『中国北戴河会議で何が語られたのか 注目すべきは常務委員に加えて中央委員人事』(8/25日経ビジネスオンライン The Economist)、『中国は壊滅的打撃受け、今までの発展が水の泡に 米中開戦のシミュレーション、ランド研究所が公表』(8/23JBプレス 渡部悦和)について

今後中国共産党の人事の季節になろうとも、米中戦争が勃発すれば、それは吹き飛ぶでしょう。今すぐ戦争が起きる訳ではないし、キッシンジャーやライスのようにパンダハガーもいます。大体パンダハガーは中国の鼻薬が効いているのが多いと思います。でも彼らは米国の国益を大きく毀損しているのに気づいていないか、気づいていても私欲のために知らんふりしているかです。米国との世界2分割(スペイン、ポルトガルのトルデシャリス条約のようなもの)、その後世界制覇を狙っているのは明らかです。AIIBを作り、基軸通貨を$からRmbに切り替えようとしていますし、膨大な人口を利用し、中国人をドンドン入植させて、自分達の陣地を増やそうとしています。多文化共生なんて彼らの侵略を正当化するためだけです。米国覇権に挑戦するものです。米中どちらが良いかは自明です。「自由、民主、基本的人権、法治」を基本理念として持つ米国(100%そうはなっていなくとも)とその4つ総てない中国と選ぶとしたら自ずから明らかです。中国のチベット、ウイグル、南モンゴルの扱いを見ていれば、中国と組むのは愚かでしょう。

戦争になるとしても、戦闘から始まるよりは、先ずは経済制裁、機雷による海上封鎖から始まるのでは。米国の持つ金融情報(FATCA)を駆使し、世界の中で人民元取引国とは米国は取引しないようにすれば良いでしょう。石油や食料が入らない中国では革命が起きるはずです。海路(一路)から貨物は入らなくなり、陸路(一帯)からになります。陸路ロシアから貨物が入るのを止めるのがキモです。日ロ平和条約を結んで中国を孤立化させないと。

戦争になれば、米国内の中国人はどう扱われるのでしょう?強制収容所送りにするのでしょうか?スパイ活動をしている中国人は全米にいます。予防拘禁するのかどうか?国連(“United Nations)はどうなるのでしょう?第二次大戦後、特権を保持してきたP5の地位も変わらざるを得ません。戦後日本が背負ってきた言われなき捏造史も清算できるかもしれません。

キチガイ毛沢東(毛VSポンピドー会談)を生んだ中国のことですからMADも機能しなくて、核戦争になるやも知れません。核シェルターを早く整備しないとダメでしょう。日本も報復できる核を持たないとダメです。

The Economist記事

ひだ付きの華やかなコック帽をかぶるヤン・ジービン氏は、中国のリゾート地・北戴河にたたずむレストラン「起士林餐庁」の厨房責任者だ。同氏は1971年からここで働いている。中国政界の重鎮は毎年8月、この地に集って密室会議を開く。

Xi in RenDa

(写真=AP/アフロ)

今や料理長となったヤン氏は、この街一番の壮麗さを誇るこのレストランを昔ながらの姿に保とうと努めている。「100年前からメニューに並んでいる料理が20品以上あります」とヤン氏は言う。「私たちはここの伝統的なスタイルを守りたかったのです」。「猴子」(猿の意味)とだけ名乗るある客は、「私がこのレストランに初めて来たのは30年ほど昔のこと。当時に比べて変わったのは料理の値段くらいだ」と語った。

北戴河は北京から東へ280キロのところにあるビーチリゾートだ。まるで時間を切り取ったかのような雰囲気に包まれている。ホテルでは刺しゅう飾りのついたシーツも使われる。

始まりは毛沢東

恒例の北戴河会議が8月16日に閉幕したとき、この町の持つ時を超越したような空気もただの幻想に感じられた。中国の政治は独特な不確実性と緊張をはらむ時期に突入したのだ。習近平国家主席はこれからの数か月間、中国共産党の各レベルの指導層について全面的な人事異動を主導する。

そのハイライトとなるのが来秋に行われる中央政治局委員の選定だ(習主席は引き続き中央政治局の最高指導者となる)。中国では5年ごとに最高指導部の人事が決定される。歴代国家主席と近い関係にある勢力と習主席との熾烈な闘いがそのプロセスに暗い影を落とすことになりそうだ。

