1/21・/20日経ビジネスオンライン 高濱賛『共和党本流が推す三人衆はトランプを駆逐するか』、堀田佳男『民主党支持者の票をも奪い始めたトランプ候補』について

1/20日経夕刊に「ペイリン氏がトランプ氏支持 米共和党指名争い

【ワシントン=芦塚智子】11月の米大統領選に向けた共和党の候補指名争いで、2008年の同党副大統領候補だったペイリン元アラスカ州知事が19日、実業家のトランプ氏を支持すると表明した。ペイリン氏は保守層に根強い人気があり、予備選の初戦となる2月1日のアイオワ州党員集会に向けてトランプ氏に追い風となりそうだ。

 アイオワ州ではトランプ氏と保守派のクルーズ上院議員が接戦を展開している。ペイリン氏は12年の上院選でクルーズ氏を支持した。ペイリン氏はアイオワ州に多いキリスト教保守派にも人気があり、テレビ番組への出演が多いことから知名度も高い。」

1/21NY発信「反トランプ」運動、米国で発足 大物俳優や著名人が続々賛同

【AFP=時事】米国の劇作家らが20日、米大統領選挙の共和党指名獲得争いで首位に立つ富豪のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を糾弾する運動「ストップ・ヘイト・ダンプ・トランプ(#StopHateDumpTrump、ヘイトをやめてトランプを除去しよう)」を立ち上げた。米大物俳優や作家、知識人らが続々と賛同の意を表明している。

トランプ氏、大人気なのはなぜ?支持者が語る

「トランプ大統領」の誕生を阻止すべく発足した同運動のオンライン署名には、これまでに歌手・俳優のハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)さんや、女優のケリー・ワシントン(Kerry Washington)さん、ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)さん、映画監督のジョナサン・デミ(Jonathan Demme)氏、言語学者のノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)氏らが名を連ねた。

 発起人は劇作家のイブ・エンスラー(Eve Ensler)氏、ドキュメンタリー映画監督で反戦運動「コード・ピンク(Code Pink)」を立ち上げたジョディ・エバンス(Jodie Evans)氏、法学者のキンバリー・クレンショー(Kimberle Crenshaw)教授の3人。「憎悪や分断をあおる演説手法を多用しているにもかかわらず、トランプ氏の選挙キャンペーンは勢いを増している。こうした中で、声を上げ行動する機会を米国の人々に提供したい」とエンスラー氏は説明した。

 また、メディアや政治団体がトランプ氏の過激主義を「一般化」した責任を問うことも、運動の目的の1つだという。エンスラー氏は、メディアも政治団体も「トランプ氏の過激主義を娯楽として扱い、過度な放送時間を割いて不平等に報じ、調査も質問も非難も適切に行ってこなかった」と批判している。

「ダンプ・トランプ」運動のウェブサイトは、トランプ氏について「米国と全米国人の民主主義、自由、人権、平等、幸福に対する深刻な脅威だ」と主張。「歴史は、憎悪に満ちた指導者に立ち向かうことを人々が拒否したとき、何が起こるのかを私たちに教えてくれる。彼(トランプ氏)に代表される憎悪と排他の政治に対抗すべく、あらゆる手段を使って声を上げていく」と言明している。

 ウェブサイトには立ち上げからわずか数時間で1200人近い賛同の署名が集まった。【翻訳編集】 AFPBB News」

1/23日経には「トランプ氏 焦りの正体 初戦アイオワ世論調査首位だが… 支持者は本当に投票行くか

11月米大統領選の候補指名争いの初戦となる2月1日の中西部アイオワ州党員集会まで1週間あまり。世論調査で共和党大統領候補として支持率首位を保つ不動産王ドナルド・トランプ氏(69)は他候補への攻撃を強める一方で「大物」の支持を取りつけた。一連の行動の背後にはアイオワを巡るトランプ氏の焦りがにじむ。焦りの「正体」は何か。

Donald John Trump-1

米大統領選の共和党候補指名争いで演説するトランプ氏(21日、ラスベガス)=ロイター

 「私は候補指名を獲得する。そのことは世論調査が示している」。トランプ氏が集会で自らの支持率を誇示するのはお決まりの流れだ。トランプ氏を支持するのは中低所得者層の白人で、大学を卒業していない人が多いという特徴がある。

