『米国のパンチかわそうと抱擁してみせた南北首脳 これで韓国は完全に北朝鮮側に立った』(5/27日経ビジネスオンライン 鈴置高史)、『仕切り直しの米朝会談、完全非核化は出口に?!核を放棄させる好機は「南北統一」にあり』(5/28日経ビジネスオンライン 森 永輔)、『朝鮮人民軍に翻弄される米朝首脳会談 「トランプ方式」なら非核化に合意も』(5/28日経ビジネスオンライン 重村智計)、『トランプが米朝会談中止の大バクチを平気で打てた理由』(5/28ダイヤモンドオンライン 上久保誠人)について

紹介記事が長いのでコメントは短く。いろいろ読んで感じることは、日本も核武装しないと駄目なのではという事です。トランプがCVIDを諦め妥協するかもしれないし、武貞氏のようにいろいろ理屈を付けて朝鮮半島を核保持のまま統一しようと考え、日本にやがて投下させようと思っているのではと疑います。武貞氏の言う統一の先にある図は何かを聞きたい。何もないでしょう。騙されてはいけません。あなたの祖国はどこですかと聞きたい。統一朝鮮に日本は金を出す必要はありません。米朝戦争の戦費は勿論出しますが。それが日本の拉致被害者救出、北朝鮮国民の為になるので。

重村氏の記事を読めば、軍がそれだけ力があるのであれば、トランプはクーデターを興させるように画策した方が良いのでは。それこそ直前に会談をキャンセルして。その方が北朝鮮国民にとってハッピーでは。上久保氏の議論は、日本はどうすべきの議論が抜けていると感じました。

鈴置記事

南北会談で抱擁を交わす金委員長(左)と文大統領(写真:The Presidential Blue House/ロイター/アフロ)

前回から読む)

5月26日午後、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と文在寅(ムン・ジェイン)大統領が板門店の北側施設で突然、会談した。トランプ(Donald Trump)大統領が軍事的な圧迫を強めるのに対抗、南北はスクラムを組んで見せたのだ。

仲介を誇った文在寅

鈴置:文在寅大統領は5月27日午前10時から青瓦台(韓国大統領府)で会見し、前日の南北首脳会談に関し説明しました。

2次南北首脳会談 結果発表文」(5月27日、韓国語)から、大統領の発言のうち、米朝首脳会談に関連する部分を引用します。

・私は先週の韓米首脳会談の結果を説明した。金委員長が完全な非核化を決断し実現した場合、トランプ大統領には北朝鮮との敵対関係の終息と、経済協力に対する確かな意思があるとの点を伝えた。
・金正恩委員長は板門店宣言に続き再度、朝鮮半島の完全な非核化の意思を明らかにされた。
・(さらに)朝米首脳会談の成功を通じ、戦争と対立の歴史を清算し、平和と繁栄のために協力したいとの意思を披歴された。

要は、自分はトランプ大統領と金正恩委員長の間を仲介し、北朝鮮の米朝首脳会談への意欲を引き出した、と誇ったのです。

米とは異なる非核化

—本当に「仲介できた」のでしょうか?

鈴置:「できなかった」と思います。金正恩氏が明らかにしたという「非核化の意思」が、米国の要求する「完全な非核化」とは全く異なるものだったからです。

北朝鮮も5月27日午前6時に朝鮮中央通信を通じ、前日の南北首脳会談を報じました。「歴史的な第4回北南首脳対面 最高指導者金正恩委員長が文在寅大統領と再開し会談を行う」(日本語版)から「米朝」関連部分を拾います。

なお、「第4回」とあるのは、2000年6月と2007年10月の南北首脳会談から通算した数字です。前者は金大中(キム・デジュン)大統領が、後者は盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が、金正日(キム・ジョンイル)総書記と平壌で会いました。

・北南の両首脳は、朝鮮半島の非核化を実現するために共同で努力するという立場を表明し、今後、随時会って対話を積極化し、知恵と力を合わせていくことについて見解を同じくした。
・金正恩委員長は、6月12日に予定されている朝米首脳会談のために多くの努力を傾けてきた文在寅大統領の労苦に謝意を表して歴史的な朝米首脳会談に対する確固たる意志を披れきした。
・金正恩委員長は、朝米関係の改善と朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制の構築のために今後も積極的に協力していこうと述べた。

核保有を認めよ

—米朝首脳会談には意欲を示している……。

鈴置:確かに、金正恩氏は6月12日にシンガポールで予定されていた米朝首脳会談の実現に意欲を示して見せました。しかし、「非核化」に関しては「努力する」と言ったに過ぎません。

それどころか北朝鮮がこう言った場合、「核は放棄しない」と主張していると見るべきなのです。「自らを核保有国として認めろ。そのうえで米国とは核軍縮を交渉しよう」というのが北の基本的な姿勢です(「しょせんは米中の掌で踊る南北朝鮮」参照)。

「非核化に向け努力」の「努力」とは核軍縮交渉を指します。5月24日、北朝鮮は核実験場を爆破して見せました。その際も「(実験場の破壊による)核実験の中止は、世界的な核軍縮のための重要な過程である」と表明しています。あくまで「核保有国が軍縮に努力している」との立場なのです。

米朝首脳会談にいくら意欲を示して見せようが、「核保有国であることを認めろ」と主張し続ける限り、北朝鮮との首脳会談に米国は容易には応じないでしょう。

仲人口、再び

—でも、文在寅大統領は「完全な非核化の意思を明らかにした」と説明しました。

鈴置:縁談を無理にまとめようと、双方に美しい話をする「仲人口(なこうどぐち)」の典型です。

米朝会談の開催が話し合われた時から韓国には「この仲人口外交が米朝関係を、さらには韓米関係を破局に追い込みかねない」との危惧がありました(「『文在寅の仲人口』を危ぶむ韓国の保守」参照)。

5月27日の会見でも、韓国記者が「金正恩委員長の(非核化に関する具体的な)発言を明かして欲しい。北朝鮮が主張してきた段階的な非核化から進展があったのか」と追及しました。

「仲人口」を疑ったのです。朝鮮中央通信の記事を読めば、誰しもが疑います。が、文在寅大統領は答えを避けたうえ「(米朝の)非核化の意思は同じでも、どう実現するかで両国間の協議が要る」と話をずらしました。

このやりとりはNEWS1の「一問一答 文在寅大統領 第4回南北首脳会談を自身で説明」(5月27日、韓国語)で読めます。

やはり運転席に座っている!

—では、この南北首脳会談は何のために開催したのですか?

