『トランプ氏、人格障害説から突然辞退説まで浮上 拡大するヒラリー・リパブリカン』(8/10日経ビジネスオンライン 高濱賛)、『米民主党のメール大量漏洩にプーチン氏の影』(8/12日経 The Economist)について

8/12日経にはトランプ氏批判に拍車 米兵遺族攻撃や「暗殺示唆」

【ワシントン=川合智之】米共和党の大統領候補、不動産王ドナルド・トランプ氏(70)の9日の演説での発言が民主党のヒラリー・クリントン前米国務長官(68)の「暗殺を示唆した」と報じられ、批判が広がっている。7月末の米兵遺族への攻撃で支持率が急落するトランプ氏は、さらに過激な発言を繰り返して焦点を拡散させる戦術に出たが裏目に出ている。

approval rate of Trump & Hillary

トランプ氏は南部ノースカロライナ州での集会で、銃規制強化を主張するクリントン氏が大統領に就任すれば、銃保持を認めた憲法修正第2条が廃止されると警告。そのうえで銃保持者には「手段があるかもしれない」とほのめかした。「それは恐ろしい日になると言っておく」とも述べた。

米メディアは「暗殺を示唆した」などと報道。米紙ニューヨーク・タイムズは、1995年にイスラエルのラビン首相(当時)を政敵が「売国奴」と呼んだことが首相暗殺につながったと指摘、「同種の暴力を扇動する」と批判した。米MSNBCテレビの著名キャスター、ジョー・スカボロー氏は「無視できない一線を越えた」と述べ、共和党はトランプ氏擁立を撤回すべきだと主張した。

「行き過ぎた冗談だ」。共和下院トップのライアン下院議長は9日、トランプ氏に苦言を呈した。党内の反発は強く、スーザン・コリンズ上院議員は「トランプ氏は大統領候補にふさわしくない侮辱発言を繰り返してきた」と述べ、11月の本選でトランプ氏に投票しない考えを表明した。

米CNNテレビによると、トランプ氏の発言を巡り米大統領警護隊(シークレットサービス)がトランプ陣営に複数回、事情聴取した。トランプ氏は「聴取は受けていない」と否定したが、波紋は広がっている。

トランプ氏は10日の米FOXニュースで発言が誤解されていると釈明し「メディアは不正直だ」と訴えた。

さらに同日のフロリダ州の演説で、オバマ大統領とクリントン氏が「過激派組織『イスラム国』(IS)の創始者だ」と発言するなど、矛を収める気配はない。

暴言を繰り返してメディアへの露出を高めるのはトランプ氏の得意技だ。ただ一連の発言の発端となった米兵遺族への批判は、戦死者を国の英雄とみなす米社会ではタブー視される。それ以来、一時クリントン氏を逆転していた支持率は離される一方だ。

5~8日のロイター通信の世論調査では、共和党員の19%がトランプ氏は大統領選から撤退すべきだと回答した。8日には米共和党の元高官ら50人が、トランプ氏は「米国史上最も無謀な大統領になる」として11月の本選で「投票しない」とする共同声明を出した。反転攻勢をかけられるか、トランプ氏の正念場となる。>(以上)

トランプは共和党全国大会で大統領候補の指名を受ければ、言動を変えるのではと思っていましたが、そうはならないようです。人口比で見て白人男性だけの支持では大統領選には勝てません。高濱氏の記事にありますように、トランプは単なる人格障害か、クリントンを勝たすためにわざと共和党大統領候補に立候補したのかもしれません。日高義樹氏に以前聞いたところによれば、「米国で一番尊敬されるのは軍人」とのことでした。トランプも当然そのことを知っている筈です。それでいて暴言を吐けば、どういう結果を齎すか分かっていると思います。だから人格障害と言われる訳です。レーガンの再来を期待しましたが、レーガンのように他人の話をよく聞く耳は持ち合わせていないようです。クリントンは大統領に相応しくないと思っていましたので、トランプの方がマシと思って期待していたのですが、今のままでは彼も大統領になる資格はないでしょう。両人を大統領候補としてしか選べない所に、米国民の不幸があります。

クリントンが勝てば、中国との不正な金を貰っていた経緯から、中国に厳しい態度は取れないと思います。中国系米人ノーマン・シューによる違法献金事件だけでなく、北野幸伯氏のメルマガによればインドネシア華僑のリッポ・グループから違法献金を受け、ビルが大統領に選ばれたと書かれています。元記事は伊藤貫氏の『中国の「核」が世界を制す』ですが。如何に悪辣な人間かが分かろうというもの。野心の為には手段を選ばず、汚い金塗れの人物です。

また、クリントン家は数々の不正に手を染め、彼らの周りには不可解に死んだ人も多いとのこと。クリントン家の関与があったかどうかは不明ですが、余りに数が多すぎます。銃を持つ権利が憲法上保証され、リンカーンやケネデイのように大統領と雖も暗殺される国ですから、周りの人間が暗殺されてもおかしくはありません。米国を動かしているのは大統領ではなく、軍産複合体or国際金融資本なのでしょうか?いずれにせよ、このままいけば強欲・嘘つきヒラリーが大統領に選ばれるのでは。日本は中国との件で梯子を外されないように、自主防衛を充実させないと。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/57/index.html

http://www.mag2.com/p/news/211764

http://www.news-postseven.com/archives/20160709_427671.html?PAGE=1#container

http://ameblo.jp/jicchoku/entry-12142855625.html

http://www.excite.co.jp/News/odd/Tocana_201606_post_9975.html

8/11産経ニュースではヒラリーに新たな疑惑が浮上とも報道されています。

http://www.sankei.com/world/news/160811/wor1608110030-n1.html

高濱記事

parents of Ghazala Khan

イラクで息子を亡くしたカーン夫妻(写真:AP/アフロ)

—米共和党の大統領候補となったドナルド・トランプ氏の支持率が8月に入って降下。米民主党のヒラリー・クリントン候補が9%もリードする展開になっています。両党が全国党大会を終えて以後、いったい何が起こっているのですか。

高濱:一言でいうと、クリントン氏が「敵失」(Self-destruction)に乗じて、共和党支持層や無党派層の票を着実に獲得し始めたのが要因です。「敵失」とはトランプ氏の暴言を指します。

トランプ氏の支持率が降下する要因として、安全保障・外交や経済に対する理解不足からくる非現実的な主張が挙げられます。とくに、核のボタンを押す権限をトランプ氏に与えることに、専門家たちが超党派で危機感を抱いていることが、同氏の支持率に大きな影響を及ぼしていることは間違いありません。

しかし支持率が下降している直接的な要因は、やはり今回の暴言でした。報道でご存知のようにトランプ氏は、イラク戦争 で戦死したイスラム教徒のホマユン・カーン大尉の父親でパキスタン移民のキズル・カーン氏に誹謗中傷を加えたのです。

「ゴールド・メダル・ファミリー」を冒涜

トランプ氏がイスラム教徒の入国禁止を主張していることに対してカーン氏が、米国憲法がすべての米国民の自由と平等を保障していることをとらえてこう発言したからです。

「トランプさん、あなたは一度たりとも米国憲法を読んだことがありますか」 「あなたは一度たりともアーリントン墓地を訪れたことがありますか。あそこには米国のために命を捧げた米兵が眠っています。人種、宗教、文化を超えて、すべての戦死者が眠っているのです」  カーン氏はトランプ氏によって、自身のプライドが傷つけられたと思ったのでしょう。

トランプ氏はカーン氏の演説について、「どうせヒラリー・クリントンのスピーチライターが書いたものだろう」と毒づき、さらにカーン氏の妻が一緒に登壇しながら無言だったことを取り上げて、「彼女は夫に何も言わせてもらえなかったのではないか」と、イスラム教徒の女性であるがゆえに発言できなかったとほのめかしました。

カーン氏によるこの演説は全米で同時にテレビ中継されるとともに、ユーチューブを通じて全世界に流れ、感動を呼びました。それだけにトランプ氏の反論は顰蹙を買ったのです。同氏の暴言に米国民は慣れっこになっていたのですが、今度ばかりは堪忍袋の緒が切れました。やはり物事には限度というものがあります。