それでなくとも中国経済の健全性に対する懸念は高まる一方である。海辺の別荘で過ごす指導者たちは、浮かれた気分には到底なれないことだろう。

北戴河で非公式な会合を開くという伝統を始めたのは毛沢東だ。その狙いは、北京のうだるような暑さと単調な日々から逃れ、現役と長老が顔を合わせる場を提供することだった。1980~1990年代、鄧小平はこの討論の場を大いに利用し、自分の思惑どおりに物事が運ぶよう手を回した。各所の責任者は名目上の存在にすぎなかったのである。

だが習主席は口うるさい党の長老たちを寄せ付けないようにしている(2代前の国家主席だった江沢民氏は8月17日に90歳の誕生日を迎えた。だが今も影響力を持ち続けている)。前任者の胡錦濤氏と違い、習主席は長老たちのために割く時間を持ち合わせていないようだ。

権力の集中を進める習主席

理論上は、指導層の人事を改変するにあたり、習主席が自らの取り巻きを重用するのは比較的容易なはずである。習氏は政治指導者として胡錦濤氏よりもずっと強硬だ。鄧小平氏が築いた「集団指導制」を廃止し、前任者たちより多くの権威ある公的立場を自分のものとしている。

胡錦濤氏と江沢民氏がそうであったように、習主席は中国共産党の総書記であり、国家主席であり、人民解放軍の総司令官だ。だがそれ以上の存在でもある。習主席は自らが率いる「領導小組」制を拡充し、政府や党上部組織の領域とされてきた政策分野についても権限を与えている。

また習主席は厳しい「反腐敗運動」を進めており、官僚の間には恐怖感が広がる。検挙された大物の大半は習主席の政敵だ(最近では、胡錦濤氏の側近だった令計画氏が7月に無期懲役判決を言い渡されている)。習主席が政権に就いた2012年以来、副大臣以上の肩書を持つ177人が取り調べを受けた。

米ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク、ブルッキングス研究所のチェング・リー氏によると、習主席は50人を超える軍司令官を汚職のかどで逮捕し、その役職に自分の部下を配置しているという。

中央委員会における基盤は脆弱

たとえそうだとしても習主席の権限はいまだ限定されている。確かに最上層部における習氏の地位は安泰に見える。だがその下の指導層において習氏を支持する者は驚くほど少ない。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のビクター・シー氏は、共産党中央委員会の委員205人について仕事関連および個人的な人脈を多岐にわたり追跡した。中央委員会は幅広いエリート層が一堂に会する場であり、習主席の決定事項に印を押す立場にある(最近この委員会で公式な異議が持ち上がったという噂はない)。

だが喫緊の課題である経済改革など、習主席が自らの政策を実行するには、単に挙手するだけでなく熱心に支持してくれる存在が必要となる。シー氏によると、習主席派が中央委員会に占める割合はわずか6%。これでは大きな力にはならない。

この数字は鵜呑みにしないほうがいい。中央委員の多くが誰を支持しているかを知るのは容易なことではない。それに、習主席の派閥でなくても野心や恐怖心から同氏を支持する委員はおそらく数多く存在する。

それでも、中央委員会には習主席が頼れる忠実な支持者は圧倒的に少ない。習主席が今のメンバーを選んだわけではないからだ。現委員は2012年に習氏が党指導者となったのと同時期に選ばれた人々である。そのときの選抜プロセスは当時の最有力人物、つまり胡錦濤氏と、ずっと以前に引退していた江沢民が監督した。

中央委員会の大規模な入れ替えへ

中国では来年、5年に一度の共産党大会が開催され、中央委員会の新たな構成員が任命される。党大会の開催時期はおそらく10月だ。そのときは習主席が選抜プロセスを取り仕切る。さらに、補充する席数が通常より多い。

委員会が定める定年は65歳。通常は5年ごとに40~50人の委員がこの年齢に達し、退職する(ちなみに中央政治局の定年は68歳)。この年齢が変わらないと仮定した場合、2017年には85人の委員が引退することになる。これに加えて7人が汚職を理由に追放されているため、習主席は合計で92人を新たに任命できる計算となる。今年の北戴河会議では、この新人事が初めて検討されたようだ。