鈴置:文在寅政権は「北朝鮮の核問題で主導権を握ることができていない」「それどころか関係国から無視されている」との批判を浴びていました。

5月16日に予定されていた、北朝鮮との閣僚級会談は当日になってキャセルされてしまいました(「トランプと会うのが怖くなった金正恩」参照)。

加えて、トランプ大統領の北朝鮮への首脳会談中止通告(「米朝首脳会談中止通告、『最後通牒』で投降促す」参照)。前々日に米韓首脳会談を開いたのに、それも相談されなかった。

米朝首脳会談は平昌冬季五輪をきっかけに浮上しましたから、韓国人は「我が国が米朝を仲介した。運転席に座った」と胸を張っていた。それが突然、米朝双方から無視されるようになったので、政権は困り果てていました。

そんな中、南北首脳会談を開き再び、米朝の仲介役を演じることができました。よく見れば「演じている」に過ぎませんが、普通の人は細かいことは気にしません。

大統領が会見で「日常生活で友達同士が会うようになされた今回の会談には大きな意味がある」と言えば「そうだな」と感じる人が多いと思います。

閣僚級会談の6月1日開催が決まったので「北から無視された」と国民の不満を多少は解消できるでしょう。

会談は北朝鮮にとってこそ必要だったのです。会見で大統領が「一昨日(5月25日)午後、金正恩委員長が形式的なことはいっさい抜きにして会いたい」と伝えてきた」と明かしています。

5月24日のトランプ大統領の首脳会談中止通告に、北朝鮮は震え上がりました。金正恩委員長への書簡は、要は「首脳会談に応じなければ、どうなっても知らないぞ」というものでした。

北朝鮮のわび状

—「核戦争をも辞さない」とのくだりもありました。

鈴置:同日の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官の談話で「米国がわれわれと会談場で会うか、でなければ核対核の対決場で会うかどうかは全的に、米国の決心と行動いかんにかかっている」なんて突っ張るから、言い返されてしまったのです。

そこで北朝鮮は、そさくさと「わび状」を書きました。5月25日朝、「会談に応じる」との金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官の談話を発表したのです。

実は、トランプ書簡以上に、北朝鮮を震撼させたと思われる文書があります。書簡を発表して約2時間後にトランプ大統領が会見で以下のように語ったのです。

ホワイトハウスの「Remarks by President Trump at Signing of S. 2155, Economic Growth, Regulatory Relief, and Consumer Protection Act」(5月24日、英語)から、関係する部分を引用します。

・I’ve spoken to General Mattis and the Joint Chiefs of Staff. And our military — which is by far the most powerful anywhere in the world and has been greatly enhanced recently, as you all know — is ready if necessary.
・Likewise, I have spoken to South Korea and Japan. And they are not only ready should foolish or reckless acts be taken by North Korea, but they are willing to shoulder much of the cost of any financial burden, any of the costs associated by the United States in operations, if such an unfortunate situation is forced upon us.

韓国は米国側で戦う

トランプ大統領はまず「世界でもっとも強力な米軍に必要な(戦争に向けた)準備を命じた」と脅しました。

さらに「韓国と日本にも、北朝鮮がバカなことをしでかしても対処できるよう話してある。それだけではなく韓日は『米軍の活動に伴う費用の相当部分を引き受ける』と言っている」と語ったのです。

特に後段は、北朝鮮にとって相当な衝撃を与えたでしょう。米朝が戦端を開く際、韓国は中立を宣言すると文在寅政権は示唆してきました(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。

北朝鮮にとって「韓国の中立化」こそが、米国による攻撃を予防する材料の1つだったのです。

専門家によれば、北朝鮮を空爆するのには韓国の基地は必ずしも必要ではない。海から、あるいはグアムや日本の米軍基地からの攻撃で十分だからです。ただ、政治的には同盟国が中立を宣言し反対するなか北を攻撃できるのか、との問題は残るからです。

ところがトランプ大統領は「いざとなれば韓国は米国側で戦う」と語ったのです。北朝鮮は頭を抱えこんだことでしょう。

戦争への歯止めを失えば、外交的な選択も狭まります。米国が迫る首脳会談を受けなければ、攻撃を受ける可能性がグンと増す。首脳会談に応じた際も同様です。

「米朝首脳会談、3つのシナリオ」をご覧下さい。米国からは、即刻、完全に核を放棄するリビア方式を要求されるでしょう。これを「拒否する」選択肢は極めてとりにくくなります。

  • 米朝首脳会談、3つのシナリオ
米国、リビア方式での非核化を要求
北朝鮮が受諾 北朝鮮が拒否
①米国などによる核施設への査察開始 ②米朝対話が継続 ③米国、軍事行動ないし経済・軍事的圧迫強化

軍事カードを使いやすくなった米国は、北が時間稼ぎをして②「対話継続」に持ち込むことを許さないでしょう。米国が③に進むにしろ、時間のかかる経済制裁の強化よりも、即効性の高い軍事行動に出やすくなります。

北朝鮮側に立つと約束

—そこで北朝鮮は……。

鈴置:急きょ、韓国に首脳会談を申し込んだのだと思います。文在寅大統領に直接会って「あのトランプ発言はどうなんだ。米国と一緒になって攻めてくるつもりか」と問い質したでしょう。金正恩委員長がなじったのか、あるいは哀願したのかは分かりませんが。

文在寅大統領は「安心しろ。中立は守るから」と言ったと思われます。先に引用した北朝鮮側の発表に「答」があります。

・北南の両首脳は、朝鮮半島の非核化を実現するために共同で努力するという立場を表明し、今後、随時会って対話を積極化し、知恵と力を合わせていくことについて見解を同じくした。

「朝鮮半島の非核化」が「北朝鮮の核保有を米国に認めさせる」ことを意味することはすでに述べた通りです。

その実現に向け「北南の両首脳が共同で努力する」と言い切っていることに注目下さい。要は、文在寅大統領は「核問題で韓国は北朝鮮側に立つ」と改めて約束したのです。

ひしと抱き合う写真

—北朝鮮側が勝手に言っている可能性は?

鈴置:あり得ません。南北が合意した「板門店宣言」にも同様のくだりがあるからです(「『民族の祭典』に酔いしれた韓国人」参照)。

・南と北は、完全な非核化を通じて核のない韓半島を実現するという共通の目標を確認した。
・南と北は、北側が取っている主動的な措置が韓半島の非核化のために非常に意義があり、大きい措置だという認識を共にして、今後それぞれ、自己の責任と役割を果たすことにした。
・南と北は、韓半島の非核化のための国際社会の支持と協力を得るために積極的に努力することにした。

5月26日の南北首脳会談は、4月27日の「南北」で交わした板門店宣言の中核である「核問題での共闘」を再確認するのが目的だったのです。

—その「南北共闘」はさりげなく謳われただけです。米国への有効なメッセージになるでしょうか?