 あまり投票に行かない傾向にあるとされるこれらの人たちが本当に投票するのか――。トランプ氏が候補指名を引き寄せられるかどうかは、この一点にかかっている。過去の大統領選をみても、支持率と投票行動の相関関係は、そんなに単純ではないからだ。

天候の影響も

 2004年大統領選。民主党候補として支持率で独走していたハワード・ディーン氏はアイオワで予想外の3位に終わり、その後失速した。08年大統領選の民主党候補の一人だったヒラリー・クリントン氏も世論調査では優勢とみられたが、アイオワで現大統領のオバマ氏に敗北し、巻き返すことができなかった。

 本選をみても、1992年大統領選に独立候補として出馬した大富豪ロス・ペロー氏は一時、民主党候補のビル・クリントン氏や共和党候補のジョージ・ブッシュ父氏の支持率を上回っていた。だが本選の総得票数は全体の19%で3位に沈んだ。

 浮かび上がるのは、支持率が選挙予測の万能薬ではないということだ。ディーン氏は後に「アイオワで負けることは3週間前から分かっていた。聴衆の熱狂に違和感があった。調べてみると、アイオワの人たちではなかった」と語っている。

 熱烈な支持者が全国の遊説について回ったため集会はいつも盛り上がる。半面、地元の聴衆でないことから候補が知りたいその州の支持の強度が分からない。補強箇所のミスマッチを放置したまま選挙運動を続け、党員集会・予備選を迎える。ディーン氏の例は、その典型だ。

 トランプ氏の選挙運動はどうか。集会の様子をみる限り、一部の熱狂的な支持者は全国をついて回っているものの、ほとんどはその地元の聴衆だ。ディーン氏の例とは違うが、アイオワにはまだ難関がある。

 天候と党員集会の時間帯だ。最低気温はマイナス10度を下回ることも珍しくない。党員集会は夕食時の午後7時ごろから始まる。世論調査で「共和党候補として誰を支持しますか」という質問に気軽に答えるだけでは済まない。氷点下の中、家族だんらんを放棄して党員集会に足を運ばなければならない。投票する側にも覚悟がいる。

 さらにアイオワは中絶禁止や同性婚反対など保守的な政策を掲げるキリスト教右派が影響力を持つ。同派は天候や時間帯にあまり左右されないとみられている。トランプ氏とテッド・クルーズ上院議員(45)の支持率がアイオワでは拮抗するものの、同派に支えられるクルーズ氏が有利との見方が消えないのは、このためだ。

ペイリン氏連携

 「私がいまここにいるのは、次期大統領を応援するためだ」。アイオワで19日に開いたトランプ氏の集会。08年大統領選の共和党副大統領候補、サラ・ペイリン元アラスカ州知事の独特の甲高い声が響いた。トランプ氏はクルーズ氏に対抗するため、キリスト教右派の人気が根強いペイリン氏に目をつけた。アイオワでは二人三脚で遊説する。

 共和党の場合、これまでアイオワで負けても、予備選の致命傷にはなっていない。しかし、トランプ氏は昨夏以降、世論調査でトップの座を守ってきただけに「負ければ、他州への影響は避けられない」(ラリー・サバト米バージニア大政治センター所長)。

 移ろいやすい世論の風をうまくつかんできたトランプ氏の強さは本物か。最初の結果は、あと1週間あまりで出る。(ワシントン=吉野直也)」

米・大統領選についてはいろんな人がいろいろ解説して、誰が的中するのか分かりません。2/1アイオワ州の投票を待ちたいと思います。誰が大統領になろうとも中国に対峙する大統領であれば良しとせねば。オバマは戦後最低の大統領に選ばれたとの記事もありました。(2014/07/02)

http://www.excite.co.jp/News/politics_g/20140705/Leafhide_election_news_aXOzWr1NXA.html

やはり「世界の警察官」に復帰して、自由主義諸国と共に邪悪な中国の封じ込めをしてほしい。

高濱記事

Donald John Trump-2

米共和党の大統領に名乗りを挙げた面々。左から2番目がクリス・クリスティ・ニュージャージー州知事、3番目がマルコ・ルビオ上院議員、一番右がジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(写真:ロイター/アフロ)

