6/17日経ビジネスオンライン 福島香織 『周永康はなぜ死刑にならなかったか 裏取引か不文律か、闘争はさらに複雑化』記事について

「刑不上常委」(=政治局常務委は罪に問われない)という不文律は周永康の逮捕で破られましたので、「党内闘争で人を殺してはならない」と言うのも歯止めがかからなくてもおかしくはなかったでしょう。何故死一等減じられたかは分かりません。本文にありますように習と王の周りは皆敵なので、取引したことは間違いないでしょう。間違っても善意で寛大な措置をしたわけではありません。習の収賄資産が1兆6000億円と言われていますので、これを没収して、敵の懐柔原資にしたことも考えられます。金に弱い民族で、金のためには平気で裏切る体質ですから。

樋泉克夫のコラムによれば『中国は先ずは万古不易の性懲りもない賄賂帝国といったところだが、ワイロ問題に突き当たるたびに思い出されるのは林語堂の『中国=文化と思想』(講談社学術文庫 1999年)の次の一節だ。

 「中国語文法における最も一般的な動詞活用は、動詞『賄賂を取る』の活用である。すなわち、『私は賄賂を取る。あなたは賄賂を取る。彼は賄賂を取る。私たちは賄賂を取る。あなたたちは賄賂を取る。彼らは賄賂を取る』であり、この動詞『賄賂を取る』は規則動詞である」

 だとするなら、習近平政権が推し進める腐敗摘発で「虎」の一匹として仕留められ、北京の約30キロ北方に位置する「最神秘的監獄」である秦城監獄にブチ込まれた周永康は、裁判の際、はたして「私は中国では古来続く役人の伝統を順守し、『規則動詞』に従って行動しただけだ」と抗弁しただろうか。それとも判決を聞きながら心の中で「私は賄賂と取る。習近平は賄賂を取る。李鵬は賄賂を取る。私たち旧指導部は賄賂を取る。あなたたち現指導部は賄賂を取る。共産党幹部は賄賂を取る」とでも唱えただろうか。いずれにせよ、共産党もまた歴代王朝から国民党政権まで続く官場伝統文化をしっかりと引き継ぎ、「中国語文法における最も一般的な動詞活用」を忠実に守っているものだ。少なくとも賄賂文化に関する限り、「旧」も「新」も中国であることに大差はないということだ。ッったくもう、どうしようもないなア。』とありました。中国ではあらゆる階層で賄賂を取るのが当たり前の社会ですから。小生は目の前で体験したことがありますので、中国から帰国した時に(2005年)話したら「人種差別主義者」という目で見られましたが、今は流石に小生の話を「差別」レベルで捉える人は少ないでしょう。

李小琳が軟禁状態にあるという事は、まだ大トラを叩くのは止めないという事だと思います。逮捕という脅しと金で籠絡というアメとムチの政策を取っているのかもしれません。しかし、軍部の動き(特に南沙諸島は軍の面子絡むので)とアメリカの動き(ペンタゴンの考えや在米華人の幹部の腐敗証言)、経済崩壊という習政権に与える影響の大きいファクターもあり、その動きによっても政権延命できるかどうかです。

記事

周永康の判決があっけなく出た。無期懲役と予想よりも軽いものだった。それまでの、周一族の腐敗ぶりの喧伝、起訴段階でわざわざ機密漏洩容疑を付け加えたこと、習近平暗殺未遂の主犯は周永康であるといった香港などからのゴシップ報道を合わせれば、習近平政権は、彼の死刑判決を望んでいたと言われていた。少なくとも周永康が死刑判決を受けても、国民としては納得せざるを得ないだけの犯罪に関わっていたという印象を与えていた。しかも、彼と共謀していたといわれる元重慶市党委書記・薄熙来の公判が大々的にショーとして人民に公開され、SNSの微博などでもその発言や表情を逐一発信されたのとは違い、裁判は非公開でそそくさと行われた。裁判でどういった証言ややりとりがあったかは、目下ほとんど外に漏れていない。これはどうしたことか。なにか裏取引でもあったか。それとも、習近平が妥協したのか。