—トランプ氏はこれまで女性、メキシコ系移民、イスラム教徒と、手当たり次第に侮辱発言を繰り広げてきましたね。今回はなぜこれほど激しく非難されたのですか。

高濱:米メディアは戦死した兵士の遺族を「ゴールド・スター・ファミリー」(名誉戦傷勲章受章者家族)と呼びます。国のために命を捧げた兵士とその家族を称える表現です。国家のために戦場で自らの命を犠牲にすることは米国人にとって最高の「愛国心の表れ」「愛国のシンボル」とされています。「ゴールド・スター・ファミリー」を冒涜することは最大のタブーなのです。

トランプ氏はそのタブーを破りました。もっともご本人はそれほど「罪悪感」を覚えてはいないようで、「公の場で、名指しでけなされたのだからそれに反論するのは当然ではないか」と開き直りました。それが火に油を注ぐ結果になってしまいました。

民主党はもとより、共和党の実力者たちも一斉に反発しました。共和党上院トップのミッチ・マコネル院内総務、ポール・ライアン下院議長、08年の共和党大統領候補だったジョン・マケイン上院軍事委員長らは「カーン大尉は英雄だ」「カーン一家の犠牲はつねに称えられるべきだ」「トランプ氏の発言は共和党を代表するものではない」と異口同音にトランプ氏を批判したのです。

こうした動きにトランプ氏はどう反応したと思いますか。ライアン氏に対しては「我々には強い指導者が必要だ。彼を支持するかしないかは、まだ決める段階ではない」と言明。報復手段に出たのです。

もっともトランプ氏は数日後にライアン氏やマケイン氏を支持すると前言を翻しました。これに対してライアン陣営などは「トランプ氏に支持されるとかえって再選の可能性が薄れる」と拒否しているのですね。トランプ現象はそこまで深刻な事態になっているのです。

共和党候補が南部の支持率で負けたのは20年ぶり

—クリントン、トランプ両氏の支持率の動向について、もう少し詳しく教えてください。

高濱:最新の有権者の動向を徹底調査したNBC/ウォールストリート・ジャーナル合同世論調査(7月31日から8月3日実施、8月5日公表)を見てみます。

同調査では、クリントン氏の支持率は47%、トランプ氏38%で9%の差がつきました。

バラク・オバマ氏とミット・ロムニー氏(元マサチューセッツ州知事)が争った12年の大統領選でこれほど差がついたことは一度もありません。08年、オバマ氏とマケイン上院議員とが競った大統領選では、08年10月にオバマ氏が一回だけ10%の差をつけたことがありました。9%はそれ以来の大差ということになります。

同調査の内容をもう少し詳しく検証してみます。クリントン氏とトランプ氏の支持率の差(クリントン氏の支持率-トランプ氏の支持率)を地域別に見ると、以下のようになります。

北東部 中西部 南部 西部
+14% +15% +3% +12%

南部で民主党候補の支持率が共和党候補の支持率を上回ったのは20年ぶりのことです。

政治信条別にみると、リベラル派では+72%、中道派では+23%。保守派ではトランプ氏が52%リードしています。

居住地域では、クリントン氏が都市部で36%リードしていますが、都市圏近郊ではトランプ氏が1%、農村部では23%の差をつけてリードしています。

さらに年齢別では、クリントン氏は<18歳から34歳>で+12%、<35歳から49歳>で+4%、<50歳から64歳>で+16%とそれぞれリードしています。トランプ氏は<65歳以上>で+3%リードしているだけです。

選挙人はクリントンが64 %を獲得

—トランプ氏の暴言がいかにたたっているかがよくわかります。ところで「スィング・ステート」(揺れる州)を制したものが大統領選を制するといわれています。これらの州での支持率はどうですか。

高濱:大統領選の行方を左右するとみられるスィング・ステートのうちフロリダなど4州でクリントン氏はトランプ氏に水をあけています。その差は以下のとおりです。

フロリダ州 ペンシルべニア州 ミシガン州 ニューハンプシャー州
+6% +11% +9% +15%

工業地帯を抱えるペンシルべニア州やミシガン州で勝敗を決するのは、そこに住むブルーカラー層の取り合いです。現時点ではクリントン氏に軍配が上がっているようです。 (”Mika: Trump could end up as the biggest loser,” www.msnbc.com., 8/5/2016)

—「スィング・ステート」でこれほど差をつけられては、現状では、トランプ氏の勝ち目はないとみるべきなのでしょうね。

高濱:支持率は重要ですが、より大切なのは3か月後の大統領選の勝敗を決める選挙人獲得レースの行方です。ご存知のように、選挙人538人のうち過半数の270人を獲得したほうが勝ちです。

統計に基づいて選挙情勢を予想する「ファイブ・サーティ・エイト」(FiveThirtyEight/Nate Silver’s FTE)は8月5日段階で、クリントン氏は選挙人346.7人を確保、これに対しトランプ氏は191.0人にとどまっていると予想しています。そしてクリントン氏の勝つ確率は81.5%と断定しています。 (”Who will win the presidency?” FiveThirtyEight, 8/5/2016)

—自分が所属したり支持したりしている政党が指名した大統領候補ではなく、他の党の大統領候補に選挙人が投票する例は過去にありましたか。

高濱:「レーガン・デモクラット」という言葉を覚えていますか。80年、84年の大統領選挙で、民主党員でもあるにもかかわらずロナルド・レーガン共和党候補に票を投じた民主党員のことです。

レーガン氏は、安全保障や移民問題で保守的な価値観を強調することで、本来なら民主党支持層である東部の住民の一部や中西部の白人労働者層を引きつけ、勝利したのです。その背景には、経済の停滞を招いたジミー・カーター第39代大統領に対する民主党支持層の一部からの不満がありました。

米ロサンゼルス・タイムズのシニア・ライターの一人は筆者に「クリントン氏は今回、そのレーガン氏のお株を奪おうとしている。トランプ氏ではなく、クリントン氏に票を入れる共和党員や支持者はまさに『ヒラリー・リパブリカン』と呼んでいいだろう」と語っています。

「ヒラリー・リパブリカン」の特徴は、トランプ氏の暴言が嫌いなだけでなく、政治思考や政策に危機感を覚えていることです。中には、トランプ氏の指名を阻止することができなかった共和党のエスタブリッシュメント(既成権益層)の人たちも含まれています。「沈みかけたトランプ号」に見切りをつけて「ヒラリー丸」に乗り移ろうとしているのです。

皮肉なことですが、こうした「ヒラリー・リパブリカン」の中には、レーガン政権で大統領スポークスマンやスピーチライターを務めたダッグ・エルメッツ氏や訟務長官だったチャールズ・フライド氏などがいます。

さらにクリントン氏に投票すると公言している共和党員には、大統領選予備選に出馬して撤退したマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)、ミット・ロムニー氏、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長らがいます。 (”The Republicans Defecting to Hillary Clinton” Clare Foran, The Atlantic, 8/5/2016)

ゲーツやアーミテージもヒラリー支持か

クリントン氏に投票するかどうか態度を明確にはしていませんが、少なくとも「トランプ氏は大統領には不適格だ」と言っている共和党員、共和党支持者たちとして、以下の人々が挙げられます。「潜在的ヒラリー・リパブリカン」です。

<政界> マコネル 上院院内総務(ケンタッキー) ライアン 下院議長(ウィスコンシン) リチャード・ハンナ 下院議員(ニューヨーク、今期で引退予定) アダム・キンズガー 下院議員(イリノイ) マーク・カーク 下院議員(イリノイ)

<官界OB> ロバート・ゲーツ 元国防長官 マイケル・ヘイデン 米中央情報局(CIA)の元長官 マイク・モレル CIAの元長官代行 ブレント・スコークロフト 元大統領国家安全保障担当補佐官 リチャード・アーミテージ 元国務副長官

<経済界> メグ・ホイットマン ヒューレット・パーカード(HP)CEO セス・カーマン 投資会社「ボウポスト・グループ」創業者

<言論界> チャールズ・クラウトハマー 評論家 ジョージ・ウィル 保守派コラムニスト マイケル・ケイガン ネオコン(新保守主義)学者

側近も手を焼くトランプの暴言癖

—クリントン氏に大差をつけられているのに、トランプ氏はなぜ暴言を続けるのでしょう。共和党大統領候補としてもっと品位を持って国民受けする政策を打ち出すなどして、形勢逆転を図ろうとしないんでしょうか。

高濱:トランプ氏は共和党大統領候補に正式に指名されたあとは失言暴言を抑え、まともな大統領候補として振る舞うのではないかとみられていました。

先ほどお話しした「カーン氏の発言に対する批判」については、トランプ氏の側近たちは事前に「カーン氏を誹謗中傷するよりもクリントン攻撃に専念すべきだ」と助言したようです。しかしトランプ氏はそれを無視しました。

その後も「ヒラリーは悪魔だ」「バーニー・サンダース(上院議員)は健闘したが最後には悪魔(ヒラリー)と握手してしまった」と暴言をやめません。対立候補を「悪魔」などと呼ぶ主要政党の大統領候補はこれまでいませんでした。

トランプ氏の側近の一人は、「トランプ氏は一度言い出したら人の意見など聞かない。とくに人に批判されると、すぐカッとくる性格で、そう簡単には治せない」とこぼしていたそうです。

トランプ氏の性格について、カリフォルニア州パサデナ在住の精神科医、ドリュー・ピンスキー博士は次のように述べています。「トランプ氏は、法律で厳格に定義づけられている精神異常とは言えないかもしれないが、複合的精神疾患の兆候が出ている。直接診断してみないとわからないが、強度の自己愛性人格障害(A narcissistic personality disorder)、あるいは人格障害症(Sociopath)かもしれない」。 (”Dr. Drew Pinsky: Trump may be mentally ill–so what does that say about his supporters?” Travis Gettys, www.rawstory.com. 8/2/2016)

—「トランプ辞任後」を模索し出した共和党指導部?

トランプ氏が「人格障害」ですか。「人格障害」は、気分の波が激しく、感情の抑制が出来ず、ちょっとしたことで癇癪を起したりするそうですね。だとすれば、トランプ氏のあの言いたい放題もわかる気がします。

高濱:8月3日の夕方、米3大ネットワーク(CBS、 NBC、ABC)が夜のニュースで、トランプ陣営内のもめごとについて一斉に報道しました。トランプ氏は側近の言うことを一切聞かず、選対最高責任者のポール・マナフォート氏もお手上げ状態だというのです。

さらにロサンゼルス・タイムズはショッキングな記事を掲載しました。「共和党指導者たちは、トランプ陣営のスタッフがトランプ氏をコントロールできなくなっていることに苛立っている。トランプ氏が突如、共和党大統領候補をやめてしまった場合の対処策についてすら協議し始めているという。共和党指導部の幹部の一人は、万が一、トランプ氏が辞めた場合、その空席をどう埋めるかについて弁護士が法律面から研究調査していると語っている」 (”‘A sense of panic is rising’ among Republicans over Trump, including talk of what to do if he quits,” Noah Bierman, Los Angeles Times, 8/3/2016)

—主要政党の大統領候補が本選挙の前に「敵前逃亡」するなんて、米史上初めてのことではないのですか。そうするくらいなら、不動産王のトランプ氏は一体なぜ大統領選に立候補したのでしょう。

高濱:そういきり立たないでください。CBSのディジタル政治部門の編集長、ウィル・ラーン氏が「トランプに関する陰謀説ガイド」と題する記事(8月4日)を書いています。これに沿って、話をしましょう。