—いよいよ2月1日から、米大統領選が予備選に突入します。皮切りはアイオワ州の党員集会。「トランプ旋風」は衰えるどころか、勢いを増しているようですね。

高濱:イスラム過激派「イスラム国」(IS)のテロや北朝鮮の「水爆」実験などに対して、米国の一般大衆は憤りをあらわにしています。不動産王のドナルド・トランプ氏はこうした大衆の怒りをストレートに代弁して拍手を浴びています。それゆえ各種世論調査で高い支持率を維持しているのです。政策云々よりも、言っていることに賛同を得ているのです。

 これが党員集会や予備選での投票行動にどう表れるのか、多くの選挙専門家が注目しています。

 トランプと同じ層から支持を得ているのが超保守のテッド・クルーズ氏です。こちらはテキサス州選出の1年生上院議員。米プリンストン大と米ハーバードを卒業したキューバ系弁護士(キューバ移民の父親と米国人の母親との間に生まれた)。連邦裁判所で働いたこともあるインテリです。

 1月14日に行われたテレビ討論会でも、トランプ氏とクルーズ氏が目立ちました。

—両者はその討論会でかなり激しくやり合いましたね。

高濱:トランプ氏はクルーズ氏がカナダで生まれたことをとらえて、「米国内で生まれていないものは大統領選に出る資格はない」とし、裁判所に提訴すると息巻いています。

 これに対して、クルーズ氏は「ちょうどいい機会だから言っておく。両親のどちらかが米国籍であれば生まれた子供はどこで生まれようとも米国籍を得られるというのが米法曹界の従来からの憲法解釈だ」とやり返しています。

 米憲法は、「natural-born citizen」(出生によって米市民権を有する市民)でなければ大統領になれないと定めています。つまり両親のどちらかが米国籍を持っていれば、世界中どこで生まれても米国民になれるという条文です。

 08年にはパナマ生まれのジョン・マケイン上院議員が共和党大統領候補に指名されました。このことから見てもクルーズの主張は法的に正しいのですが、「natural-born citizen」の定義を巡って法曹界で異論があることも事実です。

アイオワ州でトップを走るクルーズ氏

—世論調査はいわゆる人気投票であって実際の投票を占う参考材料にはない、という意見も聞かれます。ですが、予備選の幕開けとなるアイオワ州の投票結果はどうなりそうですか。

高濱:アイオワ州の住民を対象にここ1月の間に行われた各種世論調査の平均値ではクルーズ氏が26.7%と、トランプ氏(26.2%)を0.5%差でリードしています。この2人に13%ほど引き離されて、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)が追っています。

 4位は元外科医のベン・カーソン博士9.0%。第3陣には、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、クリス・クリスティ・ニュージャージー州知事、ジョン・カーシク・オハイオ州知事が7%未満で続いています。

 ルビオ氏と第3陣の3人のうちブッシュ、クリスティ両氏は、いわゆる「共和党エスタブリッシュメント」(共和党保守本流)がなんとか指名したと考えている「保守中道」です。なかなか浮上しきれずにいます。 (”Iowa Republican Presidential Caucus,” Poll, Real Clear Politics)

—「共和党エスタブリッシュメント」というのはどういった人たちを指すのでしょうか。なぜトランプ氏やクルーズ氏が嫌いなのでしょう。

高濱:共和党という保守政党を実際に動かしてきた政治勢力です。共和党の上下両院の指導層、州知事といった政治家のほかに、共和党を物心両面で支援する財界、経済界の実力者たち、それに保守系メディアの最高幹部らを指します。 (”Who exactly is the ‘Republican establishment’?” The Week Staff, The Week, 3/9/2012)

 軍事産業や薬品・保険業界など、共和党の政策を支持し、政治献金をしてきた企業団体もこの中に入ります。銃規制に強く反対する全米ライフル協会も無論この政治勢力に属しています。

オバマケアに反対して21時間以上の議事妨害演説

 クルーズ氏はこうした共和党エスタブリッシュメントに反発するティーパーティ(茶会)や宗教保守から支持を得て大統領選に立候補しています。クルーズ氏には売名屋的なところがあります。13年9月の上院での予算審議ではオバマケア(医療保険制度改革)に反対するためにフィリバスター(議事妨害)を行いました。なんと21時間以上にわたって本会議場で演説し、連邦政府機関を閉鎖させる立役者になりました。