鈴置:確かに。そこで南北は演出したと思います。両首脳がひしと抱き合っている写真です(1ページ目参照)。韓国は5月26日夕刻に同日午後の首脳会談開催を発表した。しかし中身に関しては翌27日の午前10時まで明かさなかった。

世界のメディアはこのニュースを報じる際、「南北抱擁」などの写真を中心に報じるしかなかった。結果、たいして中身のない会談だったけれど、「南北が運命を共にする覚悟」は世界に発信できたのです。

南北共闘で時間稼ぎ

—でも、どんな小細工をしようと北朝鮮は――南北朝鮮は、絶体絶命の窮地にあります。

鈴置:その通りです。首脳会談に応じても、応じなくても米国から軍事攻撃される可能性が高まった。少なくとも経済制裁の強化は免れない。

こうなったら、米朝首脳会談を開くか開かないか、をあやふやにすることで時間稼ぎするしかありません。南北は、口では「米朝」に前向きですが、本当に開いたら地獄が待っているのです。

—トランプ大統領が開催に前向きの発言に転じました。

鈴置:AFPの「米朝会談、6月12日開催に向け『非常に順調』トランプ氏」(5月27日、日本語版)によると5月26日、大統領は「(米朝首脳会談は)非常に順調に進んでいる」「われわれは6月12日にシンガポールでの開催を目指している。そのことに変わりはない」と語りました。

それこそ北朝鮮――南北朝鮮への圧迫でしょう。「会談に応じろ」との。

  • 北朝鮮の非核化を巡る動き(2018年)
1月1日 金正恩「平昌五輪に参加する」
1月4日 米韓、合同軍事演習の延期決定
2月8日 北朝鮮、建軍節の軍事パレード
2月9日 北朝鮮、平昌五輪に選手団派遣
3月5日 韓国、南北首脳会談開催を発表
3月8日 トランプ、米朝首脳会談を受諾
3月25―28日 金正恩訪中、習近平と会談
4月1日頃 ポンペオ訪朝、金正恩と会談
4月17―18日 日米首脳会談
4月21日 北朝鮮、核・ミサイル実験の中断と核実験場廃棄を表明
4月27日 南北首脳会談
5月4日 日中と中韓で首脳の電話協議
5月7-8日 金正恩、大連で習近平と会談
5月8日 米中首脳、電話協議
トランプ、イラン核合意から離脱を表明
5月9日 ポンペオ訪朝、抑留中の3人の米国人を連れ戻す
日中韓首脳会談
米韓首脳、電話協議
5月10日 日米首脳、電話協議
5月16日 北朝鮮、開催当日になって南北閣僚級会談の中止を通告
5月16日 北朝鮮、「一方的に核廃棄要求なら朝米首脳会談を再考」との談話を発表
5月20日 米韓首脳、電話協議(米東部時間では5月19日)
5月22日 米韓首脳会談
5月24日 北朝鮮、米韓などのメディアの前で核実験場を破壊
5月24日 トランプ、金正恩に首脳会談中止を書簡で通告
5月26日 南北首脳会談、板門店の北側施設で
6月8-9日 G7首脳会議、カナダで
6月12日 史上初の米朝首脳会談?

(次回に続く)

森記事

韓国で、米朝首脳会談を求める示威運動が行われた(AFP/アフロ)

トランプ米大統領が5月25日 、米朝首脳会談を「中止」する意向を明らかにしたと報じられた。北朝鮮の非核化の行方を注視していた世界中が驚きに包まれた。しかし、朝鮮半島問題の専門家、武貞秀士氏はトランプ氏の意図は「中止でない」とみる。

(聞き手 森 永輔)

—米ホワイトハウスが5月24日、ドナルド・トランプ大統領が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長に宛てた書簡を公表。「私は現時点ではこの長く計画してきた会談を実施するのは不適切だと感じる。よって(中略)シンガポールでの会談は実施しないと表明する」と記されていることが明らかになりました。トランプ大統領はなぜこの時期に米朝首脳会談の中止を決定したのでしょう。

武貞:トランプ大統領は「中止」ではなく「仕切り直し」を提案したのだと思います。書簡の宛名が「金正恩委員長閣下」と非常に丁寧な表現になっていることがそれを示している 。そして、その後の展開から、米国も北朝鮮も首脳会談をキャンセルしたくなかったことが分かります。

武貞 秀士(たけさだ・ひでし)氏
拓殖大学大学院特任教授
専門は朝鮮半島の軍事・国際関係論。慶應義塾大学大学院修了。韓国延世大学韓国語学堂卒業。防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。2011年、統括研究官を最後に防衛省退職。韓国延世大学国際学部教授を経て現職。著書に『韓国はどれほど日本が嫌いか』(PHP研究所)、『防衛庁教官の北朝鮮深層分析』(KKベトスセラーズ)、『恐るべき戦略家・金正日』(PHP研究所)など。

まず米政権が書簡の内容を公表してからわずか半日で、北朝鮮が反応しました。金桂官(キム・ゲグァン) 第1外務次官が「わが方はいつでも、いかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があることを米国側にいま一度明らかにする」(産経新聞5月26日)と結ぶ談話を発表。この素早い反応はトランプ大統領にとってもサプライズ だったと思います。

トランプ大統領もすぐ「北朝鮮から温かく生産的な声明を受け取った」 とのメッセージをツイッターに投稿しました。「6月12日の開催もあり得る」との見通しも示しました 。

どちらもキャンセルしたくなかったのは明らかです。

「体制の保証」をめぐるすれ違い

—では、なぜトランプ大統領はこのような書簡を送ったのでしょう。

武貞:6月12日に会談を開催しても「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」 に合意できないことが明らかになったからでしょう。合意できなければ、対北強硬派であるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)などが収まりません。ならば「首脳会談は行わず、仕切り直した方がよい」とトランプ大統領は考えたのだと思います。

今日までの経緯を振り返ってみましょう。3月8日に韓国の特使、鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長がトランプ大統領と会談し、金委員長がトランプ大統領との会談を熱望していると伝えました 。金委員長は非核化の意欲を示すとともに、核・ミサイルの実験を凍結すると約束しました。米韓合同軍事演習にも理解を示したとされます。

トランプ大統領はこれを即座に受け入れ、会談に応じる考えを示しました。ここから米朝の協議がスタートしたわけです。

この時点では、トランプ大統領は、CVIDが実現できると考えていたと思います。しかし、協議が進むにつれ「体制の保証」と「非核化」についての理解が米朝間で異なることを悟った。

「体制の保証」について、トランプ大統領は「軍事境界線の北側にある北朝鮮を存続させる」「金委員長が統治する体制を崩壊させない」と理解していました。しかし北朝鮮が求める体制の保証は、米国が韓国に提供している核の傘をたたむことまで含むものでした。また「非核化」の進め方についても、米国が6カ月程度の期間内に一括して核装備を搬出することを想定したのに対し、北朝鮮は「段階的」に進め、その都度見返りを求める「相互」方式にこだわりました。

戦略爆撃機B52は認識の差の象徴

—米国が、この溝は埋めがたいものであると認識したのはいつでしょう。

武貞:北朝鮮が5月16日 に南北閣僚級会談を中止した時だと思います。この時、北朝鮮は理由として、米韓が空軍の合同演習「マックスサンダー」を実施したことと、この演習に核兵器搭載可能な戦略爆撃機B52を参加させたことを挙げていました。

