで演説するクリントン氏。民主党の結束を訴えた(写真=The New York Times/アフロ)

 思いのほか長引いたが、民主党の候補指名争いはいよいよ最終局面を迎えたようだ。

 4月26日にペンシルベニアやコネティカットなど東部5州で開催された民主党の予備選挙では、初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントン氏が4州で勝利、獲得した代議員総数は指名に必要な過半数の9割に達した。

 ライバルのバーニー・サンダース氏はロードアイランド州で一矢を報いたが、過半数の代議員を獲得するのはほぼ不可能な情勢。「最多の票、最多の代議員を獲得して、(7月に開かれる)フィラデルフィアの党大会に戻る」。この日の予備選後にフィラデルフィアで行ったスピーチで、クリントン氏はそう力強く宣言した。

 サンダース氏を振り切ったクリントン氏は、共和党の候補者選びで首位を走るドナルド・トランプ氏と舌戦を繰り広げるなど、11月の大統領選をにらんだ戦いにシフトしつつある。

 もっとも、クリントン氏の前途に立ちふさがる難敵は、共和党候補だけではない。それは米経済の状況、とりわけ為替と輸出入の動向だ。

輸出減はクリントン氏に逆風

 米ジョージタウン大学マクドナー・スクール・オブ・ビジネスのブラッドフォード・ジェンセン教授と同僚のデニス・クイン教授などは、今年1月に発表した論文で国際貿易が大統領選に与える影響を明らかにした。輸出が拡大すれば与党支持が上昇し、輸入が増加すれば与党支持が低下するという相関関係である。

 これが意味しているのは、大統領選の前に為替がドル高に振れて輸出が減少していれば、低スキル・低賃金の製造業が集まる州で与党の候補者が苦戦する可能性が高いということだ。特に、民主、共和のどちらが勝ってもおかしくない州(スイングステート)の場合は大統領選に大きな影響を与える。

 今回で言えば、アイオワ、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアといった中西部や東部に位置する工業地帯の各州が該当する。こういった州のほかにも、雇用に占める製造業の比率が高く、大統領選でカギを握ると考えられる州として、ノースカロライナやニューハンプシャーが挙げられる(下の地図)。

輸出減が本選に与える影響は大きい ●雇用において製造業の影響が強い地域・弱い地域

Swing States

注:2016年2月のデータを基に作成。太枠はスイングステートと予想される州。スイングステートの判断はThe Cook Political Reportを基にした(どちらかと言えば共和党、どちらかと言えば民主党の州もスイングステートに含めた) 出所:米労働省

 経済動向が大統領選に与える影響については、選挙年とその前年の実質GDP(国内総生産)成長率との関係も広く知られている。大統領選が行われる年の実質GDP成長率が前年を上回れば与党候補が勝利、逆に下回れば野党候補が勝つという法則だ。

 事実、ロナルド・レーガン氏が当選した1980年以降を見ると、9回あった大統領選のうち8回でこの法則が当てはまる。「4年前と比べて豊かになったか」という問いに対して、Yesと国民が感じれば与党を信任する、Noだと思えばおきゅうを据えるということだ。「結局のところ、有権者は自分たちの“収入”に投票している」とクイン教授は語る。

低下する一途の「好感度」

 それでは、今年の大統領選は与党候補(クリントン氏)にとってどのような環境なのだろうか。足元を見れば、クリントン氏にフォローの風が吹いていると見えなくもない。

 2014年半ば以降、ドルは主要通貨に対して上昇を続けていたが、現在はドル安傾向にある。米企業の輸出額も2月は前月比プラスに転じた。もちろん、輸出が本格的に回復したと言えるような状況にはないが、最悪期は脱した感がある。1月から2月にかけて混乱した株式市場も今は落ち着いている。

 ただ、これは足元の話で本選が実施される11月までに経済情勢がどう変わるかは予断を許さない。

 「記録的な暖冬のため経済活動が一時的に活発になっているだけで、米経済はいまだリセッションの瀬戸際にいると考えている」。米ジェローム・レビー・フォーキャスティング・センターのデービッド・レビー会長がこう分析するなど、米経済の現状を危惧する声は相変わらず存在する。世界経済が冷え込めば、米国の輸出に悪影響を与える。