 せっかく中間選挙で上下両院の過半数を取り、政権担当能力のある野党として国民にアピールしようとしていた共和党執行部は激しく怒りました。共和党エスタブリッシュメントがクルーズを嫌うのも頷けるというものです(関連記事「躍り出た2人のキューバ系!トランプを超えるか」)。

 共和党保守本流が憂慮しているのは、万一トランプ氏やクルーズ氏が共和党候補に指名されたら、あまりにも過激なため、とてもではないが秋の本選挙で民主党候補に勝てないと見ているからです。

 ですからトランプ氏やクルーズ氏に対して、共和党エスタブリッシュメントから選挙資金はほとんど流れていません。トランプは自腹を切って、クルーズ氏はティーパーティなどから小口のカネを集めることしかできません。ちなみにこれまでブッシュ陣営が使った政治広告費は4900万ドル、ルビオ氏が2560万ドル。それに比べてクルーズ氏は200万ドルにとどまります。 (”Bush, Allies Have Now Spent Nearly $50M in Ads,” Mark Murray, NBC News, 1/5/2016)

—ということは、共和党エスタブリッシュメントは予備選の序盤戦でなんとかトランプ氏やクルーズ氏を脱落させたいのではないでしょうか。何か手を打とうとしているのですか。

保守本流が今「ストップ・ザ・トランプ」に動かない理由

高濱:「ストップ・ザ・トランプ」について言えば、共和党エスタブリッシュメントが今の段階で、表立って動かない理由は3つあります。

 一つは今やっても支持率争いで実益がないこと。トランプ氏がこれだけ一般大衆からの人気を得ているときに手を出せば、何をやっても逆効果になる可能性があるとの判断です。

 さらには放っておいてもトランプ氏はいずれ自滅すると見ているからだと思います。私の近所に住む共和党員の一人は、「常識ある党員たちはまだ休憩しているか、寝ている段階だよ」と言っています。

 でも水面下では色々な動きが出ています。例えば共和党実力者の一人、リンゼイ・グラム上院議員(サウスカロライナ州)は1月16日、ブッシュ支持を打ち出しています。同氏は昨年6月に大統領候補に立候補したものの、12月に辞退しています。ブッシュ支持を表明している上院議員は5人、下院議員は26人います。一方、クルーズ支持には16人ティーパーティ系下院議員が手を挙げています。ただし上院議員はゼロ。トランプ氏にいたっては、上下両院議員はもとより、州知事もひとりとして支持していません。 (”CEO Daily: One contest Trump isn’t winning,” Tory Newmyer, Fortune, 1/16/2016)

「支持率」よりも「好感度」に注目

—党員集会や予備選を占う上で、世論調査の支持率ばかりが取り上げられます。ほかにどんなバロメータ―がありますか。

高濱:今後注目すべきは、「好感度」です。時系列的に見て、この「好感度」が大きく変化している候補を注目すべきだ、という説があります。

 保守系の著名なコラムニスト、ジョージ・ウイル氏は、共和党エスタブリッシュメントが推している候補の一人、クリス・クリスティ氏の好感度が変化していると指摘しています。 (”The Des Moines Register/Bloomberg Politics Iowa Poll,” Selzer & Company, 1/7-10/2016)

 クリスティ氏の好感度は15年8月の時点では29%(非好感度=嫌いだ=は59%)でしたが、16年1月には51%(非好感度は42%)と飛躍的に伸びています。6回にわたる公開討論会での発言やメディア報道を受けて、嫌いだった人が好きになってきているのです。

 トランプ氏の場合は非好感度が8月以降じりじり上がる一方です。非好感度は、15年8月の35%から16年1月の45%に増えています。

 ウイル氏はこう指摘しています。「トランプ氏は、メディアがその人柄や言動を取り上げれば取り上げるほど好感度が低下している。それに比べ、クリスティ氏は知られれば知られるほど好かれ始めている。ロングランの予備選では重要な要素になる」。 (”Keep an eye on Chris Christie,” George F. Will, Washington Post, 1/15/2016)