この記事の主旨を以下に箇条書きにします。

  • 1)トランプ氏は最初から大統領になる気などなかった。  MSNBCアンカーウーマンのレイチェル・マドウ氏、「ポリティコ」のタッカー・カールソン氏が主張。
  • 2)トランプ氏は最初からクリントン一家と話がついていた。  トランプ氏は09年まで民主党員だった。クリントン一家とは親しく、05年に行なった現夫人メラニアさんとの結婚式にクリントン夫妻を招いている。共和党の指名争いに参加することで、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が共和党大統領候補になる芽をつぶした。ブッシュ氏は、クリントン氏にとって手ごわい存在とみられていた。
  • 3)トランプ氏は今もなおロシアのウラジミール・プーチン大統領の周辺と商売をしている。  ロシア政府系のメディアは親トランプ色を色濃く滲ませており、トランプ氏を「外交政策の学者」とまで持ち上げている。トランプ氏の側近の一人は、ウクライナの前大統領、ビクトル・ヤヌコビッチ氏の助言者だったと報じられている。トランプ氏はロシア投資家たちと多くの取引を行ってきた。

 ・   4)トランプ氏は最初から大統領候補を途中で降りるつもりでいた。  ABCは、トランプ氏が共和党大統領候補から降りた時に誰を後継者にすべきか共和党幹部が検討を始めていると報じている。党則第9条には大統領候補が本選の前に辞めた場合、州単位の投票で新たな候補を選ぶことになっている。

(”Rule–Republican National Committee: Rule No. 9, Filling Vacancies in Nominations,” cdn.gop.com.)

この4つの説のどれかが真実だったとすると、予備選でトランプ氏に投票した共和党員・支持者、全国党大会で渋々トランプ氏を指名してしまった党員、そしてトランプ氏のことを精力的に報道してきた米メディア、さらに世界中のメディアは、みな騙されたということになりますね。 (”A Guide to the conspiracy theories about Donald Trump,” Will Rahn, CBS News, 8/4/2016)

The Economist記事

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「他の国の内政に干渉すべきではない」と主張している。だが、他の国を侵略したり、悪辣な政治家に資金を援助したり、恐らくは米民主党とその大統領候補を困惑させるために陰謀を企てたりするのは、同氏のいう“干渉”には当たらないのだろう。

民主党全国委員会の電子メールを巡るスキャンダルにロシア政府がどのような役割を果たしたか、その目的は何か、そしてこのスキャンダルで誰が一番大きな打撃を受けるのかは、まだ明らかになっていない。分かっているのは、内部告発サイトのウィキリークスが7月22日に、同委員会のアカウントからハッキングされた1万9000件を超える電子メールを公開したことだ(ウィキリークスはこの5日後、ハッキングされたボイスメールも公開した)。

Putin & Hillary

APECサミットでクリントン米国務長官(右=当時)と言葉を交わすロシアのプーチン大統領(2014年9月8日)=AP

バーニー・サンダース上院議員を支持する人々の間では、同党幹部が予備選挙において、ヒラリー・クリントン前国務長官に肩入れしているとの見方が出ていた。今回暴露された電子メールの一部は、サンダース議員の支持者が抱いていた確信を裏付けるものだった。

極め付きは、「サンダース氏が無神論者だという話を流したらどうか」というある幹部の発言だ。サンダース議員の支持者は憤りをあらわにし、フィラデルフィアの党全国大会で抗議行動を起こす意図を明らかにしていた。

フロリダ州選出の下院議員、デビー・ワッサーマンシュルツ氏は7月24日、混乱の責任を取って同委員会の委員長を辞任した。

■ロシア関係の2組織が関与か

サイバーセキュリティー会社のクラウドストライクは、すでにロシアの関与を確認している。同委員会は5月に同社に協力を要請していた。同社によれば、ハッキングは昨年夏に始まった。それ以降、ロシア情報機関と関わりがあるとみられる2つの組織が、度々ハッキングを繰り返した。この判断は電子的に残されている手がかりに基づく。他のサイバー調査機関(米国のスパイを含む)も見方を同じくしている。

この2つの組織は、この世界に詳しい人たちが「ファンシーベア」および「コージーベア」と呼ぶもの。後者は国務省、ホワイトハウス、統合参謀本部にサイバー攻撃を仕掛けたと言われる。