 経済が堅調に推移したとしても、今度は米連邦準備理事会(FRB)による利上げが首をもたげる。6月以降、FRBが利上げに踏み切れば、再びドル高に転じることも十分にあり得る。

 国際通貨基金(IMF)が予想する2016年の実質GDP成長率は2.4%で、2015年から横ばいだ。先日発表された2016年1~3月期の成長率が0.5%と弱かったことを考えれば、2016年全体は2015年を下回るかもしれない。トランプ現象が象徴しているように、豊かさを実感できない米国人が増えていることもクリントン氏には逆風だろう。

 「(クリントン氏は)金融機関やエスタブリッシュメントの代弁者」というサンダース氏からの執拗な攻撃もあって、クリントン氏の好感度は下落の一途をたどっている。

 4月に実施された米NBCテレビと米ウォールストリート・ジャーナルの世論調査で不支持率(56%)が支持率(32%)を大きく上回った。別の好感度調査でも数値の悪化が著しい。トランプ氏の数値が輪をかけて低いため、対トランプという面では優位を保っているが、好感度の低下がクリントン陣営のアキレス腱になっているのは確かだ。

 好感度が自身の対応によって改善可能なのに対して、経済動向はクリントン氏の意思でどうにかなるものではない。党候補としての指名は確実にしたが、大統領就任への道のりはすんなりとはいきそうにない。

(ニューヨーク支局 篠原 匡)

高濱 記事

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トランプ氏は共和党の結束を呼びかけるが…(写真:ロイター/アフロ )

—共和党では5月3日、インディアナ州での予備選が終了した直後に、テッド・クルーズ上院議員とジョン・ケーシック・オハイオ州知事が相次いで撤退してしまいました。その結果、不動産王のドナルド・トランプ氏の指名が事実上決まりましたね。

高濱:実は、クルーズ氏はインディアナ州予備選で負けても、もう少し頑張ると思っていました。意外と引き際が早かったですね。

 でも対抗馬がいなくなったとはいえ、トランプ氏が正式な共和党の大統領候補に直ちになるわけではありません。予定されている残り9州の予備選・党員集会は粛々と行われます。そして7月18日からクリーブランドで開かれる党大会で承認を得なければなりません。

 トランプ氏はこれまで対抗馬や共和党の既成の保守主流派を激しく批判してきました。ここに来て、そのツケが回ってきています。共和党主流派の大物の中にはトランプ氏が指名されるのを嫌がり、猛反発しているのです。

マケイン、ロムニー、ブッシュ一家は党大会ボイコットへ

 「トランプが共和党の大統領候補に指名されるような党大会には出ない」と言い出している党内の大物が後を絶ちません。

 前回の大統領選で共和党の候補となったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事や、前々回の共和党候補となったジョン・マケイン上院議員はいずれも党大会をボイコットすると言い出しています。またブッシュ一家も全員欠席すると発表しています。ジョージ・W・H・ブッシュ第41代大統領、ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領の両大統領、及び、今回予備選に出て途中で撤退したジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事ですね。

 党大会の委員長を務めることになっているポール・ライアン下院議長は5月5日、「現段階ではトランプ氏の指名はまだ認められていないし、支持しない」と発言しています。その理由として「トランプ氏が共和党の価値観や理念を共有しているかどうか、見極める必要がある」としています。 (”Romny skipping GOP convention, joins list of presidents, leaders,” Tom LoBianco, CNN, 5/6/2016)

 こうした動きにトランプ氏は「党大会に出たくない奴は出なくて結構」と負け惜しみを言っています。共和党内の亀裂は深まるばかりです。

—となると、いくら政治の世界の常とはいえ、共和党の一本化は一朝一夕にはいきそうにありませんね。

高濱:米大手紙政治記者の一人は私にこう囁きました。「ブッシュ一家の欠席は、氷山の一角にすぎません。共和党主流派の中には同調する者がまだまだいるはずです。彼らは『トランプでは本選挙でヒラリー・クリントン(前国務長官)には勝てない。その責任を俺たちはとらないぞ』と言っているわけです。『トランプが共和党候補に指名されてしまった後の党立て直しを真剣に考え始めなければならない』と発言する党幹部もすでに現われています」。

ヒラリーは早ければ5月17日には指名獲得

—一方、民主党のほうは、バーニー・サンダース上院議員が善戦していますね。

高濱:インディアナ州の予備選ではサンダース氏が総投票数の52.4%を獲得して、クリントン氏(47.6%)を抑えました。しかし民主党は同州で比例割り当て制をとっているため、サンダース氏の獲得代議員数は43人、クリントン氏は37人となりました。

民主党予備選は、インディアナ州のあとは、5月7日のグアム(代議員数12人)、10日のウェストバージニア州(同34人)と続きます。

 クリントン氏に投票する特別代議員が多いことを考えると、同氏は、早ければ5月17日のケッターキー、オレゴン州予備選あたりで指名を確定しそうです。指名獲得に必要な代議員数は2383人。クリントン氏の獲得代議員数は5月6日に現在、2205人です。

 クリントン氏を悩ませる心配事の一つだった国務長官時代の電子メール公私混同使用にまつわる国家機密漏えい疑惑も、4月上旬にはケリがついたとの報道が流れています。クリントン氏に最も近い側近である女性が米連邦捜査局(FBI)から事情聴取を受けて捜査は終結、つまりクリントン氏は「シロ」との判断がなされたようです。CBSテレビは5月7日、「FBIは今後数週間のうちにクリントン氏とインタビューする」と報じています。これが何を意味するのか分かりませんが、「幕引き」ではないかと観測する向きもあります。

「トランプ旋風」が吹き荒れるのは予備選段階まで?

—日本では、「トランプ大統領が実現する可能性は皆無ではないんじゃないか」といった見方が出始めています。米国のメディアや一般市民はどう見ているのでしょう。

高濱:トランプ氏とクリントン氏の一騎打ちになった場合、どちらを支持するかという各種世論調査では、クリントン氏がトランプ氏に10%から16%の差をつけています。 (” Latest 2016 Presidential General Election Polls.” RealClear Politics, 5/4/2016)”

 私が定点観測していて気付いたのは、二つの現象が同時に起こっていることです。一つは、メディアが「トランプ旋風」について報道すればするほど、「それじゃ、俺もトランプに一票入れるか」と考える一般の共和党員が増えたこと。

 こういう声を何人かの共和党支持者から聞きました。本選挙でクリントン氏に勝てるかどうかは眼中にないんですね。ある中年白人男性は「トランプに票を入れるのはエンタテインメント(余興)だよ」とまで言っていました。

 もう一つの現象は、「共和党の外」で起こっています。「反トランプ」現象が先鋭化し、燎原の火のように広がっているのです。トランプ氏は完全に四面楚歌の状況にあります。

 この現象は、今後強まることはあっても弱まることはないように思います。一般大衆だけでなく、外交専門家や宗教家も加わって楚歌を歌っているのです。日本や欧州の同盟国の学識経験者たちもこうした「反トランプ」に加わっているのではありませんか。ほかの国が米国をどう思っているのかを、米国人はすごく気にする国民です。

 ある主要シンクタンクで、大統領選を30年間研究してきたベテラン研究員が私にこう指摘しました。「この『反トランプ』現象は本選挙に突入すると、トランプ氏に対して原爆並みのインパクトを与えかねないと思います。その結果は、火を見るより明らかです。トランプ氏は惨敗するでしょう」。

反トランプで結集するヒスパニック、黒人、女性票

 「反トランプ」現象の中心的役割を演じているのはメキシコ系の人たちです。

 トランプ氏は、メキシコ系不法移民を「強姦魔」「殺人犯」と呼びました。不法移民の国外退去や不法入国を阻止するためメキシコ国境に壁を構築する計画を打ち出しています。これにメキシコ系をはじめとするヒスパニック系が黙っているはずがありません。

 ヒスパニック系は一世代前にはカリフォルニア州やテキサス州に集中していました。しかし今ではコロラド、ノースカロライナ、フロリダといった州にも拡散しています。カリフォルニア州についていえば、ヒスパニック系の人口が白人の数を2014年に、超えました。

 数だけではありません。ヒスパニック系国民の平均年齢(中央値)は28歳。これに対して白人は43歳です。若くなるほどヒスパニック系の割合が高くなっているのです。近年、これらヒスパニック系に対して有権者登録するよう呼びかけるキャンペーンをスペイン語のテレビ局などが中心になって続けています。