空席の一部は年功序列の原則に基づいて補充されるだろう。仮に習主席が新委員の半数を選べるとしたら、中央委員会における習氏への支持レベルは大幅に上昇する。たとえ習氏の忠実な部下が過半数に満たないとしてもだ。そうなれば習主席の権限は拡大する。

ただし絶対的なものとはならないため、同氏はそのことに苛立ちを覚えるだろう。習氏の前任者、胡錦濤氏が中央委員会のトップを引き継いだときも、去りゆく指導者たちが選んだ面々が委員に名を連ねていた。胡氏は指導者としては比較的弱気であり、困難な経済改革に対してあまり意欲を見せなかった。習主席は、少なくとも言葉の上では胡錦濤氏よりも野心的な態度を見せている(従来の慣習に倣えば習氏が退くと見られる2022年以降も、同氏はとどまりたい考えであるとの噂さえ聞かれる)。

人事をめぐるこうした戦いは今後1年ほどの間、閉ざされた扉の裏側で繰り広げられる。起士林餐庁のシェフ、ヤン氏は忙しくなりそうだ。中国の指導者たちは、以前は彼のレストランに足を運んで食事をしていた。だが最近、ヤン氏は彼らのビーチハウスに呼ばれて料理をすることが多くなったという。指導者たちは政敵を出し抜き、押さえ込むための策を巡らせているに違いない。

© 2016 The Economist Newspaper Limited. Aug 20th 2016 | BEIDAIHE | From the print edition

JBプレス記事

P22

韓国・ソウル南郊の烏山空軍基地でステルス戦闘機「F22」の前を歩く米空軍パイロット(2016年2月17日撮影、資料写真)〔AFPBB News

中国が現在陥っている経済的危機の深刻さは、「GLOBAL TRENDS 2030」が予想した「中国が破竹の勢いで国力を増強させ米国を2030年に追い越す」というシナリオが実現しないことを意味している。

私の中国に対するイメージは「手負いの龍」であり、あまりにも無理をして富国強軍を目指したために至る所で綻びが目立っている。

経済的苦境にある手負いの熊であるロシアがクリミア併合やシリアでの軍事行動などの問題行動を引き起こしている様に、手負いの龍である中国も攻撃的な対外政策をとり続ける可能性がある。

ダニエル・リンチが「中国台頭の終焉」*1で指摘するように、「中国台頭の終わりは、日本の台頭の終わりが日本のエリートたちを傷つけた以上に中国共産党を傷つけるであろう。国粋主義的な軍人や野望に満ちた外交の戦略家たちは強圧的で不快な外交政策に明らかに関心を持っているが、それらの政策により中国の状況を支え切れるものではない」のである。

「日米中安全保障関係」をテーマに米国で研究活動を行っていると、大国間の覇権争いの最悪の事態として米中戦争を想定せざるを得ない。

中国の南シナ海や東シナ海における国際法を無視した主張や行動とこれに対する米国特に太平洋軍の対応を見ていると、偶発的事案(例えば米中の航空機同士の衝突など)が米中戦争に発展する可能性や人民解放軍が強調する短期高烈度地域紛争(Short-Duration High Intensity Regional Conflict)の可能性を意識せざるを得ない。

安全保障の本質は、最悪の事態に備えることであり、最悪の事態としての米中戦争を想定し、分析し、最終的には米中戦争をいかに抑止するかを考えることは極めて重要である。

最近(2016年7月)、ランド研究所(Rand Corporation)が“War with China(Thinking Through the Unthinkable)*2” [中国との戦争(考えられないことを考え抜く)]を公表した。

このランド論文は、米中戦争について4つのケースを列挙・分析し、米中戦争が両国特に中国にいかに甚大な損失を与えるかを定量的に明らかにし、その損害の大きさを強調することによって米中戦争を抑止しようという試みである。

ランド研究所が得意とする米中戦争のシミュレーション結果に基づく興味深い論文であり、「戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争でGDP(国内総生産)の 25~35%の減少になる。一方、米国のGDPは5~10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化し、苦労して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」などの興味深い指摘がある。