「無期懲役」「上訴しません」

 6月11日、天津市第一中級人民法院で周永康に対する判決は言い渡された。CCTVでもその様子は放送されたが、かつて「百鶏王」のあだ名をもち、精力絶倫といわれ脂ぎっていた周永康は、その見る影もなく、頭髪は真っ白に変わり、顔も痩せほそり、こめかみには老人特有のシミが浮いていた。やや猫背になり、自分より上背のある警官にはさまれて被告人席に座る様子は、権力闘争の敗北というもののみじめさを視聴者に伝えるには十分だった。

 だが、その判決内容は、おそらく多くの人たちが予想していたよりも甘かった。

 無期懲役、政治的権利の終身剥奪、および個人財産の没収。罪名は職権乱用罪で懲役7年、故意の国家機密漏洩罪で懲役4年、そして約1.3億元の収賄罪、この三つの罪を合わせると無期懲役という。判決を言い渡されている間、周永康は観念したように目をつぶり、最後に罪を認め、上訴しません、と答えた。

 新華社によると5月22日に裁判は開かれ、犯罪事実に関する証拠が提出されたが、国家機密に関わるものも含まれるために公開はされなかった。証言台には、四川の政商で、周永康の長男・周斌のビジネスパートナーでもあった呉兵らが立ち、また周斌と、周永康の妻で元CCTV美人キャスターの賈暁曄の証言ビデオが流されたとか。

 そこで、周永康および、周斌、賈暁曄は呉兵、丁雪峰(元山西省呂梁市長)、温青山(元中国石油天然ガス集団会計師)、周灝(元中国石油天然ガス集団遼河油田公司党委書記)、蒋潔敏(元国有資産管理委員会主任、元中国石油天然ガス集団会長)らに利益を図るために、彼らから計1億2977万2113元に相当する金品を受け取ったことが、証言されたとか。

 このほか李春城(元四川省党委書記)の証言で、周永康は李春城や蒋潔敏に指示して、息子や妻、弟夫婦らが経営する企業に便宜を図らせ、違法な利益21.36億元以上を得させた上、14.86億元以上の経済損失を国家と人民に被らせたとか。

 また元人気気功師の曹永正の証言によれば、警察の捜査記録など国家機密保護法の規定に違反する絶密文書5部が周永康の事務所にあり、またある機密文書については、その内容を曹永正に見せたとか。

表向きはこれで決着、だが…

 こういった証拠・証言を前にして、周永康はすべて事実であり、異議はありませんと答えたという。

 周永康は法廷での最後の陳述で、「検察からの指摘を受け、基本事実をはっきりさせ、罪を認めて悔いたいと思う」「関係者から家人が受け取った賄賂は、実際のところ私の権力に対するものであり、責任は私が追うべきである」「個人的事情から法を犯し続けたことは客観的事実であり、党と国家に重大な損失をもたらした。私の問題が規律と法によって処理されたことは、厳しい規律に従う党と法治国家の決心を全面的に体現している」と神妙に語ったそうだ。今年4月3日に起訴された周永康の事件は、表向き、これで決着がついた、ということになる。

 この判決について、いろいろと腑に落ちないことがあるので、いろいろ想像力をはばたかせてみたい。憶測を重ねるので、眉に唾をつけながら読んでほしい。

 周永康事件は、薄熙来事件からつながる事件である。薄熙来事件とは、2012年秋の党大会で政治局常務委入りを目指し、「唱紅打黒」(革命家唱和と腐敗撲滅キャンペーン)という大衆運動でアピール中の薄熙来が、その側近で重慶市公安局長だった王立軍と、薄熙来妻・谷開来の犯した英国人殺人事件の処理をめぐって対立、薄熙来から命を狙われると思った王立軍は、薄熙来失脚の決定的証拠を持ったまま成都市の米総領事館に逃げ込み、薄熙来のさまざまなスキャンダルが表ざたになり、失脚した一連のできごとである。

謀議の録音が米国経由で習近平に?

 薄熙来は収賄罪、横領罪、職権乱用罪などで無期懲役判決を2013年秋に言い渡された。実はこのとき、薄熙来が本当に失脚させられた理由は、彼の野望が政治局常務委入りにとどまらず、習近平から政権の座を奪うことであった、といわれている。いわゆる薄熙来クーデター説である。その片棒を担ぐと約束したのが周永康であった、といわれている。

 この説を最初に報じたのは、統一教会系の米国紙ワシントン・タイムズのビル・ガーツ記者だったのだが、この情報の出所は、王立軍が米総領事館に持ち込んだ録音だったという。

 私も又聞きの又聞きなのだが、その録音には、薄熙来が、父親薄一波ゆかりの成都軍区雲南第14軍の力を背景に2014年に強制的に習近平を引退させ、薄熙来が政治の実権を握る計画を周永康に相談している声が入っており、その時、周永康は「機が熟したときには、私も300万銃(公安警察、武装警察ら周永康指揮下にある武力)を引き連れて味方しますよ」と発言したとか。この録音が、米国経由で習近平の耳に入り、序列第9位の政法委書記と重慶市党委書記の軍事クーデター共謀説の根拠となった、らしい。

 冷静に考えると、軍事クーデターなど、そうそう簡単に実現できるものではないので、幼馴染の弟分が総書記出世コースに乗ったことに僻んで、鬱屈した薄熙来が、「おれはいつか天下とってやるぞー!」と与太話をしたのに対して、愛人も共有する大親友の周永康が「わかった、わかった。その時は、俺も加勢してやる」となだめた程度のものかもしれない。しかし、この時の習近平の受けたショックは激しく、薄熙来、周永康への復讐を心に誓ったとか。幼馴染の薄熙来はともかく、実際に公安・司法権力を掌握していた周永康の謀反心への怒りは深く、本気で極刑で報いるつもりであったとか。

なぜ予想より軽かったのか

 香港ゴシップメディアが、習近平が約6回の暗殺未遂に遭遇し、そのうち2回は周永康の指示によるものだと報じたのは、国家指導者暗殺容疑のイメージを植え付けようという習近平サイドのリークである、とも聞いた。暗殺やクーデターを計画した危険人物なので、極刑判決もやむなし、と人民に思わせるための前工作だと。

 また機密漏洩容疑を付け加えたのも、スパイ罪なら最高死刑もありうるからだと言われていた。ちなみにこの機密とは、北朝鮮の高官・張成沢と中国要人との会談内容を金正恩サイドにリークしたという今年2月の香港報道と関係あると見られていた。これが中国にとっての重要な北朝鮮パイプであった親中派の張成沢の粛正につながったとすれば、周永康のやらかした罪は万死に値しよう。動機は、薄熙来失脚連座を恐れて北朝鮮亡命を画策するため、だとか。

 これらの情報が嘘かまことかは、検証するすべはない。ただ、多くの中国国内外の専門家や評論家が、この判決は予想より軽かったと感じたのは事実だろう。

 では、なぜ予想より判決が軽かったのか。

 一つの仮定は、周永康と習近平になんらかの裏取引があった、可能性である。

 習近平の反腐敗キャンペーンの名を借りた権力闘争は、すでに後戻りできない域に突入している。胡錦濤の腹心・令計画を失脚させ、共産主義青年団のホープである李源潮ら江蘇閥に照準を合わせた汚職狩りを展開し、共青団派は完全に習近平の敵である。また江沢民、曾慶紅ら上海閥との闘いも収束していない。6月9日、天安門事件当時、首相だった李鵬の娘で元中国電力投資集団副総経理の李小琳が北京の空港から香港に向かおうとした際に、出国禁止措置にあった。同じ日、中国電力投資集団は彼女がすでに同集団を離れ、大唐電力集団副総経理に移籍したと発表した。李鵬の息子の李小鵬・山西省長も失脚秒読みと噂されている。

裏取引か、不文律か

 つまり、習近平にはこれから戦わねばならない大物長老・党中央幹部に囲まれている。まさしくほぼ360度、敵。なので、彼らの弱点を知る人間は、できるだけ生かして情報を引き出さなければならない。周永康は江沢民にかわいがられ、曾慶紅の後押しで出世してきた人物だから、当然上海閥のネガティブ情報にも詳しいはずだ。また胡錦濤政権では政治局常務委員9人の一人、つまり最高指導部の一員であるのだから胡錦濤政権の弱点もつかんでいるはずだ。そういった情報の提供の代わりに、周永康の判決を軽くした、のではないか。

 もう一つの仮説は、「党内闘争で人を殺してはならない」という党内不文律を犯そうとする習近平に対する反対勢力が予想以上に強かった可能性。文化大革命を引き起こした罪で逮捕・起訴された毛沢東の妻・江青ら4人組に対して判決を言い渡す前に、中央政治局で事前討論が行われた際、局内のほとんどが死刑判決を支持していた。だが、当時副首相の陳雲はこれに強硬に反対。「党内闘争で殺戒をしてはならない。でなければ、後の世代がうまく機能しない」と主張し、ついには「どうしても死刑にしたいなら、陳雲一人が反対した、と記録に残してくれ」とまで言ったとか。

 これは党史に残る有名な話で以来、権力闘争敗北者を死刑にしないという不文律ができた。鄧小平と趙紫陽の権力闘争の側面もあった天安門事件でも、趙紫陽は党籍そのままで終生軟禁生活を送った。党内闘争で人を殺せば、党内の疑心暗鬼は広がり団結は崩れ、共産党統治は続かないというわけだ。天安門事件の後、大規模な権力闘争自体が起きにくくなるように、権力が個人に集中しなくする集団指導体制が導入され、「政治局常務委は(司法による)罪に問われない」ことも暗黙のルールとなった。

 習近平は「政治局常務委は罪に問われない」という不文律を周永康起訴で破ったので、もう一つの「権力闘争で人を殺さない」という不文律も破るのではないかと言われていたのだが、明日は我が身と思う党中央幹部、長老たちが必死で抵抗した。習近平と、反腐敗キャンペーンの指揮を執る規律検査委書記の王岐山も必ずしも清廉潔白というわけではないので、それに妥協した、という見立てである。

さらに激化、複雑化

 刑が軽かった理由が、第一の仮説通りであれば、周永康判決は事件の終わりではなく、新たな事件の始まりであり、今後展開される権力闘争はもっと大物、元国家主席や元国家副主席や元首相ら大長老がターゲットにされる可能性も出てくることになる。もし、後者の仮説が理由であれば、「習近平の大虎狩り」は収束に向かうという期待も出てくるわけだ。

 私個人の予測では、習近平政権の「大虎狩り」は激化し、さらに複雑化すると見ている。複雑化する原因は、米国の習近平政権に対する姿勢だ。南シナ海での埋め立て作業を急速に大っぴらにやり過ぎたことで、さすがに米国サイドも習近平政権に揺さぶりをかけてきているが、その一つが、五月雨式に報じられている習近平一族の不正蓄財疑惑と王岐山のJPモルガン・チェースとの癒着疑惑だろう。米国から習近平政権の根幹を揺るがすネタが出る可能性もある。

 たぶん、2017年の党大会に至るまで、誰が勝つか負けるかわからない大規模かつ複雑な権力闘争が展開される。その間、本当に党の不文律が守られ続け、党中央内で人死にが出ないかどうかは、今知る由がない。

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