 彼らの大半は共和党員や支持者ではありません。従ってトランプ氏を指名した共和党予備選や党集会には参加していません。 (” The Nation’s Latino Population Is Defined by Its Youth,” Hispanic Trends, Pew Research Center, 4/20/2016)”

 私の住むカリフォルニア州で「反トランプ」の急先鋒となっているのはヒスパニック系の人たちです。5月1日のメーデーにはロサンゼルスなどで数千人が「反トランプ」を訴えるデモに参加しました。デモはサンフランシスコや、オークランドなどでも行われました。トランプ支持者と衝突して逮捕者まで出ています。 (”May Day rallies in Los Angeles,“, Los Angeles Times, 5/2/2016)”

「女性カード」を逆手にとったクリントン陣営

 本選挙になってトランプ氏に襲いかかるのは、ヒスパニック系だけではなりません。ヒスパニック系を「前門の虎」とすれば、「後門の狼」はトランプ氏を生理的に嫌っている女性と黒人です。

 トランプ氏は女性蔑視発言を繰り返しています。4月26日には「ヒラリー・クリントンが男だったら獲得した票の5%も取れないだろう。ヒラリーには『女性カード』(Woman Card)を使うしか手がないのだ」と発言しました。

 これに対してクリントン氏は「女性のために戦うことが『女性カード』だというのなら受けて立つ」と反撃しました。ピンク地の紙にトイレなどに使われる女性のマークをあしらった実物の「女性カード」を作成し「1ドル献金してくれれば誰にでも差し上げます」と募ったところ、女性有権者から注文が殺到しているそうです。 (” Woman Card,” The Official Hillary for America)”

「支離滅裂」「落第論文」と散々だったトランプ外交演説

—トランプ氏が4月27日に行った外交演説に対する米国内の反応はどうでしたか。その後もトランプ氏は「日本は駐留米軍の費用を全額負担せよ」などと発言していますね。

高濱:トランプ演説に対する外交問題専門家たちの評価は散々でした。トランプ氏を評価する専門家を探し回りましたが、一人もいませんでした。厳密に言うと一人だけいましたが、実名でコメントするのは拒否されました(笑)。

 専門家たちから見て、トランプ演説のどこが不評なのか。

 第一に米国の伝統的外交理念からあまりにもかけ離れた内容だったことです。米国は建国以来、「自主独立」(Sovereign Independence)、「国利・国益」(National Interests)、「全世界における自由のため」(Cause of Liberty in the World)を重視してきました。 (” America’s Founders and the Principles of Foreign Policy,” Matthew Spalding, www.heritage.org., 10/15/2010)”

 ところが「トランプ演説にはこういった言葉が1回も出てこない」(米国務省OB)のです。

 不評であるもう一つの理由は、いやしくも大統領候補を目指すにもかかわらず、演説の構成がめちゃくちゃなことです。

 カリフォルニア大学バークレイ校に籍を置く政治学教授の一人が私にこう言いました。「演説の内容は支離滅裂で、矛盾だらけ。国際情勢に疎い、一米市民の思いつきを並べ立てた即席スピーチとしかいいようがない。うちの学生がこんな論文を書いたら間違いなく落第点をつけるね」。

 著名な政治コラムニストのピーター・ベイナート元「ザ・ニューリパブリック」編集長は、トランプ氏が外交演説に盛り込んだ外交の基本理念についてこう指摘しています。「共和党大統領候補の指名を受けようとする者がこんなことを言うのは理解に苦しむ。撤退したマルコ・ルビオ(上院議員)、ジェブ・ブッシュ(元フロリダ州知事)、リンゼー・グラハム(上院議員)、ロムニー(前共和党大統領候補)だったらこんな外交演説はしないだろう」。

 「まともな共和党大統領候補ならこう言うはずだ。『国際社会にはイラン、北朝鮮、中国、シリア、キューバ、過激派イスラム集団など悪の政府や社会組織がある。こうした勢力がのさばり始めたのは、正義のために戦う国家であることを放棄してきたオバマ大統領とクリントン前国務長官のせいだ。私が大統領になったなら米国は正義のために戦う国家であることを再確認する。そして我が国の軍事力を再強化し、自由と束縛からの解放のためにその軍事力を行使する。ちょうどロナルド・レーガン(第40代大統領)がやったように』。」

 「レーガンは自らの理念を維持する一方で、実践ではより賢明に立ち振る舞った。対中接近を図る一方でソ連に圧力をかけている」 (” Donald Trump and the GOP Traditional Foreign-Policy Incoherence,” Peter Beinart, the atlantic.com, 4/28/2016)”

日本はトランプの対日政策に真正面から反論せよ

—トランプ氏の対日スタンスについて、米国内の専門家たちはどう見ていますか。

高濱:トランプ氏の対日批判の柱は大きく二つあります。一つは防衛面、もう一つは通商面です。

 トランプ氏は共和党候補への指名が事実上確定した後も「私が大統領に就任したら、日米安保条約に基づき日本防衛のために米軍が支出している国防費の全額を負担するよう日本に求める」とCNNテレビとのインタビューで答えています。 (” Election 2016: Donald Trump Wants Japan to Pay More For American Military Facilities,” Lydia Tomkiw, IBT, 5/5/2016)”

 トランプ氏はこれまで「日本が攻撃されたら米国は助けに行くのに、米国が攻撃を受けても日本は助けに来ない。日米安保条約は片務的だ。日本が米国に守ってもらいたいのであればもっと分担すべきだ」と言ってきました。その主張が今も変わらないことを明確にしたわけです。

 日米安保体制の経緯や内容について全く知らない米国の一般庶民は「そうだ、そうだ」と共鳴しています。トランプ氏はこの主張を本選挙でも繰り返すかもしれません。

 日米安保体制に精通している軍事・外交専門家たちは「呆れて開いた口が塞がらない」(元国務省高官の一人)といった感じです。トランプ氏が露わにした米大衆が抱く日米同盟への認識と専門家との間には大きなギャップがあるわけです。(関連記事:「 (大衆が抱く日米同盟への認識、トランプが露わに」)

 こうした認識のギャップを埋めるために、両国政府当局をはじめとする専門家が大衆を啓蒙することが必要であることを痛感します。

 藤崎一郎元駐米大使が5月1日付の「ザ・ワールド・ポスト」(米ハフィントン・ポスト系列のオンラインメディア)に「米国の友人たちへの手紙」と題する一文を寄稿しました。一般大衆が読むとは思えませんが、トランプ氏の主張に日本サイドからもきちんと反論することは重要だと思います。

 藤崎氏の主張は次のようなものでした。 1)日本は防衛面でタダ乗りしているというが、日本は在日米軍駐留費として1年間に20億ドル近くのカネを出している。 2)米国は日本を防衛する義務を受け入れる代わりに日本国内の施設使用を許されている。それにより極東地域の平和と安全を維持するという米国の国益を堅持している。さらに日本が昨年、集団的自衛権の行使に関する解釈を変更することで日米軍事協力が一層強化された。  3)日本の市場は閉鎖的で、その結果、米国の対日貿易赤字が増大しているという主張は80年代のものだ。日本の企業は今や米国内に工場を建設し、製品を現地生産している。これにより70万人の雇用を生み出している。米国製のクルマが日本で売れないのは貿易障壁のせいではなく、需要と供給の問題だ。 (” A Letter to American Friends,” Ichiro Fujisaki, The World Post, 5/1/2016)”

本選挙でクローズアップされる為替とTPP

—トランプ氏は、「日本は為替を操作している」とも批判していますね。クリントン氏も同様のことを、米紙への寄稿文で2月に主張しています。「日本や中国は何年にもわたって通貨の価値を下げて輸出品の価格を人為的に安くしてきた」と。

高濱:安倍政権がアベノミクスで大幅な金融緩和を行った結果、円安が進行しました。この円安傾向を見て、「日本は為替操作をしている」との声が米国内には以前からありました。

 米上院議員団は2月10日、輸出促進を目的とした為替操作への対応を強化するため貿易円滑化・貿易執行法を成立させました。議員団の一人、チャック・シューマー上院議員は記者会見で「日本や中国は為替操作し、米国から何百万もの雇用を盗み、米国をばかにしてきた」と述べています。

 こうした米議会の動きを反映してトランプ、クリントン両氏も日本や中国、韓国、ドイツ、台湾の為替操作を取り上げているわけです。

オバマ政権も為替問題が米大統領選で議論の的になっていることを真剣に受け止めています。その証拠に財務省は4月29日、日本など5か国・地域を為替政策の「監視リスト」に載せ、通貨安誘導を目的とした為替介入への警戒感を打ち出しています。

 5月3日の外国為替市場で円相場が急伸し、1年半ぶりに1ドル=105円台を付けました。日本政府は過度な円高をけん制しています。が、米財務省の「監視リスト」に載ったため市場介入に動きづらくなっています。

 為替問題とともに、安倍政権が重視する環太平洋経済連携協定(TPP)問題も本選挙でクローズアップされる雲行きになってきました。ご存知の通りクリントン、トランプ両氏ともにTPPには反対の姿勢を取っています。

トランプは「原爆投下正当論」を打ち上げるか

 日米関係にかかわることで危惧される問題がもう一つ、ワシントンの日米関係筋の間で浮上しています。5月26~27日に開かれる伊勢志摩サミットに出席するオバマ大統領による広島訪問です。広島への原爆投下について米国民の半数以上が「正しかった」と答えています。したがってオバマ大統領による広島訪問を「原爆投下への謝罪」と受け止める米国人がいるかもしれません。

 この広島訪問について、米メディアがトランプ氏にコメントを求めるのは必至です。そこでトランプ氏がオバマ攻撃をする可能性が十分考えられます。それを受けてクリントン氏との間で「原爆投下の是非」に関する論争が起こるかもしれません。

 国務省の元高官の一人が、私にこうコメントしています。「そうなるかどうか、神のみぞ知るだね。トランプは本質的にはnon-serious person(不真面目な男)。ナンセンスなことでも思いつくと口に出す。メディアはそれを喜んで取り上げる。衆愚の代弁者なのに」。

「宗教保守」は本選挙では棄権か

—クリントン対トランプの一騎打ちの話に戻ります。予備選の前半戦に大きな影響を与えた「キリスト教保守」や草の根保守「ティーパーティ」(茶会)の人たちの声はどこへ行ってしまったのでしょう。少なくともトランプ氏の言動には伝統的なキリスト教の理念とか思いやりは全く感じられないのですが。

高濱:予備選を振り返えると、緒戦のアイオワ州やニューハンプシャー州での共和党予備選・党集会でキーワードになっていたのは「キリスト教保守」でした。共和党各候補は「宗教保守票」を競い合いました。

 アイオワ州では宗教保守の支持を得たクルーズ氏がトランプ氏を破ってトップに立ちました。信仰心が篤いとされる元精神科医、ベン・カーソン氏も宗教保守票を集めました。しかし、予備選がここまで進んでトップを走っているのはキリスト教とは無縁の「暴言王」のトランプ氏です。

 トランプ氏の指名が確実視される中で、キリスト教プロテスタントの著名な神学者や牧師ら52人が4月29日、次の共同声明を発表しました。

 「トランプ氏は自らの政治的野心のために、米国民の間に潜在的に存在する憎悪を弄んでいる。米国内のキリスト教会は今、倫理的脅威に見舞われている。(トランプ氏によって)我が国とその歴史における最も悪質な価値観が俗悪な言動と手法によって露呈しているからだ。米国政治の底辺に潜在的に存在してきた人種、宗教、性別に対する頑迷さが(トランプ氏によって)今、白日の下に晒されている。この億万長者は倫理的、宗教的脅威を作り出している」

 署名者の中には権威ある宗教雑誌「ソジョナーズ」(寄留者)の編集主幹、ジム・ウォリス氏やブライアン・マクリーン牧師、ステーブン・シェネック米カトリック大学教授などリベラル派の神学者が名を連ねています。

 「キリスト教保守」の有権者たちはこうした神学者たちの意見に耳を傾けるでしょうか。

 プロテスタント宗派の一つ、メソジスト教団の牧師で、共和党を支持しているアジア系女性の一人が、私にこう述べています。「神学者や牧師による共同宣言がトランプ氏にとってマイナス要因になるのは間違いありません。だからと言って、彼らが本戦でクリントン氏に投票するとは限らない。棄権することも十分に考えられます。少なくとも私はその一人です」

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