このランド論文は、米陸軍の委託を受けて書かれたものであり、論文の大部分は秘に指定されて公表されていないと思われる。しかし、今回公表された部分のみでも示唆するところが大きいので紹介する。

*1=Daniel Lynch、“The End of China’s Rise”Foreign Affairs、January 11 2016

*2=David C. Gompert, Astrid Stuth Cevallos, Cristina L. Garafola,“ War with China Thinking Through the Unthinkable”, RAND Corporation

1ランド論文「中国との戦争」

  • 4つのケース

米中戦争について、以下の4つのケース(「短期、厳しい」、「長期、厳しい」、「短期、マイルド」、「長期、マイルド」)を列挙し、各々について分析している。

「短期」は数日から数週間、「長期」は1年程度を意味する。「厳しい」と「マイルド」の決定的な違いは、中国本土の目標を米軍が打撃するか否かであり、「マイルド」では中国本土の目標を攻撃しない。

中国の軍事戦略は「短期、厳しい」戦争を追求するが、米国は勝利の可能性の高い長期の戦争を指向している。つまり、米中は非対称な戦争の形態を追求していて、ここに米中の思惑の違いがある。

その結果として、「長期、厳しい」戦争に対する備えをしなければいけないとランドは主張している。

(1)短期、厳しい(Brief, Severe)

前提:戦争に勝利するという論理とカウンターフォース*3戦略が最初から支配的である。(筆者注:カウンターフォースの具体例は、米軍の場合はエアシーバトル、人民解放軍の場合はA2ADであると認識してもらいたい。エアシーバトルとA2ADの激突が米中のカウンターフォースであると認識してもらいたい)

特徴:

・両者にとって利害関係が非常に重要である。 ・危機はカウンターフォースの圧力のために増す。 ・両国は、あらかじめ策定した軍事作戦構想を直ちに実行する。中国は、米国の空母や航空基地を攻撃するためにキルチェインを使用する。

・米軍は、中国本土に対する選択的な打撃を行う。 ・両国は、選択的なサイバー戦争を実施する。 ・軍事作戦的に切迫した状況は、高速および激烈な戦争に帰結する。

・政治指導者は、紛争を終了する時期についてのみ統制する。 ・紛争は1週間程度継続する。

(2)長期、厳しい(Long, Severe)

前提:戦争に勝利するという論理、明確な勝者が存在しない状況、強い敵意、強い決意に基づいて激しい戦闘が遂行される。

特徴:

・指導者は、戦争を終結できないか、選択することができない。 ・被る損害は、妥協を困難にする。 ・米軍は、中国本土に対する大規模な打撃を実施する。

・非核手段によるエスカレーションが起こる。地理、目標、サイバー戦争、対衛星兵器のエスカレーションが起こる。 ・両国は継続的な大きな損失に直面する。

・両国は、より多くの戦力を投入する。中国は、損失の増大とともに動員を行う。 ・紛争は1年以上継続する。

(3)短期、マイルド(Brief, Mild)

前提:指導者は、敵対行為を制限し、紛争の早期終結に同意する。

特徴:

・敵対行為は、予期せぬ事故または誤算をトリガーとする。その際に、第三者を巻きこむ場合がある。 ・政治的指導者は、迅速かつ強い作戦統制を実施し、直接的に意思の疎通を図り、敵軍攻撃についての大きな統制権を確保し、現状維持で紛争を終了することに同意する。 ・1週間前後で敵対行動を終了する。

(4)長期、マイルド(Long, Mild)

前提:指導者は敵対行動を制限するが、紛争終了には同意しない。

特徴:

・「短期、マイルド」ケースの発展形である。 ・政治的統制により敵対行動を制限する。 ・両国の軍は、増強され、狭いところで作戦する。損害は散発的に、しかし継続的に起こる。

・指導者は意思の疎通を図るが、戦闘終結の時期に関して合意に至らない。 ・低烈度の紛争は、経済的にも政治的にも継続可能で、いずれの側も譲歩を望まないし、損失の大きな戦争も望まない。 ・紛争は1年以上続く。

*3=戦略核理論においては、カウンターフォース(counterforce)は、相手の戦力を破壊するための総力を挙げての試み(総力戦)を意味する。ランド論文は、核戦争を想定していないので、カウンターフォースとは、「通常戦において、相手の戦力を破壊するための総力を挙げての試み」の意味である。例えば、米軍による中国本土に展開する主要なA2AD能力を破壊する試みである。

  • 米国と中国の戦争についての考え

米国と中国は、「米中紛争が激烈なものになる」と考えている。中国は短期の紛争を計画(希望)し、米国は長期の紛争の方が米国の勝利にとって有利だと考える。しかし、米中ともに長期の戦争の影響を系統的に分析していないし、計画的かつ相互に暴力の抑制について考えることもしていない。

中国は、米国との戦争を避け、限定した目的(台湾の独立の阻止、海洋の要求を強制すること)のために軍事力を使用する。しかし、米国との戦争を除外しない。中国本土への打撃、膨大な損失、結果としての敗北を覚悟する。米国の介入を抑止できない、敗北を回避できない場合に備えなければいけない。

中国は、米国の空母および作戦地域に存在する航空基地を主要な打撃目標としている。中国は、米国のアキレス腱をC4ISR(ブログ主注:Command, Control, Communication, Computer, Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)だと認識し、そのためにサイバー戦や宇宙戦の対衛星兵器(ASAT)を重視している。

  • 2015年と2025年における米中戦争による損失予測

米軍は、2015年の時点で、人民解放軍よりも長期の激烈な戦争を遂行する能力がある。中国のA2AD能力が米軍を減殺するよりも、米軍は中国のA2AD能力をより早く減殺することができる。

しかし、将来的には、米軍は、中国のA2AD能力により多大の損失を受け、中国軍の損失は少なくなる傾向がある。

図1は、長期の激烈でコストのかかる戦争のケースを示している。中国のA2AD能力が、米軍の打撃力との比較において相対的に向上すると予測している。

図のT0は戦争の開始時点、T1は戦争開始から数日後、T2は1年後を表す。2015年では中国軍の戦争に伴う戦力の低下が米軍の戦力低下よりもはるかに大きいことが分かる。

2025年では中国軍の戦力低下がほんの少し改善し、反対に米軍の戦力低下が大きくなり、2015年に比較して両国の戦力低下の差が縮小する。

diagram about US VS PRC-1

図1「長期激烈戦争における軍事力の低下」 出典:War with China

図2は図1の詳細バージョンである。左が2015年の軍事力の損失、右が2025年の軍事力の損失を示す。緑色の帯は小さな損失、黄色の帯は重大な損失、オレンジ色の帯は重い損失、赤色の帯は非常に重い損失を示す。

米軍の損失は、2015年に比し、2025年では大きく増加していることが分かる。中国人民解放軍の損失は、2015年も2025年も非常に大きな損失を被ることに大きな変化はない(損失の改善がほんの少し見られる)。

diagram about US VS PRC-2

図2「長期激烈戦争における軍事力の損失」 出典:War with China

  • 2015年および2025年の戦争によるGDPの損失

図3は、米中戦争におけるGDPの損失を示している。

左側は戦争により米中2国間の貿易が損失を受けることによるGDPの減少を示し、右側は戦争により米中2国間のみならず全世界の国々との貿易が損失を受けることによるGDPの減少を示している。右図(全世界レベルでの貿易量の損失の影響)における中国のGDP減少が顕著であることが分かる。

diagram about US VS PRC-3

図3「長期激烈戦争におけるGDP の損失」 出典:War with China

図4を見てもらいたい。中央の一番小さな円は米中2国間の貿易を、その外側の円は戦争地域のその他の国々との貿易を、一番外の円は戦争地域以外のグローバルな貿易を表す。

そして、赤色は戦争による非常に大きな影響、黄色は重大な影響、緑色はほんの少しの影響を示す。そして、それぞれの円の大きさは戦争による貿易上の影響の大きさを示している。

例えば、中国の場合、米国との2国間貿易は貿易全体の10%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受ける。

さらに戦争地域近傍の他の国々との貿易は全体の40%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受ける、戦争地域以外のグローバルな貿易は全体の50%で重大な影響(黄色)を受けるので、戦争に対する脆弱性も非常に大きい。

米国の場合は、中国との貿易は全体の15%で戦争により非常に大きな影響(赤色)を受けるが、戦争地域近傍の他と国々との貿易は全体の10%で戦争により重大な影響(黄色)を受ける、戦争地域以外のグローバルな貿易は全体の75%で小さな影響(緑色)しか受けないので、戦争に対する脆弱性は中国に比してはるかに小さい。

diagram about US VS PRC-4

  • 4つのケースの分析結果

(1)短期、厳しい(Brief, Severe)

米中いずれかの政治指導者が、敵部隊に対する激しい打撃を許可すると、非常に暴力的な戦争が勃発する。

2015年では、米国の空母や航空基地の損害は重大なものであるが、中国のA2/ADシステムなどの損害は米側の損害以上になる。数日間における米側に有利な損害の米中ギャップは、戦闘が継続するとさらに大きくなる。

しかし、2025年では、米国の損害は中国のA2/AD能力の向上のために増加するが、中国が被る損害はわずかに減少する。中国の損害は、米国の損害よりも大きいが、その差は縮小する。

米中両国にとって、戦闘の継続が勝利で終わるかどうかは明確ではないが、経済的には、激しい戦争は中国の世界貿易(その大部分は西太平洋を経由する)に大きな影響を与える。

一方、米国の損害は中国との2国間貿易に限定される。国際政治や国内政治には少ないインパクトしか与えないであろう。

(2)長期、厳しい(Long, Severe)

2015年における長く厳しい戦争は、中国にとってさらに悪い結果になる。

しかし、2025年においては、当初の決定的な結果をもたらさない戦闘は、予想される大きな損害にもかかわらず、両国に戦闘を継続するモチベーションを高める可能性がある。

米国の軍事的な勝利の可能性は2015年時点に比して悪化するが、中国の勝利を意味するわけでもない。戦争が継続すると、西太平洋の大部分(黄海から南シナ海まで)における民間の海運や空輸は危険になり、エネルギー供給を含む貿易の縮小が中国経済をひどく傷つける可能性がある。

紛争がより長く激烈になればなるほど、その地域の米国の同盟、国特に日本を巻き込むことになるであろう。

(3)短期、マイルド(Brief, Mild)

迅速な軍事的勝利の見通しの不透明さ、政治的な統制を失う危険性、大きな経済的損失の恐れにより、全面的な打撃を厳しく制限し、低烈度、散発的、決定的ではない、軍事的損害が最小限度の戦闘になる可能性がある。

両国の政治的指導者が妥協に傾き、紛争がもたらす経済的損失や国内及び国際的な政治的動揺が生起する以前に紛争が終了する可能性がある。

(4)長期、マイルド(Long, Mild)

戦闘は封じ込められ、損害は許容の範囲内であり、米中両国が低烈度の紛争を継続することによる政治的コストも小さい。両国が軍事的な優勢を獲得しないと、紛争はしばらく継続することになる。

一方、戦闘は限定されるが、経済的損失が特に中国において増大する。時間の経過とともに、国際および国際的な政治的反応が、「長期で厳しい」ケースの場合ほどではないが、増大する。

これらのケースは、米中両国の通常兵器によるカウンターフォース能力が、当初から制限のない敵対行動の終始を通じて大きな軍事的損害をもたら可能性があることを示している。そして、先制攻撃が有利であるという認識は、両国間の紛争の生起を容易にする要素になる。

中国のA2AD能力の向上は、2025年における米中間の損害のギャップを縮小させる。中国の損害はそれでも大きいが、米国の損害は2015年における損害よりも大きくなる。

米国の軍事的勝利の可能性は低下するが、中国の勝利の可能性も小さい。

両者は、損害を継続して与えることはできるが、敗北を受け入れるわけではない。「厳しい長期の軍事的帰趨のはっきりしない」戦争は、両国を弱体化し、その他の脅威に対して脆弱になるであろう。

  • 非軍事的要因の重要性

戦争は、結局は非軍事的要因で決定される。この非軍事的要因は、現在も未来も米国に有利である。

戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争でGDPの25~35%の減少になる。一方、米国はGDPの5~10%の減少になる。

長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化し、苦労して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす。

そのような経済的損害は、政治的混乱を引き起こし、中国内の分離派を大胆にする。政府や治安部隊は、そのような挑戦に対抗できるであろうが、戦争中における抑圧を強め、中国政府の正統性を減じることになる。

一方、米国内の党派色の強い小競り合いは、戦争努力に影響を与えるだろうが、紛争がいかに長くかつ激しくなったとしても、その紛争が通常戦である限りにおいて、社会的な安定を脅かすものではなく、国家の生存には影響を及ぼさない。

サイバー戦がエスカレートすると、両国にとって有害であるが、中国の経済問題を悪化させ、落ち着かない国民をコントロールする政府の能力を低下させることになる。

国際的な反応も長く厳しい戦争において米国に有利になるであろう。

NATO(北大西洋条約機構)は、欧州におけるロシアの脅威を抑え込み、米国の東アジア同盟国(日本を含む)の米国に対する支持は、中国の軍事的チャンスを害することになる。

日本は、在日米軍基地が攻撃されたならば、参戦することになろう。日本政府の集団的自衛権に関する憲法解釈の変更、日本の軍事力の改善及び日本の参戦は、2025年までの戦争の方向性と結果に変化をもたらすであろう。

これらの事実は、米中戦争が非常に害が大きく、両国はその回避に最高の優先順位を置かざるを得ないことを明示している。

大きな損害が計画的戦争の蓋然性を低くするならば、両国の強い危機管理と軍隊のシビリアン・コントロールが求められる。両国の指導者間のコミュニケーションが重要になる。

米国は、厳しい紛争をコントロールできず、勝つことができず、大きな損害やコストを避けられないかもしれないが、激烈で迅速なカウンターフォースを自動的に実施すべきではない。

それは、軍事計画の遂行に関する大統領の最終的な許可に基づき実施され、指揮官たちは、大統領に実施可能な選択肢を提供しなければいけない。

中国は、A2AD能力の向上にもかかわらず、厳しい紛争の損害を被る。

ハイテクおよびハイスピード戦における軍民協力の経験に乏しい中国の指導者は、軍の現代化のトレンドは「短期戦の勝利である」という間違った助言を受けているが、実際の戦争は、厳しい長期の軍事的に決着のつかない戦争の蓋然性が高い。

そして、米国に有利な経済的政治的および国際的効果を伴う戦争である。中国は、米国と同様に政治的決心により、迅速激烈なカウンターフォース戦略に基づく軍事計画の自動的な遂行を防止すべきである。

  • 米軍のために奨励する行動

中国の米軍攻撃の抑制は、中国による米軍行動の予測に依存する。米軍は、紛争の初期段階において中国のA2/AD能力を撃破する計画に依存すべきではない。

そのような依存は、危機の安定化を阻害し、中国の先制攻撃を促し、当初からの激烈な戦闘を不可避にする。

さらに、米軍は、迅速な通常兵器によるカウンターフォース攻撃という唯一の計画で、大統領の選択肢を制限してはいけないし、代替案の遂行を準備すべきである。長期の高烈度の戦争を計画し、これを中国に知らしめることが安定の強化と抑止にとってより良策である。

兵器の残存性の向上とA2/AD能力(ミサイル、潜水艦、ドローン、ドローンの発射プラットフォーム、サイバー、ASAT)に資金を投資することにより、中国のA2ADに対抗すべきである。

これらのA2/AD兵器は、中国の戦勝の自信を否定し、紛争初期の緊要な時期のみならず全般にわたる安定の改善に資する。しかし、これらの兵器は、米国の軍事的優越性やコントロールを回復し、厳しい紛争における大きな損害や経済的損害を回避するわけではない。

中国との確率の低い戦争に準備する膨大なコストを考えなければいけない。

・激烈な軍事作戦を遂行し、生き残るための能力を改善する。 ・中国周辺の同盟国及び友好国の優先順位の高い軍事的能力を高め、軍事的相互運用性を向上する。

・日本およびその他の東アジア同盟国および友好国と有事計画を作成する。 ・中国との紛争を含む偶発事態及びそれに対するロシアやイランの反応についてNATOと協議する。

・中国製の重要な製品の中断を緩和する方策を採用する。 ・中国にとって戦時重要物資(例えば原油)の輸入を阻止する方策を案出する。

  • 米陸軍への提言

米陸軍は、次のことに貢献できる

・対A2/AD能力、例えば、中国の海空戦力損害を増大するために、機動式の地上発射ミサイル、統合防空を研究する。 ・東アジアの友好国を強くし、アドバイスし、強力な防衛の構築を可能にする。 ・長期の厳しい戦争における需要の大きい兵器と備蓄を評価する。