ロシアの安全保障を専門とするアンドレイ・ソルダトフ氏は別の仮説を示している。2つの集団のうち1つは民間のハッカーで、もう1つは同社の政府関係顧客だと言うのだ。自分がやったという自称ルーマニア人(ルーマニア語はしゃべれないという)の匿名ハッカーの証言は信ぴょう性が薄い。

ウィキリークス――創始者のジュリアン・アサンジ氏はかつてロシアのプロパガンダテレビ局でトークショーの司会を務めていた――は今回のメール漏洩とロシアとのつながりを否定している。ロシア政府も冷ややかに疑惑を全面否定した。

そうであるにもかかわらず、プーチン大統領がクリントン氏を嫌っており、このことがクリントン氏をおとしめる動機となっている可能性があるとの見方には十分な説得力がある。クリントン氏が2011年に「ロシアの議会選挙は公正に行われなかった」と抗議したことにプーチン大統領は反発。クリントン氏が「(国内の活動家を)あおり」、「(ロシアの活動家に)合図を送った」と非難した。

プーチン大統領の見方に立てば、ソ連崩壊後に生じた混乱の陰には、いつも米国の陰謀があった。モスクワにおいてクリントン氏は総じて、好戦的で経済制裁を声高に主張するタカ派とみなされている。

■トランプ氏のロシア人脈

一方、共和党の大統領候補となったドナルド・トランプ氏はクリントン氏よりもロシアにとってはるかに好ましいと受け止められている。トランプ氏は複数の同盟国との話し合いよりも2国間協議を、国際問題に関与することよりも孤立主義を優先する意向を打ち出している。ロシアの人権無視やその解決に向けた米国の役割に重きを置いてはいない。そしてプーチン大統領にとってとりわけ心強いことに、北大西洋条約機構(NATO)を軽視し、相互防衛義務を履行するかしないかは米国が判断できると示唆している。

見方によっては、これらはすべて、トランプ氏の大統領就任をロシアが後押しする材料となる。陰謀説を唱えたがる人々の中には、トランプ氏の選挙運動とクレムリンとのつながりを疑う者さえいる。その証拠として、トランプ氏のロシアでの事業展開や、プーチン大統領を持ち上げるような発言、側近たちの過去の行いを挙げる。

例えば、トランプ氏の選挙運動で責任者を務めるポール・マナフォート氏は、元ウクライナ大統領のビクトル・ヤヌコビッチ氏(大統領を解任されたあとロシアに逃亡)の顧問だった。外交政策顧問の1人、カーター・ページ氏は、ロシアの国営ガス会社ガスプロムとつながりがある。

トランプ氏も同委員会のメール流出問題を冷笑した。その後、驚くべきことに、クリントン氏の私的な電子メールをハッキングするようロシアに促すともとれる発言をした。さらにトランプ氏は、ロシアによるクリミア編入に関する承認を検討する考えを示した。

それでも、ロシアと関わる人材をトランプ氏が多用していることは陰謀ではなく、相関関係によって説明できる。プーチン大統領のために働くのもトランプ氏のために働くのも、罪の意識があってはできないことだ。

ジョージ・ワシントン大学の機関誌「カウンターポイント」の編集者、マリア・リップマン氏によればロシア政府は、同政府が米国政治に大きな影響を与えることはできないと理解している。電子メールの流出にロシア政府が関与しているとするなら、その目的は大統領選においてトランプ氏を有利にするという野心的な試みにあるのではなく、米国の民主主義が安直で多くの欠点を内包していることを、衆目の下にさらすことにあると思われる。

米連邦捜査局(FBI)の捜査が進めば、このハッキングが不都合な政治家を暴露するためにクレムリンが採る常とう手段――会話を盗聴したり、浮気の証拠となるぼやけた写真を盗み撮りしたり――に類するものかどうか、判明するかもしれない。その意図がどのようなものであれ、クリントン氏よりもトランプ氏のほうが、今回の電子メール・スキャンダルで大きなダメージを受ける可能性が大きいだろう。トランプ氏が困惑するなどということがあリ得るとすればだが。

(c)2016 The Economist Newspaper Limited Jul 30th – Aug 5th, 2016 All rights reserved.

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