共和党各州知事に貸しを持つ共和党全国知事会会長

 クリスティ氏は共和党全国知事会会長を務めていた14年、知事選挙に際して1億ドルの選挙資金を集め、17人の再選と7人の新人当選に大きく貢献しました。このためメリーランド州とメーン州の知事がすでにクリスティ支持を表明しています。こうした知事は今後も増えていきそうです。

 さて2月1日にはアイオワ州。そして2月9日にはニューハンプシャー州。20日はサウスカロライナ州、23日はネバダ州。そして3月1日には13州同時に行われる「スーパーチューズデー」と続きます。

 共和党エスタブリッシュメントが支持するルビオ氏、ブッシュ氏、クリスティ氏の三人衆のうち誰が、どこから急浮上して、トランプ氏やクルーズ氏の勢いを止めるのか。指名争いの行方がはっきりし出すのは「スーパーチューズデー」あたりからになりそうです。

堀田記事

Donald John Trump-3

共和党の大統領候補を目指し遊説するドナルド・トランプ氏(写真:AP/アフロ)

 米大統領選の共和党候補に手を挙げるドナルド・トランプ氏が次期大統領になることはあるのか―。

 今年11月8日に行われる本選挙で「トランプ大統領」が誕生する可能性がでている。民主党寄りの有権者でさえもトランプ支持に回るのがイマの米国である。いったい何が起きているのか。

 大統領選を追う専門家らは過去数カ月、トランプ氏の人気の理由を探ろうと懸命になってきた。というのも、ほとんどの専門家は昨夏から秋にかけて「トランプ人気はいずれ落ちる」と予想していたが外れたからである。

 恥ずかしながら筆者もその1人。昨年9月末まで、トランプ氏は年明けまでもたないと読んでいた。過去の大統領選を振り返ると、暴言を1度口にしただけで消えていった候補が何人もいたからだ。

 ところがトランプ氏は不法移民やイスラム教徒に対する差別的発言を繰り返しても、その支持率が落ちなかった。というより、逆に、暴言や失言を前に進むエネルギーに変えてしまうほどの勢いがある。

民主党支持者の支持も集め始めた

 連邦議会の動向を主に報じる新聞「ロール・コール」の記者ジョナサン・アレン氏は、トランプ支持者は今も増えていると米テレビ番組の中で述べている。「トランプ氏の支持率はいずれ落ちると、いまだに考えている人がいます。その一方で、民主党員の中にもトランプ氏に魅了される人が増えてきています」。

 共和党内で人気が高いことは、過去半年ほどの世論調査を眺めればわかる。だが民主党支持者がトランプ支持に回っている現象は、トランプ人気が「一過性」のものではなく「着実」という言葉で表現できるまでになっていることを意味する。

 首都ワシントンにあるマーキュリー・アナリティクスが行った最新世論調査で、民主党支持者の20%が「間違いなくトランプ氏に投票する」と答えたのだ。しかも予備選の幕を切る最初の2州(アイオワとニューハンプシャーの両州)で1月4日から放映し始めたトランプ氏の30秒のテレビ広告に対して、民主党支持者の25%が「完全に賛同します」と答えてさえいる。この広告は、イスラム国(IS)を殲滅し、メキシコ国境に壁を建設するという内容だ。

 同社のロン・ハワードCEO(最高経営責任者)は現状を次のように分析する。「(昨年6月に)トランプ氏が出馬した直後、民主党や無党派の有権者は彼の主張に無関心でした。しかし今は違う。問題を解決する能力、誰からも影で操られない存在、成功し続けたビジネスマンという実績が、彼の傲慢な性格や暴言も帳消しにするだけの魅力になっているのです」。

カネにしばられない

 トランプ氏が躍進している理由はいくつか考えられる。 (1)利益団体から選挙資金を受け取らない。ロビイストや企業・団体などから一切選挙資金を受け取っていない。カネにからんだ政治的影響を、誰からも受けない点が好感度を高めている。 (2)ビジネスマンとして数々の成功を収めた。4度の破産を経験しながらも、個人資産約1兆円を築いた実績が買われている。 (3)既存の政治家とは異なり、本音を語る。遊説先では10歳児にも理解できる英語表現を使って、思いの丈をのべている。 (4)行動力への期待。中東和平も「私に半年くれればまとめられる」と豪語する。数々の交渉をまとめてきた人物だけに、有権者の期待は高まる。