米国は、米陸軍を含み米中の軍対軍の相互理解および誤認識や誤判断によるリスクを低減するための方策を拡大し深化させなければいけない。

  • 「中国との戦争」の結論

中国の軍事力の向上は、米国の軍事的優位性を低下させ、米中戦争は、激烈で、1年以上継続する、勝者がいない、両国に非常に大きな損失とコストを強いる。そのような戦争が長く続くほど、経済的、国内政治的および国際的な影響が重要になる。

そのような非軍事的な影響が中国を最も激しく打ちのめし、米国の経済を害し、世界的な挑戦(諸問題)に対応する米国の能力を大きく損なう。

米国は、中国との長く激しい戦争を遂行することができるように、賢明な準備をしなければいけない。重要なことは、その計画立案、シビリアン・コントロール、平時・危機時・戦時に中国と意思疎通できる能力により、中国との戦争の規模、激しさ、期間を局限する米国の能力である。

同じように中国にとって、政治的統制、戦時におけるトップレベルの良き意思疎通が不可欠である。

中国の軍事力の向上は、米国に決定的に敗北する危険性を減じているのは事実である。しかし、中国は、短期の戦争を頼ることはできなくて、長期の戦争が中国を弱く、不安定で、不安全で、貧しい状態にするであろう。

米中がお互いを破壊する能力が同等になると、どちらも許容可能な犠牲で勝利する自信を持てなくなる。もしも対立や突発事態が敵対行動にスカレートしたならば、いかに勝利するかではなく、いかにして損害を局限するかを考え抜くべきである。

2 「中国との戦争」に対するコメント

ランド論文「中国との戦争」は、示唆するところの多い、意義のある論文であるが、以下のような評価もせざるを得ない。

  • JAM-GC*4(Air Sea Battleの後継作戦構想)を否定するのか?

「激烈で迅速なカウンターフォースを自動的に実施すべきではない」、「米軍は、紛争の初期段階において中国のA2/AD能力を撃破する計画に依存すべきではない」という表現は、JAM-GC(Air Sea Battleの後継作戦構想)を否定する表現と判断せざるを得ない。

この点がランド論文「中国との戦争」に対する筆者の最大の疑問である。

ランド研究所はいかなるJAM-GCの代替作戦構想を持っているのか。昨年秋にランド研究所が発表した米中戦争のシミュレーションである「米中軍事スコアカード」は、Air Sea Battleを作戦構想とする分析であった。

ただ単に激しい戦争を避け、長期の戦争に持ち込むために、JAM-GCを否定するような表現を使っているのか、疑問である。

  • 日本は厳しい状況を覚悟すべし

米軍が紛争の初期段階における犠牲を避けようとすればするほど、米国の同盟国である日本の被害は大きくなる。

米国が「短期、厳しい」ケースを避けたとすると、日本などの同盟国や友好国は「長期、厳しい」ケースに耐えなければならない。この点は、日本にとって重大である。

  • 米軍に対するA2/AD兵器の推奨

中国のA2/ADに対抗するために、米軍のA2/AD兵器の導入を推奨しているが、あまりに消極的すぎる提案である。

米国防省の第3次相殺戦略で提案されている長距離の打撃力などの中国に勝利する兵器や技術をどのように評価しているのか、疑問である。国防省は、あくまでも「長期、激しい」戦争に勝利する作戦構想および兵器を保有するという考えであろう。

  • 中国の指導者やシビリアン・コントロールについての評価

米中戦争の回避に関し、中国の政治的指導者の統制能力やシビリアン・コントロールに期待しているが、これらに期待できないから米中戦争が生起するのであろう。

中国には民主主義国家に見られるようなシビリアン・コントロールは存在しない。人民解放軍を習近平中央軍事委員会主席が本当にコントロールできるか否かが問題なのである。

  • 米中戦争の抑止

「中国との戦争」は、戦争による損失の大きさを強調することにより、米中戦争を抑止するという観点がある。しかし、損失の大きさは米中戦争抑止の重要な要素にはなるが、それだけでは不十分であり、総合的な抑止の方策が必要である。

*4=Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons

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