米国は、B52を参加させても問題ないと考えていました。北朝鮮が「米韓合同軍事演習に理解を示す」意向であることを鄭安保室長から聞いていたからです。それにB52は、過去の米韓演習に何度も参加しています。1953年に休戦協定を締結して以来、戦争が起きていないことを考えれば、米韓相互防衛条約と在韓米軍、B52をはじめとする戦略爆撃機こそが北朝鮮の存続を保証する装置であるわけです。こう考える米国にとって北朝鮮が語る論理は非常に奇妙 なものに聞こえました。

しかし、「体制の保証」は①米国が核の傘をつぼめることと②韓国に提供する防衛を低下させることを含むと考えている北朝鮮にとって、B52の参加は、米朝首脳会談の開催で合意した後、受け入れがたいものになっていたわけです。

実際にはB52は参加していませんでした。現行のB52は核兵器を搭載してもいません。米国とロシアが結んだ新戦略兵器削減条約(新START) が核弾頭の数を制限しているためです。しかし北朝鮮は「改造すれば、すぐに搭載が可能になる」と猜疑心を高めています。

つまり、北朝鮮がいう「体制の保証」が朝鮮半島全体を対象に米国の関与を解消することを意味しているのに対し、米国が考える「体制の保証」は北朝鮮の体制存続を想定しているわけです。米国は北朝鮮の体制を保証する、つまり現状維持なら朝飯前、「取引(ディール)できる」と考えていた。しかし北朝鮮は米国の核の傘解消という現状の変更を求めていたわけです。

この認識の違いを残したままでは、6月12日の首脳会談で合意に至ることはできないと悟り、首脳会談の中止を決断した。しかし、米朝首脳会談が流れてしまえば、金正恩体制を中国側に追いやることになるし、南北交流は進展し続けるというリスクを理解したトランプ大統領は再交渉への期待を含んだ文言を入れた。書簡にある「この最も重要な首脳会談について考え直すことがあったら、遠慮なく私に電話するか手紙を書いてほしい」 という部分です。

つまりトランプ大統領は仕切り直ししようとしたのです。そして、北朝鮮が半日後に首脳会談開催の意義に触れたサプライズの談話を発表しました。いま首脳会談実現に向けて再交渉中ですが、米国は、期限を設け北朝鮮にCVIDを迫る方針からCVIDの内容を緩和する方向に舵を切りつつあるようです。

北朝鮮は“泣きを入れた”のか?

—金次官が25日に発表した談話は、北朝鮮が米国に対して“泣きを入れた”ようにも読めます。「トランプ大統領が中止理由に挙げた『怒りや敵対心』は、一方的な核放棄を迫る米側の行き過ぎた言動が招いた反発にすぎない」 (産経新聞5月26日)という表現は言い訳のように受け取れます。
「望ましくない事態は、米朝の敵対関係がどれほど深刻で、関係改善のための首脳会談がいかに切実に必要であるかを示している」は首脳会談を懇願しているニュアンスを受けます。

武貞:果たしてそうでしょうか。「トランプ大統領がこれまでどの大統領も下すことができなかった勇断を下し、首脳対面という重要な出来事をもたらすために努力したことについて、ずっと内心は高く評価してきた」は、褒められることに弱いトランプ大統領に対する誘い水でしょう。

「わが方は常に度量が大きく開かれた心で米国側に時間と機会を与える用意がある」という表現は上から目線ですらあります。

米朝首脳会談がもたらす6つのメリット

—厳格なCVIDの合意を取り付けることができなくとも米朝首脳会談を流すことなく実施することで米国はどんなメリットが得られるのですか。

武貞:第1は米国、もしくはトランプ大統領自身が主役になれること。北朝鮮が平昌オリンピックに参加して以降、今日まで、朝鮮半島をめぐる国際関係は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を中心に回ってきました。この主導権をわが手に取り戻す。

5月22日に米韓首脳会談が行われた際、文大統領が「米朝首脳会談は99%行われると信じる」と発言する傍ら、トランプ大統領は「どうなるか分からない」と語り、違いを際立たせました。トランプ大統領はこうしてでも、流れを米国に持ってきたかったのでしょう。そして、トランプ大統領が首脳会談キャンセルの手紙を韓国に事前通告することなく送ったのですから、文大統領のメンツは丸つぶれでした。

第2は、合意が成立しなくとも米朝協議が続くことで、北朝鮮との全面戦争が避けられること。トランプ大統領も戦争は望んでいません。

第3は北朝鮮が中国に一層近づく事態を避けられること。中国の最近の発言は「北朝鮮が核開発をしなければならないのは、米国が核で北朝鮮を脅かすからだ」ということを暗示しています。習国家主席は、第2回中朝首脳会談が行われた直後にトランプ大統領と電話協議し、北朝鮮の非核化プロセスでは「段階的な行動を望む」と伝え、北朝鮮の意向を考慮するよう迫りました 。

第4は、北朝鮮と韓国が米国抜きで関係改善を進める事態を避けられることです。

北朝鮮と韓国は4月27日に南北首脳会談を開きました(関連記事「日本が過小評価する南北宥和が狭める米の選択肢」)。これを「米朝首脳会談の前座」と評する向きがありますが、それは誤りです。この時に両国は、南北の宥和と核の問題を切り離し、非核化協議が膠着状態に陥っても南北が統一を自主的に進めることで合意したのです 。核の問題は米国に任せて、南北でできることをしていくということです。

そして第5は、少なくとも米朝協議が継続している間、米国は核技術や核物質の拡散を防止するべく北朝鮮の核開発を直接監視しやすくなることです。

最後の第6は、北朝鮮を舞台にした資源獲得競争に米国も参加できるようになることです。

核よりも大事な、資源をめぐる先陣争い

—北朝鮮を舞台にした資源獲得競争ですか。

武貞:はい、そうです。順にお話ししましょう。まず中国。習近平政権は、これまで経済発展が遅れてきた東北部・吉林省の開発に力を入れています。その一環として開発が遅れている吉林省の発展のために長吉図開発開放先導区という特区を設けた。長吉図はこの地域の中心となる3都市の頭文字を並べたものです。「長」は長春。「吉」は吉林市。「図」は中朝国境の町、図們。既に長春から図們までを高速鉄道で結んでいます。

中国はこの特区の延長線上に、北朝鮮・茂山の鉄鉱山の採掘や、北朝鮮の天然の不凍港である羅津(ラシン)港の活用を見据えています。茂山は、国境となる豆満江 を越えてすぐのところにある東アジア最大の鉄鉱山。韓国の鉄鉱石輸入量の100倍に相当する埋蔵量があると言われています。ここの独占採掘権を中国が握っており、北朝鮮の資源獲得は中国が先行しています。利権確保のために中国は、中朝国境にあるたくさんの橋を全額負担をして作り直し、北朝鮮の羅先市に続く道路の改修をしています。

南北が統一すれば我が物となるはずの鉄鉱資源を中国に取られていることに韓国はほぞをかんでいます。この状況を改め、北朝鮮に眠る資源を韓国が開発できるようにするための国策を探っている。文大統領が南北宥和を進めているのは単なる感情論からだけではありません。こうした実利も重視しての行動なのです。

中国に続いてロシアもこの資源競争に加わっています。ご存知のように羅津港第三埠頭の49年にわたる租借権を手にしています。ロシアと北朝鮮の国境のすぐ近くにある港ですね。冬はウラジオストック港が凍結するので、ロシアはどうしても羅津港は使用したい。北朝鮮での利権を確保するためにプーチン政権は金正恩体制に対して1兆1000億円の借金の返済免除をしています。

周辺国がこうした動きをしている中で、北朝鮮との国交がない米国は同国の資源にアクセスできずにいる。

—米国が北朝鮮の資源に注目しているのはどこから分かるのでしょうか。

武貞:マイク・ポンペオ国務長官の5月13日 が示しています。同長官はCVIDに向けて北朝鮮が行動を起こしたら経済再建を支援する意向を示しました。エネルギーとインフラ、農業技術を対象に民間部門による投資を認める。この分野における米企業の技術を提供する見返りに、資源へのアクセスを得る意図が読み取れます。また、6月12日に米朝首脳会談を開催するための再調整の過程で米国は「非核化に向けて行動を起こせば経済支援を行う」と繰り返しています。

CVIDの実現は「出口」に

—米国がCVIDの実現にあきらめ、資源へのアクセスを重視する方向に進むとすると、今後の米朝関係はどう展開していくのでしょう。

武貞:米朝首脳会談はいずれ開かれます。6月12日開催に向けて米朝両国が詰めの真っ最中です。トランプ大統領は前言を撤回することをはばからないですから、6月12日に会談が開催される可能性は十分です 。既に、CVIDで合意できなくても、お互いが恥をかかないですむ発表文の作成に着手していることでしょう。

—昨日(5月26日)に行われた第2回南北首脳会談は今後の米朝協議にどんな影響を与えるでしょう。

武貞:北朝鮮が韓国の顔を立てて米朝首脳会談実現に向けての思いを語りました。同時に、米朝の協議がギクシャクしても4月27日の板門店宣言で約束した軍事当局者会談、閣僚会談、離散家族再開は粛々と実行してゆきましょうということで一致した。

金委員長は、やはり文大統領は仲介者だと持ち上げて、韓国からの経済支援の約束を確認した上で、トランプ大統領に予定した通りの首脳会談開催を呼びかけました。南北が認識を共有しながら、北朝鮮が米朝首脳会談に臨むという展開になりました。北朝鮮は孤立しているようには見えないのですから、米国は首脳会談を延期しにくくなったし、北朝鮮に対して厳格なCVID受諾を迫りにくくなっています。

—しかし、米朝首脳会談が実現しても、CVIDで合意できず会談が長引くことになれば、米本土に届くICBM(大陸間弾頭弾)が完成してしまいませんか。米国はそれを容認するのでしょうか。約束を反故にされてきたこれまでの経緯を繰り返す事態も懸念されます。

武貞:容認はしません。CVIDをにらんだ様々な要求を北朝鮮にしていくでしょう。例えば、MTCR(ミサイル技術管理レジーム)*に加盟し、このルールに則ることを求めることが考えられます。

*:大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与しうる関連汎用品・技術の輸出を規制すべく、輸出管理の取組を調整するための非公式・自発的な集まり

両国の信頼醸成につながる取り組みを進めることもあるでしょう。例えば米国が主導する多国間海軍演習である環太平洋合同演習(リムパック)への参加を北朝鮮に促す。以前は中国海軍も参加していました。

これまで米国はCVIDの実現を交渉の入り口に置いてきました。CVIDを実現すれば、休戦協定を平和協定に転換するとか、経済支援を実行するといった具合です。しかし、これを出口に持っていくことを考え始めているのではないでしょうか。

これは北朝鮮に核保有を認めることではありません。非核化は目指す。しかし、米中間選挙までの半年とか、次の米大統領選挙までの2年間で、という具合に時間を縛る考えは捨てる。NPT(核不拡散条約)も、核保有国に対し核を廃棄することを求めていますが、期限は設けていません。これのバリエーションと考えれば、それほどおかしな考えではないと思います。

朝鮮統一後にCVIDを求めるのが現実策

日本は核保有国であるインドやパキスタンとつき合っています。イスラエルとも同様です。北朝鮮をこれらの国と同じように考えてもよいのではないでしょうか。

北朝鮮が保有する核兵器は日本にとっての脅威です。日本全国を射程距離内に入れているノドンミサイルが200発以上の核弾頭を配備されています。しかし、北朝鮮の核兵器は日本を征服するために作ってきたのではなく、半島有事で日本が米軍への便宜供与をする決定を阻止するためのものです。

北朝鮮は、朝鮮半島を統一するために米軍の軍事介入を阻止したいのです。そのために米本土を射程に収める核搭載ICBMを完成することで、「米国第一」を最優先する米国が軍事介入を断念して、南北だけで朝鮮半島を統一する環境を作りたいというのが北朝鮮の戦略です。

つまり北朝鮮は核兵器で米国との核戦争を勝ち抜くことを考えているのでありません。

軍事境界線北側の体制の安全を確保するため、という見方も破綻しています。1953年に朝鮮戦争が休戦となって以来、戦争は起きていません。つまり北朝鮮が保有する既存の通常兵器と在韓米軍と米韓相互防衛条約の存在で戦争は抑止されてきました。

つまり、統一が実現すれば、北朝鮮は核兵器の使い道を失います。統一に向けて南北が話し合いを続けるとき、少しずつ核兵器を放棄する作業をすることが可能になるでしょう。南北和解のプロセスとリンクさせつつ、核兵器を廃棄するよう外交を展開すればよいのではないでしょうか。

北朝鮮に対して期限内にCVIDを実現するよう強要することが、いまの日米韓の公式の政策です。北朝鮮が呑まなければ、米国は軍事行動を起こすという説明が数多くあります。この方法を選べば韓国と日本で数十万人の死者が出ると言われています。このシナリオと半島統一へのプロセスの過程で段階的に核兵器の廃棄を求める方法のどちらが適切でしょうか。

日本について言えば、統一コリアができた時、国交正常化の後の経済支援を約束した日朝平壌宣言*を再交渉することになるでしょう。小泉純一郎首相が2002年に行った外交は見事なものでした。北朝鮮から賠償という名目の法外な支援要求を受ける根拠はありません。国交樹立と双方の請求権の放棄、経済支援という道筋を付けたのです。この原則は1965年に結んだ日韓基本条約の原則を踏襲しています。

*:小泉純一郎首相が2002年に訪朝し、金正日(キム・ジョンイル)総書記と署名した共同宣言 。日本は過去の植民地支配に対するお詫びの気持ちを表明。両国による請求権の放棄、国交正常化後の経済協力を盛り込んだ

その後、北朝鮮によるウラン濃縮が明らかになり、拉致問題が膠着状態に陥ったため、この宣言に基づいた国交正常化交渉はとまっています。朝鮮半島統一の時は、日朝国交正常化の後の経済支援というシナリオではないのですが、軍事境界線の北側の地域と住民に対する経済支援の問題が残るでしょう。

日本はこの時に、「経済支援には核兵器の放棄が前提となる」と交渉すればよいのです。「労働新聞をひもといたら『ノドンミサイルは日本の都市を狙っている』と書いてあります。これを撤去し、検証するまで、日本は支援としての大金を支払うわけにいかない」と主張すればよいのです。これこそが外交ではないでしょうか。国益に基づいた政策とはこういうものをいうのだと思います。

「統一コリアは核を持ったまま日本を脅かす。したがって今のうちに軍事力を行使して核兵器を除去すべき」という主張があります。これは偏った議論でしょう。核施設を確実に除去できるのかどうか。除去に至る過程で軍事衝突が起こり日本と韓国に多数の犠牲者が出るシナリオを両国民が受け入れるとは思えません。

—朝鮮半島の統一は現実に進むのでしょうか。

武貞:それは南北の交渉しだいです。4月27日に南北首脳会談が行われた後、韓国の文大統領の支持率は上がり史上最高の85%に達しました。同大統領の任期はあと4年あります。これから毎年、南北首脳会談を繰り返す。そして、任期の最終年にはなだらかな市場統合を実現するでしょう(関連記事「南北会談の主題は『非核化』ではなく『統一』」)。

南北関係が順調に進めば文大統領の弟子が次期大統領の座に就くでしょう。いま米朝関係がギクシャクしても南北交流は続いているのです。この間、米国が韓国に厳しい姿勢を見せれば見せるほど、韓国の進歩派政権への支持率は高まります。「米国の圧力に抗して、民族の宥和を進めた」と韓国国民は考えるからです。

文大統領の残り4年、プラス、次期大統領の任期5年の合計9年。こうした状況が続くならば、統一は夢物語だとは言えなくなります。

先日、韓国を訪問した時、全国紙の記者や学者と討論をしました。皆さん、南北対話と融和の先にある朝鮮半島統一を議論していました。「日本パッシング(日本を外すこと)の平和のプロセスには反対だ。北朝鮮の経済再建の過程で韓国は日本の財力を頼りにしなければならないから」という論議さえ行われていました。朝鮮半島で「まさか」は起きないと思っていてはいけません。

重村記事

朝鮮人民軍の兵士は、金正恩委員長に従順な者ばかりではない(提供:KNS/KCNA/AFP/アフロ)

北朝鮮との交渉には、秘訣がある。最悪の場合には「決裂」を辞さない――と覚悟できないと交渉は成功しない。これを知るドナルド・トランプ米大統領の「交渉術」が、米朝首脳会談を再び実現に向かわせた。同氏は、交渉術に精通した元ビジネスマンだ。

米朝首脳会談が実現し、一定の合意に達する可能性が高い。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が5月26日、板門店で再び会談。米朝首脳会談の再開とトランプ大統領にどう対応するかを、相談した。

父親や祖父の時代と違い、北朝鮮の若い指導者には、国際社会に友人がいない。それに近い存在は中国の習近平国家主席と文大統領だけだ。金委員長は「二人ともトランプ氏と通じており、信頼していいのか不安だが、助けが欲しい」という心境だろう。韓国の指導者も、首脳会談が中止になると国民の信頼と権威を失う。南北の指導者は、助け合わざるをえない状況にある。

軍に対して党がクーデター

トランプ大統領は24日に「米朝首脳会談中止」を発表した際、「交渉はゲームだ」と述べた。さすがに、交渉術をよく知っている。

90年代初期に米朝が核交渉を米ニューヨークで行った際、その初日に、演説に立った北朝鮮代表は同国の公式の立場を説明するとともに、長々と米国を非難した。ガルーチ米代表は初日は我慢したが、2日目も続いたので演説を中止させ「会談を打ち切る」と通告し席を立った。北朝鮮代表は、あわてて追いかけ「明日も会談を続けてくれたら、合意する」と頼んだ。北朝鮮との交渉は、打ち切りや中止の覚悟がないとうまくいかない。

交渉ゲームの基本は、相手の状況を正確に把握することだ。米国は、平壌内部の情報を相当深く手に入れており、指導者と軍部の厳しい関係を理解している。

金委員長は北朝鮮社会の近代化と経済発展を考え、父親が進めた軍を優遇する「先軍政治」をやめ、祖父の「労働党優先政治」に切り替えた。資金を経済に振り向けるため、軍の利権を減らした。権力機関である「国防委員会」も廃止した。これは、軍に対して党が行った「親政クーデター」と言っても過言ではない。

軍部が金政権に反発し、強い不満を抱くのは当然だ。金委員長がこれを抑え、「核実験中止」「核実験場廃棄」「非核化」を決めたのは、相当な指導力と胆力の持ち主であることを示している。同委員長は軍指導者の多くを処刑した。米国との国交正常化なしには、北朝鮮は生き残れない、との決意があった。

首脳会談流れれば軍によるクーデターも

こうした経緯があったため、もし「米朝首脳会談」が中止になれば、金委員長は軍部や指導層からの信頼を失いかねない。その権威も失墜する。軍部によるクーデターや混乱に直面する可能性も浮上する。だから、「米朝首脳会談」は必ず実現しないといけないのだ。

北朝鮮国内のこうした状況を理解しているから、金委員長への書簡を書くに当たってトランプ大統領は、礼を尽くした言葉を選んだ。書簡の中で金委員長への「感謝」の言葉を3度も繰り返している。「シンガポールで予定されている首脳会談に対する、あなたの忍耐強い努力に感謝している」。「あなたが(米国人)人質を解放し、家族のもとに返してくれたことに感謝したい」。「(米国人解放は)すばらしい意思表示で、謝意を表する」

そして最後に、「遠慮なく私に電話をするか、書簡を送ってほしい」と伝えた。金委員長を決して非難することなく、首脳会談再開に含みをもたす書簡だった。

トランプ大統領に「中止」を決断させたのは、北朝鮮外務次官の「談話」であった。崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は24日 に発表した談話で、マイク・ペンス米副大統領が「軍事攻撃は排除しない」と述べ「核の完全廃棄」を求めたことに反発し、同副大統領を「愚鈍なまぬけ」と名指しで批判した。この品を欠く表現は、北朝鮮軍部の反発がいかに激しいかを、物語っている。米国に対し、これほど激しい「非難」を表明しなければ軍部が納得しない状態にあり、外交当局者は追い詰められていた。

一方、トランプ大統領は、ペンス副大統領への非難を、自分への攻撃と受け止めて怒った。そしてジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のアドバイスを受け入れて「首脳会談中止」を決めた。だが、前述のように、中止を通告する書簡は丁寧で相手の立場を考慮したものだった。金委員長が、トランプ大統領が「感謝」の意を示す書簡を送ってきたと国内に説明できる内容だった。

この書簡に気になる表現があった。米朝首脳会談について「北朝鮮側が求めたものだと伝えられたが、それが見当違いだということがわかった」と述べている。

これは崔次官が談話で「(米国が)対話を請託したにもかかわらず、我々が要請したように世論をミスリードしている」と指摘したことへの返事である。仲介した韓国がなんらかの小細工をしたのではないか、と米朝双方が感じているようだ。

リビア方式は×、トランプ方式なら○

トランプ氏の「首脳会談中止」に驚愕した北朝鮮は、金桂官(キム・ゲゲァン)第1外務次官の「談話」を発表し、「首脳会談再考」を求めた。「談話」の次の表現から、北朝鮮指導部が追い詰められている状況がよく理解できる。

「トランプ大統領が、どの大統領もできなかった勇断を下し、首脳会談に努力したことを、内心高く評価してきた」。「金委員長もトランプ大統領との出会いは良い始まりになり得るとおっしゃり、準備に全ての努力を傾けられた」。「いつでもどのような方法でも、向かい合って問題を解決していく用意がある」。北朝鮮側の悲痛な思いが、伝わってくる。

加えて、この書簡は、「リビア方式」でなく「トランプ方式」なら合意できると示唆している。「『トランプ方式』は双方の懸念をすべて解消し、私たちの要求と条件にも合致し、問題の解決に実質的な作用をする賢明な方策になることを期待していた」

つまり、北朝鮮側は「リビア方式」という言葉を使わず「トランプ方式」との言葉を使えば、合意は可能だと交渉妥結の方法を教えているのだ。

リビア方式とは、リビアが核施設を完全に廃棄するのを優先し、その後に、米国が関係正常化や制裁解除などの見返りを与えたやり方だ。この道を選んだリビアはアラブの春のあと崩壊した。

一方、トランプ大統領は「完全な非核化をすれば、北朝鮮は繁栄する。経済支援や投資が可能だ。北朝鮮の体制は保証する。軍事攻撃はしない」と明言した。この米国の方針を、「トランプ方式」と言えば北朝鮮は応じる、というわけだ。

トランプ大統領の「首脳会談中止」決断は、米朝双方に「譲歩」と「合意」のムードを生んでいる。北朝鮮では、軍部の圧力を和らげる契機となった。仮に米朝首脳会談が中止されれば、米軍は軍事攻撃に至る。北朝鮮が反撃すれば、全面戦争に発展し北朝鮮は崩壊する。この現実を考えると、北朝鮮軍部は強硬な立場を続けるわけにはいかない。

これに対して米国は、完全な非核化と核廃棄を北朝鮮が約束し「廃棄作業に着手すれば」、日本、韓国、中国などが制裁を解除するのを認めるといった妥協をすることが考えられる。米国は、米朝平和協定の締結や在韓米軍の撤退を約束するだろう。

だが、北朝鮮が完全な核放棄に応じるとは、考えにくい。軍部を説得するために、核開発を再開できる可能性を少しでも残す合意にしたいと考えているだろう。一方で米国は、核開発の再開を認めない合意を目指す。「完全な核廃棄」か、核開発再開の芽を残す「非核化」か、をめぐりなお厳しい駆け引きが続く。

上久保記事

Photo:REUTERS/AFLO

ドナルド・トランプ米大統領は5月24日、シンガポールで6月12日に予定されていた、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との「米朝首脳会談」を中止する意向を明らかにした。北朝鮮が、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、「朝鮮半島の非核化」を目指す姿勢を示した直後の発表であった。

これに慌てた北朝鮮が、金委員長が韓国の文在寅大統領と急遽、板門店で首脳会談を行い、米朝首脳会談開催への「確固たる意志」を表明し、決裂回避に動き始めた。トランプ大統領はツイッターで、自身で表明した首脳会談の中止から一転して、今度は開催に前向きな姿勢を示した。

結局、米朝首脳会談は当初の予定通り、シンガポールで6月12日に開催されることになる見込みだ。筆者は、突如首脳会談中止を表明し、相手が慌てたところで「やっぱりやろう」と揺さぶったトランプ大統領に、「ディールの達人」の恐ろしさを見た。そして、金委員長は、完全に逃げ場を失い、「袋小路」に追い込まれた。

「アメリカファースト」のトランプ大統領は既に「ディール(取引)」を終えている

トランプ大統領にとって、「朝鮮半島の完全な非核化」や「北東アジアの紛争回避」など、実はどうでもいいことなのではないだろうか。そもそも、トランプ政権が「北朝鮮の核・ミサイル開発問題」に介入し始めたのは、北朝鮮が米国を直接核攻撃できる大陸間弾道弾(ICBM)を持つ可能性が出たからだった(本連載第155回)。

トランプ大統領は、口を開けば「朝鮮半島の完全な非核化」、「拉致問題を解決する」などといろいろ言ってはいるが、実は自国の安全保障のことしか考えていない。北朝鮮が核実験場を爆破して、核弾頭を搭載したICBMを開発できないということを確認した、まさにその日に首脳会談中止を表明したのは、そのことを象徴的に示している。

首脳会談を流すという、既存の政治家には絶対にできない「挑発」は、いかにもトランプ大統領らしい。だが、1つ言えることは、大統領にとって、「完全な非核化」など、所詮「オマケ」に過ぎないということだ。やはり、大統領の行動は、あくまで「アメリカファースト」なのだと、あらためて示したといえる(第170回)。

トランプにとって「完全な非核化」以外に会談実施の意味はない

トランプ大統領にとって、米朝首脳会談とはどういう意味を持つのか、もう少し考えてみる必要がある。まず、金委員長が「ICBMの実験中止」を表明し、「核実験場」を爆破したことの持つ意味である。

端的にいえば、北朝鮮が「米国を直接攻撃できる」懸念が消えたことを意味するだろう。つまり、米朝首脳会談の開催前にして、トランプ大統領が本当に欲しいものは、既に手に入ってしまったことになる。

その上、北朝鮮に拘束されていた米国人3人も取り戻し、米国世論にアピールできるオマケも得た。「朝鮮半島の非核化の実現」とは、それができれば「ノーベル平和賞」級の偉大な成果となり、そういう意味での関心はあるだろう。だが、「アメリカファースト」の大統領の本音としては、実現してもしなくても、どちらでもいいこととなる。

一方、この連載で指摘したように、「朝鮮半島の完全な非核化」の実現が「在韓米軍の撤退」を意味することは想定される。だが、これは米国の長期的方針としては既に決定していることであり、その実行のタイミングだけの問題である(第180回・p5)。そういう意味では、トランプ大統領が是が非でも米朝首脳会談をやりたいという動機付けにはなるものではない。

あえていえば、トランプ大統領にとって米朝首脳会談は、デメリットの方が大きいものかもしれない。大統領は「ディールの達人」として名をはせているが、そのイメージが崩れるかもしれないからだ。

例えば、米朝首脳会談の席上で、「ICBMの実験中止」「核施設爆破」を金委員長に宣言させるならば、その他が「段階的核廃絶」など曖昧な決着になったとしても、トランプ大統領が「ビッグディール」を成功させたということになるだろう。だが、金委員長は、既にそれを宣言し、実行してしまったのだ。そうなると、首脳会談で話し合うことは「朝鮮半島の完全な非核化」のみとなってしまう。

言い換えれば、トランプ大統領にとって、首脳会談での「ディール」の成功を示すものは、「朝鮮半島の完全な非核化の実現」だけになってしまった。だが、それは北朝鮮にとって簡単に飲めることではなく、実現は難しい。そうかといって、北朝鮮が望む「段階的非核化」を大統領が認めたら、それは単なる妥協ということになる。大統領のタフなイメージが壊れるだけである。

それでは、首脳会談の席上でガチンコで「完全な非核化」で揉めて決裂したら、どうなるか。あまりにその衝撃は大きすぎる。「ディールの達人」というトランプ大統領の評価が完全崩壊するだけでなく、北朝鮮がブチ切れて「最悪の事態」を招くリスクもある。

要するに、金委員長が「ICBMの実験中止」「核施設爆破」というカードを先に切ってしまったことで、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談で「ディール」を成功させるハードルが一挙に「完全非核化」に上がってしまったのだ。しかし、大統領は既に得るものを得てしまっているので、米朝首脳会談をやる意味が希薄になっていた。

それにもかかわらず、金委員長はいささか調子に乗ったのか、首脳会談での「ディール」の「落としどころ」は「段階的核廃絶」だと、楽観的に考えていたのだろう。部下に米国を「挑発」するような、軽はずみな言動を繰り返させてしまった。

また、金委員長と米国の「仲介役」を務めてきた韓国の文大統領や、金委員長の「後ろ盾」である中国の習近平国家主席も、同じように楽観的に構えているようであった。

トランプ大統領からすれば、それは許せないということになったのだろう。そこで、「完全非核化を北朝鮮が飲まないのであれば、別に米朝首脳会談など無理にやる必要などないのだ。それで北朝鮮が逆ギレするなら、軍隊を出して簡単に叩き潰すぞ」という脅しをかけた。

トランプ大統領は、金委員長や、韓国、中国に「俺は圧倒的に強い立場にあるのだぞ。それを忘れるなよ」ということを、強く知らしめたかったのではないだろうか。

金正恩も事実上の「核保有国」となるために会談を回避したほうがいいと考えるか?

一方、金委員長の立場から見れば、事前に大統領に対してカードを切りすぎたことは大失敗だったように見える。米朝首脳会談を通じて、トランプ大統領から「体制維持の確約」を得て、「段階的核廃絶」を約束することで事実上の「核保有国」になれればよかったのに、トランプ大統領の「アメリカファースト」を読み間違えて、自ら首脳会談のハードルを「完全な非核化」に上げてしまったからだ。

金委員長は慌ててトランプ大統領の機嫌を取って、予定通り首脳会談を実施する方向に一応向かってはいる。だが、金委員長は本当にこのまま、首脳会談を行ったほうがいいのだろうか。

そもそも論だが、北朝鮮が目指してきたのは「核保有国」になることだ。それが「体制崩壊」を防ぐ唯一の道だというのは、金委員長の父・金正日氏の「遺訓」であった。金委員長が融和の姿勢を示し、韓国の文大統領との南北首脳会談で「核なき朝鮮半島の実現」を約束したが、それは本気ではないはずだ。

本音は「段階的非核化」という曖昧な着地点を勝ち得て、実質的に「核保有国」になることが目標だったはずだ。だが、既に欲しいものを手に入れてしまい、あわよくば「ノーベル平和賞」でも取れれば儲けものくらいに考えて、思い切り「ディール」のハードルを上げてきたトランプ大統領と、どう渡り合ったらいいのだろう。金委員長は、これから非常に頭を痛めるはずだ。

それならば、むしろ米朝首脳会談を流したほうがいいという判断はあり得るだろう。そうすれば、「朝鮮半島の完全な非核化」は議論する場がなくなり、中距離核ミサイルは日本に向けてズラリと並んだままとなり、北朝鮮は実質的に「核保有国」となることができる。そして、中国、ロシア、韓国も、本音では北朝鮮が核保有国となることは悪いことではないと思っている(第166回)。

米国は、「アメリカファースト」なので、ICBMさえ持たなければ、北朝鮮を攻撃することに関心は持たないだろう(第155回)。もちろん、米国はいまや「世界の暴力団」なので、トランプ大統領を怒らせたら何をされるかわからない(第181回)。ただ、たとえ首脳会談が流れても、北朝鮮は自ら「段階的核廃絶を行っていく」と宣言したりして、慎重にトランプ大統領の機嫌を取っていけばいい。

要するに、トランプ大統領が既に「ディール」で「実」を得たことで強硬姿勢に出たように、今度は金委員長があえて首脳会談を流して、事実上の「核保有国」となる「実」を得ようと、動く可能性があるかもしれない。

「ディールの達人」トランプは、金正恩を完全に「袋小路」に追い込んだ

だが、金委員長が米朝首脳会談を流して核保有国になるという「実」を得ることは、相当に難しいかもしれない。それは、トランプ大統領は強硬姿勢を示すことで、韓国の文大統領の首根っこもガッチリと掴んでしまったように思うからだ。

韓国の文大統領は、米朝首脳会談で北朝鮮が「体制維持の保証」と「段階的核廃絶」をトランプ大統領から勝ち取れば、一挙に南北首脳会談で金委員長が求めてきた経済協力を進めるつもりだった。だが、トランプ大統領が米朝首脳会談の「ディール」を、北朝鮮が簡単に飲めない「朝鮮半島の完全な非核化実現」に引き上げたことで、簡単に「ディール」が成立することはなくなり、南北の経済協力を進める思惑は棚上げせざるを得なくなるだろう。

米朝首脳会談が流れれば、北朝鮮は事実上の「核保有国」になれるが、国連の経済制裁は解除されないことになる。金委員長にとって、南北間の経済協力が非常に重要になるが、トランプ大統領を無視して、文大統領が経済協力を進めることは、難しいのではないだろうか。

北朝鮮に対する国連の経済制裁は、非常に効いているとされている。北朝鮮は米朝首脳会談を流して「核保有国」となれても、経済制裁が解除されなければ、早晩行き詰まることになる。かといって、米朝首脳会談を行えば、トランプ大統領から「完全な非核化」を強く要求されることになる。

金委員長は、結局経験不足だったのだろうか。軽率にも首脳会談の前に、トランプ大統領の欲しいものを渡してしまった。結果、米朝首脳会談は「退くも地獄、進むも地獄」となってしまった。「ディールの達人」トランプ大統領は、完全に金委員長を袋小路に追い込んだように見える。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

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