 上記の理由は、トランプ氏の言動を追っている米有権者であれば肌感覚で察知していることかもしれない。

 特に1番目の理由は多くの有権者が納得させられる点である。多額の選挙資金をだしてくれる人物や特定の産業との関係を断った候補は過去にほとんどいなかった。

 当選したのち、大統領は一般市民ではなく多額の献金者の要請に耳を傾けがちだ。そうした流れを最初から断ち切った点が、共和党支持者だけでなく民主党支持者からも支持を集める理由になっている。

ビジネスの実績は党派にかかわらず評価

 2番目の、成功したビジネスマンという点も所属政党に関係なく、多くの有権者から支持を得る理由である。

 ビジネスの分野ではあるが、類い希な実績を残してきたのは事実で、多くの有権者は言葉だけの政治家よりよほど頼りになるとの思いを抱く。近年、連邦議会の信頼度は各種世論調査で15%前後と低迷しており、既存の政治家への不信感が強い。それだけに、政治家でないトランプ氏への期待が増している。

 3番目の本音を語る遊説スタイルも、これまでの大統領候補とは違う。誰にでも分かる平易な英語で、多くの人が公言してこなかった本音を口にしている。

 よく理解できる内容をストレートに述べることで、「トランプ氏はこれまで選挙にあまり足を運ばなかった有権者を開拓している」(共和党の戦略家リック・ホヒット氏)。

 4番目の行動力への期待も大きい。政治家が公約を守らないことは多い。しかし、トランプ氏であれば実現できるかもしれないとの期待感が高まる。

 同氏は中東和平を実現するだけでなく、イスラム国に対して徹底した軍事攻撃を加えるとの公約を繰り返し述べている。これが、自信過剰気味の言動や多くの失言があったとしても、トランプ氏ならばやってくれると有権者の心理に訴えている。

ギターを持たずにホールをいっぱいにする

 遊説先に多くの人が押し寄せるのは、こうした期待感の表れだ。出馬した当初、トランプ氏は遊説の場所としてホテルの大部屋を借りた。200~300人が収容できるサイズだ。しかしすぐに収容不可能になり、スタジアムを借りるまでになった。

 2015年8月にアラバマ州モービル市で行った遊説では、アメリカン・フットボールのスタジアムを借り切った。集まった聴衆は約3万5000人。他州でもコンサートホールなど大きな会場を満席にする。「ギターを持たずにホールをいっぱいにできるのはトランプ氏だけ」と言われるほどだ。

 どこに行っても会場に入りきれないほど人が集まる。大統領候補の遊説先というのは、これまで公民館や学校の体育館を借りるのが普通だった。

 筆者が大統領選の取材をし始めた1992年、ビル・クリントン候補(当時)の予備選の遊説に集まった聴衆はせいぜい500人。オバマ候補の時でさえ数千人規模だった。ひと目みたいからとの理由で遊説先に足を運ぶ有権者もいるだろう。しかし、ほとんどの聴衆はトランプ氏の賛同者と見られる。

レーガンに民主党支持者が投票した

 昨年12月にアイオワ州のネオラで演説をした時、トランプ氏は言った。「私はビジネスマンとしてこれまで、かなり貪欲に金儲けをしてきました。でもこれからはアメリカ合衆国のために貪欲に生きたいと思います」。愛国心をくすぐるこの言葉に、聴衆から大きな歓声があがった。ただ、排他的な発言を繰り返すトランプ氏に対し、共和党内から「党を破壊する」(ランド・ポール上院議員)との声もでている。同氏を大統領にすると、「米国の威信」に傷がつくと考えている有権者は少なからずいる。

 しかしケーブルニュース局MSNBCのクリス・マシュー氏は「80年代、レーガン候補(共和党)に投票した民主党員が大勢いたように、今回もトランプ氏に一票を入れる民主党員がいる」と読み、トランプ氏有利とみる。

 トランプ氏が示す行動力のある政治スタイルが党を越えて支持され、「トランプ大統領」誕生という流れになるのか。世界中が注目している。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください